説明

温度測定方法

【課題】本発明の課題は、誘導加熱時において、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、温度計の破損を防ぐことができ、さらに正確な温度測定を実現することができる温度測定方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る温度測定方法は、誘導加熱時における加熱対象物WKの温度測定方法であって、複数点温度測定ステップおよび温度決定ステップを備える。複数点温度測定ステップでは、加熱対象物と非接触式温度計19,59とが相対移動させられながら加熱対象物の複数点の温度が測定される。温度決定ステップでは、複数点の温度から低温側の温度が排除されて加熱対象物の温度が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱時における加熱対象物の温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「誘導加熱時において誘導加熱停止中に加熱対象物の内部に直接、接触式の温度計を挿入し、加熱対象物の内部温度を測定する方法」が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−182777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、接触式温度計を利用した場合、接触部分に加熱対象物の一部が溶着したりすることがある。このように加熱対象物の一部が溶着すると、接触式温度計を頻繁に取り替える必要があり、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することが極めて困難となる。また、接触式温度計を利用した場合、1000℃以上の温度を有する加熱対象物を測定すると、その接触式温度計が破損しやすい。このため、温度計として非接触式の温度計を採用することが考えられるが、加熱対象物を高温で加熱すると所々に酸化被膜が生じ、その酸化被膜部分が測定されてしまうと、測定値が低くなってしまう。このような現象により正確な温度測定が困難となり、引いてはフィードバック制御による誘導加熱コイルの出力調整が行えなくなる。
【0004】
本発明の課題は、誘導加熱時において、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、温度計の破損を防ぐことができ、さらに正確な温度測定を実現することができる温度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明に係る温度測定方法は、誘導加熱時における加熱対象物の温度測定方法であって、複数点温度測定ステップおよび温度決定ステップを備える。複数点温度測定ステップでは、加熱対象物と非接触式温度計とが相対移動させられながら加熱対象物の複数点の温度が測定される。温度決定ステップでは、複数点の温度から低温側の温度が排除されて加熱対象物の温度が決定される。
【0006】
この温度測定方法では、温度計測器具として非接触式の温度計が採用される。このため、この温度測定方法を採用すれば、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、また、温度計の破損を防ぐことができる。また、この温度測定方法では、加熱対象物の複数点の温度が計測され、その温度から低温側の温度が排除されて加熱対象物の温度が決定される。このため、この温度測定方法では、加熱対象物が高温で加熱されて加熱対象物の所々の表面に酸化被膜が生じたとしても、その酸化被膜の温度が排除されて、加熱対象物の表面温度が正確に決定される。したがって、この温度測定方法を採用すれば、正確な温度測定を実現することができ、誘導加熱コイルの安定した正確なフィードバック制御が可能となる。
【0007】
第2発明に係る温度測定方法は、第1発明に係る温度測定方法であって、温度決定ステップでは、複数点の温度の最大値が加熱対象物の温度として決定される。
【0008】
このため、この温度測定方法を採用すれば、単純な演算処理を行うだけで加熱対象物の正確な温度を測定することができる。
【0009】
第3発明に係る温度測定方法は、第1発明に係る温度測定方法であって、温度決定ステップでは、複数点の温度のうち所定割合の低温側の温度が排除された後、残った複数の温度が演算処理されて加熱対象物の温度が決定される。なお、ここにいう「演算処理」とは、例えば、平均値算出処理、中央値導出処理、最小値導出処理等である。
【0010】
このため、この温度測定方法を採用すれば、突発的に生じるおそれのある異常値を排除して加熱対象物の正確な温度を測定することができる。
【0011】
第4発明に係る温度測定方法は、第1発明から第3発明のいずれかに係る温度測定方法であって、複数点温度測定ステップでは、隣接して配置される2つの誘導加熱コイルの間または誘導加熱炉の出口付近において温度が測定される。なお、2つの誘導加熱コイルは、同一回路に組み込まれていてもよいし異なる回路に組み込まれていてもよい。
