説明

液晶表示装置およびそれに用いられる光学フィルム

【課題】本発明の目的は、表示品位に優れるIPSモードの液晶表示装置を提供することにある。
【解決手段】第1の偏光層、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1の光学フィルム、液晶セル、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第2の光学フィルム、第2の偏光層の順でこれらが積層されてなるノーマリブラックモードのインプレーンスイッチングモードの液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は視野角特性に優れた液晶表示装置、およびそれに好適な光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の性能は向上し、特に垂直配向モードとインプレーンスイッチング(以下IPSと称する)モードは性能に優れているため、これらを用いた液晶テレビは従来のブラウン管テレビに置き換わる可能性を秘めている。光学的異方性を有する光学フィルムである位相差フィルムは、これらの液晶表示装置の性能向上、特に視野角拡大に対して重要な役割を演じている。IPSモードは、従来から視野角拡大のための位相差フィルムを使用しなくても視野角が広いことが1つの特長であったものの、昨今の位相差フィルムを用いた光学設計技術に基づいた広視野角化技術の進歩により、他のモードとの差別化が困難になってきている。そのような背景の中で、IPSモードにおいてもより一層の視野角拡大を目指した、位相差フィルムを用いた光学設計技術の開発の必要性が高まっている。例えば、2軸性の位相差フィルムを用いて光学補償を行う方式が非特許文献1に記載されている。
【0003】
また、正の1軸性のAプレートと正の1軸性のCプレートを組み合わせることによる下記の非特許文献2に記載の偏光板の視野角拡大技術を、IPSの視野角拡大に用いることも知られている。
【0004】
【非特許文献1】Yukita Saitoh, Shinichi Kimura, Kaoru Kusafuka, Hidehisa Shimizu著、Japanese Journal of Applied Physics 37巻 1998年 4822〜4828頁
【非特許文献2】J. Chen, K. -H. Kim, J.-J. Jyu, J. H. Souk, J. R. Kelly, P. J. Bos著Society for Information Display ’98 Digest, 1998年 315頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1および2の技術を検討した結果、これらの方法をIPSモードの液晶表示装置の視野角拡大に利用した場合、黒表示のカラーシフトが1つの問題であることがわかった。ここでいう黒表示のカラーシフトとは、黒表示時の液晶表示装置を法線方向ではなく、斜め方向から観察した場合に、方位角によって黒の色調が変化することを意味する。本発明ではこの問題を、斜め入射時におけるカラーシフトの方位角依存性問題と呼ぶ。わかり易く言えば、斜め方向から液晶表示装置を観察した場合に、見る方向によって、例えば赤味の強い黒色から青味の強い黒色に変化するような状態を指すものとする。また、一般に黒表示におい上記カラーシフトを生じるものは、中間調表示でもカラーシフト問題を引き起こす。ここで、方位角とは液晶表示装置表面内において設定される角度である。一方、極角は液晶表示装置の表面の法線を0°として設定される角度であり、したがって、入射角は極角と方位角で定義される。
【0006】
ノーマリブラックモードのインプレーンスイッチングモードにおける液晶セルの位相差値は、視野角だけではなく透過率や応答速度等も勘案して設計されるため、最適な位相差値は必ずしも2分の1波長とはならない。ここで液晶セルの位相差値とは液晶を含んだ液晶セルの位相差値のことである。したがって、ノーマリブラックモードのインプレーンスイッチングモードにおける液晶表示装置の視野角は、主として位相差フィルムと液晶セルとの光学異方性により決定される。上記非特許文献1では2軸性光学フィルムを用いるが、液晶セルの位相差値と2軸性光学フィルムの位相差値の関係が開示されていない。同様に、非特許文献2においても、液晶セルと位相差フィルムの関係が開示されていない。したがって、液晶セルの位相差値が変化した場合に視野角を拡大できない場合が存在する。
【0007】
さらに、上記非特許文献1で用いられる2軸性光学フィルムは、製法が複雑であるために、光学軸精度や位相差精度を大面積で得ることが難しいといった問題点を有している。その結果、これらを液晶表示装置に用いた場合には、表示ムラ等の欠陥が生じ易く、表示品位を高めることが難しいといった問題もある。
【0008】
本発明の目的は、表示品位に優れるIPSモードの液晶表示装置を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、IPS液晶セルの位相差値が変化しても広視野角かつ上記カラーシフト問題を解決した表示品位に優れる液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムは、例えば、分子分極率異方性が負の高分子材料をフィルム化し、通常の1軸延伸工程により得ることが可能であり、フィルム製造工程が非常に簡便であり、液晶テレビ等に要求される光学異方性の均一性に優れる。また、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい光学フィルムは、例えば、分子分極率異方性が正の高分子材料をフィルム化し、溶液キャストであれば製膜時の乾燥収縮応力により、あるいは、通常の2軸延伸工程等により得ることが可能であり、フィルム製造工程が簡便である。
