説明

液相処理用吸着剤及びその製法

【課題】本発明は、調製が容易でかつ取り扱いの簡便な活性炭からなる吸着剤であって、水又は水溶液を通水した場合に、通水初期から処理水のpH値や溶存イオン濃度の変化が小さい吸着剤、及びその製法を提供する。
【解決手段】乾燥減量が10質量分率%以下であり、pH値(JIS K1474)が3〜6であり、硫黄含有量(JIS K2541−3)が300〜800mg/kgである活性炭を含む液相処理用吸着剤、及びその製法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相、特に水相の処理に適した吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、水又は水溶液の処理において、吸着剤として不純物の除去、溶解成分の濃度調整などに使用されている。
【0003】
ところが、活性炭は、原料に由来して又は賦活工程におけるアルカリ剤の使用などに由来して、一般にアルカリ性であるので、そのままで使用すると水が著しくアルカリ性となりpH調整が必要となるという問題点があった。また、活性炭にはイオン交換能力があるため、そのまま使用すると処理水中のイオンを吸着して液の性状が変化してしまうこともあった。
【0004】
そこで、処理水中においてpH値を制御(低下)できる活性炭として、特許文献1には、空気又は酸素により酸化して得られる8.5以下の接触pHを有する酸化活性炭が提案されている。しかし、この場合活性炭の酸化には、カラム流通法においてさえ7乃至25時間必要とし、大気中に静置する方法では30乃至340時間という長時間を必要としている。また、得られた活性炭は湿潤状態であり、輸送に際して不利であるばかりでなく、表面酸化物が増加し吸着性能の低下を招くので好ましくない。
【0005】
非特許文献1には、活性炭を希塩酸などの鉱酸で酸洗脱灰し、さらに水洗を繰り返して精製、乾燥等して調製することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、活性炭を鉱酸(塩酸等)で処理した後に水で脱酸処理して得られる活性炭が報告されている。しかし、特許文献2の段落[0020]の表4に示されているように、脱酸処理(水洗)後に乾燥した状態で活性炭を使用すると、処理水のpH値は上昇してしまうため、活性炭を含水量20wt%以上の湿潤状態で保存しておく必要がある。
【0007】
乾燥状態で保存できるpH調整活性炭の製造方法として、特許文献3には、酸性ガスを活性炭と接触させることで、水を使用せずに活性炭のpH値を調整する方法が提示されている。ところが、使用する酸性ガスは、活性炭中のアルカリ金属の当量に合わせる必要があり、過剰の酸性ガスを活性炭に吸着させると、吸着の初期に処理水が酸性になることが併せて示されている。従って、この場合もやはり処理水のpH調整や装置の腐蝕対策が必要になる。
【0008】
また、この特許文献3に示されている酸性ガスとは、塩化水素、臭化水素、二酸化硫黄、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素の内の1種以上と、いずれも毒性及び/又は腐蝕性を有するものであるから、pH調整操作に危険を伴う上、このような方法で調製した活性炭が高温にさらされた場合、これら有毒ガスが周囲に放出される危険性も懸念される。しかも、残留する酸が活性炭を充てんした吸着設備を腐食させる恐れもある。
【0009】
さらに、特許文献4には、活性炭に毒性の低い酸性ガスとして二酸化炭素を吸着させ、排水のpH値を中性付近に保つことのできる活性炭及びその製法が提供されている。しかし、調製した活性炭は二酸化炭素が物理吸着しているだけであるため、二酸化炭素の脱着を抑えるため密閉容器で保管する必要があった。
【0010】
特許文献5には、乾燥状態の活性炭として、活性炭を酸により中和した後、活性炭に保持された酸を除去することにより得られる、pH値が4.0〜7.0である液相処理用活性炭が記載されている。しかし、特許文献5の段落[0063]の図2乃至図3に示されているように、処理水のpH値は一旦低くなった後上昇しており、安定性にはやや欠けるという問題点があった。
【0011】
さらに、これら特許文献1〜5に記載の従来の活性炭では、活性炭のイオン交換による処理水中のイオンの濃度変化により液の性状が変化してしまい、飲料水に用いた場合に味が変わってしまうという問題があった。かかる問題点については、依然として改善の余地があった。
【特許文献1】特開平8−141553号公報
