説明

混合廃プラスチックの分別装置

【課題】 少なくともポリスチレン系樹脂を含む混合廃プラスチックをプラスチック組成物毎に高い純度で分別可能な分別装置及び分別方法を提供する。
【解決手段】ポリスチレン系樹脂を溶解するスチレン溶解剤(30)を入れるための攪拌槽(10)と、この底部にあってスチレン溶解剤(30)の一部を落下させて取り出すための取出口(12)と、スチレン溶解剤(30)を加温するための加熱手段(26)と、攪拌槽(10)内にあってその深さ方向に沿って互いに離間して配置された水平面内で回転する少なくとも2つ以上の攪拌プロペラ(20)とを有する。この攪拌プロペラ(20)は、スチレン溶解剤(30)の深さ方向の対流を減じるようにして、液面と平行な対流を与える。また、制御手段(19、28)は、スチレン溶解剤(30)の粘度を上昇させないように加熱手段(26)の出力及び攪拌プロペラ(20)の回転を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合廃プラスチックの分別装置及び分別方法に関し、特に少なくともポリスチレン系樹脂を含む破砕された混合廃プラスチックの分別装置及び分別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回収された混合廃プラスチックからプラスチック製品をリサイクルするためには、混合廃プラスチックをプラスチック組成物毎に分別する必要がある。このような分別方法には、プラスチック組成物毎の比重差を利用した液体比重法が広く用いられている。例えば、水の比重1.0よりも小さい比重のPE(ポリエチレン、比重約0.92〜0.94)やPP(ポリプロピレン、比重約0.90)は水に浮き、一方、比重の大きいPS(ポリスチレン、比重約1.03〜1.06)、PET(ポリエチレンテレフタレート、比重約1.29〜1.40)、PVC(ポリ塩化ビニル樹脂、比重約1.16〜1.58)などは水に沈降する。この性質を利用して前者と後者とを分別できる。更に、水よりも比重の大である塩水、KCl水溶液又はKCO水溶液などを使用すれば、PSとこれよりも比重の大であるPETやPVCなども分別できる。
【0003】
例えば、特許文献1では、混合廃プラスチックを破砕した後に液体比重法による分別を繰り返し行って、混合廃プラスチックをプラスチック組成物毎に分別する方法が開示されている。
【0004】
ところで液体比重法では、混合廃プラスチック片の形状によって液体の対流の影響を強く受けてしまうため、安定した分別能力を得ることが難しい。また、混合廃プラスチック片に気泡が付着してしまうと、見かけの比重が小さくなるため、特に、破砕されて気泡の付着しやすい小片となった混合廃プラスチックなどでは十分な分別能力を得ることはできない。更に、PSは水よりも比重が大であるが、PSを発泡して得られる発泡スチロールのような発泡材ではやはり見かけの比重が小さくなるため、十分な分別能力を得られない。
【0005】
このような中、近年、梱包材などで多用されている発泡スチロールなどのPSをより確実に分別してリサイクルすることが強く要望されている。そこで、PSのみを溶解可能な溶媒を用意し、これにPSを含む混合廃プラスチックを破砕して浸漬させ、PSだけを溶媒に溶解し分離する溶解法によるPSの分別方法も知られている。
【0006】
例えば、特許文献2には、混合廃プラスチックからPS系樹脂だけをキシレンに溶解させてPSをPVCなどのキシレンに溶解しない他のプラスチック組成物から分別し、回収する方法が開示されている。また、キシレンのように、発泡スチロールを溶解(減容)してPSを再抽出できる溶媒として、例えば、特許文献3乃至5ではエステル系化合物やエーテル系化合物が、特許文献6では柑橘系の果皮から抽出したリモネンがそれぞれ開示されている。
【特許文献1】特開2007−15340号公報
【特許文献2】特開平9−24293号公報
【特許文献3】特開平9−25358号公報
【特許文献4】特開平11−80418号公報
【特許文献5】特再表01/068759号公報
【特許文献6】特開2001−342286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、キシレンを用いて、混合廃プラスチックのうちからPSだけを溶解法にて分別・回収する方法が特許文献2に開示されている。しかしながら、PSを溶解したキシレンと他のプラスチックとの分離が煩雑であって、また、キシレンの低い引火点と高い毒性により、その取り扱いも非常に煩雑である。また、特許文献3乃至6に開示の溶媒は、発泡スチロールをはじめとするPSを溶解してゲル化させ容積を減じる減容溶媒であって、PSを溶解するとすぐにゲル化してしまう。このとき破砕されたPS以外の他のプラスチック片をゲル中に巻き込んでしまって、PSを溶解した溶媒だけを分離・抽出することが困難である。すなわち、かかる溶媒は、溶解法での使用には適していない。
