説明

液状製剤

(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として、安定に含有する液状製剤の提供であり、上記の化合物またはその薬理学的に許容される塩を活性成分として含有する液状製剤であって、
(a)亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類から選択される少なくとも1種、
(b)β−シクロデキストリン誘導体、及び
(c)pH緩衝剤、
を含有し、pHを3〜5に調整したことを特徴とする液状製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血性疾患及び神経変性疾患に基づく症状、痙攣、癲癇及び偏頭痛由来の症状並びに糖尿病、動脈硬化、炎症性疾患に起因する各種症状の改善、治療作用を有する(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する液状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
次式(I):
【0003】
【化1】

【0004】
で示される(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩は、ニューロンのNa及びT-type Ca2+チャネルブロッキング作用を有するばかりでなく、抗酸化活性作用を有することから、虚血性疾患及び神経変性疾患に基づく症状、痙攣、癲癇及び偏頭痛由来の症状並びに糖尿病、動脈硬化、炎症性疾患に起因する各種症状の改善、治療作用を有する化合物である。特に、このジメタンスルホン酸塩は、臨床的に興味がもたれている化合物である(特許文献1、及び非特許文献1)。
【0005】
ところでこの化合物及びその薬理学的に許容される塩は、中性付近での溶解度が極めて低いものであり、また溶液中での安定性も良好なものではない。この化合物の臨床的な想定投与量や、望ましい製剤形態を考慮した場合には、5mg/mL以上の溶解度が必要となる。しかしながら、中性付近での溶解度が極めて低いものであることから、通常の製剤化技術による注射剤としての開発は、困難なものであった。
【0006】
また、注射剤として開発する場合には、投与時における製剤の刺激性を回避することは勿論のこと、製造中或いは保存中においても、含有される有効成分の安定性が確保されていなければならない。特に薬剤の緊急投与が必要である急性の虚血性疾患などの治療薬として用いるために、上記化合物及びその薬理学的に許容される塩を安定に含有する注射製剤となる液状製剤の開発が望まれていた。
【特許文献1】国際公開WO99/23072号公報
【非特許文献1】J. Med. Chem., 2000, 43, 3372-3376
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明は、上記式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として、安定に含有する液状製剤を提供することを課題とする。
【0008】
かかる課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討した結果、上記式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩と共に、抗酸化剤を配合し、それにβ−シクロデキストリン誘導体からなる特異的な溶解補助剤を配合し、さらに溶液のpHを特定の範囲内に調整したものが、安定した液状製剤となることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、その基本的態様として、
(1)式(I)で示される(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩を活性成分として含有する液状製剤であって、
(a)亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類から選択される少なくとも1種、
(b)β−シクロデキストリン誘導体、及び
(c)pH緩衝剤、
を含有し、pHを3〜5に調整したことを特徴とする液状製剤である。
【0010】
より具体的な本発明は、
(2)(a)亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、α−チオグリセリン、L−システイン塩酸塩一水和物およびL−システインから選択される少なくとも1種を含む上記(1)の液状製剤;
(3)(a)亜硫酸水素ナトリウムを含有する上記(1)に記載の液状製剤;
(4)(a)亜硫酸水素ナトリウムおよびL−システイン塩酸塩一水和物を含有する上記(1)に記載の液状製剤;
(5)亜硫酸水素ナトリウムとL−システイン塩酸塩一水和物の量比が、L−システイン塩酸塩一水和物/亜硫酸水素ナトリウム(w/w)で1/10〜1/3である上記(4)に記載の液状製剤;
(6)亜硫酸水素ナトリウムの濃度が、0.02〜0.30%(w/v)である上記(3)〜(5)に記載の液状製剤;
(7)亜硫酸水素ナトリウムの量が、活性成分に対して、1/35〜3倍量(重量比)である上記(3)〜(6)に記載の液状製剤;
(8)β−シクロデキストリン誘導体が、β−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩またはヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンである上記(1)に記載の液状製剤;
(9)β−シクロデキストリン誘導体の量が、活性成分に対して、活性成分:β−シクロデキストリン誘導体として、1:4〜1:8(モル比)である上記(1)または(8)に記載の液状製剤;
(10)β−シクロデキストリン誘導体の濃度が、7.5〜13.5%(w/v)である上記(1)または(8)に記載の液状製剤;
(11)pH緩衝剤が、アミノ酸緩衝系または酢酸緩衝系である上記(1)に記載の液状製剤;
(12)アミノ酸緩衝系が、グリシンまたはL−ヒスチジンである上記(11)に記載の液状製剤;
(13)アミノ酸緩衝系がグリシンであり、グリシンの濃度が50〜150mMである上記(12)に記載の液状製剤;
(14)pHの調整を、塩酸、メタンスルホン酸、酢酸および水酸化ナトリウムから選択される少なくとも1種であるpH調節剤で行う上記(1)に記載の液状製剤;
(15)pH調節剤が塩酸である上記(14)に記載の液状製剤;
(16)不活性ガス置換により溶存酸素を低減させた注射用水を用いて調製した上記(1)に記載の液状製剤;
(17)溶存酸素濃度が、4ppm以下である上記(1)に記載の液状製剤;
(18)活性成分に由来する界面活性効果を低減させる物質を更に含有した上記(1)に記載の液状製剤;
(19)界面活性効果を低減させる物質が、塩化ナトリウム、メグルミン、L−アルギニン、グリシン、L−ヒスチジン、L−グルタミン酸塩、β−シクロデキストリン誘導体、プロピレングリコール、エタノールおよびクロロブタノールから選択される少なくとも1種である上記(18)に記載の液状製剤;
(20)(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールの遊離塩基との不溶性会合体の形成を抑制する物質を更に含有した上記(1)に記載の液状製剤;
(21)不溶性会合体の形成を抑制する物質が、メタンスルホン酸、塩酸および塩化ナトリウムから選択される少なくとも1種である上記(20)に記載の液状製剤;
である。
【0011】
最も具体的な本発明は、
(22)1〜5mg/mLの(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩、0.05〜0.10%(w/v)の亜硫酸水素ナトリウム、0.015〜0.03%(w/v)のL−システイン塩酸塩一水和物、7.5〜10%(w/v)のβ−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩(代表的なものとして、7−ナトリウム塩)50〜100mMのグリシン、および塩酸を含有し、pHが3.0〜4.5の範囲内にある液状製剤である。
【0012】
さらに本発明は、
(23)上記(1)〜(22)に記載の液状製剤を、接液面側をSiOガラス薄膜により内壁処理したガラス容器に充填してなる液状製剤である。
【0013】
また本発明は別の態様として、かかる液状製剤の製造方法を提供するものでもあり、具体的には、
(a)不活性ガス置換により溶存酸素を低減した注射用水に、(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩を溶解して原薬溶液を調製する工程;
(b)注射用水に、β−シクロデキストリン誘導体、pH緩衝剤およびpH調節剤を溶解してpHを3〜5に調整した後、不活性ガス置換により溶存酸素を置換し、次いで、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類から選択される少なくとも1種を溶解して、副原料溶液を調整する工程;
および、
(c)不活性ガス気流下で、原薬溶液を副原料溶液に加えて混合する工程;
を含む液状製剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、中性付近での溶解性が極めて低い、上記式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、安定した液状製剤が提供される。
本発明により提供される液状製剤は、有効成分である式(I)で示される化合物及びその薬理学的に許容される塩を安定に含有するものであり、これら化合物及びその薬理学的に許容される塩が、良好な虚血性疾患及び神経変性疾患に基づく症状、痙攣、癲癇及び偏頭痛由来の症状並びに糖尿病、動脈硬化、炎症性疾患に起因する各種症状の改善、及びそれに対する治療作用を有することから、これら疾患の治療に極めて有効なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、上記した如く、その基本的態様として、式(I)で示される(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩を活性成分として含有する液状製剤であって、
(a)亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類から選択される少なくとも1種、
(b)β−シクロデキストリン誘導体、
(c)pH緩衝剤、
を含有し、pHを3〜5に調整したことを特徴とする液状製剤である。
【0016】
式(I)で示される化合物の薬理学的に許容される塩としては、遊離塩基である式(I)の化合物と、無機酸または有機酸とを適当な溶媒中で処理することにより、対応する塩へ導くことができる。そのような無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過ヨウ素酸等の無機酸が挙げられる。また有機酸としては、ギ酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、プロピオン酸、吉草酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸を挙げることができる。
この場合、式(I)の化合物中の塩基性窒素原子の数に応じて、無機酸または有機酸の使用量を1〜3当量の間で増減させることにより、1〜3分子の酸よりなる塩を選択的に製造することもできる。
【0017】
本発明にあっては、式(I)の薬理学的に許容される塩として、ジメタンスルホン酸塩が特に好ましいものである。この化合物、すなわち(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノール ジメタンスルホネートは、開発コード番号:SUN N8075として、臨床的にその開発が検討されている化合物である。
したがって、以下の説明においては、式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩として、(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノール ジメタンスルホネート(以下、単に「SUN N8075」と記す)を代表例として記載していく。
【0018】
以下本発明を、実施例に代えて、順次SUN N8075の製剤化、処方化検討の実際を、試験例により説明していくことにより、本発明を詳細に説明する。
なお、これらの各試験例は、本発明の理解のためのものであって、これらの試験例によって本発明の範囲が限定されるものではない点に注意されたい。
【0019】
本発明が提供する液状製剤において、有効成分として含有されるSUN N8075に代表される式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩は、その化合物の特性として溶解性が極めて低く、また、本化合物水溶液は、注射剤としての投与時に刺激性を有する、自己酸化性を有する、光に対する安定性が低く光分解され易い等の特性を有する。更に、本化合物は、その水溶液において、自己酸化、他化学種との会合、或いは自己凝集といった化学的変化、物理化学的変化、界面化学的変化等により不溶物を生成しやすい基本性質を有し、これらは液状製剤化において極めて不利な特徴である。
したがって、本製剤化における検討すべき課題としては、液状製剤としての充分な溶解性を確保すること、血管投与時の刺激性を低減すること、保存による有効成分の酸化及び光分解を抑制すること、そして不溶物生成を抑制することがポイントとなる。なお、ガラス製アンプルやバイアルといった、ガラス製容器由来の不溶物(ガラスフレークス)の生成抑制についても考慮することが必要となる。
以下それらの点の検討を、順次説明していく。
【0020】
試験例1:溶解補助剤の検討(その1)
本発明者等は、SUN N8075自体の特性を検討したところ、この化合物は中性付近での溶解性が極めて低いものであった。
したがって、SUN N8075を有効成分として含有する液状製剤を検討するには、液状製剤として、その溶解性を高める溶解補助剤の添加が不可欠となる。
【0021】
そこで、従来から溶解補助剤として使用されている下記表1に記載の化合物を用いて、SUN N8075の溶解性を検討した。
[方法]
SUN N8075の8mg/mL水溶液を調製した。一方、各溶解補助剤について、溶解補助剤の濃度として約0.4%の濃度となる水溶液を調製した。
SUN N8075水溶液10mLと各種溶解補助剤溶液10mLを混合したものを混合液Aとし、混合液Aを0.22μmのフィルター濾過を行った。
リン酸二水素ナトリウム6.24g、塩化ナトリウム16.4gを秤量し、水を加えて正確に1000mLとし、この溶液に1mol/L水酸化ナトリウム試液を滴下し、pH7.4としたものを混合液Bとした。
【0022】
混合液Aと混合液Bを、それぞれ2.5mLずつ混合したものを試験液とした(各試験液中のSUN N8075の濃度は2mg/mLに、また、溶解補助剤の濃度は0.1%に該当する)。
試験液をレシプロ振盪機により、24℃/30分間振盪した後0.22μmフィルター濾過を行い、濾液中のSUN N8075濃度をHPLC法にて測定し、その溶解度とした。
なお、SUN N8075の溶解性を改善する度合いが高かった溶解補助剤については、上記の方法に準じて、その溶解補助剤の添加濃度を変えた試験を追試した。
【0023】
[結果]
その結果をまとめて表1中に示した。
【0024】
【表1】

