説明

液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】ストレート部に液体を導入する領域を異方性エッチングで形成する場合、ノズル形状は、ストレート部を構成する円柱と、液体導入領域を構成する円柱状の凹部とを組み合わせた凸形状となる。液体導入領域とストレート部に段付きの形状を用いた場合、液滴吐出器内での液体のメニスカスが乱れるため、圧力発生室の駆動周波数を上昇させた場合液体の吐出に乱れが発生し、高速駆動が困難となり、描画速度が低下する。
【解決手段】第1マスクとしてのフォトレジスト層211をマスクとして異方性エッチングを行うことでノズルとなる凹部aを形成し、第2マスクとしてのフォトレジスト層212をマスクとして等方性ウェットエッチングを行い、お椀型の凹部bを形成する。従来用いられていた円柱状の凹部を用いる場合と比べ、液滴吐出ヘッド115からの吐出による振動に対して、液体のメニスカスが安定し、高速描画が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力発生室内を加圧することで機能液やインクなどの液体を、ノズルから液滴として吐出させる液滴吐出ヘッドは、液滴吐出装置に搭載され、画像の印刷や、電気配線パターンの形成、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の形成など、多岐に渡って応用されてきている。
【0003】
たとえばシリコン基板を用いて、50μm程度の厚みを有する液滴吐出ヘッドの製造方法としては、特許文献1に記載されるような方法が知られている。この製造方法は、厚い基板の第1面に形成される長さ40μm程度の液体導入領域と、後工程(研磨工程)後に第2面に貫通する長さ10μm程度のストレート部と、を共に異方性エッチングで形成し、これらの工程を終えた後に、第1面に対向する第2面からシリコン基板を研磨し、ストレート部を露出させることで液滴吐出ヘッドを製造する方法である。この方法を用いる場合、研磨工程以前では、厚いシリコン基板を用いることができるため、加工途中での基板の割れを抑えることが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−38570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ストレート部に液体を導入する長さ40μm程度の導入領域を異方性エッチングで形成する場合、ノズル形状は、ストレート部を構成する円柱と、液体導入領域を構成する円柱とを組み合わせた形状となる。液体導入領域とストレート部に段付きの形状を用いた場合、液滴吐出器内での液体のメニスカスが乱れるため、圧力発生室を駆動する周波数を上昇させた場合、液体の吐出に乱れが発生する。そのため高速駆動が困難となり、描画速度が低下してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例にかかる液滴吐出ヘッドの製造方法は、基板の第1面に、第1開口部を有する第1マスクを形成する工程と、前記第1マスクをマスクとして異方性エッチングを行い前記基板の前記第1面と対向する第2面に届かぬ深さを有する凹部aを形成する工程と、前記基板の前記第1面に、平面視にて前記凹部aを含む第2開口部を有する第2マスクを形成する工程と、前記第2マスクをマスクとして、前記基板を等方性ウェットエッチングして前記凹部aを残す深さを有する凹部bを形成する工程と、前記基板の前記第2面から前記基板を薄層化し、前記凹部aを前記第2面に露出させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
これによれば、第1マスクをマスクとして異方性エッチングを行うことでノズルとなる凹部aが形成される。そして、等方性ウェットエッチングによりお椀型の凹部bが形成される。そのため、従来用いられていた円柱状の凹部bを用いる場合と比べ、液滴吐出ヘッドからの吐出による振動に対して液体のメニスカスが安定し、高速描画が可能となる。
また、等方性ウェットエッチングを用いているため、凹部aの下側では、凹部aの上側と比べ、エッチング液が循環せず滞留する。そのため、エッチング液中の活性物質が消耗する。従って、ノズルのストレート部(凹部aの一部を使用)ではエッチングが抑えられ、ストレート部の形状を保つことができる。
また、基板の強度が保たれている状態で、凹部a、凹部bを形成した後、第2面から基板を薄層化するため、加工途中での破損発生を抑制することができる。
【0009】
[適用例2]上記適用例にかかる液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記凹部aは直径30μm以下の大きさであることを特徴とする。
【0010】
