説明

深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法

【課題】 粗アルゴン圧縮機等の付帯設備を設けるまでもなく、高圧の粗アルゴンをアルゴン精製装置、精製アルゴン塔に供給することを可能ならしめる深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法を提供する。
【解決手段】 粗アルゴン塔8から抜出した粗アルゴンをアルゴン精製装置10に導入するに際して、前記粗アルゴン塔8の粗アルゴン抜出し口8bから液体粗アルゴンを抜出すと共に、粗アルゴン抜出しライン9を介して主熱交換器2に導入して蒸発させ、蒸発した粗アルゴンを常温になるまで加温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気を窒素、酸素に分離する深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法に係り、より詳しくは、より低コストで効果的に製品液体アルゴンを製造することを可能ならしめる深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先ず、アルゴン製造方法を実施する従来例に係る一般的な深冷空気分離装置を、その模式的系統説明図の図8を参照しながら説明する。即ち、この従来例に係る一般的な深冷空気分離装置は、原料空気を圧縮する原料空気圧縮機51と、この原料空気圧縮機51により圧縮された空気を10〜40℃程度に冷却する予冷ユニット52と、この予冷ユニット52で冷却された原料空気中の二酸化炭素および水分を除去する吸着塔ユニット53と、この吸着塔ユニット53で前処理された空気を液化温度近傍まで冷却する主熱交換器54とを備えている。
【0003】
さらに、主熱交換器54から送込まれた低温空気中の窒素、酸素等を精留分離する、底部に主凝縮器55cを備えた上塔55aおよび下塔55bからなる複式精留塔55と、上塔55aから導入されたアルゴンを含む蒸気中のアルゴンを濃縮する粗アルゴン塔56と、この粗アルゴン塔56から取り出され、主熱交換器54を経由した粗アルゴンを0.2〜0.4MPaG程度の圧力に圧縮する粗アルゴン圧縮機57を備えている。さらに、粗アルゴン圧縮機57により圧縮された粗アルゴン中の酸素を除去して変成アルゴンにするアルゴン精製装置58と、このアルゴン精製装置58により精製された変成アルゴンを精製する精製アルゴン塔59と、装置全体を低温に維持するための寒冷を発生させる膨張タービン60と、これらに付帯する諸設備を備えている。
【0004】
上記従来例に係る深冷空気分離装置によれば、通常、下記のようにしてアルゴンが製造される。即ち、空気中に約0.93%含まれているアルゴンは、複式精留塔55の上塔55aの中〜下部における酸素中に濃縮される。この位置から8〜12%程度のアルゴンを含むガスが抜出され、粗アルゴン塔56の底部に供給される。粗アルゴン塔56に供給されたガスは、塔内を上昇する間に流下してくる液と接触してアルゴンが次第に濃縮され、粗アルゴン塔56の頂部では95%以上のアルゴンを含むガス(残部は少量の酸素と窒素である。)となる。このガスの大部分は粗アルゴン凝縮器56aに供給され、凝縮されて粗アルゴン塔56の下部に還流される。残部は、ガス状で抜出されて主熱交換器54で常温まで加温されると共に、粗アルゴン圧縮機57により圧縮されてアルゴン精製装置58に供給される。そして、このアルゴン精製装置58において粗アルゴン中に含まれている酸素が除去される。
【0005】
粗アルゴン中に含まれている酸素は、例えば粗アルゴン中に水素を混入して加熱し、触媒により酸素と水素を化学的に酸化反応させ、これにより生成した水分を吸着剤で吸着して除去するといったような除去方法によっている。酸素が除去された変成アルゴンは、変成アルゴン供給ライン63を流れ、再び主熱交換器54を経て冷却され、精製アルゴン塔59の中部に導入される。そして、この精製アルゴン塔59における精留によって残留水素・窒素等が除去され、この精製アルゴン塔59の底部から高純度の製品液体アルゴンとして抜出される。なお、上塔55aの頂部から過冷却器64、主熱交換器54を経由するラインは窒素製品を抜出すGN排出ライン65であり、また上塔55aの下部から主熱交換器54を経由するラインは酸素製品を抜出すGO排出ライン66である。
【0006】
ところで、粗アルゴン中の酸素濃度は、粗アルゴン塔内に装備される精留段数に依存する。即ち、装備された精留段数が多くなるほど、粗アルゴン中の酸素濃度は小さくなる。
