説明

液圧式ダイアフラムポンプのエア抜き弁

【課題】液圧式ダイアフラムポンプのエア抜き弁であって、過剰な作動液を排出する構造を提供する。
【解決手段】バルブピストン68は、バルブハウジング56に対し移動可能であり、バルブピストンが着座したとき、バルブピストンのフランジ70に形成されたシール面74とバルブハウジングのシート面80が当接する。シール面74には渦巻き形状の排出溝86が形成されている。バルブピストンが着座しているときであっても、排出溝86を介して、ポンプの液圧室の過剰な作動液が、ポンプ外部に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧式ダイアフラムポンプのエア抜き弁に関する。
【背景技術】
【0002】
往復運動するピストンまたはプランジャの動きを液体を介してダイアフラムに伝達し、ダイアフラムの膜運動により取扱い液で満たされた取扱い液室の容積を増減させて取扱い液を送り出す往復動ポンプが知られている。ピストン等の動きをダイアフラムに伝える液体(以下、作動液と記す。)は、液圧室を満たしている。また、液圧室には、液圧室内に溜まった空気またはその他の気体(以下、単にエアと記す。)を外部に排出するためのエア抜き弁が備えられている。エア抜き弁は、吐出行程において、気泡となったエアを、またはこれを含む少量の作動液を外部に放出して、エアの滞留を防止するとともに、液圧室内の過剰な量の作動液の排出する機能を有する。
【0003】
しかし、ダイアフラムポンプの吸込み側の圧力が高いと、エア抜き弁が閉じたままとなり、エア抜き機能および過剰量の作動液排出機能が発揮されない。この状態において、ピストン等に取り付けられたパッキンにより、作動液が掻き上げられて液圧室に送り込まれる状態が発生すると、液圧室内の液量が徐々に増加してダイアフラムを圧迫し、ダイアフラムが正常に作動しなくなる。
【0004】
この対策として、エア抜き弁には、エア抜き弁のバルブ要素に微細な孔をあける場合がある。エア抜き弁が閉じた場合でも、この孔から、過剰な作動液を外部に排出している。また、下記特許文献1には、バルブボールがバルブシートに完全に密着しないようにして、この隙間から作動液の一部を外部に排出する技術が記載されている(段落0021等参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−203380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バルブ要素に微細な孔をあけたエア抜き弁を用いた場合、この孔に異物が詰まると、作動液が排出されなくなる。また、上記特許文献においては、偏心プレスにより、バルブシートを加工し、孔の形状を楕円とすることで、バルブボールとバルブシートの間に、作動液が通過し、排出される隙間を形成している。このため、隙間の大きさの調整が難しい。
【0007】
本発明は、過剰の作動液を排出するための構造に異物が詰まらないようにすること、および排出される作動液の量を容易に設定できるようにすることの少なくとも一つを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の、液圧式ダイアフラムポンプのエア抜き弁は、バルブハウジングと、バルブハウジング内を移動可能であり、ポンプ側の圧力が高まったときに移動してバルブハウジングに着座するバルブ要素を含む。バルブ要素が着座することにより当接する、バルブ要素のシール面と、バルブハウジングのシート面の少なくとも一方には、バルブ要素が着座位置なるときに、ポンプ側の液体を排出するための、排出溝が設けられている。
【0009】
溝の加工は、流路の断面積、長さ、本数等の選定が容易であり、所望の排出量を実現しやすい。
【0010】
また、シール面は円環形状で、円環の外側と内側の間をシールするものとでき、排出溝は、この円環の周方向と径方向の成分を有して延び、円環形状の外周側と内周側を繋ぐものとすることができる。
【0011】
また、シール面は円環形状で、円環の外側と内側の間をシールするものとでき、排出溝は、渦巻き形状であって、円環形状の外周側と内周側を繋ぐものとすることができる。
【0012】
