説明

液体用フィルター材

【課題】微細な繊維径からなるろ過層を有し、厚みが小さく、かつプリーツ加工のために充分な剛性を有する液体用フィルター材、例えば、放電加工によって発生する数ミクロン程度の微細な粒子に対する捕集性能を向上させながら、高寿命となる放電加工機用フィルターに好適な液体用フィルター材を提供すること。
【解決手段】ろ過層と支持層が積層された液体用フィルター材であって、該ろ過層が、平均繊維径0.4〜1.2μm、目付20〜70g/mの合成繊維不織布からなり、そして該液体用フィルター材の曲げ強度が0.5mN以上、厚みが0.45mm以下、通気度が0.8〜6cc/cm/secであることを特徴とする前記液体用フィルター材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体用フィルター材に関する。より詳しくは、本発明は、該液体用フィルター材を構成要素の内の1つとして含む放電加工機の加工液のろ過用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
液体用フィルターに用いられるフィルター材は各種公知である。なかでも、放電加工機の加工液をろ過するための放電加工機用フィルターとして、天然パルプと有機繊維の混抄シートにフェノール樹脂等を含浸処理したフィルター材を用いたものが一般に使用されている。該フィルター材は水中で長時間使用されるため、パルプを使用した場合、強度低下からくる破れなどの問題があった。かかる問題を解決するものとして、以下の特許文献1、2には、合成繊維を使用したフィルター材が開示されている。
【0003】
一方、近年、放電加工機による微細加工を行う必要性から、より微細な粒子の捕集性能向上が求められるようになってきている。
このためにはフィルター材のろ過層に繊維径がより小さい合成繊維不織布ろ過材を使用することが求められている。しかしながら、ろ過材に用いる合成繊維不織布の繊維径が小さくなればなる程、ろ過層の剛性が低下するなるためプリーツの加工が困難になるという問題がある。また、大量の加工粉体をろ過し、長いフィルター寿命を得るためには、大きなろ過面積を得る必要がある。このためには、フィルター材の厚みをより小さくする必要が有り、かつ剛性をもたせるという相反する機能を持つことが求められている。
【0004】
以下の特許文献3には、ポリブチレンテレフタレート又はポリトリメチレンテレフタレートを含む平均繊維径が1〜8μmのポリエステル系繊維からなるメルトブロー不織布と、平均繊維径が10〜30μmのポリエステル系繊維からなるスパンボンド不織布が積層一体化されてなるフィルター用不織布が開示されている。
【0005】
しかしながら、ろ過層に相当するポリエステル系繊維メルトブロー不織布の製造技術上、繊維径を更に小さくすることが困難であり、また該繊維が疎水性であるために通液抵抗が高くなりやすく、捕集性能及びフィルター寿命が低下するという問題があった。また、該構成において、フィルター材の厚みを小さくするための検討は行われておらず、充分に長いフィルター寿命をもつものは得られていない。
このように、微細な繊維径からなるろ過層を有し、厚みが小さく、かつプリーツ加工のために充分な剛性を有する、液体用フィルター材は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−59859号公報
【特許文献2】特開平11−165009号公報
【特許文献3】特開2007−125546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、微細な繊維径からなるろ過層を有し、厚みが小さく、かつプリーツ加工のために充分な剛性を有する液体用フィルター材、例えば、放電加工によって発生する数ミクロン程度の微細な粒子に対する捕集性能を向上させながら、高寿命となる放電加工機用フィルターに好適な液体用フィルター材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、以下の構成を有するフィルター材が課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]ろ過層と支持層が積層された液体用フィルター材であって、該ろ過層が、平均繊維径0.4〜1.2μm、目付20〜70g/mの合成繊維不織布からなり、そして該液体用フィルター材の曲げ強度が0.5mN以上、厚みが0.45mm以下、通気度が0.8〜6cc/cm/secであることを特徴とする前記液体用フィルター材。
【0010】
[2]前記ろ過層における合成繊維不織布がナイロン不織布である、前記[1]に記載の液体用フィルター材。
【0011】
[3]前記支持層が、芯部がポリエステル、鞘部がナイロンからなる不織布素材からなる、前記[1]又は[2]に記載の液体用フィルター材。
【0012】
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の液体用フィルター材を構成要素の1つとして含む放電加工機用フィルター。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る液体用フィルター材は、捕集性能に優れ、寿命の長い液体用フィルター材であり、例えば、微細加工により大量の微細粒子が存在する加工液をろ過するための放電加工機用フィルターの構成要素として好適に使用されうる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る液体用フィルター材は、ろ過層と支持層が積層された液体用フィルター材であって、該ろ過層が、平均繊維径0.4〜1.2μm、目付20〜70g/mの合成繊維不織布からなり、そして該液体用フィルター材の曲げ強度が0.5mN以上、厚みが0.45mm以下、通気度が0.8〜6cc/cm/secであることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る液体用フィルター材のろ過層は、平均繊維径が0.4〜1.2μm、目付20〜70g/mの合成繊維不織布からなる。
