説明

減衰要素を備えたプーリー装置

【課題】プーリーから回転スピンドルへ、及び回転スピンドルからプーリーへの任意の振動を取り除くための手段を備えるプーリー装置を提供すること。
【解決手段】回転機械、特にコンプレッサ(2)のためのプーリー装置は、プーリー(7)と、転がり軸受(8)と、回転機械の回転スピンドル(4)上に取り付けられるように構成された軸方向スリーブ(9a)及び軸方向スリーブ(9a)から径方向に延在し且つ全体としてディスク形状を有する径方向プレート(9b)を有するトルク伝達プレート(9)と、を備え、前記プーリー(7)が転がり軸受(8)の外側リング(15)上に且つトルク伝達プレート(9)上に取り付けられ、トルク伝達プレート(9)は、プーリー(7)から回転スピンドル(4)へ回転運動を伝達することが可能である。前記プーリー装置(1)は、プーリー(7)とトルク伝達プレート(9)との間に位置付けられる減衰要素(23)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク伝達装置の分野に係わり、特に、例えば自動車用空調コンプレッサといったベルト駆動式回転機に用いられるトルク伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなコンプレッサでは、駆動装置であるベルト駆動式プーリーは、トルク伝達プレートを介してコンプレッサの伝達スピンドルを駆動する。プーリーは、転がり軸受の外側リング上に取り付けられ、転がり軸受の内側リングは、コンプレッサハウジングの中空シャフトに固定される。このタイプの装置は、特に特許文献1に開示される。
【0003】
しかしながら、ベルト駆動式プーリーが自動車の内燃機関によって駆動されるので、減圧段階と燃焼段階との間で交互に生じるアサイクリズム(acyclisms)がプーリーに、そして、コンプレッサの伝達スピンドルに伝達される。さらに、コンプレッサのスピンドルにおける回転の振動もプーリーに伝達される可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】仏国特許発明第2790521号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の一目的は、上述した欠点を克服することである。
【0006】
本発明の具体的な目的は、プーリーから回転スピンドルへ、及び回転スピンドルからプーリーへの任意の振動を取り除くための手段を備えるプーリー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態において、回転機械、特にコンプレッサのためのプーリー装置は、プーリーと、転がり軸受と、回転機械の回転スピンドル上に取り付けられるように構成される軸方向スリーブ及び軸方向スリーブから径方向に延在し且つ全体としてディスク形状を有する径方向プレートを有するトルク伝達プレートと、を備える。前記プーリーは、転がり軸受の外側リング上に且つトルク伝達プレート上に取り付けられ、トルク伝達プレートは、プーリーから回転スピンドルへ回転運動を伝達することが可能である。
【0008】
プーリー装置は、プーリーとトルク伝達プレートとの間に設置される減衰要素を備える。
【0009】
上記減衰要素は、プーリーと回転スピンドルとの間の振動を減衰することによってベルト及びプーリーの耐用年数を向上させる。
【0010】
有利には、減衰要素は、プーリー上及びトルク伝達プレート上に成形される。
【0011】
トルク伝達プレートの径方向プレートは、第1の一連の溝孔を備えていても良い。この場合、第1の一連の溝孔は、前記プレートを貫通して形成された複数の環形部が、一つの同一円を形成するように等角度間隔で、且つ前記径方向プレートの外周部近傍に配置されたものとすることができる。上記溝孔は、径方向プレートの厚さを貫通して開けられ、これにより、適合工具、例えば転がり軸受け及びプーリーをハウジングの中空シャフトに軸方向に適合させるための締め付け工具と協働する。
【0012】
トルク伝達プレートの径方向プレートは、第2の一連の溝孔を備えていても良い。この場合、第2の一連の溝孔は、前記プレートを貫通して形成された複数の環形部が、一つの同一円を形成するように等角度間隔で、且つ前記第1の溝孔列と前記軸方向スリーブとの間に位置するものとすることができる。
【0013】
例えば、第2の溝孔は、円上に一様に間隔をあけられている。このため、前記第2の溝孔の間に残るプレートのブリッジは、トルク伝達プレートが閾値を超えるトルクを伝達すると破断するより低強度の領域を規定する。
【0014】
