説明

液体噴射装置

【課題】フラッシング動作において、ノズルから噴射される液体を所定の部材に着弾させ、装置内の他の部材に液体が付着することを防止できる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル30が形成されたノズル形成面、および、圧力発生手段17の駆動によりノズル30から着弾対象6に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッド2と、液体噴射ヘッド2のノズル形成面に対して着弾可能距離を空けて配置された着弾対象6を支持する支持手段5と、噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段13と、を備えた液体噴射装置であって、液滴捕集手段13は、フラッシング動作を行う際に当該液体が着弾する着弾面を有し、該着弾面とフラッシング動作を行う際の液体噴射ヘッド2のノズル形成面との距離を着弾可能距離よりも小さくすると共に、少なくともフラッシング動作においてノズル形成面と着弾面との電圧を揃えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に関し、特に、圧力発生手段の駆動により圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro
Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記のプリンター等で使用される記録ヘッドでは、近年、画像向上等の要求に応えるため、ノズルから噴射されるインクの液量を小さくする傾向がある。このような微量の液滴を記録媒体に対して確実に着弾させるために、液滴の初速が比較的高く設定される。これにより、ノズルから噴射された液滴は、飛翔中に引き伸ばされて、先頭のメイン液滴(主液滴)と、それよりも後に発生する微小な第1のサテライト液滴と、それよりも更に微小な第2のサテライト液滴に分離する。この第2のサテライト液滴の一部又は全部は、空気の粘性抵抗により速度が急激に低下し、記録媒体に到達することなくミスト化してしまうことがある。ミスト化した第2のサテライト液滴(ミスト)は、装置内を汚染し、記録ヘッドや電気回路等への付着によって動作不良を発生させたりする問題があった。このような問題は、特に、記録媒体から外れた位置にあるフラッシングボックス(インク受け部)に液滴を噴射するフラッシング動作時において、顕著に発生する。すなわち、フラッシング動作は、記録ヘッド内の増粘した液体や気泡を強制的に排出させることを目的として、記録動作とは別にフラッシングボックスにインクを噴射する処理であり、このフラッシング動作では、液滴の初速が通常の記録動作よりも高くなるように設定されている。このため、ノズルから噴射された液体がより引き伸ばされ、ミストを発生し易くなる。また、液体の増粘が進んでいる場合は、ノズルから噴射された液体が更に引き伸ばされ、よりミストを発生し易くなる。
【0004】
このような不具合を防止すべく、記録ヘッドの高さ位置を変更できるように構成すると共に、フラッシング動作時における記録ヘッド(ノズル)とフラッシングボックスとの距離が、記録動作時における記録ヘッド(ノズル)と記録媒体との距離よりも小さくなるように制御し、フラッシング動作の際に発生するミストの飛散を抑制しようとする試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−111932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図8(a)の模式図に示すように、フラッシングボックス80は、一般的には帯電列において負極性(マイナス)に帯電し易い素材(例えば、PU(ポリウレタン)、PVC(ポリ塩化ビニール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)等)が用いられるため、記録媒体の搬送等に伴って発生した気流(空気)との摩擦によりマイナスに帯電し易い。マイナスに帯電したフラッシングボックス80は、ノズル81が形成されたノズルプレート82との間に電界を形成する。この状態でノズル81からインクが噴射されると、インクがフラッシングボックス80に向けて伸びる過程で、マイナスに帯電したフラッシングボックス80からの静電誘導により、フラッシングボックス80に近い側の先頭部分(メイン液滴Mdとなる部分)にプラスの電荷が誘導される。一方、これとは反対のノズル81に近い側の後端部分にはマイナスの電荷が誘導される。そして、図8(b)に示すように、ノズル81から噴射されたインクが、例えばメイン液滴Mdと、第1のサテライト液滴Sd1と、第2のサテライト液滴(ミスト)Sd2とに分離した場合、メイン液滴Mdはプラスに帯電し、第2のサテライト液滴Sd2はマイナスに帯電し、第1のサテライト液滴Sd1は略無帯電となる。この場合、メイン液滴Mdと第1のサテライト液滴Sd1がフラッシングボックス80に着弾したとしても、第2のサテライト液滴Sd2は、マイナスに帯電したフラッシングボックス80に反発し、その一部がフラッシングボックス80に着弾せずにミスト化して漂ってしまう。そして、浮遊するミストは気流等により運ばれ、プリンター内の構成部品に付着し、プリンターの内部を汚染する可能性がある。
