説明

液滴吐出装置

【課題】装置内におけるカラーフィルター用インクの劣化を防止することが可能な液滴吐出装置を提供すること。
【解決手段】液滴吐出装置100は、液滴吐出方式によるカラーフィルターの製造に用られ、着色剤と樹脂材料と前記着色剤を溶解または分散する液性媒体とを含むインク2を吐出する液滴吐出装置であって、インク2を貯留する1次インク貯留槽132と、1次インク貯留槽132から送液されたインク2を貯留する2次インク貯留槽150と、2次インク貯留槽150から送液されたインク2を吐出する液滴吐出ヘッド114と、1次インク貯留槽132内のインク2を冷却する冷却手段133とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー表示を行う液晶表示装置(LCD)等には、一般に、カラーフィルターが用いられている。
カラーフィルターは、従来、着色剤、感光性樹脂、官能性モノマー、重合開始剤等を含む材料(着色層形成用組成物)で構成された塗膜を基板上に形成し、その後、フォトマスクを介して光を照射する感光処理、現像処理等を行う、いわゆるフォトリソグラフィー法を用いて製造されてきた。このような方法では、通常、基板のほぼ全面に、各色に対応する塗膜を形成し、その一部のみを硬化させ、それ以外の大部分を除去するという操作を繰り返すことにより、各色が重なり合わないようにカラーフィルターを製造する。このため、カラーフィルターの製造の過程で形成される塗膜は、最終的に得られるカラーフィルターには、その一部のみが着色層として残存するのみで、その大部分が製造工程において除去されることとなる。このため、カラーフィルターの製造コストが上昇するばかりでなく、省資源の観点からも好ましくない。
【0003】
一方、近年、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)を用いて、カラーフィルターの着色層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような方法では、着色層形成用の材料(着色層形成用組成物)の無駄を少なくすることができるため、環境への負荷を低減することができ、また、製造コストも抑制することができる。
顔料は、一般に、染料に比べて耐光性等に優れる等の特徴を有しているため、カラーフィルター用インクにおいては、着色剤として、顔料が広く用いられている。また、カラーフィルターの製造においては、通常、光の三原色(赤色、緑色、青色)に対応する3色のインク(カラーフィルター用インク)が用いられる。
【0004】
ところで、カラーフィルターの製造に用いる液滴吐出装置(産業用)は、プリンターに適用されるもの(民生用)とは全く異なるものであり、例えば、大量生産を行うため、大量の液滴を長時間にわたって連続で吐出することが求められる。このため、長時間にわたってインクを装置内に貯留することが行われる。しかしながら、インク中には、通常、着色剤や分散媒の他に硬化性樹脂等の硬化性成分が含まれているため、長時間装置内に貯留すると、着色剤の分散が壊れて結晶状の析出物が発生したり、硬化性成分の一部が反応して固形やゲル状の異物が発生してしまうといった問題があった。その結果、液滴吐出ヘッドの吐出部の目詰まりを起こしやすく、液滴の飛行曲がりを頻発する。このような場合、カラーフィルター用インクを所望の部位に、所望の量だけ付与することが困難となり、得られるカラーフィルターを用いて表示される画像において、色むら、濃度むら等を生じてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−372613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、装置内におけるカラーフィルター用インクの劣化を防止することが可能な液滴吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の液滴吐出装置は、液滴吐出方式によるカラーフィルターの製造に用いられ、着色剤と樹脂材料と前記着色剤を溶解または分散する液性媒体とを含むインクを吐出する液滴吐出装置であって、
前記インクを貯留する1次インク貯留槽と、
前記1次インク貯留槽から送液された前記インクを貯留する2次インク貯留槽と、
前記2次インク貯留槽から送液された前記インクを吐出する液滴吐出ヘッドと、
前記1次インク貯留槽内の前記インクを冷却する冷却手段とを有することを特徴とする。
これにより、装置内におけるカラーフィルター用インクの劣化を防止することが可能な液滴吐出装置を提供することができる。
【0008】
本発明の液滴吐出装置では、前記冷却手段は、前記インクを4℃以上15℃以下に冷却するものであることが好ましい。
これにより、装置内におけるカラーフィルター用インクの劣化をより効果的に防止することができる。
