説明

液状安定剤のための金属石けんの存在下におけるホスファイト反応

【解決手段】本発明は、ポリ塩化ビニル組成物に熱安定性を付与するために適する、本質的に溶剤を含まないところの液状安定剤を製造する方法であって、水を除去しながら、一つ以上の有機ホスファイトエステル反応性溶剤の存在下に一つ以上のカルボン酸を一つ以上の金属源と反応させること、ここで、該金属源の金属は、Ca、Ba、Zn、Sr、K及びCdより成る群から選ばれる、トリオーガニックホスファイト、有機酸ホスファイト、ジホスファイト及びポリホスファイトより成る群から選ばれる一つ以上の有機ホスファイトエステルを加え、そしてフェノールを留去しながら、上記一つ以上の有機ホスファイトエステル反応性溶剤を該有機ホスファイトエステルと反応させること、及び任意的に、該反応混合物に上記一つ以上の有機ホスファイトエステルを添加する前、間、又は後に、当業者に公知の一つ以上添加剤を加えることの段階を含むところの方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つ以上の有機ホスファイトエステルを含む、ハロゲン化ビニルポリマーのための液状安定剤の新規な製造方法、そのようにして得られた液状安定剤、該液状安定剤を含む安定化されたハロゲン化ビニルポリマー、及びそれから形成された成形物品に関する。
【背景技術】
【0002】
通常知られているように、塩化ビニルポリマー及びコポリマーは、成形、押出、及び注型法により種々の成形物品の製造のために利用される。これらの方法において、最大180〜200℃の高温が、ポリマーを十分に軟らかい状態にするために要求される。これらの温度において、塩化ビニルに基づいたポリマーはかなりの分解を受け、それは変色及びそれらの機械的性質の低下をもたらす。これらの不利益な変化又は効果を最小にするために、安定剤がポリマー供給物に加えられ得る。塩基性物質、例えば、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カルシウム又は水酸化カルシウムの添加が、熱分解を抑制することによりこのタイプのポリマーを安定化することが通常知られている。特に有効な安定化化合物は、脂肪酸の塩基性金属石けんを含むことが分かっていた。例えば、米国特許第4,102,839号明細書は、有機カルボン酸及びβ‐ジケトン又はβ‐ケト‐アルデヒドの二価の金属塩を含むところの、塩化ビニルポリマーに対する耐熱性並びに熱分解に対する安定性を付与する安定剤組成物を開示する。
【0003】
上記の金属石けん安定剤の使用の起こり得る欠点は、過剰なカルボキシレートの存在の故に、該安定剤が、ハロゲン化ビニルポリマーの加工の間及び完成したビニルプラスチック製品において、ハロゲン化ビニルポリマーとより大きく又はより少ない度合の不相溶性を生じ得ることである。これは、硬化及び加工中にビニル樹脂化合物の表面に、同化していないカルボキシレートの移行をもたらし、これは、ビニルプラスチックの曇り又は変色により目に見えてくる。更に、運搬装置上に所望されないプレートアウトが生じ、並びに、老化又は風化作用に対する曝露においてしみだすところの所望されないスカムが生ずる。トリオーガニックホスファイトの添加がこれらの欠点を克服することを助けることは、例えば、米国特許第2,564,646号明細書又は米国特許第3,519,584号明細書から公知である。米国特許第2,564,646号明細書は、アルキル及びアリールトリオーガニックホスファイトがこの目的のために使用され得ることを示しているのに対して、米国特許第3,519,584号明細書は、ポリマーにある非対称アルカリ土類金属カルボキシレートホスファイトを組み込むことにより、上記の問題が回避され得ることを開示している。有機スズメルカプチド、有機ホスファイト、及びカルボン酸の亜鉛塩から成る安定剤組成物は、欧州特許第0211414号公報に開示されている。該組成物は、PVCに含められた後にPVCに改善された透明性を付与するとして開示されている。
【0004】
通常、カルボン酸金属塩‐有機ホスファイトエステル安定剤組成物は2段階で製造される。第1段階において、カルボン酸金属塩が製造され、そして続いて、一つ以上の有機ホスファイトエステル成分が加えられる。カルボン酸金属塩のカルボン酸成分はしばしば(C6〜C26)脂肪族酸及び(C7〜C19)芳香族酸の混合物である。これらの塩の製造は通常、加工の容易性のために塩の粘度を減じるため及び反応混合物からの水の除去を助けるために溶剤の使用を要求する。カルボン酸金属塩‐有機ホスファイトエステル安定剤の製造の間に均一混合物を維持すること及び完成した安定剤のための良好な長期間貯蔵性を与えることの両方が必要である故、溶剤の選択は非常に重要である。アルコール溶剤はしばしばこれらの要求を満たし、そしてそれ故、このタイプの液状安定剤の製造において典型的に採用される。
