説明

清掃部材と塗布器の清掃方法及び清掃装置並びにディスプレイ用部材の製造方法

【課題】清掃時に塗布器から除去した塗布液が清掃部材を伝わって流出する速度を高めて塗布器への再付着が生じないことと、塗布液や洗浄用の溶剤等が残存せず塗布膜厚異常や塗布膜面の欠点を引き起こさないことが可能な清掃部材を提供する。
【解決手段】互いに対向する第1の面と第2の面を有し、塗布器の一方向に延在する吐出口の吐出口面と、当該吐出口面の両隣接面に接触しながら、当該一方向に摺動して、当該吐出口面と当該両隣接面との清掃に供される清掃部材は、前記第1の面側に設けられた、前記吐出口面と前記両隣接面とに同時に接触する清掃部と、前記清掃部を起点として、前記第2の面側まで延在する複数の流出経路面とを備え、前記流出経路面には、前記第2の面側で切欠き220が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばカラー液晶ディスプレイ用カラーフィルタ並びにアレイ基板、プラズマディスプレイ用パネル、光学フィルタなどのディスプレイ用部材の製造分野に使用されるものであり、詳しくはガラス基板などの被塗布部材表面に塗布液を吐出して塗布膜を形成するのに好適に用いられるスリットコータのスリットノズルの吐出口及びその周辺の清掃方法及び清掃装置、並びにこれらを用いたディスプレイ用部材の製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶用ディスプレイは、カラーフィルタ、TFT用アレイ基板などの部材により構成されているが、カラーフィルタ及びTFT用アレイ基板の製造には共に、低粘度の液体材料を塗布し、塗布した液体材料を乾燥させて、塗布膜を形成する製造工程が多く含まれている。
【0003】
たとえば、カラーフィルタの製造工程では、ガラス基板上に黒色のフォトレジスト材の塗布膜を形成し、形成された塗布膜をフォトリソ法により格子状に加工した後に、格子間に赤色、青色、及び緑色のフォトレジスト材のそれぞれの塗布膜を同様の手法により順次形成する。その他にも、カラーフィルタの製造においては、各色のフォトレジスト材を塗布して塗布膜の形成後に、カラーフィルタとアレイ基板との間に注入される液晶のスペースを得るための柱を形成したり、カラーフィルタ上の表面の凹凸を平滑化するためのオーバーコート塗布膜を形成するなどの工程がある。
【0004】
塗布膜形成のための塗布装置として、塗布液の消費量削減や消費電力削減、さらに2m角以上という超大型基板に対応する装置の大型化が容易であるなどの理由により、スリットコータ(例えば特許文献1)が近年多く使用されている。このスリットコータは塗布ヘッド、すなわち塗布器としてスリットノズルを有し、スリットノズルに設けられたスリット状の細長い吐出口から塗布液を吐出しながら、一方向に走行するガラス基板などの枚葉状の被塗布部材に塗布膜を形成するものである。
【0005】
スリットコータで一度塗布液の塗布を行うと、スリットノズルの塗布液が吐出される吐出口を含む吐出口面と、吐出口面の両隣にある両隣接面(以降、「リップ斜面」)とに塗布液の一部が、滴状または細長い液膜となって残存する。一回の塗布工程の完了後に、吐出口面及びリップ斜面に滴状や細長い液膜の塗布液が放置されたままの状態で、引き続いて塗布を行うと、均一な塗布面が得られないという問題が生じる。
【0006】
具体的には、吐出口面或いはリップ斜面に残存していた塗布液が、スリットノズルから吐出される塗布液と共に基板に塗布されることにより、塗布膜厚のムラ(以降、「塗布ムラ」)が発生する。また、残存している塗布液が塗布されなくても、それが起点となって、塗布方向に筋(すじ)(以降、「塗布筋」)が発生する。これら塗布ムラと塗布筋とを塗布欠陥と総称する。スリットコータで多数枚の被塗布部材に続けて高品質の塗布を行う場合には、このような塗布欠陥を回避するために、一回の塗布が終了するごとに、スリットノズルの吐出口面及びリップ斜面を清掃して、付着して残存している塗布液を除去することが必要である。
【0007】
このような残存している塗布液を除去するために、毎回の塗布の完了後或いは開始前に、清掃部材を用いてスリットノズルの吐出口面及びリップ斜面を清掃する方法及び装置が提案されている(例えば特許文献2、3)。具体的には、スリットノズルの吐出口面及びリップ斜面の断面形状と合致する形状を有する合成樹脂製の清掃部材を、吐出口面及びリップ斜面に摺動させることで清掃が行われる。この清掃部材を吐出口面及びリップ斜面に直接接触させて摺動させることにより、吐出口面及びリップ斜面に付着した塗布液を確実に除去でき、多数枚の被塗布部材に連続して塗布する時でも、安定して膜厚が均一で、塗布欠陥のない高品質の塗布膜を得られる。
【0008】
塗布液として感光性アクリル系カラーペーストやフォトレジスト等の揮発性の高いものを使用する場合には、特に付着塗布液の除去能力が高いことが望まれる。なぜならば、吐出口面及びリップ斜面に付着した塗布液の除去が不十分であれば、塗布液がわずかに残ると、それが乾燥して吐出口面及びリップ斜面に固着残存物として残存する。そして、固着残存物が次回の塗布時に塗布液に接触して、固着残存物を起点とする塗布筋の発生に加えて、固着残存物の吐出口面及びリップ斜面との固着部分が溶解して固着残存物そのものが吐出口面及びリップ斜面から離れて塗布膜にまざりこみ、パーティクルとなって更なる塗布欠陥を生じる。
【0009】
そのため、特許文献2、3では、固着残存物が発生しないように塗布液の除去能力、すなわち清掃能力を高めるために、清掃部材を吐出口面及びリップ斜面に線接触させている。さらに特許文献2では、一度清掃を終えて塗布液が付着した清掃部材に向けて、ノズルから溶剤を吐出して塗布液を洗い流し、清掃部材を清浄な状態に保ってスリットノズルの清掃を行う。これによって清掃部材に付着した塗布液(固着残存物)がスリットノズルに再付着して塗布膜面の欠点(塗布欠陥)が生じることを防止している。さらに塗布液や溶剤が清掃部材に残ってスリットノズルに付着しないように、清掃部材に隣接して設けた吸引口からこれらの液体を吸引している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−339656号公報
【特許文献2】特開平11−300261号公報
【特許文献3】特開2008−268906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図8及び図9を参照して、従来の清掃部材を用いてスリットノズルの吐出口面及びリップ斜面を清掃する方法について説明する。図8の側断面図に、清掃部材である拭取り部材400を摺動させて、スリットノズル20に付着した塗布液150が除去される状態を示す。図9(a)に、拭取り部材400を斜め方向から見た状態を示す。
【0012】
図8に示す、拭取り部材400の移動方向である矢印Ds方向における拭取り部材400とスリットノズル20の係合状況は、後ほど図4(b)を参照して説明するように本願発明におけるのと同様である。吐出口面36の片側には、リップ斜面34A(作図上の都合により、反対面が表示されている)が隣接している。なお、リップ斜面34A上には、後述のように、塗布液424、残存液420、及び付着した塗布液150が存在する。
【0013】
図9に示すように、拭取り部材400は、スリットノズルとの線接触を強くして塗布液の除去能力を高くするために、スリットノズル20の吐出口面36やリップ斜面34Aと係合するために、くり抜いている部分を最小限度の大きさにすることによって高剛性化が図られている。拭取り部材400は、底辺406、斜辺404A、404Bで吐出口面36及びリップ斜面34Aに線接触して矢印Ds方向(図8において、右から左)に移動して清掃する。
【0014】
図8に示すように、スリットノズル20に付着した塗布液150は、拭取り部材400で吐出口面36やリップ斜面34Aから除去されると、吐出口面36とそれと対向する拭取り部材400の底面402で囲まれる空間Sに一旦集約される。集約された塗布液154は、底面402及び前面412を伝わって流出する塗布液152となって下方に落下したり、拭取り部材400を保持するホルダー112に必要に応じて設けられる吸引口422から吸引される。
【0015】
しかしながら、清掃時間を短くして生産性を高めるために、より高速で清掃を行うと、空間Sに集約された塗布液154の量が底面402等を伝わって流出する塗布液152の量よりも多くなるため、空間Sから集約された塗布液154があふれ出すことになる。吸引口422からの吸引速度を大きくしても、それは底面402に沿って流出する塗布液152の流出速度には影響しないので、空間Sから塗布液があふれ出すことは防止できない。
