説明

混銑車への冷鉄源投入方法

【課題】操業への悪影響を防止しつつ、混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量を適正なものとして該冷鉄源による熱ロス低減効果を有効に発揮させる。
【解決手段】混銑車2の炉体10内の溶銑を転炉設備3に払い出し、空となった混銑車2を高炉1まで搬送する間に該混銑車2の炉体10の炉口12の下方に冷鉄源Cを入れ置きし、その後、該混銑車2に高炉1からの溶銑を装入する。このとき、空の混銑車2の炉体10に入れ置きする冷鉄源Cの重量を炉口12の面積によって規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉と転炉設備の間を往復して高炉にて受銑した溶銑を転炉設備に搬送する混銑車への冷鉄源投入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉と転炉設備の間を往復して高炉にて受銑した溶銑を転炉設備に搬送する混銑車においては、転炉設備の受銑容器に溶銑の払出しを完了した後、次回の受銑に備えるべく高炉に返送される。このとき、該混銑車は、払出し前の溶銑によって得られた熱を大気中に放出しており、ここに熱ロスが生じている。該熱ロスは、その後に混銑車に装入されることとなる溶銑の温度低下の原因となり、これによって転炉工程で吹錬される溶銑に対する冷鉄源の配合量が低下し、結果的に粗鋼の増産を減退させてしまうこととなり、これまでも熱ロスの低減を図る操業方法が提案されている。
【0003】
ところが、上記操業方法を採用した場合にも、高炉と転炉設備とが数百m〜数kmに亘って離間している製鋼設備等においては、空となった混銑車を転炉設備から高炉まで返送するには長時間を要し、これによって混銑車からの熱ロスは甚大なものとなっていた。
かかる問題を解決すべく、溶銑の払出しを完了した混銑車に冷鉄源を入れ置きする混銑車の操業方法が提案されている(例えば特許文献1〜特許文献3参照)。
該混銑車の操業方法においては、溶銑払い出し後の混銑車に冷鉄源を入れ置きすることにより、混銑車からの放熱が冷鉄源に吸収され、これによって該放熱が大気中に放出されることなく回収されて熱ロスを低減することができ、さらに、吹錬前の溶銑に冷鉄源を装入する機会が増加することにより、操業全体の溶銑配合率(HMR)の低減が図られる。
【特許文献1】特開昭54−142216号公報
【特許文献2】特許2852295号
【特許文献3】特開平5−59421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜特許文献3においては、予め入れ置きした冷鉄源を高炉からの受銑によって全て溶解させることを目的として、入れ置きする冷鉄源の重量は受銑重量の10%程度に規定されている。
しかしながら、現場の実績として、受銑重量のみから入れ置きする冷鉄源の重量を規定することは冷鉄源を過剰に入れすぎてしまう場合があり、この様な過剰な冷鉄源の入れ置きによっては、冷鉄源の有する熱ロス低減効果を十分に発揮させることができず、却って操業に悪影響を与えてしまうことが挙がってきている。
【0005】
そこで、本発明は、操業への悪影響を防止しつつ、混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量を適正なものとして該冷鉄源による熱ロス低減効果を有効に発揮させることができる混銑車への冷鉄源投入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための第1の技術的手段は、
混銑車内の溶銑を転炉設備に払い出し、空となった混銑車を高炉まで搬送する間に該混銑車の炉口の下方に冷鉄源を入れ置きし、その後、該混銑車に高炉からの溶銑を装入することとされている混銑車への冷鉄源投入方法において、
前記空の混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量は、式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする。
【0007】
【数5】

【0008】
混銑車内の熱ロスは、主に混銑車表面からの外部放熱及び炉口からの放熱よるものであることは知られている。
本発明に係る混銑車の操業方法においては、混銑車内に冷鉄源を入れ置きし、該冷鉄源に本来外部放熱によって放出されることとなる熱を吸収させ、これによって混銑車内の熱の外部への放出を抑制するのである。ここで、前記外部放熱による発散熱量の大きさは、混銑車の炉口の面積の大きさによって変動し、例えば混銑車の炉口の面積が大きくなるにつれて、該炉口からの放熱が増し、相対的に混銑車内の熱量は小さくなり、前記外部放熱による発散熱量も小さなものとなる。本願発明者らは、かかる点に着目し、炉口の面積と混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量に関する実験を重ねた。その結果、入れ置きする冷鉄源の重量を以下の式(1A)の範囲とすれば、外部放熱による発散熱を入れ置きした冷鉄源によって十分に吸収し、ひいては該冷鉄源の熱ロス低減効果を十分に発揮させることとなることを発見した。
【0009】
【数6】

