説明

液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法

【課題】振動板材料によって実装工程を変更することなく、厚みや平面精度のバラツキを低減した振動板を形成することができる液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法を得ることを目的とする。
【解決手段】キャビティ基板20となるシリコン基板60の一方の面にエッチングストップ膜61を形成する工程と、シリコン基板60を他方の面側からエッチングストップ膜61までエッチングして、吐出室21となる凹部を形成する工程と、少なくとも凹部の底面に、他方の面側から振動板22となる導電性材料を成膜する工程と、エッチングストップ膜61を除去する工程と、エッチングストップ膜61を除去した後に、シリコン基板60の一方の面に絶縁膜23を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコン等を加工して微小な素子等を形成する微細加工技術(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)が急激な進歩を遂げている。微細加工技術により形成される微細加工素子の例としては、例えば液滴吐出方式のプリンタのような記録(印刷)装置で用いられている液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)、マイクロポンプ、波長可変光フィルタ、モータに利用される静電アクチュエータ、圧力センサ等がある。
【0003】
ここで、微細加工素子の一例として液滴吐出ヘッドについて説明する。液滴吐出方式の記録(印刷)装置は、家庭用、工業用を問わず、あらゆる分野の印刷に利用されている。液滴吐出方式とは、例えば複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドを対象物(紙等)との間で相対移動させ、液滴吐出ヘッドから吐出した液滴を対象物の所定の位置に付着させて印刷等をするものである。この方式は、液晶(Liquid Crystal)を用いた表示装置を作製する際のカラーフィルタ、有機化合物等の電界発光(ElectroLuminescence)素子を用いた表示パネル(OLED)、DNA、タンパク質等、生体分子のマイクロアレイ等の製造にも利用されている。
【0004】
そして液滴吐出ヘッドには、液体をためておく吐出室を流路の一部に備え、吐出室の少なくとも一面の壁(ここでは、底部の壁とし、以下、この壁のことを振動板ということにする)を撓ませて(駆動させて)形状変化(変位)させることにより吐出室内の圧力を高め、連通するノズルから液滴を吐出させる方法を利用したヘッドがある。振動板を変位させ、撓ませる力としては、例えば、電圧を印加したときの圧電素子の変形を利用するもの、振動板を可動電極とし、振動板と距離を隔てて対向するもう一方の電極(固定電極)との間に電圧(以下、駆動電圧という)を印加し、それにより発生する静電気力(特に静電引力)を利用するもの等がある。
【0005】
近年、高精細な印刷等が要求されており、高精細な印刷等を可能にするためには、各ノズルごとの液滴の吐出バラツキを低減する必要がある。各ノズルごとの液滴の吐出バラツキを低減するためには、振動板の厚みや平面精度のバラツキを低減する必要がある。
一般に、静電方式による液滴吐出ヘッドは、ノズルが形成されたノズル基板、底壁が振動板となる吐出室が形成されたキャビティ基板、及び振動板と対向し、振動板を駆動する電極が形成された電極基板を順に積層して構成されている。このような従来の液滴吐出ヘッドで振動板の厚みや平面精度のバラツキを低減したものとして、例えば、キャビティ基板の電極基板側接合面に引張り応力性を有する導電性膜、又は引張り応力性を有する膜と圧縮応力性を有する膜との積層膜を形成し、この膜で振動板を形成するというものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−270105号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の液滴吐出ヘッド(例えば特許文献1参照)では、振動板を形成する積層膜の一部に絶縁膜を用いた場合、積層膜中の導電性膜と導通をとるためにスルーホールを作製する必要があり、実装工程が増加するという問題点があった。
【0007】
振動板を導電性膜で形成した場合であっても、導電性膜の材質によってキャビティ基板と電極基板との接合方法を変更しなければならない、又は導電性膜の材質が限定されるという問題点があった。例えば、キャビティ基板がシリコンで電極基板が耐熱硬質ガラスからなる場合、キャビティ基板と電極基板との接合には陽極接合が用いられる。従来の液滴吐出ヘッドでは、キャビティ基板と電極基板との間に振動板を形成する導電性膜が設けられることとなるため、振動板に例えば窒化チタン膜を用いるとキャビティ基板と電極基板との接合方法に陽極接合を用いることができなくなる。キャビティ基板と電極基板との接合に陽極接合を用いる場合には、導電性膜の材質が陽極接合可能な材質に限定されてしまう。