説明

液滴吐出装置

【課題】複雑な構造を必要とせずにキャップの十分な封止力を得ることが可能な液滴吐出装置を提供する。また、液滴を吐出するノズルを確実に封止することができる液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】メンテナンスユニット15は、キャップ部16Aとキャップ部16Bを有する吸引キャップ16と、ベース22と軸23を中心に揺動可能に枢支されるとともに、ベース22とは反対側の面において吸引キャップ16を担持するキャップ担持板21と、キャップ担持板21をベース22に対して離れる方向に付勢する圧縮バネ26を備え、キャップ部16Aと16Bとは、互いに異なる方向に開口するものであり、キャップ部16Bがノズル12を封止するときは、キャップ部16Aがインクジェットヘッド8から離隔し、且つキャップ部16Aが軸23に向かうにつれて、インクジェットヘッド8から離れるような位置関係となるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出する液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液滴吐出装置として、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローのインクの液滴を各色毎に設けられたノズルから印刷用紙に向けて吐出するインクジェットヘッドを備え、印刷用紙に画像等を印刷するインクジェットプリンタがある。
【0003】
このようなインクジェットプリンタにおいては、インクジェットヘッドのインク流路内のインク粘度増加や、インク流路内への気泡の混入により、ノズルからインクの液滴が吐出されなくなるという問題があった。
【0004】
そこで、一般的なインクジェットプリンタでは、ノズルから正常に液滴が吐出されるようにする為に、インク流路内のインクを強制的に排出するパージ処理を実行して、インク流路内の増粘したインクや気泡を排出するように構成されたものがある。
【0005】
ところで、このようなパージ処理を行うインクジェットプリンタにおいて、インクを吸引する方法としては幾つかあり、その中にパージ処理の時間を短縮する為に、全てのノズルから同時にインクを排出するものがある。
【0006】
しかし、このパージ処理では、正常なノズルからもインクを排出してしまい、無駄に排出されるインクの量が増えてしまう。
【0007】
そこで、パージ処理時の無駄なインクの消費を抑えるために、パージ処理が必要なノズルのみからインクを排出することができるように構成されたものが提案されている。
【0008】
特許文献1のインクジェットプリンタ10は、4色のインクを吐出可能なノズル列が各色ごとに1列ずつ設けられた印刷ヘッド20と、3色のノズル列を封止可能な第1のキャップ部42と1色のノズル列を封止可能な第2のキャップ部43とが所定の面に開口するキャップ部材40と、キャップ部材40に対して印刷ヘッド20を相対移動させるキャリッジ14と、を備える。また、キャリッジ14には、記録媒体のドットパターンを検出可能な光学センサ30が設けられている。
【0009】
ここで、インクジェットプリンタ10の制御部は、ノズルからインクの液滴が正常に吐出されているか否かを検査するドット抜けチェックを実行する場合、記録媒体にドット抜け検査用の印刷を施した後に、光学センサ30にて記録媒体上のドットパターンを検出させる。
【0010】
そして、検出した結果、全色のノズル列のそれぞれにドット抜けノズルが検出された場合には、第1及び第2のキャップ部にて全色のノズル列を封止して、同時にパージ処理を行うことができる。
【0011】
また、1色のノズル列のみドット抜けノズルが検出された場合には、第2のキャップ部43がかかるノズル列と対応する位置関係となるように印刷ヘッド20を位置付けて、第2のキャップ部43にてドット抜けノズルの属するノズル列のみを封止してパージ処理を行うこともできる。
【0012】
従って、全色同時にパージ処理ができるのに加えて、パージ処理を行う対象を各色のノズル列毎に選んで実行することもできるので、パージ処理の時間を短縮しつつ、無駄なインクの消費量を抑えることが可能となる。
【特許文献1】特開2005−262821号公報(図7参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記特許文献1のインクジェットプリンタ10においては、キャップ部材40の封止力を確保するために、キャップ部材40には、印刷ヘッド20に向けて所定の大きさの力(以下、「付勢力」と称する)が加えられている。
【0014】
また、第1のキャップ部42と第2のキャップ部43は、印刷ヘッド20の移動方向に並んでおり、パージ対象のノズル列に応じて、印刷ヘッド20を移動させて、封止対象のノズル列と対応する位置関係となるようにして、選択して使用されていた。
【0015】
ここで、特に、第2のキャップ部43を使用して、1色のノズル列をパージ対象とする場合には、図7に示すように、封止するノズル列によって、印刷ヘッド20に対して配置されるキャップ部材40の位置関係が変わってしまい、印刷ヘッド20とキャップ部材40の接触面積が変わってしまう。
【0016】
このように接触面積が変化すると、接触する領域内での単位面積当たりに加えられる力(応力の大きさ)が変化してしまう為、キャップ部材40が印刷ヘッド20と密着する力(封止力)は変化してしまい、場合によっては十分な封止力を得ることができないという問題がある。
【0017】
そこで、キャップ部材40と印刷ヘッド20の接触面積の変化に関わらず、十分な封止力を確保する為に、何れのノズル列を封止しても同じ封止力となるように、封止対象のノズル列毎に付勢力を調整して、常に一定の封止力が得られるようにする方法がある。
【0018】
しかし、各ノズル列毎に付勢力を変化させなければならず、構造が複雑になってしまう。
【0019】
そこで、上記のような複雑な構造を避ける方法として、接触面積が最大のとき(全色のノズル列を封止したとき)に必要な封止力を確保できるようにする為に、全色ノズル列の封止時に必要な付勢力のみを設定することが考えられる。
【0020】
これにより、1色のノズル列を封止する場合では、全色ノズル列を封止する場合に比べて、接触面積が小さいため、封止力が大きくなる。この為、ノズル列を風刺するのに十分な封止力を確保することができる。従って、封止力が不足することがないので、封止するノズル列を選ばずに確実に封止できる。
【0021】
しかしながら、ノズル列25dのみをパージ処理する場合に、付勢力は、第2のキャップ部43を付勢するように作用するのみならず、印刷ヘッド20の端とキャップ部材40との接触する箇所を支点にして、キャップ部材40を図中の逆時計回りの方向に回転させるように作用してしまう。
