説明

液体電解質

【課題】塩基とりん酸からなり、低温でも凝固しない新規な液体電解質と燃料電池を提供する。
【解決手段】 塩基成分および酸成分、あるいは、どちらか一成分が、少なくとも2種類の化合物からなる混合物であって、塩基成分のうちの少なくとも1種類が特定の構造を有するイミダゾールであることを特徴とする酸・塩基混合物。ならびに 塩基Aとりん酸Bから成り、AとBのモル比A:Bが1:3 〜 1:50の範囲にあり、凝固する温度が、-30℃未満であることを特徴とする液体電解質とそれを用いた燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基とりん酸からなり、低温でも凝固せずに広い温度範囲で液体である電解質に関するものであり、詳しくは、燃料電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサなどに利用することができる液体電解質に関する。また、それを用いることを特徴とする燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタなどの電気化学デバイスに用いられる電解液には、一般に、リチウム塩やアンモニウム塩などの支持塩をプロピレンカーボネートなどの有機溶媒に溶解したものが用いられているが、これらの有機溶媒には揮発性があり、安全性に問題が残っている。
【0003】
一方、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩などのアンモニウム塩のあるものは、100℃以下、特に室温付近で液体の溶融塩となり、水あるいは有機溶媒を用いなくても、200℃以下の比較的低温で高いイオン伝導性を示すことが知られている。これらは、不揮発性という特徴的な性質から、電池などの電解質としての応用が検討されている。イオン性液体として、N位に置換基が導入されたイミダゾール塩やピリジン塩の例が多く知られている。(イオン性液体−開発の最前線と未来− 大野弘幸監修、シーエムシー出版、2003年(非特許文献1))。
【0004】
有機溶媒系の電気二重層キャパシタの代表的な電解液として、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートなどのアンモニウム塩をプロピレンカーボネートなどの極性溶媒に溶解した電解液を挙げることができるが、低温では、アンモニウム塩が析出するため、容量の劣化や伝導度の低下が生じることが問題となっており、低温特性の向上は解決すべき重要な課題となっている(非特許文献2)。
【0005】
イオン性液体のみからなる電解液を電気二重層キャパシタに用いた例があるが、イオン性液体は室温以下の低温で凝固するか、凝固しなくとも粘度の上昇に伴ってイオン伝導度が大きく低下することが問題となっている(非特許文献2)。
【0006】
イオン性液体を有機溶媒に溶解した系で、従来のアンモニウム塩を有機溶媒に溶解した系より低温特性を向上させた例があるが、有機溶媒を用いているため、揮発性、安全性の問題がある(非特許文献2)。
【0007】
りん酸形燃料電池には、通常85wt%以上の濃厚りん酸が電解質として用いられている。J. Am. Chem. Soc., 47, 2165 (1925) (非特許文献3)によれば、りん酸は、100wt%の融点が約40℃であり、91.6wt%以上では23.5℃以下で完全に固体化する。91.6wt%以下では、20℃以下で固体と液体の混在状態になる。よって、外気が20℃以下の環境では、りん酸形燃料電池が停止中はりん酸が固体化し、再起動時に予め加熱してりん酸を融解しなければならない。製造後、設置場所までの輸送時にもりん酸の固体化を防止する必要があり、りん酸形燃料電池を別の保温装置を用いて保温しておく必要がある。また、りん酸が固体化すると体積変化が起こり、燃料電池に応力がかかるため、劣化が生じる恐れがある。以上のことから、りん酸の固体化を防ぐことは、りん酸形燃料電池の課題の一つとなっている。
【0008】
特開平11-238521号公報(特許文献1)には、保温装置や湿潤ガス装置を必要とせず、停止時の電解質の完全な固体化を防止することのできる燃料電池を提供する方法が開示されているが、りん酸の一部は固体化してしまうため、再起動時の電解質抵抗が大きくなる。
【0009】
特開平6-275297号公報(特許文献2)には、電池保存中のりん酸の凍結を抑制することによって、運転停止後、電池温度が外気温度まで低下しても起動可能であるりん酸形燃料電池の運転方法が開示されているが、りん酸の一部は固体化してしまうことと、運転温度を下げる必要があるので燃料電池の出力が低下してしまうことが課題として残っている。
【0010】
特開平9-293523号公報(特許文献3)には、りん酸の凍結により誘発される燃料電池の性能劣化を容易かつ確実に回避可能であり、信頼性が高くしかも輸送費用の安価な、優れた燃料電池の輸送方法が開示されているが、湿潤ガスの供給排出によってりん酸を希釈したり、乾燥ガスの供給排出によってりん酸を再濃縮したりする必要がある。また、75wt%までりん酸を希釈しても、-17℃で凍結するため、極寒地での輸送や停止には問題が残る。
【0011】
溶融塩化学討論会要旨集,Vol. 35,81-82(2003)(非特許文献4)には、ブチルアミンとりん酸からなる酸過剰の常温溶融塩が開示されているが、低温での状態や特性については特に述べられていない。
【0012】
特開2005-44550号公報(特許文献4)に、りん酸と環式有機塩基性物質とのイオン性液体が開示されているが、20℃より低い温度で液状であるかどうかは示されておらず、上記の問題の解決はなされていない。
【0013】
【特許文献1】特開平11-238521号公報
【特許文献2】特開平6-275297号公報
【特許文献3】特開平9-293523号公報
【特許文献4】特開2005-44550号公報
【非特許文献1】イオン性液体−開発の最前線と未来− 大野弘幸監修、シーエムシー出版、2003年、28-31
【非特許文献2】イオン性液体の機能創成と応用、株式会社エヌ・ティー・エス、2004年、105-123
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc., 47, 2165 (1925)
【非特許文献4】溶融塩化学討論会要旨集,Vol. 35,81-82(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、塩基とりん酸からなり、低温でも凝固しない新規な液体電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、塩基Aとりん酸Bから成り、AとBのモル比A:Bが1:3 〜 1:19の範囲にあり、凝固する温度が、-30℃未満であることを特徴とする液体電解質。
【0016】
また、本発明は、-30℃におけるイオン伝導度が10-6Scm-1以上であることを特徴とする上記の液体電解質に関する。
【0017】
また、本発明は、150℃におけるイオン伝導度が10-2Scm-1以上であることを特徴とする上記の液体電解質に関する。
【0018】
また、本発明は、該塩基がアミン化合物であることを特徴とする上記の液体電解質に関する。
【0019】
【化1】

