説明

温水式床暖房システムの温水マット及び該温水マットを利用した温水式床暖房システムの施工方法

【課題】 温水式床暖房システムにおいて、継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプを、温水マットの上表面に形成したパイプの溝に、温水マット上表面と平滑に折り返しながら四本以上平行に敷設しようとすると、直線部での温水パイプの平均敷設間隔は、該温水パイプの許容される最小回転直径で決まってしまい、必要発熱量が確保できない。
【解決手段】 浴室の洗い場の温水式床暖房システムにおいては、床の嵩上げをあわせて行えるように、温水マットの厚みを温水パイプの直径の二倍以上とし、温水マットの表面のパイプ溝を交差させた交差部のパイプ溝を深くすることで、その交差する二本の溝で温水パイプが上下に交差し、温水パイプの最小回転直径の半分の間隔で、直線部の温水パイプを温水マット上表面と平滑に敷設することができる。従って、温水パイプの敷設密度が二倍となり、床暖房に必要な発熱量を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温水式床暖房システムの温水マットに関するものであり、床暖房としての必要な発熱量を確保するためのものであり、特に浴室において極めて有効なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、室内、特に浴室の床暖房システムとしては、床敷設モルタルの中に温水パイプや電気発熱体などを埋め込み、陶磁器質タイルなどで表面を仕上げる床暖房方法があるが、モルタルを介して表面仕上げ材に熱が伝わるため、発熱効率が悪く、昇温までの時間も長く、ランニングコストがかかっていた。また、モルタルを打設してから乾燥するまでの施工時間も長かった。
【0003】
温水マット上表面に形成したパイプ溝に、継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプを敷設する従来の温水式床暖房システムは、温水マットに敷設した部分での漏水の恐れが少なく、昇温までの時間も短く、施工性も良い反面、従来の温水マット曲線部のパイプ溝形状では、図10に示すように、使用する温水パイプの回転直径は温水パイプの製造者が指定した最小回転直径に制約されるため、温水マットの直線部に並列に並んだ温水パイプの敷設間隔も曲線部の最小回転直径に制約され、一定面積に敷設できる温水パイプの敷設密度も制約される。そのため、一般住宅の浴室の洗い場のような幅が800mm程度の狭小な面積の床の場合は、最小回転直径が100mmと指定された温水パイプを使用した場合、直線部での温水パイプの敷設間隔も平均100mm間隔で六本から七本の温水パイプが並列に並ぶだけで、温度のムラと発熱量が低いという問題があった。(特許文献1)
【0004】
そのため、温水パイプは直線部のみに使用し、曲線部には温水パイプの最小回転直径よりも短い直径に加工した略U字型の金属製継ぎ手を使うことで、温水パイプを曲げることなく、直線部の温水パイプの敷設間隔を狭める方法もあるが、すべての曲線部に金属製継ぎ手を使うとなると、コストアップや、施工の手間が増えるという問題があった。
【0005】
さらに、曲線部には温水マットを使用せずに、床の根太と根太の間の空隙に温水パイプを開放することで、空隙の中で温水パイプを交差させることも可能であるが、この部分での発熱量が低下するとともに、根太などを使わない浴室の洗い場の床暖房システムへの利用には問題があった。(実用新案文献1)
【0006】
また、施工面においては、浴室の床は防水性の確保が要求されるため、温水マットを釘やビスで浴室の床に固定することは漏水の危険があり、これを避けるため、釘やビスを使わずに接着剤で温水マットの浮き上がりを防ぐ必要があった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−186823号公報
【特許文献2】実登第3001434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
浴室における温水式床暖房システムにおいて、継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプを温水マット上表面のパイプ溝に、敷設するに際して、発熱量を上げるためには、直線部での温水パイプの敷設間隔をできるだけ狭め、曲線部での温水パイプの折り返し回数を多くして、面積当たりの温水パイプの敷設密度を高めて、発熱量を上げる必要があった。然しながら、温水パイプの製造者が指定する許容直径寸法以下でパイプを曲げると、パイプが折れ曲がり、パイプ内の液が閉塞されたり、パイプ破損の原因となるため、継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプの敷設密度を高めるには限界があった。
【0009】
