説明

液晶配向用基板

【課題】 OCBセル内のカイラル剤無添加の液晶を通常の駆動電圧で高速にスプレイ‐ベンド転移させることができ、かつ、通常のプロセスでの製造が容易である液晶配向用基板を提供する。
【解決手段】 透明基板6上に、電気的駆動手段の層7を介して、配向膜8を有する液晶配向用基板において、前記配向膜の表面を、相異なる直線的な面内配向方向をもつ複数の配向領域9、10に分かち、これら配向領域の境界の少なくとも一部を傾斜境界11、すなわちこれを挟む二配向領域のいずれの面内配向方向とも非平行でかついずれか一方の面内配向方向と非直交である境界とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は低電圧駆動が可能であること、薄型・軽量であることから、情報表示手段として広く普及している。LCDの問題点として、視角特性が悪いこと、応答速度が遅いことが挙げられてきた。この問題を解決するため、図10に示すような基本的な素子配置構造をもつOCB(Optically Compensated Bend:光学補償ベンド)モードが提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
OCBモードでは、このOCBモードに用いる液晶セル(OCBセル)が、初期状態において図11(a)に示すスプレイ配向をとっているので、駆動前にスプレイ配向から図11(b)に示すベンド配向へ転移させる必要がある。しかしながら、スプレイ、ベンドの両配向状態間には高いエネルギー障壁があり、通常、液晶駆動時の電圧(6V以下程度)を印加しただけでは、スプレイ配向からベンド配向への転移(以下、スプレイ‐ベンド転移という)は起こりにくい。そこで、従来、スプレイ‐ベンド転移をできるだけ短時間で終わらせる方法が種々検討され、以下のような技術が知られている。
(1)10.4インチのVGA‐OCB‐TFTパネルにおいて、コモン電極に電圧パルス(50Hz、パルス高20V)を加え、Cs電極に−10Vを印加すると、2秒以内にスプレイ‐ベンド転移が完了した(非特許文献1)。
(2)新しく提案したTFTの配列構造を有するポリシリコンTFT‐OCB‐LCDにおいて、コモン電極にDC電圧18Vを印加すると、3秒以内にスプレイ‐ベンド転移が完了した(非特許文献2)。
(3)LCDにおいて、光が透過しない部分を高プレティルト(85°〜89°)に、光が透過する部分を低プレティルト(5°)に設定し、電圧を印加すると、その高プレティルト領域から低プレティルト領域へベンド配向が広がる。この方式を用いることにより、OCB‐TFT‐LCDにおいて印加電圧6Vの場合、数秒でスプレイ‐ベンド転移が完了した(非特許文献3)。
(4)LCDにおいて、光が透過しない部分にπ/2ツイスト配向を形成し、液晶にカイラル剤を添加する。電圧を印加すると、π/2ツイスト配向領域からスプレイ配向領域へベンド配向が広がる。この方式を用いることにより、OCB‐TFT‐LCDにおいて2秒以内にスプレイ‐ベンド転移が完了した(非特許文献4)。
(5)配向膜の表面に、大部分を占める平行配向域と、幅30μm以下の曲帯状の曲がり配向域および/または直径30μm以下の円形状の回転配向域とを形成することにより、右ねじれ配向と左ねじれ配向との不連続境界をなすディスクリネーションラインが形成され、これが核となって、通常の駆動電圧(6V程度以下)でスプレイ‐ベンド転移が高速かつ確実に起こる(特許文献2)。
【特許文献1】特許第3504480号公報
【特許文献2】特開2004−37615号公報
【非特許文献1】末岡、中村、平:AM‐LCD’96/IDW’96p.133 1996年
【非特許文献2】小間、宮下、内田:SID’99p.28 1999年
【非特許文献3】長江、山田、石井、宮下、内田:Asia Display/IDW’01p.363 2001年
【非特許文献4】井上、宮下、内田、山田、石井:Journal of the SID 11/3 2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記(1)、(2)の方式では、通常の駆動電圧よりも高い電圧を印加しなければ上述のエネルギー障壁を乗り越えることができない。そのため、通常の駆動回路に加え、それよりも高い電圧を印加するための高電圧印加回路をLCDに別設しなけらばならず、小型化・軽量化の阻害要因となる憂いがあった。また、場合によっては転移が起こらない画素が残るという問題があった。
【0005】
