説明

液晶表示素子

【課題】 表示品質の良好な液晶表示素子を提供する。
【解決手段】 電極を備え、88.5°〜89.5°のプレティルト角を備える第1及び第2基板と、両基板間に挟持され、電圧無印加時には両基板にほぼ垂直に配向し、電圧印加時には、160°以上240°以下のねじれ角でねじれ構造を形成する液晶分子材料を含む、厚さdの液晶層であって、カイラルピッチpのカイラル材を含み、d/pが0.2〜0.74である液晶層と、第1基板の液晶層とは反対側の面に向き合うように配置され、透過軸の方向が第1方向である第1偏光板と、第2基板の液晶層とは反対側の面に向き合うように配置され、かつ、第1及び第2基板の法線方向から見たとき、透過軸の方向が、第1方向と85°〜95°の角度をなす第2方向である第2偏光板と、第1基板と第1偏光板との間、第2基板と第2偏光板との間の少なくとも一方に、第1及び第2偏光板と面内方向が相互に略平行となるように配置された光学異方性板とを有する液晶表示素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子、殊に垂直配向型の液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の透明基板と、その間に挟持された液晶層とをもち、基板と液晶層との境界面に、液晶分子を垂直、または垂直から若干傾斜して配列させる、いわゆる垂直配向型の液晶表示素子(liquid crystal display;LCD)は、電圧無印加状態で正面観察した場合における液晶層のリタデーションが0またはほぼ0であるため、液晶セルの外側に、偏光板をクロスニコル配置すると、クロスニコル配置した2枚の偏光板自体の消光性能により、良好な黒表示特性を有するノーマリブラックタイプの表示素子を作製することが可能である。
【0003】
良好な視角特性を有する垂直配向型LCDの一例として、一つの画素に複数の配向方向を有するように液晶分子配向を制御する、マルチドメイン化された垂直配向型LCDが知られている。
【0004】
マルチドメイン化は、たとえば基板内面に配置される電極にスリットを設け上下基板間に斜め方向の電界を発生させるようにしたり(たとえば、特許文献1参照)、基板面内に突起物を形成したりして(たとえば、特許文献2参照)実現される。
【0005】
これらのマルチドメイン化手法は、基板表面にラビング処理などの積極的な配向処理を行う必要がないが、画素内にスリットや突起物を配置するため、開口率が減少し、LCDの光透過率が低下するという欠点がある。
【0006】
開口率の減少が回避され、光透過率の低下が抑止された垂直配向型LCDの一例として、従来のTN−LCDなどと同様な電極構造で基板表面突起がないかわりに、積極的な一様配向処理を行い、均一なプレティルト角をもつモノドメインプレティルト垂直配向型LCDが知られている。
【0007】
図7は、モノドメインプレティルト垂直配向型LCDを示す概略的な分解斜視図である。
【0008】
モノドメインプレティルト垂直配向型LCDは、一対の基板(上側基板31及び下側基板32)と、その間に挟持される液晶層39とを含んで構成される。上側基板31及び下側基板32は、それぞれ、たとえば平板なガラス基板である上側及び下側透明基板33,34、上側及び下側透明基板33,34の対向面上に、ITO(indium tin oxide)等の透明導電材で形成され、所定のパタンを有する上側及び下側透明電極35,36、上側及び下側透明電極35,36を覆うように形成される上側及び下側垂直配向膜37,38とを含んで構成される。
【0009】
一対の基板(上側基板31及び下側基板32)は、両垂直配向膜37,38が向き合うように略平行に対向配置され、両垂直配向膜37,38間に、液晶層39が挟持される。両透明電極35,36間には、電圧印加手段43が接続されており、電圧印加手段43により両透明電極35,36間の液晶層39に任意の電圧を印加することができる。なお、図7には、両透明電極35,36間に電圧を印加していないときの液晶層39の状態を示した。
【0010】
上側または下側または両側の垂直配向膜37,38には、一様な配向処理(均一なプレティルト角の付与)が施されている。これにより、無欠陥のモノドメインLCDが構成される。
【0011】
配向処理の方法には、(i)SiO無機金属酸化物の斜方蒸着や、インラインスパッタ成膜による異方的表面基板形状による方法(たとえば、特許文献3参照)、更にその形成後、その表面上に界面活性剤膜などを形成し、それを配向膜として用いる方法(たとえば、特許文献4参照)、(ii)感光性垂直配向膜に紫外線を膜面に対して斜め方向から照射する光配向法(たとえば、特許文献5参照)、(iii)適切な表面自由エネルギを有する垂直配向膜に対して、適当な条件によってラビング処理を施す方法等がある。
【0012】
一対の基板(上側基板31及び下側基板32)の外側に、略平行に、上側及び下側偏光板41,42が、クロスニコル状態に配置される。矢印で、各偏光板41,42の透過軸の方向を示してある。各偏光板41,42は、透過軸の方向に偏光する光だけを透過させる。
【0013】
電圧無印加時においては、素子法線上の下方から入射する光は、下側偏光板42により矢印方向と平行な方向に偏光し、液晶層39をそのまま透過して、上側偏光板41に遮られる。このため、垂直配向型LCDは「黒」を表示する。
【0014】
電圧印加時にあっては、電圧無印加時から液晶分子39aの配向状態が変化し、下側偏光板42側から入射した光は、上側偏光板41の透過軸方向の成分を有するようになり、上側偏光板41を透過する。このため、「白」を表示する。
【0015】
なお、ここで、図示するように、上側基板31及び下側基板32の面内方向において互いに直交するX方向、Y方向(矢印の方向を正方向とする。)を画定する。更に、上側基板31及び下側基板32に垂直な方向に、下側基板32から上側基板31に向かう方向を正の向きとしてZ方向を画定し、右手系の座標系を考える。また、Z正方向から上側基板31及び下側基板32を見たとき、Y正方向を0°方位として反時計回り(X負方向に向かう回転方向)に、基板面内方向における角度座標を定める。この角度座標によれば、X負方向が90°方位、Y負方向が180°方位、X正方向が270°方位となる。
