説明

液封ブッシュ及びその製造方法

【課題】防振性能の調整機能を有しながら製造が容易で安価な液封ブッシュ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る液封ブッシュ1は、筒体11と、筒体11の内側に配置される軸体12と、作動液が封入された複数の液室21,22を内部に有し、筒体11の内周面と軸体12の外周面との間に固着される弾性体13とを備える。軸体12は、連結用液通路33と、連結用液通路33と液室21,22とを連通する液室用液通路31,32とを含む液通路30と、軸体12の外周面に設けられた開口部P1から直線状に設けられ、連結用液通路33と同一直線上で接続された挿通孔34とを有し、この挿通孔34内には、外部から液通路30を開閉可能な弁部材14が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から容易に防振性能を調整可能とし、かつ、安価に製造可能な液封ブッシュ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用機械等に印加される衝撃的振動を減衰し、また、自動車、鉄道車両等の走行時の振動を緩衝して、走行を安定化させる液体封入式のゴムブッシュ(以下、液封ブッシュという。)が知られている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、外筒と内筒との間に形成された弾性部材の内部に、これら内外筒間に形成された二個の液室間を連通させる通路を設けた液封ブッシュが記載されている。下記特許文献2には、軸部材に対して軸直角方向に沿って形成された絞り孔を介して流体室間を連通させる構造が記載されている。同様に下記特許文献3には、中心軸に対して軸直角方向に沿って形成されたオリフィスを介して一対の減衰室と補助減衰室とをそれぞれ連通させる構造が記載されている。
【0004】
一方、下記特許文献4には、外筒と内筒との間に配置された弾性体の内部に一対の液室が形成され、内筒に軸直角方向に沿って形成した連通路によって両液室を連通させるブッシュ型防振装置が記載されている。この防振装置は、上記連通路を横切る内孔の小径孔にシリンダーロッドを配置し、当該シリンダーロッドを外部の駆動手段により駆動することで上記連通路を遮蔽できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−242810号公報
【特許文献2】特開昭56−124739号公報
【特許文献3】特開2006−308015号公報
【特許文献4】特開平6−307492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の液封ブッシュにおいては、弾性部材の内部に液室及び通路が設けられる構成であるため、金型が複雑となり、製造コストが高い。また、振動の減衰性能を変更するための調整が非常に困難であるという問題がある。特許文献2,3についても同様に、構成が複雑であり、製造コストが高く、減衰性能の調整が困難であるという問題がある。
【0007】
一方、特許文献4においては、内筒の内部に配置したシリンダーロッドを外部から駆動することで減衰性能の調整は可能となる。しかしながら、内筒の構成がさらに複雑化するうえ、相手側部材(車体)への取付部の構成も複雑であり、より高コスト化し、また、小型の液封ブッシュに適用することは困難であるという問題もある。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、防振性能の調整機能を有しながら製造が容易で安価な液封ブッシュ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る液封ブッシュは、筒体と、上記筒体の内側に配置される軸体と、作動液が封入された複数の液室を内部に有し、上記筒体の内周面と上記軸体の外周面との間に固着される弾性体とを備えた液封ブッシュであって、
前記軸体は、連結用液通路と、前記連結用液通路と前記液室とを連通する液室用液通路とを含む液通路と、前記軸体の外周面に設けられた開口部から直線状に設けられ、前記連結用液通路と同一直線上で接続された挿通孔とを有し、
この挿通孔内には、外部から前記液通路を開閉可能な弁部材が設けられている。
【0010】
本発明の一形態に係る液封ブッシュの製造方法は、筒体と、上記筒体の内側に配置される軸体と、作動液が封入され、上記軸体に設けられた液通路によって連通可能な複数の液室を内部に有し、上記筒体の内周面と上記軸体の外周面との間に固着される弾性体と、外部から上記液通路を開閉可能な弁部材とを備える液封ブッシュの製造方法であって、軸加工工程と、液未充填ブッシュ成形工程と、作動液注入工程と、封止工程とを有する。