【0022】
この為、第2のキャップ部43が印刷ヘッド20から離れるように移動してしまい、ノズル列を確実に封止することができないという問題があった。
【0023】
本発明の目的は、複数のノズル列のうちのどのノズル列を封止する場合であっても、確実に封止することができる液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
第1の発明の液滴吐出装置は、複数のノズルによって構成されるノズル列を複数列有するとともに、これら複数のノズル列が互いに平行な状態でそれらの延在方向と直交する方向に配列されている液滴吐出ヘッドと、この液滴吐出ヘッド内の液体を前記ノズルから強制的に吸引するための液体吸引手段と、を備えた液滴吐出装置において、前記液体吸引手段は、全ての前記ノズルを封止可能な第1の吸引キャップと、前記複数のノズル列のうちの一部の列に属するノズルのみを封止可能な第2の吸引キャップと、前記第1及び第2の吸引キャップのうちのいずれを使用するか選択し、前記第2の吸引キャップが選択されるときは、前記複数のノズル列のうちのどのノズル列を封止するかを選択するための選択手段とを備えるものであり、前記選択手段は、ベースと、前記ベースに対して前記ノズル列の延在方向と平行な軸を中心に揺動可能に枢支されるとともに、前記ベースとは反対側の面において前記第1及び第2の吸引キャップを担持するキャップ担持板と、前記キャップ担持板を前記ベースから離れる方向に付勢する付勢手段と、前記液滴吐出ヘッドに対して前記第1及び第2の吸引キャップを接離させるように、前記ベースを前記液滴吐出ヘッドに対して相対移動させる移動手段と、を有しており、前記第1及び第2の吸引キャップは、前記移動手段により前記液滴吐出ヘッドに接近させられたときに、前記ノズルを覆って封止するように所定の面が開口した凹形状のものであり、さらに、前記第2の吸引キャップの方が前記第1の吸引キャップよりも前記軸から離れるように、前記延在方向と直交する方向において並ぶものであり、さらに、前記第1の吸引キャップと前記第2の吸引キャップが互いに異なる方向を向いて開口するものであり、さらに、前記第2の吸引キャップが前記ノズルを封止するときは、前記第1の吸引キャップ部が前記液滴吐出ヘッドから離隔し、且つ、前記第1の吸引キャップの前記所定の面が、前記第2の吸引キャップ側の一端から前記軸側の他端へ向かうにつれて、前記液滴吐出ヘッドに対して離れるような位置関係となることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、第1及び第2の吸引キャップを担持するキャップ担持板は、移動手段によりベースを液滴吐出ヘッドに対して相対移動させることで、軸を中心にベースに対して接近したり離れたりするように移動する。これにより、キャップ担持板の姿勢が変わるとともに、第1若しくは第2の吸引キャップの姿勢も変わって、何れか一方の所定面を液滴吐出ヘッドと対向するように位置させることができる。その為、選択手段は、第1と第2の吸引キャップの何れを使用するかを選択することができる。
【0026】
また、第2の吸引キャップの使用を選択して、液滴吐出ヘッドと接触させたときには、第1の吸引キャップは、液滴吐出ヘッドとは接触しないように位置付けられる。
【0027】
その為、第2の吸引キャップを使用したときには、何れのノズル列を封止する場合であっても、常に第2の吸引キャップのみを液滴吐出ヘッドに接触させることができるので、封止するノズル列に関わらず接触面積を一定にすることができる。これにより、第2の吸引キャップは、封止するノズル列が変わっても、封止力を一定にすることが可能となる為、どのノズル列であっても確実に封止することができる。
【0028】
本発明において「軸」とは、キャップ担持板に対して揺動するように支えるもの全般を含み、軸心を備えたもの以外の仮想物も含まれる。また、「異なる方向を向いて開口する」について説明する。第1及び第2の吸引キャップが、ノズルを封止したときに、液滴吐出ヘッドと接触する所定の面と液滴吐出ヘッドとの間に位置する仮想面(以下、「開口面」と称する)が生じる。この開口面に対して、直交するとともに、凹部から外側へ向かう方向が開口する方向である。この開口する方向が、異なる方向を向いていることが、「異なる方向を向いて開口する」と同義である。
【0029】
第2の発明の液滴吐出装置は、前記第1の発明において、前記キャップ担持板は、その一端において前記軸により軸支されており、前記付勢手段は、前記キャップ担持板の前記一端とこの一端とは反対側の他端との間において、前記キャップ担持板を付勢することを特徴とする。
【0030】
この発明によれば、付勢手段は、キャップ担持板の一端と他端の間にて、キャップ担持板を付勢している。これにより、キャップ担持板が担持する2つの吸引キャップのうち、広い領域を占める第1の吸引キャップの近傍、又は重なる領域にて、キャップ担持板を付勢することができる。従って、第1の吸引キャップで確実にノズルを封止することができる。
【0031】
第3の発明の液滴吐出装置は、前記第1又は第2の発明において、前記選択手段は、前記キャップ担持板とともに前記ベースを挟むように位置する台座と、この台座と前記ベースとの間に、前記ベースを前記台座から離れる方向に付勢するベース付勢手段とをさらに備え、前記台座は、前記ベースと対面する面が、前記液滴吐出ヘッドのノズルが形成された面と平行になるように配置されており、さらに、前記移動手段と接続されていることを特徴とする。
【0032】
キャップ担持板は、軸を中心にして回転することで液滴吐出ヘッドに対して接近したり離れたりする為、吸引キャップを担持する面が液滴吐出ヘッドのノズルが形成された面に対して平行に対面しない場合がほとんどである。この為、吸引キャップを封止させるように作用する付勢力は、ノズルが形成された面に直交する方向から傾斜した向きに加わる為、吸引キャップをノズルが形成された面に沿う方向に作用させてしまい、場合によっては、吸引キャップが液滴吐出ヘッドと接触した際に滑って、十分に封止できないことがある。
【0033】
しかし、本発明によれば、ベースは、ノズル形成面と平行な位置関係にある台座とベースとの間に配設されたベース付勢手段により、ノズル形成面に対して直交する方向に付勢される。この為、キャップ担持板には、付勢手段の付勢力に加えて、ベース付勢手段の付勢力が加えられる為、吸引キャップを滑らす方向に作用する力を緩和することができる。従って、吸引キャップをノズル形成面に対して確実に付勢することができる。
【0034】
