説明

液滴吐出装置

【課題】インクジェットヘッドにおける機能液の温度が低下することを防止すること。
【解決手段】液滴吐出装置が、ノズルプレートと、前記ノズルプレートによって開口が規定されたノズルと、を有するインクジェットヘッドであって、前記ノズルから吐出された機能液の液滴がターゲットの表面に配置されるように配向されたインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドにおける前記機能液を加熱するヒータと、前記ノズルに対応した開口を有する断熱部材であって、前記インクジェットヘッドから前記ターゲットへの熱の伝導を防ぐように前記ターゲットと前記ノズルプレートとの間に設けられた断熱部材と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出装置に関し、特に、粘度に温度依存性がある機能液を吐出するのに適した液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高粘度を有する流体をインクジェットヘッドから吐出させるために、インクジェットヘッドやインクを加熱することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−19790号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術によれば、インクジェットヘッドを加熱しても、インクジェットヘッドの熱がノズルプレートからの放射でターゲットに奪われてしまい、そしてこのため、インクジェットヘッド内の流体の温度が下がってしまうことがある。このようなことが生じると、ノズルから吐出される前に機能液の粘度が上昇することから、ノズルから1度に吐出される機能液の液滴の体積が減少し得る。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされ、その目的の一つは、インクジェットヘッドにおける機能液の温度が低下することを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液滴吐出装置は、ノズルプレートと、前記ノズルプレートによって開口が規定されたノズルと、を有するインクジェットヘッドであって、前記ノズルから吐出された機能液の液滴がターゲットの表面に配置されるように配向されたインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドにおける前記機能液を加熱するヒータと、前記ノズルに対応した開口を有する断熱部材であって、前記インクジェットヘッドから前記ターゲットへの熱の伝導を防ぐように前記ターゲットと前記ノズルプレートとの間に設けられた断熱部材と、を備えている。
【0007】
上記特徴によれば、ノズルプレートとターゲットとの間に、断熱部材が位置するので、インクジェットヘッドの熱がノズルプレートの表面から放射されにくい。
【0008】
本発明のある態様では、前記液滴吐出装置が、前記ノズルプレートが露出されるように前記断熱部材と前記インクジェットヘッドとの少なくとも一方を他方に対して相対移動させる機構をさらに備えている。
【0009】
上記特徴によれば、ノズルプレートが露出するので、インクジェットヘッドの回復動作を実行できる液滴吐出装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の液滴吐出装置の模式図。
【図2】本実施形態の液滴吐出装置の模式図。
【図3】断熱部材と断熱ユニットとを外した状態の液滴吐出装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す液滴吐出装置1は、インクジェットヘッド2と、インクジェットヘッド2を保持するキャリッジ3と、ヒータ3aと、ステージ4と、グランドステージ5と、第1位置制御装置6と、第2位置制御装置7と、断熱ユニット8と、ジョイント部9と、断熱部材10と、を備えている。ここで、第1位置制御装置6は、支持部6aと、支持部6aに設けられたガイドレール6bと、このガイドレール6bに沿ってX軸方向の正負の方向に移動するスライダ6cと、を有している。そして、第2位置制御装置7は、グランドステージ5に設けられたガイドレール7aと、このガイドレールに沿ってY軸方向の正負の方向に移動するスライダ7bと、を有している。
【0012】
キャリッジ3は、連結装置を介して第1位置制御装置6のスライダ6cに固定されている。このため、キャリッジ3は、第1位置制御装置6のスライダ6cとともに、X軸方向の正負の方向に移動できる。後述するように、キャリッジ3は、インクジェットヘッド2を位置決めする開口部を備えている。さらに、キャリッジ3の内部には、インクジェットヘッド2の内部の機能液を加熱するためのヒータ3aが位置している。
【0013】
ステージ4は、第2位置制御装置7のスライダ7bに固定されている。このため、ステージ4は、第2位置制御装置7のスライダ7bとともに、Y軸方向の正負の方向に移動できる。そして、ステージ4は、液滴が配置されることになるターゲット11が載置される表面を有している。なお、この表面には、吸引力によってターゲット11を固定させる穴が設けられている。
【0014】
インクジェットヘッド2は、基板部2aと、基板部2aから突出した凸部2bと、を有している。凸部2bの底面は、ノズルプレート2apによって構成されている。また、凸部2bは、ノズルプレート2apの表面に実質的に垂直な外側面を備えている。ここで、外側面とは、凸部2bの側面を規定する4つの平面からなる。