(1)
また、本発明は、該塩基が化学式(1)
[式中、R1, R2, R3およびR4は、各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子を表す。]
で表されるイミダゾール化合物であることを特徴とする上記の液体電解質に関する。
【0020】
【化2】

(2)
また、本発明は、該塩基が化学式(2)
[式中、R1, R2およびR3は、各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基を有する炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子を表し、少なくともひとつは炭化水素基または水酸基を有する炭化水素基である。]
で表されるアミンであることを特徴とする上記の液体電解質に関する。
【0021】
【化3】

(3)
また、本発明は、該塩基が化学式(3)
[式中、R1は炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子を表す。]
で表されるピロリジン化合物であることを特徴とする上記の液体電解質に関する。
【0022】
また、本発明は、プロトン伝導体であることを特徴とする上記の液体電解質に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって、塩基とりん酸からなり、-30℃でも液体で存在する新規なイオン伝導性またはプロトン伝導性の液体電解質を提供し、燃料電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサなどに利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の液体電解質は、塩基とりん酸からなり、凝固する温度が、好ましくは -30℃未満であり、さらに好ましくは-40℃未満、さらに好ましくは-50℃未満である。凝固する温度が上記温度より高いと、極寒地では電解液が凝固する可能性があり好ましくない。
【0025】
本発明における凝固とは、液体が固体になることをいう。結晶化またはガラス化のいずれの場合も含む。条件によっては、固体と液体の混在状態や、結晶と非晶の混在状態で、実質的に液体として流動しない場合もある。また、本発明における液体とは、過冷却状態であってもよい。
【0026】
本発明の液体電解質が低温で凝固するまでの時間は、半日である12時間以上凝固しないことが好ましい。より好ましくは1日以上、さらに好ましくは1週間以上、特に好ましくは1ヶ月以上、凝固しないことが好ましい。また、半永久的に凝固しないことが好ましい。凝固するまでの時間が上記時間よりも短いと、適用される電気化学デバイスの停止中に凝固する可能性があり、好ましくない。
【0027】
本発明の液体電解質の構成成分である塩基とりん酸のモル比は、1:3 〜 1:50の範囲であり、1:3 〜 1:40の範囲にあることがより好ましく、1:3 〜 1:30の範囲にあることがさらに好ましい。また、1:3 〜 1:20の範囲にあることがさらに好ましく、1:5 〜 1:20の範囲にあることが特に好ましい。りん酸の割合が上記の範囲を越えると、凝固する温度が高くなったり、粘性が高くなったりして好ましくない。
【0028】
本発明の液体電解質は、-30℃の低温においても1×10-6 Scm-1 以上のイオン伝導度を示すことが好ましく、1×10-3 Scm-1 以上のイオン伝導度を示すことがより好ましい。イオン伝導度が上記値より低いと、寒冷地の環境に置かれると実用的でなくなり好ましくない。
【0029】
本発明の液体電解質は、150℃において1×10-2 Scm-1 以上のイオン伝導度を示すことが好ましく、1×10-1 Scm-1 以上のイオン伝導度を示すことがより好ましい。イオン伝導度が上記値より低いと、高温使用時での抵抗が大きくなり好ましくない。
【0030】
本発明の液体電解質の塩基成分は、アミン化合物であることが好ましい。好ましいアミン化合物としては、イミダゾール化合物、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、水酸基を有するアルキル基で置換されたアミン化合物、ピロリジン化合物などを挙げることができる。イミダゾール化合物、ピロリジン化合物以外の複素環式アミン類として、ピラゾール化合物、トリアゾール化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物などのアゾール類、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピロール化合物、ピペリジン化合物なども挙げることができる。
凝固する温度が低くなることから、イミダゾール化合物、脂肪族三級アミン化合物、水酸基を有するアルキル基で置換されたアミン化合物、ピロリジン化合物を好ましく挙げることができる。
【0031】
イミダゾール化合物としては、化学式(1)で表されるイミダゾール化合物が好ましい。
【0032】
【化4】

(1)

式中、R1, R2, R3およびR4は、各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子であることが好ましい。
また、R1, R2, R3またはR4の少なくともひとつが炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。
R1, R2, R3およびR4の炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などの直鎖基、イソプロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの分枝基、シクロヘキシル基などの脂環基、フェニル基などの芳香族基が挙げられる。特に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、 n-ブチル基が好ましい。
【0033】
具体的なイミダゾール化合物としては、イミダゾールや、4-メチルイミダゾール、4-エチルイミダゾール、4-フェニルイミダゾールなどの4-アルキルイミダゾール類、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールなどの2-アルキルイミダゾール類、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-シクロヘキシル-4-メチルイミダゾール、2-オクチル-4-ヘキシルイミダゾール、2-エチル-4-フェニルイミダゾール、2-ブチル-4-アリルイミダゾールなどの2,4-ジアルキルイミダゾール類、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-プロピルイミダゾール、1-ブチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール、1-オクチルイミダゾールなどの1-アルキルイミダゾール類、ベンズイミダゾール、1-メチルベンズイミダゾールなどのベンズイミダゾール類などが挙げられる。中でも、4-アルキルイミダゾール類や2,4-アルキルイミダゾール類などの非対称イミダゾールやN位が置換された1-アルキルイミダゾール類が、凝固が抑制される効果が大きく好ましい。
また、アミン化合物として、化学式(2)で表されるアミンであることが好ましい。
【0034】
【化5】

(2)