【0010】
これらの光学フィルムを用いて光学設計を行い、IPSモード液晶表示装置の視野角拡大の方式について鋭意検討したところ、液晶セルの位相差値が設計の都合により変化しても、広視野角かつ斜め入射時におけるカラーシフトの方位角依存性を抑制したIPSモードの液晶表示装置が実現できることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は以下の通りのものである。
〔1〕第1の偏光層、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1の光学フィルム、液晶セル、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第2の光学フィルム、第2の偏光層の順でこれらが積層されてなるノーマリブラックモードのインプレーンスイッチングモードの液晶表示装置であって、第1の偏光層の吸収軸と黒状態における液晶セルの面内遅相軸とのなす角が略0°、黒状態における液晶セルの面内遅相軸と面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの遅相軸とのなす角が略0°、かつ面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの遅相軸と第2の偏光層の吸収軸とのなす角が略90°である液晶表示装置。
〔2〕面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、黒状態における液晶セルの面内位相差値をそれぞれΓ1、ΓLCとし、そして、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1および第2の光学フィルムの厚さ方向の位相差値をそれぞれ、Rth、Rthとした場合、下記式(1)〜(3)の関係を満足することを特徴とする上記の液晶表示装置。
150<ΓLC<300nm (1)
20<Rth<110nm (2)
20<Rth<110nm (3)
〔3〕上記の液晶表示装置に用いられることを特徴とする面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム。
〔4〕フルオレン骨格を有するポリカーボネートからなることを特徴とする上記の面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム。
〔5〕上記の面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムと偏光層が一体となった積層偏光板。
【0012】
本発明では屈折率の異方性を有する光学的異方性フィルムのことを、位相差フィルムまたは光学フィルムと称している。1軸性光学フィルム、2軸性光学フィルムはその3次元屈折率によりそれぞれ分類されるが、これらも位相差フィルムの範疇である。位相差フィルムは屈折率楕円体で表現されるものとし、3つの主屈折率の方位はフィルム面内に平行か垂直である場合のみをここでは考えている。ここでは図3のように座標軸がフィルムの表面に平行または直交である直交座標系を考え、その座標の方位に対応した3つの屈折率をn、n、nと定義する。面内における遅相軸方位をx軸と設定すると、y軸は面内にz軸は厚さ方向と設定される。したがって、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムは、3つの屈折率を用いて、n≒n>nとなり、nがフィルム面内における遅相軸となる。一方、厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい光学フィルムは、n>n>nと定義される。2軸性光学フィルムは3つとも屈折率が異なる状態と定義される。先述した正の1軸性のAプレートとは、面内に光学軸を有する正の1軸性媒質(フィルムの場合は1軸性光学フィルム)のことであり、この定義ではn>n=nとなる。一方、正の1軸性のCプレートとは、厚さ方向に光学軸を有する正の1軸性媒質(フィルムの場合は1軸性光学フィルム)のことであり、この定義ではn=n>nとなる。
【0013】
また、本発明における面内の位相差値Γは、下記式(4)または(5)で定義されるものとする。
≧nの光学的異方性媒質の場合には
Γ(λ)=(n−n)×d (4)
<nの光学的異方性媒質の場合には
Γ(λ)=(n−n)×d (5)
ここでdはフィルムの厚さ(nm)である。
【0014】
本発明における面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムは、厳密にはn=n>nの関係を満足するものが好ましいが、n≒n>nであれば現実的には問題なく使用できる。また、実際の位相差フィルムには屈折率のばらつきもあるので、この3つの屈折率を用いた下記式(6)を用いて負の略1軸性という用語の範囲を定義する。
Nz=(n−n)/(n−n) (6)
【0015】
本発明における面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムとは
−0.4<Nz<0.1 (7)
であると定義され、好ましくは、
−0.35<Nz<0.05 (8)
であり、より好ましくは
−0.20<Nz<0.03 (9)
さらに好ましくは、
−0.10<Nz<0.02 (10)
である。また、Rthは下記のように定義される。
Rth={(n+n)/2−n}×d (11)
上記式(11)でd(nm)はフィルムの厚さである。本発明で位相差値ΓやRth,Nz値は特に断りがない限り、550nmの波長で測定したものとする。
【0016】
