説明

液滴噴射装置

【課題】導電率の異なる2種類の液体が異なる液体流入部からそれぞれ廃液ケースに流入する構成において、吸収体の満液状態を精度よく検出し、廃液吸収効率を高めることである。
【解決手段】廃インク検出センサ42は、廃インクケース40内に収容された吸収体41の、検出位置Aにおける導電率を測定することにより、廃インクが吸収体41の所定の検出位置Aまで到達したか否かを検出する。さらに、廃インク検出センサ42は、吸収体41の検出位置Aにおける導電率から、導電率の異なる2種類の廃インクのうちの一方のみが到達した状態か、2種類の廃インクの両方が到達した状態かを区別して検出する。そして、廃インク検出センサ42によって、2種類の廃インクの両方が吸収体41の検出位置Aに到達したことが検出されたときに、吸収体41が満液状態であると判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を噴射する液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液滴を噴射する液滴噴射装置においては、液滴噴射ヘッドのメンテナンスの際などに排出される、不要な液体(以下、廃液ともいう)を回収する、廃液回収装置が設けられているものが多い。一般的な廃液回収装置は、廃液ケースと、この廃液ケース内に収容されて、廃液を吸収する多孔質部材からなる吸収体を有する。
【0003】
その中でも、特許文献1には、吸収体の満液状態を検出する手段(満杯検知手段)を備えたインクジェット記録装置が開示されている。より詳細には、吸収体(インク吸収部材)が収容された廃液ケース(廃インク収容容器)の、廃液が流入する部位(液体流入部)から離れた部分(最後にインクが到達する部分)に1対の電極が配設されており、この部分に廃液が到達したときの電極間の導通を検出することによって、満液状態を検出するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−104014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液滴噴射装置が2種類以上の液体を取り扱うものである場合に、種類の異なる液体が途中で混じり合うことを避ける等の理由から、2種類の廃液がまとめて廃液ケースに送られるのではなく、それぞれ別の経路で廃液ケースに送られるように構成されることがある。この場合、2種類の廃液が、廃液ケースにそれぞれ設けられた2つの液体流入部から、吸収体の異なる部分にそれぞれ浸透することになる。
【0006】
上記構成において、特許文献1のように、吸収体の所定の検出位置に設けられた電極によって、吸収体の満液状態を検出する構成を採用した場合、前記検出位置に2種類の廃液が同じタイミングで到達することは非常に稀であり、何れか一方の液体が他方の液体よりも先んじて前記検出位置に到達するのが普通である。そのような場合に、一方の液体のみが検出位置に到達した段階で吸収体が満液状態と判定されても、実際には、他方の液体は検出位置に到達していないから、吸収体には、まだ余裕部分(液体を吸収していない部分)が存在することになる。即ち、実際には吸収体がまだ廃液を吸収できる状態であるのに、満液状態であると誤判定されることから、廃液吸収の効率が低くなる。
【0007】
本発明の目的は、導電率の異なる2種類の液体が異なる液体流入部からそれぞれ廃液ケースに流入する構成において、吸収体の満液状態を精度よく検出し、廃液吸収効率を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の液滴噴射装置は、導電率の異なる2種類の液体をそれぞれ噴射可能な液滴噴射ヘッドと、前記液滴噴射ヘッド内から前記2種類の液体をそれぞれ排出させる排出手段と、前記排出手段によって排出された前記2種類の液体を回収する廃液回収装置を備え、
前記廃液回収装置は、廃液ケースと、前記廃液ケース内に収容された吸収体と、前記排出手段によって排出された前記2種類の液体を前記廃液ケース内にそれぞれ流入させる2つの液体流入部と、前記吸収体の前記2つの液体流入部からそれぞれ所定距離離れた第1検出位置における導電率を測定することにより、前記吸収体に吸収された前記液体が前記第1検出位置まで到達したか否かを検出する第1廃液検出手段を有し、前記第1廃液検出手段は、前記吸収体の前記第1検出位置における導電率から、前記2種類の液体のうちの一方のみが到達した状態か、前記2種類の液体の両方が到達した状態かを区別して検出し、
さらに、前記第1廃液検出手段によって前記2種類の液体の両方が前記吸収体の前記第1検出位置に到達したことが検出されたときに、前記吸収体が満液状態であると判定する満液判定手段を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明は、液滴噴射ヘッドで導電率が互いに異なる2種類の液体が使用されることを前提とする。そして、排出手段によって液滴噴射ヘッドからそれぞれ排出された前記2種類の液体は異なる経路を経て廃液回収装置に送られて、2つの液体流入部から別々に廃液ケース内の吸収体に流入する。廃液ケース内に流入する液体(廃液)の量が増えていくと、2つの液体流入部からそれぞれ所定距離離れた、吸収体の第1検出位置に液体が到達する。
【0010】
ここで、第1廃液検出手段は、吸収体の前記第1検出位置における導電率から、第1検出位置に到達した液体が2種類の液体の何れか、あるいは、両方かを区別して検出することが可能となっている。また、前記第1検出位置に、2種類の液体のうちの一方のみが到達し、他方の液体は到達していない状態では、吸収体にはまだ液体を吸収可能な部分(未吸収部分)が存在すると考えられる。そこで、第1廃液検出手段によって、前記第1検出位置に2種類の液体の両方が到達したことが検出されたときに、はじめて満液状態と判定することで、その判定時に吸収体には未吸収部分はほとんど存在せず、満液状態を精度よく判定できることとなり、吸収体の廃液吸収効率が向上する。尚、本発明の「満液状態」とは、それ以降に少しでも廃液が流入すると溢れ出てしまうような限界状態だけでなく、前記限界状態までわずかに余裕はあるものの放置しておくと短期間で限界状態となるために、警告等によって事前に注意喚起する必要があるような、限界状態に近い状態をも含む概念である。
【0011】