上記した適用例によれば、凹部aの直径を30μm以下にすることでより確実にエッチング液の、凹部a下側への侵入を抑えることができる。エッチング液の侵入が抑えられる、即ちエッチング液が滞留することでエッチング液中の活性物質が消耗しノズルのストレート部(凹部aの下側を使用)ではエッチングが抑えられ、ストレート部の形状を保つことができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例にかかる液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記第2マスクは、前記基板の前記第1面に、平面視にて前記凹部aを含む前記第2開口部を有し、かつ前記第2開口部内に前記凹部aを覆う保護部を含むことを特徴とする。
【0012】
上記した適用例によれば、凹部aは第2マスクの一部としての保護部により覆われる。そのため、お椀型の凹部bを形成するための等方性ウェットエッチング工程の影響から保護される。よって凹部aの一部を用いてなるストレート部の形状をより精密に保つことができる。
【0013】
[適用例4]本適用例にかかる液滴吐出ヘッドの製造方法は、基板の第1面に、第1開口部を有する第1マスクを形成する工程と、前記第1マスクをマスクとして、前記第1開口部から等方性エッチングを行い、前記基板の前記第1面と対向する第2面に届かぬ深さを有する凹部bを形成する工程と、平面視にて前記凹部bの内側に第2開口部を有する第2マスクを前記第1面に形成する工程と、前記第2マスクをマスクとして異方性エッチングを行い、前記第2面に届かぬ深さを有する凹部aを形成する工程と、前記基板の前記第2面から前記基板を薄層化し、前記凹部aを前記第2面に露出させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
これによれば、先に等方性エッチングすることにより、先にお椀型の凹部bが形成される。そしてその後にストレート部となる凹部aを形成すべく第2マスクを用いた異方性エッチングが行われる。凹部bにお椀型の形状を用いることで、従来用いられていた円柱状の凹部bを用いる場合と比べ、液滴吐出ヘッドからの吐出による振動に対して、液体のメニスカスが安定し、高速描画が可能となる。また、等方性エッチングの影響を排除した状態でストレート部となる凹部aを形成することが可能となるため、よりストレート部の形状精度が高い液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することが可能となる。また、基板の強度が保たれている状態で、凹部b、凹部aを形成した後、基板を薄層化するため、加工途中での破損発生を抑制することができる。
【0015】
[適用例5]本適用例にかかる液滴吐出ヘッドの製造方法は、基板の第1面に、第1開口部を有する第1マスクを形成する工程と、前記第1マスクをマスクとして、前記第1開口部から等方性エッチングを行い、前記基板の前記第1面と対向する第2面に届かぬ深さを有する凹部bを形成する工程と、平面視にて前記凹部bの内側に第2開口部を有する第2マスクを前記第1面又は前記第2面に形成する工程と、前記第2マスクをマスクとして異方性エッチングを行い、前記第1面と前記第2面との間を貫通させる凹部aを形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
これによれば、先に等方性エッチングすることにより、先にお椀型の凹部bが形成される。そしてその後にストレート部となる凹部aを形成すべく第2マスクを用いた異方性エッチングが行われる。凹部bにお椀型の形状を用いることで、従来用いられていた円柱状の凹部bを用いる場合と比べ、液滴吐出ヘッドからの吐出による振動に対して、液体のメニスカスが安定し、高速描画が可能となる。また、等方性エッチングの影響を排除した状態でストレート部となる凹部aを形成することが可能となるため、よりストレート部の形状精度が高い液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することが可能となる。また異方性エッチングで第1面と第2面との間に、ストレート部となる凹部aを貫通させるため、凹部aを露出させるために行われる基板の薄層化処理を省略することが可能となり、製造工程を短縮することができる。また、基板の薄層化処理と比べ寸法精度が高い等方性エッチング、異方性エッチングを用いて液滴吐出ヘッドを製造するため、寸法精度の高い液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することが可能となる。
【0017】
[適用例6]上記適用例にかかる液滴吐出ヘッドの製造方法は、前記等方性エッチングを行う工程では、前記基板の前記第2マスクが形成される面と対抗する面にエッチング保護層が形成されていることを特徴とする。
