説明

液体組成物の攪拌方法、検出方法及び検出キット

【課題】反応容器が小さくても有効に液体組成物を攪拌することができ、信頼性の高い高感度な検査結果を短時間で出力することが可能な磁気バイオセンサのための検出方法を提供する。
【解決手段】検出部と非検出部とから構成される検出素子を用いて磁性マーカーを検出する検出方法において、(1)前記検出素子と、前記磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物を接触させる工程、(2)前記ゲル粒子を体積相転移させる工程、(3)前記検出部近傍に存在する磁性マーカーを検出する工程とを有する検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物の攪拌方法、また液体組成物中の標的物質を磁気検出する磁気バイオセンサにおいて、検出時間の短縮、及び検出感度を向上するための検出方法、及び検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、生体や生体分子の持つ分子認識能を活用した計測デバイスである。生体内には、互いに親和性のある物質の組み合わせとして、例えば、酵素−基質、抗原−抗体、DNA−DNA等がある。バイオセンサでは、これらの組み合わせの一方を基材に固定もしくは担持して用いることによって、もう一方の物質を選択的に計測する。
【0003】
近年、バイオセンサは医療分野のみならず、環境や食料品等への幅広い応用が期待され、その使用領域を広げるためにも、あらゆる場所に設置あるいは持ち運び可能な小型、軽量、高感度なバイオセンサが望まれている。
そして、現在、高感度センシング方式のひとつとして、磁気センサを用い、検出部の表面近傍に位置する磁性マーカーの有無、数を検知することにより、液体組成物中の標的物質の有無、濃度を検出するバイオセンサの研究が盛んに進められており、固相分析にも用いられている。
【0004】
図6に、従来の磁性マーカーを用いた固相分析法の一例を示す。図6に示す方法においては、まず予め、検出部に、標的物質5(抗原抗体反応の場合はエピトープと呼ばれる)を特異的に認識し捕捉することができる第一の捕捉体成分3a(抗原抗体反応の場合は一次抗体と呼ばれる)を固定化する。次に、標的物質を含む液体組成物を接触させる。この操作により、標的物質が第一の捕捉体成分に特異的に捕捉される。次に、第一の捕捉体成分により特異的に捕捉された標的物質を特異的に認識し、捕捉することができる第二の捕捉体成分4a(抗原抗体反応の場合は二次抗体と呼ばれる)を有する磁性マーカー9を液中に投入する。この操作により、第二の捕捉体成分が、検出部に固定化された第一の捕捉体成分に特異的に捕捉された標的物質に捕捉され(サンドイッチ法)、結果的に図6のように、標的物質を介して、磁性マーカーが検出部近傍に固定化される。
【0005】
また、異なる方法として、予め、標的物質を含む液体組成物中に、第二の捕捉体成分を有する磁性マーカーを加えて、“標的物質−第二の捕捉体成分”複合体を形成させる。その複合体を検出部に固定化された第一の捕捉体成分と接触させることによって、結果的に、図6のように、標的物質を介して、磁性マーカーを検出部近傍に固定化することも可能である。
【0006】
そして、このような検出部に固定化された磁性マーカーの数を何らかの手法で測定する事で、目的とする標的物質の数、濃度を計算することが可能となる。
このような磁気検出の手法を用いたバイオセンサとして、以下の手法が提案されている。
【0007】
標識としての磁性体を抗原抗体反応により液体組成物中に含まれる標的物質に結合させ、該標識を磁化した上で、磁気センサーとしてのSQUID(超電導量子干渉計)により該標識を検出する免疫検査方法が開示されている(特許文献1)。ここで使用される磁気マーカーは20から40nmの磁性粒子をポリマーで被覆し、40から100nmのサイズと規定することが前記SQUIDの感度向上に寄与することを開示している。前記SQUIDは、極めて高い検出感度を有するが、液体ヘリウムを用いて極低温環境下で検出を行う必要があり、小型化、軽量化が困難、高いランニングコストを必要とするという課題がある。
【0008】
そこで、上記問題を解決する為に、小型で且つ室温での測定が可能である磁気センサを用いたバイオセンサが提案されている。磁性粒子を検出可能な小型の磁気センサには、様々な種類が有り、例えばホール効果素子(特許文献2)、磁気抵抗効果素子(特許文献3)、磁気インピーダンス素子(特許文献4)等が挙げられる。
【特許文献1】特開2001−033455号公報
【特許文献2】WO03−067258号公報
【特許文献3】米国特許5981297号明細書
【特許文献4】特開平10‐234694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、バイオセンサでは微量な標的物質を検知する目的や、ランニングコストの低減を実現するために1項目の検査に必要な液体組成物量の低減を進めている。低減された液体組成物量においても正確な検査結果を得るためには、検出部と液体組成物を接触させるための反応容器を可能な限り小さくすることが必要である。
【0010】
しかし、このように小さな反応容器を使用するバイオセンサの場合、液体組成物を混合する攪拌棒の挿入、及び回転等の運動が物理的に困難となり、さらに、固液反応における反応効率の低さと相まって、検出時間や検出感度の点で致命的な問題が生じる場合がある。
【0011】
そこで本発明は、反応容器が小さくても液体組成物を攪拌することができる液体組成物の攪拌方法を提供するものである。
