説明

温度制御装置

試料(301)を受け入れるための少なくとも1つの反応器(307、407)と、反応器(307、407)を包囲する反応器ジャケット(309、409)と、反応器の内部温度を調節するように働く反応器加熱装置(302、402)および反応器冷却装置とを備え、反応器冷却装置が、冷却剤(304、404)に熱的に連結された熱電冷却素子(303、403)を含む、熱量計であって、反応器冷却装置および反応器加熱装置(302、402)が、個々のユニットとして構成され、そのいずれもが、反応器ジャケット(309、409)を介して反応器(307、407)に熱的に連結されることを特徴とする、熱量計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱量計に関し、より具体的には、温度制御装置を備えた反応熱量計に関する。
【背景技術】
【0002】
反応熱量計は、とりわけ試料の化学的および/または物理的パラメータを決定する目的のために使用される。特に温度臨界試料の検証には、高速で効率的な温度制御装置を使用することが重要である。温度臨界試料では、組成、構造、あるいは他の化学的および/または物理的特性の変化が、わずかな温度変動でも生じ得る可能性がある。温度制御装置を備えた反応熱量計は、たとえばWO02/21089Alで開示されている。
【0003】
知られている最新技術は、さまざまなタイプの反応熱量計を含む。これらは、ほとんどの場合、取り付けられた温度制御装置によって加熱または冷却され得る反応媒体のための容器または反応器からなる。温度制御液体が充填され、反応器を取り囲むジャケットは、この目的で使用されることが多い。温度制御液体は熱交換器に連結され、それによって温度制御液体の温度が調節され得る。
【0004】
赤外線スペクトルを記録する能力を備えた反応熱量計が、A.Zoggら、Ind.Eng.Chem.Res.2003年、42、767〜776に記載されている。反応器は、この場合、良好な熱伝導率を有する金属からなる金属ブロック内に組み込まれる。金属ブロックは、ペルチェ素子によって包囲され、このペルチェ素子は、金属ブロックを加熱および冷却することができるようにそれらの電気供給源に連結される。冷却モードにおいて熱を奪うために、ペルチェ素子は低温保持装置に連結される。低温保持装置は冷却剤を含み、冷却剤の温度は、所望の伝熱率に応じて調節される。この熱量計を電力補償モードで作動させることを可能にするために、加えて較正加熱器が、反応器内に直接配置される。この熱量計は、主に、約50mlを超えない少量の試料に適している。
【0005】
上記で説明された反応熱量計は、約−30℃〜約+150℃までの比較的小さな温度範囲のみを対象としており、さらに、大量の豊富で強力な電力供給が必要とされ、その結果、反応器の内部温度の制御が行いにくく、遅くなってくるという欠点を有する。温度範囲の限界値は、特に冷却剤の初期温度によって決定される。使用される温度制御装置および/またはペルチェ素子は、冷却剤温度に関連して一定の量だけ反応器温度を変化させることができ、この量は、冷却モードと加熱モードの間で異なり得る。さらに、たとえばZoggらによって説明された熱量計は、少量の試料用にしか設計されていない。
【0006】
特に、試料の制御された加熱または冷却に限定されることなく、化学的および/または物理的パラメータの決定まで拡張する目的を有するプロセスでは、温度制御装置の能力、正確性、および作動温度範囲に対して厳しい要求事項が課される。
【0007】
広い温度範囲にわたる高速で効率的な温度制御に加え、温度自動調節器のサイズおよび小型設計ならびに供給源の費用効果の高い効率的な使用も含むこれらの要求事項は、特により大量の試料に対して実現することが困難である。たとえば、実験室用途では、数マイクロリットルから数百ミリリットルまでの試料の量の温度制御に対して同じ温度自動調節器を使用できることが望ましいはずである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、広い温度範囲にわたって数百ミリリットルまでの試料の量に対する高速で効率的な温度調節を保証し、それと同時に小型設計かつ好ましい費用で作製され得る、改良された温度制御装置を備えた熱量計を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、反応器の内部温度を調節する能力を備えた熱量計によって、ならびに本発明による熱量計のための温度制御装置によって解決される。
