説明

液圧式倍力装置

【課題】耐久性を損なわずに装置全体の小型化を実現可能な液圧式倍力装置を提供する。
【解決手段】パワーピストン33,34と、ボディ30に対して相対移動可能な入力部材35と、補助液圧源ASより作動液が供給されパワーピストン33,34を押動するパワー室57と、入力部材35のボディ30に対する相対的な移動に応じて、パワー室57と補助液圧源AS及びリザーバRSとの連通を許可又は禁止する調整機構41と、を備えた液圧式倍力装置2において、パワーピストン33又は入力部材35に固定されるとともに、この固定位置よりもパワーピストン33,34の押込み側でボディ30に対して摺動可能にシールされ、調整機構41から導入された作動液をリザーバRSに排出するドレイン室63をボディ30とともに形成するカップ状のカバー部材36を設け、カバー部材36の移動軌跡が、収容部32と径方向において重なることを特徴とする液圧式倍力装置2。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧された作動液をパワー室に送ることにより、入力された操作力よりも大きな力でパワーピストンを押動する液圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液圧式倍力装置として、例えば特許文献1にブレーキ装置に使用されるものが記載されている。この倍力装置においては、動力室17が、入力軸19の内部に形成された通路や、プラグ13に配設された2つのシール部材の間の環状室34を介して、リザーバ39に連通するように構成されている。この場合、例えば、2つのシール部材間の距離に相当する分だけ入力軸19を押し込むには、入力軸19においてプラグ13より延出した部分についても上記シール部材間の距離分の長さが必要となり、入力軸19全体として、少なくとも上記シール部材間の距離の2倍の長さが必要となる。このため、装置全体の長さが長くなり、ブレーキ装置への搭載性において問題となる。
【0003】
上記の問題を解決するため、特許文献2に記載の液圧式倍力装置は、入力部材4に一方の開口端を接続し、シリンダ3に他方の開口端を接続した筒状弾性部材のゴムブーツ20を設けている。このゴムブーツ20内の空間(リザーバ室R6)を、調圧手段に連通するとともに、リザーバに連通するように構成することにより、入力部材4の摺動とともにゴムブーツ20が伸縮するため、全長が短い装置を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−60871
【特許文献2】特開2002−87242
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両等生産時に、例えばブレーキ装置に使用される液圧式倍力装置に作動液を効率的に充填するため、いったん倍力装置内を真空とした後、高圧の作動液を圧送して充填する真空充填と呼ばれる方法が一般に用いられる。しかし、特許文献2の倍力装置においては、リザーバ室R6を構成する弾性部材の強度が十分でなく、高圧の作動液充填時に弾性部材が過度に変形する等して破損するおそれがある。また、製品の組立時や搬送時等においても、弾性部材を使用することにより破損する確率が高くなるという問題があった。
【0006】
そこで、特許文献2には、剛体のカバー30によってゴムブーツ20を被覆することにより、破損を防止する手段が記載されている。しかし、このように構成すると、カバー30の外側に入力部材4のストローク分だけ延出した入力ロッドBKが必要となり、装置全体の小型化という課題を解決できない。
【0007】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたもので、強度及び耐久性を損なわずに装置全体の小型化を実現可能な液圧式倍力装置を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液圧式倍力装置の第一特徴構成は、端部が開口した円筒部を有するボディと、前記ボディの軸方向に摺動自在なパワーピストンと、入力ロッドからの操作力を受けて、前記ボディに対して相対移動可能な入力部材と、リザーバの作動液を所定の圧力に昇圧する補助液圧源と、前記補助液圧源より作動液が供給され、前記パワーピストンを押動するパワー室と、前記入力部材の前記ボディに対する相対的な移動に応じて、前記パワー室と前記補助液圧源及び前記リザーバとの連通を許可又は禁止する調整機構と、を備えた液圧式倍力装置において、前記パワーピストン又は前記入力部材に固定されるとともに、この固定位置よりも前記パワーピストンの押込み側で前記ボディに対して摺動可能にシールされ、前記調整機構から導入された作動液を前記リザーバに排出するドレイン室を前記ボディとともに形成するカップ状のカバー部材を設け、前記カバー部材の移動軌跡が、前記ボディのうち、前記パワーピストンを摺接可能に収容し当該パワーピストンとともに前記パワー室を区画形成する筒状の収容部と径方向において重なる点にある。