上記軸加工工程は、上記軸体の外部から当該軸体の反対側に貫通する下穴を設け、上記下穴の第1の開口から上記弁部材を取り付けるための第1の挿通孔と、上記下穴の第2の開口から栓体を取り付けるための第2の挿通孔と、上記第1の挿通孔及び上記第2の挿通孔と直線状に配置された連結用液通路とを形成し、上記連結用液通路と上記液室とを連通する液室用液通路を形成する。
上記液未充填ブッシュ成形工程は、上記筒体の内側に上記軸体を配置し、上記液室を内部に備えた弾性体を上記筒体の内周面と上記軸体の外周面との間に形成する。
上記作動液注入工程は、上記第1の挿通孔又は上記第2の挿通孔より、作動液を注入する。
上記封止工程は、上記複数の液室に作動液が充填された後、上記第1の挿通孔に上記弁部材を挿通し、上記第2の挿通孔に上記栓体を挿通することにより、上記液通路を封止する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る液封ブッシュを示す正面図である。
【図2】上記液封ブッシュの側面図である。
【図3】図2における[A]−[A]線方向断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る液封ブッシュを示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る液封ブッシュの構成の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る液封ブッシュは、筒体と、軸体と、弾性体と、弁部材と、封入される作動液とを具備する。
上記軸体は、液通路と、挿通孔とを有し、上記筒体の内側の同軸位置に配置される。上記液通路は、後述する液室に連結され、当該液室から軸体の内方に向けて形成された液室用液通路と、複数設けられた液室用液通路の軸体側端部を直線的に連結する連結用液通路とを含み、液室、液室用液通路及び連結用液通路は、連通されている。上記挿通孔は、上記連結用液通路と同一直線上に配置され軸体の外側面に設けられた開口部から直線状に設けられる。つまり、上記開口部、挿通孔、連結用液通路は、同一直線上に設けられている。
上記弾性体は、上記液室用液通路に各々連通する複数の液室を内部に有し、上記筒体の内周面と上記軸体の外周面との間に加硫接着などによって固着されて形成される。
上記弁部材は、上記挿通孔内に設けられ、外部から上記液通路の液室用液通路と連結用液通路の接続部を開放又は遮蔽可能に構成される。
上記作動液は、主として、エチレングリコール水溶液などの低粘性液であって、上記複数の液室と液通路とに流通可能に封入される。
【0013】
上記液封ブッシュによれば、連結用液通路と挿通孔とを軸体に形成した1本の下穴を利用して構成することができるため、製造が容易で、安価な液封ブッシュを提供することができる。また、挿通孔における弁部材の挿通進度により液通路の流路断面積を変化させて、液室間の作動液の流量を調整することができるため、弾性体の見かけばね定数の調整が可能となり、液封ブッシュによる所望の減衰性能を得ることができる。
【0014】
上記挿通孔は、例えば、上記軸体と上記弾性体との固着端より軸方向外方の当該軸体の外周面上に設けられた開口部から軸方向内方に向けて設けられる。挿通孔を軸体の軸平行ではなく、上記軸体の軸断面からみて斜めに設けることで、例えば軸体の両端部を当該軸体の固定端部として使用した場合でも、軸体の取付け構造に左右されることなく、液通路や挿通孔を設けることができ、さらに、外部から容易に弁部材を操作することができるようになる。
【0015】
本発明の一実施形態において、上記軸体は、ボルト又はナット締結用の平面部及び当該平面部に設けられた取付け穴を有する取付け部と、当該取付け部が両端に接続された軸状部とを有し、上記挿通孔の開口部は、上記取付け穴の軸芯に対して垂直な位置、即ち、軸体の外周面と、取付け穴の軸芯と直角の平面とがクロスする位置に設けられる。これにより、取付け後もボルト又はナットに邪魔されることなく、弁部材を容易に操作することができる。
【0016】
上記挿通孔は、上記連結用液通路を介して、上記軸体の反対側に貫通する貫通孔であってもよい。挿通孔を貫通成形することにより、挿通孔内の切削屑が取り除き易くなる。また、各液室に作動液を注入する時に当該挿通孔を排気孔、または負圧を入れるための吸入孔として当該挿通孔を利用することができる。この場合、上記挿通孔は一端が上記弁部材で閉塞され、他端が別の栓体で閉塞される。
【0017】
