説明

測位装置

【課題】移動する電波源に対しても高精度の測位を可能にする測位装置を提供する。
【解決手段】2機以上の衛星3,4を経由して複数の受信局5,6で受信される未知の電波源1,2からの信号間のTDOAとFDOAを用いて前記電波源の位置を推定する測位装置であって、測位装置の信号・情報処理装置7が、TDOAとFDOAを複数回計測するとともに、電波源が等速直線運動するものと仮定し、電波源の初期位置と速度を未知変数とする、前記TDOAとFDOAに関する方程式を前記TDOAとFDOAの複数回の計測結果に従って解き、前記電波源の初期位置と速度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の衛星を経由して受信局で受信される、未知の電波源からの電波間の到来時間差(TDOA:Time Difference of Arrival)と到来周波数差(FDOA:Frequency Difference of Arrival)を用いて電波源の位置を推定する測位装置、特に移動する電波源に対しても高精度の測位を可能にする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛星を用いて地上の電波源の位置を測位する装置として、例えば下記特許文献1に記載されたような装置があった。この装置は、衛星を用いた電波源測位の高精度化に関するものであるが、測位原理そのものは、図6に示すように、測位対象である地上電波源51からの信号を、送信アンテナの主ローブからの信号を受信する衛星52と、送信アンテナのサイドローブからの信号を受信する衛星53を通して地上受信局54と55で受信し、信号処理装置56内でこれらの信号間の到来時間差(TDOA:Time Difference of Arrival)と到来周波数差(FDOA:Frequency Difference of Arrival)を求め、地表における等TDOA曲線57と等FDOA曲線58の交点から電波源51の位置を特定するというものである。
【0003】
TDOAは、2機の衛星52,53を介する経路差によるものであるから、目標(地上)電波源51と2機の衛星52,53と受信局54、55の位置関係により決まる。また、FDOAは、目標電波源51が静止しているものとすれば、衛星52,53の運動のドップラーシフトのみによるものであるから、目標電波源と2機の衛星52,53と受信局54,55の位置関係と、2機の衛星52,53の運動方向と速度に依存する。従って、2機の衛星52,53の位置と速度の三次元要素が既知であるとして、目標電波源51の位置を特定することができる。
【0004】
【特許文献1】特許第3556952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の測位方式は、目標電波源が静止していることを前提としてFDOAを計測するため、電波源が船舶に設置されている場合などで未知の速度で移動する場合には、FDOAに地上局の移動によるドップラーシフトが加わり、これが誤差要因となって測位精度が大幅に劣化してしまうという問題があった。
【0006】
この発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、移動する電波源に対しても高精度の測位を可能にする測位装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、2機以上の衛星を経由して複数の受信局で受信される未知の電波源からの信号間のTDOAとFDOAを用いて前記電波源の位置を推定する測位装置であって、測位装置の信号・情報処理装置が、TDOAとFDOAを複数回計測するとともに、電波源が等速直線運動するものと仮定し、電波源の初期位置と速度を未知変数とする、前記TDOAとFDOAに関する方程式を前記TDOAとFDOAの複数回の計測結果に従って解き、前記電波源の初期位置と速度を算出することを特徴とする測位装置にある。