説明

液滴吐出ヘッドのクリーニング方法

【課題】ノズル形成面に液状体残りの少ない液滴吐出ヘッドのクリーニング方法を提供する。
【解決手段】液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aと、ノズルを覆う吸引部20とが接触し吸引空間32を形成するA工程と、液滴吐出ヘッド50の吸引空間32を吸引して液状体を吸引するB工程と、液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aと吸引部20とを離間し、ノズル形成面56aと吸引部20の対向面である吸収材表面24aとを隙間と角度を保って保持するC工程と、C工程の後で、液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aを吸引部20から吸引して液状体を吸引するD工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドのクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出して基板などに描画を行う液滴吐出装置において、液滴吐出ヘッドの吐出性能を維持するために液滴吐出ヘッドのクリーニングが定期的に行われている。
液滴吐出ヘッドには多数の小さい穴径でノズルが形成され、このノズルから液滴が吐出される。ノズルはインク内の気泡や乾燥したインクなどの異物でつまりやすく、これらを取り除くためにクリーニングを実施する。一般的には、液滴吐出ヘッドを吸引してインクを排出し、液滴吐出ヘッド内の気泡と同時に異物を除去しているが、ノズル形成面にインクの残りができ、クリーニングは充分ではない。
他の液滴吐出ヘッドのクリーニングの方法として、例えば特許文献1に、インクジェットプリントヘッド(液滴吐出ヘッド)のノズル形成面と吸い込みノズルとを小さな間隙で対向させてインクを保持させ、このインクに超音波をかけることでインクジェットプリントヘッドのノズル形成面をクリーニングする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−254691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1におけるインクジェットプリントヘッドと吸い込みノズルとの間のインクは、一般的な方法と同様に、吸い込みノズル側から吸引して排出が行われる。
このため、インクジェットプリントヘッドのノズル近くにインクが残ることがあり、この残ったインクが乾燥してノズルのつまりを誘引することがある。また、このノズル形成面のインク残りを除去するためにこの吸引後にワイパーなどでノズル形成面を拭き取る工程を行っても、拭き残りが発生する。
このため、ノズル形成面にできるだけインク残りの少ない液滴吐出ヘッドのクリーニング方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、液滴吐出ヘッドに液状体を液滴として吐出するノズルを有し、前記ノズルの形成されたノズル形成面を吸引部から吸引する液滴吐出ヘッドのクリーニング方法であって、前記液滴吐出ヘッドの前記ノズル形成面と、前記ノズルを覆う前記吸引部とが接触し、吸引空間を形成するA工程と、前記液滴吐出ヘッドの前記吸引空間を吸引して液状体を吸引するB工程と、前記液滴吐出ヘッドの前記ノズル形成面と前記吸引部とを離間し、前記ノズル形成面と前記吸引部の対向面とを隙間と角度を保って保持するC工程と、前記C工程の後で、前記液滴吐出ヘッドの前記ノズル形成面を前記吸引部から吸引して液状体を吸引するD工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
この液滴吐出ヘッドのクリーニング方法によれば、液滴吐出ヘッドのノズル形成面と吸引部との間に吸引空間を形成して液状体を一旦吸引した後、ノズル形成面と吸引部とを離間し、ノズル形成面と吸引部の対向面とを隙間と角度を保ちながら、ノズル形成面を吸引部から再度吸引している。ノズル形成面と吸引部とが角度を持って対向するため、両者の隙間が狭い部分から広い部分へと連続して形成される。