本発明の一実施形態において、上記複数の液室は、上記軸体の軸芯に対し互いに対向する第1の液室と第2の液室とから構成される。一方、上記液室用液通路は、上記第1の液室と上記連結用液通路とを連通する第1の液室用液通路と、上記第2の液室と上記連結用液通路とを連通する第2の液室用液通路とから構成される。そして、上記第1の液室用液通路と上記連結用液通路とが接続される第1の接続部と、上記第2の液室用液通路と上記連結用液通路とが接続される第2の接続部とは、軸方向に離間して配置される。
これにより、第1及び第2の液室用液通路のうち一方の液室用液通路に対してのみ上記弁部材を適用すれば、全体の作動液の流量を調整することができる。また、第1及び第2の接続部を軸方向に離間して配置することで、軸体を立てた状態で作動液を挿通孔から注入する際、液室用液通路ごとに作動液を充填できるため、空気残りが生じづらく、作業性が向上する。
【0018】
本発明の一実施形態に係る液封ブッシュは、上記弁部材を上記挿通孔内で進退させることにより、上記挿通孔に面した上記液通路の開口面積を拡大または縮小させて、上記作動液の流動を調整する。
これにより、液封ブッシュの防振性能を容易に調整することができる。また、液封ブッシュを機器へ取り付けた後においても、防振性能の調整を容易に行うことができる。
一実施形態として、弁部材は、挿通孔に螺合するネジ部を有する。これにより、弁部材の回転操作によって弁部材を容易に挿通孔内で進退させることができる。これ以外にも、弁部材は、挿通孔に進退自在なピストンで構成されてもよい。
【0019】
本発明の一形態に係る液封ブッシュの製造方法は、軸加工工程と、液未充填ブッシュ成形工程と、作動液注入工程と、封止工程とを有する。
上記軸加工工程は、上記軸体の外部から当該軸体の反対側に貫通する下穴を設け、上記下穴の第1の開口から上記弁部材を取り付けるための第1の挿通孔と、上記下穴の第2の開口から栓体を取り付けるための第2の挿通孔と、上記第1の挿通孔及び上記第2の挿通孔と直線状に配置された連結用液通路とを形成し、上記連結用液通路と上記液室とを連通する液室用液通路を形成する。
上記液未充填ブッシュ成形工程は、上記筒体の内側に上記軸体を配置し、上記液室を内部に備えた弾性体を上記筒体の内周面と上記軸体の外周面との間に形成する。
上記作動液注入工程は、上記第1の挿通孔又は上記第2の挿通孔より、作動液を注入する。
上記封止工程は、上記複数の液室に作動液が充填された後、上記第1の挿通孔に上記弁部材を挿通し、上記第2の挿通孔に上記栓体を挿通することにより、上記液通路を封止する。
【0020】
上記液封ブッシュの製造方法によれば、連結用液通路と挿通孔とを共通の下穴で構成しているため、軸体の加工を容易にしてコストの低減を実現することができる。また、弁部材は、第1の挿通孔への挿通深さに応じて液室用液通路の流路断面積を調整できると同時に、栓体とともに液通路を封止する機能をも果たす。これにより液封ブッシュの減衰性能を外部からの弁部材の操作によって容易に調整できるとともに、液封ブッシュの組立作業性を改善することができる。
【0021】
本発明の一実施形態において、上記作動液の注入工程は、上記液未充填ブッシュの前記軸体を鉛直方向に沿うように立たせ、作動液を鉛直下方から注入する。
これにより、空気残りを生じさせることなく液未充填ブッシュに作動液を充填することができる。
【0022】
本発明の一実施形態において、上記作動液の注入工程は、上記第1の開口に吸気手段を接続して、上記液室及び上記連結用液通路を負圧とし、上記第2の開口から作動液を注入する。
これにより、空気残りを生じさせることなく液未充填ブッシュに作動液を充填することができるとともに、作動液を効率よく注入することができる。
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
<第1の実施形態>
[液封ブッシュ]
図1から図3は本発明の一実施形態に係る液封ブッシュを示しており、図1は正面図、図2は右側面図、図3は図2における[A]−[A]線方向の断面図である。本実施形態の液封ブッシュ1は、筒体11と、軸体12と、弾性体13と、弁部材14と、作動液Fとを有する。
【0025】
筒体11は、金属製の円筒部材で構成されている。本実施形態において筒体11は、第1の円筒部11aと第2の円筒部11bとの二重構造を有しており、第1の円筒部11aの内部に第2の円筒部11bを圧入することで図示する筒体11が構成される。なおこれに限られず、筒体11は、単一の円筒部材で構成されてもよい。
【0026】