【0010】
本発明による熱量計は、試料を受け入れるための少なくとも1つの反応器と、反応器を包囲する反応器ジャケットとを備える。熱量計は、さらに、反応器の内部温度を調節する反応器加熱装置および反応器冷却装置を備える。反応器冷却装置は、冷却剤に熱的に連結された熱電冷却素子を含む。本発明による熱量計は、反応器冷却装置および反応器加熱装置が、個々のユニットであり、そのいずれもが、反応器ジャケットを介して反応器に熱的に連結される点で区別される。
【0011】
反応器冷却装置および反応器加熱装置の分離は、その個々の構成要素が最適な方法で作動され得、有意なより広い温度範囲が対象とされ得るために非常に有利である。温度制御ユニットによって対象とされる熱量計の温度範囲は、主に、熱電反応器冷却装置によって発生させられ得る最大冷却能力および反応器加熱装置によって発生させられ得る最大加熱能力に依存する。
【0012】
熱量計は、さらに、制御ユニットと、反応器内に配置され、実際の反応器温度を測定するように働く温度センサとを備えることができ、この場合、制御ユニットは、反応器加熱装置の能力および反応器冷却装置の能力を調節するための少なくとも1つの作動プログラムを含み、さらに、実際の反応器温度が所与の反応器設定温度に調整され得るように少なくとも1つの反応器設定温度を含む少なくとも1つの温度制御プログラムを含む。
【0013】
したがって、反応器への、または反応器からの実際の伝熱、故に反応器加熱装置の加熱率または反応器冷却装置の冷却率は、現時点の実際の反応器温度および所定の設定反応器温度によって調節される。ユニットが異なることにより、制御ユニットを用いた特に高速で簡単な温度調節が可能になるが、これは、個々のユニットが、加熱から冷却に切り替えられる必要がなく加熱専用または冷却専用に使用され、この構成が、エネルギー効率がより高いという追加の利点を有するためである。
【0014】
作動プログラムは、設定反応器温度の時間最適化された(time−optimized)および/または能力最適化された(power−optimized)調整用に構成され得る。時間最適化されたおよび/または能力最適化された設定の間で選択する際、検証されるべき反応もまた考慮するべきであり、これは、特に強力な発熱反応は、反応を強く加速しすぎないように、専らゆっくりと慎重に加熱されねばならない。
【0015】
好みで使用される熱電冷却素子は、DC電圧で作動される少なくとも1つのペルチェ素子を含む。ペルチェ素子は、その高温側が常に冷却剤の方向に、その低温側が反応器の方向に向けられるように取り付けられ、それによってペルチェ素子は、反応器から冷却剤に熱を伝達する機能だけを実行するようになる。
【0016】
少なくとも1つのペルチェ素子のこの方向付けは、特に有利であるが、その理由は、このようにしてペルチェ素子の作動寿命が最大化され得るためである。ペルチェ素子は、熱流のその好ましい方向で作動されており、この場合、電気端子の製造者特有の極性が尊重される。
【0017】
DC電圧による作動が有利であるが、その主な理由は、ペルチェ素子が、それにもかかわらず、作動中、熱的状況に応じて、印加された電流の反対の極性を有することができるペルチェ素子自体の電圧を発生させることができるためである。さらに、本発明によって使用されるペルチェ素子は、冷却および加熱の両方に使用されるペルチェ素子と比較して、はるかに簡単であり、故により費用効果の高い電気回路で作動および制御され得る。
【0018】
ペルチェ素子の「高温」側と「低温」側の間で達せられ得る最大温度差、故にペルチェ素子で達成され得る最大温度降下は限定され、現在利用可能な単段熱電素子の場合は約50Kとなる。したがって、「低温」側は、「高温」側より最大限でも約50Kしか低くなり得ない。
【0019】
この最大限に達成可能な温度差は、熱電効果の結果として圧送されている熱量が、素子内を流れる電流と比例しており、一方で電力損失が、電流に二次比例して増大するという事実から生じる。特定のレベルの電流では、電力パワー損失の増大が、熱が圧送されている速度における増大を上回り、それによってその温度をさらに低くすることが不可能になってくる。一方で、ペルチェ素子が逆の極性で使用される場合、すなわち、加熱および冷却の特有性と適合していない場合、その作動寿命の大幅な縮小、故に保守費用の増大もまた予想される。作動寿命は、素子がより高い加熱率に達するために過剰負荷モードで使用される場合はさらに短縮される。
