液滴吐出方法、カラーフィルターの製造方法、および液滴吐出装置
【課題】描画状態における液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量を高精度に設定可能とする液滴吐出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱工程S1と、予備加熱された液滴吐出ヘッドから液状体を吐出する予備吐出工程S2と、予備吐出工程S2の後で、液滴吐出ヘッドから改めて吐出される液状体の重量を実吐出量として測定する重量測定工程S3と、予備吐出工程S2における単位時間あたりの吐出量を予備吐出量とし、予備吐出量に対する実吐出量の関係を算出する算出工程S5と、算出工程S5の算出結果と貯留液温度とに基づいて、駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節工程S6と、を備え、異なる2以上の予備吐出量で予備吐出工程S2と重量測定工程S3とを行い、得られる2以上の予備吐出量および実吐出量を用いて、算出工程S5を行う。
【解決手段】液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱工程S1と、予備加熱された液滴吐出ヘッドから液状体を吐出する予備吐出工程S2と、予備吐出工程S2の後で、液滴吐出ヘッドから改めて吐出される液状体の重量を実吐出量として測定する重量測定工程S3と、予備吐出工程S2における単位時間あたりの吐出量を予備吐出量とし、予備吐出量に対する実吐出量の関係を算出する算出工程S5と、算出工程S5の算出結果と貯留液温度とに基づいて、駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節工程S6と、を備え、異なる2以上の予備吐出量で予備吐出工程S2と重量測定工程S3とを行い、得られる2以上の予備吐出量および実吐出量を用いて、算出工程S5を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出方法、カラーフィルターの製造方法、および液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液滴吐出法を用いた成膜技術が注目されている。液滴吐出法は、用いる液滴吐出ヘッドの解像度に応じて微少な液状体を所望の位置に塗布することが可能であることから、微細なパターンの形成や、所望の膜厚を備えた薄膜の形成が容易であるという特長を有する。この特長を利用し、例えば微細な色の塗り分けが必要なカラーフィルターの製造に利用されている。
【0003】
上述の液滴吐出法に用いる液滴吐出ヘッドは、ノズルを介して液状体を吐出する駆動素子を内部に備えており、液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量は、当該駆動素子に印加する駆動信号(駆動電圧)に依存して変更することが可能である。
【0004】
しかしながら、液滴吐出ヘッドによる液状体の吐出特性(吐出量)には、成形誤差等に起因して、わずかながらも吐出ノズル間でバラつきが存在する。そのため、この吐出量バラつきに起因して走査方向に直交する方向(副走査方向)に液状体の配置量にバラつきが生じ、形成する薄膜に筋状の濃淡ムラを発生させることがある。このような筋状の濃淡ムラは視認されやすく、前述したカラーフィルターの製造においては、カラーフィルターを介して表示される画像の画質を低下させる原因となる。
【0005】
そこで、従来の液滴吐出装置においては、カラーフィルターの製造に用いる各液滴吐出ヘッドについて、描画前に各液滴吐出ヘッドからの吐出量を測定し、液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量が所望量となるように、吐出を制御する駆動電圧の調節(キャリブレーション)を行い、吐出量のバラつきを解消する検討がなされてきた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−75767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、液状体は温度によって粘度が変化するため、上述したキャリブレーションにより求めた駆動電圧を用いても、液滴吐出ヘッドの温度に応じて粘度が変化すると所望の吐出量とならないという課題がある。
【0008】
具体的には、描画状態(基板に液状体を吐出している状態)では、液滴吐出ヘッドが駆動し駆動熱が生じるため、発生する駆動熱によって液滴吐出ヘッドの温度が高くなる。すると、液滴吐出ヘッド内の液状体の粘度が低くなるために液状体の吐出量が増大する。逆に、待機状態(液状体を吐出していない状態)では、液滴吐出ヘッドが駆動しないために駆動熱が生じず、液滴吐出ヘッドの温度が低くなる。すると、液状体の粘度が高くなるために液状体の吐出量が減少する。
【0009】
このため、液滴吐出装置においては、基板に対して予め定められた所望量の液状体を吐出するために、描画状態の液滴吐出ヘッドにおける液状体の吐出量を正確に設定する必要がある。
【0010】
このような必要に応じるためには、駆動信号の調節を行う際に液滴吐出ヘッドの状態を擬似的に描画状態とし、この状態で駆動信号の調節を行えば良い。このため、待機状態において液滴吐出ヘッドを予備加熱し、液滴吐出ヘッドの温度を描画状態に近づけて駆動信号の調節を行う方法が提案されている。
【0011】
このような方法によれば、液滴吐出ヘッドが予備加熱されて描画状態と近い状態で駆動信号の設定が行われるため、描画状態における液滴吐出ヘッドの液状体の吐出量を所望量に合わせることが可能となる。
【0012】
しかしながら、近年は、製品の高品質化に伴い、液状体の吐出量をより厳格に設定することが求められている。
【0013】
このようなことを考えた場合には、予備加熱することによって加熱された液滴吐出ヘッドの状態は、正確には実際の描画状態における液滴吐出ヘッドの状態とは異なる。すなわち、実際の描画工程においては、定期的なヘッドクリーニングや、ロット間における切り替え待ち時間や、作業環境の温度変動などの要因によって、液滴吐出ヘッドの駆動状態が変化する。そのため、駆動状態の変化に伴い液滴吐出ヘッドの温度が変動する。
【0014】
すると、液滴吐出ヘッドの温度変化に伴って、ヘッド内に貯留される液状体の温度が変化するために、液状体の粘度が変化し、結果、事前に実施するキャリブレーションにより得られる駆動電圧を用いても所望の吐出量の液状体が塗布できないおそれが生じる。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、液滴吐出ヘッドの駆動電圧を設定するキャリブレーションにおいて、運転時のヘッドの温度変化を考慮することで、よりズレのない好適な駆動電圧を設定可能とし、描画状態における液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量をより高精度に設定可能とする液滴吐出方法を提供することを目的とする。また、このような液滴吐出方法を採用するカラーフィルターの製造方法を提供することを、あわせて目的とする。また、このような液滴吐出方法を実現する液滴吐出装置を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、本発明の液滴吐出方法は、液状体の吐出を行う駆動素子を有した液滴吐出ヘッドを用いる液滴吐出方法であって、前記液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱工程と、予備加熱された前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を吐出する予備吐出工程と、前記予備吐出工程の後で、前記液滴吐出ヘッドから改めて吐出される前記液状体の重量を実吐出量として測定する重量測定工程と、前記予備吐出工程における単位時間あたりの吐出量を予備吐出量とし、前記予備吐出量に対する前記実吐出量の関係を算出する算出工程と、前記算出工程の算出結果と前記液滴吐出ヘッド内に貯留された液状体の温度である貯留液温度とに基づいて、前記駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節工程と、を備え、異なる2以上の前記予備吐出量で前記予備吐出工程と前記重量測定工程とを行い、得られる2以上の前記予備吐出量および前記実吐出量を用いて、前記算出工程を行うことを特徴とする。
【0017】
この方法によれば、事前のキャリブレーションにおける重量測定時と、実際の描画状態との液滴吐出ヘッドの温度条件の差を考慮し、予め複数の温度条件で重量測定を行ってキャリブレーションを行うことができる。そのため、実際の描画時に温度条件が変化したとしても所望の吐出量となるように駆動信号を調節することができ、描画状態における液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量をより高精度に設定することが可能となる。
【0018】
本発明においては、前記駆動信号調節工程において、前記液状体の前記液滴吐出ヘッド内での滞留時間を測定し、測定された前記滞留時間から算出される前記貯留液温度と、前記算出結果とに基づいて、前記駆動信号を調節することが望ましい。
この方法によれば、貯留液温度を直接測定することが困難であっても、算出される貯留液温度に適した駆動信号に調節し描画を行うことができるために、吐出量のズレを抑制し良好な吐出を実現することができる。例えば、液滴吐出装置の停止時間を測定することで、液状体が液滴吐出ヘッド内に滞留する時間を測定し、停止時間中に予備加熱工程において液滴吐出ヘッドに供給される熱量の総量から、貯留液温度を算出することができる。そして、算出される貯留液温度に基づいて駆動信号を調節することにより、適切な吐出を実現することができる。
【0019】
本発明においては、調節された前記駆動信号を前記駆動素子に供給し前記液状体の吐出を行う描画工程を有し、前記描画工程において、単位時間あたりの前記液状体の吐出量である吐出速度を測定し、前記吐出速度から算出される前記貯留液温度と、前記算出結果とに基づいて、前記駆動信号を制御することが望ましい。
この方法によれば、貯留液温度を直接測定することが困難であっても、算出される貯留液温度に適した駆動信号に調節し描画を行うことができるために、吐出量のズレを抑制し良好な吐出を実現することができる。例えば、液滴吐出装置の吐出速度を測定することで、予備加熱された液状体と新たに供給される予備加熱されていない液状体との入れ替えの速度を測定し、液滴吐出ヘッド内の液状体に供給される熱量と吐出により放出される熱量との差から、貯留液温度を算出することができる。この算出される貯留液温度に基づいて駆動信号を調節することにより、適切な吐出を実現することができる。
【0020】
また、本発明のカラーフィルターの製造方法は、基材と前記基材上に予め設定された画素領域に設けられた着色層とを備えるカラーフィルターの製造方法であって、上述の液滴吐出方法を用いて、前記画素領域に前記着色層の形成材料を含む液状体を配置することを特徴とする。
この方法によれば、スジムラが無く優れた品質のカラーフィルターを形成することができる。
【0021】