これに対し、前記(3)〜(5)の方式によれば、通常の駆動電圧でスプレイ‐ベンド転移が起こる。しかし、(3)の方式では、画素内に部分的に高プレティルト領域を設けるために、水平配向膜形成後に部分的に垂直配向膜を形成するか、もしくは、特殊な配向膜材料を用いた相分離を利用する必要があり、使用できる配向膜材料が制限される問題や、これに付随して生産工程も制限される問題がある。
【0006】
また、(4)の方式では、液晶にカイラル剤を添加する必要があるため、このカイラル剤により液晶表示装置の応答速度や視野角に影響を与える可能性がある。また、(5)の方式では、配向膜に曲がり配向域や回転配向域を形成する必要があり、かかる曲線状の配向域を形成するのは通常の製造プロセスでは困難な場合があって、実用化されにくいという憂いがある。
【0007】
本発明は、上記の問題や憂いを解消し、OCBセル内のカイラル剤無添加の液晶を通常の駆動電圧で高速にスプレイ‐ベンド転移させることができ、かつ、通常のプロセスでの製造が容易である液晶配向用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成した本発明は、以下のとおりである。
(発明項1) 透明基板上に、電気的駆動手段の層を介して、配向膜を有する液晶配向用基板において、前記配向膜の表面は、相異なる直線的な面内配向方向をもつ複数の配向領域に分かれ、これら配向領域の境界は、その少なくとも一部が傾斜境界、すなわちこれを挟む二配向領域のいずれの面内配向方向とも非平行でかついずれか一方の面内配向方向と非直交である境界であることを特徴とする液晶配向用基板。
(発明項2) 前記電気的駆動手段の層に代えて、光学素子の層および電気的駆動手段の層としたことを特徴とする発明項1記載の液晶配向用基板。
(発明項3) 前記複数の配向領域が、縦横の格子縞状のクロスエリアまたは該クロスエリアの分割部分、および該クロスエリアの外側であることを特徴とする発明項1または2に記載の液晶配向用基板。
(発明項4) 前記クロスエリアの縦縞および横縞は、下記1)、2)のいずれかの配線長さ方向と平行であることを特徴とする発明項3記載の液晶配向用基板。
【0009】

1)該クロスエリアを有する配向膜の下層の電気的駆動手段として設けられたアクティブマトリクスの配線長さ方向
2)該クロスエリアを有する配向膜と液晶層を介して対向する基板の電気的駆動手段として設けられたアクティブマトリクスの配線長さ方向
(発明項5) 透明基板上に、直接あるいは光学素子の層を介して、電気的駆動手段の層を配置し、その上に配向膜を配置してなる基板に配向処理を施す液晶配向用基板の製造方法において、面内処理方向として直線的で相異なる第1、第2あるいはさらに第3の方向を設定し、基板の配向膜表面の全域を第1の方向に配向処理し、ついで、配向膜表面の第1部分をマスクした残りの部分を第2の方向に配向処理し、あるいはその後さらに、配向膜表面の第2部分をマスクした残りの部分を第3の方向に配向処理することを特徴とする液晶配向用基板の製造方法。
(発明項6) 前記第1部分の外側の領域、または、前記第1部分の外側と前記第2部分との合成領域が、縦横の格子縞状のクロスエリアとなるようにこれら第1、第2部分を設定することを特徴とする発明項5記載の液晶配向用基板の製造方法。
(発明項7) 前記クロスエリアの縦縞または横縞を、下記1)、2)のいずれかの配線長さ方向と平行にすることを特徴とする発明項6記載の液晶配向用基板の製造方法。
【0010】

1)該クロスエリアを形成する配向膜の下層の電気的駆動手段として設けられたアクティブマトリクスの配線長さ方向
2)該クロスエリアを形成する配向膜と液晶層を介して対向する基板の電気的駆動手段として設けられたアクティブマトリクスの配線長さ方向
(発明項8) 発明項1〜4のいずれかに記載の液晶配向用基板を用いて構成された光学補償ベンドモードの液晶表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、配向膜の表面が、相異なる直線的な面内配向方向をもつ複数の配向領域に分かれ、これら配向領域の境界は、その少なくとも一部が傾斜境界すなわちこれを挟む二配向領域のいずれの面内配向方向とも非平行でかついずれか一方の面内配向方向と非直交である境界である。この傾斜境界は、スプレイ‐ベンド転移の核生成サイトとして強く働く。これにより、この配向膜を有する液晶配向用基板を用いたOCBセル内のカイラル剤無添加の液晶を通常の駆動電圧で高速にスプレイ‐ベンド転移させることができる。配向膜に付与する面内配向方向は直線的なものであるから、本発明の液晶配向用基板は通常のプロセスによって容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の液晶配向用基板は、例えば図1(a)に示すような層構造を有する。図1(a)において、2は基板(液晶配向用基板)、6は透明基板、7は電気的駆動手段の層、8は配向膜である。透明基板は、例えばガラス、プラスチックまたは熱硬化性樹脂などで構成される。電気的駆動手段は、例えばアクティブマトリクスあるいはこれと対をなす平面電極板で構成される。