【0025】
*1:ポリエチレングリコール4000
*2:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
*3:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
*4:β−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩
*5:溶解補助剤溶液白濁のため、試験中止
ND:検出できず
【0026】
以上の検討から判断すると、溶解補助剤としてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween80)及びβ−シクロデキストリン誘導体である、β−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩が効果的なものであることが判明した。
【0027】
試験例2:溶解補助剤の検討(その2)
本発明が目的とする製剤は、液状製剤であり、主として注射剤として投与される。したがって、投与時においては投与部位の組織において刺激性がないことが要求される。
上記試験例1の検討の結果、SUN N8075の溶解性を向上させるのに効果的な溶解補助剤であったポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween80)及びβ−シクロデキストリン誘導体である、β−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩について、投与時の刺激性を検討した。
【0028】
[方法]
下記表2に記載する濃度のSUN N8075を溶解した、生理食塩溶液、Tween80の0.1%を添加した生理食塩溶液、及びβ−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩を0.5、1.0、2.0および3.0%添加した生理食塩溶液をそれぞれ調製し、ラットの大動脈に投与し、投与部位でのSUN N8075の析出、及び組織刺激性(血管刺激性)の有無を検討した。
【0029】
[結果]
それらの結果をまとめて表2に示した。
表2:SUN N8075の血管刺激性及びβ−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩[以下、カプチゾル(登録商標)という]による刺激抑制作用(ラット)
【0030】
【表2】

*1:偏光顕微鏡にて検査
*2:剖検時の肉眼的所見及び病理学的検査結果
【0031】
以上の結果から、β−シクロデキストリン誘導体であるカプチゾルを溶解補助剤として添加した投与液に関しては、投与部位でのSUN N8075の結晶の析出が認められず、血管刺激性はないものであった。
このβ−シクロデキストリン誘導体であるβ−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩は、既にアメリカのCyDex Inc.から「カプチゾル:Captisol(登録商標)」の販売名で販売されている。
【0032】
本発明で使用しうるβ−シクロデキストリン誘導体は、β−シクロデキストリンにスルホアルキル基、ヒドロキシアルキル基などの置換基を導入してβ−シクロデキストリンよりも水溶性を高めたものであり、前述のβ−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩の他に、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンが挙げられる。また、その平均置換度の種々のものが市販されている。中でもスルホブチル基による置換度が7程度のものが好ましく、その例としてカプチゾル(登録商標)が挙げられる。
【0033】
また使用量としては、活性成分に対して、活性成分:β−シクロデキストリン誘導体として、1:4〜1:8(モル比)であるのが好ましく、その上で、β−シクロデキストリン誘導体の濃度として、7.5〜13.5%(w/v)であるのがよいことが判明した。
【0034】
試験例3:抗酸化剤の検討
本発明が提供する液状製剤において、有効成分であるSUN N8075に代表される式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩の特性としては、容易に酸化され易いものである。
したがって、液状製剤として水溶液中に溶解させたSUN N8075の酸化を抑制しなければならない。
そこで、各種酸化剤を用いて、SUN N8075に対する抗酸化作用を検討した。
【0035】
[方法]
SUN N8075に代え、式(I)の化合物の塩酸塩を使用して検討を行った。式(I)の化合物の塩酸塩約400mgを精密に秤量し、水を加えて正確に200mLとしたものを原薬水溶液とした。
下記表3に記載の各抗酸化剤の約400mgを精密に秤量し、20mLの水を加えて溶解させた。ただし、ブチルヒドロキシアニソールについては10.7mgを精密に秤量して水100mLに溶解したものを用いた。
各抗酸化剤溶液15mLと、原薬水溶液15mLを混合したものを保存試料とした(試料中における式(I)の化合物の塩酸塩濃度は1mg/mLに、抗酸化剤濃度は10mg/mLに相当する)。
【0036】
各保存試料を褐色のガラスアンプル15本に分注した後、溶封して、60℃にて保存した。
なお、対照用試料として、原薬水溶液15mLに水15mLを加えたものについて、同じ条件にて保存した。
各試料溶液の残りの3アンプルについては、試験開始時の測定に使用した。
【0037】
調製した各試料を、経時的にサンプリングした。試料溶液の1mLを正確に量り、試料の外観変化、溶状変化を観察した後、メタノールを加えて正確に10mLとし、この溶液についてHPLC法によって式(I)の化合物の塩酸塩の残存率を算出した。また試験終了後に残った試料溶液について、そのpHを測定した。
【0038】
[結果]
それらの結果を、下記表3中にまとめて示した。
【0039】
【表3】