第4の発明の液滴吐出装置は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記液滴吐出ヘッドは、前記ノズルが形成された面に対して突出するノズル保護壁をさらに有し、前記ノズル保護壁は、前記ノズルが形成された面に対して直交する方向から見たときに、前記ノズルの全てを囲むように配置されており、さらに、前記第1の吸引キャップが全てのノズル列を封止したときは、前記第1の吸引キャップと接触せず、前記第2の吸引キャップが前記複数のノズル列のうちの何れのノズル列を封止したときは、前記第2の吸引キャップと接触しないような位置に設けられていることを特徴とする。
【0035】
この発明によれば、第1及び第2の吸引キャップが液滴吐出ヘッドと接触する部分を、液滴吐出ヘッドに設けられたノズル保護壁に接触することなくノズル形成面にそれぞれ接触させることができる。これにより、第1の吸引キャップで封止するときには、全てのノズル列を確実に封止することができるとともに、第2の吸引キャップで封止するときには、複数のノズル列のうちの何れのノズル列についても確実に封止することができる。
【発明の効果】
【0036】
第2の吸引キャップの使用を選択して、液滴吐出ヘッドと接触させたときには、第1の吸引キャップは、液滴吐出ヘッドとは接触しないように位置付けられる。その為、第2の吸引キャップを使用したときには、何れのノズル列を封止する場合であっても、常に第2の吸引キャップのみを液滴吐出ヘッドに接触させることができるので、封止するノズル列に関わらず接触面積を一定にすることができる。これにより、第2の吸引キャップは、封止するノズル列が変わっても、封止力を一定にすることが可能となる為、複数のノズル列のうちのどのノズル列であっても、確実に封止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、インクジェットヘッドから印刷用紙に向けてインクの液滴を吐出して画像を印刷するプリンタに、本発明を適用したものである。
【0038】
図1は、本実施形態に係るプリンタ1(液滴吐出装置)の概略構成を示す平面図である。図1に示すように、プリンタ1は、一方向に往復移動可能に構成されたキャリッジ5と、このキャリッジ5に搭載されたインクジェットヘッド8(液滴吐出ヘッド)及びサブタンク9a〜9dと、インクが貯留されたインクカートリッジ11a〜11dと、インクジェットヘッド8の吐出性能が異常となったときに、この吐出性能を回復させるメンテナンスユニット15(液体吸引手段)とを備える。
【0039】
プリンタ1には、水平一方向(図1の左右方向:以下、「走査方向」と称する)に延びるとともに、走査方向に直交する紙送り方向に、距離を空けて配置された2つのガイド軸3、4が配設されており、これらガイド軸3、4にキャリッジ5が取り付けられている。また、キャリッジ5は、無端ベルト6と接続されている。この無端ベルト6が走行駆動させられると、キャリッジ5がガイド軸3、4に案内されるとともに、無端ベルト6の走行に伴って左右方向に移動する。
【0040】
キャリッジ5には、インクジェットヘッド8と4つのサブタンク9a〜9dが搭載されている。このインクジェットヘッド8は、キャリッジ5とともに走査方向に移動しつつ、その下面(図1の紙面向こう側の面)に形成されたノズル12(図3参照)から、図示しない用紙搬送機構により紙送り方向(図1下方向)に搬送される印刷用紙Pに向けて、インクの液滴を吐出する。これにより、印刷用紙Pに画像等が印刷される。
【0041】
サブタンク9a〜9dは、走査方向に並んで配置されており、インクジェットヘッド8の内部に形成されたインク流路と繋がるインク供給口(図示省略)を介してインクジェットヘッド8へインクを供給する。また、プリンタ1に着脱可能に接続されたインクカートリッジ11a〜11dと、インクチューブ10a〜10dを通じて連通しており、これらのチューブを介してインクが供給されるものである。
【0042】
また、プリンタ1には、印刷用紙Pが通過する領域(以下、「印刷領域」と称する)とは重ならない領域において、廃液受容部13と、ドット抜け検出部40と、ワイパ14と、メンテナンスユニット15とが設けられている。これらの構成は、インクジェットヘッド8の吐出性能が悪くなったときに、この性能を回復するために、吸引パージ、フラッシング、及びワイピングを行う為のものである。
【0043】
廃液受容部13は、時間経過とともに粘度が増加したインクを排出して吐出性能を回復させるフラッシングにおいて、ノズル12から吐出されたインクの液滴を受け止めるものである。また、ワイパ14は、ノズルの周辺に付着した付着物を除去するワイピングの際に、ノズルが形成された面を払拭するものである。このワイパ14の左側には、インクジェットヘッド8から正常にインクの液滴が吐出されたか否かを検出するドット抜け検出部40が設けられている。このドット抜け検出部40は、レーザー光を発射する発光部(図示省略)と発光部から発射されたレーザーを受光する受光部(図示省略)とを備える。また、先程述べた印刷領域は、ドット抜け検出部40と廃液受容部13との間に位置する。
【0044】
メンテナンスユニット15は、吸引パージのときに用いられるもので、ワイパ14の右隣に設けられている。このメンテナンスユニット15は、インクジェットヘッド8の下面と密着する吸引キャップ16と、この吸引キャップ16と各々繋がるキャップチューブ17、18と、吸引キャップ内の気体を吸引する吸引ポンプ20とを備える。また、キャップチューブ17、18と吸引ポンプ20とは、切替ユニット19を介して接続されており、この切替ユニット19をプリンタの制御装置70(図6参照)にて制御して、何れか一方のチューブのみを吸引ポンプ20と連通させる。
【0045】
次に、インクジェットヘッド8について詳細を説明する。図2は、キャリッジ5、サブタンク9a〜9dを含むインクジェットヘッド8の断面図を示し、図3は、インクジェットヘッド8の下面の図を示す。
【0046】
図2に示すように、キャリッジ5は、上面にサブタンク9a〜9dが搭載されており、下面にはインクジェットヘッド8が配置される。このインクジェットヘッド8は、上記したように、その内部に形成されたインク流路がサブタンク9a〜9dと連通しており、サブタンク内のインクがインク流路へ供給される。また、インク流路内には、ノズルからインクの液滴を吐出するために、インク流路内のインクに圧力を付与するための圧力付与手段77(図6参照)が設けられており、印刷の際には、プリンタ1の制御装置70(図6参照)により圧力付与手段77を制御して、印刷を行う。
【0047】
また先程述べたように、インクジェットヘッド8の下面には、図3に示すように、複数のノズル12が形成されている。これら複数のノズル12は、紙送り方向に複数並んでノズル列を構成しており、このようなノズル列が走査方向に4本並んで配置される。