【0020】
別の実施形態では、熱電冷却素子は、複数の単段ペルチェ素子、または少なくとも1つの多段ペルチェ素子を含む。
【0021】
多段ペルチェ素子は、ほとんどの場合、非対称の構成のものであるが、その理由は、熱流の方向の下流側に配置されたこれらのペルチェ素子は、冷却に使用される加熱能力だけでなく、熱鎖内の先行するペルチェ素子における散逸による蓄積された電力パワー損失もまた取り除く必要があるためである。したがって、熱流のはるか下流側に配置されたペルチェ素子は、順番的により上流側にあるペルチェ素子より数倍大きな能力を有する。各段においては、その能力は、約2〜5の倍数で増大される。特に多段ペルチェ素子の場合、これらを正しい極性で作動させることが有利であるが、その理由は、上述された欠点に加え、非対称構成は、局所的な過剰負荷またはより小さな能力のペルチェ素子の破壊さえももたらすことがあるためである。
【0022】
使用されるペルチェ素子の数は、所望の最大冷却能力および/または冷却される試料の量に応じて選択され得る。複数のペルチェ素子が使用されるとき、これらは、直列または並列に配置されてよく、単段素子または多段素子として構成されてよい。個々の単段ペルチェ素子の場合、試料温度は、冷却剤温度から約50K、具体的には約30Kだけ冷却され得る。特に素子の多段を直列配置で使用することにより、最大冷却幅は拡張され得る。各段においては、約50Kまでの最大温度差が達成され得る。したがって、同じ試料の量の場合、2段素子は約100Kの最大値で、3段素子は約150Kの最大値などで試料温度を低くすることができる。
【0023】
熱電冷却素子の作動は、たとえば簡単なパルス幅変調制御ユニットで作動され得る簡単で単極性の電流源しか必要としない。
【0024】
反応器冷却装置は、好ましくは、反応器の内部温度から独立してほぼ一定の入口温度または冷却剤温度を有する冷却剤と相互作用する。
【0025】
これは、その一定の温度が、同じ冷却剤で複数の反応器冷却装置を、故に複数の熱量計も作動させる可能性を与えるために有利である。さらに、知られている従来技術の熱量計に要求される温度自動調節器または低温保持装置などの冷却剤温度を調整または調節するためのユニットを使用することは不必要になってくる。その結果、本発明による温度制御装置には、より小さな寸法を有するより小型の設計が与えられ得る。さらに、一定の冷却剤温度は、試料温度の簡単で精密な調節を可能にする。冷却剤温度は、反応熱量計の温度幅全体にわたってほぼ一定に保たれ得る。
【0026】
熱電冷却素子は、特に、放出されたおよび/または試料によって発生させられた熱を冷却剤に伝達する熱ポンプとして機能する。冷却剤温度は、好ましくは、反応器からの効率的な熱除去が保証されるように選択される。
【0027】
約+10℃の冷却剤温度、すなわちほぼ水道水の温度では、単段ペルチェ素子で達せられ得る最低の温度は、約−40℃〜−20℃である。試料が約0℃までしか冷却される必要がない場合、冷却剤としてたとえば+25℃程度の温度の周囲空気を使用することが可能である。
【0028】
どれほどの低さの温度最低値が達成され得るかは、反応器冷却装置の冷却能力および冷却剤の入口温度に直接依存する。冷却剤温度が低いほど、同じ冷却素子を使用して到達され得る反応器の内部温度の最低値は低くなる。反応器の最低内部温度は、より低い冷却剤温度を有する冷却剤および/またはたとえば多段ペルチェ素子などのより大きな冷却能力を有する冷却素子によってさらに低くされ得る。
【0029】
水に加え、他の知られている液体またはガス状流体を冷却剤として使用することも可能である。さらに、発現する熱もまた、冷媒の蒸発によって取り除かれ得る。
【0030】
好ましい実施形態では、反応器加熱装置は、反応器ジャケットと反応器冷却装置の間に配置され、それによって両方のユニットは、反応器および/または反応器内部に配置された反応媒体に最適な効果をもたらして相互作用することができ、反応器加熱装置のさらに過剰な熱が、反応器から取り除かれ得る。
【0031】