本発明の液滴吐出装置では、前記1次インク貯留槽中の前記インクを攪拌する攪拌手段が設けられていることが好ましい。
これにより、1次インク貯留槽内におけるインク中の固形分の沈降を防止するとともに、冷却手段の冷却効果をより高いものとすることができる。その結果、インクの劣化をより効率よく防止することができる。
【0009】
本発明の液滴吐出装置では、前記2次インク貯留槽には、前記インクを加温する加温手段が設けられていることが好ましい。
これにより、吐出時におけるカラーフィルター用インクの粘度をより低くすることができ、より安定してカラーフィルター用インクを吐出することができる。
本発明の液滴吐出装置では、前記インクの流路には、前記インクを加温する加温手段が設けられていることが好ましい。
これにより、吐出時におけるカラーフィルター用インクの粘度を低くすることができ、より安定してカラーフィルター用インクを吐出することができる。
本発明の液滴吐出装置では、前記加温手段は、前記インクを18℃以上35℃以下に加温するものであることが好ましい。
これにより、吐出時におけるカラーフィルター用インクの粘度を低くすることができ、より安定してカラーフィルター用インクを吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】カラーフィルターの製造に用いる液滴吐出装置の好適な実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出手段をステージ側から観察した図である。
【図3】図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出ヘッドの底面を示す図である。
【図4】図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出ヘッドを示す図であり、(a)は断面斜視図、(b)は断面図である。
【図5】カラーフィルターの製造に用いる液滴吐出装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《液滴吐出装置》
まず、本発明の液滴吐出装置の好適な実施形態について説明する。
図1は、カラーフィルターの製造に用いる液滴吐出装置の好適な実施形態を示す斜視図、図2は、図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出手段をステージ側から観察した図、図3は、図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出ヘッドの底面を示す図、図4は、図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出ヘッドを示す図であり、(a)は断面斜視図、(b)は断面図である。
【0012】
図1に示すように、液滴吐出装置100は、カラーフィルター用インク2(以下単にインク2ともいう)を貯留する1次インク貯留槽132と、1次インク貯留槽132に接続されたチューブ134と、チューブ134を介して1次インク貯留槽132から送液されたインク2を貯留する2次インク貯留槽150と、2次インク貯留槽150に接続されたチューブ110と、チューブ110を介して2次インク貯留槽150からインク2が供給される吐出走査部102とを備える。
【0013】
吐出走査部102は、複数の液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)114をキャリッジ105に搭載してなる液滴吐出手段103と、液滴吐出手段103の位置を制御する第1位置制御装置104(移動手段)と、前記工程で隔壁が形成された基板11(以下、単に「基板11」とも言う。)を保持するステージ106と、ステージ106の位置を制御する第2位置制御装置108(移動手段)と、制御手段112とを備えている。2次インク貯留槽150と、液滴吐出手段103における複数の液滴吐出ヘッド114とは、チューブ110で連結されており、2次インク貯留槽150から複数の液滴吐出ヘッド114のそれぞれにインク2が圧縮空気によって供給される。
【0014】
第1位置制御装置104は、制御手段112からの信号に応じて、液滴吐出手段103をX軸方向、およびX軸方向に直交するZ軸方向に沿って移動させる。さらに、第1位置制御装置104は、Z軸に平行な軸の回りで液滴吐出手段103を回転させる機能も有する。本実施形態では、Z軸方向は、鉛直方向(つまり重力加速度の方向)に平行な方向である。第2位置制御装置108は、制御手段112からの信号に応じて、X軸方向およびZ軸方向の双方に直交するY軸方向に沿ってステージ106を移動させる。さらに、第2位置制御装置108は、Z軸に平行な軸の回りでステージ106を回転させる機能も有する。
ステージ106は、X軸方向とY軸方向との双方に平行な平面を有する。また、ステージ106は、インク2を付与すべきセルを有する基板をその平面上に固定、または保持できるように構成されている。