【0016】
空間Sからあふれ出した塗布液は、拭取り部材400とリップ斜面34Aとの間のすきまを伝わって上部に移動する塗布液424となり、リップ斜面34Aの上部で再付着して、スリットノズル20の長手方向にライン状の残存液420として残存する。再付着する残存液420の量が多いと、残存液420はリップ斜面34Aを伝わってスリットノズル20の吐出口面36まで落下し、場合によっては、塗布時に塗布膜面に付着して、塗布筋や塗布ムラ等の塗布欠陥を引き起こす。
【0017】
スリットノズル20にライン状に再付着した残存液420は、清掃のたびごとに蓄積して次第にラインの幅が大きくなり、その状態で固化すると、拭取り部材400との接触で清掃部材が磨耗する。拭取り部材400の磨耗した部分は十分な接触圧力がないので塗布液の除去が行えず、清掃できる範囲が小さくなってしまい、拭取り部材400の清掃に使用できる期間が短く、すなわち使用寿命が短くなるという問題を生じる。
【0018】
上述のように、拭取り部材400は高剛性化のためにくり抜いている部分を最小限度の大きさにしているために、図9(b)に示すように、清掃終了後に塗布液が拭取り部材400の底面402とその周辺に付着して残存し、残存塗布液426となる。これをノズルから溶剤を吐出して洗浄しても、残存塗布液426の塗布液の代わり(と同様)に溶剤が底面402とその周辺に付着して残存する。
【0019】
このように、清掃部材(拭取り部材400)の上に溶剤が残存した状態でスリットノズル20の清掃を行うと、清掃開始部に溶剤が付着してスリットノズル20に残存するほか、付着した溶剤がスリットノズル20の吐出口の塗布液と接触して混ざり合い、塗布液が薄められることになるので、塗布開始部の膜厚が小さくなってしまう。また溶剤と塗布液が混ざることでいわゆるソルベントショックを引き起こし、塗布液の固形分が分離されて異物が発生し、それが塗布面に付着して、塗布品質を著しく損なう。
【0020】
本発明は、上述の従来の清掃部材に由来する問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、清掃時に塗布器から除去した塗布液が清掃部材を伝わって流出する速度を高めて塗布器への再付着が生じないことと、塗布液や洗浄用の溶剤等が残存せず塗布膜厚異常や塗布膜面の欠点を引き起こさないことが可能な清掃部材を実現することを目的とする。さらに、本発明はこの清掃部材を用いて、生産性や品質の向上に大きく寄与する塗布器の清掃方法及び装置、ならびにこの方法を使用したディスプレイ用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記本発明の目的は、以下に述べる手段により達成される。
【0022】
本発明に係る清掃部材は、互いに対向する第1の面と第2の面を有し、塗布器の一方向に延在する吐出口の吐出口面と、当該吐出口面の両隣接面に接触しながら、当該一方向に摺動して、当該吐出口面と当該両隣接面との清掃に供される清掃部材であって、
前記第1の面側に設けられた、前記吐出口面と前記両隣接面とに同時に接触する清掃部と、
前記清掃部を起点として、前記第2の面側まで延在する複数の流出経路面とを備え、
前記流出経路面には、前記第2の面側で切欠きが設けられていることを特徴とする。
【0023】
ここで、前記切欠きは三角形状の断面を有することが好ましい。
【0024】
本発明に係る塗布器の清掃方法は、請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の清掃部材の清掃部を洗浄液により洗浄してから、前記吐出口面及び前記両隣接面に当該清掃部を接触させながら前記一方向に摺動させて、前記塗布器を清掃する方法であって、当該切欠きの一端から塗布液と洗浄液が流出されるように、当該清掃部材を前記第2の面側で当該切欠きより重力方向に下の位置で保持することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る塗布器の清掃装置は、請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の清掃部材を、前記清掃部を前記吐出口面と前記両隣接面とに接触させながら摺動させて清掃を行う清掃装置であって、
前記清掃部材の保持体と、
前記清掃部材と前記保持体とを前記一方向に摺動させる移動手段と、
洗浄液により清掃部材の清掃部の洗浄を行う清掃部材洗浄装置とを備え、
前記保持体は前記第2の面側では前記切欠きより重力方向において下の位置を保持することを特徴とする。
【0026】
本発明に係るディスプレイ用部材の製造方法は、請求項3に記載の清掃方法を用いてディスプレイ用部材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る清掃部材と塗布器の清掃方法及び清掃装置を用いれば、清掃部材の清掃部とは逆側の液を流出する側で隣り合う流出経路面にまたがって切欠きを設けたのであるから、切欠きによる毛細管作用の分だけ、塗布器から除去した塗布液が流出経路面に沿って流出する速度が高まるために、清掃時に除去した塗布液が塗布器と清掃部材との間に溜まってあふれるのを抑えることができる。その結果塗布器に塗布液が再付着するという問題を回避できる。また、切欠きによって必ず塗布液や洗浄用の溶剤が清掃部材から流出されるので、清掃部材の清掃部やその付近に塗布液や洗浄液である溶剤の残存を抑えることができる。このように、塗布器への塗布液の再付着や、清掃部材の清掃部やその付近への塗布液や洗浄用の溶剤が残存するという問題を抑えることができるため、塗布器を塗布液が全く残存しない高い品質の清掃状態にできる。その結果、塗布膜厚精度が高く、塗布膜面に欠点が全くない高い品質の塗布膜を形成することが可能となる。
【0028】
本発明に係るディスプレイ用部材の製造方法によれば、上記の優れた清掃方法を用いてディスプレイ用部材を製造するのであるから、高速清掃時でも清掃能力が向上してタクトタイムの大幅な短縮が可能となり、さらに膜厚精度が高く塗布欠陥がない優れた塗布品位のディスプレイ用部材を高い生産性と高歩留まりで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る清掃装置を備えた塗布装置の説明図である。
【図2】図1に示した清掃装置により清掃する工程を段階的に示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る拭取り部材を示す概略斜視図である。
【図4】図2に示した拭取り部材とスリットノズルとの位置関係を示す説明図である。
【図5】図3に示した拭取り部材によるスリットノズルの清掃作用の説明図である。
【図6】図3に示した拭取り部材の変形例を示す概略斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る拭取り部材による清掃作用の試験結果を表す図である。
【図8】従来の清掃部材によるスリットノズルの清掃作用の説明図である。
【図9】図8の清掃部材である拭取り部材400と溶剤洗浄後の状況の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、図1、図2、図3、図4、図5、図6、及び図7を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は本発明に係る清掃装置を含む塗布装置であるスリットコータの概略を示し、図2はスリットノズルを拭取り部材で清掃する状況を示し、図3は本発明の清掃部材である拭取り部材を示し、図4及び図5は本発明の実施の形態に係る拭取り部材によるスリットノズルの清掃作用を示し、図6は本発明の清掃部材の別の実施態様例である拭取り部材300の概略斜視図、そして図7は本発明の実施の形態に係る拭取り部材による清掃作用の試験結果を表している。
【0031】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るスリットコータ1は、清掃装置である拭取りユニット100を含む。スリットコータ1は基台2を備えており、基台2上には一対のガイドレール4が設けられている。ガイドレール4上には、被塗布部材である基板Aの載置台、すなわちステージ6が配置されている。ステージ6はリニアモータ(不図示)で駆動されて、矢印で示されているX方向に自在に往復動する。ステージ6は、その上面が、X方向に対して垂直なY方向とX方向によって規定されるXY平面に平行になるように載置されている。なお、XY面は、水平面に平行になるように設定されることが好ましい。