また、本発明の液滴吐出装置は、液状体の吐出を行う駆動素子を有する液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置であって、前記液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱手段と、前記液滴吐出ヘッドから吐出される前記液状体の重量を測定する重量測定手段と、前記駆動素子を制御することにより前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を吐出させる制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記液滴吐出ヘッドにおいて予備加熱された前記液状体のうち少なくとも一部を、前記液滴吐出ヘッドから吐出させる前記液状体の吐出量である予備吐出量と、前記液状体を予め吐出させた後に改めて前記液滴吐出ヘッドから吐出させた前記液状体の前記重量測定手段による測定結果である実吐出量と、前記駆動素子に印加する駆動信号に対する前記液状体の吐出量の関係である吐出特性と、を記憶する記憶手段と、2以上の前記予備吐出量とそれぞれ対応する前記実吐出量を用い、前記予備吐出量に対する前記実吐出量の関係を算出する算出手段と、前記算出手段による算出結果と前記吐出特性とに基づいて、前記駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
実際の描画状態を考えると、頻繁に液滴吐出ヘッドから液状体が吐出されることによって液滴吐出ヘッド内部には、加熱されていない新たな液状体が外部から連続的に供給される状態とされている。つまり、予備加熱直後の液滴吐出ヘッドと、実際の描画状態の液滴吐出ヘッドとを比較すると、内部に存在する液状体が、予備加熱によって加熱されたものであるか外部から供給された加熱されていないものであるかが大きく異なる。
【0023】
そして、上記構成を採用する本発明によれば、予備加熱によって加熱された液滴吐出ヘッドから、予備加熱によって加熱された液状体が液滴吐出ヘッド内部から吐出されるため、予備加熱によって加熱された液状体が液滴吐出ヘッド内部から排出されることとなり、これによって液滴吐出ヘッドは実際の描画状態により近づくこととなる。
【0024】
また、予備加熱によって加熱された液状体の温度を異ならせ、複数の条件で液状体の重量測定を行い、液状体の温度変化による粘度変化を見越した液状体の温度に対する適切な駆動信号の関係を算出しておくこととしている。そのため、液滴吐出ヘッドの温度が異なる場合であっても適切な駆動信号に調節し、液状体の吐出量をより高精度に設定することを可能とする液滴吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る液滴吐出装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態の液滴吐出方法で用いる液滴吐出ヘッドの概略構成図である。
【図3】本実施形態の液滴吐出装置の制御手段を説明する説明図である。
【図4】圧電体素子に印加される微振動用駆動信号の例を示す説明図である。
【図5】液滴吐出装置を用いた描画工程における貯留液温度の変化例の説明図である。
【図6】本実施形態の液滴吐出方法を説明するフローチャートである。
【図7】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図8】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図9】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図10】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図11】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図12】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1〜図12を参照しながら、本発明の実施形態に係る液滴吐出方法、カラーフィルター製造方法、液滴吐出装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0027】
図1は、本実施形態の液滴吐出方法、カラーフィルター製造方法が適用される液滴吐出装置IJの概略構成図である。液滴吐出装置IJは、例えばインクジェット方式によりカラーフィルター基板(基材)の所定領域上にカラーフィルター材料(液状体)の液滴を吐出してカラーフィルターを形成する装置である。
【0028】
図に示すように、液滴吐出装置IJは、装置架台1、ワークステージ2、ステージ移動装置3、キャリッジ4、液滴吐出ヘッド5、キャリッジ移動装置6、チューブ7、第1タンク8、第2タンク9、第3タンク10、電子天秤(重量測定装置)11及び制御装置(制御手段)12を備えている。
【0029】
図1ではXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材について説明する。XYZ直交座標系は、X軸及びY軸がワークステージ2に対して平行となるよう設定され、Z軸がワークステージ2に対して直交する方向に設定されている。図1中のXYZ座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。
【0030】
装置架台1は、ワークステージ2及びステージ移動装置3の支持台である。ワークステージ2は、装置架台1上においてステージ移動装置3によってX軸方向に移動可能に設置されており、上流側の搬送装置(図示せず)から搬送されるカラーフィルター基板(基材)Pを、真空吸着機構によりXY平面上に保持する。ステージ移動装置3は、ボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備え、制御装置12から入力される、ワークステージ2のX座標を示すステージ位置制御信号に基づいて、ワークステージ2をX軸方向に移動させる。
【0031】
キャリッジ4は、複数の液滴吐出ヘッド5を保持するものであり、キャリッジ移動装置6によってY軸方向及びZ軸方向に移動可能に設けられている。キャリッジ4に設けられた各液滴吐出ヘッド5は、チューブ7を介して、第1タンク8からR(赤)用のカラーフィルター材料の供給を受け、第2タンク9からG(緑)用のカラーフィルター材料の供給を受け、第3タンク10からB(青)用のカラーフィルター材料の供給を受けるようになっている。
【0032】
キャリッジ移動装置6は、装置架台1を跨ぐ橋梁構造をしており、Y軸方向及びZ軸方向に対してボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備え、制御装置12から入力される、キャリッジ4のY座標及びZ座標を示すキャリッジ位置制御信号に基づいて、キャリッジ4をY軸方向及びZ軸方向に移動させる。
【0033】
チューブ7は、第1タンク8、第2タンク9及び第3タンク10と、キャリッジ4(液滴吐出ヘッド5)とを連結するカラーフィルター材料の供給用チューブである。第1タンク8は、R(赤)用の液状のカラーフィルター材料(液状体)を貯留すると共に、チューブ7を介して液滴吐出ヘッド5にカラーフィルター材料を供給する。同様に、第2タンク9は、G(緑)用のカラーフィルター材料を貯留すると共に、チューブ7を介して液滴吐出ヘッド5にカラーフィルター材料を供給する。また、第3タンク10は、B(青)用のカラーフィルター材料を貯留すると共に、チューブ7を介して液滴吐出ヘッド5にカラーフィルター材料を供給する。
【0034】
電子天秤11は、装置架台1上のキャリッジ4の移動範囲に設置されており、液滴吐出ヘッド5から吐出されたカラーフィルター材料を受けると共に、吐出された液状体の重量を吐出量として測定するものである。そして、電子天秤11は、測定結果を制御装置12に出力する。
【0035】
制御装置12は、液滴吐出ヘッド5による液滴吐出動作、ワークステージ2の移動によるカラーフィルター基板Pの位置決め動作、キャリッジ4の移動による液滴吐出ヘッド5の位置決め動作の同期制御を行うことにより、カラーフィルター基板P上の所定の位置にカラーフィルター材料の液滴を吐出する。
【0036】
また、後に詳説するが、本実施形態において制御装置12は、予備加熱によって加熱されたカラーフィルター材料を液滴吐出ヘッド5から吐出させると共に、電子天秤11から入力される測定結果を示す信号に応じて液滴吐出ヘッド5が備える圧電体素子に印加する駆動信号の調節を行う。
【0037】
図2は、液滴吐出ヘッド5の概略構成図である。図2(a)は液滴吐出ヘッド5をワークステージ2側から見た平面図、図2(b)は液滴吐出ヘッド5の部分斜視図、図2(c)は液滴吐出ヘッド5の1ノズル分の部分断面図である。
【0038】
図2(a)に示すように、液滴吐出ヘッド5は、Y軸方向に配列された複数(例えば180個)のノズルNを備えており、複数のノズルNによってノズル列NAが形成されている。各ノズルNからはカラーフィルター材料を含む液状体が吐出される。
【0039】
ここで、図2(a)では1列分のノズルを示したが、液滴吐出ヘッド5に設けるノズル数及びノズル列数は任意に変更可能であり、Y軸方向に配列した1列分ノズルをX軸方向に複数列設けても良い。また、キャリッジ4内に配置する液滴吐出ヘッド5の数も任意に変更可能である。更に、キャリッジ4をサブキャリッジ単位で複数設ける構成としても構わない。
【0040】
本実施形態の液滴吐出装置IJにおいては、液滴吐出ヘッド5の側壁に対して温度計測センサー13が設置されている。この温度計測センサー13は、設置される液滴吐出ヘッド5の側壁温度を計測することによって間接的に液滴吐出ヘッド5内部のカラーフィルター材料の温度を計測するものである。そして、温度計測センサー13は、計測結果を制御装置12に出力する。
【0041】
また、図2(b)に示すように、液滴吐出ヘッド5は、図1に示すチューブ7と連結される材料供給孔20aが設けられた振動板20と、ノズルNが設けられたノズルプレート21と、振動板20とノズルプレート21との間に設けられた液溜まり22と、複数の隔壁23と、複数のキャビティー24とを備えている。振動板20上には、各ノズルNにそれぞれ対応して圧電体素子(駆動素子、予備加熱手段)PZが配置されている。圧電体素子PZは、例えばピエゾ素子である。
【0042】
リザーバー22には、材料供給孔20aを介して供給される液状のカラーフィルター材料(液状体)が充填されるようになっている。キャビティー24は、振動板20と、ノズルプレート21と、1対の隔壁23とによって囲まれるようにして形成されおり、各ノズルNに1対1に対応して設けられている。また、各キャビティー24には、一対の隔壁23の間に設けられた供給口24aを介して、リザーバー22からカラーフィルター材料が導入されるようになっている。
【0043】
また、図2(c)に示すように、圧電体素子PZは、圧電材料25を一対の電極26で挟持したものであり、一対の電極26に駆動信号を印加すると圧電材料25が収縮するよう構成されたものである。そして、このような圧電体素子PZが配置されている振動板20は、圧電体素子PZと一体になって同時に外側(キャビティー24の反対側)へ撓曲するようになっており、これによってキャビティー24の容積が増大するようになっている。
【0044】
