説明

深絞り加工用表面保護フィルム

【課題】深絞り加工性が優れ、自然環境に廃棄された後には生分解されて環境を汚さず、しかも焼却が容易で、かつ、燃焼の際に有毒ガスを発生しない深絞り加工用表面保護フィルムを提供する。
【解決手段】下記式(A)〜(C)で表される各構成単位を有する、数平均分子量が1万〜20万の脂肪族ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする深絞り加工用表面保護フィルム。 −O−R−CO− …(A)(上記式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基を示す) −O−R−O− …(B)(上記式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を示す) −CO−R−CO− …(C)(上記式中、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス板やアルミニウム板等の金属板の表面に仮着させたまま深絞り加工や多段絞り加工等に好適に用いられる深絞り加工用表面保護フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス板やアルミニウム板などの金属板の深絞り加工用保護フィルムとして、従来、ポリオレフィン系樹脂フィルムやポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの片面に接着剤層を設けたものが使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムを基材とする表面保護フィルムは、例えば深絞り加工する際には、柔軟性が乏しいため深絞り加工性が悪く、また、深絞り加工終了後にフィルムを剥離する際には、引き裂けやすく、完全に剥離できない傾向があり問題となっている。ポリ塩化ビニル系樹脂からなるフィルムを基材とした表面保護フィルムでは、可塑剤等が多量に含まれているため衛生性に問題があり、また、廃棄時の燃焼の際、塩素ガス等による環境汚染の問題もあった。さらにポリ塩化ビニル系フィルムは、温度の変化によるモジュラスの変化が大きく、破れが発生しやすい傾向があり問題となっている。ポリ塩化ビニル系樹脂からなる剥離性塗料を使用する場合は、衛生性や環境汚染等の問題もある。
【0003】
このため、環境汚染のない表面保護フィルムとして、生分解性を有する樹脂からなる表面保護フィルムの提案がなされている(例えば、特許文献3参照)が、深絞り加工性を発現する表面保護フィルムとしては、十分に満足するものはまだ得られていないのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開平5−239420号公報
【特許文献2】特開平2−107684号公報
【特許文献3】特開平7−100549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、深絞り加工性が優れ、自然環境に廃棄された後には生分解されて環境を汚さず、しかも焼却が容易で、かつ、燃焼の際に有毒ガスを発生しない深絞り加工用表面保護フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意検討を行った結果、特定のポリマーでフィルムを構成することによって上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、下記式(A)〜(C)で表される各構成単位を有する、数平均分子量が1万〜20万の脂肪族ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする深絞り加工用表面保護フィルムに存する。
−O−R−CO− …(A)
(上記式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基を示す)
−O−R−O− …(B)
(上記式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を示す)
−CO−R−CO− …(C)
(上記式中、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す)
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の深絞り加工用表面保護フィルムは、下記(A)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位、下記(B)式で表される脂肪族または脂環式ジオール単位、および下記(C)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位を含有し、数平均分子量が1万〜20万である脂肪族ポリエステル共重合体を含有するものである。まお、当該共重合体のほかに、本発明の要旨を越えない範囲であれば、別のポリエステル樹脂を含有してもよい。
【0009】
−O−R−CO− …(A)
(上記式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基を示す)
−O−R−O− …(B)
(上記式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を示す)
−CO−R−CO− …(C)
(上記式中、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す)
【0010】