【0012】
このため、この温度測定方法を採用すれば、非接触式の温度計を有効に活用することができる。
【発明の効果】
【0013】
第1発明に係る温度測定方法を採用すれば、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、また、温度計の破損を防ぐことができる。また、この温度測定方法では、加熱対象物の複数点の温度が計測され、その温度から低温側の温度が排除されて加熱対象物の温度が決定される。このため、この温度測定方法では、加熱対象物が高温で加熱されて加熱対象物の所々の表面に酸化被膜が生じたとしても、その酸化被膜の温度が排除されて、加熱対象物の表面温度が正確に決定される。したがって、この温度測定方法を採用すれば、正確な温度測定を実現することができ、誘導加熱コイルの安定した正確なフィードバック制御が可能となる。
【0014】
第2発明に係る温度測定方法を採用すれば、単純な演算処理を行うだけで加熱対象物の正確な温度を測定することができる。
【0015】
第3発明に係る温度測定方法を採用すれば、突発的に生じるおそれのある異常値を排除して加熱対象物の正確な温度を測定することができる。
【0016】
第4発明に係る温度測定方法を採用すれば、非接触式の温度計を有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る誘導加熱装置1は、図1に示されるように、主に、予備加熱装置10、トレイ搬送装置30及び本加熱装置50から構成される。以下、各装置について詳述する。
【0018】
<誘導加熱装置の構成要素の詳細>
(1)予備加熱装置
予備加熱装置10は、図2に示されるように、主に、第1誘導加熱炉11a、第2誘導加熱炉11b、第3誘導加熱炉11c、第1プッシャー16、第1非接触式温度センサ19および第1制御装置18から構成されている。
【0019】
第1誘導加熱炉11a、第2誘導加熱炉11bおよび第3誘導加熱炉11cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、第1誘導加熱炉11aは金属ビレットWKの投入側に配置され、第3誘導加熱炉11cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの誘導加熱炉11a,11b,11cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、第1誘導加熱炉11aについてのみ説明を行う。
【0020】
第1誘導加熱炉11aは、図2に示されるように、主に、外壁14a、内壁13aおよび誘導加熱コイル12aから構成されている。外壁14aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁13aは、外壁14aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁14aと同様に耐火物から形成されている。誘導加熱コイル12aは、内壁13a及び外壁14aの間に位置し、内壁13aを囲うように設けられている。また、この誘導加熱コイル12aは、第1制御装置18に接続されており、制御装置18によって出力調整される。
【0021】
第1プッシャー16は、いわゆる油圧シリンダであって、第1金属ビレット設置台15に取り付けられており、一定時間おきに第3誘導加熱炉11cに向かって金属ビレットWKを押し出す。この結果、金属ビレットWKは、第1誘導加熱炉11aに投入された後に第3誘導加熱炉11cから順次排出される。なお、第3誘導加熱炉11cから排出された金属ビレットWKは、図3に示されるトレイTRに載せられた後、トレイ搬送装置30により本加熱装置50に送られる。なお、トレイTRは、金属ビレットWKが第3誘導加熱炉11cから排出される前にトレイ搬送装置30によってトレイ設置台17に置かれる。
【0022】
第1非接触式温度センサ19は、第3誘導加熱炉11cの排出口付近に取り付けられており、順次移動する金属ビレットWKの表面温度を金属ビレットWKの長手方向に沿って連続的に計測する。計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第1制御装置18に送られた後、A/D変換されてデータ化され(以下、このデータを「表面温度データ」という)、第1制御装置18の記憶部に蓄積される。なお、誘導加熱コイル12a,12b,12cのフィードバック制御に用いられる金属ビレットWKの表面温度は、第1制御装置18の記憶部に蓄積された表面温度データを演算処理することにより得られる。この演算処理については後に詳述する。
【0023】
第1制御装置18は、金属ビレットWKの表面温度データが常に設定値以下となるように誘導加熱コイル12a,12b,12cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定値は、金属ビレットWKの変態点よりも低く設定されている。
【0024】
(2)トレイ搬送装置