軸体12は金属製であり、図1においてY軸方向に平行な軸芯を有し、筒体11の内側に同心的に配置される。軸体12は、筒体11の内周面と対向する外周面を備えた円柱状の軸状部121と、その両端に設けられた取付け部122とを有する。各々の取付け部122は、筒体11の軸方向外方に突出しており、ボルト又はナット締結用の平面部12aと、当該平面部12aに設けられた取付け穴12bとをそれぞれ有する。
【0027】
弾性体13はゴム材料で構成されており、筒体11の内周面と軸体12の外周面との間に固着される。図3に示すように弾性体13の内部には、作動液Fがそれぞれ封入される第1の液室21及び第2の液室22が形成されている。各液室21,22は、筒体11の周方向に相互に離間しており、本実施形態では軸体12を挟んで相互に対向するように(図3においてZ軸方向に)それぞれ形成されている。弾性体13は、例えば加硫接着によって筒体11と軸体12とにそれぞれ液密に固着される。なお、弾性体13は、ゴム材料に限らず、樹脂エラストマーを使用することもできる。
【0028】
軸体12の内部には、第1の液室21と第2の液室22とを相互に連通するための液通路30が形成されている。液通路30は、第1の液室用液通路31と、第2の液室用液通路32と、これら第1及び第2の液室用液通路31,32を連結する連結用液通路33とを有する。第1の液室用液通路31は、第1の液室21と連結用液通路33との間を連通させ、第2の液室用液通路32は、第2の液室22と連結用液通路33との間を連通させる。
【0029】
連結用液通路33は、軸体12の軸芯に対して斜めに交差するように直線的に形成されている。第1の液室用液通路31と第2の液室用液通路32は、それぞれZ軸方向に平行に直線的に形成されている。また、第1の液室用液通路31と第2の液室用液通路32は、軸体12の軸方向(Y軸方向)に離間して形成されている。このため、第1の液室用液通路31と連結用液通路33とが接続される第1の接続部J1と、第2の液室用液通路32と連結用液通路33とが接続される第2の接続部J2とは、軸体12の軸方向に離間して配置される。
【0030】
軸体12は、弁部材14を挿通するための挿通孔34(第1の挿通孔)をさらに有する。挿通孔34は、連結用液通路33と同一直線上に配置され、軸体12の外部から直線状に設けられる。つまり、軸体12の平面部12aに設けられた取付け穴12bの軸芯に対して垂直な平面と当該軸体12の外周面とが交差する位置に開口部P1を設け、この開口部から軸体12の内方に向かって下穴40を形成し、当該下穴の該当部分をそれぞれ連結用液通路33、挿通孔34として利用することができる。これにより、連結用液通路33と挿通孔34とを同一工程で形成することができる。
【0031】
弁部材14は、挿通孔34に設けられる。弁部材14は、挿通孔34と同軸状に形成された金属製の軸部材で構成されており、先端が第1の接続部J1に臨む軸部14aと、弁部材14を外部から操作するための操作部14bとを有する。これにより弁部材14を挿通孔34内で進退させることにより、液通路30を構成する第1の接続部J1の開口面積(第1の液室用液通路31と連結用液通路33の流路断面積)を拡大又は縮小させて、作動液Fの流動を調整する。なお、液室用液通路31,32のうち一方の液室用液通路31に対してのみ弁部材14を適用すれば、液通路30全体の流量調整が可能となる。
【0032】
軸部14aには図示しないシール部材が装着されており、挿通孔34への弁部材14の装着の際、軸部14aが挿通孔34の内面に密着されることで、作動液Fの漏洩が防止される。また、挿通孔34を弁部材14が外部へ露出しない深さに形成した場合には、弁部材14を外部から保護することが可能となる。
【0033】
弁部材14を挿通孔34内で進退させる機構は特に限定されないが、本実施形態では、操作部14bの周囲に挿通孔34と螺合するネジ溝が形成されている。これにより、操作部14bを回動操作のみで第1の接続部J1に対する軸部14aの先端の相対的な位置関係を調整することができる。
【0034】
本実施形態において、挿通孔34を形成する下穴40は、連結用液通路33を介して、軸体12の反対側に貫通する貫通穴で形成されている。下穴40の一方側の開口部P1(第1の開口部)は、弁部材14を挿通するための挿通孔34として形成され、下穴40の他方側の開口部P2(第2の開口部)は、栓体15を挿通するための補助孔35(第2の挿通孔)として形成される。補助孔35は、連結用液通路33と開口部P2側とを連絡する通路であり、必要に応じて孔径が拡大される。
【0035】
