説明

液化方法、液化装置およびこれを備える浮体式液化ガス製造設備

【課題】被液化ガスを液化する際に液化効率の低下を抑制することが可能であり、安全性にも優れており、かつ、設備のコンパクト化が可能な液化方法、液化装置およびこれを備える浮体式液化ガス製造設備を提供することを目的とする。
【解決手段】単一成分の高圧熱媒体と熱交換させた被液化ガスを減圧した後に、減圧した被液化ガスを高圧熱媒体よりも低温であり、かつ、同種類の低温側熱媒体と熱交換させて液化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化方法、液化装置およびこれを備える浮体式液化ガス製造設備に関し、特に、天然ガスの液化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、陸上の液化設備としては、被液化ガスをカスケード式冷凍サイクルや、数種類の冷媒の混合冷媒を用いた冷凍サイクルを用いて液化している(例えば特許文献1)。この液化設備の設置場所に、近年、洋上浮体が検討されている。洋上浮体に陸上と同様な液化設備を設置した場合には、対動揺性能や設置スペース、液化の容易性、安全性への考慮において舶用化の要件がある。そのため、LNG船のボイルオフガスの再液化には用いられているが、液化設備としては液化効率に劣る窒素冷媒の窒素膨張サイクルでも適用される余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−504928号公報
【特許文献2】特表2006−503252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒素冷凍サイクルにおける天然ガスおよび窒素の熱交換について図5を用いて説明する。図5において、縦軸は、温度(℃)を示し、横軸には、熱負荷(kW)を示す。また、図5中の実線は、4Maに昇圧した天然ガスを示し、点線は、15MPaに昇圧した天然ガスを示す。さらに、図5中の一点鎖線は、4MPaに昇圧した天然ガスと熱交換する場合の窒素を示し、二点鎖線は、15MPaに昇圧した天然ガスと熱交換する窒素を示す。
【0005】
図5に示すように天然ガス(実線)を4MPaに昇圧した場合には、温度が変化する過程において、熱負荷に対する天然ガスの温度変化が小さくなるステップ状を生じる。このステップ状は、冷媒である窒素が熱交換する過程において液相と気の間を相転移する間、温度が一定になるために生じる。そのため、4Maに昇圧した天然ガスと窒素との温度差が最も小さくなるピンチポイントに合わせるように窒素(一点鎖線)を設定した場合には、ピンチポイント以外の熱交換過程では、天然ガスと窒素との温度差が大きくなり、一般的に温度差が小さい場合に比べ液化効率に劣る。
【0006】
熱媒体窒素の圧縮循環は、特許文献2に記載の発明のように、大きな所要動力の窒素圧縮機ゆえにガスタービンによって駆動される例が多いが、ガスタービンによって消費される燃料としては液化されるべき原料ガスの一部が想定されている。液化過程で生じるオフガスは、ガスタービンの燃料としては低圧であるので再加圧が必要となり用いられにくい。製品となる液化ガスを最大化するためにもプロセスオフガスの効率のよい燃料化の課題があった。
【0007】
また、液化過程で生じるオフガスは、その圧力がほぼ大気圧であることや窒素成分が多く、窒素圧縮機を駆動するガスタービンの燃料に用いることが困難であるという問題があった。
【0008】
さらには、特許文献2に記載の発明のように、窒素圧縮機をガスタービンと蒸気タービン、または、蒸気タービンと電動機とのハイブリッドにして駆動している場合には、洋上浮体に適用させるため、船上保守が困難であること、予備品の必要性や電動化による冗長性の確保が問題となっていた。
【0009】
一方、図5の点線で示すように、天然ガスを15MPaに昇圧した場合には、実線で示した4MPaに昇圧した天然ガスに生じていたステップ状がなくなり略直線状になる。そのため、15MPaに昇圧した高圧の天然ガスと窒素(二点鎖線)との温度差を全体に渡って小さくして熱交換させることができるため効率的に液化することができる。しかし、高圧の天然ガスと窒素とを熱交換させるためには、シェルアンドチューブ式の熱交換器を用いる必要があるため熱交換器が大型し、液化装置の設置スペースを削減できないという問題があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、液化効率の低下を抑制しつつ、安全性にも優れ、かつ、設備のコンパクト化が可能な液化方法、液化装置およびこれを備える浮体式液化ガス製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の液化方法、液化装置およびこれを備える浮体式液化ガス製造設備は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る液化方法によれば、単一成分の高圧熱媒体と熱交換させた被液化ガスを所定圧に減圧した後に、減圧した前記被液化ガスを前記高圧熱媒体よりも低温かつ同種類の低温側熱媒体と熱交換させて液化することを特徴とする。
【0012】
被液化ガスの液化は、熱媒体と熱交換させることによって行われている。被液化ガスの液化効率は、被液化ガスと熱媒体との温度差が熱交換過程に渡って均一に小さい方が望ましい。しかし、被液化ガスが高圧の場合には、熱媒体との温度差が熱交換過程に渡ってほぼ均一に小さいが、熱媒体と熱交換を行う熱交換器が大型化してしまう。また。被液化ガスが低圧の場合には、被液化ガスがその熱交換過程でステップ状になってしまう。そのため、被液化ガスと熱媒体との温度差が最も小さくなる箇所(ピンチポイント)に合わせて熱媒体の圧力を設定した場合には、ピンチポイント以外の過程では、被液化ガスと熱媒体の温度差が大きくなり、熱交換効率が劣ってしまう。