【0018】
上記した適用例によれば、基板の第2面にはエッチング保護層が形成されている。そのため、エッチング工程での基板の厚み変動が抑えられ、液滴吐出ヘッドの仕上がり寸法をより精密に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態:等方性ウェットエッチングを用いた液滴吐出ヘッドの製造方法)
以下、本実施形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態にかかる液滴吐出ヘッドを具備したインクジェットプリンタ10の概略図を示したものである。また、図中吹き出し部は、後述するキャリッジ20を白抜き矢印の方向から見たときの模式図である。なお、説明の便宜上、キャリッジ20を基準として、この白抜き矢印の方向を正面方向とし、横方向をそれぞれ左右側面方向と呼ぶこととする。また、印刷用紙25の方向を下方向、その反対方向を上方向として以降説明する。
【0020】
このインクジェットプリンタ10は、液体としてのY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色インクがそれぞれ収納されたインクカートリッジ11,12,13,14がキャリッジ20に装着される。そして、各色インクに対応したそれぞれ4つの液滴吐出器110,120,130,140がキャリッジ20の下方向に設けられ、これらの液滴吐出器からインク滴を吐出して、印刷用紙25に所定の画像などを印刷するものである。
【0021】
キャリッジ20は、キャリッジベルト41に固定され、キャリッジベルト41がキャリッジモータ40によって駆動されるのに伴って、フレーム17に固定されたガイド21に沿って図面左右方向(主走査方向)に移動する。このとき、各色インクを吐出するため液滴吐出器110,120,130,140に、主走査方向に対して直交する方向に直線状に穿設された複数の吐出口からなる吐出口列から、印刷画像に相応した所定量のインク滴が吐出される。また印刷用紙25は、プラテン28によって裏面から支持されつつ、フレーム17に固定された駆動モータ26により駆動される図示しない紙送りローラーなどによって、図面上下方向に所定量ずつ移動する。こうして、印刷画像に相応した所定量のインク滴が、印刷用紙25全体に吐出されることによって画像が形成される。
【0022】
次に、液滴吐出器110,120,130,140について図2を用いて説明する。なお、液滴吐出器110,120,130,140は総て同じ構造を有していることから、代表して、液滴吐出器110について以降説明する。
図2は、液滴吐出器110の構成を示した三面図で、(a)は上面図、(b)は右側方図、(c)は下面図、をそれぞれ示している。次に、液滴吐出器110について、インクの流路に沿ってその構成を説明する。
【0023】
まず、図2(a)に示したように、開口部となるインク流入口111aが設けられた供給流路形成部材111に、図示しないインクカートリッジから供給されたインクが流入する。そして、供給流路形成部材111に流入したインクは、内部に形成された供給流路(以降、「リザーバ」と称す)111cを通って、図中二点鎖線の矢印で示したように、連通孔113aと連通孔113bへ流れる。
【0024】
リザーバ111cは、図2(b)に示すように、供給流路形成部材111と薄膜材112と連通板113とによって囲まれて形成され、連通孔113a,113bは連通板113に貫通開口されている。連通孔113aに流入したインクは、圧力室形成部材114に形成された圧力室114aに流入する。そして、圧力室114aに流入したインクは、圧電素子117の変形駆動によって変位する振動板116によって加圧され、液滴吐出ヘッド115に形成された吐出口118aからインク滴として吐出される。なお、図2(b)では省略しているが、連通孔113bに流入したインクも、図中裏面側となる左側面において圧力室形成部材114に形成された圧力室(図示せず)にて同様に加圧され、図2(c)に示したように液滴吐出ヘッド115に形成された吐出口118bから、同じくインク滴として吐出される。
【0025】
供給流路形成部材111、連通板113、圧力室形成部材114は、それぞれ金属板(本実施形態ではステンレス鋼板)により構成されている。そして、液滴吐出ヘッド115は単結晶シリコンにより構成され、接着剤や溶着などによって互いに積層固着されて形成されている。薄膜材112は、インク滴の吐出動作などによってリザーバ111cに生ずるインクの振動バランスをとるために配置される。薄膜材112は、可撓性を有する樹脂製の薄板(本実施形態ではPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂))からなり、供給流路形成部材111の上面に、接着又は溶着によって固定されている。