また、本発明は、反応容器が小さくても液体組成物を攪拌することができるため、信頼性の高い高感度な検査結果を短時間で出力することが可能な磁気バイオセンサのための検出方法、及び検出キットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、磁性マーカーとゲル粒子を含有する液体組成物においてゲル粒子を体積相転移させることで、反応容器が小さくても有効に液体組成物を攪拌することができ、磁気バイオセンサにおける検出時間の短縮や検出感度の向上が可能であることを見出し、本発明に至った。
【0013】
上記の課題を解決する液体組成物の攪拌方法は、磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物の攪拌方法であって、前記ゲル粒子を体積相転移させることを特徴とする。
上記の課題を解決する検出方法は、検出部と非検出部とから構成される検出素子を用いて磁性マーカーを検出する検出方法において、(1)前記検出素子と、前記磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物を接触させる工程、(2)前記ゲル粒子を体積相転移させる工程、(3)前記検出部近傍に存在する磁性マーカーを検出する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決する検出キットは、検出部と非検出部とから構成される検出素子を用いて磁性マーカーを検出する検出方法に使用する検出キットであって、前記検出素子と、前記磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、反応容器が小さくても液体組成物を攪拌することができる液体組成物の攪拌方法を提供することができる。
また、本発明は、反応容器が小さくても液体組成物を攪拌することができるため、信頼性の高い高感度な検査結果を短時間で出力することが可能な磁気バイオセンサのための検出方法、及び検出キットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る攪拌方法は、磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物の攪拌方法であって、前記ゲル粒子を体積相転移させることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る検出方法は、検出部と非検出部とから構成される検出素子を用いて磁性マーカーを検出する検出方法において、(1)前記検出素子と、前記磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物を接触させる工程、(2)前記ゲル粒子を体積相転移させる工程、(3)前記検出部近傍に存在する磁性マーカーを検出する工程とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る検出キットは、検出部と非検出部とから構成される検出素子を用いて磁性マーカーを検出する検出方法に使用する検出キットであって、前記検出素子と、前記磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物を有することを特徴とする。
【0019】
前記磁性マーカーのゼータ電位φと、前記ゲル粒子のゼータ電位φの関係がφφ≧0であることが好ましい。
前記磁性マーカーの平均粒子径Dと、前記ゲル粒子の平均粒子径Dの関係がD≦Dであることが好ましい。
【0020】
前記ゲル粒子がハイドロゲル粒子であることが好ましい。
前記ハイドロゲル粒子が温度応答性高分子を構成成分として含有することが好ましい。
図1または図2に本発明の検出方法に用いる磁性マーカー及び検出素子の一例の模式図を示す。2は磁性構造体、3は第一の標的物質補足体、4は第二の標的物質補足体、5は標的物質、7は検出部、8は非検出部を示す。
【0021】
図1では磁性マーカー9が表面に第二の標的物質補足体4を有する形態であり、図2は磁性マーカー9が表面に標的物質5を有する形態である。
また、検出部と非検出部の構成としては、図3に示すような構造とすることもできる。図3に示す構造は、基材1が検出部の一部となる領域と非検出部の一部となる領域とを有する構造である。図3のような構造である場合、第一の標的物質補足体と、基材1のうち第一の標的物質補足体3を表面に形成した領域とから成る部分を検出部7とし、基材1のうちの前記検出部7以外の領域と、該領域の表面に形成される層とからなる部分を非検出部8とする構造である。なお、基材1のうち前記検出部7以外の領域の表面に形成する層が複数層である場合、前記複数の層のうちの最表面の層を被覆層としている。
【0022】
また、磁性マーカーは、図4に示す構造のように磁性構造体の表面に被覆層16を形成し、該被覆層に第一の標的物質補足体を形成しても良い。
本発明は、検出部と非検出部とからなる検出素子を、磁性マーカーとゲル粒子を含有する液体組成物と接触させ、前記検出部の表面近傍に位置する磁性マーカーの有無、数を検知することにより液体組成物中の標的物質の有無、濃度を検出する検出方法に関するものである。
【0023】
図5aはゲル粒子が存在する状態における、ゲル粒子の体積相転移による磁性標識の攪拌の一例を模式的に示す図である。また、5bはゲル粒子が存在しない状態における磁性標識の状態を模式的に示す図である。本発明は、図5(a)に示すように、ゲル粒子を体積相転移させることにより、ゲル粒子の体積変化にともなう機械的攪拌やゲル粒子内外への溶媒分子の交換に基づき生じる対流によって液体組成物中における磁性マーカーの運動性を高めることで、磁性マーカーと検出部の接触頻度を増加させ、ひいては検出時間を短縮し、検出感度を向上させることを特徴としている。
【0024】
(ゲル粒子)
本発明のゲル粒子とは、温度やpHなどの外部環境の変化によって、膨潤状態から収縮状態に急激に変化する現象(体積相転移)を示すことを特徴とする。