反応器加熱装置は、電気抵抗加熱器、誘導加熱器、または電磁加熱器として構成されてよい。電磁加熱器は、たとえば電磁放射によって試料を加熱することができる。
【0032】
本発明による反応器冷却装置および反応器加熱装置では、試料温度または反応器の内部温度が、広い温度幅にわたって調節され得る。好ましい温度範囲は、約−50℃と約+200℃の間にあり、特に約−30℃と約+180℃の間にある。
【0033】
上限温度は、反応器加熱装置の能力によって影響され、当然ながら使用されている材料の熱暴露に対する耐性によっても影響される。したがって、適切な熱電冷却素子、適切な反応器加熱装置、冷却剤を使用することにより、および/または適切な材料を選択することにより、本発明による熱量計は、他の温度範囲用にも設計され得る。
【0034】
さらに、制御ユニットでその能力が同様に調節され得る加熱器素子が、反応器内部に配置され得る。この加熱器素子は、特に、熱量計が、いわゆる電力補償モードで作動され、好ましくは抵抗加熱器として構成される場合に使用される。
【0035】
反応器ジャケットは、高い熱伝導率を有する材料ブロックとして、または反応器のための空洞を含む2重壁の反応器ジャケットとして実質的に構成され得る。反応器は、約5ml〜約1000ml、好ましくは5ml〜約500ml、特に約20ml〜約150mlの量を有することができる。
【0036】
材料ブロックとして構成される反応器ジャケットは、高い熱伝導率の材料および反応器のための空洞を有することができる。適切な材料は、とりわけ、銅またはアルミニウム、金属合金またはセラミックなどのさまざまな金属を含む。
【0037】
2重壁の反応器ジャケットは、好ましくは、流体温度制御媒体で充填される。温度制御媒体の適切な選択肢は、たとえば水、シリコーン油などのさまざまな熱媒体油、あるいは窒素またはヘリウムなどの不活性ガスなどの多くの液体および/またはガス状流体を含む。
【0038】
反応器は、反応器ジャケット内の着座くぼみ内に設置される挿入可能なユニットでよく、あるいは反応媒体が直接供給され得る反応器ジャケット内のくぼみまたは空洞でもよい。着座くぼみは、熱損失をできるだけ低く保つために、この挿入可能なユニットをできるだけ正確に嵌合させるように設計されねばならない。試料を直接受け入れる空洞としての構成は、反応器ジャケットが化学的に不活性な材料からなる場合に、具体的には2重壁のガラス反応器が使用される場合などに提案される。
【0039】
本発明の別の実施形態における熱量計は、共通の制御ユニットを用いて内部温度が互いに独立して調節され得る少なくとも2つの反応器を備え、この場合、各反応器は、反応器加熱装置および反応器冷却装置を備え、すべての反応器冷却装置は、好ましくは同じ冷却剤に熱的に連結されている。そのような構成では、反応器は並列で作動され得、これは、特に連続的検証に有利である。
【0040】
本発明の別の態様は、熱分析機器、特に熱量計または反応熱量計のための温度制御装置に関する。温度制御装置は、反応器加熱装置と、反応器冷却装置と、制御ユニットとを備え、この場合、反応器冷却装置は、冷却剤に熱的に連結された少なくとも1つの熱電冷却素子を含む。温度制御装置は、反応器冷却装置および反応器加熱装置が、個々のユニットであり、冷却剤が、反応器の内部温度から独立しているほぼ一定の入口温度を有するという事実を特徴とする。
【0041】
本発明による温度制御装置は、一方ではそれ自体、少量およびより大量の試料の温度を制御するための機器として、他方では熱量計と組み合わせても使用され得る。
【0042】
本発明による温度制御装置はまた、複数の熱量計の温度を制御するためにも使用され得、これらの熱量計は、その個々の反応器加熱装置および熱電冷却素子が共通の筺体および/または別個の筺体内にある状態で配置される。各熱量計の反応器の内部温度は、冷却剤温度を調整する必要なく独立的に調節され得る。この構成では、冷却剤温度は、同様にほぼ一定である。温度制御装置は、個々の熱量計に対して共通の冷却剤回路および/または別個の冷却剤回路を有することができる。
【0043】
本発明による温度制御装置が、試料の熱重量的、熱量的、熱力学的、流動的または熱機械的特性の決定のための熱分析装置と相互作用する用途が、特に好ましい。これらの用途の場合、高速で精密な温度調節ならびに効率的で小型の温度制御装置を使用することが望ましい。
【0044】
