説明

液滴噴射装置

【課題】使用前フラッシングにおいて、キャップ部材に覆われていた複数のノズル間での乾燥進行度の違いに応じてフラッシング量を変えて、フラッシングにおける液体消費量を抑制すること。
【解決手段】大気連通状態にあるキャップ部材21によって、インクジェットヘッド4のインク噴射面4aが覆われていた後に行う、使用前フラッシングにおいては、キャップ部材21の大気連通口28,29からの距離が遠いノズル16ほどフラッシング量を少なくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を噴射する液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルから液滴を噴射する液滴噴射ヘッドを備えた液滴噴射装置において、ノズルのメニスカスを整える、あるいは、乾燥により増粘した液体を排出する等の目的から、通常複数回連続してノズルから液滴を噴射させて一定量の液体を排出する、フラッシングを行うことが知られている。
【0003】
上述したフラッシングを行う液滴噴射装置として、特許文献1,2には、被記録媒体に対してノズルからインクを噴射して記録を行う、インクジェット記録装置が開示されている。このインクジェット記録装置は、ノズルの液滴噴射性能を回復させるために、インクジェットヘッドのインク噴射面にキャップ部材を密着させてノズルを覆ったキャッピング状態で、吸引ポンプによる吸引動作によって、ノズルからキャップ部材内にインクを排出させる、いわゆる、吸引パージを実行可能に構成されている。その際、吸引パージによって排出された多色のインクが混ざり合ってノズル内に吸い込まれるが、そのノズル内の混色インクを排出するために、吸引パージ後にフラッシングを行っている。
【0004】
尚、特許文献1,2には、混色を効果的に防止するために、全てのノズルについてフラッシング時のインク排出量(以下、フラッシング量という)を等しくするのではなく、噴射するインクの種類に応じてフラッシング量を異ならせている。具体的には、特許文献1では、比重が大きいインクを噴射するノズルについては、比重が小さいインクを噴射するノズルと比べて、フラッシング量を多くしている。また、特許文献2では、インクの明度が高いほどフラッシング量を多くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260172号公報
【特許文献2】特開平10−258531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記吸引パージ実行時におけるキャッピングとは別に、インクジェットヘッドが使用されないとき(ヘッドの休止時)に、ノズルの保護及び乾燥防止の目的でインク噴射面のキャッピングを行うことが知られている。その際、この目的で使用されるキャップ部材は、気温が変動したときのキャップ部材の内圧変動によって、キャップ部材が変形してインク噴射面から離れたり、ノズルに形成されるインクのメニスカスが破壊されてしまったりすることがないように、通常、大気連通口が設けられており、この大気連通口を介してキャップ部材内の空間が大気連通されている。
【0007】
そのため、ヘッドの休止時にキャップ部材によってノズルが覆われているとしても、キャップ部材内が大気連通状態であるが故に、徐々にではあるがノズル内のインクの乾燥が進行する。従って、ヘッドの使用を開始する直前に、ノズル内の増粘したインクを排出するためにフラッシング(使用前フラッシング)を行う。
【0008】
しかしながら、本願発明者らの検討により、キャップ部材内の湿度は一定ではなく、吸引口からの距離に応じた湿度分布が生じており、その湿度分布によって複数のノズルの乾燥進行度(増粘の程度)が異なることが知見された。そのため、複数のノズルについてフラッシング量を一律に等しくすると、乾燥があまり進行していないノズルについては、不必要にインクを消費してしまうことになる。
【0009】
この点につき、前記特許文献1,2には、吸引パージ後のフラッシングにおいて、噴射するインクの種類によってフラッシング量を変えることが記載されているものの、使用前フラッシングにおいて、キャップ部材に覆われていた複数のノズル間での乾燥進行度の違いに応じて、フラッシング量を変えることについては開示されていない。
【0010】
本発明の目的は、使用前フラッシングにおいて、キャップ部材に覆われていた複数のノズル間での乾燥進行度の違いに応じてフラッシング量を変えて、フラッシングにおける液体消費量を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明の液滴噴射装置は、液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面に対して離接可能で、前記複数のノズルの開口を覆う大きさを有し、且つ、大気連通口が形成されたキャップ部材と、前記液滴噴射ヘッドを制御して、前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルから液滴を噴射させて液体を排出する、フラッシングを行わせるフラッシング制御手段を有し、
前記フラッシング制御手段は、大気連通状態にある前記キャップ部材によって前記液滴噴射面が覆われていた後に行うフラッシングにおいては、前記複数のノズルのうち、前記キャップ部材の前記大気連通口からの距離が遠いノズルほどフラッシング量を少なくすることを特徴とするものである。
【0012】
本発明では、液滴噴射ヘッドが使用されないとき(ヘッドの休止時)において、ノズルの保護及び乾燥防止のために、キャップ部材が液滴噴射面に接触してノズルの開口が覆われる(キャッピング)。但し、キャップ部材内の空間は大気連通口によって大気連通状態に維持されることから、複数のノズル内の液体は、徐々にではあるが乾燥が進行していく。この状態から、液滴噴射ヘッドの使用を開始する際には、キャップ部材が液滴噴射面から離間してノズルが開放された後に、ノズル内の増粘液体を排出するためにフラッシング(使用前フラッシング)を行う。
