説明

液状組成物の保存方法、液状組成物およびプリント配線板用絶縁材料

【課題】プリント配線板用絶縁材料として用いられる液状組成物において、その保存安定性を改善して取扱性を高める。
【解決手段】液状組成物の溶液粘度を500cP以下に保持しながら、この液状組成物を脱水剤で乾燥する。これにより、液状組成物の流動性を確保した状態で、この液状組成物の脱水が行われる。したがって、液状組成物の状態で放置されても、この液状組成物がゲル化して粘度が上昇する事態の発生を抑制することができる。その結果、液状組成物の保存安定性を改善して取扱性を高めることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用絶縁材料として用いるのに好適な液状組成物の保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、この種の液状組成物としては、液晶ポリエステルを所定の溶媒に溶解したものが注目されている。こうした液状組成物では、その物性を長期間にわたって維持することを目的として、液状組成物を所定の温度範囲内で保存することにより、この液状組成物の粘度上昇を抑制する保存方法が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−227832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された技術においても、液状組成物に水分が含まれている場合、液状組成物の状態で放置されると、液状組成物がゲル化して粘度が上昇し、保存安定性が低下して取扱いが面倒になることがあった。
【0005】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、液状組成物の状態で放置されても、その保存安定性を改善して取扱性を高めることが可能な液状組成物の保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明者は、液状組成物のゲル化による粘度上昇の原因が当該液状組成物中の水分であるとの見解に基づき、液状組成物の保存安定性を改善して取扱性を高めるべく、液状組成物を脱水することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の発明は、溶媒と、この溶媒に溶解した液晶ポリエステルとが含まれる液状組成物の保存方法であって、前記液状組成物の溶液粘度を500cP以下に保持しながら、この液状組成物を脱水剤で乾燥する液状組成物の保存方法としたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 は、フェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11およびAr12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記式(3)で示される構造単位のXおよびYの少なくとも一方がNHであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計含有量が30〜50モル%、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる化合物に由来する構造単位の合計含有量が25〜35モル%、4−アミノフェノールに由来する構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の構成に加え、前記脱水剤として、粉末状で多孔性の金属酸化物または炭化物質を用いることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の液状組成物の保存方法によって保存された液状組成物としたことを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の液状組成物からなるプリント配線板用絶縁材料としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液状組成物の流動性を確保した状態で、この液状組成物の脱水が行われることから、液状組成物の状態で放置されても、この液状組成物がゲル化して粘度が上昇する事態の発生を抑制することができる。その結果、液状組成物の保存安定性を改善して取扱性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】液状組成物の溶液温度が初期溶液粘度および低吸水化率に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
<液晶ポリエステル>
【0017】
本発明に用いる液晶ポリエステルとは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するという特性を有するポリエステルである。この液晶ポリエステルとしては、下記式(1)で示される構造単位(以下、「式(1)構造単位」という)と、下記式(2)で示される構造単位(以下、「式(2)構造単位」という)と、下記式(3)で示される構造単位(以下、「式(3)構造単位」という)とを有し、全構造単位の合計含有量(液晶ポリエステルを構成する各構造単位の質量を各構造単位の式量で割ることにより、各構造単位の含有量を物質量相当量(モル)として求め、それらを合計した値)に対して、式(1)構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルが好ましい。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 は、フェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11およびAr12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0018】
式(1)構造単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり、この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸などが挙げられる。
【0019】
式(2)構造単位は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり、この芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸等が挙げられる。
【0020】
式(3)構造単位は、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する芳香族アミンまたは芳香族ジアミンに由来する構造単位である。この芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0021】