【0026】
また、振動板116はセラミック板(本実施形態ではジルコニア板)からなり、図2(b)に示したように、連通板113、圧力室形成部材114、液滴吐出ヘッド115のそれぞれ左右の側壁面に接着固定されている。そして、同じく図2(b)に示したように、振動板116の表面には、圧力室114aのインクを加圧するための圧電素子117が貼り付けられている。圧電素子117は、圧力室114aの幅(図面左右方向)よりも狭い幅で、圧力室114aの長手方向(図面上下方向)に長い形状を有するPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの電歪特性を有する圧電材料の薄板からなり、電圧を印加すると幅方向において湾曲するように構成されている。そして、図示しない電極が圧電素子117に接続形成され、所定の駆動信号が同じく図示しない結線部材を介して電極に印加されることによって圧電素子117が湾曲し、もって振動板116を変形させて圧力室114aのインクを加圧するように形成されている。
【0027】
液滴吐出ヘッド115は、図3(a),(b)に示すように、お椀状の形状を持つ凹部bと、円筒形状を持つ凹部a(一部がストレート部として機能する)とを組み合わせた形状を有している。図3(a)は液滴吐出ヘッド115の平面図、(b)は(a)のA−A’線における断面図である。
【0028】
以下、液滴吐出ヘッド115の製造方法について説明する。図4(a),(b),(c)、図5(a),(b),(c)は液滴吐出ヘッド115の製造工程を示す工程断面図である。
【0029】
まず、工程1として、単結晶シリコンを用いた基板210を用意し、超音波洗浄などの前処理を行った後、基板210の第1面にフォトレジスト層前駆体211aをスピンコート法などを用いて形成する。そして、パターニングを行い、第1マスクとしてのフォトレジスト層211を形成する。フォトレジスト層211には、第1開口部251として直径20μm程度の穴が開口されている。ここで、第1開口部251の直径を30μm以下に抑えることで、後述する等方性ウェットエッチング工程を行った場合に、凹部aの深いところでは、エッチング液を滞留させることが可能となり、反応基を消耗させることで等方性ウェットエッチングを止め、凹部aを円筒形状に保たせることが可能となる。ここまでの工程を終了した工程断面図を図4(a)に示す。基板210の厚さは、たとえば500μm程度のものを用いることができる。このように厚い基板210を用いることで、基板210の割れや欠け、曲がりなどによる加工不良の発生を抑えることができる。
【0030】
次に、工程2として、異方性エッチングを行い凹部aを形成する。この場合では、臭素系のガスを使い、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)プラズマエッチング装置を用いて異方性ドライエッチングを行っている。凹部aは、たとえば直径20μm程度、深さ50μm程度に形成される。ここまでの工程を終了した工程断面図を図4(b)に示す。
【0031】
次に、工程3として、そして、アッシング法によりフォトレジスト層211を除去する。続けて、フォトレジスト層前駆体212aをスピンコート法などを用いて形成する。そして、パターニングを行い、第2マスクとしてのフォトレジスト層212を形成する。ここまでの工程を終了した工程断面図を図4(c)に示す。図4(c)に示すように、フォトレジスト層212には、凹部aが含まれるように第2開口部252が形成されている。第2開口部252の開口径はたとえば40〜60μmの直径を有している。
【0032】
次に、工程4として等方性ウェットエッチングを行う。ここでは、等方性のエッチング液としてフッ硝酸を用いて等方性ウェットエッチングを行う。凹部aの深いところでは、エッチング液が滞留しており、フッ硝酸の反応基が消耗され尽くしてしまうため等方性ウェットエッチングが進行せず、円筒形状が保たれる。一方、凹部aの浅いところでは、エッチング液が対流するので反応基が供給され、等方性ウェットエッチングが進み、お椀型の形状を有する凹部bが形成される。ここまでの工程を終了した工程断面図を図5(a)に示す。
【0033】
次に、工程5として、水洗などによりエッチング液を除去し、さらにフォトレジスト層212を除去する。ここまでの工程を終了した工程断面図を図5(b)に示す。
【0034】
次に、工程6として、基板210の第1面と対向する第2面を研磨し、凹部aを露出させることで液滴吐出ヘッド115が形成される。ここまでの工程を終了した工程断面図を図5(c)に示す。以上の工程により、液滴吐出ヘッド115を形成することができる。
【0035】
