説明

液体移送装置及び液体移送装置の製造方法

【課題】圧力室の側壁部の剛性を低下させることにより、振動板の撓み変形を促進し、圧電アクチュエータの変位量を増大させること。
【解決手段】インクジェットヘッド3は、ノズル54及び圧力室53を含むインク流路が形成された流路ユニット31と、振動板70と圧電層71を有する圧電アクチュエータ32を備えている。また、流路ユニット31は、互いに積層されるとともに圧力室53の一部分をそれぞれ形成する圧力室形成孔53a,53bが設けられた、少なくとも2枚のキャビティプレート41,42を有する。さらに、前記2枚のキャビティプレート41,42のうち、上層に位置してその表面に振動板70が接合される第1キャビティプレート41の、圧力室形成孔53aの外側領域には、貫通孔55が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体移送装置及び液体移送装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を移送する液体移送装置の一例として、インクの液滴を噴射するインクジェットヘッドがある。インクジェットヘッドの、インク流路内のインクに噴射圧力を付与するためのアクチュエータとして、ユニモルフ型の圧電アクチュエータが広く知られている。このようなユニモルフ型の圧電アクチュエータは、一般的に、インク流路が形成された流路ユニットの表面に、そのインク流路の一部を構成する圧力室を覆うように配置された振動板(非活性層)と、この振動板の表面に圧力室と対向するように配置された圧電層(活性層)と、圧電層を厚み方向に挟むように配置された1対の電極とを備えている。そして、1対の電極間に所定の駆動電圧が印加されて圧電層に厚み方向の電界が作用したときに、圧電層が面方向に収縮することで、圧力室と対向する部分において振動板に撓み変形が発生する。これにより、圧力室内の容積が変化して、その内部のインクに噴射圧力が付与されることになる。
【0003】
このような圧電アクチュエータにおいて、従来から、低い駆動電圧で圧力室内のインクに大きな圧力を付与することが求められているが、そのためには、振動板及び圧電層が圧力室と対向する領域において変形しやすい構造にして、圧力室の容積変化を大きくすることが有効である。
【0004】
圧電アクチュエータ(振動板及び圧電層)の変位量(撓み量)を増大させるために、従来から、振動板や圧電層の一部に凹部やスリットを形成して、圧電アクチュエータの曲げ剛性を局所的に低下させることが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、振動板の圧力室側の面に凹部が形成された圧電アクチュエータが開示されている。また、特許文献2には、圧力室を覆うように配置された2枚の金属板(振動板及び駆動板)と、駆動板の表面に配置された圧電層の、3層構造の圧電アクチュエータが開示されている。このアクチュエータにおいては、最下層に位置する振動板の上面の、圧力室と対向する領域に凹部が形成されるとともに、その上に位置する駆動板と圧電層には、これらを厚み方向に貫通するスリットがそれぞれ形成されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−309864号公報
【特許文献2】特開2006−306073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、圧電アクチュエータ全体の変位量は、圧力室周囲における振動板の拘束条件にも依存する。従って、振動板や圧電層など、流路ユニットに接合される圧電アクチュエータの構成部材の曲げ剛性を低くしても、流路ユニット側の、圧力室周囲領域において振動板と接合される部分(圧力室の側壁部)の剛性が高いと、圧力室の周囲領域における振動板の変形拘束力が大きく、圧力室と対向する領域において振動板が大きく撓むことができない。
【0008】
本発明の目的は、圧力室の側壁部の剛性を低下させることにより、振動板の撓み変形を促進し、圧電アクチュエータの変位量を増大させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の液体移送装置は、圧力室を含む液体流路が形成された流路ユニットと、前記圧力室内の液体に圧力を付与する圧電アクチュエータとを備えた液体移送装置であって、前記圧電アクチュエータは、前記圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に接合された振動板と、前記振動板の前記流路ユニットと反対側の面に配置された圧電層と、前記圧電層の両面の前記圧力室と対向する領域にそれぞれ配置された第1電極及び第2電極とを備え、
前記流路ユニットは、
互いに積層されるとともに前記圧力室の一部分をそれぞれ形成する圧力室形成孔が設けられた、少なくとも第1圧力室形成層と第2圧力室形成層の、2枚の圧力室形成層を有し、前記2枚の圧力室形成層のうち、上層に位置してその表面に前記振動板が接合される前記第1圧力室形成層の、前記圧力室形成孔の外側領域に、孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
この構成によれば、振動板と接合される第1圧力室形成層の、圧力室形成孔の周囲領域に孔が設けられることによって、圧力室の側壁部の剛性が低下する。これにより、側壁部が圧力室の内側へ倒れ込むように変形できるようになり、圧力室周囲領域における振動板の変形拘束力が弱まる。従って、圧力室と対向する領域において振動板が大きく変形できるようになり、その結果、圧電アクチュエータの変位量(撓み量)が大きくなる。これにより、所定の変位量を得るために必要な、圧電アクチュエータの駆動電圧(第1電極と第2電極の間の電圧)を低減することも可能となる。あるいは、小さな圧力室であってもその内部の液体に十分な圧力を付与することができるため、圧力室を小さくして装置を小型化することも可能となる。尚、本発明において、第1圧力室形成層に形成される孔には、第1圧力室形成層を厚み方向に貫通する孔と、貫通しない凹状の孔の、両方が含まれる。