したがって、キャビティー24内に増大した容積分に相当するカラーフィルター材料が、液溜まり22から供給口24aを介して流入する。また、このような状態から圧電体素子PZへの駆動信号の印加を停止すると、圧電体素子PZと振動板20はともに元の形状に戻り、キャビティー24も元の容積に戻ることから、キャビティー24内のカラーフィルター材料の圧力が上昇し、ノズルNからカラーフィルター基板Pに向けてカラーフィルター材料の液滴(液状体L)が吐出される。
【0045】
また、液滴吐出を行っていない待機状態において、圧電体素子PZに対してノズルNからカラーフィルター材料を吐出させない程度の微小な圧力変動となるような駆動信号を供給すると、圧電体素子PZが微振動し、この圧電体素子PZの駆動により圧電体素子PZを発熱させることができる。この駆動熱を利用することにより、圧電体素子PZは、液滴吐出ヘッド5を予備加熱する本発明の予備加熱手段として機能する。予備加熱が成されることにより、液滴吐出ヘッド5の温度、すなわちヘッド内の液状体の温度を描画状態に近づけることができる。
【0046】
図3は、本実施形態の液滴吐出装置IJが有する制御装置12の概略説明図である。図に示すように、制御装置12は、液滴吐出ヘッド5の外部に設置される制御コンピューター50と、液滴吐出ヘッド5に設置される駆動回路部60とを備えている。
【0047】
制御コンピューター50は、例えばCPU(中央処理装置)から構成される算出部52及び駆動信号生成部54、液滴吐出装置IJに描画指示や停止指示などを行わせる制御信号を入力する入力部58、入力部58からの指示により液滴吐出ヘッド5に予備吐出を行わせる予備吐出指示部59、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の内部記憶装置、ハードディスク、CD−ROM等の外部記憶装置から構成される記憶部56、メモリ521,541,591を備える。このような制御コンピューター50は、入力される各種の指示およびROM又はハードディスクに記憶されたプログラムに従って、液滴吐出装置IJの動作を制御する制御信号を出力する。
【0048】
算出部52は、入力部58から直接入力され、または予備吐出指示部59を介して入力された制御信号、及び記憶部56に予め記憶された制御プログラムに基づいて、液滴吐出ヘッド5に設けられる複数の圧電体素子PZを駆動させる各種駆動信号を生成するための駆動信号生成用データを算出する。算出される駆動信号生成用データは、メモリ521に記憶される。
【0049】
また、算出部52は、上述の制御信号及び制御プログラムに基づいて、選択データを生成して駆動回路部60に設けられた切替信号生成部62に出力する。この選択データは、駆動信号の印加対象となる圧電体素子PZを指定するためのノズル選択データと圧電体素子PZに印加する駆動信号を指定するための波形選択データとからなる。
【0050】
合わせて、算出部52は、入力された制御信号及び内部に予め記憶された制御プログラムに基づいて、図1に示すワークステージ2、ステージ移動装置3及びキャリッジ移動装置6の動作を制御する。
【0051】
駆動信号生成部54は、上記の駆動信号生成用データと、メモリ541に関係式やテーブルの形で記憶される、圧電体素子PZへの印加電圧に対する吐出量の関係(吐出特性)と、に基づいて所定形状の各種駆動信号を生成する。生成する駆動信号は、駆動回路部60の圧電体素子PZ毎に設けられたスイッチ回路64にそれぞれ出力する。駆動信号生成部54が生成する駆動信号には、例えば、吐出用駆動信号、及び微振動用駆動信号がある。
【0052】
吐出用駆動信号は、各ノズルNからカラーフィルター材料を吐出させるための駆動信号である。また、微振動用駆動信号はノズルNからカラーフィルター材料を吐出させない程度の微小な圧力変動となるように圧電体素子PZを振動させることによって、液滴吐出ヘッド5内を加熱するための駆動信号である。そして、本実施形態において圧電体素子PZは、微振動用駆動信号を印加されることによって、液滴吐出ヘッド5を予備加熱する本発明の予備加熱手段として機能する。
【0053】
図4には、圧電体素子PZに入力される微振動用駆動信号の例を示す。図に示すように、予備加熱に使用している微振動用駆動信号は基本的に台形波である。例えば、図4(a)に示す台形波を基準とすると、図4(b)に示すように、印加電圧を変更することにより、圧電体素子PZの駆動を大きくして発熱量を増やすことができ、予備加熱状態を制御することができる。また、図4(c)に示すように、小さい波形を2つにして見かけ上の周波数を倍にする、または、図4(a)に示す台形波のベースクロック周波数を高くする、等の方法により発熱量を増やし、予備加熱状態を制御することもできる。
【0054】
図3にもどり、予備吐出指示部59は、描画前に行う液滴吐出ヘッド5の駆動信号のキャリブレーションにおいて、重量測定前に液滴吐出ヘッド5内に貯留される液状体を所定量廃棄する予備吐出を駆動回路部60に指示する。予備吐出指示部59が出力する駆動信号には、例えば、予備吐出用駆動信号、及び選択データがある。選択データについては、算出部52が出力するものと同様のものである。
【0055】
予備吐出用駆動信号は、予備加熱された液滴吐出ヘッド5から所定量のカラーフィルター材料を吐出させるための駆動信号である。予備吐出用駆動信号は、2種以上用いられ、2種以上の予備吐出量でカラーフィルター材料が予備吐出される。出力される予備吐出用駆動信号は、メモリ591に記憶される。
【0056】
制御コンピューター50は、その他に液晶表示装置又はCRT(Cathode Ray Tube)等の表示装置やプリンタによって構成される出力部を有することとしても良い。
【0057】
駆動回路部60は、液滴吐出ヘッド5内に設けられており、切替信号生成部62及びスイッチ回路64を含んで構成されている。切替信号生成部62は、算出部52または呼び吐出指示部59から出力される選択データに基づいて各圧電体素子PZへの駆動信号の導通/非導通を指示する切替信号を生成し、スイッチ回路64に出力する。スイッチ回路64は、各圧電体素子PZにそれぞれ設けられており、切替信号によって指定された駆動信号を圧電体素子PZに出力する。
本実施形態の液滴吐出装置IJは、以上のような概略構成となっている。
【0058】
次に、本発明の液滴吐出方法について説明する。本発明の液滴吐出方法は、以下のような考えに基づくものである。
【0059】
実際の描画状態を考えると、頻繁に液滴吐出ヘッド5から液状体が吐出されることによって液滴吐出ヘッド5内部には、加熱されていない新たな液状体が外部から連続的に供給されて入れ替えが行われており、液状体の温度が平衡状態となっているとされている。つまり、予備加熱直後の液滴吐出ヘッド5と、実際の描画状態の液滴吐出ヘッド5とを比較すると、内部に存在する液状体が、予備加熱によって加熱されたものであるか、外部から供給された加熱されていないものと入れ替えが行われているかが大きく異なる。
【0060】
このような液滴吐出ヘッドにおいて、予備吐出工程を行うことによって、予備加熱によって加熱された液状体が液滴吐出ヘッド5内部から排出されることとなり、予備加熱されていない液状体が液滴吐出ヘッド内に供給される。これによって液滴吐出ヘッド5内に貯留される液状体の温度(貯留液温度)が低下して、貯留液温度の変化に応じて貯留液の粘度が変化し、実際の描画状態により近づくこととなる。
【0061】
ここで、実際に液滴吐出装置IJを用いた描画工程を想定すると、機器トラブルやロット切替により機器が停止することが考えられる。図5は、液滴吐出装置IJを用いた実際の描画工程における、経過時間に対する液滴吐出ヘッド5の貯留液温度の変化の一例を示す概略図である。
【0062】
図中符号AR1で示す区間では、液滴吐出装置IJを用いた描画が行われている状態であることを示している。符号AR1で示す区間のうち、上述した平衡状態においては図中の符号Eで示すように貯留液温度が一定となっており、精度の良い吐出が可能である。
【0063】
一方、図中符号AR2,AR3で示す区間では、描画が停止している状態であることを示している。例として、符号AR2で示す区間では、ロット切り替えのために長時間待機している状態を示し、符号AR3で示す区間では、ノズル詰まりのためにノズルクリーニングのために多量の液状体を吐出している状態を示すものとする。符号AR2の区間では、長時間の待機の間、液状体の入れ替えなく液滴吐出ヘッド5が予備加熱され続けるため、貯留液温度が上昇する。符号AR3の区間では、多量の液状体を吐出するために熱が逃げ、貯留液温度が低下している。
【0064】
符号AR2,AR3で示すような機器停止後に再開する際に、改めて液滴吐出ヘッドのキャリブレーションを行うと、高精度な液滴吐出を行うことができる。しかしその場合、キャリブレーションに必要な重量測定のための液状体を余分に廃棄することとなり環境負荷が高まる上、タクトタイムの延長につながるため、経済的な観点、または作業効率向上の観点から許容しにくいことが多い。
【0065】
そのため、機器停止中には、貯留液の温度が一定に保つことが困難となりやすい。すると、機器を再稼動する際に、符号AR1で示す区間において符号X1,X2で示すように貯留液温度が安定しない区間が生じ、吐出量が一定せず安定な液滴吐出が困難となっていた。
【0066】
そこで、本実施形態の液滴吐出方法では、描画工程における機器停止中の貯留液温度の変化を考慮し、貯留液温度が複数の温度となるように複数の条件で予備吐出を行った上で、複数の条件でキャリブレーションのための重量測定を行い、吐出のための駆動信号を決定することとしている。
【0067】
次に、図6に示すフローチャートと図7から図12に示すグラフとを参照しながら、本実施形態の液滴吐出装置IJを用いた液滴吐出方法を説明する。以下の説明では、理解を容易にするために、具体的な製造例としてカラーフィルターを製造する方法について説明する。また、必要に応じ、図3で用いた制御装置12の各構成を示す符号を用いて説明する。
【0068】
まず、制御装置12は、描画指示が入力されると、液滴吐出ヘッド5から基板Pに対してカラーフィルター材料(液状体)を吐出しない待機状態において、液滴吐出ヘッド5を予備加熱する予備加熱工程を行う(ステップS1)。
【0069】
この予備加熱工程は、待機状態で温度が低い状態の液滴吐出ヘッド5を加熱することによって、液滴吐出ヘッド5の温度を描画状態(液滴吐出ヘッド5から基板Pに対して液状体を吐出する状態)に近づける工程である。具体的には、制御装置12は、駆動信号生成部54において微振動用駆動信号を生成し、全ての圧電体素子PZに対して微振動用駆動信号を印加する。この結果、圧電体素子PZが微振動し、これによって発生した熱によって液滴吐出ヘッド5が所定の温度に加熱される。
【0070】
次に、制御装置12は、液滴吐出ヘッド内の加熱された液状体を、液滴吐出ヘッド5の内部から吐出する予備吐出工程(ステップS2)を行う。
【0071】
この予備吐出工程は、予備加熱工程によって液滴吐出ヘッド5と共に所定の温度に加熱された液状体を液滴吐出ヘッド5から排出することにより、液滴吐出ヘッド5の内部に加熱されていない液状体を導入する工程である。加熱されていない液状体を導入し液状体の入れ替えを行うことで、図7に示すグラフのように予備吐出量に応じて貯留液温度が変化し、液滴吐出ヘッド5内の液状体の粘度が変化する。
【0072】
具体的には、この予備吐出工程では、予備吐出指示部59から供給される所定の予備吐出用駆動信号を圧電体素子PZに印加して、所定の温度に加熱された液状体を液滴吐出ヘッド5から吐出させる。また、出力される予備吐出用駆動信号は、メモリ591に記憶される。