【0016】
上側偏光板41の透過軸の方位(矢印で示した方位)は、45°−225°方位であり、下側偏光板42の透過軸の方位は、135°−315°方位である。
【0017】
垂直配向型LCDにおいては、基板法線方向を基準に、深い極角角度から観察した場合、光抜けを生じ、コントラストが低下するという問題がある。光抜けによる視角特性の劣化は、特に電圧無印加時に顕著である。光抜けの発生要因には、液晶層におけるリタデーションの増大に起因する複屈折効果の発現によるものと、偏光板の視角依存性によるものとの2つが考えられる。
【0018】
偏光板の視角依存性による光抜けとは次のようなものである。上側及び下側基板の外側に、偏光板がクロスニコル配置されている場合、偏光板の透過軸または吸収軸方向以外の方向については、観察極角角度を深くするにしたがって、見た目の上下偏光板配置がクロスニコル状態から離れていく。極端な場合として、基板面内方向(観察極角角度=90°)から観察すると、完全なパラレルニコル状態となる。すなわち法線方向から観察極角角度を深くしていくと、偏光板クロスニコル状態が解消されていくことによって、光抜けが生じる。
【0019】
リタデーションの増大に起因する光抜けは、たとえば、液晶層が正の一軸光学異方性を有する場合、その光学異方性を相殺する負の一軸光学異方性を有する透明媒質で形成された視角補償板を用いることにより改善される。
【0020】
図8は、視角補償板を含むモノドメインプレティルト垂直配向型LCDを示す概略的な分解斜視図である。
【0021】
図7に示すLCDとは、上側透明基板33と上側偏光板41との間に、視角補償板45が配置されている点において異なる。視角補償板45は、図に示すように、片側の基板と偏光板との間に挿入してもよいし、両側の基板と偏光板との間に挿入してもよい。
【0022】
図9に、視角補償板を使用する場合(図8に示す垂直配向型LCD)と、使用しない場合(図7に示す垂直配向型LCD)の光透過率の極角観察角度依存性を示す。
【0023】
極角観察角度依存性は、視角補償板45の厚さ方向のリタデーションRth、液晶層39のリタデーションΔnd(Δn:液晶材料の複屈折率、d:液晶層39の厚さ)としたとき、Rth≒Δnd−140nmという条件のもとで、電圧無印加時における、0°−180°方位(右−左方位)について示した。
【0024】
横軸は、観察角度(極角)を単位「°(度)」で示す。ここではZ正方向からY正方向(0°方位)またはY負方向(180°方位)への傾き角(観察角度、極角)を示してある。また、Z正方向からY正方向(0°方位)への傾き角を正の値で表し、Z正方向からY負方向(180°方位)への傾き角を負の値で表した。なお、負の観察角度の絶対値は、Z正方向からY負方向(180°方位)に傾いた角度に等しい。
【0025】
縦軸は、各観察角度における光透過率を、単位「%」で示す。
【0026】
曲線aは、視角補償板が使用されていない垂直配向型LCD(図7に示す垂直配向型LCD)、曲線bは、視角補償板が使用されている垂直配向型LCD(図8に示す垂直配向型LCD)のそれぞれの観察角度と光透過率との関係を示す。
【0027】
視角補償板を用いない場合(曲線a)、極角約20°までは、光透過率は0近傍であるが、極角約20°から光透過率は徐々に増大し、極角60°では3%以上になる。
【0028】
視角補償板が使用されている垂直配向型LCDの光透過率(曲線b)は、特に約20°以上の極角において、使用されていないそれ(曲線a)よりも小さく、極角60°においては半分以下である。本図からわかるように、視角補償板を使用することにより、特に深い観察角度において、光抜けを抑制し、良好な表示を実現することができる。
【0029】
しかし曲線bからわかるように、視角補償板を用いた垂直配向型LCDであっても、光抜けは完全には解消されない。これは偏光板の視角依存性による光抜けが残っているためである。
【0030】
液晶層のリタデーションに起因する光抜けと、偏光板の視角依存性による光抜けとの双方を防止するLCDの提案もある(たとえば、特許文献6参照)。
【0031】
図10(A)〜(E)は、LCDの概略的な分解斜視図である。
【0032】
図10(A)を参照する。本図に示すLCDは、上側基板31と上側偏光板41との間に、Cプレート46が加入されている点、及び、下側基板32と下側偏光板42との間に、Aプレート47が加入されている点において、図7に示したLCDと異なる。
【0033】
光学フィルム(位相差板)の面内方向に、相互に直行するX軸とY軸、厚さ方向にZ軸を画定し、X軸、Y軸、及びZ軸方向の屈折率をそれぞれnx、ny、及びnzとするとき、Aプレートは、nx>ny=nzという屈折率分布を有し、Cプレートは、nx≒ny>nzという屈折率分布を有する。
【0034】
Aプレート47は、面内に光軸を有する正の一軸光学異方性を有する光学フィルム(位相差板)であり、Cプレート46は、厚さ方向に光軸を有する負のほぼ一軸光学異方性を有する光学フィルム(位相差板)である。
【0035】
Aプレート47及びCプレート46を用いることにより、液晶層のリタデーションに起因する光抜けと、偏光板による光抜けとの双方を防止することができる。これは、Cプレート46(負の一軸光学異方性)は、液晶層のリタデーション(正の一軸光学異方性)を傾斜観察時にキャンセル(補償)する機能を有しており、Aプレート47はCプレート46と組み合わせて使用することにより、偏光板の視角依存性を解消させる光学的機能を実現できるためである。
【0036】
なお、光学フィルム(位相差板)について、面内方向リタデーションRとは、光学フィルムの厚さをdとすると、R=(nx−ny)×dで定義され、厚さ方向リタデーションRthとは、Rth=[{(nx+ny)/2}−nz]×dで定義される。
【0037】