【0008】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、少なくともポリスチレン系樹脂を含む混合廃プラスチックをプラスチック組成物毎に高い純度で分別可能な分別装置及び分別方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による分別装置は、少なくともポリスチレン系樹脂を含む破砕された混合廃プラスチックの分別装置であって、ポリスチレン系樹脂を溶解するスチレン溶解剤を入れるための攪拌槽と、前記攪拌槽の底部にあって前記スチレン溶解剤の一部を取り出すための取出口と、前記スチレン溶解剤を加温するための加熱手段と、前記攪拌槽内にあってその深さ方向に沿って互いに離間して配置された水平面内で回転する少なくとも2つ以上の攪拌プロペラと、前記スチレン溶解剤の粘度を上昇させないように前記加熱手段の出力及び前記攪拌プロペラの回転を制御する制御手段と、を含むことを特徴とする。
【0010】
かかる装置によれば、攪拌槽内でスチレン溶解剤の深さ方向の対流を減じて、液面と平行な対流を得られるのである。さらに温度を制御できて、攪拌槽の底部にはPS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤だけが、ゲルのような高い粘度を有することなく滞留する。これにより、破砕された他のプラスチック片が攪拌槽底部のPS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤に巻き込まれることなく、上記した対流によって液面付近に滞留し得る。故に、攪拌槽の底部にある取出口から、破砕された他のプラスチック片を含むことなく、PS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤だけを取り出すことができるのでPSを高い純度で分離できる。一方、この破砕された他のプラスチック片には、ゲル化したスチレン溶解剤がほとんど付着しないから、洗浄等の取り扱いが非常に容易であって、高い純度で再生プラスチックを得られる。
【0011】
上記した装置において、前記攪拌プロペラは、前記攪拌槽の深さの半分よりも上部に設けられていることを特徴としてもよい。特に、前記攪拌槽は中心軸を有する円筒状タンクであって、前記攪拌プロペラは、前記中心軸に沿って配置されることが好ましい。これによれば、攪拌槽内のスチレン溶解剤にはその液面と平行にきれいな対流を得ることができて、破砕された他のプラスチック片を液面付近に完全に滞留させられるので、PS系樹脂を精度良く分別できる。
【0012】
また上記した装置において、前記攪拌槽の底部は下に凸の逆円錐状であって、前記取出口が前記底部の最下部近傍に設けられてスチレン溶解剤の一部を落下させて取り出すことを特徴としてもよい。これによれば、攪拌槽内のスチレン溶解剤にはその液面と平行なきれいな対流を得ることができて、PS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤を、破砕された他のプラスチック片を巻き込むことなく、攪拌槽の底部にある取出口から落下させて取り出すことができる。つまり、PS系樹脂を精度良く分別できる。
【0013】
上記した装置において、前記スチレン溶解剤は、ジカルボン酸を主成分とすることを特徴としてもよい。更に、前記スチレン溶解剤は、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル及びグルタル酸ジメチルを主成分としてもよい。このようなスチレン溶解剤は、PS系樹脂を溶解しても粘度を大きく上昇させず液体状態を維持しやすく、また攪拌槽内のスチレン溶解剤にはその液面と平行なきれいな対流を得ることができる。これにより、PS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤を、破砕された他のプラスチック片を巻き込むことなく、攪拌槽の底部にある取出口から落下させて取り出すことができる。つまり、PS系樹脂を精度良く分別できる。
【0014】
上記した装置において、前記混合廃プラスチックは、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂及び/又はPET系樹脂及び/又はポリ塩化ビニル系樹脂を含むことを特徴としてもよい。更に、前記スチレン溶解剤の比重は、常温(20℃)で前記ポリスチレン系樹脂の比重よりもわずかに大であり少なくとも前記PET系樹脂の比重よりも小であることを特徴としてもよい。かかるスチレン溶解剤によれば、破砕された他のプラスチック片を液面付近に完全に滞留させられるので、PS系樹脂を精度良く分別できる。
【0015】
