説明

液晶高分子成形体及びその製造方法

【課題】ウエルド部の強度が高く、表面性も良好な液晶高分子成形体の提供。
【解決手段】球形フィラーを含有する液晶高分子組成物を射出成形して、ウエルド部12を有する液晶高分子成形体1を製造する方法であって、前記球形フィラーの中心粒径が60μm以下であり、20≦[前記ウエルド部の厚みT1/前記球形フィラーの中心粒径]≦55の関係を満たすように成形することを特徴とする液晶高分子成形体の製造方法;かかる製造方法で得られたことを特徴とする液晶高分子成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶高分子成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶高分子、とりわけ、溶融液晶性を有する液晶高分子は、剛直な分子骨格を有し、溶融時に液晶性を発現し、せん断流動時や伸張流動時に分子鎖が配向する特徴を有している。このような特徴から、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形等の溶融加工を施す際には優れた流動性を示すと共に、機械物性に優れた成形体を与える。特に芳香族系液晶高分子は、成形時の優れた流動性に加えて、化学的な安定性と剛直な分子骨格に由来した、高耐熱性、高強度、高剛性を有する成形体を与えることから、軽薄短小化が求められるエンジニアリングプラスチックとして有用である。とりわけ、表面実装工程に供され、薄肉部を有する電気・電子部品、使用時に高温に曝される、高出力で高容量の電気・電子部品、自動車部材等に有用である。
【0003】
しかし、液晶高分子は異方性が極めて大きく、固化速度も速いため、成形体はウエルド部の強度が著しく低いという問題点があった。ここで、ウエルド部とは、射出成形の際、金型内を流動する二つ以上の液晶高分子溶融体の流れが合流して融着した部分をいう。そこで、異方性を低減し、ウエルド部の強度を向上させるために、液晶高分子にガラス繊維等の充填材を混合した組成物を使用して成形体を製造する方法が開示されている。しかし、この製造方法では、ウエルド部の強度の向上効果は必ずしも大きくなく、しかも、成形体の表面が荒れてしまうなど、表面性が低下してしまうという問題点があった。
【0004】
これに対して、特許文献1では、耐熱性、成形性、流動性に優れ、機械的性質、特に成形体のウエルド部の強度が高い液晶高分子として、特定の構造、液晶開始温度及び溶融粘度を有する特定比率の光学異方性ポリエステルと、特定比率の針状酸化チタンウィスカー及び/又は針状ホウ酸アルミニウムウィスカーとからなる光学異方性ポリエステル樹脂組成物、すなわち、液晶高分子組成物が開示されている。
また、特許文献2では、特定比率の液晶ポリエステルと、特定比率のホウ酸アルミニウムウィスカーとからなる液晶ポリエステル樹脂組成物が、液晶ポリエステルの異方性を低減し、成形体のウエルド部の強度を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−59067号公報
【特許文献2】特開平3−281656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に記載の組成物でも、依然、ウエルド部の強度が不十分で、場合によっては割れが生じてしまうという問題点があった。また、成形体の表面に荒れやフローマークが鮮明に生じるなど、表面性が悪化するという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ウエルド部の強度が高く、表面性も良好な液晶高分子成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、
本発明は、球形フィラーを含有する液晶高分子組成物を射出成形して、ウエルド部を有する液晶高分子成形体を製造する方法であって、前記球形フィラーの中心粒径が60μm以下であり、20≦[前記ウエルド部の厚み/前記球形フィラーの中心粒径]≦55の関係を満たすように成形することを特徴とする液晶高分子成形体の製造方法を提供する。
本発明の液晶高分子成形体の製造方法においては、前記液晶高分子が液晶ポリエステルであることが好ましい。
本発明の液晶高分子成形体の製造方法においては、前記液晶ポリエステルが、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を30モル%以上有することが好ましい。
本発明の液晶高分子成形体の製造方法においては、一回の射出成形において、射出速度の最大値を、射出開始から前記最大値に到達するまでの時間で除することにより定義される射出加速度を、1000〜25000mm/secとし、且つ金型入り口における射出圧力の最大値を5〜150MPaとして、射出成形することが好ましい。
本発明の液晶高分子成形体の製造方法においては、射出時の前記液晶高分子組成物の温度を、[前記液晶高分子組成物の流動開始温度+20℃]以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度+80℃]以下として、射出成形することが好ましい。
本発明の液晶高分子成形体の製造方法においては、射出成形時の金型の温度を、80℃以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度−100℃]以下とすることが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られたことを特徴とする液晶高分子成形体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウエルド部の強度が高く、表面性も良好な液晶高分子成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る成形体を例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液晶高分子成形体(以下、単に成形体ということがある。)の製造方法は、球形フィラーを含有する液晶高分子組成物を射出成形して、ウエルド部を有する液晶高分子成形体を製造する方法であって、前記球形フィラーの中心粒径が60μm以下であり、20≦[前記ウエルド部の厚み/前記球形フィラーの中心粒径]≦55の関係を満たすように成形することを特徴とする。また、本発明の液晶高分子成形体は、前記製造方法で得られたことを特徴とする。