【0013】
ここで、ノズルの開口を覆っているキャップ部材内の空間においては、大気連通口からの距離に応じた湿度分布が生じており、そのために、大気連通口からの距離が異なるノズル間で、乾燥の進行度(液体増粘の程度)が異なる。即ち、大気連通口からの距離が遠いノズルほど、増粘の程度は小さくなる。そこで、このようなノズルについてはフラッシング量を少なくすることで、使用前フラッシングで消費される液体量を抑制することができる。
【0014】
尚、本発明において、「大気連通口からノズルまでの距離」とは、大気連通口とノズルとを直線的に結ぶ、いわゆる、最短距離を指すのではなく、大気連通口とノズル間で、実際に空気が行き来する流路に沿った距離のことである。従って、最短距離では大気連通口に近いノズルであっても、キャップ部材内に入り組んだ流路が形成されるなどして、大気連通口からそのノズルに至る流路長さが長い場合には、乾燥の進行は遅くなることからフラッシング量は少なめに設定される。
【0015】
第2の発明の液滴噴射装置は、前記第1の発明において、前記キャップ部材に形成された吸引口に接続され、前記キャップ部材が前記液滴噴射面に接触した状態において、前記キャップ部材内を吸引して前記ノズルから液体を排出させる、吸引パージを行う吸引手段と、前記キャップ部材の前記吸引口が前記吸引手段に接続された吸引パージ可能状態と、前記吸引口が大気に連通した大気連通状態の、前記吸引口の2つの状態を切り換える切り換え手段とを有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、ノズルを覆うキャップ部材が、吸引パージの実行と、ヘッド休止時におけるノズルの保護及び乾燥防止の、両方の目的に兼用される。即ち、切り換え手段により、吸引パージを行う際にはキャップ部材の吸引口は吸引手段に接続される一方で、ヘッドの休止時には吸引口は大気に連通される。そして、ヘッド休止後の使用前フラッシングにおいては、大気連通状態の吸引口からの距離が遠いノズルほど乾燥の進行が遅いことから、そのようなノズルのフラッシング量を少なくする。
【0017】
第3の発明の液滴噴射装置は、前記第2の発明において、前記複数のノズルは所定の一方向に配列され、前記キャップ部材の吸引口は、前記液滴噴射面に接触したときに、前記複数のノズルのうちの配列方向一端側に位置するノズルと対向する位置に形成され、前記フラッシング制御手段は、前記複数のノズルのうち、前記配列方向における他端側に位置するノズルほど、フラッシング量を少なくすることを特徴とするものである。
【0018】
吸引口がキャップ部材の中央部分にある場合、吸引パージ後にキャップ部材を液滴噴射面から離してから、キャップ部材内に溜まった液体を排出する際に、キャップ部材の隅部に液体が残りやすい。そのため、吸引口がキャップ部材の隅部付近に位置して、キャップ部材内の液体をほぼ完全に排出できるように、吸引口がノズル列の一端部と対向する位置に形成されていることが好ましい。このとき、ノズル列の他端部にあるノズルは、吸引口からの距離が遠くなるから、使用前フラッシングを行う際には前記他端部のノズルについてはフラッシング量を少なくする。
【0019】
第4の発明の液滴噴射装置は、前記第2又は第3の発明において、前記キャップ部材内に、前記吸引パージ時におけるキャップ部材の変形を抑制するための、板状のキャップチップが収容されていることを特徴とするものである。
【0020】
キャップ部材内に、キャップ部材の変形を抑制するための板状のキャップチップが収容されている場合、液滴噴射面の複数のノズルがキャップチップによって蓋をされるような状態になり、また、吸引口とノズルとの間の流路が複雑になる(狭く且つ長くなる)ため、ノズル内の液体の乾燥が抑制される。また、前記流路が複雑であるほど、吸引口からの距離(実際に空気が行き来する流路長さ)が異なるノズル間で乾燥の進行度に大きな差が出る。そこで、特に、キャップチップがキャップ部材内に設けられる場合に、吸引口からの距離に応じてフラッシング量を変えることで、フラッシング時の液体消費量抑制効果が非常に高くなる。
【0021】
第5の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記液滴噴射ヘッドの前記複数のノズルが、大気連通状態の前記キャップ部材により覆われる期間である、前記液滴噴射ヘッドの休止期間を検出する休止期間検出手段を有し、前記フラッシング制御手段は、前記休止期間検出手段で検出された前記休止期間が長いほど、各ノズルのフラッシング量を増加させ、前記大気連通口からの距離が遠いノズルほど、前記休止期間に対応した前記フラッシング量の増加量を少なくすることを特徴とするものである。
【0022】
ヘッドの休止期間が長いほどノズルの乾燥が進行するから、休止期間に応じてフラッシング量を増加させる。しかし、大気連通口からの距離によって、ヘッドの休止期間に応じたノズルの乾燥の進行度は異なる。つまり、休止期間が長くなったときに、大気連通口から遠いノズルであっても多少は乾燥が進行することになるが、前記距離が短いノズルほどには乾燥は進行しないため、フラッシング量の増加量は少なくてよい。
【0023】
第6の発明の液滴噴射装置は、液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面に対して離接可能で、前記複数のノズルの開口を覆う大きさを有し、且つ、吸引口が形成されたキャップ部材と、前記キャップ部材に形成された吸引口に接続され、前記キャップ部材が前記液滴噴射面に接触した状態において、前記キャップ部材内を吸引して前記ノズルから液体を排出させる、吸引パージを行う吸引手段と、前記キャップ部材の前記吸引口が前記吸引手段に接続された吸引パージ可能状態と、前記吸引口が大気に連通した大気連通状態の、前記吸引口の2つの状態を切り換える切り換え手段と、前記液滴噴射ヘッドを制御して、前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルから液滴を噴射させて液体を排出する、フラッシングを行わせるフラッシング制御手段を有し、