ひいては、酸素を除去するアルゴン精製装置に供給される水素量も少なくなるため経済的である。しかしながら、粗アルゴン塔の粗アルゴン抜出し口における粗アルゴンの圧力は、粗アルゴン塔に装備された精留段数が多くなるほど低下するため、ついには粗アルゴンを送出するのに十分な圧力が得られなくなる。
【0007】
ところで、通常の精留皿を用いた粗アルゴン塔で得られる粗アルゴン中の酸素濃度は2〜5%である。そこで、通常の精留皿に代えて、1段当たりの圧力損失がより低い規則充填物を用いて、粗アルゴン塔により多くの精留段数を装備することにより、より低い酸素濃度の粗アルゴンを得るようにしたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第2516680号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
深冷空気分離装置における運転コストの殆どを占めるのは、原料空気圧縮機51の駆動力に係るエネルギー代であって、この原料空気圧縮機の駆動力は、一般に下記のように決まる。即ち、深冷空気分離装置では、複式精留塔55の上塔55aの上部に廃窒素抜出しライン61が設けられており、この廃窒素抜出しライン61で抜出された廃窒素は、主熱交換器54を経て加温される。そして、加温された廃窒素の一部は吸着塔ユニット53の吸着剤再生に活用され、残りは大気中に放出される。従って、上塔55aの廃窒素抜出し位置の圧力を、吸着塔ユニット53、主熱交換器54、および廃窒素抜出しライン61の圧力損失の和に大気圧を加えた圧力に設定したときに、原料空気圧縮機51の所要動力が最小となる。一方、粗アルゴン塔56の粗アルゴン抜出し口56bの圧力は、廃窒素抜出し口の圧力に、上塔55aの廃窒素抜出し口と粗アルゴン塔底部へのガス抜出し口の間に設けられた精留皿の圧力損失を加え、粗アルゴン塔内に設けられた精留皿の圧力損失を差し引いた圧力となる。
【0009】
粗アルゴン塔56内では、主としてアルゴンと酸素の分離のための精留が行われるが、アルゴンと酸素の蒸気圧の圧力差が小さいため、それらの分離には多数の精留段数を必要とする。一方、先に述べた理由により粗アルゴン抜出し口56bにおける圧力は精留段数の増加に比例して降下し、粗アルゴン抜出し口56bでは、大気圧よりも僅かに高い圧力まで低下する。粗アルゴン抜出し口56bに接続された粗アルゴン抜出しライン62を介して抜出された粗アルゴンは、常温まで加温された後、アルゴン精製装置58で必要とされる圧力まで加圧する必要があるが、それは一般的に粗アルゴン圧縮機57により行われている。
【0010】
従来例に係る深冷空気分離装置により高純度製品液体アルゴンを製造するために、粗アルゴン抜出し口56bから粗アルゴンを抜出すためには、上記のとおり、粗アルゴン抜出し口56bにおける粗アルゴンの圧力を大気圧以上にする必要があるから、粗アルゴン塔における精留段数に制限がある。また、その粗アルゴンを加圧するための粗アルゴン圧縮機57が必要である。
【0011】
従って、本発明の目的は、粗アルゴン圧縮機等の付帯設備を設けるまでもなく、高圧の粗アルゴンをアルゴン精製装置、精製アルゴン塔に供給することを可能ならしめる深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者等は、粗アルゴン塔の粗アルゴン抜出し口から粗アルゴンを液状で、つまり液体粗アルゴンとして抜出す構成にすれば、粗アルゴン抜出し口における粗アルゴンの圧力が低くても確実に抜出すことができ、また粗アルゴン抜出し口から抜出した液体粗アルゴンを、粗アルゴン抜出し口と主熱交換器との間の高低差に起因する液体粗アルゴンの液頭で加圧することができると考えた。そして、液体粗アルゴンを主熱交換器で蒸発させることができるか否かを検討し、主熱交換器で液体粗アルゴンを蒸発し得ることを知見して、本発明を具現するに至ったものである。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法が採用した手段は、原料空気を圧縮する原料空気圧縮機と、この原料空気圧縮機から出た圧縮空気を10〜40℃程度の温度に冷却する予冷ユニットと、この予冷ユニットで冷却された圧縮空気中の二酸化炭素および水分を除去する吸着塔ユニットと、この吸着塔ユニットで精製された原料空気をその液化近傍の温度まで冷却する主熱交換器と、原料空気中の窒素・酸素を精留分離する複式精留塔と、この複式精留塔の上塔から流入するアルゴンを含む酸素中のアルゴンを濃縮する粗アルゴン塔と、粗アルゴン中の酸素を除去するアルゴン精製装置と、酸素が除去された変成アルゴンから残留水素・窒素等