また、本発明による分別方法は、少なくともポリスチレン系樹脂を含む破砕された混合廃プラスチックの分別方法であって、ポリスチレン系樹脂を溶解するスチレン溶解剤を入れた攪拌槽を用意するステップと、前記スチレン溶解剤を加温するステップと、前記攪拌槽に破砕された前記混合廃プラスチックを投入するステップと、前記スチレン溶解剤の深さ方向の対流を減じるようにこれを攪拌する攪拌ステップと、前記スチレン溶解剤の粘度を上昇させないように前記加熱手段の出力及び前記攪拌プロペラの回転を制御する制御ステップと、前記攪拌槽の底部の取出口から前記スチレン溶解剤の一部を取り出す分離ステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
かかる方法によれば、攪拌ステップにおいて、攪拌槽内でスチレン溶解剤の深さ方向の対流を減じて、液面と平行な対流を得られるのである。さらに制御ステップでは、温度も制御できて、攪拌槽の底部にはPS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤だけが、ゲルのような高い粘度を有することなく滞留する。これにより、破砕された他のプラスチック片が攪拌槽底部のPS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤に巻き込まれることなく、上記した対流によって液面付近に滞留し得る。故に、攪拌槽の底部にある取出口から破砕された他のプラスチック片を含むことなく、PS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤だけを取り出すことができるから、PSを高い純度で分離できる。一方、この破砕された他のプラスチック片には、ゲル化したスチレン溶解剤がほとんど付着しないから、洗浄等の取り扱いが非常に容易であって、高い純度で再生プラスチックを得られる。
【0017】
上記した分別方法において、前記制御ステップは、前記分離ステップに先立って、前記攪拌プロペラの回転を停止するステップを有することを特徴としてもよい。これによれば、破砕された他のプラスチック片を巻き込むことなく、これら他のプラスチック片を液面付近に確実に滞留させ得る。そして、攪拌槽の底部にある取出口から破砕された他のプラスチック片を含むことなく、PS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤だけを取り出すことができる。故に、PSを高い純度で分離できる。
【0018】
上記した分別方法において、前記スチレン溶解剤は、ジカルボン酸を主成分とすることを特徴としてもよい。更に、前記スチレン溶解剤は、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル及びグルタル酸ジメチルを主成分としてもよい。このようなスチレン溶解剤は、PS系樹脂を溶解しても粘度を大きく上昇させず液体状態を維持しやすく、また攪拌槽内のスチレン溶解剤にはその液面と平行なきれいな対流を得ることができる。これにより、PS系樹脂を溶解したスチレン溶解剤を、破砕された他のプラスチック片を巻き込むことなく、攪拌槽の底部にある取出口から落下させて取り出すことができる。つまり、PS系樹脂を精度良く分別できる。
【0019】
上記した分別方法において、前記混合廃プラスチックは、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂及び/又はPET系樹脂及び/又はポリ塩化ビニル系樹脂を含むことを特徴としてもよい。更に、前記スチレン溶解剤の比重は、常温(20℃)で前記ポリスチレン系樹脂の比重よりもわずかに大であり少なくとも前記PET系樹脂の比重よりも小であることを特徴としてもよい。かかるスチレン溶解剤によれば、破砕された他のプラスチック片を液面付近に完全に滞留させられるので、PS系樹脂を精度良く分別できる。
【0020】
更に、上記した分別方法において、前記分離ステップの後に、前記スチレン溶解剤による液体比重法によって前記ポリスチレン系樹脂を沈降させて分別する分別ステップを更に有してもよい。常温(20℃)でPS系樹脂の比重よりもわずかに大であり少なくともPET系樹脂の比重よりも小であるスチレン溶解剤では、これよりも比重の軽いPP系樹脂及びPE系樹脂と、比重の重いPET系樹脂及びPVC系樹脂とを液体比重法で容易に分別できるのである。
【0021】
更に、上記したスチレン溶解剤を用いた液体比重法による分別方法において、前記分別ステップにおいて、前記スチレン溶解剤の温度を室温に維持するステップを含むことを特徴としてもよい。熱対流を減じて、比重の軽いPP系樹脂及びPE系樹脂と、比重の重いPET系樹脂及びPVC系樹脂とをより精度良く分別できるのである。
【0022】