【0005】
液状安定剤の有機ホスファイトエステル成分は当業者に公知のように、通常、トリオーガニックホスファイト又は有機酸ホスファイトを所望のアルコールとエステル交換することにより製造される。適切に、それは、下記式
【化1】


に従って、塩基触媒の存在下にフェノールの除去下にトリフェニルホスファイト又はジフェニル酸ホスファイトのエステル交換により形成される。このようにして得られたトリオーガニックホスファイト及び/又は有機酸ホスファイトが、カルボン酸金属塩‐溶剤混合物に加えられて、所望の有機安定剤を提供する。
【0006】
僅かに適合した製造法の例は、国際特許出願公開第96/15186号公報において見出され得、これは、トリオーガニックホスファイト及びカルボン酸金属塩を含む液状安定剤に関する。とりわけ、この文献に開示された液状安定剤は、バリウム及び亜鉛、直鎖及び分岐の脂肪族飽和及び不飽和カルボキシレートより成る群から選ばれた一つ以上の脂肪族カルボキシレート、8〜10個の炭素原子を含む一つ以上の芳香族カルボキシレート、一つ以上のトリオーガニックホスファイト、及び一つ以上の有機酸ホスファイトを含む。最も好ましいカルボキシレートは、オレエート及びオクタノエートの異性体、例えば、2‐エチルヘキサノエートを含むことを示される。この安定剤を作るための最も便利な方法は、第1段階で、既に製造されたバリウム‐亜鉛‐カルボン酸塩混合物、20℃で液体であるところのトリオーガニックホスファイト、及び20℃で液体であるところの有機酸ホスファイトを混合することを開示する。しばしば、ある量の溶剤又は希釈剤が、該混合物が過度に粘性になることを防ぐために加えられなければならない。第2段階において、追加の固体成分、例えば、追加のカルボン酸バリウム及び/又はカルボン酸亜鉛が加えられ、ある量の溶剤、好ましくはイソデシルアルコール及びミネラルスピリッツと一緒にされて、良好な混合を提供する。このようにして得られた液状安定剤組成物はPVCに熱安定性を与える。
【0007】
目的の安定剤組成物におけるアルコール溶剤の存在はいくつかの主要な欠点を有することを見出した。第1に、これらは、安定剤の製造の間及び塩化ビニルポリマーの加工の間の両方において、有機ホスファイトエステルと反応して、フェノール又はアルキル化フェノール成分を生ずる傾向がある。アルコール溶剤、フェノール、及びアルキル化フェノールは全て、安定剤の製造の間並びに塩化ビニルポリマーの加工の間及び最終成形物品において存在する所望されない揮発分の量の原因となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
低揮発性、低フェノール濃度、及び低フェノール形成を持つ製品のための高められた要求がある故に、ハロゲン化ビニル製品に揮発分を導入しないところの液状安定剤組成物を提供することが本発明の目的である。更に、改善された安定化性を有するところの、一つ以上の有機ホスファイトエステル及び一つ以上のカルボン酸金属塩を含む液状安定剤を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、インサイツ製造法を経てカルボン酸金属塩‐有機ホスファイトエステル液状安定剤を製造することにより実現される。これは、一つ以上の有機ホスファイトエステル成分が一つ以上のカルボン酸金属塩成分の存在下に製造されることを意味する。本明細書において使用される術語有機ホスファイトエステルは、P(OR)3の一般式を持つトリオーガニックホスファイト、(RO)2P(O)Hの一般式を持つ有機酸ホスファイト、及びRO-[P(OR)-O-R’-O]n-P(OR)2の一般式を持つジ‐及びポリホスファイトの全てを呼ぶことを意味されることが示される。ここで、各Rは独立して、C7〜C18のアルキル芳香族基、直鎖又は分岐のC6〜C14の脂肪族基、及びフェニル基より成る群から選ばれ、R’は任意の慣用の架橋基であり得、かつnは1〜3,000である。本発明に従う方法において、ハロゲン化ビニルポリマーにおける安定化効果に寄与しないところの本質的に全ての溶剤又は希釈剤が除去される。この様式において、一つ以上の有機ホスファイトエステル及び一つ以上のカルボン酸金属塩成分を含む新規な液状安定剤組成物が得られ、これは本質的に溶剤を含まず、かつハロゲン化ビニルポリマーの熱媒介された劣化に対する耐性を増大することに有効である。更に、それは改善された透明性を持つ最終製品を与える。