【0048】
また、インクジェットヘッド8には、図2に示すように、下面に対して突出するノズル保護壁35が設けられている。このノズル保護壁35は、図3に示すように、ノズル12の全てを囲むように配置されている。これより、印刷用紙Pがインクジェットヘッド8側へ撓んでしまった場合であっても、下面に印刷用紙Pが接触する前に、ノズル保護壁35と接触するため、インクジェットヘッド8の下面に接触しないように、保護することができる。
【0049】
次に、メンテナンスユニット15について図4、5を参照して説明する。図4はメンテナンスユニット15の一部断面図を示し、図5はメンテナンスユニット15に属する吸引キャップ16の拡大上面図を示す。
【0050】
メンテナンスユニット15は、図4に示すように、吸引キャップ16と、この吸引キャップ16を接続するキャップ担持板21と、キャップ担持板21を軸23により軸支するベース22と、このベース22の下面(図4の下方向側)に配置される台座27とを備える。
【0051】
キャップ担持板21は、樹脂等で形成された板状のもので、インクジェットヘッド8に対向する面に吸引キャップ16を担持している。また、このキャップ担持板21の反対側には、ベース22が配置されるような位置関係である。そして、キャップ担持板21の一端側(図4の右側)は、軸23を介してベース22と接続されており、ベース22に対して揺動可能である。一方、他端側(図4の左側)には、ベース22側に下垂する案内部材24が設けられている。この案内部材24は、先端部分に凸状のストッパ部を備えており、このストッパ部がベース22に形成された案内穴25と嵌合されている。この案内穴25は、ベース22の上下方向に延びつつ、ベース22の底面に至るように形成されており、案内部材24を穴が形成された領域内で案内する。
【0052】
ベース22は、キャップ担持板21と同様に樹脂等で形成された凹形状のものである。そして、凹部の開口は、キャップ担持板21と対向しており、開口と反対側には台座27が位置するような位置関係となっている。そして、キャップ担持板21との間には、圧縮バネ26(付勢手段)が配置されている。この圧縮バネ26は、上記したキャップ担持板21の一端と他端の間に位置しており、さらに、キャップ担持板21とベース22との間が最も離れているとき(図4に示す場合)に、自然長よりも収縮した状態となって配置されている。これにより、圧縮バネ26は、常に収縮した状態となるため、収縮に伴う復元力が発生しており、この復元力がキャップ担持板21とベース22の両方に作用して、キャップ担持板21をベース22から離れるように付勢することができる。また、圧縮バネ26は、案内部材24のストッパ部が、案内穴25の上端に当接するように、キャップ担持板21を付勢する。これにより、メンテナンス以外のときには、キャップ担持板21を所定の姿勢に保つことができる。
【0053】
台座27は、樹脂等で形成された凹形状のもので、その凹部がベース22の一部と嵌合している。このベース22との間には、圧縮バネ28が設けられている。この圧縮バネ28は、圧縮バネ26に比べて、バネ係数の大きいもので、メンテナンス以外のときでは、自然長のままか若しくは復元力が発生しない程度にしか収縮していない。また、ベース22を、凹部の内側に収まるように配置している為、左右方向(図4の左右方向)にベース22が傾いたとしても、凹部内壁と接触させることができる。この為、ベース22の姿勢を一定に保つことができるので、吸引キャップ16をインクジェットヘッド8へ向けて保持することが可能である。
【0054】
また、この台座27は、キャップ昇降部85(図6参照)と接続されている。このキャップ昇降部85は、台座27を上下方向(図4の上下方向)に移動させるもので、メンテナンス時には、吸引キャップ16がインクジェットヘッド8へ近づくように、台座27を上昇させる。また、メンテナンスが終了したときには、吸引キャップ16をインクジェットヘッド8から離れるように、台座27を下降させる。
【0055】
次に、吸引キャップ16について詳細を説明する。吸引キャップ16は、2つの凹部29Aと29Bを備え、これら2つの凹部のうち、図5に示すように、凹部29Aを区画するリップ30Aと、凹部29Bを区画するリップ30Bとを有する。また、凹部29Aと29Bの内部底面には、連通孔31Aと31Bを備える。
【0056】
凹部29Aと29Bは、図4に示すように、両方ともキャップ担持板21と挟んで上の領域(図4の上方)に開口しており、走査方向に隣接して配置されている。また、図5に示すように、凹部29Aと29Bとは、紙送り方向に延びており、その長さは等しい。そして、凹部29Aは、ノズル列12a〜12dを全て覆うことが可能なような幅(図5の左右方向)を有している。一方、凹部29Bは、ノズル列1列分のみを覆うことが可能な幅である。
【0057】
また、リップ30Aと30Bは、凹部29Aと29Bに属するものであり、メンテナンスの際に、インクジェットヘッド8の下面と接触するものである。そして、一方のリップが接触しているときには、他方が接触しないような配置となっている。また、ノズル12を封止するときには、リップ30A、30Bのうちのどちらか一方について、リップの領域全てがインクジェットヘッド8の下面と接触して、封止することができる。ここで、このようにノズル12を封止したときに、インクジェットヘッド8の下面に接触するリップ30Aの領域と、凹部29Aの開口とを含んだ面を封止面32A(開口面)と称する。同様に、インクジェットヘッド8の下面に接触するリップ30Bの領域と、凹部29Bの開口とを含んだ面を封止面32B(開口面)と称する。また、これらの封止面32Aと32Bに対して、それぞれ直交する方向を、凹部29Aの開口方向33A、凹部29Bの開口方向33Bと称する。ここで、これらの開口方向33Aと33Bは、夫々が異なる方向を向いている。また、互いの開口方向が、近づかないような配置関係となっている。ここで、図5に示すように、吸引キャップ16のうち、ノズルを覆って封止する凹部29A、及びインクジェットヘッド8の下面と密着するリップ30Aとからなる部分により、キャップ部16A(第1の吸引キャップ)が構成されている。また、凹部29B、及びリップ30Bとからなる部分により、キャップ部16B(第2の吸引キャップ)が構成されている。
【0058】
連通孔31Aと31Bは、図4、5に示すように、凹部29Aと29Bの内部の底面にそれぞれ形成されており、インクチューブ17、18とそれぞれ連通する。これら2つの連通孔のうち、連通孔31Aは、図4に示すように、凹部29Aの底面のうち軸23側(図5の右側)の領域に配置されており、連通孔31Bは、凹部29Bの底面のうち、キャップ担持板21の案内部材24側(図5の左側)の領域に配置される。