上記した分別方法において、前記分離ステップによって取り出された前記スチレン溶解剤の一部にポリスチレン系樹脂を加えて粘度を上げるステップと、これを蒸留しポリスチレン系樹脂を得るステップとを更に含むことを特徴としてもよい。PS系樹脂を加えて粘度を上げることで、蒸留により、純度の高いPSを再生できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の1つの実施例である少なくともポリスチレン系樹脂を含む混合廃プラスチックの分別装置及び方法について、図1乃至図3を用いて詳細を説明する。
【0024】
特に、本実施例では、PE系樹脂(ポリエチレン、比重約0.92〜0.94)、PP系樹脂(ポリプロピレン、比重約0.90)、PS系樹脂(ポリスチレン、比重約1.03〜1.06)、PET系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、比重約1.29〜1.40)、PVC系樹脂(ポリ塩化ビニル、比重約1.16〜1.58)の5種類を含むような混合廃プラスチックからプラスチック組成物毎にこれらを分別する方法及び装置について説明する。なお、以下において、PE系樹脂、PP系樹脂、PS系樹脂、PET系樹脂、PVC系樹脂は、それぞれ単にPE、PP、PS、PET及びPVCと表す。
【0025】
図1に示すように、回収された混合廃プラスチック100は、異物除去工程において、混入している紙、木片、金属片など、回収を目的とするプラスチック以外の異物を手作業又は磁石などの道具を使って取り除かれる(S101)。続く破砕工程では、混合廃プラスチック100を所定の大きさに破砕する(S102)。破砕片の大きさは、少なくとも後述する液体比重選別工程(S103)において選別を容易にするよう、数センチ角程度にすることが好ましい。
【0026】
続いて、水を用いた液体比重法により、水よりも比重の小さいPP及びPEを比重の大きいPS、PET及びPVCと選別する(S103)。液面近傍に浮上して選別されるPP及びPEは、更に公知の選別方法、例えば、乾燥させた後に風力選別法(特許文献1参考)などを用いて、液体比重選別工程(S103)において混入した混入物を取り除かれ得る。つまり、得られたPP及びPEは、そのまま販売されるか、公知の再生プロセスによりそれぞれ再生プラスチックとして再成形され得る(S104)。一方、液体比重選別工程(S103)で沈降した混合廃プラスチックは、主として、PS、PET及びPVCからなるがこの中からPSを以下に説明する攪拌槽10を用いた溶解法を含むPS分別プロセス(S105)で分別する(S105)。
【0027】
図2に示すように、PS分別プロセス(S105)では、まず液体比重選別工程(S103)で沈降した混合廃プラスチックを収集し、付着した水分を乾燥させて水分を除去する(S1)。乾燥させた混合廃プラスチックは、以下に示す攪拌槽10内で攪拌しながらPSだけを溶解させる(S2)。これとともに、溶解したPSを含む溶液に対して、その他の破砕された樹脂片を浮かせて分離するのである。
【0028】
図3に示すように、スチレン溶解剤30を満たされる攪拌槽10は中心軸mを有する略円筒状の金属製タンクである。攪拌槽10の底部10aは下に凸の逆円錐状であって、その内部の液体を取り出すための取出口12が円錐状の底部先端、つまり底部10aの最下部近傍に設けられている。また、攪拌槽10の上側部には、スチレン溶解剤30を攪拌槽10内へ導くための液体導入口13が設けられている。
【0029】
更に、攪拌槽10の頂部には、これを覆って着脱可能な蓋体14が取り付けられている。蓋体14にはガス抜き口15があって、攪拌槽10内部のスチレン溶解剤30の気化ガスを回収できるようになっている。蓋体14の中心部からは、円錐状の底部10aの中心に向けて回転ロッド16が垂下している。回転ロッド16は、蓋体14の上に設けられた回転駆動機構18によって回転可能である。回転駆動機構18は回転制御部19からの回転信号を受けて所定の回転方向、所定の速度で回転する。回転ロッド16の先端部は、攪拌槽10の深さの約半分ほどの位置に達し、先端から所定間隔でプロペラ20が複数個(図では3つ)取り付けられている。プロペラ20は、水平面内で回転して攪拌槽10内のスチレン溶解剤30に液面と平行な平行対流を形成する。例えば、プロペラ20は平板であって、水平面からわずかに、例えば30°以下の角度だけ傾斜するように調整し得る。
【0030】
取出口12に連結する取出配管22には、バルブ24が設けられており、これを開くと攪拌槽10内のスチレン溶解剤30を下方向に重力落下させて抜き出すことが出来る。更に、攪拌槽10は、例えば、外側表面に沿って循環水配管26を螺旋状に周回させて、その内部のスチレン溶解剤30に熱対流を生じさせないように温度調整できる。このスチレン溶解剤30の温度調整は、温度制御部28によって制御される。
【0031】