第2の発明の液滴噴射装置は、前記第1の発明において、前記第1廃液検出手段は、前記吸収体の前記第1検出位置における導電率が、所定の第1閾値以上であるときには、前記第1検出位置に、前記2種類の液体のうちの導電率が高い方の液体が到達したと判断し、前記吸収体の前記第1検出位置における導電率が、前記第1閾値よりも低い第2閾値と、前記第2閾値よりもさらに低い第3閾値との間の範囲にあるときには、前記第1検出位置に、前記2種類の液体のうちの導電率が低い方の液体が到達したと判断し、前記吸収体の前記第1検出位置における導電率が、前記第1閾値と前記第2閾値との間の範囲にあるときには、前記第1検出位置に前記2種類の液体の両方が到達していると判断することを特徴とするものである。
【0012】
導電率の高い液体のみが第1検出位置に到達している状態では、第1廃液検出手段で測定される導電率は高くなり、逆に、導電率の低い液体のみが第1検出位置に到達している状態では導電率は低くなる。一方、両方の液体が第1検出位置に到達している状態では、第1廃液検出手段で測定される導電率は、上記2つの場合の間の値となる。従って、第1廃液検出手段は、測定された導電率の値を第1〜第3の閾値と比較することによって、第1検出位置に一方の液体のみが到達したのか、両方の液体が到達したのかを区別することができる。
【0013】
第3の発明の液滴噴射装置は、前記第1又は第2の発明において、前記吸収体に吸収されている廃液量を、予め設定された、前記排出手段の排出動作における廃液量の推測値と、現時点までに実行された前記排出手段の排出動作の頻度に応じて推測する廃液吸収量推測手段をさらに備え、一方で、前記満液判定手段は、前記廃液吸収量推測手段によって推測された廃液量が、予め設定された所定の限界廃液量以上となったときには、前記第1廃液検出手段の検出結果にかかわらず満液状態であると判定することを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、第1廃液検出手段による検出と並行して、廃液吸収量推測手段は、1回の排出動作における廃液量の推定値とその排出頻度(回数)に基づく総廃液吸収量の推定を行う。そして、第1廃液検出手段の異常等により、万が一、第1廃液検出手段で満液状態を検出できないかった場合でも、廃液吸収量推測手段により推測された値が、所定の限界廃液量以上となったときに満液状態と判定することで、廃液ケースから廃液が溢れ出ることが防止される。
【0015】
第4の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記吸収体の、前記2つの液体流入部の少なくとも一方と前記第1検出位置との間に位置する、第2検出位置における導電率を測定し、前記第2検出位置に液体が到達したか否かを検出する第2廃液検出手段を有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明によれば、液体流入部と、満液検出位置である第1検出位置との間の、中間位置である第2検出位置においても液体が到達したか否かを検出することができるため、満液検出の精度が向上する。また、第1検出位置に到達していない方の液体が、第1検出位置にどの程度近づいているのかを把握することができる。
【0017】
第5の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記吸収体の前記2つの液体流入部と前記第1検出位置との間に前記液体を透過させない仕切り壁が設けられるとともに、前記吸収体は、前記液体流入部側の部分に吸収された液体を前記仕切り壁を迂回して前記第1検出位置側に導く迂回部分を有することを特徴とするものである。
【0018】
液体流入部と第1検出位置との間に液体を透過させない仕切り壁を設けることで、液体流入部から流入した液体が直線的に第1検出位置に到達することが阻止される。従って、第1検出位置の近傍部以外の他の部分にあらかた液体が吸収された状態となった後に、最後に第1検出位置に液体を到達させることができ、吸収体の廃液吸収効率が高まる。
【0019】
第6の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第5の何れかの発明において、前記液滴噴射ヘッドはインクの液滴を噴射するインクジェットヘッドであって、顔料インクと染料インクの、導電率の異なる2種類のインクを噴射可能であることを特徴とするものである。
【0020】
インクジェットヘッドから排出された顔料インクと染料インクが回収の過程で混合されると、顔料が凝集して、廃液回収装置に至るまでのチューブ等の経路において詰まりなどの不具合が生じる虞がある。そこで、顔料インクの廃液と染料インクの廃液を同じ経路で廃液回収装置に送るのではなく、個別に廃液回収装置まで導いて別々の液体流入部から廃液ケース内に流入させることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1廃液検出手段によって、2つの液体流入部からそれぞれ離れた、吸収体の第1検出位置に2種類の液体の両方が到達したことが検出されたときに、はじめて満液状態と判定することで、その判定時に吸収体には未吸収部分はほとんど存在せず満液状態を精度よく判定できることとなり、吸収体の廃液吸収効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】キャップ部材及び液受け部材と、廃液回収装置との接続関係を概略的に示す図である。
【図3】廃インク回収装置の概略構成図である。
【図4】廃インクの種類判別を行うための導電率の閾値を説明する図である。
【図5】インクジェットプリンタの制御系を概略的に示すブロック図である。
【図6】変更形態に係る廃インク回収装置の概略構成図である。
【図7】別の変更形態に係るインクジェットプリンタのブロック図である。
【図8】さらに別の変更形態に係る廃インク回収装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【0024】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(液滴噴射装置)は、記録用紙Pが載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4(液滴噴射ヘッド)と、記録用紙Pを走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5と、インクジェットヘッド4の液滴噴射性能の回復・維持に関する各種メンテナンス作業を行うメンテナンスユニット6と、メンテナンス等の際にインクジェットヘッド4から排出された廃インクを回収する廃インク回収装置7と、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置8等を備えている。