上記(A)式の脂肪族オキシカルボン酸を共重合させることにより、上記(B)式の脂肪族または脂環式ジオールおよび上記(C)式の脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体を主成分とする脂肪族ポリエステル共重合体の重合速度が著しく増大し、高分子量脂肪族ポリエステル共重合体が得られる。さらに、この高分子量脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族オキシカルボン酸成分の導入により、得られるポリエステルの結晶性が低下し、可撓性を有するものとなる。上記(A)式の脂肪族オキシカルボン酸は、重合反応性向上効果が認められる点から、下記(D)式で示される脂肪族オキシカルボン酸単位を有するものが好ましい。
【0011】
−O−CH−CO−
| …(D)

(上記式中、Xは水素原子またはC2n+1を示し、nは1〜10の整数、好ましくは1〜5の整数を示す)
脂肪族オキシカルボン酸は、分子中に1個の水酸基とカルボン酸基を有する脂肪族化合物であれば特に限定されるものではないが、HO−R−COOH(式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基)で表されるものをいう。さらには、下記式(E)の脂肪族オキシカルボン酸が、重合反応性向上効果を有するので好ましい。
【0012】
−O−CH−CO−COOH
| …(E)

(上記式中、Xは水素原子またはC2n+1を示し、nは1〜10の整数、好ましくは1〜5の整数を示す)
【0013】
脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、例えば、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、あるいはこれらの混合物が挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体またはラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体または水溶液であってもよい。これらの中で好ましいのは、乳酸またはグリコール酸であり、特に好ましいのは使用時の重合速度の増大が特に顕著で、かつ入手の容易な乳酸である。
【0014】
上記(B)式の脂肪族または脂環式ジオール単位に相当するジオールとしては、特に限定されないが、HO−R−OH(式中、Rは、2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基)で表されるジオールをいう。好ましい2価の脂肪族炭化水素基としては、Rが−(CH−(nは2〜10の整数)で表される脂肪族炭化水素基が挙げられる。中でも好ましいのは、nが2〜6の脂肪族炭化水素基である。好ましい2価の脂環式炭化水素基としては、上記式のRが3〜10の脂環式炭化水素基であり、中でも特に好ましいのは4〜6の2価の脂環式炭化水素基である。
【0015】
脂肪族または脂環式ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールあるいはこれらの混合物等が挙げられる。得られる脂肪族ポリエステル共重合体の物性の面から、特に1,4−ブタンジオールであることが好ましい。
【0016】
上記(C)式の脂肪族ジカルボン酸単位に相当するジカルボン酸またはその誘導体としては、HOOC−R−COOH、(式中、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基)で表され、好ましくは、−(CH−(nは0〜10の整数、好ましくは0〜6の整数)で表されるものをいう。
【0017】
脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体としては、例えば、蓚酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、あるいはそのジメチルエステル等の低級アルコールエステル、無水コハク酸、無水アジピン酸等の酸無水物、またはこれらの混合物等が挙げられる。得られる脂肪族ポリエステル共重合体の物性面から、特にコハク酸、無水コハク酸およびこれらの混合物が好ましい。
【0018】
脂肪族または脂環式ジオール、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体および少量の脂肪族オキシカルボン酸とからなる高分子量脂肪族ポリエステルの製造方法は、公知の技術で行うことができる。このポリエステルを製造する際の重合反応は、従来採用されている適切な条件を設定することができ、特に制限されるものではない。
【0019】
脂肪族または脂環式ジオールの使用量は、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し、実質的に等モルであるが、一般には、エステル化中の留出があることから、1〜20モル%程度過剰に用いられる。添加される脂肪族オキシカルボン酸が少なすぎると添加効果が現れないことがあり、多すぎると結晶性が失われ、耐熱性、機械的特性などが不十分となることがある。脂肪族オキシカルボン酸の量は、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し、通常0.04〜85.7モル、好ましくは1.0〜40モル、さらに好ましくは2〜20モルの範囲である。脂肪族オキシカルボン酸の量が0.04モル未満では、添加効果が現れず高分子量の脂肪族ポリエステルが得られないことがある。一方、脂肪族オキシカルボン酸の量が60モルを超えると、耐熱性、機械的特性が不十分となることがある。
【0020】
脂肪族オキシカルボン酸の添加時期や方法に関しては、重縮合反応以前であれば特に限定されないが、例えば、あらかじめ触媒を脂肪族オキシカルボン酸溶液に溶解させた状態で添加する方法、原料仕込み時に触媒を添加すると同時に添加する方法などが挙げられる。