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、移動する電波源に対しても高精度の測位を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の一実施の形態による測位装置の全体構成を示す図である。図1において、1は測位対象である移動電波源、2は一定時間後の前記移動電波源、3は電波源(1,2)からの主電波を中継する第1の衛星、4は電波源からのサイドローブ電波を中継する第2の衛星、5と6はそれぞれ衛星3,4からの電波を受信する地上受信局、7は受信局の信号から電波源位置を計算する信号・情報処理装置である。
【0010】
図2は信号・情報処理装置7の内部構成を示す図を示す。11は低雑音増幅手段、12は周波数変換手段、13はA/D変換手段、14はローカル信号発生手段、15はA/D変換のためのクロック・トリガ信号発生手段、16はTDOA/FDOA計算手段、17は記憶手段、18は衛星軌道計算手段、19は測位計算手段である。
【0011】
次に動作について説明する。図1に示すように、測位目標である移動電波源(1,2)は、第1の衛星3に向けて電波を送信する。また、この電波は、アンテナ指向特性により意図しない方向(サイドローブ)にも弱い電力で送信され、第2の衛星4によっても受信される。第1の衛星3と第2の衛星4によってそれぞれ受信された信号は、周波数変換されて再送信され、それぞれ地上受信局5と地上受信局6によって受信される。これらの受信信号は信号・情報処理装置7によって処理されて電波源位置の測位結果が出力部に出力または表示部に表示(共に図示省略)される。
【0012】
次に信号・情報処理装置7の内部処理について説明する。通信衛星等の衛星3と4から得られる受信信号は、それぞれ別々の低雑音増幅手段11により増幅され、別々の周波数変換手段12によりIF信号(中間周波:Intermediate Frequency)かベースバンド信号に変換された後、別々のA/D変換手段13によりディジタル信号に変換される。
【0013】
これらの周波数変換手段12に供給されるローカル信号と、A/D変換手段13に供給されるクロック信号やトリガ信号は、共通のローカル信号発生手段14や共通のクロック・トリガ信号発生手段15によって供給する。但し、2機の地上受信局5と6が離れている場合には、原子時計やGPS標準信号発生器などを用いた同期手段や、ディジタル処理によるものを含む補正手段を用いて、個別にローカル信号やクロック・トリガ信号が供給されてもよい。
【0014】
ディジタル信号に変換された2機の衛星3,5からの受信信号は、TDOA/FDOA計算手段16に入力され、両信号間のTDOA(到来時間差)とFDOA(到来周波数差)が計算される。受信信号の取得とTDOA、FDOAの計算は一定時間毎、または不定期的に複数回行い、観測ごとのTDOAとFDOAを記憶手段17に格納する。
【0015】
TDOAとFDOAの計算は、例えば次に示す相関演算を用いて行うことができる。
【0016】
【数1】

【0017】
上記式(1)において、S(t)は第1の衛星3からの受信信号であり、S(t)は第2の衛星4からの受信信号である。τとfを変えながら上記式(1)を計算し、上記式(1)の絶対値が最も大きくなるτとfが求めるべきTDOAとFDOAである。
【0018】
一方、衛星軌道計算手段18は、TDOAとFDOA受信信号データ取得時における2機の衛星3,4の位置と速度を計算する。これは、衛星事業者等から得た衛星の軌道情報から計算することができる。衛星の軌道情報は図2のAに示すように衛星軌道計算手段18に直接入力されるようにしてもよく、また予め所定のメモリ(図示省略)に格納しておいてもよい。また、上述の特許文献1に示されている方法を用いることもできる。
【0019】
測位計算手段19は、衛星軌道計算手段18から得た2機の衛星3,4の位置と速度の情報と、記憶手段17に格納されている複数回計測したTDOAとFDOAを用いて、目標電波源(1,2)の位置と速度を計算する。
