説明

液晶パネルの製造方法

【課題】焼き付き現象が生じ難い液晶パネルの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の液晶パネルの製造方法は、一対の基板の液晶層に面する表面に配向膜を形成する配向膜形成工程(ステップS1)と、一対の基板を所定の間隔を置いて対向配置し、シール材を用いて貼り合わせる組立工程(ステップS2)と、一対の基板の隙間に液晶を注入して封止する注入封止工程(ステップS3)と、液晶が注入された一対の基板を含む液晶パネルを減圧下で加熱する真空加熱工程(ステップS4)と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記液晶パネルの製造方法としては、例えば配向処理が施された一対の基板を所定の間隔をおいて対向配置させ、シール材を用いて貼り合わせる。シール材には注入口が設けられており、真空注入法などの方法を用いて上記注入口から一対の基板の隙間に液晶を充填して、上記注入口を封止材を用いて封止する方法が挙げられる。
【0003】
このように液晶を充填して封止するまでに、液晶中に不純物が混入すると初期的に液晶分子の配向が乱れたり、信頼性において長期の使用を妨げるおそれがあった。
このような課題に対して、例えば特許文献1では、紫外線硬化型のシール材から液晶中に不純物が混入することを抑制する方法として、液晶を注入する前に、シール材に対して紫外線照射処理を1回以上、熱処理を2回以上実施する。また、ダイシング前に第一の紫外線処理に加えて、さらにダイシング後に第二の紫外線照射と第二の熱処理とを加える。それぞれにおいて最後の熱処理は真空中で行うことが開示されている。
【0004】
また、上記特許文献1のように液晶の注入前に熱処理を行う方法だけでなく、他の液晶パネルの製造方法として、特許文献2には、液晶を注入した後に加熱処理あるいは加湿処理を施して配向膜上の液晶分子のプレチルト角を調整する後工程を実施する液晶装置の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−9274号公報
【特許文献2】特開2005−17362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶分子の配向状態に影響する不純物は、特許文献1のようにシール材から放出されるものに限らず、液晶中に含まれた微量な水分も液晶分子の配向状態に影響することがわかってきた。例えば、液晶中に含まれる水分の影響として液晶パネルに一定の表示パターンを所定の時間表示させた後に異なる表示パターンに切り替えても、以前の表示パターンの影響が残りコントラストムラとなる、所謂焼き付き現象が挙げられる。
このような水分の影響を除くために、特許文献1に示された熱処理を液晶の注入前に施しても液晶中の水分を除くことが難しいという課題があった。また、特許文献2のように液晶を注入した後に単に加熱処理を行っただけでは、同じく液晶中の水分を除くことが難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の液晶パネルの製造方法は、一対の基板を所定の間隔を置いて対向配置し、シール材を用いて貼り合わせる組立工程と、前記一対の基板の隙間に液晶を注入して封止する注入封止工程と、前記液晶が注入された前記一対の基板を含む液晶パネルを減圧下で加熱する真空加熱工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、液晶注入封止後の液晶パネルを減圧下で加熱することにより、液晶中に含まれる微量の水分を液晶パネルから放出させ、焼き付き現象が発生し難い液晶パネルを製造することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の液晶パネルの製造方法において、前記真空加熱工程は、減圧されたチャンバー内に前記液晶パネルを放置して加熱し、所定の時間経過後に、前記チャンバー内に除湿された気体を導入して、前記チャンバー内を大気圧と略同等な圧力としてから、前記チャンバーを開放することが好ましい。
この方法によれば、真空加熱された液晶パネルが放置されたチャンバーを開放するときに除湿された気体をチャンバー内に導入するので、液晶パネルに再び水分が侵入することを防止することができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の液晶パネルの製造方法において、前記注入封止工程の後に、複数の前記液晶パネルからなる製造LOTから抜き取りにより前記液晶パネルの焼き付き評価を行う工程と、前記焼き付き評価結果により、前記製造LOTを構成する複数の前記液晶パネルに対して前記真空加熱工程を行うか否か判定する工程とを備えることが好ましい。