排出溝を周方向に成分を有するようにする、または渦巻き形状にする等により、溝の長さを長くし、排出量を少量に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、液圧式ダイアフラムポンプ10の概略構成を示す断面図である。シリンダヘッド12とダイアフラムヘッド14が結合されており、これらの対向する面にそれぞれ設けられ窪みによりポンプ室16が形成されている。シリンダヘッド12とダイアフラムヘッド14が、円形膜状のダイアフラム18の周縁を挟むようにしてこれを保持し、ポンプ室16は、このダイアフラム18によって2室に分割されている。ダイアフラム18のダイアフラムヘッド14側(図中右側)が取扱い液が流入、流出する取扱い液室20、シリンダヘッド12側(図中左側 )が作動液で満たされた液圧室22である。ダイアフラム18は、可撓性を有しており、このダイアフラム18が変形することにより、取扱い液室20の容積が変化し、この容積変化によって取扱い液が吸い込まれ、また吐出される。
【0014】
シリンダヘッド12のポンプ室16と反対側には、シリンダ24が結合されている。このシリンダ24内には、その内筒面に沿って往復動するピストン26が配置される。ピストン26の往復動は、ロッド28を介して不図示のクランク機構等の駆動機構により引き起こされる。シリンダ24の内筒面とピストン26の頂面とにより形成されるシリンダ室30は作動液で満たされており、さらに液圧室22と連通している。これにより、ピストン26の往復動が作動液を介してダイアフラム18に伝わり、ダイアフラム18が変形して、取扱い液室の容積変化が生じる。
【0015】
ダイアフラムヘッド14内には、取扱い液室20にそれぞれ接続する吸込み流路32、吐出流路34が形成されており、更にこれらの流路には、吸込み配管36、吐出配管38が接続されている。これらの配管36,38とダイアフラムヘッド14の間には、逆止弁40,42が設けられている。吸込み側逆止弁40は、吸込み行程、すなわちダイアフラム18が退避する方向に動作して取扱い液室20の容積が増加中に開放状態となって、吸込み配管より取扱い液室20に取扱い液が流入することを許容する。一方、この吸込み行程においては、吐出側逆止弁42は、閉鎖状態となって、吐出配管38から取扱い液が逆流することを阻止する。吐出行程、すなわちダイアフラム18が進出方向に動作して取扱い液室20の容積が減少中には吸込み行程と逆に、吸込み側逆止弁40が閉鎖状態となり、吐出側逆止弁42が開放状態となって、取扱い液が吐出流路34および吐出配管38より吐出される。
【0016】
シリンダヘッド12の、ポンプ室16を形成する面のほぼ中央には作動液補給機構44が設けられている。作動液補給機構44は補給ピストン46を含む。ダイアフラム18は、液圧室22及びシリンダ室30及びこれらに連通する空間内の作動液の総量が減少すると、シリンダヘッド12側に偏り、補給ピストン46を押すようになる。補給ピストン46が押されると、作動液補給機構44内の弁が開放されて、作動液補給流路48、作動液補給弁49および作動液補給配管50を介して、リザーバ室52内に蓄えられている作動油が補給される。リザーバ室52には、ピストン26の背面が液面より下となる程度に作動液が蓄えられている。
【0017】
さらに、シリンダヘッド12の頂部にはエア抜き弁54が設けられている。エア抜き弁54は、液圧室22およびシリンダ室30の残留エア、および作動液から分離したエアを、ポンプ外部に排出する機能を有する。エア抜き弁54は、吐出行程の一時期開放して、気泡となったエアを、またはこれを含む作動液を排出する。
【0018】
さらに、エア抜き弁54は、過剰な作動液をポンプ外部に排出する機能を有する。前述のようにピストン26の背面には、リザーバ室52内に貯められた作動液が存在し、その一部が、ピストンの往復動に伴い、ピストン26に装着されたパッキンの摺動によってシリンダ室30内に送られる場合がある。この現象が発生すると、液圧室22側の作動液が過剰となって、ダイアフラム18がダイアフラムヘッド14側に偏り、所定の性能を得られない場合がある。前述のエア抜きの動作においてエアを含む状態で作動液が排出されるので、過剰分はこれによっても排出されるが、エア抜き弁54は、弁が閉じた状態であっても、微量の作動液を排出する機能を有している。
【0019】
図2は、エア抜き弁54の要部の構成を示す断面図である。バルブハウジング56には、その軸線に沿って貫通する貫通路58が形成されている。貫通路の一端(図中下方の端)は液圧室22およびシリンダ室30に連通しており、他端(図中上方の端)は大気に開放している。貫通路58は、径の異なる円筒内周面が連なって構成されている。貫通路58内には、二つのバルブ要素60,62が直列に配置されている。一つのバルブ要素であるバルブボール60は、貫通路58の内径の異なる部分の境界にあたる段付き部64と、半径方向に横断しているピン66の間を移動可能に配置され、この段付き部64と共に逆止弁を構成している。この逆止弁は、ポンプ側から外部への作動液の排出は許容し、逆向きの流れは阻止する。したがって、このエア抜き弁54を介してポンプ側へ外気は吸入されることはない。