【0020】
位置と速度の計算は、複数回のTDOAとFDOAを計測している間は電波源(1,2)が等速直線運動をしているものと仮定し、最初のTDOAとFDOAを計測した時点の初期位置と速度を未知変数として、次の連立方程式を解く。
【0021】
【数2】

【0022】
上記連立方程式(2)において、「・」はベクトルの内積を表し、二重の| |はベクトルの長さ、すなわち二乗のノルムを表す。また、各変数の意味は以下のとおりである。
τ(k):k回目の計測時の観測TDOA
(k):k回目の計測時の観測FDOA
τD(k):k回目の計測時のダウンリンクTDOA
D(k):k回目の計測時のダウンリンクFDOA
(→)P(k):k回目の計測時の目標電波源の位置ベクトル
(→)v:目標電波源の速度ベクトル(kによらず不変)
(→)PS1(k):k回目の計測時の第1の衛星の位置ベクトル
(→)vS1(k):k回目の計測時の第1の衛星の速度ベクトル
(→)PS2(k):k回目の計測時の第2の衛星の位置ベクトル
(→)vS2(k):k回目の計測時の第2の衛星の速度ベクトル
c:光速
λ:アップリンク時の波長
K:総計測回数
【0023】
上記の変数のうち、観測TDOAと観測FDOAはTDOA/FDOA計算手段16から得るため既知変数である。
また、ダウンリンクTDOAとダウンリンクFDOAは、衛星軌道計算手段18から得る衛星3,4の位置、速度と、既知である地上受信局5,6の位置から計算する。従ってこれも既知変数である。なお、地上受信局5,6の位置は測位計算手段19に予め設定されているか、又はメモリ(図示省略)に格納させておくか、又は例えば図2にBで示すように外部から入力する。
また、目標電波源の位置ベクトルは、2回目以降の計測時は次式で計算できる。
【0024】
【数3】

【0025】
上記式(3)において、t(k)はk回目の計測時の時刻である。
上記式(3)を連立方程式(2)に代入すれば、目標電波源(1,2)の位置ベクトルは初回計測時のP(1)のみを未知変数とすることができる。しかも、移動電波源(1,2)として船舶や車輌を仮定する場合、電波源(1,2)は地表(地球表面)に存在するから、高さ方向(Z方向)を0(座標原点は地上にあるとする)とすることができ、水平面内の成分であるx(1)とy(1)のみが未知変数となる。
【0026】
また、目標電波源(1,2)の速度ベクトルは、等速直線運動を仮定しているため、計測回によらず一定値であり、しかも移動電波源(1,2)として船舶や車輌を仮定するならば高さ方向(Z方向)は0なので、水平面内の成分であるVxとVyのみが未知変数となる。
【0027】
衛星3,4の位置と速度は衛星軌道計算手段18から得るため既知であり、計測時刻や光速、アップリンク時の波長も既知である。従って、未知変数は目標電波源の初回計測時の位置ベクトルの水平成分[x(1),y(1)]と、速度ベクトルの水平成分[Vx,Vy]の4個となる。
【0028】
一方、上記連立方程式(2)の数は、2回計測すれば4個の式からなる連立方程式となるので、未知変数の数との関係から方程式が解けるようになり、目標電波源の初回計測時の位置ベクトルと速度ベクトルを求めることができる。また、3回以上計測した場合、未知変数の数より多数の方程式が得られるので、最小二乗原理を用いて、より正確に目標電波源の位置ベクトルと速度ベクトルを求めることができる。
【0029】
以上のように、この実施の形態は、電波源が等速直線運動すると仮定するとともに、複数回計測したTDOAとFDOAを用いて測位計算するため、電波源が移動する場合においても電波源の位置と速度を推定することができるという従来方式には無い最大の特長がある。
【0030】
また、TDOAとFDOAを複数回計測するだけなので、衛星受信設備等は従来と同等でよく、信号・情報処理装置のみの変更で可能という特長もある。特に、測位計算をソフトウェアで実現している場合にはソフトウェアの変更のみで実現できる。
【0031】
実施の形態2.