【0073】
次に、制御装置12は、液滴吐出ヘッド5から吐出された液状体の重量を測定する重量測定工程(ステップS3)を行う。
【0074】
この重量測定工程は、予備吐出工程後において、液滴吐出ヘッド5の全ノズルあるいは予め定められたグループに属するノズルから吐出された液状体の重量を測定する工程である。具体的には、制御装置12は、所定の吐出用駆動信号(所定の駆動信号)を圧電体素子PZに印加して液滴吐出ヘッド5から電子天秤11に対して液状体を吐出させ、液状体の重量(実吐出量)を取得する。測定される実吐出量は、メモリ571に記憶される。
【0075】
次に、制御装置12は、予め定めていた複数の予備吐出条件の全てにおいて予備吐出を行い、吐出量を測定したかどうかを判断する(ステップS4)。
【0076】
全ての予備吐出条件において吐出量測定が終了していない場合には、予備加熱工程(ステップS1)に戻り、全ての予備吐出条件において吐出量を測定するまでステップS1からステップS3を繰り返す。
【0077】
再度行う予備吐出工程(ステップS2)において、すでに行われた予備吐出工程とは異なる量の液状体が吐出されると、入れ替わりに導入される液状体の量が変化するため、液滴吐出ヘッド内の液状体は、すでに行われた予備吐出工程と異なる貯留液温度となる。そのため、次いで行われる重量測定工程(ステップS3)では、所定の駆動信号を印加した場合に、貯留液温度の違いによる粘度差に起因して、測定される液状体の重量が異なることとなる。そのため、異なる予備吐出条件での予備吐出工程を行うことで、貯留液温度が異なる複数の条件で吐出量の測定を行うことができる。
【0078】
全ての吐出条件について吐出量の測定が終了した場合、次の工程に進む。
次に、制御装置12は、予備吐出工程における吐出量に対する重量測定工程における実吐出量の関係を算出する算出工程(ステップS5)を行う。
【0079】
具体的には、印加される駆動信号に対する吐出量の関係(吐出特性)を関係式やテーブル等の形で記憶部56に記憶しておき、予備吐出工程における貯留液温度において、この関係式やテーブル等とメモリ591に記憶された予備吐出用駆動信号とを用いて、算出部52において、予備吐出量A,Bを算出する。これらの予備吐出量A,Bと、メモリ571に記憶された所定の駆動信号における実吐出量Wa,Wbとから、図8に示すグラフのような予備吐出量に対する実吐出量の関係が算出される。また、図7と図8との結果より、貯留液温度に対する実吐出量の関係を導くことができる。
【0080】
図9は、記憶部56に記憶された液滴吐出ヘッドの吐出特性を表すグラフであり、所定の貯留液温度における吐出特性を図中に符号Esで示している。図8に示した結果を図9に反映させると、実吐出量Wa,Wbは、予備吐出用駆動信号Vにおける関係式どおりの吐出量Wsに対して少ない値となる。この吐出量の差は、予備吐出を行うことによって生じる貯留液温度差、すなわち液滴吐出ヘッド内に貯留される液状体の粘度差に起因するものである。
【0081】
次に、制御装置12は、算出工程の算出結果に基づいて圧電体素子PZに印加する駆動信号を調節する駆動信号調節工程(ステップS6)を行う。
【0082】
この駆動信号調節工程は、描画状態において液滴吐出ヘッド5から予め定められた所望量の液状体が吐出されるように駆動信号を調節する工程である。具体的には、図9に示す算出工程の算出結果と、記憶部56に記憶された吐出特性に基づいて、次のように調節する。
【0083】
まず、図10に示すように、図9に示したグラフを用いて直線補間を行うことで、実吐出量Wa,Wbが得られる予備吐出量毎に、駆動信号に対する吐出量の関係を得る。グラフ中では、符号Ea,Ebで示している。
【0084】
次に、図11に示すように、図10に示したグラフを用いて、符号Es,Ea,Ebで示す関係において所望の吐出量Wとするための電圧Vs,Va,Vbを算出することで、図12に示す予備吐出量に対する補正駆動信号(駆動電圧)の関係が得られる。
【0085】
このようにして得られた関係式では、予備吐出量に対する補正駆動信号を示しているが、図7に示すように予備吐出量は貯留液温度に対応しているため、貯留液温度に対する補正駆動信号として変換可能である。そのため、描画工程中の機器停止時間に対する貯留液温度の上昇率や、単位時間あたりの液滴吐出ヘッドからの吐出量(吐出速度)に対する貯留液温度の変化率の情報を、予めメモリ541に記憶させておくことで、図12に示す関係は、機器停止時間に対する補正駆動信号の関係や、吐出速度に対する補正駆動信号の関係として、相互に変換可能である。
【0086】
単位時間あたりの吐出速度は、例えば図1に示すチューブ7に流量計を設置する、または、第1タンク8、第2タンク9及び第3タンク10に液面計を設けるなどによって、間接的に測定することができる。機器停止時間は、通常の方法により容易に測定することができる。
【0087】
このように得られる吐出速度や機器停止時間から貯留液温度を算出し、または、温度計測センサー13による計測結果と、図12に示す関係とを用い、得られた貯留液温度において所望の吐出量とするための補正駆動信号を算出する。
【0088】
なお、重量測定工程において、液滴吐出ヘッド5が備える圧電体素子PZを複数グループに分けて重量測定を行う場合には、グループごとに駆動信号調節工程が行われる。
【0089】
次に、制御装置12は、基板Pに液状体を吐出してカラーフィルターを形成する描画工程(ステップS7)を行う。
【0090】
具体的には、制御装置12は、キャリッジ4を移動させながら、液滴吐出ヘッド5から基板P上に液状体を吐出する。これによって基板P上に液状体が配置されてカラーフィルターが製造される。ここで、本実施形態の描画工程においては、駆動信号調節工程において調節された吐出用駆動信号を用いて液状体が液滴吐出ヘッド5から吐出される。したがって、基板Pへの液状体の吐出量が所望量となる。
以上のようにして、本実施形態の液滴吐出方法を実施する。
【0091】
以上のような液滴吐出方法によれば、予め複数の温度条件行う重量測定の結果に基づいてキャリブレーションを行うため、描画中に機器が停止し液滴吐出ヘッド内の液状体の温度が変動したとしても、精度良く吐出量を設定し吐出することが可能となる。
【0092】
また、以上のようなカラーフィルター製造方法によれば、各液滴吐出ヘッドからのカラーフィルター材料の吐出量を高精度に制御することができるため、スジムラのない高品質なカラーフィルターを製造することが可能となる。
【0093】
また、以上のような液滴吐出装置によれば、予め複数の温度条件行う重量測定の結果に基づいてキャリブレーションを行うことができるため、液状体の吐出量をより高精度に設定することを可能とする液滴吐出装置を提供することができる。
【0094】
なお、本実施形態においては、予備吐出量A,Bの2条件で貯留液温度を変化させる例について説明したが、もちろん更に複数の予備吐出量に対する実吐出量を測定し、両者の関係を算出することとしても良い。
【0095】
また、本実施形態においては、駆動信号調節工程において、貯留液温度と関係式とから駆動信号を算出することとしたが、これに限らない。例えば、描画工程において液状体の温度が平衡状態となっている場合の貯留液温度を、所望の温度として予め定めておき、現実の貯留液温度が所望の温度よりも高い場合と低い場合の2条件に対応する駆動信号を設定しておくことで、駆動信号を調節することとしても良い。
【0096】
また、本実施形態においては、圧電体素子PZを微振動させることによって液滴吐出ヘッド5を予備加熱する構成について説明したが、これに限らず、例えばヒーター等を用いて液滴吐出ヘッド5を予備加熱しても良い。
【0097】
また、本実施形態においては、制御装置12において予備吐出指示部59が独立していることしたが、これに限らない。
【0098】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0099】
5…液滴吐出ヘッド、11…電子天秤(重量測定手段)、12…制御装置(制御手段)、52…算出部(算出手段)、54…駆動信号生成部(駆動信号調節手段)、56…記憶部(記憶手段)、521,541,571,591…メモリ(記憶手段)、IJ…液滴吐出装置、L…液状体、PZ…圧電体素子(駆動素子、予備加熱手段)、
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出方法、カラーフィルターの製造方法、および液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液滴吐出法を用いた成膜技術が注目されている。液滴吐出法は、用いる液滴吐出ヘッドの解像度に応じて微少な液状体を所望の位置に塗布することが可能であることから、微細なパターンの形成や、所望の膜厚を備えた薄膜の形成が容易であるという特長を有する。この特長を利用し、例えば微細な色の塗り分けが必要なカラーフィルターの製造に利用されている。
【0003】
上述の液滴吐出法に用いる液滴吐出ヘッドは、ノズルを介して液状体を吐出する駆動素子を内部に備えており、液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量は、当該駆動素子に印加する駆動信号(駆動電圧)に依存して変更することが可能である。
【0004】
しかしながら、液滴吐出ヘッドによる液状体の吐出特性(吐出量)には、成形誤差等に起因して、わずかながらも吐出ノズル間でバラつきが存在する。そのため、この吐出量バラつきに起因して走査方向に直交する方向(副走査方向)に液状体の配置量にバラつきが生じ、形成する薄膜に筋状の濃淡ムラを発生させることがある。このような筋状の濃淡ムラは視認されやすく、前述したカラーフィルターの製造においては、カラーフィルターを介して表示される画像の画質を低下させる原因となる。
【0005】
そこで、従来の液滴吐出装置においては、カラーフィルターの製造に用いる各液滴吐出ヘッドについて、描画前に各液滴吐出ヘッドからの吐出量を測定し、液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量が所望量となるように、吐出を制御する駆動電圧の調節(キャリブレーション)を行い、吐出量のバラつきを解消する検討がなされてきた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−75767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、液状体は温度によって粘度が変化するため、上述したキャリブレーションにより求めた駆動電圧を用いても、液滴吐出ヘッドの温度に応じて粘度が変化すると所望の吐出量とならないという課題がある。
【0008】
具体的には、描画状態(基板に液状体を吐出している状態)では、液滴吐出ヘッドが駆動し駆動熱が生じるため、発生する駆動熱によって液滴吐出ヘッドの温度が高くなる。すると、液滴吐出ヘッド内の液状体の粘度が低くなるために液状体の吐出量が増大する。逆に、待機状態(液状体を吐出していない状態)では、液滴吐出ヘッドが駆動しないために駆動熱が生じず、液滴吐出ヘッドの温度が低くなる。すると、液状体の粘度が高くなるために液状体の吐出量が減少する。
【0009】
このため、液滴吐出装置においては、基板に対して予め定められた所望量の液状体を吐出するために、描画状態の液滴吐出ヘッドにおける液状体の吐出量を正確に設定する必要がある。
