説明

液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶表示素子

【課題】配向時に発生する塵や静電気による不良が少なく、液晶の配向及びプレチルト角の制御が容易で、かつ液晶の配向性に優れた液晶配向膜を提供する。
【解決手段】主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸又はその誘導体の二種以上であって、それぞれのポリアミック酸又はその誘導体の熱イミド化による膜の表面エネルギーの差が所定の差となる、表面エネルギー順位が連なるポリアミック酸又はその誘導体の二種を含有する液晶配向剤を用い、光配向によりポリアミック酸又はその誘導体を配向させてイミド化することにより、液晶配向膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラビング処理を施さないで、偏光を制御した光を照射してポリアミック酸又はその誘導体の膜の配向処理を施したあと、イミド化することで、ポリイミド膜におけるポリイミドの主鎖を特定方向に配向させ、液晶のプレチルト角を発現させることができる液晶配向膜、それを形成することができる液晶配向剤、及び該液晶配向膜を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、ノートパソコンやデスクトップパソコンのモニターをはじめ、ビデオカメラのビューファインダー、投写型のディスプレイ等の様々な液晶表示装置に使われており、最近ではテレビにも用いられるようになった。さらに、光プリンターヘッド、光フーリエ変換素子、ライトバルブ等のオプトエレクトロニクス関連素子としても利用されている。従来の液晶表示素子としては、ネマティック液晶を用いた表示素子が主流であり、一方の基板近傍にある液晶の配向方向と他方の基板近傍にある液晶のそれとが90度の角度でねじれているTN(Twisted Nematic)モード、前記配向方向が通常180度以上の角度でねじれているSTN(Super Twisted Nematic)モード、薄膜トランジスタを使用したいわゆるTFT(Thin−film−transistor)モードの液晶表示素子が実用化されている。
【0003】
しかしながらこれらの液晶表示素子は、画像が適正に視認できる視野角が狭く、斜め方向から見たときに、輝度やコントラストが低下することがあり、また中間調で輝度反転を生じることがある。近年この視野角の問題は、光学補償フィルムを用いたTN型液晶表示素子、垂直配向と突起構造物の技術を併用したMVA(Multi−domain Vertical Alignment)モード(例えば、特許文献1参照。)又は横電界方式のIPS(In−Plane Switching)モード(例えば、特許文献2参照。)等により改良されている。
【0004】
液晶表示素子の技術の発展は、単にこれらの駆動方式や素子構造の改良のみならず、表示素子に使用される構成部材の改良によっても達成されている。表示素子に使用される構成部材のなかでも、特に液晶配向膜は、液晶表示素子の表示品位に係わる重要な要素の一つであり、表示素子の高品質化に伴って液晶配向膜の役割が年々重要になってきている。
【0005】
このような液晶配向膜には、液晶表示素子の均一な表示特性のために液晶の分子配列を均一に制御することが必要であり、そのために基板上の液晶分子を一方向に均一に配向させ、更に基板面から一定の傾斜角(プレチルト角)を発現させることが求められる。このように、基板上の液晶分子の方向を一様に並べる液晶配向膜が、液晶表示素子の製造工程において重要かつ必要不可欠な技術となっている。
【0006】
液晶配向膜は液晶配向剤より調製される。現在主として用いられている液晶配向剤とは、ポリアミック酸若しくは可溶性のポリイミドを有機溶剤に溶解させた溶液である。このような溶液を基板に塗布した後、加熱等の手段により成膜してポリイミド系液晶配向膜を形成する。ポリアミック酸以外の種々の液晶配向剤も検討されているが、耐熱性、耐薬品性(耐液晶性)、塗布性、液晶配向性、電気特性、光学特性、表示特性等の点から、ほとんど実用化されていない。
【0007】
工業的には、簡便で大面積の高速処理が可能なラビング法が、配向処理法として広く用いられている。ラビング法は、ナイロン、レイヨン、ポリエステル等の繊維を植毛した布
を用いて液晶配向膜の表面を一方向に擦る処理であり、これによって液晶分子の一様な配向を得ることが可能になる。しかし、ラビング法による発塵、静電気の発生等の問題点が指摘されている。
【0008】
これまで、ラビング処理により配向処理を施された液晶配向膜上における液晶の配向機構として、次の2つが提案されている。
(1)ラビング処理により発生するマイクログルーブに起因する液晶配向膜の表面形状効果
(2)ラビング処理により一軸配向した液晶配向膜と該液晶配向膜と接する液晶単分子層との分子間相互作用
近年では(1)の表面形状効果の寄与は比較的小さく、(2)の分子間相互作用の寄与が支配的であることが確認されている。
【0009】
一方、光を照射して配向処理を施す光配向法については、光分解法、光異性化法、光二量化法、光架橋法等多くの配向機構が提案されている(例えば、非特許文献1及び特許文献3参照。)。特に光配向法はラビング法と異なり非接触の配向方法であるので、液晶の配向機構としては(2)の分子間相互作用のみが作用すると考えられる。また光配向処理法は、非接触であるため原理的に発塵や静電気の発生が、ラビング処理より少ない。
【0010】
したがって特に光配向法により配向処理を施された配向性の良好な液晶配向膜を用いることにより、液晶配向膜に接している液晶単分子層の分子配向状態を制御して液晶表示素子としての性能を改善することが期待できる。反面光配向法では、広い範囲のプレチルト角の制御について検討の余地が残されている。
【特許文献1】特許第2947350号公報
【特許文献2】特許第2940354号公報
【特許文献3】特開2005−275364号公報
【非特許文献1】液晶、第3巻、第4号、262ページ、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、配向時に発生する塵や静電気による不良が少なく、液晶の配向及びプレチルト角の制御が容易で、かつ液晶の配向性に優れた液晶配向膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸を少なくとも2成分含有した液晶配向剤の膜に、所定の光を所定の角度から照射して配向処理を施すことにより、上記課題を達成する。
本発明は、下記の構成からなる。
【0013】
[1] 主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸又はその誘導体を二以上含有し、前記ポリアミック酸又はその誘導体は、前記ポリアミック酸又はその誘導体の各々を熱イミド化することにより製造されたそれぞれの膜の表面エネルギーの順位が隣り合い、かつ表面エネルギーの差が2mJ/m2以上である二つのポリアミック酸又はその誘導体を含むことを特徴とする液晶配向剤。
【0014】
[2] 前記ポリアミック酸又はその誘導体はジアミンとテトラカルボン酸二無水物との反応生成物であり、前記ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の一方又は両方がアゾ基を有する化合物を含み、アゾ基を有するジアミンが以下の構造式(1−1)〜(1−7)の化合物の一以上であり、アゾ基を有するテトラカルボン酸二無水物が以下の構造式(1
−8)の化合物である[1]に記載の液晶配向剤。
【0015】
【化1】

【0016】
[3] アゾ基を有するジアミンが前記構造式(1−1)及び(1−7)の化合物の一方又は両方であり、アゾ基を有するテトラカルボン酸二無水物が前記構造式(1−8)の化合物である[2]に記載の液晶配向剤。
【0017】
[4] 前記ジアミンが以下の一般式(2)で表されるジアミンを含む[2]又は[3]に記載の液晶配向剤。
【0018】
【化2】

【0019】
一般式(2)中、R1は下記一般式(3)及び(4)で表される基から選ばれる二価の有機基を表す。
【0020】
【化3】

【0021】
一般式(3)中、X1及びX2は単結合、O、COO、OCO、NH、CONH又は炭素数1〜12のアルキレンを表し、G1及びG2は単結合、又は炭素数3〜12の芳香族環及び脂環式環から選ばれる1〜3個の環を含む二価の基を表し、R4はH、F、CN、OH又は炭素数1〜30のアルキル、ペルフルオロアルキル若しくはアルコキシを表す。ただし、X1、G1、X2、及びG2の全てが単結合である場合は、R4は炭素数3〜30のアルキル、ペルフルオロアルキル若しくはアルコキシであり、G2が単結合でありX2が単結合でもなくアルキレンでもない場合は、R4はH又はアルキルであり、またG1及びG2が共に単結合である場合は、X1、X2及びR4の合計の炭素数が3以上である。
【0022】
【化4】

【0023】
一般式(4)中、R5はH又は炭素数1〜12のアルキルを表し、環A1はそれぞれ独立して1,4−フェニレン又は1,4−シクロへキシレンを表し、Z1及びZ2はそれぞれ独立して単結合、CH2、CH2CH2又はOを表し、rは0〜3の整数、sはそれぞれ独立して0〜5の整数、t1は0〜3の整数、t2は0〜3の整数を表す。また、1,4−フェニレン又は1,4−シクロへキシレンの任意のHは炭素数1〜4のアルキルで置き換えられていてもよい。
【0024】
[5] 前記ジアミンが以下の一般式(3−1)又は(3−2)で表されるジアミンを含む[4]に記載の液晶配向剤。
【0025】
【化5】

【0026】
一般式(3−1)及び(3−2)中、Rは炭素数1〜20のアルキル基を表す。
【0027】
[6] 前記ジアミンが4,4’−ジアミノジフェニルメタンである[2]〜[5]のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【0028】
[7] 前記テトラカルボン酸二無水物が下記一般式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含む[2]〜[6]のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【0029】
【化6】

【0030】
一般式(5)中、R2は下記一般式(6)〜(14)で表される基から選ばれる四価の基を表す。
【0031】
【化7】

【0032】
一般式(6)中、G3は単結合、炭素数1〜12のアルキレン、1,4−フェニレン、又は1,4−シクロヘキシレンを表し、X3及びX4はそれぞれ単結合又はCH2を表す。
【0033】
【化8】

【0034】
一般式(7)中、R10、R11、R12、及びR13はそれぞれH、メチル、エチル、又はフェニルを表す。
【0035】
【化9】

【0036】
一般式(8)中、環A2はシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。
【0037】
【化10】

【0038】
一般式(9)中、G4は単結合、CH2、CH2CH2、O、CO、S、C(CH32、又はC(CF32を表し、環A3はそれぞれ独立してシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。
【0039】
【化11】

【0040】
一般式(10)中、R14はH又はメチルを表す。
【0041】
【化12】

【0042】
一般式(11)中、X5はそれぞれ独立して単結合又はCH2を表し、vは1又は2を表す。
【0043】
【化13】

【0044】
一般式(12)中、X6は単結合又はCH2を表す。
【0045】
【化14】

【0046】
一般式(13)中、R15はH、メチル、エチル、又はフェニルを表し、環A4はシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。
【0047】
【化15】