【0015】
ノズルプレート2apは、複数のノズルのそれぞれの開口を規定している。これら複数のノズルのそれぞれから、機能液が液滴として吐出されることになる。ここで、複数のノズルから吐出された液滴が、ステージ4上のターゲット11の表面に配置されるように、インクジェットヘッド2がキャリッジ3上で位置決めされている。具体的には、複数のノズルがターゲット11に対面するように、インクジェットヘッド2が配向されている。より具体的には、ノズルプレート2apがステージ4側を向くように、凸部2bがキャリッジ3の開口部を貫通している。そしてそのうえで、基板部2aの周辺部と、キャリッジ3の開口部の周辺部と、が接着剤によって互いに結合されている。
【0016】
ヒータ3aは、キャリッジ3に埋め込まれている。そして、ヒータ3aは、インクジェットヘッド2の内部の機能液に熱を加える働きをする。ヒータ3aが発生する熱は、主に凸部2bの外側面からインクジェットヘッド2内に伝わる。
【0017】
断熱ユニット8は、インクジェットヘッド2からの熱の放射を防止する。本実施形態では、断熱ユニット8は、インクジェットヘッド2を保持しているキャリッジ3を覆うような形状をしている。ただし、X軸方向の一端は、後述する回復動作ができるように、開口している。このような断熱ユニット8は、後述のジョイント部9を介して、第1位置制御装置6のスライダ6cに結合されている。このため、断熱ユニット8は、インクジェットヘッド2に併せてX軸方向に移動する。
【0018】
断熱部材10は、断熱ユニット8の底部に固定されている。そして、断熱部材10は、インクジェットヘッド2からターゲット11への熱の伝導を防ぐように、インクジェットヘッド2とターゲット11との間に位置している。具体的には、断熱部材10は、複数のノズルのそれぞれを除いて、ノズルプレート2apを覆っている。このように、複数のノズルはいずれも断熱部材10に覆われていないので、これら複数のノズルからの液滴の吐出は、断熱部材10の存在にかかわらず妨げられない。なお、上述の断熱ユニット8と断熱部材10とは、シリカとアルミナとを含んだ無機繊維からなる。ただし、断熱ユニット8と断熱部材10とは、このような無機繊維に代えて、グラスウールからなってもよいし、プラスチックフォームからなってもよいし、セラミックスからなってもよい。また、断熱ユニット8と断熱部材10とが、互いに異なる材料から構成されてもよい。
【0019】
ジョイント部9は、キャリッジ3に対して位置が固定されたガイドレール9aと、ガイドレール9aに沿ってX軸方向の正負方向に移動するスライダ9bと、を備えている。ここで、上述の断熱ユニット8は、ジョイント部9のスライダ9bに連結されており、このため断熱ユニット8は、スライダ9bとともに、X軸方向の正負方向に移動できる。そして、このようなジョイント部9の機能のおかげで、断熱ユニット8はインクジェットヘッド2に対してX軸方向に相対移動できる。
【0020】
図3は、比較のために、液滴吐出装置1から断熱ユニット8とともに断熱部材10を取り除いた状態を示している。液滴吐出装置1のノズルプレート2apの表面とターゲット11の表面との間の距離は、約300μmである。ここで、ノズルプレート2apはアルミニウム製であり、このため、ノズルプレート2apの熱伝導性が比較的に良好である。また、ノズルプレート2apとターゲット11の表面との間の距離が比較的小さいので、ノズルプレート2apの表面から大気を介してターゲット11にインクジェットヘッド2の熱が奪われ易い。したがって、断熱部材10がない場合には、たとえヒータ3aでインクジェットヘッド2を加熱しても、インクジェットヘッド2の内部の温度が下がり、このためインクジェットヘッド2の内部の機能液の温度が下がる。しかも、ターゲット11が、線膨張係数が比較的大きい物質からなる場合には、インクジェットヘッド2からの熱が伝わることで、ターゲット11の部分的な熱膨張が生じ、この結果、ターゲット11が撓むことがある。
【0021】
ところが、図1に示すように本実施形態では、ノズルプレート2apと、ターゲット11との間に、断熱部材10が位置している。このため、インクジェットヘッド2の熱が放射されず、そしてこのため、インクジェットヘッド2の温度が保たれる。そしてこの結果、吐出前の機能液の粘度の上昇が防止できる。また、ターゲット11へ熱が伝達されないので、ターゲット11の部分的な熱膨張を避けることができ、この結果、ターゲット11が撓むことが避けられる。
【0022】
ここで、機能液とは、インクジェットヘッドから液滴として吐出され得る流動体をいう。そして、吐出される際の機能液の粘度は、1mPa・s以上25mPa・s以下であるのが好ましい。粘度が1mPa・s以上である場合には、機能液の液滴を吐出する際にノズルの周辺部が機能液で汚染されにくい。一方、粘度が25mPa・s以下である場合は、ノズルにおける目詰まり頻度が小さく、このため円滑な液滴の吐出を実現できる。なお、機能液が水性であると油性であるとを問わない。また、機能液が全体として流動体であるかぎり、機能液に固体物質が混入していてもよい。
【0023】
本実施形態の機能液は、液晶材料を含有している。液晶材料の粘度は、低温から高温になるにしたがって低下する温度特性を有しているので、機能液の粘度も同様な温度特性を呈する。例えば、本実施形態の機能液の粘度は、常温25℃で50mPa・sであり70℃で15mPa・sである。
【0024】