図10(C)に示すように、AプレートとCプレートを上側基板上、または下側基板下に積層配置することも可能である。この場合、Cプレートは、セルに近い側面に配置し、偏光板近接面にAプレートを配置したとしても、図10(A)とほぼ同等の効果が得られる。
【0038】
図10(B)を参照する。本図に示すLCDは、上側基板31と上側偏光板41との間に、二軸フィルム48が加入されている点において、図7に示したLCDと異なる。
【0039】
二軸フィルム48は、Aプレート及びCプレートの機能を1枚の光学フィルムに集約した負の二軸光学異方性を有する光学フィルムである。すなわち、負の二軸フィルムとは、nx>ny>nzと定義される光学フィルムである。
【0040】
二軸フィルム48を用いることによって、Aプレート47及びCプレート46を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0041】
図10(B)は、図10(C)の構造において、光学フィルムの数を減らしたものであり、光学特性はほぼ同等とすることが可能である。
【0042】
図10(D)、(E)に示すように、図10(A)、(C)で用いたAプレートを、それぞれ二軸フィルムに替えてもほぼ同等な効果が得られる。
【0043】
図7に示したモノドメインプレティルト垂直配向型LCDを、電圧無印加時、またはLCDが低輝度発光することになる、しきい電圧付近の電圧の印加時(単純マトリクス駆動における非選択電圧相当)、深い観察極角角度から観察する場合、0°方位と180°方位で輝度(光透過率)が異なって見える現象が認められる。たとえば、セグメント表示タイプの単純マトリクス駆動表示素子では、表示部が非選択状態(オフセグメント)のとき、観察方位によって輝度(光透過率)が異なる場合がある。また、電圧無印加時においては、すでに示した図9を参照すると、視角補償板ありの特性bにおいて、0°方位と180°方位で、たとえば60°極角の光透過率は、明らかに異なることがわかる。
【0044】
本願発明者は、モノドメインプレティルト垂直配向型LCDについて、プレティルト角をパラメータとして、電圧無印加、及び、しきい電圧付近の電圧を印加するという条件のもとで、光透過率をシミュレートした。シミュレーションの対象は、図7に示したモノドメインプレティルト垂直配向型LCDにおいて、下側基板と下側偏光板との間に、視角補償板としてCプレートが挿入された構成のLCDとした。また、観察方位は、図7を参照して説明した0°方位、及び180°方位とし、観察極角は50°(基板垂線方向から基板面内方向に50°傾いた角度)とした。
【0045】
シミュレーションには、(株)シンテック製LCDシミュレータLCDマスター6を用いた。なお、本明細書に記載した他のシミュレーションを行うにあたっても、同シミュレータを使用した。
【0046】
シミュレーションを行うLCDの下側基板の配向処理方向(ラビング方向)は270°方位、上側基板のそれは90°方位とし、上下基板間で反平行に配向しているとした。また、液晶層は、誘電率異方性が負(Δε<0)の液晶材料、具体的にはΔε=−5.1の液晶材料を用いて構成し、リタデーションΔndを約0.36μmに設定した。カイラル材は添加しないものとした。更に、上側及び下側偏光板は、(株)ポラテクノ製SHC125Uを想定した。上側及び下側偏光板の透過軸の方位は、それぞれ45°−225°方位、135°−315°方位とした。また、Cプレートは、ノルボルネン樹脂製で、厚さ方向リタデーションRthを220nmとした。
【0047】
図1は、シミュレーションの結果を示すグラフである。
【0048】
グラフの横軸は、プレティルト角を単位「°(度)」で表し、縦軸は、光透過率を単位「%」で表す。
【0049】
曲線c1は、電圧無印加時、0°方位から観察した場合のプレティルト角と光透過率との関係を示す。曲線c2は、電圧無印加時、180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。そして曲線d1及び曲線d2は、しきい電圧近傍の電圧を印加した場合に、それぞれ0°方位、及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0050】
曲線c1及び曲線c2を参照する。プレティルト角が90°の場合は、0°方位から観察したときと180°方位から観察したときとで、光透過率に差はない。しかし、プレティルト角が小さくなるにしたがって、0°方位においては光透過率が直線的に増加し、180°方位においては光透過率が直線的に減少する。この結果、プレティルト角が小さいほど、0°方位と180°方位とで光透過率の差が大きくなる。
【0051】
曲線d1及び曲線d2を参照する。しきい電圧近傍の電圧を印加した場合においても、プレティルト角が90°の場合は、0°方位から観察したときと180°方位から観察したときとで、光透過率は等しい。かつ、その光透過率は、電圧無印加時に、0°方位及び180°方位から観察した値とも等しい。しかし、プレティルト角が小さくなるにしたがって、0°方位においては光透過率が直線的に増加し、180°方位においては光透過率が直線的に減少する。増加率及び減少率は、それぞれ電圧無印加時のそれらよりも大きい。この結果、極角方位が傾くほど、0°方位と180°方位とで光透過率の差が大きくなり、かつ、その差は、電圧無印加時の差よりも大きくなる。
【0052】
このようなシミュレーションの結果は、LCDを外観観察した結果と一致する。
【0053】
なお、図1に示すグラフにおいて、0°方位から観察した場合の光透過率が、180°方位から観察した場合の光透過率よりも大きいのは、一軸プレティルト配向であるためと同時に、視角補償板が液晶セル上下側で非対称に配置されているためである。液晶セル上下側で全く同じ特性をもつ視角補償板を配置すれば、液晶層内のプレティルト角に依存せず、0°、180°方位で、等しい光透過率とすることが可能であるが、使用する光学フィルム枚数が多くなるため、コスト的には不利となる。また、上下偏光板透過軸方位を変更すること、または、Cプレートをセルの下側から上側に移動することにより、180°方位の透過率を0°方位と反転させることができる。