【0048】
一般式(14)中、w1及びw2はそれぞれ独立して0又は1を表す。
【0049】
[8] 前記テトラカルボン酸二無水物が、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、及び2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物の一以上を含む[7]に記載の液晶光配向剤。
【0050】
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の液晶配向剤の膜中のポリアミック酸又はその誘導体を光の照射によって所定の方向に配向させた後、熱イミド化することにより製
造された液晶配向膜。
【0051】
[10] 下記式1で求められる液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の配向指数Δが0.03〜1.00の範囲である事を特徴とする[9]に記載の液晶配向膜。
Δ=(|A‖−A⊥|)/(A‖+A⊥)×d/d’ (1)
【0052】
式(1)中、A‖は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が平行になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm-1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、A⊥は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が垂直になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm-1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、dは液晶配向膜の膜厚を表し、d’は液晶配向膜の光配向処理された領域の実効膜厚を表す。
【0053】
[11] 1度から15度の範囲のプレチルト角を発現する[9]又は[10]に記載の液晶配向膜。
【0054】
[12] 80.0度から89.7度の範囲のプレチルト角を発現する[9]又は[10]に記載の液晶配向膜。
【0055】
[13] 対向配置されている一対の基板と、該基板の対向している面の一方又は両方に形成されている液晶配向膜と、該液晶配向膜間に形成されている液晶層と、該液晶層中の液晶組成物に電圧を印加するための電極とを有する液晶表示素子において、液晶配向膜の一方又は両方が[9]〜[12]のいずれか一項に記載の液晶配向膜であることを特徴とする液晶表示素子。
【0056】
[14] [9]〜[12]のいずれか一項に記載の液晶配向膜を製造する方法であって、 前記液晶配向剤の膜に光を照射して膜中の前記ポリアミック酸又はその誘導体を配向させる工程と、ポリアミック酸又はその誘導体を配向させた前記液晶配向剤の膜を加熱して前記ポリアミック酸又はその誘導体をイミド化させる工程とを含み、前記光配向工程は、前記膜の表面に対して斜めの方向から光を前記膜に照射する工程を含むことを特徴とする方法。
【0057】
[15] 前記光配向工程は、前記液晶配向剤の膜に、この膜の表面に対して垂直な方向から直線偏光を照射して、膜中の前記ポリアミック酸又はその誘導体を水平方向に配向させる工程と、この工程で得られた膜に、前記直線偏光の偏光方向に対して垂直な面を入射面として、前記膜の表面に対して斜めの方向から光を前記膜に照射する工程とを含む[14]に記載の方法。
【0058】
[16] 前記膜に対して斜めの方向から照射される光が無偏光である[14]又は[15]に記載の方法。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、プレチルト角、特に1度〜89.9度のプレチルト角を持ち、配向欠陥がない液晶配向膜及び液晶表示素子を容易に提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
本発明の液晶配向剤は、主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸又はその誘導体を二以上含有する。前記ポリアミック酸又はその誘導体は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物と
の反応生成物であり、熱イミド化によって液晶配向膜を形成することができる成分である。本発明におけるポリアミック酸の誘導体としては、例えば可溶性ポリイミド、ポリアミック酸エステル、及びポリアミック酸アミド等が挙げられる。より具体的には1)ポリアミック酸の一部のアミノ基とカルボキシル基とが脱水閉環した部分ポリイミド、2)ポリアミック酸のカルボキシル基の一部又は全部をエステル化したポリアミック酸エステル、3)テトラカルボン酸二無水物の一部をジカルボン酸に置換して反応させたポリアミック酸−ポリアミド共重合体、又は4)該ポリアミック酸−ポリアミド共重合体の一部を脱水閉環反応させたポリアミドイミド等が挙げられる。
【0061】
前記ポリアミック酸又はその誘導体は、前記ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の一方又は両方がアゾ基を有する化合物を含む。アゾ基を有するジアミンは、1つのアミノを有する置換基がアゾ基の2つの窒素原子それぞれに結合しているジアミンであり、アゾ基を有するテトラカルボン酸二無水物は、酸無水物を有する置換基がアゾ基の2つの窒素原子それぞれに結合しているテトラカルボン酸二無水物である。このときアゾ基は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との両方に含まれていてもよいし、一方のみに含まれていてもよい。
【0062】
前記ポリアミック酸又はその誘導体は、前記アゾ基を有するジアミン又は前記アゾ基を有するテトラカルボン酸二無水物を原料として得られるが、さらに他のジアミン又はテトラカルボン酸二無水物を原料として用いてアゾ基を有する前記化合物に、ランダム共重合法、ブロック共重合法等によって共重合させてもよい。このときアゾ基を有するジアミン又はテトラカルボン酸二無水物は、光配向能を十分に発現させる観点から、全モノマー対し25モル%以上の含有量であることが好ましく、30モル%以上の含有量であることがより好ましい。
【0063】
前記液晶配向剤は、前記ポリアミック酸又はその誘導体の各々を熱イミド化することにより製造されたそれぞれの膜の表面エネルギーの順位が隣り合い、かつ表面エネルギーの差が2mJ/m2以上である二つのポリアミック酸又はその誘導体を含む。
【0064】
液晶配向膜としたときの表面エネルギー値が異なるポリアミック酸の2種類をポリマーブレンドして液晶配向膜の性能を向上させる方法が、特開平8−43831号公報に開示されている。本発明においてもこのようなポリマーブレンドを行うために、少なくとも2成分のポリアミック酸又はその誘導体は、各々を熱イミド化によって膜を製造したときの表面エネルギー値が2mJ/m2以上異なる二種のポリアミック酸又はその誘導体(第1成分と第2成分)を含むように選ばれる。
【0065】
例えば2成分のポリアミック酸又はその誘導体からなるポリマーブレンドにおいて、第1及び第2成分のポリアミック酸は、本発明の液晶配向膜の膜厚方向に関して、これらの混合比が異なるような、いわゆる成分傾斜構造をしている。特に1度以上のプレチルト角を持つ配向膜を作製する場合、本発明においても液晶配向膜の塗膜性能の向上、液晶の均一な配向、又は電圧保持率(VHR)等の電気的な特性の向上のために、この手法が好適である。
【0066】
表面エネルギーを測定する場合、前記ポリアミック酸又はその誘導体の種類ごとに熱イミド化によって製造される前記膜は、焼成温度や焼成時間等の製膜条件において一定の条件でそれぞれの膜が製造されることが好ましい。さらに前記製膜条件は、本発明のポリマーブレンドされた液晶配向膜の製膜条件と同じであることが好ましい。
【0067】
二以上の前記ポリアミック酸又はその誘導体の混合比は例えば前記表面エネルギーの値に応じて決めることができる。例えば2成分のポリアミック酸又はその誘導体からなるポ
リマーブレンドにおいて、ポリアミック酸又はその誘導体の混合比は、重量比でそれぞれ5〜95%の範囲で任意に選ぶことができる。しかしながら、ポリアミック酸又はその誘導体の膜としたときの表面エネルギー値が第1成分に対して第2成分の方が小さい場合、両成分の混合比は、配向欠陥をなくし電圧保持率(VHR)等の電気的な特性を向上させる観点から、全ポリマーに対し、第1成分が50重量%以上であることが好ましく、75重量%以上であることが特に好ましい。
【0068】
前述のポリマーブレンドにおける成分傾斜構造は、少なくとも2成分のポリアミック酸又はその誘導体から製造した液晶配向膜に含有される各ポリアミック酸又はその誘導体の表面エネルギー値によって、制御することができる。すなわちこれらの表面エネルギー値の差を小さくすることによって、成分の傾斜度合いを小さくでき、大きくすることによって、これを大きくできる。極端な場合は成分が相分離する。目的とするプレチルト角や電気的な特性を得るために、この成分傾斜構造を変えることが重要である。
【0069】
膜としたときの表面エネルギー値は、前記ジアミン又は前記テトラカルボン酸二無水物に、側鎖を有するジアミン又はテトラカルボン酸二無水物を使用することにより小さくすることができる。このような側鎖の構造には、例えば炭素数3以上の基が挙げられる。より具体的には、
1)置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニレン、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニレン、又は炭素数3以上のアルキル、アルケニル若しくはアルキニル、
2)置換基を有していてもよいフェニルオキシ、置換基を有していてもよいシクロヘキシルオキシ、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)オキシ、置換基を有していてもよいフェニルシクロヘキシルオキシ、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニルオキシ、又は炭素数3以上のアルキルオキシ、アルケニルオキシ若しくはアルキニルオキシ、
3)フェニルカルボニル、又は炭素数3以上のアルキルカルボニル、アルケニルカルボニル若しくはアルキニルカルボニル、
4)フェニルカルボニルオキシ、又は炭素数3以上のアルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ若しくはアルキニルカルボニルオキシ、
5)置換基を有していてもよいフェニルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)オキシカルボニル、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルビス(フェニル)オキシカルボニル、又は炭素数3以上のアルキルオキシカルボニル、アルケニルオキシカルボニル若しくはアルキニルオキシカルボニル、
6)フェニルアミノカルボニル、又は炭素数3以上のアルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニル若しくはアルキニルアミノカルボニル、
7)炭素数3以上の環状アルキレン、
8)置換基を有していてもよいシクロヘキシルアルキレン、置換基を有していてもよいフェニルアルキレン、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)アルキレン、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニルアルキレン、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニルアルキレン、置換基を有していてもよいフェニルアルキルオキシ、アルキルフェニルオキシカルボニル、又はアルキルビフェニリルオキシカルボニル、
9)アルキル、フッ素置換アルキル、又はアルコキシによって置換されたフェニル又はシクロヘキシル、及び、
10)2個以上のベンゼン環又はシクロヘキサン環が単結合し、又は、−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−若しくは炭素数1〜3のアルキレンを介して結合した、アルキル、フッ素置換アルキル、又はアルコキシによって置換された環集合基等が挙げら
れるが、これに限定されない。
【0070】
ここで、「置換基」としては、アルキル、アルコキシ、又はアルコキシアルキル等を挙げることができる。
【0071】
また、ビス(シクロヘキシル)、又はビス(フェニル)は、アルキレンによって中断されていてもよい。
【0072】
なお、本明細書において、「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」というときは、線状でもよいし、枝分かれでもよい。
【0073】
ジアミン又は酸二無水物の少なくともどちらか一方に側鎖を導入すれば、膜としたときの表面エネルギー値を小さくすることができるが、合成がより容易なジアミンに側鎖を導入することが好ましい。
【0074】
前記アゾ基を有するジアミンとしては公知のこれらの一種又は二種以上を用いることができる。前記アゾ基を有するジアミンには、以下の構造式(1−1)〜(1−7)の化合物が好ましくは挙げられ、(1−1)及び(1−7)が特に好適である。
【0075】
【化16】