本発明による温度制御装置は、好ましくは、熱が熱電冷却素子の「低温」から「高温」側に常に流れるように構成される。熱電冷却素子、好ましくは少なくとも1つのペルチェ素子は、指定された極性で常に作動されるため、冷却素子を流れる熱流の方向は、とりわけ試料温度および冷却剤温度を含む、外側から冷却素子上に作用する温度から実質的に独立している。
【0045】
温度制御装置で達せられ得る試料温度の最大値は、主に温度制御装置の材料および試料が中に配置されるユニットによって決定される。試料が加熱されているとき、冷却素子は、単に過剰な熱を冷却剤に伝達するだけであり、それによって素子の局所的な過熱が回避される。冷却素子は、この場合、能動的でも受動的でもよい。ペルチェ素子を受動モードで使用することは、熱電流の発生に相当し、これはペルチェ素子の作動寿命に影響を及ぼさない。
【0046】
本発明による温度制御装置が熱量計と組み合わせて使用される装置は、非常に有利であるが、その理由は、知られている最新技術の熱量計と比較して、全体的な機器のサイズが縮小され得、温度制御装置がエネルギーをより効率的に使用して作動され得、それによって装置のより費用効果の高い製造が可能になるためである。
【0047】
反応器冷却装置および反応器加熱装置ならびに温度制御装置を備えた本発明による熱量計は、図を参照して以下で説明され、図内では、同一である要素は、同じ参照記号を用いて特定される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による温度制御装置の作動および構造の概念を表す、極めて簡易化された概略図である。
【図2】流体充填された反応器ジャケットを備えた本発明による熱量計の概略図である。
【図3】反応器ジャケットとして金属ブロックを有する別の熱量計の断面図である。
【図4】共通の制御ユニットによってその個々の反応器の内部温度が調節される、本発明による複数の熱量計の構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、温度制御装置100の基本構造および機能の概念の極めて簡易化された概略図を示す。試料101は、たとえば反応器内に配置され、温度制御装置100に熱的に連結され、この温度制御装置100は、反応器加熱装置102と、熱電冷却素子103および熱電冷却素子103に熱的に連結された冷却剤104を備えた反応器冷却装置とを含む。温度制御装置100の調節および/または制御は、個々の素子の作動に必要とされる電流の供給も行う制御および/または調節ユニット105によって行われる。制御および/または調節ユニットは、さらに、試料温度、すなわち反応器内部の実際の温度を測定するように働く少なくとも1つの温度センサ116に連結される。
【0050】
温度自動調節器100と試料101の間の熱流は、ここでは矢印106によって示される。試料101が加熱素子102によって加熱される場合、過剰な熱は、熱電冷却素子103によって冷却剤104内へと圧送され得る。伝達される熱の量に応じて、冷却素子103は、作動の能動的または受動的モードで過剰な熱を冷却剤104に導くことができる。試料が冷却される場合、反応器加熱素子102から試料101への熱の送出は、低減または停止され、反応器冷却装置103が作動され、それによって熱は、現時点では試料101から能動的に除去されており、冷却素子103によって冷却剤104に伝達されている。
【0051】
このようにして、温度制御装置100は、反応器内に配置された試料101に熱を送出および/またはそこから熱を除去することができ、それによって試料101の温度または反応器の内部温度を、個々の構成要素の選択によって影響が及ばされ得るその温度範囲内で調節することができる。試料が加熱されているとき、ならびにそれが冷却されているとき、冷却剤104は、ほぼ一定の入口温度および/または冷却剤温度を有する。形容詞「ほぼ一定」は、ここでは、温度が、測定の不確定性の限界内かつ機器の仕様内で一定であることを意味する。
【0052】
温度制御装置でその反応器の内部温度が制御され得る本発明によるさまざまな熱量計、より具体的には反応熱量計が、図2〜4に示される。
【0053】