攪拌槽10内には、所定の温度にあらかじめ加温されたPS系樹脂に対して溶解性を有するスチレン溶解剤30が液体導入口13より導入される。スチレン溶解剤30は、ジカルボン酸を主成分とする溶解剤、例えば、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル及びグルタル酸ジメチルを主成分とした溶解剤である。これはアジピン酸の生産プラントで生成される混合酸から製造され、コハク酸ジメチル20%、アジピン酸ジメチル20%、グルタル酸ジメチル60%程度であることが好ましい。このときスチレン溶解剤30の比重は、約1.09〜約1.10程度、分析値では1.092であった。つまり、スチレンのそれとほぼ同じか若干大きく、少なくともPETの比重よりも小である。なお、比重が同程度であり、PS系樹脂に対して溶解性を有する溶剤であれば公知の他の溶剤も用いることが出来る。これらは発泡スチロールの減容剤として用いられる溶剤であってもよく、好ましくはスチレンの溶解に対して粘度が急激に上昇しない溶剤である。
【0032】
温度制御部28によって攪拌槽10の循環水配管26内を流れる水の温度を調整して、スチレン溶解剤30の温度を一定に維持する。スチレン溶解剤30の温度は、後述するように、溶解したPSの粘度が高まる、いわゆるゲル化を防止する観点から高い温度であることが好ましい。その一方で、スチレン溶解剤30の気化量が増えるとともに、攪拌槽10内のスチレン溶解剤30の液面と垂直な方向に温度対流を生じやすくしてしまう。つまり、プロペラ20による平行対流を乱してしまうのである。故に、スチレン溶解剤30の温度は、室温以上70℃以下、好ましくは60℃以下である。
【0033】
図示しない攪拌槽10のスイッチをオンにすると、回転制御部19は回転駆動機構18を駆動して、回転ロッド16を所定の回転方向、所定の速度で回転させる。攪拌槽10内のスチレン溶解剤30は、図3中に示すように、水平面内で回転する複数のプロペラ20によって、深さ方向の対流を減じて、液面に沿った平行な流れFを形成する。このとき、一番深い位置にあるプロペラ20よりも更に深い攪拌槽10の底部10a近傍の流れfは、流れFよりも緩やかとなる。
【0034】
翻って、図2に図3を併せて参照して、攪拌槽10内に水分を乾燥させた混合廃プラスチックを、蓋体14に設けられた図示しない投入口から投入する(S2)。このとき混合廃プラスチックの投入量が多いと、攪拌槽10内でPSを溶解したスチレン溶解剤30の粘度が上昇してこれにPS以外の樹脂が巻き込まれてしまう。故に、スチレン溶解剤30の重量に対して混合廃プラスチックの投入量はより少ないことが好ましい。一方で、後述する、攪拌槽10からPSを溶解したスチレン溶解剤30を取り出してゲル化させるゲル化工程(S8)において、投入すべきPSの量が多くなってしまう。そこで、攪拌槽10内でPSの粘度が急激に上がってゲル化しないように注意しながら、適宜、混合廃プラスチックの投入量を調整する。
【0035】
回転制御部19は、スチレン溶解剤30の深さ方向の対流を減じて、液面と平行な対流を維持し続けるよう、プロペラ20の回転速度を制御する。また、温度制御部28は、スチレン溶解剤30の温度を制御する。これにより、混合廃プラスチックのうちのPSだけがスチレン溶解剤30に溶解する(S3)。平行対流により、溶解せずに滞留しているPET、PVCなどの小片がPSを溶解したスチレン溶解剤30に混ざらないのである。またPSがスチレン溶解剤30に溶解するにつれ、その一部の密度が変化し粘度が上昇しようとするが、回転制御部19及び温度制御部28による緩やかな平行対流の形成により、これを解消するのである。
【0036】
やがて攪拌槽10の底部にはPSを溶解したスチレン溶解剤30がゲルのような高い粘度を有することなく滞留し、一方、他のPET、PVCなどの小片が液面付近に滞留する。なお、スチレン溶解剤30よりも比重の大であるPET及びPVCの小片が液面付近に滞留するのは、スチレン溶解剤30の平行対流によって、小片が抵抗を受けて浮き上がることを1つの原因とする。なお、PET、PVCなどの小片を液面付近に確実に滞留させるよう、最初の破砕工程(S102)の後、PS分別プロセス(S105)の前に再度、小片の大きさを調整するような破砕工程を行っても良い。
【0037】
攪拌槽10の底部のスチレン溶解剤30において、溶解したPSの濃度が高まって粘度が上昇する前に、図示しない攪拌槽10のスイッチをオフにする。回転制御部19は、回転駆動機構18を停止して、回転ロッド16を停止させる。プロペラ20の停止後すぐに、若しくは、しばらく放置した後に、バルブ24を開いて取出口12からスチレン溶解剤30の一部を重力落下させて取り出す(S3’)。このとき攪拌槽10の底部10aは下に凸であるから、スチレン溶解剤30に上下方向の対流を形成することなく、底部10a近傍のスチレン溶解剤30だけを取り出すことが出来る。取り出されたスチレン溶解剤30は貯留槽32に運ばれる。なお、気化したスチレン溶解剤30は、蓋体14のガス抜き口15から図示しない熱交換器に導かれて、再び液体とされて回収し、再利用される。