【0011】
第2の発明の液体移送装置は、前記第1の発明において、前記孔が、前記第1圧力室形成層を厚み方向に貫通する貫通孔であることを特徴とするものである。
【0012】
振動板を拘束する圧力室周囲領域の剛性を局所的に低下させるために圧力室形成層に設けられる孔は、あまり深すぎる(例えば、圧力室と同じ深さ程度である)と剛性が低下しすぎて振動板の変形に支障が出るし、浅すぎると振動板の変形を増大させる効果が得られないため、この孔は、適度な深さに設定される必要がある。ここで、本発明においては、圧力室を形成する層が少なくとも2層に分かれており、振動板と接合される上層に貫通状の孔が形成される一方で、下層には孔は形成されない。従って、圧力室形成層に形成される孔の深さが、上層の第1圧力室形成層の厚みのみで決定されることになり、孔加工時の深さ管理が不要になる。そのため、圧力室ごとに側壁部の剛性がばらつくという問題が生じない。
【0013】
第3の発明の液体移送装置は、前記第1又は第2の発明において、前記第1圧力室形成層は、前記第2圧力室形成層よりも軟質の材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
振動板が接合される上層の第1圧力室形成層が、第2圧力室形成層よりも軟質材料で形成されていることから、振動板の変形を拘束する、圧力室の側壁部の剛性がさらに小さくなり、振動板がより一層変形しやすくなる。
【0015】
第4の発明の液体移送装置は、前記第3の発明において、前記第1圧力室形成層は、樹脂材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
第1圧力室形成層を樹脂材料で構成することにより、この第1圧力室形成層に、圧力室形成孔や、圧力室の側壁部の剛性を低下させるための孔を、容易且つ精度よく形成することができる。
【0017】
第5の発明の液体移送装置は、前記第4の発明において、前記流路ユニットは、少なくとも最上層に位置する前記第1圧力室形成層とその下の前記第2圧力室形成層とを含む、複数の層からなる積層体を有し、
前記積層体を構成する複数の層のうち、前記第1圧力室形成層と反対側に位置する最下層が、樹脂材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
このように、第1圧力室形成層と第2圧力室形成層を含む複数の層からなる積層体の、上下両層が共に樹脂材料で形成されることで、複数層を加熱しながら接着剤で接合した場合の反りが抑制される。その結果、振動板が接合される第1圧力室形成層の上面の、平面度が高くなる。
【0019】
第6の発明の液体移送装置は、前記第5の発明において、前記最下層が、前記圧力室に連通する液滴噴射用ノズルが形成されたノズルプレートであることを特徴とするものである。
【0020】
特に、流路ユニットが、前記積層体の最下層として、液体流路に連通する液滴噴射用ノズルが形成されたノズルプレートを有する場合には、このノズルプレートを樹脂材料とすることで、複数層を加熱しながら接着剤で接合する際の積層体の反りを抑制することができる。これに加えて、レーザー加工等によって、ノズルをノズルプレートに容易且つ精度よく形成することができるという効果も得られる。
【0021】
第7の発明の液体移送装置の製造方法は、圧力室を含む液体流路が形成された流路ユニットと、前記圧力室内の液体に圧力を付与する圧電アクチュエータであって、前記圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に接合された振動板と、前記振動板の前記流路ユニットと反対側の面に配置された圧電層と、前記圧電層の両面の前記圧力室と対向する領域にそれぞれ配置された第1電極及び第2電極とを含む、圧電アクチュエータと、を備えた液体移送装置の製造方法であって、前記流路ユニットを作製する流路ユニット作製工程と、前記圧電アクチュエータを作製するアクチュエータ作製工程とを有し、前記流路ユニット作製工程において、前記圧力室の一部分をそれぞれ形成する圧力室形成孔が設けられた、少なくとも第1圧力室形成層と第2圧力室形成層の、2枚の圧力室形成層を積層させるとともに、前記2枚の圧力室形成層のうち、上層に位置してその表面に前記振動板が接合される前記第1圧力室形成層の、前記圧力室形成孔の外側領域に孔を形成することを特徴とするものである。
【0022】
このように、振動板と接合される第1圧力室形成層の、圧力室形成孔の周囲領域に孔を形成することにより、圧力室の側壁部の剛性が低下する。そのため、側壁部が圧力室の内側へ倒れ込むように変形できるようになり、圧力室周囲領域における振動板の変形拘束力が弱まる。従って、圧力室と対向する領域において振動板が大きく変形できるようになり、圧電アクチュエータの変位量(撓み量)が大きくなる。これにより、所定の変位量を得るために必要な、圧電アクチュエータの駆動電圧(第1電極と第2電極の間の電圧)を低減することも可能となる。あるいは、小さな圧力室であってもその内部の液体に十分な圧力を付与することができるため、圧力室を小さくして装置を小型化することも可能となる。尚、本発明において、第1圧力室形成層に形成される孔には、第1圧力室形成層を厚み方向に貫通する孔と、貫通しない凹状の孔の、両方が含まれる。
【0023】
第8の発明の液体移送装置の製造方法は、前記第7の発明において、前記孔が、前記第1圧力室形成層を厚み方向に貫通する貫通孔であることを特徴とするものである。
【0024】
本発明においては、圧力室を形成する層が少なくとも2層に分かれており、振動板と接合される上層に貫通状の孔を形成する一方、下層には孔は形成されない。従って、圧力室形成層に形成される孔の深さが、上層の第1圧力室形成層の厚みのみで決定されることになり、孔加工時の深さ管理が不要になる。従って、圧力室ごとに側壁部の剛性がばらつくという問題が生じない。
【0025】
第9の発明の液体移送装置の製造方法は、前記第8の発明において、前記流路ユニット作製工程において、前記第1圧力室形成層を、前記第2圧力室形成層よりも軟質の材料で形成することを特徴とするものである。
【0026】