【0015】
上述のように、液滴吐出手段103は、第1位置制御装置104によってX軸方向に移動させられる。一方、ステージ106は、第2位置制御装置108によってY軸方向に移動させられる。つまり、第1位置制御装置104および第2位置制御装置108によって、ステージ106に対する液滴吐出ヘッド114の相対位置が変わる(ステージ106に保持された基板11と、液滴吐出手段103とが相対的に移動する)。
【0016】
制御手段112は、インク2を吐出すべき相対位置を表す吐出データを外部情報処理装置から受け取るように構成されている。
図2に示すように、液滴吐出手段103は、それぞれほぼ同じ構造を有する複数の液滴吐出ヘッド114と、これらの液滴吐出ヘッド114を保持するキャリッジ105とを有している。本実施形態では、液滴吐出手段103に保持される液滴吐出ヘッド114の数は8個である。それぞれの液滴吐出ヘッド114は、後述する複数のノズル118が設けられた底面を有している。それぞれの液滴吐出ヘッド114のこの底面の形状は、2つの長辺と2つの短辺とを有する多角形である。液滴吐出手段103に保持された液滴吐出ヘッド114の底面はステージ106側を向いており、さらに、液滴吐出ヘッド114の長辺方向と短辺方向とは、それぞれX軸方向とY軸方向とに平行である。
【0017】
図3に示すように、液滴吐出ヘッド114は、X軸方向に並んだ複数のノズル118を有する。これら複数のノズル118は、液滴吐出ヘッド114におけるX軸方向のノズルピッチHXPが所定の値となるように配置されている。ノズルピッチHXPの具体的な値は、特に限定されないが、例えば、50μm以上90μm以下とすることができる。ここで、「液滴吐出ヘッド114におけるX軸方向のノズルピッチHXP」は、液滴吐出ヘッド114におけるノズル118のすべてをY軸方向に沿ってX軸上に射像して得られた複数のノズル像間のピッチに相当する。
【0018】
本実施形態では、液滴吐出ヘッド114における複数のノズル118は、ともにX軸方向に延びるノズル列116Aと、ノズル列116Bとをなす。ノズル列116Aと、ノズル列116Bとは、間隔を空けて並行に配置されている。そして、本実施形態においては、ノズル列116Aおよびノズル列116Bのそれぞれにおいて、90個のノズル118が一定間隔LNPでX軸方向に一列に並んでいる。LNPの具体的な値は、特に限定されないが、100μm以上180μm以下とすることができる。
ノズル列116Bの位置は、ノズル列116Aの位置に対して、ノズルピッチLNPの半分の長さだけX軸方向の正の方向(図3の右方向)にずれている。このため、液滴吐出ヘッド114のX軸方向のノズルピッチHXPは、ノズル列116A(またはノズル列116B)のノズルピッチLNPの半分の長さである。
【0019】
したがって、液滴吐出ヘッド114のX軸方向のノズル線密度は、ノズル列116A(またはノズル列116B)のノズル線密度の2倍である。なお、本明細書において「X軸方向のノズル線密度」とは、複数のノズルをY軸方向に沿ってX軸上に射像して得られた複数のノズル像の単位長さ当たりの数に相当する。もちろん、液滴吐出ヘッド114が含むノズル列の数は、2つだけに限定されない。液滴吐出ヘッド114はM個のノズル列を含んでもよい。ここで、Mは1以上の自然数である。この場合には、M個のノズル列のそれぞれにおいて複数のノズル118は、ノズルピッチHXPのM倍の長さのピッチで並ぶ。さらに、Mが2以上の自然数の場合には、M個のノズル列のうちの一つに対して、他の(M−1)個のノズル列は、ノズルピッチHXPのi倍の長さだけ重複無くX軸方向にずれている。ここで、iは1から(M−1)までの自然数である。
【0020】
さて、本実施形態では、ノズル列116Aおよびノズル列116Bのそれぞれが90個のノズル118からなるため、1つの液滴吐出ヘッド114は180個のノズル118を有する。ただし、ノズル列116Aの両端のそれぞれ5ノズルは「休止ノズル」として設定されている。同様に、ノズル列116Bの両端のそれぞれ5ノズルも「休止ノズル」として設定されている。そして、これら20個の「休止ノズル」からはインク2が吐出されない。このため、液滴吐出ヘッド114における180個のノズル118のうち、160個のノズル118がインク2を吐出するノズルとして機能する。
【0021】
図2に示すように、液滴吐出手段103においては、複数個の上記液滴吐出ヘッド114がX軸方向に沿って2列に配置されている。一方の列の液滴吐出ヘッド114と他方の列の液滴吐出ヘッド114とは、休止ノズル分を考慮して、Y軸方向から見て一部重なるように配置されている。これにより、液滴吐出手段103においては、基板11のX軸方向の寸法分の長さに渡り、インク2を吐出するノズル118が前記ノズルピッチHXPでX軸方向に連続するように構成されている。
【0022】