【0013】
配向膜の素材は特に限定されず、例えばPI(ポリイミド)膜などの通常用いられているものでよい。配向膜の表面は、相異なる面内配向方向をもつ複数の配向領域に分かれている。配向膜表面の面内配向方向は、該表面がこれに接する液晶分子に及ぼす配向規制力の方向を示す矢印を透明基板表面に正射影してなる矢印で表される。配向膜の表面が、相異なる面内配向方向をもつ複数の配向領域に分かれている点については、特許文献2記載の配向膜と同様であるが、本発明では、いずれの配向領域の面内配向方向も直線的である点、および配向領域の境界全域の少なくとも一部が傾斜境界である点で従来と異なる。
【0014】
図1(b)は傾斜境界の一例を示す平面模式図であり、同図において、8は配向膜(配向膜8の一部分)、9、10は配向領域、9A、10Aは面内配向方向、11は傾斜境界である。傾斜境界11の両側の配向領域9、10の面内配向方向9A、10Aは、直線的で互いに異なるだけでなく、いずれも傾斜境界11に対し非平行でかついずれか一方が傾斜境界11に対し非直交である。すなわち、境界とその両側の面内配向方向とのなす角を対境界傾角α、βと呼ぶものとすると、傾斜境界は、その対境界傾角α、βのいずれか一方が0°超90°以下であり、他方が0°超90°未満である境界である。対境界傾角α、βのいずれか一方が0°であるか、または両方とも90°である境界は、傾斜境界ではないから、スプレイ‐ベンド転移の核生成サイトとして機能しない。なお、図1(b)において面内配向方向9A、10Aの矢印の両方もしくはいずれか一方の向きを逆向きとした場合についても同様である。
【0015】
もっとも、傾斜境界のなかでも、対境界傾角α、βのいずれか一方が10°未満のものは、スプレイ‐ベンド転移の核生成サイトとしての働きが比較的弱い。また、対境界傾角α、βのいずれか一方が90°のものも同様である。したがって、本発明の基板の配向膜表面内の傾斜境界は、対境界傾角α、βの両方が10°以上89°以下の傾斜境界であることが好ましい。ここで、対境界傾角α、βは、次のようにして測定することができる。すなわち、全面に一方向の配向方向Eを有している基板Fと、本発明の基板を対向させ、それらの間を液晶で満たしたセルを作製し、配向領域9、10において液晶層のツイスト角を測定する。これより、配向方向Eと、面内配向方向9A、10Aの成す角がわかる。一方、基板Fが配向処理された方向と、本発明の基板において配向領域9、10を形成した条件から配向方向Eと傾斜境界11の成す角がわかる。ゆえに、傾斜境界11と配向領域9、10の面内配向方向9A、10Aの成す角、すなわち、対境界傾角α、βが求まる。
【0016】
また、本発明の基板は、例えば図2に示すような層構造を有する。これは、図1(a)において透明基板6と電気的駆動手段の層7の間に光学素子の層12を配置したものである。ここで、光学素子としては位相差フィルム、カラーフィルタ等の光学フィルムや反射板などがそれぞれ用途に応じて単独であるいは組み合わされて用いられる。配向膜8には図1(b)と同様な傾斜境界が形成されている。
【0017】
また、本発明では、アクティブマトリクスへの適応性、および製造容易性の観点から、前記複数の配向領域は、例えば図3に示すように、縦横の格子縞状のクロスエリア13の全部と、クロスエリアの外側14とで構成するか、または、例えば図4に示すように、クロスエリア13を分割して形成した複数の分割部分13、13、13と、クロスエリアの外側14とで構成するのが好ましい。
【0018】
図3の配向領域区分形態を得るには、例えば次のようにする。
(第1工程) 全面をクロスエリア13の縦縞と平行になるD1方向に一様に配向処理する。
(第2工程) クロスエリアの外側14とする区域をマスクし、クロスエリア13の横縞と平行になるD2方向に一様に配向処理する。
【0019】
その結果、クロスエリアの外側14は、第1工程のみの影響を受け、その面内配向方向はD1方向になる。また、クロスエリア13は、第1、2工程の影響を受け、その面内配向方向はD1、D2方向の合成方向になる。したがって、この場合、クロスエリア13の横縞の境界が傾斜境界11(図3中に太線で示す)となる。