【0054】
続いて本願発明者は、上述のシミュレーション対象において、Cプレートを二軸フィルムに置換したLCD、すなわち図7に示したモノドメインプレティルト垂直配向型LCDにおいて、下側基板と下側偏光板との間に、視角補償板として、二軸フィルムが挿入された構成のLCDを新たなシミュレーション対象として、電圧無印加時の二軸フィルムの面内方向リタデーションと最小光透過率との関係を調べた。
【0055】
新たなシミュレーション対象としたLCDは、Cプレートを二軸フィルムに置換したほか、液晶層のリタデーションΔndを約0.38μmとした点において、上述のシミュレーション対象と異なる。二軸フィルムの厚さ方向リタデーションRthは250nmとし、面内遅相軸は、135°−315°方位に配置した。
【0056】
また、観察方位は、上述のシミュレーションの場合と同じく、0°方位、及び180°方位とし、観察極角は50°とした。
【0057】
図2は、シミュレーションの結果を示すグラフである。
【0058】
グラフの横軸は、二軸フィルムの面内方向リタデーションReを単位「nm」で表し、縦軸は、光透過率を単位「%」で表す。
【0059】
曲線e1は、プレティルト角を90°としたとき、0°方位から観察した場合の面内方向リタデーションReと最小光透過率との関係を示す。曲線e2は、プレティルト角を90°としたとき、180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。なお、曲線e1と曲線e2とは、一致し、重なって描かれている。
【0060】
曲線f1及び曲線f2は、プレティルト角を89°としたとき、それぞれ0°方位及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0061】
曲線g1及び曲線g2は、プレティルト角を88°としたとき、それぞれ0°方位及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0062】
曲線h1及び曲線h2は、プレティルト角を85°としたとき、それぞれ0°方位及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0063】
曲線e1及びe2、曲線f1及びf2、曲線g1及びg2、そして曲線h1及びh2を、それぞれ一組として参照しつつ、それらの組を相互に比較する。プレティルト角が90°であるとき、0°方位から観察した場合も、180°方位から観察した場合も、光透過率のRe依存性は全く等しい。しかし、90°以外のプレティルト角においては、0°方位から観察された光透過率のRe依存性と、180°方位から観察されたそれとは異なる。また、プレティルト角が小さくなるにしたがって、同じReにおける両方位の光透過率の差が大きくなる傾向が見られる。
【0064】
また、前記4つの曲線の組に含まれる一方の曲線は、それぞれ同じ組に含まれる他方の曲線と、Reが50nm前後で交差している。そして、この交点においては、0°方位と180°方位の双方から、等しい光透過率で表示が観察される。
【0065】
曲線e1とe2との交点、曲線f1とf2との交点、曲線g1とg2との交点、及び、曲線h1とh2との交点を見ると、プレティルト角が小さくなるにつれて、交点(左右から観察した光透過率が等しい点)における光透過率は大きくなっていることがわかる。本願発明者の研究の結果、この傾向は、二軸フィルムに代えてAプレートとCプレートとを組み合わせて使用したLCDにおいても同様に認められた。なお、このようなシミュレーションの結果は、LCDを外観観察した結果と一致する。
【0066】
図7に示したモノドメインプレティルト垂直配向型LCDにおいて、下側基板と下側偏光板との間に、視角補償板としてCプレートが挿入されたLCDにおいて、液晶層のリタデーションΔndが変化した場合の0°、180°方位、極角50°における電圧無印加時透過率をシミュレートした。なお、Cプレートの厚さ方向リタデーションRthは、Rth=Δnd−140nmで調整した。また、上下基板上におけるプレティルト角は89°に固定した。
【0067】
結果を図11に示す。リタデーションΔndが大きくなるにしたがって、0°方位の透過率は上昇、180°方位の透過率は低下し、その差は大きくなっていくことがわかる。
【0068】
Δndが0.58μm以上では、0°と180°方位の透過率差が2倍以上になることがわかる。すなわち、リタデーションΔndが大きくなるほど、0°と180°方位の透過率差が、外観からも明らかに異なることがわかる。特に、Δnd≧0.58μmでは顕著である。なお、この現象は、プレティルト角が90°であるときは、全く現れない。逆に、プレティルト角が小さくなると、より顕著な効果として観察されることになる。また、この現象は、視角補償板として二軸フィルムや、AプレートとCプレートを同時に用いた場合でも、同様に見られるものである。
【0069】
一方、本願発明者らは、特願2004−267160号において、図7に示したような、基板表面に配向処理を施したモノドメインプレティルト垂直配向型LCDにあっては、液晶層厚さ方向の中央に位置する液晶分子のプレティルト角が90°〜89.5°であるときは、均一なモノドメイン配向が得られず、電圧印加時の光透過率を低下させる場合があり、したがって、一方の基板、または双方の基板に配向処理を施したモノドメインプレティルト垂直配向型LCDにおいては、液晶層中央部のプレティルト角を89.5°以下に設定することが好ましい、という点を指摘している。また、プレティルト角を90°に近く設定することは、配向処理の方法や配向膜材料が限定される可能性があり、LCD製造時のマージンを狭めるという点において、好ましいとはいえない。
【0070】
特願2004−267160号における指摘と、前述のシミュレーション結果とを合わせて考えると、高コントラストで光透過率が左右対称であるLCDを低コストで作製するのは困難であるとも考えられる。
【0071】
【特許文献1】特許2507122号公報
【特許文献2】特許2947350号公報