液晶高分子組成物を射出成形する時に、圧入された液晶高分子組成物の二つ以上の流れが金型内で合流した場合には、得られた成形体のこの合流部位は、融着により一体化したウエルド部となる。典型的な例は、開口部を有する成形体で見られる。すなわち、成形体の開口部は、これを形成するための構造物が内部に設けられた金型を使用して、一方(上流側)から他方(下流側)へ向けて液晶高分子組成物の溶融体を圧入させることで形成されるが、圧入された液晶高分子組成物は、前記構造物に当たって二手に分かれ、二つの流体となって金型内を流動し、前記構造物を越えてから、これら二つの流体が合流して、液晶高分子組成物が前記構造物を取り囲む。そして、金型から取り出された成形体は、前記構造物が存在していた部位に開口部を有するものとなり、この場合、ウエルド部は、開口部の下流側の部位から、最下流側(すなわち、外側)へ向けて存在する。
【0012】
ウエルド部は、成形体において必ずしも表面側から目視確認できるものではないが、本発明の成形体においては、その断面における球形フィラーの分散状態や配列状態を顕微鏡等により観察したり、液晶高分子の配向を分析したりすることで、その存在を確認できる。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る成形体を例示する斜視図である。
ここに示す成形体1は、開口部11を有する薄板状であり、その外形及び開口面がいずれも四角形状で、相似形である。そして、開口部11は、成形体1と同心状に設けられている。
成形体1は、金型(図示略)内の図1中の矢印で示される方向に液晶高分子組成物の溶融体が圧入され、金型内で液晶高分子組成物の流体が上流側から下流側へ向けて流動して充填され、成形されたものである。
【0014】
開口部11の一部(液晶高分子組成物の流動方向における下流側の部位)からは、成形体1の外側(すなわち、液晶高分子組成物の流動方向における最下流側)へ向けて、ウエルド部12が延びている。すなわち、ウエルド部12の一端12aは開口部11と重なる。また、ウエルド部12の一端12aとは反対側の他端12bは、成形体1の外周部1cと重なる。
【0015】
成形体1の開口された表面1a及び裏面1bの外形の辺の長さX及びY、並びに成形体1の開口部11以外の厚みZは、任意に設定できる。ここではZとして、外周部1cにおける厚みを示している。そして、開口部11の開口面の辺の長さX及びY、並びに厚みZも、任意に設定できる。Z及びZは、いずれもここでは、成形体1において一定値となっているが、部位によって異なる値であってもよい。また、Z及びZはここでは互いに同じとなっているが、異なっていてもよく、目的に応じて任意に設定できる。ウエルド部12の表面1a(又は裏面1b)に沿った長さLは、(X−X)/2となる。
【0016】
ウエルド部12の厚みはTであり、ここでは成形体1において一定値となっているが、部位によって異なる値であってもよい。ここではTとして、開口部11における厚みを示している。また、T及びZは、ここでは互いに同じとなっているが、異なっていてもよい。そして、Tを球形フィラーの中心粒径Mで除した値(T/M)は、後述するように20〜55である。
【0017】
成形体1は、本発明の液晶高分子成形体のごく一例として示したに過ぎず、本発明の液晶高分子成形体はこれに限定されない。例えば、成形体の外形及び開口面の形状は、四角形以外でもよく、相似形でなくてもよい。そして、開口部は、成形体と同心状に設けられていなくてもよい。また、ウエルド部の他端は、成形体の外周部と重なっていなくてもよい。また、開口部及びウエルド部の数も一つ以外でもよく、ウエルド部が存在すれば、開口部の数は0(ゼロ)でもよい。
【0018】
本発明において、前記液晶高分子は特に限定されないが、液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0019】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0020】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0021】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0022】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0023】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0024】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0025】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0026】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0027】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0028】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0029】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは40〜70モル%、特に好ましくは45〜65モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性、耐熱性、強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0030】