前記キャップ部材内に、前記吸引パージ時におけるキャップ部材の変形を抑制するための、板状のキャップチップが収容されており、前記キャップ部材の内面と前記キャップチップによって、前記ノズルから前記吸引口に至る流路が形成され、
前記フラッシング制御手段は、大気連通状態にある前記キャップ部材によって前記液滴噴射面が覆われていた後に行うフラッシングにおいては、前記複数のノズルのうち、前記吸引口に至る前記流路の長さが長いノズルほどフラッシング量を少なくすることを特徴とするものである。
【0024】
本発明は、吸引パージの実行と、ヘッド休止時におけるノズルの保護及び乾燥防止の、両方に兼用されるキャップ部材を前提とする。そして、キャップ部材内には吸引パージ時における変形を防止するためのキャップチップが収容されており、キャップ部材の内面とキャップチップによって、キャップ部材内には、吸引口と複数のノズルとの間に、狭く、且つ、両者の直線距離よりも長い、複雑な流路が形成される。また、ヘッド休止時の大気連通状態でのキャッピングでは、大気連通口までの前記流路の長さが長いノズルにおいては、乾燥の進行度が遅くなる。そこで、上記流路長さが長いノズルほどフラッシング量を少なくすることで、フラッシング時の液体消費量を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ヘッド休止時のキャッピングにおいて、大気連通口から遠く、乾燥の進行が遅いノズルについてはフラッシング量を少なくすることで、使用前フラッシングで消費される液体量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】インクジェットヘッドの平面図である。
【図3】(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図4】キャッピング時における、キャップ部材の搬送方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図5】キャッピング時における、キャップ部材の走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図6】図5に示されるキャップ部材のVI-VI線断面図である。
【図7】プリンタの制御系を概略的に示すブロック図である。
【図8】変更形態に係るキャップ部材の図4相当の断面図である。
【図9】別の変更形態に係るキャップ部材の図4相当の断面図である。
【図10】さらに別の変更形態に係るキャップ部材の図4相当の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【0028】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(液滴噴射装置)は、記録用紙Pが載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4(液滴噴射ヘッド)と、記録用紙Pを走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5と、インクジェットヘッド4の液滴噴射性能の回復・維持に関する各種メンテナンス作業を行うメンテナンスユニット6と、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置7(図7参照)等を備えている。
【0029】
プラテン2の上面には図示しない給紙機構から供給された記録用紙Pが載置される。また、プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール10,11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10,11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。また、2本のガイドレール10,11は、プラテン2から走査方向に沿って図1の左方及び右方に離れた位置まで延在しており、キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙Pと対向する領域(記録領域)から、非記録領域である、プラテン2から左右方向に離れた位置まで移動可能に構成されている。また、キャリッジ3には、2つのプーリ12,13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されたときに、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行に伴って走査方向に移動するようになっている。
【0030】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に取り付けられており、プラテン2の上面と平行な、インクジェットヘッド4の下面が、複数のノズル16が開口するインク噴射面4a(液滴噴射面:図4、図5参照)となっている。そして、このインク噴射面4aの複数のノズル16から、プラテン2に載置された記録用紙Pに対してインクを噴射する。
【0031】
インクジェットヘッド4の具体的な構成について説明する。図2は、インクジェットヘッド4の平面図である、図3(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。図2、図3に示すように、インクジェットヘッド4は、複数のノズル16及び複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成された流路ユニット30と、流路ユニット30の上面に配置された圧電アクチュエータ31とを備えている。