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、振動板材料によって実装工程を変更することなく、厚みや平面精度のバラツキを低減した振動板を形成することができる液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、液滴を吐出するノズル孔が形成されたノズル基板と、ノズル孔と連通し、底壁が振動板となる吐出室が形成されたキャビティ基板と、振動板に対向し、振動板を駆動する個別電極が形成された電極基板とを備えた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、キャビティ基板となるシリコン基板の一方の面にエッチングストップ膜を形成する工程と、シリコン基板を他方の面側からエッチングストップ膜までエッチングして、吐出室となる凹部を形成する工程と、少なくとも凹部の底面に、他方の面側から振動板となる導電性材料を成膜する工程と、エッチングストップ膜を除去する工程と、エッチングストップ膜を除去した後に、シリコン基板の一方の面に絶縁膜を形成する工程とを有する。
【0010】
したがって、導電性材料を成膜して振動板を形成するので、厚みや平面精度のバラツキを低減した振動板を有する液滴吐出ヘッドを製造することができる。また、絶縁膜を形成する面(キャビティ基板の電極基板との接合面)とは反対の面(キャビティ基板のノズル基板との接合面)側から振動板となる導電性材料を成膜するので、キャビティ基板と電極基板の接合面に導電性材料が存在せず、振動板材料によって実装(接合)工程を変更する必要のない液滴吐出ヘッドを製造することができる。このため、振動板材料として液滴材料に応じた種々の材料が選択可能となる。また、振動板形成後に絶縁膜を形成するので、キャビティ基板の電極基板との接合面に、エッチング液の耐性にかかわらず、絶縁膜として任意の材料を任意の位置に成膜することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、振動板となる導電性材料として、シリコン、チタン又は窒化チタンを用いている。成膜技術として実績のある材料を用いているので、厚みや平面精度のバラツキを低減した振動板を有する液滴吐出ヘッドを製造することができる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して、液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドを製造する。
したがって、高精細な印刷等が可能な液滴吐出装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。図1では液滴吐出ヘッドの一部を示している。本実施の形態では、例えば静電方式で駆動する静電アクチュエータを用いたデバイスの代表として、フェイスイジェクト型の液滴吐出ヘッドについて説明する。なお、構成部材を図示し、見やすくするため、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものと異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下とする。さらに、ノズル31が並んでいる方向を短手方向、短手方向に直交する方向を長手方向として説明する。
【0014】
図1に示すように本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3つの基板を下から順に積層して構成する。ここで本実施の形態では、電極基板10とキャビティ基板20とは陽極接合により接合する。また、キャビティ基板20とノズル基板30とはエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合する。
【0015】
電極基板10は、例えばホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス等の基板を主要な材料としている。本実施の形態ではガラス基板とするが、例えば単結晶シリコンを基板とすることもできる。電極基板10の表面には、後述するキャビティ基板20の吐出室21となる凹部に合わせて複数の凹部11を形成している。凹部11は、後述するキャビティ基板20の振動板22が撓む(変位する)ことができる空間(以下、この空間をギャップという)を有している。また、凹部11の内側(特に底部)には、キャビティ基板20の各吐出室21(振動板22)と対向するように、固定電極となる個別電極12Aを設け、さらにリード部12B及び端子部12Cを個別電極12Aと一体として設けている(以下、特に区別する必要がなければこれらを合わせて電極部12とする)。電極部12は、例えばスパッタ法により、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を約0.1μm(100nm)の厚さで凹部11の内側に形成する。また、電極基板10には、他にも外部のタンク(図示せず)から供給された液体を取り入れる流路となる液体供給口13となる貫通穴を設けている。
【0016】