【0040】
以上の結果から、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、L−システイン塩酸塩一水和物およびα−チオグリセリンが、SUN N8075の溶液に対する抗酸化作用として、好結果を与えていることが判明した。亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムに加えて、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウムなどの亜硫酸塩、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウムなどの亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸カリウムなどのピロ亜硫酸塩なども使用可能であり、また、L−システイン塩酸塩一水和物に加えて、L−システイン、DL−システインおよびこれらの塩酸塩などのシステイン類も使用可能である。
そのなかでも、臨床的な使用における投与量実績の観点からみれば、亜硫酸水素ナトリウムが特に好ましいものである。
【0041】
これらの抗酸化剤は、単独または併用して用いることも好ましく、具体的には、例えば、亜硫酸水素ナトリウムおよびL−システイン塩酸塩一水和物を併用して使用することもできる。また、L−システイン塩酸塩一水和物に代えて、等モルのL−システインを使用することもできる。
亜硫酸水素ナトリウムを抗酸化剤として用いる場合には、その濃度は0.02〜0.30%(w/v)、好ましくは0.05〜0.10%(w/v)の範囲内にあるのがよく、また、その添加量は、活性成分であるSUN N8075の含有量に対して、1/35〜3倍量、好ましくは1/10〜1/5倍量(重量比)であるのがよい。
【0042】
亜硫酸水素ナトリウムの濃度が0.02%(w/v)未満であると、投与時も含め所望の抗酸化作用を発揮することができず、また、0.30%(w/v)を超えて使用してもそれ以上の効果は認められず、かえってガラス容器におけるアルカリ溶出を促進し、その結果、ガラスクレークスを生成させる虞がある。
また、同様、亜硫酸水素ナトリウムの添加量が、活性成分であるSUN N8075の含有量に対して、1/35倍量(重量比)未満であると、所望の抗酸化作用を発揮することができず、3倍量(重量比)を超える場合には、ガラス容器に由来するガラスクレークスを生成させる虞がある。
【0043】
さらに、亜硫酸水素ナトリウムとL−システイン塩酸塩一水和物を併用して添加する場合には、その量比は、L−システイン塩酸塩一水和物/亜硫酸水素ナトリウム(w/w)で1/10〜1/3であるのが好ましい。すなわち、L−システイン塩酸塩一水和物を加えることにより、亜硫酸水素ナトリウムの添加量を少なくし、亜硫酸のガラス容器侵食によるアルカリ溶出に由来するガラスクレークス生成を制御させることが好ましい(この点は、ガラスフレークス抑制に加え、他の要素も含めてさらに後述する)。
【0044】
本発明者等の検討によれば、SUN N8075に対する抗酸化剤としては、亜硫酸水素塩、特に亜硫酸水素ナトリウムを添加させることが好ましいものであることが判明したが、この亜硫酸水素ナトリウムの特性としては、ガラスを侵食し易いものである。したがって、長期保存中にガラス由来の不溶物(ガラスフレークス)を生成させる可能性がある。
この点を回避するために、本発明の液状製剤にあっては、ガラス容器としてガラスフレークスを生成させない表面コーティング処理をしたガラス容器に、液状製剤を充填することがよい。
そのような表面コーティング処理をしたガラス容器としては、例えばサルファ処理ガラス或いはシリコンポリマーによるコーティングガラス、或いはSiOガラス薄膜により内壁処理したガラス容器があるが、本発明にあっては、特に、接液面側がSiOガラス薄膜により内壁処理されたガラス容器を使用することで、このガラスフレークスの生成を抑制させることができる。
【0045】
ところで、本発明が提供する液状製剤は、式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩、例えばSUN N8075を含有する溶液製剤であって、注射剤等の形態で非経口的に投与される。その投与量は、種々の要因、例えば、治療すべき患者の症状、重症の程度、年齢、合併症の有無等によって異なり、一概に限定できない。
しかしながら、SUN N8075の臨床的な使用量の検討の結果から、液状製剤としてSUN N8075を1〜7mg/mL、好ましくは1〜5mg/mL含有する液状製剤を調製し、その投与量を適宜調整することにより、目的とする疾患の治療に使用できることが判明した。
そのなかでも、SUN N8075を5mg/mL含有する液状製剤を調製し、その投与量を適宜調整することにより、目的とする疾患の治療に使用するのが特に好ましい。
【0046】
また、液状製剤であり、注射等の投与方法により投与されることから、液状製剤自体のpHは3〜5の範囲内に調整されるのが好ましい。このpH範囲は、式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩、例えばSUN N8075の溶解性、及び安定性を考慮して決定されるものである。pHが3未満であると注射投与に好ましいものではなく、またpHが5を超える場合には、液状製剤自体の安定性が好ましいものではない。
【0047】
このpH調整には、種々のpH調節剤を用いることができ、そのようなpH調節としては、例えば、塩酸、メタンスルホン酸、水酸化ナトリウム等を挙げることができ、なかでも塩酸を使用するのが好ましい。
【0048】
かくしてpH調整された本発明の液状製剤にあっては、保存中におけるそのpHの変動を最小限に抑えるために、pH緩衝剤をpH調節剤と共に併用するのがよい。
そのようなpH緩衝剤としては、アミノ酸系、無機酸系、有機酸系の各種の緩衝剤を挙げることができるが、なかでも、アミノ酸系緩衝剤、または有機酸系緩衝剤である酢酸緩衝剤が特に好ましいものである。
【0049】
アミノ酸系緩衝剤を構成するアミノ酸としては、グリシンまたはL−ヒスチジンであるのがよく、特にグリシンが好ましい。その場合の濃度としては、pHの変動を最小限に抑えるのに充分な濃度であればよく、具体的には、グリシンとして30〜150mM、好ましくは50〜100mM程度含有させたものであるのがよい。
酢酸緩衝剤としては、酢酸または酢酸と酢酸ナトリウムの組み合わせが挙げられる。
【0050】
かくして、上記した基本的な検討の結果から、SUN N8075に代表される式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩、それ対する溶解補助剤、特にβ−シクロデキストリン誘導体の選択、抗酸化剤、例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類の選択、pH調節剤の選択、ならびにpH緩衝剤の選択により、目的とする式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩、特に、SUN N8075を含有するpHが3〜5の範囲内にある液状製剤が調製されることとなる。
【0051】
本発明者等は、その上で、さらにこれら添加剤の組み合わせに基づく、具体的な液状製剤の長期保存による安定性を検討し、より臨床への適用に優れた液状製剤の開発を検討した。
以下にそれらの点について説明していく。
第一に、本発明が提供する液状製剤は、その溶液のpHが3〜5の範囲内に調整されているが、そのpHの変動による影響は極力少ないものでなければならない。また、そのまま注射投与または点滴投与されることから、保存中に不溶物が生成しないものでなければならない。そのためのpH緩衝剤の選択について検討した。
【0052】
試験例4:pH緩衝剤の相違に基づく安定性試験(6ヶ月)
(1)酢酸緩衝剤系液状製剤の安定性
[方法]
下記表4に記載した配合量、目標pHに従って、液状製剤を以下のとおり調製した。
精製水約250mLにカプチゾル(CyDex Inc.製)、亜硫酸水素ナトリウム(純正化学社製)、酢酸(純正化学社製)、及び酢酸ナトリウム(純正化学社製)を添加して溶解し、副原料溶液を調製した。
一方、精製水約50mLにSUN N8075を添加して溶解し、この溶液に上記の副原料溶液を加えた後、1mol/Lまたは0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液(ナカライテスク社製)によりpHを調整した。
【0053】
この溶液を減圧濾過した後、SiOガラス薄膜により内壁処理された褐色アンプル(シリコートアンプル;茶色20mL容量;不二硝子社製)へ20mL量充填し、溶閉した。高圧蒸気滅菌装置を用いて、設定条件:121℃/24分間で高圧蒸気滅菌処理を行った。
各試料について、高圧蒸気滅菌直後の不溶性異物の有無を評価した後、5℃、25℃/60%湿度(RH)、45℃/75%RHに保存し、6ヶ月まで経時的に不溶性異物の評価を行った。なお、不溶性異物の評価には、外観検査機を用い、1000Lux下に観察した。
また、45℃/75%RHに6ヶ月保存後の溶液のpHを測定した。
【0054】
(2)アミノ酸(グリシン)緩衝剤系液状製剤の安定性
[方法]
上記した(1)の酢酸緩衝剤系液状製剤と同様にして(但し、pH調整には1mol/Lまたは0.1mol/L塩酸を用いた)、下記表4に記載した配合量、目標pHに従って、各試料を調製し、同様に、高圧蒸気滅菌直後の不溶性異物の有無を評価した後、5℃、25℃/60%湿度(RH)、45℃/75%RHに保存し、6ヶ月まで経時的に不溶性異物の評価を行った。また、45℃/75%RHに6ヶ月保存後の溶液のpHを測定した。
【0055】
【表4】