【0009】
第一特徴構成によれば、パワーピストン又は入力部材のボディに対する摺動とともにカバー部材が移動し、かつ、その移動はパワーピストンを収容している収容部と径方向において重なる範囲にまで可能となる。すなわち、カバー部材は収容部と干渉することなく移動することができる。したがって、入力部材や入力ロッドに関してカバー部材から延出させる長さを、これらの最大ストロークより短くすることができる。その結果、装置全体の小型化を図ることができる。また、本構成によれば、カバー部材を弾性部材でなく金属等の剛性の高い部材で作製することができるので、装置の強度及び耐久性を損なうことなく小型化の実現が可能となる。
【0010】
第二特徴構成は、前記カバー部材の移動軌跡は、前記収容部において前記パワー室と前記ドレイン室とを液密に区画するためのシール部材のうち、最も前記パワーピストンの押込み側と反対側に配置されるものと径方向において重なる点にある。
【0011】
第二特徴構成によれば、例えば、パワー室とドレイン室とを液密に区画するためのシール部材がパワーピストンの押込み側の奥部に設けられている場合や、パワー室がパワーピストンの押込み側の奥部に形成されている場合等にも、カバー部材が収容部の径方向で重なる状態で移動できる距離を確保でき、確実に装置全体の小型化を図ることができる。
【0012】
第三特徴構成は、前記カバー部材を前記パワーピストンに固定した点にある。
【0013】
第三特徴構成によれば、カバー部材はパワーピストンとともに移動することになる。したがって、パワー室の液圧によりパワーピストンが押し込まれたときに、カバー部材がボディに対して摺動し始めるように構成すれば、入力ロッドからの操作力によりカバー部材を摺動させる必要がない。このため、入力ロッドに対する操作力を軽減することができる。また、カバー部材をパワーピストンと一体化することも可能となり、構造の簡易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る液圧式倍力装置を備えたブレーキ機構の全体断面図である。
【図2】液圧式倍力装置の非作動時の拡大断面図である。
【図3】液圧式倍力装置の作動時の拡大断面図である。
【図4】液圧式倍力装置の作動時の拡大断面図である。
【図5】別の実施形態に係る液圧式倍力装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る液圧式倍力装置を備えたブレーキ機構について図面に基づいて説明する。図1に示すように、ブレーキ機構1は液圧式倍力装置2、ブレーキ操作入力部3及びブレーキ操作出力部4からなる。ブレーキ操作入力部3においては、ブレーキペダル11に加えられた操作力が、入力ロッド12及びボールジョイント13を介して液圧式倍力装置2の入力部材35に伝達される。その結果、後述する調整機構41が作動し、補助液圧源ASとパワー室57とが連通することにより、補助液圧源ASで昇圧された作動液がパワー室57に供給され、パワーピストン34が上記操作力に比して大きな力で押し込まれる。
【0016】
ブレーキ操作出力部4はマスタシリンダ21、マスタピストン22、液圧室24を備える。本実施形態においては、マスタピストン22とパワーピストン34とが一体的に構成されており、これらにより液圧室24が2つ形成されるいわゆるタンデム式となっている。また、マスタシリンダ21は液圧式倍力装置2のボディ30と一体型となっている。上述のごとくパワーピストン34が押し込まれると、スプリング23の付勢力に抗してマスタピストン22が移動し、液圧室24内の作動液が出力ポート25から制動機構DMに送られ、液圧による制動力が発生する。また、液圧室24内の作動液は排出ポート26からリザーバRSに排出される。
【0017】
入力ロッド12はボールジョイント13と連結されており、ボールジョイント13の径はパワーピストン33の内径と同程度で、かつ、パワーピストン33の軸方向に移動可能に構成されている。このように構成することにより、ブレーキペダル11の操作により入力ロッド12がパワーピストン33の軸方向からずれた動きをしても、ブレーキ操作力はボールジョイント13により入力部材35の軸方向にのみ伝達される。