【0007】
そして、前記した電界の強さは、フラッシングボックス80の上面(ノズルプレート82に対向する側の面)とノズルプレート82(ノズル形成面)との距離に反比例するため、特許文献1に記載の液体噴射装置のように、この距離を小さくすると、形成される電界が強まり、静電誘導による第2のサテライト液滴Sd2の帯電が一層強まることになる。これにより、第2のサテライト液滴Sd2はフラッシングボックス80に、より強く反発し、ミスト化する第2のサテライト液滴Sd2が増えることになる。その結果、逆に、プリンター内の汚染を悪化させるおそれがあった。
【0008】
以上のような現象は、圧電振動子には限られず、発熱素子等の、駆動電圧の印加により作動する他の圧力発生手段でも同様に生じる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フラッシング動作において、ノズルから噴射される液体を所定の部材に着弾させ、装置内の他の部材に液体が付着することを防止できる液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して着弾可能距離を空けて配置された前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
を備えた液体噴射装置であって、
前記液滴捕集手段は、前記液体噴射ヘッドから該液滴捕集手段に対して液体を噴射するフラッシング動作を行う際に当該液体が着弾する着弾面を有し、
該着弾面とフラッシング動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面との距離を前記着弾可能距離よりも小さくすると共に、少なくともフラッシング動作において前記ノズル形成面と前記着弾面との電圧を揃えたことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、液体噴射ヘッドのノズル形成面と液滴捕集手段の着弾面との間に電界を形成させないため、第2のサテライト液滴が静電誘導により帯電することを防止できる。加えて、着弾面とノズル形成面との距離を着弾可能距離よりも小さくすることで、第2のサテライト液滴が失速する前に、これらを液滴捕集手段に着弾させることができるため、ミストの発生を抑制できる。さらに、第2のサテライト液滴の飛翔時間が短くなるため、レナード効果によるプラスの帯電を抑制することが出来る。これにより、ミストが装置内の他の構成部品(例えば、モーター、駆動ベルト、リニアスケールなどマイナスに帯電し易い部品)に付着することが低減される。その結果、ミストの付着による故障が抑制され、液体噴射装置の耐久性および信頼性が向上する。なお、着弾可能距離とは、電界等の影響を受けない状態において、ノズルから噴射した液滴のうち、少なくともメイン液滴が確実に着弾対象に着弾できる距離をいう。
【0012】
上記構成において、前記ノズル形成面および着弾面に電圧を印加する電圧印加手段を備え、当該ノズル形成面および着弾面に負極性の電圧を印加することが望ましい。
【0013】
この構成によれば、液体噴射装置内の他の構成部品等からノズル形成面および着弾面に向けて電界が形成されるため、レナード効果によりプラスに帯電した第2のサテライト液滴をノズル形成面および着弾面に着弾させることができ、ミストの発生をより確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの要部断面図である。
【図3】圧電振動子の構成を説明する断面図である。
【図4】フラッシングボックスの構成を説明する要部断面図である。
【図5】第2の実施形態におけるラッシングボックスの構成を説明する要部断面図である。
【図6】第3の実施形態におけるラッシングボックスの構成を説明する要部断面図である。
【図7】第4の実施形態におけるラッシングボックスの構成を説明する要部断面図である。
【図8】フラッシングボックスが帯電した構成においてノズルから噴射されたインクが帯電する様子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置1(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0016】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5(本発明における支持手段に相当)と、フラッシング動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたフラッシングボックス13(本発明における液滴捕集手段に相当)と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する搬送機構8と、を備えている。
【0017】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンター1の各部の制御を行うためのプリンターコントローラー(図示せず)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスEPを、主走査方向における位置情報として出力する。