【0013】
そこで、被液化ガスと熱媒体との温度差を小さくするために、炭化水素や窒素等の混合熱媒体もしくは複数の単一成分の熱媒体を複数の熱交換器により熱交換するカスケード方式が用いられている。しかし、カスケード方式の場合には、熱交換器等の機器が増加するという問題があった。また、混合熱媒体を用いる場合には、複数の成分からなるため被液化ガスの特性に合わせて複数の熱媒体が用いられるが、その一部に可燃性の熱媒体が用いられることから安全性に問題があった。
【0014】
そこで、本発明では、被液化ガスを単一成分の高温側熱媒体と熱交換させて、その後、所定圧に減圧する。さらに、減圧された被液化ガスを、高温側熱媒体と同種類であり、かつ、高温側熱媒体よりも低温の低温側熱媒体と熱交換させることとした。これにより、高温側熱媒体と熱交換した被液化ガスを低温側熱媒体の温度変化に近似させるように減圧してから、低温側熱媒体と熱交換させることができる。そのため、被液化ガスと高温側熱媒体および低温側熱媒体との温度差を略一定に保つことができる。したがって、単一成分の熱媒体を用いて、被液化ガスを効率的に液化することができる。
なお、所定圧とは、熱媒体と熱交換する被液化ガスの臨界点に対応した圧力をいう。
また、被液化ガスは、液化する前の原料ガスであり、天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)等が挙げられる。
【0015】
本発明に係る液化装置によれば、被液化ガスと高温側熱媒体とが熱交換する高温側熱媒体用熱交換器と、該高温側熱媒体用熱交換器から導出された被液化ガスを減圧する減圧弁と、該減圧弁を通過した被液化ガスと、低温側熱媒体とが熱交換する低温側熱媒体用熱交換器と、を備え、前記高温側熱媒体および前記低温側熱媒体は、単一成分かつ同種類であって、前記減圧弁は、前記低温側熱媒体用熱交換器に導かれる被液化ガスを所定圧に減圧することを特徴とする。
【0016】
単一成分の高温側熱媒体を高温側熱媒体用熱交換器へ、高温側熱媒体と同種類の低温側熱媒体を低温側熱媒体用熱交換器へと導き、高温側熱媒体用熱交換器と低温側熱媒体用熱交換器との間には、被液化ガスを所定圧に減圧する減圧弁を設けることとした。これにより、高温側熱媒体用熱交換器を通過した被液化ガスを減圧弁により低温側熱媒体の温度変化に近似させて、低温側熱媒体用熱交換器へと導くことができる。そのため、被液化ガスと高温側熱媒体および低温側熱媒体との温度差を略一定に保つことができる。したがって、単一成分の熱媒体を用いて、被液化ガスを効率的に液化することができる。
【0017】
さらに、本発明に係る液化装置によれば、蒸気が導かれて駆動される高圧タービンと、該高圧タービンに接続される高圧タービン側軸と、前記高圧タービンから導出された蒸気が導かれて駆動される低圧タービンと、該低圧タービンに接続される低圧タービン側軸と、を有するクロスコンパウンドタービンと、前記高温側熱媒体用熱交換器に導かれる高温側熱媒体を圧縮する高温側熱媒体用圧縮機と、前記低温側熱媒体用熱交換器に導かれる低温側熱媒体を圧縮する低温側熱媒体用圧縮機と、前記高圧タービンに導かれる蒸気を発生する蒸気発生手段と、を備え、前記高温側熱媒体圧縮機を前記高圧タービン側軸に接続し、前記低温側熱媒体用圧縮機を前記低圧タービン側軸に接続することを特徴とする。
【0018】
高圧タービン側軸に高温側熱媒体用圧縮機を接続し、低圧タービン側軸に低温側熱媒体用圧縮機を接続することとした。クロスコンパウンドタービンを構成している高圧タービン側軸と低圧タービン側軸とは、互いに分離しているため、高圧タービン側軸に接続されている高圧タービン、低圧タービン側軸に接続されている低圧タービンの各々を制御することによって、高温側熱媒体用圧縮機と低温側熱媒体用圧縮機とをそれぞれ独立に制御することができる。したがって、高温側熱媒体と低温側熱媒体とを互いに独立に圧縮することができ、高温側熱媒体と低温側熱媒体との冷凍負荷を独立に制御することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る液化装置によれば、前記高温側熱媒体用熱交換器は、プレート式であることを特徴とする。
【0020】
被液化ガスと高温側熱媒体とが熱交換する高温側熱媒体用熱交換器には、プレート式を用いることとした。そのため、高温側熱媒体用熱交換器を小型化することができる。したがって、液化装置のコンパクト化を図ることができる。
【0021】
また、本発明に係る液化装置によれば、前記蒸気発生手段は、液化ガス中のオフガスを燃料として蒸気を発生することを特徴とする。
【0022】
液化ガス中のオフガスを燃料として燃焼して蒸気を発生する蒸気発生手段を用いることとした。そのため、クロスコンパウンドタービンを駆動する蒸気を液化装置内で生じたほぼ大気圧状態のオフガスを用いて駆動することができる。したがって、液化装置から生じるオフガスを有効に利用することができる。
【0023】
また、本発明に係る浮体式液化ガス製造設備によれば、上記のいずれかに記載の液化装置を備えることを特徴とする。
【0024】
蒸気によって駆動するクロスコンパウンドタービンによって構成される液化装置を浮体式液化ガス製造設備に用いることとした。そのため、クロスコンパウンドタービンとして、既存の舶用主機に用いられている蒸気タービンを適用することができる。したがって、高温側熱媒体用圧縮機および低温側熱媒体用圧縮機を駆動するためのクロスコンパウンドタービンの新たな開発が不要となり、既存の機器を有効利用することができる。
【0025】
また、本発明に係る浮体式液化ガス製造設備によれば、前記高温側熱媒体及び前記低温側熱媒体には、窒素を用いることを特徴とする。
【0026】