この方法によれば、より効率的に真空加熱工程を実施して焼き付き現象が生じ難い液晶パネルを製造することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の液晶パネルの製造方法において、前記一対の基板の前記液晶と面する表面に無機配向膜を形成する配向膜形成工程を備えたことを特徴とする。
無機配向膜を備えた液晶パネルは、有機配向膜に比べて液晶中の微量な水分によって焼き付き現象が生じ易いので、真空加熱工程を行うことが効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は液晶パネルの構成を示す概略平面図、(b)は(a)のH−H’線で切った液晶パネルの概略断面図。
【図2】液晶パネルの製造方法を示すフローチャート。
【図3】真空加熱装置の構成を示す概略図。
【図4】実施例と比較例の焼き付き評価結果を示す表。
【図5】焼き付き評価方法を示す概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0015】
なお、以下の形態において、「基板上に」と記載された場合、基板の上に接するように配置される場合、または基板の上に他の構成物を介して配置される場合、または基板の上に一部が接するように配置され、一部が他の構成物を介して配置される場合を表すものとする。
【0016】
本実施形態では、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;TFT)を画素のスイッチング素子として備えたアクティブマトリクス型の液晶パネルを例に挙げて、その製造方法について説明する。この液晶パネルは、例えば投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調素子(液晶ライトバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0017】
<液晶パネルの製造方法>
まず、本実施形態の液晶パネルについて、図1を参照して説明する。図1(a)は液晶パネルの構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のH−H’線で切った液晶パネルの概略断面図である。
【0018】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶パネル100は、対向配置された素子基板10および対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層50とを有する。素子基板10および対向基板20は、透明な例えば石英などのガラス基板が用いられている。
【0019】
素子基板10は対向基板20よりも一回り大きく、両基板は、額縁状に配置されたシール材40を介して接合され、その隙間に正または負の誘電異方性を有する液晶が封入されて液晶層50を構成している。シール材40は、例えば熱硬化性または紫外線硬化性のエポキシ樹脂などの接着剤が採用されている。シール材40には、一対の基板の間隔を一定に保持するためのスペーサー(図示省略)が混入されている。
【0020】
額縁状に配置されたシール材40の内側には、同じく額縁状に遮光膜21が設けられている。遮光膜21は、例えば遮光性の金属あるいは金属酸化物などからなり、遮光膜21の内側が複数の画素Pを有する表示領域Eとなっている。なお、図1では図示省略したが、表示領域Eにおいても複数の画素Pを平面的に区分する遮光部が設けられている。
【0021】
素子基板10の1辺部に沿ったシール材40との間にデータ線駆動回路101が設けられている。また、該1辺部に対向する他の1辺部に沿ったシール材40の内側に検査回路103が設けられている。さらに、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿ったシール材40の内側に走査線駆動回路102が設けられている。該1辺部と対向する他の1辺部のシール材40の内側には、2つの走査線駆動回路102を繋ぐ複数の配線105が設けられている。これらデータ線駆動回路101、走査線駆動回路102に繋がる配線は、該1辺部に沿って配列した複数の外部接続端子104に接続されている。
以降、該1辺部に沿った方向をX方向とし、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿った方向をY方向として説明する。
