説明

測定子、及び真円度測定機

【課題】測定の精度や、分解能を低下させることなく、心出しの作業にかかる時間を短縮することができる測定子の提供。
【解決手段】測定子2は、筒状部材3と、棒状部材4と、押圧部材5とを備える。筒状部材3は、先端に開口3Aを有する角筒状に形成される。この筒状部材3の内側面における先端側には、凸部31が形成されている。棒状部材4は、被測定物に接触させる接触子4Aを先端側に有する角棒状に形成され、基端側が筒状部材3の開口3Aから筒状部材3の内部に収納される。この棒状部材4の先端側には、凸部31に嵌合される第1凹部41が形成され、基端側には、凸部31に嵌合される第2凹部42が形成されている。押圧部材5は、筒状部材3の内側面における凸部31と対向する位置に設けられ、棒状部材4を凸部31に向かって押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定子、及び真円度測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周面を有する被測定物に接触させる接触子を先端側に有するとともに、被測定物の周面における接線方向を軸方向とする回転軸まわりに基端側が回動自在に支持される棒状の測定子を備え、接触子を被測定物の周面に接触させた状態で被測定物を周面に沿って回転させて被測定物の周面の真円度を測定する真円度測定機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の真円度測定機は、ワーク(被測定物)に接触させる測定子と、ワークを載置する求心テーブルとを備え、求心テーブルを回転させることによって、ワークを周面に沿って回転させてワークの周面の真円度を測定している。
【0003】
図3は、従来の真円度測定機に用いられる測定子10を示す模式図である。
測定子10は、図3に示すように、周面を有するワークに接触させる接触子10Aを先端側に有するとともに、ワークの周面における接線方向(図3中紙面垂直方向)を軸方向とする回転軸Oまわりに基端側が回動自在に支持される棒状とされている。
そして、接触子10Aをワークの周面に接触させた状態でワークを周面に沿って回転させると、接触子10Aは、ワークの周面の凹凸によってワークの周面に対して進退することとなるので、真円度測定機は、進退する接触子10Aの変位を検出することで、ワークの周面の真円度を測定することができる。
ここで、接触子10Aを変位させることができる範囲A(以下、測定範囲とする)は、数mm程度と非常に小さいので、ワークの中心軸と、求心テーブルの回転軸との間の心ずれ量が測定範囲よりも大きい場合には、ワークを適切に測定することができなくなるという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の真円度測定機では、ワークの周面の真円度を測定する際に、ワークの中心軸と、求心テーブルの回転軸とを一致させる心出しを行っている。
この心出しでは、まず、真円度測定機の使用者は、目視によりワークを求心テーブルの中心位置に載置する。次に、真円度測定機は、ワークの周面の真円度を測定することによって、ワークの中心軸と、求心テーブルの回転軸との心ずれ量を算出し、この心ずれ量に基づいて、ワークの中心軸と、求心テーブルの回転軸とを一致させる。これによれば、真円度測定機は、ワークの中心軸と、求心テーブルの回転軸とを高い精度で一致させることができ、ワークを高い感度で測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−201340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の真円度測定機では、ワークの周面の真円度を測定することで心出しをしているので、真円度測定機の使用者は、目視によりワークを求心テーブルの中心位置に載置するときに、心ずれ量が測定範囲よりも小さくなるように載置しなければならず、作業に時間がかかるという問題がある。
