説明

温度非依存性化学センサー及び生体センサー

【課題】選択的な流体検知の方法及びセンサーを提供すること。
【解決手段】センサーは、共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)回路と、検知領域上に配置された検知用材料とを備える。検知領域は、LCR回路の少なくとも一部を含む。LCR回路及び検知用材料のインダクタンスL特性、静電容量C特性及び抵抗値R特性の温度依存性応答係数は、互いに約5%以上異なる。LCR回路及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数の差により、センサーは、温度に実質的に依存せずに分析流体混合物から分析物流体を選択的に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する主題は、化学センサー及び生体センサーに関し、より具体的には、選択性の高い温度非依存性化学センサー及び生体センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な蒸気の検出を有用な情報を識別するのに使用することができる、いくつかの用途に、化学センサー及び生体センサーを使用することが多い。例えば、センサー内又はセンサーの周囲のいくつかの環境変数の変化を識別することにより存在する蒸気を測定することは、生物薬剤製品、食料又は飲料の変化を監視すること、化学的又は物理的危険のある工業地域を監視すること、並びに、住居監視、空港内の自国セキュリティ、様々な環境及び医療現場、いくつかの有害蒸気及び/又は毒性のある蒸気の検出が特に有用である可能性がある他の公共の場所等のセキュリティ用途に特に有用である可能性がある。
【0003】
そうした環境変化を検知する1つの技術は、特定の検知用材料で覆われたRFIDセンサー等のセンサーを使用することである。それに加えて、1つ以上の検知用材料で覆われたセンサーを、個々の変換器のアレイ内に配置することができる。多くのセンサーアレイは、いくつかの同じセンサーを含む。しかし、そうしたアレイは、同じセンサーを使用してセンサーアレイの作成を簡単にするが、単一の応答(例えば、抵抗値、電流、静電容量、仕事関数、質量、光学的厚さ、光強度等)のみを検知する能力に限定する可能性がある。いくつかの用途では、複数の応答又は複数の特性変化が起こる可能性がある。そうした用途において、アレイ内の様々な変換器が同じ又は異なる応答(例えば、抵抗値、電流、静電容量、仕事関数、質量、光学的厚さ、光強度等)を使用し、2つ以上の特性を測定することができるように様々な検知用材料で覆われた、センサーアレイを含むことは有益である可能性がある。不利なことには、特定の応答を検知するのに固有に作成された個々のセンサーを有するセンサーアレイを作成することは、アレイの作成を複雑にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0278685号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さらに、多くの実用的用途において、選択性の高い化学センサー及び生体センサーを使用するのは有益である。即ち、他の蒸気及び混合物の存在の下で複数の蒸気及び蒸気混合物を検知することができるセンサーアレイを提供することがしばしば望ましい。存在する可能性がある蒸気及び蒸気混合物の数が多くなるほど、検知する特定の種類の蒸気又は蒸気混合物を正確に検知し、それを識別することがより難しくなる可能性がある。特に、このことは、1つ以上の蒸気が検出用の注目する他の蒸気よりも大きい大きさのレベルで存在するとき、当てはまる可能性がある。例えば、高い湿度環境は、選択された蒸気を検出する従来のセンサーの能力をしばしば妨げる。さらに、センサーを個々のセンサーとして使用し又はセンサーをアレイ状に配置するとき、温度変動は、化学検知及び生体検知の正確度を低減する。
【0006】
本明細書に開示する様々な実施形態は、上述の課題の1つ以上に対処することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によれば、共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)回路と、検知領域上に配置された検知用材料とを備えたセンサーを提供する。検知領域は、LCR回路の少なくとも一部を含む。LCR回路及び検知用材料のインダクタンスL特性、静電容量C特性及び抵抗値R特性の温度依存性応答係数は、互いに約5%以上異なる。LCR回路及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数の差により、センサーは、温度に実質的に依存せずに分析流体混合物から分析物流体を選択的に検出することができる。
【0008】
別の実施形態によれば、流体中の化学種又は生体種を検出する方法を提供する。本方法は、検知用材料で覆われた共振センサーアンテナのインピーダンススペクトルの実数部及び虚数部を測定することを含む。共振センサーアンテナ及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数は、互いに異なる。本方法は、複数の温度において、検知用材料で覆われた共振センサーアンテナの6つ以上のスペクトルパラメーターを計算することをさらに含む。本方法は、分析物を選択的に識別するのに多変数分析を使用して、インピーダンススペクトルを単一のデータ点まで縮小することをさらに含む。本方法は、記憶された校正係数を使用して、インピーダンススペクトルから1つ以上の環境パラメーターを決定することをさらに含む。1つ以上の環境パラメーターの決定は温度に実質的に依存しない。
【0009】
別の実施形態によれば、センサーを製造する方法を提供する。本方法は、共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)回路を備えた変換器を組み立てることを含む。変換器は、LCR回路のインダクタンスL特性、静電容量C特性及び抵抗値R特性の3つ以上の温度依存性応答係数を有する。LCR回路の特性の3つ以上の温度依存性応答係数は、互いに約5%以上異なる。本方法は、検知用材料の誘電率特性及び抵抗値特性の2つ以上の温度依存性応答係数を有する検知用材料を選択することをさらに含む。検知用材料の特性の2つ以上の温度依存性応答係数は、LCR回路の特性の3つ以上の温度依存性応答係数と約5%以上異なる。本方法は、検知用材料を検知領域上に配置することをさらに含む。検知領域は、LCR回路の少なくとも一部を含む。
【0010】
図面を通して同様の記号が同様の部品を表す、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読めば、本発明のこれら及び他の特徴、態様及び利点がより十分に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態による検知システムを示す図である。
【図2】本発明の実施形態によるRFIDセンサーを示す図である。
【図3】本発明の別の実施形態によるRFIDセンサーを示す図である。
【図4】本発明の実施形態によるRFIDセンサーの測定応答を示す図である。
【図5】本発明の実施形態による、温度変動の存在の下で蒸気を分析するプロセスを示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態による、温度に依存せずに湿度レベルを区別することができる単一のセンサーを示す試験データの図である。
【図7】本発明の実施形態による、温度に依存せずに湿度レベルを区別することができる単一のセンサーを示す試験データの図である。
【図8】本発明の実施形態による、温度に依存せずに湿度レベルを区別することができる単一のセンサーを示す試験データの図である。
【図9】本発明の実施形態による、温度に依存せずに湿度レベルを区別することができる単一のセンサーを示す試験データの図である。
【図10】本発明の実施形態による、温度に依存せずに湿度レベルを区別することができる単一のセンサーを示す試験データの図である。
【図11】本発明の実施形態による、温度に依存せずに湿度レベルを区別することができる単一のセンサーを示す試験データの図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に開示する実施形態は、単一のセンサーを設け、複数の蒸気及び/又は蒸気混合物を単独又は互いの存在の下で検出することができる、選択的な蒸気検知用の温度非依存性方法及びシステムを提供する。単一のセンサーを使用した蒸気検知用の一般的な方法の例は、「Highly Selective Chemical and biological Sensors」という名称の米国特許出願第12/942,732号に説明され、それは参照により本明細書に組み込まれる。開示するセンサーは、高湿度環境又は1つ以上の蒸気が混合物中の他の成分と比べて大幅に高い濃度(例えば10倍)を有する環境でも、変化する温度の下で様々な蒸気及び混合物を検出することができる。各センサーは、検知用材料で覆われた共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)センサーを含む。LCR回路及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数は、互いに異なる。特性の温度依存性応答係数の差は、開示するセンサーの測定に影響を及ぼす。しかし、特性の温度依存性応答係数の知見及び/又は特性の温度依存性応答係数の差がセンサーにどのように影響を及ぼすかの知見は、温度非依存性選択的蒸気検知及び応答の安定性の改善をもたらすセンサーの測定インピーダンスの多変数分析と共に使用する。例えば、センサーの実験的試験に基づいて係数を含む参照表を生成することができる。センサーの使用中、実験的に決定した係数は、多変数分析において検知中の温度変動を説明するのに使用することができる。本明細書に開示する他の実施形態は、単一のセンサーを設け、液体中の複数の化学種若しくは生体種及び/又は化学種若しくは生体種の混合物を単独又は互いの存在の下で検出することができる、選択的な化学検知及び生体検知用の温度非依存性方法及びシステムを提供する。
