説明

液循環システム及びダイヤフラムポンプ

【課題】ダイヤフラムポンプを用いた液循環システムにおいて、空気トラップの機能だけでなく、ダイヤフラムの振動に伴う脈動(振動)の影響を軽減することができる液循環システムを得る。
【解決手段】ポンプ室の容積変化によって吸入ポートからポンプ室に液体を吸入し、該ポンプ室から吐出ポートに液体を吐出して循環流路に液体を循環させる液循環システムにおいて、ダイヤフラムポンプの吸入ポートと循環流路の間及び吐出ポートと循環流路の間にそれぞれ、空気トラップを設けた液循環システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムポンプ(可変容積ポンプ)を用いた液循環システム及びそのダイヤフラムポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
振動するダイヤフラムによってポンプ作用を得るポンプとして、例えば圧電ポンプがある。圧電ポンプは、平面円形の圧電振動子(ダイヤフラム)とハウジングによってポンプ室を形成する。ハウジングには、ポンプ室に通じる吸入ポートと吐出ポートがそれぞれ形成され、吸入ポートとポンプ室との間には、吸入ポートからポンプ室への流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吸入側逆止弁が設けられ、ポンプ室と吐出ポートの間には、ポンプ室から吐出側液溜室への流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吐出側逆止弁が設けられている。圧電振動子が振動すると、ポンプ室の容積が大きくなる行程では、流入側逆止弁が開き吐出側逆止弁が閉じて吸入ポートからポンプ室内に流体が流入し、逆にポンプ室の容積が小さくなる行程では、吐出側逆止弁が開き吸入側逆止弁が閉じてポンプ室から吐出ポートに流体が吐出され、ポンプ作用が得られる。
【0003】
吐出ポートと吸入ポートの間は、循環流路で接続される。本出願人が開発中のノートPCの発熱源(CPU、GPU、チップセット等)を冷却する水冷システムでは、この循環流路に、発熱源から熱を奪う受熱部と、受熱して昇温した液体の熱を放熱する放熱部とを設けている。
【0004】
このような液循環システムでは、循環液体の蒸発等が原因で液体中に空気が混ざることが避けられない。また、温度によって液量が増減しても循環流路中には必要量の液体を満たすように、リザーブタンクを設け、そのリザーブタンク内の一部空間を空気トラップとして用いていた。
【特許文献1】特開2003-120548号公報
【特許文献2】特開2004-289049号公報
【特許文献3】特再WO2005-002307号公報
【特許文献4】特開2006-2709号公報
【特許文献5】特開2006-207881号公報
【特許文献6】特開2007-266403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の液循環システムでは、リザーブタンク(空気トラップ)は、循環流路中に一つあれば十分と考えられており、その場所についても特に考慮が払われていなかった。しかしながら、本発明者によれば、空気トラップの数及び位置は、特にダイヤフラムの振動に伴う脈動(振動)の影響を除去するために重要であり、従来品には改良の余地がある。
【0006】
本発明は従って、ダイヤフラムポンプを用いた液循環システムにおいて、空気トラップの機能だけでなく、ダイヤフラムの振動に伴う脈動(振動)の影響を軽減することができる液循環システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ダイヤフラムポンプでは、可変容積のポンプ室への吸入工程及び吐出工程のそれぞれで吸入ポートと吐出ポートのそれぞれに脈動が生じることから、吸入ポートと吐出ポートのそれぞれに空気トラップを接続すれば、空気トラップの機能だけでなく、脈動の影響を軽減できるという簡単な着眼に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち本発明は、振動するダイヤフラムによって形成された可変容積のポンプ室、このポンプ室に通じる吸入ポートに設けた該吸入ポートからポンプ室への流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吸入側逆止弁、及び上記ポンプ室に通じる吐出ポートに設けた該ポンプ室から吐出ポートへの流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吐出側逆止弁を有するダイヤフラムポンプ;及びダイヤフラムポンプの吐出ポートから吸入ポートに至る循環流路;を備え、ポンプ室の容積変化によって吸入ポートからポンプ室に液体を吸入し、該ポンプ室から吐出ポートに液体を吐出して上記循環流路に液体を循環させる液循環システムにおいて、ダイヤフラムポンプの吸入ポートと循環流路の間及び吐出ポートと循環流路の間にそれぞれ、空気トラップを設けたことを特徴としている。