【0010】
このような必要に応じるためには、駆動信号の調節を行う際に液滴吐出ヘッドの状態を擬似的に描画状態とし、この状態で駆動信号の調節を行えば良い。このため、待機状態において液滴吐出ヘッドを予備加熱し、液滴吐出ヘッドの温度を描画状態に近づけて駆動信号の調節を行う方法が提案されている。
【0011】
このような方法によれば、液滴吐出ヘッドが予備加熱されて描画状態と近い状態で駆動信号の設定が行われるため、描画状態における液滴吐出ヘッドの液状体の吐出量を所望量に合わせることが可能となる。
【0012】
しかしながら、近年は、製品の高品質化に伴い、液状体の吐出量をより厳格に設定することが求められている。
【0013】
このようなことを考えた場合には、予備加熱することによって加熱された液滴吐出ヘッドの状態は、正確には実際の描画状態における液滴吐出ヘッドの状態とは異なる。すなわち、実際の描画工程においては、定期的なヘッドクリーニングや、ロット間における切り替え待ち時間や、作業環境の温度変動などの要因によって、液滴吐出ヘッドの駆動状態が変化する。そのため、駆動状態の変化に伴い液滴吐出ヘッドの温度が変動する。
【0014】
すると、液滴吐出ヘッドの温度変化に伴って、ヘッド内に貯留される液状体の温度が変化するために、液状体の粘度が変化し、結果、事前に実施するキャリブレーションにより得られる駆動電圧を用いても所望の吐出量の液状体が塗布できないおそれが生じる。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、液滴吐出ヘッドの駆動電圧を設定するキャリブレーションにおいて、運転時のヘッドの温度変化を考慮することで、よりズレのない好適な駆動電圧を設定可能とし、描画状態における液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量をより高精度に設定可能とする液滴吐出方法を提供することを目的とする。また、このような液滴吐出方法を採用するカラーフィルターの製造方法を提供することを、あわせて目的とする。また、このような液滴吐出方法を実現する液滴吐出装置を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、本発明の液滴吐出方法は、液状体の吐出を行う駆動素子を有した液滴吐出ヘッドを用いる液滴吐出方法であって、前記液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱工程と、予備加熱された前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を吐出する予備吐出工程と、前記予備吐出工程の後で、前記液滴吐出ヘッドから改めて吐出される前記液状体の重量を実吐出量として測定する重量測定工程と、前記予備吐出工程における単位時間あたりの吐出量を予備吐出量とし、前記予備吐出量に対する前記実吐出量の関係を算出する算出工程と、前記算出工程の算出結果と前記液滴吐出ヘッド内に貯留された液状体の温度である貯留液温度とに基づいて、前記駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節工程と、を備え、異なる2以上の前記予備吐出量で前記予備吐出工程と前記重量測定工程とを行い、得られる2以上の前記予備吐出量および前記実吐出量を用いて、前記算出工程を行うことを特徴とする。
【0017】
この方法によれば、事前のキャリブレーションにおける重量測定時と、実際の描画状態との液滴吐出ヘッドの温度条件の差を考慮し、予め複数の温度条件で重量測定を行ってキャリブレーションを行うことができる。そのため、実際の描画時に温度条件が変化したとしても所望の吐出量となるように駆動信号を調節することができ、描画状態における液滴吐出ヘッドからの液状体の吐出量をより高精度に設定することが可能となる。
【0018】
本発明においては、前記駆動信号調節工程において、前記液状体の前記液滴吐出ヘッド内での滞留時間を測定し、測定された前記滞留時間から算出される前記貯留液温度と、前記算出結果とに基づいて、前記駆動信号を調節することが望ましい。
この方法によれば、貯留液温度を直接測定することが困難であっても、算出される貯留液温度に適した駆動信号に調節し描画を行うことができるために、吐出量のズレを抑制し良好な吐出を実現することができる。例えば、液滴吐出装置の停止時間を測定することで、液状体が液滴吐出ヘッド内に滞留する時間を測定し、停止時間中に予備加熱工程において液滴吐出ヘッドに供給される熱量の総量から、貯留液温度を算出することができる。そして、算出される貯留液温度に基づいて駆動信号を調節することにより、適切な吐出を実現することができる。
【0019】
本発明においては、調節された前記駆動信号を前記駆動素子に供給し前記液状体の吐出を行う描画工程を有し、前記描画工程において、単位時間あたりの前記液状体の吐出量である吐出速度を測定し、前記吐出速度から算出される前記貯留液温度と、前記算出結果とに基づいて、前記駆動信号を制御することが望ましい。
この方法によれば、貯留液温度を直接測定することが困難であっても、算出される貯留液温度に適した駆動信号に調節し描画を行うことができるために、吐出量のズレを抑制し良好な吐出を実現することができる。例えば、液滴吐出装置の吐出速度を測定することで、予備加熱された液状体と新たに供給される予備加熱されていない液状体との入れ替えの速度を測定し、液滴吐出ヘッド内の液状体に供給される熱量と吐出により放出される熱量との差から、貯留液温度を算出することができる。この算出される貯留液温度に基づいて駆動信号を調節することにより、適切な吐出を実現することができる。
【0020】
また、本発明のカラーフィルターの製造方法は、基材と前記基材上に予め設定された画素領域に設けられた着色層とを備えるカラーフィルターの製造方法であって、上述の液滴吐出方法を用いて、前記画素領域に前記着色層の形成材料を含む液状体を配置することを特徴とする。
この方法によれば、スジムラが無く優れた品質のカラーフィルターを形成することができる。
【0021】
また、本発明の液滴吐出装置は、液状体の吐出を行う駆動素子を有する液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置であって、前記液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱手段と、前記液滴吐出ヘッドから吐出される前記液状体の重量を測定する重量測定手段と、前記駆動素子を制御することにより前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を吐出させる制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記液滴吐出ヘッドにおいて予備加熱された前記液状体のうち少なくとも一部を、前記液滴吐出ヘッドから吐出させる前記液状体の吐出量である予備吐出量と、前記液状体を予め吐出させた後に改めて前記液滴吐出ヘッドから吐出させた前記液状体の前記重量測定手段による測定結果である実吐出量と、前記駆動素子に印加する駆動信号に対する前記液状体の吐出量の関係である吐出特性と、を記憶する記憶手段と、2以上の前記予備吐出量とそれぞれ対応する前記実吐出量を用い、前記予備吐出量に対する前記実吐出量の関係を算出する算出手段と、前記算出手段による算出結果と前記吐出特性とに基づいて、前記駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
実際の描画状態を考えると、頻繁に液滴吐出ヘッドから液状体が吐出されることによって液滴吐出ヘッド内部には、加熱されていない新たな液状体が外部から連続的に供給される状態とされている。つまり、予備加熱直後の液滴吐出ヘッドと、実際の描画状態の液滴吐出ヘッドとを比較すると、内部に存在する液状体が、予備加熱によって加熱されたものであるか外部から供給された加熱されていないものであるかが大きく異なる。
【0023】
そして、上記構成を採用する本発明によれば、予備加熱によって加熱された液滴吐出ヘッドから、予備加熱によって加熱された液状体が液滴吐出ヘッド内部から吐出されるため、予備加熱によって加熱された液状体が液滴吐出ヘッド内部から排出されることとなり、これによって液滴吐出ヘッドは実際の描画状態により近づくこととなる。
【0024】
また、予備加熱によって加熱された液状体の温度を異ならせ、複数の条件で液状体の重量測定を行い、液状体の温度変化による粘度変化を見越した液状体の温度に対する適切な駆動信号の関係を算出しておくこととしている。そのため、液滴吐出ヘッドの温度が異なる場合であっても適切な駆動信号に調節し、液状体の吐出量をより高精度に設定することを可能とする液滴吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る液滴吐出装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態の液滴吐出方法で用いる液滴吐出ヘッドの概略構成図である。
【図3】本実施形態の液滴吐出装置の制御手段を説明する説明図である。
【図4】圧電体素子に印加される微振動用駆動信号の例を示す説明図である。
【図5】液滴吐出装置を用いた描画工程における貯留液温度の変化例の説明図である。
【図6】本実施形態の液滴吐出方法を説明するフローチャートである。
【図7】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図8】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図9】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図10】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図11】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【図12】本実施形態の液滴吐出方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1〜図12を参照しながら、本発明の実施形態に係る液滴吐出方法、カラーフィルター製造方法、液滴吐出装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0027】
図1は、本実施形態の液滴吐出方法、カラーフィルター製造方法が適用される液滴吐出装置IJの概略構成図である。液滴吐出装置IJは、例えばインクジェット方式によりカラーフィルター基板(基材)の所定領域上にカラーフィルター材料(液状体)の液滴を吐出してカラーフィルターを形成する装置である。
【0028】
図に示すように、液滴吐出装置IJは、装置架台1、ワークステージ2、ステージ移動装置3、キャリッジ4、液滴吐出ヘッド5、キャリッジ移動装置6、チューブ7、第1タンク8、第2タンク9、第3タンク10、電子天秤(重量測定装置)11及び制御装置(制御手段)12を備えている。
【0029】
図1ではXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材について説明する。XYZ直交座標系は、X軸及びY軸がワークステージ2に対して平行となるよう設定され、Z軸がワークステージ2に対して直交する方向に設定されている。図1中のXYZ座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。