本発明によれば、流路ユニットの、圧電アクチュエータとの接合面が軟質材料で構成されることになることから、凹凸が生じたり異物が付着したりしている圧電アクチュエータが流路ユニットに接合された場合であっても、軟質材料からなる接合面によって圧電アクチュエータに生じる応力集中を緩和することができる。従って、接合時における圧電層の割れの発生や、その割れに圧力室内の液体が浸透して電気的なショートを引き起こすといった問題を防止することが可能となる。
【0027】
第10の発明の液体移送装置の製造方法は、前記第9の発明において、前記流路ユニット作製工程において、前記第1圧力室形成層を、樹脂材料で形成することを特徴とするものである。
【0028】
このように、第1圧力室形成層が樹脂材料で構成されていると、この第1圧力室形成層に、圧力室形成孔や、圧力室の側壁部の剛性を低下させるための孔を、容易且つ精度よく形成することができる。
【0029】
第11の発明の液体移送装置の製造方法は、前記第10の発明において、前記流路ユニット作製工程において、少なくとも最上層に位置する前記第1圧力室形成層とその下の前記第2圧力室形成層とを含む、複数の層からなる積層体を作製するとともに、前記積層体を構成する複数の層のうち、前記第1圧力室形成層と反対側に位置する最下層を、前記第1圧力室形成層と同様に、樹脂材料で形成し、前記積層体を構成する前記複数の層を、加熱しながら接着剤で接合することを特徴とするものである。
【0030】
これによれば、流路ユニットを構成する積層体の、上下両層を共に樹脂材料で形成した上で、積層体を構成する複数の層を加熱しながら接着剤で接合するため、加熱時の積層体全体の反りが抑制される。その結果、振動板が接合される、第1圧力室形成層の上面の平面度が高くなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、振動板と接合される第1圧力室形成層の、圧力室形成孔の周囲領域に孔が設けられることによって、圧力室の側壁部の剛性が低下する。これにより、側壁部が圧力室の内側へ倒れ込むように変形できるようになり、圧力室周囲領域における振動板の変形拘束力が弱まる。従って、振動板が大きく変形できるようになり、その結果、圧電アクチュエータの変位量(撓み量)が大きくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、インクをノズルまで移送するとともにこのノズルから記録用紙に対してインクの液滴を噴射させる、インクジェットプリンタ用のインクジェットヘッドに本発明を適用した一例である。
【0033】
まず、本実施形態のインクジェットヘッド(液体移送装置)を備えたインクジェットプリンタ1の概略構成について説明する。図1は、本実施形態のインクジェットプリンタの概略平面図である。この図1に示すように、プリンタ1は、一方向に沿って往復移動可能に構成されたキャリッジ2と、このキャリッジ2に搭載されたインクジェットヘッド3及びサブタンク4a〜4dと、インクジェットヘッド3で使用されるインクを貯留するインクカートリッジ5a〜5dと、記録用紙Pを図1の紙送り方向に搬送する搬送機構6等を備えている。
【0034】
キャリッジ2は、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイド軸17に沿って往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ2には、無端ベルト18が連結されており、キャリッジ駆動モータ19によって無端ベルト18が走行駆動されたときに、キャリッジ2は、無端ベルト18の走行に伴って左右方向に移動するようになっている。
【0035】
このキャリッジ2には、インクジェットヘッド3と4つのサブタンク4a〜4dが搭載されている。インクジェットヘッド3は、その下面(図1の紙面向こう側の面)に多数の液滴噴射用ノズル54(図2参照)を備えている。また、4つのサブタンク4a〜4dは、走査方向に沿って並べて配置されており、これら4つのサブタンク4a〜4dにはチューブジョイント20が一体的に設けられている。そして、チューブジョイント20に連結された可撓性のチューブ11によって、4つのサブタンク4a〜4dと4つのインクカートリッジ5a〜5dとがそれぞれ接続されている。
【0036】
4つのインクカートリッジ5a〜5dには、例えば、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの、4色のインクがそれぞれ貯留されており、これらのインクカートリッジ5a〜5dは、ホルダ10に着脱自在に装着されている。
【0037】
これら4つのインクカートリッジ5a〜5dに貯留された4色のインクは、4本のチューブ11を介して4つのサブタンク4a〜4dに供給され、サブタンク4a〜4dにおいて一時的に貯留された後、インクジェットヘッド3に供給される。そして、インクジェットヘッド3は、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動しつつ、その下面に設けられた多数のノズル54(図2参照)から、搬送機構6により図1の下方(紙送り方向)に搬送される記録用紙Pにインクの液滴を噴射する。
【0038】
搬送機構6は、インクジェットヘッド3よりも紙送り方向上流側に配置された給紙ローラ25と、インクジェットヘッド3よりも紙送り方向下流側に配置された排紙ローラ26とを有する。給紙ローラ25と排紙ローラ26は、それぞれ、給紙モータ27と排紙モータ28により回転駆動される。そして、この搬送機構6は、給紙ローラ25により、記録用紙Pを図1の上方からインクジェットヘッド3に供給するとともに、排紙ローラ26により、インクジェットヘッド3によって画像や文字等が記録された記録用紙Pを図1の下方へ排出するように構成されている。
【0039】
次に、インクジェットヘッド3について説明する。図2はインクジェットヘッドの分解斜視図、図3はインクジェットヘッドの一部拡大平面図、図4は流路ユニット(第1キャビティプレート41)の一部拡大平面図、図5は図3のV-V線断面図である。尚、以下のインクジェットヘッド3の説明においては、図2における上下方向(プレートの積層方向)を上下方向と定義する。