【0009】
空気トラップを設ける場所としての「吸入ポートと循環流路の間」及び「吐出ポートと循環流路の間」という表現は、一対の空気トラップはダイヤフラムポンプに可及的に接近させて設けるという意味であり、空気トラップとダイヤフラムポンプとの間には、循環流路上の何らの要素(例えば受熱部、放熱部)も介在させない。一対の空気トラップとポンプ室を結ぶ流路は、単純流路であり、同流路を流れる液体は、何らの意図した仕事(熱交換)をしない。
【0010】
別言すると、ダイヤフラムポンプの吸入ポートに設けた空気トラップと吐出ポートに設けた空気トラップの間に接続される流路が循環流路であり、この循環流路上に、循環液体との間で熱の授受を行う熱感連要素(受熱要素、放熱要素)が配置される。
【0011】
空気トラップは、循環流路を水平に保持したとき、該循環流路内の液体によって閉じられた空気室を形成する壁面を備えている。
【0012】
本発明の液循環システムは、具体的には例えば、循環流路に、発熱源から熱を奪う受熱部と、受熱して昇温した液体の熱を放熱する放熱部とを含む液冷システムに用いることができる。
【0013】
本発明は、少なくともダイヤフラムとして圧電振動子を用いた圧電ポンプに適用できる。
【0014】
本発明は、振動するダイヤフラムによって形成された可変容積のポンプ室、このポンプ室に通じる吸入ポートに設けた該吸入ポートからポンプ室への流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吸入側逆止弁、及び上記ポンプ室に通じる吐出ポートに設けた該ポンプ室から吐出ポートへの流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吐出側逆止弁を有するダイヤフラムポンプの態様では、吸入ポートと吐出ポートにそれぞれ、空気トラップを設けたことを特徴としている。
【0015】
このダイヤフラムポンプは、一対の空気トラップの間に循環流路を接続した使用状態では必ず、吸入ポートと吐出ポートに生じる脈動の影響を軽減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ダイヤフラムポンプの吸入ポートと循環流路の間及び吐出ポートと循環流路の間にそれぞれ、空気トラップを設けたので、循環流路中の空気トラップの機能だけでなく、ダイヤフラムの振動に伴う脈動(振動)の影響を軽減する機能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の液循環システムを、圧電ポンプ(ダイヤフラムポンプ)を用いた液冷システムに適用した実施形態を示している。この実施形態は、第1の発熱源10Aと第2の発熱源10Bを有する受熱部10、放熱部20及び圧電ポンプ30を含んでいる。
【0018】
圧電ポンプ30は、図4に示すように、下方から順にロアハウジング30Lとアッパハウジング30Uを有している。ロアハウジング30Lとアッパハウジング30Uの間には、Oリング33と押えリング34を介して圧電振動子(ダイヤフラム)35が液密に挟着支持されていて、該圧電振動子35とロアハウジング30Lとの間にポンプ室Pを構成している。圧電振動子35とアッパハウジング30Uとの間には、大気室Aが形成される。
【0019】
圧電振動子35は、導電性の金属薄板材料、例えば厚さ50〜300μm程度のステンレス、42アロイ等により形成された金属製の薄板からなるシム35aと、このシム35aの表裏の少なくとも一面(図示例は上面のみ)に積層形成した圧電体35bとからなるもので、圧電体35bは、例えば厚さ300μm程度のPZT(Pb(Zr、Ti)O3)から構成され、その表裏方向に分極処理が施されている。このような圧電振動子は周知である。
【0020】
ロアハウジング30Lには、外方に突出する吐出ポート31及び吸入ポート32(図1参照)と、この吐出ポート31及び吸入ポート32にそれぞれ連通する吐出室31a及び吸入室32aが形成されている。この吐出室31aと吸込室32aには、ポンプ室Pとの境界部にそれぞれ、逆止弁(アンブレラ)36と37が設けられている。逆止弁36は、ポンプ室Pから吐出室31aへの流体流を許してその逆の流体流を許さない吐出側逆止弁であり、逆止弁37は、吸込室32aからポンプ室Pへの流体流を許してその逆の流体流を許さない吸入側逆止弁である。
【0021】
