説明

液体媒体中で安定している重合体フィルムによる基材の被覆

本発明は、基材を重合体フィルムで被覆する方法であって、重合体フィルムを堆積させる前に、ナノ粒子を該被覆すべき基材の表面に静電気的に吸着させる、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体フィルムで基材を被覆する方法、およびその方法により得られる基材に関する。この方法により、液体または蒸気環境中でも、この環境が静止または移動している媒体、例えば液体流中であるか否かに関係なく、安定している重合体フィルムを得ることができる。
【背景技術】
【0002】
重合体フィルムによる表面被覆は、基材を外部媒体から保護するため、およびその表面特性を変えるために、多くの分野で使用されている。
【0003】
例えば、特に基材を重合体フィルムで被覆することにより、耐食性または抗菌性処理を行うことができる。同様に、感応性装置または部品、例えば特にセンサーまたは光学機器、は、保護性重合体フィルムで被覆し、外部媒体から保存すること、および特に引掻き傷または反射から保護することができる。
【0004】
現在、重合体フィルムを堆積させる前に、基材の表面を前処理し、基材上への重合体フィルムの固着および密着性を改良することができる種々の技術が存在する。例えば、水、アルゴンまたは空気雰囲気下で低温プラズマにより前処理し、基材の表面を特に親水性にすることにより、表面を活性化し、続いて所望により気相または液相中で、基材の表面上にシラン基をグラフト化することにより、シラン処理する方法を挙げることができる。
【0005】
しかしながら、これらの技術では、基材表面の物理化学的特性および化学的性質が変化してしまう。
【0006】
さらに、低温プラズマ前処理を実行するには、非常に長い時間を要する場合がおおい。
【0007】
特にシラン処理の場合、基材表面上にグラフト化させるシランの密度および均一性を制御することが困難であり、シランには、かなり腐食作用があるという別の欠点がある。さらに、使用するシランの種類は、重合体の化学的性質に応じて選択することになる。
【0008】
さらに、これらの方法では、特に蒸気または液体環境中で、そして、特に基材が液体媒体中に浸漬されている場合には、基材上への重合体フィルムの良好な密着が常に可能とは限らない。
【0009】
実際、そのような方法は、重合体フィルム−基材界面における微視的欠陥、孔または空隙の形成を阻止できない。したがって、重合体フィルム−基材界面で蒸気または液体の侵入を許し、基材に対する重合体鎖の固着を局所的に不安定にし、長い間に初期の中視的撥水(dewetting)につながり、次いで最終的な重合体フィルムの巨視的剥離を引き起こす。
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明は、基材を重合体フィルムで被覆する新規な方法であって、重合体フィルムを堆積させる前に、ナノ粒子を被覆すべき基材の表面に静電気的に吸着させる、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1aおよび1bは、気相シラン処理を行った基材上に堆積させた重合体フィルムに対する、白色光干渉測定により得た等速次数干渉(F.E.C.O.)法の画像および原子間力顕微鏡検査(AFM)により得た重合体フィルムの構造の画像をそれぞれ示す(例1参照)。
【図2】図2aは、水中に浸漬した同じ基材に対する、白色光干渉測定により得た等速次数干渉(F.E.C.O.)法の画像を示し、図2bおよび2cは、原子間力顕微鏡検査により得た画像(それぞれ構造または相)をそれぞれ示す(例1参照)。
【図3】重合体フィルムを堆積させる前に基材上に吸着させた酸化セリウムのナノ粒子の存在下または非存在下における、得られた重合体フィルムの厚さと溶剤中のPEMA濃度の関係を示す(例1参照)。
【図4】図4A1および4B1は、PPOフィルムで被覆した基材から出発し、該基材を空気中に放置し、原子間力顕微鏡検査により得た画像(それぞれ構造または相)を示す。図4A2および4B2は、それぞれ図4A1および4B1に対応するが、水中に浸漬した場合である(例5参照)。
【図5】図5A1、5B1、5A2および5B2は、図4A1、4B1、4A2および4B2にそれぞれ対応するが、PSフィルムで被覆した基材に関する(例5参照)。
【図6】図6Aおよび6Bは、図4A2および4B2にそれぞれ対応するが、PVPフィルムで被覆した基材に関する(例5参照)。
【図7】図7A1、7B1、7A2および7B2は、図4A1、4B1、4A2および4B2にそれぞれ対応するが、PIフィルムで被覆した基材に関する(例5参照)。
【図8】図8A1、8B1、8A2および8B2は、図4A1、4B1、4A2および4B2にそれぞれ対応するが、PVCフィルムで被覆した基材に関する(例5参照)。
【図9】図9A1、9B1、9A2および9B2は、図4A1、4B1、4A2および4B2にそれぞれ対応するが、PVAcフィルムで被覆した基材に関する(例5参照)。
【図10】図10Aおよび10Bは、図4A2および4B2にそれぞれ対応するが、例6の鋼基材に関する。
【発明の具体的説明】
【0012】
国際公開WO2007/095158号には、反対に帯電した高分子電解質およびナノ粒子の多層を交互に形成し、続いて高分子電解質の中間層を除去し、ナノ粒子だけを保持することにより、クロマトグラフィーに使用する多孔質表面を有する基材の製造方法が記載されている。一方で、この方法は、重合体を除去することを意図しているため、安定した重合体フィルムで基材を被覆することを目的とせず、他方、問題とする基材が、マイクロメートルサイズ、特に1〜250μmである。
【0013】
同様に、国際公開WO99/47253号には、反対に帯電した高分子電解質およびナノ粒子の多層で交互に被覆した粒子の製造が記載されている。しかしながら、この方法は、とりわけ医薬品用のキャリヤーとして作用する「空のシェル」を製造することを目的としており、これらの「シェル」は、基材および所望により高分子電解質層を除去することにより得られる。したがって、上記の公報は、本発明の状況におけるように、基材上に重合体フィルムの安定した堆積物を得ることを目的としていない。さらに、上記公報で使用する基材は、平均直径が15μm未満である。
【0014】
「ナノ粒子」とは、ナノメートルサイズの固体粒子を意味する、すなわち寸法の少なくとも一つ(好ましくは全て)がナノメートルである、すなわち1マイクロメートル未満である、と理解すべきである。
【0015】
「基材」は、特に重合体フィルムで被覆されることを意図している、巨視的サイズの、すなわち基材の寸法の少なくとも一つが1ミリメートルを超え、特に1センチメートルを超え、好ましくは基材の全ての寸法が1ミリメートルを超え、特に1センチメートルを超える固体支持体を意味するものと理解すべきである。
【0016】
例えば、球の場合、直径は1mmを超えていなければならず、平行六面体の場合、少なくとも長さ、幅または高さは、1mmを超えていなければならず、パイプまたは円筒の場合、少なくとも直径または長さは、1mmを超えていなければならない。
【0017】
「高分子電解質」は、本発明では、反復単位が少なくとも一個の電解質基を有し、電解質が、水中に置かれた場合にイオン伝導体である重合体を意味する。極性溶剤、例えば水に入れた溶液中では、高分子電解質が解離し、その骨格上に電荷が現れ、対イオンが溶液中に現れる。高分子電解質は、一組の同一の、または異なった電解質基から構成される。
【0018】
「静電気的に吸着された」とは、ナノ粒子が基材表面に、実質的に静電気的相互作用により付着する、すなわち実質的に共有結合が存在しないことを意味する。簡単にいうと、静電気的相互作用は、反対の電荷間における相互作用であり、特に電荷間の相互作用、多極性相互作用、疎水性相互作用、水素結合、電気的画像(images)、イオン−イオン相互関係またはそれらの組合せでよい。ファンデルワールス相互作用または複合体形成現象も関与し、基材上へのナノ粒子の吸着を補強することができる。
【0019】
実際、外部媒体中の相互作用は、非常に複雑であり、いくつかの現象の組合せの結果として生じる。例えば、液体媒体中に浸漬された材料の界面は、電気的に帯電し、対イオン(界面の電荷の記号と対向する記号の電荷を有するイオン)の分布によるのみならず、共イオン(界面と同じ記号のイオン)の分布によっても取り囲まれている。これらのイオンの、帯電した界面から出発する濃度勾配は、幾つかのパラメータによって異なる。水溶液中では、溶液のpH、イオン力、存在するイオンの原子価、イオンの化学的性質(これはイオンの水和に影響を及ぼすホフマイスター系列)、イオンのサイズ、双極性および多極性相互作用が挙げられるが、これらのイオンの、界面(シュテルン層、拡散電気的層)上への吸着、これらのイオンの水和水と界面の水和水との分配、界面の複合体形成、水素結合、疎水性力の可能性もあり、界面に近い液体フィルムの閉じ込める役割も忘れてはならず、これは、とりわけ、イオン−イオンの位置相関関係(従って、そのイオンが、帯電した界面と同じ記号の電荷を有していても、短い範囲で吸引性になり得る力)も引き起こす。従って、これらの現象の複雑さは、相互作用間の微妙なバランスを造り出すため、溶液中で帯電したナノ粒子は、非常に多様な方法で基材と相互作用し、当業者には非常に詳しく知られている、使用するナノ粒子および特定基材の性質に応じて選択する溶液条件下で吸着される。
【0020】
本発明の方法では、被覆すべき基材表面上へのナノ粒子の吸着により、基材表面の各点における調整された局所的な微小粗さが生じ、微視的レベルで重合体に対する無数の固着点を造り出すものと考えられる。これらの条件下で、重合体フィルムは基材表面と、その形状または構造(topography)に関係なく、完全に噛み合うことができる。例えば、基材は、平坦で湾曲した、または著しい高さの変動がある不規則な幾何学的構造を有するか、または隆起部もしくは中空部が存在することができ、平滑でも粗くてもよく、欠陥があってもよい。多孔質表面を有する基材を被覆することも考えられる。
【0021】
重合体フィルムは、基材に、その表面の各点で完全に密着し、微視的空隙、中空部、孔または欠陥の形成を回避し、従って、静止環境または流体流中にあるか、否かに関係なく、蒸気または液体環境中で安定している。
【0022】
本発明の方法により、液体または蒸気環境中でも安定している重合体フィルムが得られるのは、基材上に重合体フィルムが固着する際の局所的特性が改良されるためであると考えられる。
【0023】
これらの条件下で、フィルムを基材上に固着させるために重合体の化学的特性を修正する必要は無く、この固着は、本来化学的ではなく、実質的に物理的であるので、基材をどのような種類の重合体ででも被覆することができ、重合体の官能的特性を保存することができる。
【0024】
同様に、基材の化学的性質およびその形状は、本発明の方法によっては変化しない。
【0025】
したがって、本発明の方法は、簡単に、低コストで実行するために、あらゆる種類の基材およびあらゆる種類の重合体に適用できる。
【0026】
特に、基材は、特に鋼、ステンレス鋼を含んでなる金属性である被覆すべき表面、金属、例えばアルミニウム、金、銀、鉄、鉛、銅、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、クロム、白金、コバルト、ジルコニウム、モリブデン、スズ、ガリウム、ルテニウム、イットリウムおよびマンガン、合金、例えば黄銅または青銅、またはそれらの混合物、および/または鉱物、特にポゾラナ(pozzolana)、クレー、砂、礫岩、パーライト、バーミキュル石、ミネラルウール、グラファイトまたはアルミノケイ酸塩、例えばマイカ、ケイ素、ガラス、金属酸化物、例えばサファイア、またはそれらの混合物、を含んでなる鉱物、および/または重合体、特にポリテトラフルオロエチレン(テフロンの名称で良く知られている)(PTFE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂またはポリ塩化ビニル(PVC)を含んでなる重合体、および/または有機金属、および/または有機物質、例えばセルロース、木材およびそれらの誘導体、例えば繊維または樹皮、および果実の殻および果皮、例えばココナツシェル、および/またはセラミックを含んでなる被覆すべき表面を含んでなる。