【0018】
ボールジョイント13は、入力部材35をパワーピストン33に対して押し込み可能に構成されている。ボールジョイント13がパワーピストン33に対して移動可能な距離は、補助液圧源ASとパワー室57とが連通するに至るまでのスプール42のスリーブ46に対する移動距離と同程度である。また、ボールジョイント13は、ブレーキペダル11側に抜けることのないよう、パワーピストン33にかしめ処理されている。このように構成すれば、入力部材35を収容しているパワーピストン33の円筒空間を、ボールジョイント13の収納空間として利用できるので、複雑な加工が不要であり、入力ロッド12の短縮化にも寄与し得る。なお、以上のような入力ロッド12とパワーピストン34との接続部の構成は、倍力装置に限らず、他の装置に適用することも可能である。
【0019】
液圧式倍力装置2のボディ30は、ブレーキ操作入力部3側に開口した円筒部31と、この円筒部31の内部空間に突出し、内部にパワーピストン34や調整機構41を備えた収容部32とを有する。カップ状のカバー部材36の開口側は円筒部31に対してシール部材38により摺動可能にシールされ、他方の側はパワーピストン33の端部に固定されている。カバー部材36は円筒部31とともにドレイン室63を形成し、収容部32の径方向外側まで摺動可能に構成されている。収容部32内に形成されたパワー室57は、シール部材39によってドレイン室63に対して液密に区画されている。ボディ30とカバー部材36との間に取り付けられたスプリング37は、カバー部材36をブレーキ操作入力部3側に常時付勢している。これは、先述の真空充填の際にカバー部材36が負圧によって引き込まれるのを防止するためである。
【0020】
次に図2の拡大図に基づいて、調整機構41について説明する。調整機構41はスプール42とスリーブ46とから構成され、パワー室57と補助液圧源AS及びリザーバRSとの連通を許可又は禁止する。ボディ30には、補助液圧源ASから調整機構41に作動液を供給するための入力ポート50が形成されている。また、収容部32とパワーピストン34との間に通路51が形成され、パワーピストン34に連通孔52が形成される。
【0021】
スプール42には凹部55が、スリーブ46には連通孔53、56、59が、パワーピストン33とスプール42の間に通路60が形成される。また、入力部材35に溝61が形成され、この溝61はパワーピストン33に形成された連通孔62によりドレイン室63と連通している。さらに、ドレイン室63は排出ポート64を通じて、リザーバRSと連通している。
【0022】
ブレーキペダル11が操作されていないときには、パワー室57は図2に示すように、連通孔56、凹部55、連通孔59、通路60、溝61、連通孔62、ドレイン室63及び排出ポート64を経由してリザーバRSと連通する。このとき、調整機構41により、補助液圧源ASとパワー室57との連通は禁止されている。
【0023】
図3は、パワーピストン33は移動していないが、ブレーキペダル12が操作され、入力部材35によりスプール42がスプリング43の付勢力に抗して移動し、補助液圧源ASとパワー室57とが連通した状態を示す。本実施形態においてこの状態とするには、ブレーキペダル11の踏み込みに応じて、ボールジョイント13が入力部材35を押し込めば足りる。すなわち、ブレーキペダル11の踏み込みの際に、カバー部材36を円筒部31に対して摺動させる必要がないので、カバー部材36と円筒部31との間に摩擦が発生せず、ブレーキペダル11の踏み込みが軽くなる。
【0024】
図3の状態においては、補助液圧源ASから入力ポート50、通路51、連通孔52、連通孔53、凹部55及び連通孔56を通じて、パワー室57に昇圧された作動液が供給され、パワーピストン33の作用面33a及びパワーピストン34の作用面34aに液圧を作用させる。その結果、ブレーキペダル11に加えた踏力以上の力でパワーピストン34が押し込まれ、倍力装置としての機能が発揮される。
【0025】
図4は、パワーピストン33,34が押し込まれたときの状態を示す図である。なお、パワーピストン33,34は、スリーブ46を間に組み付けるために別部材となっているが、組立後は一体的に動作するものである。上記のようにパワーピストン34が押し込まれても、補助液圧源ASとパワー室57との連通状態を保ったままなので、パワー室57に作動液が供給され続ける。このとき、パワーピストン34の作用面34aだけでなく、パワーピストン33の作用面33aにも液圧が作用し、パワーピストン33,34を押し込む。パワーピストン34が押し込まれると、マスタピストン22が移動し、液圧室24内の作動液を昇圧しつつ、出力ポート25より制動機構DMに液圧を作用させ制動機能を発揮する。