【特許文献2】特開平9−225454号公報
【特許文献3】特開2000−308823号公報
【特許文献4】特開2005−187253号公報
【特許文献5】特開2005−329328号公報
【非特許文献1】新版活性炭−基礎と応用、講談社、1992、p.62
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、調製が容易でかつ取り扱いの簡便な活性炭からなる吸着剤であって、水又は水溶液を通水した場合に、通水初期からの処理水のpH値や溶存イオン濃度の変化が小さい吸着剤、及びその製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
活性炭の原料として用いられるヤシ殻、石炭などには、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属が含まれ、活性炭を製造する過程で水酸化物を形成し、水と接触させた場合アルカリ性を呈することとなる。
【0014】
これを解決するために、活性炭を希塩酸などの鉱酸で酸洗脱灰し、さらに水洗を繰り返して精製することが知られているが(非特許文献1)、一般に、得られた活性炭は、通水するうちにpH値が上昇してしまうことが知られている。
【0015】
また、活性炭に水又は水溶液を通水した場合、有機物が吸着されたり、残留塩素、オゾン、過酸化水素などが分解されたりするばかりでなく、通常の水中に含まれる硫酸イオン(SO2−)のような無機イオンも吸着される。ところで硫酸イオンが吸着された場合、このイオンは負の電荷を有するため、電荷を中性にするために活性炭表面上には、水素イオンも同時に吸着される。
【0016】
水又は水溶液のpH値とは、水素イオン濃度の10を底とした対数に負の記号をつけたものであり、上記のように活性炭の表面上に水素イオンが吸着され、水素イオン濃度が減少すると、水又は水溶液のpH値は上昇することになる。
【0017】
このような処理水のpH値が上昇する活性炭として、例えば、特許文献2に比較例として記載されている乾燥活性炭が挙げられるが、この乾燥活性炭に水を通水した場合、水中の塩化物イオンは元の水の濃度を保っていたが、硫酸イオンは長時間にわたって除去されていることが判明した。
【0018】
そこで、あらかじめ充分鉱酸(塩酸)を接触させてアルカリ金属、アルカリ土類金属を除いた活性炭に、充分な量の硫酸イオンを吸着させておいて、その後に水又は水溶液を通水すると、通水初期に硫酸イオンが吸着されることなく、終始ほぼ一定したpH値の処理水が得られることを知見した。これらの知見を基に更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、次の液相処理用吸着剤及びその製法に関する。
【0020】
項1.pH値(JIS K1474)が3〜6であり、硫黄含有量(JIS K2541−3)が300〜800mg/kgである活性炭を含む液相処理用吸着剤。
【0021】
項2.前記活性炭の乾燥減量が10質量分率%以下である項1に記載の液相処理用吸着剤。
【0022】
項3.前記活性炭1kgあたりに含まれるカルシウム及びマグネシウム含有量の合計(JIS K1474の鉄の測定方法に準じて測定)が5mmol以下である項1又は2に記載の液相処理用吸着剤。
【0023】
項4.活性炭がヤシ殻活性炭である項1、2又は3に記載の液相処理用吸着剤。
【0024】
項5.活性炭を塩酸に接触し、その後硫酸イオンを含む水に接触させた後、乾燥することを特徴とする液相処理用吸着剤の製造方法。
【0025】
項6.項1〜4のいずれかに記載の液相処理用吸着剤を用いて、水又は水溶液を処理する方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の吸着剤は、取り扱いが容易な乾燥活性炭であり、しかも、水又は水溶液中を該活性炭に通水したとき、処理水のpH値の著しい上昇が起きず、溶存イオン濃度の変化が少なく、かつ不純物の含有も少ないという特徴を有している。そのため、広範な水処理の用途に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明における液相処理用吸着剤とは、水を含む液相の処理に用いられる吸着剤を意味するものである。
【0029】
本発明の液相処理用吸着剤は、JIS K1474におけるpH値が3〜6であり、JIS K2541−3における硫黄含有量が活性炭1kgあたり300〜800mgである活性炭を含有する。該液相処理用吸着剤の形態は、湿潤状態或いは乾燥状態のいずれであってもよい。特に、取り扱いの容易な乾燥減量が10質量分率%以下の乾燥状態の場合でも、処理水のpH値や溶存イオン濃度の変化が小さいという特徴を有している。