開口部P1は、軸体12の取付け部122に形成された取付け穴12bの軸芯に対して垂直な平面と当該軸体12の外周面とが交差する位置、すなわち、平面部12aと90°捩れた位置に設けられている。栓体15は、典型的にはゴム、プラスチックあるいは金属製の盲栓が適用されるが、これ以外にも、補助孔35内に吐出されたシーリング剤、接着剤等の硬化物であってもよい。
【0036】
また、挿通孔34を形成する下穴40は、軸体12の軸芯と交差するように軸体12を斜めに貫通するように形成されている。この場合、挿通孔34は、図3に示すように、軸体12の外周面であって、軸体12と弾性体13との固着端13aよりも軸方向外方の当該軸体の外周面上に設けられた開口部から軸方向内方に向けて設けられる。このように挿通孔34を軸体12の軸平行ではなく斜め方向に設けることで、取付け部122における軸体12の取付け構造に左右されることなく、外部から容易に弁部材14を操作することができるようになる。
【0037】
以上のように構成される本実施形態の液封ブッシュ1は、例えばトルクロッドブッシュとして用いられ、車軸と車体とを連結するトルクロッドの両端に組み込まれる。この場合、液封ブッシュ1の筒体11と軸体12のうち一方が車軸側に固定され、他方が車体側に固定される。液封ブッシュ1は、弾性体13の弾性と、液室21,22に封入された作動液Fの粘性とを利用して、筒体11と軸体12との相対振動を減衰し、例えば車軸側から車体側への衝撃的振動を緩和する。
【0038】
図3に示すように、筒体11及び軸体12が例えばZ軸方向に相対振動する場合、弾性体13が弾性変形するとともに、液通路30を介して第1の液室21と第2の液室22との間で作動液Fが流動する。弾性体13のばね定数は、液室21,22間を流動する作動液Fの連通量で調整され、例えば液通路30の流路断面積が小さいほど作動液の連通量が減少するため弾性体13は変形しづらくなり、見かけのばね定数は大きくなる。本実施形態では、第1の液室用液通路31と連結用液通路33とが角度をもって接続される接続部J1に、挿通孔34が連結用液通路33に対して直線的に接続されるため、挿通孔34内における弁部材14の挿通進度によって第1の液室用液通路31と連結用液通路33の流路断面積を調整することができ、すなわち、液通路30における第1の接続部J1を通過する作動液Fの流動を調整することができるため、液封ブッシュ1の防振性能を任意に調整することができる。
【0039】
一方、本実施形態によれば、弁部材14の挿通孔34が連結用液通路33と同一直線上に配置されているため、連結用液通路33と挿通孔34とを共通の下穴40から構成することができる。これにより、加工コストが低く、安価でありながら、減衰性能の調整機能を有する液封ブッシュを構成することができる。
【0040】
また本実施形態によれば、挿通孔34内における弁部材14の進退操作によって作動液Fの流動を調整できるため、液封ブッシュ1の減衰性能の調整作業を容易に行うことができる。また弁部材14は液通路30を閉塞する栓体としての機能も有するため、部品点数の削減と組立作業性の改善を図ることができる。
【0041】
さらに挿通孔34は、弾性体13の固着端13aよりも軸方向外方から内方に向かって設けられているため、取付け部122における軸体12の取付け構造に左右されることなく、外部から容易に弁部材を操作することができる。特に、挿通孔34の開口部P1が取付け部122の平面部12aと90°捩れた位置に設けられているため、機器への取付け後においても取付け部122に締結されたボルト又はナットに邪魔されることなく、弁部材14を操作することができる。
【0042】
なお、この場合、別途、使用状況により適宜弁部材14の開閉を調整する手段を設けることも容易である。例えば、鉄道車両の台車の一本リンク、Zリンク、ヨーダンパなどに使用した場合、発停車時や加減速時に弁部材の開閉を調整することで、見かけばね定数を適当な数値に変更することができる。
【0043】
[液封ブッシュの製造方法]
次に、以上のように構成される本実施形態の液封ブッシュ1の製造方法について説明する。
【0044】
液封ブッシュ1の製造工程は、軸加工工程と、液未充填ブッシュ成形工程と、作動液注入工程と、封止工程とを有する。
(軸加工工程)
軸加工工程では、軸体12の外部から当該軸体12の反対側に貫通する下穴40が設けられる。下穴40は、例えばドリル加工により穿孔される。下穴40の内径は、例えば、連結用液通路33の内径に準じて定められる。下穴40は貫通孔でなくともよいが、貫通孔とすることにより加工屑が排出し易くなり、また作動液の注入も容易となる。
【0045】