このようにすれば、吸引によりこの隙間に溜まる液状体は対向する面から吸引され、最後には隙間の広い部分から狭い部分に液状体が移動するように小さくなって吸引されていく。このように、液状体が対向する面の隙間の広いところから狭いところへ流れていくように吸引されるため、ノズル形成面に残る液状体をほとんど無くすことができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる液滴吐出ヘッドのクリーニング方法において、前記B工程の後に、前記吸引空間内を大気開放するE工程と、を備えることが望ましい。
【0009】
この液滴吐出ヘッドのクリーニング方法によれば、吸引空間を吸引して液状体を吸引するB工程の後に、吸引空間内を大気開放するE工程を備えている。吸引空間内を確実に大気開放することで、次のC工程におけるノズル形成面と吸引部とを離間する際に、液状体の飛び散りを確実に防止することができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる液滴吐出ヘッドのクリーニング方法において、前記B工程における前記吸引部からの吸引力より前記D工程の前記吸引部からの吸引力のほうが大きいことが望ましい。
【0011】
この液滴吐出ヘッドのクリーニング方法によれば、液滴吐出ヘッドのノズル形成面と吸引部との間の吸引空間を吸引するB工程より、液滴吐出ヘッドのノズル形成面と吸引部との間の隙間を吸引するD工程における吸引部からの吸引力が大きい。
つまり、吸引空間が形成された場合、吸引力が大きくなくとも空間内を負圧にでき、液状体を吸引できる。これに対して液滴吐出ヘッドのノズル形成面と吸引部との間に隙間が形成される場合には、大きな吸引力が必要になる。このことから、B工程よりD工程における吸引部からの吸引力を大きくすることで、液状体の吸引を確実にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態にかかる液滴吐出装置の概略構成を示す説明図。
【図2】本実施形態にかかる液滴吐出ヘッドの構成を示し、(a)は液滴吐出ヘッドをノズルプレート側から見た外観斜視図、(b)は液滴吐出ヘッドの圧力室周りの構造を示す斜視断面図、(c)は液滴吐出ヘッドのノズル部分の構造を示す断面図。
【図3】本実施形態にかかる吸引装置の構成を示す概略図。
【図4】本実施形態にかかる吸引部の傾き機構を説明する概略断面図。
【図5】本実施形態にかかる液滴吐出ヘッドのクリーニング手順を示す説明図。
【図6】本実施形態にかかるクリーニング方法における液状体の吸引状態を説明する概略図。
【図7】本実施形態にかかる対向するノズル形成面と吸引部との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の寸法の割合を適宜変更している。なお、以下の説明では直交座標系を用いて、各部の構成、動作などを説明する。
(実施形態)
【0014】
<液滴吐出装置>
図1は液滴吐出装置の概略構成を示す説明図である。
液滴吐出装置100は、所定の機能液を含む液状体をノズルが設けられた液滴吐出ヘッド50から、吐出対象物としての基板Kに吐出して、所定の文字、図柄、画像等を描画する装置である。
液滴吐出装置100は、直線状に設けられた一対のガイドレール101と、ガイドレール101に設けられたエアスライダーとリニアモーター(図示せず)により一つの直線軸方向(本実施形態ではY軸方向とする)に移動する移動台103を備えている。移動台103上には、基板Kを載置するための載置テーブル105が設けられている。基板Kは、載置テーブル105に吸着固定されるように構成されている。
【0015】
載置テーブル105に対して移動台103と反対側の上方向には、所定の距離をおいて一対のガイドレール102が設けられている。ガイドレール102はガイドレール101と直交する直線軸方向(本実施形態ではX軸方向とする)に延在するように設けられている。
そして、液滴吐出装置100には、この一対のガイドレール102に沿って移動するキャリッジ120が備えられている。このキャリッジ120は、その両側にキャリッジ120と一体若しくは別体でキャリッジ移動台110が設けられ、ガイドレール102に設けられたエアスライダーとリニアモーター(いずれも図示せず)により、X軸方向に沿って移動可能に構成されている。
【0016】
キャリッジ120には、その下方向側に所定の配列方向を呈するように設けられた複数のノズルと、ノズル毎に液状体を吐出する吐出機構とが形成された液滴吐出ヘッド50が備えられている。そして、図示しない液状体供給機構からキャリッジ120に供給された液状体は、キャリッジ120内に形成された流路を経由して液滴吐出ヘッド50に供給され、吐出機構によって各ノズルから液滴として吐出する。