【0027】
特別な実施態様においては、基材は、鋼、ステンレス鋼、金属、例えばアルミニウム、金、銀、鉄、鉛、銅、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、クロム、白金、コバルト、ジルコニウムおよびマンガン、またはそれらの混合物を含んでなる金属、および/または特にアルミノケイ酸塩を含んでなる鉱物、例えばマイカ、ケイ素、ガラス、金属酸化物、例えばサファイア、またはそれらの混合物、である、被覆すべき表面を含んでなることができる。
【0028】
被覆すべき表面は、1mmを超える、とりわけ1cmを超える比表面積を有することができる。この表面は、基材表面の単一区域(区域は所望により有孔である)または、対照的に、幾つかの個別区域の組からなり、従って、基材の特定区域を被覆することができる。
【0029】
本発明の方法は、特に、有孔の、または個別の被覆された表面区域を得るための特定種類の重合体フィルムの堆積において二重に重要であるが、これは、表面上の所望の場所にフィルムを十分に取り付けるとともに、重合体が望ましくない区域に残る重合体残留物を十分に排除することができるためである。
【0030】
例えば、感光性重合体状材料(例えばラテックスコロイド)の堆積に続いて、露光(例えばその材料のスペクトル感度に近い波長を有するレーザーの光、この光が紫外UVにあるか、可視または赤外IRにあるかに関係なく、ラテックスコロイドに、露光された区域で凝集および連続的フィルムの形成を引き起こすことができる)する特別な場合、その露光された区域が、異なった構造(例えば吸着された球形コロイドではなく、連続的なフィルム)、および/または光に露出されなかった区域の特性と異なった物理化学的特性(例えば親水性または疎水性の程度)を獲得することができる。例えば、特に使用するナノ粒子および基材のそれぞれの等電点により支配されるpH洗浄条件の選択により、この文書の他の所に記載する他の基準に加えて、好ましくない区域(例えば露光しなかった区域)における重合体状材料の脱着を促進し、その結果、これらの区域にある重合体残留物が効果的に除去されるのに対し、同じ材料が、所望の区域では付着したまま止まることができ、その材料の基材に対する密着性が結果的にさらに補強される。従って、本発明は、2つの区域(露光された区域および露光されなかった区域)に同時に作用することにより、コントラストを二重に補強するが、これは、本発明により、基材上に水性および/または有機溶液中で安定している、異なった構造単位および/または物理化学的特性を有する被覆が形成され、その被覆の、基材上のサイズおよび空間的配分が制御されることにより、拮抗効果が強化されるためである。そのような、「パターン」を有するフィルムを形成できる製法は、印刷分野または生物医学分野で有利に使用し、特に「ラボ オン チップ」を創出することができる。
【0031】
本発明の特別な実施態様においては、基材表面は高分子電解質を含まない。
【0032】
基材は、どのような形状でも有することができ、特に平らな、またはリング、ファイバー、中空チューブ、ロッド、シリンダー、球または多角形のような形状にある、被覆すべき表面を有することができ、その形状は、規則的または不規則的、中空であるか、または突起もしくは隆起部を有するか、凹状または凸状でよい。
【0033】
特に、基材は、光学機器、例えば鏡、レンズまたは減衰器、もしくはセンサー、例えばバイオセンサーまたは有機電界効果トランジスタでよい。基材は、パイプ、特に金属製、例えば鋼またはアルミニウム製のパイプ、もしくは板またはシリンダー、特に印刷に使用する板またはシリンダーでもよい。
【0034】
「減衰器」は、光を部分的に吸収できる装置を意味する。
【0035】
「センサー」は、気相または液相中にある分子(被分析物)、例えば毒性であることがある金属イオン、血液中の、特に糖尿病患者に対する、糖、タンパク質、DNAストランド、または対人地雷を検出する状況におけるトリニトロトルエン(TNT)、を検出または検定することができる装置を意味する。
【0036】
これらのセンサーの効能は、一般的にセンサーを部分的に覆い、センサーを、特に被分析物との化学的親和力により、被分析物を検出できるようにする、重合体フィルムの毒性に基づいている。
【0037】
従って、蒸気または液体媒体中でも長期間にわたって安定している重合体フィルムを堆積させることができ、例えば化学的処理によりフィルムの物理化学的特性が変化しないことが重要である。
【0038】
センサーとしては、特にバイオセンサーおよび有機電界効果トランジスタを挙げることができる。
【0039】
「バイオセンサー」は、生物学的分子、例えばDNA、RNA、タンパク質または糖、を検出できるセンサーを意味する。
【0040】
「有機電界効果トランジスタ」は、金属電極、酸化シリコンまたは絶縁性プラスチック系でよい絶縁層、および2個の金属電極間に挟まれた有機半導体層(共役重合体)を順に含んでなる装置を意味する。
【0041】
そのようなセンサーの操作様式は、検定すべき被分析物の存在下における電気的特性の変化に基づいている。これらの装置が直面する大きな問題は、水性媒体中で使用するのが困難なことであり、これは、重合体フィルムの剥離によるところが大きい。
【0042】
従って、そのような問題は、本発明により解決され、溶液中ある被分析物でも検出することができる。
【0043】
本発明の方法で使用するナノ粒子の平均サイズは、1〜200nmであるのが有利であり、特に2〜200nm、好ましくは3〜50nm、より好ましくは3〜20nmである。これらのナノ粒子は、特に実質的な球形(この場合、ナノ粒子のサイズは、その直径に相当する)でよく、特に結晶性および/または無定形面を有することができる。
【0044】
ナノ粒子は、ナノチューブでもよい。この場合、ナノ粒子の上に規定するサイズは、ナノチューブの内径に相当し、ナノチューブは、長さが少なくとも200nm〜1cmでよく、200nm〜1mmが有利であり、好ましくは200nm〜1μmである。これらのナノチューブは、それらの、機械的強度を補強することができる機械的特性(繊維、複合材料、薄膜)、導電性または半導電性、電界効果透過特性、例えば超高速光学系における光学的特性、メンブラン、濾過としての気体または液体分子、イオンの偏析、に関して重要である。
【0045】
ナノ粒子は、炭素、特にカーボンブラックまたはグラファイト、を基材とするナノ粒子、および/またはケイ素を基材とするナノ粒子、および/または金属、例えばアルミニウム、銀、カドミウム、セリウム、クロム、コバルト、銅、スズ、鉄、ガリウム、マンガン、ニッケル、金、パラジウム、白金、鉛、ルテニウム、セレン、硫黄、チタン、トリウム、タングステン、イットリウム、亜鉛、ジルコニウム、およびそれらの混合物および合金を基材とするナノ粒子、および/または鉱物、特に金属、酸化物、水酸化物または炭酸塩、例えば酸化セリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、例えばシリカ、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭酸イットリウム、酸化鉄、酸化金、酸化銀、酸化パラジウム、酸化硫黄、酸化セレン、酸化カドミウム、酸化トリウムまたは酸化クロム、を基材とするナノ粒子、有機金属ナノ粒子、重合体ナノ粒子、例えば天然または合成ラテックスの、配位重合体、例えばプルシアンブルー等の、またはバイオポリマー、例えばキチン、のナノ粒子、セラミック、例えば窒化ケイ素、を基材とするナノ粒子、クレー、例えばスメクタイト、カオリン、イライト、クロライトまたはアタパルジャイト、を基材とするナノ粒子、および/またはハイブリッドおよび/または官能化ナノチューブでよいナノチューブ、を基材とする、特に炭素、窒化ホウ素、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化銅、塩化ニッケル、塩化カドミウムまたはヨウ化カドミウム、を基材とするナノ粒子、から選択することができる。
【0046】
従って、これらのナノ粒子は、顔料、例えば特に透明重合体フィルムを堆積させる場合に重要な場合がある、金属酸化物(例えば酸化チタン)のナノ粒子または有機もしくは有機金属ナノ粒子としての役割も果たすことができる。
【0047】
特別な実施態様では、ナノ粒子は、鉱物酸化物、例えば酸化セリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムまたは酸化クロム、のナノ粒子、および重合体ナノ粒子から選択することができる。
【0048】
「重合体ナノ粒子」は、重合体、例えば天然または合成ラテックスからなるナノ粒子を意味する。
【0049】
ナノ粒子は、鉱物、特に金属、酸化物、水酸化物または炭素、例えば酸化セリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭酸イットリウム、酸化鉄、酸化金、酸化銀、酸化パラジウム、酸化硫黄、酸化セレン、酸化カドミウム、酸化トリウムまたは酸化クロム、を基材とするナノ粒子から選択するのが有利である。
【0050】
また、ナノ粒子は、鉱物酸化物のナノ粒子、例えば酸化セリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、例えばシリカ、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムまたは酸化クロムであり、とりわけ酸化セリウムまたはシリカのナノ粒子であるのが有利であり、酸化セリウムが有利である。
【0051】
好ましくは、ナノ粒子は実質的に球形である。
【0052】
ナノ粒子は、被覆すべき基材表面の少なくとも2%、好ましくは5〜70%、好ましくは20〜40%、より好ましくは約30%を被覆するのが有利である。
【0053】
この、ナノ粒子による基材の被覆程度は、特に下記の2通りの方法により測定することができる、すなわち
1.原子間力画像形成により、基材表面を走査してナノ粒子を可視化し、ナノ粒子を画像解方法を使用して計数する、または
2.表面力を測定する装置を使用し、基材上に吸着されたナノの層の屈折率を測定する。ある体積のナノ粒子の屈折率が既知である(例えばdn/dc増分変化量、すなわちナノ粒子の体積濃度変化の関数としての屈折率の変化、を測定することにより)ので、被覆の程度がそこから推定される。
【0054】
これらの2通りの方法は、同等の結果を与え、被覆程度に関して2通りの異なった測定を行うことにより、得られた結果を確認することができる。
【0055】
好ましい実施態様では、ナノ粒子を溶剤に入れた分散液中、好ましくは水溶液中に基材を浸漬するか、またはナノ粒子を被覆すべき基材の自由表面上に噴霧してナノ粒子を吸着させ、好ましくは続いて基材の洗浄工程および乾燥工程を行う。
【0056】
ナノ粒子の吸着を浸漬により行う場合、基材の浸漬時間は、10秒間〜10時間が有利であり、好ましくは1分間〜1時間、より好ましくは1〜10分間である。
【0057】
