説明

液体塗布装置およびインクジェット記録装置

【課題】 液体の良好な供給および回収を可能にし、液体塗布の品質劣化を抑制した液体塗布装置およびインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】 液体保持部材2001と、前記液体を貯蔵する貯蔵タンク3003と、貯蔵タンク3003から液体保持部材2001へと塗布液を供給するための供給路3001と、液体補助部材2001から貯蔵タンク3003へと塗布液を回収するための回収路3002とを備える。供給路3001および回収路3002の少なくとも一方には、増粘物や固着物を塗布液から分離して保持する回避空間Qが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体塗布装置およびインクジェット記録装置に関し、詳しくは、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集を早めるなど所定の目的で媒体に液体を塗布する液体塗布装置に関するものであり、また、同様に、インクジェット記録で用いられる記録媒体に対して、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集を早めるなどの目的で液体を塗布する機構を備えたインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広く媒体に液体もしくは液状の材料を塗布する方式として、スピンコータ、ロールコータ、バーコータ、ダイコータが知られている。これらの塗布方式は、比較的長い塗布媒体に塗布を連続的に行うことを前提としたものである。このため、例えば、比較的小さなサイズの塗布媒体が断続的に搬送されてこれらに塗布を行う場合には、塗布媒体ごとに、その塗布開始や終了の位置で塗料ビードが乱れるなどして均一な塗膜が得られなくなるなどの問題を生じることがある。
【0003】
このような問題を解消可能な一構成として、特許文献1に記載されたものが知られている。この構成は、ダイコータ方式において、回転するロッドバーを用い、このロッドバーに対して吐出用スリットから塗料を吐出し、ロッドバー上に塗膜を形成する。そして、形成された塗膜はロッドバーの回転に伴い塗布媒体に接触して転写されるものである。ここで、ロッドバーに形成された塗膜を塗布媒体に転写、塗布しないときは、塗料はロッドバーの回転によりヘッド内に戻り回収用スリットを介して回収される。すなわち、非塗布時でもロッドバーは回転し続け、その際、塗料はロッドバーに塗膜を形成した状態にある。これにより、塗布媒体が断続的に供給されそれらに断続的に塗布を行う場合でも、均一な塗膜を得ることを可能としている。
【0004】
インクジェット記録装置の分野においても液体塗布機構を用いたものが知られている。特許文献2には、ローラと接するドクターブレードを用い、このブレードとローラとの間にコーティング液を溜めるようにし、ローラの回転に伴ってこのローラにコーティング液が付与されることが記載されている。そして、このローラの回転に伴い、これと他のローラとの間を搬送される支持体に対し付与されているコーティング液が転写、塗布される。特許文献3にも、同様に、インクジェット記録装置において、染料を不溶化する処理液を記録の前に予め塗布する機構が示されている。この文献の実施例1には、補充タンクに在る処理液が、回転するローラに付着することによって汲み出され同時にその汲み出した処理液が記録紙に塗布されることが記載されている。
【0005】
しかしながら、以上の特許文献1ないし3に記載の構成は、いずれも、ロッドバーないしローラが回転しつつそのバーないしローラの表面に塗布液が付与もしくは供給されるが、その付与もしくは供給する部分が大気に開放されあるいは連通した部分である。このため、塗布液の蒸発などが問題となる他、装置の姿勢が変わったときに、それによって塗布液が漏れるなどの問題を生じるおそれがある。
【0006】
特に、プリンタなどのインクジェット記録装置では、運搬時の姿勢変化による液体の漏れなどを考慮すると、小型化された装置には上記各文献に記載の塗布機構を適用し難い。
【0007】
これに対し、塗布液としてのインクをローラに付与ないし供給する部分をシールする構成が、特許文献4に開示されている。同文献に記載の塗布機構は、グラビア印刷装置において印刷版のパターンが表面に形成されたローラにインクを塗布する機構である。ここでは、ローラの周面に沿った上下2ヶ所に対応した位置で、ローラの長手方向に延在するドクターブレードと、この2つのドクターブレードの両側部にそれぞれ設けられた弾性部材と、を有したインクチャンバーを用いたものである。このチャンバーをローラの周面に当接させることにより、ローラとの間で液室(塗布液室)を形成する。そして、ローラが回転することにより、この液室の塗布液がローラに付与ないし供給されるものである。
【0008】
【特許文献1】特開2001−70858号公報
【特許文献2】特表2002−517341号公報
【特許文献3】特開平08−72227号公報
【特許文献4】特開平08−58069号公報
【特許文献5】特開2002−96452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献4では、インクを貯蔵するためのインクタンクと塗布液室との間にポンプが設けられており、このポンプによりインクタンク内のインクを塗布液室に圧送することで、インクタンクから塗布液室にインクを供給し、また、塗布液室から排出されたインクを受ける収容タンクへ塗布液室内のインクを送っている。このように装置が作動している間はポンプにより塗布液は流動することになるが、印刷終了の場合等に装置の停止と共にポンプも停止し、塗布液の流動は無くなる。このように装置を停止した状態で長期間放置しておくと、塗布液室、各流路(供給管や排出管等)やポンプ等では、塗布液が蒸発し塗布液の増粘および固着が発生する。
【0010】
特許文献4では、長期間にわたって装置を停止させていた場合に、塗布液室、各流路やポンプにおいて、蒸発等による塗布液の増粘および固着が発生する問題について、何ら言及されてはいない。上述のように、塗布液が供給路内で蒸発し増粘・固着した場合には、塗布液の良好な供給や排出が阻害されることがある。又、増粘物が塗布液室に混入した場合には、塗布面に増粘物が付着することにより、部分的に適切な塗布が難しくなる領域が発生し、塗布ムラなどの弊害が発生することがある。従って、蒸発等による塗布液の増粘および固着に対する種々の対策が求められていた。
【0011】