【0032】
さらに、ステージ6の上面は、吸着孔からなる真空吸着面となっており、基板Aを吸着保持できる。基台2の中央には、門型の支柱10が設けられている。支柱10には、XY平面に対して垂直なZ方向に自由に往復動する上下昇降ユニット70が備えられており、この上下昇降ユニット70に塗布を行う塗布器であるスリットノズル20がその長手方向がY方向と平行に取り付けられている。
【0033】
スリットノズル20は、Y方向に延在するフロントリップ22及びリアリップ24がシム32を介してX方向に重ね合わされると共に、複数の連結ボルト(不図示)により一体的に結合されている。スリットノズル20の内部の中央にはマニホールド26が形成されている。マニホールド26もY方向に延びている。マニホールド26の下方には、スリットノズル20の長手方向(Y方向)に延びているスリット28が連通して形成されている。スリット28の下端部はスリットノズル20の最下端面である吐出口面36で開口して、吐出口30を形成している。すなわちスリットノズル20は、その最下端に長手方向(Y方向)に延在する吐出口30を有し、吐出口30は吐出口面36に存在している。吐出口面36の両側に隣接する両隣接面として、リップ斜面34A及び34Bがある。スリット28はシム32によって形成されるので、スリット28の間隙(X方向の離間距離)は、シム32の厚さと等しい。
【0034】
スリットノズル20を昇降させる上下昇降ユニット70は、スリットノズル20を吐出口30を下側にして保持する吊り下げ保持台80、吊り下げ保持台80の一端が締結されてこれを昇降させる昇降台78、昇降台78を上下方向に案内するガイド74、及びモータ72の回転運動を昇降台78の直線運動に変換するボールねじ76により構成されている。
【0035】
上下昇降ユニット70は、スリットノズル20の長手方向(Y方向)の両端部を支持して、それぞれが独立して昇降できるように、左右に1対設けられている。この一対の上下昇降ユニット70によって、スリットノズル20長手方向の水平(Y方向)に対する傾き角度を任意に設定できる。これによってスリットノズル20の吐出口面36と基板Aを、スリットノズル20の長手方向にわたって略平行にできる。さらに、上下昇降ユニット70によって、ステージ6上の基板Aとスリットノズル20の吐出口面36との間のすきま、すわなち、クリアランスを任意の大きさに設定できる。
【0036】
スリットノズル20内のマニホールド26の上流側は、塗布液供給装置40に連なる供給ホース60に、内部通路(不図示)を介して常時接続されている。供給ホース60を介して、塗布液供給装置40からマニホールド26に塗布液66を供給できる。マニホールド26に供給された塗布液は、スリットノズル20の長手方向(Y方向)に均等に拡幅された後に、スリット28を経て、吐出口30から吐出される。
【0037】
塗布液供給装置40は、供給ホース60の上流側に、フィルター46、供給バルブ42、シリンジポンプ50、吸引バルブ44、吸引ホース62、及びタンク64を備えている。タンク64には塗布液66が蓄えられている。タンク64は圧空源68に連結されて、蓄えられている塗布液66に任意の大きさの背圧を付加できる。タンク64内の塗布液66は、吸引ホース62を通じてシリンジポンプ50に供給される。
【0038】
シリンジポンプ50は、シリンジ52、ピストン54が本体56に取り付けられて構成されている。ピストン54は、駆動源(不図示)によって、上下方向に自在に往復動できる。シリンジポンプ50は、一定の内径を有するシリンジ52の内部に塗布液66を充填し、ピストン54により塗布液66を押し出して、スリットノズル20に基板Aを一枚塗布する分の塗布液66を供給する定容量型のポンプである。
【0039】
シリンジ52の内部に塗布液66を充填するときは、吸引バルブ44を開、供給バルブ42を閉として、ピストン54を下方に移動させる。一方、シリンジ52内に充填された塗布液をスリットノズル20に向かって供給するときは、吸引バルブ44を閉、供給バルブ42を開とし、ピストン54を上方に移動させることで、ピストン54でシリンジ52の内部の塗布液66を押し上げて排出する。ピストン54の移動速度にシリンジ断面積をかけあわせたものが塗布液66の供給速度、すなわちポンプ供給速度である。
【0040】
図1において、基台2の左側に示すように、基板Aの厚さを測定する厚さセンサー90が支持台92に取り付けられている。厚さセンサー90はレーザを使用したものであることが好ましい。厚さセンサー90により基板Aの厚さを測定することで、異なる厚さの基板Aに対しても、スリットノズル20の吐出口面36と基板Aとの間の隙間であるクリアランスを、常に一定にできる。
【0041】
図1において、基台2の右側端部には、清掃装置である拭取りユニット100がガイドレール4上にX方向に移動自在に取付られている。拭取りユニット100には、スリットノズル20に係合する形状を有する清掃部材である拭取り部材200が、ホルダー112に取り付けられている。拭取り部材200は動かないように、押さえ板114で固定されている。押さえ板114とホルダー112とはネジ等の締結手段(不図示)によって締結保持されている。
【0042】
ホルダー112は、上下方向にのみ案内する2個のガイド116を介して、ブラケット104に取り付けられている。各々のガイド116の周囲には、バネ118が取り付けられており、拭取り部材200がホルダー112を介して、スリットノズル20の吐出口面36とリップ斜面34A及び34Bからなる先端部の上下方向の位置変化に、自在に追従できる。ブラケット104はスライダー106に取り付けられている。スライダー106は駆動ユニット108により、スリットノズル20の長手方向(Y方向)に自在に移動する。
【0043】
拭取り部材200をスライダー106を介して移動させる駆動ユニット108とトレイ110は、台車102の上に固定されている。トレイ110は拭取り部材200によって除去される塗布液等を回収するためのものであり、排出ライン(不図示)に接続されて、内部にたまった塗布液等の液体を外部に排出、回収できる。トレイ110は、スリットノズル20からエアー抜き等で吐出される塗布液を回収するために使用することもできる。台車102はガイドレール4の上にあり、ガイドレール4に案内されて、リニアモータ(不図示)によりX方向に自在に往復動できるので、拭取りユニット100全体がX方向に往復動できる。
【0044】
拭取り部材200に溶剤を噴射して洗浄する洗浄ユニット140が、X方向には基台2の右側端部に、Y方向にはスリットノズル20の長手方向端部と干渉しない位置に、ブラケット(不図示)によって固定されている。洗浄ユニット140は洗浄液である溶剤を噴射する溶剤ノズル142と、溶剤供給源(不図示)から溶剤を溶剤ノズル142まで供給する配管144とで構成されている。溶剤ノズル142は、溶剤を柱状、シャワー状、或いは扇形状に噴射するもの等、溶剤を噴射できるなら、いかなる形態のものでも適用できる。
【0045】
拭取りユニット100を始めとして、リニアモータ、モータ72、塗布液供給装置40、及び洗浄ユニット140等の制御信号に基づいて動作する機器はすべて制御装置94に電気的に接続されている。制御装置94は、自身に組み込まれた自動運転プログラムに従って制御指令信号を各機器に送信して、それぞれの機器に予め定められた動作を行わせる。なお、操作盤96に適宜変更パラメータを入力すれば、それが制御装置94に伝達され、制御信号に反映されて運転動作の変更が実現できる。
【0046】
拭取りユニット100に関しては、拭取り部材200のスリットノズル20長手方向移動速度や清掃開始・終了位置等を任意に制御して、与えられた任意の清掃動作を実現できる。洗浄ユニット140に関しては、溶剤ノズル142からの溶剤の噴射速度や噴射時間を任意に制御して、拭取り部材200に対して予め定められた洗浄動作を行わせる。
【0047】
次に図2を参照しながら、拭取りユニット100を用いた清掃方法について説明する。図2においては、スリットノズル20を拭取り部材200で清掃する状況が段階的に示されている。なお、清掃開始前には、拭取り部材200はX方向には初期位置(図1において、基台2の右側端部)に、Y方向には清掃開始位置に在る。
【0048】