次に、上記により形成された下穴40に第1の開口部P1から弁部材14を挿通するための挿通孔34と、第2の開口部P2から栓体15を挿通するための補助孔35とがそれぞれ形成される。本実施形態では、挿通孔34はタッピング加工により形成され、補助孔35は、栓体15の挿通に必要な大きさに第2の開口部P2を拡径することで形成される。これにより、挿通孔34及び補助孔35との間に、これらの孔と直線状に配置された所定の内径を有する連結用液通路33が形成される。
【0046】
続いて、連結用液通路33に接続される第1及び第2の液室用液通路31,32がそれぞれ形成される。液室用液通路31,32はそれぞれ、軸体12の軸芯を挟んで対向する側部2箇所から垂直方向(Z軸方向)に、軸体12の軸方向に各々離間して形成される。
【0047】
以上のようにして、軸体12の内部に液通路30が形成される。本実施形態によれば、連結用液通路33、挿通孔34及び補助孔35がそれぞれ共通の下穴40から構成されるため加工が容易となり、コストの低減を図ることができる。また、下穴40が軸体12を貫通する貫通穴で形成されているため、加工屑を容易に外部へ排出することができる。
【0048】
(液未充填ブッシュ成形工程)
液未充填ブッシュ成形工程では、筒体11の内側に、液通路30が形成された軸体12が配置され、液室21,22を内部に備えた弾性体13が筒体11の内周面と軸体12の外周面との間に形成される。
【0049】
本実施形態において筒体11は、外周側の第1の円筒部11aと内周側の第2の円筒部11bとの二重筒構造を有する。この場合、第2の円筒部11bと、軸体12とを加硫型内に同軸位置に配置し、第2の円筒部11bの内周面と軸体12の外周面との間に弾性体13を加硫成形する。このとき、第1の液室及び第2の液室に該当する空間には、第2の円筒部11bに設けられた窓部より中駒などを差し込んで配置することにより、上記液通路に連通した液室21,22に該当する空隙を加硫成形後の弾性体内に構成することができる。
次に、第2の円筒部11bの外周面に、第1の円筒部11aを軸体12の軸方向から圧入し、液室21,22が閉塞されるとともに、円筒部11a,11bが相互に一体化される。なお、円筒部11bは、円筒部11aよりも薄い素材で形成することで、圧入において、径方向に若干縮径させることができるので、弾性体13の耐久性を向上させることができる。また、弾性体13の成形時に第2の円筒部11bの外周面に回りこませることによって、シールとして機能させるように構成してもよい。
【0050】
(作動液注入工程)
作動液注入工程では、第1の開口部P1(挿通孔34)側から各液室21,22内へ作動液が注入される。なお作動液は、下穴40の第2の開口部P2(補助孔35)側から注入されてもよい。
【0051】
第1の開口部P1から注入された作動液は、液通路30を介して各液室21,22へ充填される。本実施形態では、軸体12を鉛直方向に沿うように立たせ、作動液を鉛直下方から注入する。これにより、液通路30及び液室21,22内の空気を上方へ逃がし易くなる。また、下穴40が貫通孔で形成されているため、空気残りが防止される。さらに、液室用液通路31,32が軸体12の軸方向に離間して形成されているため、個々の液室21,22に一つずつ作動液を注入することができ、作動液の充填効率を高めることができる。
【0052】
また、作動液を注入する前、又は注入と同時に、ブッシュの内部を吸気して、真空又は低圧状態にしてもよい。この場合、例えば第2の開口部P2側からポンプ等の吸引手段を接続し、液通路30及び液室21,22内を排気し、開口部P1側から作動液を注入する。これにより、注入時間を短縮するとともに作動液の充填率をより高めることができる。
【0053】
(封止工程)
封止工程では、各液室21,22に作動液が充填された後、挿通孔34に弁部材14が挿通され、補助孔35に栓体15が挿通される。これにより液通路30が封止される。この際、弁部材14により液通路30における第1の接続部J1の開口度が調整される。以上のようにして、本実施形態の液封ブッシュ1が製造される。
【0054】
本実施形態によれば、連結用液通路33と挿通孔34とを共通の下穴40から構成しているため、軸体12の加工を容易にしてコストの低減を実現することができる。また、弁部材14は、挿通孔34への挿通深さに応じて液通路30の流路断面積を調整できると同時に、栓体15とともに液通路30を封止する機能をも果たす。これにより液封ブッシュ1の減衰性能を外部からの弁部材14の操作によって容易に調整できるとともに、液封ブッシュ1の組立作業性を改善することができる。
【0055】
<第2の実施形態>
図4は本発明の第2の実施形態に係る液封ブッシュを示す断面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0056】