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、液体の良好な供給および回収を可能にし、液体塗布の品質劣化を抑制した液体塗布装置およびインクジェット記録装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明は、媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接することで形成される液体保持空間に液体を保持するための保持部材とを備え、前記塗布部材の塗布面を回転させることにより、前記保持部材より前記塗布面に供給された液体を前記媒体に塗布する液体塗布装置であって、前記液体を貯蔵する貯蔵手段と、前記貯蔵手段と前記保持部材とを連通する第1および第2の流路と、前記第1および第2の流路、ならびに前記液体保持空間を含む流路において液体の流れを発生させるための液体移動手段とを備え、前記第1および第2の流路の少なくとも一方は、当該流路の内壁に付着した、前記液体から生成される該液体よりも粘度が高い生成物を、前記液体の流れによって回収するための生成物回収部を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のインクジェット記録装置は、請求項1乃至8のいずれかに記載の液体塗布装置と、前記液体塗布装置により前記液体が塗布された媒体に対して、記録ヘッドからインクを吐出して前記媒体に画像を記録する記録手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体(例えば、塗布液)が蒸発等により増粘した場合、保持部材と貯蔵手段との間の液体の供給、回収に対する阻害を軽減することができ、良好な供給および回収を行うことができる。また、塗布媒体への塗布ムラを低減することができ、液体塗布を高品位に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の液体塗布装置100に係る実施形態の全体構成を示す斜視図である。ここに示す液体塗布装置100は、概略、塗布媒体に対し所定の塗布液を塗布する液体塗布手段と、この液体塗布手段に塗布液を供給する液体供給手段を有して構成されている。
【0016】
液体塗布手段は、円筒状の塗布ローラ1001、この塗布ローラ1001に対向して配置された円筒状のカウンターローラ(媒体支持部材)1002、および塗布ローラ1001を駆動するローラ駆動機構1003などを有する。このローラ駆動機構1003は、ローラ駆動モータ1004と、このローラ駆動モータ1004の駆動力を塗布ローラ1001に伝達するギアトレインなどを有する動力伝達機構1005とによって構成されている。
【0017】
また、液体供給手段は、塗布ローラ1001の周面との間で塗布液を保持する液体保持部材2001、およびこの液体保持部材2001に液体を供給する後述の液体流路3000(図1では不図示)などを有して構成される。塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002は、それぞれ、それらの両端が不図示のフレームに対して回動自在に取り付けられた、互いに平行な軸によって回動自在に支持されている。また、液体保持部材2001は、塗布ローラ1001の長手方向のほぼ全体にわたって延在するものであり、塗布ローラ1001の周面に対して接離動作を可能とする機構を介して上記のフレームに移動可能に取り付けられている。
【0018】
本実施形態の液体塗布装置は、さらに、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002とのニップ部に塗布媒体を搬送するための、ピックアップローラなどからなる塗布媒体供給機構1006を備える。また、この塗布媒体の搬送路において、塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002の後流側には、塗布液が塗布された塗布媒体を排紙部(不図示)へ向けて搬送する、排紙ローラなどからなる排紙機構1007が設けられる。これらの給紙機構や排紙機構も、塗布ローラなどと同様、動力伝達機構1005を介して伝えられる駆動モータ1004の駆動力によって動作する。
【0019】
なお、本実施形態で使用する塗布液は、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集を早めることを目的とした液体である。
塗布する液体の成分の一例を以下に記述する。
硝酸カルシウム・4水和物 10%
グリセリン 42%
界面活性剤 1%
水 残量
また、前記塗布液の粘度は25℃で5〜6cP(センチポアズ)である。
なお、本発明の適用において塗布液は、上記のものに限られないことは勿論である。
【0020】
塗布する液体に水を用いる場合、本発明の塗布ローラとの液体保持部材の当接部分での周動性は、表面張力を下げる成分を前記液体に含まれることで良好なものとなる。
上述の塗布する液体の成分の一例では、グリセリンおよび界面活性剤が水の表面張力を下げる成分である。
【0021】
次に、以下概略を説明した液体塗布装置を構成する各部の要素についてより詳細に説明する。
図2は、塗布ローラ1001、カウンターローラ1002および液体保持部材2001などの配置の一例を示す縦断側面図である。
カウンターローラ1002は、不図示の付勢手段によって塗布ローラ1001の周面に向けて付勢されており、塗布ローラ1001を図中、時計方向に回転させることにより、両ローラの間に塗布液を塗布すべき塗布媒体Pを挟持し得ると共に、塗布媒体Pを図中の矢印方向に搬送し得るようになっている。
また、液体保持部材2001は、バネ部材(押圧手段)2006の付勢力によって塗布ローラ1001の周面に対して付勢されて当接するとき、塗布ローラ1001による液体塗布領域全体に亘って延在する長尺な液体保持空間Sを形成するようになっている。この液体保持空間S内には、後述の液体供給経路3000から液体保持部材2001を介して塗布液が供給されるが、液体保持部材2001が以下のように構成されているため、塗布ローラ1001の停止状態において、液体保持空間Sから外方へ不用意に塗布液が漏出するのを防止することができる。
【0022】
この液体保持部材2001の構成を、図3ないし図8に示す。
図3に示すように、液体保持部材2001は、空間形成基材2002と、この空間形成基材2002の一方の面に設けられた環状の当接部材2009とを有して構成されている。空間形成基材2002には、その中央部分における長手方向に沿って、底部の断面形が円弧状をなす凹部2003が形成される。そして、当接部材2009は、その直線部分がこの凹部2003の上縁部に沿って固着され、また、円周部分が上記上縁部から底部を経て反対側の上縁部に至るように固着される。これにより、液体保持部材2001の当接部2009が塗布ローラ1001に当接したとき、塗布ローラの周面形状に沿った当接が可能となり、均一な圧力の当接を実現することができる。
【0023】
上記のようにこの実施形態における液体保持部材は、継ぎ目のない一体に形成された当接部材2009が、バネ部材2006の付勢力によって塗布ローラ1001の外周面に隙間なく連続した状態で当接する。その結果、液体保持空間Sは、この当接部材2009と、空間形成基材の一面と、塗布ローラ1001の外周面とによる実質的に閉塞した空間となり、この空間に塗布液が保持される。そして、塗布ローラ1001の回転が停止した状態では、当接部材2009と塗布ローラ1001の外周面とは液密状態を維持し、液体が外部へと漏出するのを確実に防止することができる。一方、塗布ローラ1001が回転するときは、後述されるように、塗布液は塗布ローラ1001の外周面と当接部材2009との間をすり抜けて、塗布ローラの外周面に層状に付着する。ここで、塗布ローラ1001の停止状態において、その外周面と当接部材2009とが密接状態にあるとは、上記のとおり、上記液体保持空間Sの内と外との間で液体を通さないことである。この場合、当接部材2009の当接状態としては、それが塗布ローラ1001の外周面に対し、直に接する状態の他、毛管力によって形成される液体の膜を解して上記外周面に当接する状態を含むものである。