また、フォトレジスト層212のパターンを工夫することで、さらに凹部aの深いところ(ストレート部として機能する)の形状に工程4で行われる等方性ウェットエッチングの影響を避けることが可能である。具体的には、工程3で形成されるフォトレジスト層212のパターンを図6に示すパターンに変更し、第2開口部252内に位置する凹部a上にフォトレジスト層212を残すことで、工程4で行われるエッチング液の凹部aへの侵入を防止することができる。ここで、図6(a)はフォトレジスト層212の平面図、(b)は(a)に示すフォトレジスト層212のA−A’線断面図である。そのため、凹部aの深いところ(ストレート部として機能する)を変形させることなくお椀型の形状を有する凹部bを形成することができる。
【0036】
(第2の実施形態:等方性エッチングを先に行う液滴吐出ヘッドの製造方法)
次に、等方性エッチングを先に行う場合の実施形態について説明する。図7(a),(b),(c)、図8(a),(b)は液滴吐出ヘッド115aの製造工程を示す工程断面図である。
【0037】
まず、工程1として、単結晶シリコンを用いた基板310を用意し、超音波洗浄などの前処理を行った後、基板310の第1面にフォトレジスト層前駆体311aをスピンコート法などを用いて形成する。そして、パターニングを行い、第1マスクとしてのフォトレジスト層311を形成する。フォトレジスト層311には、第1開口部351として直径40〜60μm程度の穴が開口されている。ここまでの工程を終了した工程断面図を図7(a)に示す。基板310としては、たとえば500μm程度のものを用いることができる。このように厚い基板310を用いることで、基板310の割れや欠け、曲がりなどによる加工不良の発生を抑えることができる。
【0038】
次に、工程2として等方性エッチングを行う。ここでは、等方性エッチングとしてウェットエッチングを用い、等方性のエッチング液としてフッ硝酸を用いて等方性ウェットエッチングを行う。等方性ウェットエッチングが進むことで、お椀型の形状を有する凹部bが形成される。ここまでの工程を終了した工程断面図を図7(b)に示す。ここで、等方性ウェットエッチングに代えて、CF4ガスなどを用いたバレル型のドライエッチング装置を用い、等方性ドライエッチングを用いても良い。また、ECRプラズマエッチング装置を用いて等方性ドライエッチングが生じるエッチング条件を用いても良い。
【0039】
次に、工程3として水洗などによりエッチング液を除去し、さらにフォトレジスト層311を除去する。そして、フォトレジスト層前駆体312aをスピンコート法などを用いて形成する。そしてパターニングを行い、第2マスクとしてのフォトレジスト層312を形成する。フォトレジスト層312には、平面視にてお椀型の形状を有する凹部bに囲われる領域内にストレート部として機能する凹部aを形成すべく第2開口部352が開口されている。ここまでの工程を終了した工程断面図を図7(c)に示す。
【0040】
次に、工程4として、異方性エッチングを行い凹部aを形成する。ここでは異方性エッチングにドライエッチングを用いている。エッチング用のガスとしては臭素系のガスを使い、ECRプラズマエッチング装置を用いて異方性ドライエッチングを行う。凹部aは、たとえば直径20μm程度、深さ10μm程度に形成される。そして、アッシング法によりフォトレジスト層312を除去する。ここまでの工程を終了した工程断面図を図8(a)に示す。
【0041】
次に、基板310の第1面と対向する第2面を研磨し、凹部aを露出させることで液滴吐出ヘッド115aが形成される。ここまでの工程を終了した工程断面図を図8(b)に示す。ストレート部となる凹部aを形成する前に、お椀型の凹部bを製造するため、凹部aの形状は、凹部bを形成する工程の影響を受けない、そのため、凹部bの形状精度を高く保つことができる。以上の工程により、液滴吐出ヘッド115aを形成することができる。
【0042】
(第3の実施形態:凹部aを異方性エッチングで貫通させる液滴吐出ヘッドの製造方法)
次に、凹部aを異方性エッチングで貫通させる場合の実施形態について説明する。図9(a),(b),(c),(d)は液滴吐出ヘッド115bの製造工程を示す工程断面図である。
【0043】
まず、工程1として、単結晶シリコンを用いた基板410を用意し、超音波洗浄などの前処理を行った後、基板410の第1面にフォトレジスト層前駆体411aをスピンコート法などを用いて形成する。そして、パターニングを行い、第1マスクとしてのフォトレジスト層411を形成する。フォトレジスト層411には、第1開口部451として直径40〜60μm程度の穴が開口されている。ここまでの工程を終了した工程断面図を図9(a)に示す。基板410としては、たとえば50μm程度のものを用いることができる。このように薄い基板410を用いることで、上記した凹部aを露出させるための研磨工程を省略することができる。また、厚い基板を用いて研磨工程を行う場合と比べ、寸法再現精度が高い等方性エッチング、異方性エッチングを用いるため、寸法精度を向上させることができる。