本実施形態の液封ブッシュ2は、液室21,22の間を連通する液通路30の構成が上述の第1の実施形態と異なっており、第1の液室用液通路31が複数の通路部31a,31b,31cで構成されている。これらの通路部31a〜31cはZ軸方向に形成され、第1の液室21と連結用液通路33との間を各々連通し、軸体12の軸方向に離間して配置されている。すなわち本実施形態において第1の液室用液通路31は、第1の液室21と連結用液通路33との間を並列に接続する3本の通路部31a〜31cで構成されている。
【0057】
一方、弁部材14は、下穴40の一方の開口部P1に形成された挿通孔34内に設けられている。挿通孔34は連結用液通路33と同一直線上に配置されており、弁部材14は連結用液通路33に沿って延びる軸部14aを有する。本実施形態において軸部14aは、通路部31cと連結用液通路33との接続部にまで到達できる長さを有しており、弁部材14の回動操作によって、液室用通路部31a,31b及び31cにおける液連通を順次規制できるように構成されている。これにより挿通孔34への弁部材14のねじ込み進度に応じて液通路30における作動液Fの連通量を制限でき、弾性体13の見かけばね定数を任意に調整することができる。
【0058】
以上のように構成される本実施形態の液封ブッシュ1においても、上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また本実施形態によれば、第1の液室用液通路31を複数の通路部31a〜31cで分割しているため、作動液の流動調整範囲が広くなり、よって液封ブッシュ2の減衰性能の調整幅を大きくすることができる。なお通路部31a〜31cの数は上記の例に限られず、2本でもよいし4本以上であってもよい。また、液室用液通路の内径をそれぞれ異ならせることで、作動液Fの流動量をより任意に変化させることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0060】
例えば以上の実施形態では、連結用液通路33と挿通孔34とが軸体12の軸芯に対して斜めに交差するように形成された下穴40上に構成されたが、これに限られず、例えば図5に示すように軸体12の軸芯に沿って連結用液通路及び挿通孔34がそれぞれ形成されてもよい。
【0061】
図5に示す液封ブッシュ3は、取付け穴12bを備えた取付122を設ける必要がない液封ブッシュであって、軸体12の軸芯に沿って形成され軸体12を貫通する下穴41を有する点で、上述の第1の実施形態と異なる。下穴41の一方の開口部P1に形成された挿通孔34には弁部材14が挿通され、他方の開口部P2には栓体15が挿通されることで、液通路30が封止されている。このような構成によっても、加工コストが低く、安価でありながら、減衰性能の調整機構を有する液封ブッシュを構成することができる。
【0062】
また以上の実施形態では、作動液を挿通孔34から注入し液室21,22及び液通路30に作動液を充填する方法を説明したが、これに限らず他の方法が採用されてもよい。例えば、上述した液未充填ブッシュ成形体の作製工程において、加硫成形により弾性体13内に液室21,22を形成した後、当該ブッシュ成形体を作動液を満たした槽に浸漬して、液室21,22及び液通路30に作動液を充填し、第1の円筒部11aに第2の円筒部11bが圧入されることで、液室21,22を密閉することができる。
【0063】
さらに以上の実施形態では、軸体12に形成した下穴40の一方の開口部P1にのみ弁部材14を挿通したが、他方の開口部P2にも同様な構造の第2の弁部材を挿通してもよい。この場合、当該第2の弁部材は、その挿通進度によって連結用液通路33と第2の液室用液通路32との接続部(J2)の流路面積を調整できるように構成される。これにより、液封ブッシュの取り付け後、減衰性能の調整作業を2方向から行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0064】
1,2…液封ブッシュ
11…筒体
12…軸体
12a…平面部
12b…取付け穴
13…弾性体
14…弁部材
15…栓体
21,22…液室
30…液通路
31,32…液室用液通路
33…連結用液通路
34…挿通孔
40…下穴
121…軸状部
122…取付け部
F…作動液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体と、前記筒体の内側に配置される軸体と、作動液が封入された複数の液室を内部に有し、前記筒体の内周面と前記軸体の外周面との間に固着される弾性体とを備えた液封ブッシュであって、