熱媒に不燃性の窒素を用いる高温側熱媒体用圧縮機および低温側熱媒体用圧縮機と、高温側熱媒体用熱交換器および低温側熱媒体用熱交換器とによって構成される液化装置を浮体式液化ガス製造設備に用いることとした。また、高温側熱媒体用圧縮機および低温側熱媒体用圧縮機の駆動には、蒸気タービンを用いることとした。これらにより、熱媒体等から可燃性ガスが漏洩することによる爆発の危険性を防止することができる。そのため、甲板下に、高温側熱媒体用圧縮機、低温側熱媒体用圧縮機や蒸気タービンなどの機器を配置することができる。したがって、甲板上の液化装置の配置スペースを削減することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、被液化ガスを単一成分の高温側熱媒体と熱交換させて、その後、所定圧に減圧する。さらに、減圧された被液化ガスを、高温側熱媒体と同種類であり、かつ、高温側熱媒体よりも低温の低温側熱媒体と熱交換させることとした。これにより、高温側熱媒体と熱交換した被液化ガスを低温側熱媒体の温度変化に近似させるように減圧してから、低温側熱媒体と熱交換させることができる。そのため、被液化ガスと高温側熱媒体および低温側熱媒体との温度差を略一定に保つことができる。したがって、単一成分の熱媒体を用いて、被液化ガスを効率的に液化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る液化装置を備えた浮体式液化ガス製造設備の概略構成図である。
【図2】図1に示した液化装置の右側拡大構成図である。
【図3】図1に示した液化装置の左側拡大構成図である。
【図4】図2および図3に示した液化装置における天然ガスおよび窒素の関係を示したT−H線図である。
【図5】複数の圧力における天然ガスおよび窒素の関係を示したT−H線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態に係る液化装置を備えた浮体式液化ガス製造設備の概略構成図について図1に基づいて説明する。
浮体式液化天然ガス製造設備(Floating LNG:FLNG)1は、液化天然ガス(液化ガス)を貯蔵する複数の貨物タンク2と、前処理装置3と、液化装置(図示せず)と、浮体式液化天然ガス製造設備1内に電力を供給する電力供給装置(図示せず)とを備えている。
浮体式液化ガス製造設備(浮体式液化ガス製造設備)1は、陸上や海底の地層下から高圧で噴出する原料ガスである天然ガス(被液化ガス)を精製液化して製品である液化天然ガス(Liquefied natural gas:LNG)にするものであり、洋上に設置されるものである。
【0030】
貨物タンク(本図では、3つのみを示す。)2は、液化天然ガスを貯蔵するものである。貨物タンク2は、モス独立球形タンクである。
前処理装置3は、原料ガスである天然ガス中に含まれている二酸化炭素、硫化水素、水分、重質分等の不純物を除去するものである。
【0031】
液化装置は、天然ガスを冷媒(冷却用熱媒体)と熱交換することによって液化するものである。液化装置は、後述する高圧窒素熱交換器(図示せず)や低圧窒素熱交換器(図示せず)が格納されているコールドボックス5と、船内に電力を供給する電力供給装置が設けられている船内動力設置区画4と、後述する高圧窒素圧縮機(図示せず)、低圧窒素圧縮機(図示せず)、圧縮機駆動用蒸気タービン(図示せず)などが格納されている液化装置用動力装置区画6と、後述するエンドフラッシュタンク(図示せず)などが設けられている貯蔵区画7とに分けられている。
【0032】
コールドボックス5は、甲板上に設けられている。コールドボックス5内には、液化装置の一部である高圧窒素熱交換器(高温側熱媒体用熱交換器)および低圧窒素熱交換器(低温側熱媒体用熱交換器)が設けられている。コールドボックス5は、外部との熱の出入りを防ぐために断熱措置が施してある。
液化装置用動力装置区画6は、甲板下に設けられている。液化装置用動力装置区画6には、液化装置を構成している高圧窒素圧縮機(高温側熱媒体用圧縮機)や低圧窒素圧縮機(低温側熱媒体用圧縮機)、これらの圧縮機を駆動する圧縮機駆動用蒸気タービン(クロスコンパウンドタービン)が設けられている。
【0033】
貯蔵区画7は、甲板下に設けられており、エンドフラッシュタンクが設けられている。
船内動力設置区画4は、甲板下に設けられおり、後述するボイラ(図示せず)と、ガス焚きディーゼル機関(図示せず)と、ガス焚きディーゼル機関駆動発電機(図示せず)とを備えている。浮体式液化天然ガス製造設備1内で必要な電力は、船内動力設置区画4に設けられているこれらの機器によって供給されることとなる。
【0034】
次に、本実施形態の液化装置の構成について図2および図3を用いて説明する。
図2には、図1に示した液化装置の右側拡大構成図が示されており、図3には、その左側拡大構成図が示されている。
液化装置10は、高圧窒素熱交換器11と、低圧窒素熱交換器12と、高圧窒素圧縮機13と、低圧窒素圧縮機14と、圧縮機駆動用蒸気タービン15と、ジュールトムソン膨張弁(減圧弁)16と、ボイラ(図示せず)と、エンドフラッシュタンク30とを主に備えている。液化装置10は、冷凍サイクルと、液化装置10を駆動する駆動部とに分けられる。
【0035】
冷凍サイクルは、高圧な天然ガス(例えば15MPaから20MPa)と冷媒である窒素とが熱交換する高圧窒素ループ17と、比較的低圧な天然ガス(例えば6MPa以下)と冷媒である窒素とが熱交換する低圧窒素ループ18とを備えている。これら2つの冷凍サイクルは、互いに独立したループとなっている。
駆動部は、圧縮機駆動用蒸気タービン15を備えている。
【0036】
高圧窒素ループ17は、主に、高圧窒素熱交換器11と、高圧窒素圧縮機13と、高圧窒素膨張機19とを備えている。
高圧窒素熱交換器11は、高圧な天然ガスと、窒素(以下、「高圧窒素」)とが熱交換するものである。高圧窒素熱交換器11には、例えば、Heatric社のプレート式のステンレスプレートディフュージョンタイプ(diffusion-bonded heat exchangers)が好適に用いられる。