【0044】
次に、工程2として基板410の第1面に対向する第2面にフォトレジスト層413を形成して後、等方性ウェットエッチングを行う。ここでは、等方性のエッチング液としてフッ硝酸を用いて等方性ウェットエッチングを行う。等方性ウェットエッチングが進むことで、お椀型の形状を有する凹部bが形成される。ここまでの工程を終了した工程断面図を図9(b)に示す。ここで、等方性ウェットエッチングに代えて、CF4ガスなどを用いたバレル型の等方性ドライエッチング装置や、平行平板型エッチング装置を用いて、等方性ドライエッチングが行われる条件を用いても良い。等方性ウェットエッチングを用いる場合や、バレル型装置による等方性エッチングを用いる場合には、基板410の第1面に対向する第2面に、図9(b)で示されるフォトレジスト層413を形成することで、エッチングによる基板410の寸法変動を抑えることができる。また、等方性エッチングを行う条件に設定して、ECRプラズマエッチング装置など、基板410の第1面にのみ加工しうる装置を用いてエッチングする場合には、フォトレジスト層413の形成を省略することが可能である。
【0045】
次に、工程3として水洗などによりエッチング液を除去し、さらにフォトレジスト層411,413を除去する。そして、基板410の第1面にフォトレジスト層前駆体412aをスピンコート法などを用いて形成する。そしてパターニングを行い、第2マスクとしてのフォトレジスト層412を形成する。フォトレジスト層412には、平面視にてお椀型の形状を有する凹部bに囲われる領域内にストレート部として機能する凹部aを形成すべく第2開口部452が開口されている。ここまでの工程を終了した工程断面図を図9(c)に示す。この工程では、基板410の第2面で、平面視にて凹部bと重なる領域内に開口部を有するフォトレジスト層を形成して、このフォトレジスト層をマスクとして第2面より異方性ドライエッチングを施しても良い。この場合第2面は、凹部bなどにより発生する段差がなく、平坦な形状を有している。そのため、パターニング工程に含まれる露光工程で、均一性が高い露光を行うことができる。
【0046】
次に、工程4として、異方性エッチングを行い凹部aを形成する。異方性エッチングには、ドライエッチングを用いている。ここではドライエッチング用のガスとして臭素系のガスを使い、ECRプラズマエッチング装置を用いてドライエッチングを行っている。凹部aは、たとえば直径20μm程度、深さ10μm程度に形成される。そして、アッシング法によりフォトレジスト層412を除去する。ここまでの工程を終了した工程断面図を図9(d)に示す。この製造方法を用いることで、液滴吐出ヘッド115bが得られる。この製造方法では、寸法再現精度が高い等方性エッチング、異方性エッチングを組み合わせて液滴吐出ヘッド115bを形成するため、寸法精度が高い液滴吐出ヘッド115bの製造方法を提供することができる。
【0047】
(変形例)
上記した実施形態では、基板(210,310,410)として、単結晶シリコン基板を用いたが、これはガラス(石英を含む)やアルミニウムなどの金属、ポリカーボネートなどのプラスチックを用いても良い。
【0048】
ここで、ガラスを用いる場合、たとえば、等方性ウェットエッチング液としてフッ化アンモニウムを用い、等方性ドライエッチングにCF4ガスなどを用いてバレル型のエッチング装置を用い、異方性ドライエッチングにCF4などを用いてECRプラズマエッチング装置を用いても良い。また、平行平板型のドライエッチング装置を用いて条件設定し、等方性ドライエッチングを行わせても良い。ここで、ガラスを基板に用いる場合、第2面にフォトレジスト層を形成する際に、第1面の加工状況を透過して観察することができるため、アライメントを容易に行うことができる。
【0049】
また、金属(アルミニウムを例に取る)を用いる場合には、等方性ウェットエッチング液に燐酸を用い、等方性ドライエッチングに塩素系ガスなどを用いてバレル型のエッチング装置を用い、異方性ドライエッチングに塩素系ガスを用いてECRプラズマエッチング装置を用いても良い。また、他の金属、たとえばステンレスを用いる場合には、等方性ウェットエッチング液に塩酸、異方性ドライエッチングガスとしてハロゲン系のガスを用いることができる。金属はシリコンに比べ脆性が小さいことから、加工途中での基板の割れや、欠けの発生頻度を低減することが可能となる。
【0050】