本実施形態の液滴吐出手段103では、基板11のX軸方向の寸法分の長さ全体をカバーするように液滴吐出ヘッド114を配置しているが、本発明における液滴吐出手段は、基板11のX軸方向の寸法分の長さの一部をカバーするようにものでもよい。
図に示すように、それぞれの液滴吐出ヘッド114は、インクジェットヘッドである。より具体的には、それぞれの液滴吐出ヘッド114は、振動板126と、ノズルプレート128とを備えている。振動板126と、ノズルプレート128との間には、2次インク貯留槽150から孔131を介して供給されるインク2が常に充填される液たまり129が位置している。
【0023】
また、振動板126と、ノズルプレート128との間には、複数の隔壁122が位置している。そして、振動板126と、ノズルプレート128と、1対の隔壁122とによって囲まれた部分がキャビティ120である。キャビティ120はノズル118に対応して設けられているため、キャビティ120の数とノズル118の数とは同じである。キャビティ120には、1対の隔壁122間に位置する供給口130を介して、液たまり129からインク2が供給される。
【0024】
また、ノズルプレート128のノズル118付近は、フッ化アルキル基を有するシリカ膜で表面付近が覆われている。これにより、ノズル118は、撥液性に優れたものとなり、インク2を特に好適にはじくことができる。特に、ノズルプレート128がこのようなシリカ膜を有することで、ノズル118付近での固形分の強固な付着を防ぐことができる。このため、確実に液滴吐出時の飛行曲がりの発生や、液滴量の変動、ノズル118の目詰まりを確実に防止することができ、極めて長期にわたって、インク2の液滴の吐出性を特に優れたものとすることができる。
【0025】
振動板126上には、それぞれのキャビティ120に対応して、振動子124が位置する。振動子124は、ピエゾ素子124Cと、ピエゾ素子124Cを挟む1対の電極124A、124Bとを含む。この1対の電極124A、124Bとの間に駆動電圧を与えることで、対応するノズル118からインク2が吐出される。なお、ノズル118からZ軸方向にインク2が吐出されるように、ノズル118の形状が調整されている。
【0026】
制御手段112(図1参照)は、複数の振動子124のそれぞれに互いに独立に信号を与えるように構成されていてもよい。つまり、ノズル118から吐出されるインク2の体積が、制御手段112からの信号に応じてノズル118毎に制御されてもよい。また、制御手段112は、塗布走査の間に吐出動作を行うノズル118と、吐出動作を行わないノズル118とを設定することでもできる。
本明細書では、1つのノズル118と、ノズル118に対応するキャビティ120と、キャビティ120に対応する振動子124とを含んだ部分を「吐出部127」と表記することもある。この表記によれば、1つの液滴吐出ヘッド114は、ノズル118の数と同じ数の吐出部127を有する。
【0027】
なお、図示の構成では、液滴吐出装置100は、インク2を保持する2次インク貯留槽150、チューブ110等を1色分しか有していないが、これらの部材を、カラーフィルターが有する複数色の着色部に対応する複数色分有するものであってもよい。また、カラーフィルターの製造においては、複数色のインク2に対応する複数の液滴吐出装置100を用いてもよい。
なお、本発明では、液滴吐出ヘッド114は、駆動素子として、ピエゾ素子の代わりに静電アクチュエータを用いるものでもよい。また、液滴吐出ヘッド114は、駆動素子として電気熱変換素子を用い、この電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出する構成であってもよい。
【0028】
また、図1に示すように、液滴吐出装置100は、1次インク貯留槽132および2次インク貯留槽150を有するものである。1次インク貯留槽132には、インク2が貯留されている。液滴吐出時においては、チューブ134によって、2次インク貯留槽150へ、インク2が搬送される。
この1次インク貯留槽132には、図1に示すように、1次インク貯留槽132内のインク2を冷却する冷却手段133が設けられている。
【0029】
ところで、カラーフィルターの製造に用いる液滴吐出装置(産業用)は、プリンターに適用されるもの(民生用)とは全く異なるものであり、例えば、大量生産を行うため、大量の液滴を長時間にわたって連続で吐出することが求められる。このため、長時間にわたってインクを装置内に貯留することが行われる。しかしながら、インク中には、通常、着色剤や分散媒の他に硬化性樹脂等の硬化性成分が含まれているため、長時間装置内に貯留すると、着色剤の分散が壊れて結晶状の析出物が発生したり、硬化性成分の一部が反応して固形状やゲル状の異物が発生してしまうといった問題があった。その結果、液滴吐出ヘッドの吐出部の目詰まりを起こしやすく、液滴の飛行曲がりを頻発する。このような場合、カラーフィルター用インクを所望の部位に、所望の量だけ付与することが困難となり、得られるカラーフィルターを用いて表示される画像において、色むら、濃度むら等を生じてしまうという問題があった。