【0010】
より詳細には、本質的に溶剤を含まないところの液状安定剤の製造のための本発明に従う方法は、
‐水を除去しながら、一つ以上の有機ホスファイトエステル反応性溶剤の存在下に一つ以上のカルボン酸を一つ以上の金属源と反応させること、ここで、該金属源の金属は、Ca、Ba、Zn、Sr、K及びCdより成る群から選ばれる、
‐得られた反応混合物に一つ以上の有機ホスファイトエステルを加え、そして生成した又は遊離の脂肪族及び/又は芳香族アルコールを留去しながら、該有機ホスファイトエステル反応性溶剤を該有機ホスファイトエステルと反応させること、及び
任意的に、該反応混合物に一つ以上の有機ホスファイトエステルを添加する前、間、又は後に、酸化防止剤、金属中間体(metal intermediate)、補助安定剤、PVC許容性添加剤、有機酸ホスファイト、トリオーガニックホスファイト及びジホスファイト、又はこれらの混合物を加えること
の段階を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に従う液状安定剤組成物を製造する方法において使用するための適切なカルボン酸は、任意の慣用の酸を含む。好ましくは、直鎖又は分岐のC6〜C26の脂肪族酸及び/又はC7〜C19の芳香族酸が使用される。より好ましくは、カルボン酸は、安息香酸、トルイル酸、ターシャリー-ブチル安息香酸、C8〜C10の脂肪族酸、及びC18の脂肪族酸より成る群から選ばれる。該脂肪酸は最大3個の二重結合を含み得る。本発明に従う方法において、一つ以上の適切なカルボン酸が使用され得る。特に好ましい実施態様において、二つ以上のカルボン酸の混合物が使用される。これらの一つ以上のカルボン酸は、適切な溶剤、又は適切な溶剤混合物と混合される。得られた反応混合物に、一つ以上の金属源が慣用量で加えられる。この目的のために特に適する金属源は、Ca、Ba、Zn、Sr、K、及びCdの任意の慣用の塩、例えば、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化バリウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、水酸化ストロンチウム、水酸化カリウム、酸化カドミウム、又は水酸化カドミウムを含む。好ましい実施態様において、好ましくは、バリウム及び亜鉛又はカルシウム及び亜鉛の塩を含むところの二つ以上の金属源が使用される。一つ以上の金属源を一つ以上のカルボン酸と反応させると、水が生成し、これは反応混合物から取り除かれる。水の除去は、任意の慣用の様式、しかし、好ましくは、蒸留又はメンブレン分離法により達成され得る。
【0012】
本発明に従う方法ために適する溶剤は、異なる有機ホスファイトエステルを形成するために有機ホスファイトエステルをエステル交換し得るところのヒドロキシル溶剤である。故に、これらは、本明細書において「有機ホスファイトエステル反応性溶剤」と呼ばれる。もし、該溶剤及び該有機ホスファイトエステルの50/50モル混合物において、1モル%の水酸化カリウム又は他の適切な触媒の存在下に、少なくとも10モル%の溶剤が、140℃で2時間、該混合物を加熱した後に有機ホスファイトエステルと反応したなら、溶剤は、有機ホスファイトエステルと反応することができると考えられる。便利には、もし、適切な溶剤のためのスクリーニングがなされるなら、トリフェニルホスファイトが有機ホスファイトとして、かつKOHが触媒として使用される。これらの溶剤は、それらが該方法の第1段階において生成された水と一緒に取り除かれないほどに低揮発性であることが重要である。術語「低揮発性」はそれ故、水より高い沸点を有する溶剤を示すことが注意される。好ましくは、有機ホスファイトエステル反応性溶剤は、低揮発性アルコール及びグリコールの群から選ばれる。使用され得るところのアルコールの非限定的リストは、C6〜C14の直鎖又は分岐アルコール、イソデカノール、トリデカノール、アルコールの工業的混合物、2‐エチルヘキサノール、ブチルジオキシトール、メチルジオキシトール、ブチルフェノール、ジブチルフェノール、トリブチルフェノール、及び2,4‐ジクミルフェノールを含む。使用され得るところのポリオールの非限定的リストは、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、及びビスフェノールFを含む。好ましくは、有機ホスファイトエステル反応性溶剤は、2‐エチルヘキサノール、イソデカノール、及びトリデカノールより成る群から選ばれる。最も好ましくは、イソデカノール又はトリデカノールが使用される。本発明に従う方法において、二つ以上の上記の有機ホスファイトエステル反応性溶剤の混合物が使用され得る。しかし、好ましくは一つの単一の溶剤が使用される。