液晶ポリエステルは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を30モル%以上有するものが好ましい。
【0031】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0032】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0033】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは溶融粘度が低くなり易い。
【0034】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0035】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは270℃以上、より好ましくは270℃〜400℃、さらに好ましくは280℃〜380℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、高過ぎると、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易い。
【0036】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
なお、液晶ポリエステルに代えて、その他の液晶高分子、又は液晶高分子組成物を用いれば、同様にこれらの流動開始温度も測定できる。
【0037】
液晶高分子組成物の調製に用いる球形フィラーとは、繊維状フィラー、板状フィラー、短冊状フィラーのように特定方向への拡がりをもたない粒状のフィラーであり、その平均球形度は、好ましくは3以下、より好ましくは1〜2、さらに好ましくは1〜1.5、特に好ましくは1〜1.2である。ここで、平均球形度とは、多数のフィラーから無作為に30個を選んで観察し、各フィラーについて最大長D1と最小長D2とを測定し、球形度としてD1/D2の値を求め、30個のフィラーについて求めた球形度の平均値をいう。観察は、例えば、万能投影機により投影すること、あるいは高倍率立体顕微鏡を用いることで行うことができる。
【0038】
また、球形フィラーの中心粒径は、60μm以下であり、60μmを越えると、成形体の表面が粗くなり表面性が損なわれる。また、球形フィラーの中心粒径は、0.01μm以上であることが好ましく、このようにすることで、成形体のウエルド部の強度がより向上する。ウエルド部の強度と表面性がより向上する点から、球形フィラーの中心粒径は、より好ましくは1〜60μm、さらに好ましくは10〜60μmである。
なお、中心粒径とは、メジアン径D50のことであり、粒径を2極化した際に、それぞれが等量となる数値のことである。
【0039】
球形フィラーとして具体的には、ガラスビーズ、ガラス粉、中空ガラス等のガラスからなるものや、カオリン、クレー、バーミキュライト;ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、長石粉、酸性白土、ろう石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、スレート粉、シラン等のケイ酸塩;炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;バライト粉、ブランフィックス、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩;水和アルミナ等の水酸化物;アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物;二硫化モリブデン等の硫化物;金属粉粒体;フッ素樹脂等の有機高分子;臭素化ジフェニルエーテル等の有機低分子量結晶等の材質からなるものが例示でき、アスペクト比が小さい粉粒体も含まれる。球形フィラーは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。中でもガラスビーズ、中空ガラスが代表的な球形フィラーである。
【0040】
液晶高分子組成物の球形フィラーの含有量は、特に限定されないが、液晶高分子組成物の流動性を維持し、成形体の強度や寸法安定性等の特性を低下させることなく、表面性とウエルド部の強度を向上させるためには、1〜70質量%であることが好ましい。下限値以上とすることで、表面性とウエルド部の強度がより向上する。また、上限値以下とすることで、液晶高分子組成物の流動性が向上し、成形性がより良好となり、成形体の機械的特性が向上する。良好な成形性を維持しつつ、表面性とウエルド部の強度を効果的に向上させるという点から、球形フィラーの含有量は、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは25〜50質量%である。
【0041】
液晶高分子組成物は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、球形フィラー以外の充填材、添加剤、液晶高分子以外の樹脂等の他の成分を1種以上含有してもよい。
【0042】
球形フィラー以外の充填材は、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよいし、繊維状及び板状以外で、粒状充填材であってもよい。また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;ステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。