なお、検査回路103の配置はこれに限定されず、データ線駆動回路101と表示領域Eとの間のシール材40の内側に沿った位置に設けてもよい。
【0022】
図1(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素Pごとに設けられた光透過性を有する画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスター(TFT;Thin Film Transistor)30と、信号配線と、これらを覆う配向膜18とが形成されている。
【0023】
対向基板20の液晶層50側の表面には、遮光膜21と、これを覆うように成膜された層間膜層22と、層間膜層22を覆うように設けられた共通電極23と、共通電極23を覆う配向膜24とが設けられている。
【0024】
遮光膜21は、図1(a)に示すように平面的にデータ線駆動回路101や走査線駆動回路102、検査回路103と重なる位置において額縁状に設けられている。これにより対向基板20側から入射する光を遮蔽して、これらの駆動回路を含む周辺回路の光による誤動作を防止する役目を果たしている。また、不必要な迷光が表示領域Eに入射しないように遮蔽して、表示領域Eの表示における高いコントラストを確保している。
【0025】
層間膜層22は、例えば酸化シリコンなどの無機材料からなり、光透過性を有して遮光膜21を覆うように設けられている。このような層間膜層22の形成方法としては、例えばプラズマCVD法などを用いて成膜する方法が挙げられる。
【0026】
共通電極23は、例えばITOなどの透明導電膜からなり、層間膜層22を覆うと共に、図1(a)に示すように対向基板20の四隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0027】
画素電極15を覆う配向膜18および共通電極23を覆う配向膜24は、液晶パネル100の光学設計に基づいて選定される。例えば、ポリイミドなどの有機材料を成膜して、その表面をラビングすることにより、液晶分子に対して略水平配向処理が施されたものや、SiOx(酸化シリコン)などの無機材料を気相成長法を用いて成膜して、液晶分子に対して略垂直配向させたものが挙げられる。
【0028】
次に、図2および図3を参照して、液晶パネル100の製造方法を説明する。図2は液晶パネルの製造方法を示すフローチャート、図3は真空加熱装置の構成を示す概略図である。
【0029】
図2に示すように、本実施形態の液晶パネル100の製造方法は、素子基板10と対向基板20とに配向膜をそれぞれ形成する配向膜形成工程(ステップS1)と、配向膜が形成された素子基板10と対向基板20とをシール材40を用いて貼り合わせる組立工程(ステップS2)と、組み立てられた素子基板10と対向基板20との間に液晶を注入して封止する注入封止工程(ステップS3)と、液晶が注入された液晶パネル100を減圧下で加熱する真空加熱工程(ステップS4)とを備えている。
なお、素子基板10に画素Pを構成するTFT30をはじめとする画素回路を形成する工程や、対向基板20に遮光膜21、層間膜層22、共通電極23を形成する工程は、公知の方法を採用することができる。したがって、これらの工程に関する詳細な説明は省略する。
【0030】
ステップS1の配向膜形成工程では、図1(b)に示すように液晶層50に面する素子基板10の表面を覆うように配向膜18を形成する。同様に、液晶層50に面する対向基板20の表面を覆うように配向膜24を形成する。配向膜18,24は前述したように例えば有機配向膜や無機配向膜のいずれかが光学設計条件に基づいて選ばれる。
有機配向膜の形成方法としては、例えばポリイミドなどの有機材料を溶媒に溶解させた機能液をオフセットなどの印刷法やインクジェット法などの液体吐出法を用いて各基板における所定の領域に塗布し、乾燥・焼成することによって成膜する方法が挙げられる。上記機能液を塗布する際に塗布手段が直接基板に接触せず、基板にダメージを与えないという点で液体吐出法を用いることが好ましい。
また、形成された有機配向膜の表面を所定の方向にラビングする配向処理を行う。
【0031】
無機配向膜の形成方法としては、例えばSiOx(酸化シリコン)などの無機材料を斜方蒸着や斜方スパッタなどの気相成長法を用い、無機材料の結晶体からなる柱状のカラムが基板表面から所定の方向に成長するように成膜する方法が挙げられる。なお、気相成長法を用いる場合、素子基板10の外部接続端子104や、素子基板10および対向基板20の上下導通部106は、これらを覆う無機配向膜が成膜後に除去され、電気的な導通性が確保される。そして、ステップS2へ進む。
【0032】