【0021】
本発明の深絞り加工用表面保護フィルムを構成する脂肪族ポリエステル共重合体は、上記原料を重合触媒の存在下で製造されるが、触媒としては、ゲルマニウム化合物が好適である。ゲルマニウム化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化ゲルマニウム、テトラアルコキシゲルマニウム、塩化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物が挙げられるが、その中でも酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、テトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、さらに好ましいのは酸化ゲルマニウムである。また、本発明の目的を損なわない限り、他の触媒を併用してもよい。
【0022】
触媒の添加量は、使用するモノマー量に対して、通常0.001〜3重量%、好ましくは0.005〜1.5重量%の範囲である。触媒の添加時期は、重縮合以前であれば特に限定されないが、脂肪族オキシカルボン酸水溶液に触媒を溶解して添加する方法が好ましい。
【0023】
本発明の深絞り加工用表面保護フィルムを構成する脂肪族ポリエステル共重合体の組成比は、(B)式の脂肪族または脂環式ジオール単位と(C)式の脂肪族ジカルボン酸単位のモル比が実質的に等しいことが好ましい。
【0024】
脂肪族または脂環式ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位とは、通常、各々35〜49.99モル%、好ましくは40〜49.75モル%、さらに好ましくは45〜49.5モル%の範囲である。また(A)式の脂肪族オキシカルボン酸単位は、通常0.02〜30モル%、好ましくは0.5〜20モル%、さらに好ましくは1.0〜10モル%の範囲である。脂肪族オキシカルボン酸単位の組成割合が0.02モル%未満では、重合反応性向上効果がない場合がある。一方、30モル%を超えると、結晶性を低下させる効果が高すぎるために、脂肪族ポリエステル共重合体の結晶性が失われ、脂肪族ポリエステル共重合体から形成された脂肪族ポリエステルフィルムの耐熱性や機械特性が低下する傾向がある。
【0025】
本発明で用いる脂肪族ポリエステル樹脂の数平均分子量は、成形性、強度、深絞り加工性等を考慮して、1万〜20万、好ましくは3万〜20万の範囲である。数平均分子量が1万未満では、分子量が低いために熱分解しやすく熱安定性が悪化するとともに、フィルムの強度低下を招く。一方、20万を超えると、分子量が高すぎるために脂肪族ポリエステル共重合体の製造が困難になる。
【0026】
本発明の深絞り加工用表面保護フィルムには、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、結晶核剤、潤滑剤、帯電防止剤、染料、顔料等の添加剤を付与することもできる。易滑性付与方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、シュウ酸カルシウム、架橋高分子粒子などの有機粒子等を添加することができる。添加する粒子量としては、ポリマー100重量%に対して、通常0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜3重量%である。
【0027】
また、添加する粒子の平均粒径としては、0.01〜3μm、好ましくは0.1〜2μmである。このような粒子は、種類、平均粒径の異なる複数の併用であってもよい。
【0028】
本発明の深絞り加工用表面保護フィルムの厚みは、用途によって決定されるが20μm以上が好ましい。例えば、金属鋼板の深絞り加工の表面保護用として用いる場合は40μm以上、自動車のボディー成形等表面保護用として用いる場合は50μm以上、さらに金属鋼板の重加工、曲げ加工等の場合には60〜500μm、好ましくは60〜200μmの範囲とするのが望ましい。フィルムの厚みが、20μm未満では、破れやすく、取り扱い性が劣る場合がある。一方、フィルム厚みが500μmを超えると、深絞り加工性が劣る傾向がある。
【0029】
本発明の深絞り加工用表面保護フィルムは、少なくとも一方向のヤング率が0.5〜3.5GPaの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.8〜3.0GPa、特に好ましくは0.9〜2.5GPaの範囲である。また、フィルムの全方向におけるヤング率が上記の範囲であることが好ましい。ヤング率が0.5GPa未満では、フィルムの自体の成形性が困難となる場合があり、3.5GPaを超えると、フィルムの柔軟性、耐揉み性が損なわれ、深絞り加工用保護フィルムとして機能しないおそれがある。
【0030】
本発明において、深絞り加工用表面保護フィルムの長手方向および幅方向の引っ張り破断伸度は通常100〜300%、好ましくは110〜290%、さらに好ましくは120〜280%の範囲である。引っ張り破断伸度が100%未満では、柔軟性に劣る傾向がある。一方、引っ張り破断伸度が300%を越えると、柔軟すぎて、シワ、伸び等により巻き取り作業性、フィルムの取り扱い性が悪くなる。
【0031】
本発明の深絞り加工用表面保護フィルムはそのままで、例えば、表面保護用フィルムとして使用できるが、さらに粘着性等を向上させるために、フィルムの表面に粘着剤、接着剤等を塗布してもよい。接着剤としては、一般に用いられる感熱性接着剤や感圧性接着剤(粘着剤)を使用することができる。これらの接着剤のうち、感圧性接着剤(粘着剤)が保護シートとして取り扱いやすいので望ましく、このような感圧性接着剤(粘着剤)としては、例えば、アクリル系接着剤、ゴム系接着剤などが挙げられる。