また、プラスチック(ポリカーボネートを例に取る)を用いる場合には、等方性ウェットエッチング液に塩素系溶剤を用い、等方性ドライエッチングガスに酸素ガスなどを用いてバレル型のドライエッチング装置を用い、異方性ドライエッチングガスに酸素などを用いてECRプラズマエッチング装置を用いても良い。また、ポリイミドを用いる場合には、溶剤としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を用いることで対応できる。なお、プラスチックのドライエッチングは、等方性エッチングに酸素ガスや希ガス、又はそれらの混合物などを用いてバレル型のエッチング装置を用い、異方性エッチングに酸素などを用いてECRプラズマエッチング装置を用いることで、ほとんどのプラスチック材料に対応することが可能である。ここで、透明なプラスチックを用いた場合、ガラスを用いた場合と同様にアライメントを容易に行うことができる。
【0051】
また、フォトレジスト層前駆体(211a,311a,411a)を塗布し、パターニングを行うことでフォトレジスト層(211,311,411)を形成したが、これは液滴吐出装置などを用いて、必要な部分にのみフォトレジストを供給することでフォトレジスト層を形成しても良い。この場合には、パターニング工程で生じる廃液の発生をなくすことが可能となり、廃棄物の発生を抑えてマスクを形成することができる。また、工程数を減らすことが可能となるため、製造に必要とする時間と費用を削減することが可能となる。また、この場合には感光性を有するフォトレジスト以外の物質を用いても良く、プロセスの自由度を向上させることができる。また、フォトレジストに対して腐蝕性が強く、フォトレジスト層がエッチングに耐えない条件を用いる場合には、酸化シリコン層や窒化シリコン層等を適宜用いて選択比を上げるハードマスクの手法を用いても良い。
特に、フォトレジスト層413に代えて第2面にハードマスクを形成する場合には、ニッケルテフロン(登録商標)など、撥液性の高い材質を用い、そのまま剥離させずに残しても良い。この場合、液滴吐出ヘッド(115,115a,115b)の吐出口の汚れをふき取るワイピング動作により、汚れをより確実に除去することが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法が提供できる。
【0052】
また、上記した実施形態ではフォトレジスト工程を2回行い、最初に形成したフォトレジスト層を剥離した後に2回目のフォトレジスト層を形成している。これはお椀型の領域の凹部bを先に形成し、ストレート部となる凹部aを後から形成する場合には、凹部b用のフォトレジスト層を剥離せずに2回目のフォトレジスト層を形成し、後工程で共に剥離する工程を用いても良い。この場合、フォトレジスト層の剥離工程を1工程分省略可能となるため、廃棄物の発生を抑えることが可能となる。また、工程数を減らすことが可能となるため、製造に必要とする時間と費用を削減することが可能となる。
【0053】
また、凹部aと凹部bとは同軸である必要はなく、たとえばオフセットさせて配置しても良い。この場合、液滴が千切れる位置が限定されるため、液滴吐出位置の再現性を向上させることができる。さらには、たとえば平面視で矩形や星型などの形状を与えても良く、この場合でも、液滴が千切れる位置が限定されるため、液滴吐出位置の再現性を向上させることができる。
【0054】
また、凹部bの形状はお椀型に限定される必要はなく、テーパー型など、他の形状を用いて良い。一例として、シリコン単結晶基板を用いて、水酸化カリウム水溶液を用いて得られるテーパー形状を用いても良い。また、等方性ドライエッチングを行う場合に、等方性成分中に異方性成分を含む条件を用いても良く、この場合、吐出される液体のメニスカス制御を最適化可能なエッチング手法を提供することができる。
【0055】
また、凹部a(ストレート部)の形状は円柱型に限定される必要はなく、たとえば順テーパー形状や、角柱形状、角錐形状などの形状を用いても良い。異方性ドライエッチングを行う場合、基本的にはマスクパターンが転写されるため、多様な形状を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】液滴吐出ヘッドを具備したインクジェットプリンタの概略構造を示す概略図。
【図2】液滴吐出器の構成を示した三面図で、(a)は上面図、(b)は右側方図、(c)は下面図。
【図3】(a)は液滴吐出ヘッドの平面図、(b)は(a)のA−A’線における断面図。
【図4】(a),(b),(c)は液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図。
【図5】(a),(b),(c)は液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図。
【図6】(a)はフォトレジスト層の平面図、(b)は(a)に示すフォトレジスト層のA−A’線断面図。
【図7】(a),(b),(c)は液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図。