【0013】
LCRセンサーの非限定的な例は、集積回路(IC)メモリーチップ付きRFIDセンサー、ICチップ付きRFIDセンサー及びICメモリーチップ無しRFIDセンサー(チップ無しRFIDセンサー)を含む。LCRセンサーは、無線又は有線とすることができる。データを集めるために、LCR回路の共振周波数範囲等の比較的狭い周波数範囲にわたってインピーダンススペクトルを取得する。本技術は、いくつかの蒸気及び/又は蒸気混合物の存在を識別するのに、取得スペクトルから多変数識別特性を計算し、データを処理することをさらに含む。存在する蒸気は、誘電率の変化、寸法、電荷移動及び回路の電子的共振特性の変化を観測し、使用材料の特性の他の変化を測定することによって検出される。さらに以下に示すように、主成分分析(PCA)及びその他の数学的手順を使用することにより、互いの存在及び干渉物質の存在の下で、複数の蒸気及び混合物を検出することができる。本明細書に開示する実施形態は、単一のセンサーを設け、複数の流体及び/又は混合流体を単独又は互いの存在の下で検出することができる、選択的な流体検知用の温度非依存性方法及びシステムを提供する。別の実施形態は、LCR回路を含む変換器を組み立て、変換器の少なくとも一部上に検知用材料を配置することにより、変換器及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数が互いに異なる、そうしたセンサーを製造する方法を開示する。他の実施形態では、蒸気及び流体用の化学センサーに加えて、生体センサーも、温度非依存性検出能力を有することができる。
【0014】
特許請求の範囲に記載された本発明の主題をより明確且つ簡潔に説明するために、以下の説明及び添付の特許請求の範囲に使用する特定の用語に関して、以下の定義を与える。
【0015】
用語「流体」は、ガス、蒸気、液体、粒子、生体粒子、生体分子及び固体を含む。
【0016】
用語「デジタルID」は、RFIDセンサーのメモリーチップ内に記憶される全てのデータを含む。このデータの非限定的な例は、製造者識別子、電子系統データ、ユーザーデータ、センサー用校正データである。
【0017】
用語「監視プロセス」は、限定しないが、センサーの周囲で起こる物理的な変化を測定することを含む。例えば、監視プロセスは、センサーの周囲の環境の物理的特性、化学的特性及び/又は生物学的特性変化に関する生物薬剤、食品又は飲料の製造プロセスの変化を監視することを含む。監視プロセスは、物理的変化と、成分組成又は位置の変化とを監視する工業プロセスも含むことができる。非限定的な例は、自国セキュリティ監視、住居警備監視、環境監視、病院又は寝台脇患者監視、空港セキュリティ監視、入出場改札及び他の公共のことを含む。センサー信号が十分な定常状態応答に至ったとき及び/又はセンサーが動的応答を行うとき、監視を行うことができる。定常状態センサー応答は、決定した時間にわたるセンサーの応答であり、この応答は、測定時間にわたってあまり変化しない。従って、ある時間にわたる定常状態センサー応答の測定値は、同様の値を生成する。動的センサー応答は、測定環境パラメーター(温度、圧力、化学的濃度、生物学的濃度等)の変化に関するセンサーの応答である。従って、動的センサー応答は、測定時間にわたって大幅に変化し、環境パラメーター又は測定パラメーターに関する応答の動的識別特性を生成する。応答の動的識別特性の非限定的な例は、平均応答勾配、平均応答量、信号応答の最大プラス勾配、信号応答の最大マイナス勾配、信号応答の平均変化、信号応答の最大プラス変化及び信号応答の最大マイナス変化を含む。応答の生成した動的識別特性は、個々の蒸気及びそれらの混合物の動的測定におけるセンサーの選択性をさらに高めるのに使用することができる。応答の生成した動的識別特性は、検知用材料及び変換器の幾何学的配置の組合せをさらに最適化するのに使用し、個々の蒸気及びそれらの混合物の動的及び定常状態の測定におけるセンサーの選択性を高めることもできる。
【0018】
用語「環境パラメーター」は、製造又は監視システム内又はその周囲の測定可能な環境変数を指すのに使用する。測定可能な環境変数は、物理的特性、化学的特性及び生物学的特性の少なくとも1つを含み、限定しないが、温度、圧力、材料濃度、導電率、誘電特性、誘電率、センサーに近接又は接触する金属的、化学粒子又は生体粒子、電離放射線の線量及び光強度の測定値を含む。
【0019】
用語「分析物」は、所望のどんな測定環境パラメーターも含む。
【0020】
用語「干渉」は、センサーによる測定の正確度及び精度に望ましくない影響を及ぼす望ましくないどんな環境パラメーターも含む。用語「干渉物質」は、センサーによる干渉応答を行う可能性がある流体又は環境パラメーター(限定しないが、温度、圧力、光等を含む)を指す。
【0021】
用語「多変数分析」は、センサー応答の2つ以上の変数を分析し、測定センサースペクトルパラメーターからの1つ以上の環境パラメーターの種類に関する情報及び/又は測定センサースペクトルパラメーターからの1つ以上の環境パラメーターのレベルに関する定量的な情報を提供するのに使用する数学的手順を指す。用語「主成分分析(PCA)」は、多次元のデータの組を減少させ、分析次元を低下させるのに使用する数学的手順を指す。主成分分析は、多変数データの統計的分析の固有値分析方法の一部であり、共分散行列又は相関行列を使用して行うことができる。多変数分析ツールの非限定的な例は、正準相関分析、回帰分析、非線形回帰分析、主成分分析、判別関数分析、多次元尺度構成法、線形判別分析、ロジスティック回帰又はニューラルネットワーク分析を含む。
【0022】
用語「スペクトルパラメーター」は、センサー応答の測定可能変数を指すのに使用する。センサー応答は、LCR又はRFIDセンサーの共振センサー回路のインピーダンススペクトルである。Zパラメーター、Sパラメーター及び他のパラメーターの形式のインピーダンススペクトルを測定するのに加えて、インピーダンススペクトル(その実数部及び虚数部の両方)は、インピーダンスの実数部の最大値の周波数(Fp)、インピーダンスの実数部の大きさ(Zp)、インピーダンスの虚数部の共振周波数(F1)、インピーダンスの虚数部の反共振周波数(F2)、インピーダンスの虚数部の共振周波数(F1)における信号の大きさ(Z1)、インピーダンスの虚数部の反共振周波数(F2)における信号の大きさ(Z2)及び零リアクタンス周波数(Fz、インピーダンスの虚数部が零になる周波数)等の、分析用の様々なパラメーターを使用して同時に分析することができる。他のスペクトルパラメーターは、例えば、共振のQ値、位相角度及びインピーダンスの大きさ等のインピーダンススペクトル全体を使用して同時に測定することができる。インピーダンススペクトルより計算した「スペクトルパラメーター」は、本明細書では集合的に「特徴」又は「記述子」と呼ぶ。特徴の適当な選択は、スペクトルより計算することができる全ての可能性のある特徴から行う。多変数スペクトルパラメーターは、「Methods and systems for calibration of RFID sensors」という名称の米国特許出願第12/118,950号に説明され、それは参照により本明細書に組み込まれる。
【0023】
用語「共振インピーダンス」又は「インピーダンス」は、センサー「スペクトルパラメーター」を抽出するセンサーの共振周辺の測定センサー周波数応答を指す。
【0024】
用語「保護材料」は、限定しないが、そのまま予定の測定を行うことを可能にしながら、センサーを不慮の機械的、物理的又は化学的影響から保護する、LCR又はRFIDセンサー上の材料を含む。例えば、予定の測定は、保護フィルムがセンサーを溶液から分離するが、電磁界が溶液中まで貫通することを可能にする、溶液導電率測定を含むことができる。保護材料の例は、センサーを機械的損傷及び摩耗から保護するのにセンサーの上面上に施す紙フィルムである。保護材料の別の非限定的な例は、測定用の液体中に置くとき、センサーを腐食から保護するのにセンサーの上面上に施すポリマーフィルムである。保護材料は、測定用の導電性液体中に置くとき、センサーのアンテナ回路の短絡保護用の、センサーの上面上に施すポリマーフィルムとすることもできる。保護フィルムの非限定的な例は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ゼオライト、有機金属構造体及びキャビタンド等の、紙、ポリマー及び無機のフィルムである。保護材料は、変換器を保護するのに変換器と検知フィルムとの間に配置することができる。保護材料は、検知フィルム及び変換器を保護するのにそれ自体が変換器の上面上にある検知フィルムの上面上に配置することができる。それ自体が変換器の上面上にある検知フィルムの上面上の保護材料は、検知フィルムをガス又はイオンの干渉への曝露から保護する濾過材料として役立つことができる。濾過材料の非限定的な例は、ゼオライト、有機金属構造体及びキャビタンドを含む。