【0037】
高圧窒素圧縮機13は、高圧窒素(高温側熱媒体)を圧縮するものである。高圧窒素圧縮機13には、後述する圧縮機駆動用蒸気タービン15に接続している高圧タービン側減速機20が接続されている。高圧窒素圧縮機13は、高圧タービン側減速機20が駆動されることによって高圧窒素を圧縮する。
【0038】
高圧窒素膨張機19は、高圧窒素を膨張させるものである。高圧窒素膨張機19には、高圧窒素昇圧機21が接続されている。高圧窒素昇圧機21は、高圧窒素膨張機19が高圧窒素を膨張して回転駆動することによって駆動される。高圧窒素昇圧機21は、駆動されることによって高圧窒素を昇圧する。
【0039】
低圧窒素ループ18は、主に、低圧窒素熱交換器12と、低圧窒素圧縮機14と、低圧窒素膨張機22とを備えている。
低圧窒素熱交換器12は、天然ガスと、窒素(以下、「低圧窒素」とう。)とが熱交換するものである。低圧窒素熱交換器12には、アルミロウ付プレートフィンタイプの熱交換器が用いられる。
【0040】
低圧窒素圧縮機14は、低圧窒素(低温側熱媒体)を圧縮するものである。低圧窒素圧縮機14には、後述する圧縮機駆動用蒸気タービン15に接続されている低圧タービン側減速機23が接続されている。低圧窒素圧縮機14は、低圧タービン側減速機23が駆動されることによって低圧窒素を圧縮する。
【0041】
低圧窒素膨張機22は、低圧窒素を膨張させるものである。低圧窒素膨張機22には、低圧窒素昇圧機24が接続されている。低圧窒素昇圧機24は、低圧窒素膨張機22が低圧窒素を膨張して回転駆動することによって駆動される。低圧窒素昇圧機24は、駆動されることによって低圧窒素を昇圧する。
【0042】
圧縮機駆動用蒸気タービン15は、船舶の主機に用いられているクロスコンパウンド式の大型の蒸気タービンである。圧縮機駆動用蒸気タービン15としては、三菱重工業製のUST(Ultra Steam Turbine)が好的に用いられる。
圧縮機駆動用蒸気タービン15は、高圧タービン15aと、中圧タービン(高圧タービン)15bと、第1低圧タービン15cと、第2低圧タービン15dとを備えている。高圧タービン15aと中圧タービン15bとは、プライマリー軸15e(高圧タービン側軸)上に設けられている。第1低圧タービン(低圧タービン)15cと第2低圧タービン(低圧タービン)15dとは、セカンダリー軸(低圧タービン側軸)15f上に設けられている。
【0043】
プライマリー軸15eの端部には、高圧タービン側減速機20が接続されており、セカンダリー軸15fの端部には、低圧タービン側減速機23が接続されている。
高圧タービン側減速機20は、プライマリー軸15eから伝達された出力を高圧窒素圧縮機13へと伝達するものである。これにより、高圧窒素圧縮機13は、高圧タービン15aまたは中圧タービン15bが回転駆動されることによって駆動されることとなる。
低圧タービン側減速機23は、セカンダリー軸15fから伝達された出力を低圧窒素圧縮機14へと伝達するものである。これにより、低圧窒素圧縮機14は、第1低圧タービン15cまたは第2低圧タービン15dが回転駆動されることによって駆動されることとなる。
【0044】
ボイラ(蒸気発生手段)は、燃料として後述するオフガスやボイルオフガス等の液化天然ガスと重油とを燃料として用いる混焼ボイラである。
エンドフラッシュタンク30は、高圧窒素サイクル17および低圧窒素サイクル18を通過した液化天然ガスを膨張させて温度降下させるものである。エンドフラッシュタンク30において、液化天然ガスは、含有されていた窒素成分が除去されることとなる。なお、エンドフラッシュタンク30の代わりに減圧弁を用いても良い。
【0045】
ジュールトムソン膨張弁16は、高圧窒素ループ17と、低圧窒素ループ18との間に設けられている。ジュールトムソン膨張弁16は、その絞り機構によって高圧窒素ループ17を通過した天然ガスをジュールトムソン膨張させるものである。
【0046】
次に、天然ガスの液化方法について説明する。
陸上や海底の地層下から噴出している原料ガスである天然ガスは、浮体式液化天然ガス製造設備1(図1参照)の甲板上に設けられている前処理装置3へと導かれる。天然ガスは、前処理装置3において、含有されている二酸化炭素、硫化水素、水分、重質分等が除去される。
【0047】
前処理装置3によって精製された天然ガスは、コールドボックス5へと導かれる。コールドボックス5に導かれた天然ガスは、昇圧コンプレッサ31(図2参照)等によって例えば15MPa以上に昇圧される。なお、この昇圧は、10MPa以上であることが望ましい。
【0048】
昇圧コンプレッサ31によって高圧にされた天然ガスは、第1熱交換器32へと導かれる。第1熱交換器32に導かれた天然ガスは、海水と熱交換して温度が例えば30℃に下げられる。第1熱交換器32によって温度が下げられた天然ガスは、さらに、第2熱交換器33へと導かれる。第2熱交換器33に導かれた天然ガスは、チラー水である清水と熱交換して温度が例えば−20℃まで低下させられる。このようにチラー水と熱交換して予冷することによって、高圧窒素ループ17における高圧窒素との熱交換効率を向上させることができる。
【0049】
第2熱交換器33によって予冷された天然ガスは、高圧窒素ループ17へと導かれる。高圧窒素ループ17に導かれた天然ガスは、高圧窒素ループ17を構成している高圧窒素熱交換器11へと導かれる。高圧窒素熱交換器11に導かれた天然ガスは、高圧窒素熱交換器11内に設けられている第1過冷却部K1において高圧窒素と熱交換する。第1過冷却部K1において高圧窒素と熱交換することによって、天然ガスは例えば−80℃に低下する。
【0050】
