説明

液体現像電子写真装置用ローラー

【課題】キャリアによる体積変化の抑制された液体現像電子写真装置用ローラーを提供することにある。
【解決手段】軸体の外周に弾性体層が周設されている液体現像電子写真装置用ローラーであって、前記弾性体層は、ポリエステルポリオールと二官能イソシアネートとを反応させたポリウレタンが用いられて形成されていることを特徴とする液体現像電子写真装置用ローラーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体現像電子写真装置用ローラーに関し、より詳しくは、弾性体層が形成された液体現像電子写真装置用ローラーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感光体にレーザーなどで描かれた静電潜像をトナーなどにて顕像化し、紙などの表面に転写して印刷を行う電子写真装置が広く用いられている。近年、このトナー粒子を微細化させて印刷精度を向上させることが行われており、流動パラフィン、シリコンオイル、鉱物油、あるいは、植物油などキャリアと呼ばれる液体に、例えば、1μm程度にまで微細化されたトナー粒子を分散させた液体現像剤(液体トナーともいう)が用いられるようになってきている。また、この液体トナーを用いた液体現像電子写真装置(下記特許文献1および2参照)が用いられるようになってきている。
【0003】
この液体現像電子写真装置には、現像ローラー、転写ローラー、スクィズローラー、研磨ローラーなど種々のローラーが用いられており、このような各種ローラーは、通常、ゴムや低硬度の樹脂などの弾性体が用いられた弾性体層が芯金などの軸体の外周に周設されて形成されている。
しかし、この液体現像電子写真装置においては、このようなローラーが上記のようなキャリアに暴露される環境で用いられることから、ローラーの弾性体層の形成に用いられているゴムあるいは樹脂がキャリアによって膨潤するなどして弾性体層の体積変化を発生させてしまうという問題を有している。
【0004】
この液体現像電子写真装置用ローラーの弾性体層が体積変化するとローラー間の圧接力やニップ幅などが変化してしまうこととなり印刷精度を低下させてしまうこととなる。
そのため、液体現像電子写真装置用ローラーにおいては、キャリアによる体積変化の抑制されたものが求められている。しかし、従来の液体現像電子写真装置用ローラーは、キャリアによる体積変化が十分抑制されておらず、上記のような要望を満足するものとなっていない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−057913号公報
【特許文献2】特開2005−070181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、キャリアによる体積変化の抑制された液体現像電子写真装置用ローラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、液体現像電子写真装置用ローラーの弾性体層を所定のポリウレタンにより形成することにより、この弾性体層をキャリアによる体積変化の抑制されたものとし得ることを見出し本発明の完成に到ったのである。
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、軸体の外周に弾性体層が周設されている液体現像電子写真装置用ローラーであって、前記弾性体層は、ポリエステルポリオールと二官能イソシアネートとを反応させたポリウレタンが用いられて形成されていることを特徴とする液体現像電子写真装置用ローラーを提供する。
【発明の効果】
【0008】
ポリエステルポリオールと二官能イソシアネートとを反応させたポリウレタンは、流動パラフィン、シリコンオイル、鉱物油、あるいは、植物油など一般にキャリアとして用いられる物質に対して膨潤されにくく、体積変化を生じにくい。
すなわち、本発明によれば、キャリアによる体積変化の抑制された液体現像電子写真装置用ローラーを提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
【0010】
まず、本実施形態における液体現像電子写真装置用ローラーが用いられる液体現像電子写真装置について図1を参照しつつ説明する。
【0011】
液体現像電子写真装置には、通常、感光体や各種ローラーが用いられており、例えば、円筒形状に形成され、該円筒形状の中心軸周りに回転して外周面に液体トナーにより連続的に顕像が形成される感光体1と、該感光体1に周面を接触させて感光体1に形成された顕像を一次転写して紙などの被印刷物Aに二次転写させる中間転写ローラー2と、該中間転写ローラー2に周面を接触させて配置され中間転写ローラー2とともに回転することにより、紙などの被印刷物Aを中間転写ローラー2に圧接しつつ中間転写ローラー2の回転方向に被印刷物Aを移動させて中間転写ローラー2に一次転写された顕像をこの被印刷物Aに二次転写させるための加圧ローラー3などが備えられたりしている。