【0032】
図3(b)に示すように、流路ユニット30は4枚のプレートが積層された構造を有し、この流路ユニット30の下面(インク噴射面4a)には複数のノズル16が形成されている。図2に示すように、これら複数のノズル16は搬送方向に配列され、走査方向に並ぶ4列のノズル列33を構成している。4列のノズル列33(33bk、33y、33c、33m)にそれぞれ属するノズル16(16bk、16y、16c、16m)からは、顔料インクであるブラックインクと、染料インクである3色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ)の、合計4色のインクがそれぞれ噴射される。
【0033】
また、流路ユニット30には、複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成され、4列のノズル列33に対応して、複数の圧力室34も4列に配列されている。さらに、流路ユニット30には、それぞれ搬送方向に延在し、4列の圧力室列にブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクを供給する4本のマニホールド35が形成されている。尚、4本のマニホールド35は、流路ユニット30の上面に形成された4つのインク供給口36に接続されている。
【0034】
図3(b)に示すように、圧電アクチュエータ31は、複数の圧力室34を覆う振動板40と、この振動板40の上面に配置された圧電層41と、圧電層41の上面に複数の圧力室34に対応して配置された複数の個別電極42とを備えている。圧電層41の上面に位置する複数の個別電極42は、圧電アクチュエータ31を駆動するドライバIC47とそれぞれ接続されており、ドライバIC47から複数の個別電極42に対して所定の駆動電圧が独立して印加されるようになっている。また、圧電層41の下面に位置する振動板40は金属材料で形成されており、圧電層41を挟んで複数の個別電極42と対向する共通電極の役割を果たす。尚、この振動板40はドライバIC47のグランド配線に接続されて常にグランド電位に保持される。
【0035】
この圧電アクチュエータ31は、ドライバIC47から、ある個別電極42と共通電極としての振動板40の間に所定の駆動電圧が印加されたときに、両者の間に挟まれた圧電層41の圧電変形(圧電歪)によって圧力室34の体積変化を生じさせ、圧力室34内のインクに圧力を付与する。このとき、上記圧力室34に連通するノズル16からインクの液滴が噴射されることになる。
【0036】
図1に戻って、搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18,19を有し、これら2つの搬送ローラ18,19によって、プラテン2に載置された記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送する。
【0037】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙Pに対して、キャリッジ3とともに走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ18,19によって記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送することにより、記録用紙Pに所望の画像や文字等を印刷する。
【0038】
次に、メンテナンスユニット6について説明する。図1に示すように、メンテナンスユニット6は、プラテン2に対して走査方向一方側(図1の右側)に離れた位置(メンテナンス位置:図1に二点鎖線でキャリッジ3が示されているAの位置)に配置されている。このメンテナンスユニット6は、インクジェットヘッド4のインク噴射面4aに接触して複数のノズル16の開口を覆うキャップ部材21と、キャップ部材21に接続された吸引ポンプ23(吸引手段)と、吸引パージ後にインク噴射面4aに付着したインクを拭き取るワイパー22等を備えている。
【0039】
図4は、キャッピング時における、キャップ部材21の搬送方向を含む鉛直面に関する断面図である。また、図5は、キャッピング時における、キャップ部材21の走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。尚、図5では、図4に示されているキャップ駆動機構25の図示を省略している。さらに、図6は、図5に示されるキャップ部材21のVI-VI線断面図である。
【0040】
図4〜図6に示すように、キャップ部材21は、底壁部21aと、この底壁部21aの外周部に設けられたリップ部21bを有する。また、リップ部21bに囲まれたキャップ部材21の内側空間が仕切り壁21cで仕切られることにより、1列のノズル列33bkを構成する複数のブラックのノズル16bkを覆う大きさを有する第1キャップ部26と、3列のカラーのノズル列33y、33c、33mを構成する複数のカラーのノズル16cl(16y、16c、16m)を覆う第2キャップ部27とが形成されている。
【0041】
このキャップ部材21は、モータ等の駆動手段を含むキャップ駆動機構25により昇降駆動され、インク噴射面4aに対して離接する。そして、インク噴射面4aに接触したときには、第1キャップ部26がブラックのノズル16bkを覆うとともに、第2キャップ部27が3色のカラーのノズル16clを覆う。
【0042】
