説明

測位装置

【課題】受信機の簡易な構成によりマルチパスフェーディング環境下におけるマルチパス信号を排除し、安定した直接波信号の信号強度を確保した高い測位精度および高い利用性を有する測位装置を提供する。
【解決手段】初期捕捉モード後の追跡モードにおいて、複数のアンテナAnt0,Ant1,・・・,Antnの内、例えばアンテナAnt0を基準アンテナAnt0とし、基準アンテナAnt0に対する送信機の位置情報ならびに基準アンテナAnt0に対する他のアンテナAntkの位置情報に基づいて、基準アンテナAnt0で受信される直接波信号と他のアンテナAntk(k=1,・・・,N)で受信される直接波信号との遅延距離Lに対応する搬送波の位相差φを、φ=2π*d/λ*cos(E−θ)として求め、そのφ(k=1,・・・,N)をアンテナ毎に生成される搬送波についてのレプリカ信号に課し、そのレプリカ信号と各アンテナで受信される受信信号との相関をとることにより、直接波信号の信号強度を増幅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位装置、特に、受信機の簡易な構成により受信信号からマルチパス信号を排除し、安定した直接波信号の信号強度を確保した高い測位精度および高い利用性を有する測位装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全世界航法衛星システム(Global Navigation Satellite System)(以下、「GNSS」という。)は、航空機、船舶または自動車の航法測位に広く使われているが、都市部で使用した場合、マルチパス(多重伝搬)によるフェーディング現象により、受信信号強度が不安定となり航法測位に支障をきたすことがある。また、GNSSと同様の信号を発生する疑似衛星(スードライト)は、インドア測位に用いられることがあるが、フェーディング現象により捕捉すら出来ないことがある。
ところで、フェーディング現象による受信信号の強度低下を防止するため、GPS衛星からの信号を受信するn個(nは1以上の整数)のアンテナ10−1〜10−nと、受信信号を復調するn個の受信処理部11−1〜11−nと、ベースバンド信号から(m×n)チャンネルの位置情報を算出する(m×n)個のベースバンド信号処理部13−11〜13−nmを設け、(m×n)個のベースバンド信号処理部13−11〜13−nmで算出された(m×n)チャンネルの位置情報から、ダイバシティ処理を行って、移動体の位置情報を算出し、空間ダイバシティと時間ダイバシティとにより、移動体の位置を算出するように構成された測位装置が知られいる(例えば、特許文献1を参照。)。
一方、発信機からの電波を複数の受信機で受信し、その受信信号に基づいて発信機の位置を一定周期ごとに測位するとともに、次回周期測位予測値を推定する機能を備えており、複数の受信機の受信信号による観測値と、推定された次回周期測位予測値による予測値との比較に基づいて測位予測誤差を算出する測位処理部と、測位予測誤差に基づいて発信機の測位値及び次回周期測位予測値の状態推定を行うフィルタ手段とを備えた測位装置が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−69743号公報
【特許文献2】特開2005−326184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記第1の測位装置は、複数のアンテナを用いて空間的に、又は時間的にダイバシティ処理を行うことにより、受信信号の強度低下を防止している。
しかし、空間ダイバシティ処理では、マルチパスにより遅延または分散した信号をかき集めて合成するため、受信機の構成が複雑になるという問題がある。
他方、上記第2の測位装置は、受信機間の位相差によるのではなく、受信機ごとの観測値及び位相予測値を用いて測位演算を行い、さらに受信機ごとの位相観測値に対する予測誤差に荷重して測位演算を行うことにより、フェーディング等の影響を個別に抑制しているが、上記第2の測位装置についても、やはり受信機の構成が複雑になるという問題がある。