【0025】
プラテン2の上面には図示しない給紙機構から供給された記録用紙Pが載置される。また、プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール10,11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10,11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。また、2本のガイドレール10,11は、プラテン2から走査方向に沿って図1の左方及び右方に離れた位置まで延在しており、キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙Pと対向する領域(記録領域)から、非記録領域である、プラテン2から左右方向に離れた位置まで移動可能に構成されている。また、キャリッジ3には、2つのプーリ12,13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されたときに、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行に伴って走査方向に移動するようになっている。
【0026】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に取り付けられており、プラテン2の上面と平行な、インクジェットヘッド4の下面が、複数のノズル16が開口するインク噴射面となっている。また、図1に示すように、プリンタ1のプリンタ本体1aにはホルダ9が固定的に設けられ、このホルダ9には4色のインク(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)がそれぞれ貯留された4つのインクカートリッジ17が装着される。尚、本実施形態のプリンタ1で使用される4色のインクのうち、ブラックインクは、水などのインク溶媒に不溶性の色材が用いられた、顔料インクであり、他の3色のインク(カラーインクと総称する)は、インク溶媒に可溶性の色材が用いられた、染料インクである。また、図示は省略するが、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4とホルダ9とが4本のチューブ(図示省略)で接続され、4つのインクカートリッジ17内のインクが、4本のチューブを介してインクジェットヘッド4にそれぞれ供給されるようになっている。
【0027】
図1に示すように、インクジェットヘッド4の複数のノズル16は、4色のインクにそれぞれ対応した4列のノズル列を構成している。また、インクジェットヘッド4は、複数のノズル16内のインクにそれぞれ圧力を付与して、複数のノズル16のそれぞれから個別にインクの液滴を噴射させるアクチュエータを備えている。このアクチュエータの構成は特定のものに限定されず、圧電素子の圧電歪を利用した圧電アクチュエータなど、公知のものを使用できる。そして、インクジェットヘッド4は、アクチュエータによって、複数のノズル16のそれぞれから、対応する色のインクをプラテン2に載置された記録用紙Pに対して噴射する。
【0028】
搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18,19を有し、これら2つの搬送ローラ18,19によって、プラテン2に載置された記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送する。
【0029】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙Pに対して、キャリッジ3とともに走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ18,19によって記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送することにより、記録用紙Pに所望の画像や文字等を印刷する。
【0030】
メンテナンスユニット6は、プラテン2に対して走査方向一方側(図1の右側)に離れた位置(メンテナンス位置:図1に二点鎖線でキャリッジ3が示されているAの位置)に配置されている。このメンテナンスユニット6は、インクジェットヘッド4の下面(インク噴射面)に密着して複数のノズル16の開口を覆うキャップ部材21と、キャップ部材21に接続された吸引ポンプ23と、吸引パージ後にインク噴射面4aに付着したインクを拭き取るワイパー22等を備えている。
【0031】
キャップ部材21は、上下方向(図1の紙面垂直方向)に移動可能に構成され、キャップ駆動モータ35(図5参照)を含む適宜のキャップ駆動機構によって、インクジェットヘッド4のインク噴射面に対して離接駆動される。また、キャップ部材21は、インクジェットヘッド4のインク噴射面に密着した状態(キャッピング状態)にあるときに、ブラックインクを噴射するノズル16(左側1列のノズル列)を覆う第1キャップ部26と、3色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ)を噴射するノズル16(右側3列のノズル列)を覆う第2キャップ部27とを有する。
【0032】
第1キャップ部26と第2キャップ部27は、別々のチューブによって吸引ポンプ23に接続されている。そして、吸引ポンプ23は、キャップ部材21がキャッピング状態にあるときに、第1キャップ部26内の吸引(減圧)と、第2キャップ部27内の吸引(減圧)とを、独立して行うことができるようになっている。即ち、ブラック用のノズル16とカラー用のノズル16の、インク排出(吸引パージ)が個別に行われるようになっている。
【0033】
ワイパー22はキャップ部材21よりもプラテン2側の位置に立設されており、吸引パージ後に、このワイパー22の先端がインクジェットヘッド4のインク噴射面に接触した状態でキャリッジ3が走査方向に移動することによって、ワイパー22がインク噴射面に付着したインクを拭き取る。
【0034】