【0040】
図2〜図5に示すように、インクジェットヘッド3は、多数のノズル54や圧力室53を含むインク流路が形成された流路ユニット31と、この流路ユニット31の上面に配置され、圧力室53内のインクに噴射のための圧力を付与する圧電アクチュエータ32とを備えている。
【0041】
流路ユニット31は、第1キャビティプレート41(第1圧力室形成層)、第2キャビティプレート42(第2圧力室形成層)、ベースプレート43、アパーチャプレート44、2枚のマニホールドプレート45,46、ダンパープレート47、カバープレート48、及び、ノズルプレート49の、計9枚のプレート41〜49の積層体からなる。尚、これら9枚のプレートは接着剤によって互いに接合されている。9枚のプレート41〜49のうち、最上層の第1キャビティプレート41と最下層のノズルプレート49を除く、中間の7枚のプレート42〜48は、それぞれ、ステンレス板やニッケル合金鋼板などの金属プレートである。一方、最上層の第1キャビティプレート41と最下層のノズルプレート49は、共に、上述した7枚の中間プレート42〜48よりも軟質な、ポリイミド等の合成樹脂材料で形成されている。
【0042】
流路ユニット31には、前述した4つのサブタンク4a〜4dにそれぞれ接続される4つのインク供給口50a、50b、50cと、これら4つのインク供給口50a〜50cに連通したマニホールド流路51とが設けられ、さらに、マニホールド流路51からアパーチャ52、及び、圧力室53を介してノズル54に至る個別インク流路が多数設けられている。
【0043】
流路ユニット31の最下層のノズルプレート49には、インクの液滴をそれぞれ噴射する複数のノズル54が、紙送り方向に配列して穿設されているとともに、走査方向に5列並べて配置されている。尚、使用されるインクの種類が4色であるのに対して、ノズル54の配列が5列あるのは、使用頻度の最も高いブラックインクを吐出するノズル54のみが2列に配列されているためである。
【0044】
一方、図5に示すように、最上層に位置する第1キャビティプレート41と、そのすぐ下に位置する第2キャビティプレート42には、それぞれ、圧力室53の一部を形成する圧力室形成孔53a,53bが、プレート41,42をそれぞれ貫通するように形成されている。また、図3、図4に示すように、これら2枚のキャビティプレート41,42に形成された2種類の圧力室形成孔53a,53bは、互いに同じ平面形状、即ち、走査方向を長手方向とする略矩形の平面形状を有する。そして、2枚のプレート41,42が互いに積層され、さらに上側の圧電アクチュエータ32と下側のベースプレート43とが積層されたときに、両プレート41,42にそれぞれ形成された2種類の圧力室形成孔53a,53bにより1つの圧力室53が形成される。
【0045】
さらに、複数の圧力室53は紙送り方向に配列されて、5列の圧力室列をなしている。尚、5列の圧力室列のうち、2列は使用頻度の最も高いブラックインクが供給される圧力室53の列であり、残りの3列は、イエロー、シアン、マゼンタの3色カラーインクがそれぞれ供給される圧力室53の列である。
【0046】
また、図3〜図5に示すように、最上層の第1キャビティプレート41の、紙送り方向に配列された圧力室形成孔53aよりも、圧力室長手方向に関して外側の領域には、圧力室列の全長にわたって紙送り方向に延在するとともに、プレート41を厚み方向に貫通する貫通孔55が形成されている。一方、その下に位置する第2キャビティプレート42にはこのような孔は形成されていない。第1キャビティプレート41にこのような貫通孔55が設けられている理由については後ほど説明する。さらに、キャビティプレート41,42の紙送り方向の一端部(図2における左側の端部)には、サブタンク4a〜4dから供給された4色のインクをマニホールド流路51に供給する4つのインク供給口50aが走査方向に並んで形成されている。
【0047】
図2、図5に示すように、ベースプレート43には、平面視で圧力室53の長手方向の両端部にそれぞれ連通する貫通孔56,57と、インク供給口50aに連通するインク供給孔50bが形成されている。
【0048】
アパーチャプレート44には、ベースプレート43の貫通孔56に連通するとともに圧力室53の長手方向に沿って延びる、絞り流路としてのアパーチャ52と、貫通孔57に連通する貫通孔58と、インク供給孔50bに連通するインク供給孔50cがそれぞれ形成されている。
【0049】
マニホールドプレート45,46には、紙送り方向に延在する開口51a,51bが、圧力室53の列に対応して5つずつ形成されている。そして、これら2種類の開口51a,51bが重なった状態で、アパーチャプレート44とダンパープレート47によって上下両側から塞がれることにより、マニホールド流路51が形成される。また、図2に示すように、マニホールド流路51を形成する2種類の開口51a,51bは、アパーチャプレート44のインク供給孔50cと重なる位置まで紙送り方向に延設されている。
【0050】
尚、流路ユニット31に設けられた5つのマニホールド流路51のうち、2つはブラックインク用の2列の圧力室列に対応し、残り3つのマニホールド流路51は、カラーインク用の3列の圧力室列に対応している。さらに、2枚のマニホールドプレート45,46には、アパーチャプレート44の貫通孔58に連なる貫通孔59,60がそれぞれ形成されている。
【0051】
ダンパープレート47の下面の、平面視で5つのマニホールド流路51とそれぞれ重なる位置には、ハーフエッチングによって形成された凹部61が設けられている。つまり、ダンパープレート47は、凹部61が形成された部分において厚みが局所的に薄くなっており、この薄肉部分が、マニホールド流路51内の圧力変動を減衰させるダンパー部として働く。また、ダンパープレート47には、マニホールドプレート46の貫通孔60に連なる貫通孔62も形成されている。カバープレート48には、ダンパープレート47の貫通孔62とノズルプレート49に形成されたノズル54とを連通させる貫通孔63が形成されている。