【0010】
また、入れ置きした冷鉄源は、混銑車の内壁からの輻射熱を受けることにより予熱され、該内壁の表面と冷鉄源表面の温度が等しくなった時点で冷鉄源と混銑車内の空気の間の熱移動は平衡状態となる。このため、混銑車内は、予熱された冷鉄源によって保温状態が維持され、これによっても混銑車の熱ロスが低減されることとなる。
一方、炉口を通じての放熱を抑制するには、混銑車の内壁表面、特に炉口直下及びその周辺を入れ置きする冷鉄源によって覆い、これらの面から炉口を通じて混銑車外に放出される輻射熱を抑制することが有効である。これにより、炉口直下及びその周辺の温度が低下し、ステファン=ボルツマンの法則によって示されるこれら炉口直下及びその周辺からの輻射熱の放出が抑制されるのである。
【0011】
一般に、入れ置きする冷鉄源は、公知の手段によって混銑車に投入され、該混銑車の炉口の下方に堆積することとなるが、本願発明者は、炉口の面積と入れ置きする冷鉄源の重量に関する実験を重ねた結果、冷鉄源の重量を以下の式(1B)の範囲とすることにより、公知の手段によって冷鉄源を混銑車内に投入する場合にも、炉口直下及びその周辺を冷鉄源によって覆うことが可能であること発見している。
【0012】
【数7】

【0013】
したがって、混銑車の熱ロスを低減することを目的として入れ置きする冷鉄源の重量を規定する場合、前記式(1)を満たす範囲で冷鉄源の重量を設定することにより、混銑車からの放熱に対して冷鉄源の熱ロス低減効果を十分に発揮させることができるのである。
また、混銑車が受銑する溶銑に対して冷鉄源を過剰に入れ置きすると、冷鉄源が溶け残ると共に溶銑の温度低下が顕著なものとなる。これにより、混銑車の内壁に地金が付着すると共に溶銑の顕著な温度低下が後の操業に支障をきたす虞がある。
【0014】
そこで、本願発明者は、入れ置きする冷鉄源の重量と受銑される溶銑の重量に関する操業実績を詳しく調べた。この結果、入れ置きする冷鉄源の重量を上記式(2)の範囲とすることにより、冷鉄源を全て溶解することが可能であり、しかも、受銑した溶銑の著しい温度低下を防止することができることを知見している。
したがって、入れ置きする冷鉄源の重量を上記式(1)及び式(2)を満たすものとすることにより、入れ置きする冷鉄源の熱ロス低減効果を十分に発揮させ、且つ、冷鉄源の入れ置き後の操業を良好なものとすることができる。
【0015】
また、本発明における課題解決のための第2の技術的手段は、
混銑車内の溶銑を転炉設備に払い出し、空となった混銑車を高炉まで搬送する間に該混銑車の炉口の下方に冷鉄源を入れ置きし、その後、該混銑車に高炉からの溶銑を装入し、受銑した溶銑を前記転炉設備に払い出す間に該溶銑に脱りん処理を施すこととされている混銑車への冷鉄源投入方法において、
前記空の混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量は、式(1)及び式(3)を満たすことを特徴とする。
【0016】
【数8】

【0017】
上記操業方法によれば、混銑車に受銑された溶銑は、混銑車内にて脱りん処理を施された後、転炉設備に払い出される。
該脱りん処理においては、一般に、脱りん材として気酸(酸素ガス)と固酸(酸化鉄等)とが同時に溶銑に装入される。このとき、低効率の気酸の比率よりも高効率の固酸の比率を大きなものとして処理を行うことが望ましい。しかし、固酸による脱りん処理は吸熱反応を多分に含み、固酸比率の増大は溶銑内の熱量の大量消費に繋がり、これによって溶銑の温度低下が著しいものとなる。
【0018】
かかる温度低下を防止するためには、脱りん処理前の溶銑の熱余裕を十分なものとすることが望ましい。そこで、本願発明者は、入れ置きする冷鉄源の重量を上記の式(3)以下とすることにより、冷鉄源によって溶銑の熱量が若干奪われることとなるものの、これによっても脱りん処理を行うための溶銑の熱余裕を十分に維持することができることを知見している。
そして、入れ置きする冷鉄源の重量を式(3)以下とすることにより、脱りん処理の固酸比率を増大させることができ、ひいては低効率の気酸の割合を低減することができるのである。
【0019】
また、本発明における課題解決のための第3の技術的手段は、
混銑車内の溶銑を転炉設備に払い出し、空となった混銑車を高炉まで搬送する間に該混銑車の炉口の下方に冷鉄源を入れ置きし、その後、該混銑車に高炉からの溶銑を装入することとされている混銑車への冷鉄源投入方法において、
前記空の混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量は、式(4)及び式(2)を満たすことを特徴とする。
【0020】
【数9】