水溶液中で、ナノ粒子は帯電し、従って、やはり水溶液中で帯電している被覆すべき基材表面に静電気的に、および不可逆的に密着する。従って、使用するナノ粒子の選択は、基材の種類およびその、溶液中での電気的挙動によって異なる。上に説明したように、この選択は、関与する様々な相互作用によって異なり、特に基材表面の等電点によって異なる。
【0058】
ナノ粒子の、懸濁液とも呼ばれる分散液は、コロイド状分散液または懸濁液と呼ばれることも多い。
【0059】
さらに、本発明で使用する重合体の性質は、ほとんど影響を及ぼさない。従って、どのような種類の重合体でも、本発明の基材表面を被覆するのに使用することができる。従って、堆積させた後、重合体は結晶性でも無定形でもよい。
【0060】
無論、使用する重合体の融点は、基材上に堆積させた後、該重合体が位置する環境の温度より低い必要がある。同様に、重合体が液体媒体中にある場合、その媒体は、該重合体の溶解を避けるために、該溶剤に対して溶剤であってはならない。
【0061】
特に、重合体は、熱可塑性重合体、例えばポリメタクリレート、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)またはポリエチルメタクリレート(PEMA)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリプロピレンまたはポリ塩化ビニル(PVC)、熱硬化性重合体、例えばエポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリイミドまたはポリジクロロペンタジエン(PDCPD)、エラストマー、例えばシリコーン、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリウレタン、ポリイソブチレン、ポリクロロプレン(PCP)、ポリブタジエンまたはポリイソプレン(PI)、天然重合体、例えばセルロース、ラテックスまたはデンプン、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、陽イオン系高分子電解質、例えばポリ−L−リシン(PLL)またはポリアリルアミン(PAH)、陰イオン系高分子電解質、例えばポリ−L−グルタミン酸(PGA)またはポリスチレンスルホネート(PSS)、ポリケトン、例えばポリ(アリールエーテルケトン)、ポリアミド、例えばポリアラミド、ポリアクリロニトリル、ポリシアノアクリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアセテート(PVAまたはPVAc)、架橋した、分岐した、または星型重合体、共重合体、およびデンドリマーから選択することができる。
【0062】
使用する重合体は、特に、フルオロ重合体またはフルオロ共重合体、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロプロピレン、ポリ(ヘプタフルオロブチルアセテート)、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデンとペルフルオロプロペンの共重合体、ポリ(2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロペンタンジオールとアジピン酸のエステル)、または3,3,3−トリフルオロプロピルメチルシリコーンでよい。
【0063】
使用する重合体は、上記の様々な重合体の混合物でもよい。
【0064】
好ましくは、重合体は、熱可塑性重合体、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)またはポリエチルメタクリレート(PEMA)、陽イオン系高分子電解質、例えばポリ−L−リシン(PLL)またはポリアリルアミン(PAH)、および陰イオン系高分子電解質、例えばポリ−L−グルタミン酸(PGA)またはポリスチレンスルホネート(PSS)、から選択することができる。
【0065】
本発明の特別な態様では、重合体は、上に規定する高分子電解質ではない。
【0066】
さらに、本発明の方法により、厚さを大きく変えることができる重合体フィルム、特に非常に薄いフィルムを、ただし基材の表面全体にわたって重合体フィルムの厚さが著しく変動しないように、堆積させることができる。
【0067】
特に、重合体フィルムの厚さは、20nm〜100μm、好ましくは50nm〜100μmでよい。
【0068】
同様に、被覆された基材の表面全体にわたる重合体フィルムの厚さ変動は、10nm未満が有利であり、好ましくは5nm未満、より好ましくは1nm未満である。
【0069】
堆積させた重合体フィルムの厚さは、白色光干渉測定法(等速次数干渉)(fringes of equal chromatic order)により測定する。従って、この技術の分解能により、0.2nmの精度で測定できるので、基材上のフィルムの局所的厚さ変動およびその構造を容易に明らかにすることができる。
【0070】
光学的に不透明の基材および/または厚さの測定精度があまり厳密ではない用途には、他の技術(例えば輪郭測定、引掻き傷形成後のAFM画像形成、楕円偏光測定、電子またはX線顕微鏡)も考えられる。
【0071】
その上、重合体フィルムは、ナノメートルサイズまたは場合によりマイクロメートルサイズの金属または重合体粒子を含んでなることもできる。重合体フィルム中に上記のナノ粒子、顔料またはナノチューブを配合することも考えられる。
【0072】
「金属粒子」は、ナノメートルサイズ、または場合によりマイクロメートルサイズの、金属、例えばアルミニウム、銀、カドミウム、セリウム、クロム、コバルト、銅、スズ、鉄、ガリウム、マンガン、ニッケル、金、パラジウム、白金、鉛、ルテニウム、セレン、硫黄、チタン、トリウム、タングステン、イットリウム、亜鉛、ジルコニウム、およびそれらの酸化物、それらの水酸化物、それらの炭酸塩、およびそれらの混合物および合金、を含んでなる固体粒子を意味する。
【0073】
「重合体粒子」は、ナノメートルサイズ、または場合によりマイクロメートルサイズの、一種以上の天然または合成重合体を含んでなる固体粒子を意味する。特に、所望により二ブロック共重合体で安定化させたラテックス粒子が挙げられる。この場合、共重合体により、重合体フィルム中におけるナノ粒子の凝集を回避することができ、一部(またはブロック)を構成する共重合体が、ナノ粒子に対して大きな親和力を有し、他の部分(またはブロック)がフィルムの重合体に対して大きな親和力を有する。
【0074】
「ナノメートルサイズ」は、粒子の平均直径が1ミクロン未満であることを意味する。従って、ナノ粒子は、粒子直径が1nm〜1μm、特に2〜200nm、好ましくは3〜50nm、より好ましくは3〜20nmである。
【0075】
「マイクロメートルサイズ」は、粒子の平均直径が1μm〜50μm、好ましくは1μm〜10μmである。
【0076】
好ましくは、重合体フィルム中に配合する粒子は、ナノメートルサイズを有する。
【0077】
重合体フィルム中に金属粒子を配合することにより、特に絶縁性フィルム中に導電性または磁性の粒子を導入し、それによって、マイクロメートル尺度の導電性または磁性線の追跡もしくは光学的保存が可能になる。
【0078】
同様に、重合体粒子、例えばラテックス粒子、を重合体フィルム中に取り入れることにより、かなり軟質の粒子を硬質フィルム中に導入し、衝撃吸収を促進することができる。
【0079】
最後に、一般的に、重合体フィルム中に粒子を導入することにより、重合体フィルムの機械的特性(例えば剛性、耐摩耗性、耐引掻き性、摩耗抵抗)およびその光学的特性(透明性、着色、反射防止、光学的保存、レーダーによる検出を阻止する用途で、保護された表面を不可視にするための電磁放射線の吸収)、その電気的特性(導電性、半導電性、または絶縁性)、またはその磁気特性を修正することができる。
【0080】
重合体フィルムは、重合体フィルムを堆積させるための当業者には良く知られている従来方法により、溶融形態にある重合体から出発するか、または重合体を、当業者が容易に確認できる好適な溶剤に入れた溶液から出発して、堆積させることができる。
【0081】
特に、遠心法(従来、「スピンコーティング」と呼ばれている)による堆積、浸漬による堆積(従来、「ディップ−コーティング」と呼ばれている)、滴による堆積(従来、「キャスティング」と呼ばれている)、薄層流による堆積スプレーによる堆積(従来、「アエロスプレー」と呼ばれている)を挙げることができる。
【0082】
特別な実施態様では、本発明の方法は、重合体フィルムを堆積させる前に、基材上への重合体フィルムの密着性を改良するための、被覆すべき基材表面を処理する追加工程、例えばシラン処理による、低温プラズマによる、またはオゾン下で紫外光による処理、を含んでなることができる。
【0083】
これらの様々な表面処理技術により、基材表面上に特定数の化学基、例えば基材上への重合体の密着性を促進する水酸基またはシラン官能基を包含する鎖、をグラフト化することができる。
【0084】
従って、被覆すべき基材表面の前処理を行うことにより、この表面上へのナノ粒子の吸着に加えて、重合体フィルムの基材に対する密着性がさらに改良される。
【0085】
別の特別な実施態様では、本発明の方法が、重合体フィルムを堆積させた後の追加の処理工程、特に熱処理、例えば重合体のガラス転移温度を超える温度における重合体フィルムの後硬化、を含んでなることができる。
【0086】
この後硬化工程により、特に残留する痕跡量の溶剤を全て除去することができる。
【0087】
本方法は、耐食性および/または抗菌性表面処理、および/または高分子電解質多層の形成、および/または接着剤結合に、および特に耐食性および/または抗菌性処理および/または接着剤結合に使用するのが有利である。
【0088】
本発明は、上に記載する本発明の方法により得られる重合体フィルムで被覆した基材にも関する。
【0089】
本発明の基材は、有利なことに、本発明の方法により重合体フィルムが化学的および構造的に均質であるのが特徴である。
【0090】
同様に、本発明の方法により得られる基材と重合体フィルムとの間の界面は、微視的空隙、孔または欠陥が実質的に無く、従って、先行技術の方法で直面するする剥離現象を回避することができる。
【実施例】
【0091】
下記の例により、本発明を例示するが、これらの例のみに限定されるものではない。
【0092】
例1
基材:マイカマスコバイト(アルミノケイ酸塩)から製造された、曲率半径約2cmの半円筒
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)。
ナノ粒子:酸化セリウム。
【0093】
この基材は、下記の特性を有するので、液体媒体中で安定している重合体フィルムで被覆するのが困難であるために選択した。
・化学的に不活性であるために、従来方法、例えば所望によりプラズマおよび/またはシラン処理により前処理した重合体の単純な堆積、による重合体巨大分子の固着が不可能である。
・親水性が強いために、疎水性重合体と非相容性であり、撥水および剥離が促進される。
−原子レベルにおける粗さが不足しているために、重合体フィルムの固着がより困難になり、空隙の形成が促進される。
・湾曲した幾何学的構造のために、基材の凸構造または凹構造とフィルムを完全に噛み合わせるのが困難である。
【0094】
1.重合体フィルムの堆積
基材表面にナノ粒子を予め堆積させることの有益性を立証するために、重合体フィルムを下記のように、すなわち
(1)基材上に直接、または
(2)表面をシラン処理(基材表面上に化学基をグラフト化させることにより、重合体フィルムの固着を改良するための、従来使用されている技術)により処理した後の基材上に、または
(3)その表面上にナノ粒子を堆積させた後の基材上に(本発明の方法)
堆積させた。
【0095】