図2に示される熱量計は、試料301を受け入れるための反応器307を備える。反応器307内には、モータ312に連結され、試料301を混合するように働く撹拌器308が配置される。反応器307内にはまた、反応熱量計が電力補償モードで作動されるときに試料上に直接作用することができる加熱素子325が配置される。反応器307は、冷却装置319を通って循環される温度制御媒体310が充填された2重壁の反応器ジャケット309によって包囲される。冷却装置319は、適切な導管317によって反応器ジャケット309に連結される。反応器307は、反応器ジャケット309内部の空洞として構成され、それによって反応器ジャケット309および反応器307は、一緒になって1つのユニットとなる。
【0054】
冷却装置319は、温度制御媒体310および冷却剤305のための2つの別個の回路314、320を有する。回路314、320のいずれもが、少なくとも1つの多段ペルチェ素子を備える熱電冷却素子303に熱的に連結され、この多段ペルチェ素子の「高温」側は、冷却剤305に熱的に連結され、その「低温」側は、温度制御媒体310に熱的に連結される。冷却剤回路314には、連結器ポート315から適切な冷却剤305が供給され得る。この実施形態における反応器冷却装置は、温度制御媒体310と、冷却剤305と、冷却装置319と、熱電冷却素子303とを含む。
【0055】
冷却装置319に加えて、図2に示される熱量計は、反応器ジャケット309を包囲する反応器加熱装置302と、反応器加熱装置、反応器の内部温度を検出するための少なくとも1つの温度センサ316、および冷却装置319に連結される制御および/または調節ユニット305とをさらに備える。反応器加熱装置は、この場合、誘導加熱装置として構成される。
【0056】
反応器307内に配置される加熱素子325は、この場合、反応器307の床部にある加熱コイルの形態で構成される。代替として、反応器内に配置された加熱棒を使用することも可能である。
【0057】
図3は、本発明による別の熱量計の断面図を示している。熱量計は、反応器の蓋421で閉じられ得る、試料を受け入れるための反応器407を備える。反応器407の内部には、撹拌器モータ412と相互作用する撹拌器408と、電力補償の作動モード用の電気抵抗加熱器の形態の加熱素子425と、試料温度および/または反応器407内の実際の温度の測定のための温度センサ416とが配置される。熱量計ならびに反応器加熱装置および反応器冷却装置は、制御および/または調節ユニット405によって制御される。
【0058】
反応器407は、ここでは高い熱伝導率を有し、反応器407が中に設置され得る空洞を有する材料ブロックとして構成された反応器ジャケット409によって包囲される。使用される好ましい材料は、アルミニウムまたは銅であるが、他の金属、金属合金、またはセラミックもまた使用され得る。反応器ジャケット409の壁は、反応器ジャケット409と反応器冷却装置403の間に配置された電気抵抗加熱器として構成された反応器加熱装置402によって包囲される。この実施形態における反応器冷却装置403は、少なくとも1つの単段ペルチェ素子を含む。
【0059】
反応器加熱装置402は、反応器冷却装置403と反応器407の間に配置され、それによって熱は、一方で反応器407に放出され得、過剰な熱は、他方で反応器407から除去され得、すなわち反応器407は、反応器冷却装置403によって冷却され得る。
【0060】
反応器ジャケット409と反応器加熱装置402の間ならびに反応器加熱装置402と冷却素子403の間の熱接触表面は、すばやい熱交換を可能にするためにできるだけ大きいものでなければならない。それと同時に、反応器ジャケット409、反応器加熱装置402および冷却素子403を有するこの構成では、冷却素子403内で作動中に発生させられ得る、特に冷却素子内の熱は、直接冷却剤404を通って除去され得、反応器407内に配置された試料には影響を与えない。
【0061】
冷却素子403は、次に、冷却剤404が充填された導管414によって包囲される。さまざまな流体が冷却剤404として使用され得、この冷却剤404は、連結器ポート(図には示されず)を通って導管414内に導入され、導管414から除去され、あるいは適切な手段によって導管を通って圧送され得る。冷却剤404およびその入口温度または冷却剤温度の選択は、主に所望の冷却能力に依存する。現在利用可能な単段ペルチェ素子は、冷却剤404の温度に関連して約30K〜50Kの温度降下を生み出すことができる。反応器冷却装置の冷却能力を増大させるために、複数の単段ペルチェ素子または少なくとも1つの多段ペルチェ素子を使用することができる。冷却素子403は、冷却剤404に熱的に連結され、試料401から冷却剤404に熱を圧送または導くことができる。試料温度が冷却剤温度より有意に高い場合、冷却素子403のペルチェ素子は、機能せず、受動的熱伝導によって冷却剤404に熱を送るだけである。実験室での用途では、たとえば冷却剤404として水を使用することができる。