【0059】
以上の構成を有するメンテナンスユニット15の作用について説明する。メンテナンスユニット15は、メンテナンス時には、キャップ昇降部85(図6参照)により、台座27をインクジェットヘッド8に向けて上昇させて、吸引キャップ16をインクジェットヘッド8の下面に当接させる。
【0060】
ここで、吸引キャップ16を接続するキャップ担持板21は、一端のみがベース22に軸支されている為、軸23を中心にして、図中時計回り、逆時計回りに移動できる。このとき、キャップ担持板21の所定面と直交する方向が、軸23を中心にして移動する周方向41となる。そして、この周方向41に対して、キャップ部16Aの開口方向31Aとキャップ部16Bの開口方向31Bとが、異なった方向に向いているため、何れか一方の開口方向がインクジェットヘッド8の下面に対して、直交するように位置したとしても、他方の開口方向は、インクジェットヘッド8の下面に対して直交しない。この為、キャップ部16Bがインクジェットヘッド8の下面に接触しているときには、キャップ部16Aは、インクジェットヘッド8の下面と接触しないようにできる。このとき、圧縮バネ26は、キャップ部16Bをインクジェットヘッド8の下面に向けるために、収縮している。一方、圧縮バネ28は、キャップ部16Bが封止したときには、殆ど収縮しない為、ベース22を付勢する力を発生していない。しかし、キャップ部16Bは、キャップ部16Aに比べて、接触面積が小さいため、キャップ部16Bに加わる付勢力がある程度確保できれば、確実に封止することができる。
【0061】
また、キャップ担持板21を周方向41に移動させることで、吸引キャップ16の向きを変えて、キャップ部16Aと16Bの何れかを、インクジェットヘッド8の下面に対向させることができる。これにより、キャップ部16Aと16Bとを選択して、封止することができる。さらに、キャップ部16Aを使用するときには、キャップ部16Bの使用時に比べて、キャップ担持板21をベース22へさらに近づける為、台座27とインクジェットヘッド8との間の距離が小さくなり、圧縮バネ26とともに圧縮バネ28が収縮される。これにより、圧縮バネ28の復元力が、ベース22を付勢するように作用するため、キャップ部16Aの封止力を大きくすることができる。この為、インクジェットヘッド8の下面と接触領域の大きい、キャップ部16Aを使用するときには、封止力を大きくするために、付勢力を大きくすることができる。これにより、キャップ部16Aの封止力を確実に確保することができる。
【0062】
また、キャップ担持板21は周方向41に回動する為、キャップ部16Aと16Bを封止するために作用する力は、インクジェットヘッド8の下面に対して、直交しない方向に作用してしまう。しかし、圧縮バネ28の復元力は、インクジェットヘッド8の下面に対して、直交する方向に作用しているので、キャップ部16A、16Bをインクジェットヘッド8の下面に対して、直交する方向に付勢することができる。このメンテナンスユニット15により、キャップ部16Aと16Bとを選択する制御については、後述にて説明する。
【0063】
次に、プリンタ1の電気的構成について図6を参照して説明する。図6は、プリンタ1の電気的構成を示すブロック図である。図6に示すように、制御装置70は、中央集積回路CPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1を制御するための各種プログラムやデータなどが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを備えている。
【0064】
また、制御装置70は、印刷用紙Pへの印刷を制御する印刷制御部72と、インクジェットヘッド8のメンテナンスの動作等を制御するメンテナンス制御部74とを有する。この2つの制御部は、ROMに記憶された動作等の各種プログラムがCPUによって動作されることで実現される。また、前回のメンテナンスからの経過時間を計測するタイマ78、プリンタ1の本体に設けられたパージキー79、本体内に設けられた上記のドット抜け検出部40がCPUと接続されており、これらについては、各部分から送信される信号に応じてCPUが各種プログラムを選択し、上記2つの制御部を動作させる。
【0065】
印刷制御部72は、PC等の入力装置90により入力されたデータに基づいて、キャリッジ5を往復移動させるキャリッジ駆動モータ6と、印刷用紙Pを搬送する用紙搬送機構(図示省略)を駆動する搬送モータ75と、インクジェットヘッド8の圧力付与手段77を駆動させるヘッドドライバ76を駆動させて、印刷用紙Pに画像等を印刷する。
【0066】
メンテナンス制御部74は、フラッシング制御部81とパージ制御部82とを備える。フラッシング制御部81は、ヘッドドライバ76を制御して、圧力付与手段77によりインク室内のインクへ圧力を付与させることで、インクジェットヘッド8のノズル12からインクの液滴を複数回吐出させるフラッシングを行わせる。このフラッシング制御部81は、フラッシングを行わせるもので、タイマ78の計測時間に基づいて、フラッシング時に吐出させる液滴の吐出回数を変えるように制御してもよい。
【0067】
また、パージ制御部82は、タイマ78、パージキー79、ドット抜け検出部40と接続され、これらから送信される信号を受信する。また、メンテナンスユニット15、及びキャリッジ駆動モータ6と接続されている。また、メンテナンスユニット15については、切替スイッチ19、吸引ポンプ20、キャップ昇降部85と接続されている。そして、タイマ78、パージキー79、ドット抜け検出部40から送信された信号に基づいて、切替スイッチ19、吸引ポンプ20、キャップ昇降部85を駆動させるように制御する。
【0068】
ここで、パージ制御部82によりパージを行う制御について、さらに図7〜10を参照して説明する。図7は、ノズル列1列のみを対象にしてパージ処理を行う場合を示し、図8は、図7の場合に、インクジェットヘッド8の下面を示す概略的な図である。また、図9は、全てのノズル列に対してパージ処理を行う場合について示し、図10は、図9の場合に、インクジェットヘッド8の下面を示す概略的な図である。
【0069】
パージ制御部82は、キャップ部16Aと16Bの何れか一方を吸引ポンプ20と連通させる切替スイッチ19と、上記の台座27と接続され、この台座27を昇降移動させるキャップ昇降部85と、吸引ポンプ20とを制御して、吸引パージを実行する。
【0070】