【0056】
[結果]
その結果を、下記表5にまとめて示した。
なお、表中において、○は不溶物なし、×は不溶物有りを意味する。
カッコ内は、不溶物の生成を認めた保存期間を表す。
【0057】
【表5】

*:活性成分(SUN N8075)に対する重量比
【0058】
上記の結果から判断すると、本発明の液状製剤を調製するにあたっては、抗酸化剤として亜硫酸水素ナトリウムを用い、溶解補助剤としてカプチゾルを添加濃度として、5〜15%、より好ましくは、7.5〜13.5%(w/v)添加し、pH緩衝剤としてアミノ酸(グリシン)緩衝液を含有させることが、不溶性異物の生成の抑制、pH低下の抑制に有利であることが理解される。
【0059】
第二に、本発明の有効成分であるSUN N8075に代表される式(I)で示される化合物またはその塩は、その水溶液中で光により分解され、酸化の指標となる類縁物質、その他の類縁物質が増大することが判明した。
したがって、光分解(酸化を含む)への対策として、抗酸化剤、好ましくは亜硫酸水素ナトリウムを添加し、褐色のガラス容器に充填する等の対策を講じる必要があるが、本発明者等の検討では、これだけでは不十分である場合があった。
その原因を解明するべく検討した結果、光分解の原因は、溶液中に溶存している酸素にも起因していることが判明した。
そこで、溶液中に溶存している酸素を不活性ガス、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、好ましくは窒素ガスによるバブリングで置換した場合の安定性を検討した。
【0060】
試験例5:光分解の抑制検討
(1)窒素ガス置換無しによる光分解抑制の検討
[方法]
精製水800mLに、溶解補助剤としてカプチゾル(CyDex Inc.製)100g、抗酸化剤として亜硫酸水素ナトリウム(純正化学社製)1g、及びSUN N8075の5gを順次溶解し、精製水により正確に1000mLとした後、減圧濾過してから、無色アンプル(シリコートアンプル白色、20mL容量、不二硝子社製)及び褐色アンプル(シリコートアンプル茶色、20mL容量、不二硝子社製)へ20mL量充填し、溶閉した。高圧蒸気滅菌装置(FLC-M09S30WZ、サクラ精機社製)を用い、設定条件121℃/24分間で高圧蒸気滅菌を行った。
これらの各アンプルの試料をD65ランプ2000Lux下に保存し、40、80、120万Lux照射を行った後、高速液体クロマトグラフ装置により、SUN N8075類縁物質を測定した。類縁物質は、SUN N8075ピークエリアに対する総類縁物質のピーク比として求めた。
【0061】
(2)窒素ガスのバブリングによる置換での光分解抑制の検討
[方法]
精製水150mLに、抗酸化剤として亜硫酸水素ナトリウム(純正化学社製)の所定量(なし、0.05g、0.1gおよび0.2g)、及びSUN N8075の1gを順次溶解し、精製水により正確に200mLとした後、減圧濾過してから、窒素ガスを5分間バブリングした後、窒素ガス置換を行った褐色アンプル(シリコートアンプル茶色、20mL容量、不二硝子社製)へ、速やかに20mL量充填し、溶閉した。高圧蒸気滅菌装置(FLC-M09S30WZ、サクラ精機社製)を用い、設定条件121℃/24分間で高圧蒸気滅菌を行った。
これらの各アンプルの試料をD65ランプ2000Lux下に保存し、40万Lux照射を行った後、高速液体クロマトグラフ装置により、SUN N8075類縁物質を測定した。類縁物質は、SUN N8075ピークエリアに対する総類縁物質のピーク比として求めた。
【0062】
対照試料として、精製水150mLにSUN N8075の1gを溶解し、精製水にて正確に200mLとし、この溶液を減圧濾過してから、窒素ガスを5分間バブリングした後、窒素ガス置換を行った褐色アンプル(シリコートアンプル茶色、20mL容量、不二硝子社製)へ20mL量充填し、溶閉した。
これを試験開始時のコントロールサンプルとし、同様に、SUN N8075類縁物質を測定した。
【0063】
[結果]
上記の(1)および(2)の条件による検討結果をまとめて下記表6に示した。
【0064】
【表6】

