説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】製造コストを低減できる液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】液体室となるリザーバの一部を構成するリザーバ部31及び電導性を有する接続配線200を有するリザーバ形成基板用ウェハ130と、リザーバ部31と連通してリザーバを構成する連通部13を含む液体流路及びリザーバ部31と連通部13との間を閉塞する配線層190を有する流路形成基板用ウェハ110と、が接合状態となった後に、上記液体流路に臨む壁面部に保護膜16を形成する保護膜形成工程を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、保護膜形成工程の前に、配線層190を貫通させる貫通工程と、接続配線200を被覆する被覆膜140を形成する被覆膜形成工程と、を有するという手法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバと、各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズルと連通した圧力発生室内のインクに吐出エネルギーを印加してノズル開口からインクを吐出させる構成となっている。
【0003】
下記特許文献1には、インクジェット式記録ヘッドの製造方法が開示されている。この製造方法においては、流路形成基板の一方の面側に圧電素子の材料を複数成膜して圧電素子を形成した後、流路形成基板の一方の面側にリザーバ部を有するリザーバ形成基板を接合し、その後、流路形成基板を他方の面側から異方エッチングし、圧力発生室及び連通部を含む液体流路を形成する。このとき、リザーバ部と連通部との間は、圧電素子を形成する際に残存させた圧電材料の成膜(閉塞膜)によって閉塞されている。
【0004】
その後、流路形成基板の液体流路に臨む壁面部に耐液性の保護膜を形成する。例えば、アルカリ性のインクを用い、且つ、シリコン基板からなる流路形成基板を用いる場合、インクがシリコンを溶解し、圧力発生室の幅等が経時的に変化することから、耐アルカリ性を備えた膜、例えば、酸化タンタル(TaO)を成膜し、インクによる壁面部の溶解を防止する。この保護膜を形成する際、閉塞膜は、リザーバ部と連通部との間を閉塞することで、リザーバ形成基板側への保護膜の形成を阻止し、保護膜がリザーバ形成基板に設けられた配線部を覆って、圧電素子の駆動回路の接続不良となることを防止する。
【0005】
その後、閉塞膜上にも形成された保護膜を除去すべく、保護膜上に剥離層を形成する。酸化タンタルに対し、剥離層としてチタンタングステン(TiW)を成膜すると、応力が発生して閉塞膜上の保護膜のみが破れ、剥離層の剥離除去と共に閉塞膜上の保護膜のみを除去することができる。その後、エッチングにより、リザーバ部と連通部との間の閉塞膜を貫通させ、リザーバを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−261215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記手法においては、閉塞膜上の保護膜の剥離のためだけに、剥離層を成膜・剥離する工程を必要とする。したがって、液体噴射ヘッドの製造に関しては、当該工程を削減し、閉塞膜上の保護膜の剥離にかかる製造コスト(工数、設備、材料費等)を低減させることが望まれている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、製造コストを低減できる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、液体室となるリザーバの一部を構成するリザーバ部及び電導性を有する配線部を有するリザーバ形成基板と、上記リザーバ部と連通して上記リザーバを構成する連通部を含む液体流路及び上記リザーバ部と上記連通部との間を閉塞する閉塞膜を有する流路形成基板と、が接合状態となった後に、上記液体流路に臨む壁面部に保護膜を形成する保護膜形成工程を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、上記保護膜形成工程の前に、上記閉塞膜を貫通させる貫通工程と、上記配線部を被覆する被覆膜を形成する被覆膜形成工程と、を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、保護膜の形成前に、閉塞膜を貫通させるため、閉塞膜上に保護膜が形成されることはないことから、閉塞膜上の保護膜のみを剥離させる工程を削減することができる。また、本発明では、保護膜の形成前に、リザーバ形成基板の配線部を被覆膜で被覆するため、保護膜の形成前にリザーバ部と連通部との間を開通させることにより、リザーバ形成基板側に保護膜が形成されても、被覆膜上に保護膜が形成されるだけで、配線部に電気的導通の不具合等が発生することを回避することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記保護膜形成工程の後に、上記被覆膜を除去する被覆膜除去工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、保護膜の形成後に被覆膜を除去することで、被覆膜と共に被覆膜上に形成された保護膜を除去して、配線部を露出させ、例えば、圧電素子の駆動回路等と接続させることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記被覆膜は、水溶性を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、特殊な溶解剤を用いることなく、被覆膜を水で溶かして除去することができる。また、水であるから、被覆膜除去の際に配線部にダメージを与えることがなく、さらに、コスト的にも環境的にも好ましい。
【0012】
また、本発明においては、上記被覆膜は、上記配線部に塗布した糊料を固めることで形成されるという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、例えば、配線部を被覆膜として粘着性のシートで被覆した場合に、その間に空気が入り込むと、後の工程で減圧や真空雰囲気にする場合、空気が膨張してシートの剥がれが生じ得るため、ゾル状やゲル状の糊料を配線部に塗布した後固化させることで、空気の入り込みを防止することができる。
【0013】