式中、R1, R2およびR3は、各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基を有する炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子を表し、少なくともひとつは炭化水素基または水酸基を有する炭化水素基であることが好ましい。
【0035】
また、R1, R2およびR3の全てが炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。
【0036】
R1, R2およびR3の二つ以上が炭化水素基の場合、二種以上の炭化水素基からなることが好ましい。
R1, R2およびR3の炭素数1〜20の炭化水素基としては、上記のものが挙げられる。また、水酸基を有する炭化水素基としては、−CHOH、−CHOH、−CHCHCHOHなどの一級アルコールに相当する置換基、−CHCH(OH)CHなどの二級アルコールに相当する置換基、−CHC(OH)(CHなどの三級アルコールに相当する置換基が挙げられる。中でも、−CHOH、−CHOHが好ましい。
【0037】
具体的な脂肪族アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、s-ブチルアミン、t-ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミンなどの一級アミン類、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N-エチルメチルアミン、N-メチルプロピルアミン、N-メチルブチルアミン、N-メチル-t-ブチルアミン、N-メチルシクロヘキシルアミンなどの二級アミン類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンなどの三級アミン類などを挙げることができる。中でも、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンなどの異なる置換基を有する三級アミン類が、凝固する温度が低くなるので好ましい。
【0038】
芳香族アミン化合物としては、アニリン、N-メチルアニリンなどのアニリン類、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン、N-メチル-1,2-フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類、1-アミノナフタレン、2-アミノナフタレンなどのアミノナフタレン類、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレンなどのジアミノナフタレン類などを挙げることができる。
【0039】
水酸基を有するアルキル基で置換されたアミン化合物も好ましく用いられる。
具体的な化合物としては、メタノールアミン、エタノールアミンなどのモノアルコールアミン類、ジメタノールアミン、ジエタノールアミンなどのジアルコールアミン類、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、n-ブチルジエタノールアミン、s-ブチルジエタノールアミン、t-ブチルジエタノールアミンなどのトリアルコールアミン類などを挙げることができる。中でも、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、n-ブチルジエタノールアミンを好ましく挙げることができる。
【0040】
ピロリジン化合物としては、化学式(3)で表されるピロリジン化合物が好ましい。
【0041】
【化6】

(3)