そこで、本発明は、上記実情に鑑み創案されたものであって、受信機の簡易な構成によりマルチパスフェーディング環境下におけるマルチパス信号を排除し、安定した直接波信号の信号強度を確保した高い測位精度および高い利用性を有する測位装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の測位装置は、送信信号を受信する複数のアンテナと、該送信信号に対応したレプリカ信号を生成するレプリカ信号生成器と、前記送信信号と該レプリカ信号との相関をとる相関器とを備えた測位装置であって、一のアンテナを基準アンテナとした時の該基準アンテナに対する送信機の位置情報ならびに該基準アンテナに対する他のアンテナの位置情報に基づいて、前記送信信号からマルチパス信号を選択的に排除する拘束条件をアンテナ毎に定め、該拘束条件をアンテナ毎に生成される前記レプリカ信号に課し、該レプリカ信号と各アンテナで受信される送信信号との相関をとることにより、直接波信号の信号強度を増幅し、位置の推定精度および利用性を向上させたことを特徴とする。
GNSS衛星等から送信されるGNSS信号は、所定のデータを含む搬送波が特定の符号(コード)によって変調されている。また、マルチパス信号波はアンテナに到達するまでの間に複数回の反射を繰り返し、搬送波の位相およびコードの位相について、直接波信号に係る搬送波の位相およびコードの位相に対して何らかの差(ズレ)を生じている。また、GNSS信号に用いられるコードは、位相差ゼロにおいては相関が強く、且つ位相差ゼロ以外では相関が十分に小さいため、GNSS信号は自己相関がきわめて強い。従って、何らかの方法により、基準アンテナにおける直接波信号の搬送波の位相およびコードの位相を正確に求め、他のアンテナで受信される直接波信号と基準アンテナで受信される直接波信号との位相差を求めることが出来るならば、他のアンテナで受信される直接波信号の搬送波およびコードの位相を正確に求めることができ、その結果、各アンテナで受信される受信信号からマルチパス信号を選択的に排除することが可能となる。
そこで、上記測位装置では、複数のアンテナを使用し、基準アンテナで受信される直接波信号に係る搬送波の位相およびコードの位相、並びに他のアンテナで受信される直接波信号に係る搬送波の位相差およびコードの位相差を、上記位置情報に基づいて推定し、更にその推定結果が課されたレプリカ信号と各アンテナで受信される受信信号との相関をとることにより、受信信号からマルチパスによる信号を選択的に排除する。これにより、直接波信号の信号強度が増幅され、測位精度および利用性を向上させることが出来るようになる。
【0006】
請求項2に記載の測位装置では、前記位置情報は、前記送信信号を送信する送信機および前記基準アンテナを結ぶ直線と該基準アンテナおよび他のアンテナを結ぶ直線との折り成す角度、並びに前記基準アンテナと他のアンテナとの距離であることとした。
一般に送信機が衛星の場合、送信機と受信機との距離に関する情報は、送信機と受信機との時刻のズレ、電離層遅延量またはマルチパス等による測位誤差を知得することができなければ、正確な値を得ることは難しいが、上記角度については、送信機と受信機との距離が十分大きい場合は、疑似距離を用いても正確に求めることが出来る。更にアンテナ間の距離がわかれば、基準アンテナで受信される直接波信号と他のアンテナで受信される直接波信号との行路差が求まり、各アンテナで受信される直接波信号間の位相差を求めることが出来る。
そこで、上記測位装置では、上記角度および距離情報に基づいて、受信信号からマルチパス信号を排除する拘束条件を求め、その拘束条件をレプリカ信号に課し、そのレプリカ信号と各アンテナで受信される受信信号との相関をとることにより、受信信号からマルチパス信号を排除するように構成した。
【0007】
請求項3に記載の測位装置では、前記レプリカ信号生成器は、直接波信号の符号についてのレプリカ信号を、一のアンテナで受信される受信信号に対してのみ生成し、且つ該レプリカ信号は他のアンテナで受信される受信信号に対しても使用されることとした。
本願発明者が、マルチパス信号波と衛星からの直接波信号との搬送波の位相およびコードの位相を鋭意研究したところ、アンテナ間の距離が小さい場合は、アンテナ間のコード位相差は無視することができ、コード位相については、どれか一のアンテナで受信した受信信号のコード位相により代表させることが出来ることを見出した。従って、コードの位相については、初期捕捉モードおよび追跡モードにおいて、単一のレプリカ信号のみを生成すればよいことになる。