【0030】
該液相処理用吸着剤を構成する活性炭は、あらかじめ塩酸で充分に洗浄し、その後硫酸イオンを含む水で洗浄し硫酸イオンを吸着させて、乾燥することにより得ることができる。
【0031】
活性炭の原料は、ヤシ殻、石炭、コークス、木粉、おが屑、天然繊維(例、麻、綿等)、合成繊維(例、レーヨン、ポリエステル等)、合成樹脂(例、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール)など一般的に用いられるものであればいずれでも良い。特にヤシ殻が好ましい。
【0032】
これらの原料を炭化及び賦活して活性炭とするが、その賦活方法も特に限定されない。例えば、「活性炭工業」、重化学工業通信社(1974)、p.23〜p.37の方法で製造される、水蒸気、酸素、炭酸ガスなどの活性ガスで賦活されたガス賦活炭や、リン酸、塩化亜鉛などを用いて賦活された薬品賦活炭など、ハロゲンガスで賦活した以外の活性炭が用いられる。
【0033】
賦活された活性炭の比表面積は特に限定されないが、好ましくは500〜2500m/g、より好ましくは800〜2000m/gである。
【0034】
粒度は特に限定されないが、通常は0.075〜5mm、好ましくは0.1〜4mm、より好ましくは0.150〜3mmのものが用いられる。
【0035】
平均粒径は、0.075〜5mmが好ましく、さらに、0.150〜2.0mmのものが好ましい。
【0036】
賦活した活性炭の洗浄は、活性炭を塩酸と接触させることにより行う。該接触は、活性炭を適当な濃度と量の塩酸に浸漬、あるいは塩酸を活性炭に流通するなどして、塩化物イオンの所望量を活性炭に吸着させることができる。
【0037】
塩酸の濃度は、活性炭中に含まれるアルカリ分を中和でき、不純物として含まれる金属塩を溶解できる濃度であればよく、例えば、塩化水素として0.1〜15質量分率%、好ましくは0.1〜5質量分率%が挙げられる。塩酸の濃度が低すぎると、活性炭のpH値は充分に下がらず、処理水のpH値を低くすることができない。また、原料活性炭中に含まれるカルシウム塩、マグネシウム塩などの溶解が不完全となってしまう。
【0038】
洗浄に供される活性炭は、賦活したままの状態であってもよいし、あらかじめ水洗して、水溶性無機成分を除去しておいてもよい。
【0039】
活性炭と塩酸との接触は、通常5〜80℃程度、好ましくは10〜80℃程度で行う。接触時間は通常2〜20時間程度でよいが、塩酸水溶液の温度を適宜変更することで2時間〜5時間程度とすることもできる。通常は、上記の温度及び時間の範囲で塩酸との接触処理を行い、塩酸のpHが安定するまで、例えば、±0.2/分程度、さらに±0.1/分程度になるまで十分に処理するのが好ましい。塩酸との接触時間が短いと、活性炭の内部まで中和、脱灰が充分に進行せず好ましくない。
【0040】
上記の塩酸による処理により、活性炭の表面には塩酸が吸着しているが、この塩酸を次の工程で硫酸に置換する。すなわち、充分pH値が下がり不純物が除去された活性炭に硫酸イオンを含む水を接触させて、活性炭の表面に硫酸を吸着させる。
【0041】
具体的には、活性炭を、適当な濃度と量の硫酸イオンを含む水に浸漬、或いは硫酸イオンを含む水を活性炭に流通すればよい。硫酸イオンを含む水による活性炭の処理は、バッチ式又は連続式のいずれの方法でもよく、吸着した塩酸を硫酸イオンに置換することができる。硫酸イオンを含む水としては、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム等の水溶液が例示されるが、硫酸イオンを含む水であれば必ずしもこれらの水溶液でなくてもよい。
【0042】
水溶液中の硫酸イオン濃度は特に限定されないが、SO2−に換算した質量として、例えば、5〜10000mg/L、好ましくは20〜1000mg/L、より好ましくは30〜100mg/Lである。硫酸イオン濃度が低すぎると、塩酸との置換に大量の硫酸イオンを必要とする。また、硫酸イオン濃度が高すぎると、活性炭を乾燥した際、硫酸塩の固体が析出することがある。このような高い硫酸イオン濃度の水溶液と接触させた場合は、最後に硫酸イオン濃度の低い水溶液と接触させ、過剰の硫酸イオン、硫酸塩化合物を除去することもできる。
【0043】