【特許文献3】特開平11−160707号公報
【特許文献4】特開平11−160706号公報
【特許文献5】特許2872628号公報
【特許文献6】特開平11−258605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0072】
本発明の目的は、表示品質の良好な液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0073】
本発明の一観点によれば、電極を備え、88.5°以上89.5°以下のプレティルト角を付与する配向処理の施された第1の基板と、前記第1の基板と略平行に対向配置され、電極を備え、88.5°以上89.5°以下のプレティルト角を付与する配向処理の施された第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に挟持され、前記第1及び第2の基板に施された配向処理にしたがって、電圧無印加時には、前記第1及び第2の基板にほぼ垂直に配向し、電圧印加時には、160°以上240°以下のねじれ角でねじれ構造を形成する液晶分子材料を含む、厚さがdの液晶層であって、カイラルピッチがpのカイラル材を含んで構成され、d/pが0.2以上0.74以下である液晶層と、前記第1の基板の前記液晶層とは反対側の面に向き合うように配置され、透過軸の方向が第1の方向である第1の偏光板と、前記第2の基板の前記液晶層とは反対側の面に向き合うように配置され、かつ、前記第1及び第2の基板の法線方向から見たとき、透過軸の方向が、前記第1の方向と85°以上95°以下の角度をなす第2の方向である第2の偏光板と、前記第1の基板と前記第1の偏光板との間、前記第2の基板と前記第2の偏光板との間の少なくとも一方に、前記第1及び第2の偏光板と面内方向が相互に略平行となるように配置された光学異方性板とを有する液晶表示素子が提供される。
【発明の効果】
【0074】
本発明によれば、表示品質の良好な液晶表示素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
本願発明者は、電圧無印加時、またはしきい電圧付近の電圧を印加した場合であっても、対称的な視角特性を有するLCDの実現に向け、鋭意研究した。
【0076】
本願発明者は、まず、液晶分子のツイスト角と光透過率との関係をシミュレートした。
【0077】
図3は、シミュレーションの対象としたLCDの概略的な内部構成例を示す分解斜視図である。シミュレーションの対象は、図7に示したモノドメインプレティルト垂直配向型LCDにおいて、下側基板と下側偏光板との間に、視角補償板45としてCプレートが挿入された構成のLCDとした。これは、図1に示す結果を得るにあたって、シミュレーション対象とした構成のLCDでもある。
【0078】
上側及び下側偏光板、それらの透過軸の配置、Cプレートを形成する材料、その厚さ方向リタデーションRth、液晶層のリタデーションΔnd、及び、液晶材料の誘電率異方性Δεの値は、すべて図1に示す結果を得るにあたりシミュレーション対象としたLCDと同一に設定した。
【0079】
液晶分子のツイスト角は、上側及び下側基板の配向方向(ラビング方向)を変えることによって変化させた。上側及び下側基板の配向方向は、液晶層の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の配向方向が270°方位となるように定めた。このため、たとえば180°のツイスト角は、上側及び下側基板の配向方位をともに0°(パラレル配向)とすることで実現する。なお、ツイスト方向は左ねじれとした。
【0080】
また、45°以上のツイスト角を実現する際には、液晶層厚dとカイラルピッチpとの比、d/pが0.25となるように、液晶材料に左ねじれカイラル材を加えるものとした。更に、プレティルト角は、上下基板とも89°に設定した。
【0081】
本願発明者は、上述のシミュレーション対象について、電圧無印加の場合、及び、しきい電圧付近の電圧を印加した場合における、光透過率のツイスト角依存性をシミュレートした。観察方位は、0°方位、及び180°方位とし、観察極角は50°とした。
【0082】
図4は、シミュレーションの結果を示すグラフである。
【0083】
グラフの横軸は、ツイスト角を単位「°(度)」で表し、縦軸は、光透過率を単位「%」で表す。
【0084】
曲線i1は、電圧無印加時、0°方位から観察した場合のツイスト角と光透過率との関係を示す。曲線i2は、電圧無印加時、180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。そして曲線j1及び曲線j2は、しきい電圧近傍の電圧を印加した場合に、それぞれ0°方位、及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0085】
曲線i1及び曲線i2を参照する。電圧無印加時においては、ツイスト角にかかわらず、左右(180°−0°方位)の光透過率に大きな差はなく、かつ光透過率のツイスト角依存性は顕著ではない。ただ、左右の光透過率の差は、ツイスト角が0°から大きくなるにつれて小さくなり、約210°のツイスト角で0となる。それを超えると、0°方位と180°方位とで光透過率の大小が逆転して、ツイスト角の増加とともに、光透過率の差は再び大きくなっていく。
【0086】
曲線j1及び曲線j2を参照する。しきい電圧近傍の電圧を印加した場合においては、左右(180°−0°方位)の光透過率に大きな差が存し、かつ光透過率のツイスト角依存性が顕著である。
【0087】
ツイスト角が0°〜90°程度では、左右方位とも光透過率がほぼ一定であり、したがって左右方位の光透過率の差もほぼ一定である。
【0088】
ツイスト角が90°を超える範囲では、ツイスト角が大きくなるにしたがって、0°方位から観察した場合の光透過率と、180°方位から観察した場合の光透過率との差は小さくなる。
【0089】
ツイスト角が160°以上のとき、左右の光透過率の差は、ツイスト構造がないとき(ツイスト角が0°のとき)の左右の光透過率の差の約1/2以下である。