【0025】
さらに本発明において、ゲル粒子がハイドロゲルであることが好ましい。一般にハイドロゲルとは、三次元的に架橋された高分子網目が多量の水を含有して膨潤した状態であると定義されるが、本発明においてはより広義に、多量の水を含有する親水性高分子の会合体を意味するものとする。
【0026】
ゲル粒子を体積相転移させるために付与する環境変化として、例えば温度変化、pH変化、光波長変化等が挙げられる。
温度変化によって体積相転移を示すゲル粒子について説明する。
【0027】
このようなゲル粒子を構成する高分子として、少なくとも温度変化に応答して水に対する親和性が変化する温度応答性高分子が含有されることが好ましい。
本発明における温度応答性高分子とは、下限臨界共溶温度を有する高分子化合物である。臨界共溶温度とはある物質の溶解度が低下しはじめる温度であり、特に、特定温度以上で溶解度が低下する場合を下限臨界共溶温度と呼ぶ。このような温度応答性高分子は、高分子鎖中に感熱部位を有し、前記感熱部位として、特にN置換アクリルアミド誘導体の重合体であるポリ(N置換アクリルアミド)を有することが好ましい。ただし、ポリ(N置換アクリルアミド)以外であっても、同様の効果が期待できる範囲において、別の物質を感熱部位とすることも可能である。
【0028】
次に、pHの変化によって体積相転移を示すゲル粒子について説明する。
このようなゲル粒子を構成する高分子として、少なくともアミノ基やカルボキシル基などの荷電性官能基を含有する荷電性高分子が好ましい。例えば、アミノ基、あるいはカルボキシル基を有する荷電性高分子の場合、それぞれの官能基は任意のpH領域を境に解離、あるいは未解離の状態となる。荷電性官能基が解離している場合には、浸透圧の増加に基づいてゲル粒子が膨潤し、逆に未解離の状態である場合には、浸透圧の減少に基づいてゲル粒子の収縮が生じる。一方、例えば、アミノ基とカルボキシル基を両方有するような両性の荷電性高分子である場合には、正に荷電する官能基と負に荷電する官能基の解離バランスによって、あるpH領域において等電点を有する。つまり、両性の荷電性高分子を構成成分とするゲル粒子の場合、等電点において収縮状態となり、それ以外の条件では膨潤状態となる。ただし、本発明における荷電性官能基や荷電性高分子は例示した化合物に限られるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる化合物も適用可能である。
【0029】
次に、照射する光波長の変化によって体積相転移を示すゲル粒子について説明する。
このようなゲル粒子を構成する高分子として、少なくとも照射する光波長の変化に応答して水に対する親和性が変化する光応答性高分子が好ましい。このような高分子として、アゾベンゼン含有化合物およびその重合体を例として挙げることができる。通常置換基のないトランス(trans)体のアゾベンゼンは、疎水性を有する。前記trans体のアゾベンゼンは紫外光照射(λmax=320nm)によりアゾ基のπ結合が励起されてシス(cis)体への異性化が生じる。これにより、親水性を有する。アゾベンゼン含有化合物およびその重合体は、トランス体とシス体で分子極性が大きくことなるため、本発明における光応答性高分子として好ましく適用することができる。ただし、本発明における光応答性部位は、アゾベンゼン含有化合物およびその重合体に限られるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる化合物も適用可能である。
【0030】
(標的物質補足体)
本発明の標的物質捕捉体を説明する前に、本発明における標的物質について説明する。
標的物質は検出素子と反応させる液体組成物に含まれており、検出部が表面に有する標的物質捕捉体によって捕捉される。
【0031】
本発明では、標的物質を用いて検出対象を検出することができれば良い。したがって、検出対象自体が標的物質であり、捕捉体によって直接検出対象を捕捉することで検出しても良いし、標的物質と検出対象が異なっており、標的物質捕捉体によって標的物質を検出することで間接的に検出対象の検出を行っても良い。後者の例としては、検出対象が存在することによって、標的物質が生じる場合などである。したがって、検出対象は生物の体内に存在する化学物質(生体物質)に限るものではなく、またそのサイズも限定されるものではない。ただし、標的物質は糖、蛋白質、アミノ酸、抗体、抗原や疑似抗原、ビタミン、遺伝子などの生体物質、及び、その関連物質や人工的に合成された擬似生体物質であることが望ましい。更に、液体組成物は、検出対象物質を含む試料そのものであっても良く、試料に対して、標的物質の抽出処理、分離処理、希釈処理及び精製処理等の各種処理を経て調製したものであってもよい。液体組成物は、標的物質の種類に応じた液媒体、例えば水や緩衝液、水と水溶性の有機溶媒との混合物などを用いて調製される。
【0032】
本発明に使用される標的物質捕捉体の例としては、前述した標的物質の例を捕捉できるものであり、酵素、抗体および抗原などのタンパク質、DNA、RNA、糖鎖などが挙げられるが、これに限る物ではない。
【0033】
本発明における標的物質−標的物質捕捉体の組み合わせの例としては、抗原−抗体、酵素−基質、DNA−DNA、DNA−RNA、DNA−タンパク質、RNA−タンパク質、糖鎖−タンパク質等が挙げられるが、特異的に結合を有する関係のものであれば特に制限されるものではない。なお、これらは組み合わせを示しているものである。したがって、標的物質−標的物質捕捉体の組み合わせとして、「A−B」と記載する場合は、標的物質としてA、標的物質捕捉体としてBを用いる場合と、標的物質としてB、標的物質捕捉体としてAを用いる場合の両方を表しているものとする。
【0034】