【0062】
反応器冷却装置のペルチェ素子403は、それらの「高温」側が冷却剤404方向に面し、それらの「低温」側が反応器加熱装置402方向に面するように配置される。その結果、冷却素子403を通る熱流は、常に同じ方向を有し、また、温度制御装置の温度範囲全体にわたる作動中、冷却剤の温度をほぼ一定に保つことが可能になるが、これは、冷却剤404が熱の除去専用に使用されるためである。
【0063】
反応器の内部温度は、制御および/または調節装置405によって調節され、この制御および/または調節装置405は、たとえば温度センサ416で測定された反応器の内部の実際または現在の既存温度を所定の設定温度に上昇または下降させる。これは、反応器加熱装置402で反応器407に熱を送出する、あるいは冷却素子403で熱を除去することによって達成される。当然ながら、反応器407ならびに反応器内部に配置された試料を、所定の温度分布に従属させることも可能である。
【0064】
熱量測定では、試料が、熱的に閉鎖されたまたは少なくとも密封された環境で試験されれば実用上の利点である。このため、熱量計および温度自動調節器は、絶縁材料422で内側が覆われた筺体423内に配置される。このようにして、さまざまな熱流の流れを特定し、検証から化学的および/または物理的パラメータを導き出すことが可能になる。熱流の流れの測定では、たとえば、熱流センサおよび/または温度センサを使用することができ、これらのセンサは、試料と反応器および/または反応器ジャケットとの熱交換を少なくとも検出する。さらに、熱量計および/または温度制御装置の他の構成要素における温度および/または熱流の流れもまた測定されねばならない。その全体構造および作動原理を含む熱量計は、基本的に知られているため、そのようなセンサを配置するためのさまざまな可能性は、ここでは明白に示されない。
【0065】
図4は、共通の温度制御装置500に熱的に連結された複数の熱量計526、図示された例では4つの熱量計526の構成を概略的に示している。温度制御装置500は、図1に示される温度制御装置と実質的に同じ方法で機能する。熱量計526は、好ましくはその設計において同一であり、それによってこれらは、たとえば類似の試料または反応混合物上で連続的な実験を実施するために並列で作動され得る。
【符号の説明】
【0066】
100、500 温度制御装置
101、301 試料
102、302、402 反応器加熱装置
103、303、403 熱電冷却素子
104、304、404 冷却剤
105、305、405 制御および/または調節ユニット
106 熱流
307、407 反応器
308、408 撹拌器
309、409 反応器ジャケット
310 温度制御媒体
311 連結器
312、412 撹拌器モータ
313 冷却器
314、414 導管、回路
315 連結器、連結器ポート
116、316、416 温度センサ
317 導管
319 冷却装置
320 回路
421 反応器の蓋
422 絶縁体
423 筺体
325、425 較正加熱器、加熱素子
526 熱量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(301)を受け入れるための少なくとも1つの反応器(307、407)と、前記反応器(307、407)を包囲する反応器ジャケット(309、409)と、反応器の内部温度を調節するように働く反応器加熱装置(302、402)および反応器冷却装置とを備え、前記反応器冷却装置が、冷却剤(304、404)に熱的に連結された熱電冷却素子(303、403)を含む、熱量計であって、前記反応器冷却装置および前記反応器加熱装置(302、402)が、個々のユニットであり、そのいずれもが、前記反応器ジャケット(309、409)を介して前記反応器(307、407)に熱的に連結されることを特徴とする、熱量計。
【請求項2】