【0052】
以上説明した9枚のプレート41〜49が積層した状態で接合されることにより、流路ユニット31内に、インク供給孔50aからマニホールド流路51に至るインク流路と、マニホールド流路51からアパーチャ52及び圧力室53を経由してノズル54に至る、多数の個別インク流路が形成されている。
【0053】
次に、圧電アクチュエータ32について説明する。図3、図5に示すように、圧電アクチュエータ32は、複数の圧力室53を覆うように流路ユニット31の上面に接合された振動板70と、この振動板70の上面(流路ユニット31と反対側の面)に配置された圧電層71と、圧電層71の上面に配置された複数の個別電極72(第1電極)と、圧電層71の下面に配置された共通電極73(第2電極)とを備えている。
【0054】
振動板70と圧電層71は、共に、圧電材料(例えば、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料)により、略矩形の平面形状を有するシート状に形成されている。そして、振動板70と圧電層71は、互いに積層された状態で、流路ユニット31上面に複数の圧力室53を覆うように連続的に配置されている。また、上層に位置する圧電層71は、予めその厚み方向に分極されている。一方、振動板70は、圧電層71とは違って分極処理は施されていない。
【0055】
複数の個別電極72は、それぞれ、圧力室53よりも一回り小さい略矩形の平面形状を有し、圧電層71の上面の、複数の圧力室53の略中央部と対向する領域に配置されている。また、共通電極73は、振動板70と圧電層71の間において、それらの表面のほぼ全域にわたって形成されている。
【0056】
図2に示すように、圧電アクチュエータ32の圧電層71の上面には、本体側の基板から送信された印字データに従って、圧電アクチュエータ32を駆動するドライバIC80が実装されている。このドライバIC80は、前述した複数の個別電極72と、圧電層71の上面に形成された配線を介して接続されている。そして、このドライバIC80から、複数の個別電極72のそれぞれに対して、所定の駆動電位とグランド電位の一方が選択的に付与されるようになっている。一方、共通電極73は、ドライバIC80内のグランド線に接続されることにより、常にグランド電位に保持されている。尚、ドライバIC80は、フレキシブル配線基板(FPC)等に実装され、そのフレキシブル配線基板が圧電アクチュエータ32と電気的かつ機械的に接合されて、本体側と接続されていてもよい。
【0057】
このように、振動板70と圧電層71は、共に、全ての圧力室53を共通に覆うように配置された、圧電材料からなる層であるが、上層に位置する圧電層71は、圧力室53と対向する領域において個別電極72と共通電極73に上下両側から挟まれた構成となっている。即ち、この圧電層71は、個別電極72に所定の駆動電位が付与されたときに、厚み方向の電界が印加されて圧電歪みが生じる、活性層として働く。一方、下層に位置する振動板70は、個別電極72と共通電極73に挟まれた構成となっておらず、この振動板70は、圧電材料で構成されているものの、実際には圧電歪みが生じない非活性層である。
【0058】
以上の圧電アクチュエータ32の、インク噴射時における動作について説明する。
ドライバIC80から、ある個別電極72に対して駆動電位が付与されると、この駆動電位が付与された個別電極72と、グランド電位に保持されている共通電極73との間に電位差が生じ、これらの電極72,73間に挟まれた圧電層71の部分に厚み方向に電界が印加される。この電界の方向は圧電層71の分極方向と平行であるので、この圧電層71は、電界が印加された部分において厚み方向に伸びて面方向に収縮する。一方、非活性層である振動板70は、圧力室53の周囲領域において第1キャビティプレート41に固定されていることから、上層の圧電層71が面方向に収縮することによって、下層の振動板70は、圧力室53と対向する領域において、圧力室53側に凸となるように変形する(ユニモルフ変形)。このとき、圧力室53の容積が減少することから、その内部のインクの圧力が上昇し、圧力室53に連通するノズル54からインクの液滴が吐出される。
【0059】
ところで、先にも少し述べたが、図3〜図5に示すように、流路ユニット31(積層体)を構成する9枚のプレート41〜49のうち、圧電アクチュエータ32の振動板70が接合される、最上層に位置する第1キャビティプレート41には、圧力室形成孔53aの周囲領域において貫通孔55が形成されている。より詳細には、貫通孔55は、紙送り方向に配列された複数の圧力室形成孔53a(圧力室列)の長手方向両側の領域において、紙送り方向(圧力室53の配列方向:図4の上下方向)に沿って圧力室列の全長にわたって延在し、平面視で、第1キャビティプレート41の走査方向に隣接する5列の圧力室列間に、6列の貫通孔55が走査方向に交互に形成される。
【0060】
このような貫通孔55が形成されることによって、第1キャビティプレート41のうち、圧力室53の長手方向両側の周囲領域において、振動板70の変形を拘束する部分(側壁部41a)の剛性が低下することになる。そのため、図5(b)のように、圧電アクチュエータ32の個別電極72に駆動電圧が印加され、振動板70がある圧力室53と対向する領域において圧力室53側へ凸となるように変形したときに、圧力室形成孔53aの長手方向に関する2つの側壁部41aが圧力室53の内側へ少し倒れ込むように変形することが可能となり、振動板70の変形拘束力が弱まることになる。これにより、圧力室53と対向する領域において振動板70が大きく変形することができるようになり、圧電アクチュエータ32の変位量(撓み量)が大きくなる。その結果、圧力室53の容積変化(即ち、インクに付与される圧力)が大きくなり、圧力室53内のインクに大きな圧力を付与することが可能となる。
【0061】
また、所定の変位量を得るために必要な、圧電アクチュエータ32の駆動電圧(個別電極72と共通電極73間の電位差)を低減することも可能となる。あるいは、小さな圧力室53であってもその内部のインクに十分な圧力を付与することができるため、圧力室53のサイズを小さくして、流路ユニット31上面に多数の圧力室53をより高密度に配置でき、インクジェットヘッド3を小型化することが可能となる。