【0018】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジ4の走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面Sn(ノズルプレート24:図2、図4参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面Snを払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録が可能に構成されている。
【0019】
キャリッジ4に取り付けられる記録ヘッド2は、キャリッジ4の移動により記録紙6の上方およびフラッシングボックス13の上方を移動し、記録紙6に向けてインクを噴射する記録動作、およびフラッシングボックス13に向けてインクを噴射するフラッシング動作を行う。この記録ヘッド2は、図2に示すように、ケース16と、このケース16内に収納される振動子ユニット17と、ケース16の底面(先端面)に接合される流路ユニット18と、カバー部材45等を備えている。上記のケース16は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット17を収納するための収納空部19が形成されている。振動子ユニット17は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板21と、圧電振動子20に駆動信号を供給するフレキシブルケーブル22とを備えている。
【0020】
図3は、振動子ユニット17の構成を説明する素子長手方向の断面図である。同図に示すように、この圧電振動子20は、共通内部電極39と個別内部電極40とで、圧電体41を挟んで交互に積層して形成された積層型の圧電振動子20である。ここで、共通内部電極39は、全ての圧電振動子20に共通な電極であり、接地電位に設定される。また、個別内部電極40は、印加される駆動信号の噴射駆動パルスDPに応じて電位が変動する電極である。そして、本実施形態では、圧電振動子20における振動子先端から振動子長手方向(積層方向とは直交する方向)の半分程度まで若しくは3分の2程度までの部分が自由端部20aとなっている。また、圧電振動子20における残りの部分、即ち、自由端部20aの基端から振動子基端までの部分が基端部20bとなっている。
【0021】
自由端部20aには、共通内部電極39と個別内部電極40とが重なり合った活性領域(オーバーラップ部分)Aが形成されている。これらの内部電極に電位差を与えると、活性領域Aの圧電体41が作動して変形し、自由端部20aが振動子長手方向に変位して伸縮する。そして、共通内部電極39の基端は、圧電振動子20の基端面部で共通外部電極42に導通している。一方、個別内部電極40の先端は、圧電振動子20の先端面部で個別外部電極43に導通している。なお、共通内部電極39の先端は圧電振動子20の先端面部よりも少し手前(基端面側)に位置しており、個別内部電極40の基端は自由端部20aと基端部20bの境界に位置している。
【0022】
個別外部電極43は、圧電振動子20の先端面部と、圧電振動子20における積層方向の一側面である配線接続面(図3における上側の面)とに一連に形成された電極であり、配線部材としてのフレキシブルケーブル22の配線パターンと各個別内部電極40とを導通する。そして、この個別外部電極43の配線接続面側の部分は、基端部20b上から先端側に向けて連続的に形成されている。共通外部電極42は、圧電振動子20の基端面部と、上記の配線接続面と、圧電振動子20における積層方向の他側面である固定板取付面(図3における下側の面)とに一連に形成された電極であり、フレキシブルケーブル22の配線パターンと各共通内部電極39との間を導通する。そして、この共通外部電極42における配線接続面側の部分は個別外部電極43の端部よりも少し手前から基端面部側に向けて連続的に形成されており、固定部取付面側の部分は振動子の先端面部よりも少し手前の位置から基端側に向けて連続的に形成されている。
【0023】
上記の基端部20bは、活性領域Aの圧電体41の作動時においても伸縮しない非作動部である。この基端部20bの配線接続面側にはフレキシブルケーブル22が配置されており、基端部20b上で個別外部電極43及び共通外部電極42とフレキシブルケーブル22とが電気的に接続される。そして、このフレキシブルケーブル22を通して駆動信号が各個別外部電極43に印加される。
【0024】
流路ユニット18は、流路形成基板23の一方の面にノズルプレート24を、流路形成基板23の他方の面に振動板25をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット18には、リザーバー26(共通液室)と、インク供給口27と、圧力室28と、ノズル連通口29と、ノズル30とが設けられている。そして、インク供給口27から圧力室28及びノズル連通口29を経てノズル30に至る一連のインク流路が、各ノズル30に対応して形成されている。
【0025】