を除去して製品液体アルゴンとする精製アルゴン塔と、これらに付随する諸設備とを備えた深冷空気分離装置により製品液体アルゴンを製造するアルゴン製造方法において、前記粗アルゴン塔から抜出した粗アルゴンを前記アルゴン精製装置に導入するに際して、前記粗アルゴン塔の粗アルゴン抜出し口から液体粗アルゴンを抜出すと共に、粗アルゴン抜出しラインを介して前記主熱交換器に導入して蒸発させ、蒸発した粗アルゴンガスを常温まで加温することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法が採用した手段は、請求項1に記載の深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法において、前記粗アルゴン塔から抜出した液体粗アルゴンを、前記粗アルゴン抜出しラインを介して前記主熱交換器に導入する前に、液体窒素を冷媒として用いる冷却器で過冷却することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法によれば、粗アルゴン塔の地上より30〜40m程度の位置に設けられている粗アルゴン抜出し口から粗アルゴンを液状で抜出し、抜出した液体粗アルゴンを、この液体粗アルゴンの液頭で加圧することができる。そして、抜出されて加圧された液体粗アルゴンを主熱交換器に導入して蒸発させて、蒸発した高圧の粗アルゴンをアルゴン精製装置で酸素を除去した後、精製アルゴン塔に供給することができる。従って、従来例に係る深冷空気分離装置では必要であった粗アルゴン圧縮機が不要になるから、深冷空気分離装置に係る設備コストおよびランニングコストの低減が可能になる。
【0016】
また、本発明の請求項1に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法によれば、粗アルゴンを液状で抜出すのであるから、従来例に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法に比較して、粗アルゴン抜出し口における粗アルゴンの圧力を低圧にすることができる。従って、粗アルゴン塔に装備することができる精留段数の増加により粗アルゴン中の酸素含有量を低下させることができる。粗アルゴン中の酸素含有量の低下に伴い、アルゴン精製装置に供給する水素量の低減が可能になるため、高純度の製品液体アルゴンの製造コストの低減が可能になる。
【0017】
本発明の請求項2に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法によれば、上記のとおり、粗アルゴン塔の粗アルゴン抜出し口から粗アルゴンを液体粗アルゴンとして抜出せば、この液体粗アルゴンは自身の液頭で加圧されるが、粗アルゴン抜出しライン内を通過している間の入熱によって部分的に気化するとスムーズに加圧することができなくなる。
しかしながら、液体粗アルゴンは液体窒素を冷媒として用いる冷却器で過冷却されて主熱交換器に導入されるのであるから、液体粗アルゴンの気化が防止され、液体粗アルゴンの加圧に支障が生じるようなことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の形態1に係り、アルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装置を、添付図面を参照しながら説明する。図1は深冷空気分離装置の模式的系統図、図2は図1における主熱交換器の拡大図、図3は粗アルゴン液を蒸発させる主熱交換器内の温度分布説明図である。ところで、図3における縦軸は主熱交換器の低温端から高温端までの軸方向熱交換量(×10cal/h)であり、横軸は主熱交換器の低温端から高温端までの温度分布(℃)である。なお、アルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装置によれば、製品窒素、製品酸素を得ることができるが、目的は高純度製品アルゴンを製造することであるから、製品窒素、製品酸素の製造方法についての説明は割愛する。
【0019】
本発明のアルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装置は、図1に示すように、原料空気供給ライン1を備えている。この原料空気供給ライン1には、図示しないフィルタを介して吸引された原料空気を約0.5MPaGまで圧縮する原料空気圧縮機1a、圧縮された圧縮空気を10〜40℃程度に冷却する予冷ユニット1b、冷却された圧縮空気中の二酸化炭素および水分を交互に除去する、並列配設されてなる一対の吸着塔からなる吸着塔ユニット1cが介装されている。そしてこの原料空気供給ライン1から第1原料空気供給ライン3と第2原料空気供給ライン4とが分岐している。