温度が低下した天然ガスは、ジュールトムソン膨張弁16へと導かれる。ジュールトムソン弁16に導かれた天然ガスは、ジュールトムソン膨張弁16を通過することによって圧力が例えば10MPaに膨張(減圧)する。これにより、ジュールトムソン膨張弁16を通過した天然ガスは、温度が例えば−90℃まで低下させられることとなる。
なお、ジュールトムソン膨張弁16による膨張によって天然ガスは、10MPa以下になることが望ましい。
【0051】
ジュールトムソン膨張弁16を通過することによって膨張して温度の低下した天然ガスは、低圧窒素ループ18へと導かれる。低圧窒素ループ18に導かれた天然ガスは、低圧窒素ループ18を構成している低圧窒素熱交換器12へと導かれる。低圧窒素熱交換器12に導かれた天然ガスは、低圧窒素と2段階に渡って熱交換する。すなわち、天然ガスは、低圧窒素熱交換器12に設けられている第2過冷却部K2において例えば−135℃に温度が下げられ後、低圧窒素熱交換器12に設けられている第3過冷却部K3において例えば−160℃にまで温度が下げられて液化される。
【0052】
このようにして液化された液化天然ガスは、エンドフラッシュタンク30へと導かれる。エンドフラッシュタンク30に導かれた液化天然ガスは、エンドフラッシュタンク30内で膨張することによってその温度が降下するとともに、液化天然ガス中の窒素分が放出される。温度がさらに低下して窒素分が放出された液化天然ガスは、図1に示した貨物タンク2へと導かれて貯蔵される。
【0053】
エンドフラッシュタンク30に導かれた液化天然ガスの一部は、ガス化する。ガス化した液化天然ガス(以下、「オフガス」という。)の量は、エンドフラッシュタンク30に導かれる液化天然ガスの温度を調節することによって、フラッシュ率が例えば10%以下になるようにする。
【0054】
オフガス(例えば−140℃)は、エンドフラッシュタンク30から低圧窒素熱交換器12へと導かれる。低圧窒素熱交換器12に導かれたオフガスは、低圧窒素熱交換器12に設けられている第2過冷却部K2において、前述した天然ガスと熱交換する。これにより、オフガスは、その温度が例えば−100℃とされる。さらに、オフガスは、低圧窒素熱交換器12に設けられている第2凝縮部G2へと導かれる。第2凝縮部G2に導かれたオフガスは、後述する低圧窒素と熱交換する。第2凝縮部G2において熱交換したオフガスは、その温度が例えば30℃に加熱されて低圧窒素熱交換器12から導出される。
【0055】
また、貨物タンク2(図1参照)内において液化天然ガスの一部が気化したボイルオフガスも、オフガスと同様に低圧窒素熱交換器12へと導かれる。低圧窒素熱交換器12に導かれたボイルオフガスは、低圧窒素熱交換器12に設けられている第2過冷却部K2および第2凝縮部G2において熱交換して、その温度が例えば30℃に加熱されて低圧窒素熱交換器12から導出される。
【0056】
次に、高圧窒素の流れについて説明する。
高圧窒素ループ17内を循環している高圧窒素は、高圧タービン側減速機20によって駆動される高圧窒素圧縮機13によって例えば12MPa、120℃に圧縮される。高圧とされた高圧窒素は、第3熱交換器34へと導かれる。第3熱交換器34に導かれた高圧窒素は、図示しない給水系統から導かれた給水と熱交換して温度が85℃に下げられる。
【0057】
第3熱交換器34を通過した高圧窒素は、さらに第4熱交換器35へと導かれる。第4熱交換器35に導かれた高圧窒素は、図示しない清水系統から導かれた清水と熱交換して温度が40℃に下げられる。40℃まで温度が低下した高圧窒素は、高圧窒素熱交換器11へと導かれる。高圧窒素熱交換器11に導かれた高圧窒素は、高圧窒素熱交換器11に設けられている第1凝縮部G1へと導かれる。
【0058】
第1凝縮部G1に導かれた高圧窒素は、第1過冷却部K1を通過して膨張した高圧窒素と熱交換する。これによって、第1凝縮部G1を通過した高圧窒素は、温度が例えば−25℃に低下する。第1凝縮部G1において熱交換して温度が低下した高圧窒素は、高温窒素膨張機19へと導かれる。高温窒素膨張機19へと導かれた高圧窒素は、例えば2MPa、−85℃に膨張される。膨張して温度の低下した高圧窒素は、高圧窒素熱交換器11に設けられている第1過冷却部K1へと導かれる。
【0059】
第1過冷却部K1に導かれた膨張した高圧窒素は、前述した天然ガスと熱交換して例えば−30℃に加熱される。第1過冷却部K1において加熱された高圧窒素は、第1凝縮部G1において第4熱交換器35から導かれた高圧窒素と熱交換して例えば35℃に加熱される。
【0060】
高圧窒素熱交換器11に設けられている第1過冷却部K1および第1凝縮部G1を通過して加熱された膨張した高圧窒素は、高圧窒素昇圧機21へと導かれる。高圧窒素昇圧機21に導かれた膨張した高圧窒素は、高圧窒素昇圧機21によって昇圧されて例えば3MPa、85℃とされて第5熱交換器36へと導かれる。
【0061】
第5熱交換器36に導かれた昇圧された高圧窒素は、清水系統から導かれた清水と熱交換されて温度が例えば40℃に下げられる。第5熱交換器36を通過して温度の下げられた高圧窒素は、高圧窒素圧縮機13へと導かれる。
以上のように、高圧窒素は、高圧窒素ループ17内を循環することとなる。
【0062】
次に、低圧窒素の流れについて説明する。
低圧窒素ループ18内を循環している低圧窒素は、低圧タービン側減速機23によって駆動される低圧窒素圧縮機14によって例えば5MPaに圧縮される。圧縮された低圧窒素は、第6熱交換器37へと導かれる。第6熱交換器37に導かれた低圧窒素は、給水系統から導かれた給水と熱交換して温度が例えば85℃に下げられる。
【0063】
第6熱交換器37を通過した低圧窒素は、さらに第7熱交換器38へと導かれる。第7熱交換器38に導かれた低圧窒素は、給水系統から導かれた給水と熱交換して温度が例えば40℃に下げられる。第6熱交換器37および第7熱交換器38を通過して温度が低下した低圧窒素は、低圧窒素熱交換器12へと導かれる。低圧窒素熱交換器12に導かれた低圧窒素は、低圧窒素熱交換器12に設けられている第2凝縮部G2へと導かれる。