また、本発明においては、上記被覆膜は、所定の色調を有する顔料を含むという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、顔料により被覆膜の視認性を向上させ、後の工程における作業者に注意を喚起させることができるため、例えば、被覆膜を形成していない状態で、保護膜を形成してしまって製品不良とさせる、といったことを回避させることができる。
【0014】
また、本発明においては、上記貫通工程の後に、上記被覆膜形成工程を行うという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、貫通工程の後に、被覆膜形成工程を行うことで、貫通工程におけるエッチング等で、被覆膜が配線部から剥離してしまうといったことを回避させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの貫通工程を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの被覆膜形成工程を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの保護膜形成工程及び被覆膜除去工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法の実施形態について、図を参照して説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録ヘッドを例示する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
図示するように、インクジェット式記録ヘッドは、流路形成基板10を有する。流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には熱酸化によって二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0018】
流路形成基板10には、弾性膜50が形成される一方の面側と逆側の他方の面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向に並設されている。流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、圧力発生室12と共に液体流路を構成するインク供給路14と連通路15とが、隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。
【0019】
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し、且つ、圧力発生室12より小さい断面積を有する。本実施形態のインク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、本実施形態のように、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成してもよいが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。
【0020】
連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12の幅方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の幅方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが、複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0021】
流路形成基板10の圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13を有する液体流路に臨む内壁表面(壁面部)には、耐インク性を有する材料、例えば、五酸化タンタル(Ta)等の酸化タンタルからなる保護膜16が、約50nmの厚さで設けられている。なお、ここで言う耐インク性とは、アルカリ性のインクに対する耐エッチング性のことである。また、本実施形態では、流路形成基板10の圧力発生室12等が開口する側の表面、すなわち、ノズルプレート20が接合される接合面にも保護膜16が設けられている。勿論、このような領域には、インクが実質的に接触しないため、保護膜16は設けられていなくてもよい。
【0022】
なお、保護膜16の材料は、酸化タンタルに限定されず、使用するインクのpH値によっては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等を用いてもよい。
流路形成基板10の他方の面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0023】
流路形成基板10の一方の面側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜51が形成されている。さらに、この絶縁体膜51上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。
【0024】
ここで、圧電素子300とは、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を、各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0025】
また、各圧電素子300の上電極膜80には、密着層91及び金属層92からなる配線層190で構成されるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。また、詳しくは後述するが、連通部13の開口周縁部に対応する領域の振動板、すなわち、弾性膜50及び絶縁体膜51上にも、リード電極90とは不連続の配線層190が存在している。
【0026】
流路形成基板10の一方の面側には、リザーバ100の一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接合されている。本実施形態では、このリザーバ形成基板30と流路形成基板10とは、接着剤35によって接合されている。リザーバ形成基板30のリザーバ部31は、弾性膜50及び絶縁体膜51に設けられた貫通部52を介して連通部13と連通され、これらリザーバ部31及び連通部13によってリザーバ100が形成されている。
【0027】
連通部13には、連通路15、インク供給路14及び圧力発生室12によって形成される液体流路が複数接続されている。すなわち、連通部13にリザーブされたインクは、各圧力発生室12毎に分岐して流通する。連通路15は、インク吐出の際、隣接するインク供給路14からリザーバ100側へ流出するインク同士の干渉を阻害し、所謂クロストークの発生を防止する。このため、隣接するノズル開口21からインク滴を吐出させるか否かに関係なく、安定したインク吐出特性を得ることができる。また、クロストークを発生させることなくインク供給路14を短くすることができ、メニスカスの減衰特性を実質的に高めてヘッドの高速駆動を実現することも可能となる。