清掃が開始されると、先ず図2(a)に示すように、拭取り部材200は、スリットノズル20の吐出口面36とリップ斜面34A及び34Bとに係合する位置の直下に来るよう、拭取りユニット100全体がX方向に移動させられる。拭取り部材200は、ホルダー112の矢印で示す移動方向側にある前方支持部120に片側を支持されている。前方支持部120の最上部の上辺124が、下方に向かって誘導面122及び前斜面126に連なっている。上辺124はX方向に延びており、拭取り部材200のX方向長さ全体にわたって拭取り部材200と接触している。誘導面122は伝わってくる流出する塗布液152が落下しやすいように、重力方向(Z方向)に沿って下側に傾いた平面状に形成されている。誘導面122の水平面(XY平面)に対する傾き角度は好ましくは15度〜80度、より好ましくは30度〜60度である。
【0049】
次に、図2(b)に示すように、拭取り部材200がスリットノズル20の先端部の直下で、且つ吐出口30からはY方向にやや離れた清掃開始位置に来たら、スリットノズル20の吐出口30から所定量の塗布液66が吐出される。吐出された塗布液66は、スリットノズル20の吐出口面36や、リップ斜面34A及び34Bに付着して、付着した塗布液150となる。
【0050】
次に、図2(c)に示すように、スリットノズル20が下降されて、拭取り部材200に係合(接触)させる。スリットノズル20は、バネ118が好ましくは0.5mm〜5mm、より好ましくは1mm〜3mm縮む位置まで下降させられる。バネ118がこの範囲(0.5mm〜5mm)内で縮んでいると、拭取り部材200はスリットノズル20の先端部の上下(Z)方向の位置変動に容易に追従できる。
【0051】
次に、図2(d)に示すように、駆動ユニット108を駆動させ、スリットノズル20の吐出口面36とリップ斜面34A及び34Bに拭取り部材200を接触させた状態で、矢印示すDs方向に移動させて、スリットノズル20の吐出口面36とリップ斜面34A及び34Bとのそれぞれに付着した塗布液150とその他の汚染物を除去清掃する。Ds方向は、拭取り部材200がスリットノズル20に接触しながら移動、すなわち摺動する摺動方向であり、Y方向やスリットノズル20の長手方向と一致する。
【0052】
除去された塗布液及び他の物質は、拭取り部材200やホルダー112の誘導面122や前斜面126を伝わって流出する塗布液152となり、さらにトレイ110の方に落下して回収される。拭取り部材200はひきつづいてDs方向(Y方向)に移動し、スリットノズル20の長手方向端部を通過した位置、すなわちスリットノズル20の長手方向端部と干渉しない位置で停止する。つづいて、拭取りユニット100全体がX方向に於ける初期位置にまで移動して、拭取り部材200が洗浄ユニット140の直下で停止させられる。
【0053】
図2(e)に示すように、拭き取り部材200は上述の停止位置において、溶剤ノズル142の下方に在る。この状態で配管144を介して供給される溶剤を溶剤ノズル142から噴射して、拭取り部材200を洗浄する。洗浄が完了すれば、拭取り部材200をY方向の清掃開始位置に復帰させる。以降、塗布毎に同じ清掃方法を繰り返す。
【0054】
次に、図3を参照して、本発明の実施の形態に係る拭取り部材200について詳しく説明する。なお、図3においては、清掃動作時に、摺動方向(Ds方向)の斜め前側からみた拭取り部材200が示されている。拭取り部材200は、平板状の形状を有しており、後面210(第1の面)と前面212(第2の面)とを有している。この後面210には、スリットノズル20の吐出口面36に線接触する底辺206と、吐出口面36の両隣接面となるリップ斜面34A及び34Bに線接触する斜辺204A及び204Bとが設けられている。線接触とは、辺となる線が対象とする面上に完全に含まれている状態をいう。したがって、底辺206の全てが吐出口面36上に含まれるように接触し、斜辺204A及び204Bの全てがそれぞれリップ斜面34A及び34B上に含まれるように接触する。
【0055】
ここで、後面210は拭取り部材200の一方側の端面であり、前面212は後面210から厚さTだけ離れた他方側の端面である。すなわち、後面210と前面212とは、互いに対向する位置関係に存在している。そして、本実施形態において、厚さ方向とは、後面210及び前面212それぞれに直角な方向をいい、図3に示すようにF方向と定義される。なお、後述されるように、F方向は、拭取り部材200が拭取りユニット100に搭載された状態では、Y方向に対して所定角度だけ下向きとなる。
【0056】
スリットノズル20の吐出口面36とその両隣接面となるリップ斜面34A及び34Bとに同時に接触する清掃部である底辺206と斜辺204A及び204Bを、後面210は含んでおり、後面210は片側Aにあると定義される。後面210の厚さ方向の対面、すなわち逆側にある面となるのが前面212であり、前面212は片側Aとは厚さ方向の逆側となる片側Bにあると定義される。拭取り部材200がDs方向に摺動される際に、片側Bは片側Aより前方に位置する。この意味において、片側A及び片側Bをそれぞれ後面側及び前面側と呼ぶ。
【0057】
拭取り部材200を厚さ方向(F方向)に見た状態で、斜辺204A及び204Bは角度γcをなして設けられ、それぞれ底辺206の両端に連なるように構成されている。後面210には、厚さ方向に、底辺206を境界として底面202が、斜辺204A及び204Bを境界として斜面208A及び208Bが連なっている。スリットノズル20の先端部と拭取り部材200とが係合する時に、底面202が吐出口面36と対向し、斜面208A及び208Bがリップ斜面34A及び34Bと対向する。底辺206を含む底面202は、後面210との間で角度βをなす。斜辺204A及び204Bを含む斜面208A及び208Bは、後面210との間で角度φをなしている。
【0058】
図3に於いて、1点鎖線は後面210に代表しており、角度βは底面202と1点鎖線との間の角度として示されている。底面202と後面210とのなす角度βは、詳しくは底面202と後面210とが共に直交する参照面内で、参照面と底面202の交線と、参照面と後面210の交線とがなす角度と定義される。また、斜面208A及び208Bと後面210とのなす角度φは、詳しくは斜面208A及び208Bと後面210とが共に直交する参照面内で、参照面と斜面208A及び208Bとの交線と、参照面と後面210との交線とがなす角度と定義される。拭取り部材200は、角度β及び角度φがともに90度の場合の実施の形態例である。なお斜面208A及び208Bの最上部で接続して水平に延在しているのが上面214A及び214Bである。
【0059】
上記の底面202、斜面208A及び208B、及び前面212は、清掃部である底辺206、斜辺204A及び204Bを起点に、厚さ方向(F方向)に片側Bまで延在して連なる面となるので、流出経路面と定義される。前面212のある片側Bで、隣り合う流出経路面となる底面202と前面212とにまたがって、切欠き220が設けられている。
【0060】
切欠き220は、流出経路面を連通して形成されている。本実施形態では、底面202と前面212とに連通して形成されている。切欠き220は、三角形断面を有しており、三角形の頂点に相当する切欠き底辺222と、三角形の辺に相当する切欠き斜面224A及び224Bとにより構成されている。本実施形態では、この切欠き底辺222は、直線状に形成されている。すなわち、この切欠き底辺222によって、底面202と前面212とが直線的に連通されるため、切欠き底辺222が屈曲、湾曲している場合に比べて、底面202に溜まった塗布液が前面212にスムーズに流れるようになっている。切欠き斜面224A及び224Bは、切欠き底辺222に対して対称形に形成されているが、非対称形に形成してもよい。切欠き220の大きさは、切欠き底辺222の前面212となす角度θc1(前面212に含まれる1点鎖線と、底辺222とのなす角度として図示)、切欠き底辺222の長さLc(前面212と角度θc1をなす方向での長さ)、及び切欠き斜面224A及び224Bが切欠き底辺222を間にはさんでなす角度θc2によって直接的に定義される。長さLcと角度θc1については、切欠き底辺222の底面202及び前面212にそれぞれ投影される長さLP1及びLP2で代替してもよい。
【0061】
切欠き斜面224Aと切欠き斜面224Bとがなす角度θc2は、詳しくは切欠き斜面224Aと切欠き斜面224Bとが共に直交する参照面内で、参照面と切欠き斜面224Aとの交線と、参照面と切欠き斜面224Bとの交線とがなす角度と定義される。また切欠き220は、切欠き底辺222が厚さ方向(F)と直交する方向、すなわち拭取り部材200の長手方向で底面202の中央に位置するよう配置しているが、切欠き220が底面202の中に含まれるのなら、拭取り部材200の長手方向のどの位置に配置してもよい。