このような細い繊維径の合成繊維不織布の製法としては、メルトブロー法、エレクトロスピング法、フラッシュスパン法、抄造法などが挙げられるが、低圧力損失とするため嵩高く、大きな目付けを得ることができ、脱落する繊維を少なくするという点で、メルトブロー法によって得られた不織布が好適である。
【0016】
ろ過層に用いられる合成繊維の種類は特に限定されないが、ナイロン不織布であることが親水性を有するため好ましい。ナイロンの種類としては、特に限定されるものではないがナイロン6、66、46、MXD6などが挙げられる。特に繊維径を細くし、ろ過性能の高いフィルターでは、通液抵抗を下げ、フィルター寿命を向上させることが重要であり、親水性を有するナイロンは、ポリプロピレンや、ポリエステル素材と比較してフィルターの通液抵抗が低いものとなるため好ましい。また、メルトブロー法によるナイロン不織布は、繊維径を小さくできるため好ましい。
【0017】
ろ過層を構成する合成繊維不織布の繊維径は、0.4〜1.2μmであり、好ましくは、0.4〜0.95μmである。0.4μm未満ではフィルター材として必要な強度が得られず、張り合わせ工程時に破損する可能性が高く、高性能な捕集性能が得られず、一方、1.2μmを超えると強度上の問題はないが、粒子捕捉性能が低下する。
【0018】
ろ過層を構成する合成繊維不織布の目付は、20〜70g/mであり、好ましくは25〜50g/mである。20g/m未満では、不織布の斑や積層時の強度がないため、高性能な捕集性能が得られず、一方、70g/mを超えるとフィルター材の厚みが大きくなり、これを積層したろ材全体の厚みも大きくなるため、必要なフィルターのろ過面積が得られない。
【0019】
本発明に係る液体用フィルター材においては、前記したろ過層と支持層が積層されてなる。支持層は、フィルター材の強度を確保し、プリーツ加工を可能にするためのものである。支持層の材質は、特に限定されるものではないが、ろ過層と積層一体化するためには、ろ過層との部分的な融着を行うことが望ましいため、ろ過層と接する面においてろ過層と同じ材質であることが好ましく、ろ過層がナイロン不織布であれば支持層の表面が主としてナイロンから構成されていることが好ましい。また、フィルター材の曲げ強度を高くするためには支持層の少なくとも一部がポリエステルからなることが好ましい。したがって、支持層としては、特に好ましくは、芯部がポリエステル、鞘部がナイロンからなる鞘芯型複合繊維からなる布帛、特に不織布が好適である。
【0020】
ろ過層と支持層は積層されて用いられる。単に重ねるだけでもよいが、接合一体化されていることが好ましい。接合一体化させる方法としては、圧力により一体化させる方法や各種接着剤や熱溶融樹脂をバインダーとし接着する方法等が挙げられ、例えば、不織布数枚を熱カレンダー機やエンボス機により圧縮一体化させる方法や熱融着ネットをバインダーとし熱プレスすることで複合する方法などが挙げられる。積層状態としては、支持層の片面にろ過層を積層する場合や、支持層の両面に積層する場合、支持層の片面にろ過層を複数枚積層する場合がある。好ましいのは、支持層の片面にろ過層を1枚積層するのが厚みを薄くし、積層工程が容易になるために望ましい。また、エンボス加工においては、熱融着比率は10〜20%で行い、加工温度を150〜220℃にすることで、フィルター厚みがより薄いものを製造することができる。
【0021】
本発明に係る液体用フィルター材の曲げ強度は0.5mN以上、厚みは0.45mm以下、通気度は0.8〜6cc/cm/secである。
フィルター材の曲げ強度は0.5mN以上であることが必要である。曲げ強度が0.5mN未満であると、成型したプリーツが柔らかくなりプリーツしたろ材同士がくっつくことによりフィルターの寿命が短くなる。曲げ強度の上限は特にないが15mNを超えるとプリーツ成型が困難になるためカートリッジ製作が事実上困難となる。したがって、より好ましい曲げ強度の範囲は1〜12mNである。
【0022】
本発明に係る液体用フィルター材の厚みは0.45mm以下であることが必要である。厚みが0.45mmを超えるとカートリッジ内に挿入できるフィルター材の面積が減少し、フィルター寿命が短くなり、一方、0.1mm未満となると曲げ強度が得られなくなり、プリーツした濾材が密着することとなる。したがって、フィルター材の厚みは、より好ましくは0.1〜0.35mmである。
【0023】
本発明に係る液体用フィルター材の通気度は、0.8〜6cc/cm/secであることが必要である。通気度が0.8cc/cm/sec未満では、通液性が得られず、フィルター寿命が短くなり、一方6cc/cm/secを超えると必要な捕集性能が得られなくなる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例における測定方法及び評価方法として、以下の通りのものを使用した。
【0025】
(1)平均繊維径(μm)
不織布の表面を顕微鏡写真で拡大しその繊維径を20点実測し、その平均値で示す。
【0026】