(磁性マーカー)
本発明に用いる磁性マーカーは、少なくとも磁性構造体と、該磁性構造体の表面に存在する標的物質を捕捉する第二の標的物質捕捉体もしくは標的物質とを有している。このような磁性マーカーは、検出部が表面に有する捕捉体に標的物質を捕捉させる状態において、標的物質検出のための標識としての物性や特性を満たすものであればよい。したがって、磁性構造体には、通常用いられる常磁性、超常磁性を示す磁性微粒子(磁性ビーズ)などから選択して用いることができる。
【0035】
前記磁性構造体を構成する磁性体材料としては、例えば、金属酸化物を用いることができる。金属酸化物の中でも、磁性マーカーの磁性構造体として一般的に使用されているフェライトやマグネタイトといった鉄酸化物の粒子は、生理活性条件下で十分な磁性を有し、溶媒中で酸化等の劣化が起こりにくいことから好ましい。フェライトは、マグネタイト(Fe)、マグヘマイト(γ−Fe)、及びこれらのFeの一部を他の原子で置換した複合体から選択される。他の原子としては、Li、Mg、Al、Si、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Ta、Wの少なくともいずれかが挙げられる。
【0036】
また、磁性体材料から成る基体をコアとして、該基体に後述する被覆層(シェル)を形成することで積層構造の磁性構造体を得ることもできる。このようなコアシェル形状の磁性構造体としては、例えば金属酸化物からなる粒子を基体として、前記金属酸化物からなる基体の粒子の表面にスチレン系、デキストラン系、アクリルアミド系等の樹脂から選択されたポリマー層(樹脂層)を被覆したコアシェル粒子が挙げられる。ここで、スチレン系の樹脂とは、スチレンおよびスチレン誘導体からなる樹脂のことであり、デキストラン系樹脂やアクリルアミド系の樹脂についても同様のことを示すものとする。また、スチレン系樹脂、デキストラン系樹脂、アクリルアミド系樹脂を形成するそれぞれのモノマーのうち少なくとも2つを共重合させた樹脂も、スチレン系、デキストラン系、アクリルアミド系等の樹脂に含むものとする。
【0037】
また、金属酸化物と樹脂層からなる積層構造体を磁性構造体として磁性マーカーに用いることができる。例えば、前記コアシェル粒子を基体として、基体表面に更に被覆層を形成した積層構造体を磁性構造体として用いることができる。またコアシェルタイプ以外にも、磁性体材料からなる粒子をスチレン系、デキストラン系、アクリルアミド系等の樹脂内に分散させた粒子や、樹脂からなる粒子の表面に磁性体材料からなる微粒子が担持された粒子も本発明の磁性構造体として用いることができる。このような磁性構造体として、市販されているものでは、例えば、Dynal社から市販されているダイナビーズ、micromod社から市販されているmicromer−M、nanomag−D、メルク社から市販されているエスタポール等があり、これらを用いることもできる。
【0038】
磁性構造体の大きさは、検出素子の形状、大きさ、或いは用途によって様々に選択する事が可能であるが、一般的に3nmから500μmの直径を有するものが好ましい。より好ましくは3nmから10μmであり、更に好ましくは5nmから1μmの直径を有するものである。なお、磁性構造体の直径もしくは平均粒径は、動的光散乱法で測定できる。
【0039】
また、磁性マーカーは、磁性構造体の表面に標的物質を捕捉する捕捉体を有していることが好ましい。なお、検出部が有する標的物質捕捉体(以下、第一の標的物質捕捉体)が液体組成物中の標的物質における第一の領域を特異的に認識して捕捉し、磁性マーカーが有する標的物質捕捉体(以下、第二の標的物質捕捉体)が液体組成物中の標的物質における第二の領域を特異的に認識して捕捉することが好ましい。ここで、第二の領域とは、第一の領域とは別の領域のことであり、標的物質における第一の領域以外の領域の少なくとも一部のことを示す。このような場合、磁性マーカーおよび検出部の両方が標的物質捕捉体を表面に有していることにより、標的物質と検出部および標的物質と磁性マーカーが相互作用する。すなわち、磁性マーカーの表面に存在する第一の標的物質捕捉体と検出部表面に存在する第二の標的物質捕捉体の両者が標的物質を捕捉する。したがって、標的物質を介して磁性マーカーが検出部表面近傍に固定され、検出部が磁性マーカーを検出し、容易に標的物質の検出を行うことができる。
【0040】
なお、磁性マーカーが表面に第二の標的物質捕捉体を有していなくても、磁性マーカーが標的物質を磁性構造体の表面に有し、該標的物質を検出部表面に存在する標的物質捕捉体が捕捉することにより標的物質の検出を行うことも可能である。このような場合、磁性マーカーが表面に有する標的物質は磁性マーカーに固定化される領域と、検出部表面に存在する標的物質捕捉体によって捕捉される領域の少なくとも2つの領域を有することが好ましい。
【0041】
(被覆層)
本発明による磁性マーカーおよび検出素子は、前述したように、複数の層の積層体からなる構造とすることができる。複数の層からなる積層体は、例えば、基体の表面に少なくとも1つの層を形成することで得ることができる。このような場合、基体を含む複数の層からなる積層体の最表面の層を被覆層と呼ぶ。したがって、基体の表面に対して一つの層を形成する場合、前記層を被覆層と呼ぶ。
【0042】
これらの被覆層の材質は、例えば、ガラス等無機材料、樹脂等有機材料、シリコン等半導体材料、金属材料等から目的に応じて選択した材料を用いることが可能である。
更には、標的物質もしくは標的物質捕捉体が生体物質である場合、これらの被覆層は親水性の層であることが望ましい。
【0043】
一般的にタンパク質等の生体物質は疎水性であるため、被覆層が疎水性である場合には、「疎水性相互作用」により、被覆層への非特異的吸着が生じやすくなる場合がある。