また、このフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンとしては、p−アミノフェノール、3−アミノフェノール等が挙げられ、この芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いる液晶ポリエステルは溶媒可溶性であり、かかる溶媒可溶性とは、温度50℃において、1質量%以上の濃度で溶媒(溶剤)に溶解することを意味する。この場合の溶媒とは、後述する液状組成物の調製に用いる好適な溶媒の何れか1種であり、詳細は後述する。
【0023】
このような溶媒可溶性を有する液晶ポリエステルとしては、前記式(3)構造単位として、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンに由来する構造単位および/または芳香族ジアミンに由来する構造単位を含むものが好ましい。すなわち、式(3)構造単位として、XおよびYの少なくとも一方がNHである構造単位(式(3’)で示される構造単位、以下、「式(3’)構造単位」という)を含むと、後述する好適な溶媒(非プロトン性極性溶媒)に対する溶媒可溶性が優れる傾向があるため好ましい。特に、実質的に全ての式(3)構造単位が式(3’)構造単位であることが好ましい。また、この式(3’)構造単位は液晶ポリエステルの溶媒溶解性を十分にすることに加え、液晶ポリエステルがより低吸水性になる点でも有利である。
(3’)−X−Ar3 −NH−
(式中、Ar3 およびXは前記と同義である。)
【0024】
式(3)構造単位は全構造単位の合計含有量に対して、25〜32.5モル%の範囲で含むとより好ましく、こうすることにより、溶媒可溶性は一層良好になる。このように、式(3’)構造単位を式(3)構造単位として有する液晶ポリエステルは、溶媒に対する溶解性、低吸水性という点に加え、後述する液状組成物を用いたプリント配線板用絶縁材料の製造が一層容易になるという利点もある。
【0025】
式(1)構造単位は全構造単位の合計含有量に対して、32.5〜50モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(1)構造単位を含む液晶ポリエステルは、液晶性を十分維持しながらも、溶媒に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸の入手性も併せて考慮すると、この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸および/または2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が好適である。
【0026】
式(2)構造単位は全構造単位の合計含有量に対して、25〜32.5モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(2)構造単位を含む液晶ポリエステルは、液晶性を十分維持しながらも、溶媒に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸の入手性も併せて考慮すると、この芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくも1種であると好ましい。
【0027】
また、得られる液晶エステルがより高度の液晶性を発現する点では、式(2)構造単位と式(3)構造単位とのモル分率は、[式(2)構造単位]/[式(3)構造単位]で表して、0.9/1〜1/0.9の範囲が好適である。
【0028】
次に、液晶ポリエステルの製造方法について簡単に説明する。
【0029】
この液晶ポリエステルは、種々公知の方法により製造可能である。好適な液晶ポリエステルである、式(1)構造単位、式(2)構造単位および式(3)構造単位を有する液晶ポリエステルを製造する場合、これら構造単位を誘導するモノマーをエステル形成性・アミド形成性誘導体に転換した後、重合させて液晶ポリエステルを製造する方法が、操作が簡便であるため好ましい。
【0030】
前記エステル形成性・アミド形成性誘導体について、例を挙げて説明する。
【0031】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のように、カルボキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、当該カルボキシル基が、ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように、酸塩化物、酸無水物等の反応活性の高い基になっているものや、当該カルボキシル基が、エステル交換・アミド交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するようにアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0032】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール等のように、フェノール性ヒドロキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、エステル交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように、フェノール性ヒドロキシル基がカルボン酸類とエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0033】
また、芳香族ジアミンのように、アミノ基を有するモノマーのアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているもの等が挙げられる。
【0034】
これらの中でも液晶ポリエステルをより簡便に製造するうえでは、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンといったフェノール性ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有するモノマーとを脂肪酸無水物でアシル化してエステル形成性・アミド形成性誘導体(アシル化物)とした後、このアシル化物のアシル基と、カルボキシル基を有するモノマーのカルボキシル基とがエステル交換・アミド交換を生じるようにして重合させ、液晶ポリエステルを製造する方法が特に好ましい。
【0035】
このような液晶ポリエステルの製造方法は、例えば、特開2002−220444号公報または特開2002−146003号公報に記載されている。