図4に示すように、第1キャップ部26の底壁部と第2キャップ部27の底壁部の、それぞれのノズル配列方向における一端部(搬送方向下流側の端部)には吸引口28,29がそれぞれ形成されている。尚、図5に示すように、吸引口28,29は、走査方向に関しては、キャップ部26,27の底壁部の中央部に形成されている。これら2つの吸引口28,29は、それぞれチューブ50によって切り換えユニット24に接続され、さらに、切り換えユニット24は吸引ポンプ23と接続されている。切り換えユニット24はその内部に切換弁(図示省略)を有し、図5(a)のように、キャップ部材21がキャッピング状態にあるときに、切り換えユニット24は、吸引ポンプ23を、第1キャップ部26と第2キャップ部27の何れか一方に連通させる。その状態で、吸引ポンプ23により連通先のキャップ部26(27)内を吸引して減圧させることで、そのキャップ部26(27)によって覆われたノズル16からインクIを排出させる。即ち、ブラックノズル16bkとカラーノズル16clの吸引パージが個別に行われるようになっている。
【0043】
また、キャップ部材21の第1キャップ部26と第2キャップ部27には、キャップチップ51、52がそれぞれ収容されている。図6に示すように、キャップチップ51,52は共に矩形の板状部材であり、それらの平面サイズは、収容先のキャップ部26,27よりも一回り小さくなっている。このように、2つのキャップ部26,27にキャップチップ51,52がそれぞれ収容されていることで、吸引パージ時の減圧でキャップ部材21が変形することが防止される。また、図4、図5に示すように、キャップ部材21のキャッピング状態において、キャップ部材21の第1キャップ部26及び第2キャップ部27の内面と、キャップチップ51,52の間に、複数のノズル16の開口から吸引口28,29に至る、矢印で示される流路53,54が形成される。
【0044】
吸引パージが終了すると、キャップ駆動機構25によりキャップ部材21が下方へ駆動されて、キャップ部材21はインク噴射面4aから離間する。その後、吸引ポンプ23により、キャップ部26,27内に溜まったインクを吸引して排出する。このとき、キャップ部26,27の隅部においては毛管力の影響からインクが吸引されずに残りやすい。しかし、本実施形態では、下記のように、キャップ部26,27内のインクを確実に排出できる構成が採用されている。
【0045】
まず、キャップ部26,27の吸引口28,29は、キャップ部材21の底壁部の一端部に形成されており、キャッピング状態では、複数のノズル16のうちの配列方向一端側(図4の左側)に位置するノズル16と対向している。この場合、吸引口28,29がキャップ部材21の隅部付近に位置することから、吸引口28,29がキャップ部26,27の中央部分に設けられている場合と比べて、キャップ部26,27の隅部のインクを吸引口28,29から吸い出すことが容易になる。
【0046】
また、キャップ部26,27にはキャップチップ51,52が収容されており、図4〜図6に示すように、キャップ部26,27の内面とキャップチップ51,52との間に、吸引口28,29に至る狭い流路(隙間)53,54が形成される。この流路53,54は、吸引パージでノズル16から排出されたインクが吸引口28,29へ流れるときの流路となる。このような狭い流路53,54においてはインクに強い毛管力が作用するため、キャップ部26,27の隅部に残存する排インクが吸引口28,29へ吸引されやすくなる。
【0047】
ところで、本実施形態では、キャップ部材21は、上述した吸引パージ以外にも、インクジェットヘッド4を使用しない休止時(インクを噴射しない状態)においても用いられる。インクジェットヘッド4の休止時に、キャップ部材21がインク噴射面4aに接触して複数のノズル16の開口を覆うことによって、ノズル16を保護するとともに及びノズル16内のインクの乾燥を抑制する。
【0048】
また、本実施形態では、切り換えユニット24が大気連通部24aを有し、インクジェットヘッド4が休止しているときのキャッピング時に、キャップ部材21内の空間が呼吸可能となるように、切り換えユニット24は2つの吸引口28,29を大気連通部24aを介して大気と連通させる。これにより、外気の温度変化に起因するキャップ部材21内の内圧変動によって、キャップ部材21が変形して一部がインク噴射面4aから離れてしまうことが防止される。即ち、切り換えユニット24が、キャップ部材21の吸引口28,29が吸引ポンプ23に接続された吸引パージ可能状態と、大気に連通した大気連通状態とを切り換える、本願発明の切り換え手段に相当する。
【0049】
図1に戻って、ワイパー22はキャップ部材21よりもプラテン2側の位置に立設されており、吸引パージ後に、このワイパー22の先端がインク噴射面4aに接触した状態でキャリッジ3が走査方向に移動することによって、ワイパー22はインク噴射面4aに対して相対的に移動し、インク噴射面4aに付着したインクを拭き取る(以下、ワイピングともいう)。
【0050】
また、本実施形態のプリンタ1は、適宜のタイミングで、インクジェットヘッド4の複数のノズル16からそれぞれインクを噴射させてインクを排出する、フラッシングを行うように構成されている。図1に示すように、プラテン2を挟んでメンテナンスユニット6と反対側の位置(フラッシング位置:図1に二点鎖線でキャリッジ3が示されているBの位置)に、液受け部材58が設置されている。そして、インクジェットヘッド4は、キャリッジ3がフラッシング位置Bまで移動した後にフラッシングを行い、フラッシングによってノズル16から排出されたインクは液受け部材58に受け止められる。
【0051】
本実施形態では、メンテナンスユニット6による吸引パージ等の一連のメンテナンスが終了した直後にフラッシング(パージ後フラッシング)を行う。吸引パージで排出された排インクの一部はインク噴射面4aに付着し、この排インクは、キャップ部材21がインク噴射面4aから離間する際に、インクジェットヘッド4内の背圧によってノズル16内に吸い込まれる。そこで、吸引パージ後にキャップ部材21がインク噴射面4aから離間し、さらに、ワイパー22によるワイピングの後に、フラッシングを行うことで、ノズル16に吸い込まれた排インクを排出する。
【0052】