また、本実施形態のプリンタ1は、記録用紙Pへの印刷を行わない期間に、ノズル16内の乾燥を防止する等の目的から、適宜のタイミングで、インクジェットヘッド4の複数のノズル16からそれぞれインクを噴射させてインクを排出する、フラッシングを行うように構成されている。図1に示すように、プラテン2を挟んでメンテナンスユニット6と反対側の位置(フラッシング位置:図1に二点鎖線でキャリッジ3が示されているBの位置)に、液受け部材28が設置されている。そして、インクジェットヘッド4は、キャリッジ3がフラッシング位置Bに移動した状態でフラッシングを行い、フラッシングによってノズル16から排出されたインクは液受け部材28に受け止められる。尚、液受け部材28も、前述のキャップ部材21と同様に、ブラックインクを噴射するノズル列に対応し、ブラックインクを受ける第1液受け部29と、3色のカラーインクを噴射する3列のノズル列に対応し、カラーインクを受ける第2液受け部30に区分けされている。
【0035】
ところで、上述したように、本実施形態では、ブラックインクとしては顔料インクが使用される一方で、他の3色のカラーインクとしては染料インクが使用されているが、顔料インクに染料インクが混合されると凝集が生じ、インク流路に詰まり等を生じさせる原因となることが知られている。そこで、吸引パージやフラッシングによってインクジェットヘッド4から排出された廃インクが、廃インク回収装置7への回収の過程で混合されることがないように、廃インク回収装置7への経路がブラックとカラーで別々に分かれている。
【0036】
図2は、キャップ部材21及び液受け部材28と、廃インク回収装置7との接続関係を概略的に示す図である。まず、吸引パージを行う吸引ポンプ23は、キャップ部材21に排出されるブラックインクとカラーインクとを混合させないように構成される。例えば、第1キャップ部26と第2キャップ部27に別々の吸引ポンプ23が接続されてもよい。あるいは、吸引ポンプ23がチューブポンプである場合には、第1キャップ部26と第2キャップ部27とでチューブを別々に分ける。
【0037】
その上で、吸引ポンプ23と廃インク回収装置7がブラック用のチューブ31a(及びチューブ33)とカラー用のチューブ31b(及びチューブ34)によって個別に接続される。つまり、キャップ部材21に排出されたブラックの廃インクとカラーの廃インクは、廃インク回収装置7にまとめて送られるのではなく、ブラックの廃インクとカラーの廃インクが、それぞれ個別の経路を通って廃インク回収装置7に送られるようになっている。
【0038】
また、フラッシング用の液受け部材28についても、ブラック用の第1液受け部29とカラー用の第2液受け部30が、チューブ32a(及びチューブ33)とカラー用のチューブ32b(及びチューブ34)によって廃インク回収装置7とそれぞれ接続されており、ブラックの廃インクとカラーの廃インクが、個別の経路を通って廃インク回収装置7に送られる。
【0039】
次に、廃インク回収装置7について説明する。廃インク回収装置7は、上述した吸引パージやフラッシングにおいて、インクジェットヘッド4のノズル16から排出された廃インクを回収するものである。尚、吸引パージを行うための吸引ポンプ23、及び、フラッシングを行う際に動作するインクジェットヘッド4のアクチュエータが、共に、本願発明の「排出手段」に相当する。
【0040】
図3は、廃インク回収装置7の概略構成図である。図3に示すように、廃インク回収装置7は、廃インクが流入する廃インクケース40(廃液ケース)と、この廃インクケース40内に収容された吸収体41と、廃インクケース40内に流れ込んだ廃インクが吸収体41の所定の満液検出位置(検出位置A)に到達したか否かを検出する廃インク検出センサ42(第1廃液検出手段)を有する。
【0041】
廃インクケース40は、直方体の箱状に形成されており、この廃インクケース40の相対向する2つの側面には、それぞれ廃インクが流入する2つの廃インク流入口40a,40b(液体流入部)が設けられている。2つの廃インク流入口40a,40bのうち、一方(図中左側)の廃インク流入口40aは、吸引パージやフラッシングによって排出された、顔料インクであるブラックインクが流れるチューブ33が接続され、他方(図中右側)の廃インク流入口40bは、染料インクである3色のカラーインクが流れるチューブ34が接続されている。
【0042】
廃インクケース40内には、多孔質部材からなる直方体状の吸収体41が収容されている。上述したように、廃インクケース40には2つの廃インク流入口40a,40bが設けられており、これら2つの廃インク流入口40a,40bから流入したブラックとカラーの廃インクは、廃インクケース40の内側面に沿って落下しつつ、廃インク流入口40a,40bに近い、吸収体41の下側の2つの角部41a,41bから吸収されていく。従って、図3に破線で示すように、2つの廃インク流入口40a,40bからそれぞれ流入した、ブラックの廃インクとカラーの廃インクは、吸収体41内において前記角部41a,41bを中心に上方へ放射状に浸透していく。
【0043】
尚、3色のカラーインクを排出するノズル16は、ブラックインクを排出するノズル16の3倍の数(ノズル列が3列)であることから、ある特定のインクを噴射するノズル16についての、パージやフラッシングの回数が突出して多くない限り、廃インクケース40内に流入するカラーの廃インクは、ブラックの廃インクのほぼ3倍となる。従って、図3の放射状の破線で示されるように、吸収体41へ廃インクの流入が始まってから一定期間を経た状態では、吸収体41内のカラーの廃インクの浸透範囲は、ブラックの廃インクの浸透範囲と比べてかなり大きくなると予測される。
【0044】
本実施形態で使用されている4色のインクは、それぞれ、所定の導電率を有する導電性の液体である。そして、吸収体41の満液状態検出のための廃インク検出センサ42は、2つの廃インク流入口40a,40bからそれぞれ所定距離離れた、吸収体41の検出位置Aにおける導電率を測定することにより、前記検出位置Aに廃インクが到達したか否かを検出する。
【0045】
廃インク検出センサ42による廃インクの検出原理について説明する。廃インク検出センサ42は、吸収体41の所定の検出位置に設置された1対の電極を有し、1対の電極間に所定の電圧を印加したときの電流値を測定し、これにより検出位置における導電率(抵抗率の逆数)を求める。
【0046】