【0024】
また、当接部材2009の長手方向における左右両側部は、図3ないし図8に示すように、正面(図6)、平面(図3)および側面(図7、図8)のいずれの方向から見ても緩やかに湾曲する形状をなしている。このため、塗布ローラ1001に対し、比較的強い押圧力で当接部材2009を当接させても、当接部材2009の全体が略均一に弾性変形し、局所的に大きな歪みが生じることはない。このため、当接部材2009は図6ないし図8に示すように、隙間なく連続的に塗布ローラ1001の外周面に当接し、上記の実質的に閉塞した空間を形成することができる。
【0025】
一方、空間形成基材2002には、図3ないし図5に示すように、当接部材2009に囲繞された領域内に、それぞれ空間形成基材2002を貫通する孔を有して構成される液体供給口2004および液体回収口2005が設けられている。これらは空間形成基材の背面側に突設された円筒状の連結部20041,20051にそれぞれ連通している。また、この連結部20041,20051は、後述の液体供給流路3000に連結されている。なお、この実施形態では、液体供給口2004が当接部材2009に囲繞された領域の一端部(図3では左端部)近傍に形成され、液体回収口2005が同領域の他端部(図3では右端部)近傍に設けられる。この液体供給口2004は、液体流路3000から供給される塗布液を前述の液体保持空間Sに供給し、液体回収口2005は液体保持空間S内の液体を液体流路3000へと流出させるためのものである。この液体の供給、流出を行うことにより、液体保持空間S内において、塗布液は上記の左端部から右端部へと流動する。
【0026】
(塗布液流路)
図11は、前記塗布液供給手段の液体保持部材2001に連結される液体流路3000の概略構成を示す説明図である。
この液体流路3000は、液体保持部材2001を構成する空間形成基材2002の液体供給口2004と塗布液を貯蔵する貯蔵タンク3003とを連結する第1流路(供給流路)3001と、空間形成基材2002の液体回収口2005と前記貯蔵タンク3003とを連結する第2流路(回収流路)3002とを有する。この貯蔵タンク3003には、大気連通口3004が設けられており、また、この大気連通口には、大気との連通、遮断を切換える大気連通弁3005が設けられている。また、第1流路3001内には切換弁3006が設けられており、この切換弁3006によって第1流路3001と大気との連通、遮断が切換え可能となっている。さらに第2流路3002内には、本液体流路3000内で塗布液および空気を所望の方向へと強制的に流動させるためのポンプ3007が連結されている。
【0027】
この実施形態において、第1流路3001および第2の流路3002は円管状のチューブによって形成されており、各チューブの端部に形成される開口部は、貯蔵タンク3003の底部もしくは底部に近い位置に配置され、貯蔵タンク3003内の塗布液を完全に消費し得るようになっている。
【0028】
ここで、本実施系形態におけるポンプ3007を図19に示す。ポンプ3007は図19のようなチューブポンプによって構成されている。このチューブポンプ3007は、ポンプ駆動モータ(ここでは図示せず)によって回転する回転体30071と、この回転体30071の外側に沿って弧状に配設された可撓性を有するポンプ構成チューブ30072と、前記回転体30071に回動自在に支持された2個のコロ30073,30074とを有する。このチューブポンプでは、回転体30071が回転することにより、少なくとも一つのコロ30073,30074がポンプ構成チューブ30072を押し潰しながら転動し、ポンプ構成チューブ30072内の塗布液または空気を下流側へと(図19では、貯蔵タンク側チューブ30022へと)送り出すと同時に、液体保持部材側チューブ30021から塗布液または空気を吸引する。また、このチューブポンプ3007は、駆動停止状態で必ずポンプ構成チューブを押し潰した状態で停止するため、チューブ30021とチューブ30022との連通は遮断される。
【0029】
また、この実施形態における切換弁3006は、第1流路3001と大気との連通、遮断を切換え得るものであれば、種々のものが適用可能であるが、ここでは図11に示すような三方弁を使用している。この三方弁3006は、互いに連通する3つのポートを有し、このポートのうち2つのポートを、第1流路3001における貯蔵タンク側チューブ3011と、液体保持部材側チューブ3012と、大気連通口3013の中のいずれか二つに選択的に連通させ得るものとなっている。そして、この三方弁3006の切換えにより、チューブ3011とチューブ3012とを連通させる連結状態と、チューブ3012と大気連通口3013とを連通させる連結状態とが選択的に切り換えられ、これにより、液体保持部材2001と塗布ローラ1001とによって形成される空間Sに対し、貯蔵タンク3003内の塗布液あるいは大気連通口3013から取り込まれる空気の何れかを選択して供給することが可能となる。詳しくは、図24に示されるようにチューブ3011とチューブ3012とが連通している状態にあっては、貯蔵タンク3003内の塗布液が液体保持空間Sに供給され、一方、図25に示されるようにチューブ3012と大気連通口3013とが連通している状態にあっては、大気連通口3013から取り込まれる空気が液体保持空間Sに供給される。なお、三方弁3006の切換えは、後述の制御部4000からの制御信号によって行われ、塗布液の充填、供給などが行われる。
【0030】
(制御系)
図12は、本実施形態の液体塗布装置における制御系の概略構成を示すブロック図である。
図において、4000は液体塗布装置全体を制御する制御手段としての制御部である。この制御部4000は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU4001と、このCPU4001によって実行される、図13にて後述される処理などの制御プログラムなどを格納するROM4002と、CPU4001の処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM4003などを有する。
【0031】
この制御部4000には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部4004、液体塗布装置の入力・設定状態などをはじめとする種々の表示を行う表示部4005、塗布媒体の位置や各部の動作状態などを検出するセンサなどを含む検出部4006、前記ローラ駆動モータ1004、ポンプ駆動モータ4009、大気連通弁3005および切換弁3006などがそれぞれ駆動回路4007,4008,4010,4011を介して接続されている。
【0032】
(液体塗布動作シーケンス)
図13は、本実施形態の液体塗布装置の液体塗布に係る処理手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートを参照して、液体塗布にかかる各工程を説明する。すなわち、液体塗布装置に電源が投入されると、制御部4000は、図13にフローチャートに従って以下の塗布動作シーケンスを実行する。
【0033】
充填工程