例えば、検出部表面の第一の標的物質捕捉体以外に標的物質が非特異的に吸着した場合、非特異的に吸着した前記標的物質を磁性マーカーの表面に存在する第二の標的物質捕捉体が捕捉することで、前記磁性マーカーのシグナルがノイズとして発生する。このようなノイズは、検出感度や精度を下げる要因となりえる。また、磁性マーカーが表面に有する第二の標的物質捕捉体や、磁性マーカーが表面に有する標的物質が、標的物質を介することなく、直接、非検出部や検出部に非特異的に吸着した場合、同様に、検出感度や精度を下げる要因となりえる。
【0044】
一方、被覆層が親水性である場合には、生体物質の非特異的な吸着の原因のひとつである「疎水性相互作用」を低減することができるため、生体物質の非特異吸着を低減することが可能となるのである。
【0045】
(磁性マーカーとゲル粒子の関係)
ゼータ電位とは、表面電位によって形成された電気二重層のすべり面での電位と定義される物性値である。固体表面の帯電状態を表すことから、粒子同士の凝集や、粒子が界面へ吸着する際の駆動力を説明する際に重要な指標として用いることができる。
【0046】
本発明において、磁性マーカーのゼータ電位φと、前記ゲル粒子のゼータ電位φの関係がφφ≧0であることが特徴である。ゼータ電位が同符号である場合、磁性マーカーとゲル粒子には静電的な反発力が働くため、互いに凝集することなく液体組成物中に共分散させることが可能となる。逆に、ゼータ電位が異符号である場合には、磁性マーカーとゲル粒子には静電的な引力が働いて互いに会合することから、本発明の検出方法においてノイズを生じる可能性があり好ましくない。磁性マーカーとゲル粒子のゼータ電位が互いに0である場合には、粒子間に静電相互作用は生じないことから共分散させた場合の分散系が不安定になるが、分散系を維持するための何らかの措置が講じられる場合に限り適用可能である。分散系を維持するための何らかの措置の一例として、高分子分散剤や低分子分散剤を分散系に添加する方法が挙げられるが、本発明はこれに限られない。
【0047】
また本発明において、ゲル粒子のゼータ電位φと前記検出素子のゼータ電位φの関係がφφ≧0であることが特徴である。このようにゼータ電位が同符号である場合、ゲル粒子と検出素子には静電的な反発力が働くため、ゲル粒子が検出素子に非特異的に吸着することを抑制することが可能になる。さらに、磁性マーカーのゼータ電位とゲル粒子のゼータ電位とが同符号である場合には、磁性マーカーの検出素子への非特異吸着を抑制することができる。一方、ゼータ電位が異符号である場合には、ゲル粒子、及び磁性マーカーと検出素子には静電的な引力が働くため非特異吸着を抑制することが困難であり好ましくない。ゲル粒子、磁性マーカー、検出素子のいずれかのゼータ電位が0、あるいはいずれのゼータ電位も0である場合には、静電的に非特異吸着を抑制することが困難な場合があるが、非特異吸着を抑制する何らかの措置が講じられる場合に限り適用可能である。非特異吸着を抑制する何らかの措置の一例として、高分子分散剤や低分子分散剤を分散系に添加する方法が挙げられるが、本発明はこれに限られない。
【0048】
本発明おいて、磁性マーカーの平均粒子径Dと、前記ゲル粒子の平均粒子径Dの関係が、D≦Dであることが特徴である。より好ましくは5D≦Dであり、さらに好ましくは10D≦Dである。本発明は、ゲル粒子を体積相転移させて液体組成物を攪拌することにより、液体組成物中の磁性マーカーの運動性を高めることが狙いであるため、ゲル粒子の粒子径が磁性マーカーの粒子径に対して小さい場合には、十分な攪拌効果を得ることが難しく好ましくない。ただし本発明におけるゲル粒子の平均粒子径は膨潤状態における粒子径を意味する。
【0049】
(検出素子)
本発明に用いる検出素子は、標的物質捕捉体を表面に有する検出部と、非検出部と、からなるものである。標的物質捕捉体によって標的物質が捕捉されることによって、磁性マーカーが検出部近傍に固定される。磁性マーカーが検出部近傍に位置すると、検出部によって磁性マーカーが認識され、この際の磁性マーカーの有無によるシグナルの変化を利用して標的物質の検出を行う。
【0050】
本発明において、検出素子の検出部は、磁性マーカーの有無、量によって、液体組成物中の標的物質の有無、量を測定する機能を有する部分のことであり、表面に標的物質を捕捉する標的物質捕捉体を有する。また、非検出部とは検出素子における検出部以外の部分を示す。検出素子が有する非検出部と検出部は隣接していれば良く、一部が接していても良いし、非検出部が検出部の周囲に位置していても良い。
【0051】
検出部および非検出部は一層で構成されていても良く、複数の層の積層体で構成されていても良い。また、検出部もしくは非検出部の表面電位は、検出部もしくは非検出部表面の検出部は検出部表面に予め活性基を有する分子などを固定化し、その後活性基によって捕捉体を固定化することが好ましい。
【0052】
(検出キット)
本態様の検出キットは磁性マーカーおよび検出素子からなるものであり、前述した検出素子およびからなるものである。すなわち、液体組成物との接触による検出素子の検出部表面へ標的物質を取り込み、さらに検出部表面近傍に存在する磁性マーカーの有無、数を検知する事により、液体組成物中の標的物質の有無、濃度を検出することができるキットである。
【0053】
(検出方法)
本発明の検出方式は、検出部表面近傍に位置する磁性マーカーの有無、数を検知し、予め作成した検量線と比較することにより、液体組成物中の標的物質の有無、濃度を検出する。以下、検出方法の例について以下に述べる。
【0054】
(第一の検出方法例)