【0062】
さらに、第1キャビティプレート41は、金属製の第2キャビティプレート42よりも軟質な樹脂材料で形成されている。そのため、第1キャビティプレート41の、振動板70と接合される側壁部41aの剛性が一層低くなり、振動板70がより一層撓みやすくなる。
【0063】
次に、本実施形態のインクジェットヘッド3の製造方法について説明する。尚、ここでは、図6(a)に示すように、流路ユニット31と圧電アクチュエータ32とを、それぞれ別々の工程で作製し、その後で、図6(b)に示すように両者を接合することにより、インクジェットヘッド3を製造している。
【0064】
(流路ユニット作製工程)
まず、流路ユニット31の作製工程について説明する。流路ユニット31(積層体)を構成する9枚のプレート41〜49のうち、最上層となる第1キャビティプレート41と、最下層となるノズルプレート49を除いた、金属材料からなる7枚のプレート42〜48のそれぞれに、圧力室53、アパーチャ52、マニホールド51等のインク流路となる孔や凹部をエッチング等で形成する。
【0065】
次に、第1キャビティプレート41をポリイミド等の合成樹脂材料で形成する。さらに、この第1キャビティプレート41に、第2キャビティプレート42の圧力室形成孔53bと同じ平面形状を有する圧力室形成孔53aと、圧力室形成孔53aの長手方向に関する両側においてその配列方向(図6の紙面垂直方向)に延在する貫通孔55とを、レーザー加工やエッチング等により形成する。
【0066】
ここで、振動板70の変形を拘束する側壁部41aの剛性を低下させるためにキャビティプレートに設けられる孔は、あまり深すぎる(例えば、圧力室53と同じ深さ程度である)と側壁部41aの剛性が低下しすぎて振動板70の変形に支障が出るし、浅すぎると振動板70の変形を増大させる効果が得られないため、この孔は、適度な深さに設定される必要がある。ここで、本実施形態においては、圧力室53を形成するキャビティプレートが2層に分かれており、振動板70と接合される上層の第1キャビティプレート41に貫通孔55が形成される一方で、下層の第2キャビティプレート42には孔は形成されない。従って、側壁部41aの剛性を低下させるために設けられる孔の深さが、上層の第1キャビティプレート41の厚みのみで決定されることになり、孔加工時の深さ管理が不要になる。そのため、圧力室53ごとに側壁部41aの剛性がばらついて、その結果、圧力室53の駆動特性(ノズル54の噴射特性)がばらついてしまうという問題が生じない。
【0067】
尚、この樹脂製の第1キャビティプレート41は、軟質材料で形成されている上に薄いため、ハンドリングが難しい。そこで、金属材料からなり比較的剛性の高い第2キャビティプレート42に、合成樹脂シートを貼るなどして樹脂材料からなる第1キャビティプレート41を形成し、2枚のキャビティプレート41,42が積層した状態でハンドリングしながら、第1キャビティプレート41への孔加工等の工程を行うことが好ましい。なお、樹脂の薄膜材料からなる第1キャビティプレート41と、金属材料の第2キャビティプレートとが、予めはりあわされ一体に形成されている2層のクラッド材を使用することも可能で、その場合は第2キャビティプレートに合成樹脂シートを貼る工程は必要としないため、あやまって合成樹脂シートと第2キャビティプレート42との間にエアが入ったり、シワができたりするなどの、不良品の発生を少なくすることができる。
【0068】
さらに、ノズルプレート49をポリイミド等の合成樹脂材料で形成するとともに、このノズルプレート49に、複数のノズル54をレーザー加工等によって形成する。
【0069】
このように、第1キャビティプレート41とノズルプレート49がポリイミド等の合成樹脂で構成されていると、レーザー加工等により、圧力室形成孔53aや貫通孔55、ノズル54などを容易且つ精度よく形成することができるという利点がある。
【0070】
そして、9枚のプレート41〜49を、それらの間に熱硬化性接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)を介在させた状態で積層させ、例えば180℃程度に加熱しながら接着剤で接合することで、流路ユニット31となる積層体を形成する。ここで、樹脂材料からなるプレートと金属材料からなるプレートの積層体を加熱したときには、両者の熱膨張係数の違いから面方向に関する伸びに差が生じ、積層体が反りやすくなる。しかし、本実施形態では、図6(a)に示すように、積層体の最上層(第1キャビティプレート41)と最下層(ノズルプレート49)が共に樹脂材料からなるプレートであることから、上層と下層とそれぞれ生じる面方向の伸びの差が相殺されるため、積層体の反りが抑制される。従って、圧電アクチュエータ32の振動板70が接合される、第1キャビティプレート41の上面の平面度が高くなる。
【0071】
(圧電アクチュエータ作製工程)
次に、圧電アクチュエータ32の作製工程について説明する。まず、未焼成のグリーンシートを2枚用意し、圧電層71(活性層)となる一方のグリーンシートの両面に、複数の個別電極72と共通電極73をそれぞれスクリーン印刷等の方法により形成する。次に、振動板70及び圧電層71となる2枚のグリーンシートを、共通電極73が両者の間に挟まれるように重ねてから、2枚のグリーンシートを高温で焼成する。以上で、圧電アクチュエータ32の作製工程が完了する。
【0072】
(接合工程)
最後に、流路ユニット作製工程で得られた流路ユニット31の、第1キャビティプレート41の上面に、圧電アクチュエータ作製工程で得られた圧電アクチュエータ32の振動板70を、接着剤で接合する。
【0073】