【0020】
前記第1原料空気供給ライン3は、前記主熱交換器2を介して、底部に主凝縮器5cを備えた上塔5aと、下塔5bとからなる複式精留塔5の前記上塔5aの上下方向の中部に連通している。即ち、吸着塔ユニット1cで二酸化炭素および水分が除去された圧縮空気の一部が、この第1原料空気供給ライン3を介して複式精留塔5の上塔5aの上下方向の中部に導入されるようになっている。この第1原料空気供給ライン3の分岐部と主熱交換器2の間に、原料空気を圧縮するブロワ3aと、このブロワ3aで圧縮された原料空気を冷却するクーラ3bとが介装されている。さらに、この第1原料空気供給ライン3の主熱交換器2と上塔5aとの間に膨張タービン3cが設けられており、深冷空気分離装置の主要部を低温に維持するための寒冷を発生した後に、複式精留塔5の上塔5aに供給されるように構成されている。
【0021】
また、前記第2原料空気供給ライン4は、前記主熱交換器2を介して複式精留塔5の下塔5bの底部に連通している。つまり、吸着塔ユニット1cで二酸化炭素および水分が除去された圧縮空気の残部は第2原料空気供給ライン4を流れ、主熱交換器2で空気の液化温度近傍まで冷却された後、下塔5bの底部に導入されるようになっている。主熱交換器2で冷却されて下塔5bの底部に導入された冷却空気は、この下塔5b内を上昇する間に、流下してくる液体と接触して次第に窒素リッチとなり、下塔5bの頂部では高純度窒素蒸気となる。この高純度窒素蒸気は、上塔5aの底部に設置されている主凝縮器5cに流入し、冷却液化して下塔5bの還流液として供給される。
【0022】
一方、複式精留塔5の下塔5b内を流下する液は、流下する間に次第に酸素リッチとなって、下塔5bの底部では酸素濃度が35〜40%程度の酸素リッチの液体空気となる。
この酸素リッチの液体空気は下塔5bの底部から液体空気抜出しライン6を介して抜出され、過冷却器7で冷却された後に2分される。一部の酸素リッチの液体空気は、粗アルゴン塔8内に設けられた粗アルゴン凝縮器8aに供給されて蒸発し、上塔5aの上下方向の中部に供給される。残部の酸素リッチの液体空気は、液体のまま減圧されて上塔5aの上下方向の中部に供給される。
【0023】
空気中に約0.93%含まれているアルゴンは、複式精留塔5の上塔5aの中部から下部の間の酸素中において8〜12%程度の濃度になるまで濃縮される。そして、複式精留塔5の上塔5aの中部から蒸気抜出しライン5dを介して抜出されたアルゴンを含む蒸気は粗アルゴン塔8の底部に供給される。この粗アルゴン塔8の底部に供給されたアルゴンを含む蒸気は、この粗アルゴン塔8内を上昇する間に、流下してくる液体と接触して次第にアルゴンが濃縮され、この粗アルゴン塔8の頂部では95〜99.8%(残部は少量の酸素と窒素である。)のアルゴンを含む蒸気となる。
【0024】
95〜99.8%のアルゴンを含む蒸気は粗アルゴン凝縮器8aに供給され、冷却・凝縮されて液体粗アルゴンとなり、粗アルゴン塔8の下部(粗アルゴン凝縮器8aの下側)に還流する。粗アルゴン塔8の下部に還流した液体粗アルゴンの一部は、粗アルゴン抜出し口8bから主熱交換器2の低温端に連通する粗アルゴン抜出しライン9を介して抜出され、この粗アルゴン抜出しライン9を流れている間に、この液体粗アルゴンの液頭によって加圧される。粗アルゴン抜出し口8bの位置と、主熱交換器2の低温端との間の落差が、例えば30mであると仮定した場合、液体粗アルゴンは約0.42MPaGまで加圧される。約0.42MPaGという液体粗アルゴンの圧力は、その後、主熱交換器2における常温になるまでの蒸発・加温、アルゴン精製装置10における圧力損失、変成アルゴン供給ライン11の圧力損失、精製アルゴン塔12における精留操作による圧力損失等の全てを賄うのに十分な圧力である。
【0025】
なお、従来の液体アルゴンの一般的な蒸発方法説明図の図4に示すように、加圧された液体アルゴンは、昇圧圧縮機で圧縮した空気、または図示しない圧縮機で圧縮した窒素が供給される液体アルゴン蒸発器32に供給して蒸発させ、そして主熱交換器2を介してアルゴン精製装置10に供給するのが一般的である。ところが、アルゴンの沸点は空気や窒素よりも高温であるため、空気や窒素を用いてアルゴンを蒸発させる場合には、空気や窒素の圧力をより高圧にする必要がある。因みに、アルゴンの圧力と、この圧力の液体アルゴンを蒸発させるのに必要な空気の圧力の概要を、下記表1に示す。
【表1】

【0026】