【0017】
また、液滴吐出装置100には、ガイドレール102の端部付近に液滴吐出ヘッド50のメンテナンスユニットとして、液滴吐出ヘッド50をメンテナンスする吸引装置130およびワイピング装置140とを備えている。
吸引装置130は、凹部が形成されたキャップ台22に弾性部材からなるキャップ21がはめ込まれている。吸引装置130は、この凹部内を吸引する吸引機構を備えている。また、キャップ台22はZ軸方向に昇降可能であり、液滴吐出ヘッド50に接触できるように構成されている。
【0018】
ワイピング装置140には、ワイパー台45にゴムなどの弾性を有するワイパー46がZ軸方向に立設されている。そして、ワイピング装置140は、Z軸方向に昇降可能に構成され、液滴吐出ヘッド50の近傍まで移動して、液滴吐出ヘッド50とワイパー46とが接触可能に構成され、液滴吐出ヘッド50のノズル形成面を拭くことができる。
一般にこのワイピング装置140は、吸引装置130で液滴吐出ヘッド50を吸引した後に使用される。
【0019】
移動台103のY軸方向の移動、キャリッジ120に設けられたキャリッジ移動台110のX軸方向の移動、および液滴吐出ヘッド50に形成された吐出機構の駆動制御は、制御部150によって行われる。同様に、吸引装置130の吸引および昇降制御、ワイピング装置140の昇降制御は制御部150によって行われる。制御部150はコンピューター機能を有し、所定のプログラムに基づいてこれらの処理を実行する。
【0020】
<液滴吐出ヘッド>
次に、液滴吐出ヘッド50について説明する。図2は、液滴吐出ヘッドの構成を示す説明図である。図2(a)は液滴吐出ヘッドをノズルプレート側から見た外観斜視図、図2(b)は液滴吐出ヘッドの圧力室周りの構造を示す斜視断面図、図2(c)は液滴吐出ヘッドのノズル部分の構造を示す断面図である。
【0021】
図2(a)に示すように、液滴吐出ヘッド50は接続針52を有する液体導入部51と、その側方に連なるヘッド基板53、方形のヘッド本体54を備えている。液体導入部51の接続針52には、給液チューブが接続され液状体が供給される。ヘッド基板53には、一対のヘッドコネクター57が実装されており、フレキシブルケーブルが接続される。そしてヘッド本体54には、ノズルプレート56が構成されている。
【0022】
ノズルプレート56のノズル形成面56aには、液滴を吐出する複数のノズル58が直線状に整列されて形成されている。
液滴吐出ヘッド50が液滴吐出装置100に取り付けられた状態では、ノズル58はY軸方向に整列している。また、上記のような液滴吐出ヘッド50を複数配列して液滴吐出装置100に備えてもよい。
【0023】
図2(b)および図2(c)に示すように、液滴吐出ヘッド50は、ノズルプレート56に圧力室プレート61が積層されており、圧力室プレート61に振動板62が積層されている。
圧力室プレート61には、液体導入部51から振動板62の液供給孔63を経由して供給される液状体が充填される液たまり65が形成されている。液たまり65は、振動板62と、ノズルプレート56と、圧力室プレート61の壁とに囲まれた空間である。また、圧力室プレート61には、複数のヘッド隔壁67によって区切られた圧力室68が形成されている。振動板62と、ノズルプレート56と、2個のヘッド隔壁67とによって囲まれた空間が圧力室68である。
【0024】
圧力室68はノズル58のそれぞれに対応して設けられている。圧力室68には、2個のヘッド隔壁67の間に位置する供給口66を介して、液たまり65から液状体が供給される。ヘッド隔壁67と圧力室68とノズル58と供給口66との組は、液たまり65に沿って1列に並んでいる。
【0025】
振動板62の圧力室68を構成する部分には、それぞれ圧電素子69の一端が固定されている。
圧電素子69は電極層と圧電材料とを積層した活性部を有し、電極層に所定の電圧波形を印加することで、活性部が長手方向に収縮あるいは伸長変形し、振動板62を撓ませて圧力室68に存在する液状体を加圧する。この結果、加圧された液状体は、ノズルプレート56のノズル58から、液状体10が液滴10aとして吐出される。
なお、ノズルプレート56のノズル形成面56aには撥水膜56bが形成され、液状体10がノズル形成面56aに濡れ広がるのを防止している。
また、液状体としては、紫外線(UV)硬化型インク、水性染料インク、水性顔料インク、油性染料インク、油性顔料インクなどが用いられる。
【0026】
<吸引装置>
次に吸引装置について説明する。