ここで、前述した圧電アクチュエータ作製工程において、グリーンシートの焼成後に得られた、圧電材料からなる振動板70の表面には、凹凸が生じたり、あるいは、微細な異物が付着したりすることが少なからずある。しかし、流路ユニット31の、圧電アクチュエータ32との接合面が、軟質材料である樹脂材料からなる第1キャビティプレート41の上面となっている。そのため、たとえ、その下面において凹凸や異物が存在する圧電アクチュエータ32が流路ユニット31に接合された場合でも、軟質の接合面によって圧電アクチュエータ32に生じる応力集中を緩和することができる。従って、圧電層71や振動板70における割れの発生や、その割れに圧力室53内の液体が浸透して電気的なショートを引き起こすといった問題を防止することが可能となる。
【0074】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0075】
まず、第1キャビティプレート41の圧力室形成孔53aの外側領域に形成される孔に関して、以下のような変更を加えることが可能である。
【0076】
(変更形態1)
第1キャビティプレート41の圧力室形成孔53aの外側領域に形成される貫通孔が、圧力室の配列方向に連続的に延在している必要は必ずしもなく、図7に示すように、複数の貫通孔55Aが、圧力室53の配列方向(図8の上下方向)に沿って間隔を空けて配置されてもよい。
【0077】
(変更形態2)
図8に示すように、第1キャビティプレート41の圧力室形成孔53aの短手方向に関する両側にも、貫通孔55Bが形成されてもよい。この場合には、各圧力室53のほぼ全周にわたって側壁部41aの剛性が低下するため、振動板70が一層撓みやすくなる。
【0078】
(変更形態3)
図9に示すように、第1キャビティプレート41に形成される孔55Cが、このプレート41を厚み方向に貫通する孔ではなく、凹状の孔であってもよい(変更形態3)。この場合でも、圧力室53の側壁部41aの剛性がある程度低下することから、振動板70の撓み変形を促進するという効果が得られる。
【0079】
(変更形態4)
圧電アクチュエータ32の振動板70が接合される、最上層の第1キャビティプレート41が、第2キャビティプレート42よりも軟質の材料(例えば樹脂材料)で形成される必要は必ずしもなく、第1キャビティプレート41と第2キャビティプレート42が同じ材料(例えば金属材料)で形成されてもよい。その場合、圧力室53の側壁部の剛性をより低下させる必要がある場合は、上層の第1キャビティプレート41の板厚が、第2キャビティプレート42の板厚よりも薄くなっていると効果的である。また、金属材料は、第1キャビティプレート41と第2キャビティプレート42とが異素材の金属材料でもよく、その場合も、板厚を調整することにより、効果的に圧力室53の側壁部の剛性を低下させることができる。
【0080】
(変更形態5)
図10に示すように、圧力室53が3枚以上のキャビティプレートで形成されてもよく、圧力室53としての容積を大きくすることもできる。尚、この場合には、少なくとも最上層のキャビティプレート41の圧力室形成孔53aの外側領域に孔55Dが形成される一方で、最下層のキャビティプレート42には孔が形成されない。また、圧力室53の側壁部の剛性をかなり低下させる必要がある場合には、中間層のキャビティプレート80にも、最上層のキャビティプレート41の貫通孔55Dに連なる孔が形成されてもよいし、逆に、側壁部の剛性をそれほど大きく低下させる必要がない場合には、中間層のプレート80には、最下層のプレート42と同様に孔が形成されなくてもよい。
【0081】
また、本発明を適用可能な圧電アクチュエータの構造は、前記実施形態で例示したものに限られず、以下のような変更を加えることが可能である。
【0082】
(変更形態6)
圧電アクチュエータ32の振動板が圧電材料からなる層である必要は特にない。従って、例えば、ステンレスやニッケル含有合金などの金属材料からなる振動板や、圧電特性を有さないセラミックス材料(例えば、アルミナやジルコニア等)からなる振動板が用いられてもよい。
【0083】
(変更形態7)
圧電アクチュエータは、1枚の振動板と1枚の圧電層からなる、2層構造のユニモルフ式アクチュエータに限られるものではない。例えば、図11に示すように、1枚の振動板70の上面に、電極83,84,85に挟まれた2枚の圧電層81,82(活性層)が配置されている、ユニモルフ式アクチュエータであってもよい。
【0084】
(変更形態8)
さらに、圧電アクチュエータは、ユニモルフ式アクチュエータ、即ち、主に、圧電層に生じる圧電横効果(面方向の収縮)によって振動板を変形させるものに限られず、主に圧電縦効果(厚み方向の伸張)によって振動板を変形させる、積層型のアクチュエータであってもよい。尚、積層型の圧電アクチュエータとは、図12に示すように、振動板70の上面に、それぞれ2種類の電極94,95に挟まれた、複数枚の圧電層90,91,92(活性層)が配置された構造を有し、複数枚の圧電層90,91,92がそれぞれ圧電縦効果によって厚み方向に伸びることを利用して、圧力室53内のインクに接する振動板70を撓ませるものを指す。この積層型の圧電アクチュエータが採用された場合でも、振動板が接合される、第1キャビティプレート41の圧力室形成孔53aの外側領域に孔55が形成されていると、圧力室53の側壁部41aの剛性が低下して、振動板70が撓みやすくなるという効果が得られる。
【0085】
以上、本発明の実施の形態として、圧力室内のインクに圧力を付与してノズルから噴射させる、インクジェットヘッドに本発明を適用した例を挙げて説明したが、本発明の適用対象は、このようなインクジェットヘッドに限られるものではない。即ち、インク以外の液体、例えば、薬液や化学溶液等の液体を、外部への液滴噴射以外の目的で所定の位置まで移送する、様々な分野で使用される液体移送装置に本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略平面図である。
【図2】インクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図3】インクジェットヘッドの一部拡大平面図である。
【図4】流路ユニット(第1キャビティプレート)の一部拡大平面図である。
【図5】(a)は図3のV-V線断面図、(b)は個別電極に駆動電位が印加された状態を示すインクジェットヘッドの一部拡大断面図である。