これらの場合のそれぞれで、重合体フィルムを、遠心法により堆積させたが、この技術は「スピンコーティング」の用語で良く知られている。
【0096】
この技術では、重合体を溶剤に入れた溶液の一滴を、スピンコーターのプレート上に吸引(真空)により保持した基材の中央に載せる。次いで、この系に強い瞬間的な加速を作用させる(高速度で回転させることにより)ことにより、滴が平らになり、基材表面全体にわたって配分される。次いで、一定速度の回転で溶剤を蒸発させる事により、フィルムを乾燥させる。
【0097】
これらのフィルムは、屑や粉塵による表面の汚染を最大限に回避するために、クリーンルーム中で水平薄層状空気流フード上に配置したGyrset RC 05スピンコーター(Suss Microtech)により堆積させた。
【0098】
これらの清浄性に関する対策は、大きな清浄状態を必要とする重合体フィルムの分析に使用する実験技術を考えて行ったが、重合体フィルムで被覆した基材の意図する将来の用途に応じて、あまり厳格ではない条件も適用できよう。
【0099】
スピンコーターに関して、使用したパラメータは、
加速2500rpm−1/s−1、および
回転速度2500rpmで60秒間
であった。
【0100】
重合体溶液の溶剤はトルエンである。
【0101】
「スピンコーティング」の後に得られるフィルムの後硬化は、PEMAのガラス転移温度が63℃であるので、73℃で、予め加熱した動的真空加熱炉中で25分間行った。この後硬化により、残留する痕跡量の溶剤を全て除去できるが、これが不可欠という訳ではない。
【0102】
こうして得られた重合体フィルムの厚さは、PEMAの濃度に比例して増加する(本願で研究した最高濃度30g/l−1まで)。
【0103】
2.基材表面のシラン処理
ケース(2)で、重合体フィルムを堆積させる前に、基材表面を気相シラン処理により前処理した。
【0104】
この技術により、カップリング剤として作用し、基材に対するフィルムの密着性を増加する化学基(シラン基)を基材表面上にグラフト化させることができる。
【0105】
新たに剥がしたマイカ基材を水プラズマ反応器のチャンバー中に入れ、マイカ表面上にOH結合を形成することにより、表面を活性化する。プラズマ処理は、出力15W、圧力8000Paで200秒行う。次いで、マイカ基材を真空ガラス鐘中に入れ、アルゴン雰囲気下でグローブボックスに移し、(3−(アミノプロピル)トリエトキシシラン)を使用し、気相シラン処理を12時間行う。マイカ基材を再度ガラス鐘に移し、酸素との接触を一切回避し、重合体フィルムを上記のように堆積させる。
【0106】
3.ナノ粒子吸着による基材表面の処理
ケース(3)で、本発明により酸化セリウムのナノ粒子を基材表面上に吸着させる。
【0107】
粉末形態にあり、化学式CeO(HNO0.5(HO)の酸化セリウムを濃度20g/−1l(体積画分0.003)で脱イオン水中に溶解させる。これによって、pHが、酸化セリウムのナノ粒子の2(Spallaら coli., J. of colloid and interface science 1997, 192, 43−65)に等しい安定したコロイド状溶液が得られる。これらのナノ粒子は、正に帯電しており、平均直径が5nmである。
【0108】
マイカマスコバイトは、それ自体、水溶液中では負に帯電している。
【0109】
従って、新たに剥がした被覆すべきマイカ表面を、この、酸化セリウムナノ粒子の溶液中に3分間浸漬し、これによって、静電気的相互作用のために、基材表面上にナノ粒子が不可逆的に吸着される。3分後、マイカ表面をすすぎ、放置して乾燥させる。ナノ粒子で被覆された基材の表面積は約30%である。
【0110】
ナノ粒子が不可逆的に吸着され、基材表面が乾燥した後、上記の方法により重合体フィルムを堆積させる。
【0111】
4.液体媒体中の安定性試験
ケース(1)
PEMAフィルムで直接被覆した基材(1)を水中に浸漬すると、PEMAフィルムが直ちにマイカ表面から完全に剥離される。この現象は、堆積したフィルムの厚さ(200nm〜数ミクロン)に無関係である。
【0112】
同じ結果が、重合体フィルムを「キャスティング」により堆積、すなわち重合体溶液の滴をマイカ上に置き、次いで調整した溶剤雰囲気下、開放された空気中で乾燥させることにより堆積させた場合に観察される。
【0113】
従って、この場合に直面する、基材上へのフィルムの密着性に関する問題は、重合体フィルムの堆積に使用する技術によるものではない。
【0114】
ケース(2)
被覆すべき基材表面をシラン処理により前処理する場合、基材(2)上に堆積させたPEMAフィルムは、基材を水中に浸漬しても、目に見える剥離を示さない。
【0115】
しかし、白色光干渉測定(Surface Force Apparatus, SFA)により、および原子間力画像形成(AFM)により、構造に関してフィルムの検査を行った。結果を図1aおよび1bにそれぞれ示す。
【0116】
白色光干渉測定により得た等速次数干渉(F.E.C.O.)画像は、干渉縞に沿って変調の存在を示す(図1a)。これは、マイカ/PEMAフィルム界面における(約1マイクロメートル以下の)微視的サイズの空隙が存在し、その中に水溶液が侵入し、これによって、フィルム上に小さな波を形成していることを示している。
【0117】
同様に、図1bで観察される「小さな波」は、マイカ/PEMA界面に空隙が存在し、その中に水が侵入していることを示す。
【0118】
これらの微視的空隙の存在が、重合体フィルムの剥離を促進する。
【0119】
同じ結果が、同じシラン化合物を使用し、シラン処理を液相(エタノール)中で行った場合に得られている。
【0120】
従って、これは、シラン処理により形成される固着点の数、すなわち基材表面上のシラン基の密度が、良好な固着、従って、基材上への重合体フィルムの良好な密着を可能にするには不十分であることを示している。
【0121】
ケース(3)
基材(3)を水中に浸漬した場合、PEMAフィルムは、基材上に完全に固着したままであり、水溶液中で少なくとも数週間安定している。
【0122】
白色光干渉測定により得られるF.E.C.O.(図2a参照)は、重合体フィルムの堆積前にシラン処理を行った基材(2)で得た結果と対照的に、完全に平滑で、一様であり、厚さの変動を示さず、小さな波を含まないことを示している。従って、これは、基材と重合体フィルムとの間に微視的空隙の形成が全く無く、重合体フィルム中に欠陥または孔が存在しないことを示している。
【0123】
原子間力顕微鏡検査(AFM)により得た画像は、図2bおよび2cに示す(図2bは構造であり、図2cは相である)。
【0124】
従って、PEMAフィルムの平均粗さは、400μmの区域全体にわたって約0.5nmである(図2b)。相で得た画像は、この重合体フィルムが、表面全体にわたって完全に均質であることをさらに示している。
【0125】
同じ結果が、基材を脱イオン水、塩水または界面活性剤の存在中に、10日間より長い期間浸漬した後にも得られているが、これらの様々な条件は重合体フィルムの剥離を促進する。
【0126】
従って、基材上にナノ粒子を吸着させることにより、重合体フィルムをナノ粒子間に固着させ、これによって、基材を水溶液中に長期間浸漬した後でも、フィルムを基材上に完全に密着させることができると考えられる。
【0127】
また、ナノ粒子の存在は、PEMAフィルムの粗さに影響を及ぼさず、その粗さは、表面積400μmの区域全体にわたって約0.5nmであることも分かる。
【0128】
すでに上に述べたように、フィルムの厚さは、PEMA濃度に比例して増加する。しかし、得られる重合体フィルムの最終的な厚さは、実際、基材上に吸着されたナノ粒子が存在する場合に、ナノ粒子が存在しない場合よりも小さい(図3)。
【0129】
これは、ナノ粒子の近くに位置する重合体だけが付着し、残りは「スピンコーティング」の際に退けられるという事実により、説明することができる。これは、より優れ密着性があり、基材に近い鎖の全てが固着点を提供する理由も説明している。従って、得られるフィルムは、これらの固着点が存在しない場合よりも、薄くなる。
【0130】
液体環境中で安定している、非常に薄いフィルム(厚さが約数回転半径である)を得ることができる。例えば、濃度25mg/ml−1で、厚さ67nmのフィルムを得ることができる。厚さ23nmのフィルムも堆積させることができる。
【0131】
その上、PEMA表面上にある水の前進接触角(76±1°)と後退接触角(63±1°)との間の低いヒステリシスは、構造的および化学的の両方で、表面の非常に高い微視的均質性を立証している。
【0132】
例2
基材:ガラス
重合体:PEMAまたはPMMA(ポリメチルメタクリレート)もしくはPS(ポリスチレン)
ナノ粒子:酸化セリウム
【0133】
PEMA、PMMAまたはPSの重合体フィルムの、基材としてのガラス上への本発明による堆積は、基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0134】
この堆積は、ディップ−コーティング、すなわち、重合体のトルエン溶液中に基材を浸すことによっても、行った。
【0135】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムがガラスに完全に密着していることが示された。
【0136】
例3
基材:金
重合体:PEMAまたはPMMAもしくはPS
ナノ粒子:酸化セリウム
【0137】
PEMA、PMMAまたはPSの重合体フィルムの、基材としての金上への本発明による堆積は、基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0138】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0139】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムが金に完全に密着していることが示された。
【0140】
例4
基材:ケイ素
重合体:PEMAまたはPMMAもしくはPS
ナノ粒子 酸化セリウム
【0141】
PEMA、PMMAまたはPSの重合体フィルムの、基材としてのケイ素上への本発明による堆積は、基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0142】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0143】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムがケイ素に完全に密着していることが示された。
【0144】
例5
基材:マイカマスコバイト
重合体:ポリフェニレンオキシド(PPO)またはポリスチレン(PS)またはポリビニルピロリドン(PVP)またはポリイソプレン(PI)またはポリ塩化ビニル(PVC)またはポリビニルアセテート(PVAc)
ナノ粒子:酸化セリウム
【0145】
PPO、PS、PVP、PI、PVCまたはPVAcの重合体フィルムの、基材としてのマイカ上への本発明による堆積は、基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0146】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0147】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムがマイカに完全に密着していることが示された。
【0148】
得られた結果を図4(PPO)、5(PS)、6(PVP)、7(PI)、8(PVC)および9(PVAc)に示す。
【0149】
平均粗さも、図4〜9に示す構造画像に基づいて計算し、下記の結果を得た。
【0150】
【表1】