ここで、測定子を長くして測定範囲を大きくすることによって、心出しの作業にかかる時間を短縮することも考えられる。しかしながら、測定子を長くすると、測定子の剛性が低下して測定の精度が低下するという問題がある。また、測定範囲を大きくすると、測定の分解能が低下するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、測定の精度や、分解能を低下させることなく、心出しの作業にかかる時間を短縮することができる測定子、及び真円度測定機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の測定子は、周面を有する被測定物に接触させる接触子を先端側に有するとともに、前記被測定物の周面における接線方向を軸方向とする回転軸まわりに基端側が回動自在に支持される棒状の測定子を備え、前記接触子を前記被測定物の周面に接触させた状態で前記被測定物を周面に沿って回転させて前記被測定物の周面の真円度を測定する真円度測定機に用いられる測定子であって、前記測定子の軸方向に沿って前記測定子を伸縮自在とする伸縮機構を備え、前記伸縮機構は、前記測定子を所定の長さとする位置で固定する第1固定手段と、前記測定子を前記所定の長さよりも長くする位置で固定する第2固定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、伸縮機構は、第1固定手段と、第2固定手段とを備えるので、被測定物を測定するときに第1固定手段にて測定子を固定し、心出しをするときに第2固定手段にて測定子を固定することができる。これによれば、心出しをするときの測定子の長さを、被測定物を測定するときの測定子の長さと比較して長くすることができるので、測定の精度や、分解能を低下させることなく、心出しの作業にかかる時間を短縮することができる。
【0010】
本発明では、前記伸縮機構は、先端に開口を有する筒状に形成され、前記回転軸回りに基端側が回動自在に支持される筒状部材と、先端側に前記接触子を有する棒状に形成され、基端側が前記筒状部材の開口から前記筒状部材の内部に収納される棒状部材とを備え、前記第1固定手段は、前記筒状部材の内側面における先端側に形成される凸部と、前記棒状部材の先端側に形成され、前記凸部に嵌合される第1凹部と、前記筒状部材の内側面における前記凸部と対向する位置に設けられ、前記棒状部材を前記凸部に向かって押圧する押圧部材とで構成され、前記第2固定手段は、前記凸部と、前記棒状部材の基端側に形成され、前記凸部に嵌合される第2凹部と、前記押圧部材とで構成されることが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、伸縮機構を、筒状部材と、棒状部材とで構成することができ、第1固定手段、及び第2固定手段を、筒状部材の凸部と、棒状部材の第1凹部、及び第2凹部と、押圧部材とで構成することができる。したがって、本発明によれば、簡素な構成で、測定の精度や、分解能を低下させることなく、心出しの作業にかかる時間を短縮することができる。
【0012】
本発明では、前記筒状部材の基端は、閉塞され、前記筒状部材の基端と、前記棒状部材の基端とを接続するバネ部材を備え、前記バネ部材は、前記第1固定手段、及び前記第2固定手段にて前記測定子を固定している状態で前記測定子を縮長させる方向に応力を生じることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、バネ部材は、第1固定手段にて測定子を固定している状態で測定子を縮長させる方向に応力を生じるので、筒状部材の凸部と、棒状部材の第1凹部との嵌合状態が被測定物を測定するときの衝撃などの影響で解除された場合に測定子を縮長させることができる。したがって、被測定物や、測定子の破損を防止することができる。
また、本発明によれば、バネ部材は、第2固定手段にて測定子を固定している状態で測定子を縮長させる方向に応力を生じるので、筒状部材の凸部と、棒状部材の第2凹部との嵌合状態を解除することで測定子を縮長させることができる。そして、測定子を縮長させることで筒状部材の凸部と、棒状部材の第1凹部とを自動的に嵌合させることができるので、第1固定手段にて測定子を容易に固定することができる。
【0014】
本発明の真円度測定機は、前述した測定子を備え、前記接触子を前記被測定物の周面に接触させた状態で前記被測定物を周面に沿って回転させて前記被測定物の周面の真円度を測定することを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、真円度測定機は、前述した測定子を備えるので、前述した測定子と同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る真円度測定機に用いられる測定子を示す模式図。
【図2】前記実施形態における測定子の詳細構成を示す模式図。
【図3】従来の真円度測定機に用いられる測定子を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る真円度測定機1に用いられる測定子2を示す模式図である。