【0090】
また、ツイスト角が180°以上のとき、左右の光透過率の差は、ツイスト構造がないとき(ツイスト角が0°のとき)の左右の光透過率の差の約1/3以下である。
【0091】
更に、ツイスト角が約210°のとき、左右の光透過率の差は0となる。
【0092】
それを超えると、0°方位と180°方位とで光透過率の大小が逆転して、ツイスト角の増加とともに、光透過率の差は再び大きくなっていく。
【0093】
再び左右の光透過率の差が、ツイスト構造がないとき(ツイスト角が0°のとき)の左右の光透過率の差の約1/3となるのは、約240°である。
【0094】
図10に示されるように、ツイスト角が0°においては、液晶層のリタデーションΔndが大きくなるにしたがって、0°、180°方位(右、左方位)の光透過率差は大きくなる。そこで本願発明者らは、図4に示した0°、180°方位の光透過率のツイスト角依存性が、Δndが大きくなった場合にどうなるのかをシミュレートした。シミュレーションにあたっては、Δndを825nmとし、Cプレートの厚さ方向リタデーションRthをΔnd−140nmで定めた。
【0095】
計算結果を図12に示す。図4に示したΔndが約0.36μmの場合とほぼ等しい傾向が得られている。0°〜90°の範囲のツイスト角では、極角50°における光透過率にほとんど変化はなく、それ以上のツイスト角で大きく変化している。約210°のツイスト角で、0°、180°方位の光透過率差が0となる。
【0096】
ツイスト角が約160°以上のとき、左右の光透過率差がツイスト角0°時の1/2以下となる。また、約180°以上240°以下の範囲のツイスト角で、左右の光透過率差がツイスト角0°時の1/3以下となる。したがって、ツイスト角は、Δndに関係なく、160°以上、特に180°以上240°以下とすることが好ましい。
【0097】
本願発明者は、シミュレーションにより得られた好ましいツイスト角の範囲で、LCDを試作し、表示状態を確認することにした。試作品は、ツイスト角を、好ましい範囲の下限値と上限値である、180°と240°として、それぞれ作製することにした。
【0098】
試作品においては、垂直配向を誘起する有機配向膜材料を用い、ラビングにより約88.5°の均一なプレティルト角を付与する配向処理を行った。なお、d/p=0.25として試作した。
【0099】
ツイスト角を180°とした試作品は、良好な表示品質を示し、ツイスト構造をもたない(ツイスト角が0°の)LCDと比較したとき、表示の左右対称性が改善されたことが確認された。
【0100】
ツイスト角を240°としようとした試作品は、意図したツイスト角に設定することができず、表示の左右対称性を改善することができなかった。この試作品は、電気光学特性などを解析した結果、ツイスト方向が逆の60°ねじれであることが判明した。
【0101】
本願発明者は、この240°ツイスト試作品において、0.25と定めたd/pを変化させて表示状態を観察した。その結果、d/pが、0.4以上0.74以下であったとき、良好な表示品質が得られた。また、d/pを小さくした場合、ラビング筋などの配向不良が観察されやすくなることがわかった。
【0102】
なお、本願発明者が、ツイスト角を180°とした試作品において、d/pを変化させて表示状態を観察したところ、d/pが、0.15以下の場合に、筋状の配向欠陥が認められた。
【0103】
ツイスト角が180°以上240°以下である場合、d/pは0.2以上0.74以下であることが望ましいと考えられる。
【0104】
続いて、本願発明者は、ツイスト角を180°、d/pを0.25とした前記試作品と同構造のLCDをシミュレーション対象として、プレティルト角をパラメータとして、電圧無印加、及び、しきい電圧付近の電圧を印加するという条件のもとで、光透過率をシミュレートした。観察方位は、0°方位、及び180°方位とし、観察極角は50°とした。
【0105】
図5は、シミュレーションの結果を示すグラフである。
【0106】
グラフの横軸は、プレティルト角を単位「°(度)」で表し、縦軸は、光透過率を単位「%」で表す。
【0107】
曲線k1は、電圧無印加時、0°方位から観察した場合のプレティルト角と光透過率との関係を示す。曲線k2は、電圧無印加時、180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。そして曲線l1及び曲線l2は、しきい電圧近傍の電圧を印加した場合に、それぞれ0°方位、及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0108】
図5に示したグラフを、図1に示したグラフと比較する。
【0109】
曲線k1に示される増加率(プレティルト角の単位増加量に対する光透過率の増加量)は、シミュレートしたすべてのプレティルト角において、図1中の曲線c1に示される増加率の約1/3以下である。
【0110】
また曲線k2に示される減少率(プレティルト角の単位増加量に対する光透過率の減少量)は、シミュレートしたすべてのプレティルト角において、図1中の曲線c2に示される減少率の約1/3以下である。
【0111】
更に、曲線l1に示される増加率は、シミュレートしたすべてのプレティルト角において、図1中の曲線d1に示される増加率の約1/3以下である。
【0112】
また、曲線l2に示される減少率は、シミュレートしたすべてのプレティルト角において、図1中の曲線d2に示される減少率の約1/3以下である。
【0113】
したがって、ツイスト角180°、d/p=0.25という条件のもとでは、左右の光透過率の差は、シミュレートしたすべてのプレティルト角について、ツイスト構造がない(ツイスト角が0°の)場合の約1/3以下となっていることがわかる。
【0114】
本願発明者は、表示品質のプレティルト角依存性を実際のLCDで確認するため、ツイスト角180°、d/p=0.25という条件下で、プレティルト角が約89.8°、約89°、及び約88.5°である3台のLCDを試作し、それらの表示を比較した。試作した3台のLCDには、同一の配向膜材料を用いた。プレティルト角の付与にあたっては、ラビング処理時の基板とラビング布との間のクリアランスで、各LCDにプレティルト角の差異を設けた。