【0065】
上記の試験検討結果からも判明するように、抗酸化剤、例えば亜硫酸水素ナトリウムを添加し、溶液の溶存酸素を窒素ガス置換し、褐色アンプルへ充填することにより、溶液中での光分解を抑制させることが可能であることが判明した。
この点は、窒素ガス置換をしない褐色アンプルでは光分解を完全に抑制できていない点を考慮すると、明確である。
本発明においては、特に窒素ガス置換による工業的な液状製剤の製造を考慮すると、抗酸化剤の添加濃度は、0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることが特に好ましいものといえる。
【0066】
これまでの検討からみれば、本発明が提供する、SUN N8075に代表される式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する液状製剤は、SUN N8075に対する溶解補助剤、特にβ−シクロデキストリン誘導体の選択、抗酸化剤、例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類の選択、pH調節剤の選択、ならびにpH緩衝剤を選択したうえで、溶液のpHを3〜5の範囲内に調整すること、さらにpH調整した溶液中の溶存酸素を不活性ガスである窒素ガスで置換することで、目的とする液状製剤が調製されることとなる。
【0067】
そのなかでも、抗酸化剤としては、亜硫酸水素ナトリウムを含有させることが特に好ましいものであることが判明した。
しかしながら、前記したように、亜硫酸水素ナトリウムは、その特性として、ガラスを侵食し易いものである。したがって、長期保存中にガラス由来の不溶物(ガラスフレークス)を生成させる可能性がある。
その上で、本発明者等の検討によれば、式(I)で示される化合物の遊離塩基と不溶性会合体を形成し易いカウンターイオンの序列として、硫酸イオン>亜硫酸(若しくは亜硫酸水素イオン)>>リン酸イオン(若しくはリン酸水素イオン、リン酸二水素イオン)>酢酸イオン>塩化物イオン>メタンスルホン酸イオンの順であることが推定された。
したがって、式(I)で示される化合物の遊離塩基と不溶性会合体を形成しにくいイオンを発生させるメタンスルホン酸、塩酸または塩化ナトリウムを添加することにより、不溶性会合体の生成を抑制することができると考えられる。
また、硫酸イオンおよび亜硫酸イオン(若しくは亜硫酸水素イオン)は式(I)で示される化合物の遊離塩基と不溶性会合体を形成しやすいので、亜硫酸酸化によって硫酸が生成する点も併せて考慮すると、含有させる抗酸化剤としては亜硫酸水素ナトリウムが特に好ましいものではあるが、亜硫酸イオン(若しくは亜硫酸水素イオン)自体、及び硫酸に起因する不溶性会合体の生成を抑制する観点からは、その添加量は、できるだけ少ないほうが好ましいものといえる。
【0068】
そこで、含有させる抗酸化剤として、試験例3の結果から判明した、亜硫酸水素ナトリウム以外に、好ましい抗酸化剤であったL−システイン塩酸塩一水和物を併用することにより、亜硫酸水素ナトリウムの使用量を減少させ、更には亜硫酸の酸化による硫酸の生成を抑制させることにより、不溶性異物の生成を抑制し得るのではないかと考え、そのための基礎実験(L−システイン塩酸塩一水和物の添加比に関する検討)を行った。
その点を以下の試験により検討した。
【0069】
試験例6:2成分系抗酸化剤の検討(亜硫酸水素ナトリウム/L−システイン塩酸塩一水和物の併用検討)
[方法]
下記表7及び8の処方にしたがって、精製水100〜150mLに、亜硫酸水素ナトリウム(日本薬局方;純正化学社製)、L−システイン塩酸塩一水和物(ナカライテスク社製)、及びSUN N8075を、この添加順で溶解し、精製水を添加して正確に200mLとした。
この溶液を減圧濾過してから、窒素ガスを5分間バブリングし(窒素ガス置換無しの場合は行わず)、窒素ガス置換した褐色アンプル(シリコートアンプル茶色、20mL容量、不二硝子社製)へ、速やかに20mL量充填し、溶閉し、高圧蒸気滅菌装置(FLC-M09S30WZ、サクラ精機社製)を用い、設定条件121℃/24分間で高圧蒸気滅菌を行った。
この各試料について、不溶性異物、臭いを評価した。
不溶性異物は、外観検査機を用いて評価(1000Lux下に観察)した。
また、溶液中の溶存酸素濃度も測定した。
【0070】
[結果]
その結果を、表7及び8中に併せて示した。
【0071】
【表7】

*:L−システイン塩酸塩一水和物/亜硫酸水素ナトリウム(w/w)
【0072】
【表8】

*:L−システイン塩酸塩一水和物/亜硫酸水素ナトリウム(w/w)
【0073】
以上の結果から、SUN N8075に対する抗酸化剤である亜硫酸水素ナトリウムの使用量を減少させ、それと共に同じ抗酸化剤であるL−システイン塩酸塩一水和物を併用する場合には、その量比は、L−システイン塩酸塩一水和物/亜硫酸水素ナトリウム(w/w)で1/3以下であるのが好ましいことが判明した。亜硫酸水素ナトリウムの量を変化させても量比がこの範囲内であれば、亜硫酸水素ナトリウム単独水溶液と同様、不溶物生成は僅かであり、また、硫黄臭が認められない。一方、量比が1/2以上になると多量の不溶物生成や著しい硫黄臭が認められ、これはL−システインが酸化することで生成するシスチン、若しくはL−システイン、シスチン、その他L−システインの変性体、SUN N8075、亜硫酸水素ナトリウムのうち2種類以上の物質の相互作用により生成した単一若しくは複数種類の物質に由来するものと推定される。
以上より、L−システイン塩酸塩一水和物をこの量比の範囲内で加えることで、亜硫酸水素ナトリウムの添加量を少なくさせ、不溶性会合体の生成を抑制させると共に、ガラス容器に由来するガラスフレークスの生成を抑制する効果に優れた製剤処方開発を行うことができると期待される。
【0074】
亜硫酸塩、亜硫酸水素塩およびピロ亜硫酸塩から選ばれる抗酸化剤とシステイン類を用いた液状製剤としては、特開昭63−132833に、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾロン−5−オンを含有する注射剤が記載されており、また、この化合物と亜硫酸水素ナトリウムとL−システイン塩酸塩一水和物を用いたエダラボン注射剤が実用に供されている。しかしながら、特開昭63−132833では、この化合物が溶存酸素により容易に酸化を受けて不溶性異物が発生するという課題に対し、システイン類は単独では安定化効果がなく、抗酸化剤と組み合わせて使用することで安定化作用を発揮すると記載されている。そして2成分の使用量比は、抗酸化剤が0.001〜0.5w/v%(特に0.01〜0.2w/v%が好ましい)、システイン類が0.005〜0.5w/v%(特に0.01〜0.2w/v%が好ましい)とされており、実施例としてはL−システイン塩酸塩/ピロ亜硫酸ナトリウム(w/w)が1/2のもの、L−システイン塩酸塩/亜硫酸水素ナトリウム(w/w)が1/2のものが記載されている。またエダラボン注射剤もL−システイン塩酸塩/亜硫酸水素ナトリウム(w/w)は1/2である。
【0075】
一方、本発明においては、本発明における活性成分に対しては、試験例3に示すようにL−システイン塩酸塩一水和物単独でも抗酸化作用を有している。そして、本発明の活性成分の場合は、酸化といった化学的変化もさることながら、活性成分自身の物理化学的性質に由来する不溶物生成を抑制することが必要である。これに加え、ガラス容器由来の不溶物生成を抑制することに着眼して、2種類の抗酸化性物質を併用した。即ち、前者では、活性成分と亜硫酸、若しくは硫酸とが不溶性会合体を極めて生成しやすいと推定される点、且つ硫酸は亜硫酸の自己酸化により生成する点を考慮し、一方後者では、亜硫酸、若しくは硫酸によるガラス容器内壁の侵食により、ガラス容器由来の不溶物(ガラスフレークス)が生成しやすいという推定を考慮した。そして、亜硫酸塩、好ましくは亜硫酸水素ナトリウムに対して1/10〜1/3重量比のL−システイン塩酸塩一水和物を加えることにより、活性成分に対する抗酸化作用を維持しつつ、活性成分と不溶性会合体を形成しやすい亜硫酸を減量させ、また亜硫酸が硫酸に酸化されることを抑制することで、活性成分と亜硫酸および硫酸との不溶性会合体の生成を抑制し、更にガラス容器の腐食も抑制できる効果が期待できる。
【0076】
本発明が提供する液状製剤における有効成分である、SUN N8075に代表される式(I)の化合物またはその薬理学的に許容される塩は、界面活性作用が高いため、それを溶解した溶液は、接触界面が増大した場合には、界面活性効果(界面吸着と自己凝集)により不溶性異物を生成し易いものである。また、溶液状態では起泡性が高く、消泡性が低いため、工業的規模での生産に問題が有り、液剤投与時の障害となりやすい。またさらに、吸着性が高いため、無菌濾過において、フィルター吸着を生じ、フィルターを目詰まりさせる虞が強い。
したがって、実際の製造においては、それを回避するために、活性成分含有溶液の界面活性を低減させておく必要がある。
そこで、活性成分に由来する界面活性効果を抑制させると考えられる物質を添加して、活性成分含有溶液の界面活性効果低減の効果を検討した。
【0077】
試験例7:SUN N8075水溶液の界面活性効果の低減の検討
[方法]
下記表10に記載の物質を用いた。SUN N8075を、その濃度が5mg/mLとなるように、表中の各添加濃度となる予め調製した各試験化合物溶液に添加溶解して、更に適宜塩酸によりpHを3〜4に調整し、試料溶液とした。
各試料溶液10mLを、容量10mLの共栓付試験管に入れ、手振りにて30ストローク、垂直方向に振盪した後、正立静置して、室内散光下に、振盪後の試料溶液の外観、起泡性(泡立ち量)、消泡時間、放置後観察(3日間以上放置後)について評価した。
コントロールとして、試験物質を含有しない、SUN N8075の濃度が5mg/mLとなる水溶液を同様に試験した。
【0078】
[結果]
各試験項目における評価の判定、及び総合判定の符合を下記表9に示した。
また、その結果を表10にまとめて示した。
表9:判定符合
【0079】
【表9】