また、本発明において用いられる、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1および第2の光学フィルムにおける面内位相差値ΓC1、ΓC2は小さい方が好ましく0であることが最も好ましいが、50nm以下であれば好都合である。好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。面内の位相差値が完全に0となれば、これらの第1及び第2の光学フィルムは完全な厚さ方向に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムとなる。面内の位相差値が大きく、面内の遅相軸方位が無視できない場合には、この遅相軸は偏光層の吸収軸に対して、直交または平行に配置される。好ましくは隣接している偏光層の吸収軸と平行であることが好ましい。
【0017】
本発明における黒状態および黒表示とは、階調表示において最も暗い状態であり、具体的には、液晶表示装置の表面の法線方向から光を入射して測定した透過率が最も低くなる状態と定義する。
【0018】
光学的異方性媒質間の光学軸の合わせ角度の前記した角度であることが必要だが、許容範囲は、上記設定角度を中心として、±3°以内であり、好ましくは±2°以内、より好ましくは±1°以内、さらに好ましくは±0.5°以内である。すなわち、前記の略90°という表現は、90°±3°と定義される。
【0019】
一般にノーマリブラックモードのインプレーンスイッチングモードの液晶表示装置における液晶セルの位相差は通常、2分の1波長程度以上のものが使用され、それらは、輝度や応答速度等も勘案して決定される。本発明の液晶表示装置は、上記式(1)で示したように面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムと正の1軸性媒質である液晶セルの位相差値の組み合わせによる位相差値の最適範囲が見出されたことにより、光学設計の見通しが立て易く、設計の都合により液晶セルの位相差が変化しても、上記式(1)〜(3)を満足すれば広視野角の液晶表示装置を得ることが可能であるという点も他の方法には無い優れた点である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムと、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1及び第2の光学フィルムを用いて新たに光学設計された液晶表示装置は、電圧非印加時(すなわち黒表示)の液晶セルの位相差値が他の特性との兼ね合いで設計の都合により変化しても広視野角化の設計が容易であり、広視野角でかつ斜め入射時におけるカラーシフトの方位角依存性が小さいといった優れた性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
前記発明の効果を得るためには、第1の偏光層、厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい第1の光学フィルム、液晶セル、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい第2の光学フィルム、第2の偏光層の順でこれらが積層されてなるノーマリブラックモードのインプレーンスイッチングモードの液晶表示装置であって、第1の偏光層の吸収軸と黒状態における液晶セルの面内遅相軸とのなす角が略0°、黒状態における液晶セルの面内遅相軸と面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの遅相軸とのなす角が略0°、かつ面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの遅相軸と第2の偏光層の吸収軸とのなす角が略90°であるが、さらには
面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、黒状態における液晶セルの面内位相差値をそれぞれΓ1、ΓLCとし、そして、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1及び第2の光学フィルムの厚さ方向の位相差値をそれぞれ、Rth、Rthとした場合、下記式(1)〜(3)の関係を満足する液晶表示装置であることが好ましい。
150<ΓLC<300nm (1)
20<Rth<100nm (2)
20<Rth<100nm (3)
【0022】
上記範囲はより好ましくは、
170<ΓLC<290nm (12)
30<Rth<80nm (13)
30<Rth<80nm (14)
さらに好ましくは、
200<ΓLC<270nm (15)
35<Rth<60nm (16)
35<Rth<60nm (17)
である。
【0023】
厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1または第2の光学フィルムの面内に位相差がある場合には、その遅相軸は隣接する偏光層の吸収軸と略平行または略直交であることが好ましいが、略平行であることがより好ましい。
【0024】
上記負の略1軸性光学フィルムは、それぞれ、必要な特性を有していれば、1枚単独または2枚以上のフィルムを積層させて構成されていてもよいが、それぞれ1枚からなるものの方が液晶表示装置全体の厚さが薄くでき、フィルム同士の積層工程も不要であり生産性の点からも好ましい。
【0025】
IPSは横電界により液晶ダイレクターが面内で変化するモードである。電圧が非印加状態で黒表示となるノーマリブラックモードと、印加状態で黒表示となるノーマリホワイトモードが考えられるが、IPSモードにおいては電圧印加時の液晶配向の乱れを制御すること等が困難であることから、高コントラストを得るためにはノーマリブラックモードである必要がある。
【0026】