【0020】
もう一つのバルブ要素であるバルブピストン62は、貫通路58の円筒内周面に対向する外周面を有する軸部68と、軸部68の端に形成されたフランジ70を含む。軸部68が貫通路58内に嵌り、ここで移動可能となっている。フランジ70は、貫通路58のポンプ側の開口72の周囲の端面と対向するシール面74を有する。バルブピストン62は、貫通路58内に配置されたばね76により、図中下方に向けて付勢されている。一方で、バルブピストン62は、バルブハウジング56の下端近傍に配置された止め輪78により、下方への動きを規制されている。したがって、バルブピストン62は、フランジ70が、開口72の周囲のバルブハウジング端面に当接する位置と、止め輪78に当接する位置の間で移動を許容されてバルブハウジング56に保持されている。フランジのシール面74が当接するバルブハウジング端面をシート面80と呼ぶ。バルブピストンの軸部68には、軸線に沿って延びる縦孔82と、フランジ70に隣接して位置し、軸線を横切るように延びる横孔84が形成されている。縦孔82と横孔84はつながり、全体としてT字形状となっていて、縦孔82は軸部68のフランジ側とは反対側の端に開口している。したがって、軸部68は、バルブピストンが着座していないとき、ポンプ側と外部を連通する貫通路を有している。また、横孔84は、シール面74とシート面80とが離れているときに、これら間に向けて開口している。シール面74には、過剰な作動液を排出するための排出溝86が形成されている。
【0021】
図3は、バルブピストン62を、図2の上方より見た状態を示す図である。図示されるように排出溝86は、バルブピストンの軸線を取り巻く約三重の渦巻き形状となっており、円環形状のシール面74の外周側と内周側を繋いでいる。これにより、バルブピストン62がバルブハウジング56に着座したとき、つまりシール面74がシート面80に当接したときにおいても、ポンプ側と外気側が排出溝86により連通している。排出溝86は細く、また渦巻き形状とすることで長さを十分にとることでき、バルブピストン62の着座状態において、流路抵抗が大きくなるため、この排出溝86を通ってポンプ側から排出される作動液は、わずかである。言い換えれば、排出溝の断面積、長さ等の寸法諸元を適切に設定することにより、排出量を定めることができる。したがって、ある程度大きな排出量であっても、これを許容できるのであれば、二重、一重の渦巻き形状であってもよく、さらに、これに満たない長さであってもよい。例えば、排出溝を、半周程度の円弧部分と、この円弧の一端から外周側に延びる部分と、他端から内周側に延びる部分とからなる構成としてもよい。また、このような折れ曲がった形状ではなく、半径方向に対して傾いて、または交差して、内周側から延びて外周側に達するような形状としてもよい。つまり、溝の延びる方向が、周方向と、径方向の成分を有するものとすることで、溝の長さを長くすることができ、長さを調節して適切な流路抵抗を与えるようにできる。さらには、径方向にのみ延びて配置された溝であってもよい。また、本数についても、適宜定めることができる。
【0022】
排出溝86の排出量については、前述のピストン26のパッキンによる掻き上げ量以上であって、ポンプ吐出量の精度、ポンプ効率が許容できる範囲内に設定する必要がある。パッキンの掻き上げ量はわずかなので、排出溝86による排出量はポンプ定格吐出量の1パーセント以下が望ましい。しかし、定格吐出量の小さなポンプにあっては、相対的に排出量が増加するので、3パーセント程度となる場合もあり得る。
【0023】
排出溝86の加工方法は、旋盤等による切削加工とすることができるが、放電加工、その他の周知の加工方法を採用することができる。切削加工による加工は最も簡便であるが、刃先半径の下限が限定されるために、溝の断面積を小さくするにも限界がある。しかし、旋盤加工等による渦巻き形状等を採用して溝の深さや長さを適切に設定することにより、異物の詰まりにくい断面積を確保しながら、溝を通過する作動液に対する、流路抵抗の設定幅、すなわち排出量の設定幅を広くすることが可能である。