また、パージ制御部82は、タイマ78、パージキー79、ドット抜け検出部40からの信号に基づいて、吸引パージを行う対象のノズル列12a〜12dを判断し、メンテナンスユニット15を制御する。例えば、ドット抜けノズルが1つ若しくはノズル列1列分のみ検出された場合には、キャリッジ駆動モータ6を駆動して、キャップ部16Bとドット抜けノズルが検出されたノズル列とが対向するように、インクジェットヘッド8を移動させる。このように、位置合わせをさせる為に、キャリッジに設けられた光学センサ(図示省略)と、本体に設けられたエンコーダを用いて、制御できるように構成されている。
【0071】
ここで、1列のノズル列(ノズル列12a)のみをパージ対象としてパージ処理を行う場合には、図7に示すように、キャップ部16Bのみがインクジェットヘッド8に接触するように位置付ける。このような位置にキャップ部16Bを位置付ける為に、パージ制御部82は、キャップ昇降部85を制御して、キャップ部16Bのみがインクジェットヘッド8のノズル形成面と接触する位置に台座27を上昇させる。このとき、図8に示すように、キャップ部16Bは、ノズル保護壁35と接触せずに、ノズル列12aを封止することができる。また、キャップ部16Bのみノズル形成面と接触させて、ノズル列12aを封止することができるので、封止するノズル列に関わらず、常に一定の封止面積を確保することができる。
【0072】
一方、全てのノズル列をパージ対象とする場合には、図9に示すように、キャップ部16Aのみがインクジェットヘッド8に接触するように位置付ける。具体的には、図7に示すようにキャップ部16Bがインクジェットヘッド8に接触した状態から、さらに、キャップ昇降部85を制御して、台座27を上昇させる。このときに、インクジェットヘッド8と台座27との間の距離が小さくなり、インクジェットヘッド8がキャップ部16Bを下方向に押すように作用する。そして、この距離がさらに小さくなったときに、圧縮バネ26がその姿勢を維持できなくなり、圧縮される。それと同時に、キャップ担持板21が、軸23を中心にしてベース22に近づく方向に回転移動する。これにより、吸引キャップ16も図7に示す姿勢から、キャップ部16Aがインクジェットヘッド8を覆うような姿勢に変化する。そして、図9に示す位置までキャップ担持板21が回転したら、台座27の上昇を止める。また、図9に示すときには、キャップ部16Aは、ノズル保護壁35と接触せずにノズル列12a〜12dを封止することができる。
【0073】
上記の構成により、キャップ部16Aと16Bと選択するときには、まず、使用するキャップ部とパージ対象のノズルとが対向するように、キャリッジ5にて移動させることができる。その後に、キャップ昇降部85にて、台座27を昇降させることで、キャップ担持板21の姿勢を変えて、キャップ部16Aか16Bの何れかを、インクジェットヘッド8の下面に対向させることができる。また、キャップ昇降部85は、台座27に光学センサ(図示省略)を設けることにより、台座27の高さ位置を算出して、正確に位置合わせを行わせるように、制御することもできる。
【0074】
尚、本実施例中において、パージ制御部82とキャップ昇降部85とからなり、台座27を移動させることにより、ベース22をインクジェットヘッド8に対して相対移動させる手段が、本発明の「移動手段」に相当する。また、パージ制御部82とキャップ昇降部85、及びベース22、キャップ担持板21、圧縮バネ26とからなる構成が、本発明の「選択手段」に相当する。加えて、キャップ部16Aと16Bとを含む吸引キャップ16と、この吸引キャップ16を担持するキャップ担持板21、ベース22、圧縮バネ26、パージ制御部82とキャップ昇降部85とを含み、さらに、吸引キャップ16と繋がるキャップチューブ17と18、切替ユニット19及び吸引ポンプ20とから構成されたメンテナンスユニット15が、本発明の「液体吸引手段」に相当する。
【0075】
次に、本実施形態のメンテナンスユニット15について、キャップ部16Bを使用したときの作用について、図11を参照して説明する。
【0076】
図11に示すように、キャップ部16Bがインクジェットヘッド8に密着するときには、キャップ部16Bは、ノズル12を覆うようにインクジェットヘッド8に対して対向する。そして、キャップ部16Bがインクジェットヘッド8に密着したときに、圧縮バネ26は収縮して、復元力86が発生する。しかし、圧縮バネ28は、圧縮バネ26よりもバネ係数が大きい為、僅かしか収縮しない。この為、圧縮バネ28の収縮によって発生する復元力87は小さい。また、復元力86により、キャップ担持板21が軸23を中心にして、インクジェットヘッド8の下面に向かうように回動する回転力88が発生する。この回転力88は、キャップ部16Bの封止力のうち、殆どを占めている。この為、キャップ部16Bに対して、余分に力が加わるのを抑えることができる。
【0077】
また、キャップ部16Bが封止するときには、キャップ担持板21が軸23を支点にして回動する回転力88が、インクジェットヘッド8の下面に対して垂直に作用する復元力87よりも大きい。また、キャップ部16Bが密着したときに、復元力87は、吸引キャップ16の中心に力を加えるため、キャップ部16Bを支点にして、回転しようとする回転力89が発生する。この回転力89により、キャップ部16Bは、その左側に位置するリップ30Bからインクジェットヘッド8の下面を離れるように作用してしまう。しかし、メンテナンスユニット15では、キャップ部16Bを封止したときに、回転力88の方が、回転力89よりも大きい。この為、回転力89により、キャップ担持板21が回転力89の作用する方向へ移動するのを抑えることができる。これにより、封止するノズル列が変わったとしても、キャップ部16Bがインクジェットヘッド8から離れるように回転するのを抑えることが可能となるため、確実にノズル列を封止することができる。
【0078】
以上説明したプリンタ1では、以下の効果を得ることができる。
【0079】
メンテナンスユニット5は、全ノズル列を封止可能なキャップ部16Aと、ノズル列1列分のみを封止可能なキャップ部16Bと、が異なる開口方向33A、33Bにそれぞれ向いた吸引キャップ16を有し、この吸引キャップ16と接続されたキャップ担持板21と、このキャップ担持板21と軸23により軸支されたベース22、さらに、ベース22とキャップ担持板21との間に位置する圧縮バネ26と、ベース22とインクジェットヘッド8とを相対移動させるキャップ昇降部86とを備える。また、キャップ部16Bがノズル列を封止したときに、キャップ部16Aはインクジェットヘッド8から離れて位置する。この為、キャップ部16Bのみを封止させることが可能な為、封止するノズル列に関わらず、常にインクジェットヘッド8とキャップ部16Bとの接触面積を一定にすることができる。これにより、封止力を一定にすることが可能な為、封止するノズル列に応じて吸引キャップの接触面積が変化することを考慮する必要がなく、キャップ部16Bは、ノズル列12a〜12dの何れを封止する場合であっても、確実に封止することができる。