【0076】
前記ジアミンは、配向安定性、プレチルト角、電気特性等の諸特性をバランス良く発現させる観点から、側鎖を有するジアミンを含むことが好ましい。側鎖を有するジアミンには、下記一般式(2)で表されるジアミンが挙げられる。
【0077】
【化17】

【0078】
一般式(2)中、R1は下記一般式(3)及び(4)で表される基から選ばれる二価の有機基を表す。
【0079】
【化18】

【0080】
一般式(3)中、X1及びX2は単結合、O、COO、OCO、NH、CONH又は炭素数1〜12のアルキレンを表し、G1及びG2は単結合、又は炭素数3〜12の芳香族環及び脂環式環から選ばれる1〜3個の環を含む二価の基を表し、R4はH、F、CN、OH又は炭素数1〜30のアルキル、ペルフルオロアルキル若しくはアルコキシを表す。ただし、X1、G1、X2、及びG2の全てが単結合である場合は、R4は炭素数3〜30のアルキル、ペルフルオロアルキル若しくはアルコキシであり、G2が単結合でありX2が単結合でもなくアルキレンでもない場合は、R4はH又はアルキルであり、またG1及びG2が共に単結合である場合は、X1、X2及びR4の合計の炭素数が3以上である。
【0081】
前記一般式(3)において、2つのアミノ基はフェニル環炭素に結合しているが、好ましくは、2つのアミノ基の結合位置関係は、メタ又はパラであることが好ましい。さらに2つのアミノ基はそれぞれ、「R4−G2−X2−G1−X1−」の結合位置を1位としたときに3位と5位、又は2位と5位に結合していることが好ましい。
【0082】
【化19】

【0083】
一般式(4)中、R5はH又は炭素数1〜12のアルキルを表し、環A1はそれぞれ独立して1,4−フェニレン又は1,4−シクロへキシレンを表し、Z1及びZ2はそれぞれ独立して単結合、CH2、CH2CH2又はOを表し、rは0〜3の整数、sはそれぞれ独立して0〜5の整数、t1は0〜3の整数、t2は0〜3の整数を表す。また、1,4−フェニレン又は1,4−シクロへキシレンの任意のHは炭素数1〜4のアルキルで置き換えられていてもよい。
【0084】
一般式(3)で表される有機基を有する、側鎖を有するジアミンとしては、例えば下記一般式(3−11)〜(3−35)で表されるジアミン及び下記構造式(3−36)〜(3−41)のジアミンが挙げられる。
【0085】
【化20】

【化21】

【化22】

【0086】
前記一般式中、R20は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数1〜20のアルコキシが好ましく、炭素数5〜16のアルキルがさらに好ましい。R21は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数1〜20のアルコキシが好ましく、炭素数3〜10のアルキルがさらに好ましい。R22は炭素数4〜20のアルキルが好ましく、炭素数6〜16のアルキルがさらに好ましい。R23は炭素数6〜20のアルキルが好ましく、炭素数8〜20のアルキルがさらに好ましい。R24は炭素数3〜20のアルキル又は炭素数3〜20のアルコキシが好ましく、炭素数5〜12のアルキルがさらに好ましい。R25は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数1から20のアルコキシが好ましく、炭素数3〜10のアルキルがさらに好ましい。
【0087】
これらのうち、より好ましくは、一般式(3−11)、(3−12)、(3−14)、(3−15)、及び(3−16)で表されるジアミンが挙げられ、さらに好ましくは、一般式(3−11)又は(3−12)で表されるジアミンが挙げられる。
【0088】
一般式(4)で表される有機基を有する、側鎖を有するジアミンとしては、例えば下記一般式(4−1)〜(4−16)で表されるジアミンが挙げられる。
【0089】
【化23】

【化24】

【0090】
前記一般式中、R26は水素原子、炭素数1〜12のアルキル又は炭素数1〜12のアルコキシが好ましく、炭素数4〜7のアルキルがさらに好ましい。
【0091】
前記ポリアミック酸又はその誘導体における側鎖を有するジアミンの共重合比は、目的とするプレチルト角や電気特性に合わせて任意に選定できる。特に2度以上のプレチルト角を発現させるためには、本発明におけるポリアミック酸又はその誘導体において、この共重合比は、ポリアミック酸又はその誘導体一種類当たりの全ジアミンに対し5〜70モル%の範囲であることが好ましく、10〜50モル%であることがより好ましい。
【0092】
前記ジアミンは、側鎖を持たないジアミンを含んでいてもよい。側鎖を持たないジアミンとしては公知のジアミンの一種又は二種以上を用いることができる。この中で好ましいものとして下記のジアミンが挙げられる。
【0093】
【化25】

【化26】

【化27】

【0094】
これらのうち、高いVHRを液晶配向膜に付与し焼き付き現象を抑制する観点から、式(V−1)〜(V−7)、式(VI−1)〜(VI−12)、式(VI−26)、式(VI−27)、式(VII−1)、式(VII−2)、式(VII−6)、式(VIII−
1)〜(VIII−5)で表されるジアミンがより好ましく、式(V−6)、式(V−7)、式(VI−1)〜(VI−12)で表されるジアミンが最も好ましい。
【0095】
前記ジアミンは、シロキサン系ジアミンを含んでいてもよい。シロキサン系ジアミンは一種でも二種以上でもよく、上記のジアミンと併用してもよい。該シロキサン系ジアミンは特に限定されるものではないが、一般式(15)で表されるものが本発明において好ましく使用することができる。
【0096】
【化28】

【0097】
一般式(15)中、R6及びR7はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル又はフェニルを表し、R8はメチレン、フェニレン又はアルキル置換されたフェニレンを表す。xは1〜6の整数を表し、yは1〜10の整数を表す。
【0098】
これらのジアミンにおいて、芳香環に直接アミノ基が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)ジアミンは、液晶に良好な配向性を与える観点から特に好ましい。さらに液晶表示素子の電気特性の低下原因となりやすいエステルやエーテル結合等の酸素や硫黄を含まない構造のものが好ましい。しかしそのような構造を有していても、電気特性に悪影響を与えない範囲内の量であれば何ら問題とはならない。
【0099】
本発明で用いることのできるジアミンはこれらに限定されることなく、本発明の目的が達成される範囲内で他の公知の化合物を用いても良い。またこれらのジアミンは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
アゾ基を有するテトラカルボン酸二無水物としては公知の化合物の一種又は二種以上を用いることができる。このようなアゾ基を有するテトラカルボン酸二無水物としては、下記構造式(1−8)の化合物が挙げられる。
【0101】
【化29】

【0102】
前記テトラカルボン酸二無水物は、アゾ基を有さないテトラカルボン酸二無水物を含んでいてもよい。このようなテトラカルボン酸二無水物は、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)の何れの群に属するものであってもよい。ポリアミック酸は、液晶表示素子の電気特性の低下原因となりやすいエステルやエーテル結合等の酸素や硫黄を含まない構造のものが好ましい。したがって、テトラカルボン酸二無水物
も酸素や硫黄を含まない構造のものが好ましい。しかし、そのような構造を有していても電気特性に悪影響を与えない範囲内の量であれば何ら問題とはならない。
【0103】
アゾ基を有さないテトラカルボン酸二無水物としては、下記一般式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0104】
【化30】

【0105】
一般式(5)中、R2は下記一般式(6)〜(14)で表される基から選ばれる四価の基を表す。
【0106】
【化31】

【0107】
一般式(6)中、G3は単結合、炭素数1〜12のアルキレン、1,4−フェニレン、又は1,4−シクロヘキシレンを表し、X3及びX4はそれぞれ単結合又はCH2を表す。
【0108】
【化32】

【0109】
一般式(7)中、R10、R11、R12、及びR13はそれぞれH、メチル、エチル、又はフェニルを表す。
【0110】
【化33】

【0111】
一般式(8)中、環A2はシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。
【0112】
【化34】

【0113】
一般式(9)中、G4は単結合、CH2、CH2CH2、O、CO、S、C(CH32、又はC(CF32を表し、環A3はそれぞれ独立してシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。
【0114】
【化35】

【0115】
一般式(10)中、R14はH又はメチルを表す。
【0116】
【化36】

【0117】
一般式(11)中、X5はそれぞれ独立して単結合又はCH2を表し、vは1又は2を表す。
【0118】
【化37】

【0119】
一般式(12)中、X6は単結合又はCH2を表す。
【0120】
【化38】

【0121】
一般式(13)中、R15はH、メチル、エチル、又はフェニルを表し、環A4はシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。
【0122】
【化39】

【0123】
一般式(14)中、w1及びw2はそれぞれ独立して0又は1を表す。
【0124】
本発明で好ましく用いることのできるテトラカルボン酸二無水物として、以下の構造式A−1〜A−43の化合物が挙げられる。
【0125】
【化40】