上記表1から良く理解されるように、約0.42MPaGまで加圧された液体粗アルゴンを蒸発させるには、1.0MPaG以上の圧力の空気が必要である。しかしながら、本発明のアルゴンの製造に用いる一般的な深冷空気分離装置では、このような高圧の空気は存在しない。従って、このような蒸発方法を採用するためには、約0.5MPaGの原料空気を1.0MPaG以上に圧縮する昇圧圧縮機が必要である。
【0027】
ところが、本発明の形態1に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法では、通常、気体間の熱交換のみに用いられる主熱交換器2に、敢えて液体粗アルゴンを導入することにより高圧空気を用いることなく液体粗アルゴンを蒸発させるものである。これは、主熱交換器2には液体粗アルゴンの50〜200倍程度の原料空気が高温側流体として導入されるようになっており、この原料空気の顕熱を利用することにより、約0.5MPaGの空気で蒸発させることが可能になるからである。
【0028】
主熱交換器2を流れる各流体は図2に示すとおりであり、液体粗アルゴンを主熱交換器2で蒸発させる場合の、主熱交換器2内の温度分布の一例は、図3に示すとおりである。
各温度レベルにおいて2〜8℃の温度差があり、液体粗アルゴンを十分蒸発させることができる。図3に示す各流体の流量、圧力は下記のとおりである。
(1) 空気A(G.Air) :8,500Nm/h,0.5MPaG
(2) 空気B(T.Air) :1,500Nm/h,0.7MPaG
(3) 窒素(GN) :2,000Nm/h,0.02MPaG
(4) 酸素(GO) :2,000Nm/h,0.03MPaG
(5) 廃窒素(WN) :5,950Nm/h,0.02MPaG
(6) 液体粗アルゴン(Cr.Ar): 50Nm/h,0.3MPaG
(7) 変成アルゴン(Co.Ar) : 50Nm/h,0.2MPaG
【0029】
粗アルゴン塔8のアルゴン抜出し口8bから抜出されて粗アルゴン抜出しライン9を流れる間に加圧された液体粗アルゴンは、上記条件の各流体が流れている主熱交換器2における熱交換により蒸発して気体粗アルゴンとなる。そして、主熱交換器2により常温になるまで加温された気体粗アルゴンはアルゴン精製装置10に供給され、気体粗アルゴン中の酸素分が除去される。次いで、酸素分が除去された変成アルゴンは、変成アルゴン供給ライン11を流れ、再度主熱交換器2に通されてその液化温度近傍まで冷却され、精製アルゴン塔12の中部に供給される。この精製アルゴン塔12において、供給された変成アルゴンから窒素等が除去され、高純度の製品液体アルゴンとなり、精製アルゴン塔12の底部から抜出されて顧客に払い出される。
【0030】
なお、複式精留塔5の上塔5aの頂部から過冷却器7、および主熱交換器2を経由するラインは窒素製品を抜出すGN排出ライン13であり、複式精留塔5の上塔5aの下部から主熱交換器2を経由するラインは酸素製品を抜出すためのGO排出ライン14である。
また、複式精留塔5の上塔5aの上部には、一般的な従来例と同様に、廃窒素抜出しライン15が接続されており、この廃窒素抜出しライン15を介し抜出された廃窒素は、主熱交換器2を経て加温される。そして、加温された廃窒素の一部は吸着塔ユニット1cの吸着剤再生に活用され、残りは大気中に放出される。
【0031】
以下、本発明の形態1に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法の作用態様を説明する。即ち、本発明の形態1に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法の場合には、上記のとおり、粗アルゴン塔8の地上より30〜40m程度の高位置に設けられている粗アルゴン抜出し口8bから粗アルゴンを液体粗アルゴンとして抜出して主熱交換器2に導入するものである。
【0032】
従って、粗アルゴン抜出し口8bにおける粗アルゴンの圧力が低圧であっても、粗アルゴン抜出し口8bから液体粗アルゴンを確実に抜出すことができ、しかも抜出した液体粗アルゴンを自身の液頭により加圧することができる。そして、抜出されて加圧された液体粗アルゴンを主熱交換器2に導入して蒸発させると共に、常温まで加温してアルゴン精製装置10に導入し、このアルゴン精製装置10で高圧の粗アルゴンガスから酸素を除去した後、精製アルゴン塔12に供給することができる。従って、本発明の形態1に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法によれば、従来例に係る深冷空気分離装置では必要であった粗アルゴン圧縮機が不要であるから、深冷空気分離装置に係る設備コストおよびランニングコストの低減が可能になるという優れた効果を得ることができる。