【0080】
【表10】

【0081】
以上の結果から判明するように、本発明が提供する式(I)の化合物及びその薬理学的に許容される塩を含有する液状製剤においては、界面活性効果を低減させる物質として、塩化ナトリウム、メグルミン、L−アルギニン、L−グルタミン酸塩、プロピレングリコール、エタノールおよびクロロブタノールから選択される少なくとも1種を添加させることにより、溶液製剤の界面活性効果を減少させ、液状製剤の生産性の向上、投与時のデメリットを低減させることが可能となる。
それに加えて、上記の検討から判断すれば、SUN N8075に対する溶解補助剤としてのβ−シクロデキストリン誘導体(代表例:カプチゾル)、更にpH緩衝剤としてのアミノ酸緩衝系であるグリシン、L−ヒスチジンは、溶液の界面活性効果を低減させるものでもあり、これらの添加剤の使用は、その点で特に好ましいものであるといえる。緩衝剤としては、特にグリシンが好ましい。
【0082】
以上記載してきた試験例から、本発明が提供するSUN N8075に代表される式(I)の化合物及びその薬理学的に許容される塩を含有する液状製剤は、
(a)亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類から選択される少なくとも1種、
(b)β−シクロデキストリン誘導体、及び
(c)pH緩衝剤、
を含有し、pHを3〜5に調整した液状製剤を基本的態様とするものであり、その上で、不活性ガス置換により溶存酸素を低減、好ましくは4ppm以下に低減させ、さらに、活性成分由来の界面活性効果を低減させる物質、好ましくは、塩化ナトリウム、メグルミン、L−アルギニン、グリシン、L−ヒスチジン、L-グルタミン酸塩、β−シクロデキストリン誘導体、プロピレングリコール、エタノールおよびクロロブタノールから選択される少なくとも1種を含有させることもできる。また、式(I)の化合物の遊離塩基との不溶性会合体の生成を抑制する物質、好ましくはメタンスルホン酸、塩酸および塩化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有させることもできる。これらにより、臨床的に適用しうる液状製剤となる。
【0083】
かかる液状製剤の調製は、本発明者等の検討によれば、特に以下の工程で調製するのがよいことが判明した。
すなわち、
(a)不活性ガス置換により溶存酸素を低減した注射用水に、SUN N8075に代表される式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩を溶解して原薬溶液を調製する工程;
(b)注射用水に、溶解補助剤として、例えばβ−シクロデキストリン誘導体、pH緩衝剤およびpH調節剤を溶解してpHを3〜5に調整した後、不活性ガス置換により溶存酸素を置換し、次いで、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類から選択される少なくとも1種を溶解して、副原料溶液を調整する工程;
および、
(c)不活性ガス気流下で、原薬溶液を副原料溶液に加えて混合する工程;
を含む液状製剤の製造方法。
【0084】
以下に、かかる製造方法に基づく、実際の処方試験検討、及びそれにより得られた液状製剤の長期保存性の検討結果を示す。本液状製剤は、そのままで注射投与あるいは点滴投与されるため、保存中に不溶性異物が生成しないことが求められるので、以下の試験における評価は、不溶物の生成の有無を指標とした。
【0085】
処方試験1:基本的処方の検討
[基本的製法:処方番号1]
ステンレスビーカーに精製水約2L採取し、マグネチックスターラーによる攪拌下、カプチゾル(Clinical Grade;CyDex Inc.製)277.5g、グリシン(特級;ナカライテスク社製)27.75gを順次添加溶解した。この溶液に適当な通気条件下窒素ガス通気を行い、溶存酸素を2ppm以下とした。
一方、ガラスビーカーにSUN N8075の18.5g、及び窒素ガス通気により溶存酸素を2ppm以下とした精製水約500mLを添加し、マグネチックスターラーによる攪拌及び超音波照射によりSUN N8075を溶解させ、原薬溶液を調製した。
【0086】
窒素ガス気流下、ステンレスビーカー内の溶液に亜硫酸水素ナトリウム(日本薬局方、純正化学社製)3.7gを添加溶解した後、原薬溶液を緩やかに添加した。1mol/L塩酸(容量分析用、ナカライテスク社製)21.8gを添加して、pHメーター(ナビhF-52、堀場製作所社製)を用いてpHを約4.0に調整し、窒素ガス置換により溶存酸素を2ppm以下とした精製水を添加して全量を3700mLとした後、マグネチックスターラーにより充分に攪拌した。
【0087】
この溶液を孔径0.22μmの親水性PVDFフィルター(デュラポア0.22μmGVφ45、ミリポア社製)を用いて窒素加圧により濾過し、窒素気流下にあるリザーブタンク内に受液した。自動アンプル充填溶閉機(NF-2、旭精機社製)とSiOガラス薄膜により内壁処理した褐色アンプル(シリコートアンプル茶色、20mL容量、不二硝子社製)により、アンプル内を窒素置換し、溶液20mLを充填した後、速やかに溶閉した。
溶閉後のアンプル内容液の溶存酸素が2ppm以下であることを確認した。
【0088】
高圧蒸気滅菌装置(FLC-M09S30WZ、サクラ精機社製)を用いて、設定条件121℃/24分間で高圧蒸気滅菌を行った。なお、高圧蒸気機滅菌をしない場合も検討した。
【0089】
上記した基本的製法に準じて、下記表11に記載の処方に基づいて、処方番号1〜7の液状製剤を製造した(処方により調製スケールは異なる。2800〜5500mL)。
製造した各処方番号の液状製剤について、保存条件による不溶性異物の生成の有無を評価した。
【0090】
[評価方法]
不溶性異物
試料を40℃/75%RH、25℃/60%RH、及び60℃の各条件で保存し、外観検査機を用いて、経時的に試料中の不溶性異物について評価(1000Lux下に観察)した。
【0091】
[結果]
これらの結果を、まとめて表11に示した。
なお、表中の符号は以下の意味を表す。
○:不溶物生成なし
nM:nヶ月保存で不溶物生成あり
【0092】
【表11】