【0080】
また、キャップ担持板21は、軸23によりベース22に軸支されており、図4に示す周方向41にのみ移動可能である。この為、キャップ担持板21とベース22との間に設けられた圧縮バネ26の復元力86は、周方向41の時計回りの方向に作用する回転力88が生じるように、キャップ担持板21を付勢する。これにより、キャップ担持板21に余分な付勢力が加わったとしても、キャップ担持板21には、周方向41の逆時計回りの方向に回転力89(図11参照)が加わることはない。この為、キャップ部16Bがインクジェットヘッド8の下面に対して、離れるのを防止することができる。従って、キャップ部16Bを使用したときに、ノズル列を確実に封止することができる。
【0081】
さらに、キャップ部16Aを使用した後に、台座27を下降させて、メンテナンスユニット15を待機する位置に移動させるとき、図4に示すように、キャップ担持板21は、左側が上方向に上昇する。このとき、キャップ部16Aの連通孔31Aは、凹部29Bの底面のなかで、最も下に位置する。これにより、仮に凹部29A内にインクが残ったとしても、インクチューブ18と連通する連通孔32Aへインクを排出することができる。従って、パージ処理以外の時には、凹部29A内のインクを確実に排出することができる。また、キャップ内のインクを排出するに当たって、特別な構成にしたり、特殊な動作をしたりすることなく、必要最小限の構成と動作でインクを排出できる。また、キャップ部16Bについては、メンテナンス時以外のときには、凹部29Bの底面が水平となるように位置する。この為、凹部29Aに比べるとインクを連通孔32Bへ排出し難くなるが、底面上において連通孔32Bが他の領域に対して下の位置になることはないので、凹部29B内に多量のインクが溜まるのを防止することができる。
【0082】
次に、前記第1実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、本実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0083】
キャップ担持板21が、ベース22に対して揺動可能となるように枢支するものとして、ベース22と軸23を介して軸支されるものに限られない。例えば、図12、13に示すように、キャップ担持板21は、案内部材24が両端に設けられたものであってもよい。
【0084】
図12に示すように、案内部材24Aは、案内部材24よりも短く、また、案内部材24Aを案内する為に、ベース22に設けられた案内穴25Aは、案内穴25に比べて小さい。さらに、キャップ担持板21とベース22との間には、圧縮バネ26、26Aが2つ配置されている。圧縮バネ26は、案内穴25側に配置され、圧縮バネ26Aは、案内穴25A側に配置されている。また、他方の圧縮バネ26Aは、キャップ担持板21とベース22との間に収縮して配置されており、この収縮により発生する復元力は、圧縮バネ26がキャップ担持板21に対して作用している復元力よりも大きい。以上の構成により、キャップ部16Bがインクジェットヘッド8に密着したときには、圧縮バネ26が収縮する。また、さらにキャップ部16Aを使用するときには、キャップ昇降部86にて、台座27を上昇させる。このときに、圧縮バネ26は、圧縮バネ26Aに比べて復元力が小さい為、キャップ担持板21の上方向から力が加わったときには、圧縮バネ26Aよりも先に収縮してしまう。この為、軸23を有するキャップ担持板21と同様に、キャップ担持板21は、インクジェットヘッド8に対して、案内部材24側からキャップ部16Bが離れるように、案内部材24A側を中心にして回動する。これにより、キャップ部16Aは、ノズル列を覆うように、インクジェットヘッド8に近づいて、インクジェットヘッド8に密着する。このとき、キャップ担持板21の回動により、圧縮バネ26Aが収縮している為、キャップ担持板21は、圧縮バネ26の復元力に加えて、圧縮バネ26Aの復元力も作用する。この為、キャップ担持板21の両端に付勢力が作用する為、キャップ部16Aにてノズル列を封止するときには、キャップ部16Aは、インクジェットヘッド8に対してバランスよく封止することができる。
【0085】
また、本実施形態及び変更形態のメンテナンスユニット15では、キャップ部16Aと16Bとが1つの吸引キャップ16に属するものを用いているが、キャップ部16Aと16Bとが別体であってもよい。但し、この場合では、キャップ部16Bがインクジェットヘッド8の下面に接触したときには、キャップ部16Aがインクジェットヘッド8の下面に接触しないように配置されるものである。
【0086】
例えば、本実施形態及び変更形態のメンテナンスユニット15では、図4に示すように、メンテナンス以外では、キャップ部16Bの凹部内の底面が、インクジェットヘッド8の下面と平行になるように配置されているが、この底面をキャップ担持板21の一端若しくは他端側に傾斜するように構成してもよい。その場合、連通孔30Bは、キャップ部16B内の凹部内の底面において、最も低い位置となる為、凹部内のインクが連通孔30Bに排出されやすくなる。
【0087】
さらに、本実施形態及び変更形態では、キャップ担持板21とベース22の間に圧縮バネ26を設けたが、例えばゴム等の弾性体を用いても同様の作用を得ることができる。圧縮バネ28についても同様である。さらに、圧縮バネ26は、本実施形態及び変更形態において、キャップ担持板21の他端側の位置に配置されているが、かかる位置に限られず、図4に示すキャップチューブ17と18の間に配置してもよい。この場合には、キャップ部16A側に圧縮バネ26を近づけることができるので、圧縮バネ26の復元力をキャップ部16Aに作用させ易くなる。これにより、キャップ部16Bよりもインクジェットヘッド8の下面との接触面積が大きい、キャップ部16Aを接触させたときに、確実にノズル列を封止できる封止力を得ることができる。
【0088】
例えば、本実施形態では、圧縮バネ28は1つのみ設けられているが、複数設けるようにしてもよい。この場合、複数の圧縮バネ28を、台座27の凹部内の底面に分散させて配置して、ベース22の支持を安定させることができる。加えて、ベース22と台座27との間に作用する付勢力が大きくなるので、キャップ部16Aを封止するときに、キャップ部16Aの封止力を大きくして、確実に封止することができる。
【0089】
また、圧縮バネ26についても、キャップ担持板21に加える付勢力を安定したものにするために、複数設けてもよい。但し、複数の圧縮バネ26の付勢力が、圧縮バネ28の付勢力よりも大きくならないようにする必要がある。
【0090】