【0030】
これに対して、液滴吐出装置100は、上述したように、1次インク貯留槽132内のインク2を冷却する冷却手段133が設けられている。このため、液滴吐出装置100内に長時間にわたってインク2が貯留された場合であっても、硬化性成分の一部が反応して固形状やゲル状の異物が発生してしまうのを防止することができ、液滴吐出装置100はインク2を長時間にわたって安定して吐出することが可能となる。一般的に、反応速度は環境温度10℃に対して2倍から3倍になると言われており、室温に対して10℃温度を下げると2倍から3倍インクの内部に異物が成長しにくくなる。結果的に、問題となる固形状やゲル状の異物が一定量とサイズで発生するまでの期間が2倍から3倍となりインクの寿命が延びる。また、同じ期間中にインクを使い切ることを考えた場合でも、室温に戻ってからの期間が短いため、問題となるサイズまで異物が成長するまでにインクを使用してしまうことが可能となるため、色むらや濃度むらを大幅に抑制することが可能となる。さらに、問題などが発生して装置の稼動が止まった場合においても、内部で冷蔵してインクを保管できるため装置の稼動が再開したときに、少量の問題のあるインクを排出するだけで安定的な吐出を再開できるため、すぐに装置の安定運用が可能であり、装置内部への異物の蓄積を抑制することができる。
【0031】
冷却手段133によるインク2の冷却温度は、4℃以上15℃以下であるのが好ましく、5℃以上10℃以下であるのがより好ましい。これにより、液滴吐出装置100内におけるインク2の劣化をより効果的に防止することができる。
また、1次インク貯留槽132内には、インク2を攪拌する攪拌手段135が設けられている。これにより、1次インク貯留槽132内におけるインク2中の固形分の沈降を防止するとともに、冷却手段133の冷却効果をより高いものとすることができる。その結果、インク2の劣化をより効率よく防止することができる。
【0032】
2次インク貯留槽150は、液滴吐出時において、1次インク貯留槽132から送液されたインク2を一時的に貯留する機能を備えている。このように1次インク貯留槽132と2次インク貯留槽150とに分けることにより、カラーフィルターの製造時において、インク2の切り替えを容易にすることができるとともに、液滴吐出ヘッド114へ送液を調整することができる。
【0033】
本実施形態において、2次インク貯留槽150には、図1に示すように、2次インク貯留槽150内のインク2を加温する加温手段151が設けられている。このような加温手段151を設けることにより、吐出時におけるインク2の粘度をより低いものとすることができ、より安定してインク2を吐出することができる。
なお、本実施形態では、加温手段151が、2次インク貯留槽150に設けられている場合について説明したが、これに限定されず、例えば、図5に示すように、インク2の流路(チューブ134)に設けられていてもよい。なお、加温手段は、チューブ110に設けられていてもよい。
【0034】
≪カラーフィルター用インク≫
次に、本発明の液滴吐出装置に好適に適用することが可能なカラーフィルター用インクの一例について説明する。
カラーフィルター用インクは、カラーフィルターの製造(カラーフィルターの着色部の形成)に用いられるインクであり、本発明においては、特に、インクジェット方式によるカラーフィルターの製造に用いられるものである。
カラーフィルター用インクは、顔料(着色剤)、樹脂材料、前記着色剤が溶解または分散する液性媒体等を含むものである。
【0035】
以下、カラーフィルター用インクの各構成成分について詳細に説明する。
[顔料]
カラーフィルターは、通常、異なる複数色の着色部(一般に、RGBに対応する3色の着色部)を有している。顔料は、通常、形成すべき着色部の色調に応じて選択される。
顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38,40,41,42,48:1,48:2,48:3,48:4,49:1,49:2,50:1,52:1,53:1,57,57:1,57:2,58:2,58:4,60:1,63:1,63:2,64:1,81,81:1,83,88,90:1,97,101,102,104,105,106,108,108:1,112,113,114,122,123,144,146,149,150,151,166,168,170,171,172,174,175,176,177,178,179,180,185,187,188,190,193,194,202,206,207,208,209,215,216,220,224,226,242,243,245,254,255,264,265;C.I.