【0030】
装置架台1は、ワークステージ2及びステージ移動装置3の支持台である。ワークステージ2は、装置架台1上においてステージ移動装置3によってX軸方向に移動可能に設置されており、上流側の搬送装置(図示せず)から搬送されるカラーフィルター基板(基材)Pを、真空吸着機構によりXY平面上に保持する。ステージ移動装置3は、ボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備え、制御装置12から入力される、ワークステージ2のX座標を示すステージ位置制御信号に基づいて、ワークステージ2をX軸方向に移動させる。
【0031】
キャリッジ4は、複数の液滴吐出ヘッド5を保持するものであり、キャリッジ移動装置6によってY軸方向及びZ軸方向に移動可能に設けられている。キャリッジ4に設けられた各液滴吐出ヘッド5は、チューブ7を介して、第1タンク8からR(赤)用のカラーフィルター材料の供給を受け、第2タンク9からG(緑)用のカラーフィルター材料の供給を受け、第3タンク10からB(青)用のカラーフィルター材料の供給を受けるようになっている。
【0032】
キャリッジ移動装置6は、装置架台1を跨ぐ橋梁構造をしており、Y軸方向及びZ軸方向に対してボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備え、制御装置12から入力される、キャリッジ4のY座標及びZ座標を示すキャリッジ位置制御信号に基づいて、キャリッジ4をY軸方向及びZ軸方向に移動させる。
【0033】
チューブ7は、第1タンク8、第2タンク9及び第3タンク10と、キャリッジ4(液滴吐出ヘッド5)とを連結するカラーフィルター材料の供給用チューブである。第1タンク8は、R(赤)用の液状のカラーフィルター材料(液状体)を貯留すると共に、チューブ7を介して液滴吐出ヘッド5にカラーフィルター材料を供給する。同様に、第2タンク9は、G(緑)用のカラーフィルター材料を貯留すると共に、チューブ7を介して液滴吐出ヘッド5にカラーフィルター材料を供給する。また、第3タンク10は、B(青)用のカラーフィルター材料を貯留すると共に、チューブ7を介して液滴吐出ヘッド5にカラーフィルター材料を供給する。
【0034】
電子天秤11は、装置架台1上のキャリッジ4の移動範囲に設置されており、液滴吐出ヘッド5から吐出されたカラーフィルター材料を受けると共に、吐出された液状体の重量を吐出量として測定するものである。そして、電子天秤11は、測定結果を制御装置12に出力する。
【0035】
制御装置12は、液滴吐出ヘッド5による液滴吐出動作、ワークステージ2の移動によるカラーフィルター基板Pの位置決め動作、キャリッジ4の移動による液滴吐出ヘッド5の位置決め動作の同期制御を行うことにより、カラーフィルター基板P上の所定の位置にカラーフィルター材料の液滴を吐出する。
【0036】
また、後に詳説するが、本実施形態において制御装置12は、予備加熱によって加熱されたカラーフィルター材料を液滴吐出ヘッド5から吐出させると共に、電子天秤11から入力される測定結果を示す信号に応じて液滴吐出ヘッド5が備える圧電体素子に印加する駆動信号の調節を行う。
【0037】
図2は、液滴吐出ヘッド5の概略構成図である。図2(a)は液滴吐出ヘッド5をワークステージ2側から見た平面図、図2(b)は液滴吐出ヘッド5の部分斜視図、図2(c)は液滴吐出ヘッド5の1ノズル分の部分断面図である。
【0038】
図2(a)に示すように、液滴吐出ヘッド5は、Y軸方向に配列された複数(例えば180個)のノズルNを備えており、複数のノズルNによってノズル列NAが形成されている。各ノズルNからはカラーフィルター材料を含む液状体が吐出される。
【0039】
ここで、図2(a)では1列分のノズルを示したが、液滴吐出ヘッド5に設けるノズル数及びノズル列数は任意に変更可能であり、Y軸方向に配列した1列分ノズルをX軸方向に複数列設けても良い。また、キャリッジ4内に配置する液滴吐出ヘッド5の数も任意に変更可能である。更に、キャリッジ4をサブキャリッジ単位で複数設ける構成としても構わない。
【0040】
本実施形態の液滴吐出装置IJにおいては、液滴吐出ヘッド5の側壁に対して温度計測センサー13が設置されている。この温度計測センサー13は、設置される液滴吐出ヘッド5の側壁温度を計測することによって間接的に液滴吐出ヘッド5内部のカラーフィルター材料の温度を計測するものである。そして、温度計測センサー13は、計測結果を制御装置12に出力する。
【0041】
また、図2(b)に示すように、液滴吐出ヘッド5は、図1に示すチューブ7と連結される材料供給孔20aが設けられた振動板20と、ノズルNが設けられたノズルプレート21と、振動板20とノズルプレート21との間に設けられた液溜まり22と、複数の隔壁23と、複数のキャビティー24とを備えている。振動板20上には、各ノズルNにそれぞれ対応して圧電体素子(駆動素子、予備加熱手段)PZが配置されている。圧電体素子PZは、例えばピエゾ素子である。
【0042】
リザーバー22には、材料供給孔20aを介して供給される液状のカラーフィルター材料(液状体)が充填されるようになっている。キャビティー24は、振動板20と、ノズルプレート21と、1対の隔壁23とによって囲まれるようにして形成されおり、各ノズルNに1対1に対応して設けられている。また、各キャビティー24には、一対の隔壁23の間に設けられた供給口24aを介して、リザーバー22からカラーフィルター材料が導入されるようになっている。
【0043】
また、図2(c)に示すように、圧電体素子PZは、圧電材料25を一対の電極26で挟持したものであり、一対の電極26に駆動信号を印加すると圧電材料25が収縮するよう構成されたものである。そして、このような圧電体素子PZが配置されている振動板20は、圧電体素子PZと一体になって同時に外側(キャビティー24の反対側)へ撓曲するようになっており、これによってキャビティー24の容積が増大するようになっている。
【0044】
したがって、キャビティー24内に増大した容積分に相当するカラーフィルター材料が、液溜まり22から供給口24aを介して流入する。また、このような状態から圧電体素子PZへの駆動信号の印加を停止すると、圧電体素子PZと振動板20はともに元の形状に戻り、キャビティー24も元の容積に戻ることから、キャビティー24内のカラーフィルター材料の圧力が上昇し、ノズルNからカラーフィルター基板Pに向けてカラーフィルター材料の液滴(液状体L)が吐出される。
【0045】
また、液滴吐出を行っていない待機状態において、圧電体素子PZに対してノズルNからカラーフィルター材料を吐出させない程度の微小な圧力変動となるような駆動信号を供給すると、圧電体素子PZが微振動し、この圧電体素子PZの駆動により圧電体素子PZを発熱させることができる。この駆動熱を利用することにより、圧電体素子PZは、液滴吐出ヘッド5を予備加熱する本発明の予備加熱手段として機能する。予備加熱が成されることにより、液滴吐出ヘッド5の温度、すなわちヘッド内の液状体の温度を描画状態に近づけることができる。
【0046】
図3は、本実施形態の液滴吐出装置IJが有する制御装置12の概略説明図である。図に示すように、制御装置12は、液滴吐出ヘッド5の外部に設置される制御コンピューター50と、液滴吐出ヘッド5に設置される駆動回路部60とを備えている。
【0047】
制御コンピューター50は、例えばCPU(中央処理装置)から構成される算出部52及び駆動信号生成部54、液滴吐出装置IJに描画指示や停止指示などを行わせる制御信号を入力する入力部58、入力部58からの指示により液滴吐出ヘッド5に予備吐出を行わせる予備吐出指示部59、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の内部記憶装置、ハードディスク、CD−ROM等の外部記憶装置から構成される記憶部56、メモリ521,541,591を備える。このような制御コンピューター50は、入力される各種の指示およびROM又はハードディスクに記憶されたプログラムに従って、液滴吐出装置IJの動作を制御する制御信号を出力する。
【0048】
算出部52は、入力部58から直接入力され、または予備吐出指示部59を介して入力された制御信号、及び記憶部56に予め記憶された制御プログラムに基づいて、液滴吐出ヘッド5に設けられる複数の圧電体素子PZを駆動させる各種駆動信号を生成するための駆動信号生成用データを算出する。算出される駆動信号生成用データは、メモリ521に記憶される。
【0049】
また、算出部52は、上述の制御信号及び制御プログラムに基づいて、選択データを生成して駆動回路部60に設けられた切替信号生成部62に出力する。この選択データは、駆動信号の印加対象となる圧電体素子PZを指定するためのノズル選択データと圧電体素子PZに印加する駆動信号を指定するための波形選択データとからなる。
【0050】
合わせて、算出部52は、入力された制御信号及び内部に予め記憶された制御プログラムに基づいて、図1に示すワークステージ2、ステージ移動装置3及びキャリッジ移動装置6の動作を制御する。
【0051】
駆動信号生成部54は、上記の駆動信号生成用データと、メモリ541に関係式やテーブルの形で記憶される、圧電体素子PZへの印加電圧に対する吐出量の関係(吐出特性)と、に基づいて所定形状の各種駆動信号を生成する。生成する駆動信号は、駆動回路部60の圧電体素子PZ毎に設けられたスイッチ回路64にそれぞれ出力する。駆動信号生成部54が生成する駆動信号には、例えば、吐出用駆動信号、及び微振動用駆動信号がある。
【0052】
吐出用駆動信号は、各ノズルNからカラーフィルター材料を吐出させるための駆動信号である。また、微振動用駆動信号はノズルNからカラーフィルター材料を吐出させない程度の微小な圧力変動となるように圧電体素子PZを振動させることによって、液滴吐出ヘッド5内を加熱するための駆動信号である。そして、本実施形態において圧電体素子PZは、微振動用駆動信号を印加されることによって、液滴吐出ヘッド5を予備加熱する本発明の予備加熱手段として機能する。
【0053】
図4には、圧電体素子PZに入力される微振動用駆動信号の例を示す。図に示すように、予備加熱に使用している微振動用駆動信号は基本的に台形波である。例えば、図4(a)に示す台形波を基準とすると、図4(b)に示すように、印加電圧を変更することにより、圧電体素子PZの駆動を大きくして発熱量を増やすことができ、予備加熱状態を制御することができる。また、図4(c)に示すように、小さい波形を2つにして見かけ上の周波数を倍にする、または、図4(a)に示す台形波のベースクロック周波数を高くする、等の方法により発熱量を増やし、予備加熱状態を制御することもできる。
【0054】
図3にもどり、予備吐出指示部59は、描画前に行う液滴吐出ヘッド5の駆動信号のキャリブレーションにおいて、重量測定前に液滴吐出ヘッド5内に貯留される液状体を所定量廃棄する予備吐出を駆動回路部60に指示する。予備吐出指示部59が出力する駆動信号には、例えば、予備吐出用駆動信号、及び選択データがある。選択データについては、算出部52が出力するものと同様のものである。
【0055】
予備吐出用駆動信号は、予備加熱された液滴吐出ヘッド5から所定量のカラーフィルター材料を吐出させるための駆動信号である。予備吐出用駆動信号は、2種以上用いられ、2種以上の予備吐出量でカラーフィルター材料が予備吐出される。出力される予備吐出用駆動信号は、メモリ591に記憶される。