図3は吸引装置の構成を示す概略図である。図4は吸引部の傾き機構を説明する概略断面図である。
吸引装置130は、吸引部20と、三方弁36と、吸引ポンプ37と、排液状体タンク38と、を備えている。また、図示しないが、吸引部20をZ軸方向に昇降させる昇降機構を備えている。
吸引部20は凹部が形成されたキャップ台22を有し、キャップ台22の凹部に弾性部材からなるキャップ21がはめ込まれている。キャップ21は液滴吐出ヘッド50の複数のノズルを囲んで覆うように、枠状のキャップ台22の表面よりも突出した突出部を有している。このことから、キャップ21が液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aと接触することで液滴吐出ヘッド50との間に吸引空間32を形成する。そして、キャップ台22の凹部の底面22aには吸引穴25が形成されている。
なお、キャップ台22の凹部に液状体を吸収する多孔質の吸収材24を配置して、液状体の飛び散りを防止している。
【0027】
さらに、キャップ台22は台座23に固定されている。台座23には、キャップ台22の吸引穴25と連通する接続穴23bが形成され、両者の穴はシールリング26を介して接続され、吸引された液状体が漏れないように構成されている。
この台座23の接続穴23bの一端には継ぎ手部材27が取り付けられ、この継ぎ手部材27に吸引チューブ35が接続されている。
また、台座23の外周部にはその外周方向に広がる肩部23aが設けられている。さらに、台座23の底部には、バネ29が配置される案内凹部23cが設けられている。
【0028】
そして、台座23の外側を囲み、キャップ21の部分を開放したキャップホルダー30が設けられている。キャップホルダー30には台座23の肩部23aを覆うような係止部31が形成され、キャップホルダー30の係止部31と台座23の肩部23aとが接触可能に構成されている。また、台座23の案内凹部23cにはバネ29が配置され、キャップホルダー30の底部との間で台座23をZ軸方向に押し上げる力を与えている。
【0029】
継ぎ手部材27に接続された吸引チューブ35の後段には吸引ポンプ37が接続されている。そして吸引ポンプ37により吸引された液状体は排液状体タンク38に貯留される。
また、継ぎ手部材27と吸引ポンプ37の間の吸引チューブ35には三方弁36が配置され、三方弁36の一方は大気導入口となっている。この三方弁36の切り替えにより、吸引チューブ35の流路内を吸引または大気導入に変えることが可能である。
【0030】
以上の構成の吸引装置130は、昇降機構により吸引部20が上昇して、図3に示すように、液滴吐出ヘッド50に吸引部20が接触する。そして、液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aと吸引部20との間に吸引空間32形成される。この状態では、バネ29の付勢力により液滴吐出ヘッド50にキャップ21が押圧された状態にあり、吸引空間32のシール性が確保される。
そして、吸引ポンプ37を稼動させて吸引空間32を吸引することで液滴吐出ヘッド50内の液状体を吸引できる。
【0031】
また、昇降機構により吸引部20が下降して、液滴吐出ヘッド50と吸引部20との接触を解除したときには、吸引部20は図4に示すような姿勢を保つ。
台座23はバネ29に付勢され台座23の肩部23aと、キャップホルダー30の係止部31とが接触する位置まで上方に移動する。ここで、係止部31の左右で高さ(厚さ)が異なるように構成されているため、台座23は傾いた姿勢となる。
つまり、液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aに対して、対向する吸引部20におけるキャップ台22の底面22aまたは吸収材24の吸収材表面24aが角度θだけ傾いた姿勢となる。この角度θは本実施形態では1〜2°に設定されている。このように、吸引部20にはキャップ台22の傾き機構が備えられている。
【0032】
<液滴吐出ヘッドのクリーニング方法>
次に、液滴吐出ヘッドのクリーニング手順について説明する。
図5は液滴吐出ヘッドのクリーニング手順を示す説明図である。
まず、液滴吐出ヘッドが移動し吸引装置の上方で停止する。そして、図5(a)に示すように、吸引装置130の昇降機構により吸引部20が上昇して液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aに接触する(A工程)。このことにより、液滴吐出ヘッド50と吸引部20との間に吸引空間32を形成する。