【0151】
例6
基材:ステンレス鋼
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:酸化セリウム
【0152】
PEMA重合体フィルムの、基材としてのステンレス鋼上への本発明による堆積は、基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0153】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0154】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムがステンレス鋼に完全に密着していることが示された。
【0155】
こうして、鋼表面の高度の粗さが、基材に対する重合体フィルムの密着性に対して障害にならないことが分かった。実際、頂上の高さが1マイクロメートルを超える隆起部を含んでなる区域は、本発明の重合体フィルムにより覆われ、基材を水性媒体中に浸漬しても、フィルムの剥離現象が起きない。液体中タッピングモードAFMにより得た画像(図10Aの構造、図10Bの相)は、基材が重合体フィルムにより均質に被覆され、重合体フィルムは、水性媒体中に浸漬した時に、少なくとも数週間安定していることを示している。構造画像(図10A)に基づく粗さの解析から、ピークからピークへの粗さが264nmであり、平均粗さが試験した区域(20x20μm)全体にわたって30nmであることが分かる。
【0156】
例7
基材:黄銅
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:シリカ
【0157】
PEMA重合体フィルムの、基材としての黄銅上への本発明による堆積は、基材上に直径40nmの乾式シリカ(市販シリカ)のナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0158】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0159】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムが黄銅に完全に密着していることが示された。
【0160】
例8
基材:銅
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:シリカ
【0161】
PEMA重合体フィルムの、基材としての銅上への本発明による堆積は、基材上に直径40nmの乾式シリカのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0162】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0163】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムが銅に完全に密着していることが示された。
【0164】
例9
基材:アルミニウム
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:シリカ
【0165】
PEMA重合体フィルムの、基材としてのアルミニウム上への本発明による堆積は、基材上に直径40nmの乾式シリカのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0166】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0167】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムがアルミニウムに完全に密着していることが示された。
【0168】
例10
基材:ガラス、鋼
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:酸化セリウム
条件:水中に浸漬した基材にせん断応力を作用させる。
【0169】
PEMA重合体フィルムの、基材としてのガラスまたは鋼上への本発明による堆積は、基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0170】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても行った。
【0171】
基材の、これらの重合体フィルムによる被覆の安定性を、流動している流体の存在下で確認した。この特性は、被覆された基材が液体環境中(移動現象が実質的に拡散である「静止」状況)にあるのみならず、流体が移動しており(流動状態)、対流および乱流の現象が支配的になり、基材と液体媒体との間に著しい表面力およびせん断応力が作用する、全ての工業的用途に非常に重要である。
【0172】
この実験の目的は、本発明により製造した重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した基材に対する、応力−せん断応力−が基材に作用した時の密着性を試験することである。加えられた応力値を、工業的に起こり得る値に関連させた。例えば、内壁が本発明の重合体フィルムで被覆されているパイプ中の流れを考える場合、壁上に作用する粘性応力は、
σ=ηγ
(式中、
σ=粘性応力
η=液体の粘度(水の場合、10−3 kg/m.s)
γ=せん断率、v/dとして推定され、vはパイプ中の流体の平均速度を、dはパイプの直径を表す。)である。
【0173】
従って、10m/sで流れている水性流体では、粘性応力は、
σ=直径10cmのパイプでは0.1Paであり、
σ=直径1mのパイプでは0.01Paである。
【0174】
現実には、上記の式は、大きな直径を有するパイプ中の流れに直接適用することはできない。というのは、慣性の影響が全体的に支配するとしても、パイプの壁におけるのと対照的に、粘性の影響が、おおよそ、
【数1】