上記測位装置では、上記構成とすることにより、初期捕捉モードおよび追跡モードにおいて、コード位相についての相関処理が大幅に簡略化されることになる。
【0008】
請求項4に記載の測位装置では、前記拘束条件は、前記基準アンテナで受信される送信信号と他のアンテナで受信される送信信号との遅延距離に対応した搬送波の位相差であることとした。
上記測位装置では、上記構成とすることにより、各アンテナで受信される直接波信号の搬送波の位相を求めることが可能となる。
【0009】
請求項5に記載の測位装置では、前記送信信号に対する初期捕捉モードにおいて、レプリカ信号の位相および周波数を変化させながら、全部または一部のアンテナで受信される受信信号と前記レプリカ信号との相関をとり、初期捕捉を行うこととした。
上記測位装置では、上記構成とすることにより、レプリカ信号を直接波信号に用いられた符号に対し同期させることが出来る。
【0010】
請求項6に記載の測位装置では、前記レプリカ信号生成器は、初期捕捉完了後の追跡モードにおいて、直接波信号の搬送波についての前記拘束条件が課されたレプリカ信号をアンテナ毎に生成することとした。
上記測位装置では、上記構成とすることにより、追跡モードにおいては、各アンテナで受信される受信信号からマルチパス信号を排除することが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測位装置によれば、直接波信号およびマルチパス信号が混信するフェーディング環境下であっても、複数のアンテナを用いて、基準アンテナに対する送信機の位置情報ならびに基準アンテナに対する他のアンテナの位置情報に基づいて、基準アンテナで受信される直接波信号と他のアンテナで受信される直接波信号との遅延距離に対応する搬送波の位相差を求め、その位相差をアンテナ毎に生成される搬送波についてのレプリカ信号に課し、これらのレプリカ信号と各アンテナで受信される受信信号との相関をとることにより、各アンテナで受信される受信信号からマルチパス信号を好適に排除することが可能となり、その結果、直接波信号の信号強度が増幅され、測位精度が向上すると共に利用性も向上するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の測位装置に係る初期捕捉部100を示す構成説明図である。
この初期捕捉部100は、例えばGPS信号またはGNSS信号等の衛星からの送信信号を受信する複数のアンテナAnt0,Ant1,・・・,Antnから成るアンテナ部1と、その受信信号を増幅する低ノイズアンプLNA0,LNA1,・・・,LNAnをから成る増幅部2と、その受信信号の周波数を中間周波数(IF周波数)に変換するバンドパスフィルタ、アンプ及びミキサRF0,RF1,・・・,RFnから成るRF部3と、所定の信号処理が施された受信信号をディジタル信号に変換するADコンバータADC0,ADC1,・・・,ADCnから成るAD変換部4と、第1レプリカ信号生成器9で生成されるレプリカ信号との相関をとる相関器1,相関器2,・・・,相関器nから成る相関部5と、各アンテナで受信される受信信号に用いられた符号を再現したレプリカ信号を生成する第1レプリカ信号生成器9と、レプリカ信号が受信信号に同期したか否かを判別する信号捕捉判別器10とを具備して構成されている。なお、説明の都合上、アンテナAnt0を基準アンテナとする。
【0014】
この初期捕捉部100は、追跡モードにおけるレプリカ信号の初期値を設定する。具体的には、コードの位相および搬送波の周波数をサーチしながら、各アンテナの受信信号とレプリカ信号との相関をとり、これらの相関値の和を求め、相関和の最大値に対応するレプリカ信号を追跡モードにおけるレプリカ信号の初期値とする。
【0015】
また、ここでは、各アンテナAnt0,Ant1,・・・,Antn毎にコード位相を生成するのではなく、どれか一つのアンテナ、例えばアンテナAnt0で受信される受信信号のコード位相に対して生成されたレプリカ信号は、他のアンテナAnt1,・・・,Antnで受信される受信信号との相関に対しても使用される。これは、アンテナ間の距離が短い場合は、各アンテナで受信される直接波信号に関するコード位相差は十分小さいことによる。アンテナ間距離としては、例えばAD変換部4でのサンプリング周波数が40MHzの場合は3m以内が好ましい。