【0025】
本明細書で使用する用語「検知用材料及び検知フィルム」は、限定しないが、環境と相互作用するとき、インピーダンスセンサー応答に予測可能及び再現可能に影響を及ぼす関数を実行する、LCR回路素子及びRFIDタグ等の変換器電子モジュール上に堆積する材料を含む。例えば、ポリアニリン等の導電性ポリマーは、異なるpHの溶液に曝露するとき、その導電率が変化する。そうしたポリアニリンフィルムがLCR又はRFIDセンサー上に堆積するとき、インピーダンスセンサー応答は、pHの関数として変化する。従って、そうしたLCR又はRFIDセンサーは、pHセンサーとして働く。そうしたポリアニリンフィルムが、気相における検出用のLCR又はRFIDセンサー上に堆積するとき、インピーダンスセンサー応答は、塩基性ガス(NH3等)又は酸性ガス(HCl等)に曝露するときにも変化する。或いは、検知フィルムは、誘電性ポリマーとすることができる。センサーフィルムは、限定しないが、それが配置する環境に基づいてその電気的特性及び/又は誘電特性が変化する、ポリマーフィルム、有機フィルム、無機フィルム、生体フィルム、複合体フィルム及びナノ複合体フィルムを含む。センサーフィルムの非限定的な追加の例は、ナフィオン等のスルホン化ポリマー、シリコーン接着剤等の接着ポリマー、ゾルゲルフィルム等の無機フィルム、カーボンブラックポリイソブチレンフィルム等の複合体フィルム、カーボンナノチューブナフィオンフィルム等のナノ複合体フィルム、金ナノ粒子ポリマーフィルム、金属ナノ粒子ポリマーフィルム、電気紡糸ポリマーナノファイバ、電気紡糸無機ナノファイバ、電気紡糸複合体ナノファイバ又は有機的、金属有機的若しくは生物学的に誘導される分子を添加したフィルム/ファイバ及び他の任意の検知用材料とすることができる。センサーフィルム中の材料が液体環境内に浸出するのを防ぐために、共有結合、静電結合及び当業者に知られている他の標準的な技術等の標準的な技術を使用して、検知用材料をセンサー表面に取り付ける。それに加えて、検知用材料は、検知用材料の材料誘電率及び抵抗値の温度依存性変化に関する2つ以上の温度依存性応答係数を有する。
【0026】
用語「変換器及びセンサー」は、検知を目的とするRFIDデバイス等の電子デバイスを指すのに使用する。「変換器」は、検知若しくは保護フィルムで覆われる前又は検知用途のために校正する前のデバイスである。変換器は、LCR回路の静電容量C、抵抗値R及びインダクタンスLの温度依存性変化の3つ以上の温度依存性応答係数を含む。「センサー」は、全体的には、検知若しくは保護フィルムで覆われた後及び検知用途のために校正した後のデバイスである。
【0027】
本明細書で使用する用語「RFIDタグ」は、RFIDタグに取り付けることができる物品を識別及び/又は追跡するのに電子タグを使用する、識別及び報告技術を指す。RFIDタグは、全体的には、2つ以上の素子を含み、第1の素子は、情報を記憶及び処理し、無線周波数信号を変調及び復調する集積回路(IC)メモリーチップである。このメモリーチップは、他の専用の機能に使用することもでき、例えば、コンデンサを含むことができる。メモリーチップは、抵抗入力部、静電容量入力部又はインダクタンス入力部等の1つ以上のアナログ信号用入力部を含むこともできる。チップ無しRFIDタグの場合、RFIDタグは、ICメモリーチップを含まない可能性がある。この種類のRFIDタグは、特定のRFIDタグを識別する必要がなく、むしろタグの存在を示すだけの信号が有用な情報を提供する用途(例えば製品管理用途)に有用である可能性がある。RFIDタグの第2の素子は、無線周波数信号を受信し、送信するアンテナである。
【0028】
用語「RFIDセンサー」は、検知機能を追加したRFIDタグであり、例えば、そのとき、RFIDタグのアンテナがそのインピーダンスパラメーターを環境変化に応じて変化させることにより検知機能も行う。共振インピーダンスの分析により、そうしたRFIDセンサーによる環境変化の正確な決定を行う。例えば、RFIDタグは、RFIDタグを検知フィルムで覆うことによりRFIDセンサーに転換することができる。RFIDタグを検知フィルムで覆うことにより、フィルムの電気応答は、インピーダンス応答、共振ピーク位置、ピーク幅、センサーアンテナのインピーダンス応答のピーク高さ及びピーク対称性、インピーダンスの実数部の大きさ、インピーダンスの虚数部の共振周波数、インピーダンスの虚数部の反共振周波数、零リアクタンス周波数、位相角度、インピーダンスの大きさ、並びに用語センサー「スペクトルパラメーター」の定義で説明した他のものへの同時変化に変換される。「RFIDセンサー」は、アンテナに取り付けた集積回路(IC)メモリーチップを有する可能性があり又はICメモリーチップを有しない可能性がある。ICメモリーチップ無しRFIDセンサーは、LCRセンサーである。LCRセンサーは、LCR回路を形成する、1つ以上のインダクタ(L)、1つ以上のコンデンサ(C)及び1つ以上の抵抗器(R)等の既知の素子から構成される。
【0029】
用語「単回使用容器」は、限定しないが、製造又は監視装置及び使用後に処理し又は再使用するために再生することができるパッケージを含む。食品産業における単回使用パッケージは、限定しないが、商品及び飲料パッケージ、並びにキャンディ及び菓子箱を含む。単回使用監視要素は、限定しないが、単回使用カートリッジ、線量計及び収集器を含む。単回使用製造容器は、限定しないが、単回使用容器、袋、チャンバ、管、コネクタ及びカラムを含む。
【0030】
用語「ライタ/リーダ」は、限定しないが、データをメモリーチップのメモリーに書き込み、それからデータを読み出し、アンテナのインピーダンスを読むデバイスの組合せを含む。「ライタ/リーダ」の別の用語は、「質問器」である。
【0031】
本明細書に開示する実施形態により、蒸気、蒸気混合物、化学種及び生体種を検知するLCR又はRFIDセンサーを説明する。上述したように、RFIDセンサーは、LCR回路の特性と異なる特性の温度依存性応答係数を有する検知用材料で覆われたRFIDタグを含む。一実施形態では、受動RFIDタグを使用することができる。RFIDタグは、ライタ/リーダと通信するアンテナコイルに接続するICメモリーチップを含むことができることが理解されよう。ICメモリーチップは、ライタ/リーダが送信する無線周波数(RF)信号及び/又はマイクロ波搬送波信号でタグを照射することにより読み出すことができる。RF及び/又はマイクロ波電磁界がアンテナコイルを通過するとき、コイルの両端にAC電圧が発生する。マイクロチップ内で電圧を整流し、マイクロチップ動作用のDC電圧をもたらす。DC電圧が所定のレベルに達すると、ICメモリーチップは動作可能になる。マイクロチップから後方散乱したRF及び/又はマイクロ波信号を検出することにより、マイクロチップ内に記憶された情報を十分に識別することができる。RFIDタグ/センサーとライタ/リーダとの間の距離は、動作周波数、RF及び/又はマイクロ波電力レベル、リーダ/ライタの受信感度、アンテナ寸法、データ速度、通信プロトコル、並びにマイクロチップ電力要求を含む設計パラメーターにより調節される。ICメモリーチップ無し「RFIDセンサー」(チップ無しRFIDセンサー又はLCRセンサー又はLCR変換器)とセンサーリーダとの間の距離は、動作周波数、RF又はマイクロ波電力レベル、センサーリーダの受信感度及びアンテナ寸法を含む設計パラメーターにより調節される。
【0032】
一実施形態では、ICメモリーチップ付き又はICメモリーチップ無し受動RFIDタグを使用することができる。有利なことに、受動RFIDタグは、動作用バッテリに依存しない。しかし、ライタ/リーダとRFIDタグとの間の通信距離は、受動タグがライタ/リーダからのマイクロワットのRF電力だけで動作するため、通常、近接距離内に限定される。13.56MHzで動作する受動タグでは、読出距離は、通常、高々数センチメートルである。デジタルID書込み/読出しにおける13.56MHz受動RFIDタグの通常の動作周波数範囲は、13.553〜13.567MHzである。RFIDセンサーの周囲の環境変化を検知する13.56MHz受動RFIDセンサーの通常の動作周波数範囲は、約5MHz〜約20MHzであるが、10〜15MHzがより好ましい。この周波数範囲の要求は、13.56MHzで動作するライタ/リーダによりタグを認識することができるが、RFIDタグのセンサー部は、5〜20MHzで動作する。
【0033】
検知フィルムを受動RFIDタグ上に堆積することにより、RFID化学センサー又は生体センサーが作られる。RFID検知は、さらに以下に説明するように、センサーの周囲の環境変化の関数としてRFIDセンサーのインピーダンスの変化を測定することにより行われる。検知フィルムの堆積後、アンテナコイルの周波数応答が、タグの動作周波数範囲を超えないとき、マイクロチップ内に記憶した情報は、従来のRFIDライタ/リーダにより識別することができる。インピーダンス分析器(センサーリーダ)は、アンテナコイルのインピーダンスを読み、インピーダンスの変化を注目する化学種及び生体種と関連付け、センサーの周囲の温度不安定性を補償することができる。