【0062】
次に、図4及び図5を参照して、拭取り部材200を用いた清掃の作用について説明する。図4(a)は、拭取り部材200とスリットノズル20との係合状況をX方向からに見た側面図である。図4(a)に示すように、拭取り部材200は拭取りユニット100のホルダー112に、一点鎖線で示される上下方向(Z方向)に伸びる鉛直面に対して後面210が角度θだけ拭取り部材200の摺動方向(Ds方向)側に傾くように取り付けられる。鉛直面は、矢印で示される拭取り部材200の摺動方向(Ds方向)及びステージ6の上面(XY平面)と直交する。吐出口面36も鉛直面と直交している。
【0063】
摺動方向(Ds方向)側に拭取り部材200が傾けられるのは、リップ斜面34A及び34Bに付着している塗布液等を下側に落下させ易くするためである。摺動方向(Ds方向)側に拭取り部材200が傾けられることによって、スリットノズル20の吐出口面36に相対する拭取り部材200の底面202は、吐出口面36に線接触する底辺206より摺動方向(Ds方向)の前方で、吐出口面36に対して角度αだけ重力方向の下側に傾いて配置される。同様に、スリットノズル20のリップ斜面34A及び34Bに相対する拭取り部材200の斜面208A及び208Bは、リップ斜面34A及び34Bに線接触する斜辺204A及び204Bより摺動方向(Ds方向)の前方に傾いて配置される。
【0064】
図4(b)に、図4(a)に示した状態の時に、摺動方向(Ds方向)に見た拭取りユニット100を示す。底辺206が吐出口面36に、斜辺204A及び204Bがスリットノズルのリップ斜面34A及び34Bに、同時に線接触する。これが可能となるように、斜辺204A及び204B間の角度γcは定められ、鉛直面内でスリットノズル20のリップ斜面34A及び34Bのなす角度γnよりも、幾何学的に必ず小さい。
【0065】
図5は、図4(a)に示す状態で、拭取り部材200を摺動方向(Ds)に移動させて、スリットノズル20の吐出口面36、及びリップ斜面34A及び34Bに付着した塗布液150を除去している状況を拡大して示している。但し、図5は切欠き220の切欠き底辺222の位置での側面断面図となっている。吐出口面36に隣接するリップ斜面34A側にあるもの(付着した塗布液150、斜辺204A、斜面208A等)は、点線で表されている。また空間Sで集約された塗布液154に視界を遮られるもの(斜辺204A、斜面208A等)も、点線で表されている。
【0066】
底辺206が吐出口面36に、斜辺204A及び204Bがスリットノズル20のリップ斜面34A及び34Bに、同時に線接触して隙間がないので、拭取り部材200が摺動方向(Ds方向)に移動すると、吐出口面36とリップ斜面34A及び34Bとに付着した塗布液150は、底辺206と斜辺204A及び204Bによって必ずスリットノズル20より除去される。片側Aとなる後面210に設けられた底辺206と斜辺204A及び204Bからなる清掃部によって除去された塗布液は、滴となってそのまま下方に落下するものもあるが、多くは拭取り部材200の流出経路面である底面202、リップ斜面208A及び208B、前面212に沿って流出した後に、ホルダー112の誘導面122、前斜面126に沿って下方に流出する塗布液152となる。
【0067】
拭取り部材200によりスリットノズル20から除去された塗布液は、一旦底面202とその周辺に集約されて集約された塗布液154となってから底面202に沿って流出し、片側Aとは厚さ方向の逆側となる片側Bで隣り合う底面202と前面212にまたがって設けられた切欠き220の毛細管作用分だけ、片側B付近で流出速度が増加する。したがってスリットノズル20に付着した塗布液150の量が多い場合や、拭取り部材200の移動速度が高くて単位時間あたりの除去する塗布液量が多い場合でも、拭取り部材200の清掃部によって除去された塗布液は、スムーズに底面202等の流出経路面に沿って流下していき、底面202と吐出口面36間で囲まれる空間である空間Sからあふれるのを抑えることができる。そのため、空間Sから塗布液があふれてそれが斜面208A及び208Bとリップ斜面34A及び34Bの間のすきまに沿って上部に移動し、リップ斜面34A及び34Bにライン状に再付着するのを抑えることができる。
【0068】
以下に、本実施の形態に係る拭取り部材200の清掃作用について、図8及び図9を参照して説明した従来の拭取り部材400の清掃作用と比較して説明する。従来の拭取り部材400は切欠き220がない他は、拭取り部材200と全く同じである。しかしながら、切欠き220がない拭取り部材400では、底面402に沿って流出する塗布液は、底面402と前面412の境界となるエッジ部で作用する表面張力によって流出速度が減速することもあって、空間Sから塗布液があふれ、リップ斜面34Aにライン状に再付着して残存液420となってしまう。なお拭取り部材400は図9(a)に示す通り、スリットノズル20に線接触する底辺406と斜辺404A及び404Bが後面410内に設けられ、それらに厚さ方向(F方向)に連なって底面402、斜面408A及び408Bが形成され、後面410と平行に前面412が設けられている。このように、本実施の形態に係る拭取り部材200は切欠き220があるために、従来の拭取り部材400に比べて著しく清掃能力が向上する。
【0069】
また、拭取り部材の摺動による清掃が終了すると、切欠き220がない拭取り部材400の場合は、図9(b)に示すように塗布液が残存して、残存塗布液426となる。また洗浄ユニット140によって溶剤を拭取り部材400に噴射して洗浄する場合も、同様に図9(b)に示す残存塗布液426のように溶剤が残存する。これは塗布液や溶剤の粘度、表面張力が高いほど顕著である。それは、底面402と前面412の境界となるエッジ部で作用する表面張力が、底面402に沿って作用する重力成分よりも大きいために、塗布液の流下(流出)が阻止されるためである。それが本発明の拭取り部材200のように切欠き220があると、表面張力と重力成分の力関係に関係なく、毛細管作用により切欠き220に接する塗布液や溶剤が流出するので、塗布液や溶剤が底面202に残存することを抑えることができる。したがって本発明の拭取り部材200では、底面202とその周辺に塗布液や溶剤が残存することによる不都合を回避できる。
【0070】
次に、図6を参照して、上述の拭取り部材200の変形例について説明する。拭取り部材300は、拭取り部材200の角度φを鋭角にした他は、拭取り部材200と全く同じである。角度φを鋭角にすることで、斜辺204A及び204Bのリップ斜面36への線接触がより強いものとなり、高速での付着塗布液の除去能力が高くなる。拭取り部材300による清掃の作用、すなわち切欠き220によって底面202、及び前面212に沿って流出する塗布液152の流出速度が増加したり、清掃後に塗布液や洗浄用の溶剤が残存しない作用については、拭取り部材200と全く同じである。
【0071】
拭取り部材200及び300と共に、底面202、切欠き220、及び前面212を伝わって本来の流出速度で塗布液が流出するには、図5及び図6に示すように、拭取り部材200及び300を摺動方向(Ds、Y)の前側で保持する前方支持部120の最上部である上辺124を、切欠き220よりも重力方向の下側に配置することが必要である。これによって片側Bとなる前面212では、切欠き220より重力方向に下の位置で、拭取り部材200及び300が保持される。結果、前面212上にある切欠き220の一端から、そのまま塗布液や洗浄液である溶剤が流出して、誘導面122へと流下していく。上辺124が切欠き220に干渉するような位置にあると、切欠き220からの塗布液や溶剤の流出が妨げられ、流出速度の低下や、はなはだしい場合には、全く流出しないことが生じて、好ましくない。
【0072】
拭取り部材200、300に設けられた切欠き220については、長さLP1は好ましくは0.2mm〜2mm、より好ましくは0.5mm〜1.5mm、長さLP2は好ましくは0.2mm〜3mm、より好ましくは1.5mm〜2.5mm、角度θc2は好ましくは10度〜80度、より好ましくは30度〜70度である。これらの範囲より小さいと、毛細管作用により塗布液や溶剤を流出させる速度が低くなり、はなはだしい場合には全く毛細管作用が発現せずに、底面202とその周辺に塗布液や溶剤が残存してしまう。一方、この範囲より大きいと拭取り部材200及び300の剛性が低下するので、底辺206の吐出口面36に対する線接触ならびに斜辺204A及び204Bのリップ斜面34A及び34Bに対する線接触が弱くなり、高速での付着塗布液の除去性能が低下し、はなはだしい場合には、付着した塗布液がほとんど除去できなくなる。