【0032】
そして、この接着剤層については、厚さ1〜20μm程度に設けることが好ましく、また、接着力は50〜300g/mm程度となるのが好ましい。この厚さが、1μm未満では、均一な膜厚を得難く製品の品質がバラつくことがある。一方、厚さが20μmを超えると、接着力が高くなりすぎるおそれがある。また、接着力が50g/mm未満では、取り扱い中に剥がれたり、深絞り加工中に剥がれたりするおそれがあり、一方、300g/mmを超えると、剥離が困難になる傾向がある。
【0033】
次に、本発明の深絞り加工用表面保護フィルムの製造方法について具体的に説明するが、本発明の構成要件を満足する限り、以下の例示に限定されるものではない。
【0034】
すなわち、上述した脂肪族ポリエステル共重合体を用い、二軸延伸することによって得られる。延伸方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、テンター同時二軸延伸法、テンター逐次二軸延伸法のいずれかの方法により二軸延伸されたものであるが、製膜安定性、厚み均一性の点でテンター逐次二軸延伸法により製膜されたものが好ましい。
【0035】
本発明の深絞り加工用表面保護フィルムは、上述した脂肪族ポリエステル共重合体を用いて以下の方法によって製造することができる。脂肪族ポリエステル共重合体をエクストルーダに代表される周知の溶融押し出し機に供給し、ポリマーの融点以上の温度に加熱し溶融させる。次いで、溶融したポリマーをスリット状のダイから押し出し、回転冷却ドラム上で急冷固化し、実質的に非晶状態の未延伸シートを得る。この場合、シートの平坦性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、本発明においては、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0036】
次いで、得られた未延伸シートは二軸方向に延伸して二軸配向される。すなわち、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、該脂肪族ポリエステル共重合体の結晶化温度(Tc)以上融点(Tm)以下の温度で、延伸倍率は、通常2.0〜6.0倍、好ましくは2.5〜4.5倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸を行う。延伸温度は、該脂肪族ポリエステル共重合体の結晶化温度(Tc)以上融点(Tm)以下の温度で、延伸倍率は、通常3.0〜6.0倍、好ましくは3.5〜4.5倍である。なお、一方向の延伸を二段階以上で行う方法も用いることができるが、その場合も、最終的な延伸倍率が上記した範囲に入ることが望ましい。また、前記未延伸シートを面積倍率6〜30倍となるように同時二軸延伸することも可能である。
【発明の効果】
【0037】
以上、詳述したように、本発明のフィルムは、深絞り加工用保護フィルムとして好適に利用することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、本発明で用いた物性測定法は以下のとおりである。
【0039】
(1)数平均分子量
GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法によって測定した。脂肪族ポリエステル共重合体をクロロホルムに溶解し、東ソー社製GPC(HLC−8020)を用いてポリスチレン換算により測定した。カラムは、PLgel−10μ−MIXを使用した。
【0040】
(2)ポリマー組成
H−NMR法により、得られたスペクトルの面積により組成を計算した。
【0041】
(3)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、結晶化温度(Tc)
セイコー電子工業(株)社製差動熱量計(SSC580DSC20型)を用いて測定した。試料10mgをセットし、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し、結晶融解による吸熱ピーク温度を融点とし、その温度で2分間保持して試料を完全に溶解させた。その後、降温速度10℃/分で降温したときのDSC曲線に現れる結晶化による発熱ピーク温度を結晶化温度とした。さらに降温を続け、いったん−50℃まで下げて2分間保持し、再度10℃/分で昇温し、JIS K7121に基づいて、転移曲線の中間点をガラス転移温度とした。
【0042】
(4)フィルムのヤング率(GPa)
(株)島津製作所社製オートグラフ(AG−1)を用いて、温度23℃、湿度50%RHに調節された室内において、長さ(チャック間)300mm、幅20mmの試料フィルムを、10%/分の歪み速度で引っ張り、引っ張り応力−歪み曲線の初期の直線部分を次式によって計算した。
E=Δσ/Δε
(上記式中、Eはヤング率(GPa)、Δσは直線上の2点間の元の平均断面積による応力差(GPa)、Δεは上記2点間の歪み差/初期長さ(−)を表す)
【0043】
(5)フィルムの引っ張り破断伸度
(株)島津製作所社製オートグラフ(AG−1)を用いて、温度23℃、湿度50%RHに調節された室内において、長さ(チャック間)50mm、幅15mmの試料フィルムを、200mm/分の速度で引っ張り、引っ張り応力−歪み曲線より次式によって計算した。
LB=(L−L)×100/L
(上記式中、LBは引っ張り破断伸度(%)、Lは破断時のフィルムの長さ(mm)、Lは元のフィルム長さ(mm)を表す)
【0044】
(6)深絞り加工性