また、図3に示すように、本実施形態では、一方の廃インク流入口40a(40b)から流入した廃インクは、吸収体41の下端部の角部41a(41b)から放射状に浸透することから、吸収体41の上端部は、最後に廃インクが到達する部分であると推測される。そこで、廃インク検出センサ42は、吸収体41の満液状態を検出するために、その電極が、吸収体41の上端部の検出位置Aに配置されている。
【0047】
また、本実施形態では、カラーの廃インク量はブラックの廃インク量と比べてほぼ3倍となり、カラーの廃インクはブラックの廃インクよりも浸透範囲が広くなることから、満液検出のための検出位置Aはブラックの廃インク流入口40a側(図中左側)に寄っている。より詳細には、吸収体41のカラー側の角部41bから検出位置Aまでの直線的な経路43b(最短の浸透経路)の長さが、ブラック側の角部41aから検出位置Aまでの直線的な経路43aの、ほぼ3倍となっている。これにより、ブラックの廃インクとカラーの廃インクとが、ほぼ同じ時期に検出位置Aに到達するように設定されている。
【0048】
尚、検出位置Aが吸収体41の上端面の位置に設定されていると、この検出位置Aにブラックとカラーの廃インクが共に到達したときには、吸収体41はそれ以上廃インクを吸収できない限界状態となる。しかし、図3のように、検出位置Aが吸収体41の上端面よりも少し下の位置に設定されていると、検出位置Aに廃インクが到達した状態では、吸収体41は、まだわずかに廃インクを吸収することができる状態である。即ち、検出位置Aを図3の位置にすることで、前記限界状態よりも少し前の状態を検出することが可能となる。
【0049】
ところで、上述したように、廃インク検出センサ42の検出位置A(満液検出位置)が、想定されるブラックとカラーの廃インク量の比率(1:3)に応じた位置に設定されているため、設計上(理論上)は、ブラックとカラーがほぼ同時に検出位置Aに到達することになるが、実際には、4色のインクをそれぞれ噴射するノズル16の、吸引パージやフラッシングにおける1回の廃インク量や頻度が完全に等しくなるとは限らず、実際のブラックとカラーの廃インク量が、1:3の理論上の比率からずれることは容易に想像がつく。この場合、ブラックとカラーとで検出位置Aに到達するタイミングがずれることになる。そのため、検出位置Aに廃インクが到達したことが検出されたときにすぐに吸収体41が満液状態になったと判定すると、実際には一方の廃インクしか検出位置Aに到達しておらず、他方の廃インクの浸透経路43a(43b)において、廃インクが吸収されていない部分が存在する状態であるのに、満液状態と判定することになってしまう。つまり、吸収体41の廃インクの吸収効率が低下する。
【0050】
そこで、本実施形態では、廃インク検出センサ42は、検出位置Aに、ブラックインクとカラーインクの何れか一方のみが到達しているのか、あるいは、両方のインクが到達しているのかを区別することができるようになっている。
【0051】
まず、顔料インクであるブラックインクと、染料インクである3色(イエロー、シアン、マゼンタ)のカラーインクとで、導電率が大きく異なる(例えば、25℃の条件で、ブラックインクの導電率は0.3μs/cm、カラーインクの導電率は3色平均で4.0μs/cm程度)。そのため、廃インク検出センサ42は、廃インクが検出位置に到達していることを検出したときに、さらに、そのときの検出位置Aにおける吸収体41の導電率の測定値から、ブラックインクとカラーインクの何れか一方のみが到達しているのか、あるいは、両方のインクが到達しているのかを区別することができる。
【0052】
廃インク検出センサ42の廃インクの種類判別について、より具体的に説明する。図4は、廃インクの種類判別を行うための導電率の閾値を説明する図である。ブラックインクの導電率をσk(例えば0.3μs/cm)、カラーインクの導電率をσc(例えば4.0μs/cm)としたときに、導電率について3つの閾値(σ1,σ2,σ3)が予め設定される。第1閾値σ1と第2閾値σ2は、カラーインクの導電率σcとブラックインクの導電率σkにそれぞれ等しい値に設定される。また、第3閾値σ3は、第2閾値σ2(ブラックインクの導電率σk)よりもかなり低い、0に近い値に設定される。
【0053】
そして、廃インク検出センサ42は、検出位置Aにおける導電率の測定値σが第1閾値σ1以上であるときには、導電率の高いカラー(CL)の廃インクのみが検出位置Aに到達していると判断する。一方、導電率の測定値σが第3閾値σ3と第2閾値σ2との間の範囲にあるときには、導電率の低いブラック(Bk)の廃インクのみが検出位置Aに到達していると判断する。尚、導電率の測定値σが第3閾値σ3よりも低い(0に近い)ときには、どちらの廃インクも検出位置Aに到達していないと判断する。
【0054】
一方で、導電率の測定値σが、第2閾値σ2と第1閾値σ1との間にあるときには、ブラックインクの導電率σkとカラーインクの導電率σcの中間の値であることから、ブラックの廃インクとカラーの廃インクの両方が検出位置Aに到達して両者が混在している状態であると判断する。
【0055】
また、図3に示すように、廃インク回収装置7は、検出位置Aの廃インクの到達を検出する上述の廃インク検出センサ42に加えて、さらに、廃インクケース40の2つの廃インク流入口40a、40bと上記検出位置Aとの間の、検出位置B,C(第2検出位置)に廃インクが到達したかをそれぞれ検出する、2つの廃インク検出センサ44,45(第2廃液検出手段)を有する。これら2つの廃インク検出センサ44,45は、上述した廃インク検出センサ42と同様の構成を有し、検出位置B,Cにおける導電率を測定することによって、廃インクの到達を検出するものである。
【0056】
廃インク検出センサ44の検出位置Bは、廃インク流入口40aから流入したブラックの廃インクが最初に浸透し始める、吸収体41の角部41aと前記検出位置Aとを結ぶ、直線的な浸透経路43a上にある。また、廃インク検出センサ45の検出位置Cは、廃インク流入口40bから流入したカラーの廃インクが最初に浸透し始める、吸収体41の角部41bと前記検出位置Aとを結ぶ、直線的な浸透経路43b上にある。そして、2つの廃インク検出センサ44,45によって、廃インク流入口40a,40bと、満液検出位置である検出位置Aとの間の、中間位置である検出位置B,Cにおいても廃インクが到達したか否かを検出することができるようになっている。
【0057】