【0016】
図2は、本発明の測位装置に係る追跡部200を示す構成説明図である。
この追跡部200は、アンテナ部1、増幅部2、RF部3、AD変換部4および相関部5の構成については上記初期捕捉部100と同一であり、その他に、送信機の位置、受信機の位置又はその他の姿勢情報に基づいて定められた拘束条件が課されたレプリカ信号を生成する第2レプリカ信号生成器6と、コード位相および搬送波位相を調整するNCO(数値制御発振器)7と、コード位相または搬送波位相の遅れ又は進みを検知し、レプリカ信号の位相を制御するDLLフィルタまたはPLLフィルタを有するフィルタ部8とを具備して構成される。なお、拘束条件については、図3を参照して後述する。
【0017】
この追跡部200は、初期捕捉モードにおいて、レプリカ信号と直接波信号との捕捉を完了した後、同期がズレないよう直接波信号に係るコード位相および搬送波位相の同期を保持する。
この追跡部200では、送信機の位置、各アンテナの位置または送信機と基準アンテナを結ぶ直線を基準とした時の各アンテナの方位角度から、基準アンテナで受信される直接波信号に対する他のアンテナで受信される直接波信号の位相差を推定する。ここで、送信機がGNSS衛星の場合は、衛星の位置は航法メッセージから計算され、対する各アンテナの位置は航法メッセージに記された電波の発信時刻と各アンテナの受信時刻とから算出される疑似距離を用いて算出される。従って、このようにして得られたGNSS衛星の位置と各アンテナの位置とから、送信機と基準アンテナを結ぶ直線に対する他のアンテナの方位角(偏角)を計算することが可能となる。その得られた方位角と基準アンテナに対する各アンテナ間距離を用いて直接波信号の位相差を推定することになる。なお、GNSS衛星と各アンテナとの距離が大きいため、疑似距離による測位誤差が大きい場合であっても、その誤差が方位角の計算精度に与える影響は殆ど無視することが出来る。
【0018】
他方、送信機がスードライト(疑似衛星)の場合は、送信機の位置は既知の場合が多いが、既知でない場合であっても、航法メッセージから知得することができる。また、基準アンテナの位置はGNSS衛星の場合と同様に疑似距離から算出する。更に、基準アンテナに対する各アンテナの変位ベクトルは既知であるから、各アンテナの位置は、基準アンテナの位置に各変位ベクトルを加えることにより計算することが出来る。このようにして得られたスードライトの位置と各アンテナの位置とから、スードライトから基準アンテナまでの基準距離と、スードライトから他のアンテナまでの各距離を計算し、基準距離と各距離との遅延距離を用いて直接波信号の位相差を推定することになる。ここで、留意すべきことは、GNSS衛星の場合と異なり、疑似距離の誤差が上記計算に影響するので、逐次計算による改良が必要な場合があるということである。また、スードライトが近くて疑似距離誤差の影響が特に大きい場合には外部から受信機の位置を与える必要がある。例えば地上にRFタグ等識別器を置いてサブメートルの誤差で位置を与えることが考えられる。
【0019】
第2レプリカ信号生成器6では、送信機の位置、受信機の位置および姿勢情報から、送信機信号の直接波に対する各アンテナ間のコード位相の差および搬送波位相の差を計算し、各アンテナで取得した信号に対してそれぞれ別のレプリカ信号を生成する。
【0020】
また、第2レプリカ信号生成器6では、各アンテナAnt0,Ant1,・・・,Antnで受信される直接波信号の位相を推定する。この推定は、2つのプロセスから成っている。先ず、各アンテナAnt0,Ant1,・・・,Antnで受信される直接波信号に係る搬送波の位相を推定するプロセスと、他は、同コードの位相を推定するプロセスである。搬送波の位相を推定するプロセスについては、図3および図4を参照しながら後述する。なお、コード位相を推定するプロセスについても後述することにする。
【0021】