【0034】
動作中、RFIDタグを化学的高感度フィルムで覆った後、デジタルタグID及びタグアンテナのインピーダンスの両方を測定することができる。測定デジタルIDは、タグを取り付けた物体及びセンサーの特性(例えば、様々な条件における校正曲線、製造パラメーター、使用期限等)等のタグ自体の同一性に関する情報を提供する。多成分検出では、単一のRFIDセンサーのインピーダンスの実数部及び虚数部の測定値からの複数の特性を、さらに以下に示すように、決定することができる。
【0035】
要約すれば、本明細書に説明する実施形態により、温度変動の存在の下で分析物の検出を達成するために、センサーは、いくつかの特性を示す必要がある。第1に、選択した変換器は、センサー上の様々な環境パラメーターの影響を非依存的に検出するのに多変数出力部を含む必要がある。第2に、検知用材料は、広い範囲の温度変化にわたり分析物に対する応答の大きさを維持する必要がある。比較的小さい分析物濃度に対する応答は、比較的大きい温度変化により、十分に抑制されない必要がある。第3に、検知用材料及び変換器の温度影響を受けた応答は、許容されるが、変換器の異なる方向の多変数出力応答である必要がある。
【0036】
これらの特性を達成するために、一実施形態では、検知用材料は、蒸気に対して複数の応答機構を有し、これらの応答機構を、検知用材料の誘電率、抵抗値及び膨張率の変化に関連付けるが、これらの変化は、互いに十分に相関がなく、個々の蒸気及びそれらの混合物に曝露するとき、様々なパターンを生成する。さらに、LCR変換器は、LCR回路からのLCR応答の複数の成分を有することができ、LCR応答のこれら複数の成分は、材料の抵抗値及び静電容量、変換器と検知用材料と間の接触抵抗値及び静電容量、並びに変換器基板と検知用材料との間の抵抗値及び静電容量を含む非限定的な例を有する、変換器回路に影響を及ぼす様々な因子から発生する。さらに、LCR変換器は、LCR回路動作の複数の条件を有することができ、集積回路チップはセンサー回路の一部である。
【0037】
従って、温度補償センサー応答を制御する一方法は、インピーダンススペクトル分布に影響を及ぼす、集積回路チップへの電力供給を含む。様々なインピーダンススペクトル分布により、様々な蒸気との相互作用、並びに化学種及び生体種に基づいて、温度依存性センサー応答が変化する。共振アンテナ上のICチップ又はICメモリーチップは、整流ダイオードを含み、センサーのインピーダンススペクトル分布に影響を及ぼすように、ICメモリーチップに様々な電力レベルで電力供給することができる。様々な電力レベルにおけるスペクトル分布の差は、Fp、F1、F2、Fz、Zp、Z1、Z2の様々な値、並びにC及びRの計算値において顕著になる。一実施形態では、温度非依存性センサー性能の向上は、ICチップ又はICメモリーチップ動作の1つ以上の電力レベルの適当な選択により達成される。別の実施形態では、温度非依存性センサー性能の向上は、ICチップ又はICメモリーチップ動作の2つ以上の電力レベルの適当な選択及び様々な電力レベルの下でのセンサーのインピーダンススペクトル分布の組合せの分析により達成される。2つ以上の電力レベルを有するセンサーへの電力供給は、比較的低い電力と比較的高い電力と間で交互に行われる。2つ以上の電力レベルを有するセンサーへの交互電力供給は、測定環境パラメーターの動的変化よりも5倍以上速い時間スケールで行われる。これら全ての実施形態において、様々な電力レベルにおける電力供給は、−50dBm〜+40dBmの範囲内にあり、温度非依存性センサー性能を達成する能力をもたらす。
【0038】
温度非依存性LCR回路動作の改善は、集積回路チップの動作電力を変化させることによりもたらされ、温度依存性応答を高める。具体的には、温度非依存性動作に関するセンサー校正は、センサーの集積回路チップの動作の2つ以上の電力レベルにより行われる。第1に、センサーを十分に低い電力で動作させ、その結果、集積回路チップが実質的にオフになり(電力は約−50dBm〜−10dBmである)、変換器及び検知用材料の温度依存性係数は、分析物の存否で決定される。次に、センサーを十分に高い電力で動作させ、その結果、集積回路チップが実質的にオンになり(電力は約−10dBm〜+40dBmである)、変換器及び検知用材料の温度依存性係数は、分析物の存否で決定される。
【0039】
ここで図に目を向け、最初に図1を参照して、その上を覆われる検知用材料14を含むRFIDセンサー12を利用した温度非依存性選択的蒸気検知の原理を説明するために、検知システム10を提供する。検知用材料14は、誘電率特性及び抵抗値特性の2つ以上の温度依存性応答係数を有する。図2を簡単に参照すれば、センサー12は、検知用材料14で覆われたインダクタ−コンデンサ−抵抗器構造(LCR)を含む共振回路である。LCR構造は、LCR回路のインダクタンスL特性、静電容量C特性及び抵抗値R特性の3つ以上の温度依存性応答係数を含む。LCR回路の特性の3つ以上の温度依存性応答係数は、互いに約5%以上異なる。それに加えて、検知用材料14の特性の2つ以上の温度依存性応答係数は、LCR回路の特性の3つ以上の温度依存性応答係数と約5%以上異なる。検知用材料14は、電極間の検知領域上に施され、電極は、共振回路を構成するセンサーアンテナ18を形成する。さらに以下に説明するように、検知用材料14を共振回路上に施すことにより、回路のインピーダンス応答を変える。センサー12は、有線センサー又は無線センサーとすることができる。センサー12は、基板20に結合する共振アンテナ18に結合するメモリーチップ16を含むこともできる。メモリーチップ16は、製造データ、ユーザーデータ、校正データ及び/又はその上に記憶される他のデータを含むことができる。メモリーチップ16は、集積回路デバイスであり、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)プロセスを使用して作成したRF信号変調回路及び不揮発性メモリーを含む。RF信号変調回路素子は、ダイオード整流器、電源電圧制御装置、変調器、復調器、クロック発生器及び他の素子を含む。
【0040】
図3は、参照番号21で示されたセンサー12の別の実施形態を示し、検知用材料14を含む相補型センサー23は、アンテナ18及び集積回路(IC)メモリーチップ16にまたがって取り付けられ、センサーインピーダンス応答を変える。別の実施形態(図示せず)では、相補型センサーは、ICメモリーチップを有さず、センサーインピーダンス応答を変えるアンテナにまたがって取り付けることができる。相補型センサーの非限定的な例は、櫛形センサー、抵抗性センサー及び容量性センサーである。相補型センサーは、「Methods and systems for calibration of RFID sensors」という名称の米国特許出願第12/118,950号に説明され、それは参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
一実施形態では、13.56MHzRFIDタグを使用することができる。検知システム10の動作中に、センサーアンテナ18のインピーダンスZ(f)及びメモリーチップ16上に記憶されたデジタルセンサー校正パラメーターを取得することができる。再び図1を参照すれば、アンテナ18の共振インピーダンスZ(f)の測定及びメモリーチップ16からのデジタルデータの読出し/書込みが、RFIDセンサーアンテナ18とリーダ24のピックアップコイル22との間の相互インダクタンス結合を介して行われる。図示したように、リーダ24は、RFIDセンサーインピーダンスリーダ26及び集積回路メモリーチップリーダ28を含むことができる。RFIDセンサー12とピックアップコイル22との間の相互作用は、一般的な相互インダクタンス結合回路モデルを使用して説明することができる。このモデルは、ピックアップコイル22の特性インピーダンスZC及びセンサー12の特性インピーダンスZSを含む。相互インダクタンス結合M及び特性インピーダンスZC及びZSは、以下の等式で示されるように、ピックアップコイル22の端子の総合測定インピーダンスZTにより関連付けられる。
【0042】
T=ZC+(ω22/ZS) (1)
ここで、ωはラジアン搬送波周波数であり、Mは相互インダクタンス結合M係数である。
【0043】
アンテナ18内で発生した電磁界により探知される検知用材料14の特性変化の監視を介して、検知を行う(図2)。ピックアップコイル22によりRFIDセンサー12を読むとき、センサーアンテナ18内に発生した電磁界は、センサー12の平面から拡がり、周辺環境の誘電特性により影響を受け、物理的、化学的及び生物学的パラメーターの測定の機会を提供する。
【0044】
相補型センサー23内で発生した電磁界により探知される検知用材料14の特性変化の監視を介して、検知を行う(図3)。ピックアップコイル22によりRFIDセンサー12を読むとき、相補型センサー23内で発生した電磁界は、相補型センサー23の平面から拡がり、周辺環境の誘電特性により影響を受け、物理的、化学的及び生物学的パラメーターの測定の機会を提供する。
【0045】