ステップS2の組立工程では、配向膜18が形成された素子基板10、または配向膜24が形成された対向基板20のいずれか一方にシール材40を塗布し、素子基板10と対向基板20とを所定の間隔をおいて対向配置する。シール材40の塗布は、印刷法やディスペンサーなどを用いた定量吐出法を採用することができる。スクリーンなどの印刷手段が基板に接触しないという観点から後者の定量吐出法が好ましい。このとき、図1(a)に示すように、対向基板20の外周に沿ってシール材40を配置すると共に、その一部が端子部側において途切れるように配置する。途切れた部分が後に液晶を注入する際の注入口41となる。
前述したようにシール材40にはスペーサー(ギャップ材)が含まれており、対向配置された素子基板10および対向基板20に対してシール材40を押しつぶすように圧力を加えて、その間隔を一定の状態とする。この状態でシール材40に例えば紫外線を照射したり、熱を加えることによって硬化させる。以降、シール材40が硬化した後の液晶パネル100を液晶セルと呼ぶこととする。そして、ステップS3へ進む。
【0033】
ステップS3の注入封止工程では、所定の間隔で対向配置された素子基板10と対向基板20との隙間に液晶を注入する。注入方法としては、例えば液晶セルを減圧下に放置して液晶セル内の気体(空気)を注入口41(図1(a)参照)から排出させる。そして、同じく減圧下で注入口41を塞ぐように液晶セルの端子部に所定量の液晶を塗布(滴下)して、大気圧に開放することで塗布(滴下)された液晶を注入口41から液晶セル内へ注入する真空注入法が挙げられる。次に、液晶セルの注入口41を塞ぐように例えば紫外線硬化型の接着剤42(図1(a)参照)を塗布して、硬化させることにより液晶セルを封止する。
【0034】
注入封止工程は、上記のような真空注入法に限らず、例えばシール材40が外周に沿って配置された素子基板10に減圧下でシール材40を土手として所定量の液晶を滴下し、これに対して対向基板20を押し当てるように対向配置して組み立てるODF(One Dlop Fill)法を用いてもよい。そして、ステップS4へ進む。
【0035】
ステップS4の真空加熱工程では、液晶が注入封止された液晶パネル100を減圧下で加熱する。真空加熱方法としては、例えば図3に示すような真空加熱装置300を用いる。
真空加熱装置300は、チャンバー301と、チャンバー301内を減圧する例えばロータリー式の真空ポンプ302と、チャンバー301内に気体を送り込む配管に設けられた電磁バルブ303と、載置台304と、チャンバー301内を加熱するための加熱手段としてのヒーター306とを備えている。載置台304に載置される治具305は、端子部を上方に向けて複数の液晶パネル100をセット可能に構成されている。なお、図3では図示省略したが、真空加熱装置300は、チャンバー301内の真空度を検出可能な真空計と、チャンバー301内の温度、とりわけ液晶パネル100の温度を検知可能な温度検出機構と、そして、上記真空ポンプ302や電磁バルブ303を加えたこれらの各部を制御可能な制御部とを備えている。
【0036】
まず、治具305に液晶パネル100をセットし、載置台304に載置する。電磁バルブ303を閉じて真空ポンプ302を稼動させ、チャンバー301内を所定の圧力となるように減圧する。制御部は、チャンバー301内が所定の減圧状態で維持されるように真空ポンプ302を制御する。このような減圧動作と並行して制御部はヒーター306に通電し、液晶パネル100が所定の温度に到達するまでチャンバー301内を加熱する。液晶パネル100はヒーター306からの放射熱で加熱されると共に減圧下に放置されるので、液晶中に含まれる水分が気体となって液晶パネル100から放出される。液晶中の水分はシール材40そのものを通過したり、シール材40と基板との接合界面を通過するものと考えられる。また、液晶パネル100から放出されるのは水分だけでなく真空加熱処理によって気化する例えばシール材40に含まれる微量の溶媒成分や未硬化物を含むものと考えられる。
このように水分などの放出に伴ってチャンバー301内の圧力が上昇するので、結果的に放出された水分などは真空ポンプ302によって外部に排出される。
このような真空加熱状態が所定の時間保持された後に、制御部は真空ポンプ302を停止させると共に、ヒーター306の通電を停止させる。次に、電磁バルブ303を開けて外部から除湿された気体、例えば空気(ドライエアー)や窒素などの不活性ガスをチャンバー301内に導入する。チャンバー301内が大気圧と略同等となるまで除湿された気体を導入してからチャンバー301を開放して、液晶パネル100を治具305ごと取り出して室温まで冷却する。