【0021】
上記操業方法によれば、混銑車は、溶銑の払出し完了から冷鉄源の入れ置き開始までは空の状態であり、このとき、混銑車内の熱は大気中に熱ロスとして放出されている。そこで、本願発明者は、溶銑払い出し完了から冷鉄源の入れ置き開始までの間の放熱による熱ロスに着目し、上記式(1A)に溶銑払出し完了から冷鉄源入れ置き開始までの時間を変数として導入することにより、冷鉄源を装入する前までの混銑車からの放熱を考慮した以下の式(4A)を得ることを知見している。
【0022】
【数10】

【0023】
また、上記式(1B)についてさらに検討を進め、入れ置きする冷鉄源によって炉口直下及びその周辺を覆うことを目的として冷鉄源の重量を規定するに際し、冷鉄源の平均かさ比重が影響することを知見した。そして、この観点から上記式(1B)に冷鉄源のかさ比重を変数として導入することにより、投入される冷鉄源の性状を考慮した以下の式(4B)が得られる。
【0024】
【数11】

【0025】
これにより、上記式(4)においては、冷鉄源を入れ置きすることによって混銑車の熱ロスを低減するに際し、溶銑払い出し完了から冷鉄源入れ置き開始までの時間及び冷鉄源の平均かさ比重との関係が考慮され、入れ置きする冷鉄源の重量がより実情に即したものとして規定されることとなる。
さらに、かかる点に鑑みれば、本発明における課題解決のための第4の技術的手段として、
混銑車内の溶銑を転炉設備に払い出し、空となった混銑車を高炉まで搬送する間に該混銑車の炉口の下方に冷鉄源を入れ置きし、その後、該混銑車に高炉からの溶銑を装入し、受銑した溶銑を前記転炉設備に払い出す間に該溶銑に脱りん処理を施すこととされている混銑車への冷鉄源投入方法において、
前記空の混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量は、式(4)及び式(3)を満たすことを特徴とすることは好ましい。
【0026】
【数12】