【0038】
続いて、攪拌槽10内にスチレン溶解剤30を補充し(S4)、再度、上記したPS系樹脂の溶解及びスチレン溶解剤30の取り出しを行う(S5)。溶解せずに滞留しているPET、PVCなどの小片には、不可避的にPSを溶解したスチレン溶解剤30が絡みついている。これを洗浄するためである。バルブ24を開いて取出口12から取り出されたスチレン溶解剤30の一部も貯留槽32に運ばれる(S3’)。
【0039】
次に、再び、バルブ24を開いて取出口12から攪拌槽10内に残ったスチレン溶解剤30を重力落下させて取り出し、図示しない遠心分離機に移す。このときスチレン溶解剤30が高い粘度を有していると、PET、PVCなどの小片とスチレン溶解剤30とを遠心分離できない。しかしながら、本実施例では、スチレン溶解剤30が粘度の低い液体状態を維持できるため、遠心分離によりスチレン溶解剤30とPET、PVCなどの小片(残留物質)とが分別される(S6)。なお、遠心分離工程(S6)は、例えばメッシュを用いて、残留物質を濾す工程であっても良い。このようにして回収されたスチレン溶解剤30も貯留槽32(図3参照)に運ばれる(S3’’)。
【0040】
一方、分別された残留物質は、室温程度(15〜20℃程度)のスチレン溶解剤30を用いた液体比重法によって更に分別される(S7)。スチレン溶解剤30に残留物質を投入して攪拌後、しばらく放置する。浮上した軽比重物41は残留したPPやPEである。一方、沈降した重比重物42はPETやPVCである。これらは、適宜、リサイクルなどに回される。
【0041】
貯留槽32内のスチレン溶解剤30は、ゲル化工程において、加温しながらPS系樹脂を投入されて粘度を高められ、すなわちゲル化される(S8)。スチレン溶解剤30の加熱温度は、少なくとも攪拌溶解工程(S3)及び再攪拌溶解工程(S5)におけるスチレン溶解剤30の温度よりも低い温度である。ここで、比重のほぼ等しいスチレン系溶解剤30とPS系樹脂との質量比で、1:2程度にPS系樹脂を投入するとスチレン溶解剤30はゲル化する。このゲルを取り出し、公知の蒸留塔へと供給してスチレン溶解剤30を蒸留すると、再生PSを得ることができる(S9)。なお、詳細については公知であるので詳述しない。
【0042】
以上、本実施例によれば、PSを溶解したスチレン系溶解剤には他のプラスチック片が混入しないから純度の高いPSを再生できる。一方、PS系樹脂以外のプラスチック片にはゲル状となった溶解剤が付着しないから、洗浄等の取り扱いが容易であって、これについても高い純度の再生プラスチックを得ることができる。
【0043】
なお、本発明による代表的実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明による混合廃プラスチックの分別方法の工程図である。
【図2】本発明による混合廃プラスチックの分別方法の工程図である。
【図3】本発明による混合廃プラスチックの分別装置の断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 攪拌槽
12 取出口
13 液体導入口
14 蓋体
15 ガス抜き口
16 回転ロッド
19 回転制御部
20 プロペラ
22 取出配管
26 循環水配管
28 温度制御部
30 スチレン溶解剤
32 貯留槽
S105 PS分別プロセス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリスチレン系樹脂を含む破砕された混合廃プラスチックの分別装置であって、
ポリスチレン系樹脂を溶解するスチレン溶解剤を入れるための攪拌槽と、
前記攪拌槽の底部にあって前記スチレン溶解剤の一部を取り出すための取出口と、
前記スチレン溶解剤を加温するための加熱手段と、
前記攪拌槽内にあってその深さ方向に沿って互いに離間して配置された水平面内で回転する少なくとも2つ以上の攪拌プロペラと、
前記スチレン溶解剤の粘度を上昇させないように前記加熱手段の出力及び前記攪拌プロペラの回転を制御する制御手段と、を含むことを特徴とする混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項2】
前記攪拌プロペラは、前記攪拌槽の深さの半分よりも上部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項3】
前記攪拌槽は中心軸を有する円筒状タンクであって、前記攪拌プロペラは、前記中心軸に沿って配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項4】