逆止弁36、37は、同一の形態であり、流路に接着固定される穴あき基板36a、37aに、弾性材料からなるアンブレラ36b、37bを装着してなっている。このような逆止弁(アンブレラ)自体は周知である。
【0022】
以上の圧電ポンプ30は、圧電振動子35が正逆に弾性変形(振動)すると、ポンプ室Pの容積が拡大する行程では、吸入側逆止弁37が開いて吐出側逆止弁36が閉じるため、吸入ポート32(吸込室32a)からポンプ室P内に冷媒が流入する。一方、ポンプ室Pの容積が縮小する行程では、吐出側逆止弁36が開いて吸入側逆止弁37が閉じるため、ポンプ室Pから吐出ポート31(吐出室31a)に冷媒が流出する。したがって、圧電振動子35を正逆に連続させて弾性変形させる(振動させる)ことで、ポンプ作用が得られる。
【0023】
この圧電ポンプ30の吐出ポート31と吸入ポート32は、一連の循環流路40に接続されており、この循環流路40上に、前述の受熱部10と放熱部20が設置されている。吐出ポート31と循環流路40、吸入ポート32と循環流路40の間にはそれぞれ空気トラップ(リザーブタンク)50が介在している。
【0024】
別言すると、圧電ポンプ30の吐出ポート31側に設けた空気トラップ50と、吸入ポート32側に設けた空気トラップ50との間が循環流路40であり、この循環流路40上に、受熱部10と放熱部20が配置されている。また、圧電ポンプ30を単位とすると、圧電ポンプ30自体が一対の空気トラップ50を有すると理解することもできる(一対の空気トラップ50を有する圧電ポンプ)。一対の空気トラップ50とポンプ室Pを結ぶ流路31、32は、単純流路であり、同流路を流れる間の液体は、何らの意図した仕事(熱交換)をしない。
【0025】
図2(A)、(B)は、空気トラップ50の構造例を示している。図2(A)は、吐出ポート31(吸入ポート32)と循環流路40を同一高さとして水平においたとき、吐出ポート31(吸入ポート32)及び循環流路40から垂直に立ち上がる垂直壁50Aと上面壁50Bによって直方体状の空間を形成し、この空間を空気トラップ50としている。つまり、この例では、垂直壁50Aと上面壁50Bが、循環流路40内の液体によって、閉じられた空気室51を形成する。ハッチングは、液面高さ例を示す。
【0026】
また、図2(B)は、同様に、吐出ポート31(吸入ポート32)と循環流路40を同一高さとして水平においたとき、吐出ポート31(吸入ポート32)及び循環流路40から垂直に立ち下がる垂直壁50Cと下面壁50Dによって直方体状の空間を形成し、この空気トラップ50の上面壁から、垂直壁50Cの内側に位置させて、直方体状の空間を構成する下方延長壁50Eを延長している。ハッチングは、液面高さ例を示しており、この例では、下方延長壁50Eと上面壁50Fが、循環流路40内の液体によって、閉じられた空気室51を形成する。
【0027】
図3は、循環流路40上に設けた発熱源10A、10Bの受熱構造例を示している。発熱源10Aは例えばPCのCPU、発熱源10Bは同チップセットであり、液流ジャケット101(201)上に熱的に接触させて配置したヒートスプレッダ102(202)上に載置されている。液流ジャケット101(201)は、循環流路40に連通する蛇行流路101a(201a)を有している。液流ジャケット101(201)は、3枚の積層板(ブレージングシート)の中心板に蛇行流路101aと201aを穿設してなっている。液流ジャケット101(201)上には、これらヒートスプレッダ102(202)と発熱源10A(チップセット200)、及び押え板103(203)が重ねて配置され、締結手段104(204)を介して結合されている。
【0028】
放熱部20は、循環流路40に連通するラジエータ21と、このラジエータ21に対して冷却風を送るファン22からなっている。
【0029】
本実施形態の液冷システム(液循環システム)は従って、圧電ポンプ30の吐出ポート31から出た冷媒は、空気トラップ50を通過した後受熱部10に至る。受熱部10では、発熱源10Aの直下の液流ジャケット(受熱部)101の蛇行流路101aを通って発熱源10Aから熱を奪う。液流ジャケット101を出た冷媒は、循環流路40を通って発熱源10Bの直下の液流ジャケット(受熱部)201の蛇行流路201aを通り、発熱源10Bから熱を奪う。液流ジャケット201を出た冷媒は、循環流路40を通って放熱部20のラジエータ21に至り、ラジエータ21を流れる間、冷却ファン22から冷却風を受けて冷却される。その後、循環流路40を通って空気トラップ50に入り、圧電ポンプ30の吸入ポート32に戻る。以下、以上の循環が繰り返されて発熱源10Aと発熱源10Bが冷却される。
【0030】