23℃の雰囲気下において、表面保護粘着フィルムを厚さ0.6mmのSUS304BA仕上げ板にラミネーター(圧力1kg/cm)で貼り合わせ、24時間放置後、図1に示す加工方法で、深絞り加工試験を行った。図1において、ポンチ底部の形状は、丸み半径3mm、ポンチ直径は、35mmであり、ダイス孔直径37mm、ダイス肩半径は、3mmである。また、絞り深さは、12mm、絞り速度は、5mm/分で絞り加工を実施した。この深絞り加工時に表面保護フィルムが変形に追従せずに裂けや剥離して浮きが生じる状態を観察した。また、表面保護フィルムの破れ、あるいは破れないまでも表面保護フィルムを通して被着体の傷付きを観察した。
【実施例1】
【0045】
[脂肪族ポリエステルの製造]
反応容器に、90重量%DL乳酸水溶液を7.43kg、1,4−ブタンジオールを123リットル、コハク酸を137kg、さらにDLリンゴ酸を0.23kg、スパータルクSG95(日本タルク社製)0.2kgを仕込んだ。反応容器内を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下180℃まで昇温した。なお、90重量%DL乳酸水溶液には、酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた。昇温後30分間反応させた後、さらに220℃まで昇温して30分間重縮合反応を行った。引き続いて温度を230℃とし、0.07kPaの減圧下において2時間重縮合反応を行って、脂肪族ポリエステル共重合体を得た。得られた脂肪族ポリエステル共重合体の数平均分子量は、65900で、ガラス転移温度は−32℃、結晶化温度78℃、融点は108℃であった。さらに、H−NMRによるポリマー組成は、乳酸単位6.2モル%、1,4−ブタンジオール単位46.9モル%、コハク酸単位46.9モル%であった。
【0046】
[二軸延伸脂肪族ポリエステルフィルムの製造]
得られた脂肪族ポリエステル共重合体をベント付き押し出し機に供給し、脂肪族ポリエステル共重合体を250℃まで加熱するとともに、100kPaのベント減圧下で溶融昆練りし、スリット状ダイスより20℃の回転冷却ロール上にシート状に押し出し、静電印加冷却法を使用して回転冷却ロールにより急冷して未延伸シートを得た。次いで、得られた未延伸シートを、ロール延伸機によって延伸温度95℃の温度で一軸方向に3.5倍延伸した後、一軸延伸フィルムをテンターに導き、延伸温度95℃の温度で一軸方向と直交方向に3.5倍延伸してフィルム厚みが50μmである二軸延伸脂肪族ポリエステルフィルムを得た。
【0047】
[深絞り加工用表面保護フィルムの製造]
得られたフィルムの片面に、アクリル系粘着剤を10μmの厚さに塗布して深絞り加工用表面保護粘着フィルムを作成した。次いで、この深絞り加工用表面保護粘着フィルムを厚さ0.6mmのSUS304BA仕上げ板に貼り付け、深絞り加工試験を実施した。この深絞り加工試験結果を下記表1に示す。
【0048】
(比較例1)
実施例1において、脂肪族ポリエステル共重合体の数平均分子量が9000となるように重縮合反応時間を変えること以外は、実施例1と同様にして深絞り加工試験を実施した。この深絞り加工試験結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
実施例1において、脂肪族ポリエステル共重合体の数平均分子量が250000となるように重縮合反応時間を変えること以外は、実施例1と同様にして深絞り加工試験を実施した。この深絞り加工試験結果を表1に示す。
【0050】
(比較例3)
実施例1において、脂肪族ポリエステル共重合体をポリ乳酸系重合体とする以外は、、実施例1と同様にして深絞り加工試験を実施した。この深絞り加工試験結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のフィルムは、例えば、深絞り加工用の保護フィルムとして好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】深絞り加工性の試験における加工方法の概略説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 表面保護フィルム
2 被着体
3 ポンチ
4 ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)〜(C)で表される各構成単位を有する、数平均分子量が1万〜20万の脂肪族ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする深絞り加工用表面保護フィルム。
−O−R−CO− …(A)
(上記式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基を示す)
−O−R−O− …(B)
(上記式中、Rは2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を示す)
−CO−R−CO− …(C)
(上記式中、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す)

【図1】
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【公開番号】特開2006−89540(P2006−89540A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274462(P2004−274462)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000108856)三菱化学ポリエステルフィルム株式会社 (187)
【Fターム(参考)】