図3は、基準アンテナAnt0と第kアンテナAntkにおいて受信される直接波間の搬送波の位相差を示す説明図である。なお、図の遅延距離LをはじめとするGNSS衛星、基準アンテナAnt0及び第kアンテナAntkの位置関係は、実際は3次元であるが、ここでは、説明の都合上、これらは2次元と仮定して説明する。
図から、遅延距離Lは、L=d*cos(E−θ)・・・・・(式1)
で計算され、その遅延距離Lに対応した、基準アンテナAnt0で受信される直接波信号と第kアンテナAntkで受信される直接波信号との搬送波の位相差φは、
φ=2π*d/λ*cos(E−θ)・・・・・(式2)
で与えられる。ここで、dは、基準アンテナAntkと第kアンテナAntkの位相中心の間隔である。また、Eは、水平線Hに対するGNSS衛星の仰角であり、θは水平線Hに対する第kアンテナの姿勢角である。
次に、基準アンテナAnt0で受信される直接波信号の搬送波の位相φを推定する。今、基準アンテナAnt0で受信される直接波信号に対するレプリカ信号についての同相成分および直交成分を、それぞれ
A*cosφ、A*sinφ(A:振幅)・・・・・(式3)
とすると、第kアンテナAntkで受信した直接波信号に対するレプリカ信号についての同相成分および直交成分は、それぞれ、
A*cos(φ+φ)、A*sin(φ+φ)(A:振幅、k=1,・・・,N)・・・・(式3)
とすることが出来る。
次に、(式3)のレプリカ信号と、各アンテナで受信される受信信号との相関をとり、これら相関値の和を求める。そして、φを変化させながら、相関和が最大となる時のφを基準アンテナAnt0で受信される直接波信号の搬送波の位相推定値φmとする。
次に、この位相推定値φmを基にして、第kアンテナ(k=1,・・・,N)で受信される直接波信号に対するレプリカ信号についての同相成分、直交成分は、それぞれ
A*cos(φm+φ)、A*sin(φm+φ)(A:振幅、k=1,・・・,N)
と求めることが出来る。従って、これらのレプリカ信号と、各アンテナで受信した受信信号との相関をとることにより、マルチパス信号、即ち、φm+φ+δの位相を持つ受信信号は、相関部5において排除され、一方、φmおよびφm+φ(k=1,・・・,N)の位相を有する受信信号は加算され増幅されることになる。なお、上記相関和を求める際に、アンテナ毎に重み付けを設定し、相関値に重み付けを掛けて相関和を求めても良い。
【0022】
ところで、基準アンテナAnt0で受信される直接波信号と第kアンテナ(k=1,・・・,N)で受信される直接波信号のコード位相差についても、上記搬送波の位相差と同様に計算することが出来るが、上述した通り、アンテナ間隔dが短ければ、各アンテナ(k=0,1,・・・,N)で受信される直接波信号のコード位相はほとんど変わらないので、単一のコード位相、例えば基準アンテナAnt0で受信される直接波信号のコード位相について生成されたレプリカ信号を使用することが出来る。
【0023】
図4は、送信機としてスードライトを使用する場合の基準アンテナAnt0と第kアンテナAntkにおいて受信される直接波間の搬送波の位相差を示す説明図である。
この場合は、各アンテナに到達する電波(直接波信号)は平行波とみなされないため、実際に基準アンテナとスードライトの距離ならびに第kアンテナとスードライトの距離との差から遅延距離Lを求めなければならない。各距離は、上述した通り、スードライトの位置、基準アンテナの位置、基準アンテナに対する各アンテナの変位ベクトルから求めることが出来る。遅延距離Lを求めた後の処理は、図3の場合と全く同様である。
【0024】
上記測位装置100によれば、直接波信号およびマルチパス信号が混信するフェーディング環境下であっても、複数のアンテナAnt0,Ant1,・・・,Antnを用いて、基準アンテナAnt0に対するGNSS衛星等の送信機の位置情報、並びに基準アンテナAnt0に対する他のアンテナAnt1,・・・,Antnの位置情報に基づいて、各アンテナで受信される直接波信号に係るコード位相および搬送波の位相を推定することができ、その推定結果をレプリカ信号に拘束条件として課し、そのレプリカ信号と各アンテナで受信される受信信号との相互相関をとることにより、各アンテナで受信される受信信号からマルチパス信号を好適に排除することが可能となり、その結果、直接波信号の信号強度が増幅され、測位精度が向上すると共に利用性も向上するようになる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の測位装置は、フェーディングによりGNSSの利用が一部制限されるような都市部で、GNSSの利用性と測位精度を向上させるため、自動車や歩行者のナビゲーションに有効である。