図4は、本発明の実施形態による、例示的なRFIDセンサー12の測定応答の例を示し、センサーのインピーダンススペクトル全体及び個々に測定したいくつかのスペクトルパラメーターを含む。RFIDセンサー12等の単一のRFIDセンサーを使用していくつかの蒸気又は流体を選択的に検出するのに、インピーダンススペクトルZ(f)=Zre(f)+jZim(f)の実数部Zre(f)及び虚数部Zim(f)は、検知用材料で覆われたセンサーアンテナ18から測定され、4つ以上のスペクトルパラメーターは、図4のプロット30に示すように、測定値Zre(f)及びZim(f)から計算される。7つのスペクトルパラメーターは、図4のプロット30に示すように計算することができる。これらのパラメーターは、Zre(f)の周波数位置Fp及び大きさZp、Zim(f)の共振周波数F1及び反共振周波数F2、周波数F1及びF2におけるそれぞれのインピーダンス大きさZ1及びZ2、並びに零リアクタンス周波数FZを含む。Q値等の追加のパラメーターを計算することもできる。測定パラメーターから、検知フィルムで覆われた共振アンテナ18の抵抗値R、静電容量C及び他のパラメーターを決定することもできる。さらに以下に説明するように、インピーダンススペクトルの実数部Zre(f)及び虚数部Zim(f)の測定値から又は計算済パラメーターFp、Zp、F1及びF2並びに様々な蒸気若しくは流体を選択的に量子化した多次元空間内の単一データ点に対する、あり得る他のパラメーターからインピーダンス応答の次元数を低減するのに、多変数分析を使用することができることが当業者には理解されよう。
【0046】
微量分析物検出に関する実用センサーにおけるインピーダンス分光法の十分に許容できる制約は、比較的低い感度及び広い周波数範囲にわたる極めて長い取得時間を含む。本明細書に説明する実施形態は、材料を共振LCRセンサー回路の電極上に配置することにより、検知用材料の特性変化を測定する能力を高める。同様に、開示する実施形態は、共振LCRセンサー回路の電極に近接する流体の特性変化を測定する能力を高める。実験的試験は、共振器があるときとないときの両方の検知電極の誘電率を変化させる影響を試験した。従来のインピーダンス分光法に比べて、剥出しの共振LCRセンサーは、最小の測定範囲Δεにわたる信号対ノイズ(SNR)の100倍以上の向上をもたらし、それに対応して誘電率決定の検出限界が改善される。
【0047】
多変数分析ツールを使用して分析したLCRセンサーの性能は、個々のセンサーの個々の応答の処理に関する改善された選択性の利点を提供する。具体的には、以下に詳細に示すように、FpとZpとの間の関係及び計算済センサー抵抗値Rと計算済センサー静電容量Cとの間の関係が、より変動を示す多変数パラメーター間の関係に比べて、様々な蒸気又は流体に対する応答間の選択性が大幅に小さいことを試験結果は示す。さらに、LCRセンサーは、LCRセンサーの多変数応答の総合選択性を改善する、非依存性接触抵抗値及び接触静電容量応答を示す。この選択性の改善は、センサーの等価回路応答に対する接触抵抗値及び接触静電容量応答の非依存性の寄与から発生する。
【0048】
図1〜図3に示すセンサー12及び21等のRFIDセンサーの様々な成分は、限定しないが、熱伝導率、熱膨張率、弾性率、電気抵抗値、インピーダンス等の様々な物理的特性をそれぞれ有する。そうした特性は、温度変化により影響を受ける可能性がある。従って、特性の温度依存性応答係数は、温度が1℃等の一定量だけ変化したときの特性の相対変化として定義される。特性は、例えば、直線的若しくは多項式的、対数的又は指数関数的に温度と共に変動する可能性がある。いくつかの特性は、温度と共に増加する可能性があり、他の特性は、温度と共に減少する可能性がある。例えば、温度依存性インピーダンス応答係数は、検知用材料14と、限定しないが、メモリーチップ16、アンテナ18、基板20、コイル22、集積回路(IC)チップ、変換器又はフィルム等の、RFIDセンサー12又は21の別の素子との間で異なる可能性がある。言い換えれば、検知用材料14のインピーダンスは、RFIDセンサー12又は21の他の素子とは異なり温度と共に変化する可能性がある。例えば、検知用材料14のインピーダンスは、1℃の温度変化では、1オームだけ増加する可能性がある。それとは対照的に、RFIDセンサー12又は21のアンテナ18のインピーダンスは、1℃の同じ温度変化では、0.8オームだけ増加する可能性がある。従って、2つの温度依存性インピーダンス応答係数間の百分率差は、約22%である。様々な実施形態において、LCR回路及び検知用材料14の特性の温度依存性応答係数の絶対値は、約0.5%〜500%、2%〜100%又は5%〜50%となる可能性がある。LCR回路及び検知用材料14の温度依存性応答係数の差に基づけば、RFIDセンサー12又は21は、温度に実質的に依存せずに、分析流体混合物から分析物流体を選択的に検出することができる。
【0049】
図5は、温度変動の存在の下でRFIDセンサー12又は21を使用して蒸気を分析する例示的なプロセスを示すフローチャート40であり、検知用材料14及びRFIDセンサー12又は21の他の素子の温度依存性インピーダンス応答係数は、同じでない。以下のステップにおいて、温度非依存性蒸気応答をもたらすのに、RFIDセンサー12又は21の測定インピーダンスの多変数分析を使用する。第1のステップ42では、以上に詳細に説明したように、RFIDセンサー12又は21は、アンテナ18内に発生した電磁界により探知される、検知用材料14の特性変化の監視を介して蒸気の検知を行う。第2のステップ44では、RFIDアンテナ回路及び検知用材料14のインピーダンスに影響を及ぼす温度変動が起こる。しかし、RFIDアンテナ回路及び検知用材料14のインピーダンスは、RFIDアンテナ回路及び検知用材料14の温度依存性インピーダンス応答係数の差により、等しく影響を受けない。それに加えて、RFIDアンテナ回路及び検知用材料14の温度依存性インピーダンス応答係数の差は、共振アンテナの測定インピーダンススペクトルに影響を及ぼす。第3のステップ46では、RFIDセンサー12又は21は、定量化される蒸気の濃度変化を検知する。第3のステップ46において、温度変動が起こり続ける可能性がある。第4のステップ48では、RFIDセンサー12又は21は、共振アンテナのインピーダンススペクトルを測定する。以上に詳細に説明したように、いくつかのスペクトルパラメーターは、インピーダンススペクトルの実数部及び虚数部の測定値から計算することができる。第5のステップ50では、以下に詳細に説明するように、インピーダンススペクトル全体又は計算済スペクトルパラメーターの多変数分析を行う。
【0050】
第6のステップ52では、RFIDセンサー12又は21のメモリーチップ16内に記憶される、多変数校正概算値又は校正係数を取得する。校正係数は、RFIDセンサー12又は21の実験的試験中に決定される。例えば、RFIDセンサー12又は21は、いくつかの温度で変化する蒸気濃度を検知するのに使用する。その際、測定温度のそれぞれに関する応答曲線を生成するのに、PCA又は他の任意の多変数分析方法若しくは方法の組合せを使用することができる。応答曲線のそれぞれに最も一致する最適曲線を決定し、最適曲線を数学的に表す多項式関数等の関数を決定する。各関数は、関数を特徴付けるいくつかの係数を含む。その際、これらの係数は、校正係数として使用され、例えば、参照表としてメモリーチップ16内に記憶することができる。動作中、RFIDセンサー12又は21により検知された蒸気の濃度及び/又は温度は、実験の濃度又は温度の1つに一致しない可能性がある。しかし、参照表中の実験的に決定した校正係数を使用すれば、検知濃度及び温度における蒸気の予測された挙動を最も良く表す内挿関数(即ち応答曲線)を生成することができる。
【0051】
第7のステップ54では、RFIDセンサー12又は21は、第5のステップ50で行った多変数分析及び第6のステップ52で決定した応答曲線に基づいて、温度変動に依存せずに蒸気濃度を定量化する。特に第5のステップ50の多変数分析の結果を第6のステップ52で決定した内挿関数に代入し、蒸気濃度を計算する。フローチャート40の前のステップでRFIDセンサー12又は21の温度変動の影響を計算したので、計算済蒸気濃度は正確である。フローチャート40に示すように、個々のRFIDセンサー12又は21が、インピーダンス測定値の多変数分析に基づいて温度非依存性蒸気応答をもたらすことができるので、別個の温度センサーを必要としない。従って、RFIDセンサー12は、別個の温度センサーを使用する他のセンサーシステムよりも、小さく、高価でなく、複雑でなく及び/又は信頼性がある可能性がある。
【0052】
有利なことに、分析物による検知用材料フィルムの変化が、材料の抵抗値及び静電容量、変換器と検知用材料との間の接触抵抗値及び静電容量、並びに変換器基板と検知用材料との間の抵抗値及び静電容量の変化により、アンテナLCR回路のインピーダンスに影響を及ぼすので、LCR共振センサーの検知領域に、多様な検知用材料を利用することができる。そうした変化は、個々のRFIDセンサーの応答に多様性をもたらし、従来のセンサーアレイ全体を単一のLCR又はRFIDセンサーに置き換える機会をもたらす。
【0053】