【0073】
切欠き220は、塗布液や溶剤が流出する方向、すなわち切欠き底辺222が延在する方向に見て三角形断面を有している。しかし、これに限らず、切欠き底辺222を面にして、長方形や台形のような四角断面に形成してもよい。また切欠き斜面224A及び224Bは曲面であってもよい。
【0074】
拭取り部材200及び300の材質は、底辺206と吐出口面36、斜辺204A及び204Bとリップ斜面34A及び34Bが同時に確実に線接触できるように弾性を有する高分子樹脂、例えば合成ゴムであることが好ましい。合成ゴムとしては、適度な弾性と塗布液に対する耐薬品性を有する、たとえばエチレンプロピレンゴム、シリコンゴム、及びブチルゴム、パーフルオロゴム(商品名“カルレッツ”等)が好ましい。弾性の程度をあらわすゴム硬度は、C型のスプリング式硬さ試験機を用いて測定し、好ましくは50°〜90°、より好ましくは60°〜80°である。
【0075】
切欠き220は、清掃部を最小限度の大きさでくり抜いて高剛性化することで、線接触が強く清掃能力が高い清掃部材に適用されると、その効果がより発揮される。したがって本発明を適用する清掃部材の好ましい形状としては、拭取り部材200及び300で、角度φは好ましくは90度以下、より好ましくは80°〜90°、角度βは好ましくは80°〜130°、より好ましくは90°〜120°のものである。
【0076】
次に、本発明の清掃部材及び清掃方法を用いた、スリットコータ1による塗布方法について詳述する。まず、スリットコータ1の各動作部の原点復帰が行われると、各動作部はスタンバイ位置に移動する。すなわち、ステージ6は図1の左側端部(破線で示す位置)、スリットノズル20は最上部の原点位置に移動すると共に、拭き取りユニット100は初期位置(基台2の右側端部)からトレイ110がスリットノズル20の下部位置に来るよう移動する。この時拭取り部材200はX方向ではスリットノズル20の吐出口30の直下の位置にあるが、スリットノズル20の長手方向であるY方向には、図2(a)に示すように吐出口30からやや離れた清掃開始位置にある。
【0077】
この時点でタンク64〜スリットノズル20までは、塗布液66がすでに満たされており、スリットノズル20内部の残留エアーを排出する作業も既に終了している。この時の塗布液供給装置40の状態は、シリンジ52に塗布液66が充填され、吸引バルブ44は閉にされ、供給バルブ42は開にされ、そしてピストン54は最下端の位置にあり、いつでも塗布液66をスリットノズル20に供給できる状態になっている。
【0078】
最初に、ステージ6の表面にリフトピン(不図示)を上昇させ、ローダ(不図示)から基板Aがリフトピンの上部に載置される。次にリフトピンを下降させて基板Aをステージ6の上面に載置し、同時に吸着保持する。これと並行して塗布液供給装置40を稼働させて、あらかじめ決めていた量の塗布液66を、シリンジポンプ50からスリットノズル20に供給し、塗布液66をスリットノズル20からトレイ110に向かって吐出する。この時、拭取り部材200は、Y方向には吐出口30の直下の位置にはないので、スリットノズル20の吐出口30から吐出された塗布液が降りかかることはない。
【0079】
塗布液66の供給停止後、スリットノズル20を下降させてスリットノズル20の吐出口面36とリップ斜面34A及び34Bに拭取り部材200を接触させた後、拭取り部材200をY方向に終点位置まで摺動させて、スリットノズル20の吐出口30付近に位置する吐出口面36とリップ斜面34A及び34BをY方向にわたって清掃する。この清掃によって、スリットノズル20の内部通路を吐出口30まで完全に塗布液で満たす初期化も完了する。
【0080】
清掃完了後、スリットノズル20を原点位置まで上昇させるとともに、拭取りユニット100をX方向に移動させて初期位置(基台2の右側端部)に復帰させる。この時に洗浄ユニット140の直下で停止している拭取り部材200に、溶剤ノズル142から溶剤を噴射して拭取り部材200を溶剤洗浄した後に、拭取り部材200を摺動方向(Ds方向)とは逆方向に移動させ、拭取り部材200をY方向の清掃開始位置に復帰させる。
【0081】
拭取りユニット100の初期位置への移動を確認後、基板Aを載置したステージ6の移動を開始する。この時スリットノズル20は上下方向には、塗布が行われる位置よりも上方の原点位置にあり、一方シリンジポンプ50は停止して待機している。そして基板Aが厚さセンサー90下を通過する時に基板厚さを測定する。そして、基板Aの塗布開始部がスリットノズル20の吐出口30の真下に達したら、ステージ6を停止させる。
【0082】
この時、測定した基板Aの厚さデータを用いて、上下昇降ユニット70を駆動して、スリットノズル20の吐出口面36と基板Aとの間のすきま、すなわちクリアランスがあらかじめ定めた値になるようスリットノズル20を下降させて停止させる。スリットノズル20とステージ6が完全に停止した状態で、シリンジポンプ50のピストン54を所定速度で上昇させ、スリットノズル20から塗布液66を吐出してスリットノズル20と基板Aとの間にビードBを形成してから、ステージ6を所定速度でX方向に移動開始し、塗布液66の基板Aへの塗布を始めて、塗布膜Cを形成する。
【0083】
そして基板Aの塗布終了位置より少し手前の位置がスリットノズル20の吐出口30の真下にきたら、ピストン54を停止させて塗布液66の供給を停止し、つぎに基板Aの塗布終了位置がスリットノズル20の吐出口30の真下に来たときに、上下昇降ユニット70を駆動して、スリットノズル20を上昇させる。これによって基板Aとスリットノズル20の間に形成されたビードBが断ち切られ、塗布が終了する。
【0084】
その間も、ステージ6は動作を継続し、終点位置に到達した時点で停止し、基板Aの吸着を解除してリフトピンを上昇させて基板Aを持ち上げる。この時、アンローダ(不図示)によって基板Aの下面が保持され、次の工程に基板Aを搬送する。基板Aをアンローダに受け渡したら、ステージ6はリフトピンを下降させ原点位置に復帰する。ステージ6の原点位置復帰後、拭取りユニット100を、トレイ110がスリットノズル20の吐出口30の下部位置に来るように移動させる。
【0085】
移動完了後に、吸引バルブ44を開にし、供給バルブ42を閉にし、そしてピストン54を下降させて、塗布液66をシリンジ52内に充填させる。充填完了後に、ピストン54を停止させ、吸引バルブ44を閉にし、供給バルブ42を開にして、次の基板Aが来るのを待ち、同じ動作を繰り返す。塗布液としては、粘度が1mPas〜100mPas、より望ましくは1mPas〜50mPasであり、ニュートニアンであることが塗布性から好ましいが、チキソ性を有する塗液にも適用できるとりわけ溶剤に揮発性の高いもの、たとえばPGMEA、酢酸ブチル、及び乳酸エチル等を使用している塗布液を塗布するときに有効である。
【0086】
具体的に適用できる塗布液の例としては、上述のカラーフィルタ用のブラックマトリックス、及びRGB色画素形成用塗布液以外に、レジスト液、オーバーコート材、及び柱形成材料等がある。基板である被塗布部材としては。ガラスの他にアルミ等の金属板、セラミック板、及びシリコンウェハー等を用いてもよい。
【0087】
さらに、塗布速度等の使用する塗布条件としては、塗布速度が10mm/s〜600mm/s、より好ましくは100mm/s〜400mm/s、清掃部材である拭取り部材200及び300の摺動速度は好ましくは100mm/s〜1000mm/s、より好ましくは200mm/s〜600mm/s、スリットノズルのリップ間隙は50μm〜1000μm、より好ましくは80μm〜200μm、塗布厚さがウェット状態で1μm〜50μm、より好ましくは2μm〜20μmである。
【0088】
以下、本発明の実施の形態に係る拭取り部材による清掃効果を確認するべく、実際に拭取り部材を作成して試験1を行った。その内容について以下に述べる。
<試験1>
スリットノズル20は、吐出口30の長手方向長さが1100mm、スリット28の間隙が100μmで、基板に1100mm幅の塗布膜が形成できるものを使用した。スリットノズルの吐出口面36の塗布方向(X)の長さは0.6mm、スリットノズル20の長手方向に見たリップ斜面34A及び34Bがなす角度γn(図4(b)参照)は90°である。このような吐出口面36とリップ斜面34A及び34Bを有するスリットノズル20に用いる拭取り部材として、図6に示した部材300を試験の対象である試験片1として採用した。
【0089】