(2)目付(g/m
JIS−L−1096に準じて測定する。
【0027】
(3)曲げ強度(mN)
ガーレー式柔軟度試験機(安田精機製作所NO.311)にてMD/CD方向にて5点測定し、平均値を求める。
【0028】
(4)厚み(mm)
JIS−L−1096に準じて10点測定し平均値を求める。圧力は2kPaとする。
【0029】
(5)通気度(cc/cm/sec)
JIS−L−1096(フラジール試験法)に準じて測定する。
5回測定した時の平均値を求める。
【0030】
(6)捕集性能評価試験
(i)市販のフィルターホルダー(ADVANTEC社製 フィルターホルダーKS25)にフィルター材をセットする。
(ii)JISダスト7種を蒸留水に0.2mg/Lにて分散させ、定量ポンプにて80cc/minの流速で通液する。
(iii)通液前後の液をサンプリングし、パーティクルカウンタ(PPS社 AccuSizer780/SIS)にて粒径2〜3μmの粒子個数をカウントする。通液前後の粒子個数差より捕集性能(%)を算出する。
【0031】
(7)寿命性能試験
フィルター材をプリーツ加工し、外径150mm、内径76mm、高さ100mmにてカートリッジエレメントを作製する。ダストJIS7種を60mg/Lの濃度で試験液を作製し、流量10L/minにて、カートリッジエレメントにダスト液を通液して100kPaまでの圧損上昇の時間(分)を計測することにより寿命性能とする。
【0032】
[実施例1]
ろ過層としてナイロンを公知のメルトブロー法により、平均繊維径が0.8μm、目付が30g/mの不織布を得た。また、支持層として芯がポリエステル、鞘がナイロンの鞘芯構造複合糸からなる目付が75g/m、厚みが0.4mmの不織布(COLBOND社製 WA−75)を用いて、エンボス加工によりろ過層側が170℃、支持層側が210℃のロール温度でろ過層と支持層とを積層複合化した。得られたフィルター材の物性及びフィルター性能評価結果を以下の表1に示す。
【0033】
[実施例2]
ろ過層として、実施例1と同様の製造方法にて平均繊維径が0.8μm、目付が50g/mの不織布を得た以外は実施例1と同様の条件でフィルター材を作製した。得られたフィルター材の物性及び性能評価結果を以下の表1に示す。
【0034】
[比較例1]
ろ過層として、実施例1と同様の製造方法にて平均繊維径が0.8μm、目付が25g/mの不織布を製造し、これを3層積層して複合化した目付75g/mの不織布を得た。他は実施例1と同様の条件でフィルター材を作製した。物性及び性能評価結果を以下の表1に示す。比較例1のフィルター材はフィルター厚みが大きいため、濾過面積が小さくなくなるため、実施例1と2に比較して、フィルター捕集性能が低く、フィルター寿命が短いものとなった。
【0035】
[実施例3、4]
ろ過層として、実施例1と同様の製造方法にて平均繊維径が0.45μm(実施例3)、1.2μm(実施例4)で、目付30g/mの不織布を得た。他は実施例1と同様の条件でフィルター材を作製した。得られたフィルター材の物性及び性能評価結果を以下の表1に示す。
【0036】
[比較例2]
ろ過層として、実施例1と同様の製造方法にて平均繊維径が1.7μm、目付が75g/mの不織布を得た以外は実施例1と同様の条件でフィルター材を作製した。得られたフィルター材の物性及び性能評価結果を以下の表1に示す。比較例2のフィルター材は、繊維径が大きく、さらに厚みが大きいためにフィルター面積が小さくなるため、実施例1〜4に比較して捕集性能が劣るうえにフィルター寿命の短いものであった。
【0037】
[比較例3]
3〜15μmの繊維径をもつパルプにて抄紙法により得られたろ過材を用い、他は実施例1と同様の方法でフィルター材を作製した。得られたフィルター材の物性及び性能評価結果を以下の表1に示す。比較例3のフィルター材は、繊維径が太く、捕集性能が低く、また表面で目詰まりし易く寿命性能の悪いものとなった。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る液体用フィルター材は、捕集性能に優れ、寿命の長い液体用フィルター材であり、例えば、微細加工により大量の微細粒子が存在する加工液をろ過するための放電加工機用フィルターの構成要素として好適に使用されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過層と支持層が積層された液体用フィルター材であって、該ろ過層が、平均繊維径0.4〜1.2μm、目付20〜70g/mの合成繊維不織布からなり、そして該液体用フィルター材の曲げ強度が0.5mN以上、厚みが0.45mm以下、通気度が0.8〜6cc/cm/secであることを特徴とする前記液体用フィルター材。
【請求項2】
前記ろ過層における合成繊維不織布がナイロン不織布である、請求項1に記載の液体用フィルター材。
【請求項3】
前記支持層が、芯部がポリエステル、鞘部がナイロンからなる不織布素材からなる、請求項1又は2に記載の液体用フィルター材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体用フィルター材を構成要素の1つとして含む放電加工機用フィルター。

【公開番号】特開2011−251249(P2011−251249A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126622(P2010−126622)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】