環境変化が共振LCR回路パラメーターの変化により検出可能である限り、開示するLCR及びRFIDセンサー用の検知フィルムは、様々な材料を含むことができる。それに加えて、検知フィルムの特性の温度依存性応答係数は、以上に詳細に説明したように、LCR回路のそれと異なる。あり得る検知フィルム材料の非限定的な例は、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)等のヒドロゲル、ナフィオン等のスルホン化ポリマー、シリコーン接着剤等の接着ポリマー、ゾルゲルフィルム等の無機フィルム、フィルムとして堆積した、DNA、抗体、ペプチド、若しくは他の生体分子等の生体含有フィルム、無機フィルム若しくはポリマーフィルム、複合フィルム、ナノ複合フィルム、機能化カーボンナノチューブフィルム又は表面機能化金ナノ粒子から成るフィルムの一部として堆積した、DNA、抗体、酵素、ペプチド、多糖類、タンパク質、アプタマー、若しくは他の生体分子又はウィルス、胞子、細胞等の生体含有フィルム、電気紡糸ポリマーナノファイバ、無機ナノファイバ及び複合ナノファイバ、並びに行列内に組み込まれたある誘導特性を有し別の誘導特性を有するナノ粒子である。
【0054】
約2〜約40の範囲の異なる誘電率を有する検知用材料を選択することができる。非限定的な例は、ポリイソブチレン(PIB、εr’=2.1)、エチルセルロース(EC、εr’=3.4)、ポリエピクロロヒドリン(PECH、εr’=7.4)、シアノプロピルメチルフェニルメチルシリコーン(OV−225、εr’=11)、ジシアノアリルシリコーン(OV−275、εr’=33)を含む。これらの材料の使用により、異なる誘電率の蒸気に曝露するとき、検知応答の相対方向を調整する能力をもたらされる。これら及び他の検知用材料内への蒸気の様々な分配係数は、応答の多様性及び相対方向をさらに変調する。
【0055】
「複合体」は、極めて様々な物理的特性又は化学的特性を有する2つ以上の構成材料から成る材料であり、完成構造内の顕微鏡レベルでは別々で異なったままである。例えば、2つ以上の構成材料は、インピーダンス等の特性に関して異なる温度依存性応答係数を有する可能性がある。複合体の非限定的な例は、ポリ(4−ビニルフェノール)を含むカーボンブラック複合体、ポリ(スチレンコアリルアルコール)、ポリ(ビニルクロリドコビニルアセテート)及び他の材料を含む。「ナノ複合体」は、極めて様々な物理的特性又は化学的特性を有する2つ以上の構成材料から成る材料であり、完成構造内の顕微鏡レベルでは別々で異なったままである。ナノ複合体の非限定的な例は、ポリマー(ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリカーボネート、ポリスチレン等)を有するカーボンナノチューブナノ複合体、ポリマー、金属酸化物ナノワイヤ及びカーボンナノチューブを有する半導体用ナノ結晶量子ドットナノ複合体、並びにカーボンナノチューブと共に機能する金属ナノ粒子又はナノクラスタを含む。
【0056】
検知用材料は、抵抗値変化、誘電率変化及び膨張率変化等の、LCR又はRFIDセンサーの3つの応答機構の1つ以上により説明することができる、分析物応答を示す。複数の様々な個々の検知用材料を含む複合検知用材料を集合させることができ、複合検知用材料はそれぞれ、主として様々な応答機構により分析物に応答する。そうした複合検知用材料は、多変数応答の多様性を高める。そうした複合検知用材料を、LCR共振器の特定部分にわたって均一又は不均一に混合し又は局所的にパターン化することができる。
【0057】
例えば、広い範囲の金属酸化物半導体材料(例えば、ZnO、TiO2、SrTiO3、LaFeO3等)は、分析物ガスに曝露するとき、抵抗値の変化を示すが、いくつかの混合金属酸化物(例えば、CuO−BaTiO3、ZnO−WO3)は、分析物蒸気に曝露するとき、それらの誘電率/静電容量を変化させる。これらの材料を混合物として結合するか又は同じセンサー上に空間的に別個に堆積させることにより、センサーの周囲の局所環境へのそれらの別個の寄与を使用し、単一の分析物に関する応答機構の多様性を高め、従って、選択性を高める。
【0058】
別の例として、配位子被覆導体(金属等)ナノ粒子が蒸気検知用材料として使用されるが、それは、分析物の配位子シェル内への吸収により誘導される局所的な膨張によるそれらの抵抗値の強い変化、隣接する導体ナノ粒子間のトンネル効果の後続の変化、並びにこれらの導体ナノ粒子間の環境の誘電率変化があるためである。誘電性ポリマー(非限定的な例は、シリコーン、ポリ(エーテルウレタン)、ポリイソブチレン、シロキサン、フルオロアルコール等を含む)、共役ポリマー(ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリ(ビニルフェロセン)、ポリ(フルオレン)−ジフェニルプロパン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリピロール、ビピロール)又は静電容量若しくは抵抗値のより顕著な変化を伴って分析物吸収に応答する他の任意の材料(非限定的な例は、ポルフィリン、メタロポルフィリン、メタロフタロシアニン、カーボンナノチューブ、半導体用ナノ結晶、金属酸化物ナノワイヤ)を結合して、より広い範囲の分析物応答を有するセンサーを開発する。
【0059】
さらに、複合検知用材料中の異種材料の互いの悪影響(例えば、導電性充填物質中の導電性を抑制する高誘電率媒体)の可能性を避けるために、親水性/疎水性相互作用又は相互非混和性により局所的に相分離する、この材料成分を選び、センサーにより検知される各成分における様々な機構を活性化する。別の実施形態では、複合検知用材料は、単一のセンサー上に互いに隣接して堆積する個々の材料の一部分として形成することができる。別の実施形態では、複合検知用材料は、単一のセンサー上で互いの上部に堆積する個々の材料の層として形成することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、検知用材料は、ポルフィリン、メタロポルフィリン、メタロフタロシアニン及び関連するマクロ環とすることができる。これらの材料において、平面型マクロ環の構成層内でのガスのπスタッキング又は空洞を含まない金属中心へのガス配位により、ガス検知を達成する。メタロポルフィリンは、水素結合、分極、極性相互作用、金属中心配位相互作用及び分子配列を含む、ガス応答のいくつかの機構をもたらす。ポルフィリン、メタロポルフィリン、メタロフタロシアニン及び関連するマクロ環の分子を構成してナノ構造にすることもできる。
【0061】
別の種類の材料は、様々な既知の方法(誘電泳動配列、材料重合中の配列、空間的な閉じ込めによる配列、緩やかな溶媒蒸発中の配列及びその他のもの)により配列された配列ナノ構造、同じサイズの粒子のコロイド状結晶構造等の自己集合構造、異なる層が異なるサイズの集合粒子を有するコロイド状結晶フィルムの多重層、粒子がある誘電特性の粒子コア及び別の誘電特性の粒子シェルを含むコアシェル構造を有するナノ粒子集合体、生体反応を範とする材料、零次元ナノ材料、1次元ナノ材料、2次元ナノ材料、並びに3次元ナノ材料を含む。
【0062】
自己集合構造は、同じサイズの粒子のコロイド状結晶構造、異なる層が異なるサイズの集合粒子を有するコロイド状結晶フィルムの多重層、粒子がある誘電特性の粒子コア及び別の誘電特性の粒子シェルを含むコアシェル構造を有するナノ粒子集合体を含む。自己集合コロイド状結晶構造の材料の非限定的な例は、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルトルエン、スチレン/ブタジエンコポリマー、スチレン/ビニルトルエンコポリマー及びシリカを含む。これらのコロイド状粒子の代表的な直径は、材料の種類に依存し、50ナノメートル〜25マイクロメートルの範囲とすることができる。多重層を有するコロイド状結晶構造の非限定的な例は、センサー基板上にコロイド状配列として集合するあるサイズの粒子の1つ以上の層及び前の層の上面にコロイド状配列として集合する別のサイズの粒子の1つ以上の層を含む。生体反応を範とする材料の非限定的な例は、超疎水性又は超親水性の被覆を含む。
【0063】
零次元ナノ材料の非限定的な例は、金属ナノ粒子、誘電性ナノ粒子、コアシェルナノ粒子及び半導体用ナノ結晶を含む。1次元ナノ材料の非限定的な例は、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッド及びナノファイバを含む。2次元ナノ材料の非限定的な例は、グラフェンを含む。3次元ナノ材料の非限定的な例は、コロイド球のいくつかの層の自己集合フィルムを含む。
【0064】