充填材の含有量は、液晶高分子100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部である。
【0043】
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤、滑剤、離型剤及び着色剤が挙げられる。
添加剤の含有量は、液晶高分子100質量部に対して、好ましくは0〜5質量部である。
【0044】
液晶高分子以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂で、且つ液晶高分子に該当しない樹脂が挙げられる。
液晶高分子以外の樹脂の含有量は、液晶高分子100質量部に対して、好ましくは0〜20質量部である。
【0045】
液晶高分子組成物は、液晶高分子、球形フィラー及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ペレット状に押し出すことにより調製することが好ましい。押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが好ましく用いられ、さらにシリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものがより好ましく用いられる。
【0046】
本発明の成形体は、20≦[ウエルド部の厚み/球形フィラーの中心粒径]≦55の関係を満たし、好ましくは21.5≦[ウエルド部の厚み/球形フィラーの中心粒径]≦53.5、より好ましくは23≦[ウエルド部の厚み/球形フィラーの中心粒径]≦52の関係を満たす。下限値以上とすることで、ウエルド部の強度が向上する。また、成形時の液晶高分子組成物の流動性が向上し、成形性が良好となり、成形体の機械的特性が向上する。そして、上限値以下とすることで、ウエルド部の強度が向上する。
【0047】
また、本発明の成形体は、全体の厚みが同じである必要性はないが、好ましくは20≦[成形体の厚み/球形フィラーの中心粒径]≦55、より好ましくは21.5≦[成形体の厚み/球形フィラーの中心粒径]≦53.5、さらに好ましくは23≦[成形体の厚み/球形フィラーの中心粒径]≦52の関係を満たす。下限値以上とすることで、成形時の液晶高分子組成物の流動性が向上し、成形性が良好となり、成形体の機械的強度等の特性がより向上する。そして、上限値以下とすることで、成形体の機械的強度がより向上する。
【0048】
液晶高分子組成物を射出成形する時は、球形フィラーの中心粒径に応じて、[ウエルド部の厚み/球形フィラーの中心粒径]の値が前記範囲内となるようにウエルド部の厚みを調節できる、所望の形状の金型を選択して、成形すればよい。
【0049】
液晶高分子組成物を射出成形する時は、一回の射出成形において、射出速度の最大値Vmaxを、射出開始から前記最大値に到達するまでの時間tで除すること(Vmax/t)により定義される射出加速度を、1000〜25000mm/secとすることが好ましい。射出速度は、例えば、波形モニターで観測すればよい。
前記射出加速度を下限値以上とすることで、成形体の表面性とウエルド部の強度がより向上する。また、上限値以下とすることで、射出成形機として特殊なものが不要となり、汎用性が向上する。
【0050】
液晶高分子組成物を射出成形する時は、一回の射出成形において、金型入り口における射出圧力の最大値を5〜150MPaとすることが好ましい。射出圧力は、例えば、圧力波形から読み取ればよい。
射出圧力を下限値以上とすることで、成形体の表面性とウエルド部の強度がより向上する。また、上限値以下とすることで、成形体におけるバリの発生が抑制され、さらに、金型からの成形体の離型が容易になるため、離型時における成形体の変形に伴う、ウエルド部の割れが抑制される。
【0051】
本発明においては、液晶高分子組成物を射出成形する時に、前記射出加速度及び射出圧力が共に上記数値範囲となるように調整することが好ましい。
【0052】
液晶高分子組成物を射出成形する時は、まず、後述する方法により液晶高分子組成物の流動開始温度を求め、射出時の液晶高分子組成物の温度(溶融状態の液晶高分子組成物の実温)を、[液晶高分子組成物の流動開始温度+20℃]以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度+80℃]以下とすることが好ましい。
前記温度を下限値以上とすることで、得られる成形体の表面の荒れが抑制されて表面性がより向上する。さらに、ウエルド部の強度がより向上する。また、上限値以下とすることで、成形機内で滞留する液晶高分子の分解が抑制され、成形体の表面性がより向上する。さらに、成形後の金型からの成形体の離型時に、ノズルからの溶融樹脂の流出が抑制されて、成形体の生産性がより向上する。
ウエルド部の強度と成形性がより向上する点から、射出時の液晶高分子組成物の温度は、[液晶高分子組成物の流動開始温度+30℃]以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度+60℃]以下とすることがより好ましい。
【0053】
液晶高分子組成物を射出成形する時は、金型の温度を80℃以上とすることが好ましい。このようにすることで、得られる成形体の表面性がより向上する。
また、液晶高分子組成物を射出成形する時は、金型の温度の上限値は、液晶高分子組成物の分解を防止するために、液晶高分子組成物の種類に応じて適宜調整することが好ましく、[前記液晶高分子組成物の流動開始温度−50℃]とすることが好ましい。このようにすることで、成形後の金型の冷却時間を短縮できて生産性が向上する。さらに、金型からの成形体の離型が容易となり、成形体の変形が抑制される。さらに、金型同士の噛み合いが向上するので、金型開閉時における成形体の破損が抑制される。