【0020】
一方、図4の配向区分形態を得るには、例えば次のようにする。
(第1工程) 全面をクロスエリア13の縦縞と平行になるD1方向に一様に配向処理する。
(第2工程) クロスエリアの外側14および分割部分13とする区域をマスクし、クロスエリア13の縦縞と平行になるD2方向に一様に配向処理する。
(第3工程) クロスエリアの外側14および分割部分13とする区域をマスクし、クロスエリア13の横縞と平行(縦縞と垂直)になるD3方向に一様に配向処理する。
【0021】
その結果、クロスエリアの外側14は、第1工程のみの影響を受け、その面内配向方向はD1方向になる。また、分割部分13は、第1、第2工程の影響を受け、その面内配向方向はD1、D2方向の合成方向になる。また、分割部分13は、第1、第3工程の影響を受け、その面内配向方向はD1、D3方向の合成方向になる。また、分割部分13は、第1、第2、第3工程の影響を受け、その面内配向方向はD1、D2、D3方向の合成方向になる。したがって、この場合、分割部分13の境界および分割部分13の境界が傾斜境界11(図4中に太線で示す)となる。
【0022】
なお、図3、図4において、各工程の面内処理方向をクロスエリア13の縦縞または横縞に対し斜めの方向(非平行かつ非垂直の方向)にとることによって、クロスエリア13の境界全域を傾斜境界にすることができる。
【0023】
配向膜に面内配向方向を付与するための具体的な配向処理方法としては、通常行われるラビング法、イオンビーム法、光配向法などのいずれも好ましく用いうる。
【0024】
図5はラビング法の一例を示す立体模式図である。図示のように、ラビングローラ15を用い、まず基板2の表面(配向膜8表面)の全域を第1の方向にラビングする(図5(a))。ここで、ラビングローラ15のローラ回転方向16をこれの基板接触点での方向がx方向(=基板2の1辺に平行な一方向;以下同じ)になるようにとり、基板2の移動方向を反x方向にとると、このx方向が第1の方向になる。次に、所定の部分(非マスク部8A)を残してマスク20をし、第2の方向にラビングする(図5(b))。ここで、ラビングローラ15のローラ回転方向18をこれの基板接触点での方向がy方向(=x方向に垂直な一方向;以下同じ)になるようにとり、基板2の移動方向を反y方向にとると、このy方向が第2の方向になる。その結果、マスク20をした部分の面内配向方向は第1の方向(=x方向)になり、また、非マスク部8Aの面内配向方向は第1の方向(=x方向)と第2の方向(=y方向)の合成方向になるから、マスク20をした部分と非マスク部8Aとの境界が傾斜境界となる。
【0025】
図6はイオンビーム法によるマスク照射の一例を示す立体模式図である。配向膜にマスク20をした基板2に対し、Arイオンを磁場中で加速後中性化してなるAr分子のビームを図示のように面内方向がx方向になる一様なビーム入射方向21で照射することにより、照射前の配向膜の面内配向方向がランダムの場合、非マスク部8Aの面内配向方向は反x方向になる。
【0026】
光配向法は、基板の全面または非マスク部に特定波長の光を照射するものであり、これによれば、光の偏光方向や照射方向を変えることにより、面内配向方向を制御することができる。
【0027】
ところで、図10に示したOCBモードでは、通常、液晶配向用基板2、2の電気的駆動手段として、いずれか一方にアクティブマトリクス、これと対向する他方に単一の平面電極板が用いられる。アクティブマトリクスは、例えば図7に示すように、複数の画素電極22を行列配置し、各画素電極22にゲート配線24の端子を介して信号配線23を接続した電極構造を有する。ここで、信号配線23はy方向に延設(x方向に配列)され、ゲート配線24はx方向に延設(y方向に配列)される。
【0028】
一方、前述のようなクロスエリアを配向膜に形成すると、クロスエリア直上以外の液晶層部分はスプレイ配向の状態となるが、クロスエリア直上の液晶層部分はスプレイ配向、ベンド配向のいずれとも異なる異常配向状態になるため、黒表示の際にクロスエリアの箇所から光漏れが生じ、表示画質を低下させる場合がある。このような光漏れは、クロスエリアをマスクすることにより防止することができるが、クロスエリアの縦縞または横縞がアクティブマトリクスの配線長さ方向(x方向またはy方向)と非平行であると、スプレイ配向、ベンド配向のいずれとも異なる配向が、画素電極上に形成されてしまうため、光漏れが生じる。したがって、クロスエリアの縦縞または横縞は、アクティブマトリクスの配線長さ方向と平行にすることが好ましい。ここでいうところのアクティブマトリクスは、当該クロスエリアを形成する基板の電気的駆動手段として設けられたもの、および当該クロスエリアを形成する基板に対向して配置される基板の電気的駆動手段として設けられたもののうちのいずれかである。