トレイ搬送装置30は、いわゆるアームロボットであって、二本の爪をトレイTRの両脇に差し込んでトレイTRを持ち上げて移動させる。なお、本実施の形態において、トレイ搬送装置30は、空のトレイTRを予備加熱装置10のトレイ設置台17に置く第1動作と、金属ビレットWKが載ったトレイTRをトレイ設置台17から本加熱装置50の第2金属ビレット設置台55(図4参照)に移動させる第2動作とを繰り返す。
【0025】
(3)本加熱装置
本加熱装置50は、図4に示されるように、主に、第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51b、第6誘導加熱炉51c、第2プッシャー56、ガイドレール57、第2非接触式温度センサ59および第2制御装置58から構成されている。
【0026】
第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51bおよび第6誘導加熱炉51cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、第4誘導加熱炉51aは金属ビレットWKの投入側に配置され、第6誘導加熱炉51cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの誘導加熱炉51a,51b,51cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、第4誘導加熱炉51aについてのみ説明を行う。なお、第6誘導加熱炉51cは、主に均熱処理のために設けられている。
【0027】
第4誘導加熱炉51aは、図4に示されるように、主に、外壁54a、内壁53aおよび誘導加熱コイル52aから構成されている。外壁54aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁53aは、外壁54aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁54aと同様に耐火物から形成されている。なお、第4誘導加熱炉51aの外壁54a及び内壁53aは、金属ビレットWKを載せたトレイTRが通過できるように第1誘導加熱炉11aのそれよりも径が大きく設計されている。誘導加熱コイル52aは、内壁53a及び外壁54aの間に位置し、内壁53aを囲うように設けられている。なお、この誘導加熱コイル52aもまた上記の事情により第1誘導加熱炉11aの誘導加熱コイル12aよりも径が大きく設計されている。また、この誘導加熱コイル52aは、第2制御装置58に接続されており、第2制御装置58によって出力調整される。
【0028】
第2プッシャー56は、いわゆる油圧シリンダであって、第2金属ビレット設置台55に取り付けられており、一定時間おきに第6誘導加熱炉51cに向かって金属ビレットWKを載せたトレイTRを押し出す。この結果、金属ビレットWKを載せたトレイTRは、第4誘導加熱炉51aに投入された後に第6誘導加熱炉51cから順次排出される。なお、第6誘導加熱炉51cから排出された金属ビレットWKを載せたトレイTRは、図示しないアームロボットによって図示しない成形機に投入される。
【0029】
ガイドレール57は、ステンレス製の一対のレールであって、第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51bおよび第6誘導加熱炉51cの内壁53a,53b,53cの内部の下方に設置されている。トレイTRは、このガイドレール57に沿って第6誘導加熱炉51cに向かって移動する。
【0030】
第2非接触式温度センサ59は、第4誘導加熱炉51aの誘導加熱コイル52aと第5誘導加熱炉51bの誘導加熱コイル52bとの間、第5誘導加熱炉51bの誘導加熱コイル52bと第6誘導加熱炉51cの誘導加熱コイル52cとの間、および第6誘導加熱炉51cの排出口付近に取り付けられており(図4では排出口付近のもののみ表示されている)、順次移動する金属ビレットWKの表面温度を金属ビレットWKの長手方向に沿って連続的に計測する。計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第2制御装置58に送られた後、A/D変換されてデータ化され、第2制御装置58の記憶部に蓄積される。なお、誘導加熱コイル52a,52b,52cのフィードバック制御に用いられる金属ビレットWKの表面温度は、第2制御装置58の記憶部に蓄積された表面温度データを演算処理することにより得られる。この演算処理については後に詳述する。
【0031】
第2制御装置58は、金属ビレットWKの表面温度データが常に設定範囲内となるように誘導加熱コイル52a,52b,52cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定範囲は、金属ビレットWKが半溶融状態となる温度範囲とされている。
【0032】
<制御装置における金属ビレットの表面温度データの演算処理>