前記攪拌槽の底部は下に凸の逆円錐状であって、前記取出口が前記底部の最下部近傍に設けられて前記スチレン溶解剤の一部を落下させて取り出すことを特徴とする請求項3記載の混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項5】
前記スチレン溶解剤は、ジカルボン酸を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項6】
前記スチレン溶解剤は、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル及びグルタル酸ジメチルを主成分とすることを特徴とする請求項5記載の混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項7】
前記混合廃プラスチックは、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂及び/又はPET系樹脂及び/又はポリ塩化ビニル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載の混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項8】
前記スチレン溶解剤の比重は、常温で前記ポリスチレン系樹脂の比重よりも大であり前記PET系樹脂の比重よりも小であることを特徴とする請求項7記載の混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項9】
少なくともポリスチレン系樹脂を含む破砕された混合廃プラスチックの分別方法であって、
ポリスチレン系樹脂を溶解するスチレン溶解剤を入れた攪拌槽を用意するステップと、
前記スチレン溶解剤を加温するステップと、
前記攪拌槽に破砕された前記混合廃プラスチックを投入するステップと、
前記スチレン溶解剤の深さ方向の対流を減じるようにこれを攪拌する攪拌ステップと、
前記スチレン溶解剤の粘度を上昇させないように前記加熱手段の出力及び前記攪拌プロペラの回転を制御する制御ステップと、
前記攪拌槽の底部の取出口から前記スチレン溶解剤の一部を取り出す分離ステップと、を含むことを特徴とする混合廃プラスチックの分別方法。
【請求項10】
前記制御ステップは、前記分離ステップに先立って、前記攪拌プロペラの回転を停止するステップを有することを特徴とする請求項9記載の混合廃プラスチックの分別方法。
【請求項11】
前記スチレン溶解剤は、ジカルボン酸を主成分とすることを特徴とする請求項9又は10に記載の混合廃プラスチックの分別装置。
【請求項12】
前記スチレン溶解剤は、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル及びグルタル酸ジメチルを主成分とすることを特徴とする請求項11記載の混合廃プラスチックの分別方法。
【請求項13】
前記混合廃プラスチックは、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂及び/又はPET系樹脂及び/又はポリ塩化ビニル系樹脂を含むことを特徴とする請求項9乃至12のうちの1つに記載の混合廃プラスチックの分別方法。
【請求項14】
前記スチレン溶解剤の比重は、常温で前記ポリスチレン系樹脂の比重よりも大であり前記PET系樹脂の比重よりも小であることを特徴とする請求項13記載の混合廃プラスチックの分別方法。
【請求項15】
前記分離ステップの後に、前記スチレン溶解剤による液体比重法によって前記ポリスチレン系樹脂を沈降させて分別する分別ステップを更に有することを特徴とする請求項14記載の混合廃プラスチックの分別方法。
【請求項16】
前記分別ステップにおいて、前記スチレン溶解剤の温度を室温に維持するステップを含むことを特徴とする請求項15記載の混合廃プラスチックの分別方法。
【請求項17】
前記分離ステップによって取り出された前記スチレン溶解剤の一部にポリスチレン系樹脂を加えて粘度を上げるステップと、これを蒸留しポリスチレン系樹脂を得るステップとを更に含むことを特徴とする請求項9乃至16のうちの1つに記載の混合廃プラスチックの分別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−269995(P2009−269995A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121496(P2008−121496)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【特許番号】特許第4253354号(P4253354)
【特許公報発行日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(508136456)
【出願人】(508136478)
【Fターム(参考)】