ある誘電特性の粒子コア及び別の誘電特性の粒子シェルを含むコアシェル構造を有するナノ粒子の非限定的な例は、金属(金、銀、それらの合金等)コアナノ粒子及び有機シェル層(ドデカンチオール、デカンチオール、1−ブタンチオール、2−エチルヘキサンチオール、ヘキサンチオール、tert−ドデカンチオール、4−メトキシトルエンチオール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、11−メルカプト−1−ウンデカノール、6−ヒドロキシヘキサンチオール)、ポリマーコア(ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート)及び無機シェル(シリカ)、分離コア(ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカ)及び半導体用シェル(カーボンナノチューブ、TiO2、ZnO、SnO2、WO3)、並びに金属ナノ粒子で覆われたカーボンナノチューブコアを含む。金属(金、銀、それらの合金等)コアナノ粒子及び有機シェル層のナノ粒子は、有機分子及びポリマー分子により、さらに変更することができる。有機分子の非限定的な例は、ポルフィリン、メタロポルフィリン、メタロフタロシアニン、マクロ環、キャビタンド及び超分子複合体を含む。ポリマー分子の非限定的な例は、2〜40の範囲の異なる誘電率を有するポリマー分子を含む。非限定的な例は、ポリイソブチレン(PIB、εr’=2.1)、エチルセルロース(EC、εr’=3.4)、ポリエピクロロヒドリン(PECH、εr’=7.4)、シアノプロピルメチルフェニルメチルシリコーン(OV−225、εr’=11)、ジシアノアリルシリコーン(OV−275、εr’=33)を含む。これらの検知用材料の作成の非限定的な例は、(1)溶媒中に有機シェルを有する金属コアナノ粒子を用意すること、(2)溶媒中でこの組成物をポリマー分子又は有機分子の別の組成物を混合すること、(3)この複合混合物からLCR又はRFID変換器上に検知フィルムを作成することを含む。メタルコアナノ粒子を結合したこれらの材料を使用することにより、異なる誘電率の蒸気に曝露するとき、検知応答の相対方向を調整する能力がもたらされる。これら及び他の検知用材料内への蒸気の様々な分配係数は、応答の多様性及び相対方向をさらに変調する。
【0065】
他の検知用材料は、半導体用金属酸化物、ゼオライト、キャビタンド、イオン性液体、液晶、クラウンエーテル、酵素、ポリシルセスキオキサン及び金属有機構造体(MOF)を含む。
【0066】
他の検知用材料は、異なるポリマー側鎖官能基及び異なるポリマー組成を有する合成誘電ポリマー及び合成導電性ポリマー、気相検知用生体分子、共振内錯体形成及びキャビタンド堆積によりもたらされる全体的に抑制した非特異的な共振外蒸気吸収を支配するキャビタンド、並びに個々の分子として、また集合してポリマー及びナノ構造になるポルフィリン及び関連の分子を含む。
【0067】
温度補償応答をさらに改善するのに、検知フィルムに補助膜濾過フィルムを上塗りすることができる。これらの濾過フィルムの非限定的な例は、ゼオライト、金属有機構造体及びキャビタンドフィルタを含む。
【0068】
非限定的な例として示したこれらの多様な検知用材料を、LCR又はRFID共振センサーの検知領域上に供給するが、それは、検知用材料フィルムの分析物による変化が、材料の抵抗値及び静電容量、変換器と検知用材料と間の接触抵抗値及び静電容量、並びに変換器基板と検知用材料との間の抵抗値及び静電容量の変化によりアンテナLCR回路のインピーダンスに影響を及ぼすためである。実験データに関してさらに以下に説明するように、そうした変化は、個々のRFIDセンサーの応答に多様性をもたらし、従来のセンサーアレイ全体を単一のLCR又はRFIDセンサーに置き換える機会をもたらす。
【0069】
実験データ
開示した技術の実例として、上述の構造等の共振アンテナ構造を使用した。従来の引延塗布、落下塗布及びスプレー法により共振アンテナ上に、様々な検知用材料を施した。例えば、LabVIEWを使用したコンピュータ制御の下でネットワークアナライザ(モデルE5062A、Agilent Technologies,Inc.,Santa Clara,CA)により、RFIDセンサーのインピーダンスの測定を行った。注目する範囲(即ち、LCR回路の共振周波数範囲)にわたり周波数を走査し、RFIDセンサーからのインピーダンス応答を収集するのに、ネットワークアナライザを使用した。RFIDセンサーを環境チャンバ内に配置し、約0.1℃の精度及び正確度で温度を制御することにより温度変化をもたらした。
【0070】
ガス検知では、室内構築コンピュータ制御蒸気発生システムを使用して、様々な蒸気濃度を発生させた。Excel(MicroSoft Inc.Seattle,WA)又はKaleidaGraph(Synergy Software,Reading,PA)及びMatlab(The Mathworks Inc.,Natick,MA)で操作するPLS Toolbox(Eigenvector Research, Inc.,Manson,WA)を使用して、収集インピーダンスデータを分析した。
【実施例】
【0071】
単一のセンサーによる様々な温度における湿度レベルの正確な検出
図6〜図11に示すように、上述のセンサー12等の単一のセンサーを使用して、いくつかの異なる温度における水蒸気の正確な検出を示す試験結果を得た。そうした試験結果は、図5において上述した校正係数を生成するのに使用することができる。図6、図7及び図9に示すように、センサーは、以下の温度、即ち25℃、30℃、35℃及び40℃における様々な濃度の水蒸気に曝露した。水蒸気の試験濃度は、約0ppm、2807ppm、4210ppm、5614ppm、7017ppm及び8421ppmであった。
【0072】
RFIDタグを覆うのに使用した検知用材料は、注意深く選ばれ、4つの温度において水蒸気濃度を正確に検出する能力をもたらした。本実験において、選択した検知用材料は、ジクロロメタン等の無極性溶媒に溶解したポリ(エーテルウレタン)(PEUT)だった。実験中、4つの温度のそれぞれにおいて、RFIDセンサーを様々な水蒸気濃度に徐々に曝露した。特に、コンピュータ制御温度プログラミングにより、センサーを環境チャンバ内に位置決めすることによって測定を行った。コンピュータ制御蒸気濃度プログラミングによる蒸気発生システムを使用して、様々な濃度の水蒸気を発生させた。試験は、ステップで行い、ステップごとに水蒸気濃度を増加させた。4つの温度にわたり、濃度レベルを増加させて、いくつかの特性の変化を監視し、様々な応答を調べることにより、データは、上述の実験の温度に依存せずに、水蒸気濃度を正確に定量化する能力を示した。
【0073】
図6及び図7は、RFIDセンサーを蒸気(即ち、この例では水蒸気)の測定に使用したときの、RFIDセンサーの個々の応答に対する温度の影響の例を示す。グラフ55及び56は、センサーを約0、2807、4210、5614、7017及び8421ppmの水蒸気濃度に曝露したときの、フィルムで覆われたセンサーの静電容量応答C及び抵抗値応答Rの大きな温度依存性を示す。言い換えれば、静電容量及び抵抗値応答は、温度に関係して変化する。図8では、約25℃、30℃、35℃及び40℃の異なる温度において、約0、2807、4210、5614、7017及び8421ppmの水蒸気濃度に曝露したときの、静電容量応答Cを、フィルムで覆われたセンサーの抵抗値応答Rに対してプロットする。図8の各ラインは、様々な温度における特定の濃度の水蒸気のセンサー応答に相当する。例えば、黒丸を含むラインは、4つの温度における8421ppmの水蒸気に対するセンサー応答に相当する。ラインの左上部は、40℃における応答に相当するが、ラインの右下部は、25℃における応答に相当する。図8は、温度が静電容量応答と抵抗値応答との間の関係に大きな影響を及ぼすことを示す。従って、図8に基づけば、温度影響と水蒸気濃度影響とを区別するのは難しい。しかし、以下に示すように、センサー応答の多変数分析を適用することにより、温度影響と蒸気濃度影響との間の区別が大幅に改善される。
【0074】
センサーの様々な応答を分析する1つの便利な方法は、多変数識別特性を生成する主成分分析(PCA)を使用することである。PCA分析は、当業者に知られた数学的プロセスであり、多次元データの組を減少させ、分析次元を低下させるのに使用することが理解されよう。例えば、図9に示すように、所与の濃度における各蒸気の様々な応答は、単一のデータ点まで縮小することができ、これから、ベクトルとして表すことができる各蒸気の単一の応答を識別することができる。図9は、上述の4つの温度における6つの濃度の水蒸気の様々な応答のPCAプロット60を示す。水蒸気濃度は、矢印62の方向に増加する。言い換えれば、最大水蒸気濃度、即ち8421ppmにおける結果は、プロット60の左側付近に見られ、0ppmの最小濃度における結果は、プロット60の右側付近に見られ、0ppmにおける結果は、4つの温度に関して単一のデータ点に重なる。因子1は、最大の変動を伴う応答を表すが、因子2は、次に最大の変動を伴う応答を表すことが理解されよう。図9の様々な蒸気濃度を表すラインは、図8に比べて、さらに拡大分離し、多変数分析により可能になる温度影響と蒸気濃度影響との間の区別の改善を示す。図9に示すように、水蒸気濃度は、25℃における因子1に関する変化は40℃に比べて大きいことを示すが、4つの温度における結果は、互いに明確に区別できる。従って、様々な実施形態によるセンサーは、これらの温度影響を補償し、正確な水蒸気濃度情報を提供することができる。特に、最適曲線及び対応する関数を、4つの温度のそれぞれに関して生成することができる。その際、これらの関数の係数は、以上に詳細に説明した校正係数として使用することができる。従って、瞬時試験データは、温度に依存せずに、水蒸気濃度を識別することができるセンサーの補助を行う。
【0075】
実験温度において収集したデータに基づいた関数及び校正係数を使用して、他の温度におけるセンサー測定の温度影響を外挿又は内挿することができる。例えば、25℃〜30℃水蒸気濃度を外挿することができる。そうした追加の外挿データは、他の温度において水蒸気濃度を選択的に検出するのに使用することもできる。さらに、検知用材料の選択を様々にすることによる、単一のRFIDセンサーを利用した、上述の温度及び濃度以外の温度及び濃度における水以外の蒸気の選択的検出を示した。
【0076】