【図8】(a),(b)は液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図。
【図9】(a),(b),(c),(d)は液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図。
【符号の説明】
【0057】
10…インクジェットプリンタ、11,12,13,14…インクカートリッジ、17…フレーム、20…キャリッジ、21…ガイド、25…印刷用紙、26…駆動モータ、28…プラテン、40…キャリッジモータ、41…キャリッジベルト、110,120,130,140…液滴吐出器、111…供給流路形成部材、111a…インク流入口、111c…リザーバ、112…薄膜材、113…連通板、113a…連通孔、113b…連通孔、114…圧力室形成部材、114a…圧力室、115…液滴吐出ヘッド、115a…液滴吐出ヘッド、115b…液滴吐出ヘッド、116…振動板、117…圧電素子、118a…吐出口、118b…吐出口、210…基板、211…フォトレジスト層、211a…フォトレジスト層前駆体、212…フォトレジスト層、212a…フォトレジスト層前駆体、251…第1開口部、252…第2開口部、310…基板、311…フォトレジスト層、311a…フォトレジスト層前駆体、312…フォトレジスト層、312a…フォトレジスト層前駆体、351…第1開口部、352…第2開口部、410…基板、411…フォトレジスト層、411a…フォトレジスト層前駆体、412…フォトレジスト層、412a…フォトレジスト層前駆体、413…フォトレジスト層、451…第1開口部、452…第2開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の第1面に、第1開口部を有する第1マスクを形成する工程と、
前記第1マスクをマスクとして異方性エッチングを行い前記基板の前記第1面と対向する第2面に届かぬ深さを有する凹部aを形成する工程と、
前記基板の前記第1面に、平面視にて前記凹部aを含む第2開口部を有する第2マスクを形成する工程と、
前記第2マスクをマスクとして、前記基板を等方性ウェットエッチングして前記凹部aを残す深さを有する凹部bを形成する工程と、
前記基板の前記第2面から前記基板を薄層化し、前記凹部aを前記第2面に露出させる工程と、
を含むことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記凹部aは直径30μm以下の大きさであることを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記第2マスクは、前記基板の前記第1面に、平面視にて前記凹部aを含む前記第2開口部を有し、かつ前記第2開口部内に前記凹部aを覆う保護部を含むことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
基板の第1面に、第1開口部を有する第1マスクを形成する工程と、
前記第1マスクをマスクとして、前記第1開口部から等方性エッチングを行い、前記基板の前記第1面と対向する第2面に届かぬ深さを有する凹部bを形成する工程と、
平面視にて前記凹部bの内側に第2開口部を有する第2マスクを前記第1面に形成する工程と、
前記第2マスクをマスクとして異方性エッチングを行い、前記第2面に届かぬ深さを有する凹部aを形成する工程と、
前記基板の前記第2面から前記基板を薄層化し、前記凹部aを前記第2面に露出させる工程と、
を含むことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
基板の第1面に、第1開口部を有する第1マスクを形成する工程と、
前記第1マスクをマスクとして、前記第1開口部から等方性エッチングを行い、前記基板の前記第1面と対向する第2面に届かぬ深さを有する凹部bを形成する工程と、
平面視にて前記凹部bの内側に第2開口部を有する第2マスクを前記第1面又は前記第2面に形成する工程と、
前記第2マスクをマスクとして異方性エッチングを行い、前記第1面と前記第2面との間を貫通させる凹部aを形成する工程と、
を含むことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記等方性エッチングを行う工程では、前記基板の前記第2マスクが形成される面と対抗する面にエッチング保護層が形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−126161(P2009−126161A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306946(P2007−306946)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】