そして、上記効果がより顕著に得られることから、金型の温度は、80℃以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度−100℃]以下とすることが好ましく、1000℃以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度−100℃]以下とすることがより好ましく、130℃以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度−100℃]以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
より実用的な射出成形条件を決定するための方法を以下に例示する。本法では、任意に選択した平板状成形体を標準成形体とする。そして、成形条件を変えて射出成形することにより、標準成形体を作製し、そのウエルド部の曲げ強度試験を行うことで、射出成形条件の最適化を行う。一例を挙げると、まず、射出時の液晶高分子組成物の温度を好適な範囲(例えば、[液晶高分子組成物の流動開始温度+20℃]以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度+80℃]以下)とし、射出加速度を好適な範囲(例えば、1000〜25000mm/secと)とし、金型入り口における射出圧力の最大値を好適な範囲(例えば、5〜150MPa)とし、金型の温度を80℃として、射出成形を行い、標準成形体を作製する。得られた標準成形体からウエルド部を含む試験片を切り出し、ウエルド部の曲げ強度試験を行って、その強度を測定する。さらに、例えば、表面粗さ計により粗さを測定して、成形体の表面性を評価する。次いで、金型の温度を80℃以上の所定温度に設定して、同様に標準成形体を作製し、ウエルド部の強度測定と成形体の表面性評価を行い、種々の温度でこの操作を繰り返す。また、金型の温度を80℃以下の所定温度に設定して、同様の操作を繰り返す。以上により、ウエルド部の強度測定と成形体の表面性評価の結果から、金型の温度を最適化できる。ここでは、金型の温度を最適化する方法について説明したが、同様に、射出時の液晶高分子組成物の温度、射出加速度、金型入り口における射出圧力の最大値についても容易に最適化できる。なお、ウエルド部の曲げ強度は、好ましくは15MPa以上、より好ましくは20MPa以上、さらに好ましくは25MPa以上である。
上記方法により実用的な射出成形条件を決定した後は、金型を、目的とする成形体を得るためのものに変更して、成形すればよい。
なお、ここでは、標準成形体を用いた方法について説明したが、目的とする成形体でウエルド部の強度測定と成形体の表面性評価が可能であれば、この成形体を用いて、実用的な射出成形条件を決定すればよい。
【0055】
本発明の成形体は、高耐熱性、高強度、高剛性を有することが求められる各種製品又は部品に好適であり、例えば、光ピックアップボビン、トランスボビン等のボビン;リレーケース、リレーベース、リレースプルー、リレーアーマチャー等のリレー部品;ランプリフレクター、LEDリフレクター等のリフレクター;ヒーターホルダー等のホルダー;スピーカー振動板等の振動板;コピー機用分離爪、プリンター用分離爪等の分離爪;コンパクトカメラを含むカメラのモジュール部品;スイッチ部品;モーター部品;センサー部品;ハードディスクドライブ部品;オーブンウェア等の食器;車両部品;航空機部品;半導体素子用封止部材、コイル用封止部材等の封止部材に好適である。
【0056】
本発明の成形体は、球形フィラーを用いたことにより、表面の荒れとフローマークの発生が抑制され、表面性に優れる。また、球形フィラーの中心粒径を、ウエルド部の厚みに応じて限れられた特定の範囲内に限定したことにより、ウエルド部の強度が高い。このように、本発明の成形体は、表面性を損なうことなく、ウエルド部の強度向上を達成した点で、従来の成形体と相違する。
【実施例】
【0057】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、液晶ポリエステル及び液晶ポリエステル組成物の流動開始温度は、以下の方法で測定した。
【0058】
(液晶ポリエステル、液晶ポリエステル組成物の流動開始温度の測定)
フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用いて、液晶ポリエステル又は液晶ポリエステル組成物約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステル又は液晶ポリエステル組成物を溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0059】
<液晶ポリエステルの製造>
[製造例1]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、無水酢酸1347.6g(13.2モル)及び1−メチルイミダゾール0.194gを入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで30分かけて昇温し、145℃で1時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、320℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、261℃であった。次いで、このプレポリマーを、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(LCP1)を得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、327℃であった。
【0060】
<液晶ポリエステル組成物の製造>
[製造例2]