【0013】
本発明に従う方法において出発物質としての使用のために適している有機ホスファイトエステルは、
式(RO)3P
(ここで、各Rは独立して、C7〜C18のアルキル芳香族基、直鎖又は分岐のC6〜C14の脂肪族基、及びフェニル基より成る群から選ばれる)
のトリオーガニックホスファイト、
式(RO)2P(O)H
(ここで、Rは上記と同一の意味を有する)
の有機酸ホスファイト、及び
式RO-[P(OR)-O-R’-O]n-P-(OR)2
(ここで、Rは上記と同一の意味を有し、R’は任意の慣用の架橋基であり得、かつnは1〜3,000、好ましくは1〜1,000、かつ最も好ましくは1〜500である)
のジホスファイト及びポリホスフィト
より成る群から選ばれる有機ホスファイトエステルを含む。
【0014】
好ましくは、該有機ホスファイトエステルは、少なくとも一つのC7〜C18のアルキル芳香族基を含むが、最も好ましくは、該有機ホスファイトエステルは、少なくとも一つのフェニル基を含む。本発明において使用され得るところの例示的な追加の有機ホスファイトエステルの非限定的一覧は、テトラフェニルジプロピレン‐グリコールジホスファイト、ジフェニルペンタエリトリトールジホスファイト、ポリ‐4,4’‐イソプロピリデンジフェノールテトラフェノールホスファイト、及びポリ(ジプロピレングリコール)フェニルホスファイトを含む。有機ホスファイトエステルは好ましくは、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ブチルジオキシチルノニルフェニルフェニルホスファイト、ブチルジオキシチルジノニルフェニルホスファイト、ジブチルジオキシチルノニルフェニルホスファイト、テトラフェニルジプロピレン‐グリコールジホスファイト、及びジフェニル酸ホスファイトより成る群から選ばれる。特に好ましい実施態様において、一つ以上のカルボン酸金属塩に加えられる有機ホスファイトエステルはトリフェニルホスファイトである。何故ならば、それは容易に入手可能であり、かつ安価である。
【0015】
一つ以上の有機ホスファイトエステルを一つ以上の有機ホスファイトエステル反応性溶剤と反応(即ち、エステル交換反応)すると、ROHの一般式を有する化合物が遊離され、ここで、使用された有機ホスファイトエステルに依存してRは、C7〜C18のアルキル芳香族基、直鎖又は分岐のC6〜C14の脂肪族基、又はフェニル基である。好ましくは、有機ホスファイトエステル中のR基の少なくとも一つがC7〜C18のアルキル芳香族基である故、好ましくは、フェノール誘導された生成物の少なくとも一つの等価物が生成される。更により好ましくは、有機ホスファイトエステル中のR基の少なくとも一つがフェニル基であり、これは、特に好ましい実施態様において、少なくとも一つのフェノール等価物が遊離することを意味する。生成された脂肪族又は芳香族アルコールの除去は、好ましくは少なくとも160℃、より好ましくは少なくとも170℃、かつ最も好ましくは180℃の温度、及び好ましくは40mmHg未満、より好ましくは25mmHg未満、かつ最も好ましくは20mmHg未満の減圧において行われる。好ましくは、本質的に全ての生成した脂肪族アルコール、フェノール及びフェノール誘導生成物が留去されるところの温度は、240℃、より好ましくは230℃、かつ最も好ましくは210℃を超えない。減圧は好ましくは、4mmHg未満ではなく、より好ましくは6mmHg未満ではなく、かつ最も好ましくは8mmHg未満ではない。好ましくは、もし存在するなら、有機ホスファイトエステルと反応しなかった、安定剤組成物中の過剰の有機ホスファイトエステル反応性溶剤がまたこの段階で取り除かれる。
【0016】