【発明の効果】
【0027】
本発明の混銑車への冷鉄源投入方法によれば、操業への悪影響を防止しつつ、混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量を適正なものとして該冷鉄源による熱ロス低減効果を有効に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施した形態につき、図面に沿って具体的に説明していく。
本実施の形態の製鋼工程のフローは、図1に示す如く、高炉1にて製銑された溶銑は混銑車2に受銑され、該混銑車2によって転炉設備3に搬送される。ここで、溶銑は、混銑車2による搬送中に脱硫処理を施され、その後、転炉設備3の溶銑払出し場4にて溶銑鍋5に払い出される。
そして、混銑車2から溶銑鍋5に払い出された溶銑は、除滓処理を施された後に転炉6に搬送され、該転炉6にて吹錬処理を施されて溶鋼となる。そして、該溶鋼は転炉6から溶鋼鍋7に払い出され、その後、溶鋼処理(2次精錬処理)及び連続鋳造処理を経て製品化される。
【0029】
該フローにおいては、上述の如く、混銑車2が高炉1と転炉設備3の溶銑払出し場4の間を往復して溶銑を搬送し、溶銑鍋5が溶銑払出し場4から転炉6まで溶銑を搬送し、吹錬工程は溶銑を転炉6に装入した状態で行い、溶鋼鍋7が転炉6から転炉設備3よりも下流となる連鋳工程まで溶鋼を搬送する。
ここで、本実施の形態の混銑車2は、図2に示す如く、中空樽形状の炉体10を有しており、該炉体10がボギー台車11上に配設されている。炉体10は、その長手方向を向く軸芯回りに回動自在であって、炉体10の上部に形成された炉口12が横向きになり、炉体10内の溶銑を払出し可能となっている。
【0030】
また、炉体10は、外張りが鉄皮14によって形成されると共に、内張りが有機物をバインダーとして含有する粘土質や高アルミナ質からなる定形の炉内耐火物(耐火レンガ)15が隙間無く貼り付けられており、炉口12の近傍には、不定形に形成された炉内耐火物15が内張りされて該炉口12の形状に追従した耐火壁面が形成され、これら炉内耐火物15によって炉体10の内壁が形成されている。
図1に示す本実施の形態のフローにおいては、各処理設備間を移動して溶銑や溶鋼を搬送する搬送容器として混銑車2、溶銑鍋5、転炉6及び溶鋼鍋7が採用されている。これら搬送容器は、受銑する溶銑や溶鋼からの熱を受けて高温となるものの、該熱は、搬送容器を搬送先から搬送元に返送するまでの間に大気中に放出され、ここに熱ロスが発生することとなる。
【0031】
特に混銑車2においては、溶銑払出し場4にて炉体10内の溶銑を払い出した後、炉体10内に残留しているスラグを排滓する排滓場8を経由して高炉1の鋳床(図示省略)まで返送されることとなるが、溶銑払出し場4を出発してから排滓場8に到着する第1返送ラインL1を消化するまでに約70分、排滓場8にてスラグを排滓する作業に約30分を要すると共に、排滓場8を出発して高炉1に到着する第2返送ラインL2を消化するまでに約130分の時間を要することとなるため、図3に示す如く、他の搬送容器からの熱ロスに比して混銑車2の熱ロスは各段に大きなものとなる。
【0032】
そこで、図1に示す如く、本実施の形態においては、排滓場8にて排滓処理を完了した混銑車2に図2に示す冷鉄源を入れ置きすべく、第2返送ラインL2の始点に冷鉄源投入設備9を配備している。
なお、本実施の形態においては、冷鉄源Cとして冷銑を採用している。
ここで、第1返送ラインL1においては、混銑車2の内壁を形成する炉内耐火物15の表面が混銑車の炉体10内に残留しているスラグによって覆われている。そして、スラグが皮膜(保温蓋)となって炉内耐火物15の表面からの放熱を最小限に抑えているのである。このため、第2返送ラインL2の始点となる排滓場8での排滓処理完了直後にて冷鉄源Cを入れ置くこととしている。
【0033】
そして、上記排滓処理を完了した炉体10に冷鉄源Cを入れ置きすることにより、該冷鉄源Cに炉体10からの放熱が吸収され、これによって混銑車2からの熱ロスの低減が図られることとなる。
ところで、混銑車2の熱ロスは、主に鉄皮14からの放熱によるものと炉体10内の熱の炉口12からの放出であることが知られている。ここで、本願発明者らは、入れ置きする冷鉄源Cの重量を規定することにより、これら2経路の熱の放出を有効に抑えることを見出している。
【0034】
先ず、鉄皮14からの放熱に対しては、炉体10内の熱を入れ置きする冷鉄源Cに吸収させ、該冷鉄源Cの予熱効果によって放熱を抑えることとする。即ち、鉄皮14から放出されるべき炉体10内の熱が入れ置きする冷鉄源Cによって吸収され、該熱によって冷鉄源Cが予熱される。そして、予熱された冷鉄源Cからの放熱(輻射熱)が炉体10の内壁によって受け止められる。これにより、炉体10内にて冷鉄源Cと炉体10の内壁の間で熱的な平衡状態で形成されて該炉体10内の保温状態が維持され、結果として炉体10の内壁温度が低下し、伝熱により鉄皮14の温度も低下する。この結果、鉄皮14から放出される熱量が低減されることとなる。
【0035】
このとき、炉口12の面積が大きくなるにつれて該炉口12からの炉体10内の放熱量が大きくなるため、炉体10内の熱量は小さなものとなる。つまり、混銑車2の炉体10内の熱量は炉口12の面積に依存しており、これに伴って、入れ置きする冷鉄源Cの重量も炉口12の面積に依存して変動する。
本願発明者らは、入れ置きする冷鉄源Cの重量は炉口12の面積に対して線形性を有して変動することを見出した。加えて、炉口12の面積A=1.8m2とした場合、25ton以上の冷鉄源Cを入れ置きしても、冷鉄源Cの表面温度の値が頭打ちとなり、それ以上に冷鉄源Cを増量しても該増量に伴う予熱効果を殆ど認めることができない点、及び、炉口12の面積A=3.0m2とした場合、23ton以上の冷鉄源Cを入れ置きしても、冷鉄源Cの表面温度の値が頭打ちとなり、それ以上に冷鉄源Cを増量しても該増量に伴う予熱効果を殆ど認めることができない点を実験・調査から得た。
【0036】
これにより、入れ置きする冷鉄源Cの重量と炉体10の炉口12の面積との間に以下の関係が成立することにより、入れ置きする冷鉄源Cの予熱効果を有効に発揮して混銑車2の鉄皮14から放出される熱量を低減することができることを見出した。
【0037】
【数13】