【図6】インクジェットヘッドの製造工程を示す図であり、(a)は流路ユニットと圧電アクチュエータの接合前の状態を示す図、(b)は接合後の状態を示す図である。
【図7】変更形態1の第1キャビティプレートの一部拡大平面図である。
【図8】変更形態2の第1キャビティプレートの一部拡大平面図である。
【図9】変更形態3のインクジェットヘッドの図5相当の断面図である。
【図10】変更形態5のインクジェットヘッドの図5相当の断面図である。
【図11】変更形態7のインクジェットヘッドの図5相当の断面図である。
【図12】変更形態8のインクジェットヘッドの図5相当の断面図である。
【符号の説明】
【0087】
3 インクジェットヘッド
31 流路ユニット
32 圧電アクチュエータ
41 第1キャビティプレート
42 第2キャビティプレート
49 ノズルプレート
53 圧力室
53a 圧力室形成孔
53b 圧力室形成孔
54 ノズル
55,55A,55B,55D 貫通孔
55C 孔
70 振動板
71 圧電層
72 個別電極
73 共通電極
81,82 圧電層
83,84,85 電極
90,91,92 圧電層
94,95 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室を含む液体流路が形成された流路ユニットと、
前記圧力室内の液体に圧力を付与する圧電アクチュエータとを備えた液体移送装置であって、
前記圧電アクチュエータは、前記圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に接合された振動板と、前記振動板の前記流路ユニットと反対側の面に配置された圧電層と、前記圧電層の両面の前記圧力室と対向する領域にそれぞれ配置された第1電極及び第2電極とを備え、
前記流路ユニットは、
互いに積層されるとともに前記圧力室の一部分をそれぞれ形成する圧力室形成孔が設けられた、少なくとも第1圧力室形成層と第2圧力室形成層の、2枚の圧力室形成層を有し、
前記2枚の圧力室形成層のうち、上層に位置してその表面に前記振動板が接合される前記第1圧力室形成層の、前記圧力室形成孔の外側領域に、孔が形成されていることを特徴とする液体移送装置。
【請求項2】
前記孔が、前記第1圧力室形成層を厚み方向に貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項1に記載の液体移送装置。
【請求項3】
前記第1圧力室形成層は、前記第2圧力室形成層よりも軟質の材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体移送装置。
【請求項4】
前記第1圧力室形成層は、樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の液体移送装置。
【請求項5】
前記流路ユニットは、少なくとも最上層に位置する前記第1圧力室形成層とその下の前記第2圧力室形成層とを含む、複数の層からなる積層体を有し、
前記積層体を構成する複数の層のうち、前記第1圧力室形成層と反対側に位置する最下層が、樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項4に記載の液体移送装置。
【請求項6】
前記最下層が、前記圧力室に連通する液滴噴射用ノズルが形成されたノズルプレートであることを特徴とする請求項5に記載の液体移送装置。
【請求項7】
圧力室を含む液体流路が形成された流路ユニットと、
前記圧力室内の液体に圧力を付与する圧電アクチュエータであって、前記圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に接合された振動板と、前記振動板の前記流路ユニットと反対側の面に配置された圧電層と、前記圧電層の両面の前記圧力室と対向する領域にそれぞれ配置された第1電極及び第2電極とを含む、圧電アクチュエータと、
を備えた液体移送装置の製造方法であって、
前記流路ユニットを作製する流路ユニット作製工程と、
前記圧電アクチュエータを作製するアクチュエータ作製工程と、
を有し、
前記流路ユニット作製工程において、前記圧力室の一部分をそれぞれ形成する圧力室形成孔が設けられた、少なくとも第1圧力室形成層と第2圧力室形成層の、2枚の圧力室形成層を積層させるとともに、
前記2枚の圧力室形成層のうち、上層に位置してその表面に前記振動板が接合される前記第1圧力室形成層の、前記圧力室形成孔の外側領域に、孔を形成することを特徴とする液体移送装置の製造方法。
【請求項8】
前記孔が、前記第1圧力室形成層を厚み方向に貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項7に記載の液体移送装置の製造方法。
【請求項9】
前記流路ユニット作製工程において、前記第1圧力室形成層を、前記第2圧力室形成層よりも軟質の材料で形成することを特徴とする請求項8に記載の液体移送装置の製造方法。
【請求項10】
前記流路ユニット作製工程において、前記第1圧力室形成層を、樹脂材料で形成することを特徴とする請求項9に記載の液体移送装置の製造方法。
【請求項11】
前記流路ユニット作製工程において、少なくとも最上層に位置する前記第1圧力室形成層とその下の前記第2圧力室形成層とを含む、複数の層からなる積層体を作製するとともに、前記積層体を構成する複数の層のうち、前記第1圧力室形成層と反対側に位置する最下層を、前記第1圧力室形成層と同様に、樹脂材料で形成し、
前記積層体を構成する前記複数の層を、加熱しながら接着剤で接合することを特徴とする請求項10に記載の液体移送装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−178844(P2009−178844A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17035(P2008−17035)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】