具体的には、試験片1(拭取り部材300)は、図6に基づいて、厚さT=5mm、斜面208A及び208Bと後面210とがなす角度φ=85°、斜辺204A及び204B間のなす角度γc=81.8°、底面202と後面210とがなす角度β=90°、底辺206の拭取り部材300の長手方向(塗布方向であるX方向と一致)の長さL1=0.6mm、斜辺204A及び204Bの鉛直線方向(上下方向)の長さL2=5mm、拭取り部材300の鉛直線方向の長さL3=20mm、及び拭取り部材300の長手方向の長さL4=25mmである。
【0090】
前面212は後面210と平行に形成され、切欠き220に関しては、LP1=0.9mm、LP2=2mm、角度θc2は50°である。上記の寸法によって切欠き220は、拭取り部材300の長手方向の中央点に該長手方向に直交するように設けた鉛直面に対して、面対称となる形状であった。なお、試験片1(拭取り部材300)はゴム硬度60°のエチレンプロピレンゴムを材料として使用し、上記のパラメータで規定される形状となるように金型成型により作成した。
【0091】
試験片1(拭取り部材300)を、後面210が鉛直方向(重力方向)に対して角度θ=30度だけ傾くように、ホルダー112に取付けた。この状態で試験片1(拭取り部材300)とスリットノズル20とを接触させたときの、斜面208A及び208Bとリップ斜面34A及び34Bとがなす角度は7°、底面202と吐出口面36とがなす角度α=30°であった。スリットノズル20と試験片1(拭取り部材300)が接触する時は、バネ118の縮み量が1mmになる位置までスリットノズル20を下降させた。
【0092】
<評価>
次に試験片1(拭取り部材300)の清掃能力を評価するための塗布液として、カラーフィルタ用のR色(赤色)用塗布液を用いた。R色用塗布液は粘度3mPasで、アクリル樹脂をバインダー、溶剤としてPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を用いた感光性のもので、固形分濃度は20%であった。スリットコータ1のタンク64〜スリットノズル20までにR色用塗布液を充填した。また拭取り部材300による清掃後には、拭取り部材300にノズル142から角度60°の扇形状に溶剤を噴射して溶剤洗浄を実施した。洗浄溶剤にはPGMEAを用い、これを洗浄ごとに100μL噴射した。
【0093】
上述の条件で、以下に述べる4つの項目(評価1〜評価4)に関して、試験片1(拭取り部材300)の清掃能力の評価を行った。
【0094】
(1)評価1(高速条件での清掃能力評価)
スリットノズルから2000μLのR色用塗布液を吐出後、拭取り部材300をスリットノズル20に接触させ、Y方向に500mm/sの摺動速度で摺動させる。この動作を100回繰り返し、10回後と100回後のそれぞれに、吐出口面36とリップ斜面34A及び34BでのR色用塗布液の残存状況と、拭取り部材300の磨耗状況を観察する。
【0095】
(2)評価2(清掃後の試験片1(拭取り部材300)上の塗布液の残存評価)
評価1に基づく、10回と100回の清掃後のそれぞれに、拭取り部材300の底面202とその周辺部でのR色用塗布液の残存状況を観察する。
【0096】
(3)評価3(拭取り部材300の溶剤洗浄後の溶剤の残存評価)
評価1に基づく、10回と100回の溶剤洗浄後のそれぞれに、拭取り部材300の底面202とその周辺部での洗浄用の溶剤の残存状況を観察する。
【0097】
(4)評価4(塗布評価)
評価1に基づく、10回と100回の清掃後のそれぞれに、1100×1300mmで厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板全面に、R色用塗布液をウェット厚さ10μm、及び塗布速度150mm/sの条件で塗布をする。スリットノズル20と基板との間のクリアランスは150μmである。塗布した基板は60Paまで減圧する真空乾燥にて乾燥し、塗布方向(X)の膜厚精度Uの評価と塗布面の状況の観察を行う。膜厚精度Uは、端部10mmを除く領域でU=(最大値−最小値)/(2×平均値)×100(%)で算出した。
【0098】
図7を参照して、試験片1(拭取り部材300)に関する評価1〜評価4を行った結果を説明する。図7において、表Tは、試験片1の清掃能力を評価1〜評価4のそれぞれに関して、比較試験1と比較して表わしたものである。
【0099】
<比較試験1>
比較試験片1は、試験片1(拭取り部材300)から切欠き220を廃して構成されている。この比較試験片1を用いて、試験片1と全く同じ条件で清掃と塗布を行って、同じ清掃能力及び塗布の評価1〜評価4を行った。
【0100】
評価1に関して、試験片1に関しては、清掃10回後及び100回後ともに、吐出口面36及び、リップ斜面34A及び34BにはR色用塗布液は残存しなかった。その結果、拭取り部材300には磨耗は観察されなかった。一方、比較試験片1においては、吐出口面36にはR色用塗布液は残存しなかったが、リップ斜面34A及び34Bの上部にスリットノズル20の長手方向全長にわたってR色用塗布液がライン状に残存した。残存したR色用塗布液のラインの幅は、清掃10回後は1mmであったが、100回後は2mmであった。これに伴い清掃部材は斜辺の上部が、残存したR色用塗布液のライン幅に相当する長さにわたって磨耗していた。
【0101】
評価2に関して、試験片1では、拭取り部材300の底面202とその周辺部にR色用塗布液は残存しなかった。一方、比較試験片1においては拭取り部材200とその周辺部にR色用塗布液が残存した。
【0102】
評価3に関して、試験片1では、拭取り部材300の底面202とその周辺部に洗浄用の溶剤であるPGMEAは残存しなかった。一方、比較試験片1では拭取り部材の底面とその周辺部に洗浄用の溶剤であるであるPGMEAが残存した。
【0103】
評価4に関して、試験片1では塗布面には全く欠点がなく、透過による目視で全面同一の色度であった。代表的に中央部の塗布方向の膜厚を測定して、膜厚精度Uを算出したところ、基板端から10mmを除いた領域で、平均値2.0μmで膜厚精度Uは2%以下であった。一方、比較試験片1では、塗布面は清掃の開始部と塗布開始部に相当する位置で若干色が薄くなっているのが、透過による目視で観察された。この部分が含まれるように塗布方向の膜厚を測定して膜厚精度Uを算出したところ、基板端から10mmを除いた領域で、平均値1.97μm、最大値2.04μm、最小値1.8μmで、膜厚精度Uは6%以下であった。
【0104】
<実施例>
スリットコータ1を用いてカラーフィルタを製造した。スリットノズル20と拭取り部材には、試験1に示した拭取り部材300を使用した。この拭取り部材300を使用したスリットノズル20の清掃は、いずれの塗布液に対しても、清掃前のスリットノズルからの塗布液の吐出量1000μL、摺動速度500mm/sの条件にて、毎回の塗布前に行った。清掃後の拭取り部材の溶剤洗浄も、PGMEAを洗浄液として噴射量100μLにて実施した。
【0105】
最初に、1100×1300mmで厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板を洗浄後に、基板短辺側をスリットノズル長手(Y)方向として、ブラックマトリックス塗布液をウェット厚さ10μm、スリットノズルと基板との間のクリアランス150μmで150mm/sにて塗布した。この時塗布したブラックマトリックス塗布液には、チタン酸窒化物を遮光材として、アクリル樹脂をバインダーとして、PGMEAを溶剤として用い、固形分濃度を10%及び粘度を4mPasに調整した感光性のものを用いた。なお塗布のタクトタイムは60秒であった。
【0106】
塗布した基板は30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、100℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。ついで露光・現像・剥離を行った後、230度のホットプレートで30分加熱して、キュアを行い、基板の幅方向にピッチが254μm、基板の長手方向にピッチが85μm、線幅が15μmとなる格子形状で、厚さが1μmとなるブラックマトリックス膜を作成した。なお、乾燥後の格子模様形成前の状態で塗布厚さを測定し、膜厚精度Uを端部10mmを除く領域でU=(最大値−最小値)/(2×平均値)×100(%)で算出したところ、基板走行方向、幅方向とも3%以下であった。
【0107】