上記ノズルプレート24は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル30が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート24には、ノズル30を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル30によって構成される。この、ズルプレート24のノズル30からインクが噴射される側の面が、本発明におけるノズル形成面Snに相当する。そして、図4に示すように、本実施形態のノズルプレート24は、配線等によりフラッシングボックス13と電気的に接続されると共に接地されている。これにより、ノズル形成面Snとフラッシングボックス13のとの電圧(電位)が揃えられている。
【0026】
上記振動板25は、支持板31の表面に弾性体膜32を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板31とし、この支持板31の表面に樹脂フィルムを弾性体膜32としてラミネートした複合板材を用いて振動板25を作製している。この振動板25には、圧力室28の容積を変化させるダイヤフラム部33が設けられている。また、この振動板25には、リザーバー26の一部を封止するコンプライアンス部34が設けられている。
【0027】
上記のダイヤフラム部33は、エッチング加工等によって支持板31を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部33は、圧電振動子20の自由端部20aの先端面が接合される島部35と、この島部35を囲む薄肉弾性部とからなる。上記のコンプライアンス部34は、リザーバー26の開口面に対向する領域の支持板31を、ダイヤフラム部33と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー26に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0028】
そして、上記の島部35には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部20aを伸縮させることで圧力室28の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室28内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル30からインク滴を噴射させるようになっている。
【0029】
カバー部材45は、流路ユニット18の側面やヘッドケース16の側面を保護する部材であり、ステンレス鋼等の導電性を有する板材から作製されている。本実施形態におけるカバー部材45の一部は、ノズルプレート24のノズル30を露出させた状態でノズル形成面Snの周縁部に当接すると共に、当該ノズルプレート24に対して電気的に導通している。
【0030】
プラテン5は、図1、図4に示すように、記録動作を行う際の記録ヘッド2のノズル形成面Snに対して空間を空けて配置されている。本実施形態では、主走査方向に長尺な板状に形成され、その表面には長手方向に沿って所定の間隔で複数の支持突起部5aが突設されている。各支持突起部5aはプラテン面よりも上方(記録動作時における記録ヘッド2側)へ突出している。各支持突起部5aの上面は、記録紙6を支える当接面となり、記録紙6の背面(インク滴が着弾する記録面とは反対側の面)を部分的に支える。この支持突起部5aの上面からノズル形成面Snまでの距離は、プリンター1が記録対象とする記録紙6のうち最も薄い記録紙6を支持することを想定し、当該記録紙6の表面(インク滴が着弾する記録面)からノズル形成面Snまでの距離PGが着弾可能距離になるように構成されている。ここで、着弾可能距離とは、電界等の影響を受けない状態において、ノズル30から噴射したインク滴のうち、少なくともメイン液滴が確実に着弾対象に着弾できる距離をいう。例えば、記録紙6の厚さが約0.1mm、着弾可能距離が約1.5〜1.7mmの場合、支持突起部5aの上面からノズル形成面Snまでの距離は、約1.6〜1.8mmに設定される。
【0031】
また、プラテン5の表面であって、各支持突起部5aから外れた部分には、インク吸収部5bが配設されている。このインク吸収部5bは、例えば、フェルトやウレタンスポンジ等で作製された吸液性を有する多孔質部材から成り、着弾位置がずれて記録紙6に着弾しなかったインク滴等を着弾、吸収する。
【0032】
このプラテン5の主走査方向の端部には、フラッシング動作の際に記録ヘッド2から噴射されたインク滴を捕集するフラッシングボックス13が配置されている。詳しくは、プラテン5における記録紙6に対してインク滴が噴射される領域(インク噴射領域)から外れた領域、より詳しくは、インク噴射領域よりも主走査方向の外側に外れた領域であって、プリンター1が対応可能な最大サイズの記録紙6がプラテン5上に配置されたときの当該記録紙6の幅方向端部(最大記録紙幅)よりも外側となる位置にフラッシングボックス13が配置されている。なお、フラッシングボックス13は、プラテン5の主走査方向両側に設けることが望ましいが、少なくとも一方に設けられていればよい。また、図4に示すように、本実施形態におけるフラッシングボックス13は、金属等の導電性材料により、上方(記録ヘッド2側)に開口した箱体状に形成され、その内部には、例えば、絶縁性のウレタンスポンジ等で作製されたインク吸収材14が装填されている。このインク吸収材14の上面が、フラッシング動作を行う際にインク滴が着弾する着弾面Saに相当する。そして、フラッシングボックス13は、着弾面Saとフラッシング動作を行う際の記録ヘッド2のノズル形成面Snとの距離dが、前記した記録紙6の表面からノズル形成面Snまでの距離PG(すなわち、着弾可能距離)よりも小さくなるように、支持台(例えば、フラッシングボックス13の下方まで延設されたプラテン5本体)の上に設置されている。また、上記したように、ノズルプレート24とフラッシングボックス13とが接地電位に揃えられているため、ノズル形成面Snと着弾面Saとが接地電位に揃えられる。