式中、R1は炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子を表す。
【0042】
具体的な化合物としては、ピロリジンの他、1-メチルピロリジン、1-エチルピロリジンなどの1-アルキルピロリジン類が挙げられる。中でも、1-メチルピロリジンを好ましく挙げることができる。
【0043】
イミダゾール以外のアゾール化合物としては、ピラゾール、1-メチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-メチルピラゾールなどのピラゾール類、トリアゾールなどのトリアゾール類、オキサゾールなどのオキサゾール類、チアゾールなどのチアゾール類などが挙げられる。
【0044】
ピリジン化合物としては、ピリジンの他、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、3-ブチルピリジン、4-t-ブチルピリジンなどのアルキルピリジン類、2,4-ルチジン、2,3-ルチジン、2,6-ルチジン、3,4-ルチジンなどのジアルキルピリジン類などが挙げられる。
【0045】
ピラジン化合物としては、ピラジンの他、2-メチルピラジン、2−エチルピラジンなどの2-アルキルピラジン類を挙げることができる。
【0046】
ピロール化合物としては、ピロールの他、1-メチルピロール、1-エチルピロールなどの1-アルキルピロール類などを挙げることができる。
【0047】
ピペリジン化合物としては、ピペリジンの他、1-メチルピペリジン、1-エチルピペリジンなどの1-アルキルピペリジン類、2-メチルピペリジン、2-エチルピペリジンなどの2-アルキルピペリジン類などを挙げることができる。
【0048】
上記の塩基成分は、二種以上の混合物であってもよい。例えば、二種の混合物の場合、1-エチルイミダゾールと4-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾールと2-エチル-4-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾールと2-エチルイミダゾール、4-メチルイミダゾールと2-エチル-4-メチルイミダゾール、N,N-ジエチルメチルアミンと4-メチルイミダゾール、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンと4-メチルイミダゾール、N,N-ジエチルメチルアミンとN,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエタノールアミンと4-メチルイミダゾール、トリエタノールアミンとジエチルメチルアミン、トリエタノールアミンとN,N-ジメチルシクロヘキシルアミンの組合せなどを挙げることができる。
【0049】
本発明の液体電解質は、プロトン伝導体であってもよい。プロトン伝導性を有するものは、燃料電池に好ましく用いることができる。
【0050】
本発明に用いられるりん酸は、オルトりん酸、ピロリン酸、メタりん酸のいずれでもよく、それらの混合物であってもよい。縮合したりん酸は粘性が高くなって取り扱いが難しくなるため、オルトりん酸が好ましく用いられる。
【0051】
本発明の液体電解質は、150℃以上の耐熱性を有することが好ましく、耐熱性が180℃以上であればより好ましく、200℃以上であればさらに好ましい。耐熱性が上記温度より低いと、りん酸形燃料電池など高温で運転されるデバイスの電解質に用いられたときに性能が低下するので好ましくない。
【0052】
本発明の液体電解質は、水や有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン、γ-バレロラクトン、スルホラン、アセトン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどの極性溶媒を挙げることができる。
【0053】
本発明により、塩基とりん酸とからなる液体電解質を提供し、低温で凝固せず、水あるいは溶媒がなくても高いイオン伝導性を低温でも高温でも示し、燃料電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサなどに利用することができる。
【0054】