硫酸イオンを含む水との接触時における水温は特に限定はなく、通常10〜60℃程度であればよい。特に40〜60℃程度の温水が好ましい。接触時間は、2時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、長くても24時間以内が好ましく、16時間以内がより好ましい。硫酸イオンを含む水溶液と活性炭の接触は、連続式でもバッチ式に分けて行ってもよく、その場合、合計の接触時間が2時間以上であればよい。なお、バッチ式の場合、1回又は2回以上の接触処理を行っても良い。
【0044】
硫酸イオンを含む水との接触は、乾燥後の活性炭における硫黄含有量が、300〜800mg/kg程度になるように調整される。接触時間が短いと、活性炭の粒子内部までイオン交換反応が進行しない場合があり、その活性炭を使用すると処理水中のイオンを吸着して液の性状が変化しやすくなる傾向にある。
【0045】
このようにして活性炭に硫酸イオンを吸着させた後、公知の方法で水を切り乾燥することができる。乾燥条件は特に限定はないが、取り扱いが簡便なように、活性炭の乾燥減量が10質量分率%以下、好ましくは5質量分率%以下の乾燥状態の活性炭とすればよい。乾燥減量は、JIS K1474に従って測定された値である。
【0046】
得られる活性炭の硫黄含有量は、300〜800mg/kgであり、400〜800mg/kgが好ましく、500〜800mg/kgがより好ましい。硫黄含有量は、活性炭に吸着した硫酸イオンに由来する硫黄の量に相当する。つまり、活性炭に硫酸イオンが上記の範囲内で吸着することにより、被処理液中のイオン濃度に影響を与えないため好ましい。なお、硫黄含有量とは、JISK2541−3「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第3部:燃焼管式空気法」に従って測定された値である。
【0047】
得られる活性炭のpH値は、3〜6程度であり、4〜6が好ましく、4〜5が特に好ましい。活性炭のpH値は、JIS K1474「活性炭試験方法」に従って測定された値である。
【0048】
得られる活性炭のカルシウム及びマグネシウム含有量の合計は、吸着剤1kgあたり5mmol以下が好ましく、4mmol以下がより好ましい。カルシウム及びマグネシウム含有量は、JIS K1474「活性炭試験方法」にある鉄の測定法に準じて、測定することができる。
【0049】
得られる活性炭は、上記したように充分な塩酸処理がなされているため処理水のpHが安定しており、しかも、硫酸イオンを活性炭に吸着させてあるため処理水中のイオン濃度が変化しないという顕著な効果が発揮される。
【0050】
例えば、pHについては、5.8〜8.6、好ましくは6.5〜8.0の範囲で、原水からの変化が±0.8、好ましくは±0.5、より好ましくは±0.3で保持される。また、溶存イオンについては、通水開始20倍といった少ない水量でほぼ原水と同じ濃度となる。
【0051】
本発明の吸着材に含まれる活性炭は、そのpH調整効果が保管形態により影響を受けないという特徴を有している。例えば、湿潤状態であっても、また、乾燥状態であっても、長期間そのpH調整効果等が保持される。特に、乾燥状態である場合には、通常の包装形態(紙袋、フレコン等)の保管形態を採用でき、吸着性能の低下、微生物の繁殖といったことが起きず、取り扱い性に優れる。
【0052】
本発明の液相処理用吸着剤の処理対象となる液相としては、飲料水、地下水、排水、工業用水、化学工場における中間体や反応生成物等の水溶液等が例示される。
【0053】
本発明の液相処理用吸着剤の吸着対象物としては特に限定はなく、例えば、被処理水中に含まれるジオスミン、2−メチルイソボルネオールなどの臭気物質、ジクロロメタン、クロロホルムなどの有機塩素化合物、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤、色度成分、フミン物質、廃鉱物油等の有機化合物、次亜塩素酸ナトリウム、オゾン、過酸化水素等の酸化性物質、鉛,銅錯体等の極性有害物質、グルタミン酸ナトリウム、砂糖水溶液、金イオン、よう素などの中間体や反応生成物、有価物などが例示される。
【0054】
本発明の液相処理用吸着剤は、液相中の不純物除去、有効成分の濃度調整、回収などに用いる吸着剤として好ましく用いることができる。そのため、浄水施設における上水の処理、食品、飲料品工場における原水の浄化、化学工場内での各種水溶液の精製、成分の分離、濃度調整などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例及び試験例をあげて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