製造例1で得られた液晶ポリエステル(LCP1)、及び下記球形フィラーを、表1に示す組成で混合し、二軸押出機(池貝鉄工株式会社製、PCM−30)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、液晶ポリエステル組成物のペレットを得た。得られたペレットの流動開始温度(FT:フロー温度)の測定結果を表1に示す。
【0061】
(球形フィラー)
ガラスビーズ(GB1):ポッターズバロティーニ社製、EGB731−PN(メーカー公表サイズ:中心粒径20μm)
ガラスビーズ(GB2):ポッターズバロティーニ社製、EGB210(メーカー公表サイズ:中心粒径18μm)
ガラスビーズ(GB3):ポッターズバロティーニ社製、EMB20(メーカー公表サイズ:中心粒径10μm)
ガラスビーズ(GB4):ポッターズバロティーニ社製、EMB10(メーカー公表サイズ:中心粒径5μm)
ガラスビーズ(GB5):ユニチカ社製、UB26E(メーカー公表サイズ:中心粒径75μm)
【0062】
<液晶ポリエステル成形体の製造>
[実施例1〜3、比較例1〜2]
上記で得られた液晶ポリエステル組成物のペレットを120℃で3時間乾燥後、日精樹脂工業株式会社製UH−1000型射出成形機を用いて、表1に示す条件で、図1に示す液晶ポリエステル成形体(ウエルド部評価用試験片)を製造した。なお、成形体は、図1において、X及びYが64mm、Zが0.5mm、X及びYが38mm、Z及びTが0.5mmであるものとした。この時、波形モニターで、射出速度の最大値、Attack時間、およびショック圧(金型入り口における射出圧力の最大値)を計測し、射出加速度を求めた。そして、得られた成形体について、下記方法でその表面性を評価し、ウエルド部の曲げ強度を測定した。結果を表1に示す。また、成形体のウエルド部の厚み、球形フィラーの中心粒径、及び[ウエルド部の厚み/球形フィラーの中心粒径]の値を、それぞれ表1に示す(「厚み」、「球形フィラー中心粒径」、「厚み/中心粒径」参照)。
【0063】
(液晶ポリエステル成形体の表面性の評価)
成形体の表面を目視観察して、荒れ及びフローマークの有無について、評価した。
(ウエルド部の曲げ強度の測定)
成形体から、その開口部より下流側のウエルド部を含む領域(13mm×64mm×0.5mmの大きさの切片)を切り出し、万能試験機を用いて、スパン40mm、曲げ速度2mm/分の条件で3点曲げ試験を行い、破断強度を測定した。
【0064】
【表1】

【0065】
上記結果から明らかなように、実施例1〜3の成形体は、ウエルド部が十分な強度を有していた。また、表面に目立った荒れ及びフローマークは見られず、表面性が良好であった。これに対して、比較例1〜2の成形体は、ウエルド部の強度が不十分であった。また、表面にフローマークが視認され、且つフローマーク部で表面荒れが散見された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、薄肉部を有する電気・電子部品、使用時に高温に曝される、高出力で高容量の電気・電子部品、自動車部材等に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1・・・成形体、12・・・ウエルド部、T・・・ウエルド部の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形フィラーを含有する液晶高分子組成物を射出成形して、ウエルド部を有する液晶高分子成形体を製造する方法であって、
前記球形フィラーの中心粒径が60μm以下であり、
20≦[前記ウエルド部の厚み/前記球形フィラーの中心粒径]≦55の関係を満たすように成形することを特徴とする液晶高分子成形体の製造方法。
【請求項2】
前記液晶高分子が液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の液晶高分子成形体の製造方法。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を30モル%以上有することを特徴とする請求項2に記載の液晶高分子成形体の製造方法。
【請求項4】
一回の射出成形において、射出速度の最大値を、射出開始から前記最大値に到達するまでの時間で除することにより定義される射出加速度を、1000〜25000mm/secとし、且つ金型入り口における射出圧力の最大値を5〜150MPaとして、射出成形することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶高分子成形体の製造方法。
【請求項5】
射出時の前記液晶高分子組成物の温度を、[前記液晶高分子組成物の流動開始温度+20℃]以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度+80℃]以下として、射出成形することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶高分子成形体の製造方法。
【請求項6】
射出成形時の金型の温度を、80℃以上で、且つ[前記液晶高分子組成物の流動開始温度−100℃]以下とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶高分子成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法で得られたことを特徴とする液晶高分子成形体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−206436(P2012−206436A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74858(P2011−74858)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】