ステップS1では、前記塗布空間Sに対する塗布液の充填工程を実行する。この充填工程では、まず、貯蔵タンク3003の大気連通弁3005を大気に開放させると共に、ポンプ3007を一定時間駆動する。これにより、液体塗布空間Sおよび各流路3001,3002内に塗布液が充填されていない場合には、ポンプによって内部の空気が貯留部へと送られて大気へと排出されると共に各部に塗布液が充填される。また、既に各部に塗布液が充填されている場合には、各部の塗布液が流動して適正な濃度および粘度の塗布液が供給される。この初期動作によって、塗布ローラ1001に対し塗布液が供給された状態となり、塗布媒体への塗布が可能となる。
【0034】
塗布工程
ここで、塗布開始指令が入力されると(ステップS2)、再びポンプ3007が作動を開始すると共に(ステップS3)、塗布ローラ1001が図1の矢印に示すように、時計周りに回転を開始する(ステップS4)。この塗布ローラ1001の回転により、液体保持空間Sに充填された塗布液Lは、塗布ローラ1001に対する液体保持部材2001の当接部材2009の押圧力に抗して、塗布ローラ1001と当接部材2009の下縁部2011との間を摺り抜け、塗布ローラ1001の外周に層状態となって付着する。塗布ローラ1001に付着した塗布液Lは、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との当接部に送られる。
【0035】
次いで、塗布媒体送給機構1006によって塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との間に塗布媒体が搬送され、これらのローラの間に塗布媒体が挿入されるとともに、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002の回転に伴い排紙部へ向けて搬送される(ステップS5)。この搬送の間に、塗布ローラ1001の外周面に塗布された塗布液が、図9に示すように塗布ローラ1001から塗布媒体Pに転写される。なお、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との間に塗布媒体を供給する手段としては、上記の送給機構に限られないことは勿論であり、例えば、所定のガイド部材を補助的に用いる手差しによる手段を併せて用いてもよく、また、手差し手段を単独で用いる構成など、どのような手段を用いてもよい。
【0036】
図9において、交差する斜線で表現した部分が塗布液Lを示している。なお、ここでは、塗布ローラ1001および塗布媒体Pにおける塗布液の層の厚みは、塗布時における塗布液Lの様子を明確に図示する上で、実際の厚みよりもかなり過大に表している。
【0037】
上記のようにして、塗布媒体Pの塗布された部分は塗布ローラ2001の搬送力により矢印方向に搬送されると共に、塗布媒体Pと塗布ローラ2001の接触部に塗布媒体Pの未塗布部分が搬送され、この動作を連続もしくは間欠的に行うことで塗布媒体全体に塗布液を塗布して行く。
【0038】
ところで、図9においては、当接部材2009から摺り抜けて塗布ローラ2001に付着した塗布液Lの全てが塗布媒体Pに転写された理想的な塗布状態を示しているが、実際には、塗布ローラ1001に付着した塗布液Lの全てが塗布媒体Pに転写されるとは限らない。つまり、搬送される塗布媒体Pが塗布ローラ1001から離間する際、塗布液Lは、塗布ローラ1001にも付着し、塗布ローラ1001に塗布液Lが残留することが多い。この塗布ローラ1001における塗布液Lの残留量は、塗布媒体Pの材質及び表面の微小な凹凸の状態によっても異なるが、塗布媒体Pが普通紙の場合、塗布動作後も塗布ローラ1001の周面には塗布液Lが残留する。
【0039】
図26,図27,図28は、媒体Pが普通紙である場合における媒体の表面と塗布面での塗布過程を説明する説明図である。本図では液体を黒く塗りつぶしてある。
図26は塗布ローラ1001とカウンタローラ1002とのニップ部より上流側での状態を示している。同図において塗布ローラ1001の塗布面には液体が塗布面の表面の微細な凹凸をわずかに被うように液体が付着している。
図27は塗布ローラ1001とカウンタローラ1002とのニップ部での、媒体Pである普通紙の表面と塗布ローラ1001の塗布面の状態を示している。同図において媒体Pである普通紙の表面の凸部は塗布ローラ1001の塗布面と接触し、接触した部分より液体が瞬時に媒体Pである普通紙の表面の繊維に浸透ないし吸着する。また塗布ローラ1001の塗布面には普通紙の表面の凸部と接触しない部分に付着した液体が残留される。
【0040】
図28は塗布ローラ1001とカウンタローラ1002とのニップ部より下流側での状態を示している。同図は媒体と塗布ローラ1001の塗布面が完全に離脱した状態である。塗布ローラ1001の塗布面には普通紙の表面の凸部と接触しない部分に残留した液体と接触部における液体も極微量ながら塗布面に残留する。
【0041】
この塗布ローラ1001に残留した塗布液は、塗布ローラ1001に対する液体保持部材2001の当接部材2009の押圧力に抗して、塗布ローラ1001と当接部材2009の上縁部2010との間を摺り抜けて液体保持空間S内に戻り、同空間S内に充填されている塗布液と混合される。
【0042】
また、この塗布液の戻し動作は、図10に示すように塗布媒体が存在しない状態で塗布ローラ1001を回転させた場合にも同様に行われる。すなわち、塗布ローラ1001を回転することで塗布ローラ1001の外周に付着した塗布液は、カウンターローラ1002と当接する部分(ニップ部)の間をすり抜ける。すり抜けた後は塗布ローラ1001側とカウンターローラ1002側とに塗布液が分離し、塗布ローラ1001に塗布液が残留する。そして、塗布ローラ1001側に付着した塗布液Lは当接部材2009の上縁部2010と塗布ローラ1001との間をすり抜けて液体保持空間S内に侵入し、同空間S内に充填されている塗布液に混合する。
【0043】
終了工程
上記のようにして、塗布媒体への塗布動作が実行されると、次に塗布工程を終了して良いか否かの判断を行い(ステップS6)、塗布工程を終了しない場合は、ステップS5に戻り、塗布媒体の塗布が必要な部分全体に塗布工程を終了するまで塗布動作を繰り返す。塗布工程を終了すると、塗布ローラ1001を停止させ(ステップS7)、さらに、ポンプ3007の駆動を停止させる(ステップS8)。この後、ステップS2へ移行し、塗布開始指令が入力されていれば、前述のステップS2〜S8の動作を繰り返し、塗布開始指令が入力されていなければ、塗布空間Sおよび液体流路内の塗布液を回収する回収動作などの後処理を行い(ステップ9)、塗布にかかる処理を終了する。
【0044】
なお、上記回収動作は、前記大気連通弁3005および切換弁3006を開放し、ポンプ3007を駆動することによって、塗布液保持空間Sおよび第2流路3002内の塗布液を液体貯留タンク3003へと流入させることによって行う。この回収動作を行うことにより、液体保持空間Sにおける塗布液の蒸発を抑制することができる。また、回収動作後は大気連通弁3005を閉じ、切換弁3006を切換えて第1流路3001および大気連通口3013との連通を遮断することにより、貯蔵タンク3003を大気から遮断する。これにより、液体貯蔵タンク3003における塗布液の蒸発を防止することができると共に、移動、運搬などにおいて装置の姿勢が傾いた場合にも塗布液が外部へ流出するのを防止することができる。
【0045】