【0064】
第2凝縮部G2に導かれた低圧窒素は、第2過冷却部K2を通過して膨張した低圧窒素と熱交換する。これによって、第2凝縮部G2を通過した低圧窒素は、温度が例えば−90℃に下げられる。第2凝縮部G2において熱交換した低圧窒素は、低圧窒素熱交換器12から低圧窒素膨張機22へと導かれる。低圧窒素膨張機22に導かれた温度の低下した低圧窒素は、膨張して例えば3MPa、−164℃にされる。膨張し温度がさらに低下した低圧窒素は、低圧窒素熱交換器12に設けられている第3過冷却部K3へと導かれる。
【0065】
第3過冷却部K3に導かれた膨張した低圧窒素は、前述した第2過冷却部K2を通過した天然ガスと熱交換して例えば−140℃に加熱される。第3過冷却部K3を通過した膨張した低圧窒素は、さらに、第2過冷却部K2においてジュールトムソン膨張弁16から低圧窒素熱交換器11へと導かれた天然ガスと熱交換する。天然ガスと熱交換して膨張した低圧窒素は、例えば−100℃まで加熱される。
【0066】
第2冷却器K2を通過して膨張した低圧窒素は、さらに低圧窒素熱交換器11に設けられている第2凝縮部G2へと導かれる。第2凝縮部G2に導かれた膨張した低圧窒素は、第7熱交換器38から導かれた低圧窒素と熱交換する。これにより、膨張した低圧窒素は、例えば36℃とされて低圧窒素熱交換器12から導出される。
【0067】
低圧窒素熱交換器12に設けられている第3過冷却部K3、第2過冷却部K2および第2凝縮部G2を通過して加熱された低圧窒素は、低圧窒素昇圧機24へと導かれる。低圧窒素昇圧機24に導かれた膨張した低圧窒素は、低圧窒素昇圧機24によって昇圧されて例えば1MPa、85℃とされる。昇圧された低圧窒素は、第8熱交換器39へと導かれる。
【0068】
第8熱交換器39に導かれた昇圧された低圧窒素は、給水系統から導かれた給水と熱交換して温度が例えば40℃に下げられる。第8熱交換器39を通過して温度が下げられた低圧窒素は、低圧窒素圧縮機14へと導かれる。
以上のように、低圧窒素は、低圧窒素ループ18内を循環することとなる。
【0069】
次に、蒸気の流れについて説明する。
低圧窒素熱交換器12に設けられている第2凝縮部G2から導出されて例えば30℃に加熱されたオフガスおよびボイルオフガスは、ボイラへと導かれる。ボイラに導かれたオフガスおよびボイルオフガスは、ボイラの燃料として燃焼されて高温高圧(例えば555℃、11MPa)の蒸気を発生させる。ボイラで発生した蒸気は、圧縮機駆動用蒸気タービン15の高圧タービン15aへと導かれる。高圧タービン15aに導かれた蒸気は、その熱エネルギーを高圧タービン15aの回転エネルギーへと変換して高圧タービン15aを回転駆動する。高圧タービン15aが回転駆動することによってプライマリー軸15eが回転する。プライマリー軸15eが回転することによって、プライマリー軸15eに設けられている中圧タービン15bおよび高圧タービン側減速機20が駆動される。
【0070】
一方、高圧タービン15aを回転駆動した蒸気は、例えば2MPaとされて高圧タービン15aから導出される。高圧タービン15aから導出された蒸気は、図示しない再熱器へと導かれる。再熱器に導かれた蒸気は、再熱器によって例えば555℃の再熱蒸気とされる。この再熱蒸気は、圧縮機駆動用蒸気タービン15の中圧タービン15bへと導かれる。
【0071】
中圧タービン15bに導かれた再熱蒸気は、その熱エネルギーを中圧タービン15bの回転エネルギーへと変換して中圧タービン15bを回転駆動する。中圧タービン15bが回転駆動することによってさらにプライマリー軸15eがさらに回転する。プライマリー軸15eがさらに回転することによって、プライマリー軸15eに設けられている高圧タービン側減速機20がさらに駆動されることとなる。
【0072】
中圧タービン15bは、その途中段から蒸気の一部が抽気される。抽気された例えば1MPaの蒸気は、浮体式液化天然ガス製造設備1(図1参照)内で用いる高圧雑用蒸気等に用いられる。
中圧タービン15bの全段を通過した蒸気は、例えば110℃とされて圧縮機駆動用蒸気タービン15の第1低圧タービン15cへと導かれる。
【0073】
第1低圧タービン15cに導かれた蒸気は、その熱エネルギーを第1低圧タービン15cの回転エネルギーへと変換して第1低圧タービン15cを回転駆動する。第1低圧タービン15cが回転駆動することによってセカンダリー軸15fが回転する。セカンダリー軸15fが回転することによって、セカンダリー軸15fに設けられている第2低圧タービン15dおよび低圧タービン側減速機23が駆動されることとなる。
【0074】
第1低圧タービン15cは、その途中段から蒸気の一部が抽気される。抽気された例えば0.1MPaの蒸気は、浮体式液化天然ガス製造設備1(図1参照)内で用いる低圧雑用蒸気等に用いられる。
第1低圧タービン15cの全段を通過した蒸気は、セカンダリー軸15fに設けられている第2低圧タービン15dへと導かれる。
【0075】
また、第2低圧タービン15dには、別途、図示しないアシスト蒸気供給系統より例えば0.6MPaのアシスト蒸気が供給される。供給されたアシスト蒸気により第2低圧タービン15dは、回転駆動される。第2低圧タービン15dが回転駆動ことによって、セカンダリー軸15fに接続されている低圧タービン側減速機23を駆動することが可能となっている。
【0076】
第1低圧タービン15cの全段を通過した蒸気および第2低圧タービン15dを駆動したアシスト蒸気は、図示しない主復水器へと導かれて海水と熱交換して復水とされる。
【0077】
このように、圧縮機駆動用蒸気タービン15は、プライマリー軸15eとセカンダリー軸15fとによって各々独立に高圧タービン側減速機20と低圧タービン側減速機23とを制御することができ、さらに、アシスト蒸気によって第2低圧タービン15dを駆動することによっても低圧タービン側減速機23を独立に制御することができるようになっている。