次に、制御装置8を中心とするインクジェットプリンタ1の制御系について、図5のブロック図を参照して詳細に説明する。図5に示されるプリンタ1の制御装置8は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むマイクロコンピュータを備え、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、以下に説明するような種々の制御を行う。あるいは、制御装置8は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたハードウェア的なものであってもよい。
【0058】
この制御装置8は、インクジェットヘッド4を制御するヘッド制御部61と、キャリッジ3を走査方向に駆動するキャリッジ駆動モータ15を制御するキャリッジ制御部62と、搬送機構5を制御する搬送制御部63とを含む、印刷制御部60を有する。印刷制御部60は、PC70から入力された、印刷する画像等に関するデータ(印字データ)に基づき、インクジェットヘッド4、キャリッジ駆動モータ15、及び、搬送機構5をそれぞれ制御して、記録用紙Pへの印刷を行わせる。
【0059】
また、制御装置8は、メンテナンスユニット6の吸引ポンプ23やキャップ部材21を昇降させるキャップ駆動モータ35等を制御して、前述した吸引パージを含む一連のメンテナンス動作を制御するメンテナンス制御部65と、インクジェットヘッド4のフラッシングを制御するフラッシング制御部66を備えている。さらに、制御装置8は、廃インク回収装置7の吸収体41が満液状態か否かを判定する満液判定部67を備えている。
【0060】
尚、印刷制御部60、メンテナンス制御部65、フラッシング制御部66、及び、満液判定部67のそれぞれの機能は、実際には、上述したマイクロコンピュータの動作、あるいは、演算回路を含む各種回路の動作によって実現される。
【0061】
満液判定部67について詳細に説明する。満液判定部67は、廃インク検出センサ42の検出結果に基づいて、廃インク回収装置7の吸収体41が満液状態であるか否かを判定する。上述したように、廃インク検出センサ42は、吸収体41の検出位置Aにおける導電率から、検出位置Aにブラックの廃インクとカラーの廃インクのうちの一方のみが到達した状態か、両方が到達した状態かを区別して検出できる。そして、検出位置Aに、2種類のインクのうちの一方のみが到達し、他方のインクは到達していない状態では、吸収体41にはまだインクを吸収可能な部分(未吸収部分)が存在すると考えられる。
【0062】
そこで、満液判定部67は、廃インク検出センサ42によって、一方のインクのみが吸収体41の検出位置に到達したことが検出された場合は、吸収体41が満液状態であるとは判定せず、両方のインクが吸収体41の検出位置Aに到達したことが検出されたときに、はじめて満液状態と判定する。これにより、満液状態と判定されたときには、吸収体41の、廃インク流入口40a,40bから検出位置Aまでの間に未吸収部分がほとんど存在しないことから、吸収体41の満液状態を精度よく判定できることとなり、廃インクの吸収効率が向上する。
【0063】
また、本実施形態では、2つの廃インク検出センサ44,45によって、2つの廃インク流入口40a,40bと検出位置Aとの間の、中間位置である検出位置B,Cについても、インクが到達したか否かを検出できるようになっている。そして、満液判定部67が、上記2つの廃インク検出センサ44,45の検出結果も用いて満液状態の判定を行うことで、満液検出の精度が向上する。
【0064】
例えば、多孔質部材からなる吸収体41の、孔の密度等がばらつくなどして、周囲と比べて局部的に廃インクを吸収しにくい部分が存在するような場合、廃インク流入口40a,40bから流入した廃インクが、直線的な浸透経路43a,43bを通ることなく迂回して検出位置Aに到達してしまうことがあると、前記浸透経路43a,43b上の一部に未吸収部分が存在するのに、満液状態であると判定されてしまう。このような異常な浸透状態は、検出位置Aに加えて、途中の検出位置B,Cにおいても廃インクの到達検出を行うことによって、把握が可能となる。即ち、廃インク検出センサ42によって、検出位置Aに両方の廃インクが到達していることが検出された場合でも、廃インク検出センサ44,45によって途中の検出位置B,Cの少なくとも一方において廃インクが到達していないことが検出された場合に、満液判定部67は、吸収体41がまだ満液状態になっていないと判定することが可能となる。
【0065】
また、検出位置Aに一方の廃インクが到達したことが検出されている場合に、他方の液体が、検出位置Aにどの程度近づいているのかを把握することができる。また、検出位置Aに先に到達した一方の廃インクが、検出位置Aを越えて他方の浸透経路43a(43b)まで浸透し過ぎた状態では、検出位置Aに他方の廃インクが到達するまでに吸収体41が完全に満液状態となり、廃インクケース40から廃インクが溢れ出してしまう虞がある。しかし、他方の浸透経路43a(43b)の途中の検出位置B(検出位置C)にどのような廃インクが到達しているのかを検出することで、上記の問題を事前に察知することができる。即ち、廃インク検出センサ42によって検出位置Aに一方のインクしか到達していないことが検出された場合でも、廃インク検出センサ44(45)によって、前記一方のインクが、他方の浸透経路43a(43b)上の検出位置B(検出位置C)まで到達していることが検出された場合に、満液判定部67は、吸収体41が満液状態であると判定することが可能となる。
【0066】
尚、満液判定部67は、吸収体41が満液状態であると判定した場合には、満液検出信号をプリンタ1に接続されたPC70に送信し、ユーザーに対して、廃インク回収装置7の吸収体41を交換すべき時期にあることを通知する。尚、先にも述べたが、検出位置Aに廃インクが到達した後でも、まだわずかに吸収体41が廃インクを吸収することができるように、図3に示すように検出位置Aが吸収体41の上端よりも少し下の位置に設定されていると、満液状態の通知に気づかず吸収体41を交換しないまま、しばらくの間ユーザーがプリンタ1を使い続けてしまった場合でも、廃インクケース40から廃インクが溢れ出てしまうことが防止される。
【0067】
あるいは、満液判定部67によって、吸収体41が満液状態であることが判定されたときに、ユーザーによって吸収体41が交換されるまで、インクジェットヘッド4のインク噴射動作や、吸引パージなど、廃インクが発生するプリンタ1の動作が禁止されてもよい。