【0115】
3台の試作品を観察した結果、プレティルト角が約89.8°のLCDだけが、表示品質が良好とはいえなかった。同試作品については、また、電圧印加時の液晶分子の配向安定に時間を要した。液晶層の応答の高速性が実現されていない点が、良好とはいえない表示品質の原因であろう。
【0116】
試作品の観察結果より、プレティルト角は89.5°以下とすることが好ましいと考えられる。
【0117】
また、プレティルト角は、88°以上とすることが好ましく、88.5°以上とすることがより好ましい。これは、正面観察時における良好なコントラストを実現するため、及び、単純マトリクス駆動における良好な表示品位を得るためである。
【0118】
なお、本願発明者は、視角補償板としてCプレートを用いたLCDにおいては、上側及び下側偏光板を厳密にクロスニコル(直交ニコル)に配置した場合だけでなく、クロスニコル状態から、たとえば−5°〜+5°ずらして配置した場合(すなわち、基板の法線方向から見たとき、上側偏光板の透過軸と下側偏光板の透過軸とのなす角が85°〜95°の場合)であっても、同様の効果が得られることを確認した。
【0119】
また、面内方向リタデーションReが、Cプレートを用いるときの厚さ方向リタデーションRthの2倍の値をもつ2枚のAプレートを、遅相軸が相互に直交するように、かつ、各々のAプレートの遅相軸の方向が、液晶層の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の配向方向と平行な方向、または直交する方向となるように貼り合わせ、これをCプレートの代わりに用いれば、左右方位(180°−0°方位)に関しては、Cプレートを用いた場合と同様の効果が得られることも確認した。この場合において、上側及び下側偏光板を、クロスニコル状態から、−5°〜+5°ずらして配置しても効果は認められた。
【0120】
更に、本願発明者は、図3に示したLCDにおいて、視角補償板に二軸フィルム(負の二軸光学異方性を有する光学フィルム)を用いた構成を対象として、シミュレーションを行い、電圧無印加時の二軸フィルムの面内方向リタデーションReと光透過率との関係を調べた。
【0121】
このシミュレーション対象においては、液晶層の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の配向方位を270°方位とした。また、上側及び下側基板面におけるラビング方向をともに0°方位とし、ツイスト角が180°の左ねじれ液晶層を想定した。d/pは0.25とした。液晶層のリタデーションΔnd、二軸フィルムの厚さ方向リタデーションRth、二軸フィルムの面内遅相軸の方位、上側及び下側偏光板の透過軸方位等は、図2に示す結果を得るために用いたLCDと同一とした。
【0122】
観察方位は、0°方位、及び180°方位とし、観察極角は50°とした。
【0123】
図6は、シミュレーションの結果を示すグラフである。
【0124】
グラフの横軸は、二軸フィルムの面内方向リタデーションReを単位「nm」で表し、縦軸は、光透過率を単位「%」で表す。
【0125】
曲線v1は、プレティルト角を90°としたとき、0°方位から観察した場合の面内方向リタデーションReと光透過率との関係を示す。曲線v2は、プレティルト角を90°としたとき、180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。なお、曲線v1と曲線v2とは、一致し、重なって描かれている。
【0126】
曲線w1及び曲線w2は、プレティルト角を89°としたとき、それぞれ0°方位及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0127】
曲線x1及び曲線x2は、プレティルト角を88°としたとき、それぞれ0°方位及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0128】
曲線y1及び曲線y2は、プレティルト角を85°としたとき、それぞれ0°方位及び180°方位から観察した場合の両者の関係を示す。
【0129】
v1〜y2までの8本の曲線は、すべて近接している。これは、二軸フィルムの面内方向リタデーションReと光透過率との関係の、視角方位(0°−180°方位)依存性、及び、プレティルト角依存性が小さいことを意味する。また、シミュレートしたすべてのプレティルト角について、Reが約50nmのとき、光透過率が最小となり、良好な黒レベルで表示が行われることがわかる。
【0130】
なお、本願発明者は、これらと同様の結果が、二軸フィルムの光学特性を、Aプレート(Reを約80nmとした。)とCプレートの組み合わせで実現した場合においても得られることを確認した。
【0131】
組み合わせは、(i)AプレートとCプレートをともに、上側基板と上側偏光板との間、または/及び、下側基板と下側偏光板との間に配置する、(ii)AプレートとCプレートのうち一方を、上側基板と上側偏光板との間に配置し、他方を下側基板と下側偏光板との間に配置する、(iii)二軸フィルムとCプレートをとも上側基板と上側偏光板との間、または/及び、下側基板と下側偏光板との間に配置する、(iV)二軸フィルムとCプレートのうち一方を、上側基板と上側偏光板との間に配置し、他方を下側基板と下側偏光板との間に配置する、という態様で行うことができる。
【0132】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0133】
たとえば、実施例においては、Cプレートを下側基板と下側偏光板との間に配置したが、上側基板と上側偏光板との間に配置してもよい。
【0134】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0135】
単純マトリクスであるかアクティブマトリクスであるかを問わず、垂直配向型LCDに利用することができる。