また、インクジェットヘッド4の休止時には、ノズル16はキャップ部材21に覆われているといえども、キャップ部材21が大気連通状態であることからノズル16内のインクには乾燥(増粘)が生じる。そこで、このような増粘インクをノズル16から排出するために、インクジェットヘッド4の使用開始前にフラッシング(使用前フラッシング)を行う。
【0053】
次に、制御装置7を中心とするインクジェットプリンタ1の制御系について、図7のブロック図を参照して詳細に説明する。図7に示されるプリンタ1の制御装置7は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むマイクロコンピュータを備え、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、以下に説明するような種々の制御を行う。あるいは、制御装置7は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたハードウェア的なものであってもよい。
【0054】
この制御装置7は、インクジェットヘッド4を制御するヘッド制御部61と、キャリッジ3を走査方向に駆動するキャリッジ駆動モータ15を制御するキャリッジ制御部62と、搬送機構5を制御する搬送制御部63とを含む、印刷制御部60を有する。印刷制御部60は、PC70から入力された、印刷する画像等に関するデータ(印字データ)に基づき、インクジェットヘッド4、キャリッジ駆動モータ15、及び、搬送機構5をそれぞれ制御して、記録用紙Pへの印刷を行わせる。
【0055】
また、制御装置7は、メンテナンスユニット6の吸引ポンプ23やキャップ部材21を昇降させるキャップ駆動機構25のモータ等の駆動手段を制御して、前述した吸引パージを含む一連のメンテナンス動作を制御するメンテナンス制御部65と、インクジェットヘッド4のフラッシングを制御するフラッシング制御部66とを備えている。
【0056】
さらに、制御装置7は、PC70から印刷指令が届いてインクジェットヘッド4が使用されるときに、それまでの休止中にキャップ部材21によってキャッピングされた期間、即ち、インクジェットヘッド4の休止期間を検出する休止期間検出部67(休止期間検出手段)を有する。休止期間検出部67によるインクジェットヘッド4の休止期間の検出としては、様々な手法を採用できるが、例えば、メンテナンス制御部65により制御される、インクジェットヘッド4の休止時におけるキャップ部材21の離接駆動のタイミング(即ち、キャッピング及びキャップリリースが行われた時刻)から、休止期間を検出することができる。
【0057】
インクジェットヘッド4の休止期間が短い場合にはインクの増粘がそれほど進んではいないことから、フラッシングで増粘インクを排出することが可能である。そこで、休止期間検出部67で検出された休止期間が所定期間(例えば、1週間程度の期間)を超えていない場合には、フラッシング制御部66はインクジェットヘッド4に使用前フラッシングを実行させる。また、後ほど説明するが、フラッシング制御部66は、インクジェットヘッド4の休止期間に応じて、各ノズル16のフラッシング量を変更するという制御も行う。一方、休止期間が前記所定期間を超えている場合には、メンテナンス制御部65はメンテナンスユニット6に吸引パージを実行させて、吸引パージによってノズル16内の増粘インクを排出するようになっている。
【0058】
尚、上述したヘッド制御部61、キャリッジ制御部62、搬送制御部63、メンテナンス制御部65、フラッシング制御部66、及び、休止期間検出部67のそれぞれの機能は、実際には、制御装置7を構成するマイクロコンピュータの動作、あるいは、演算回路を含む各種回路の動作によって実現される。
【0059】
次に、フラッシング制御部66(フラッシング制御手段)によるインクジェットヘッド4のフラッシング制御について詳細に説明する。
【0060】
まず、メンテナンスユニット6による、吸引パージ、及び、その後のワイピング等の一連のメンテナンス動作が終了した後に、フラッシング制御部66は、ノズル16に吸い込まれた排インクを排出するために、インクジェットヘッド4にフラッシングを実行させる(パージ後フラッシング)。
【0061】
また、フラッシング制御部66は、インクジェットヘッド4が使用されていない状態から、印刷指令が届いて使用を開始する際に、休止中に増粘したインクをノズル16から排出するために、インクジェットヘッド4にフラッシングを実行させる(使用前フラッシング)。
【0062】
ここで、インクジェットヘッド4の休止時には、インク噴射面4aにキャップ部材21が接触して複数のノズル16がキャップ部材21(キャップ部26,27)に覆われるが、前述したように、キャップ部材21の2つのキャップ部26,27の吸引口28,29は、切り換えユニット24により大気に連通されている。従って、2つのキャップ部26,27の内部には、それぞれ、吸引口28,29からの距離に応じた湿度分布が存在している。それ故、キャップ部26,27で覆われている複数のノズル16のうち、吸引口28,29からの距離が遠い、即ち、ノズル16から吸引口26,27に至る流路の長さが長いノズル16ほど、インクが乾燥の進行が遅く、インクの増粘の程度が低くなる。
【0063】
具体的には、吸引口28,29と対向する、ノズル列33の一端側(図4の左側)のノズル16は吸引口28,29からの距離が短いため、このようなノズル16の開口付近の湿度は低く、乾燥の進行が速い。一方、ノズル列33の他端側(図4の右側)に位置するノズル16は、吸引口28,29からの距離が遠いため、ノズル16の開口付近の湿度が高く、乾燥の進行は遅い。
【0064】