前記軸体は、連結用液通路と、前記連結用液通路と前記液室とを連通する液室用液通路とを含む液通路と、前記軸体の外周面に設けられた開口部から直線状に設けられ、前記連結用液通路と同一直線上で接続された挿通孔とを有し、
この挿通孔内には、外部から前記液通路を開閉可能な弁部材が設けられている
液封ブッシュ。
【請求項2】
請求項1に記載の液封ブッシュであって、
前記挿通孔の開口部は、当該軸体と前記弾性体との固着端よりも軸方向外方に設けられている
液封ブッシュ。
【請求項3】
請求項2に記載の液封ブッシュであって、
前記軸体は、ボルト又はナット締結用の平面部及び当該平面部に設けられた取付け穴を有する取付け部と、当該取付け部が両端に接続された軸状部とを有し、
前記挿通孔の開口部は、前記取付け穴の軸芯に対して垂直な位置に設けられている
液封ブッシュ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液封ブッシュであって、
前記挿通孔は、前記連結用液通路の一端から前記軸体の外方に向けて設けられた第1の挿通孔と、前記連結用液通路の他端から前記軸体の外方に向けて設けられた第2の挿通孔とを有し、前記第1の挿通孔と前記第2の挿通孔は、前記連結用液通路を介して貫通している
液封ブッシュ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液封ブッシュであって、
前記複数の液室は、前記軸体の軸芯に対し互いに対向する第1の液室と第2の液室とから構成され、
前記液室用液通路は、前記第1の液室と前記連結用液通路とを連通する第1の液室用液通路と、前記第2の液室と前記連結用液通路とを連通する第2の液室用液通路とから構成され、
前記第1の液室用液通路と前記連結用液通路とが接続される第1の接続部と、前記第2の液室用液通路と前記連結用液通路とが接続される第2の接続部とは、軸方向に離間して配置されている
液封ブッシュ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液封ブッシュであって、
前記弁部材を前記挿通孔内で進退させることにより、前記挿通孔に面した前記液通路の開口面積を拡大または縮小させて、前記作動液の流動を調整する
液封ブッシュ。
【請求項7】
筒体と、前記筒体の内側に配置される軸体と、作動液が封入され、前記軸体に設けられた液通路によって連通可能な複数の液室を内部に有し、前記筒体の内周面と前記軸体の外周面との間に固着される弾性体と、外部から前記液通路を開閉可能な弁部材とを備える液封ブッシュの製造方法であって、
前記軸体の外部から当該軸体の反対側に貫通する下穴を設け、前記下穴の第1の開口から前記弁部材を取り付けるための第1の挿通孔と、前記下穴の第2の開口から栓体を取り付けるための第2の挿通孔と、前記第1の挿通孔及び前記第2の挿通孔の各々と同一直線上に配置された連結用液通路とを形成し、前記連結用液通路と前記液室とを連通する液室用液通路を形成する軸加工工程と、
前記筒体の内側に前記軸体を配置し、前記液室を内部に備えた弾性体を前記筒体の内周面と前記軸体の外周面との間に形成する液未充填ブッシュ成形工程と、
前記第1の挿通孔又は前記第2の挿通孔より、作動液を注入する作動液注入工程と、
前記複数の液室に作動液が充填された後、前記第1の挿通孔に前記弁部材を挿通し前記第2の挿通孔に前記栓体を挿通することにより、前記液通路を封止する封止工程とを有する
液封ブッシュの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の液封ブッシュの製造方法であって、
前記作動液の注入工程は、前記液未充填ブッシュの前記軸体を鉛直方向に沿うように立たせ、作動液を鉛直下方から注入する
液封ブッシュの製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の液封ブッシュの製造方法であって、
前記作動液の注入工程は、前記第1の開口に吸気手段を接続して、前記液室及び前記連結用液通路を負圧とし、前記第2の開口から作動液を注入する
液封ブッシュの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76454(P2013−76454A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218280(P2011−218280)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000136354)株式会社フコク (97)
【Fターム(参考)】