比表面積が1200m/gである市販のヤシ殻活性炭(破砕炭)を、篩にかけ2.36〜0.500mm(8/32メッシュ)に粒径を揃えた。この活性炭100gを1000mlのビーカーに入れ、これに、塩酸(試薬特級)及び水道水を用いて調製した塩化水素濃度0.5質量分率%の塩酸水溶液500mlを加え、20℃の室内で3時間撹拌したのち上澄み水を捨てた。この時上澄み水のpH値は1.8であった。塩酸洗浄、水切りをした活性炭の入ったビーカーに、硫酸ナトリウムを硫酸イオン換算で50mg/L含有する水500mLを加え、1時間撹拌後、水切りした。この硫酸イオン水洗浄操作を5回繰り返し、水切りをした後、115±5℃に保った電気乾燥機中で3時間乾燥し、液相処理用吸着剤No.1を得た。
【0056】
この吸着剤の乾燥減量は0.8質量分率%、pH値は4.8であり、硫黄含有量は680mg/kg、カルシウム含有量は1.0mmol/kg、マグネシウム含有量は0.8mmol/kgであった。
<乾燥減量の測定>
なお、活性炭の乾燥減量は、JIS K1474により測定した。
<硫黄含有量の測定>
活性炭の硫黄含有量は、JISK2541−3「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第3部:燃焼管式空気法」に従って測定した。
<pH値の測定>
活性炭のpH値は、JIS K1474「活性炭試験方法」に従って測定した。
<カルシウム及びマグネシウム含有量の測定>
活性炭のカルシウム及びマグネシウム含有量は、JIS K1474「活性炭試験方法」にある鉄測定法に準じて測定した。具体的には、以下の通りである。あらかじめ115±5℃の恒温乾燥器中で3時間乾燥し、デシケーター(乾燥剤としてシリカゲルを使用)中で室温まで放冷した試料3gを10mgの桁まではかりとり、三角フラスコ200mLに移した。塩酸(1+4)100mLを加え、静かに沸騰が続くように約10分間加熱した。冷却後、水を加えて100mLとし、ろ紙(5種C)を用いてろ過した。初めのろ液約20mLを捨て、その後のろ液をとり、ろ液中のカルシウム又はマグネシウム濃度を原子吸光光度計によりそれぞれ測定し、吸着剤1kgあたりの量を計算して求めた。
[実施例2]
塩酸中の塩化水素濃度を0.4質量分率%とし、塩酸洗浄温度を50℃、硫酸イオンを含む水との接触温度を50℃とした以外は実施例1と同様にして液相処理用吸着剤No.2を得た。
[実施例3]
活性炭の粒度を1.70〜0.355mm(10/42メッシュ)、塩酸中の塩化水素濃度を0.4質量分率%とした以外は実施例1と同様にして液相処理用吸着剤No.3を得た。
[実施例4]
硫酸イオン水溶液との接触方法を、塩酸洗浄、水切り後の活性炭をろ布のついた容器に入れ、硫酸イオンを50mg/L含む水を50℃で、10ml/分の割合で5時間通水する方法に変更した以外は実施例1と同様にして液相処理用吸着剤No.4を得た。
[実施例5]
硫酸イオン水溶液との接触方法を、塩酸洗浄、水切り後の活性炭をろ布のついた容器に入れ、硫酸イオンを20mg/L含む水を50℃で、10ml/分の割合で5時間通水する方法に変更した以外は実施例1と同様にして液相処理用吸着剤No.8を得た。
[実施例6]
硫酸イオン濃度を100mg/L、硫酸イオン水溶液との接触時間を5時間、1回のみとした以外は実施例1と同様にして液相処理用吸着剤No.6を得た。
[実施例7]
活性炭を市販の石炭原料破砕炭(粒径1.70〜0.355mm(10/42メッシュ)、比表面積1030m/g)とし、塩酸中の塩化水素濃度を2質量分率%とした以外は実施例1と同様にして液相処理用吸着剤No.7を得た。
[実施例8]
硫酸イオン水洗浄後、水切りした活性炭の乾燥時間を2時間とした以外は実施例1と同様にして液相処理用吸着剤No.8を得た。
[実施例9]
硫酸イオン水洗浄後、水切りした活性炭の乾燥時間を1時間30分とした以外は実施例1と同様にして液相処理用吸着剤No.9を得た。
[実施例10]
硫酸イオン水洗浄後、水切りした活性炭の乾燥時間を2時間とした以外は実施例2と同様にして液相処理用吸着剤No.10を得た。
[比較例1]
特開平9−225454(特許文献2)の方法に従って、pH値が4.9である乾燥活性炭(活性炭No.11)を得た。
[比較例2]
特開2005−329328(特許文献5)の実施例2の方法に従って、pH値が5.1である乾燥活性炭(活性炭No.12)を得た。
【0057】
実施例1〜7、比較例1〜2の活性炭原料、吸着剤の調製処方、乾燥減量、pH値、硫黄含有量、カルシウム及びマグネシウム含有量を表1に示す。