検出部表面に第一の標的物質捕捉体を固定化する。その後、液体組成物を検出部に接触させる。この際、液体組成物中に所望の標的物質が存在するならば、第一の標的物質捕捉体が標的物質を捕捉する。検出部表面の液体組成物を洗浄し、不要な物質を除去した後、標的物質を捕捉する第二の標的物質捕捉体を表面に固定化させた磁性マーカーとゲル粒子を含む溶液を、前記洗浄後の検出素子の検出部表面に接触させる。次に前記ゲル粒子を温度変化、pH変化、照射する光波長の変化など、任意の環境変化によって体積相転移させる。なお、体積相転移の回数は、1回であっても複数回であっても本発明を効果的に実施可能な範囲において制限されない。
【0055】
次に、検出部の表面を洗浄し、検出部に結合しなかった磁性マーカーとゲル粒子を除去する。その後、磁性マーカーを検出することによって、間接的に標的物質を検出することができる。
【0056】
このような系としては、例えば、標的物質が抗原であり、第一の標的物質捕捉体が一次抗体、第二の捕捉体が二次抗体である場合などが挙げられる。この際、第一の標的物質捕捉体における標的物質の捕捉とは、抗原抗体反応のことを意味する。
【0057】
(第二の検出方法例)
第一の例と同様に、検出部表面に第一の標的物質捕捉体を固定化する。次に、磁性マーカーの表面に標的物質を固定化する。標的物質が固定化された磁性マーカーを含む液体組成物を検出部表面に接触させた後に、検出部表面を洗浄し、検出部に結合しなかった磁性マーカーを除去する。その後、磁性マーカーを検出することによって、間接的に標的物質を検出することができる。
【0058】
このような系としては、例えば、標的物質が抗原かつ第一の標的物質捕捉体が抗体である場合や、標的物質が抗体かつ第一の標的物質捕捉体が抗原である場合などが挙げられる。
【0059】
なお、第一および第二のいずれの例においても、検出部表面近傍に存在する磁性マーカーを検出する方法であれば、検出手段には如何なる手段を用いても良い。中でも、検出部表面に磁性マーカーが存在する際の磁界効果を利用する方式が好ましく、特に、磁気抵抗効果素子、ホール効果素子、超電導量子干渉計素子が好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
(磁性構造体の合成)
オレイン酸で疎水化したマグネタイト(粒子径8nm)をスチレンとグリシジルメタクリレートの混合溶液に分散させ、さらにその分散液をドデシル硫酸ナトリウム水溶液と混合して混合液とする。この混合液を超音波ホモジナイザーを用いて乳化した後、30分間の窒素バブリングを行い、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(2,2’−Azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride、以下、V−50と呼ぶ)を添加して70℃にて重合する。重合開始2時間後、グリシジルメタクリレートを添加して、さらに70℃にて20時間重合し磁性構造体1を得る。遠心分離法により磁性構造体1を精製した後、アミノエタンチオール水溶液に磁性構造体1を添加して、室温、pH9にて20時間反応し、表面にアミノ基と水酸基が混在する磁性構造体2を得る。
【0061】
また、磁性構造体1をメルカプト酢酸水溶液に添加して室温、pH9にて20時間反応し、表面にカルボキシル基と水酸基が混在する磁性構造体3を得る。DLS8000(大塚電子)にて磁性構造体2の水中における平均粒子径を評価したところ、275nmであることが確認される。また、ZEECOM(マイクロテックニチオン)によりゼータ電位を評価したところ、+12mVであることが確認される。同様に、磁性構造体3の水中における平均粒子径を評価したところ、283nmであることが確認される。また、ゼータ電位を評価したところ、−15mVであることが確認される。
【0062】
(ハイドロゲル粒子の合成)
N−イソプロピルアクリルアミドとメチレンビスアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、アゾビスイソブチロニトリルをトルエンに溶解させ、窒素バブリングにより30分間の窒素置換を行う。さらにこの溶液をドデシル硫酸ナトリウム水溶液と混合して混合液とする。この混合液をせん断式ホモジナイザーにて乳化した後、30分間の窒素バブリングを行い、60℃に昇温して重合する。重合開始2時間後、エタノールに溶解させたアクリルアミドとメチレンビスアクリルアミド、グリシジルメタクリレートを添加して、さらに60℃にて20時間重合してゲル粒子を得る。遠心分離法によりゲル粒子を精製した後、アミノエタンチオール水溶液にゲル粒子を添加して、室温、pH9にて20時間反応し、表面にアミノ基と水酸基が混在するアミノ化ゲル粒子を得る。また、ゲル粒子をメルカプト酢酸水溶液に添加して室温、pH9にて20時間反応し、表面にカルボキシル基と水酸基が混在するカルボキシル化ゲル粒子を得る。遠心分離法により精製した後、沈降法、及び遠心分離法により分級し以下のような評価結果を得る。
以下、せん断式ホモジナイザーのせん断速度を適宜変化させて作製した平均粒子径の異なるゲル粒子1からゲル粒子5の物性を示す。
【0063】
(1)ゲル粒子1
34℃における水中の平均粒子径が12μmでゼータ電位が+8mV、38℃における水中の平均粒子径が5μmでゼータ電位が+19mVであることが確認される。
(2)ゲル粒子2
34℃における水中の平均粒子径が3μmでゼータ電位が+7mV、38℃における水中の平均粒子径が1.4μmでゼータ電位が+21mVであることが確認される。
(3)ゲル粒子3
34℃における水中の平均粒子径が1.5μmでゼータ電位が+7mV、38℃における水中の平均粒子径が0.8μmでゼータ電位が+21mVであることが確認される。
(4)ゲル粒子4
34℃における水中の平均粒子径が0.3μmでゼータ電位が+9mV、38℃における水中の平均粒子径が0.15μmでゼータ電位が+24mVであることが確認される。