また、本発明の測位装置をGNSSやスードライトを用いるインドア測位や建造物の多い領域で使用できる局所測位システム等に適用する場合、例えば、屋内での産業用/家庭用ロボットの位置決め、制御等の新しい技術分野、産業を創出することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の測位装置に係る初期捕捉部を示す構成説明図である。
【図2】本発明の測位装置に係る追跡部を示す構成説明図である。
【図3】基準アンテナと第kアンテナにおいて受信される直接波間の搬送波の位相差を示す説明図である。
【図4】送信機としてスードライトを使用する場合の基準アンテナと第kアンテナにおいて受信される直接波間の搬送波の位相差を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 アンテナ部
2 増幅部
3 RF部
4 AD変換部
5 相関部
6 第2レプリカ信号生成部
7 NCO
8 DLL、PLLフィルタ
9 第1レプリカ信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を受信する複数のアンテナと、該送信信号に対応したレプリカ信号を生成するレプリカ信号生成器と、前記送信信号と該レプリカ信号との相関をとる相関器とを備えた測位装置であって、一のアンテナを基準アンテナとした時の該基準アンテナに対する送信機の位置情報ならびに該基準アンテナに対する他のアンテナの位置情報に基づいて、前記送信信号からマルチパス信号を選択的に排除する拘束条件をアンテナ毎に定め、該拘束条件をアンテナ毎に生成される前記レプリカ信号に課し、該レプリカ信号と各アンテナで受信される送信信号との相関をとることにより、直接波信号の信号強度を増幅し、位置の推定精度および利用性を向上させたことを特徴とする測位装置。
【請求項2】
前記位置情報は、前記送信信号を送信する送信機および前記基準アンテナを結ぶ直線と該基準アンテナおよび他のアンテナを結ぶ直線との折り成す角度、並びに前記基準アンテナと他のアンテナとの距離である請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記レプリカ信号生成器は、直接波信号の符号についてのレプリカ信号を、一のアンテナで受信される受信信号に対してのみ生成し、且つ該レプリカ信号は他のアンテナで受信される受信信号に対しても使用される請求項1又は2に記載の測位装置。
【請求項4】
前記拘束条件は、前記基準アンテナで受信される送信信号と他のアンテナで受信される送信信号との遅延距離に対応した搬送波の位相差である請求項1から3の何れかに記載の測位装置。
【請求項5】
前記送信信号に対する初期捕捉モードにおいて、レプリカ信号の位相および周波数を変化させながら、全部または一部のアンテナで受信される受信信号と前記レプリカ信号との相関をとり、初期捕捉を行う請求項1から4の何れかに記載の測位装置。
【請求項6】
前記レプリカ信号生成器は、初期捕捉完了後の追跡モードにおいて、直接波信号の搬送波についての前記拘束条件が課されたレプリカ信号をアンテナ毎に生成する請求項1から5の何れかに記載の測位装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−271499(P2007−271499A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98619(P2006−98619)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度総務省委託契約に基づく「擬似準天頂衛星を用いた都市における高精度測位技術の研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(503107484)測位衛星技術株式会社 (15)
【Fターム(参考)】