【0038】
一方、炉体10内の炉内耐火物15の表面、特に炉口12の直下及びその周辺の炉内耐火物15の表面を入れ置きする冷鉄源Cによって覆うことにより、炉体10内の熱の炉口12からの放出を低減することとしている。これにより、炉口12の直下及びその周辺の温度が低下し、ステファン=ボルツマンの法則によって示されるこれら炉口12の直下及びその周辺の炉内耐火物15の輻射熱の放出が抑制されるのである。
この様に冷鉄源を炉体10内に入れ置きするに際し、本実施の形態においては、冷鉄源投入設備9にて公知の手段により混銑車2の炉体10内に冷鉄源Cを入れ置きしているが、炉口12の面積が大きくなるにつれて、入れ置きする冷鉄源Cによって覆うべき炉口12の下方の表面積は大きなものとなる。即ち、混銑車2内の覆うべき面の面積は炉口12の面積に依存しており、入れ置きする冷鉄源Cの重量も炉口12の面積によって変動する。
【0039】
ここで、炉口12を略円形とした場合、該炉口12の面積は半径の2乗に比例する。また、炉口12の下方(炉口12の正投影面)及びその周辺を覆うに十分とされる冷鉄源Cの体積は、前記半径の3乗に比例するものと考えられる。これにより、以下の式(1B’)が成立する。
【0040】
【数14】

【0041】
さらに、本願発明者らは、炉口12の面積A=1.8m2とした場合、冷鉄源Cの重量を8.0ton以下とすると、該冷鉄源Cによって炉口12の下方及びその周辺を覆うことができないことを知見した。この結果及び上記式(1B’)から、入れ置きする冷鉄源Cの重量と炉口12の面積との間に以下の式(1B)の関係が成立することにより、入れ置きする冷鉄源Cによって混銑車2の内壁を十分に覆うことができることを見出した。
【0042】
【数15】

【0043】
したがって、以下の式(1)を満たす範囲で冷鉄源Cの重量を設定することにより、混銑車2の熱ロスに対して炉体10に入れ置きする冷鉄源Cの熱ロス低減効果を十分に発揮させることができるのである。
【0044】
【数16】

【0045】
図4は、炉口12の面積(横軸:m2)と入れ置きする冷鉄源Cの重量(縦軸:ton/車)との関係を示しており、上記式(1)を満たす範囲に冷鉄源Cの重量を設定することにより、該冷鉄源Cの熱ロス低減効果を有効に発揮させることができる。
また、図5は、入れ置きする冷鉄源Cの重量(横軸:ton/車)と該冷鉄源Cによる熱ロス低減効果(縦軸:Mcal)との関係を示している。また、図8は、入れ置きした冷鉄源の炉口直下での表面温度(縦軸:℃)の経時変化(横軸:分)を示している。図5及び図8に示す如く、入れ置きする冷鉄源Cの重量が増すにつれて、冷鉄源Cの予熱による熱ロス低減効果及び炉口12から熱ロス低減効果による全体の熱ロス低減効果が増大する。しかしながら、かかる熱ロス低減効果は線形性を有さず、入れ置きする冷鉄源Cの重量の増大に伴って頭打ちとなっている。
【0046】
本願発明者らは、かかる点に鑑み、入れ置きする冷鉄源Cと該冷鉄源Cを入れ置きした混銑車2に受銑される溶銑との関係に着目して検討した。これにより、冷鉄源Cを過剰に入れ置きすると、冷鉄源Cが溶け残ると共に溶銑の温度低下が顕著となり、冷鉄源Cの熱ロス低減効果が有効に発揮されないばかりか、溶銑の顕著な温度低下によって後の操業に支障をきたす虞があることを知見した。
そこで、本願発明者は、入れ置きする冷鉄源Cの重量と受銑される溶銑の重量に関する実験を行った。この結果、入れ置きする冷鉄源Cの重量を以下の式(2)の範囲とすることにより、冷鉄源Cを全て溶解することが可能であると共に溶銑の著しい温度低下を防止することができることを見出している。
【0047】
【数17】