【0056】
制御コンピューター50は、その他に液晶表示装置又はCRT(Cathode Ray Tube)等の表示装置やプリンタによって構成される出力部を有することとしても良い。
【0057】
駆動回路部60は、液滴吐出ヘッド5内に設けられており、切替信号生成部62及びスイッチ回路64を含んで構成されている。切替信号生成部62は、算出部52または呼び吐出指示部59から出力される選択データに基づいて各圧電体素子PZへの駆動信号の導通/非導通を指示する切替信号を生成し、スイッチ回路64に出力する。スイッチ回路64は、各圧電体素子PZにそれぞれ設けられており、切替信号によって指定された駆動信号を圧電体素子PZに出力する。
本実施形態の液滴吐出装置IJは、以上のような概略構成となっている。
【0058】
次に、本発明の液滴吐出方法について説明する。本発明の液滴吐出方法は、以下のような考えに基づくものである。
【0059】
実際の描画状態を考えると、頻繁に液滴吐出ヘッド5から液状体が吐出されることによって液滴吐出ヘッド5内部には、加熱されていない新たな液状体が外部から連続的に供給されて入れ替えが行われており、液状体の温度が平衡状態となっているとされている。つまり、予備加熱直後の液滴吐出ヘッド5と、実際の描画状態の液滴吐出ヘッド5とを比較すると、内部に存在する液状体が、予備加熱によって加熱されたものであるか、外部から供給された加熱されていないものと入れ替えが行われているかが大きく異なる。
【0060】
このような液滴吐出ヘッドにおいて、予備吐出工程を行うことによって、予備加熱によって加熱された液状体が液滴吐出ヘッド5内部から排出されることとなり、予備加熱されていない液状体が液滴吐出ヘッド内に供給される。これによって液滴吐出ヘッド5内に貯留される液状体の温度(貯留液温度)が低下して、貯留液温度の変化に応じて貯留液の粘度が変化し、実際の描画状態により近づくこととなる。
【0061】
ここで、実際に液滴吐出装置IJを用いた描画工程を想定すると、機器トラブルやロット切替により機器が停止することが考えられる。図5は、液滴吐出装置IJを用いた実際の描画工程における、経過時間に対する液滴吐出ヘッド5の貯留液温度の変化の一例を示す概略図である。
【0062】
図中符号AR1で示す区間では、液滴吐出装置IJを用いた描画が行われている状態であることを示している。符号AR1で示す区間のうち、上述した平衡状態においては図中の符号Eで示すように貯留液温度が一定となっており、精度の良い吐出が可能である。
【0063】
一方、図中符号AR2,AR3で示す区間では、描画が停止している状態であることを示している。例として、符号AR2で示す区間では、ロット切り替えのために長時間待機している状態を示し、符号AR3で示す区間では、ノズル詰まりのためにノズルクリーニングのために多量の液状体を吐出している状態を示すものとする。符号AR2の区間では、長時間の待機の間、液状体の入れ替えなく液滴吐出ヘッド5が予備加熱され続けるため、貯留液温度が上昇する。符号AR3の区間では、多量の液状体を吐出するために熱が逃げ、貯留液温度が低下している。
【0064】
符号AR2,AR3で示すような機器停止後に再開する際に、改めて液滴吐出ヘッドのキャリブレーションを行うと、高精度な液滴吐出を行うことができる。しかしその場合、キャリブレーションに必要な重量測定のための液状体を余分に廃棄することとなり環境負荷が高まる上、タクトタイムの延長につながるため、経済的な観点、または作業効率向上の観点から許容しにくいことが多い。
【0065】
そのため、機器停止中には、貯留液の温度が一定に保つことが困難となりやすい。すると、機器を再稼動する際に、符号AR1で示す区間において符号X1,X2で示すように貯留液温度が安定しない区間が生じ、吐出量が一定せず安定な液滴吐出が困難となっていた。
【0066】
そこで、本実施形態の液滴吐出方法では、描画工程における機器停止中の貯留液温度の変化を考慮し、貯留液温度が複数の温度となるように複数の条件で予備吐出を行った上で、複数の条件でキャリブレーションのための重量測定を行い、吐出のための駆動信号を決定することとしている。
【0067】
次に、図6に示すフローチャートと図7から図12に示すグラフとを参照しながら、本実施形態の液滴吐出装置IJを用いた液滴吐出方法を説明する。以下の説明では、理解を容易にするために、具体的な製造例としてカラーフィルターを製造する方法について説明する。また、必要に応じ、図3で用いた制御装置12の各構成を示す符号を用いて説明する。
【0068】
まず、制御装置12は、描画指示が入力されると、液滴吐出ヘッド5から基板Pに対してカラーフィルター材料(液状体)を吐出しない待機状態において、液滴吐出ヘッド5を予備加熱する予備加熱工程を行う(ステップS1)。
【0069】
この予備加熱工程は、待機状態で温度が低い状態の液滴吐出ヘッド5を加熱することによって、液滴吐出ヘッド5の温度を描画状態(液滴吐出ヘッド5から基板Pに対して液状体を吐出する状態)に近づける工程である。具体的には、制御装置12は、駆動信号生成部54において微振動用駆動信号を生成し、全ての圧電体素子PZに対して微振動用駆動信号を印加する。この結果、圧電体素子PZが微振動し、これによって発生した熱によって液滴吐出ヘッド5が所定の温度に加熱される。
【0070】
次に、制御装置12は、液滴吐出ヘッド内の加熱された液状体を、液滴吐出ヘッド5の内部から吐出する予備吐出工程(ステップS2)を行う。
【0071】
この予備吐出工程は、予備加熱工程によって液滴吐出ヘッド5と共に所定の温度に加熱された液状体を液滴吐出ヘッド5から排出することにより、液滴吐出ヘッド5の内部に加熱されていない液状体を導入する工程である。加熱されていない液状体を導入し液状体の入れ替えを行うことで、図7に示すグラフのように予備吐出量に応じて貯留液温度が変化し、液滴吐出ヘッド5内の液状体の粘度が変化する。
【0072】
具体的には、この予備吐出工程では、予備吐出指示部59から供給される所定の予備吐出用駆動信号を圧電体素子PZに印加して、所定の温度に加熱された液状体を液滴吐出ヘッド5から吐出させる。また、出力される予備吐出用駆動信号は、メモリ591に記憶される。
【0073】
次に、制御装置12は、液滴吐出ヘッド5から吐出された液状体の重量を測定する重量測定工程(ステップS3)を行う。
【0074】
この重量測定工程は、予備吐出工程後において、液滴吐出ヘッド5の全ノズルあるいは予め定められたグループに属するノズルから吐出された液状体の重量を測定する工程である。具体的には、制御装置12は、所定の吐出用駆動信号(所定の駆動信号)を圧電体素子PZに印加して液滴吐出ヘッド5から電子天秤11に対して液状体を吐出させ、液状体の重量(実吐出量)を取得する。測定される実吐出量は、メモリ571に記憶される。
【0075】
次に、制御装置12は、予め定めていた複数の予備吐出条件の全てにおいて予備吐出を行い、吐出量を測定したかどうかを判断する(ステップS4)。
【0076】
全ての予備吐出条件において吐出量測定が終了していない場合には、予備加熱工程(ステップS1)に戻り、全ての予備吐出条件において吐出量を測定するまでステップS1からステップS3を繰り返す。
【0077】
再度行う予備吐出工程(ステップS2)において、すでに行われた予備吐出工程とは異なる量の液状体が吐出されると、入れ替わりに導入される液状体の量が変化するため、液滴吐出ヘッド内の液状体は、すでに行われた予備吐出工程と異なる貯留液温度となる。そのため、次いで行われる重量測定工程(ステップS3)では、所定の駆動信号を印加した場合に、貯留液温度の違いによる粘度差に起因して、測定される液状体の重量が異なることとなる。そのため、異なる予備吐出条件での予備吐出工程を行うことで、貯留液温度が異なる複数の条件で吐出量の測定を行うことができる。
【0078】
全ての吐出条件について吐出量の測定が終了した場合、次の工程に進む。
次に、制御装置12は、予備吐出工程における吐出量に対する重量測定工程における実吐出量の関係を算出する算出工程(ステップS5)を行う。
【0079】
具体的には、印加される駆動信号に対する吐出量の関係(吐出特性)を関係式やテーブル等の形で記憶部56に記憶しておき、予備吐出工程における貯留液温度において、この関係式やテーブル等とメモリ591に記憶された予備吐出用駆動信号とを用いて、算出部52において、予備吐出量A,Bを算出する。これらの予備吐出量A,Bと、メモリ571に記憶された所定の駆動信号における実吐出量Wa,Wbとから、図8に示すグラフのような予備吐出量に対する実吐出量の関係が算出される。また、図7と図8との結果より、貯留液温度に対する実吐出量の関係を導くことができる。
【0080】
図9は、記憶部56に記憶された液滴吐出ヘッドの吐出特性を表すグラフであり、所定の貯留液温度における吐出特性を図中に符号Esで示している。図8に示した結果を図9に反映させると、実吐出量Wa,Wbは、予備吐出用駆動信号Vにおける関係式どおりの吐出量Wsに対して少ない値となる。この吐出量の差は、予備吐出を行うことによって生じる貯留液温度差、すなわち液滴吐出ヘッド内に貯留される液状体の粘度差に起因するものである。
【0081】
次に、制御装置12は、算出工程の算出結果に基づいて圧電体素子PZに印加する駆動信号を調節する駆動信号調節工程(ステップS6)を行う。
【0082】
この駆動信号調節工程は、描画状態において液滴吐出ヘッド5から予め定められた所望量の液状体が吐出されるように駆動信号を調節する工程である。具体的には、図9に示す算出工程の算出結果と、記憶部56に記憶された吐出特性に基づいて、次のように調節する。
【0083】
まず、図10に示すように、図9に示したグラフを用いて直線補間を行うことで、実吐出量Wa,Wbが得られる予備吐出量毎に、駆動信号に対する吐出量の関係を得る。グラフ中では、符号Ea,Ebで示している。
【0084】
次に、図11に示すように、図10に示したグラフを用いて、符号Es,Ea,Ebで示す関係において所望の吐出量Wとするための電圧Vs,Va,Vbを算出することで、図12に示す予備吐出量に対する補正駆動信号(駆動電圧)の関係が得られる。
【0085】
このようにして得られた関係式では、予備吐出量に対する補正駆動信号を示しているが、図7に示すように予備吐出量は貯留液温度に対応しているため、貯留液温度に対する補正駆動信号として変換可能である。そのため、描画工程中の機器停止時間に対する貯留液温度の上昇率や、単位時間あたりの液滴吐出ヘッドからの吐出量(吐出速度)に対する貯留液温度の変化率の情報を、予めメモリ541に記憶させておくことで、図12に示す関係は、機器停止時間に対する補正駆動信号の関係や、吐出速度に対する補正駆動信号の関係として、相互に変換可能である。
【0086】
単位時間あたりの吐出速度は、例えば図1に示すチューブ7に流量計を設置する、または、第1タンク8、第2タンク9及び第3タンク10に液面計を設けるなどによって、間接的に測定することができる。機器停止時間は、通常の方法により容易に測定することができる。
【0087】
このように得られる吐出速度や機器停止時間から貯留液温度を算出し、または、温度計測センサー13による計測結果と、図12に示す関係とを用い、得られた貯留液温度において所望の吐出量とするための補正駆動信号を算出する。
【0088】