液晶セルの位相差としては、200〜450nmであることが好ましく、より好ましくは250〜420nm、さらに好ましくは270〜410nm、最も好ましくは350〜400nmである。液晶セルの位相差値は非電圧印加状態(黒状態)での正面入射時の値(面内の値)である。液晶セルの位相差値は、セル構造、駆動条件や目的の透過率の設定等により変化するが、これらの値を満足することが好ましい。液晶に用いる材料は公知の誘電率異方性が正で屈折率異方性も正のネマチック液晶、スメクチック液晶等が用いられるが、好ましくはネマチック液晶である。また、IPSモードにおいて液晶を駆動させるためには、面内に横電界を発生させる必要があるが、公知の櫛型電極配置や電極形成方法等が利用できる。
【0027】
面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムを与える材料としては、例えば次のような高分子材料などが挙げられる。例えばポリカーボネート、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキサイドとポリスチレンのブレンド、アモルファスポリオレフィン、ノルボルネン骨格を有するポリマー、有機酸置換セルロース系、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエステル、オレフィンマレイミド、フェニル基を有する共重合オレフィンマレイミド、液晶性高分子である。また上記以外では重合性液晶を配向させた後硬化させたもの等のうち、分子分極率異方性が負であるものが好適に用いられる。これらの材料は、例えば1軸延伸することにより面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムが得られる。
【0028】
面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムの材料として好ましいのはフルオレン骨格を有するポリカーボネートである。フルオレン骨格は延伸操作等により高分子主鎖に対して垂直に配向するため、大きな負の分子分極率異方性を取りうる。
【0029】
フルオレン骨格を有するポリカーボネートの好ましい化学構造としては、下記式(I)
【化1】

で表される繰返し単位からなるものを挙げることができる。ここで、R〜Rは、互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の炭化水素基および炭素数1〜6の炭化水素−O−基よりなる群から選ばれる基であり、そしてXは下記式(1)−1
【化2】

で表わされる基であり、R30およびR31は、互いに独立に、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、そしてnおよびmは互いに独立に、0〜4の整数である。
【0030】
上記フルオレン骨格を有するポリカーボネートは、上記繰返し単位を含有するポリマーまたはポリマー混合物からなり、ここで該ポリマーおよびポリマー混合物は上記式(I)で表される繰返し単位をそれぞれポリマーまたはポリマー混合物の全繰返し単位の50〜95モル%含有するものが好ましく、より好ましくは60〜95モル%、さらに好ましくは70〜90モル%である。
【0031】
これらのフルオレン骨格を有するポリカーボネート材料は高いガラス転移点温度、ハンドリングや延伸成形性等の点で、本発明における負の1軸性光学フィルムとして優れた物性を有する。
【0032】
より好ましいポリカーボネート材料としては、上記式(I)で示される繰返し単位および下記式(II)
【化3】

で示される繰返し単位からなり、かつ上記式(I)および(II)の合計に基づき上記式(I)で表される繰返し単位は50〜95モル%含有するものが好ましく、より好ましくは60〜95モル%、さらに好ましくは70〜90モル%である。
【0033】
上記式(II)において、R〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭素数1〜22の炭化水素基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、Yは下記式群のそれぞれで表わされる基:
【0034】
【化4】

よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基である。ここで、Y中のR17〜R19、R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基、アリール基の如き炭素数1〜22の炭化水素基であり、R20およびR23はアルキル基、アリール基の如き炭素数1〜20の炭化水素基であり、また、Ar〜Arは、それぞれ独立に、フェニル基の如き炭素数6〜10のアリール基である。
【0035】
上記した共重合体および/またはブレンドポリマーは公知の方法によって製造し得る。ポリカーボネートはジヒドロキシ化合物とホスゲンとの重縮合による方法、溶融重縮合法、固相重合法等により好適に製造される。ブレンドの場合は、相溶性ブレンドが好ましいが、完全に相溶しなくても成分間の屈折率を合わせれば成分間の光散乱を抑え、透明性を向上させることが可能である。
【0036】
また、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1及び第2の光学フィルムとしては、例えばポリカーボネート類、ポリスチレン類、シンジオタクチックポリスチレン、アモルファスポリオレフィン類、ノルボルネン骨格を有するポリマー、有機酸置換セルロース類、ポリエーテルスルホン類、ポリアリレート類、ポリエステル類、オレフィンマレイミド類、フェニル基を有する共重合オレフィンマレイミド類、有機酸置換セルロース類等が用いられるが、好ましくは有機酸置換セルロース類特にセルロースアセテートやプロピオン酸置換セルロース、それらのブレンド物である。本発明に用いる厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1及び第2の光学フィルムは偏光層の保護フィルムを兼ねることも出来る。