*:必要により添加
【0093】
上記の基本的処方の検討からみると、処方6及び7が不溶物抑制効果に優れていたものであった。また、処方6と同じ処方で、高圧蒸気滅菌を行わなかった場合も、同一の保存条件において、不溶性異物は発生しなかった。
この処方6は、抗酸化剤として亜硫酸水素ナトリウムとL−システイン塩酸塩一水和物を併用した、2成分抗酸化剤である。処方7は、式(I)の化合物の遊離塩基との不溶性会合体の生成を抑制する物質であるメタンスルホン酸を添加した処方である。
そこでこの処方を基本として、その他の添加物質(界面活性効果抑制物質)を添加した場合の具体的処方を検討した。以下の試験においては、製剤の流通時安定性確保を考慮した商業生産を考慮し、熱履歴が緩和な製法である高圧蒸気滅菌処理を行わない方法で製造し、検討した。
【0094】
処方試験2:具体的処方の検討(その1)
[基本的製法:処方番号8]
ステンレスビーカーに精製水約2L採取し、マグネチックスターラーによる攪拌下、カプチゾル(Clinical Grade;CyDex Inc.製)300g、グリシン(特級;ナカライテスク社製)22.5gを順次添加溶解した。メタンスルホン酸(特級;和光純薬工業社製)4.32gを添加した後、1mol/L水酸化ナトリウム(容量分析用、ナカライテスク社製)の添加により、pHメーター(ナビhF-52、堀場製作所社製)を用いてpHを約4.2に調整した。この溶液を、溶存酸素が2ppm以下となるよう窒素ガス通気を行った。
一方、ガラスビーカーにSUN N8075の15g、及び窒素ガス通気により溶存酸素を2ppm以下とした精製水約300mLを添加し、マグネチックスターラーによる攪拌及び超音波照射によりSUN N8075を溶解させ、原薬溶液を調製した。
【0095】
窒素ガス気流下、ステンレスビーカー内の溶液にプロピレングリコール(特級;ナカライテスク社製)31.14gを添加し、亜硫酸水素ナトリウム(日本薬局方、純正化学社製)1.5gを添加溶解した後、原薬溶液を緩やかに添加した。窒素ガス置換により溶存酸素を2ppm以下とした1mmol/Lメタンスルホン酸を添加して全量を3000mLとした後、マグネチックスターラーにより充分に攪拌した。
【0096】
この溶液を孔径0.45μm、及び0.22μmの親水性PVDFフィルター(ミリパック60(各々0.45μm、0.22μm)ミリポア社製)を用いて窒素加圧により濾過し、窒素気流下にあるリザーブタンク内に受液した。自動アンプル充填溶閉機(NF-2、旭精機社製)とSiOガラス薄膜により内壁処理した褐色アンプル(シリコートアンプル茶色、20mL容量、不二硝子社製)により、アンプル内を窒素置換し、溶液20mLを充填した後、速やかに溶閉した。
溶閉後のアンプル内容液の溶存酸素が2ppm以下であることを確認した。
【0097】
上記した基本的製法に準じて、下記表12に記載の処方に基づいて、処方番号8〜16の液状製剤を製造した(全ての処方において、調製スケールは3000mLとした)。
製造した各処方番号の液状製剤について、各保存条件による不溶性異物の生成の有無を評価した。
【0098】
[評価方法]
不溶性異物
1.各種温度/湿度条件
試験試料を40℃/75%RH、25℃/60%RH及び60℃の各条件で保存し、外観検査機を用いて、経時的に試料中の不溶性異物について評価(1000Lux下に観察)した。
【0099】
[結果]
下記表12にまとめて示した。
なお、表中の符号は以下の意味を表す。
○:不溶物生成なし
nM:nヶ月保存で不溶物生成あり
【0100】
【表12】

【0101】
表12に示した結果からも判明するように、処方番号6の処方を基本にし、そこに、メタンスルホン酸および/または界面活性効果抑制物質を添加したものでも、良好な不溶物抑制効果を示していることが理解される。
また、L−システイン塩酸塩一水和物の添加は、特に60℃の保存条件下では不溶物抑制のためには必要なものであるといえる。
【0102】
処方試験3:具体的処方の検討(その2)
商業流通を考慮して、長期加速に加え、各種苛酷条件での不溶物生成を評価した。
[基本的製法:処方番号17]
ステンレスビーカーに精製水約2Lを採取し、マグネチックスターラーによる攪拌下、カプチゾル(Clinical Grade;CyDex Inc.製)420g、グリシン(特級;ナカライテスク社製)31.5gを順次添加溶解した。1mol/L塩酸(容量分析用、ナカライテスク社製)の添加により、pHメーター(ナビhF-52、堀場製作所社製)を用いてpHを約4.0に調整した。この溶液を、溶存酸素が2ppm以下となるように窒素ガス通気を行った。
ガラスビーカーにSUN N8075の21g、及び窒素ガス通気により溶存酸素を2ppm以下とした精製水約300mLを添加し、マグネチックスターラーによる攪拌及び超音波照射によりSUN N8075を溶解させ、原薬溶液を調製した。
【0103】
窒素ガス気流下、ステンレスビーカー内の溶液に、亜硫酸水素ナトリウム(日本薬局方、純正化学社製)2.1g、L−システイン塩酸塩一水和物(特級;ナカライテスク社製)0.63gを順次、速やかに添加溶解した後、原薬溶液を緩やかに添加した。窒素ガス置換により溶存酸素を2ppm以下とした1mmol/L塩酸を添加して全量を4200mLとした後、マグネチックスターラーにより充分に攪拌した。
【0104】
この溶液を孔径0.22μmの親水性PVDFフィルター(ミリパック60(0.22μm)ミリポア社製)を用いて窒素加圧により濾過し、窒素気流下にあるリザーブタンク内に受液した。自動アンプル充填溶閉機(NF-2、旭精機社製)とSiOガラス薄膜により内壁処理した褐色アンプル(シリコートアンプル茶色、20mL容量、不二硝子社製)により、アンプル内を窒素置換し、溶液20mLを充填した後、速やかに溶閉した。
溶閉後のアンプル内容液の溶存酸素が2ppm以下であることを確認した。
【0105】
上記した基本的製法に準じて、下記表13に記載の処方に基づいて、処方番号17〜27の液状製剤を製造した(処方により、調製スケールは異なる。3800〜5800mL)。
なお、処方番号27にあっては、SiOガラス薄膜により内壁処理した褐色バイアル(シリコートバイアル茶色、30mL容量、不二硝子社製)に29〜30mLバイアル充填し、テフロン(登録商標)コートされたブチルゴム栓(大協精工社製)及びアルミ/プラスチック フリップオフキャップ(フリップキャップ20;久金属工業社製)で打栓、巻締した。
製造した各処方番号の液状製剤について、各種保存条件による不溶性異物の生成の有無を評価した。
【0106】
[評価方法]
不溶性異物
1.加速条件
各試験試料を40℃/75%RH(湿度)条件下に保存して、経時的に不溶性異物について評価(1000Lux下に観察)した。
2.長期保存条件
各試験試料を25℃/60%RH(湿度)条件下に保存して、経時的に不溶性異物について評価(1000Lux下に観察)した。
【0107】
3.苛酷条件
(3.1)高温条件
各試験試料を60℃条件下に保存して、経時的に不溶性異物について評価(1000Lux下に観察)した。
(3.2)低温条件
各試験試料を5℃条件下に保存して、経時的に不溶性異物について評価(1000Lux下に観察)した。
【0108】
(3.3)光照射条件
各試験試料をD65ランプ2000Lux条件下に保存して、経時的に不溶性異物について評価(1000Lux下に観察)した。
【0109】
[結果]
それらの結果を、下記表13にまとめて示した。
なお、表中の符号は以下の意味を表す。
○:不溶物生成なし
nM:nヶ月保存で不溶物生成あり
nW:n週間保存で不溶物生成あり
25日:25日間の試験終了時に不溶物生成あり
【0110】
【表13】