なお、重量測定工程において、液滴吐出ヘッド5が備える圧電体素子PZを複数グループに分けて重量測定を行う場合には、グループごとに駆動信号調節工程が行われる。
【0089】
次に、制御装置12は、基板Pに液状体を吐出してカラーフィルターを形成する描画工程(ステップS7)を行う。
【0090】
具体的には、制御装置12は、キャリッジ4を移動させながら、液滴吐出ヘッド5から基板P上に液状体を吐出する。これによって基板P上に液状体が配置されてカラーフィルターが製造される。ここで、本実施形態の描画工程においては、駆動信号調節工程において調節された吐出用駆動信号を用いて液状体が液滴吐出ヘッド5から吐出される。したがって、基板Pへの液状体の吐出量が所望量となる。
以上のようにして、本実施形態の液滴吐出方法を実施する。
【0091】
以上のような液滴吐出方法によれば、予め複数の温度条件行う重量測定の結果に基づいてキャリブレーションを行うため、描画中に機器が停止し液滴吐出ヘッド内の液状体の温度が変動したとしても、精度良く吐出量を設定し吐出することが可能となる。
【0092】
また、以上のようなカラーフィルター製造方法によれば、各液滴吐出ヘッドからのカラーフィルター材料の吐出量を高精度に制御することができるため、スジムラのない高品質なカラーフィルターを製造することが可能となる。
【0093】
また、以上のような液滴吐出装置によれば、予め複数の温度条件行う重量測定の結果に基づいてキャリブレーションを行うことができるため、液状体の吐出量をより高精度に設定することを可能とする液滴吐出装置を提供することができる。
【0094】
なお、本実施形態においては、予備吐出量A,Bの2条件で貯留液温度を変化させる例について説明したが、もちろん更に複数の予備吐出量に対する実吐出量を測定し、両者の関係を算出することとしても良い。
【0095】
また、本実施形態においては、駆動信号調節工程において、貯留液温度と関係式とから駆動信号を算出することとしたが、これに限らない。例えば、描画工程において液状体の温度が平衡状態となっている場合の貯留液温度を、所望の温度として予め定めておき、現実の貯留液温度が所望の温度よりも高い場合と低い場合の2条件に対応する駆動信号を設定しておくことで、駆動信号を調節することとしても良い。
【0096】
また、本実施形態においては、圧電体素子PZを微振動させることによって液滴吐出ヘッド5を予備加熱する構成について説明したが、これに限らず、例えばヒーター等を用いて液滴吐出ヘッド5を予備加熱しても良い。
【0097】
また、本実施形態においては、制御装置12において予備吐出指示部59が独立していることしたが、これに限らない。
【0098】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0099】
5…液滴吐出ヘッド、11…電子天秤(重量測定手段)、12…制御装置(制御手段)、52…算出部(算出手段)、54…駆動信号生成部(駆動信号調節手段)、56…記憶部(記憶手段)、521,541,571,591…メモリ(記憶手段)、IJ…液滴吐出装置、L…液状体、PZ…圧電体素子(駆動素子、予備加熱手段)、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状体の吐出を行う駆動素子を有した液滴吐出ヘッドを用いる液滴吐出方法であって、
前記液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱工程と、
予備加熱された前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を吐出する予備吐出工程と、
前記予備吐出工程の後で、前記液滴吐出ヘッドから改めて吐出される前記液状体の重量を実吐出量として測定する重量測定工程と、
前記予備吐出工程における単位時間あたりの吐出量を予備吐出量とし、前記予備吐出量に対する前記実吐出量の関係を算出する算出工程と、
前記算出工程の算出結果と前記液滴吐出ヘッド内に貯留された液状体の温度である貯留液温度とに基づいて、前記駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節工程と、を備え、
異なる2以上の前記予備吐出量で前記予備吐出工程と前記重量測定工程とを行い、得られる2以上の前記予備吐出量および前記実吐出量を用いて、前記算出工程を行うことを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項2】
前記駆動信号調節工程において、前記液状体の前記液滴吐出ヘッド内での滞留時間を測定し、測定された前記滞留時間から算出される前記貯留液温度と、前記算出結果とに基づいて、前記駆動信号を調節することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出方法。
【請求項3】
調節された前記駆動信号を前記駆動素子に供給し前記液状体の吐出を行う描画工程を有し、
前記描画工程において、単位時間あたりの前記液状体の吐出量である吐出速度を測定し、前記吐出速度から算出される前記貯留液温度と、前記算出結果とに基づいて、前記駆動信号を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の液滴吐出方法。
【請求項4】
基材と前記基材上に予め設定された画素領域に設けられた着色層とを備えるカラーフィルターの製造方法であって、
請求項1から3のいずれか1項に記載の液滴吐出方法を用いて、前記画素領域に前記着色層の形成材料を含む液状体を配置することを特徴とするカラーフィルターの製造方法。
【請求項5】
液状体の吐出を行う駆動素子を有する液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置であって、
前記液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱手段と、
前記液滴吐出ヘッドから吐出される前記液状体の重量を測定する重量測定手段と、
前記駆動素子を制御することにより前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を吐出させる制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記液滴吐出ヘッドにおいて予備加熱された前記液状体のうち少なくとも一部を、前記液滴吐出ヘッドから吐出させる前記液状体の吐出量である予備吐出量と、
前記液状体を予め吐出させた後に改めて前記液滴吐出ヘッドから吐出させた前記液状体の前記重量測定手段による測定結果である実吐出量と、
前記駆動素子に印加する駆動信号に対する前記液状体の吐出量の関係である吐出特性と、を記憶する記憶手段と、
2以上の前記予備吐出量とそれぞれ対応する前記実吐出量を用い、前記予備吐出量に対する前記実吐出量の関係を算出する算出手段と、
前記算出手段による算出結果と前記吐出特性とに基づいて、前記駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節手段と、を有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項1】
液状体の吐出を行う駆動素子を有した液滴吐出ヘッドを用いる液滴吐出方法であって、
前記液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱工程と、
予備加熱された前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を吐出する予備吐出工程と、
前記予備吐出工程の後で、前記液滴吐出ヘッドから改めて吐出される前記液状体の重量を実吐出量として測定する重量測定工程と、
前記予備吐出工程における単位時間あたりの吐出量を予備吐出量とし、前記予備吐出量に対する前記実吐出量の関係を算出する算出工程と、
前記算出工程の算出結果と前記液滴吐出ヘッド内に貯留された液状体の温度である貯留液温度とに基づいて、前記駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節工程と、を備え、
異なる2以上の前記予備吐出量で前記予備吐出工程と前記重量測定工程とを行い、得られる2以上の前記予備吐出量および前記実吐出量を用いて、前記算出工程を行うことを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項2】
前記駆動信号調節工程において、前記液状体の前記液滴吐出ヘッド内での滞留時間を測定し、測定された前記滞留時間から算出される前記貯留液温度と、前記算出結果とに基づいて、前記駆動信号を調節することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出方法。
【請求項3】
調節された前記駆動信号を前記駆動素子に供給し前記液状体の吐出を行う描画工程を有し、
前記描画工程において、単位時間あたりの前記液状体の吐出量である吐出速度を測定し、前記吐出速度から算出される前記貯留液温度と、前記算出結果とに基づいて、前記駆動信号を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の液滴吐出方法。
【請求項4】
基材と前記基材上に予め設定された画素領域に設けられた着色層とを備えるカラーフィルターの製造方法であって、
請求項1から3のいずれか1項に記載の液滴吐出方法を用いて、前記画素領域に前記着色層の形成材料を含む液状体を配置することを特徴とするカラーフィルターの製造方法。
【請求項5】
液状体の吐出を行う駆動素子を有する液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置であって、
前記液滴吐出ヘッドを予備加熱する予備加熱手段と、
前記液滴吐出ヘッドから吐出される前記液状体の重量を測定する重量測定手段と、
前記駆動素子を制御することにより前記液滴吐出ヘッドから前記液状体を吐出させる制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記液滴吐出ヘッドにおいて予備加熱された前記液状体のうち少なくとも一部を、前記液滴吐出ヘッドから吐出させる前記液状体の吐出量である予備吐出量と、
前記液状体を予め吐出させた後に改めて前記液滴吐出ヘッドから吐出させた前記液状体の前記重量測定手段による測定結果である実吐出量と、
前記駆動素子に印加する駆動信号に対する前記液状体の吐出量の関係である吐出特性と、を記憶する記憶手段と、
2以上の前記予備吐出量とそれぞれ対応する前記実吐出量を用い、前記予備吐出量に対する前記実吐出量の関係を算出する算出手段と、
前記算出手段による算出結果と前記吐出特性とに基づいて、前記駆動素子に印加する駆動信号を調節する駆動信号調節手段と、を有することを特徴とする液滴吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−247076(P2010−247076A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99651(P2009−99651)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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