【0033】
次に、フラッシング動作、および、これに伴い発生するミストの捕集について説明する。フラッシング動作は、記録動作(印刷処理)中において一定期間毎あるいは記録ヘッドの走査単位である所定回数のパス毎に、当該記録動作を中断して実施され、増粘したインクやインク内に混入した気泡等を排出するために、記録ヘッド2のノズル30からフラッシングボックス13のインク吸収材14(着弾面Sa)に向けてインク滴を噴射する。
【0034】
フラッシング動作によってノズル30から噴射されたインクは、飛翔中に引き伸ばされて、先頭のメイン液滴Md(主液滴)と、それよりも後に発生する微小な第1のサテライト液滴Sd1と、それよりも更に微小な第2のサテライト液滴Sd2に分離する(図4参照)。本実施形態では、ノズル形成面Snと着弾面Saとの電位が揃えられているため、ノズル形成面Snのうち少なくともノズル30周縁とそれに対向する着弾面Saとの間に電界が形成されず、これらのインク滴Md、Sd1、Sd2が静電誘導によって帯電することは無い。また、本実施形態では、着弾面Saとノズル形成面Snとの距離dを着弾可能距離よりも小さくなるように構成したため、メイン液滴Mdおよび第1のサテライト液滴Sd1は、インク吸収材14に着弾しやすくなる。一方、第2のサテライト液滴Sd2も、空気の粘性抵抗により速度が急激に低下したとしても、噴射されてから着弾するまでの距離を縮めたので、その一部又は全部をフラッシングボックス13のインク吸収材14に着弾させることができる。ところで、浮遊する液滴は、レナード効果により、すなわち、飛翔中における表層部分の蒸発や分裂によりプラスの帯電が強まることが知られている。しかしながら、本実施形態においては、噴射されてから着弾するまでの距離を縮めたので、インク滴Md、Sd1、Sd2が浮遊する時間を短縮でき、レナード効果によるプラスの帯電を抑えられる。
【0035】
このように、本実施形態では、ノズル形成面Snと着弾面Saとを接地電位に揃え、これらの面の間に電界を形成させないため、第2のサテライト液滴Sd2が静電誘導により帯電することを防止できる。加えて、着弾面Saとノズル形成面Snとの距離を着弾可能距離よりも小さくすることで、第2のサテライト液滴Sd2が失速する前に、これらをフラッシングボックス13のインク吸収材14に着弾させることができるため、ミストの発生を抑制できる。さらに、第2のサテライト液滴Sd2の飛翔時間が短くなるため、レナード効果によるプラスの帯電を抑制することが出来る。これにより、ミストがプリンター1内の他の構成部品(例えば、モーター、駆動ベルト、リニアスケールなどマイナスに帯電し易い部品)に付着することが低減される。その結果、ミストの付着による故障が抑制され、プリンター1の耐久性および信頼性が向上する。
【0036】
ところで、フラッシングボックス13の構成は、上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、図5に示す、第2の実施形態のフラッシングボックス13では、導電性のスポンジ等で作製された導電性インク吸収材48がその内部に装填されている。この導電性インク吸収材48が、配線等によりフラッシングボックス13と電気的に接続されると共に接地されている。これにより、フラッシングボックス13の材質によらず、導電性インク吸収材48によって形成される着弾面Saの電位を、確実にノズル形成面Snの電位に揃えることができる。なお、その他の構成は、上記第1の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0037】
また、図6に示す、第3の実施形態のフラッシングボックス13では、その内部の上層において着弾面Saを形成する導電性インク吸収材48と、これより下層において導電性インク吸収材48の性質とは異なるインク吸収材14′とが積層された状態で装填されている。そして、導電性インク吸収材48が、配線等によりフラッシングボックス13と電気的に接続されると共に接地されている。これにより、下層のインク吸収材14′の材質に関係なく、着弾面Saの電位を、確実にノズル形成面Snの電位に揃えることができる。例えば、インク吸収材14′について、電気特性に関係なく、安価でインクの保持がし易い材料を選択することができる。なお、その他の構成は、上記第2の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0038】