好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、更に好ましくは少なくとも95重量%、かつ最も好ましくは本質的に全ての、最終組成物に存在する有機ホスファイトエステルは、出発物質として使用される有機ホスファイトエステルと一つ以上の有機ホスファイトエステル反応性溶剤との間の反応の生成物である。本質的に有機ホスファイトエステル反応性溶剤が残存しないので、得られた有機ホスファイトエステル成分は、安定剤製造又は貯蔵の間に非常に少ない続くエステル交換を示すであろう。そしてそれ故、非常に少しのフェノール又はアルキル化フェノールが放出されるであろう。本発明に従うインサイト法において好ましく形成されるところの有機ホスファイトエステルは、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルイソデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、及びトリス(トリデシル)ホスファイトを含む。
【0017】
任意的に、酸化防止剤、金属中間体、補助安定剤、PVC許容性添加剤、有機酸ホスファイト、トリオーガニックホスファイト又はジホスファイト、又はこれらの混合物が、液状安定剤組成物に加えられ得る。該添加は、反応混合物に一つ以上の有機ホスファイトエステルの添加前、間、又は後になされ得る。特に好ましい実施態様において、本発明に従う安定剤組成物は、硫黄含有有機スズ化合物を含まない。
【0018】
上記の方法を経て得られ得る本発明に従う液状安定剤組成物は、取り扱いを容易にするために20℃において最大20Pa・s、より好ましくは最大5Pa・s、最も好ましくは最大2.5Pa・sの粘度を有する。好ましくは、最終の安定剤の粘度は、少なくとも10mPa・s、最も好ましくは少なくとも20 mPa・sである。
【0019】
最終の液状安定剤組成物において、一つ以上のカルボン酸金属塩は好ましくは、最終の液状安定剤の合計重量に基づいて、少なくとも5重量%の量で存在する。より好ましくは、これらは、少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも15重量%の量で存在する。最終の安定剤組成物における一つ以上のカルボン酸金属塩の最大量は好ましくは、最終の液状安定剤の合計重量に基づいて90重量%である。より好ましくは、最大85重量%、最も好ましくは最大80重量%のカルボン酸金属塩が安定剤組成物中に存在する。
【0020】
該方法において使用される有機ホスファイトエステル反応性溶剤の合計量は好ましくは、出発物質として使用される有機ホスファイトエステルの合計重量に基づいて、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、かつ最も好ましくは少なくとも20重量%である。有機ホスファイトエステル反応性溶剤の最大量は、出発物質として使用される有機ホスファイトエステルの合計量に基づいて99重量%である。より好ましくは、有機ホスファイトエステル反応性溶剤の量は、出発物質として使用される有機ホスファイトエステルの合計量に基づいて、最大97重量%、かつ最も好ましくは最大95重量%である。
【0021】
特に好ましい実施態様において、25〜100重量%の有機ホスファイトエステル反応性溶剤が、該有機ホスファイトエステル反応性溶剤に加えられるところの有機ホスファイトエステルと反応されるであろう。より好ましくは、50〜99重量%、最も好ましくは75〜98重量%の有機ホスファイトエステル反応性溶剤が、該有機ホスファイトエステル反応性溶剤に加えられるところの有機ホスファイトエステルと反応されるであろう。従って、最終の液状安定剤において、殆ど全ての有機ホスファイトエステル反応性溶剤は、殆ど遊離した溶剤が残ることなしに、有機ホスファイトエステル中に結合されるであろう。最も好ましい実施態様において、本質的に全ての有機ホスファイトエステル反応性溶剤は有機ホスファイトエステルに結合され、これは、最終の液状安定剤が本質的に溶剤を含まないことを意味する。
【0022】
術語「本質的に溶剤を含まない」とは、最終の安定剤組成物中に存在するところの未反応の有機ホスファイトエステル反応性溶剤、好ましくはアルコール又はグリコールの最大合計量が、最終の液状安定剤の合計重量に基づいて5.0重量%を超えないことを意味する。より好ましくは、未反応の有機ホスファイトエステル反応性溶剤の最大合計量は、最終の液状安定剤の合計重量に基づいて2.5重量%かつ最も好ましくは1.0重量%である。好ましくは、最終の安定剤組成物に存在するフェノール又はフェノール誘導生成物の量は、最終の液状安定剤の合計重量に基づいて、5.0重量%未満、より好ましくは3.0重量%未満、かつ最も好ましくは2.0重量%未満である。
【0023】