【0026】
図4に示すように、パワーピストン33が押し込まれると、パワーピストン33に固定されているカバー部材36は、収容部32と径方向において重なりながら、さらに言うならばシール部材39と重なりながら、移動するよう構成されている。このような構成により、ブレーキ操作入力部3がカバー部材36と干渉するのを回避しつつ、パワーピストン33のストローク分だけカバー部材36の摺動可能距離を確保できるので、カバー部材36の外側に入力ロッド12を長く延出する必要がなくなる。このため、入力ロッド12の長さを短縮することができ、ブレーキ機構1の搭載性が向上する。さらに、カバー部材36を金属等の剛性の高い部材で作製すれば、強度及び耐久性の面においても優れたものとなる。
【0027】
本実施形態においては、カバー部材36にシール部材38を設け、カバー部材36が円筒部31の内周面で摺動するように構成している。このような構成により、ブレーキペダル11の非操作時には、摺動面が外気に接することがないため、摺動面に塵芥等が付着したり、腐食が発生したりするのを抑制し、カバー部材36の摺動性を維持することができる。ただし、摺動性を十分に確保できるのであれば、カバー部材36が円筒部31の外周面で摺動するように構成してもよい。さらに、シール部材38は必ずしもカバー部材36に設ける必要はなく、円筒部31に取り付けてもよい。
【0028】
別の実施形態として、図5に示すように、カバー部材36を入力部材35の端部に固定し、ボールジョイント13を入力部材35の端部に連結することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、耐久性を損なわずに装置全体の小型化を実現可能な液圧式倍力装置を提供する。
【符号の説明】
【0030】
1 ブレーキ機構
2 液圧式倍力装置
3 ブレーキ操作入力部
4 ブレーキ操作出力部
12 入力ロッド
21 マスタシリンダ
22 マスタピストン
30 ボディ
31 円筒部
32 収容部
33,34 パワーピストン(34はマスタピストンとしても機能する)
35 入力部材
36 カバー部材
41 調整機構
57 パワー室
63 ドレイン室
AS 補助液圧源
RS リザーバ
DM 制動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部が開口した円筒部を有するボディと、
前記ボディの軸方向に摺動自在なパワーピストンと、
入力ロッドからの操作力を受けて、前記ボディに対して相対移動可能な入力部材と、
リザーバの作動液を所定の圧力に昇圧する補助液圧源と、
前記補助液圧源より作動液が供給され、前記パワーピストンを押動するパワー室と、
前記入力部材の前記ボディに対する相対的な移動に応じて、前記パワー室と前記補助液圧源及び前記リザーバとの連通を許可又は禁止する調整機構と、を備えた液圧式倍力装置において、
前記パワーピストン又は前記入力部材に固定されるとともに、この固定位置よりも前記パワーピストンの押込み側で前記ボディに対して摺動可能にシールされ、前記調整機構から導入された作動液を前記リザーバに排出するドレイン室を前記ボディとともに形成するカップ状のカバー部材を設け、
前記カバー部材の移動軌跡が、前記ボディのうち、前記パワーピストンを摺接可能に収容し当該パワーピストンとともに前記パワー室を区画形成する筒状の収容部と径方向において重なることを特徴とする液圧式倍力装置。
【請求項2】
前記カバー部材の移動軌跡は、前記収容部において前記パワー室と前記ドレイン室とを液密に区画するためのシール部材のうち、最も前記パワーピストンの押込み側と反対側に配置されるものと径方向において重なる請求項1に記載の液圧式倍力装置。
【請求項3】
前記カバー部材を前記パワーピストンに固定した請求項1又は2に記載の液圧式倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−51428(P2011−51428A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200763(P2009−200763)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】