(式中、ρは流体の密度を表す)
の厚さを有する境界層で支配的になり、従って、せん断率の表現に含まれる特徴的な長さは、最早パイプの長さではなく、境界層の厚さ:
【数2】

である。
【0175】
従って、10m/sで流れている水性流体では、粘性応力は、
σ=直径1mのパイプで30Paである。
【0176】
使用する実験技術により、基材を覆うフィルムの界面に作用するそのような粘性応力を模擬することができる。例えば、水性フィルムを、本発明(基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後の、例1と同じ条件)によりPEMAで被覆したガラス板と、振幅および周波数を変えられる振動する圧電気結晶によって正弦波運動で平行に移動する別の表面との間に閉じ込める。水フィルムの閉じ込めは、顕微鏡下で、球−平面幾何学的構造にある干渉測定により、制御し、その際、閉じ込めている、振動する表面は、振動する圧電気結晶に接続された直径25mmのガラス製レンズである。上から見た視野で観察されるNewtonリングにより、閉じ込められた液体フィルムの厚さを計算することができる。閉じ込めを徐々に増加し、常に増加する粘性応力を、重合体フィルムと水溶液の界面に作用させる。球形レンズの大きな曲率半径(50mm)は、使用する閉じ込め厚さより少なくとも1000倍大きい(数マイクロメートル〜50μm)ので、流体の局所的流れは、2つの平らな表面間の流れに等しいことに注意すべきである。
【0177】
実験中に、せん断応力下で、基材を被覆する重合体フィルムの安定性を監視し、すでに上に記載した(一般的な説明および他の詳細に説明する例参照)技術により確認する。
【0178】
せん断応力を、50〜1000μm範囲の横方向振動振幅で8Hzの周波数まで作用させた。
χ=asinωt
(式中、aは振幅(例えばa〜1000μm)であり、ωは脈動である)
に従う正弦波移動応力、および瞬間的速度:
ν=aωcosωt
で、重合体/水におけるせん断率は約
【数3】