ところで、上記のように本実施形態では、終了工程において液体(例えば、塗布液)を液体貯蔵タンク3003へと回収している。しかし、液体は、完全に回収できるわけではなく、供給路3001や回収路3002中に残ってしまうことがある。例えば、円筒状のチューブである供給路3001や回収路3002の壁面、切換弁3006の内部、液体保持部材2001の壁面、ポンプ3007の内部などに残ることがある。特に、液体保持部材2001の壁面、切換弁3006の内部やポンプ3007の内部は、機構が入り組んでいるため液体が残りやすい。
【0046】
供給路やポンプ内等、装置内部に残ってしまった液体は、次の充填工程で液体が供給されるまで、蒸発が進んでいく。そして、蒸発が進んでいくにつれて液体は粘度を増していく。本実施形態においては、液体(塗布液)にグリセリンや硝酸カルシウムを含んでいるため、液体が増粘してしまうと糊状(増粘物とも呼ぶ)になったり、液体が固まった固形物(固着物とも呼ぶ)ができてしまう。糊状になった液体は、次に液体が充填される場合に、通常の液体よりも粘性が高いために、流路において液体の流れを阻害してしまう。又、カウンターローラ1002とニップ部の間をすり抜ける液体が増粘していたならば、新しく充填されてきた増粘していない液体と増粘した液体とが同時にニップ部をすり抜ける事になり、それぞれの表面張力の違いから、すり抜ける液体の厚みに差が出てきてしまう。これにより塗布媒体上で塗りムラになってしまう。又、固形物が発生したならば、液体が循環する径路上でつまりを起こしてしまう。このように、増粘物や固着物により、液体の供給や回収を良好に行えないことがある。また、塗布媒体への液体の塗布を高品位に行えないことがある。
【0047】
上述の増粘物や固着物は、再び液体が充填され、ある程度長い時間液体と混ざり合っていれば相溶するので、上記問題を起こすことは少ない。しかしながら、増粘物や固着物が相溶するまでの間、流路を細くしたり、詰まらせたりしてしまう恐れがある。
【0048】
なお、本明細書において、「液体が増粘する」とは、糊状やゲル状、固体状のものなど、予め決められた組成の液体から溶媒や水分等が蒸発して、上記液体よりも粘度が高まったものを含み、液体貯蔵タンクに収容される液体よりも粘度が高まる意を含む。また、温度低下による粘度の上昇や、凝固点近傍において液体に含まれる成分の凝固点の違いによって生じる、ある成分が凝固した状態等も含まれる。すなわち、「液体が増粘する」とは、供給路や回収路の壁面、切換弁の内部、液体保持部材の壁面、ポンプの内部等において、液体が各流路を流れにくくなる状態になることを指す。また、「増粘した液体」は、液体に、増粘物および固着物の少なくとも一方が分散された状態、および液体と増粘物および固着物の少なくとも一方とが相分離した状態を含む。
【0049】
「増粘物」とは、液体が増粘して、糊状やゲル状になったものを指し、「固着物」とは、増粘物よりもさらに粘度が上昇したものを指す。すなわち、増粘物および固着物は共に、各流路の少なくとも一部を塞ぐ等して、液体の流動を阻害するものであり、液体から生成され、その液体よりも粘度が高い生成物である。
【0050】
図14は、液体保持部材2001の内部に液体が残った様子を示す図であり、図15は、ポンプ3007内部に液体が残った様子を示す図であり、図16は、切換弁3006に液体が残った様子を示す図である。図14〜16において、交差する斜線で表現した部分が残った液体(図14では符号A、図15では符号B、図16では符号C)を示している。
【0051】
図14に示されるように、本実施形態における液体保持部材2001では、ニップ部の局面と底面との間に液体Aが残り易い。また、ポンプ3007の場合では、1つのコロは必ずチューブの一部分を押しつぶしている(図19参照)。図15に示されるように、コロ30074とチューブ30072とが接しているコロ30074の周囲に液体Bは溜まり易い。また、切換弁3006についても、液体が残り易い所を図16に例示する。図16に示したように、切換弁3006の内部の入り組んだ機構の壁面に液体Cが残り易い。
【0052】
本実施形態では、このように液体が残り易い場所がある場合、該残り易い場所から液体循環方向下流側の、チューブから成る供給路や回収路に、増粘物や固着物を回収するための生成物回収部としての回避空間Qを設ける。この回避空間Qは後述するように、例えばチューブの重力方向下に断面が大きくなっているもの等である(図17(A)、図17(B)、図17(C)の符号Qの位置)。図17(A)〜(C)に示すように、液体保持部材2001、切換弁3006、ポンプ3007等の液体が残り易い場所の循環方向(図中矢印D方向)下流側に回避空間Qを設けることにより、供給路や回収路の内壁に増粘物や固着物が付着しても、次の充填により液体が流れてきた時に、それら増粘物や固着物は重力方向下である回避空間Qにたまり、流路を塞いだり狭くしたりするようなことを抑制する。
【0053】
図17(A)〜(C)においては、それぞれの場合に対し、回避空間Qの数は1つと図示しているが、これは記録装置のサイズやその他の機構との兼ね合いによって可変なものであり、1つに限らず設けても良い。また、回避空間Qの設置場所についても、図17(A)〜(C)の場所に限定されず、生成した増粘物や固着物を回収し保持できる場所であればいずれの場所であっても良い。
【0054】
次に、回避空間Qについて詳細に説明する。
回避空間Qは、供給路や回収路等、各流路の所定の位置に設けられた空間であり、回避空間Qが設けられた流路についての、液体が流れる方向(方向D)に垂直な断面(本明細書では、単に「断面」とも呼ぶ)の面積は、その他の部分(供給路や回収路)の断面の面積よりも大きい。
【0055】
本実施形態に係る回避空間Qの一例を図18(A)および(B)に示す。図18(A)は、本実施形態に係る供給路3001に設けられた回避空間Qの方向Dに対して水平方向の断面図であり、図18(B)は、図18(A)のC−C断面図である。
図18(A)および(B)において、斜線部で示された回避空間Qは、供給路3001に対して同心円状の形状をしており、その回避空間Qが形成された供給路3001の断面の面積は、回避空間Qが形成されていない(その他のチューブである)供給路3001の断面の面積よりも大きい。すなわち、図18(A)および(B)では、回避空間Qが設けられた供給路3001は、回避空間3001分だけ太くなったチューブである。
【0056】
このような形状の回避空間Qを有する供給路3001中に増粘物や固着物を含んだ液体が流れると、増粘物や固着物は回避空間Qに溜まり、一方、液体は回避空間Qを通過する。よって、増粘物や固着物が流路を塞いだり狭くしたりすることが減少され、液体の良好な供給や回収を行うことが可能となる。また、塗布時の塗布ムラを抑えることができ、塗布媒体への液体の塗布を高品位に行うことが可能となる。
【0057】
なお、図18(A)および(B)に示した回避空間Qは一例を示したものであり、その形状を問うものではない。回避空間が設けられていない流路よりも断面の面積が大きいものであればいずれの形状であっても良い。例えば、第2の実施形態で説明するように、大きくなる断面の面積分をチューブの重力方向下側に寄せて設ける形でも良い。
【0058】
本実施形態において、回避空間Qをチューブの一部で構成しているが、これに限定されず、チューブと別個の材料で構成されるものであっても良い。例えば、回避空間Qを構成する部材を流路中に挿入して設けるようにしても良い。その際は、挿入される回避空間Qの断面の面積を、流路の断面の面積よりも大きくすれば良い。