【0028】
リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子300は、圧電素子保持部32内に形成されており、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。なお、圧電素子保持部32は、密封されていてもよいし密封されていなくてもよい。このようなリザーバ形成基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料であるシリコン単結晶基板を用いている。
【0029】
リザーバ形成基板30上には、所定パターンで形成された接続配線(配線部)200が設けられ、この接続配線200上には圧電素子300を駆動するための駆動回路210が実装されている。駆動回路210としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、各圧電素子300から圧電素子保持部32の外側まで引き出された各リード電極90の先端部と、駆動回路210とが駆動配線220を介して電気的に接続されている。
【0030】
リザーバ形成基板30のリザーバ部31に対応する領域上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが数μm程度のポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方の面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが数十μm程度のステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0031】
上記構成のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路210からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力を高め、ノズル開口21からインクを吐出させることが可能となっている。
【0032】
以下、上記構成のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図8を参照して説明する。
【0033】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜53を形成する。なお、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110として、厚さが約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハを用いている。
【0034】
次に、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜51を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜51を形成する。
【0035】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを絶縁体膜51上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。次に、図3(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成し、これら圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。また、圧電素子300を形成後に、絶縁体膜51及び弾性膜50をパターニングして、流路形成基板用ウェハ110の連通部(図示なし)が形成される領域に、これら絶縁体膜51及び弾性膜50を貫通して流路形成基板用ウェハ110の表面を露出させた貫通部52を形成する。
【0036】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO(PT)、PbZrO(PZ)、Pb(ZrTi1−x)O(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O−PbTiO(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O−PbTiO(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O−PbTiO(PSN−PT)、BiScO−PbTiO(BS−PT)、BiYbO−PbTiO(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成する。
【0037】
次に、図4(a)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、まず流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って密着層91を介して金属層92を形成し、密着層91と金属層92とからなる配線層190を形成する。そして、この配線層190上に、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を形成し、このマスクパターンを介して金属層92及び密着層91を圧電素子300毎にパターニングすることによりリード電極90を形成する。またこのとき、貫通部52に対向する領域に、リード電極90とは不連続の配線層(閉塞膜)190を残して、この配線層190によって貫通部52が封止されるようにする。
【0038】
金属層92の主材料としては、比較的導電性の高い材料であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)が挙げられ、本実施形態では金(Au)を用いている。また、密着層91の材料としては、金属層92の密着性を確保できる材料であればよく、具体的には、チタン(Ti)、チタンタングステン化合物(TiW)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)またはニッケルクロム化合物(NiCr)等が挙げられ、本実施形態ではニッケルクロム化合物(NiCr)を用いている。
【0039】