また、ガラス、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの金属酸化物からなる無機化合物やレーヨン、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素樹脂系、ポリイミド系、ポリエーテル系、ポリスルフィド系、ポリアリーレン系、ポリベンザゾール系、ポリキノキサリン系、ポリスチレン系などの高分子化合物からなる焼結体、不織布、織布、微多孔膜などの多孔質体に含浸して使用することができる。
【0055】
本発明の燃料電池は、上記の液体電解質を用いたものであり、液体電解質以外は、従来のりん酸形燃料電池あるいは固体高分子形燃料電池において知られるものを採用することができる。例えば、液体電解質が無機化合物や高分子からなる多孔質体に含浸された状態で、一対の白金などの触媒がカーボン微粒子や繊維に付着したものからなる多孔質のガス拡散電極で挟み、さらにその両側に燃料ガス流路を形成した導電性のあるカーボンや金属からなるセパレーターを設置した構造からなる。本発明の燃料電池は、常用使用温度として、20℃〜250℃、好ましくは、30℃〜240℃、さらに好ましくは、40℃〜230℃の範囲を挙げることができ、20℃より低いと発電効率が低くなり好ましくなく、一方、250℃を越えると分解などが生じることから好ましくない。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。尚、実施例および比較例中に示した測定値は以下の方法で測定した。
【0057】
1)-30℃での状態観察
サンプル瓶に乾燥した試料約2 gを入れ、密閉して、恒温槽中、60℃で2時間、25℃で一晩保持した後、-30℃で静置して、所定時間毎に、試料が凝固しているかどうかを確認した。
【0058】
2)イオン伝導度の測定
サンプル瓶に乾燥した試料を入れ、縦2cm×横1.5cmの白金板を1cmの間隔で並行に試料に浸漬し、密閉して伝導度測定用のセルとした。恒温槽中、所定の温度下で、Princeton Applied Reseach社製FRD1025とPotentiostat/Galvanostat 283を用いて、複素インピーダンス測定によりイオン伝導度を求めた。
【0059】
(実施例1)4-メチルイミダゾール/りん酸系(4MI H3PO4
窒素雰囲気のグローブボックス中で、りん酸クリスタル(Aldrich)を融解した液状りん酸と4-メチルイミダゾール(4MI;Aldrich)を所定量混合して、種々のモル比の液体電解質を得た。4MIとりん酸の混合モル比は、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:11、1:13、1:15、1:19、1:24、1:34、1:49、および、1:99とした。均一液とならないものは、50℃の熱風恒温槽または120℃のオイルバスで加熱して、均一液とした。-30℃において状態観察した結果を表1に示す。モル比が1:3 〜 1:24のものが、-30℃の低温においても、少なくとも70日間は液体のままであった。4MI H3PO4 1:1, 1:2, 1:3および 1:19のイオン伝導度の温度依存性を図1に示す。4MI H3PO4 1:3は、-30℃で 4.9×10-6Scm-1、150℃で2.0×10-1Scm-1のイオン伝導度を示した。4MI H3PO4 1:19は、-30℃で1.3×10-3Scm-1、150℃で4.3×10-1Scm-1のイオン伝導度を示した。比較例1のりん酸のイオン伝導度が、低温で凝固すると共に急激に低下したのに比べ、4MI H3PO4 1:19は凝固せずに高いイオン伝導度を維持した。
【0060】
(実施例2)N-エチルイミダゾール/りん酸系(1EI H3PO4
4MIの代わりにN-エチルイミダゾール(1EI;東京化成工業工業(株))を用いた以外は、実施例1と同様にして、種々のモル比の液体電解質を得た。-30℃において状態観察した結果を表1に示す。モル比が1:3 〜 1:24および1:49のものが、-30℃の低温においても、少なくとも44日間は液体のままであった。
【0061】
(実施例3)N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン/りん酸系(DMCA H3PO4