【0059】
また、回避空間Qを構成する部材を流路に挿入して設ける場合は、例えば、回避空間の入口(液体が入ってくる部分)と出口(液体が出る部分)とにおいて、入口に接続される流路と出口に接続される流路とでD方向の軸をずらすようにしても良い。このように入口側の流路と出口側の流路とで軸をずらすことで、出口近傍に増粘物や固着物の溜め部分を形成することができる。
【0060】
このように、液体が高粘度化した増粘物や固着物等を回収するための生成物回収部(例えば、回避空間)を供給路や回収路等の液路上に設けることにより、液路の内壁に付着した増粘物や固着物を液体の流れに伴って上記生成物回収部へ移動させることが可能となり、各流路中の液体流れを妨げる増粘物や固着物の存在量を減少させ、液体の流れを安定化させることができる。このような生成物回収部の好適な一例として、本実施形態では、流路上の回避空間Qが形成された領域の断面の面積を流路の断面の面積よりも大きくし、その大きくした領域に増粘物や固着物を溜めるようにしている。
【0061】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、回収終了時等のポンプの停止時に液体の残り易い場所として、図17(A)〜(C)に示した場所について説明したが、他の液体の残り易い場所として、重力方向Gにおいて、低い場所に位置する流路が考えられる。これを具体的に例示すると、装置の構成上、供給路や回収路が這いまわしてある場合に、図29(A)のようにたわみが発生する場合がある。このような供給路や回収路において重力方向Gにおいて一番低い場所にあたるところに回避空間Qを設ける。図29(A)は、本実施形態に係る、供給路3001の重力方向Gにおいて一番低い場所に回避空間Qを設けた構成を示す図であり、図29(B)は、図29(A)のD−D断面図である。
【0062】
図29(A)および(B)は、供給路3001について示しているが、これは回収路3002でも適応可能である。装置の構成上、図29(A)に示すように、供給路3001の流路中で重力方向Gに対して一番低くなっている部分(一番低くなっている部分とも呼ぶ)が発生することがある。この場合、図29(A)のように、一番低くなっている部分に回避空間Qを設ける事とする。本実施形態では、回避空間Qの形状を、図29(A)および(B)に示すように、供給路3001の回避空間Qが設けられていない部分に比べて、回避空間Qが設けられた部分の断面の面積が重力方向G(重力がかかる方向)に大きくなるようにした形状としている。このような形状とすることで、回避空間Qは、重力方向Gに増粘物や固着物を溜める領域を形成している。
【0063】
これにより、チューブ内に残留する増粘した液体の量が増えても、供給路や回収路を塞ぐことを抑制することができる。なお、図29(A)および(B)においては回避空間の一例を示したものであり、その形状や数を問うものではない。回収路の断面積よりも大きくなる系であるならば、図29(A)および(B)のようでなくともよい。例えば、図18(A)および(B)に示すように同心円状に広くなっているものでもよい。
【0064】
(第3の実施形態)
また、その他にも回収終了時等のポンプの停止時に液体が残りやすい場所として、以下のような場合が考えられる。例えば、本実施形態において供給路や回収路は円筒状のチューブを用いている。チューブは装置の構成において、様々な場所に這いまわされることがある。この場合、硬度の低いチューブを急激に這いまわすと、図30のように、折れ曲がりが発生し、流路が狭くなってしまう部分が生じることが考えられる。このような状況の対策として、図31(A)に示すようなジョイント部品3101を用いる場合がある。
【0065】
このように、ジョイント部品を用いる場合、図31(B)に示すように、回避空間Qをジョイント部品3101から延在するように設けてもよい。または、図31(B)では図示していないが、回避空間Qは、ジョイント部品3101内に設けても良い。
【0066】
このように、回避空間Qを設ける部分に、別個の部品を設ける場合は、該部品から延在するように、または該部品内に回避空間Qを設ければよい。
【0067】
(第4の実施形態)
本実施形態においては、特に、液体が付着したまま増粘するのが好ましくない場所付近に回避空間を設置し、わざとそこに液体を集める(予め液体を集める)ことによって、上記好ましくない場所で液体が増粘することを防ぐものである。
【0068】
図32は、本実施形態に係る、液体が溜まり易いように構成した回避空間Qの一例を示す図である。図32は、貯蔵タンク3003と三方弁3006との接続部を拡大したものである。この場合、切換弁3006の内部には貯蔵タンク3003と連結している貯蔵タンク側チューブ3011の一部が繋がっている。また、このような接続部は部品数が多かったリ、シールが完璧ではなかったりするため、液が残りやすくかつ蒸発しやすい部分となっている。
【0069】
このような部分では、液体がなるべく残って欲しくない。又、切換弁3006の内部にもなるべく増粘物や固着物が混入して欲しくない。なぜならば、増粘物や固着物によって壁面が覆われてしまったとすると、切換弁3006の稼動部を稼動させるのに過剰なトルクが必要になってしまう。このため、図32に示したように故意的に回避空間Qを設けることで、切換弁3006の内部に液体がとどまらないようにする。
【0070】
詳しくは、図32に示すように、切換弁3006の入口(貯蔵タンク3003側)よりも重力方向Gに低い場所に回避空間Qを設ける。このとき回収終了時等、ポンプ3007の停止時では、重力の影響により、液体は切換弁3006内部ではなく回避空間Qの中に入ってくる。これにより、切換弁3006の壁面に付着するであろう液体はそこにとどまらず、結果的に切換弁3006内部の像粘物付着は抑えられる。
【0071】
これは、図に示したような液体貯蔵タンク3003の液体循環方向下流側や切換弁3006の液体循環方向上流側に設けた系に限って有効なものではなく、例えば、ポンプ3007の上流側に設けてもよい。又、液体保持部材2001の供給口20041の上流側や回収口20051の下流側に設けてもよい。又、形状や数を問うものでもない。
【0072】
また、図29(A)にて説明したたわみを故意的に形成し、重力の作用により、各流路や三方弁等に残った液体を回避空間Qに集めるようにしても良い。
【0073】
(他の実施形態)
図20は、上述の液体塗布装置とほぼ同様の構成を有した塗布機構を備えたインクジェット記録装置1の概略構成を示す図である。