【0036】
アシル化においては、フェノール性ヒドロキシル基とアミノ基との合計に対して、脂肪酸無水物の添加量が1〜1.2倍当量であることが好ましく、1.05〜1.1倍当量であるとより好ましい。脂肪酸無水物の添加量が1倍当量未満では、重合時にアシル化物や原料モノマーが昇華して反応系が閉塞しやすい傾向があり、また、1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0037】
アシル化は、130〜180℃で5分〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。
【0038】
アシル化に使用される脂肪酸無水物は、価格と取扱性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸またはこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく、特に好ましくは、無水酢酸である。
【0039】
アシル化に続く重合は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
【0040】
また、重合においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0041】
アシル化および/または重合の際には、ル・シャトリエ‐ブラウンの法則(平衡移動の原理)により、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物は蒸発させる等して系外へ留去することが好ましい。
【0042】
なお、アシル化や重合においては触媒の存在下に行ってもよい。この触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒を挙げることができる。
【0043】
これらの触媒の中でも、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002−146003号公報参照)。
【0044】
この触媒は、通常モノマーの投入時に一緒に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、この触媒を除去しない場合には、アシル化からそのまま重合に移行することができる。
【0045】
このような重合で得られた液晶ポリエステルは、そのまま本発明に用いることができるが、耐熱性や液晶性という特性の更なる向上のためには、より高分子量化させることが好ましく、かかる高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。この固相重合に係る一連の操作を説明する。前記の重合で得られた、比較的低分子量の液晶ポリエステルを取り出し、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にする。続いて、粉砕後の液晶ポリエステルを、例えば、窒素等の不活性ガスの雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で加熱処理するという操作により、固相重合は実施できる。この固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、攪拌することなく静置した状態で行っても構わない。なお、後述する好適な流動開始温度の液晶ポリエステルを得るといった観点から、この固相重合の好適条件を詳述すると、反応温度として210℃を越えることが好ましく、より一層好ましくは220℃〜350℃の範囲である。反応時間は1〜10時間から選択されることが好ましい。
【0046】
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては、流動開始温度が250℃以上であると、絶縁材料として使用する際に機械強度が強固になるためより好ましい。ここでいう流動開始温度とは、フローテスターによる溶液粘度の評価において、9.8MPaの圧力下で液晶ポリエステルの溶液粘度が4800Pa・s以下になる温度をいう。なお、この流動開始温度とは、液晶ポリエステルの分子量の目安として当業者に周知のものである(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、(株)シーエムシー出版、1987年6月5日発行を参照)。
【0047】
液晶ポリエステルの流動開始温度は、250℃以上300℃以下であることが更に好ましい。流動開始温度が300℃以下であれば、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性がより良好になることに加え、後述する液状組成物を得たとき、その粘度が著増しないので、この液状組成物の取扱性が良好になる傾向がある。かかる観点から、流動開始温度が260℃以上290℃以下の液晶ポリエステルがさらに好ましい。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度をこのような好適な範囲に制御するには、前記固相重合の重合条件を適宜最適化すればよい。
<液状組成物>
【0048】
本発明の液状組成物を得るには、液晶ポリエステルおよび溶媒を含む液状組成物、特に溶媒に液晶ポリエステルを溶解させた液状組成物を用いることが好ましい。
【0049】
本発明に用いる液晶ポリエステルとして、上述の好適な液晶ポリエステル、特に前記式(3’)構造単位を含む液晶ポリエステルを用いた場合、この液晶ポリエステルはハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒に対して十分な溶解性を発現する。
【0050】
ここでハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒とは、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶媒;アセトニトリル、サクシノニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン系溶媒が挙げられる。なお、上述の液晶ポリエステルの溶媒可溶性とは、これらから選ばれる少なくとも1つの非プロトン性溶媒に可溶であることを指すものである。
【0051】
液晶ポリエステルの溶媒可溶性をより一層良好にして、液状組成物が得られやすい点では、例示した溶媒の中でも、双極子モーメントが3以上5以下の非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。具体的にいえば、アミド系溶媒、ラクトン系溶媒が好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)を用いることがより好ましい。さらに、前記溶媒が、1気圧における沸点が220℃以下の揮発性の高い溶媒であると、前記回路面に塗布した後、除去しやすいという利点もある。この観点からは、NMP、DMAcが特に好ましい。