【化41】

【化42】

【化43】

【0126】
これらのテトラカルボン酸二無水物において、液晶配向膜の光配向能を向上させる観点から、構造式A−1、A−2、又はA−7の化合物を用いることが好ましく、構造式A−1又はA−7の化合物を用いることが特に好ましい。また液晶配向膜のVHRを向上させる又は着色を軽減させる観点から、構造式A−14、A−18、A−19、A−20、A−21、A−28、A−29、A−30、A−32、A−39、A−40、A−41、又はA−43の化合物を用いることが好ましく、構造式A−14、A−18、又はA−21の化合物を用いることが特に好ましい。
【0127】
テトラカルボン酸二無水物はこれらに限定されることなく、本発明の目的が達成される範囲内で他の公知の化合物を用いても良い。またこれらのテトラカルボン酸二無水物は単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0128】
本発明の液晶配向剤は、前記ポリアミック酸又はその誘導体以外の他の成分をさらに含有していてもよい。例えば、本発明の効果を妨げない限り、本発明の液晶配向剤にアゾ基を持たない公知のポリアミック酸をさらに添加しても良い。
【0129】
本発明の液晶配向剤は、液晶配向膜のガラス基板への密着性を調節する観点から、有機ケイ素化合物をさらに含有していてもよい。前記有機ケイ素化合物は特に限定されるものではないが、前記有機ケイ素化合物としては、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、ジメチルポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等のシリコーンオイルが挙げられる。
【0130】
該有機ケイ素化合物の液晶配向剤への添加割合は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に制限はない。しかしながら、前記有機ケイ素化合物を多く添加すると、液晶配向膜としたとき液晶の配向不良が生ずることがある。したがって、有機ケイ素化合物の濃度は液晶配向剤に含有されるポリマーの重量に対し、0.01〜5重量%の範囲であることが好ましく、特に好ましくは0.1〜3重量%の範囲である。
【0131】
本発明の液晶配向剤は、特性の経時劣化や環境による劣化を防ぐ観点から、ポリアミック酸又はその誘導体のカルボン酸残基と反応する官能基を2つ以上有する化合物、いわゆる架橋剤をさらに含有していてもよい。このような架橋剤の例としては、特許第3049699号公報、特開2005−275360号公報、特開平10−212484号公報等に記載されているような多官能エポキシ、イソシアネート材料等が挙げられる。
【0132】
また架橋剤自身が反応して網目構造のポリマーとなり、ポリアミック酸若しくはポリイミドの膜強度を向上するような架橋剤も上記と同様な目的に使用することができる。このような架橋剤としては、特開平10−310608号公報、特開2004−341030号公報等に記載されているような多官能ビニルエーテル、マレイミド、又はビスアリルナジイミド誘導体等が挙げられる。これらの架橋剤を使用するとき、その好ましい割合は、ポリマー成分の合計量に対し5〜100重量%であり、より好ましくは10〜50重量%である。
【0133】
本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸又はその誘導体を溶解する能力を持った溶剤をさらに含有していてもよい。かかる溶剤はポリアミック酸又はその誘導体の製造や使用において通常使用されている溶剤を広く含み、使用目的に応じて、適宜選択できる。これらの溶剤を例示すれば以下のとおりである。
【0134】
ポリアミック酸に対し良溶剤である非プロトン性極性有機溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド(DMAc)、及びγ−ブチロラクトン(GBL)等のラクトンが挙げられる。
【0135】
上記の溶剤以外の溶剤であって、塗布性改善等を目的とした他の溶剤の例としては、乳酸アルキル、3−メチル−3−メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキル及びフェニルアセテート、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、並びにこれらグリコールモノエーテル類等のエステル化合物が挙げられる。
【0136】
これらの中で、前記溶剤には、NMP、ジメチルイミダゾリジノン、GBL、BCS、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等を特に好ましく用いることができる。
【0137】
本発明の液晶配向剤は、所望により各種の添加剤をさらに含有していてもよい。例えば、塗布性のさらなる向上を望むときにはかかる目的に沿った界面活性剤を、帯電防止のさらなる向上を必要とするときは帯電防止剤を適量含有していてもよい。
【0138】
本発明の液晶配向剤中のポリアミック酸又はその誘導体の濃度は特に限定されないが、0.1〜40重量%であることが好ましい。該液晶配向剤を基板に塗布するときには、膜厚の調整のために、含有されているポリアミック酸を予め溶剤により希釈する操作が必要とされることがある。ポリアミック酸の濃度が40重量%以下であると、液晶配向剤の粘度は好ましいものとなり、膜厚の調整のために液晶配向剤を希釈する必要があるときに、
液晶配向剤に対して溶剤を容易に混合できるため好ましい。
【0139】
スピンナー法や印刷法等の塗布方法のときには、形成される膜厚を良好に保つ観点から、液晶配向剤中のポリアミック酸又はその誘導体の濃度を通常10重量%以下とすることが多い。その他の塗布方法、例えばディッピング法やインクジェット法ではさらに低濃度とすることもあり得る。一方ポリアミック酸又はその誘導体の濃度が0.1重量%以上であると、得られる液晶配向膜の膜厚が好ましいものとなり易い。したがってポリアミック酸の濃度は、通常のスピンナー法や印刷法等の塗布方法では0.1重量%以上、好ましくは0.5〜10重量%である。しかしながら、該液晶配向剤の塗布方法によっては、さらに希薄な濃度で使用してもよい。
【0140】
本発明の液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリマーの濃度、使用するポリマーの種類、溶剤の種類と割合によって多種多様である。例えば印刷機による塗布の場合は、5〜100mPa・s(より好ましくは10〜70mPa・s)である。この範囲にあれば十分な膜厚が得られまた印刷ムラも十分に抑えられる。インクジェット印刷による塗布の場合は1〜30mPa・s(より好ましくは5〜20mPa・s)である。液晶配向剤の粘度は、ポリアミック酸又はその誘導体の濃度や分子量によって調整することができ、また溶剤による希釈や攪拌を伴う養生によって小さくすることができる。
【0141】
本発明におけるポリアミック酸又はその誘導体の分子量、例えば重量平均分子量(Mw)は、目的とする液晶配向剤の粘度を得るために任意に選択できる。しかしながら、配向膜の経時劣化を防ぐためにMwは10,000以上が好ましい。このようなポリアミック酸又はその誘導体の分子量を調節するためにモノアミン、又は/及びモノカルボン酸無水物を前記原料と併用しても良い。また分子量が大きすぎると粘度が高くなることから、取り扱いの容易さの観点から、Mwは200,000以下が好ましい。
【0142】
Mwを10,000以下にする必要がある場合、焼成時に架橋反応する置換基を本発明ポリアミック酸又はその誘導体に導入することが好ましい。このような目的のために特開平11−193326号公報に記載の反応性基を有するジアミン又はテトラカルボン酸二無水物や、特開平1−188528号公報に記載の反応性基を有するモノアミン、又は/及びモノカルボン酸無水物を前記原料と併用することが好ましい。また前述の架橋剤を同様な目的に使用しても良い。
【0143】
本発明の液晶配向膜は、前述した本発明の液晶配向剤の膜に光を照射し、前記膜中のポリアミック酸又はその誘導体を所定の方向に配向させ、これを熱イミド化して得られる。
【0144】
本発明の液晶配向膜は、下記式1で求められる液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の配向指数Δが0.03〜1.00の範囲であることが好適である。
Δ=(|A‖−A⊥|)/(A‖+A⊥)×d/d’ (1)
【0145】
式(1)中、A‖は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が平行になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm-1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、A⊥は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が垂直になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm-1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、dは液晶配向膜の膜厚を表し、d’は液晶配向膜の光配向処理された領域の実効膜厚を表す。
【0146】
ポリイミド主鎖の配向は、偏光赤外光を用いた赤外線吸収分光法により評価することが
できる。この方法は試料に直交する2つの直線偏光赤外光を入射したときの赤外線吸収量が、分子配向方位によって違うこと(赤外二色性)を検出して分子配向を評価するものである。
【0147】
本発明の液晶配向膜におけるポリイミド主鎖の配向指数Δの測定方法を以下に詳述する。赤外線分光光度計(好ましくはFT−IR)の光源と試料(本発明の液晶配向膜を形成した基板)との間に偏光子を配置する。次に基板面内におけるポリイミドの主鎖の平均配向方向が偏光子の偏光方向と平行になり、赤外光が基板に対して垂直に入射するようにして試料を固定し、赤外吸光度(A‖)を測定する。さらに、試料は動かさず偏光子だけを90度回転させ赤外吸光度(A⊥)を測定する。上記赤外吸光度は吸収バンドのピーク値又は積分値である。
【0148】
配向指数の測定における上記基板の材料としてはシリコンやフッ化カルシウム(ホタル石:CaF2)等赤外光が透過するものが好ましい。
【0149】
本発明においてポリイミドの主鎖の平均配向方向とは、配向膜の表面に対して垂直な方向から配向膜を見たときにポリイミド主鎖が平均して配向している方向を言う。即ち前述の測定において偏光子を回転したとき、吸光度が最大を示すときの赤外光の偏光方向が、ポリイミドの主鎖の平均配向方向である。
【0150】
本発明で用いるのに適した赤外吸収ピークは、1360cm-1付近(イミド環のC−N−C伸縮振動)、1510cm-1付近(フェニルのC−C伸縮振動)及び1720cm-1付近(イミド基のC=O伸縮振動)等である。中でも分子振動によって生じる分極の方向がポリイミド主鎖に沿っており、ポリイミドの組成変化に伴うピークの変化が比較的少ない1360cm-1付近を特に好ましく用いることができる。さらに赤外二色比は、液晶配向膜の膜厚により異なる場合があるので、膜厚の影響を除去した赤外二色差を用いてポリイミド主鎖の配向を評価する方が好ましい。
【0151】
以上のことから、本発明においては1360cm-1付近の赤外二色差により液晶配向膜の配向の液晶配向膜の表面に平行な方向への異方性を評価する。さらに膜厚の影響を補正するために、液晶配向膜の膜厚、光配向処理に用いる光の波長での吸収係数αを測定する。
【0152】
液晶配向膜の光配向処理される領域の実効膜厚d’は、次式(2)より求まる。
d’=(1/α)×γ (2)
【0153】
式(2)中、αは、光配向処理に用いる光の波長における、光配向処理していないポリアミック酸又はその誘導体の膜の吸収係数である。γはイミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数で、イミド化前のポリアミック酸又はその誘導体の膜の膜厚をdPAAとするとd/dPAAで与えられる。dがd’より小さい場合はd’=dとする。なおイミド化前のポリアミック酸又はその誘導体の膜の膜厚はエリプソメトリーや接触段差計等によって測定することができる。
【0154】
吸収係数αは、段差計又はエリプソメーター等によって測定した膜厚dPAAのポリアミック酸又はその誘導体の膜の紫外−可視光領域の透過スペクトルを、光配向処理前に紫外−可視分光光度計によって測定することにより決定される。光配向処理に用いる光の波長における、ポリアミック酸又はその誘導体の膜が塗布された基板の透過率をTsample、基板のみの透過率をTsubとすると吸収係数αは、次式(3)で与えられる。
α=(1/dPAA)×ln(Tsub/Tsample) (3)
【0155】
本発明の液晶配向膜は、配向指数Δが0.03以上1.0以下であることが好ましく、Δが0.10以上1.0以下であることがより好ましい。配向指数Δが0.03以上であればポリイミドの主鎖の配向が十分であり、安定した液晶表示素子が得られる。
【0156】
本発明の液晶配向膜は、液晶表示素子を形成したときの液晶のプレチルト角が1〜90度の範囲である。前記プレチルト角は表示素子の駆動モードによって最適値が異なるが、TNモードの場合3〜10度、OCBモードの場合5〜20度、VAモードの場合85〜90度であることが好ましい。このような異なる駆動モードへの汎用性の観点から、本発明の液晶配向膜が発現するプレチルト角は1〜20度であることが好ましく、また80.0〜89.7度であることが好ましい。
【0157】
前記プレチルト角は、例えば中央精機製液晶特性評価装置OMS−CA3型を用いて、Journal of Applied Physics, Vol.48, No.5, p.1783−1792 (1977)に記載されているクリスタルローテーション法によって測定することができる。又は前記プレチルト角は、Mol. Cryst. Liq. Cryst. 241 (1994) 147.に記載されているクリスタルローテーション法によって測定することができる。
【0158】
本発明の液晶配向膜の膜厚は、膜の厚みの均一性と機械的、光学的、電気特性の観点から、通常5〜500nmである。膜による表示素子の着色を抑えるため、液晶配向膜の膜厚は5〜200nmであることが好ましく、5〜150nmであることがより好ましい。
【0159】
本発明の液晶配向膜の膜厚はエリプソメトリーや接触式段差計によって測定することができる。また液晶配向膜の膜厚は、液晶配向剤の濃度、粘度や液晶配向剤の塗布条件によって調整することができる。