ピグメントグリーン7,36,15,17,18,19,26,50,58;C.I.ピグメントブルー1,15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,17:1,18,60,27,28,29,35,36,60,80;C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,15,16,17,20,24,31,34,35,35:1,37,37:1,42,43,53,55,60,61,65,71,73,74,81,83,93,94,95,97,98,100,101,104,106,108,109,110,113,114,116,117,119,120,126,127,128,129,138,139,150,151,152,153,154,155,156,157,166,168,175,180,184,185;C.I.ピグメントバイオレット1,3,14,16,19,23,29,32,36,38,50;C.I.ピグメントオレンジ1,5,13,14,16,17,20,20:1,24,34,36,38,40,43,46,49,51,61,63,64,71,73,104;C.I.ピグメントブラウン7,11,23,25,33;C.I.ピグメントブラック1,7や、これらの誘導体等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
また、特に、カラーフィルター用インクが、顔料(緑色顔料)として、C.I.ピグメントグリーン58(臭素化亜鉛フタロシアニン顔料)を含むものであると、当該カラーフィルター用インク(緑色のカラーフィルター用インク)の発色性を特に優れたものとすることができる。また、C.I.ピグメントグリーン58は、明度に優れるという特徴を有しているものの、各種顔料の中でも、特に分散性の低い材料であるため、従来において液滴吐出に供するインクに適用する場合には、液滴吐出装置のインクの流路への付着、液滴吐出ヘッドの吐出部の目詰まり等の問題を特に生じ易かった。これに対し、本発明では、カラーフィルター用インクがC.I.ピグメントグリーン58を含む場合であっても、上記のような問題を好適に解消することができる。すなわち、カラーフィルター用インクがC.I.ピグメントグリーン58を含むものであると、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0037】
カラーフィルター用インク中における顔料の含有率は、2wt%以上25wt%以下であるのが好ましく、3wt%以上20wt%以下であるのがより好ましい。
カラーフィルター用インク中に含まれる顔料の平均粒径は、10nm以上200nm以下であるのが好ましく、20nm以上180nm以下であるのがより好ましい。これにより、カラーフィルター用インク中における顔料の分散安定性や、カラーフィルターインクの吐出安定性を十分に優れたものとしつつ、カラーフィルター用インクを用いて製造されるカラーフィルターの耐久性(耐光性等)を十分に優れたものとし、カラーフィルターにおける発色性、コントラスト等を特に優れたものとすることができる。
【0038】
[分散媒]
分散媒(カラーフィルター用インク分散媒)としては、上述した、洗浄液の分散媒(洗浄液分散媒)と同様の液体を用いることができる。
カラーフィルター用インク中における分散媒の含有率は、50wt%以上98wt%以下であるのが好ましく、55wt%以上95wt%以下であるのがより好ましく、65wt%以上93wt%以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
[樹脂材料]
カラーフィルター用インクは、形成される着色部の基盤に対する密着性向上等の目的で、通常、樹脂材料を含んでいる。
樹脂材料としては、一般に硬化性樹脂(硬化性成分)を用いる。
カラーフィルター用インクが硬化性樹脂を含むものであると、カラーフィルター用インクを用いて製造されるカラーフィルターの耐久性を特に優れたものとすることができる等の効果が得られるが、長時間装置内に貯留すると、硬化性成分の一部が反応してゲル状の異物が発生してしまうといった問題があった。しかしながら、本発明の装置を用いることでこのような問題を解決することができる。
【0040】
硬化性樹脂は、例えば、エポキシ構造を有するものであるのが好ましい。
このような構造を有する硬化性樹脂を含むものであると、カラーフィルター用インクを用いて製造されるカラーフィルターの耐久性を特に優れたものとすることができる等の効果が得られるが、カラーフィルター用インクが顔料に加え、硬化性樹脂を含むものであると、従来においては、液滴吐出装置のインクの流路への固形分の付着、液滴吐出ヘッドの吐出部の目詰まり等の問題を特に生じ易かった。これに対し、本発明では、カラーフィルター用インクが上記のような構造を有する硬化性樹脂を含む場合であっても、上記のような問題を好適に解消することができる。すなわち、カラーフィルター用インクが上記のような構造を有する硬化性樹脂を含むものであると、本発明の効果がより顕著に発揮される。