キャビティ基板20は、例えば表面が(100)面方位、(110)面方位等のシリコン単結晶基板(以下、シリコン基板という)を主要な材料としている。キャビティ基板20には、吐出させる液体を一時的に溜めるために流路上に設ける吐出室21となる凹部(底壁が可動電極となる振動板22となっている)を形成している。そして、キャビティ基板20の下面(電極基板10と対向する面)には、振動板22と個別電極12Aとの間を電気的に絶縁するための酸化シリコン(SiO2 )膜である絶縁膜23を形成している。ここでは絶縁膜23を酸化シリコン(SiO2 )としているが、例えばアルミナ(Al23)、酸化ハフニウム(HfO2 )、またはDLC(Diamond Like Carbon)等を用いてもよい。また、各吐出室21に液体を供給するリザーバ(共通液室)24となる凹部を形成している。さらに、外部の発振回路から基板(振動板22)に電荷を供給するための端子となる共通電極端子28も設けている。
【0017】
ノズル基板30についても、例えばシリコン基板を主要な材料とする。ノズル基板30には、複数のノズル31を形成している。各ノズル31は、振動板22の駆動(変位)により加圧された液体を液滴として外部に吐出する。ノズル31を複数段で形成すると、液滴を吐出する際の直進性向上が期待できるため、本実施の形態ではノズル31を2段で形成している。また、実施の形態1の液滴吐出ヘッドでは、振動板22が変位することでリザーバ24方向に加わる圧力を緩衝するダイヤフラム32がさらに設けられている。さらに、吐出室21とリザーバ24とを連通させるためのオリフィス33を下面に有している。
【0018】
図2は液滴吐出ヘッドの長手方向における断面図である。吐出室21の側壁及び底壁に、例えばチタン(Ti)からなる導電膜27を形成している。つまり、振動板22は、この導電膜27と絶縁膜23とで構成している。なお、本実施の形態では、導電膜27の導電性をより確実にするために吐出室21の側壁にも導電膜27を形成したが、少なくとも振動板22となる部分(吐出室21の底壁部分)に形成していればよい。また、本実施の形態では、導電膜27にチタン(Ti)を用いたが、例えば、窒化チタン(TiN)を用いてもよい。単結晶シリコンや多結晶シリコンなど金属材料以外の導電性材料であってもよい。スパッタ法、CVD法又は蒸着法などで成膜が行える材料であればよく、振動板材料として液滴材料に応じた種々の材料が選択可能である。
【0019】
発振回路41は、ワイヤ、FPC(Flexible Print Circuit)等の配線42を介して、電気的に共通電極端子28及び電極取出し口26から露出した端子部12Cと接続し、個別電極12A、キャビティ基板20(振動板22)への電荷(電力)の供給及び停止を制御する。例えば、発振回路41が発振駆動して、例えば0Vと40Vのパルス電圧を印加し、個別電極12Aに電荷を供給して正に帯電させ、振動板22を相対的に負に帯電させると、振動板22は静電気力により個別電極12Aに引き寄せられて撓む。これにより吐出室21の容積は排除体積分広がる。そして電荷供給を止めると振動板22は元の形に戻る(復元する)が、そのときの吐出室21の容積も元に戻り、その圧力により差分の液滴が吐出する。この液滴が例えば記録対象となる記録紙に着弾することによって印刷等の記録が行われることとなる。なお、導電膜27をキャビティ基板20の上面の一部に形成した場合には、これを利用して共通電極端子28を形成してもよい。
【0020】
封止材25は、異物、水分(水蒸気)等がギャップに浸入しないように、ギャップと外の空間とを遮断し、密閉するために電極取出し口26に設ける。電極取出し口26は端子部12Cを外部に露出させるために設けている。
【0021】
図3は電極基板10の製造工程を表す図である。図3に基づいて電極基板10の製造について説明する。実際には電極基板10は、ウェハ状のガラス基板で複数個分を同時形成する。そして、他の基板と接合等をした後、個々に切り離して液滴吐出ヘッドを製造するが、図3では1つの液滴吐出ヘッドの電極基板10の一部分だけを示している。
【0022】
ガラス基板51の一方の面に対し、例えば、マスクとなるクロム(Cr)等の膜52(以下、マスク膜52という)を形成する(図3(a))。マスク膜52の形成は、例えばPVD(Physical Vapor Deposition)法で行う。例えば、PVD法としては、スパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング等の方法がある。さらに、マスク膜52上の全面にフォトレジスト53を塗布する。そして、フォトリソグラフィー(Photolithography)法を用い、クロム膜52上の全面に塗布したフォトレジスト用の感光性樹脂をマスクアライナ等で露光し、現像液で現像することで、ガラス基板51に、電極基板10の凹部11の中央部分(最もギャップ長が長い)となる形状(長方形)に対応させてフォトレジスト53によるパターンを形成する。
【0023】
フォトレジストパターンを形成した後、例えば硝酸セリウムアンモニウム水溶液によりウェットエッチングを行い、クロム膜52の不要な部分を除去する(図3(b))。これにより、マスク膜52による凹部11のガラス基板51が露出したエッチングパターンが形成される。そして、例えばフッ化アンモニウム水溶液によりガラス基板51のウェットエッチングを行って、凹部11を形成する(図3(c))。その後、マスク膜52を剥離する。
【0024】
その後、例えばスパッタによってITO膜54をガラス基板51の凹部11を形成した側の面全体に形成する(図3(d))。そしてフォトリソグラフィーによってレジスト(図示せず)をパターニングし、電極部12として残す部分だけを保護した上でITO膜54をエッチングする。また、液体供給口13となる貫通穴をサンドブラスト法または切削加工により形成する(図3(e))。以上の工程により電極基板10を作製する。