最終の液状安定剤組成物に存在するところの一つ以上の有機ホスファイトエステルは好ましくは、最終の液状安定剤の合計重量に基づいて少なくとも5重量%の量で存在する。より好ましくは、これらは、最終の液状安定剤の合計重量に基づいて、少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも15重量%の量で存在する。最終の安定剤組成物中の一つ以上の有機ホスファイトエステルの最大量は好ましくは、最終の液状安定剤の合計量に基づいて95重量%である。より好ましくは最大90重量%の有機ホスフィトエステルが存在し、最も好ましくは最大85重量%が存在する。
【0024】
本発明に従う方法により得られ得る液状の安定剤組成物は更に、慣用の添加剤、例えば、酸化防止剤、可塑剤、金属中間体、補助安定剤、トリオーガニックホスファイト及びジホスファイト、有機酸ホスファイト、潤滑剤、補助安定剤等を含み得る。任意的に、最終の液状安定剤は、フタレートエステル及び/又はエポキシ化合物若しくはハロゲン化ビニルポリマー中で許容され得るところの他の希釈剤で希釈される。何故なら、例えば、それらは慣用的に可塑剤に使用されるからである。
【0025】
本発明に従う液状安定剤は、ハロゲン化ビニルポリマーとブレンドされ得て、それらの熱安定性をする。使用され得るところのハロゲン化ビニルポリマーは、繰り返し基(-CHX-CH2-)nの少なくとも一部分を形成し、かつ40%を超えるハライド含有量を有する任意のポリマーである。この式において、nはポリマー鎖中の単位数であり、かつXはハライドである。好ましくは、該ポリマーは塩化ビニルポリマーである。該ポリマーはまた、塩化ビニルと適切な割合の他の共重合し得るモノマーとのコポリマー、例えば、塩化ビニルと酢酸ビニルとのコポリマー、塩化ビニルとマレイン酸若しくはフマル酸又はこれらのエステルとのコポリマー、及び塩化ビニルとスチレンとのコポリマーであり得る。本発明に従う安定剤組成物はまた、主要な割合のポリ塩化ビニルと少しの割合の他の合成樹脂、例えば、塩素化ポリエチレン又はアクリロニトリル、ブタジエン、及びスチレンのコポリマーとの混合物と一緒に有効である。
【0026】
熱媒介された変質に対する耐性及び改善された透明性を増大するためにハロゲン化ビニルポリマーに組み込まれるところの、本発明に従う液状安定剤の量は少ない。好ましくは、本発明に従う液状安定剤は、安定化されたポリマーの合計重量に基づいて、少なくとも0.1重量%の量でポリマーに加えられる。より好ましくは、安定剤は、安定化されたポリマーの合計重量に基づいて、少なくとも0.5重量%の量、かつ最も好ましくは少なくとも1.0重量%の量で存在する。ハロゲン化ビニルポリマーに加えられるべき液状安定剤の最大量は好ましくは、安定化されたポリマーの合計重量に基づいて、15重量%より多くない、より好ましくは、液状安定剤の量は、安定化されたポリマーの合計重量に基づいて、最大10重量%、最も好ましくは最大5重量%である。
【0027】
本発明に従う液状安定剤で安定化されたハロゲン化ビニルポリマーから、減じられた含有量の揮発分を持つ成形物品が形成され得る。更に、該製造法は、安定剤の性能にいくつかの予期されない利点を提供する。これらは、いくつかの用途における熱安定性の増加及び完成されたポリマー物品の透明性の顕著な増加を含む。更なる追加の利点は、安定剤が、即ち、被覆されたファブリック、例えば、ターポリン、コンベアーベルト、防水布の製造において、ファブリック基材にPVCプラスチゾルの接着を改善するために必要なイソシアネートに基づいた結合剤と一緒に使用されるときに観察される。この用途において、安定剤及び結合剤は、コーティングプロセスに先立ってペースト化されたPVCプラスチゾルに組み込まれる。イソシアネートは非常に反応性であり、かつペーストの粘度が貯蔵において増加し、そして比較的短い時間に、該ペーストがもはやファブリック中に簡便に伸ばされることができないところの点が達成されるであろうことは、PVC加工業者にとって公知の問題である。これは、プラスチゾルペーストの「ポットライフ」として該産業において公知である。本発明に従う方法により製造された安定剤は、イソシアネートと反応することができるところの化学化合物の減じられた量を含む。これはプラスチゾルの「ポットライフ」の著しい増加及び製造業者のための改善された利便性をもたらす。
【0028】
本発明は、次の限定するものではない実施例により説明される。
【0029】
実施例1
次の実験において、本発明に従う液状の安定剤組成物が製造された。
【0030】