施工時点で、敷設した温水パイプに誤って穴をあけてしまうことを防止するため、釘やビスでマットを固定することは避ける必要がある。また、浴室の洗い場床の防水性を確保するためにも、釘やビスで温水マットを固定せず、接着剤を利用して、温水マットをより強固に固定する必要がある。特に、ユニットバスの床の場合は、ビスで床に固定することは漏水の危険性が高い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来、継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプを利用した温水式床暖房システムはリフォームなどで、既存住宅の既設の居室の床構造を利用して敷設する必要があり、できるだけ温水マットの厚さを薄くする必要があった。しかし、本発明では上記課題を達成するため、浴室の洗い場に床嵩上げ材も兼ねた温水式床暖房システムを敷設することを目的とすることで、温水マットに浴室の洗い場床の嵩上げ材としての機能も持たせ、その結果として温水マットの厚さは温水パイプの二倍以上あっても支障をきたさないシステム構成とした温水マット上表面のパイプ溝形状に関するものである。
【0011】
その結果、本発明の請求項1に記載した温水マット1aを曲線部に利用することにより、温水マット1に敷設した、継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプ3は往路のパイプ溝から敷設を始めていくと、復路の温水パイプ3bが、先に敷設した往路の温水パイプ3aの上に温水マットの曲線部の交差部2aで交差して重なる構造となる。往路の温水パイプ3aは温水マットの曲線部の交差部2aを中心に勾配をつけて深く形成された曲線部の温水マット1aのパイプ溝の交差部2aに沈み込み、復路の温水パイプ3bは温水マット1のパイプ溝2に温水マット上表面と平滑に敷設されることになる。
【0012】
これにより、温水マット直線部1bで、四本以上並列になるように、温水パイプ3を折り返した場合でも、請求項1の温水マット1aを複数枚使うことにより、直線部の温水パイプ3の平均敷設間隔は温水パイプ3の最小回転直径の半分になり、温水パイプ3の敷設密度も二倍となり、面積当たりの発熱量も増える。
【0013】
また、温水パイプの交差部2aにおいて、往路で敷設された温水パイプ3aは復路の温水パイプ3bの下に沈み込むことになるため、発熱効率は落ちるが、復路で敷設した温水パイプ3bが重なっているため、復路で敷設した温水パイプ3bが金属テープや,熱拡散のための金属板を挟んで表面仕上げ材(たとえば、陶磁器製タイルや石材)に密接するため、交差部での発熱量の低下は極めて少ない。
【0014】
曲線部及び直線部の温水マット1は、浴室の床に面接着されるとともに、温水マット1には本発明の請求項3に記載したように、温水マット1の上表面の直径が底面の直径よりも大きい、すり鉢状に傾斜のついた複数個の開口4が貫通しており、この開口4の中で接着剤が楔形に固まることにより、温水マット1の浮き上がりを抑え、強固に固定される。
【0015】
温水マット上表面の溝の形成方法は一体成形でも、谷部分を削成しても、山部分を積層して形成しても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に記載した温水マット1aを利用することで、継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプ3を温水マット上表面のパイプ溝2に敷設する温水式床暖房システムにおいて、直線部で温水パイプ3が四本以上並列になる場合でも、温水パイプの製造者が指定する最小回転直径と同じか、それ以上であった直線部の温水パイプ3の敷設間隔を、平均して温水パイプ3の最小回転直径の半分とすることができ、温水パイプ3の敷設密度が二倍になり、面積当たりの発熱密度が向上し、同じ太さの温水パイプでの発熱量も増える。
【0017】
本発明の請求項2に記載したパイプ溝形状により、曲線部の温水マット1aを切断分割、組み合わせることで、往路から復路への転回点でも、温水パイプ3は180度転回後、温水パイプ3の最小回転直径の半分の間隔で折り返すことができる。
【0018】
温水マット1の開口4内部で床下地と接着して固まった接着剤は楔のようになり、床と温水マット1の面接着力に加えて、温水マット1の浮き上がりを抑える働きをする。
【0019】
浴室の床の嵩上げが、床暖房と同時に実現でき、さらに床と温水マット1の間に発泡樹脂材やモルタルを嵩上げ材として挟み込むことで、嵩上げ高さを変えることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した浴室床暖房システムの実施形態について図を参照して説明する。図1及び図6に示すように、温水マット1a及び温水マット1bの寸法において、その厚さは共通して30mmで、平面寸法75mm×200mmの曲線部の温水マット1aと平面寸法350mm×200mmの直線部の温水マット1bの2種類からなっており、これらを切断分割、組み合わせるが、実使用上の温水マット1a及び温水マット1bの寸法は利用する温水パイプの最小回転直径と温水パイプの外径及びパイプ溝の本数で決まってくるため特定しない。図1及び図6では、温水パイプ3の最小回転直径を100mmと設定したため、温水マットの直線部1bでの温水パイプ3の敷設間隔は50mmとなり、それにあわせて曲線部の温水マット1aの形状も直径100mmの半円弧が50mm間隔で二本重なる溝形状としたため、温水マット1a及び温水マット1bの横幅は25mm+50mm+50mm+50mm+25mmで200mmとしている。温水マット1a及び温水マット1bの縦寸法は随意である。温水マット1の厚さ寸法は、温水パイプ3の外径を10mmとしたため、温水マット1の厚さも10mm×2本+浴室床からの断熱効果を考慮して30mmとした。
【0021】
図7に示すように、浴室の洗い場の床暖房を敷設したい場所に合わせて曲線部の温水マット1aと直線部の温水マット2aの二種類の形状の温水マット1を切断分割、組み合わせて所定の位置に仮置きする。