【0033】
続いて、図5(b)に示すように、吸引ポンプ37を稼動して吸引空間32を吸引する(B工程)。このとき、三方弁36のバルブV1,V2,V3は、吸引経路のバルブであるV1,V2が開で大気開放バルブV3が閉となっており、吸引空間32が吸引されて、液滴吐出ヘッド50から液状体を吸引することができる。吸引された液状体は排液状体タンク38に貯留される。
【0034】
次に、吸引ポンプ37を停止し、三方弁36を切り替える。三方弁36のバルブV2を閉とし、V1,V3を開とする。すると、図5(c)に示すように、大気がバルブV3から吸引空間32内に導入され、吸引ポンプ37により吸引され負圧になった吸引空間32内が大気圧となる(E工程)。このように、吸引空間32内にバルブV3から大気が導入されるため、短時間にしかも確実に吸引空間32内が大気圧に変換される。
なお、上記のように吸引空間32内に強制的に大気を導入せず、吸引空間32内が大気圧に戻るまで一定時間待機していてもよい。
【0035】
そして、図5(d)に示すように、吸引装置130の昇降機構により吸引部20が降下してノズル形成面56aと吸引部20とを離間する(C工程)。このように、吸引空間32内が大気圧となっているため、ノズル形成面56aと吸引部20とを離間する際に、液状体の飛び散りを確実に防止することができる。
このとき、吸引部20のキャップ台22の傾き機構により、液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aと吸引部20の対向面とを隙間と角度を保って保持する。
【0036】
続いて、図5(e)に示すように、吸引ポンプ37を稼動してノズル形成面56aを吸引部20から吸引して液状体を吸引する(D工程)。このとき、三方弁36のバルブV1,V2,V3は、吸引経路のバルブであるV1,V2が開で大気開放バルブV3が閉となっている。
吸引部20からの吸引により、液状体はノズル形成面56aと吸引部20との隙間に一旦引き出され、そして吸引部20から吸引ポンプ37を介して排液状体タンク38に流入し、液滴吐出ヘッド50のクリーニングが完了する。
【0037】
なお、B工程の吸引力よりD工程の吸引力を大きく設定しても良い。
つまり、吸引空間32が形成された場合、吸引力が大きくなくとも空間内を負圧にでき、液状体を吸引できる。これに対して液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aと吸引部20との間に隙間が形成される場合には、大きな吸引力が必要になる。このことから、B工程よりD工程における吸引部からの吸引力を大きくすることで、液状体の吸引を確実にすることができる。
【0038】
上記の液滴吐出ヘッドのクリーニングにおけるD工程の吸引状態について詳しく説明する。
図6はD工程における液状体の吸引状態を説明する概略図である。
図6(a)に示すように、D工程では液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aと吸引部20におけるキャップ21先端との隙間G1,G2が両端で異なっている。本実施形態では隙間G1,G2は0.5mm〜2mmに設定され、G1>G2という関係にある。
このようにして、液滴吐出ヘッド50のノズル形成面56aに対して、対向する吸引部20におけるキャップ台22の底面22aまたは吸収材24の吸収材表面24aが隙間と角度を保って保持されている。
【0039】
この状態から吸引部20から吸引が行われると、ノズルプレート56のノズル58から液状体が吸引され、ノズル形成面56aと吸収材表面24aの間に液滴吐出ヘッド50内に残った液状体10が引き出される。
そして液状体10は、多孔質の吸収部材を通過して吸引穴25に引かれていく。このとき、ノズル形成面56aと吸収材表面24aとが角度を有して対向しているため、液状体10は毛細管現象(毛管現象)により狭いところに入ろうとする力が働き、最後には図6(b)に示すように、隙間の狭い側に移動して吸引されていく。このように、液状体10が対向する面の隙間の広いところから狭いところへ流れていくように吸引されるため、ノズル形成面56aに残る液状体10をほとんど無くすことができる。
【0040】
また、対向する面の狭い場所はノズル形成面56aの外周部分となるため、液状体10が最後に吸引される場所はこの外周部分に限られノズル58から遠い場所となり、液状体10が残ったとしてもノズル58に与える影響が少ない。