次に、図4(b)に示すように、リザーバ形成基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、このリザーバ形成基板用ウェハ130には、リザーバ部31、圧電素子保持部32等が予め形成されており、リザーバ形成基板用ウェハ130上には、上述した接続配線200が予め形成されている。なお、リザーバ形成基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するシリコンウェハである。
【0040】
次いで、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研削・研磨した後、フッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにし、シリコン(Si)を露出させる。本実施形態では、研削・研磨及びウェットエッチングによって、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、約70μmの厚さとなるように加工する。
【0041】
次に、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜54を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
そして、図5(b)に示すように、このマスク膜54を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13からなる液体流路を形成する。具体的には、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液等のエッチング液によって弾性膜50及び密着層91が露出するまでエッチングすることより、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13を同時に形成する。
【0042】
流路形成基板用ウェハ110表面のマスク膜54を除去した後、図6に示すように、リザーバ部31と連通部13との間を閉塞する配線層190を貫通させる(貫通工程)。
先ず、図6(a)に示すように、貫通部52内の配線層190の一部である密着層91を、連通部13側からウェットエッチング(NiCrエッチング)することにより除去する。すなわち、連通部13側に露出されている密着層91と、この密着層91が拡散している金属層92の一部の領域とを、エッチングにより除去する。
配線層190の密着層91を除去した後は、図6(b)に示すように、配線層190の金属層92を連通部13側からウェットエッチング(Auエッチング)することによって除去し、貫通部52を開口させる。なお、当該エッチングとしては、例えば、スピンエッチャーを用いて行うことができる。
【0043】
次に、図7に示すように、リザーバ形成基板用ウェハ130の接続配線200を被覆する被覆膜140を形成する(被覆膜形成工程)。なお、図7は、要部を拡大した拡大断面図である。
先ず、図7(a)に示すように、リザーバ形成基板用ウェハ130の接続配線200が設けられた配線面131全体に、筆、刷毛、スタンプ等を用いて、被覆膜形成材料141を塗布する。本実施形態の被覆膜形成材料141としては、顔料を含む水溶性糊料を純水で薄めた所定の粘度を有するゾル状やゲル状の液体を用いる。
次に、図7(b)に示すように、オーブンの中で100℃程度の雰囲気で被覆膜形成材料141を乾燥させ、配線面131に一層、薄い膜状の被覆膜140を形成する。
【0044】
本実施形態では、貫通工程の後に、被覆膜形成工程を行う。こうすることで、貫通工程におけるエッチング等で、形成した被覆膜140が配線面131(接続配線200)から剥離してしまうといった事態を回避させることができる。
【0045】
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の液体流路、すなわち、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13の内壁面に保護膜16を形成する(保護膜形成工程)。
保護膜16は、上述したように、例えば、酸化物又は窒化物等の耐液体性(耐インク性)を有する材料からなり、本実施形態では、五酸化タンタルからなる。また、保護膜16は、例えば、CVD法(化学気相成長法)によって形成することができる。
【0046】
このとき、リザーバ部31と連通部13との間を閉塞していた配線層190は、前工程において除去されているため、貫通部52を介してリザーバ形成基板用ウェハ130の外面等にも保護膜16が形成される。しかしながら、保護膜16の形成前に、リザーバ形成基板用ウェハ130の接続配線200を被覆膜140で被覆しているため、保護膜16の形成前にリザーバ部31と連通部13との間を開通させることにより、リザーバ形成基板用ウェハ130側に保護膜16が形成されても、被覆膜140上に保護膜16が形成されるだけで、接続配線200に電気的導通の不具合等が発生することを回避することができる。
【0047】
また、本実施形態のように、所定粘度の糊料を筆、刷毛、スタンプ等で配線面131に塗布することにより、乾燥後成膜された被覆膜140に、積極的にシミやムラ等を生じさせることができる。これにより、配線面131が、起伏のあるザラザラな被覆膜140によって覆われるため、保護膜16の密着性を低下させることができ、保護膜16の回り込みを抑制することができる。また、糊料を配線面131に塗布した後固化させ被覆膜140を形成することで、例えば、被覆膜140を粘着性シートで構成した場合と比較して、空気が入り込み難くなる。このため、CVD室を減圧や真空状態にする際等、隙間に入り込んだ空気の当該圧力低下に伴う膨張により、配線面131からの被覆膜140の剥がれが発生するといったことを回避することができる。
【0048】
また、本実施形態のように、被覆膜140に所定の色調の顔料を有する顔料を含ませれば、被覆膜140の視認性を向上させることができ、後の工程における作業者に注意を喚起させることができる。したがって、例えば、配線面131に被覆膜140を形成していない状態で、保護膜16を形成してしまって製品不良とさせる、といったことを回避させることができる。なお、被覆膜140に含ませる顔料の色調としては、接続配線200、配線面131や保護膜16の色調と異なるものであれば特に限定されない。例えば、被覆膜140に含ませる顔料の色調として、三原色(赤、青、緑)のうち一つの色調を選択してもよい。
【0049】
次に、図8(b)に示すように、被覆膜140を除去する(被覆膜除去工程)。