[試験例1](カラム通水実験)
吸着剤50mlを内径20mmのガラス製カラムに充てんし、水道水を5ml/分の割合で下向流で通水した。通水開始200分後(20倍通水後)の通過水を採取し、含有される硫酸イオン濃度及びpH値を測定した。実験に用いた水道水中に含まれる硫酸イオン濃度は24mg/L、pH値は7.5であった。また、通水を12時間続け、その間に通過水に溶出した塩化物の濃度を測定し、活性炭から溶出した塩化イオン物量(通水時塩化物量)を求め、通水時塩化物溶出量とした(表1)。
【0058】
表1より、実施例の吸着材は、硫酸イオン処理により活性炭上のClが硫酸イオンで置換されているため、比較例のものに比べてClの溶出量が少ないことが分かる。そのため、実施例の吸着材では、処理水のイオン濃度変化への影響が少ない。
【0059】
また、通過水のpH値、硫酸イオン濃度の変化を図1および図2に示す。
【0060】
図1より、塩酸洗浄時間及び塩酸濃度が不足していた比較例の吸着剤では、カルシウム及びマグネシウムが多く残留しており、通水後の水のpH値が上昇を続けていたのに対し、実施例の吸着剤を使用した場合、通水70倍までの通過水のpH値の最大値と最小値の差が1以下と安定していた。
【0061】
図2より、実施例の吸着剤を使用した場合、通水直後から通水70倍までの硫酸イオン濃度が、元の水の半分以上は保たれていたのに対し、硫黄含有量の少ない比較例の吸着剤では硫酸イオン濃度が大きく減少し、水の性状が変わっていた。
[試験例2](追出し塩化物測定方法)
活性炭3gを三角フラスコ200mlにはかり取り、硫酸ナトリウム水溶液(硫酸イオンを400ppm含有する)100mlを加え、穏やかに加熱し5分間沸騰を続け、冷却した後、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過したろ液中の塩化物濃度を測定し、活性炭中の塩化物含有量を求め、この量を追出し塩化物とした。追出し塩化物実験の結果を表1に示す。
【0062】
なお、追出し塩化物測定は、活性炭に吸着乃至付着している塩化物イオンを測定するものである。表1より、実施例の吸着剤は、比較例のものに比べて、塩化物イオンの吸着量が少ないことが分かる。そのため、通過水のイオン濃度への影響が少ない。
【0063】
なお、表1中、「←」は左欄と同じことを意味する。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の吸着剤は、保管、輸送に都合のよい乾燥状態であり、しかも、水又は水溶液を処理した場合のpH値、溶存イオン濃度の変化が少なく、水または水溶液中の不純物除去、有効成分の濃度調整、回収などに用いる吸着剤として好ましく用いることができる。
【0066】
そのため、浄水施設における上水の処理、食品、飲料品工場における原水の浄化、化学工場内での各種水溶液の精製、成分の分離、濃度調整などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】通過水のpH値の変化を示すグラフである。
【図2】通過水の硫酸イオン濃度の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH値(JIS K1474)が3〜6であり、硫黄含有量(JIS K2541−3)が300〜800mg/kgである活性炭を含む液相処理用吸着剤。
【請求項2】
前記活性炭の乾燥減量が10質量分率%以下である請求項1に記載の液相処理用吸着剤。
【請求項3】
前記活性炭1kgあたりに含まれるカルシウム及びマグネシウム含有量の合計(JIS K1474の鉄の測定方法に準じて測定)が5mmol以下である請求項1又は2に記載の液相処理用吸着剤。
【請求項4】
活性炭がヤシ殻活性炭である請求項1、2又は3に記載の液相処理用吸着剤。
【請求項5】
活性炭を塩酸に接触し、その後硫酸イオンを含む水に接触させた後、乾燥することを特徴とする液相処理用吸着剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の液相処理用吸着剤を用いて、水又は水溶液を処理する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−237169(P2007−237169A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28966(P2007−28966)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】