また、液体現像電子写真装置には、液体トナー貯留部Xに収容されている液体トナーYに外周面が接触され、回転することにより外周面に液体トナーを付着させて液膜を形成させて液体トナーを汲み上げるトナー汲み上げローラー4(アニロックスローラーともいう)と、該トナー汲み上げローラー4に周面を接触させて配置されトナー汲み上げローラー4の外周面に付着している液体トナーを平滑化させた状態で外周面に移し取るならしローラー5と、該ならしローラー5に周面を接触させて配置され、ならしローラー5から液体トナーを移し取って感光体1に供給するための現像ローラー6などが備えられたりしている。
さらに、液体現像電子写真装置には、現像ローラー6にバイアス電圧を印加するとともに電荷を与えてならしローラー5から供給された液体トナーを現像ローラー6においてキャリア層とトナー凝集層とに分離させる凝集ローラー7、現像ローラー6から感光体1に供給された液体トナーのキャリアを絞り取るためのスクィズローラー8、感光体1に接触して感光体1の表面を清浄に維持すべく感光体1表面を微細に研磨する研磨ローラー9や、現像ローラー6の表面を清浄化させるためのクリーニングブレード10や、感光体の表面を清浄化させるためのクリーニングブレード10’などが備えられたりしている。
【0012】
次いで、本実施形態の液体現像電子写真装置ローラーについて前記現像ローラーを例に説明する。
本実施形態の現像ローラーは、芯金の外周に弾性体によって形成された弾性体層が周設されている。
この弾性体層は、ポリエステルポリオールと二官能イソシアネートとを反応させたポリウレタンにより形成されている。このポリウレタンには、弾性体層が102〜106Ω・cmの体積抵抗率となるようにカーボンブラックが配合されている。
弾性体層が102〜106Ω・cmの体積抵抗率となるように形成されていることによりこのローラーを液体現像電子写真装置における現像ローラーに適した導電性とすることができる。
【0013】
また、前記弾性体層は、前記ポリウレタンにより、JIS−A硬度が30〜60度に形成されている。
この弾性体層がJIS−A硬度が30〜60度とされているのは、30度未満の場合には、柔らかすぎて切削加工など表面の平滑性を調整することが困難となり、60度を超える場合には、硬すぎて良好なる現像性を発揮させることが困難となるためである。
したがって、この現像ローラーにJIS−A硬度が30〜60度の弾性体層を形成させることにより、現像ローラーに適した表面平滑性を有しつつ良好なる現像性能の現像ローラーとすることができる。
なお、このJIS−A硬度とは、標準状態で測定されたJIS K 6253に規定されているタイプAデュロメータ硬さ(瞬時値)を意図している。
【0014】
このポリウレタンにポリエステルポリオールが用いられるのは、その他のポリオールが用いられる場合には、流動パラフィン、シリコンオイル、鉱物油、あるいは、植物油など一般にキャリアとして用いられる物質に対して膨潤されやすく、弾性体層(現像ローラー)の体積変化が、例えば、10%を超えるものとなり、液体現像電子写真装置の印刷精度を低下させてしまうためである。
【0015】
このポリエステルポリオールとしては、特に、限定されるものではないがアジピン酸と二官能グリコールとトリメチロールプロパンとが反応されてなるポリエステルポリオールを用いることが好ましい。
このポリエステルポリオールの原材料成分として、アジピン酸が用いられているのは、セバシン酸などの他のジカルボン酸が用いられる場合に比べてアジピン酸が用いられている場合には、キャリアによる弾性体層の体積変化を小さくさせることができ液体現像電子写真装置の印刷精度の低下を抑制させ得る。
また、二官能グリコールとしては、炭素数が2〜6のものが好ましく、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、あるいは、3−メチルペンタンジオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオール)のいずれかであることが好ましい。
この二官能グリコールを炭素数が2〜6のもの、特に、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、あるいは、3−メチルペンタンジオールのいずれかとした場合においては、キャリアによる弾性体層の体積変化を小さくさせることができ液体現像電子写真装置の印刷精度の低下を抑制させ得る。