【0160】
本発明の液晶配向膜は、前述した本発明の液晶配向剤の膜に光を照射して膜中のポリアミック酸又はその誘導体を配向させる工程と、ポリアミック酸又はその誘導体を配向させた液晶配向剤の膜を加熱して前記ポリアミック酸又はその誘導体をイミド化する工程とを含む方法によって製造することができる。
【0161】
前記液晶配向剤の膜は、例えば基板又は電極上に前述した本発明の液晶配向剤を塗布することによって形成することができる。液晶配向剤の塗布方法としてはスピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等が一般に知られている。これらの方法は本発明においても公知技術と同様に適用可能である。
【0162】
ポリアミック酸の骨格構造に含まれるアゾ基は、シンとアンチの二つの幾何異性体をとり得る。通常はアンチ異性体が安定であるが、例えば適当なエネルギーを有する、特定の方向に偏光する直線偏光を前記ポリアミック酸又はその誘導体に照射すると、アゾ基を含む分子軌道を持つ構造単位が光を吸収し、特定の方向を向いているアンチ異性体が選択的にシン異性体に変化し、シン異性体はアンチ異性体に比べて安定性が低いので、シン異性体はランダムな配向変化を伴ってアンチ異性体に戻る。光吸収が起こらなくなるまで前記アンチ−シン光異性化反応が繰り返されるので、十分な光照射の後、アンチ異性体は光の偏光方向に垂直になるように配向する。
【0163】
本発明では、前述した光配向工程は、液晶配向剤の膜の表面に対して斜めの方向から光を液晶配向剤の膜に照射する工程を含む。この工程によれば、前記平均配向方向と光の入射面におけるポリアミック酸の配向(基板面に対する傾斜角)との両方を制御することが可能である。
【0164】
また本発明では、前述した光配向工程は、液晶配向剤の膜に、この膜の表面に対して垂直な方向から直線偏光を照射して膜中のポリアミック酸又はその誘導体を水平方向に配向させる工程と、この工程で得られた膜に、前記直線偏光の偏光方向に対して垂直な面を入射面として前記膜の表面に対して斜めの方向から光を前記膜に照射する工程との二工程を含んでもよい。この工程によれば、ポリイミド主鎖の配向の程度(配向指数Δ)を高くし、かつ一様でプレチルト角を有する液晶の配向を得る観点から好ましい。
【0165】
前記光配向工程において、液晶配向剤の膜の表面に対して斜めの方向から照射される光の照射角度は、特に限定されるものではないが、任意のプレチルト角を得るためには、液晶配向膜の表面又は基板面に対して20〜70度であることが、良好なポリイミド主鎖の配向と液晶のプレチルト角とを得る観点から好ましく、さらには30〜60度であることがより好ましい。
【0166】
前記光配向工程において照射される光には、前記ポリアミック酸又はその誘導体におけるアゾ基による幾何異性体をアンチ異性体からシン異性体に変えることができる直線偏光又は直線偏光以外の光を用いることができる。直線偏光以外の光には、例えばP偏光成分とS偏光成分の強度比が制御された光及び無偏光等が挙げられる。前記P偏光成分とS偏光成分の強度比が制御された光には、円偏光や楕円偏光のような各偏光成分の間に位相関係がある光、及びこのような位相関係がない光が挙げられる。前記直線偏光以外の光はこれらのいずれの光であってもよく、このような光は、偏光フィルター、偏光プリズム、光の照射方向に対して斜めに設置したガラス板を透過させることによって得ることができる。
【0167】
前記光配向工程において照射される光の光源には、本発明の目的が達成される範囲内である限り、どのようなものであってもよい。このような光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、Deep UVランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。
【0168】
前記光配向工程において照射される光の波長は300〜600nm、より好ましくは340〜500nmである。300nm以上の波長の光では配向膜の光分解が抑えられ、600nm以下の波長の光では光異性化反応が進み易くなる。このような観点から、光配向工程における光の照射では、短波長カットフィルター又はバンドパスフィルター等を用いることが好ましい。また光異性化反応を効率的に行うため、紫外・可視の連続光源を用い、紫外光と可視光を同時に照射することが好ましい。
【0169】
前記光配向工程において照射される光の照射量は、用いる液晶配向剤の種類、光源の波長、照射条件に依存する。このとき照射量が大きくなるほど高い配向指数Δが得られる。目安としては、Deep UVランプと340〜500nmのバンドパスフィルターを用いて光配向工程を行う場合の照射量は、0.5J/cm2以上であり、好ましくは1J/cm2以上である。照射量は特に上限はないが、液晶配向膜の劣化を避けるためには、2,000J/cm2以下であることが好ましく、設備及び処理に係るコスト等の経済性を考慮すると300J/cm2以下であることが好ましい。
【0170】
なお前記光配向工程において、直線偏光を照射した後、斜めから光を照射する場合、これら2種類の光は、光源、波長、及び照射量について、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0171】
前記膜中で配向したポリアミック酸又はその誘導体のイミド化は、通常加熱によって行われる。本発明においても加熱処理を配向後のポリアミック酸又はその誘導体のイミド化に適用することができる。加熱によるイミド化工程の方法としては、オーブン又は赤外炉
の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等の一般に知られている方法が適用可能である。前記イミド化工程は一般に150〜300℃程度の温度で行うことが好ましい。
【0172】
本発明の液晶配向膜の製造では、基板に塗布した液晶配向剤から溶剤を除く工程をさらに含むことが好ましい。前記工程は前述した光配向工程の前に行うことが好ましく、前記イミド化工程と同様に、オーブン又は赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等の一般に知られている方法によって行うことができる。この工程はポリアミック酸又はその誘導体がイミド化することを防ぐため、溶剤の蒸発が可能な範囲内の比較的低温で実施することが好ましい。本発明において、ポリアミック酸又はその誘導体を膜中において傾斜配向させる場合、前記工程においてその状態を制御することが可能である。各成分を相分離に近い状態にするには、低温(例えば50〜80℃)で時間を掛けて(例えば1〜10分間)溶剤を除くことが好ましく、緩やかな傾斜配向させる場合、比較的高温(例えば80〜150℃)で短時間(例えば30秒〜1分間以内)にこれを行うことが好ましい。
【0173】
本発明の液晶配向膜の製造では、洗浄液による洗浄工程をさらに含んでいてもよい。洗浄工程としては、ジェットスプレー、蒸気洗浄又は超音波洗浄等が挙げられる。これらの洗浄は単独で行ってもよいし併用してもよい。洗浄液としては純水、メチルアルコール、エチルアルコール若しくはイソプロピルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン若しくはキシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、又はアセトン若しくはメチルエチルケトン等のケトン類を用いることができるが、これらに限定されるものではない。もちろんこれらの洗浄液は十分に精製された不純物の少ないものが好ましい。
【0174】
本発明の液晶配向膜を有する液晶表示素子は、上記のように基板上に液晶配向膜を作製し、次いでスペーサを介して該基板を対向させて組み立てる工程、液晶組成物を基板の隙間に封入する工程及び偏光フィルムを貼り付ける工程等の工程を行うことにより得られる。
【0175】
本発明の液晶表示素子は、対向配置されている一対の基板と、前記基板の対向している面の一方又は両方に形成されている本発明の液晶配向膜と、前記液晶配向膜間に形成されている液晶層と、前記液晶層中の液晶組成物に電圧を印加するための電極とを有する。本発明における液晶表示素子は、液晶配向膜を除いて従来の液晶表示素子と同様に構成することができる。
【0176】
前記基板は、その用途に応じて適当な基板が用いられる。前記基板は、表示の観点によれば、ガラス等の透明の基板が好ましく、液晶配向膜の配向指数Δを確認する観点によれば、シリコンやフッ化カルシウム等の赤外光を透過する基板が好ましい。
【0177】
前記電極は基板の一面に形成される電極であれば特に限定されない。このような電極には例えばITOや金属の蒸着膜等が挙げられる。また電極は基板の全面に形成されていても良いし、所望の形状にパターン化されていても良い。電極の形状には例えば櫛型又はジグザグ構造等が挙げられる。電極は一対2枚の基板のうち一方に形成されていても良いし、両方に形成されていても良い。電極の形態は駆動モードに応じて異なる。例えばIPSモードの場合は一対の基板の片方に、交互に櫛歯が延びるように形成された、画素電極及び共通電極を有する。またその他の液晶表示素子の場合は前記一対の基板の双方に電極が配置される。前記基板又は電極の上に前記液晶配向膜が形成される。
【0178】
前記液晶層は、対向している一対の基板の隙間に液晶組成物を封入して形成される。一
方の基板の表面に本発明の液晶配向膜が形成されている場合には、この本発明の液晶配向膜が他方の基板の表面に対向するように一対の基板が配置される。両方の基板の表面に本発明の液晶配向膜が形成されている場合は、これらの液晶配向膜が互いに対向するように一対の基板が配置される。液晶層の厚みを均一に制御するため、基板の間に介在して適当な間隔を形成するスペーサを必要に応じて用いることができる。前記スペーサとしてはガラスや樹脂製の微粒子やシート等が挙げられる。
【0179】
前記液晶組成物は、特に制限はなく、誘電率異方性が正の各種の液晶組成物を用いることができる。このような液晶組成物の好ましい例は、特許第3086228号公報、特許第2635435号公報、特表平5−501735号公報、特開平8−157826号公報、特開平8−231960号公報、特開平9−241644号公報(EP885272A1明細書)、特開平9−302346号公報(EP806466A1明細書)、特開平8−199168号公報(EP722998A1明細書)、特開平9−235552号公報、特開平9−255956号公報、特開平9−241643号公報(EP885271A1明細書)、特開平10−204016号公報(EP844229A1明細書)、特開平10−204436号公報、特開平10−231482号公報、特開2000−087040号公報、特開2001−48822号公報等に開示されている。
【0180】
前記液晶組成物には、誘電率異方性が負の各種の液晶組成物を用いることができる。このような液晶組成物の好ましい例は、特開昭57−114532号公報、特開平2−4725号公報、特開平4−224885号公報、特開平8−40953号公報、特開平8−104869号公報、特開平10−168076号公報、特開平10−168453号公報、特開平10−236989号公報、特開平10−236990号公報、特開平10−236992号公報、特開平10−236993号公報、特開平10−236994号公報、特開平10−237000号公報、特開平10−237004号公報、特開平10−237024号公報、特開平10−237035号公報、特開平10−237075号公報、特開平10−237076号公報、特開平10−237448号公報(EP967261A1明細書)、特開平10−287874号公報、特開平10−287875号公報、特開平10−291945号公報、特開平11−029581号公報、特開平11−080049号公報、特開2000−256307号公報、特開2001−019965号公報、特開2001−072626号公報、特開2001−192657号公報等に開示されている。
【0181】
前記誘電率異方性が正又は負の液晶組成物に一種以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0182】
一対の基板において、それぞれの基板に形成された本発明の液晶配向膜の相対的な配向方向は、表示方式に応じ最適な角度にする。例えばTNモードの場合、この値は90度であり、IPSモードの場合0度である。
【0183】
また本発明の液晶表示素子は、液晶表示素子の種類に応じてさらなる他の部材を有していても良い。例えばカラー表示の薄膜トランジスタ(TFT)を使用した液晶素子においては、第1の透明基板上にはTFT、絶縁膜、保護膜及び画素電極等が形成されており、第2の透明基板上には画素領域以外の光を遮断するブラックマトリクス、カラーフィルター、平坦化膜及び画素電極等を有する。またIPSモードにおいては、電極を持たない透明基板上に、ブラックマトリクス、カラーフィルター、平坦化膜等を有する。他方に設置された櫛歯状の電極は、例えばガラス等の透明基板上にCr等の金属のスパッタリング法等を用いて堆積した後、所定の形状のレジストパターンをマスクとしてエッチングを行って形成される。
【0184】
さらにVAモードにおいては、透明基板上に微小な突起物を形成させる場合(いわゆるMVAモード)があるが、本発明の液晶配向膜を用いれば、マスキングを併用した光照射処理により、液晶の配向方向のマルチドメイン化が実施できる。
【実施例】
【0185】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお実施例及び比較例で用いるジアミン及びテトラカルボン酸二無水物を以下の表1に示す。化合物1−1、PMDA(A−1)、及びCBTA(A−14)は市販の化合物を精製して実験に用いた。下記化合物1−7、30、31、及び1−8はそれぞれ、Journal of Physical Organic Chemistry、Vol.4、No.11、693(1991)、特開2004−67589号公報(実施例2)、特開2002−162630号公報(実施例2(「4−(4−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル)ベンゼン」の代わりに「4−(4−(4−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル)ベンゼン」を使用))、及びJournal of
Polymer Science、Part A、Vol.24、793(1986)に従って合成した。化合物VI−1は市販品を再結晶して用いた。化合物A−21は特開昭58−109479号公報に従って合成した。ポリマーの調製は窒素気流中で行った。
【0186】
【表1】