【0025】
図4及び図5は液滴吐出ヘッドの製造工程を示す図である。これら図4及び図5に基づいてキャビティ基板20の製造工程及び液滴吐出ヘッドの製造工程について説明する。
【0026】
(1)エッチングストップ膜形成工程
まず、キャビティ基板20の元になる被加工基板として、シリコン基板60を用意し、このシリコン基板60の一方の面(電極基板10との接合面側)に、例えばスパッタ法により、エッチングストップ膜61を例えば0.1μmで形成する(図4(a))。なお、エッチングストップ膜61の材料は、後述のシリコンエッチング工程で用いる水酸化カリウム水溶液に耐性を有するものであればよい。
【0027】
(2)ハードマスクのレジストパターニング工程
シリコン基板60の他方の面(ノズル基板30との接合面側)に、例えば酸化シリコンからなるハードマスク62を形成し(図4(b))、吐出室21及びリザーバ24となる部分のハードマスク62をエッチングするため、レジストパターニングを施す。そして、例えばフッ酸水溶液を用いてハードマスク62がなくなるまで、その部分についてエッチングを行い、パターニングしてシリコンを露出させる(図4(c))。
【0028】
(3)シリコンエッチング工程
次に、シリコン基板60を例えば35wt%の高濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、ウェットエッチングを行う。そして、さらに、吐出室21等の寸法精度を高めるため、例えば3wt%の低濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、シリコン基板60のエッチングを続け、吐出室21となる部分のシリコンをエッチングストップ膜61まで除去する。この工程により、吐出室21及びリザーバ24が形成される。このとき、エッチングストップ膜61は水酸化カリウム水溶液に対して耐性を有しているので、吐出室21の底壁となっているエッチングストップ膜61の表面は面荒れがなく良好な平面度を保っている。なお、この工程は、途中までウェットエッチングを行い、最後はドライエッチングとする工程としてもよいし、ドライエッチングのみで加工する工程としてもよい。また、リザーバ24はエッチングの開始を遅らせることで、底部に所要の厚さのシリコンを残す。その後、シリコン基板60の表面に残ったハードマスク62を除去する(図4(d))。
【0029】
(4)振動板形成工程
シリコン基板60のウェットエッチングをおこなった後、ノズル基板30との接合面側から吐出室21以外の範囲にマスクをし、吐出室21の側壁及び底壁にスパッタ法等により例えばチタンを厚さ0.4μmで成膜して導電膜27を形成する(図4(e))。続いて、例えばフッ酸水溶液を用いてエッチングストップ膜61を除去する(図4(f))。その後、スパッタ法等により、例えば酸化シリコンを例えば厚さ0.2μmで成膜し絶縁膜23を形成する(図4(g))。これにより、キャビティ基板20が作製される。また、振動板22は絶縁膜23と導電膜27の合計厚さが例えば0.6μmとなる。したがって、振動板22を高精度の厚み精度で形成することができる。なお、本実施の形態では、エッチングストップ膜61を除去した後に絶縁膜23を形成したが、エッチングストップ膜61を絶縁膜23として用いることにより、エッチングストップ膜61を除去する工程を省略してもよい。
【0030】
(5)接合工程
このキャビティ基板20を予め凹部11内に電極部12が形成された電極基板10の上面に絶縁膜23を介して陽極接合する。次に、サンドブラスト法等により、リザーバ24の底部を貫通させてインク液体供給口13を形成する。その後、上記により形成されたキャビティ基板20の上面に、予めノズル31等が形成されたノズル基板30をエポキシ樹脂等の接着剤により接合する(図5(h))。
【0031】
(6)ダイシング工程
そして、振動板22と電極部12間のギャップ開放端部をエポキシ接着剤等の封止材25で封止した後、ダイシングにより個々のヘッドチップに切断すれば、液滴吐出ヘッドが完成する(図5(i))。
【0032】
このように構成された液滴吐出ヘッドにおいては、導電性材料を成膜して振動板22を形成するので、厚みや平面精度のバラツキを低減した振動板22を有する液滴吐出ヘッドを得ることができる。また、絶縁膜23を形成する面(キャビティ基板20の電極基板10との接合面)とは反対の面(キャビティ基板20のノズル基板30との接合面)側から振動板22となる導電膜27を形成するので、キャビティ基板20と電極基板10との接合面に導電膜27が存在せず、振動板材料によって基板接合などの実装工程を変更する必要のない液滴吐出ヘッドを得ることができる。このため、振動板材料として液滴材料に応じた種々の材料が選択可能となる。また、振動板22を形成した後に絶縁膜23を形成するので、エッチング液の耐性にかかわらず、絶縁膜23として任意の材料を任意の位置で形成することが可能となる。
【0033】
また、導電膜27をチタン又は窒化チタンで構成することにより、成膜技術として実績のある材料を用いているので、厚みや平面精度のバラツキを低減した振動板22を有する液滴吐出ヘッドを得ることができる。また、耐薬品性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0034】
実施の形態2.