であり、これは、表面間の分離17μmに対して3Paおよび10倍大きい閉じ込めに対して30Paの粘性応力、すなわち、上記の工業的サイズのパイプにおける速い流れの際に壁に作用する粘性応力と同じ等級、を与える。我々の方法は、重合体フィルムで被覆された基材が、長期間のせん断応力に対しても変化せず(フィルム上に欠陥が現れず、被覆の剥離または剥がれが認められない)、従って、安定したままである。
【0179】
同じ実験を、ステンレス鋼から製造された基材上の同じ重合体被覆に行った。基材と振動する閉じ込め表面との間の分離の測定は、鋼基材の光学的不透明性のためにあまり精確ではないが、同じ重合体フィルムで被覆したガラス基材を使用する実験の設定に基づいて推定した。これに関しても同様に、せん断応力下の被覆の安定性が観察された。
【0180】
重合体フィルムに作用する粘性応力を2または3等級増加するために、グリセロール(20℃における粘度1.49Pa・s)の存在下でも同じ実験を行った。結果は、重合体フィルムで被覆された基材は、長期間のせん断応力(数時間)に対しても、被覆の剥離または剥がれ、もしくは顕微鏡レベルにおける欠陥の発生が全く無く、完全に被覆されたままであることを示している。
【0181】
これらの結果により、本発明の方法により堆積させた重合体フィルムは、運動している非静止流体環境中でも安定しており、振動するせん断応力は、パイプ中を流体が流れる際に壁に作用する粘性応力よりはるかに激しいことに注意すべきであるので、これらの実験は、重合体フィルムにとって比較的激しい条件下で行われていることが分かる。
【0182】
例11
基材:ステンレス鋼
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:α−アルミナ(直径100〜300nm、40g/lの水溶液)
【0183】
PEMA重合体フィルムの、基材としてのステンレス鋼上への本発明による堆積は、基材上にα−アルミナ(市販されている)のナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0184】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0185】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムが黄銅に完全に密着していることが示された。
【0186】
さらに、この被覆された基材を、例10で記載したパラメータと同じパラメータに従ってせん断応力下で試験し、これらの条件下で重合体フィルムの完全な密着性を示すことができた。
【0187】
例12
基材:マイカマスコバイト
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:酸化セリウム(基材上に噴霧)
【0188】
PEMA重合体フィルムの、基材としてのマイカマスコバイト上への本発明による堆積は、基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行ったが、ナノ粒子は、溶液中への浸漬より堆積させたのではなく、エアブラシにより基材上に噴霧した。
【0189】
ナノ粒子の堆積条件は、下記の通り、すなわち垂直基材、基材から約20cmの距離に配置した噴霧装置、水中20g/lの酸化セリウム溶液を通した約4barの圧力、露出時間30秒間である。この例では、直径400μmのノズルを使用したが、その開口部は、本方法の決定的なパラメータではない。基材は、噴霧の後、前もってすすぎを行わずに、周囲空気中に放置して乾燥させる。
【0190】
次いで、重合体を通常の方法で堆積させる。この堆積は、例2におけるようにディップ−コーティングにより、または重合体の溶液を噴霧することにより、行うこともできる。
【0191】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の同じ安定性試験を行い、重合体フィルムがマイカマスコバイトに完全に密着していることが示された。
【0192】
ナノ粒子の溶液を噴霧する利点は、複雑な形状の大寸法基材を容易に被覆できることである。
【0193】
例13
基材:セラミック
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:α−アルミナ(直径100〜300nm)、40g/lの水溶液
【0194】
PEMA重合体フィルムの、基材としてのセラミック上への本発明による堆積は、基材上にα−アルミナのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0195】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0196】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムがセラミックに完全に密着していることが示され、本発明が多孔質基材にも有効であることが立証された。
【0197】
例14
基材:ポリ塩化ビニル(PVC)
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
ポリジメチルシロキサン(PDMS)
ポリカーボネート(PC)
エポキシ樹脂
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子:酸化セリウム
【0198】
PEMA重合体フィルムの、重合体基材としてのPVC、PTFE、PDMS、PCおよびエポキシ樹脂上への本発明による堆積は、基材上に酸化セリウムのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0199】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0200】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムがPVC、PTFE、PDMS、PCおよびエポキシ樹脂に完全に密着していることが示され、本発明が重合体基材にも有効であることが立証された。
【0201】
例15
基材:アルミニウム