【0048】
したがって、入れ置きする冷鉄源Cの重量を上記式(1)及び式(2)を満たすものとすることにより、冷鉄源Cの入れ置き後の操業に支障をきたすことなく、しかも、該冷鉄源Cの熱ロス低減効果が有効に発揮されることとなるのである。
また、上記製鋼工程は、図1に示す如く、鋳床にて溶銑に脱珪処理を施した後、該溶銑を搬送する混銑車2を転炉設備3に向けて移動させ、該混銑車2の移動途中にて炉体10内の溶銑に除滓処理、脱りん処理及び脱硫処理を施すこととする構成を採用することも可能である。
【0049】
この場合、該脱りん処理においては、脱りん材として気酸(酸素ガス)と固酸(酸化鉄)とが溶銑に装入される。気酸による反応は発熱反応であり、これによって溶銑の温度が低下する虞はない。しかし、気酸による処理は効率が悪いため、多くの酸素ガスを炉体10内に吹き込まなければならず、これにより、転炉6での吹錬工程に熱源として必要とされる溶銑中の炭素を気酸との反応によって炭酸ガス(COX)として必要以上に消費してしまう虞がある。また、該反応による反応物の燃焼や、スピッティングにより炉内耐火物15に付着する反応物を除去する作業等によって、混銑車2の炉内耐火物15を早期に損傷させてしまう虞がある。
【0050】
このため、脱りん処理は気酸比率よりも固酸比率を大きなものとして行うことが望ましい。しかしながら、固酸による脱りん処理は全体として吸熱反応であり、固酸比率を増大させると溶銑内の熱量を大量に消費し、これによって溶銑の温度低下が著しいものとなる。
かかる温度低下を防止するためには、脱りん処理前の溶銑の熱余裕を十分なものとすることが望ましい。そこで、本願発明者は、入れ置きする冷鉄源Cの重量を以下の式(3)以下とすることにより、冷鉄源Cによって溶銑の熱量が一部奪われることとなるものの、これによっても脱りん処理に対する溶銑の熱余裕を十分に維持することができることを知見している。
【0051】
【数18】

【0052】
上記式(3)の範囲内に入れ置きする冷鉄源の重量を設定することにより、脱りん処理の固酸比率を増大させることが可能となる。これにより、気酸(昇熱材)の割合を低減させることができるばかりでなく、脱りん処理による炭酸ガスの排出の抑制、転炉6の生産性の向上、混銑車2の炉体10の長寿命化等が図られるのである。
ところで、本実施の形態においては、第1返送ラインL1に要する時間が70分程度とされているものの、かかる時間は高炉1からの溶銑供給量や転炉6の稼働状況によって変動する。そして、第1返送ラインL1の所要時間によって排滓処理完了後の炉体10内に残存する熱量は変動する。
【0053】
本願発明者らは、溶銑払出し完了後から冷鉄源Cの入れ置き開始までの間の放熱が前記鉄皮14からの放熱に影響することを見出している。本願発明者らは、炉口12の面積を一定とした場合、冷鉄源Cの重量は、第1返送ラインL1の所要時間に対して線形性を有して変動する点を見出した。そこで、上記式(1A)において、右辺の比例定数を前記時間の実操業での平均時間100分で除すると共に、当該項に該時間を変数として導入することとし、冷鉄源Cを入れ置きする前までの混銑車2からの放熱を考慮した以下の式(4A)を得た。
【0054】
【数19】

【0055】
また、本実施の形態においては、入れ置きする冷鉄源Cとして上述の如く冷銑が採用されている。これに対し、入れ置きする冷鉄源Cとして図6の如きスペックを有する溶銑地金、転炉粗粒ダスト等を装入することは、HMRの低減やスクラップのリサイクル化の点に鑑みれば極めて好ましい。実際の操業においても、これら溶銑地金や転炉粗粒ダスト等を入れ置きする冷鉄源Cとして採用していることは少なくない。
ところで、上記実施の形態においては、上記式(1B)によって規定される重量の冷鉄源Cを炉体10に投入することにより、炉口12の直下及びその周辺の炉内耐火物15が覆われることとしている。ここで、上記複数種の前記冷鉄源Cの内、何れか若しくは複数の冷鉄源Cを入れ置きする冷鉄源Cとして採用する場合、炉内耐火物15を覆うための冷鉄源Cの重量は、入れ置きする冷鉄源Cの平均かさ比重によって変動する。
【0056】
そこで、本願発明者らは、上記式(1B)に冷鉄源Cの平均かさ比重を変数として導入すると共に、該導入に伴って比例定数を実操業での一般的な平均かさ比重3.6(ton/m3)で除することにより、入れ置きする冷鉄源Cの種類を考慮した以下の式(4B)を得た。
【0057】
【数20】