以上の実施の形態1では、移動電波源が等速直線運動しているものと仮定して電波源の位置と速度を推定するものであるが、この実施の形態は、移動電波源が、地球の表面に沿った等速直線運動、すなわち地球を中心とする円運動をしているものと仮定するものである。
【0032】
複数回計測したTDOAとFDOAに関する上記連立方程式(2)を精度よく解くためには、なるべく各方程式が独立している方がよい。衛星が静止衛星の場合、衛星の位置と速度が24時間周期で変化するため、独立した方程式を得るためには数時間以上にわたってTDOAとFDOAの計測を繰り返す必要がある。この間に船舶(電波源)は数十km以上進むため、地表の球面性を無視できなくなることがある。そこでこの実施の形態では、移動電波源が地球の表面に沿った等速直線運動するものと仮定する。
【0033】
実施の形態1とこの実施の形態2の違いは、測位計算法のみである。従って、測位装置の構成は実施の形態1のものと基本的に同じであり、測位計算法のみについて説明する。
【0034】
以下、この実施の形態の動作について説明する。測位計算において、この実施の形態では、移動電波源(1,2)が地球を中心とする円運動を仮定するものである。この場合、測位計算に用いる座標系は地球中心の固定座標系を用いるのが都合よい。この座標系における地表(地球表面)に沿って等速運動する電波源(1,2)の速度ベクトルV(k)は、次式に示すように、位置ベクトルP(k)と速度ベクトルV(k)に垂直な角速度ベクトルωを用いて表すことができる。
【0035】
【数4】

【0036】
但し、上式において「×」はベクトルの外積を表す。
【0037】
図3に電波源の位置ベクトルと速度ベクトル、および角速度ベクトルの関係を示す。図3において、21は地球中心、22は角速度ベクトル、23はk回目の計測時の電波源の位置ベクトル、24はk回目の計測時の電波源の速度ベクトルである。
【0038】
電波源が地表上を等速直線運動する場合、角速度ベクトル22は、kによらず一定となる。従って各要素は次のようにkによらない値で次式のように表されるものとする。
【0039】
【数5】

【0040】
また、次に示すように、2回目以降の計測時の電波源の位置ベクトルP(k)(k=2,3,・・・,K)は、初回の計測時の位置ベクトルP(1)と角速度ベクトルωを用いて次式のように表すことができる。
【0041】
【数6】

【0042】
一方、測位計算に必要な条件は次式となる。
【0043】
【数7】

【0044】
但し、上記連立方程式(7)においてRは地球の平均半径である。
【0045】
上記連立方程式(7)の3番目の式は、電波源が地表上にあることを保証するための式である。また、4番目の式は、角速度ベクトルが電波源の位置ベクトルと垂直であることを保証するための式である。
【0046】
電波源の位置ベクトルP(k)に上記式(6)、速度ベクトルV(k)に上記式(4)と式(6)を代入することによって、連立方程式(7)は、初回の計測時の位置ベクトルP(1)と角速度ベクトルωを用いて表すことができる。
【0047】
従って、未知変数は電波源の初回計測時の位置ベクトルP(1)=[x(1),y(2),z(3)]と、kによらず一定である角速度ベクトルω=[u,v,w]の計6個となる。
【0048】
一方、連立方程式(7)の方程式の数は、総計測回数をKとして2K+2個となる。従って、2回計測すれば6個の式からなる連立方程式となるので、未知変数の数との関係から方程式が解けるようになり、目標電波源の初回計測時の位置ベクトルと速度ベクトルを求めることができる。また、3回以上計測した場合、未知変数の数より多数の方程式が得られるので、最小二乗原理を用いて、より正確に目標電波源の位置ベクトルと速度ベクトルを求めることができる。
【0049】
この実施の形態は、電波源が地表に沿って等速運動すると仮定するとともに、複数回計測したTDOAとFDOAを用いて測位計算するため、電波源が移動する場合においても電波源の位置と速度を推定することができるという特長がある。また、電波源が地表に沿って等速運動すると仮定するため、単なる等速直線運動と仮定する場合に比べ、計測時間が長時間になり電波源が大幅に移動する場合にも適用できるという利点がある。
【0050】
なお、この実施の形態では地球を球体であるとして測位計算を行ったが、楕円体として計算することもできる。その場合、より精密に電波源位置と速度を求めることができるという利点がある。
【0051】
実施の形態3.