【0024】
次に、エア抜き弁54の動作について説明する。吸込み行程、すなわち液圧室22等の圧力が低下している状況下では、バルブボール60が段付き部64に着座し、エア抜き弁54を介した作動液および空気の流通はない。このとき、バルブピストン62は、重力およびばね76の付勢力により止め輪78に当接し、シール面74がシート面80から離れた離隔位置にある。この状態においては、貫通路58は、ポンプ側から、横孔84、縦孔82を介してバルブボール60の位置までが連通状態にある。吸込み行程から吐出行程に移ったとき、バルブピストン62は、まだ離隔位置にあるが、液圧室22等内の圧力上昇に伴い、押されて、上方に移動を開始する。しかし、バルブハウジング56に着座するまでは、若干の時間を要する。この間、横孔84はポンプ側に対して開放しており、また、バルブボール60も液圧室22等の圧力を受けて、段付き部64から離れ、貫通路58を開放する。これにより、作動液の一部が貫通路58を通って放出される。この放出される作動液と共に気泡状のエアがエア抜き弁より排出される。
【0025】
バルブピストン62が着座し、着座位置となると、横孔84の開口はほぼ閉じられるが、わずかに開口部分が残るようになっている。シール面74とシート面80は当接しているが、この円環形状の当接している領域の内外は、排出溝86を介して連通している。したがって、バルブピストン62が着座位置にあっても、エア抜き弁54の内外は、極小さな断面積の流路を介して連通した状態となっている。この排出溝86を介して作動液が排出される。
【0026】
吐出行程から吸込み行程に移ると、バルブピストン62は下降し、シール面74とシート面80は離隔する。この離隔により、排出溝86内に異物が混入していていも、異物が溝から排除される、またはされやすい。
【0027】
上述の実施形態においては、排出溝86はバルブピストンのシール面74に形成したが、上述の排出溝と同様の溝をバルブハウジングのシート面80に形成してもよく、また両者に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】液圧式ダイアフラムポンプの概略構成を示す断面図である。
【図2】本実施形態のエア抜き弁の構成を示す断面図である。
【図3】エア抜き弁のバルブピストンを図2における上方より見た図である。
【符号の説明】
【0029】
10 液圧式ダイアフラムポンプ、12 シリンダヘッド、14 ダイアフラムヘッド、18 ダイアフラム、20 取扱い液室、22 液圧室、24 シリンダ、26 ピストン、28 ロッド、30 シリンダ室、54 エア抜き弁、56 バルブハウジング、58 貫通路、60 バルブボール、62 バルブピストン、68 軸部、70 フランジ、72 開口、74 シール面、80 シート面、86 排出溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧式ダイアフラムポンプのエア抜き弁であって、
バルブハウジングと、
バルブハウジングに対して移動可能であり、移動範囲の一端である着座位置においてバルブハウジングに当接するシール面を有し、移動範囲の他端である離隔位置において流路を開放するバルブ要素と、
を有し、
ポンプ側の液圧が高まったときに、この液圧により前記バルブ要素が離隔位置より着座位置に向けて移動し、この移動中に液体と共にエアを放出し、
さらに、前記シール面と、このシール面が当接するバルブハウジングのシート面の少なくとも一方に、前記バルブ要素が着座位置にあるときにポンプ側の液体を排出させるための排出溝が設けられた、
エア抜き弁。
【請求項2】
請求項1に記載のエア抜き弁であって、前記シール面は円環形状で、この円環の外側と内側の間をシールし、前記排出溝は前記円環の周方向と径方向の成分を有して延び、前記シール面の外周側と内周側を繋いでいる、エア抜き弁。
【請求項3】
請求項2に記載のエア抜き弁であって、前記排出溝は、前記円環の中心を取り巻くように渦を巻く渦巻き形状である、エア抜き弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−293560(P2009−293560A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149507(P2008−149507)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】