亜鉛
黄銅
重合体:ポリエチルメタクリレート(PEMA)
ナノ粒子 α−アルミナ(直径100〜300nm)、40g/lの水溶液
【0202】
PEMA重合体フィルムの、金属基材としてのアルミニウム、銅、亜鉛および黄銅上への本発明による堆積は、基材上にα−アルミナのナノ粒子を吸着させた後、例1と同じ条件下で行った。
【0203】
この堆積は、例2におけるように、ディップ−コーティングによっても、行った。
【0204】
これらの重合体フィルムの、水溶液中に浸漬した後の安定性に関して同じ試験を行い、重合体フィルムがアルミニウム、銅、亜鉛および黄銅に完全に密着していることが示され、本発明が金属基材にも有効であることが立証された。
【0205】
この例は、例7、8および9と比較して、使用するナノ粒子の種類を変え、重合体フィルムをこれらの基材に、それらの物理化学的性質に応じて確実に密着させることができることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一寸法が1ミリメートルを超える基材を、重合体フィルムで被覆する方法であって、前記重合体フィルムを堆積させる前に、ナノ粒子を前記被覆すべき基材の表面に静電気的に吸着させる、方法。
【請求項2】
前記基材が、特に鋼、ステンレス鋼を含んでなる金属性である被覆すべき表面、金属、例えばアルミニウム、金、銀、鉄、鉛、銅、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、クロム、白金、コバルト、ジルコニウム、モリブデン、スズ、ガリウム、ルテニウム、イットリウムおよびマンガン、合金、例えば黄銅または青銅、またはそれらの混合物、および/または鉱物、特にポゾラナ、クレー、砂、礫岩、パーライト、バーミキュル石、ミネラルウール、グラファイトまたはアルミノケイ酸塩、例えばマイカ、ケイ素、ガラス、金属酸化物、例えばサファイア、またはそれらの混合物、を含んでなる鉱物、および/または重合体、特にポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂またはポリ塩化ビニルを含んでなる重合体、および/または有機金属、および/または有機物質、例えばセルロース、木材およびそれらの誘導体、例えば繊維または樹皮、および果実の殻および果皮、例えばココナツシェル、および/またはセラミックを含んでなる被覆すべき表面を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材の前記被覆すべき表面が、前記基材の、所望により有孔でよい単一区域、またはいくつかの個別区域の組からなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材が、光学機器、例えば鏡、レンズまたは減衰器、センサー、例えばバイオセンサーまたは有機電界効果トランジスタ、パイプ、特に金属製のパイプ、もしくは板またはシリンダー、特に印刷用のシリンダーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子の平均サイズが1〜200nm、特に2〜200nm、好ましくは3〜50nm、より好ましくは3〜20nmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子が、炭素、特にカーボンブラックまたはグラファイト、を基材とするナノ粒子、および/またはケイ素を基材とするナノ粒子、および/または金属、例えばアルミニウム、銀、カドミウム、セリウム、クロム、コバルト、銅、スズ、鉄、ガリウム、マンガン、ニッケル、金、パラジウム、白金、鉛、ルテニウム、セレン、硫黄、チタン、トリウム、タングステン、イットリウム、亜鉛、ジルコニウム、およびそれらの混合物および合金を基材とするナノ粒子、および/または鉱物、特に金属、酸化物、水酸化物または炭酸塩、例えば酸化セリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、例えばシリカ、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭酸イットリウム、酸化鉄、酸化金、酸化銀、酸化パラジウム、酸化硫黄、酸化セレン、酸化カドミウム、酸化トリウムまたは酸化クロム、を基材とするナノ粒子、有機金属ナノ粒子、重合体ナノ粒子、例えば天然または合成ラテックスの、配位重合体、例えばプルシアンブルー等の、またはバイオポリマー、例えばキチン、のナノ粒子、セラミック、例えば窒化ケイ素、を基材とするナノ粒子、クレー、例えばスメクタイト、カオリン、イライト、クロライトまたはアタパルジャイト、を基材とするナノ粒子、および/またはハイブリッドおよび/または官能化ナノチューブでよいナノチューブ、を基材とする、特に炭素、窒化ホウ素、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化銅、塩化ニッケル、塩化カドミウムまたはヨウ化カドミウムを基材とするナノ粒子、から選択されるものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、前記被覆すべき基材表面の少なくとも2%、好ましくは5〜70%、好ましくは20〜40%、より好ましくは約30%を被覆する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子の吸着が、前記ナノ粒子を溶剤に入れた分散液中、好ましくは水溶液中、に前記基材を浸漬するか、または前記ナノ粒子を前記被覆すべき基材の自由表面上に噴霧することにより行われ、好ましくは続いて前記基材の洗浄工程および乾燥工程を行う、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記重合体が、熱可塑性重合体、例えばポリメタクリレート、例えばポリメチルメタクリレートまたはポリエチルメタクリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレンまたはポリ塩化ビニル、熱硬化性重合体、例えばエポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリイミドまたはポリジクロロペンタジエン、エラストマー、例えばシリコーン、例えばポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、ポリイソブチレン、ポリクロロプレン、ポリブタジエンまたはポリイソプレン、天然重合体、例えばセルロース、ラテックスまたはデンプン、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート、陽イオン系高分子電解質、例えばポリ−L−リシンまたはポリアリルアミン、陰イオン系高分子電解質、例えばポリ−L−グルタミン酸またはポリスチレンスルホネート、ポリケトン、例えばポリ(アリールエーテルケトン)、ポリアミド、例えばポリアラミド、ポリアクリロニトリル、ポリシアノアクリレート、ポリエーテルスルホン、フルオロ重合体およびフルオロ共重合体、例えばポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロプロピレン、ポリ(ヘプタフルオロブチルアセテート)、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンとの共重合体、フッ化ビニリデンとペルフルオロプロペンの共重合体、ポリ(2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロペンタンジオールとアジピン酸とのエステル)、または3,3,3−トリフルオロプロピルメチルシリコーン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、架橋した、分岐した、または星型重合体、共重合体、デンドリマーおよびそれらの混合物から選択されるものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記重合体フィルムが、ナノメートルサイズまたはマイクロメートルサイズの金属または重合体粒子、顔料、または請求項6に記載のナノ粒子を含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記重合体フィルムが、遠心法により、浸漬により、滴により、薄層流により、または噴霧により堆積する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記重合体フィルムを堆積させる前に、前記基材上への前記重合体フィルムの密着性を改良するための、前記被覆すべき基材表面を処理する追加工程、例えばシラン処理、低温プラズマ、またはオゾン下でのUVによる処理、を含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記重合体フィルムを堆積させた後の追加の処理工程、特に熱処理、例えば前記重合体のガラス転移温度を超える温度における前記重合体フィルムの後硬化、を含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
耐食性および/または抗菌性表面処理および/または接着剤結合のための、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法により得られる重合体フィルムで被覆された基材。

【図3】
image rotate

【図4A1】
image rotate

【図4A2】
image rotate

【図4B1】
image rotate

【図4B2】
image rotate

【図5A1】
image rotate

【図5A2】
image rotate

【図5B1】
image rotate

【図5B2】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7A1】
image rotate

【図7A2】
image rotate

【図7B1】
image rotate

【図7B2】
image rotate

【図8A1】
image rotate

【図8A2】
image rotate

【図8B1】
image rotate

【図8B2】
image rotate

【図9A1】
image rotate

【図9A2】
image rotate

【図9B1】
image rotate

【図9B2】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−517620(P2011−517620A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503460(P2011−503460)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054354
【国際公開番号】WO2009/125018
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【Fターム(参考)】