【0016】
なかでも二官能グリコールが3−メチルペンタンジオールなどの疎水基を有するものである場合には、温度や湿度に対して影響されにくい弾性体層を形成させ得る。
すなわち、低温低湿度状態と高温高湿度状態とにおける寸法変化が抑制されることとなり、液体現像電子写真装置の設置環境などによる印刷精度の変化を抑制させることができ、均質な印刷を実施させ得る。
【0017】
このような原材料成分が含まれてなるポリエステルポリオールは、特に限定されるものではないが、数平均分子量が500〜3000であることが好適であり、1000〜3000であることがより好適である。
ポリエステルポリオールの数平均分子量が上記のような範囲であるのが好適であるのは、数平均分子量が3000を超えるポリエステルポリオールは、粘度が高すぎて注型などの工程における作業性が低下するおそれがあり、一方で500未満の場合には、低硬度の硬化物を得ることが困難となるおそれを有するためである。
なお、この数平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定することができ、例えば、東ソー社製GPC:型名「HLC−8020」を用いて、カラム「G−4000」、「G−3000」、「G−2000」(いずれも東ソー社製)を三本連結させて、移動相にクロロホルムを使用することにより測定することができる。
【0018】
また、このような原材料成分が含まれてなるポリエステルポリオールは、平均官能基数が3.0以上であることが好適である。
3.0以上の平均官能基数を有するポリエステルポリオールを用いることにより、圧縮永久歪み小さな弾性体層を形成させることができ、例えば、70℃×22時間条件において1%未満となる弾性体層を形成させ得る。
しかも、平均官能基数を増大させることにより、化学架橋を増大させて見掛けの物理架橋を減少させることができ吸水性の向上(吸水量の低減)を図り得る。
【0019】
また、このような原材料成分が含まれてなるポリエステルポリオールは、酸価が0.2〜1.0が好適である。
酸価を低減させることで吸水性の向上(吸水量の低減)を図ることができ、温度や湿度による弾性体層の寸法変化を抑制させ得る。
【0020】
前記二官能イソシアネートとしては、特に、限定されないが、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)あるいはジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)のいずれかが用いられていることが好ましく、特にトリレンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートのいずれかであることが好ましい。
この二官能イソシアネートとしてトリレンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートを用いることにより、キャリアによる弾性体層の体積変化を小さくさせることができ液体現像電子写真装置の印刷精度の低下をさらに抑制させ得る。
しかも、トリレンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートを用いることにより、ジフェニルメタンジイソシアネートなどを用いる場合に比べて上記のポリエステルポリオールとの硬化反応を高い反応速度で実施させ得る。したがって、トリレンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートを用いることにより効率的に製造可能な現像ローラーとさせ得る。
【0021】
これらポリエステルポリオールと二官能グリコールの配合量は、適宜調整することができ、実質、現像ローラーとして用いることのできる硬化状態にさせ得る量で配合させ得る。例えば、アジピン酸と二官能グリコールとトリメチロールプロパンとが反応されてなるポリエステルポリオールとトリレンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートとを、硬化後の硬度がJIS−A硬度30〜60度となるように配合して弾性体層を形成させることにより、キャリアによる弾性体層の体積変化を小さくさせることができる。
【0022】
また、このポリウレタンに配合するカーボンブラックとしては、特に限定されず、ケッチェンブラックインターナショナル社より市販されている「ケッチェンブラック」、CABOT社の「VULCAN」などの他、一般にアセチレンブラックと称される高導電性カーボンブラックをはじめ、一般にファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラックなどと称されるカーボンブラックを用いることができる。