【0136】
また、たとえば左右の表示品質を揃えることができるため、車載用ディスプレイや、携帯情報端末用ディスプレイに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図2】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図3】シミュレーションの対象としたLCDの概略的な内部構成例を示す分解斜視図である。
【図4】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図5】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図6】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図7】モノドメインプレティルト垂直配向型LCDを示す概略的な分解斜視図である。
【図8】視角補償板を含むモノドメインプレティルト垂直配向型LCDを示す概略的な分解斜視図である。
【図9】視角補償板を使用する場合(図8に示す垂直配向型LCD)と、使用しない場合(図7に示す垂直配向型LCD)の光透過率の極角観察角度依存性を示すグラフである。
【図10】(A)〜(E)は、LCDの概略的な分解斜視図である。
【図11】リタデーションと光透過率との関係を示すグラフである。
【図12】ツイスト角と、極角50°における光透過率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0138】
31 上側基板
32 下側基板
33 上側透明基板
34 下側透明基板
35 上側透明電極
36 下側透明電極
37 上側垂直配向膜
38 下側垂直配向膜
39 液晶層
39a 液晶分子
41 上側偏光板
42 下側偏光板
43 電圧印加手段
45 視角補償板
46 Cプレート
47 Aプレート
48 二軸フィルム
θ プレティルト角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を備え、88.5°以上89.5°以下のプレティルト角を付与する配向処理の施された第1の基板と、
前記第1の基板と略平行に対向配置され、電極を備え、88.5°以上89.5°以下のプレティルト角を付与する配向処理の施された第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に挟持され、前記第1及び第2の基板に施された配向処理にしたがって、電圧無印加時には、前記第1及び第2の基板にほぼ垂直に配向し、電圧印加時には、160°以上240°以下のねじれ角でねじれ構造を形成する液晶分子材料を含む、厚さがdの液晶層であって、カイラルピッチがpのカイラル材を含んで構成され、d/pが0.2以上0.74以下である液晶層と、
前記第1の基板の前記液晶層とは反対側の面に向き合うように配置され、透過軸の方向が第1の方向である第1の偏光板と、
前記第2の基板の前記液晶層とは反対側の面に向き合うように配置され、かつ、前記第1及び第2の基板の法線方向から見たとき、透過軸の方向が、前記第1の方向と85°以上95°以下の角度をなす第2の方向である第2の偏光板と、
前記第1の基板と前記第1の偏光板との間、前記第2の基板と前記第2の偏光板との間の少なくとも一方に、前記第1及び第2の偏光板と面内方向が相互に略平行となるように配置された光学異方性板と
を有する液晶表示素子。
【請求項2】
前記液晶分子材料の複屈折率をΔnとするとき、Δnと前記液晶層の厚さdとの積である、リタデーションΔn・dが580nm以上である請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記光学異方性板は負の一軸光学異方性を有し、前記光学異方性板が、前記第1の基板と前記第1の偏光板との間、または、前記第2の基板と前記第2の偏光板との間のどちらか一方に配置される請求項1または2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記光学異方性板が、遅相軸が相互に直交するように配置された2枚の正の一軸光学異方性板を含んで構成され、前記光学異方性板は、前記第1の基板と前記第1の偏光板との間、または、前記第2の基板と前記第2の偏光板との間のどちらか一方に配置される請求項1または2に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記光学異方性板は負の二軸光学異方性を有し、前記光学異方性板が、前記第1の基板と前記第1の偏光板との間、または、前記第2の基板と前記第2の偏光板との間のどちらか一方に配置される請求項1または2に記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記光学異方性板が、正の一軸光学異方性を有する光学異方性板と、負の一軸光学異方性を有する光学異方性板とを含んで構成され、前記光学異方性板は、前記第1の基板と前記第1の偏光板との間、または、前記第2の基板と前記第2の偏光板との間のどちらか一方に配置される請求項1または2に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記光学異方性板が、負の二軸光学異方性を有する光学異方性板と、負の一軸光学異方性を有する光学異方性板とを含んで構成され、前記光学異方性板は、前記第1の基板と前記第1の偏光板との間、または、前記第2の基板と前記第2の偏光板との間のどちらか一方に配置される請求項1または2に記載の液晶表示素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−264461(P2007−264461A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91816(P2006−91816)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】