【0052】
前記液状組成物に、前記のような非プロトン性溶媒を用いた場合、この非プロトン性溶媒100質量部に対して、液晶ポリエステルを3〜50質量部、好ましくは8〜30質量部溶解させると好ましい。この液状組成物に対する液晶ポリエステル含有量がこのような範囲であると、絶縁材料として使用する際に溶媒を乾燥除去する際に、厚さむら等が生じるといった不都合も起こり難い傾向がある。
【0053】
また、前記液状組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体に代表されるエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂等、液晶ポリエステル以外の樹脂を1種または2種以上を添加してもよい。ただし、このような他の樹脂を用いる場合においても、これら他の樹脂も、液状組成物に使用した溶媒に可溶であることが好ましい。
【0054】
さらに、この液状組成物には、寸法安定性、熱電導性、電気特性の改善等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲であれば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機フィラー;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリルポリマー等の有機フィラー;酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤が、1種または2種以上添加されていてもよい。
【0055】
また、この液状組成物は、必要に応じて、フィルター等を用いたろ過処理により、液状中に含まれる微細な異物を除去してもよい。
【0056】
さらに、この液状組成物は、必要に応じて、脱泡処理を行ってもよい。
<液状組成物の保存方法>
【0057】
このような液状組成物は、プリント配線板用絶縁材料として用いられるものである。但し、こうした用途に用いられるまで、そのままの状態で放置されると、液状組成物がゲル化して粘度が上昇し、保存安定性が低下して取扱いが面倒になることがある。
【0058】
そこで、この液状組成物の溶液粘度を500cP以下に保持しながら、この液状組成物を脱水剤で乾燥することにより、液状組成物を保存する。
【0059】
このとき用いる脱水剤は、特に限定されないが、その代表例として次の(イ)〜(ホ)を挙げることができる。これらの中でも、(イ)粉末状で多孔性の金属酸化物または炭化物質が、脱水能が高くて少量でも効率よく脱水できることに加えて、分離しやすいことから、特に適している。
(イ)粉末状で多孔性の金属酸化物または炭化物質(例えば、合成シリカ、活性アルミナ、ゼオライトおよび活性炭など)
(ロ)CaSO4 、CaSO4 ・1/2H2 O、CaOなどの組成を有するカルシウム化合物類(例えば、焼石膏、可溶性石膏、生石灰など)
(ハ)金属アルコキシド類(例えば、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウム−secブチレート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ジルコニウム−n−プロピレート、ジルコニウム−n−ブチレート、エチルシリケートなど)
(ニ)有機アルコキシ化合物類(例えば、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、ジメトキシプロパンなど)
(ホ)単官能イソシアネート類(例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、住化バイエルウレタン(株)製の「アディティブTI」など)
【0060】
これらの脱水剤は、単独で用いることもでき、2種以上を併用することもできる。脱水剤の使用量は、液状組成物中に含まれる水分量および脱水剤の吸収・吸着能、並びに反応性によって異なるが、一般的には液状組成物中の水分の質量を基準にして、約1〜50質量%、好ましくは約5〜40質量%である。この脱水剤の使用量が1質量%未満の場合は、液状組成物の保存安定性がほとんど向上しない。逆に、この脱水剤の使用量が50質量%を超えると、使用量の増加に見合っただけの効果(保存安定性の改善)が得られないため、経済的でなくなる。
【0061】
なお、金属アルコキシド類および単官能イソシアネート類は、水分以外に液晶ポリエステル中のヒドロキシル基(水酸基)やカルボキシル基とも反応するので、上述した使用量より多く用いる場合もある。
【0062】
このように、液状組成物の溶液粘度を500cP以下に保持しながら、この液状組成物を脱水剤で乾燥すると、液状組成物の流動性を確保した状態で、この液状組成物の脱水を行うことができる。したがって、液状組成物の状態で放置されても、この液状組成物がゲル化して粘度が上昇する事態の発生を抑制することができる。その結果、液状組成物の保存安定性を改善して取扱性を高めることが可能となる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<製造例1>
【0064】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)および無水酢酸2374g(23.25モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度を保持して3時間還流させた。
【0065】
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。取り出した内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕した後、比較的低分子量の液晶ポリエステルの粉末を得た。この液晶ポリエステルの粉末について、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500」を用いて流動開始温度を測定したところ、235℃であった。この液晶ポリエステルの粉末を窒素雰囲気において223℃で3時間加熱処理するとことにより、液晶ポリエステルの固相重合を行った。固相重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
【0066】