【0023】
さらに、このカーボンブラックが配合されたポリウレタンにより弾性体層を形成させる軸体としては、導電性の棒状体、具体的には、断面円形で且つ中空又は中実の金属製棒状体からなる芯金を用いることができる。
この芯金には、例えば、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル等の金属及びその合金からなるものや、これらに、溶融めっき、電解めっき、無電解めっきなどの手段によるめっきを施したものを用いることができる。
【0024】
また、現像ローラーには、上記に説明したように弾性体層のさらに外周側に表面層を設けたり、弾性体層と軸体(芯金)との間に他の層を形成させたりすることができる。
特に、現像ローラーにおいては、熱可塑性ポリウレタンを溶媒に溶解させ、さらに、カーボンブラックが分散されてなるポリウレタン溶液を用いることにより表面層を形成させることが好ましい。
この熱可塑性ポリウレタンは、上記のごとく説明した弾性体層に対して優れた密着性と耐摺擦性を有し、現像ローラーの表面に当接される部材に対する高い強度を有し、しかも、柔軟性に富むことからローラーの変形などに対する優れた追従性を示し、シワやはがれなどが発生しにくいという点において好ましく、中でもポリエステル系熱可塑性ポリウレタンあるいはポリエーテル系熱可塑性ポリウレタンを用いることが好ましい。
また、この熱可塑性ポリウレタンを溶解させる溶媒としては、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコールやそれらの混合溶媒を用いることができ、ポリウレタン溶液の乾燥速度を調整すべく上記の溶媒にシクロヘキサンやジメチルフォルムアミドをさらに混合した混合溶媒を用いることが好ましい。
また、カーボンブラックとしては、ケッチェンブラックインターナショナル社より市販されている「ケッチェンブラック」、CABOT社の「VULCAN」などの他、一般にアセチレンブラックと称される高導電性カーボンブラックが好適である。
【0025】
このような、材料ならびに構成の現像ローラーを製造する方法としては、一般的に用いられているポリウレタン製のローラーの製造方法を用いることができ、例えば、金型などを用いて芯金にポリウレタン弾性体を周設した後、弾性体層の表面を研磨して所定の表面平滑度に調整するなどすればよい。また、さらに該弾性体層表面に上記に説明したような表面層形成用のポリウレタン溶液を弾性体層にディップコートするなどして直接塗布して熱処理する方法を用いることができる。
このときポリウレタン溶液としては、上記のような熱可塑性ポリウレタンを、3〜20重量%、上記のようなカーボンブラックを10重量%以下の濃度となるように上記のような溶媒で溶解されているものを用いることにより、上記のポリウレタン弾性体層上でハジキやムラが生じにくく厚さの均一性が保持し易く、カーボンの分散状態を維持させやすい。また、このときの熱処理温度としては、例えば、80〜120℃の温度とすることにより、ポリウレタン弾性体層が熱劣化を受けるおそれを抑制しつつ良好なる表面層を形成させ得る。
さらに、この表面層の表面(あるいは、弾性体層が露出した状態で用いられる他の液体現像電子写真装置用ローラーの表面)は、JIS B 0601に規定されている10点平均粗さ(Rz)で3μm以下の表面粗さに形成されていることが好ましい。
【0026】
なお、本実施形態においては、上記のごとく構成され、上記のごとく使用される液体現像電子写真装置とこの液体現像電子写真装置用ローラーとして現像ローラーを例に説明したが、本発明の液体現像電子写真装置用ローラーとしては、上記構成の液体現像電子写真装置用に用いられる場合に限定されるものではなく、また、その用途を現像ローラーに限定するものでもない。
すなわち、本実施形態においては、液体現像電子写真装置の印刷精度を向上させ得る点において、他のローラーに比べて、より顕著な効果が得られることから液体現像電子写真装置用ローラーとして現像ローラーを例に説明したが、本発明の液体現像電子写真装置用ローラーとしては、トナー汲み上げローラー、ならしローラー、スクィズローラー、研磨ローラー、中間転写ローラーや加圧ローラーなど軸体の外周に弾性体層が周設されている液体現像電子写真装置用ローラー全般を意図している。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(ポリウレタン弾性体の配合検討−その1)
(配合例1〜39)
表1に記載のポリオールとイソシアネートを硬化後に表1の硬度となるように配合してポリウレタン弾性体試料を作製した。