尚、図4のように、キャップ部26,27内にキャップチップ51,52が収容されている場合には、キャップチップ51,52の周囲に、矢印で示される狭い流路53,54(隙間)が形成される。このとき、上に記載した「吸引口からノズルまでの距離」とは、吸引口28,29とノズル16とを直線的に結ぶ、いわゆる、最短距離ではなく、吸引口28,29とノズル16との間で、空気が行き来する流路53,54に沿った距離のことである。従って、例えば、ノズル列33の配列方向中央部に位置するノズル16(16a)と吸引口28,29との距離は、最短距離(直線距離)では、ノズル列33の図中右端に位置するノズル16と比べて短いが、ノズル16aと吸引口28,29の間にキャップチップ51,52が介在しているために、キャップチップ51,52の外周の流路53,54に沿った距離では遠くなる。従って、このノズル16aの開口付近の湿度は、図4の右端部に位置するノズル16よりもさらに高くなり、乾燥進行は遅くなる。
【0065】
また、図5に示すように、第2キャップ部27に覆われる3種類のカラーノズル16clに関して言えば、中央に位置するシアンのノズル16cが吸引口29と対向しており、直線距離では最も吸引口29に近い。しかし、流路54に沿った距離では、このシアンのノズル16cは、イエローのノズル16yやマゼンタのノズル16mと比べると吸引口29から離れた位置にあり、乾燥の進行は遅い。
【0066】
そして、フラッシング制御部66は、全てのノズル16についてフラッシング量を一律にするのではなく、上述したような吸引口28,29からの距離が遠い(流路長さが長い)ノズル16ほど、フラッシング量を少なくする。これにより、使用前のフラッシングにおけるインク消費量を抑えることができる。ノズル16毎でフラッシング量を異ならせるには、フラッシングの発数(連続噴射回数)を変える、あるいは、1発のフラッシングで噴射する液滴量を変えるといった手法を採用すればよい。
【0067】
また、本実施形態では、キャップ部26,27にキャップチップ51,52が収容されているために、図4、図5のように、インク噴射面4aの複数のノズル16がキャップチップ51,52によって蓋をされるような状態になっている。さらに、吸引口28,29とノズル16との間の流路53,54が複雑になる(狭く且つ長くなる)ため、ノズル16内のインクの乾燥が抑制される。さらに、前記流路53,54が複雑になっていると、吸引口28,29からの距離(実際に空気が行き来する流路の長さ)が異なるノズル16間で、インクの乾燥進行にさらに大きな差が出る。つまり、特に、キャップチップ51,52がキャップ部材21内に設けられている場合に、上述したように、吸引口28,29からの距離に応じてフラッシング量を変えることで、フラッシング時のインク消費量抑制効果が非常に高くなる。
【0068】
また、先にも少し触れたが、フラッシング制御部66は、休止期間検出部67により検出されたインクジェットヘッド4の休止期間(キャップ部材21によるキャッピング期間)が長いほど、フラッシング量を増加させる。但し、吸引口28,29からの距離が遠いノズル16では、距離が近いノズル16と比べて、休止期間が長くなっても乾燥の進行度はそれほど大きくは変化しない。そこで、吸引口28,29からの距離が遠いノズル16ほど、インクジェットヘッド4の休止期間に応じてフラッシング量を増加させるときの増加量を少なく設定する。
【0069】
例えば、フラッシング発数によりフラッシング量を変える場合を考える。このとき、吸引口に最も近いノズルと、最も遠いノズルで、休止期間に応じたフラッシング量の増加量を以下のように設定することができる。
【0070】
[吸引口に最も近いノズル]
休止期間が1日のときのフラッシング量:20発
休止期間が1日増えたときのフラッシング増加量:10発
[吸引口に最も遠いノズル]
休止期間が1日のときのフラッシング量:10発
休止期間が1日増えたときのフラッシング増加量:3発
この場合、休止期間が3日であった場合のフラッシング量(フラッシング発数)は、
吸引口に最も近いノズル:20発+10発×(3−1)=40発
吸引口に最も遠いノズル:10発+3発×(3−1)=16発
となる。
【0071】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0072】
1]図8に示すように、キャップ部材21内に、多孔質部材からなるフォーム71が収容されていてもよい。この形態では、複数のノズル16と吸引口28,29とが、フォーム71に形成された多数の孔からなる複雑な流路によって接続されるため、全体的にノズル16に乾燥は生じにくい。しかし、この場合でも、吸引口28,29から遠い位置にあるノズル16は、吸引口28,29に近いノズル16よりもさらに乾燥が生じにくいことは容易に理解される。そこで、前記実施形態と同様に、吸引口28,29からの距離が遠いノズル16ほどフラッシング量を少なくする。
【0073】
2]図9に示すように、キャップ部材21に、前述したキャップチップ51,52(図4、図5)やフォーム71(図8)などが収容されていない形態でも、本願発明を適用できる。この場合には、複数のノズル16と吸引口28,29との間に介在物が存在しないため、直線距離で吸引口28,29からの距離が遠いノズル16ほどフラッシング量を少なくする。
【0074】
4]前記実施形態のキャップ部材21は、吸引ポンプ23に接続されており、吸引パージ用のキャップ部材21を兼ねるものであったが、図10のように、キャップ部材21が、吸引ポンプ23とは接続されない、ノズル保護及び乾燥防止の専用のキャップであってもよい。この場合でも、キャッピング時の内圧変動防止のために、キャップ部材21には大気連通口72が形成され、キャッピング状態ではキャップ部材21内の空間は大気連通状態となっている。そして、大気連通口72からの距離が遠いノズル16ほど、使用前フラッシングにおけるフラッシング量を少なくする。尚、大気連通口72の形成位置は、図10に示されるキャップ部材21の底壁部21aの端部に限定されるものではなく、大気連通口72がキャップ部材21の底壁部21aの中央部に形成されてもよいし、あるいは、リップ部21bに形成されてもよい。
【0075】