図6は上述の実施の形態1で製造した液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。また、図7は液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。図6及び図7の液滴吐出装置は液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする。また、いわゆるシリアル型の装置である。図7において、被印刷物であるプリント紙110が支持されるドラム101と、プリント紙110にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド102とで主に構成される。また、図示していないが、液滴吐出ヘッド102にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙110は、ドラム101の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ103により、ドラム101に圧着して保持される。そして、送りネジ104がドラム101の軸方向に平行に設けられ、液滴吐出ヘッド102が保持されている。送りネジ104が回転することによって液滴吐出ヘッド102がドラム101の軸方向に移動するようになっている。
【0035】
一方、ドラム101は、ベルト105等を介してモータ106により回転駆動される。また、プリント制御手段107は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ104、モータ106を駆動させ、また、ここでは図示していないが、発振回路を駆動させて振動板22を振動させ、制御をしながらプリント紙110に印刷を行わせる。
【0036】
ここでは液体をインクとしてプリント紙110に吐出するようにしているが、液滴吐出ヘッドから吐出する液体はインクに限定されない。例えば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体、OLED等の表示基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体、基板上に配線する用途においては、例えば導電性金属を含む液体を、それぞれの装置において設けられた液滴吐出ヘッドから吐出させるようにしてもよい。また、液滴吐出ヘッドをディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids:デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。
【図2】液滴吐出ヘッドの長手方向における断面図である。
【図3】電極基板10の作製工程例を表す図である。
【図4】液滴吐出ヘッドの製造工程を示す図である。
【図5】液滴吐出ヘッドの製造工程を示す図である。
【図6】液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。
【図7】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 電極基板、11 凹部、12 電極部、12A 個別電極、12B リード部、12C 端子部、13 液体供給口、20 キャビティ基板、21 吐出室、22 振動板、23 絶縁膜、24 リザーバ、25 封止材、26 電極取出し口、27 導電膜、28 共通電極端子、30 ノズル基板、31 ノズル、32 ダイヤフラム、33 オリフィス、41 発振回路、42 配線、51 ガラス基板、52 マスク膜、53 フォトレジスト、54 ITO膜、60 シリコン基板、61 エッチングストップ膜、62 ハードマスク、100 プリンタ、101 ドラム、102 液滴吐出ヘッド、103 紙圧着ローラ、104 送りネジ、105 ベルト、106 モータ、107 プリント制御手段、110 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズル孔が形成されたノズル基板と、前記ノズル孔と連通し、底壁が振動板となる吐出室が形成されたキャビティ基板と、前記振動板に対向し、前記振動板を駆動する個別電極が形成された電極基板とを備えた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記キャビティ基板となるシリコン基板の一方の面にエッチングストップ膜を形成する工程と、
前記シリコン基板を他方の面側から前記エッチングストップ膜までエッチングして、前記吐出室となる凹部を形成する工程と、
少なくとも前記凹部の底面に、前記他方の面側から前記振動板となる導電性材料を成膜する工程と、
前記エッチングストップ膜を除去する工程と、
前記エッチングストップ膜を除去した後に、前記シリコン基板の前記一方の面に絶縁膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記導電性材料は、シリコン、チタン又は窒化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して、液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドを製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−78515(P2009−78515A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251337(P2007−251337)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】