なお、表1に示す硬度は、標準状態で測定されたJIS K 6253に規定されているタイプAデュロメータ硬さ(JIS−A硬度)である。
作製した各配合のポリウレタン弾性体を幅30mm×長さ30mm×厚さ2mmに切断して直方体試料を作製し、作製した直方体試料をイソパラフィンを主成分とする炭化水素系キャリア(エクソンモービル社製、商品名「IsoparM」)に合計7日間浸漬させ、浸漬日数とともに各試料の体積がどのように変化するかを測定した。
なお、浸漬させる「IsoparM」の温度は、23℃と40℃との2通りで試験を行い、体積変化率については、幅、長さをノギスを用いて測定し、厚さをJIS K 6258に記載された方法に準じて測定して体積(幅×長さ×厚さ)を測定して、初期体積に対する増分を百分率で表した。
表1に各配合例の23℃、40℃での浸漬試験(浸漬7日後)の体積変化率の結果を示す。
また、表2に、配合例1、28、34、38、39のポリウレタン弾性体試料について、浸漬後0.5、1、2、3、5、7日後の体積変化率の測定結果を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
上記の表1、表2からも、ポリエステルポリオールと二官能イソシアネートとを反応させたポリウレタンは、流動パラフィンなどの一般にキャリアとして用いられる物質に対して膨潤されにくく、体積変化を生じにくいことがわかる。
また、このポリエステルポリオールとして、アジピン酸が用いられているものは、セバシン酸などの他のジカルボン酸が用いられる場合に比べて体積変化が小さく、二官能グリコールとしては、炭素数が2〜6のもの、特に、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、あるいは、3−メチルペンタンジオールのいずれかが用いられているものは、その他の二官能グリコールが用いられているものに比べて体積変化を生じにくいことがわかる。
さらに、このポリエステルポリオールと反応させる二官能イソシアネートとしてトリレンジイソシアネート(TDI)またはキシレンジイソシアネート(XDI)を用いることにより、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などを用いる場合に比べてキャリアによる弾性体層の体積変化を小さくさせ得ることもわかる。
【0031】
(実施例1)
表3に示す配合のポリウレタンにより、直径10mmの芯金上に厚さ約3mmの弾性体層を周設し、外径約16mmとなるように表面研磨を行った後に、表4に示すポリウレタン溶液を塗布して表面層を形成させて実施例1の現像ローラーを作製した。
より具体的には、ポリエステルポリオールにカーボンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社より市販の商品名「ケッチェンブラックEC300J」)を混合分散させたものを脱水処理して100℃に加熱し、二官能イソシアネートとビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミドとを加えて均一混合状態となるように攪拌して、芯金をセットした150℃の金型に注入して1時間反応させることにより芯金の外周に弾性体層を周設した。この150℃×1時間の反応の後、脱型し、140℃×2時間の後架橋を行って予備成形体を作製した。
この予備成形体を円筒研削盤にて表面研磨して所定寸法とし、表面に表4に示すポリウレタン溶液をディップコートして110℃で2時間乾燥させることにより塗布して実施例1の現像ローラーを作製した。
【0032】
(実施例2、3、5乃至7、比較例1、2)
ポリウレタンの配合を変更した以外は、実施例1と同様に現像ローラーを作製した。
【0033】
(実施例4)
二官能イソシアネートとしてMDIを用いた実施例4では、弾性体層の硬化時間が遅く、150℃×1時間の反応時間では脱型困難であったため、150℃×24時間の反応時間とし、さらに、脱型後の後架橋を24時間とした以外は実施例1と同様に現像ローラーを作製した。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
(耐キャリア性評価)
各実施例、比較例の現像ローラーを水平に支持して下側半分をイソパラフィンをキャリアとした液状トナー(約30℃)に浸漬させた状態で、回転に伴って現像ローラー表面に形成される液状トナーの液膜をブレードにて掻き落としつつ約200rpmの回転速度で回転させる耐キャリア性試験を実施した。
このときの現像ローラーの硬度(JIS−A硬度)、外径変化、電気抵抗(芯金−表面間に100V印加時の抵抗値)の変化を測定した。