【0029】
なお、アクティブマトリクスの配線領域(信号配線およびゲート配線の設置領域)がマスクされる場合は、この配線領域の内側にクロスエリアの正射影像の全体が収まるような配向膜面内位置にクロスエリアを形成することにより、前記光漏れを防ぐことができる。
【0030】
本発明のOCBモードの液晶表示装置は、本発明の液晶配向用基板を用いて構成されたものであるから、液晶にカイラル剤を添加せずとも通常の駆動電圧で迅速にスプレイ‐ベンド転移を起こすことができる。また、配向膜に対する配向処理は直線的なものでよいから製造も容易である。
【実施例】
【0031】
図10に示した構造をもつOCBモードのLCDに本発明を適用した。セル部の構成材料は、透明基板材料:ガラス、透明電極材料:ITO(インジウム錫酸化物)、配向膜材料:日産化学工業(株)製SE7992、液晶層材料:(株)チッソ製TD6004XX(カイラル剤無添加)とした。透明基板上に透明電極を配置し、その上に上記配向膜材料を塗布して配向膜を形成し、この配向膜表面に、ラビング法にて次の手順で配向処理を施した。
【0032】
第1処理:図8(a)に示すようにA1方向に全面ラビングを行う。
【0033】
第2処理:図8(b)に示すようにマスク20を用い、A1方向に対し180°をなすA2方向に部分ラビングを行う。
【0034】
第3処理:図8(c)に示すようにマスク20を用い、A1、A2方向に対し90°をなすA3方向に部分ラビングを施す。
【0035】
その結果、配向膜は最終的に、図8(d)に示すように、相異なる四方向に配向した四領域、すなわち、A1方向に配向した領域S1と、A1、A2方向の合成方向に配向した領域S2と、A1、A3の合成方向に配向した領域S3と、A1、A2、A3の合成方向に配向した領域S4とに分かれ、領域S3の境界および領域S4の境界が傾斜境界11になった(図中に太線で示す)。なお、これらの傾斜境界について対境界傾角α、βを前述の方法で測定したところ、S1/S3間=40°、90°、S2/S4間=30°、90°、S3/S4間=50°、60°、であった。
【0036】
この基板を用いて図10に示した液晶セル(セルギャップ=7μm)を構成し、液晶層を挟む透明電極間に4.2Vの電圧を印加してセル表面の状態を偏光顕微鏡で拡大観察した。この観察法によればセル内の液晶層の配向の違いを透過光の色で識別できる。図9は、電圧印加から3秒後の状態を示すもので、図示のように、傾斜境界、なかでも対境界傾角が好適範囲にあるS4/S3間の傾斜境界を起点としてベンド配向が発生し、周囲に拡大する様子がその場観察された。なお、ここでは撮影の都合上、印加電圧を通常の6Vよりも低い4.2Vにして転移速度を遅らせた(印加電圧6Vでは、転移速度がさらに速くなり、スプレイ‐ベンド転移の境界線を撮影し難い)。印加電圧6Vの通常条件下では、例えば200×60(μm)の画素では電圧印加後1秒以内に領域S1全体がベンド配向に転移する。
【0037】
このように本発明によれば、カイラル剤無添加の液晶を用いた液晶セルのスプレイ配向を、通常レベルの電圧印加により迅速にベンド配向化することができる。配向膜に傾斜境界を設けるには直線的な配向処理で足りるから、液晶セルの製造も容易である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、OCBモードのLCDを設計・製造する産業に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は本発明の液晶配向用基板の層構造の一例を示す立体模式図、(b)は配向膜表面内の傾斜境界の一例を示す平面模式図である。
【図2】本発明の液晶配向用基板の層構造の一例を示す立体模式図である。
【図3】本発明における配向領域区分形態の一例を示す平面模式図である。
【図4】本発明における配向領域区分形態の一例を示す平面模式図である。
【図5】ラビング法の一例を示す立体模式図((a)全面ラビング、(b)マスクラビング)である。
【図6】イオンビーム法によるマスク照射の一例を示す立体模式図である。
【図7】アクティブマトリクスの電極構成の一例を示す平面模式図である。
【図8】(a)〜(c)は実施例の配向処理手順、(d)は該処理後の配向状態を示す平面模式図である。