温度に依存せずに水蒸気濃度を定量化するのに、単一のRFIDセンサー用に収集された実験データをどのように使用するかをさらに示す、他のプロットを生成することができる。例えば、図10の左に示す、水蒸気濃度に対する発展型2次モデルの因子1及び因子2の多変数応答プロット70を生成するのに、図9のデータを使用した。言い換えれば、図9に示すPCAプロット60の結果を表すのに2次モデルに発展させた。図10のプロット72の実測値に対する、以上に詳細に説明した様々な条件における水蒸気濃度の予測値を、2次モデルを使用して計算した。図10のプロット72に示すように、点は、ラインの勾配に一致するラインの近辺にある。例えば、2次モデルの標準誤差は、約212ppmの水蒸気(即ち、0.7%の相対湿度)である。従って、予測値は、実測値に極めて相関しており、例示的なセンサー及び方法の予測能力を示す。
【0077】
同様に、図11の左に示す、水蒸気濃度に対する発展型3次モデルの因子1及び因子2の多変数応答プロット80を生成するのに、図9のデータを使用した。言い換えれば、図9に示すPCAプロット60の結果を表すのに3次モデルに発展させた。図11のプロット82の実測値に対する、以上に詳細に説明した様々な条件における水蒸気濃度の予測値を、3次モデルを使用して計算した。図11のプロット82に示すように、点は、ラインの勾配に一致するラインの近辺にある。例えば、3次モデルの標準誤差は、約188ppmの水蒸気(即ち、0.63%の相対湿度)である。従って、図10の2次モデルと同様に、予測値は、実測値に極めて相関しており、例示的なセンサー及び方法の予測能力を再び示す。別の実施形態では、2次モデル及び3次モデルに加えて、他の多項式モデルを使用することもできる。
【0078】
本明細書に本発明のいくつかの特徴のみを示し、それを説明してきたが、多くの変更及び変形が当業者に思いつくであろう。従って、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の技術的思想内にあるそうした変更及び変形の全てを保護することを目的とする点を理解されたい。
【符号の説明】
【0079】
10 検知システム
12 センサー
14 検知用材料
16 メモリーチップ
18 センサーアンテナ
20 基板
21 センサー
22 ピックアップコイル
23 相補型センサー
24 リーダ
26 RFIDセンサーインピーダンスリーダ
28 ICメモリーチップリーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)回路と、
検知領域上に配置された検知用材料と
を備えたセンサーであって、検知領域がLCR回路の少なくとも一部を含んでいて、LCR回路及び検知用材料のインダクタンスL特性、静電容量C特性及び抵抗値R特性の温度依存性応答係数が互いに約5%以上異なっており、LCR回路及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数の差によって、当該センサーが温度に実質的に依存せずに分析流体混合物から分析物流体を選択的に検出することができる、センサー。
【請求項2】
当該センサーが、別個の温度センサーを備えていない、請求項1記載のセンサー。
【請求項3】
前記LCR回路及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数の差に基づく校正係数を有するメモリーチップを含む、請求項1記載のセンサー。
【請求項4】
当該センサーがRFIDセンサーを含む、請求項1記載のセンサー。
【請求項5】
前記LCR回路が、基板、コイル、メモリーチップ、集積回路(IC)チップ、変換器又は検知用材料フィルムを備え、基板、コイル、メモリーチップ、集積回路(IC)チップ、変換器又は検知用材料フィルムの特性の温度依存性応答係数が互いに異なる、請求項1記載のセンサー。
【請求項6】
前記LCR回路が、基板、コイル、メモリーチップ、集積回路(IC)チップ、変換器及び検知用材料フィルムを備え、基板、コイル、メモリーチップ、集積回路(IC)チップ、変換器及び検知用材料フィルムの特性の温度依存性応答係数が互いに異なる、請求項1記載のセンサー。
【請求項7】
前記検知用材料が、合成誘電ポリマー、共役ポリマー、合成導電性ポリマー、ポリマー組成物、生体分子、キャビタンド、単層保護金属ナノ粒子、有機リガンドシェルを有する金属ナノ粒子コア、ポルフィリン、フタロシアニン、カーボンブラック粒子、カーボンナノチューブ及びそれらの組合せを含む、請求項1記載のセンサー。
【請求項8】
前記LCR回路がアンテナを含み、アンテナ及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数が互いに異なる、請求項1記載のセンサー。
【請求項9】
前記LCR回路が相補型センサーを含み、相補型センサー及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数が互いに異なる、請求項1記載のセンサー。
【請求項10】
前記検知用材料がLCR回路の電極間に配置される、請求項1記載のセンサー。
【請求項11】
前記センサーが単回使用センサーとして構成される、請求項1記載のセンサー。
【請求項12】
流体中の化学種又は生体種を検出する方法であって、
検知用材料で覆われた共振センサーアンテナのインピーダンススペクトルの実数部及び虚数部を測定する段階であって、共振センサーアンテナ及び検知用材料の特性の温度依存性応答係数が互いに異なる、段階と、
複数の温度において、検知用材料で覆われた共振センサーアンテナの6つ以上のスペクトルパラメーターを計算する段階と、
分析物を選択的に識別するのに多変数分析を使用して、インピーダンススペクトルを単一のデータ点まで縮小させる段階と
記憶された校正係数を使用して、インピーダンススペクトルから1つ以上の環境パラメーターを決定する段階であって、1つ以上の環境パラメーターの決定が温度に実質的に依存しない段階と
を含む方法。
【請求項13】
前記記憶校正係数が、共振センサーアンテナ及び検知用材料の特性の異なる温度依存性応答係数のインピーダンススペクトルに対する影響に基づく、請求項12記載の方法。
【請求項14】
インピーダンススペクトルを測定する段階と6つ以上のスペクトルパラメーターを計算する段階が、共振センサーアンテナの共振周波数範囲で測定することを含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
6つ以上のスペクトルパラメーターを計算する段階が、インピーダンススペクトルの実数部の周波数位置と、インピーダンススペクトルの実数部の大きさとを計算することを含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
6つ以上のスペクトルパラメーターを計算する段階が、インピーダンススペクトルの虚数部の共振周波数と、インピーダンススペクトルの虚数部の反共振周波数とを計算することを含む、請求項12記載の方法。
【請求項17】
インピーダンススペクトルを単一のデータ点まで縮小する段階が、多変数識別特性を計算することを含む、請求項12記載の方法。
【請求項18】
共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)回路が複数の条件において動作するように、複数の電力レベルで集積回路チップを動作させることを含む、請求項12記載の方法。
【請求項19】
複数の条件におけるLCR回路の動作が、1つ以上の環境パラメーターの温度非依存性の決定を改善する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
センサーを製造する方法であって、
共振インダクタ−コンデンサ−抵抗器(LCR)回路を備えた変換器を組み立てる段階であって、変換器が、LCR回路のインダクタンスL特性、静電容量C特性及び抵抗値R特性の3つ以上の温度依存性応答係数を有し、LCR回路の特性の3つ以上の温度依存性応答係数が互いに約5%以上異なる、段階と
検知用材料の誘電率特性及び抵抗値特性の2つ以上の温度依存性応答係数を有する検知用材料を選択する段階であって、検知用材料の特性の2つ以上の温度依存性応答係数が、LCR回路の特性の3つ以上の温度依存性応答係数と約5%以上異なる、段階と、
検知用材料を検知領域上に配置する段階であって、検知領域が、LCR回路の少なくとも一部を含む、段階と
を含む方法。
【請求項21】
特性の第1及び第2の温度依存性応答係数の差により、センサーが、実質的に温度非依存性の検知をもたらすことができる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
センサーは、複数の温度において変換器の共振周波数範囲にわたりインピーダンスを取得し、特性の第1及び第2の温度依存性応答係数の差に基づく、記憶された校正係数を使用して複数の温度において取得インピーダンススペクトルから多変数識別特性を計算するように構成される、請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−132901(P2012−132901A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−258627(P2011−258627)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】