具体的には、実施例1乃至7の現像ローラーについては、初期状態における値と、耐キャリア性試験7日後の値とを測定した。
比較例1の現像ローラーについては、膨潤(体積変化)が大きく、初期状態における値と、耐キャリア性試験4日の値とを測定した。
比較例2の現像ローラーについては、膨潤(体積変化)がさらに大きく、初期状態における値と、耐キャリア性試験2日の値とを測定した。
結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
この表5からも、ポリエステルポリオールと二官能イソシアネートとを反応させたポリウレタンは、流動パラフィンなどの一般にキャリアとして用いられる物質に対して膨潤されにくく、体積変化を生じにくいことがわかる。
また、このポリエステルポリオールとして、アジピン酸が用いられているものは、セバシン酸などの他のジカルボン酸が用いられる場合に比べて体積変化が小さく、二官能グリコールとしては、炭素数が2〜6のもの、特に、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、あるいは、3−メチルペンタンジオールのいずれかが用いられているものは、その他の二官能グリコールが用いられているものに比べて体積変化を生じにくいことがわかる。
さらに、このポリエステルポリオールと反応させる二官能イソシアネートとしてトリレンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートを用いることにより、ジフェニルメタンジイソシアネ−トなどを用いる場合に比べてキャリアによる弾性体層の体積変化を小さくさせ得ることもわかる。
【0039】
(ポリウレタン弾性体の配合検討−その2)
(配合例40〜59)
表6に記載のポリオールとイソシアネートを硬化後に表6の硬度となるように配合してポリウレタン弾性体試料を作製した。
なお、表6に示す硬度は、標準状態で測定されたJIS K 6253に規定されているタイプAデュロメータ硬さ(JIS−A硬度)である。
また、このポリオールの平均官能基数(f値)と酸価とを併せて表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
(実施例8)
配合40のポリウレタンを、150℃に熱した注型金型に流し込み、150℃×1時間の架橋を実施した後に脱型し、さらに、160℃×2時間の後架橋を実施することにより直径6mmの芯金上に、3mmよりも僅かに大きな厚みを有する弾性体層が周設された予備成形体を作製した。
この予備成形体を円筒研削盤にて表面研磨して外径12mmのローラーを作製した。
【0042】
(実施例9乃至25、比較例3、4)
用いるポリウレタンの配合を配合例41乃至53とした以外は、実施例8と同様に実施例9乃至21の現像ローラーを作製した。
また、用いるポリウレタンの配合を配合例54、55とした以外は、実施例8と同様に比較例3、4の現像ローラーを作製した。
さらに、用いるポリウレタンの配合を配合例56乃至59とした以外は、実施例8と同様に実施例22乃至25の現像ローラーを作製した。
【0043】
(耐キャリア性)
各実施例、比較例のローラーを、イソパラフィンを主成分とする炭化水素系キャリア(エクソンモービル社製、商品名「IsoparM」およびシリコンオイル系キャリア東レ・ダウコーニング社製、商品名「SH−200」に合計7日間浸漬させ、各ローラーの体積がどのように変化するかを測定した。
なお、浸漬させる炭化水素系キャリアの温度は、23℃と40℃との2通りで試験を行い、体積変化率については、炭化水素系キャリア浸漬後のローラー外径を測定し、該外径をもとに弾性体層の体積を算出し、初期体積に対する増分を百分率で表した。
結果を表7に示す。
【0044】
(寸法変化率:環境変化による寸法変化の測定)
各実施例、比較例のローラーを、10℃、相対湿度10%の低温低湿度環境下に24時間保持し、レーザー寸法測定機により非接触でローラーの外径を測定した後に、30℃、相対湿度85%の高温高湿度環境下に24時間保持した。
この高温高湿度環境下に各実施例、比較例のローラーを24時間保持した後に、再びレーザー寸法測定機により非接触でローラーの外径を測定し、23℃、相対湿度50%の標準環境下に24時間保持した。
この標準環境下に24時間保持した後にさらにレーザー寸法測定機により非接触でローラーの外径を測定した。
この低温低湿度環境下24時間後、高温高湿度環境下24時間後、標準環境下24時間後における外径測定は、各ローラーについて3箇所ずつ実施した。
また、高温高湿度環境下24時間後と標準環境下24時間後における測定位置を低温低湿度環境下24時間後の測定と略同一となるようにして外径を測定した。