【0187】
【化44】

【0188】
<電圧保持率>
「水嶋他、第14回液晶討論会予稿集 p78(1988)」に記載の方法で行った。測定は、波高±4.5Vの矩形波をセルに印加して行った。測定は60℃で行った。この値は、印加した電荷がフレーム周期後どの程度保持されているかを示す指標であり、この値が100%ならば全ての電荷が保持されていることを示す。
【0189】
<液晶中のイオン量測定(イオン密度)>
応用物理、第65巻、第10号、1065(1996)に記載の方法に従い、東陽テクニカ社製、液晶物性測定システム6254型を用いて測定した。周波数0.01Hzの三角波を用い、±10Vの電圧範囲、温度60℃で測定した。イオン密度が大きいとイオン性不純物による焼き付き等の不具合が発生しやすい。即ちイオン密度は焼き付き発生を予測する指標となる物性値である。
【0190】
<イミド化率>
FT−IR装置(分光器:日本分光FT−IR610)を用い、測定温度25℃、積算100回の条件で測定した。280℃において60分間焼成を行った場合のイミド化率を100%とし、1,780cm-1のイミド基に由来するシグナルと1,520cm-1の芳香環に由来するシグナルとの面積比から求めた。
【0191】
<表面エネルギー>
特開2004−143051号公報の記載(実施例における「(4)表面エネルギーの測定」)に従って、純水、及びエチレングリコールを用いて測定した。
【0192】
<重量平均分子量(Mw)>
液晶配向剤におけるポリアミック酸の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーシ
ョン・クロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶出液として0.6重量%リン酸含有DMFを用い、カラム温度50℃、ポリスチレンを標準溶液として測定した。
【0193】
合成例1(液晶配向剤V1の調製)
200mLの四つ口フラスコに化合物1−1(2.4659g、11.62mmol)を入れ、NMP50gに溶解した。反応系の温度を室温に保ちながら化合物A−1(2.5341g、11.62mmol)を加え一晩反応させた。得られたワニスにBCSを10g、γ−ブチロラクトンを30g、N−メチル−2−ピロリジノンを5g加え約80度に加熱した。粘度が約31mPa・sになるまで該温度で攪拌し、高分子成分の濃度が約5重量%のポリアミック酸の液晶配向剤V1を調製した。このV1におけるポリアミック酸の重量平均分子量Mwは24,600であった。
【0194】
合成例2〜11(液晶配向剤V2〜V11の調製)
BCS及びγ−ブチロラクトンをNMPに置き換えたこと以外は実施例1と同様な方法によって、以下の表2に示す液晶配向剤を調製した。
【0195】
【表2】

【0196】
液晶配向剤V1、V2、V4、及びV5のそれぞれを膜としたときの表面エネルギー測定
V1にNMPを加え、3重量%溶液を得た。これらをガラス基板にスピンナー法により塗布した(2,100rpm、15秒)。塗布後基板を80℃で3分間加熱し溶媒を蒸発させた後、さらにオーブン中で230℃30分間加熱処理し、膜厚約60nmの膜を得た。得られた膜の接触角を、純水とエチレングリコール(EG)とを用いて測定し、得られた接触角の値から表面エネルギーを求めた。さらにV2、V4、V5の各液晶配向剤についてもV1と同様にそれぞれの膜を形成し、得られたそれぞれの膜の表面エネルギーを求めた。得られた接触角及び表面エネルギーの値を以下の表3に示す。
【0197】
【表3】

【0198】
実施例1
得られた液晶配向剤V1とV2の混合物(重量比;V1:V2=95.8:4.2)をNMPで希釈してポリアミック酸の濃度を総量で1.6重量%とし、液晶配向剤1を得た。
【0199】
赤外光の吸光度、液晶配向膜の膜厚の測定及び配向指数Δの算出
液晶配向剤1をCaF2基板(厚さ2mm)上にスピンナーにて塗布した。塗布条件は3,000rpm、60秒であった。塗膜後、ホットプレートにて90℃で5分間乾燥させ、その後ウシオ電機株式会社製の500W Deep UVランプ(UXM−501MD)を光源とし、光照射を行った。照射した光の波長領域は透過波長域340〜500nmのバンドパスフィルター(朝日分光株式会社製)を透過させることにより340〜500nmとした。
【0200】
はじめにグランテーラー偏光プリズムを通して直線偏光とした光を、基板面に対して垂直方向から照射した。その照射量は156J/cm2であった。次に、1回目の直線偏光の照射における光の偏光方向に垂直な面を入射面とし、入射角(基板法線から定義)45度で無偏光の光の照射を行った。その照射量は221J/cm2であった。その後、光照射された試料を窒素雰囲気中250℃にて60分間加熱処理を行って液晶配向膜を形成した。
【0201】
イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAと液晶配向膜の膜厚dは、光照射をしない以外は同一の工程で作製したポリアミック酸膜及びポリイミド膜の厚さを、株式会社島津製作所製の自動偏光解析装置(AEP−100)を用いて、測定波長632.8nm(He−Neレーザー)、入射角62.5度で測定して決定したところ、それぞれdPAA=18nm、d=11nmであった。イミド化前後の膜厚の比から、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは0.61あった。
【0202】
得られた液晶配向膜の赤外線吸収スペクトルの測定は、FT−IR装置(分光器:Mattson Galaxy 3020、検出器:mercury cadmium telluride)を用いて積算400回の条件で測定した。
【0203】
偏光子を透過した赤外光を液晶配向膜の基板面垂直方向から照射した。ポリイミド主鎖の平均配向方向と偏光方向とが平行で測定したときの赤外光スペクトル及び垂直で測定したときの赤外光スペクトルを測定した。平行と垂直で測定した赤外光スペクトルのC−N−C伸縮振動に帰属される1,360cm-1付近の吸収バンドの積分値A‖及びA⊥を用いた。A‖は0.390でありA⊥は0.174であった。
【0204】
イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αを求めるために、液晶配向剤1をCaF2基板(厚さ2mm)上にスピンナーにて塗布した。塗布条件は3,000rpm、60秒であった。光照射を施さないポリアミック酸膜の膜厚を測定したところ、18nmであった。
【0205】
また、垂直透過配置で前記のイミド化前のポリアミック酸膜の紫外・可視吸収スペクトルを測定したところ、波長364nmの吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.25であった。式(3)より、イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.032と求まる。紫外・可視吸収スペクトルは、例えば紫外・可視分光光度計(島津MPS−2000)等で測定できる。
【0206】
α=0.032、γ=0.61から、該液晶配向膜の光配向処理された領域の実効膜厚d’は19nmであった。膜厚dが11nmであるので、d<d’であるからd/d’=
1とすることができる。したがって、(|A‖−A⊥|)及び(A⊥+A‖)の値より計算すると、液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δは0.38であった。
【0207】
液晶のプレチルト角の測定
同じ条件で液晶配向膜を作製した一対のCaF2基板(3cm×3cm)を、厚さ25μmのポリエステルフィルムをスペーサとして挟持するように、液晶配向膜を形成した面を内側にして対向させ、アンチパラレルセルを作製した。ここでいうアンチパラレルセルとは、基板に塗布されたポリアミック酸の膜に光配向処理を行ったとき、無偏光の照射方向が平行かつ反対になるように組んだセルを意味する。
【0208】
前記セルに下記構造式で表されるシアノビフェニル液晶(5CB)を80℃で注入し、室温まで徐冷してプレチルト角測定用セル(液晶表示素子)を作製した。作製したプレチルト角測定用セルの液晶のプレチルト角を測定したところ、プレチルト角は3.6度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。プレチルト角はクリスタルローテーション法でHe−Neレーザー(発振波長632.8nm)を用いて測定した。プレチルト角の測定時の温度は26℃であった。5CBのNI点(ネマティック・等方相転移温度)は35℃であり、測定時の温度26℃、波長632.8nmでの屈折率はne=1.707(異常光)、no=1.531(常光)であった。
【0209】
【化45】