反応容器に、イソデカノール(229.3グラム)、p‐ターシャリー‐ブチル安息香酸(100グラム)、及びベルサティックC10酸(190.7グラム)が仕込まれた。得られた混合物は80℃に加熱された。酸化亜鉛(30.0グラム)及び水酸化バリウム8水和物(145.6グラム)が一部分毎に加えられ、そして該反応混合物は次いで30分間攪拌された。続いて、得られた石けんが、15mmHgで110℃で脱水されかつ窒素雰囲気下にされた。トリフェニルホスフェート(449.9グラム)が加えられ、そして得られた混合物が140℃に加熱されかつ3時間攪拌された。続いて、予めの反応段階において形成されたフェノールが、12mmHgで190℃の温度までゆっくりと取り除かれた。反応混合物は90℃まで冷却を許された。該混合物がこの温度に到達したとき、ブチルヒドロキシトルエン(50グラム)及びジベンゾイルメタン(30グラム)が加えられた。最後に生成物がジカライトを使用して濾過された。
【0031】
比較実施例2
次の実験において、実施例1において製造された化合物に類似する組成物の製品が、現存する技術を使用して作られた。
【0032】
反応容器に、イソデカノール(229.3グラム)、p‐ターシャリー‐ブチル安息香酸(100グラム)、及びベルサティックC10酸(190.7グラム)が仕込まれた。得られた混合物が80℃に加熱された。酸化亜鉛(30.0グラム)及び水酸化バリウム8水和物(145.6グラム)が一部分毎に加えられ、そして該反応混合物は次いで30分間攪拌された。続いて、得られた石けんが、15mmHgで110℃において脱水されかつ窒素雰囲気下にされた。反応混合物は90℃まで冷却を許された。該混合物がこの温度に到達したとき、ジフェニルイソデシルホスファイト(313.5グラム)、ブチルヒドロキシトルエン(50グラム)、及びジベンゾイルメタン(30グラム)が加えられた。最後に生成物がジカライトを使用して濾過された。
【0033】
実施例3及び4
実施例1及び比較実施例2において述べられた手順に従って得られた試料化合物が、下記の処方において試験された。
【0034】
組成物A
縣濁重合されたPVC樹脂(K‐71) 100
ジイソノニルフタレート 45
エポキシ化大豆油 2
実施例 2
ステアリン酸 0.3
【0035】
149.3グラムのこの混合物が夫々、実施例3及び4をなすために実施例1及び2のために取られた。該混合物は、表1に記載された条件下における油加熱されたローリングミルに置かれる前に手により混合された。粉砕時間後、該試料はシートとして取り除かれた。サイズ500×200mmのテストピースが製造されたシートから切り出され、そして185℃のテストオーブン(Mathis Thermotester Type LTE-TSM)中に据えられた。黄色指数(テスト試料のYI)は、HunterlabUltrascan XEを使用してBS2782:Part 5, Method530Aに従って測定された。結果は表2に示されている。曇りは、サイズ70×70mmの4個のテストピースを切り出し、そして2.5分間、60psiにおいて150℃でそれらを圧縮することにより測定された。圧縮された板の曇りは、Hunterlab Ultrascan XEを使用して測定された。結果は表3に示されている。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
揮発性
実施例1及び2に開示された手順に従って得られた試料の揮発性を測定するために、化合物の正確な重量が金属製キューポラに据えられ、そして10分間、150℃において試験オーブン(Mathis Thermotester Typw LTF-ST)中に放置された。該化合物は、5分間、デシケーター中で冷却を許され、そして次いで秤量された。結果は表4に示されている。
【0040】
遊離フェノール
実施例1及び2に記載された手順に従って得られた試料に存在するフェノールの量はHPLCを使用して測定された。結果は表4に示されている。
【0041】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル組成物に熱安定性を付与するために適する、本質的に溶剤を含まないところの液状安定剤を製造する方法であって、
(a)水を除去しながら、一つ以上の有機ホスファイトエステル反応性溶剤の存在下に一つ以上のカルボン酸を一つ以上の金属源と反応させること、ここで、該金属源の金属は、Ca、Ba、Zn、Sr、K及びCdより成る群から選ばれる、
(b)式(RO)