【0033】
また、本発明の形態1に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法によれば、上記のとおり、粗アルゴンを液体粗アルゴンとして抜出すのであるから、従来例に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法に比較して、粗アルゴン抜出し口8bにおける粗アルゴンの圧力を低圧にすることができる。従って、粗アルゴン塔に装備することができる精留段数の増加により粗アルゴン中の酸素含有量を低下させることができる。粗アルゴン中の酸素含有量を低下に伴い、アルゴン精製装置10に供給する水素量の低減が可能になるため、高純度の製品液体アルゴンの製造コストの低減が可能になるという優れた効果を得ることができる。
【0034】
本発明の形態2に係り、アルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装置を、添付図面を参照しながら説明する。図5は深冷空気分離装置の模式的系統図である。なお、本形態2が上記形態1と相違するところは、粗アルゴン抜出しラインに冷却器が介装されたところにあって、それ以外は上記形態1と全く同構成であるから、同一のものに同一符号を付してその相違する点について説明する。
【0035】
即ち、本発明の形態2に係る深冷空気分離装置は、粗アルゴン塔8の粗アルゴン抜出し口8bから主熱交換器2を経由してアルゴン精製装置10に連通する粗アルゴン抜出しライン9の前記粗アルゴン抜出し口8bの下流側に液体窒素を冷媒として用いる冷却器16を介装したものである。
【0036】
従って、本発明の形態2に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法によれば、粗アルゴン圧縮機が不要であるから、上記形態1と同様の効果を得ることができるのに加えて後述する効果も得ることができる。即ち、本発明の形態2に係る深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法によれば、上記のとおり、粗アルゴン塔8の粗アルゴン抜出し口8bから粗アルゴンを液状で抜出して粗アルゴン液を加圧するが、粗アルゴン抜出しライン9内を通過している間の入熱により部分的に気化するとスムーズに加圧することができなくなる。しかしながら、液状で抜出された液体粗アルゴンは液体窒素を冷媒として用いる冷却器16で過冷却されて主熱交換器2に導入されるのであるから、液体粗アルゴンの気化が防止され、液体粗アルゴンの加圧に支障が生じるようなことがない。
【0037】
ところで、以上の形態1,2においては、深冷空気分離装置によりアルゴンを製造する場合のみを例として説明した。しかしながら、この深冷空気分離装置によれば、アルゴンの製造のみに限らず、アルゴンの製造と並行して酸素製品や窒素製品も製造することができ、またアルゴンが不必要になったときにはアルゴンの製造を停止すると共に、酸素製品や窒素製品を製造することもできる。
【0038】
また、この深冷空気分離装置により製品窒素を製造する場合、本発明の形態3に係る深冷空気分離装置の模式的系統図の図6に示すように、複式精留塔5で精留された窒素の一部を液体窒素として抜出すことができる。より詳しくは、複式精留塔5から一部を液体窒素として液体窒素排出ライン23を介して抜出すと共に、液体窒素ポンプ23aで主熱交換器2に送って蒸発させて気体窒素とする。一方、残りを気体窒素としてGN排出ライン13を介して抜出して主熱交換器2に送って加温すると共に、窒素圧縮機13aで圧縮し、前記気体窒素と合流させて製品窒素供給先に供給する構成にすることにより、窒素圧縮機13aの動力コストを低減することができる。
【0039】
さらに、この深冷空気分離装置により製品酸素を製造する場合、本発明の形態4に係る深冷空気分離装置の模式的系統図の図7に示すように、複式精留塔5で精留された酸素の一部を液体酸素として抜出すことができる。より詳しくは、複式精留塔5から一部を液体酸素として液体酸素排出ライン24を介して抜出すと共に、液体酸素ポンプ24aで主熱交換器2に送って蒸発させて気体酸素とする。一方、残りを気体酸素としてGO排出ライン14を介して抜出して主熱交換器2に送って加温すると共に、酸素圧縮機14aで圧縮し、前記気体酸素と合流させて製品酸素供給先に供給する構成にすることにより、酸素圧縮機14aの動力コストを低減することができる。
【0040】