(5)ゲル粒子5
34℃における水中の平均粒子径が9μmでゼータ電位が−12mV、38℃における水中の平均粒子径が5μmでゼータ電位が−29mVであることが確認される。
【0064】
(ゲル粒子の体積相転移に基づく攪拌効果の確認)
磁性構造体2を蒸留水に分散させた分散液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかぶせてホットプレートに置き、光学顕微鏡の暗視野モードにて観察する。ホットプレートの温度を34℃から38℃に昇温、38℃から34℃に降温した場合に、磁性構造体2の運動性に変化は観察されないことが確認される。
【0065】
磁性構造体2とゲル粒子1を蒸留水に分散させた分散液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかぶせてホットプレートに置き、光学顕微鏡の暗視野モードにて観察する。ホットプレートの温度を34℃から38℃に昇温、38℃から34℃に降温した場合に、磁性構造体2の運動性に急激な変化が確認される。
【0066】
磁性構造体2とゲル粒子2を蒸留水に分散させた分散液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかぶせてホットプレートに置き、光学顕微鏡の暗視野モードにて観察する。ホットプレートの温度を34℃から38℃に昇温、38℃から34℃に降温した場合に、磁性構造体2の運動性に急激な変化が確認される。
【0067】
磁性構造体2とゲル粒子3を蒸留水に分散させた分散液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかぶせてホットプレートに置き、光学顕微鏡の暗視野モードにて観察する。ホットプレートの温度を34℃から38℃に昇温、38℃から34℃に降温した場合に、磁性構造体2の運動性に緩やかな変化が確認される。
【0068】
磁性構造体2とゲル粒子4を蒸留水に分散させた分散液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかぶせてホットプレートに置き、光学顕微鏡の暗視野モードにて観察する。ホットプレートの温度を34℃から38℃に昇温、38℃から34℃に降温した場合に、磁性構造体2の運動性に大きな変化は観察されないことが確認される。
【0069】
磁性構造体3とゲル粒子3を蒸留水に分散させた分散液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかぶせてホットプレートに置き、光学顕微鏡の暗視野モードにて観察したところ、凝集塊が形成することが確認される。
【0070】
(磁性マーカーの作製)
磁性構造体2に水溶性カルボジイミド(WCS)の存在下、抗PSA抗体(二次抗体)を溶解したリン酸緩衝溶液を反応させて磁性構造体2表面に抗体を固定することで磁性マーカーを得、遠心分離法により精製する。磁性マーカーのゼータ電位を測定したところ+9mVであることが確認される。
【0071】
実施例1
本実施例では、本発明の磁性マーカーを用いて前立腺特異抗原(PSA)を検出するバイオセンサについて説明する。バイオセンサの検出方法として磁気抵抗効果素子を使用する。
【0072】
バイオセンサの検出部上に形成されるAu膜の表面に一次抗体を担持するために、Au膜の表面はまず親水下処理が施された後、アミノシランカップリング剤処理される。さらに、一次抗体を固定化させるためのグルタルアルデヒド等架橋剤を用いて、前記アミノシランカップリング剤由来のアミノ基とペプチド鎖間を結合させて所望の抗原を補足する一次抗体がバイオセンサの検出部に固定されている。このようにして一次抗体を固定化した検出部をゲル粒子1の分散液とゲル粒子5の分散液にそれぞれ一定時間、浸漬させたところ、ゲル粒子5のみ検出部に吸着することが観察され、前記検出部のゼータ電位の値が正であることが予測される。
【0073】
このバイオセンサを用い、以下のプロトコールに従って、前立腺癌のマーカーとして知られるPSA(等電点7.5)の検出を試みることができる。
(1)抗原(標的物質)であるPSAを含むリン酸緩衝生理食塩水に上記バイオセンサの検出部を浸し、5分間インキュベートする。
(2)未反応のPSAをリン酸緩衝生理食塩水で洗浄する。
(3)磁性マーカーと、ゲル粒子1からゲル粒子5をそれぞれ含有するリン酸緩衝液に工程(1)及び(2)が終了した上記バイオセンサの検出部を浸し、3分間インキュベートする。その間、ホットプレート上でリン酸緩衝液の温度を34℃から38℃に昇温、38℃から34℃に降温という操作を1サイクル行う。
(4)未反応の磁性マーカー、及びゲル粒子をリン酸緩衝液で洗浄する。
【0074】
また、比較実験として上記(3)の工程において、ゲル粒子を含まない磁性マーカーのみ含有するリン酸緩衝液についても同様の操作を行う。
上記プロトコールによって、ゲル粒子1からゲル粒子3を用いた実験においては、検出部に多数の磁性マーカーがほとんど凝集することなく固定されていることが確認される。ゲル粒子4を用いた実験とブランク実験においては、検出部への磁性マーカーの固定が確認されたが、ゲル粒子1からゲル粒子3を用いた実験とは明らかに固定された磁性マーカーの数が少ないことが確認される。ゲル粒子5を用いた実験では、磁性マーカーとゲル粒子5の凝集塊が検出部に付着していることが確認される。
【0075】
ゲル粒子1からゲル粒子4を用いた実験、及びブランク実験においては、磁気抵抗効果素子によって磁性マーカーからの妥当な信号強度を検知することが可能であり、標的物質であるPSAを検出できることが確認される。ただし、ゲル粒子1から粒子3を用いた実験では、ゲル粒子4を用いた実験、及びブランク実験と比較して磁性マーカーからの検知される信号強度が大きく、標的物質を短時間で高効率に検出できる可能性が示唆される。