【0111】
本処方試験例は、本発明の液状製剤の加速条件、長期保存条件および苛酷条件における安定性(不溶物生成)を評価したものである。
表13に示した結果からも判明するように、本発明が提供するSUN N8075に代表される式(I)で示される化合物またはその薬理学的に許容される塩を含有する液状製剤は、安定性に優れたものであり、長期保存においても不溶物の生成が認められないものであることが理解される。また、活性成分に由来する界面活性効果を低減させる種々の物質や、式(I)の化合物の遊離塩基との不溶性会合体の生成を抑制する物質を、単独または組み合わせて添加することもできることが理解される。ただし、塩化ナトリウムを添加する場合には、pHを3.8以上にすることが必要である。
【0112】
以上説明してきたように、本発明は、中性付近での溶解度が極めて低い、式(I)で示される化合物及びその薬理学的に許容される塩について、溶解補助剤、特にβ−シクロデキストリン誘導体の選択、抗酸化剤、例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類の選択、pH調節剤の選択、ならびにpH緩衝剤の選択をしたうえで、溶液のpHを3〜5の範囲内に調整すること、更に、溶液調製において、溶存酸素を不活性ガスである窒素ガスに置換し、また所望により界面活性効果低減作用を有する物質や式(I)の化合物の遊離塩基との不溶性会合体の生成を抑制する物質を添加することで、目的とする液状製剤が調製される。
かかる液状製剤は、溶解した式(I)で示される化合物及びその薬理学的に許容される塩を安定に含有し、長期安定性に優れたものである。
【0113】
したがって、最も好ましい本発明が提供する液状製剤は、1〜5mg/mLの(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩、0.05〜0.10%(w/v)の亜硫酸水素ナトリウム、0.015〜0.03%(w/v)のL−システイン塩酸塩一水和物、7.5〜10%(w/v)のβ−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩、50〜100mMのグリシン、および塩酸を含有し、pHが3.0〜4.5の範囲内にある液状製剤である。
【0114】
本発明が提供する液状製剤は、そのまま注射投与により投与すること、或いは点滴投与することもでき、その投与量を適宜調整することにより、目的とする疾患の治療に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明により、中性付近での溶解性が極めて小さい、上記式(I)で示される化合物及びその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、安定した液状製剤が提供される。
本発明により提供される液状製剤は、有効成分である式(I)で示される化合物及びその薬理学的に許容される塩を安定に含有するものであり、これら化合物及びその薬理学的に許容される塩が、良好な虚血性疾患及び神経変性疾患に基づく症状、痙攣、癲癇及び偏頭痛由来の症状並びに糖尿病、動脈硬化、炎症性疾患に起因する各種症状の改善、及びそれに対する治療作用を有することから、これら疾患の治療に極めて有効なものであり、その産業上の利用性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩を活性成分として含有する液状製剤であって、
(a)亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類から選択される少なくとも1種、
(b)β−シクロデキストリン誘導体、及び
(c)pH緩衝剤、
を含有し、pHを3〜5に調整したことを特徴とする液状製剤。
【請求項2】
(a)亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、α−チオグリセリン、L−システイン塩酸塩一水和物およびL−システインから選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の液状製剤。
【請求項3】
(a)亜硫酸水素ナトリウムを含有する請求項1に記載の液状製剤。
【請求項4】
(a)亜硫酸水素ナトリウムおよびL−システイン塩酸塩一水和物を含有する請求項1に記載の液状製剤。
【請求項5】
亜硫酸水素ナトリウムとL−システイン塩酸塩一水和物の量比が、L−システイン塩酸塩一水和物/亜硫酸水素ナトリウム(w/w)で1/10〜1/3である請求項4に記載の液状製剤。
【請求項6】
亜硫酸水素ナトリウムの濃度が、0.02〜0.30%(w/v)である請求項3〜5のいずれかに記載の液状製剤。
【請求項7】
亜硫酸水素ナトリウムの量が、活性成分に対して、1/35〜3倍量(重量比)である請求項3〜6のいずれかに記載の液状製剤。
【請求項8】
β−シクロデキストリン誘導体が、β−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩またはヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンである請求項1に記載の液状製剤。
【請求項9】
β−シクロデキストリン誘導体の量が、活性成分に対して、活性成分:β−シクロデキストリン誘導体として、1:4〜1:8(モル比)である請求項1または8に記載の液状製剤。
【請求項10】
β−シクロデキストリン誘導体の濃度が、7.5〜13.5%(w/v)である請求項1または8に記載の液状製剤。
【請求項11】
pH緩衝剤が、アミノ酸緩衝系または酢酸緩衝系である請求項1に記載の液状製剤。
【請求項12】
アミノ酸緩衝系が、グリシンまたはL−ヒスチジンである請求項11に記載の液状製剤。
【請求項13】
アミノ酸緩衝系がグリシンであり、グリシンの濃度が50〜150mMである請求項12に記載の液状製剤。
【請求項14】
pHの調整を、塩酸、メタンスルホン酸、酢酸および水酸化ナトリウムから選択される少なくとも1種のpH調節剤で行う請求項1に記載の液状製剤。
【請求項15】
pH調節剤が塩酸である請求項14に記載の液状製剤。
【請求項16】
不活性ガス置換により溶存酸素を低減させた注射用水を用いて調製した請求項1に記載の液状製剤。
【請求項17】
溶存酸素濃度が、4ppm以下である請求項1に記載の液状製剤。
【請求項18】
活性成分に由来する界面活性効果を低減させる物質を更に含有した請求項1に記載の液状製剤。
【請求項19】
界面活性効果を低減させる物質が、塩化ナトリウム、メグルミン、L−アルギニン、グリシン、L−ヒスチジン、L−グルタミン酸塩、β−シクロデキストリン誘導体、プロピレングリコール、エタノールおよびクロロブタノールから選択される少なくとも1種である請求項18に記載の液状製剤。
【請求項20】
(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールの遊離塩基との不溶性会合体の形成を抑制する物質を更に含有した請求項1に記載の液状製剤。
【請求項21】
不溶性会合体の形成を抑制する物質が、メタンスルホン酸、塩酸および塩化ナトリウムから選択される少なくとも1種である請求項20に記載の液状製剤。
【請求項22】
1〜5mg/mLの(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩、0.05〜0.10%(w/v)の亜硫酸水素ナトリウム、0.015〜0.03%(w/v)のL−システイン塩酸塩一水和物、7.5〜10%(w/v)のβ−シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩、50〜100mMのグリシン、および塩酸を含有し、pHが3.0〜4.5の範囲内にある液状製剤。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれかに記載の液状製剤を、接液面側をSiOガラス薄膜により内壁処理したガラス容器に充填してなる液状製剤。
【請求項24】
(a)不活性ガス置換により溶存酸素を低減した注射用水に、(2S)−1−(4−アミノ−2,3,5−トリメチルフェノキシ)−3−{4−[4−(4−フルオロベンジル)フェニル]−1−ピペラジニル}−2−プロパノールまたはその薬理学的に許容される塩を溶解して原薬溶液を調製する工程;
(b)注射用水に、β−シクロデキストリン誘導体、pH緩衝剤およびpH調節剤を溶解してpHを3〜5に調整した後、不活性ガス置換により溶存酸素を置換し、次いで、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、α−チオグリセリンおよびシステイン類から選択される少なくとも1種を溶解して、副原料溶液を調整する工程;
および、
(c)不活性ガス気流下で、原薬溶液を副原料溶液に加えて混合する工程;
を含む液状製剤の製造方法。

【公表番号】特表2009−545515(P2009−545515A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505317(P2009−505317)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【国際出願番号】PCT/JP2007/065326
【国際公開番号】WO2008/016165
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(503062312)アスビオファーマ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】