有利には、径方向プレートは、減衰要素と協働するように構成される貫通穴を備える。
【0015】
高トルクを伝達するために、減衰要素は、その外周に、前記プーリーに相補形状に形成された複数の凹部と協働するように構成された一連のダブテールを備えてもよい。前記ダブテールは、例えば台形の形状を有する。
【0016】
減衰要素は、エラストマー材料、例えばゴム材料、ポリウレタンから作られる。
【0017】
有利には、トルク伝達プレートは、型打ちした金属板から作られる。
【0018】
一実施形態において、プーリー装置は、転がり軸受の外側リングとプーリーの内面との間に軸受シールドを備える。これにより、プーリーが転がり軸受の外側リングを直接被覆することを防ぐ。
【0019】
別の側面によれば、静止中空シャフト、回転スピンドル及び、上述したプーリー装置を備える回転機械が提案される。
【0020】
本発明は、添付の図面に示され且つ限定しない例として示される複数の実施形態の詳細な説明を用いてよりよく理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】コンプレッサに取り付けられた本発明によるプーリー装置の正面図である。
【図2】図1における線II−IIに沿った軸方向の断面図である。
【図3】図2の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1及び図2に示されるように、全体として参照符号1で示されるプーリー装置は、回転しないハウジングまたはケーシング3と、軸線5回りに回転可能な伝達スピンドル4と、を備えるコンプレッサ2上に取り付けられるように構成されている。伝達スピンドル4には、ねじ部4bがナット6と相互に作用できるように、ねじ部4bで終端する段付き端部4aが設けられていてもよい。横断面がスピンドル4よりも小さい段付き端部4aは、肩部4cによって画定されている。伝達スピンドル4は、伝達スピンドル4と同軸の、ハウジング3の中空シャフト10内に挿通されている。
【0023】
プーリー装置1は、プーリー7、転がり軸受8、及びトルク伝達プレート9を備える。プーリー7は、ベルト(図示せず)と協働するように構成される外面7aと、内径部7bと、2つの側部径方向面7c及び7dと、を有し、表面7dは、ケーシング3と対向して配置され、表面7cは、ケーシング3の反対側に配置されている。外面7aは、例えばベルトと協働する多くの「V」形の環状リブを有してもよい。プーリー7は、例えばポリアミド、フェノール樹脂あるいはポリウレタンに基づく樹脂または軽合金から作られてもよい。
【0024】
プーリー7は、中実環状部11及び複数の強化リブ12を備えている。図に示されるように、リブ12は、軸5と垂直な径方向面に関して対称ではない。複数のハウジング13は、プーリー7の側面7dに形成されている。ハウジング13は、2つのリブ12間の空間、またはそれらリブ12に入る空間である。
【0025】
転がり軸受8は、内側リング14と、外側リング15と、少なくとも一列の転がり要素16と、転がり要素16の一様な円周空間を維持するケージ17と、2つのシール18及び19と、を備える。内側リング14は、外面14aと、ケーシング3の中空シャフト10の軸方向面10aと接触する内径部14bと、2つの側部径方向面14c及び14dと、を備え、側面14dは、シャフト10の径方向面10b、例えば肩部と接触する。トロイダル形状の軌道 (raceway) 14eが、外面14aから機械加工することによって形成されている。
【0026】
外側リング15は、外面15aと、内径部15bと、径方向面14c及び14dそれぞれと平行にされている2つの横軸径方向面15c及び15dと、を備える。側面15cは、プーリーの内径部7bの径方向面11a、例えば肩部と接触している。軌道15eは、内径部15bから機械加工することによって作り出される。軌道15eは、トロイダル形状からなる。
【0027】
転がり要素16、例えばボールは、内側リング14及び外側リング15における軌道14e及び15e間に位置決めされている。
【0028】
プーリー装置1は、転がり軸受8の外側リング15とプーリー7の内側内径部7bとの間に位置付けられる軸受シールド20をさらに備える。図3に詳細に示される軸受シールド20は、外側リング15の外面15a及びプーリー7の内側内径部7bと接触する軸方向部20aと、内側リング14に向かって径方向に延在する径方向部20bであって、外側リング15の横軸径方向面15c及びプーリー7の径方向面11aと接触している、径方向部20bと、を備える。上記軸受シールド20は、転がり軸受8のためのハウジングを形成する。プーリー7は、軸受シールド20の軸方向部20aを被覆している。このことは、これら2つの構成要素間の良好な結合をもたらす。軸受シールド20の軸方向部20aは、プーリー7をより好ましく密着させるための円周リブ20cを備える。軸受シールドの軸方向部20aの軸方向長さは、軸受8の外側リング15における軸方向長さよりも長く、これにより、軸方向部20aは転がり軸受8を軸方向に保持するために外側リング15に対して折り曲げられる。