【0022】
特に曲線部の温水マット1aは切断分割、組み合わせることで、温水パイプ3の90度転回や180度転回などが可能となり、これにより、洗い場のトラップやグレーチングなどを避けながら温水パイプ3を敷設することができる。
【0023】
床に仮置きした温水マット1は接着剤で浴室の床に接着するとともに、接着剤を請求項3に記載した温水マット1a及び温水マット1bの開口4の中に充填し、硬化させる。
【0024】
接着剤が硬化したのち、温水マット1の上表面のパイプ溝2に図9に示すように、温水パイプ3を敷設する。本発明の請求項1及び請求項2の温水マット1aを利用することで、往路の温水パイプと復路の温水パイプの折り返し部でも、切断分割、組み合わせにより、180度の転回後に最小回転直径の半分の間隔である直線部の温水マット1bのパイプ溝2にも、温水パイプ3を最小回転直径以下に曲げることなく連結ができる。さらに復路の温水パイプ3bは温水マットの曲線部の交差部で先に敷設した往路の温水パイプ3aの上に重なって交差しながら、最小回転直径の半分の間隔の直線部のパイプ溝2に連結して敷設することができる。
【0025】
仕上げとしては、温水マット1の上表面のパイプ溝2に敷設した温水パイプ3を金属テープで温水マット1に固定し、その上から温水パイプ3からの放熱を表面仕上げ材に拡散させるために、アルミまたはステンレス製などの金属板を温水マット1の表面に貼り、最後に表面仕上げ材である陶磁器質タイルを金属板の上にエポキシ系接着剤で接着し、陶磁器質タイルの目地と周囲にコーキング材を打つ。表面仕上げ材としては陶磁器質タイルに限定されず、熱伝導率が高く、耐水性のある石材でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は温水マット曲線部のパイプ溝に温水パイプが敷設された状態を示した斜視図である。
【図2】図2は温水マット曲線部とそれに合わせて屈曲させた温水パイプの状態を示した斜視図である。
【図3】図3は温水マット曲線部の平面図である。
【図4】図4は温水マット曲線部の底面図である。
【図5】図5は温水マット曲線部の正面図である。
【図6】図6は温水マット直線部のパイプ溝に温水パイプが敷設された状態を示した斜視図である。
【図7】図7は二種類の温水マットの組み合わせの一例である。
【図8】図8は二種類の温水マットが組み合わされ、それにあわせて屈曲された継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプの状態を示した一例の斜視図である。
【図9】図9は組み合わされた温水マットに、温水パイプが敷設された状態を示した一例の斜視図である。
【図10】図10は従来の温水マット形状と、それにあわせて屈曲された継目のない連続した一本の可撓性のある温水パイプを敷設する状態を示した一例の斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1:温水マット
1a:温水マット曲線部
1b:温水マット直線部
2:パイプ溝
2a:直線部のパイプ溝より深い、交差部のパイプ溝
3:温水パイプ
3a:往路の温水パイプ
3b:復路の温水パイプ
4:上表面が大きく底面が小口の傾斜のついた開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温水式床暖房システムの温水マット形状において、平面矩形状の板状体に形成した温水マットの上表面に、温水マットの同一辺上にその半円弧の弦を持ち、直径が同じで、かつそれぞれの半円弧の中心が、互いの半円弧の交差する端部に位置するように、半円弧が交差して並んだパイプ溝を形成し、該パイプ溝の深さが、交差部ではパイプ溝の中でパイプが上下に交差できる深さとし、各端部のパイプ溝と交差部のパイプ溝が連結したパイプ溝としたことを特徴とする温水式床暖房システムの温水マット。
【請求項2】
半円弧の温水マット端面に開口した両端部のパイプ溝と、温水マット角部までの長さが同長の隣接する端面に開口したパイプ溝が、半円弧のパイプ溝に連結するようにパイプ溝を形成したことを特徴とする請求項1記載の温水式床暖房システムの温水マット。
【請求項3】
温水マットを浴室の床面に固定するため、温水マットの隅部に、底面側が小口で、傾斜若しくは段により上表面側が大きく開口した取り付け部を形成したことを特徴とする請求項1及び請求項2記載の温水式床暖房システムの温水マット。
【請求項4】
請求項1及び請求項2及び請求項3に示した上表面にパイプ溝を形成した曲線部の温水マットと該温水マットと連結できるパイプ溝を形成した直線部の温水マットを組み合わせて、浴室の洗い場の床の嵩上げ材とするとともに、温水マットのパイプ溝にパイプを敷設し、それを金属テープで固定し、さらに熱拡散のための金属板を貼り、その上に陶磁器質タイル又は石材を表面仕上げ材として接着した温水式床暖房システムの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−163116(P2007−163116A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381021(P2005−381021)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(506021466)
【Fターム(参考)】