3]前記実施形態では、図5に示すように、ブラックのノズル16bkと3色のカラーのノズル16clとが、別々のキャップ部25,26によって覆われていたが、1つのキャップ部材21によって4種類のノズル16が共通に覆われてもよい。あるいは、4種類のノズル16が、仕切り壁21cによって互いに仕切られた4つのキャップ部でそれぞれ覆われてもよい。
【0076】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、インクジェットプリンタに適用したものであるが、画像記録以外の用途で使用される液滴噴射装置においても、ヘッド休止時のノズルの乾燥という問題は生じ得ることから、様々な分野で使用される液滴噴射装置に対しても、本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 インクジェットプリンタ
4 インクジェットヘッド
4a インク噴射面
16 ノズル
21 キャップ部材
23 吸引ポンプ
24 切り換えユニット
28,29 吸引口
51,52 キャップチップ
53,54 流路
66 フラッシング制御部
67 休止期間検出部
72 大気連通口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、
前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面に対して離接可能で、前記複数のノズルの開口を覆う大きさを有し、且つ、大気連通口が形成されたキャップ部材と、
前記液滴噴射ヘッドを制御して、前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルから液滴を噴射させて液体を排出する、フラッシングを行わせるフラッシング制御手段を有し、
前記フラッシング制御手段は、
大気連通状態にある前記キャップ部材によって前記液滴噴射面が覆われていた後に行うフラッシングにおいては、前記複数のノズルのうち、前記キャップ部材の前記大気連通口からの距離が遠いノズルほどフラッシング量を少なくすることを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項2】
前記キャップ部材に形成された吸引口に接続され、前記キャップ部材が前記液滴噴射面に接触した状態において、前記キャップ部材内を吸引して前記ノズルから液体を排出させる、吸引パージを行う吸引手段と、
前記キャップ部材の前記吸引口が前記吸引手段に接続された吸引パージ可能状態と、前記吸引口が大気に連通した大気連通状態の、前記吸引口の2つの状態を切り換える切り換え手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の液滴噴射装置。
【請求項3】
前記複数のノズルは所定の一方向に配列され、
前記キャップ部材の吸引口は、前記液滴噴射面に接触したときに、前記複数のノズルのうちの配列方向一端側に位置するノズルと対向する位置に形成され、
前記フラッシング制御手段は、前記複数のノズルのうち、前記配列方向における他端側に位置するノズルほど、フラッシング量を少なくすることを特徴とする請求項2に記載の液滴噴射装置。
【請求項4】
前記キャップ部材内に、前記吸引パージ時におけるキャップ部材の変形を抑制するための、板状のキャップチップが収容されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の液滴噴射装置。
【請求項5】
前記液滴噴射ヘッドの前記複数のノズルが、大気連通状態の前記キャップ部材により覆われる期間である、前記液滴噴射ヘッドの休止期間を検出する休止期間検出手段を有し、
前記フラッシング制御手段は、
前記休止期間検出手段で検出された前記休止期間が長いほど、各ノズルのフラッシング量を増加させ、
前記大気連通口からの距離が遠いノズルほど、前記休止期間に対応した前記フラッシング量の増加量を少なくすることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の液滴噴射装置。
【請求項6】
液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、
前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面に対して離接可能で、前記複数のノズルの開口を覆う大きさを有し、且つ、吸引口が形成されたキャップ部材と、
前記キャップ部材に形成された吸引口に接続され、前記キャップ部材が前記液滴噴射面に接触した状態において、前記キャップ部材内を吸引して前記ノズルから液体を排出させる、吸引パージを行う吸引手段と、
前記キャップ部材の前記吸引口が前記吸引手段に接続された吸引パージ可能状態と、前記吸引口が大気に連通した大気連通状態の、前記吸引口の2つの状態を切り換える切り換え手段と、
前記液滴噴射ヘッドを制御して、前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルから液滴を噴射させて液体を排出する、フラッシングを行わせるフラッシング制御手段を有し、
前記キャップ部材内に、前記吸引パージ時におけるキャップ部材の変形を抑制するための、板状のキャップチップが収容されており、前記キャップ部材の内面と前記キャップチップによって、前記ノズルから前記吸引口に至る流路が形成され、
前記フラッシング制御手段は、
大気連通状態にある前記キャップ部材によって前記液滴噴射面が覆われていた後に行うフラッシングにおいては、前記複数のノズルのうち、前記吸引口に至る前記流路の長さが長いノズルほどフラッシング量を少なくすることを特徴とする液滴噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−76253(P2012−76253A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220902(P2010−220902)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】