【0068】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0069】
1]前記実施形態では、廃インクケース40の2つの廃インク流入口40a,40bと、満液検出位置である検出位置Aとの間の、検出位置B,Cにインクが到達したか否かを検出する、2つの廃インク検出センサ44,45(第2廃液検出手段)が設けられていたが、これら廃インク検出センサ44,45の何れか一方、あるいは、両方が省略されても、廃インク検出センサ42(第1廃液検出手段)のみで満液状態の検出は可能である。
【0070】
2]前記実施形態は、検出位置Aはブラックの廃インク流入口40aに寄った位置に設定されていたが、この検出位置Aは、ブラックの廃インクとカラーの廃インクの、想定される比率に応じて適宜変更可能である。例えば、ブラックの廃インク量とカラーの廃インク量がほぼ同じであると想定される場合には、図6に示すように、検出位置Aは、2つの廃インク流入口40a,40bからほぼ等距離の位置に設定される。
【0071】
また、ブラックの廃インク量とカラーの廃インク量の比率を想定できない場合でも、図6のように、検出位置Aが、2つの廃インク流入口40a,40bからほぼ等距離の位置に設定されてもよい。但し、この場合には、先に検出位置Aに到達した一方のインクが、検出位置Aを越えて、他方のインクの浸透経路43a(43b)まで浸透することも十分に考えられるため、前記実施形態のように、検出位置Aまでの他方のインクの浸透経路43a(43b)のどの位置まで、前記一方のインクが到達しているのかを検出できるようになっていることが好ましい。
【0072】
3]廃インク検出センサ42に不具合等が生じて、廃インク検出センサ42によって検出位置Aにインクが到達したか否かが検出できなくなると、満液状態の判定がなされなくなり、廃インクが廃インクケース40から溢れ出てしまう虞がある。そこで、図7のブロック図に示すように、制御装置8が、廃インク検出センサ42による検出位置Aにおける廃インクの検出と並行して、インクジェットヘッド4から排出されて吸収体41に吸収される、廃インクの吸収量を推測する、廃インク吸収量推測部68(廃液吸収量推測手段)を有する構成であってもよい。
【0073】
廃インク吸収量推測部68は、プリンタ1の使用開始後(又は、廃インク回収装置7の吸収体41が過去に交換されている場合はその交換時)から現時点までに、インクジェットヘッド4から排出された廃インク量の総量を推測し、さらに、この廃インク量の総量に基づいて吸収体41の廃液吸収量を推測する。以下に、具体的な推測方法の一例を挙げる。
【0074】
廃インク回収装置7に回収される廃インクは、大きくは、吸引パージでの廃インクと、フラッシングでの廃インク量に分けられる。ここで、メンテナンス制御部65は、1回の吸引パージでインクジェットヘッド4から排出される廃インク量の設計上の推定値を記憶するとともに、吸引パージの回数(頻度)をカウントしている。そして、廃インク吸収量推測部68は、1回の吸引パージの廃インク量の推定値と回数を掛け合わせることにより、吸引パージで排出される廃インク量の総量を推測する。尚、当然ながら、インクの種類(ブラックとカラー)によって1回の吸引パージでの廃インク量が異なる場合や、強さ(吸引力)の異なる吸引パージを使い分ける場合には、それぞれの吸引パージについて、廃インク量の推定値が設定された上で、それぞれの回数を個別にカウントする。
【0075】
また、フラッシング制御部66は、1つのノズル16についての1回のフラッシングで排出される廃インク量の、設計上の推定値を記憶するとともに、フラッシングを行ったノズル16の数(延べ回数:頻度)をカウントしている。そして、廃インク吸収量推測部68は、1回のフラッシングでの廃インク量の推定値と延べ回数を掛け合わせることにより、フラッシングで排出された廃インク量の総量を推測する。
【0076】
尚、インクジェットヘッド4から廃インクが排出されるのは、上記の吸引パージ及びフラッシングの他に、プリンタ1の初期使用前の、インクジェットヘッド4内のインク置換などもあり、廃インク吸収量推測部68は、このような他のタイミングで排出される廃インク量も加算して、現時点までに排出されている廃インクの総量を推測するようにしてもよい。
【0077】
さらに、廃インク吸収量推測部68は、上記のようにして推測した廃インク量の総量に、予め設定された蒸発率を掛けるなどして、吸収体41に吸収されている廃インク吸収量を推測する。
【0078】
その上で、満液判定部67は、廃インク吸収量推測部68により推測された廃インク吸収量が、所定の限界量以上となったときには、廃インク検出センサ42の検出結果にかかわらず、吸収体41が満液状態であると判定する。これにより、廃インク検出センサ42で吸収体41の満液状態を検出できない場合でも、廃インクが溢れ出ることを防止できる。
【0079】
尚、廃インク吸収量推測部68は、あくまでも設計上の推定値に基づいてインクジェットヘッド4からの廃インクの総量を推測しており、その廃インクの総量の推測値が、実際にインクジェットヘッド4から排出される廃インクの総量に対してある程度ずれることは避けられない。それに加えて、吸収体41に吸収されている廃インク吸収量を算出するための蒸発率も、周囲の環境条件(温度や湿度等)によって変化するものであって一定ではない。即ち、廃インク吸収量推測部68による、廃インク吸収量の推測はさほど精度のよいものではない。従って、吸収体41の満液状態の判定には、可能な限り、廃インク検出センサ42の検出結果を用いることが好ましい。
【0080】
そこで、廃インク検出センサ42が正常な場合には、この廃インク検出センサ42による検出結果が常に優先されるように、上記推測された廃インク吸収量に基づく満液状態の判定閾値である、前記限界量は、吸収体41の検出位置Aまでブラックとカラーの両方の廃インクが到達した状態における、吸収体41の廃インク吸収量(設計上の想定値)よりも高い値に設定されることが好ましい。
【0081】
4]上述した図3や図6の形態では、2つの廃インク流入口40a、40bからそれぞれ廃インクケース40に流入した廃インクは、検出位置Aに向けて直線的な浸透経路43a,43bに沿って浸透していくため、例えば、吸収体41の右上や左上の角部などの、検出位置Aの周囲部分以外に廃インクが吸収される前に、検出位置Aに廃インクが到達してしまうことも考えられる。