さらに、上記した各実施形態では、ノズル形成面Snと着弾面Saとを接地電位に揃えたが、これには限られない。例えば、図7に示す、第4の実施形態のフラッシングボックス13では、第1の実施形態と同様に、配線等によりノズルプレート24と電気的に接続されているが、これらはマイナスの電圧を印加する電源49(本発明における電圧印加手段に相当)に接続されている。そして、フラッシングボックス13の内部に、絶縁性のインク吸収材14が装填されている。これにより、フラッシング動作により最初のインク滴がインク吸収材14に吸収されると、このインクを介してノズル形成面Snと着弾面Saとの電位がマイナスの電位に揃えられる。その結果、第1の実施形態と同様に、ノズル形成面Snのうち少なくともノズル30周縁とそれに対向する着弾面Saとの間に電界が形成されない一方で、ノズル形成面Snの外周縁部および着弾面Saの外周縁部に、プリンター1内の他の構成部品等から、これらノズル形成面Snおよび着弾面Saに向けた電界が形成されることになる(図7における破線矢印参照)。なお、フラッシングボックス13の内部に装填されるインク吸収材は、絶縁性のインク吸収材14に限らず、導電性インク吸収材48を用いて形成することもできる。導電性インク吸収材48で形成した場合は、インク滴がインク吸収材14に吸収されなくとも、フラッシングボックス13を介してノズル形成面Snと着弾面Saとの電位をマイナスの電位に揃えることができる。また、その他の構成は、上記第1の実施形態のプリンター1と同じであるため、その説明を省略する。
【0039】
このように、ノズル形成面Snのうち少なくともノズル30周縁とそれに対向する着弾面Saとの間に電界が形成されないため、第2のサテライト液滴Sd2が静電誘導によって帯電することは無い。また、噴射されてから着弾するまでの距離を縮めたので、レナード効果によるプラスの帯電を抑制することは出来る。しかしながら、当該レナード効果による第2のサテライト液滴Sd2の帯電は、完全には防ぎ得ない。しかしながら、レナード効果により第2のサテライト液滴Sd2がプラスに帯電した場合においても、プリンター1内の他の構成部品等からノズル形成面Snおよび着弾面Saに向けて電界が形成されるため、当該第2のサテライト液滴Sd2をノズル形成面Snまたは着弾面Saに着弾させることができ、ミストの発生をより確実に抑制できる。なお、第2のサテライト液滴Sd2は、噴射時の慣性力および重力により下方(着弾面Sa側)に移動し易く、また、下方に行くほどプラス電荷が強まるため、ノズル形成面Snよりも着弾面Saに着弾し易く、フラッシングボックス13のインク吸収材14に捕集される。仮に、第2のサテライト液滴Sd2の一部がノズル形成面Snに付着したとしても、ワイパー部材12により払拭される。
【0040】
ところで、上記各実施形態において、フラッシングボックス13または導電性インク吸収材48とノズルプレート24とは、配線等により電気的に接続されているが、これには限られない。これらが電気的に直接接続されていなくとも、それぞれ別個に接地または電源に接続し、ノズル形成面Snと着弾面Saとの電位が揃えられるようにすることもできる。このように、構成すれば、フラッシング動作以外、例えば、記録動作時におけるノズル形成面Snおよび着弾面Saに印加する電圧を制御し、それぞれ別個に任意の電圧を印加することができる。そして、少なくともフラッシング動作において、ノズル形成面Snおよび着弾面Saとの電位が揃えられる構成にすればよい。
【0041】
また、本発明は、圧力発生手段を用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0042】
1…プリンター,2…記録ヘッド,5…プラテン,6…記録紙,13…フラッシングボックス,14…インク吸収材,20…圧電振動子,24…ノズルプレート,30…ノズル,48…導電性インク吸収材,49…電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して着弾可能距離を空けて配置された前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記液体噴射ヘッドから前記着弾対象に対して液体が噴射される前記支持手段における噴射領域から外れた位置に配設された液滴捕集手段と、
を備えた液体噴射装置であって、
前記液滴捕集手段は、前記液体噴射ヘッドから該液滴捕集手段に対して液体を噴射するフラッシング動作を行う際に当該液体が着弾する着弾面を有し、
該着弾面とフラッシング動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面との距離を前記着弾可能距離よりも小さくすると共に、少なくともフラッシング動作において前記ノズル形成面と前記着弾面との電圧を揃えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記ノズル形成面および着弾面に電圧を印加する電圧印加手段を備え、当該ノズル形成面および着弾面に負極性の電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−245714(P2012−245714A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119855(P2011−119855)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】