また、カラーフィルター用インク中における樹脂材料の含有率は、0.5wt%以上18wt%以下であるのが好ましく、1.0wt%以上15wt%以下であるのがより好ましく、3.0wt%以上12wt%以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
[分散剤]
カラーフィルター用インクは、分散剤を含むものであるのが好ましい。これにより、カラーフィルター用インク中における顔料粒子の分散安定性を優れたものとすることができ、より長期間にわたって安定的な液滴吐出を行うことができる。分散剤としては、上述した、洗浄液の構成成分としての分散剤と同様の材料を用いることができる。
カラーフィルター用インク中における分散剤の含有率は、0.5wt%以上15wt%以下であるのが好ましく、0.6wt%以上8.0wt%以下であるのがより好ましい。
【0042】
[その他の成分]
カラーフィルター用インクは、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。
このような成分としては、例えば、各種架橋剤、熱酸発生剤、光酸発生剤、各種重合開始剤、酸架橋剤、界面活性剤、増感剤、光安定剤、各種染料、各種分散剤、発光材料、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、接着性改良剤、各種重合促進剤、各種光安定化剤、ガラス、ジルコニア、アルミナ、酸化チタン等のセラミックス、密着促進剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤等を用いることができる。
【0043】
カラーフィルター用インクの25℃における粘度(振動式粘度計を用いて測定される粘度)は、特に限定されないが、4mPa・s以上12mPa・s以下であるのが好ましく、5mPa・s以上11mPa・s以下であるのがより好ましい。カラーフィルター用インクの粘度が前記範囲内の値であると、後述するようなインクジェット方式による液滴吐出において、吐出されるカラーフィルター用インクの液適量のばらつきを特に小さいものとしつつ、液滴吐出ヘッドにおける目詰まりの発生等をより確実に防止することができる。なお、カラーフィルター用インクの粘度の測定は、例えば、振動式粘度計を用いて行うことができ、特に、JIS Z8809に準拠して行うことができる。
以上、本発明の液滴吐出装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、他の任意の機能を有する部材が付加されていてもよい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
[1]カラーフィルター用インクの調製
カラーフィルター用インクを以下のようにして製造した。
顔料としてのC.I.ピグメントグリーン58と、分散媒としてのジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートと、分散剤としてのディスパービック166と、熱硬化性樹脂としての樹脂a1(エポキシ構造を有する熱硬化性樹脂)とを、重量比で10:80:3.5:6.5の割合で配合し、カラーフィルター用インクとした。
【0045】
樹脂a1の合成は以下のようにして行った。
まず、四つ口フラスコに、n−ヘキサン:320重量部、メタアクリル酸:86重量部、トリエチルアミン:111重量部を投入した後、この四つ口フラスコに、温度計、還流冷却器、撹拌機および窒素ガス導入口を取り付けた。この四つ口フラスコを、氷水で冷却しつつ、トリメチルクロルシラン:120重量部を滴下した。この際、反応系内の温度が25℃以下となるようにした。その後、25℃で1時間反応を続けた。次に、トリエチルアミンの塩酸塩を濾別し、得られたろ液から減圧下でn−ヘキサンを除去した後、減圧蒸留にて精製し、シリルアセテート構造を有するエチレン性不飽和単量体を得た。
【0046】
次に、温度計、還流冷却器、撹拌機および窒素ガス導入口が取り付けられ、溶媒としてのジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:100重量部を仕込んだ四つ口フラスコを用意した。この四つ口フラスコ内のジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを攪拌しつつ60℃まで昇温した後、上記エチレン性不飽和単量体:27重量部と、メタアクリル酸グリシジル:30重量部と、スチレン:38重量部と、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル):6重量部との混合物を1時間かけて滴下した。滴下後60℃にて1時間保持した後、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル):0.08重量部を加え、さらに60℃で6時間反応させ、その後、未反応のモノマーを減圧処理により除去することにより、エポキシ構造とを有するエポキシ系樹脂としての樹脂a1を得た。