この液循環は、上述のように、圧電振動子35を正逆に連続させて弾性変形させる圧電ポンプ30のポンプ作用によって生じ、このポンプ作用により吸入側逆止弁37と吐出側逆止弁36が交互に開閉を繰り返すため、吐出ポート31と吸入ポート32で脈動(振動)が発生する。しかし、圧電ポンプ30の吐出ポート31と吸入ポート32にはそれぞれ空気トラップ50が設けられていて、空気室51内の空気がこの脈動を吸収するように作用し、脈動を軽減する。勿論、空気トラップ50内の空気室51は、流路内の液量の温度変化による増減を吸収する空気トラップの作用もする。
【0031】
図5は、本発明によるダイヤフラムポンプ30の実施形態を示している。この実施形態は、吸入ポート31と吐出ポート32にそれぞれ、空気トラップ50を設けたダイヤフラムポンプ30を示している。このダイヤフラムポンプによると、単体としてのダイヤフラムポンプに循環流路を接続することで、脈動を抑制した液循環システムが得られる。
【0032】
以上の実施形態は、圧電振動子35を振動するダイヤフラムとして用いたダイヤフラムポンプに本発明を適用したものであるが、本発明は、圧電振動子以外のダイヤフラムを用いたポンプにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による液循環システムの一実施形態を示す系統接続平面図である。
【図2】(A)、(B)は、図1のII-II線に沿う異なる実施形態の断面図である。
【図3】図1のIII-III線に沿う断面図である。
【図4】図1のIV-IV線に沿う断面図である。
【図5】本発明によるダイヤフラムポンプの一実施形態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 受熱部
10A 発熱源
10B 発熱源
101 201 液流ジャケット(受熱部)
101a 201a 蛇行流路
102 202 ヒートスプレッダ
103 203 押え板
104 204 締結手段
20 放熱部
21 ラジエータ
22 冷却ファン
30 圧電ポンプ(ダイヤフラムポンプ)
31 吐出ポート
32 吸入ポート
35 圧電振動子
36 吐出側逆止弁
37 吸入側逆止弁
40 循環流路
50 空気トラップ
51 空気室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動するダイヤフラムによって形成された可変容積のポンプ室、このポンプ室に通じる吸入ポートに設けた該吸入ポートからポンプ室への流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吸入側逆止弁、及び上記ポンプ室に通じる吐出ポートに設けた該ポンプ室から吐出ポートへの流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吐出側逆止弁を有するダイヤフラムポンプ;及び
上記ダイヤフラムポンプの吐出ポートから吸入ポートに至る循環流路;
を備え、
上記ポンプ室の容積変化によって吸入ポートからポンプ室に液体を吸入し、該ポンプ室から吐出ポートに液体を吐出して上記循環流路に液体を循環させる液循環システムにおいて、
上記ダイヤフラムポンプの吸入ポートと循環流路の間及び吐出ポートと循環流路の間にそれぞれ、空気トラップを設けたことを特徴とする液循環システム。
【請求項2】
請求項1記載の液循環システムにおいて、上記空気トラップは、循環流路を水平に保持したとき、該循環流路内の液体によって閉じられた空気室を形成する壁面を備えている液循環システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の液循環システムにおいて、上記循環流路には、発熱源から熱を奪う受熱部と、受熱して昇温した液体の熱を放熱する放熱部とが含まれている液循環システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の液循環システムにおいて、上記ダイヤフラムポンプは、圧電ポンプである液循環システム。
【請求項5】
振動するダイヤフラムによって形成された可変容積のポンプ室、このポンプ室に通じる吸入ポートに設けた該吸入ポートからポンプ室への流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吸入側逆止弁、及び上記ポンプ室に通じる吐出ポートに設けた該ポンプ室から吐出ポートへの流体流を許しその逆方向の流体流を許さない吐出側逆止弁を有するダイヤフラムポンプにおいて、
上記吸入ポートと吐出ポートにそれぞれ、空気トラップを設けたことを特徴とするダイヤフラムポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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