【0210】
また偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良は全く観察されなかった。偏光顕微鏡観察は、倍率が100倍、クロスニコル条件で行った。
【0211】
実施例2
実施例1における液晶配向剤の重量比をV1:V2=91.5:8.5とした以外は、実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚12nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは18nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは0.67であった。イミド化前のポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.24であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.031であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は22nmであった。A‖は0.379でありA⊥は0.185であった。
【0212】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.34であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ4.3度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0213】
実施例3
実施例1における液晶配向剤の重量比をV1:V2=87:13とした以外は、実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚12nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは19nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.63であった。イミド化前のポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.24であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.029であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は22nmであっ
た。A‖は0.367でありA⊥は0.171であった。
【0214】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.36であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ7.3度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0215】
実施例4
実施例1における液晶配向剤の重量比をV1:V2=78:22とした以外は、実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚12nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは18nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.67であった。イミド化前のポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.23であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.029であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は23nmであった。A‖は0.322でありA⊥は0.166であった。
【0216】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.32であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ10.9度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0217】
実施例5
実施例1における液晶配向剤の重量比をV1:V2=34:66とした以外は、実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚13nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは18nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.72であった。イミド化前のポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.18であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.023であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は31nmであった。A‖は0.281でありA⊥は0.192であった。
【0218】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.19であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ84.7度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0219】
実施例6
実施例1における液晶配向剤の重量比をV1:V2=26:74とした以外は、実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚13nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは18nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.72であった。イミド化前のポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.18であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.023であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は31nmであった。A‖は0.259でありA⊥は0.184であった。
【0220】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.17であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ86.2度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光
の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0221】
実施例7
実施例1における液晶配向剤の重量比をV1:V2=17:83とした以外は、実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚12nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは17nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.71であった。イミド化前のポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.15であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.020であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は36nmであった。A‖は0.242でありA⊥は0.178であった。
【0222】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.15であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ87.5度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0223】
実施例8
実施例1における液晶配向剤の重量比をV1:V2=9.1:90.9とした以外は、実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚13nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは17nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.76であった。イミド化前のポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.14であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.019であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は40nmであった。A‖は0.218でありA⊥は0.165であった。
【0224】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.14であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ87.9度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0225】
比較例1
実施例1における液晶配向剤の代わりに、液晶配向剤V3を用いた以外は実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚10nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは17nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.59であった。膜厚59nmのポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))0.50から求めたポリアミック酸膜の吸収係数αは0.020であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は30nmであった。膜厚10nmの液晶配向膜のA‖は0.347でありA⊥は0.210であった。
【0226】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.25であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ5.8度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。しかしながら偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において、液晶の配向不良によるドメインが数個程度観察された。
【0227】
比較例2
実施例1における液晶配向剤の代わりに、液晶配向剤V1を用いた以外は実施例1に準
じた方法でCaF2基板上に膜厚10nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは16nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.63であった。膜厚32nmのポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))0.39から求めたポリアミック酸膜の吸収係数αは0.028であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は23nmであった。膜厚10nmの液晶配向膜のA‖は0.450でありA⊥は0.260であった。
【0228】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.27であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ1.4度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0229】
比較例3
実施例1における液晶配向剤の代わりに、液晶配向剤V2を用いた以外は実施例1に準じた方法でCaF2基板上に膜厚10nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは15nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.67であった。イミド化前のポリアミック酸膜の波長364nmにおける吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.12であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.019であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は35nmであった。A‖は0.190でありA⊥は0.138であった。
【0230】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを算出したところ0.16であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ88.2度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。偏光顕微鏡観察の結果、測定したセルの全領域中において液晶の配向不良によるドメインは全く観察されなかった。
【0231】
比較例4
液晶配向剤V1を用い、窒素雰囲気中250℃にて60分間加熱処理を行った後に直線偏光とした光を基板面に対して垂直方向から照射する以外は、すなわちポリアミック酸膜を熱によってイミド化した後に直線偏光の紫外光を照射する以外は、実施例1に準じた方法で一対の液晶配向膜を形成した。
【0232】
次いで、実験例1に準じた方法で、プレチルト角を測定しようとしたが、配向不良のため、プレチルト角と配向指数Δの測定を実施しなかった。
【0233】
実施例1〜8及び比較例1、4の結果から、主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸を2成分混合した本発明の液晶配向膜を用い、光の照射によってポリアミック酸を所定の方向に配向させた後イミド化することにより、3度以上90度未満のプレチルト角を持ち、配向欠陥のない液晶表示素子が得られることがわかる。
【0234】
また主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸を2成分混合した本発明の液晶配向膜を用いることにより、1成分の主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸から作製した液晶配向膜に比べ、配向欠陥を発生することなく、プレチルト角を発現できることがわかる。
【0235】
実施例1〜8及び比較例2、3の結果から、主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸の2成分の混合比を変えた本発明の液晶配向膜を用いることにより、1成分の主鎖にアゾ基を含
むポリアミック酸から作製した液晶配向膜よりも広い範囲でプレチルト角を制御できることがわかる。
【0236】
実施例9
サンプル瓶に液晶配向剤V4とV5との混合物(重量比;V4:V5=90:10)3g計り取り、BCを加え5gとした。片面にITO電極を設けた透明ガラス基板(2cm×3cm)上に、この約3重量%のポリアミック酸溶液を滴下し、スピンナー法により塗布した(2,300rpm、15秒)。塗布後基板を80℃で5分間加熱し溶媒を蒸発させた後、基板平面を光源に対して70度傾け、無偏光を照射した(365nmでエネルギー約5J/cm2)。光照射後の基板を230℃で30分間加熱処理し、膜厚約60nmの液晶配向膜を得た。ITO電極上に上記の液晶配向膜が形成された基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、さらに対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入させるための空隙を形成して合わせ、セル厚10μmの液晶セルC1(液晶表示素子)を組み立てた。ガラスの張り合わせ方向は、傾斜させた方向を左右とし傾斜させた方向と垂直な方向を上下とした時、左右を反対に上下を同一にして行った。このセルに下記に示す液晶組成物を注入した。
【0237】
【化46】

【0238】
この液晶セルC1を110℃で10分間アイソトロピック処理を行い室温まで冷却した。この液晶セルC1を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルを回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。この液晶セルC1のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、89.4度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。またこの液晶セルC1に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に配向欠陥は観察されずきれいな配向が得られた。またこの状態で液晶セルC1を回転させたとき明瞭な明暗が観察され
た。
本実施例では、偏光顕微鏡観察は、倍率が100倍、クロスニコルの条件で行った。
【0239】
この液晶セルC1のVHRは30Hzで98.9%、0.3Hzで89.3%であり、イオン密度は256pCであった。
【0240】
実施例10
実施例9で使用した液晶配向剤に、特開2004−341030号公報にBANI−Mとして記載の下記化合物(20)を、液晶配向剤に対して20重量%加えて溶解させた以外は実施例9と同様にして液晶セルC1’を作製した。
【0241】
【化47】