【0076】
実施例2
検出方法を実施例1の磁気抵抗素子からホール効果素子に変更して、実施例1と同様に評価する。この結果、実施例1と同様の実験結果を得られることが確認される。
【0077】
実施例3
検出方法を実施例1の磁気抵抗素子から超電導量子干渉計素子に変更して、実施例1と同様に評価する。この結果、実施例1と同様の実験結果を得られることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、反応容器が小さくても液体組成物を攪拌することができるため、信頼性の高い高感度な検査結果を短時間で出力することができるので、磁気バイオセンサのための検出方法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】磁性標識と検出素子の関係の一例を模式的に示す図である。
【図2】非検出部と検出部からなる検出素子と、表面に標的物質を有する磁性標識の関係の一例を模式的に示す図である。
【図3】表面に被覆層を有する非検出部と検出部からなる検出素子と、磁性標識の関係の一例を模式的に示す図である。
【図4】表面に被覆層を有する非検出部と検出部からなる検出素子と、被覆層を表面に有する磁性標識の関係の一例を模式的に示す図である。
【図5a】ゲル粒子が存在する状態における、ゲル粒子の体積相転移による磁性標識の攪拌の一例を模式的に示す図である。
【図5b】ゲル粒子が存在しない状態における磁性標識の状態を模式的に示す図である。
【図6】従来の磁性標識を用いた固相分析法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0080】
1 基材
2 磁性構造体
3 第一の標的物質捕捉体
3a 第一の捕捉体成分
4 第二の標的物質捕捉体
4a 第二の捕捉体成分
5 標的物質
7 検出部
8 非検出部
9 磁性マーカー
10 基体
14 第二の標的物質捕捉体
16 被覆層
17 収縮状態のゲル粒子
18 膨潤状態のゲル粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物の攪拌方法であって、前記ゲル粒子を体積相転移させることを特徴とする液体組成物の攪拌方法。
【請求項2】
前記磁性マーカーのゼータ電位φと、前記ゲル粒子のゼータ電位φの関係がφφ≧0であることを特徴とする請求項1記載の液体組成物の攪拌方法。
【請求項3】
前記磁性マーカーの平均粒子径Dと、前記ゲル粒子の平均粒子径Dの関係がD≦Dであることを特徴とする請求項1または2記載の液体組成物の攪拌方法。
【請求項4】
前記ゲル粒子がハイドロゲル粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の液体組成物の攪拌方法。
【請求項5】
前記ハイドロゲル粒子が温度応答性高分子を構成成分として含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の液体組成物の攪拌方法。
【請求項6】
検出部と非検出部とから構成される検出素子を用いて磁性マーカーを検出する検出方法において、(1)前記検出素子と、前記磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物を接触させる工程、(2)前記ゲル粒子を体積相転移させる工程、(3)前記検出部近傍に存在する磁性マーカーを検出する工程とを有することを特徴とする検出方法。
【請求項7】
前記磁性マーカーのゼータ電位φと、前記ゲル粒子のゼータ電位φの関係がφφ≧0であり、前記ゲル粒子のゼータ電位φと前記検出素子のゼータ電位φの関係がφφ≧0であることを特徴とする請求項6記載の検出方法。
【請求項8】
前記磁性マーカーの平均粒子径Dと、前記ゲル粒子の平均粒子径Dの関係がD≦Dであることを特徴とする請求項6または7記載の検出方法。
【請求項9】
前記ゲル粒子がハイドロゲル粒子であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかの項に記載の検出方法。
【請求項10】
前記ハイドロゲル粒子が温度応答性高分子を構成成分として含有することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかの項に記載の検出方法。
【請求項11】
検出部と非検出部とから構成される検出素子を用いて磁性マーカーを検出する検出方法に使用する検出キットであって、前記検出素子と、前記磁性マーカーとゲル粒子とを含有する液体組成物を有することを特徴とする検出キット。
【請求項12】
前記磁性マーカーのゼータ電位φと、前記ゲル粒子のゼータ電位φの関係がφφ≧0であり、前記ゲル粒子のゼータ電位φと前記検出素子のゼータ電位φの関係がφφ≧0であることを特徴とする請求項11記載の検出キット。
【請求項13】
前記磁性マーカーの粒子径Dと、前記ゲル粒子の粒子径Dの関係がD≦Dであることを特徴とする請求項11または12記載の検出キット。
【請求項14】
前記ゲル粒子がハイドロゲル粒子であることを特徴とする請求項11乃至13のいずれかの項に記載の検出キット。
【請求項15】
前記ハイドロゲル粒子が温度応答性高分子を構成成分として含有することを特徴とする請求項11乃至14のいずれかの項に記載の検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−276089(P2009−276089A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125115(P2008−125115)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】