こうして得られた液晶ポリエステル2200gをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)7800gに加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。この液状組成物について、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.21、回転速度20rpm)を用いて溶液粘度を測定したところ、200cPであった。また、この液状組成物の含水率を求めたところ、1.35%であった。
<実施例1>
【0067】
製造例1で得られた液状組成物350gに、ユニオン昭和(株)製の合成ゼオライト「モレキュラーシーブ3A 4×8」59gを無機脱水剤として添加し、窒素雰囲気下、溶液温度が70℃になるように回転速度120rpmで5時間攪拌した。
【0068】
そして、無機脱水剤を添加した後の液状組成物について、上述した製造例1と同様にして、溶液粘度(初期溶液粘度)を測定したところ、241cPであった。また、この液状組成物を無水メタノールで抽出し、カールフィッシャー滴定法にて含水率を測定したところ、0.26%(つまり、低吸水化率81%)であった。ここで、低吸水化率とは、液状組成物の含水率が無機脱水剤の添加によってどれだけ減少したかを示す指標であり、具体的には、無機脱水剤添加後の液状組成物の含水率を無機脱水剤添加前の液状組成物の含水率で除して、その商を1から減じたものである。
<実施例2>
【0069】
液状組成物の溶液温度が60℃になるようにしたことを除き、上述した実施例1と同様の操作を行った。そして、上述した実施例1と同様にして、溶液粘度(初期溶液粘度)を測定したところ、300cPであった。また、上述した実施例1と同様にして、含水率を測定したところ、0.30%(つまり、低吸水化率78%)であった。
<実施例3>
【0070】
液状組成物の溶液温度が50℃になるようにしたことを除き、上述した実施例1と同様の操作を行った。そして、上述した実施例1と同様にして、溶液粘度(初期溶液粘度)を測定したところ、387cPであった。また、上述した実施例1と同様にして、含水率を測定したところ、0.32%(つまり、低吸水化率76%)であった。
<実施例4>
【0071】
液状組成物の溶液温度が40℃になるようにしたことを除き、上述した実施例1と同様の操作を行った。そして、上述した実施例1と同様にして、溶液粘度(初期溶液粘度)を測定したところ、449cPであった。また、上述した実施例1と同様にして、含水率を測定したところ、0.35%(つまり、低吸水化率74%)であった。
<比較例1>
【0072】
液状組成物の溶液温度が28℃になるようにしたことを除き、上述した実施例1と同様の操作を行った。そして、上述した実施例1と同様にして、溶液粘度(初期溶液粘度)を測定したところ、533cPであった。また、脱水剤添加後に固化したため、含水率の低下は確認されなかった。
<測定データのまとめ>
【0073】
これらの実施例1、実施例2、実施例3、実施例4および比較例1について、上述した測定データ(初期溶液粘度、低吸水化率)をまとめて表1に示す。また、液状組成物の溶液温度(70℃、60℃、50℃、40℃、28℃)が初期溶液粘度および低吸水化率にどのような影響を及ぼすかを知るため、これら三者の関係を図1にグラフで示す。図1のグラフにおいて、横軸は溶液温度(単位:℃)を表し、縦軸(左側)は初期溶液粘度(単位:cP)を表し、縦軸(右側)は低吸水化率(単位:%)を表す。
【表1】

【0074】
表1および図1から明らかなように、液状組成物の溶液温度が28℃である場合(比較例1)、初期溶液粘度が500cPを上回り、低吸水化率が0%となった。これに対して、液状組成物の溶液温度が40〜70℃である場合(実施例1〜4)、初期溶液粘度が449cP以下となり、低吸水化率が74%以上となった。
【0075】
したがって、初期溶液粘度を概ね500cP以下に保持すれば、高い低吸水化率を得ることができる。その結果、液状組成物中の水分に起因する液状組成物のゲル化を抑制し、ひいては液状組成物の保存安定性を改善することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、プリント配線板の製造に広く適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と、この溶媒に溶解した液晶ポリエステルとが含まれる液状組成物の保存方法であって、
前記液状組成物の溶液粘度を500cP以下に保持しながら、この液状組成物を脱水剤で乾燥することを特徴とする液状組成物の保存方法。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の液状組成物の保存方法。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 は、フェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11およびAr12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【請求項3】
前記式(3)で示される構造単位のXおよびYの少なくとも一方がNHであることを特徴とする請求項2に記載の液状組成物の保存方法。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計含有量が30〜50モル%、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる化合物に由来する構造単位の合計含有量が25〜35モル%、4−アミノフェノールに由来する構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液状組成物の保存方法。
【請求項5】
前記脱水剤として、粉末状で多孔性の金属酸化物または炭化物質を用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の液状組成物の保存方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の液状組成物の保存方法によって保存されたことを特徴とする液状組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の液状組成物からなることを特徴とするプリント配線板用絶縁材料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12453(P2012−12453A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148888(P2010−148888)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】