さらに、液滴吐出ヘッド50の吸引によるクリーニングの後に、ゴムなどの弾性を有するワーパーによるノズル形成面56aのワイピングが行われる場合には、液状体10の残りがほとんど無くなるため、ワイピングによる液状体10の飛び散りを無くすことができる。
【0041】
次に、ノズル形成面に対する吸引部の傾きはどのように傾けてもよく、以下にその説明をする。
図7は本実施形態にかかる対向するノズル形成面と吸引部における対向面との位置関係を示す説明図である。ここでは、両者の面をX軸方向から見た側面と、Y軸方向から見た側面で示している。
なお、ノズル形成面56aと対向する吸引部20の面として、吸収材表面24aとして表しているが、吸収材24を用いない場合には、キャップ台22の凹部の底面22aが対向面となる(図6参照)。
【0042】
図7(a)は上記で説明した実施形態におけるノズル形成面56aと吸収材表面24aとの配置関係であり、X軸方向から見たときにノズル形成面56aに対して吸収材表面24aが傾き、Y軸方向から見たときにノズル形成面56aと吸収材表面24aとが平行である。
図7(b)はX軸方向から見たときにノズル形成面56aと吸収材表面24aとが平行であり、Y軸方向から見たときにノズル形成面56aに対して吸収材表面24aが傾いている。
図7(c)はX軸方向から見たときにノズル形成面56aに対して吸収材表面24aが傾き、Y軸方向から見たときにノズル形成面56aに対して吸収材表面24aが傾いている。
このような、図7(b)、(c)のようなノズル形成面に対する吸引部における対向面の配置であっても、本実施形態と同様の効果を有する。
【符号の説明】
【0043】
10…液状体、10a…液滴、20…吸引部、21…キャップ、22…キャップ台、22a…底面、23…台座、23a…肩部、23b…接続穴、23c…案内凹部、24…吸収材、24a…吸収材表面、25…吸引穴、26…シールリング、27…継ぎ手部材、29…バネ、30…キャップホルダー、31…係止部、32…吸引空間、35…吸引チューブ、36…三方弁、37…吸引ポンプ、38…排液状体タンク、45…ワイパー台、46…ワイパー、50…液滴吐出ヘッド、51…液状体導入部、52…接続針、53…ヘッド基板、54…ヘッド本体、56…ノズルプレート、56a…ノズル形成面、56b…撥水膜、57…コネクター、58…ノズル、61…圧力プレート、62…振動板、63…液供給孔、65…液たまり、66…供給口、67…ヘッド隔壁、68…圧力室、69…圧電素子、100…液滴吐出装置、101,102…ガイドレール、103…移動台、105…載置テーブル、110…キャリッジ移動台、120…キャリッジ、130…吸引装置、140…ワイピング装置、150…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出ヘッドに液状体を液滴として吐出するノズルを有し、前記ノズルの形成されたノズル形成面を吸引部から吸引する液滴吐出ヘッドのクリーニング方法であって、
前記液滴吐出ヘッドの前記ノズル形成面と、前記ノズルを覆う前記吸引部とが接触し、吸引空間を形成するA工程と、
前記液滴吐出ヘッドの前記吸引空間を吸引して液状体を吸引するB工程と、
前記液滴吐出ヘッドの前記ノズル形成面と前記吸引部とを離間し、前記ノズル形成面と前記吸引部の対向面とを隙間と角度を保って保持するC工程と、
前記C工程の後で、前記液滴吐出ヘッドの前記ノズル形成面を前記吸引部から吸引して液状体を吸引するD工程と、を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法において、
前記B工程の後に、前記吸引空間内を大気開放するE工程と、を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法において、
前記B工程における前記吸引部からの吸引力より前記D工程の前記吸引部からの吸引力のほうが大きいことを特徴とする液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−143544(P2011−143544A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3689(P2010−3689)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】