【0029】
シール18及び19は、内径部15bから且つ外側リング15の径方向面15c及び15dに近接して形成されるスロット内に圧力嵌めされる。
【0030】
型打ちした金属板から作られるトルク伝達プレート9は、伝達スピンドル4の端部4a上に取り付けられるスリーブ管9aと、軸方向スリーブ9aから径方向外側に向かって延在し且つ全体としてディスク形状を有する径方向プレート9bと、を備える。スリーブ管9a及び径方向プレート9bは、一体的部品として形成されている。スリーブ管9aは、ワッシャ6aと共に用いてもよいナット6と、スピンドル4の肩部4bと、の間で締め付けることができる。このとき、該肩部4bには、スリーブ管9aの軸方向端面9cが当接してこれを支持する。
【0031】
プレート9は、スリーブ管9aの軸方向におけるケーシング3とは反対側に位置する端部から放射方向に外周まで延出して、全体としてディスク9bの形態をとる。このプレートの直径は、プーリー7の最大直径よりも小さい。
【0032】
トルク伝達プレート9の径方向プレート9bは、径方向プレート9bを軸方向に貫通して作られる第1の一連の溝孔21を備える。図1に示されるように、これらの溝孔21は、4つの環形部が、一つの中心を共有する同一円を構成するように、等角度間隔で且つ径方向プレート9bの外周部近傍に配置されてなる。あるいは、径方向に対向した2つの溝孔を形成したり、4つよりも多いまたは少ない複数の溝孔を備えたものとすることも可能である。例えば丸形に穿孔する、または台形に穿孔する等、溝孔とは異なる形状とすることも考慮される。このような溝孔21は、径方向プレート9bの厚さを貫通して開けられており、これにより、転がり軸受8及びプーリー7を中空シャフト10上に軸方向に取り付けるための取付け工具(図示せず)と協働する。
【0033】
トルク伝達プレート9の径方向プレート9bは、径方向プレート9bを軸方向に貫通して形成された第2の一連の溝孔22をさらに備える。図1に示されるように、これらの溝孔22は、4つの環形部が、一つの中心を共有する同一円を構成するように、等角度間隔で配置され、且つ第1の一連の溝孔21と軸方向スリーブ9aとの間に位置付けられる。第2の一連の溝孔22は、円上に一様に間隔をあけられている。このため、2つの隣接する細長穴22の間に残る径方向プレート9bのブリッジ22aは、トルク伝達プレート9が閾値V、例えば50N・mを超えるトルクを伝達しようとすると破断するよう(プレートにおけるその他の部分と比較すると)より低強度の領域を規定する。
【0034】
プーリー装置1は、プーリー7上及びトルク伝達プレート9上に成形された減衰要素23を備える。全体としてディスク形状からなる減衰要素は、その外周に、プーリー7における相補的形状の凹部7eと協働するように構成される一連のダブテール23aを備える。図1に示されるように、ダブテール23は、台形の形状からなるが、プーリー7の相補的形状と協働する別の形態のダブテールも考慮される。上記減衰要素23は、プーリー7と回転スピンドル4との間の振動を減衰させる。減衰要素は、プーリー7に向かって延在し且つプーリー7の中実環状部11内に軸方向に挿入されるように構成される軸方向スタッド23bを備えている。減衰要素23は、エラストマー材料、例えばゴム材料またはポリウレタン材料からなることが可能である。
【0035】
径方向プレート9bは、成形工程中に減衰要素23の材料と協働するように構成される貫通穴9dを備える。
【0036】
従って、軸受シールド20及び減衰要素23上に成形されたプーリー7を備えたプーリー装置1を、コンプレッサ2の顧客、使用者、または組立て業者に、一体組立体として供給することができる。
【0037】
本発明によるプーリー装置では、プーリーから回転スピンドルへの及び回転スピンドルからプーリーへの振動は、減衰要素によって取り除かれる。これは、燃焼エンジンのアサイクリズム及び回転スピンドルからの振動を減衰することが可能である減衰要素の円周の弾力性のためである。
【0038】