本実施形態のプリンタ1は、廃液受容部13とドット抜け検出部40により、印刷領域を挟むように配置されているが、例えば、廃液受容部13、ドット抜け検出部40、ワイパ14、メンテナンスユニット15を、印刷領域の一方側に配置してもよい。これにより、ドット抜け検出部40から、廃液受容部13までの距離が近くなるため、フラッシング実行までの時間を短縮できる。
【0091】
以上説明したプリンタ1では、印刷用紙Pの幅方向に移動しつつ印刷用紙Pに対してインクを吐出するシリアル型のヘッドを備えるが、印刷用紙Pの全幅に亙って延びるライン型ヘッドを備えるものにおいても、本発明の適用は可能である。
【0092】
さらに、本発明は、印刷用紙Pにインクを吐出して画像を記録するプリンタに限られず、様々な液滴を吐出する液滴吐出装置においても、適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態に係るプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】図1のインクジェットヘッド8の概略構成を示す図である。
【図3】図1のインクジェットヘッド8の下面を示す図である。
【図4】図1のメンテナンスユニット15の一部を示す断面図である。
【図5】図4の吸引キャップ16の拡大上面図である。
【図6】プリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図7】インクジェットプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図8】メンテナンス時において、キャップ部16Bを使用した場合を示す図である。
【図9】図8において、インクジェットヘッド8の下面を示す概略的な図である。
【図10】メンテナンス時において、キャップ部16Aを使用した場合を示す図である。
【図11】図8において、メンテナンスユニット15に作用する付勢力について概略的に示す図である。
【図12】変形形態のメンテナンスユニット15Aの概略構成を示す図である。
【図13】メンテナンス時において、メンテナンスユニット15Aのキャップ部16Aを使用した場合を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1 プリンタ
8 インクジェットヘッド
15 メンテナンスユニット
16 吸引キャップ
16A,16B キャップ部
21 キャップ担持板
22 ベース
23 軸
26,26A 圧縮バネ
28 圧縮バネ
29A,29B 凹部
32A,32B 開口面
33A,33B 開口方向
35 ノズル保護壁
40 ドット抜け検出部
70 制御装置
72 印刷制御部
74 メンテナンス制御部
85 キャップ昇降部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルによって構成されるノズル列を複数列有するとともに、これら複数のノズル列が互いに平行な状態でそれらの延在方向と直交する方向に配列されている液滴吐出ヘッドと、
この液滴吐出ヘッド内の液体を前記ノズルから強制的に吸引するための液体吸引手段と、を備えた液滴吐出装置において、
前記液体吸引手段は、
全ての前記ノズルを封止可能な第1の吸引キャップと、
前記複数のノズル列のうちの一部の列に属するノズルのみを封止可能な第2の吸引キャップと、
前記第1及び第2の吸引キャップのうちのいずれを使用するか選択し、前記第2の吸引キャップが選択されるときは、前記複数のノズル列のうちのどのノズル列を封止するかを選択するための選択手段とを備えるものであり、
前記選択手段は、
ベースと、
前記ベースに対して前記ノズル列の延在方向と平行な軸を中心に揺動可能に枢支されるとともに、前記ベースとは反対側の面において前記第1及び第2の吸引キャップを担持するキャップ担持板と、
前記キャップ担持板を前記ベースから離れる方向に付勢する付勢手段と、
前記液滴吐出ヘッドに対して前記第1及び第2の吸引キャップを接離させるように、前記ベースを前記液滴吐出ヘッドに対して相対移動させる移動手段と、を有しており、
前記第1及び第2の吸引キャップは、
前記移動手段により前記液滴吐出ヘッドに接近させられたときに、前記ノズルを覆って封止するように所定の面が開口した凹形状のものであり、さらに、
前記第2の吸引キャップの方が前記第1の吸引キャップよりも前記軸から離れるように、前記延在方向と直交する方向において並ぶものであり、さらに、
前記第1の吸引キャップと前記第2の吸引キャップが互いに異なる方向を向いて開口するものであり、
さらに、前記第2の吸引キャップが前記ノズルを封止するときは、前記第1の吸引キャップ部が前記液滴吐出ヘッドから離隔し、且つ、前記第1の吸引キャップの前記所定の面が、前記第2の吸引キャップ側の一端から前記軸側の他端へ向かうにつれて、前記液滴吐出ヘッドに対して離れるような位置関係となることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記キャップ担持板は、その一端において前記軸により軸支されており、
前記付勢手段は、前記キャップ担持板の前記一端とこの一端とは反対側の他端との間において、前記キャップ担持板を付勢することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記選択手段は、
前記キャップ担持板とともに前記ベースを挟むように位置する台座と、
この台座と前記ベースとの間に、前記ベースを前記台座から離れる方向に付勢するベース付勢手段とをさらに備え、
前記台座は、前記ベースと対面する面が、前記液滴吐出ヘッドのノズルが形成された面と平行になるように配置されており、
さらに、前記移動手段と接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記液滴吐出ヘッドは、
前記ノズルが形成された面に対して突出するノズル保護壁をさらに有し、
前記ノズル保護壁は、
前記ノズルが形成された面に対して直交する方向から見たときに、前記ノズルの全てを囲むように配置されており、
さらに、前記第1の吸引キャップが全てのノズル列を封止したときは、前記第1の吸引キャップと接触せず、前記第2の吸引キャップが前記複数のノズル列のうちの何れのノズル列を封止したときは、前記第2の吸引キャップと接触しないような位置に設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−132065(P2009−132065A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310592(P2007−310592)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】