【図9】実施例のスプレイ‐ベンド転移の経過観察結果の一例を示す平面模式図である。
【図10】OCBモードの基本的な素子配置構造を示す立体模式図である。
【図11】OCBセル中の基本配向((a)スプレイ配向、(b)ベンド配向)を示す立体模式図である。
【符号の説明】
【0040】
1 OCBモードの液晶セル(OCBセル)
2、2、2 基板(液晶配向用基板)
3 二軸性位相差フィルム
、4 偏光子
5 液晶分子
6 透明基板
7 電気的駆動手段の層
8、8 配向膜
8A 非マスク部
9、10 配向領域
9A、10A 面内配向方向
11 傾斜境界
12 光学素子の層
13 クロスエリア
13、13、13 分割部分
14 クロスエリアの外側
15 ラビングローラ
16、18 ローラ回転方向
17、19 基板の移動方向
20 マスク
21 ビーム入射方向
22 画素電極
23 信号配線
24 ゲート配線
S1、S2、S3、S4 配向膜の面内配向方向が相異なる領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、電気的駆動手段の層を介して、配向膜を有する液晶配向用基板において、前記配向膜の表面は、相異なる直線的な面内配向方向をもつ複数の配向領域に分かれ、これら配向領域の境界は、その少なくとも一部が傾斜境界、すなわちこれを挟む二配向領域のいずれの面内配向方向とも非平行でかついずれか一方の面内配向方向と非直交である境界であることを特徴とする液晶配向用基板。
【請求項2】
前記電気的駆動手段の層に代えて、光学素子の層および電気的駆動手段の層としたことを特徴とする請求項1記載の液晶配向用基板。
【請求項3】
前記複数の配向領域が、縦横の格子縞状のクロスエリアまたは該クロスエリアの分割部分、および該クロスエリアの外側であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶配向用基板。
【請求項4】
前記クロスエリアの縦縞および横縞は、下記1)、2)のいずれかの配線長さ方向と平行であることを特徴とする請求項3記載の液晶配向用基板。

1)該クロスエリアを有する配向膜の下層の電気的駆動手段として設けられたアクティブマトリクスの配線長さ方向
2)該クロスエリアを有する配向膜と液晶層を介して対向する基板の電気的駆動手段として設けられたアクティブマトリクスの配線長さ方向
【請求項5】
透明基板上に、直接あるいは光学素子の層を介して、電気的駆動手段の層を配置し、その上に配向膜を配置してなる基板に配向処理を施す液晶配向用基板の製造方法において、面内処理方向として直線的で相異なる第1、第2あるいはさらに第3の方向を設定し、基板の配向膜表面の全域を第1の方向に配向処理し、ついで、配向膜表面の第1部分をマスクした残りの部分を第2の方向に配向処理し、あるいはその後さらに、配向膜表面の第2部分をマスクした残りの部分を第3の方向に配向処理することを特徴とする液晶配向用基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1部分の外側の領域、または、前記第1部分の外側と前記第2部分との合成領域が、縦横の格子縞状のクロスエリアとなるようにこれら第1、第2部分を設定することを特徴とする請求項5記載の液晶配向用基板の製造方法。
【請求項7】
前記クロスエリアの縦縞または横縞を、下記1)、2)のいずれかの配線長さ方向と平行にすることを特徴とする請求項6記載の液晶配向用基板の製造方法。

1)該クロスエリアを形成する配向膜の下層の電気的駆動手段として設けられたアクティブマトリクスの配線長さ方向
2)該クロスエリアを形成する配向膜と液晶層を介して対向する基板の電気的駆動手段として設けられたアクティブマトリクスの配線長さ方向
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の液晶配向用基板を用いて構成された光学補償ベンドモードの液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−23416(P2006−23416A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200041(P2004−200041)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(503354044)財団法人21あおもり産業総合支援センター (27)
【出願人】(592235008)株式会社東北テクノブレインズ (19)
【Fターム(参考)】