【0037】
本発明における光学フィルム(以下、負の1軸性光学フィルム、第1及び第2の光学フィルムを併せて光学フィルムという)中にはさらに、フェニルサリチル酸、2−ヒドロキシベンゾフェノン、トリフェニルフォスフェート等の紫外線吸収剤や、色味を変えるためのブルーイング剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0038】
光学フィルムの厚さとしては、1μmから400μmであることが好ましい。なお、本発明における光学フィルムは「シート」、「板」といわれるいずれのものも含む意味で用いられている。フィルムのハンドリングを含めて考えると、厚さは20〜130μmが好ましく、より好ましくは30〜100μm、さらに好ましくは40〜90μmである。
【0039】
偏光板は一般に、偏光層を保護するためのフィルム(以下偏光層用保護フィルムということがある)としてセルロースアセテート等からなる一対のフィルムの間に、偏光層を挟持した構成のものが好適に用いられている。したがって、本発明の厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい第1及び第2の光学フィルムが、この偏光層用保護フィルムを兼ねても良いし、また、偏光層用保護フィルムとは別に、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい光学フィルムを組み合わせて用いても良い。この組み合わせの場合には、組み合わせたフィルム同士のRthの合計が上記式(2)、(3)を満足することが好ましい。
【0040】
本発明における偏光層としては、所定の偏光状態の光を得ることができる適宜なものを用いうる。就中、直線偏光状態の透過光を得ることのできるものが好ましい。偏光層の例としては、ポリビニルアルコール系フィルムや部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムの如き親水性高分子フィルムにヨウ素および/または二色性染料を吸着させて延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物の如きポリエン配向フィルム等からなる偏光層などがあげられる。
【0041】
本発明においては、前述の、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい第2の光学フィルム、偏光層がこの順番で一体となり、かつ面内に光学軸を有する負の略1軸性フィルムの面内遅相軸と偏光層の吸収軸が直交となるように積層された積層偏光板が提供される。
【0042】
本発明の積層偏光板を形成する方法としては、液晶表示装置の製造過程で負の略1軸性光学フィルムと偏光層を順次別個に積層する方式や、予め積層物としてそれを用いる方式などの適宜な方式で行うことができる。後者の事前積層化方式が、品質の安定性や積層作業性に優れて液晶表示装置の製造効率を向上させうる利点などがある。
【0043】
面内に光学軸を有する負の1軸性光学フィルムの製造方法としては、分子分極率異方性が負の材料を1軸延伸により製造することが好ましい。
【0044】
偏光層と負の1軸性光学フィルムの積層に際しては、必要に応じて接着剤等を介して固定することができる。軸関係のズレ防止等の点からは接着固定することが好ましい。接着には、例えばポリビニルアルコール系、変性ポリビニルアルコール系、有機シラノール系、アクリル系やシリコーン系、ポリエステル系やポリウレタン系、ポリエーテル系やゴム系等の透明な接着剤を用いることができ、その種類については特に限定はない。光学特性の変化を防止する点などからは、硬化や乾燥の際に高温のプロセスを要しないものが好ましく、長時間の硬化処理や乾燥処理を要しないものが望ましい。また、加熱や加湿条件下に剥離等を生じないものが好ましい。
【0045】
偏光層用保護フィルムを兼ねた厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1、第2の光学フィルムとしてトリアセチルセルロース(TAC)を用いた場合、TACと負の1軸性光学フィルムの接着剤としては、(メタ)アクリル酸ブチルや(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルや(メタ)アクリル酸の如きモノマーを成分とする質量平均分子量が10万以上で、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系ポリマーからなるアクリル系感圧接着剤が特に好ましく用いうる。またアクリル系感圧接着剤は、透明性や耐候性や耐熱性などに優れる点からも好ましい。
【0046】
接着剤には、必要に応じて例えば天然物や合成物の樹脂類、ガラス繊維やガラスビーズ、金属粉やその他の無機粉末等からなる充填材や顔料、着色剤や酸化防止剤などの適宜な添加剤を配合することもできる。なお、上記の偏光子、光学フィルム、偏光層用保護フィルム、接着剤層などの各層は、例えばサリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などにより紫外線吸収機能をもたせることもできる。
【0047】
本発明の液晶表示装置を製造する方法は通常の方法でよい。すなわち、液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板と光学フィルム、および必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組み立てて駆動回路を組み込むことなどにより形成される。
【0048】
液晶表示装置の形成部品は、積層一体化されていてもよいし、分離状態にあってもよい。また液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板やアンチグレア層、反射防止膜、保護層や保護板、カラーフィルタなどの適宜な光学素子を適宜に配置することができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(評価法)