このインクジェット記録装置1には、複数枚の記録媒体Pを積載する給送トレイ2が設けられており、半月形状の分離ローラ3が、給送トレイに積載された記録媒体Pを1枚づつ分離して搬送経路に給送する。搬送経路中には、上記液体塗布機構の液体塗布手段を構成する塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002が配置されており、給送トレイ2から給送された記録媒体Pは、両ローラ1001,1002の間に送られる。塗布ローラ1001はローラ駆動モータの回転によって図20において時計周り方向に回転し、記録媒体Pを搬送しながら塗布液を記録媒体Pの記録面に塗布する。塗布液が塗布された記録媒体Pは、搬送ローラ4とピンチローラ5との間に送られ、搬送ローラ4が、図中、反時計周り方向へと回転することによって、記録媒体Pはプラテン6の上を搬送され、記録手段を構成する記録ヘッド7に対向する位置へと移動する。記録ヘッド7は所定数のインク吐出用のノズルを配設したインクジェット記録ヘッドであり、この記録ヘッド7が図の紙面と垂直方向に走査する間に、記録データに従ってノズルから記録媒体Pの記録面に対してインク滴を吐出して記録を行う。この記録動作と搬送ローラ4による所定量の搬送動作とを交互に繰り返しながら、記録媒体に画像を形成して行く。この画像形成動作とともに、記録媒体の搬送路において記録ヘッドの走査領域の後流側に設けられた、排紙ローラ8と排紙拍車9によって記録媒体Pが挟持され、排紙ローラ8の回転によって排紙トレイ10上に排紙される。
【0074】
なお、このインクジェット記録装置としては、インクを吐出するノズルを記録媒体の最大幅に亘って配設した長尺な記録ヘッドを用いて記録動作を行ういわゆるフルライン型のインクジェット記録装置を構成することも可能である。
【0075】
また、この実施形態で用いる塗布液は、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集を早める処理液である。この実施形態では、塗布液として処理液を用いることにより、この処理液とこの処理液が塗布された記録媒体に吐出されるインクの色材である顔料を反応させて顔料の凝集を早めさせる。そして、この凝集により、記録濃度の向上を図ることができる。さらに、ブリーディングの軽減または防止が可能となる。なお、インクジェット記録装置において用いる塗布液としては、上述の例に限られないことは勿論である。
【0076】
図21は、上述したインクジェット記録装置の要部を示す斜視図である。同図に示すように、給送トレイ2の一端の上方に塗布機構100が設けられ、この塗布機構より上部で、給送トレイ2の中央部上方に記録ヘッド7などを備えた記録機構が設けられる。
【0077】
図22は、上述したインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。同図において、液体塗布機構の要素であるローラ駆動機構1004、ポンプ駆動モータ4009、および大気連通弁のアクチュエータ3005は、前述した液体塗布装置とで説明したものと同様の要素である。
【0078】
CPU5001は、図23にて後述する処理手順のプログラムに従い、塗布機構の各要素の駆動を制御するとともに、記録機構にかかるLFモータ5013、CRモータ5015、および記録ヘッド7の駆動を、それぞれの駆動回路5012、5014、5016を介して制御する。すなわち、LFモータ5013の駆動によって搬送ローラ4などを回転させ、また、CRモータの駆動によって記録ヘッド7を搭載したキャリッジを移動させる。さらに、記録ヘッドのノズルからインクを吐出させる制御を行う。
【0079】
図23は、本実施形態のインクジェット記録装置における液体塗布およびそれに伴う記
録動作の手順を示すフローチャートである。
同図において、ステップS101、S103〜S105の処理、およびステップS108〜S110の処理は、図13に示した、それぞれ、ステップS1、S3〜S5、S7〜S9の処理と同様である。
【0080】
図23に示すように、本実施形態では、記録開始の指令があると(ステップS102)、ポンプ作動などの一連の液体塗布動作を行う(ステップS103〜S105)。そして、記録媒体の液体塗布が必要な部分に液体を塗布する。
【0081】
この塗布工程の後、必要な部分に塗布液が塗布された記録媒体に対して、記録動作を行う(ステップS106)。すなわち、搬送ローラ4によって所定量ずつ搬送される記録媒体Pに対して記録ヘッド7を走査させ、この走査の間に記録データに応じてノズルからインクを吐出することにより記録媒体にインクを付着させてドットを形成する。この付着するインクは塗布液と反応するため、濃度向上や滲みの防止が可能となる。以上の記録媒体の搬送と記録ヘッドの走査を繰り返すことにより、記録媒体Pに対して記録がなされ、記録を終了した記録媒体は排紙トレイ10上に排紙される。ステップS107で記録が終了したと判断すると、ステップS108以降の処理を行い、本処理を終了する。
【0082】
なお、本実施形態では、記録媒体に対する液体塗布に伴い、その塗布が終了した部分に対して順次記録を行うものである。すなわち、塗布ローラから記録ヘッドへ至る搬送路の長さが記録媒体の長さよりも短く、記録媒体上の液体の塗布がなされた部分が記録ヘッドによる走査領域に至るときに、記録媒体の他の部分に塗布機構によって塗布が行われる形態であり、記録媒体の所定量の搬送ごとに、記録媒体の異なる部分で、順次、液体塗布と記録がなされていく。しかし、本発明の適用する上で、別の形態として、特許文献5に記載されるように、1つの記録媒体に対する塗布が完了してから記録を行うものであってもよい。
【0083】
また、本発明における記録装置においては、液体塗布機構によって、蛍光増白剤を含有する液体を塗布することにより、媒体の白色度を向上させることが可能である。このとき、前記液体b塗布後の記録手段は、インクジェット記録方式に限られず、熱転写方式、電子写真方式などの記録方式でも効果を得ることができる。つまり、インクやトナー等の記録剤を媒体に付与して画像を記録する方式であれば適用可能である。
また、銀塩写真方式の記録装置において、記録前に、感光剤を塗布してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の液体塗布装置に係る実施形態の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した塗布ローラ、カウンターローラおよび液体保持部材などの配置の一例を示す縦断側面図である。
【図3】図1および図2に示した液体保持部材の正面図である。
【図4】図3に示した液体保持部材をA−A線にて切断した端面を示す端面図である。
【図5】図3に示した液体保持部材をB−B線にて切断した端面を示す端面図である。
【図6】図3に示した液体保持部材の平面図である。
【図7】図3に示した液体塗布部材の当接部を液体塗布ローラに当接させた状態を示す左側面図である。
【図8】図3に示した液体塗布部材の当接部を液体塗布ローラに当接させた状態を示す右側面図である。
【図9】本発明の実施形態において、液体保持部材と塗布ローラとによって形成される液体保持空間に塗布液が充填され、塗布ローラの回転により塗布媒体に液体が塗布されている状態を示す縦断断面図である。
【図10】本発明の実施形態において、液体保持部材と塗布ローラとによって形成される液体保持空間に塗布液が充填され、塗布媒体が存在しない状態で塗布ローラを回転させた状態を示す縦断断面図である。
【図11】本発明の実施形態における液体塗布装置の液体流路の概略構成を示す図である。
【図12】本発明の実施形態における制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の実施形態における液体塗布動作シーケンスを示すフローチャートである。
【図14】本発明の実施形態において、液体保持部材内部の液体残りを示す図である。
【図15】本発明の実施形態において、ポンプ内部の液体残りを示す図である。
【図16】本発明の実施形態において、切換弁内部の液体残りを示す図である。