本実施形態では、ヒータ3aによる加熱によって、インクジェットヘッド2のキャビティ内にある機能液が暖められる。しかも、ノズルプレート2apと、ターゲット11との間に、断熱部材10が位置するので、インクジェットヘッド2から熱が放射しにくく、そしてこのため、キャビティ内の液滴の温度が下がりにくい。本実施形態では、機能液が液滴として吐出されるのに適した粘度を維持できるように、キャビティ内の機能液の温度が維持される。
【0025】
さて、ノズルからの液滴の吐出を続けていると、ノズル内で、微量の機能液が流動性を失うことに起因して、機能液がノズルの内面に固着することがある。また、ノズルの近傍が機能液で汚れることもある。これらの現象は、液滴の吐出の不具合を引き起こす。具体的には、ノズルから吐出された後の液滴の飛翔経路が、許容される誤差以上にずれたり、1つの液滴の体積が設計値からずれたりする。このような不具合を解消するために、インクジェットヘッド2の「回復動作」が行われる。
【0026】
回復動作の一つは、ノズルからの液滴のフラッシング処理である。これは、「捨て吐出」とも呼ばれる。また、回復動作の他の一つには、ノズルプレート2apの拭き取り処理(ワイピング処理)がある。ワイピング処理には、図2に示すようなワイピング装置15が用いられる。図2のワイピング装置15は、テープ状の不織布16と、一方で不織布16を巻き出しながら他方で巻き取る1対のリール17と、1対のリール17の間での不織布16の経路を決める1対のローラ18と、を備えている。1対のローラ18は、1対のローラ18の間で不織布16がノズルプレート2apに対面できるように不織布16を支持している。
【0027】
回復動作を行う場合には、ノズルプレート2apが完全に断熱部材10から露出するように、断熱ユニット8とインクジェットヘッド2との少なくとも一方を他方に対して相対移動させる。具体的には、ジョイント部9を介して、断熱ユニット8をX軸方向に移動させることで、ノズルプレート2apの表面を断熱部材10から露出させる。そして、さらに、第1位置制御装置6によってインクジェットヘッド2をX軸方向に移動させて、ノズルプレート2apと、ワイピング装置15とが相対、または対面するようにする。そして、ノズルプレート2apと、不織布16とが、接触するようにワイピング装置15の高さを調整した後に、1対のリール17間の一方から他方へ不織布16を送り出すことで、ノズルプレート2ap全体を拭き取る。このような構成によって、ノズルの近傍に付着した機能液を除去することができるので、ノズルからの液滴の吐出の不具合が解消され得る。
【0028】
上述のように、本実施形態の機能液は、機能性材料として液晶材料を含有している。ただし、液晶材料に代えて、機能液は他の機能性材料を含有してもよい。具体的には、機能液は、有機エレクトロルミネッセンス材料を含有してもよいし、カラーフィルタ用の樹脂材料を含有してもよいし、マイクロレンズ用の樹脂材料を含有してもよい。いずれにせよ、たとえ常温でインクジェットヘッドからの吐出に適さない機能液であっても、温度が上昇することでインクジェットヘッドから吐出され得るまでに粘度が低下する機能液であれば、液滴吐出装置1を用いてターゲット11の表面に配置できる。
【0029】
また、液滴吐出装置1を用いれば、機能液において機能性材料に流動性を与えるための溶媒の濃度を低くしてよい。さらに、液滴吐出装置1を用いる場合には、ターゲットに配置される機能性材料(例えば液晶材料)そのものが機能液として扱われてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1…液滴吐出装置、2…インクジェットヘッド、2ap…ノズルプレート、3…キャリッジ、4…ステージ、5…グランドステージ、6…第1位置制御装置、6a…支持部、6b…ガイドレール、6c…スライダ、7…第2位置制御装置、7a…ガイドレール、7b…スライダ、8…断熱ユニット、9…ジョイント部、9a…ガイドレール、9b…スライダ、10…断熱部材、11…ターゲット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルプレートと、前記ノズルプレートによって開口が規定されたノズルと、を有するインクジェットヘッドであって、前記ノズルから吐出された機能液の液滴がターゲットの表面に配置されるように配向されたインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドにおける前記機能液を加熱するヒータと、
前記ノズルに対応した開口を有する断熱部材であって、前記インクジェットヘッドから前記ターゲットへの熱の伝導を防ぐように前記ターゲットと前記ノズルプレートとの間に設けられた断熱部材と、を備えた液滴吐出装置。
【請求項2】
請求項1記載の液滴吐出装置であって、
前記ノズルプレートが露出されるように前記断熱部材と前記インクジェットヘッドとの少なくとも一方を他方に対して相対移動させる機構をさらに備えた液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−297717(P2009−297717A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216746(P2009−216746)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【分割の表示】特願2005−339774(P2005−339774)の分割
【原出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】