【0058】
これにより、以下に示す式(4)が得られる。
【0059】
【数21】

【0060】
式(4)においては、溶銑払出し完了から冷鉄源C入れ置き開始までの時間及び冷鉄源Cのかさ比重との関係が加味されて冷鉄源Cの重量が規定されることとなる。この結果、混銑車2に入れ置きする冷鉄源Cの重量を式(4)を満たす範囲内に設定することにより、該重量がより実情に即したものとなる。
また、上記式(4)は、混銑車2内の溶銑に脱りん処理を施す製鋼工程においても採用することが可能であり、入れ置きする冷鉄源Cの重量を上記式(4)及び式(3)を満たす範囲に設定することにより、混銑車2内の溶銑に脱りん処理を施す場合にも入れ置きする冷鉄源Cの熱ロス低減効果は有効に発揮されることとなる。
【0061】
以下、実施例について比較例を合わせて説明し、本発明の効果を実証する。
図7に示す如く、実施例1〜8及び比較例1〜7について、入れ置きした冷鉄源Cによる熱ロス低減効果を比較した。
ここで、実施例1〜8及び比較例1〜7においては、混銑車2の容量を65m3、冷鉄源Cの入れ置き開始から高炉1での受銑までの時間を130分で統一すると共に、高炉1出銑時の溶銑温度を1480℃〜1520℃、溶銑払出し時の溶銑温度を1280℃〜1380℃(一部、比較例で1200℃程度まで低下している場合有り)の範囲でそれぞれ規定している。また、高炉受銑開始から次ヒートの高炉受銑開始までの1サイクルの所要時間は平均560分で、350〜700分の範囲であった。
【0062】
また、混銑車2の炉口12の面積A(m2)、溶銑払出し完了から冷鉄源Cの入れ置きまでの時間t(分)、冷鉄源Cを入れ置きした後に受銑する溶銑の重量Wp(ton)、入れ置きする冷鉄源Cの重量Wi(ton)の条件は、実施例1〜8及び比較例1〜7においてそれぞれ異なる値を設定している。また、比較例1においては、冷鉄源Cの入れ置きを行っていない。
さらに、実施例1及び実施例2においては、入れ置きする冷鉄源Cの重量を少なくとも上記式(1)及び式(2)を満足するものとし、実施例3及び実施例4においては、入れ置きする冷鉄源Cの重量を少なくとも上記式(1)及び式(3)を満足するものとし、実施例5及び実施例6においては、入れ置きする冷鉄源Cの重量を少なくとも上記式(2)及び式(3)を満足するものとし、実施例7及び実施例8においては、入れ置きする冷鉄源Cの重量を少なくとも上記式(3)及び式(4)を満足するものとしている。
【0063】
また、比較例4及び7、実施例3、4、7及び8においては脱りん処理を施している。ここで、該脱りん処理においては、処理時間を35分とすると共に脱りん処理後の溶銑温度を1280℃〜1320℃の範囲として規定し、また、気体酸素を上吹きランスより溶銑表面に吹き付けると共に、脱りん材として、生石灰、鉄鉱石及び転炉スラグを採用して溶銑中にインジェクションしている。
また、操業実績として、炉口12の下方に位置する冷鉄源Cの受銑直前の表面温度(℃)、受銑開始直後の高炉鋳床主樋にて測定した溶銑温度と受銑開始から50分経過したときの混銑車内の溶銑温度との温度差を示した降下温度(℃)、比較例1に対する各例の温度差の差異(℃)、及び脱りん処理を施した例における気酸投入量(Nm3/ton)を示している。
【0064】
また、効果において各例の熱ロス低減効果を算出するに際し、該熱ロス低減効果を炉口12からの放熱ロス低減効果(Mcal)及び熱ロス低減効率(%)と、冷鉄源Cの予熱効果による鉄皮からの熱ロス低減効果(Mcal)及び熱ロス低減効率(%)と、これら2つの効果を合わせた全体の熱ロス低減効果(Mcal)及び熱ロス低減効率(%)を示している。ここで、熱ロス低減効率とは、冷鉄源を入れ置きしない場合に対する冷鉄源を入れ置きした場合の熱ロス低減効果の割合を示したものであり、各熱ロス低減効果の具体的な定義は図9に示す。
【0065】
また、これに加えて、効果として冷鉄源Cの溶け残り量(ton)、凝固して混銑車2内に残留した溶銑の重量(ton)、炉口12の周囲に配備された炉内耐火物15の1工程あたりの損傷速度(mm/heat)を示している。
図7から明らかなように、本発明の条件を満たさない比較例2〜7の場合には、低調な熱ロス低減効果、低調な熱ロス低減効率(20%程度)、冷鉄源Cの溶け残り、凝固した溶銑の残留、前記炉内耐火物15の早期損傷傾向の何れか一つ若しくは複数が認められるものの、本発明の条件を満たす実施例1〜8によれば、良好な熱ロス低減効果及び熱ロス低減効率(40%程度)が認められると共に、冷鉄源Cの溶け残り、凝固した溶銑の残留、前記炉内耐火物15の早期損傷傾向等はなく、冷鉄源Cの熱ロス低減効果が有効に発揮され、しかも、他工程や混銑車2に支障をきたす虞は解消されている。
【0066】
以上、本発明の実施の形態を詳述したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。例えば、混銑車2によって搬送中の溶銑に除滓処理を施した後に脱硫処理を行い、その後、転炉設備3の溶銑払出し場4に溶銑を払い出す工程とすることも可能である。
または、混銑車2によって搬送中の溶銑に除滓処理を施した後に脱りん処理及び脱硫処理を行い、その後、転炉設備3の溶銑払出し場4に溶銑を払い出す工程とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】製鋼工程のフローを示す図である。
【図2】混銑車の一部破断側面図である。
【図3】受銑容器の熱ロスを示す図である。
【図4】入れ置きする冷鉄源の重量の最適範囲を示す図である。
【図5】熱ロス低減効果を示す図である。
【図6】冷鉄源のスペックを示す図である。
【図7】実施例と比較例を比較して示す図である。
【図8】入れ置きする冷鉄源の表面温度の経時変化を示す図である。
【図9】各熱ロス低減効果及び熱ロス低減効率の定義を示す一覧図である。
【符号の説明】
【0068】
1 高炉
2 混銑車
3 転炉設備
4 溶銑払出し場
6 転炉
8 排滓場
9 冷鉄源投入設備
10 炉体
12 炉口
14 鉄皮
15 炉内耐火物
C 冷鉄源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混銑車内の溶銑を転炉設備に払い出し、空となった混銑車を高炉まで搬送する間に該混銑車の炉口の下方に冷鉄源を入れ置きし、その後、該混銑車に高炉からの溶銑を装入することとされている混銑車への冷鉄源投入方法において、
前記空の混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量は、式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする混銑車への冷鉄源投入方法。
【数1】