【図17】(A)〜(C)は、本発明の実施形態おいて、回避空間Qの配置場所の一例を示す図である。
【図18】(A)は、本実施形態における回避空間を説明する図であり、(B)は(A)に示した回避空間のC−C断面図である。
【図19】本発明の実施形態におけるポンプの動作を説明する図である。
【図20】本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置の概略構成を示す縦断側面図である。
【図21】図20に示したインクジェット記録装置の要部を示す斜視図である。
【図22】上記インクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図23】本発明の他の実施形態における塗布動作および記録動作のシーケンスを示すフローチャートである。
【図24】本発明の実施形態における三方弁を説明する図である。
【図25】本発明の実施形態における三方弁を説明する図である。
【図26】媒体Pが普通紙である場合における媒体の表面と塗布面での塗布過程を説明する説明図である。
【図27】媒体Pが普通紙である場合における媒体の表面と塗布面での塗布過程を説明する説明図である。
【図28】媒体Pが普通紙である場合における媒体の表面と塗布面での塗布過程を説明する説明図である。
【図29】(A)は、本実施形態における回避空間を説明する図であり、(B)は(A)に示した回避空間のD−D断面図である。
【図30】本発明の実施形態において、硬度の低いチューブが急激に曲がった時の様子を示した図である。
【図31】(A)は。本発明の実施形態において、チューブの曲がりを解消するためにジョイント部品を使用した際の図であり、(B)は、本発明の実施形態において、チューブの曲がりを解消するためにジョイント部品を使用した際の、回避空間の設置場所の一例を示した図である。
【図32】本発明の実施例において、液がたまりやすいように構成した回避空間の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
2001 液体保持部材
2002 空間形成基材
3001 第1流路
3002 第2流路
3003 貯蔵タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接することで形成される液体保持空間に液体を保持するための保持部材とを備え、前記塗布部材の塗布面を回転させることにより、前記保持部材より前記塗布面に供給された液体を前記媒体に塗布する液体塗布装置であって、
前記液体を貯蔵する貯蔵手段と、
前記貯蔵手段と前記保持部材とを連通する第1および第2の流路と、
前記第1および第2の流路、ならびに前記液体保持空間を含む流路において液体の流れを発生させるための液体移動手段とを備え、
前記第1および第2の流路の少なくとも一方は、当該流路の内壁に付着した、前記液体から生成される該液体よりも粘度が高い生成物を、前記液体の流れによって回収するための生成物回収部を含むことを特徴とする液体塗布装置。
【請求項2】
前記生成物回収部は、該生成物回収部が設けられた前記第1および第2の流路の少なくとも一方の、液体が流れる方向に対して垂直な断面の面積よりも大きい、前記方向に対して垂直な断面の面積を有する空間を有することを特徴とする請求項1記載の液体塗布装置。
【請求項3】
前記生成物回収部は、該生成物回収部が設けられた前記第1および第2の流路の少なくとも一方に形成された、前記生成物を回収するための空間を有することを特徴とする請求項1記載の液体塗布装置。
【請求項4】
前記空間は、前記流路の重力方向下の位置に設けられることを特徴とする請求項3記載の液体塗布装置。
【請求項5】
前記生成物回収部は、前記第1および第2の流路の少なくとも一方に複数個設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の液体塗布装置。
【請求項6】
前記第1および第2の流路の少なくとも一部分は、該流路の他の部分よりも低い位置にあり、前記生成物回収部は、前記一部分に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の液体塗布装置。
【請求項7】
媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接することで形成される液体保持空間に液体を保持するための保持部材とを備え、前記塗布部材の塗布面を回転させることにより、前記保持部材より前記塗布面に供給された液体を前記媒体に塗布する液体塗布装置であって、
前記液体を貯蔵する貯蔵手段と、
前記貯蔵手段と前記保持部材とを連通する第1および第2の流路と 前記第1および第2の流路、ならびに前記液体保持空間を含む流路において液体の流れを発生させるための液体移動手段とを備え、
前記第1および第2の流路の少なくとも一方の所定部分における断面積は、前記所定部分以外の部分における断面積よりも大きいことを特徴とする液体塗布装置。
【請求項8】
媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接することで形成される液体保持空間に液体を保持するための保持部材とを備え、前記塗布部材の塗布面を回転させることにより、前記保持部材より前記塗布面に供給された液体を前記媒体に塗布する液体塗布装置であって、
前記液体を貯蔵する貯蔵手段と、
前記貯蔵手段と前記保持部材とを連通する第1および第2の流路とを備え、
前記第1および第2の流路の少なくとも一方は、当該第1および第2の流路の少なくとも一方の内壁に付着した前記液体の高粘度化物を回収するための生成物回収部を含むことを特徴とする液体塗布装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の液体塗布装置と、
前記液体塗布装置により前記液体が塗布された媒体に対して、記録ヘッドからインクを吐出して前記媒体に画像を記録する記録手段と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の液体塗布装置と、
前記液体塗布装置により前記液体が塗布された媒体に対して、記録剤を付与して前記媒体に画像を記録する記録手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項11】
塗布媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接して液体保持空間を形成する保持部材とを備えた液体塗布装置において、前記塗布部材を巡回移動させることにより、前記塗布面に供給された液体を前記塗布媒体に塗布する液体塗布方法であって、
前記保持部材と前記液体を貯蔵する貯蔵手段との間に形成された流路中の前記液体から生成される該液体よりも粘度が高い生成物であって、前記流路の内壁に付着した生成物を所定の場所へ回収するための回収工程を有することを特徴とする塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2006−167556(P2006−167556A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361846(P2004−361846)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】