本明細書中に記載の材料特性値等は以下の評価法によって得られたものである。
【0050】
(1)位相差値(Γ=Δn・d(nm))、Nz、Rth値の測定
複屈折Δnとフィルムの厚さd(nm)の積である位相差Γ値およびNzは、分光エリプソメータである日本分光(株)製の商品名『M150』により測定した。Γ値は入射光線とフィルム表面が直交する状態で測定した。また、Nz値は入射光線とフィルム表面の角度を変えることにより、各角度での位相差値を測定し、公知の屈折率楕円体の式でカーブフィッチングすることにより三次元屈折率であるn,n,nを求め、下記式(6)に代入することにより求めた。
Nz=(n−n)/(n−n) (6)
また、Rthは下記式(11)を用いて求めた。
Rth={(n+n)/2-n}×d (11)
なお、測定波長はすべて550nmとした。
【0051】
(2)面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの作製方法
負の略1軸性光学フィルムの高分子材料としては、フルオレン骨格を有する共重合ポリカーボネートを用いた。ポリカーボネートの重合は公知のホスゲンを用いた界面重縮合法によって行われた。攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応槽に水酸化ナトリウム水溶液およびイオン交換水を仕込み、これに下記構造を有するモノマー[A]と[B]を86対14のモル比で溶解させ、少量のハイドロサルファイトを加えた。次にこれに塩化メチレンを加え、20℃でホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに、p−tert−ブチルフェノールを加えて乳化させた後、トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させた。反応終了後有機相分取し、塩化メチレンを蒸発させてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比は仕込み量比とほぼ同様であった。
【0052】
この共重合体をメチレンクロライドに溶解させ、固形分濃度18重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムの残留溶媒量は0.9重量%であった。このフィルムを延伸温度225℃とし、表1記載の位相差値が得られるように延伸倍率を設定して1軸延伸することにより、面内に光軸を有する負の略1軸性光学フィルムを得た。
【0053】
【化5】

【0054】
(3)厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1及び第2の光学フィルムの作製方法
トリアセチルセルロースをメチレンクロライド溶媒に溶解させ、これをドープ溶液とし、溶液キャスト法によりフィルムを作製した。その後、2軸延伸することにより、実施例記載の面内位相差値およびRthを有する第1及び第2の光学フィルムを作製した。面内位相差値とRthは、延伸条件により制御した。
【0055】
[実施例1]
図1に示した構造を有する液晶表示装置において、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、黒状態における液晶セル、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1および第2の光学フィルムの厚さ方向の位相差値をそれぞれ、Γ1、ΓLC、Rth、Rthとし、それぞれの値を表1のように設定して液晶表示装置を作製した。なお、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1および第2の光学フィルムの面内の位相差値はいずれも5nmであった。市販のノーマリブラックモードでIPSモードの液晶テレビである株式会社日立製作所製の商品名『W32−L7000』の液晶セルを用いた。
【0056】
実際に、この液晶テレビの黒状態は、方位角0〜360°、極角0〜80°の入射角範囲において、最も人間の目の視感度が高い550nmの透過率で0.2%未満と低く、目視にて確認したところ、カラーシフトも少ないことがわかった。また、この液晶表示装置は中間調、白表示においてもカラーシフトが少ないことがわかった。
【0057】
[実施例2]
図1に示した構造を有する液晶表示装置において、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、黒状態における液晶セル、第1および第2の厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい光学フィルムの厚さ方向の位相差値をそれぞれ、Γ1、ΓLC、Rth、Rthとし、それぞれの値を表1のように設定して液晶表示装置を作製した。なお、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1及び第2の光学フィルムの面内の位相差値はいずれも15nmであった。市販のノーマリブラックモードでIPSモードの液晶テレビである株式会社日立製作所製の商品名『W28−L5000』の液晶セルを用いた。
【0058】
実際に、この液晶テレビの黒状態は、方位角0〜360°、極角0〜80°の入射角範囲において、最も人間の目の視感度が高い550nmの透過率で0.3%未満と低く、目視にて確認したところ、カラーシフトも少ないことがわかった。また、この液晶表示装置は中間調、白表示においてもカラーシフトが少ないことがわかった。
【0059】
[実施例3〜6]