【0242】
この液晶セルC1’を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルC1’を回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。この液晶セルC1’のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、89.5度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。またこの液晶セルC1’に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に配向欠陥は観察されずきれいな配向が得られた。またこの状態で液晶セルC1’を回転させたとき明瞭な明暗が観察された。
【0243】
この液晶セルC1’のVHRは30Hzで99.2%、0.3Hzで92.4%であり、イオン密度は147pCであった。
【0244】
このポリイミド膜のイミド化率を測定したところ54%であった。
【0245】
実施例11
液晶配向剤をV6とV5との混合物(重量比;V6:V5=80:20)に変えた以外は実施例9と同様にして液晶セルC2を作製した。この液晶セルC2を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルC2を回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。この液晶セルC2のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、89.3度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。またこの液晶セルC2に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に配向欠陥は観察されずきれいな配向が得られた。またこの状態で液晶セルC2を回転させたとき明瞭な明暗が観察された。
【0246】
この液晶セルC2のVHRは30Hzで99.0%、0.3Hzで89.4%であり、イオン密度は432pCであった。
【0247】
実施例12
液晶配向剤をV7とV5との混合物(重量比;V7:V5=90:10)に変えた以外は実施例9と同様にして液晶セルC3を作製した。この液晶セルC3を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルC3を回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。この液晶セルC3のプレチルト角を前記
の方法で測定したところ、89.7度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。またこの液晶セルC3に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に配向欠陥は観察されずきれいな配向が得られた。またこの状態で液晶セルC3を回転させたとき明瞭な明暗が観察された。
【0248】
この液晶セルC3のVHRは30Hzで98.2%、0.3Hzで87.5%であり、イオン密度は670pCであった。
【0249】
実施例13
液晶配向剤をV8とV5との混合物(重量比;V8:V5=90:10)に変えた以外は実施例9と同様にして液晶セルC4を作製した。この液晶セルC4を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルC4を回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。この液晶セルC4のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、89.4度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。またこの液晶セルC4に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に配向欠陥は観察されずきれいな配向が得られた。またこの状態で液晶セルC4を回転させたとき明瞭な明暗が観察された。
【0250】
この液晶セルC4のVHRは30Hzで89.7%、0.3Hzで88.7%であり、イオン密度は379pCであった。
【0251】
実施例14
液晶配向剤をV9とV5との混合物(重量比;V9:V5=90:10)に変えた以外は実施例9と同様にして液晶セルC5を作製した。この液晶セルC5を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルC5を回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。この液晶セルC5のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、89.5度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。またこの液晶セルC5に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に配向欠陥は観察されずきれいな配向が得られた。またこの状態で液晶セルC5を回転させたとき明瞭な明暗が観察された。
【0252】
この液晶セルC5のVHRは30Hzで99.0%、0.3Hzで91.3%であり、イオン密度は250pCであった。
【0253】
実施例15
基板の傾斜角を45度に変えた以外は、実施例9と同様に液晶セルC1−2を作製した。この液晶セルC1−2を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルC1−2を回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。この液晶セルC1−2のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、88.9度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。またこの液晶セルC1−2に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に配向欠陥は観察されずきれいな配向が得られた。またこの状態で液晶セルC1−2を回転させたとき明瞭な明暗が観察された。
【0254】
比較例5
液晶配向剤V4とV5の混合物をV10とV5との混合物(重量比;V10:V5=90:10)に変えた以外は実施例9と同様に液晶セルC6を作製した。この液晶セルC6を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルC6を回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。
【0255】
この液晶セルC6のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、90.0度であった。またこの液晶セルC6に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、液晶セルC6、全体にシュリーレン組織が観察された。つまり全く液晶が配向していなかった。
【0256】
比較例6
液晶配向剤V4とV5の混合物をV4とV11との混合物(重量比;V4:V11=90:10)に変えた以外は実施例9と同様に液晶セルC7を作製した。この液晶セルC7を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルを回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。
【0257】
この液晶セルC7のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、90.0度であった。またこの液晶セルC7に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、液晶セルC7全体にシュリーレン組織が観察された。つまり全く液晶が配向していなかった。
【0258】
比較例7
実施例9において、無偏光の照射と230℃30分間の加熱処理の順番を逆にした以外は、実施例9と同様に液晶セルC8を作製した。この液晶セルC8を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルを回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。
【0259】
この液晶セルC8のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、89.9度であった。またこの液晶セルC8に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に数個、配向不良が観察された。
【0260】
比較例8
実施例9において、無偏光の照射の変わりに直線偏光のみを照射した。直線偏光の偏光方向は基板を傾けた方向に対し垂直方向、すなわちS偏光とした。この条件では基板を傾けた方向に対してポリマー主鎖が配向している。これ以外は、実施例9と同様に液晶セルC9を作製した。この液晶セルC9を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルを回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。
【0261】
この液晶セルC9のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、90.0度であった。またこの液晶セルC9に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、シュリーレン組織が観察された。すなわち液晶は、全く配向していなかった。またこの状態で液晶セルC9を回転させたときわずかに明暗が観察された。
【0262】
比較例9
実施例9において、V4とV5との混合物の代わりにV5のみ3g計り取り、BCを加え5gとした。この液晶配向剤を用いる以外は、実施例9と同様に液晶セルC10を作製した。この液晶セルC10を偏光顕微鏡で観察したところ、クロスニコル状態で液晶セルを回転させても暗状態は変化せず、また液晶の配向欠陥による光抜けも観察されなかった。
【0263】
この液晶セルC10のプレチルト角を前記の方法で測定したところ、89.5度であった。またこの液晶セルC10に電圧(5V)を印加して偏光顕微鏡で観察したところ、セルの全領域中に配向欠陥は観察されずきれいな配向が得られた。またこの状態で液晶セルC10を回転させたとき明瞭な明暗が観察された。
【0264】
この液晶セルC10のVHRは30Hzで95.6%、0.3Hzで80.1%であり
、イオン密度は1250pCであった。
【0265】
実施例9〜15及び比較例5〜8の結果から、アゾ基を主鎖に持つポリアミック酸を、特定の角度から無偏光を照射したのち、熱イミド化した液晶配向膜を用いることで、ガラス基板に対して垂直に配向した液晶にプレチルト角を発現することができ、良好な表示が可能なVAモード液晶表示素子が得られること分かる。また比較例9の結果から、本発明の主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸を二以上含有する液晶配向剤から製作された液晶配向膜は、1種類のポリアミック酸を含有する液晶配向剤から製作されたものに比べ、良い電気特性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸又はその誘導体を二以上含有し、前記ポリアミック酸又はその誘導体は、前記ポリアミック酸又はその誘導体の各々を熱イミド化することにより製造されたそれぞれの膜の表面エネルギーの順位が隣り合い、かつ表面エネルギーの差が2mJ/m2以上である二つのポリアミック酸又はその誘導体を含むことを特徴とする液晶配向剤。
【請求項2】
前記ポリアミック酸又はその誘導体はジアミンとテトラカルボン酸二無水物との反応生成物であり、前記ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の一方又は両方がアゾ基を有する化合物を含み、アゾ基を有するジアミンが以下の構造式(1−1)〜(1−7)の化合物の一以上であり、アゾ基を有するテトラカルボン酸二無水物が以下の構造式(1−8)の化合物である請求項1に記載の液晶配向剤。
【化1】

【請求項3】
アゾ基を有するジアミンが前記構造式(1−1)及び(1−7)の化合物の一方又は両方であり、アゾ基を有するテトラカルボン酸二無水物が前記構造式(1−8)の化合物である請求項2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記ジアミンが以下の一般式(2)で表されるジアミンを含む請求項2又は3に記載の液晶配向剤。
【化2】

(一般式(2)中、R1は下記一般式(3)及び(4)で表される基から選ばれる二価の有機基を表す。)
【化3】

(一般式(3)中、X1及びX2は単結合、O、COO、OCO、NH、CONH又は炭素数1〜12のアルキレンを表し、G1及びG2は単結合、又は炭素数3〜12の芳香族環及び脂環式環から選ばれる1〜3個の環を含む二価の基を表し、R4はH、F、CN、OH又は炭素数1〜30のアルキル、ペルフルオロアルキル若しくはアルコキシを表す。ただし、X1、G1、X2、及びG2の全てが単結合である場合は、R4は炭素数3〜30のアルキル、ペルフルオロアルキル若しくはアルコキシであり、G2が単結合でありX2が単結合でもなくアルキレンでもない場合は、R4はH又はアルキルであり、またG1及びG2が共に単結合である場合は、X1、X2及びR4の合計の炭素数が3以上である。)
【化4】

(一般式(4)中、R5はH又は炭素数1〜12のアルキルを表し、環A1はそれぞれ独立して1,4−フェニレン又は1,4−シクロへキシレンを表し、Z1及びZ2はそれぞれ独立して単結合、CH2、CH2CH2又はOを表し、rは0〜3の整数、sはそれぞれ独立して0〜5の整数、t1は0〜3の整数、t2は0〜3の整数を表す。また、1,4−フェニレン又は1,4−シクロへキシレンの任意のHは炭素数1〜4のアルキルで置き換えられていてもよい。)
【請求項5】
前記ジアミンが以下の一般式(3−1)又は(3−2)で表されるジアミンを含む請求項4に記載の液晶配向剤。
【化5】

(一般式(3−1)及び(3−2)中、Rは炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【請求項6】
前記ジアミンが4,4’−ジアミノジフェニルメタンである請求項2〜5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記テトラカルボン酸二無水物が下記一般式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含む請求項2〜6のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化6】

(一般式(5)中、R2は下記一般式(6)〜(14)で表される基から選ばれる四価の基を表す。)
【化7】

(一般式(6)中、G3は単結合、炭素数1〜12のアルキレン、1,4−フェニレン、又は1,4−シクロヘキシレンを表し、X3及びX4はそれぞれ単結合又はCH2を表す。)
【化8】

(一般式(7)中、R10、R11、R12、及びR13はそれぞれH、メチル、エチル、又はフ
ェニルを表す。)
【化9】

(一般式(8)中、環A2はシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。)
【化10】

(一般式(9)中、G4は単結合、CH2、CH2CH2、O、CO、S、C(CH32、又はC(CF32を表し、環A3はそれぞれ独立してシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。)
【化11】

(一般式(10)中、R14はH又はメチルを表す。)
【化12】

(一般式(11)中、X5はそれぞれ独立して単結合又はCH2を表し、vは1又は2を表す。)
【化13】

(一般式(12)中、X6は単結合又はCH2を表す。)
【化14】

(一般式(13)中、R15はH、メチル、エチル、又はフェニルを表し、環A4はシクロヘキサン環又はベンゼン環を表す。)
【化15】

(一般式(14)中、w1及びw2はそれぞれ独立して0又は1を表す。ただしw1=1でw2=0であることはない。)
【請求項8】
前記テトラカルボン酸二無水物が、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、及び2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物の一以上を含む請求項7に記載の液晶光配向剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の液晶配向剤の膜中のポリアミック酸又はその誘導体を光の照射によって所定の方向に配向させた後、熱イミド化することにより製造された液晶配向膜。
【請求項10】
下記式1で求められる液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の配向指数Δが0.03〜1.00の範囲である事を特徴とする請求項9に記載の液晶配向膜。
Δ=(|A‖−A⊥|)/(A‖+A⊥)×d/d’ (1)
(式(1)中、A‖は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が平行になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm-1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、A⊥は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が垂直になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm-1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、dは液晶配向膜の膜厚を表し、d’は液晶配向膜の光配向処理された領域の実効膜厚を表す。)
【請求項11】
1度から15度の範囲のプレチルト角を発現する請求項9又は10に記載の液晶配向膜。
【請求項12】
80.0度から89.7度の範囲のプレチルト角を発現する請求項9又は10に記載の液晶配向膜。
【請求項13】
対向配置されている一対の基板と、該基板の対向している面の一方又は両方に形成されている液晶配向膜と、該液晶配向膜間に形成されている液晶層と、該液晶層中の液晶組成物に電圧を印加するための電極とを有する液晶表示素子において、液晶配向膜の一方又は
両方が請求項9〜12のいずれか一項に記載の液晶配向膜であることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項14】
請求項9〜12のいずれか一項に記載の液晶配向膜を製造する方法であって、
前記液晶配向剤の膜に光を照射して膜中の前記ポリアミック酸又はその誘導体を配向させる工程と、
ポリアミック酸又はその誘導体を配向させた前記液晶配向剤の膜を加熱して前記ポリアミック酸又はその誘導体をイミド化させる工程とを含み、
前記光配向工程は、前記膜の表面に対して斜めの方向から光を前記膜に照射する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記光配向工程は、前記液晶配向剤の膜に、この膜の表面に対して垂直な方向から直線偏光を照射して、膜中の前記ポリアミック酸又はその誘導体を水平方向に配向させる工程と、
この工程で得られた膜に、前記直線偏光の偏光方向に対して垂直な面を入射面として、前記膜の表面に対して斜めの方向から光を前記膜に照射する工程とを含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記膜に斜めの方向から照射される光が無偏光である請求項14又は15に記載の方法。

【公開番号】特開2009−69493(P2009−69493A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238018(P2007−238018)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(591141784)学校法人大阪産業大学 (49)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】