4MIの代わりにN,N-ジメチルシクロヘキシルアミン(DMCA;和光純薬工業(株))を用いた以外は、実施例1と同様にして、種々のモル比の液体電解質を得た。-30℃において凝固観察した結果を表1に示す。モル比が1:3 〜 1:34のものが、-30℃の低温においても、少なくとも65日間は液体のままであった。
【0062】
(実施例4)トリエタノールアミン/りん酸系(TEOA H3PO4
4MIの代わりにトリエタノールアミン(TEOA;シグマアルドリッチジャパン(株))を用いた以外は、実施例1と同様にして、種々のモル比の液体電解質を得た。 -30℃において状態観察した結果を表1に示す。モル比が1:3 〜 1:24および1:49のものが、-30℃の低温においても、少なくとも69日間は液体のままであった。TEOA H3PO4 1:3のイオン伝導度の温度依存性を図2に示す。TEOA H3PO4 1:3は、-30℃で4.0×10-6Scm-1、150℃で1.2×10-1Scm-1のイオン伝導度を示した。
【0063】
(実施例5)ブチルアミン/りん酸系(BA H3PO4
4MIの代わりにブチルアミン(BA;Aldrich)を用いた以外は、実施例1と同様にして、種々のモル比の液体電解質を得た。-30℃において凝固観察した結果を表1に示す。モル比が1:2 〜 1:19、1:34および1:49のものが、-30℃の低温においても、少なくとも65日間は液体のままであった。
【0064】
(実施例6)N,N-ジエチルメチルアミン/りん酸系(DEMA H3PO4
4MIの代わりにN,N-ジエチルメチルアミン(DEMA;東京化成工業(株))を用いた以外は、実施例1と同様にして、モル比1:3の液体電解質を得た。DEMA H3PO4 1:3は-30℃において、少なくとも117日間は液体のままであった。DEMA H3PO4 1:3のイオン伝導度の温度依存性を図3に示す。DEMA H3PO4 1:3は、-30℃で3.5×10-6 Scm-1、150℃で1.1×10-1 Scm-1のイオン伝導度を示した。
【0065】
(実施例7)N-メチルジエタノールアミン/りん酸系(MDEOA H3PO4
4MIの代わりにN-メチルジエタノールアミン(MDEOA;Aldrich)を用いた以外は、実施例1と同様にして、モル比1:3の液体電解質を得た。MDEOA H3PO4 1:3は-30℃において、少なくとも125日間は液体のままであった。
【0066】
(実施例8)2,2’-(ブチルイミノ)ジエタノールアミン/りん酸系(BDEOA H3PO4
4MIの代わりに2,2’-(ブチルイミノ)ジエタノールアミン(BDEOA;東京化成工業(株))を用いた以外は、実施例1と同様にして、モル比1:3の液体電解質を得た。BDEOA H3PO4 1:3は、-30℃において、少なくとも117日間は液体のままであった。
【0067】
(実施例9)2-エチル-4-メチルイミダゾール/りん酸系(2E4MZ H3PO4
4MIの代わりに2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ;四国化成工業(株))を用いた以外は、実施例1と同様にして、モル比1:3の液体電解質を得た。2E4MZ H3PO4 1:3は、-30℃において、少なくとも112日間は液体のままであった。
【0068】
(実施例10)1-メチルピロリジン/りん酸系(1MP H3PO4
4MIの代わりに1-メチルピロリジン(1MPy;東京化成工業(株))を用いた以外は、実施例1と同様にして、モル比1:3の液体電解質を得た。1MP H3PO4 1:3は、-30℃において、少なくとも1週間は液体のままであった。1MP H3PO4 1:3のイオン伝導度の温度依存性を図4に示す。1MP H3PO4 1:3は、150℃で1.3×10-1Scm-1のイオン伝導度を示した。
【0069】
(比較例1)りん酸
りん酸クリスタルを60℃に加熱融解して液状化した後、-10℃で静置すると2時間で凝固した。りん酸のイオン伝導度の温度依存性を図1に示す。-10℃から-20℃で凝固すると、イオン伝導度が急激に低下した。
【0070】
(実施例11)燃料電池発電試験
実施例1で調整した液体電解質4MI H3PO4 1:19を用いてセル温度120℃で発電した結果を、図5に示す。発電は、エレクトロケム社製の、りん酸発電セルFC25-02PAおよび電極マトリックスアセンブリFC25-PA/EMを用い、燃料ガスとして、無加湿の水素を150ml/分で、酸素を150ml/分で供給した。
【0071】
【表1】