【0082】
そこで、図8に示すように、廃インクケース40内の、吸収体41の廃インク流入口40a、40bと検出位置Aとの間に、インクを透過させない材料で形成された仕切り壁50が、両者を結ぶ直線43a,43b(図中破線)と交差するように設けられてもよい。仕切り壁50は、吸収体41を上下に完全に仕切っておらず、吸収体41の仕切り壁50の左右両側には、仕切り壁50よりも下側(廃インク吸収口側)の部分41cに吸収された廃インクを検出位置Aに導く迂回部分41d,41eが設けられている。これにより、廃インク流入口40a,40bから流入した廃インクが、直線的に検出位置Aに到達することが阻止される。従って、検出位置Aの近傍部以外の他の部分にあらかた廃インクが吸収された状態となった後に、最後に検出位置Aに廃インクを到達させることができ、吸収体41の吸収効率が向上する。
【0083】
5]前記実施形態では、ブラックとカラーの2種類のインクが、2つの廃インク流入口40a,40bからそれぞれ廃インクケース40に別々に流入するようになっていたが、3種類以上のインクが異なる廃インク流入口から廃インクケース40に流入するように構成されてもよい。この場合は、吸収体41の、満液検出位置である検出位置Aにおいて、前記3種類以上のインクが全て到達したときに、満液状態であると判定する。
【0084】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、記録用紙Pに画像等を記録するインクジェットプリンタに本発明を適用した一例であるが、本発明は、画像記録用のインク以外の液体を噴射する他の液滴噴射装置の廃液回収装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 インクジェットプリンタ
4 インクジェットヘッド
7 廃インク回収装置
8 制御装置
16 ノズル
21 キャップ部材
23 吸引ポンプ
40 廃インクケース
40a,40b 廃インク流入口
41 吸収体
41d,41e 迂回部分
42 廃インク検出センサ
44,45 廃インク検出センサ
50 仕切り壁
67 満液判定部
68 廃インク吸収量推測部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電率の異なる2種類の液体をそれぞれ噴射可能な液滴噴射ヘッドと、
前記液滴噴射ヘッド内から前記2種類の液体をそれぞれ排出させる排出手段と、
前記排出手段によって排出された前記2種類の液体を回収する廃液回収装置を備え、
前記廃液回収装置は、廃液ケースと、前記廃液ケース内に収容された吸収体と、前記排出手段によって排出された前記2種類の液体を前記廃液ケース内にそれぞれ流入させる2つの液体流入部と、前記吸収体の前記2つの液体流入部からそれぞれ所定距離離れた第1検出位置における導電率を測定することにより、前記吸収体に吸収された前記液体が前記第1検出位置まで到達したか否かを検出する第1廃液検出手段を有し、
前記第1廃液検出手段は、前記吸収体の前記第1検出位置における導電率から、前記2種類の液体のうちの一方のみが到達した状態か、前記2種類の液体の両方が到達した状態かを区別して検出し、
さらに、前記第1廃液検出手段によって前記2種類の液体の両方が前記吸収体の前記第1検出位置に到達したことが検出されたときに、前記吸収体が満液状態であると判定する満液判定手段を備えていることを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項2】
前記第1廃液検出手段は、
前記吸収体の前記第1検出位置における導電率が、所定の第1閾値以上であるときには、前記第1検出位置に、前記2種類の液体のうちの導電率が高い方の液体が到達したと判断し、
前記吸収体の前記第1検出位置における導電率が、前記第1閾値よりも低い第2閾値と、前記第2閾値よりもさらに低い第3閾値との間の範囲にあるときには、前記第1検出位置に、前記2種類の液体のうちの導電率が低い方の液体が到達したと判断し、
前記吸収体の前記第1検出位置における導電率が、前記第1閾値と前記第2閾値との間の範囲にあるときには、前記第1検出位置に前記2種類の液体の両方が到達していると判断することを特徴とする請求項1に記載の液滴噴射装置。
【請求項3】
前記吸収体に吸収されている廃液量を、予め設定された、前記排出手段の排出動作における廃液量の推測値と、現時点までに実行された前記排出手段の排出動作の頻度に応じて推測する廃液吸収量推測手段をさらに備え、
一方で、前記満液判定手段は、前記廃液吸収量推測手段によって推測された廃液量が、予め設定された所定の限界廃液量以上となったときには、前記第1廃液検出手段の検出結果にかかわらず満液状態であると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴噴射装置。
【請求項4】
前記吸収体の、前記2つの液体流入部の少なくとも一方と前記第1検出位置との間に位置する、第2検出位置における導電率を測定し、前記第2検出位置に液体が到達したか否かを検出する第2廃液検出手段を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の液滴噴射装置。
【請求項5】
前記吸収体の前記2つの液体流入部と前記第1検出位置との間に前記液体を透過させない仕切り壁が設けられるとともに、前記吸収体は、前記液体流入部側の部分に吸収された液体を前記仕切り壁を迂回して前記第1検出位置側に導く迂回部分を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の液滴噴射装置。
【請求項6】
前記液滴噴射ヘッドはインクの液滴を噴射するインクジェットヘッドであって、顔料インクと染料インクの、導電率の異なる2種類のインクを噴射可能であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の液滴噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−157993(P2012−157993A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17569(P2011−17569)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】