【0037】
次に、より具体的な実施例と比較例とを挙げて、真空加熱処理の効果について説明する。
なお、実施例および比較例の対象となる液晶パネル100は、配向膜18,24として無機配向膜が施されたものを用いた。図1に示した液晶パネル100の大きさは、対角線の長さがおよそ1インチ程度のものである。
【0038】
(実施例1)
実施例1における加熱条件は、次のとおりである。
チャンバー301内の減圧状態つまり真空度は、1000Pa(パスカル)。
液晶パネル100の温度は、60℃。
真空加熱時間は、30分。
【0039】
(実施例2)
実施例2における加熱条件は、実施例1に対して真空加熱時間を1時間とした。
【0040】
(実施例3)
実施例3における加熱条件は、実施例1に対して真空加熱時間を3時間とした。
【0041】
(比較例)
比較例における加熱条件は、液晶パネル100を大気中にて100℃の温度で3時間加熱とした。
【0042】
図4は実施例と比較例の焼き付き評価結果を示す表である。
本実施形態では、上記実施例1、実施例2、実施例3の真空加熱条件で処理された液晶パネル100と、比較例の液晶パネル100とをそれぞれ通電して、その通電パターンの焼き付き状態を評価した。
【0043】
図5は焼き付き評価方法を示す概略平面図である。図5に示すように本実施形態の焼き付き評価は、室温にて対象となる液晶パネル100の表示領域Eにおけるほぼ中央部分のほぼ正方形な第1領域E1を点灯させ、第1領域E1を囲む第2領域E2が非点灯となるように通電する。通電時間はおよそ15分である。通電後、今度は第1領域E1および第2領域E2(つまり表示領域E全体)のコントラストが中間調(コントラスト比が最大に対してほぼ半分となる状態)となるようにそれぞれ通電する。焼き付き現象が発生していると、矢印⇒で示したように、先に点灯させた第1領域E1とそれを囲む中間調の第2領域E2との間にコントラストの差が生ずる。この場合は、第1領域E1が第2領域E2よりも暗い表示となる。
本実施形態では、上記コントラストの差を目視で確認し、明らかに視認可能な状態を×、ごくわずかに視認可能な状態を○、視認不可能な状態を◎とした。
【0044】
図4に示すように、実施例1と実施例2の焼き付き評価は○、実施例3の焼き付き評価は◎、比較例の焼き付き評価は×であった。つまり、上記のような真空加熱条件で少なくとも30分程度真空加熱することにより液晶パネル100中の水分などが除かれて焼き付き現象が発生し難くなることが確認された。
【0045】
なお、真空加熱工程における真空度は、1000Pa以下、可能ならば100Pa以下が好ましい。また、加熱温度は、60℃以上、100℃以下が好ましい。これにより、液晶パネル100に対して熱的なダメージを与えない範囲でより短時間に真空加熱処理を行うことができる。また、真空加熱時間は、チャンバー301内に投入される液晶パネル100の枚数や、液晶パネル100の液晶中に存在する水分量によって時間を調整する必要がある。
【0046】
また、焼き付き評価の方法は、目視に限らず、上記コントラストの差を輝度計などを用いて計測してもよい。通電時間は、およそ15分程度が好ましく、15分以上通電したとしても焼き付き評価における通電時間差はほとんど無かった。
【0047】
なお、図5の焼き付き評価では、液晶パネル100の光学的な表示状態モードをノーマリーホワイトとして説明したが、ノーマリーブラックとしてもよい。ノーマリーブラックでは点灯させた部分が所謂白表示となる。したがって、焼き付きが生ずると表示領域Eを中間調としたときに第1領域E1がより明るい表示となる。
【0048】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)液晶パネル100に真空加熱処理を施すことにより、液晶中の主に水分が放出され、焼き付き現象が低減される。
【0049】
(2)液晶パネル100の製造工程において、液晶の注入封止工程の前にそれぞれの基板を加熱して水分などを除く場合に比べて、液晶を注入した後に真空加熱を行えばよいので、確実に液晶中の水分などを除去することができる。
【0050】
(3)真空加熱を施した後に、除湿された気体(ドライエアーや不活性ガス)をチャンバー301内に導入して大気開放するので、単にチャンバー301を大気開放する場合に比べて、再び液晶パネル100内に水分が侵入することを防ぐことができる。
【0051】
なお、上記実施例および比較例では、無機配向膜を有する液晶パネル100を対象としたが、これは、有機配向膜に比べて無機配向膜のほうが液晶分子に対する配向制御力が弱く、液晶中の水分に起因する焼き付き現象が生じ易いという事実に基づいている。言い換えれば、無機配向膜が採用された液晶パネル100の製造方法として真空加熱工程を設けることが有効である。もちろん、有機配向膜を用いた場合にも有効であることが確認されている。