【0072】
本発明によって、塩基とりん酸からなり、-30℃でも液体で存在する新規なイオン伝導性またはプロトン伝導性の液体電解質を提供し、燃料電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサなどに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1における4MI H3PO4 1:1, 1:2, 1:3および 1:19、および、比較例1におけるりん酸のイオン伝導度の温度依存性を示したものである。
【図2】実施例4におけるTEOA H3PO4 1:3のイオン伝導度の温度依存性を示したものである。
【図3】実施例6におけるDEMA H3PO4 1:3のイオン伝導度の温度依存性を示したものである。
【図4】実施例10における1MP H3PO4 1:3のイオン伝導度の温度依存性を示したものである。
【図5】実施例11における液体電解質4MI H3PO4 1:19を用いた燃料電池発電における電流と出力電圧の関係を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基Aとりん酸Bから成り、AとBのモル比A:Bが1:3 〜 1:50の範囲にあり、凝固する温度が、-30℃未満であることを特徴とする液体電解質。
【請求項2】
-30℃におけるイオン伝導度が10-6Scm-1以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体電解質。
【請求項3】
150℃におけるイオン伝導度が10-2Scm-1以上であることを特徴とする請求項1〜2に記載の液体電解質。
【請求項4】
該塩基がアミン化合物であることを特徴とする請求項1〜3に記載の液体電解質。
【請求項5】
該塩基が化学式(1)
【化1】

(1)
[式中、R1, R2, R3およびR4は、各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子を表す。]
で表されるイミダゾール化合物であることを特徴とする請求項1〜4に記載の液体電解質。
【請求項6】
該塩基が化学式(2)
【化2】

(2)

[式中、R1, R2およびR3は、各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基を有する炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子を表し、少なくともひとつは炭化水素基または水酸基を有する炭化水素基である。]
で表されるアミンであることを特徴とする請求項1〜4に記載の液体電解質。
【請求項7】
該塩基が化学式(3)
【化3】

(3)

[式中、R1は炭素数1〜20の炭化水素基、または、水素原子を表す。]
で表されるピロリジン化合物であることを特徴とする請求項1〜4に記載の液体電解質。
【請求項8】
プロトン伝導体であることを特徴とする請求項1〜7に記載の液体電解質。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の液体電解質を用いることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−164945(P2006−164945A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263901(P2005−263901)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】