制御ユニット(305、405)と、温度センサ(316、416)とをさらに備え、前記温度センサ(316、416)が、前記反応器(307、407)に配置され、実際の反応器温度を測定するように働き、前記制御ユニット(305、405)が、前記反応器加熱装置(302、402)および前記反応器冷却装置の能力を調節するための少なくとも1つの作動プログラムを含み、前記実際の反応器温度を所与の反応器設定温度に調整する少なくとも1つの温度制御プログラムをさらに含む、請求項1に記載の熱量計。
【請求項3】
前記作動プログラムが、前記反応器設定温度の時間最適化されたおよび/または能力最適化された調整を有して設計されることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱量計。
【請求項4】
前記熱電冷却素子(303、403)が、DC電圧で作動され前記熱を前記反応器(307、407)から前記冷却剤(304、404)に導く少なくとも1つのペルチェ素子を含むことを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の熱量計。
【請求項5】
前記熱電冷却素子(403)が、個々の単段ペルチェ素子であることを特徴とする、請求項4に記載の熱量計。
【請求項6】
さらに、前記冷却剤(304)を備えた冷却器(313)を備え、前記冷却剤(304)は、前記反応器の内部温度から独立したほぼ一定の入口温度を有し、前記反応器冷却装置と共働することを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の熱量計。
【請求項7】
さらに、前記制御ユニット(305、405)によってその能力が調節される、前記反応器(207、307、407)内に配置された加熱素子(325、425)を含むことを特徴とする、請求項1から6の一項に記載の熱量計。
【請求項8】
前記反応器加熱装置(302、402)が、前記反応器ジャケット(309、409)と前記反応器冷却装置の間に配置されることを特徴とする、請求項1から7の一項に記載の熱量計。
【請求項9】
前記反応器ジャケット(409)が、実質的に、高い熱伝導率を有する材料ブロックであることを特徴とする、請求項1から8の一項に記載の熱量計。
【請求項10】
前記反応器ジャケット(309)が2重壁の反応器ジャケットであり、前記2重壁の反応器ジャケットは、前記反応器(307)のための空洞を有し、温度制御媒体(310)が充填されることを特徴とする、請求項1から7の一項に記載の熱量計。
【請求項11】
共用の制御ユニットを用いて反応器の内部温度が互いに独立して調節され得る少なくとも2つの反応器を備え、前記反応器の各々が、反応器加熱装置および反応器冷却装置に熱的に連結されていることを特徴とする、請求項1から10の一項に記載の熱量計。
【請求項12】
反応器を備えた熱分析機器のための温度制御装置、特に、反応器加熱装置(102、302、402)と、反応器冷却装置と、制御ユニット(105、305、405)とを備え、前記反応器冷却装置が、冷却剤(104、304、404)に熱的に連結された少なくとも1つの熱電冷却素子(103、303、403)を含む熱量計または反応熱量計のための温度制御装置であって、前記反応器冷却装置および前記反応器加熱装置(102、302、402)が、互いに分離された個々のユニットであり、前記冷却剤(104、304、404)が、前記反応器の内部温度から独立したほぼ一定の入口温度を有することを特徴とする、温度制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−504580(P2011−504580A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530392(P2010−530392)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063364
【国際公開番号】WO2009/053237
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(599082218)メトラー−トレド アクチェンゲゼルシャフト (130)
【住所又は居所原語表記】Im Langacher, 8606 Greifensee, Switzerland
【Fターム(参考)】