次にウェット洗浄後、R色用塗布液を厚さ20μm、スリットノズルと基板との間のクリアランス150μm及び塗布速度150mm/sの条件で塗布をした。R色用塗布液はアクリル樹脂をバインダーとして、PGMEAを溶媒として、ピグメントレッド177を顔料にして固形分濃度10%で混合し、さらに粘度を5mPasに調整した感光性のものであった。20μmの塗布膜を塗布した基板は、30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、100℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。
【0108】
ついで露光・現像・剥離を行って、R画素部にのみ厚さ2μmのR色塗布膜を残し、230°Cのホットプレートで30分加熱して、キュアを行なった。つづいてブラックマトリックス、R色の塗布膜を形成した基板に、G色用塗布液を厚さ20μm、スリットノズルと基板との間のクリアランス150μm、及び塗布速度150mm/sの条件で塗布をした。20μmの塗布膜を塗布した基板を、30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、100℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。
【0109】
ついで露光・現像・剥離を行って、G色画素部にのみ厚さ2μmのG色塗布膜を残し、230°Cのホットプレートで30分加熱して、キュアを行なった。さらにブラックマトリックス、R色、G色の塗布膜を形成した基板に、B色用塗布液を厚さ20μm、スリットノズルと基板との間のクリアランス150μm、及び塗布速度150mm/sの条件で塗布をした。20μmの塗布膜を塗布した基板は、30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、100℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。
【0110】
ついで露光・現像・剥離を行って、B色画素部にのみ厚さ2μmのB色塗布膜を残し、230度のホットプレートで30分加熱して、キュアを行なった。なお、G色用塗布液はR色用塗布液で顔料をピグメントグリーン36にして固形分濃度10%で粘度を5mPasに調整したものである。B色用塗布液は、R色用塗布液で顔料をピグメントブルー15にして固形分濃度10%で粘度を5mPasに調整したものであった。R、G、B色塗布時のタクトタイムはいずれも60秒であった。なお、塗布品位は各色とも申し分のないものであり、膜厚分布についても乾燥後、各色とも測定し、膜厚精度Uを端部10mmを除く領域でU=(最大値−最小値)/(2×平均値)×100(%)で算出したところ、基板走行方向、幅方向とも3%以下と良好であった。
【0111】
そして最後に、ITO(Indium Tin Oxide)をスパッタリングで付着させた。この製造方法にて、1000枚のカラーフィルタを作成した。得られたカラーフィルタは、基板端部から10mmをのぞいた製品領域で塗布むらがなく、色度も均一であり、パーティクル欠点等の清掃が起因する欠陥もなく、品質的に申し分ないものであった。さらに、このカラーフィルタをTFTアレイを形成した基板と重ね合わせ、オーブン中で加圧しながら160℃で90分間加熱して、シール剤を硬化させた。このセルに液晶注入を行った後、紫外線硬化樹脂により液晶注入口を封口した。次に、偏光板をセルの2枚のガラス基板の外側に貼り付け、さらに、得られたセルをモジュール化して、液晶ディスプレイを完成させた。得られた液晶ディスプレイは色濃度が均一でパーティクル欠点もなく、品質的に申し分ないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、カラー液晶ディスプレイ用カラーフィルタ並びにアレイ基板、プラズマディスプレイ用パネル、光学フィルタなど等の基板上に均一で高品質の塗布膜を形成する各種ディスプレイ用部材の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0113】
1 スリットコータ
2 基台
4 ガイドレール
6 ステージ
10 支柱
20 スリットノズル(塗布器)
22 フロントリップ
24 リアリップ
26 マニホールド
28 スリット
30 吐出口
32 シム
34A、34B リップ斜面
36 吐出口面
40 塗布液供給装置
42 供給バルブ
44 吸引バルブ
46 フィルター
50 シリンジポンプ
52 シリンジ
54 ピストン
56 本体
60 供給ホース
62 吸引ホース
64 タンク
66 塗布液
68 圧空源
70 上下昇降ユニット
72 モータ
74 ガイド
76 ボールねじ
78 昇降台
80 吊り下げ保持台
90 厚さセンサー
92 支持台
94 制御装置
96 操作盤
100 拭取りユニット
102 台車
104 ブラケット
106 スライダー
108 駆動ユニット
110 トレイ
112 ホルダー
114 押さえ板
116 ガイド
118 バネ
120 前方支持部
122 誘導面
124 上辺
126 前斜面
140 洗浄ユニット
142 溶剤ノズル
144 配管
150 付着した塗布液
152 流出する塗布液
154 集約された塗布液
200 拭取り部材
202 底面
204A、204B 斜辺
206 底辺
208A、208B 斜面
210 後面
212 前面
214A、214B 上面
220 切欠き
222 切欠き底辺
224A、224B 切欠き斜面
300 拭取り部材
400 拭取り部材(従来)
402 底面
406 底辺
412 前面
420 残存液
422 吸引口
424 上部に移動する塗布液
426 残存塗布液
A 基板(被塗布部材)
B ビード
C 塗布膜
F 矢印方向(拭取り部材の厚さ方向)
L1、L2、L3、L4 拭取り部材の各部の長さ
Lc 切欠き底辺の長さ
LP1 切欠き底辺の底面に投影される長さ
LP2 切欠き底辺の前面に投影される長さ
S 空間
T 拭取り部材の厚さ
α 底面と吐出口面とがなす角度
β 底面と後面とがなす角度
γc 斜辺間の角度
γn スリットノズルのリップ斜面34A及び34Bのなす角度
φ 後面と斜面とがなす角度
θ 拭取り部材の前面の鉛直面に対する傾き角度
θc1 切欠き底辺の前面となす角度
θc2 切欠き斜面が切欠き底辺を間にはさんでなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1の面と第2の面を有し、塗布器の一方向に延在する吐出口の吐出口面と、当該吐出口面の両隣接面に接触しながら、当該一方向に摺動して、当該吐出口面と当該両隣接面との清掃に供される清掃部材であって、
前記第1の面側に設けられた、前記吐出口面と前記両隣接面とに同時に接触する清掃部と、
前記清掃部を起点として、前記第2の面側まで延在する複数の流出経路面とを備え、
前記流出経路面には、前記第2の面側で切欠きが設けられていることを特徴とする清掃部材。
【請求項2】
前記切欠きは、三角形状の断面を有することを特徴とする請求項1に記載の清掃部材。
【請求項3】
請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の清掃部材の清掃部を洗浄液により洗浄してから、前記吐出口面及び前記両隣接面に当該清掃部を接触させながら前記一方向に摺動させて、前記塗布器を清掃する方法であって、当該切欠きの一端から塗布液と洗浄液が流出されるように、当該清掃部材を前記第2の面側で当該切欠きより重力方向に下の位置で保持することを特徴とする塗布器の清掃方法。
【請求項4】
請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の清掃部材を、前記清掃部を前記吐出口面と前記両隣接面とに接触させながら摺動させて清掃を行う清掃装置であって、
前記清掃部材の保持体と、
前記清掃部材と前記保持体とを前記一方向に摺動させる移動手段と、
洗浄液により清掃部材の清掃部の洗浄を行う清掃部材洗浄装置とを備え、
前記保持体は前記第2の面側では前記切欠きより重力方向において下の位置を保持することを特徴とする清掃装置。
【請求項5】
請求項3に記載の清掃方法を用いてディスプレイ用部材を製造することを特徴とするディスプレイ用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−185404(P2012−185404A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49689(P2011−49689)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】