実施例1と同様に表1記載のパラメータに従い、液晶表示装置を作製した。なお、厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい第1及び第2の光学フィルムの面内の位相差値はいずれも4nmであった。実際に実施例1と同様に評価を行ったが、視野角は位相差フィルムが無い状態よりは広がっているものの、実施例1、2に比べるとやや劣ることがわかった。
【0060】
[比較例]
実施例1と同様に表1記載のパラメータに従い、図2記載の液晶表示装置を作製した。実施例1と同様に評価を行ったが、視野角は視野角拡大を目的とした光学フィルムが無い状態と同等程度の狭さであった。すわなち、視野角拡大に対して、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムを用いた効果がなかった。また、カラーシフトも大きく、方位角によって、黒が青みを帯びた黒から、赤みを帯びた黒へ変化することが確認された。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の液晶表示装置は、表示品位特に視野角性能に優れており、例えば液晶テレビ、液晶モニター、携帯端末用デイスプレイ、携帯電話用デイスプレイ、カーナビゲーション用デイスプレイ等にとって有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のノーマリブラックモードインプレーンスイッチング方式の液晶表示装置の概略図の一例かつ実施例の液晶表示装置の光学素子の概略図である。
【図2】比較例における液晶表示装置の光学素子の配置図である。
【図3】本発明における位相差フィルムの三次元屈折率の定義のための直交座標を説明した図である。
【符号の説明】
【0064】
1 第1の偏光層
2 厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい第1の光学フィルム
3 IPSモードの液晶セル
4 面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム
5 厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい第2の光学フィルム
6 第2の偏光層
7 偏光層の吸収軸
8 厚さ方向の屈折率が面内のいずれの屈折率よりも小さい第2の光学フィルムの面内における遅相軸
9 面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内における遅相軸
10 黒状態におけるIPSモードの液晶セルの面内の遅相軸
11 光源から出射されて液晶表示装置に入射される光
21 第1の偏光層
22 IPSモードの液晶セル
23 面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム
24 第2の偏光板
25 偏光層の吸収軸
26 面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの面内における遅相軸
27 黒状態におけるIPSモードの液晶セルの面内の遅相軸
28 光源から出射されて液晶表示装置に入射される光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の偏光層、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1の光学フィルム、液晶セル、面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第2の光学フィルム、第2の偏光層の順でこれらが積層されてなるノーマリブラックモードのインプレーンスイッチングモードの液晶表示装置であって、第1の偏光層の吸収軸と黒状態における液晶セルの面内遅相軸とのなす角が略0°、黒状態における液晶セルの面内遅相軸と面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの遅相軸とのなす角が略0°、かつ面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムの遅相軸と第2の偏光層の吸収軸とのなす角が略90°である液晶表示装置。
【請求項2】
面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム、黒状態における液晶セルの面内位相差値をそれぞれΓ1、ΓLCとし、そして、厚さ方向の屈折率が面内におけるいずれの方向の屈折率よりも小さい第1および第2の光学フィルムの厚さ方向の位相差値をそれぞれ、Rth、Rthとした場合、下記式(1)〜(3)の関係を満足することを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
150<ΓLC<300nm (1)
20<Rth<110nm (2)
20<Rth<110nm (3)
【請求項3】
請求項1または2記載の液晶表示装置に用いられることを特徴とする面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム。
【請求項4】
フルオレン骨格を有するポリカーボネートからなることを特徴とする請求項3記載の面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の面内に光学軸を有する負の略1軸性光学フィルムと偏光層が一体となった積層偏光板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−293108(P2006−293108A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115185(P2005−115185)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】