【0052】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0053】
(変形例1)上記実施形態の液晶パネル100の製造方法では、液晶が注入封止された液晶パネル100を真空加熱処理するとしたが、これに限定されない。焼き付き現象は、液晶中の水分量によって左右されると考えられる。例えば、画素回路が形成される素子基板10が複数面付けされたマザー基板を用いて液晶パネル100を製造する場合、マザー基板から得られる複数の液晶パネル100を1つの製造LOTとして扱う。そして、液晶の注入封止後に、製造LOTごとに抜き取られた液晶パネル100に対して焼き付き評価を実施する。その結果によって、当該製造LOTを構成する複数の液晶パネル100に対して真空加熱処理を行うか否かを判定してもよい。このようにすれば、より効率的に真空加熱処理を行って焼き付き現象が生じ難い液晶パネル100を製造することができる。言い換えれば、液晶の注入封止工程の後に、焼き付き評価を行う工程と、焼き付き評価により、真空加熱工程を行うか否かの判定工程とを設けてもよい。
なお、一度、焼き付き評価を行って×と判断された液晶パネル100であっても、上記真空加熱工程を施すことによって、正常な状態にすることができることを確認している。したがって、上記真空加熱工程は、焼き付き現象が生ずる液晶パネル100をリワークする方法としても有効である。
【0054】
(変形例2)上記実施形態の液晶パネル100は、透過型であることに限定されず、例えば画素電極15が光反射性を有する反射型であっても、真空加熱工程を施すことは有効である。
【0055】
(変形例3)上記実施形態の液晶パネル100を適用可能な電子機器は、投射型表示装置に限定されない。例えば、投射型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)や直視型のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、または電子ブック、パーソナルコンピューター、デジタルスチルカメラ、液晶テレビ、ビューファインダー型あるいはモニター直視型のビデオレコーダー、カーナビゲーションシステム、電子手帳、POSなどの情報端末機器の表示部として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
10…基板としての素子基板、18,24…配向膜、20…基板としての対向基板、40…シール材、50…液晶層、100…液晶パネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板を所定の間隔を置いて対向配置し、シール材を用いて貼り合わせる組立工程と、
前記一対の基板の隙間に液晶を注入して封止する注入封止工程と、
前記液晶が注入された前記一対の基板を含む液晶パネルを減圧下で加熱する真空加熱工程と、
を備えたことを特徴とする液晶パネルの製造方法。
【請求項2】
前記真空加熱工程は、減圧されたチャンバー内に前記液晶パネルを放置して加熱し、所定の時間経過後に、前記チャンバー内に除湿された気体を導入して、前記チャンバー内を大気圧と略同等な圧力としてから、前記チャンバーを開放することを特徴とする請求項1に記載の液晶パネルの製造方法。
【請求項3】
前記注入封止工程の後に、複数の前記液晶パネルからなる製造LOTから抜き取りにより前記液晶パネルの焼き付き評価を行う工程と、
前記焼き付き評価結果により、前記製造LOTを構成する複数の前記液晶パネルに対して前記真空加熱工程を行うか否か判定する工程とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶パネルの製造方法。
【請求項4】
前記一対の基板の前記液晶と面する表面に無機配向膜を形成する配向膜形成工程を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液晶パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−113080(P2012−113080A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260947(P2010−260947)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】