以上の実施の形態1では、2機の衛星を用いて移動電波源の位置と速度を推定するものであるが、この実施の形態は、3機以上の衛星を用い、計測毎にTDOAとFDOAを計算する衛星の組み合わせを変えるというものである。
【0052】
図4はこの実施の形態による測位装置の全体構成を示す図である。図4において、31は測位対象である移動電波源、32は一定時間後の前記移動電波源、33は電波源からの主電波を中継する第1の衛星、34は電波源からのサイドローブ電波を中継する第2の衛星、35は電波源からのサイドローブ電波を中継する第3の衛星、36は第1の衛星33からの電波を受信する地上受信局、37は第2の衛星34と第3の衛星35からの電波を計測ごとに切り替えて受信する地上受信局、38は受信局の信号から電波源位置を計算する信号・情報処理装置である。なお、信号・情報処理装置38の構成は基本的には図2に示したものと同様である。
【0053】
次に動作について説明する。複数回計測したTDOAとFDOAに関する連立方程式(2)または(7)を精度よく解くためには、各方程式がなるべく独立している方がよい。しかし、衛星が静止衛星の場合、衛星の位置と速度が24時間周期で変化するため、独立した方程式を得るためにはTDOAとFDOAの計測間隔は数時間程度にする必要がある。数時間にわたり計測する間に、目標電波源(31,32)である船舶等が加減速を行ったり、方向の転換をしたりすると、実施の形態1で仮定した等速直線運動や、実施の形態2で仮定した地表に沿った等速運動とみなせなくなるという問題がある。
【0054】
そこでこの実施の形態は、計測毎に、地上受信局(例えば37)のアンテナの向きを変えるなどして、サイドローブ電波を受信する衛星を別の衛星に切り替える。すなわち衛星34,35の間で切り替える。例えば図4に示すように、ある回の計測には第1の衛星33と第2の衛星34との組み合わせでTDOAとFDOAを計測し、次の計測には第1の衛星33と第3の衛星35との組み合わせでTDOAとFDOAを計測する。
【0055】
測位計算は、実施の形態1の式(2)や実施の形態2の式(7)において、TDOAとFDOAの計測に用いた当該衛星の位置と速度を代入するだけで、実施の形態1や実施の形態2と同様に行うことができる。
【0056】
このように衛星を切り替えることによって衛星の位置と速度が変わるため、受信局のアンテナの向きを変える程度の短時間の間隔でTDOAとFDOAの計測を行っても独立性の高い方程式が得られる。そのため、短時間のうちに計測を行うことができ、電波源を搭載した船舶等が加減速や方向の転換を行い、等速直線運動とみなせる時間が短い場合にも電波源の位置と速度を推定しやすくなるという利点がある。
【0057】
また、この実施の形態では地上受信局は2機だけを用いて衛星を切り替えたが、3機の受信局を用いることができる場合、2組のTDOAとFDOAを同時に計測してもよい。その場合、1回の計測で目標電波源の位置と速度を推定できるという利点がある。また、図2の低雑音増幅手段11、周波数変換手段12、A/D変換手段13はそれぞれ例えば、地上受信局数分設けられる。
【0058】
実施の形態4.
実施の形態1、2では、1回の測位計算に用いる複数回のTDOAとFDOAの計測中に目標電波源が等速直線運動していることを仮定しているため、目標電波源が加減速を行ったり、方向を転換したりすると測位精度が劣化する可能性がある。この実施の形態は、それに対処する方策である。
【0059】
図5はこの実施の形態の概要を説明するための図である。41は目標電波源の移動軌跡、42は(m−4)回目(mは目標電波源が移動方向を変える瞬間のTDOA/FDOA計測回)のTDOA/FDOA計測時における目標電波源の位置、43は(m−3)回目のTDOA/FDOA計測時における目標電波源の位置、44は(m−2)回目のTDOA/FDOA計測時における目標電波源の位置、45は(m−1)回目のTDOA/FDOA計測時における目標電波源の位置、46はm回目のTDOA/FDOA計測時における目標電波源の位置、47は(m−4)、(m−3)、(m−2)回目に計測のTDOAとFDOAのセットを用いて計算した測位結果、48は(m−3)、(m−2)、(m−1)回目に計測のTDOAとFDOAのセットを用いて計算した測位結果、49は(m−2)、(m−1)、m回目に計測のTDOAとFDOAのセットを用いて計算した測位結果、50は48の測位結果と49の測位結果の差である。
【0060】
次に動作について説明する。この実施の形態では、実施の形態1や実施の形態2に示した測位計算を、TDOAとFDOAの計測結果を重複させながら時系列的に行う。例えば図4に示すように、測位計算を、(m−4)と(m−3)と(m−2)回目に計測のTDOAとFDOAを用いて行った後に、次回の計算は(m−3)と(m−2)と(m−1)回目に計測のTDOAとFDOA用いて行う。