【請求項2】
混銑車内の溶銑を転炉設備に払い出し、空となった混銑車を高炉まで搬送する間に該混銑車の炉口の下方に冷鉄源を入れ置きし、その後、該混銑車に高炉からの溶銑を装入し、受銑した溶銑を前記転炉設備に払い出す間に該溶銑に脱りん処理を施すこととされている混銑車への冷鉄源投入方法において、
前記空の混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量は、式(1)及び式(3)を満たすことを特徴とする混銑車への冷鉄源投入方法。
【数2】

【請求項3】
混銑車内の溶銑を転炉設備に払い出し、空となった混銑車を高炉まで搬送する間に該混銑車の炉口の下方に冷鉄源を入れ置きし、その後、該混銑車に高炉からの溶銑を装入することとされている混銑車への冷鉄源投入方法において、
前記空の混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量は、式(4)及び式(2)を満たすことを特徴とする混銑車への冷鉄源投入方法。
【数3】

【請求項4】
混銑車内の溶銑を転炉設備に払い出し、空となった混銑車を高炉まで搬送する間に該混銑車の炉口の下方に冷鉄源を入れ置きし、その後、該混銑車に高炉からの溶銑を装入し、受銑した溶銑を前記転炉設備に払い出す間に該溶銑に脱りん処理を施すこととされている混銑車への冷鉄源投入方法において、
前記空の混銑車に入れ置きする冷鉄源の重量は、式(4)及び式(3)を満たすことを特徴とする混銑車への冷鉄源投入方法。
【数4】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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