さらに、トルク伝達プレートの形状によって、減衰材料がより良好に成形され、且つトルク制限機能を有するようになる。従って、本発明によるプーリー装置は、2つの機能、すなわち減衰機能及びトルク制限機能を統合するものである。
【符号の説明】
【0039】
2 コンプレッサ、4 回転スピンドル、7 プーリー、7e 凹部、7b 内径部、8 転がり軸受、9 トルク伝達プレート、9a 軸方向スリーブ、9b 径方向プレート、9d 貫通穴、10 静止型中空シャフト、15 外側リング、20 軸受シールド、21 細長穴、22 細長穴、22a ブリッジ、23 減衰要素、23a ダブテール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリー(7)と、転がり軸受(8)と、回転機械の回転スピンドル(4)上に取り付けられるように構成された軸方向スリーブ(9a)及び該軸方向スリーブ(9a)から径方向に延在し且つ全体としてディスク形状を有する径方向プレート(9b)を有するトルク伝達プレート(9)と、
を備える回転式機械、特にコンプレッサ(2)のためのプーリー装置であって、
前記プーリー(7)は、前記転がり軸受(8)の外側リング(15)上に且つ前記トルク伝達プレート(9)上に取り付けられ、前記トルク伝達プレート(9)は、前記プーリー(7)から前記回転スピンドル(4)へ回転運動を伝達することが可能であり、
該プーリー装置(1)が、前記プーリー(7)と前記トルク伝達プレート(9)との間に位置付けられる減衰要素(23)を備えることを特徴とするプーリー装置。
【請求項2】
前記減衰要素(23)は、前記プーリー(7)及び前記トルク伝達プレート(9)上に成形されていることを特徴とする請求項1に記載のプーリー装置。
【請求項3】
前記トルク伝達プレート(9)の前記径方向プレート(9b)は、該径方向プレート(9b)を貫通して形成された複数の環形部が、一つの同一円を形成するように等角度間隔で、且つ前記径方向プレート(9b)の外周部近傍に配置されてなる第1の一連の溝孔(21)を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のプーリー装置。
【請求項4】
前記トルク伝達プレート(9)の前記径方向プレート(9b)は、該径方向プレート(9b)を貫通して形成された複数の環形部が、一つの同一円を形成するように等角度間隔で配置され、且つ前記第1の一連の溝孔(21)と前記軸方向スリーブ(9a)との間に位置付けられた第2の一連の溝孔(22)を有していることを特徴とする請求項3に記載のプーリー装置。
【請求項5】
第2の溝孔(22)は、一つの円上に一様に間隔をあけられており、前記第2の一連の細長穴(22)の間に残る前記プレート(9b)の各ブリッジ(22a)は、前記トルク伝達プレート(9)が閾値を超えるトルクを伝達すると破断するより低強度の領域を規定することを特徴とする請求項4に記載のプーリー装置。
【請求項6】
前記径方向プレート(9b)は、前記減衰要素(23)と協働するように構成される貫通穴(9d)を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のプーリー装置。
【請求項7】
前記減衰要素(23)は、該減衰要素(23)の外周上に、前記プーリー(7)の相補的形状の凹部(7e)と協働するように構成される一連のダブテール(23a)を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のプーリー装置。
【請求項8】
前記減衰要素(23)は、エラストマー材料から作られることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のプーリー装置。
【請求項9】
前記トルク伝達プレート(9)は、型打ちした金属板から作られることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のプーリー装置。
【請求項10】
前記転がり軸受(8)の外側リング(15)と前記プーリー(7)の内側内径部(7b)との間に軸受シールド(20)を備えることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のプーリー装置。
【請求項11】
静止型中空シャフト(10)、回転スピンドル(4)及び請求項1から10のいずれか一項に記載のプーリー装置(1)を備えることを特徴とする回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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