制御装置18,58は、所定時間毎に記憶部から規定数の表面温度データを読み出し、その表面温度データのうち表面温度が最も高い表面温度データを抽出し、その表面温度データをフィードバック制御用の制御パラメーラとして採用する。なお、本実施の形態では、規定数の表面温度データは、1つの金属ビレットWKから得られたものである。
【0033】
<誘導加熱装置の特徴>
(1)
本発明に係る誘導加熱装置1では、温度計測器具として非接触式温度センサ19,59が採用される。このため、この誘導加熱装置1では、成形加工工程において量産サイクルタイムを遵守して成形加工物の生産を継続することができ、また、温度計の破損を防ぐことができる。
【0034】
(2)
本発明に係る誘導加熱装置1では、金属ビレットWKの複数点の表面温度が計測され、その表面温度の最大値をフィードバック制御用の制御パラメータとした。このため、この誘導加熱装置1では、金属ビレットWKが高温で加熱されて金属ビレットWKの所々の表面に酸化被膜が生じたとしても、金属ビレットWKの表面温度が正確に決定される。したがって、この誘導加熱装置1では、正確な温度測定を実現することができ、誘導加熱コイル12a,12b,12c,52a,52b,52cの安定した正確なフィードバック制御が可能となる。
【0035】
<変形例>
(A)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では予備加熱装置10および本加熱装置50においてそれぞれ3つの誘導加熱炉が用いられたが、誘導加熱炉の数は特に限定されず、3つよりも少なくてもよいし多くてもよい。
【0036】
(B)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では金属ビレットWKの複数点の表面温度データのうち表面温度が最大の表面温度データを制御パラメータとして採用したが、このような態様に代えて、複数点の表面温度データのうち高温側の表温度データを所定割合(例えば70%)残し、その表面温度の平均値や、中央値、最小値などを制御パラメータとして採用してもかまわない。
【0037】
(C)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では特に言及しなかったが、金属ビレットWKがプッシャー16,56で押されている間のみ温度計測を行うようにしてもかまわない。
【0038】
(D)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では連続的に金属ビレットWKの温度計測が実施されたが、間欠的に金属ビレットWKの温度計測が実施されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る温度測定方法は、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、温度計の破損を防ぐことができ、さらに正確な温度測定を実現することができるという特徴を有し、誘導加熱装置における加熱対象物の温度計測に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る誘導加熱装置の簡易的な全体構成図である。
【図2】本発明に係る誘導加熱装置を構成する予備加熱装置の縦断面図である。
【図3】本発明に係る誘導加熱装置において用いられるトレイの外観斜視図である。
【図4】本発明に係る誘導加熱装置を構成する本加熱装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0041】
19,59 非接触式温度センサ(非接触式温度計)
WK 金属ビレット(加熱対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱時における加熱対象物(WK)の温度測定方法であって、
前記加熱対象物と非接触式温度計(19,59)とを相対移動させながら前記加熱対象物の複数点の温度を測定する複数点温度測定ステップと、
前記複数点の温度から低温側の温度を排除して前記加熱対象物の温度を決定する温度決定ステップと
を備える温度測定方法。
【請求項2】
前記温度決定ステップでは、前記複数点の温度の最大値が前記加熱対象物の温度として決定される
請求項1に記載の温度測定方法。
【請求項3】
前記温度決定ステップでは、前記複数点の温度のうち所定割合の低温側の温度が排除された後、残った複数の温度が演算処理されて前記加熱対象物の温度が決定される
請求項1に記載の温度測定方法。
【請求項4】
前記複数点温度測定ステップでは、隣接して配置される2つの誘導加熱コイルの間または誘導加熱炉の出口付近において前記温度が測定される
請求項1から3のいずれかに記載の温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−300132(P2009−300132A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152437(P2008−152437)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】