このように、保護膜16の形成後に被覆膜140を除去することで、被覆膜140と共に被覆膜140上に形成された保護膜16を除去して、接続配線200を露出させ、圧電素子300の駆動回路210と接続させることができる。被覆膜140は、水溶性糊料から形成されており、水溶性を有する。このため、特殊な溶解剤を用いることなく、被覆膜140を水で溶かして除去することができる。また、水であるから、被覆膜140の除去の際に接続配線200(Au)にダメージを与えることがなく、さらに、コスト的にも環境的にも好ましい。
【0050】
被覆膜140の除去には、温水(40〜50℃)を噴射可能なノズル150を備えるスピンプロセッサーを用いることが好ましい。スピンプロセッサーの温水の噴射により、配線面131全面をリフトオフすることで、被覆膜140だけでなく、その他の汚れを除去することができるため、歩留まりの向上を図ることができる。なお、リザーバ部31の内面には、リザーバ形成基板用ウェハ130を熱酸化することによって、予め二酸化シリコン膜が形成されていることから、保護膜16を形成せずともよいが、図8(b)に示すように、リザーバ部31の内面に保護膜16が残存することによる耐液性の向上効果が得られる。
【0051】
その後は、リザーバ形成基板用ウェハ130に形成されている接続配線200上に駆動回路210を実装すると共に、駆動回路210とリード電極90とを駆動配線220によって接続する(図2参照)。そして、流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110のリザーバ形成基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、リザーバ形成基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズに分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0052】
したがって、上述した本実施形態によれば、液体室となるリザーバ100の一部を構成するリザーバ部31及び電導性を有する接続配線200を有するリザーバ形成基板30と、リザーバ部31と連通してリザーバ100を構成する連通部13を含む液体流路及びリザーバ部31と連通部13との間を閉塞する配線層190を有する流路形成基板10と、が接合状態となった後に、上記液体流路に臨む壁面部に保護膜16を形成する保護膜形成工程を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、保護膜形成工程の前に、配線層190を貫通させる貫通工程と、接続配線200を被覆する被覆膜140を形成する被覆膜形成工程と、を有するという手法を採用することによって、インクジェット式記録ヘッドの製造コスト(工数、設備、材料費等)を低減させることができる。
【0053】
すなわち、本手法によれば、保護膜16の形成前に配線層190を貫通させるため、配線層190上に保護膜16が形成されることはないことから、配線層190上の保護膜16のみを剥離させる、従来のチタンタングステン(TiW)の成膜・剥離工程を、削減することができる。また、本手法によれば、保護膜16の形成前に、リザーバ形成基板30の接続配線200を被覆膜140で被覆するため、保護膜16の形成前にリザーバ部31と連通部13との間を開通させることにより、リザーバ形成基板30側に保護膜16が形成されても、被覆膜140上に保護膜16が形成されるだけで、接続配線200に電気的導通の不具合等が発生することを回避することができる。
【0054】
具体的に本手法によれば、チタンタングステン(TiW)層の形成工程(CVD法等)が、被覆膜140の形成工程(塗布、乾燥)に替わるため、従来必要とされた製造工程のうちの数十時間が、数十分〜数時間程度に短縮されると共に、製造設備も簡略化することができる。また、本手法によれば、比較的高価な材料を用いることなく被覆膜140を形成でき、また、特殊な溶解剤等を用いることなく、被覆膜140を水で溶かして除去することができるため、材料のコスト的にも環境的にも好ましい。
【0055】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0056】
例えば、上述した実施形態においては、糊料を固めて被覆膜140を形成する形態について説明したが、接着シートや接着フィルム等を貼付することにより被覆膜140を形成する形態であってもよい。
【0057】
さらに、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0058】
10…流路形成基板、13…連通部、16…保護膜、30…リザーバ形成基板、31…リザーバ部、100…リザーバ、110…流路形成基板用ウェハ、130…リザーバ形成基板用ウェハ、131…配線面、140…被覆膜、141…被覆膜形成材料、190…配線層(閉塞膜)、200…接続配線(配線部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体室となるリザーバの一部を構成するリザーバ部及び電導性を有する配線部を有するリザーバ形成基板と、前記リザーバ部と連通して前記リザーバを構成する連通部を含む液体流路及び前記リザーバ部と前記連通部との間を閉塞する閉塞膜を有する流路形成基板と、が接合状態となった後に、前記液体流路に臨む壁面部に保護膜を形成する保護膜形成工程を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記保護膜形成工程の前に、
前記閉塞膜を貫通させる貫通工程と、
前記配線部を被覆する被覆膜を形成する被覆膜形成工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記保護膜形成工程の後に、前記被覆膜を除去する被覆膜除去工程を有することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記被覆膜は、水溶性を有することを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記被覆膜は、前記配線部に塗布した糊料を固めることで形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記被覆膜は、所定の色調を有する顔料を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記貫通工程の後に、前記被覆膜形成工程を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−192611(P2012−192611A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57932(P2011−57932)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】