(ここで、各Rは独立して、C〜C18のアルキル芳香族基、直鎖又は分岐のC〜C14の脂肪族基、及びフェニル基より成る群から選ばれる)
のトリオーガニックホスファイト、
式(RO)P(O)H
(ここで、各Rは上記と同一の意味を有する)
の有機酸ホスファイト、及び
式RO−[P(OR)−O−R’−O]−P−(OR)
(ここで、各Rは上記と同一の意味を有し、R’は任意の慣用の架橋基であり得、かつnは1〜3,000である)
のジホスファイト及びポリホスファイト
より成る群から選ばれる一つ以上の有機ホスファイトエステルを加え、そして
生成したROHを留去しながら、上記一つ以上の有機ホスファイトエステル反応性溶剤を該有機ホスファイトエステルと反応させること、及び
(c)任意的に、該反応混合物に上記一つ以上の有機ホスファイトエステルを添加する前、間、又は後に、酸化防止剤、金属中間体、補助安定剤、PVC許容性添加剤、有機酸ホスファイト、トリオーガニックホスファイト若しくはジホスファイト、又はこれらの混合物を加えること
の段階を含むところの方法。
【請求項2】
有機ホスファイトエステルが、テトラフェニルジプロピレン‐グリコールジホスファイト、ジフェニルペンタエリトリトールジホスファイト、ポリ‐4,4’‐イソプロピリデンジフェノールテトラフェノールホスファイト、ポリ(ジプロピレングリコール)フェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ブチルジオキシチルノニルフェニルフェニルホスファイト、ブチルジオキシチルジノニルフェニルホスファイト、ジブチルジオキシチルノニルフェニルホスファイト、テトラフェニルジプロピレン‐グリコールジホスファイト、ジフェニル酸ホスファイト、及びトリフェニルホスファイトより成る群から選ばれるところの請求項1記載の方法。
【請求項3】
有機ホスファイトエステル反応性溶剤が、低揮発性アルコール及びグリコールより成る群から選ばれるところの請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
有機ホスファイトエステル反応性溶剤が、直鎖又は分岐のC〜C14アルコール、イソデカノール、トリデカノール、アルコールの工業的混合物、2‐エチルヘキサノール、ブチルジオキシトール、メチルジオキシトール、ブチルフェノール、ジブチルフェノール、トリブチルフェノール、2,4‐ジクミルフェノール、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、及びビスフェノールFより成る群から選ばれるところの請求項3記載の方法。
【請求項5】
カルボン酸が、C〜C26の脂肪族酸及びC〜C19の芳香族酸より成る群から選ばれるところの請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
カルボン酸が、安息香酸、トルイル酸、ターシャリー‐ブチル安息香酸、C〜C16の脂肪族酸、及びC18の脂肪族酸より成る群から選ばれるところの請求項5記載の方法。
【請求項7】
得られた液状安定剤が、20℃において20mPa・s〜20Pa・sの範囲の粘度を有するところの請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法により得られ得る、本質的に溶剤を含まずかつ硫黄含有有機スズ化合物を含まないところの、ポリ塩化ビニル組成物に熱安定性を付与するための液状安定剤。
【請求項9】
該安定剤がフタル酸エステル及び/又はエポキシ化合物で希釈されているところの請求項8記載の液状安定剤。
【請求項10】
請求項8又は9記載の液状安定剤を含む、改善された熱安定性及び透明性を有するハロゲン化ビニルポリマー組成物。
【請求項11】
ハロゲン化ビニルポリマーがポリ塩化ビニルであるところの請求項10記載のハロゲン化ビニルポリマー組成物。
【請求項12】
請求項10又は11記載のハロゲン化ビニルポリマー組成物から形成された成形物品。

【公表番号】特表2006−522185(P2006−522185A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504821(P2006−504821)
【出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003067
【国際公開番号】WO2004/087722
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】