【0078】
ここで、本実施形態の天然ガスおよび窒素冷媒のT−H線図について図4および前述した図5を用いて説明する。
図4には、本実施形態の天然ガスおよび窒素冷媒のT−H線図が示されている。
図4では、縦軸に熱負荷(kW)を示し、横軸に温度(℃)を示す。図4の実線は、15MPaまたは4MPaに昇圧した天然ガスを示し、一点鎖線は、4MPaに昇圧した場合の天然ガスと熱交換する窒素を示す。
【0079】
また、図5には、複数の圧力における天然ガスおよび窒素の関係を示したT−H線図が示されている。
図5では、縦軸に熱負荷(kW)を示し、横軸に温度(℃)を示す。図5の実線は、15MPaに昇圧した天然ガスを示し、点線は、4MPaに昇圧した天然ガスを示し、一点鎖線は、4MPaの比較的低圧の天然ガスに対して温度差が小さな窒素を示し、二点鎖線は、15MPaの高圧の天然ガスに対して温度差が小さな窒素を示す。
【0080】
図5に示すように、4MPaの天然ガス(実線)は、窒素と熱交換して温度が低下する過程において温度変化がほとんど生じないステップ状が発生する。天然ガスの液化は、窒素との温度差が小さい方が液化効率がよいため、窒素(点線)と天然ガスとの温度差が最も小さくなるピンチポイントがステップ状になってしまう。そのため、ステップ状以外の熱交換過程では、天然ガスと窒素との温度差が大きくなり全体として液化効率が低下しまう。
【0081】
天然ガスを例えば15MPaの高圧に昇圧した場合(点線)には、4MPaの天然ガスにおいて生じていたステップ状がなくなり、天然ガスの温度変化が略直線状になる。そのため、15MPaの天然ガスと窒素(二点鎖線)との温度差が小さくなり全体に渡って効率的に液化することができる。
【0082】
なお、図5に示すように、天然ガスの低温部においては、天然ガスの圧力が15MPaの場合であっても4MPaの場合であっても、窒素との温度差は小さくなっている。
【0083】
本実施形態では、図4に示すように、天然ガスの高温部では、天然ガスを高圧(例えば15MPa)に昇圧して、天然ガスの低温部では、天然ガスを比較的低圧(例えば4MPa)に昇圧して窒素と熱交換させることによって熱交換過程の全域に渡って略均一の温度差にすることとした。
【0084】
すなわち、天然ガスの高温部では、高圧の天然ガスを高圧窒素ループ17の高圧窒素と熱交換させ、天然ガスの低温部では、低圧の天然ガスを低圧窒素ループ18の低圧窒素と熱交換させる。
また、高圧窒素ループ17と低圧窒素ループ18との間には、ジュールトムソン膨張弁16を設けて15MPaの高圧の天然ガスを4MPaの低圧の天然ガスに膨張させることにした。これにより、図4に示すように、天然ガスの高圧部における温度と、4MPaの低圧の天然ガスの温度との差を小さくして、天然ガスの全領域にわたる温度変化を略直線状になるようにすることができる。
【0085】
以上の通り、本実施形態に係る液化装置10およびこれを備えている浮体式液化天然ガス製造設備1によれば、以下の作用効果を奏する。
単一成分の高圧窒素(高温側熱媒体)を高圧窒素熱交換器(高温側熱媒体用熱交換器)11へ、高圧窒素と同種類の低圧窒素(低温側熱媒体)を低圧窒素熱交換器(低温側熱媒体用熱交換器)12へと導き、高圧窒素熱交換器11と低圧窒素熱交換器12との間には、天然ガス(被液化ガス)を所定圧に減圧するジュールトムソン膨張弁(減圧弁)16を設けることとした。これにより、高圧窒素熱交換器11を通過した天然ガスをジュールトムソン膨張弁16により低圧窒素の温度変化に近似させて低圧窒素熱交換器12へと導くことができる。そのため、天然ガスと高圧窒素との熱交換による温度差と、天然ガスと低圧窒素との熱交換による温度差とをそれぞれ熱交換過程において略一定に保つことができる。したがって、単一成分の窒素(熱媒体)を用いて、天然ガスを効率的に液化することができる。
【0086】
プライマリー軸(高圧タービン側軸)15eに高圧タービン側減速機20を介して高圧窒素圧縮機(高温側熱媒体用圧縮機)13を接続し、セカンダリー軸(低圧タービン側軸)15fに低圧タービン側減速機23を介して低圧窒素圧縮機(低温側熱媒体用圧縮機)14を接続することとした。圧縮機駆動用蒸気タービン(クロスコンパウンドタービン)15を構成しているプライマリー軸15eとセカンダリー軸15fとは、互いに分離しているため、プライマリー軸15eに接続されている高圧タービン15aおよび中圧タービン(高圧タービン)15b、セカンダリー軸15fに接続されている第1低圧タービン(低圧タービン)15cおよび第2低圧タービン(低圧タービン)15dとを各々制御することによって高圧窒素圧縮機13と低圧窒素圧縮機14とをそれぞれ独立に制御することができる。したがって、高圧窒素と低圧窒素とを互いに独立に圧縮することができ、高圧窒素ループ17を循環する高圧窒素と低圧窒素ループ18を循環する低圧窒素との冷凍負荷を独立に制御することができる。
【0087】
天然ガスと高圧窒素とが熱交換する高圧窒素熱交換器11には、ステンレスプレートディフュージョンタイプ(プレート式)を用いることとした。そのため、高圧窒素熱交換器11を小型化することができる。したがって、液化装置10を構成している高圧窒素熱交換器11が格納されているコールドボックス5のコンパクト化を図ることができる。
【0088】
また、ジュールトムソン膨張弁16を通過することによって天然ガスの圧力を低下させて低圧窒素熱交換器12にアルミロウ付プレートフィンタイプ(プレート式)を用いることとした。そのため、低圧窒素熱交換器12も小型化することができる。したがって、液化装置10を構成しているコールドボックス5を更にコンパクトにすることができる。
【0089】