低温低湿度環境下24時間後の外径測定平均値をXL、高温高湿度環境下24時間後の外径測定平均値をXH、標準環境下24時間後の外径測定平均値をXNとした際に、以下の式により寸法変化率を求めた。
寸法変化率(%)=(XH−XL)/XN ×100(%)
結果を表7に示す。
【0045】
(圧縮永久歪み)
各実施例、比較例の弾性体層の形成に用いたものと同じ配合により形成された試料を用いて、JIS K 6262に基づく圧縮永久歪みを測定した。
結果を表7に示す。
【0046】
【表7】

【0047】
上記の表7からも、ポリエステルポリオールと二官能イソシアネートとを反応させたポリウレタンはキャリアとして用いられる物質に対して膨潤されにくく、体積変化を生じにくいことがわかる。
また、このポリエステルポリオールの二官能グリコールとして、3−メチルペンタンジオールが用いられる場合(実施例8〜18、20、21)は、ジエチレングリコールなどが用いられる場合(実施例19)に比べて環境変化による体積変化が抑制されていることがわかる。
なお、弾性体層の硬度がJIS−A 30未満の実施例22、24のローラーにおいては、先述の表面研磨では表面の平滑性を調整することが困難であった。
さらに、弾性体層の硬度がJIS−A 60を超える実施例23、25のローラーにおいては、硬すぎて液体現像電子写真装置の現像ローラーに用いるのには、やや適していない状態であった。
また、平均官能基数が3.0以上のポリオールが用いられた実施例では、圧縮永久歪みが1%未満であることが観測された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】液体現像電子写真装置の構成を示す概略図。
【符号の説明】
【0049】
1:感光体、2:中間転写ローラー、3:加圧ローラー、4:トナー汲み上げローラー(アニロックスローラー)、5:ならしローラー、6:現像ローラー、7:凝集ローラー、8:スクィズローラー、9:研磨ローラー、10,10’:クリーニングブレード、A:被印刷物、X:液体トナー貯留部、Y:液体トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体の外周に弾性体層が周設されている液体現像電子写真装置用ローラーであって、前記弾性体層は、ポリエステルポリオールと二官能イソシアネートとを反応させたポリウレタンが用いられて形成されていることを特徴とする液体現像電子写真装置用ローラー。
【請求項2】
前記弾性体層が、JIS−A硬度が30〜60度に形成されている請求項1に記載の液体現像電子写真装置用ローラー。
【請求項3】
前記二官能イソシアネートとして、トリレンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートのいずれかが用いられている請求項1または2に記載の液体現像電子写真装置用ローラー。
【請求項4】
前記ポリエステルポリオールは、アジピン酸と二官能グリコールとトリメチロールプロパンとが反応されたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体現像電子写真装置用ローラー。
【請求項5】
前記二官能グリコールの炭素数が2〜6である請求項4に記載の液体現像電子写真装置用ローラー。
【請求項6】
前記二官能グリコールとして、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、あるいは、3−メチルペンタンジオールのいずれかが用いられている請求項4に記載の液体現像電子写真装置用ローラー。
【請求項7】
前記二官能グリコールが3−メチルペンタンジオールである請求項6記載の液体現像電子写真装置用ローラー。
【請求項8】
前記ポリウレタンにカーボンブラックが含有されており、前記弾性体層の体積抵抗率が102〜106Ω・cmとされている請求項1乃至7のいずれか1項に記載の液体現像電子写真装置用ローラー。
【請求項9】
JIS B 0601に規定されている10点平均粗さ(Rz)で3μm以下の表面粗さに形成されている請求項1乃至8のいずれか1項に記載の液体現像電子写真装置用ローラー。

【図1】
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【公開番号】特開2008−33249(P2008−33249A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111685(P2007−111685)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】