【0047】
[2]液滴吐出の安定性評価(安定吐出性評価)
チャンバー(サーマルチャンバー)内に設置した図1〜図4に示すような液滴吐出装置100の1次インク貯留槽132内に、上記インクを充填した。次に、1次インク貯留槽132内に貯留したインクを冷却手段133によって、5℃に冷却した。その後、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、各インクについて、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、300000発(300000滴)の液滴の連続吐出を行った。なお、2次インク貯留槽150内に送液されたインクは加温手段151によって20℃に加温した。
液滴吐出ヘッドの左右両端の指定の2つのノズルについて、吐出された液滴の総重量を求め、上記2つのノズルから吐出された液滴の平均吐出量の差の絶対値ΔW[ng]を求めた。このΔWの、液滴の目標吐出量W[ng]に対する比率(ΔW/W)を求めたところ、0.065未満であり、液滴吐出量の安定性に優れていると言える。
【0048】
なお、冷却手段を取り外した装置を用いて、上記と同様の評価を行ったところ、ΔW/Wの値が、0.780以上となり、液滴吐出量の安定性が本発明の液滴吐出装置と比較して劣っていた。
また、1次インク貯留槽132内のインクの温度を10℃、15℃と変化させて上記と同様の評価を行ったところ、同様の結果が得られた。
また、液滴吐出装置を図5に示すものに変更して、上記と同様の評価をしたところ、同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0049】
2…インク 11…基板 100…液滴吐出装置 102…吐出走査部 103…液滴吐出手段 104…第1位置制御装置 105…キャリッジ 106…ステージ 108…第2位置制御装置 110…チューブ 112…制御手段 114…液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド) 116A、116B…ノズル列 118…ノズル 120…キャビティ 122…隔壁 124…振動子 124A、124B…電極 124C…ピエゾ素子 126…振動板 127…吐出部 128…ノズルプレート 129…液たまり 130…供給口 131…孔 132…1次インク貯留槽 133…冷却手段 134…チューブ 135…攪拌手段 150…2次インク貯留槽 151…加温手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出方式によるカラーフィルターの製造に用いられ、着色剤と樹脂材料と前記着色剤を溶解または分散する液性媒体とを含むインクを吐出する液滴吐出装置であって、
前記インクを貯留する1次インク貯留槽と、
前記1次インク貯留槽から送液された前記インクを貯留する2次インク貯留槽と、
前記2次インク貯留槽から送液された前記インクを吐出する液滴吐出ヘッドと、
前記1次インク貯留槽内の前記インクを冷却する冷却手段とを有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記インクを4℃以上15℃以下に冷却するものである請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記1次インク貯留槽中の前記インクを攪拌する攪拌手段が設けられている請求項1または2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記2次インク貯留槽には、前記インクを加温する加温手段が設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記インクの流路には、前記インクを加温する加温手段が設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記加温手段は、前記インクを18℃以上35℃以下に加温するものである請求項4または5に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−232420(P2011−232420A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100630(P2010−100630)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】