【0061】
重複するTDOAとFDOAのセットを用いて測位計算した結果同士は、目標電波源が等速直線運動していれば、図5の47と48のように測位計算結果が一致する。
【0062】
一方、測位計算したTDOAとFDOAのセットの中に、目標電波源が移動方向を変更したり、加減速した瞬間が含まれると、図5の49の測位計算結果のように、それまで等速直線運動していた場合の測位計算結果48と一致しない。
【0063】
このように、重複するTDOAとFDOAのセットを用いて計算した測位結果を比較し、ある一定以上の差がある場合にはその間に目標電波源が移動方向を変更したり加減速した可能性があると判断し、正しくないと思われる測位結果を棄却する。
【0064】
このようにこの実施の形態によると、目標電波源の移動が等速直線運動から外れた瞬間を検出できるため、目標電波源の移動が等速直線運動から外れる瞬間があっても、等速直線運動部分のみを選択して正しい測位結果を出力できるという利点がある。
【0065】
なお、上記説明では測位装置について説明してきたが、この発明は、これらの測位装置で行われる測位方法も含み得ることは云うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】この発明の一実施の形態による測位装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1の信号・情報処理装置の内部構成を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係わる電波源の位置ベクトル、速度ベクトル、角速度ベクトルの関係を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態3による測位装置の全体構成を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態4による測位装置の概要を説明するための図である。
【図6】従来のこの種の測位方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0067】
1,2,31,32 移動電波源、3,4,33,34,35 衛星、5,6,36,37 地上受信局、7,38 信号・情報処理装置、11 低雑音増幅手段、12 周波数変換手段、13 A/D変換手段、14 ローカル信号発生手段、15 クロック・トリガ信号発生手段、16 TDOA/FDOA計算手段、17 記憶手段、18 衛星軌道計算手段、19 測位計算手段、22 角速度ベクトル、23 電波源の位置ベクトル、24 電波源の速度ベクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2機以上の衛星を経由して複数の受信局で受信される未知の電波源からの信号間のTDOAとFDOAを用いて前記電波源の位置を推定する測位装置であって、
測位装置の信号・情報処理装置が、
TDOAとFDOAを複数回計測するとともに、電波源が等速直線運動するものと仮定し、電波源の初期位置と速度を未知変数とする、前記TDOAとFDOAに関する方程式を前記TDOAとFDOAの複数回の計測結果に従って解き、前記電波源の初期位置と速度を算出することを特徴とする測位装置。
【請求項2】
2機以上の衛星を経由して複数の受信局で受信される未知の電波源からの信号間のTDOAとFDOAを用いて前記電波源の位置を推定する測位装置であって、
測位装置の信号・情報処理装置が、
TDOAとFDOAを複数回計測するとともに、電波源が地球の表面に沿って等速運動するものと仮定し、電波源の初期位置と速度、または初期位置と地球を中心とする角速度を未知変数とする、前記TDOAとFDOAに関する方程式を前記TDOAとFDOAの複数回の計測結果に従って解き、前記電波源の初期位置と速度を算出することを特徴とする測位装置。
【請求項3】
TDOAとFDOAを複数回計測する際に、計測毎に異なる組み合わせの衛星からの信号を使用し、TDOAとFDOAに関する方程式の独立性を高め、電波源の位置と速度を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の測位装置。
【請求項4】
複数回計測のTDOAとFDOAの組み合わせを、一部重複させた異なる組み合わせで測位計算を行い、その測位計算結果を比較して測位計算結果の妥当性を判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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