このように、上記形態1乃至4における深冷空気分離装置は何れも具体例にすぎないから、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内における深冷空気分離装置の設計変更等は自由自在である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の形態1に係り、アルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装の模式的系統図である。
【図2】本発明の形態1に係り、アルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装の主熱交換器の拡大図である。
【図3】本発明の形態1に係り、粗アルゴン液を蒸発させる主熱交換器内の温度分布説明図である。
【図4】従来の液体アルゴンの一般的な蒸発方法説明図である。
【図5】本発明の形態2に係り、アルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装置の模式的系統図である。
【図6】本発明の形態3に係り、アルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装置の模式的系統図である。
【図7】本発明の形態4に係り、アルゴン製造方法を実施する深冷空気分離装置の模式的系統図である。
【図8】アルゴン製造方法を実施する従来例に係る一般的な深冷空気分離装置の模式的系統説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1…原料空気供給ライン,1a…原料空気圧縮機,1b…予冷ユニット,1c…吸着塔ユニット
2…主熱交換器
3…第1原料空気供給ライン,3a…ブロワ,3b…クーラ,3c…膨張タービン
4…第2原料空気供給ライン
5…複式精留塔,5a…上塔,5b…下塔,5c…主凝縮器,5d…蒸気抜出しライン
6…液体空気抜出しライン
7…過冷却器
8…粗アルゴン塔,8a…粗アルゴン凝縮器,8b…粗アルゴン抜出し口
9…粗アルゴン抜出しライン
10…アルゴン精製装置
11…変成アルゴン供給ライン
12…精製アルゴン塔
13…GN排出ライン,13a…窒素圧縮機
14…GO排出ライン,14a…酸素圧縮機
15…廃窒素抜出しライン
16…冷却器
23…液体窒素排出ライン,23a…液体窒素ポンプ
24…液体酸素排出ライン,24a…液体酸素ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気を圧縮する原料空気圧縮機と、この原料空気圧縮機から出た圧縮空気を10〜40℃程度の温度に冷却する予冷ユニットと、この予冷ユニットで冷却された圧縮空気中の二酸化炭素および水分を除去する吸着塔ユニットと、この吸着塔ユニットで精製された原料空気をその液化近傍の温度まで冷却する主熱交換器と、原料空気中の窒素・酸素を精留分離する複式精留塔と、この複式精留塔の上塔から流入するアルゴンを含む酸素中のアルゴンを濃縮する粗アルゴン塔と、粗アルゴン中の酸素を除去するアルゴン精製装置と、酸素が除去された変成アルゴンから残留水素・窒素等を除去して製品液体アルゴンとする精製アルゴン塔と、これらに付随する諸設備とを備えた深冷空気分離装置により製品液体アルゴンを製造するアルゴン製造方法において、前記粗アルゴン塔から抜出した粗アルゴンを前記アルゴン精製装置に導入するに際して、前記粗アルゴン塔の粗アルゴン抜出し口から液体粗アルゴンを抜出すと共に、粗アルゴン抜出しラインを介して前記主熱交換器に導入して蒸発させ、蒸発した粗アルゴンガスを常温まで加温することを特徴とする深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法。
【請求項2】
前記粗アルゴン塔から抜出した液体粗アルゴンを、前記粗アルゴン抜出しラインを介して前記主熱交換器に導入する前に、液体窒素を冷媒として用いる冷却器で過冷却することを特徴とする請求項1に記載の深冷空気分離装置によるアルゴン製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−349322(P2006−349322A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179579(P2005−179579)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(504226456)神鋼エア・ウォーター・クライオプラント株式会社 (7)
【Fターム(参考)】