液化天然ガス中のオフガスおよびボイルオフガスを燃料として燃焼して蒸気を発生するボイラ(蒸気発生手段)を用いることとした。そのため、圧縮機駆動用蒸気タービン15を駆動する蒸気を液化ガス装置10において生じたオフガスやボイルオフガスを用いて駆動することができる。したがって、液化装置10から生じるオフガスやボイルオフガスを有効に利用することができる。
【0090】
蒸気によって駆動する圧縮機駆動用蒸気タービン15によって構成されている液化装置10を浮体式液化天然ガス製造設備(浮体式液化ガス製造設備)1に用いることとした。そのため、圧縮機駆動用蒸気タービン15には、既存の舶用主機に用いられているクロスパウンド式の蒸気タービンを適用することができる。したがって、高圧窒素圧縮機13および低圧窒素圧縮機14を駆動するために圧縮機駆動用蒸気タービン15の新たな開発が不要となり、既存の機器を有効利用することができる。
【0091】
熱媒体に不燃性の窒素を用いる高圧窒素圧縮機13および低圧窒素圧縮機14と、高圧窒素熱交換器11および低圧窒素熱交換器12とによって構成されている液化装置10を浮体式液化天然ガス製造設備1に用いることとした。また、高圧窒素圧縮機13および低圧窒素圧縮機14の駆動には、圧縮機駆動用蒸気タービン15を用いることとした。これらにより、熱媒体等の可燃性ガスが漏洩することによる爆発の危険性を防止することができる。そのため、浮体式液化天然ガス製造設備1の甲板下の液化装置用動力装置区画6に、高圧窒素圧縮機13、低圧窒素圧縮機14や圧縮機駆動用蒸気タービン15などの機器を配置することができる。したがって、甲板上の液化装置10の配置スペースを削減することができる。
【0092】
また、本実施形態では、液化装置10に用いられる熱媒体として、窒素を用いて説明したが不燃性の熱媒体であればよい。
また、本実施形態では、被液化ガスとして液化天然ガス(LNG)を用いて説明したが、液化石油ガス(Liquefied petroleum gas:LPG)等であっても良い。
【0093】
また、本実施形態では、昇圧コンプレッサ31から高圧窒素熱交換器11へと導かれる天然ガスを第1熱交換器32および第2熱交換器33によって予冷するとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、チラー水によって予冷しない、すなわち第2熱交換器33を設けないものとしても良い。チラー水を用いて−10℃から−30℃程度まで予冷することによって、高圧窒素ループ17および低圧窒素ループ18に導かれる高圧窒素および低圧窒素を圧縮する動力の削減効果を高めることができるが、予冷を行わなくても良い。
【0094】
また、船内動力設置区画4に設けられているガス焚きディーゼル機関から排出される高温の排気ガスを排熱回収ボイラ等の排熱回収装置(図示せず)へと導いて蒸気を発生させ、排熱回収ボイラによって発生した蒸気を圧縮機駆動用蒸気タービン15へと導いて圧縮機駆動用蒸気タービン15の起動等に利用しても良い。これにより、ガス焚きディーゼル機関からの排熱を有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 浮体式液化天然ガス製造設備(浮体式液化ガス製造設備)
10 液化設備
11 高圧窒素熱交換器(高温側熱媒体用熱交換器)
12 低圧窒素熱交換器(低温側熱媒体用熱交換器)
16 ジュールトムソン膨張弁(減圧弁)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一成分の高圧熱媒体と熱交換させた被液化ガスを減圧した後に、減圧した前記被液化ガスを前記高圧熱媒体よりも低温かつ同種類の低温側熱媒体と熱交換させて液化する液化方法。
【請求項2】
被液化ガスと高温側熱媒体とが熱交換する高温側熱媒体用熱交換器と、
該高温側熱媒体用熱交換器から導出された被液化ガスを減圧する減圧弁と、
該減圧弁を通過した被液化ガスと、低温側熱媒体とが熱交換する低圧熱媒用熱交換器と、を備え、
前記高温側熱媒体および前記低温側熱媒体は、単一成分かつ同種類であって、
前記減圧弁は、前記低温側熱媒体用熱交換器に導かれる被液化ガスを所定圧に減圧する液化装置。
【請求項3】
蒸気が導かれて駆動される高圧タービンと、
該高圧タービンに接続される高圧タービン側軸と、
前記高圧タービンから導出された蒸気が導かれて駆動される低圧タービンと、
該低圧タービンに接続される低圧タービン側軸と、を有するクロスコンパウンドタービンと、
前記高温側熱媒体用熱交換器に導かれる高温側熱媒体を圧縮する高温側熱媒体用圧縮機と、
前記低温側熱媒体用熱交換器に導かれる低温側熱媒体を圧縮する低温側熱媒体用圧縮機と、
前記高圧タービンに導かれる蒸気を発生する蒸気発生手段と、を備え、
前記高温側熱媒体用圧縮機を前記高圧タービン側軸に接続し、前記低温側熱媒体用圧縮機を前記低圧タービン側軸に接続する請求項2に記載の液化装置。
【請求項4】
前記高温側熱媒体用熱交換器は、プレート式である請求項2または請求項3に記載の液化装置。
【請求項5】
前記蒸気発生手段は、液化ガス中のオフガスを燃料として蒸気を発生する請求項2から請求項4のいずれかに記載の液化装置。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれかに記載の液化装置を備える浮体式液化ガス製造設備。
【請求項7】
前記高温側熱媒体及び前記低温側熱媒体には、窒素を用いる請求項6に記載の浮体式液化ガス製造設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−83051(P2012−83051A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230766(P2010−230766)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】