真円度測定機1は、図1に示すように、周面を有する被測定物(図示略)に接触させる測定子2と、被測定物を載置するテーブル(図示略)とを備え、測定子2を被測定物の周面に接触させた状態でテーブルを回転させることによって、被測定物を周面に沿って回転させて被測定物の周面の真円度を測定するものである。なお、真円度測定機1は、測定子2の構成を除き、特許文献1に記載の真円度測定機と同様の構成とされている。以下、測定子2の構成について詳細に説明する。
【0018】
図2は、測定子2の詳細構成を示す模式図である。
測定子2は、先端に開口3Aを有するとともに、基端が閉塞される角筒状に形成される筒状部材3と、被測定物に接触させる接触子4Aを先端側に有する角棒状に形成される棒状部材4と、筒状部材3の内部に設けられる押圧部材5、及びバネ部材6とを備える。なお、図2では、説明のために筒状部材3を透視している。
【0019】
筒状部材3は、被測定物の周面における接線方向(図2中紙面垂直方向)を軸方向とする回転軸O(図1参照)まわりに基端側が回動自在に支持されている。この筒状部材3の内側面における先端側には、凸部31が形成されている。
凸部31は、筒状部材3の先端側に向かうに従って突出するように傾斜する傾斜面311と、筒状部材3の軸方向と直交する平面312とを有する断面三角形状に形成されている。
【0020】
棒状部材4は、基端側が筒状部材3の開口3Aから筒状部材3の内部に収納される。この棒状部材4の先端側には、凸部31に嵌合される第1凹部41が形成され、基端側には、凸部31に嵌合される第2凹部42が形成されている。
第1凹部41、及び第2凹部42は、棒状部材4の先端側に向かうに従って深くなるように傾斜する傾斜面411、及び傾斜面421と、棒状部材4の軸方向と直交する平面412、及び平面422とを有する断面略三角形状に形成されている。
【0021】
押圧部材5は、筒状部材3の内側面における凸部31と対向する位置に設けられ、棒状部材4を凸部31に向かって押圧する部材である。この押圧部材5は、板状に形成され、棒状部材4に当接する板状部材51と、板状部材51、及び筒状部材3の内側面を接続するコイルバネ52とを備える。
バネ部材6は、筒状部材3の基端と、棒状部材4の基端とを接続するコイルバネであり、凸部31と、第1凹部41とを嵌合させた状態(図2(A)参照)、及び凸部31と、第2凹部42とを嵌合させた状態(図2(B)参照)で測定子2を縮長させる方向に応力を生じる。
【0022】
次に、測定子2を用いて被測定物を測定する場合、及び心出しをする場合について説明する。
測定子2を用いて被測定物を測定する場合には、図2(A)に示すように、凸部31と、第1凹部41とを嵌合させた状態で被測定物を測定する。すなわち、本実施形態では、測定子2を所定の長さとする位置で固定する第1固定手段を、凸部31と、第1凹部41と、押圧部材5とで構成している。
また、測定子2を用いて心出しをする場合には、図2(B)に示すように、凸部31と、第2凹部42とを嵌合させた状態で心出しをする。すなわち、本実施形態では、測定子2を所定の長さよりも長くする位置で固定する第2固定手段を、凸部31と、第2凹部42と、押圧部材5とで構成している。
【0023】
真円度測定機1の使用者は、第1固定手段にて測定子2を固定している状態では、凸部31と、第1凹部41との嵌合状態を解除するように(図2中左方向に)棒状部材4を移動させた後、棒状部材4を筒状部材3から引き出し、凸部31と、第2凹部42とを嵌合させることによって、第2固定手段にて測定子2を固定している状態とすることができる。
【0024】
また、真円度測定機1の使用者は、第2固定手段にて測定子2を固定している状態では、凸部31と、第2凹部42との嵌合状態を解除するように(図2中左方向に)棒状部材4を移動させた後、棒状部材4から手を放すことによって、第1固定手段にて測定子2を固定している状態とすることができる。具体的に、棒状部材4は、バネ部材6の応力で筒状部材3の内部に収納されるとともに、押圧部材5にて凸部31に向かって押圧されるので、凸部31の平面312と、第1凹部41の平面412とを当接させることができ、凸部31と、第1凹部41とを自動的に嵌合させることができる。
すなわち、本実施形態では、筒状部材3と、棒状部材4とで伸縮機構を構成し、測定子2の軸方向に沿って測定子を伸縮自在としている。
【0025】
このような本実施形態によれば以下の効果がある。
(1)真円度測定機1は、測定子2を備え、測定子2は、被測定物を測定するときに第1固定手段にて測定子2を固定し、心出しをするときに第2固定手段にて測定子2を固定することができる。これによれば、心出しをするときの測定子2の長さを、被測定物を測定するときの測定子2の長さと比較して長くすることができるので、測定の精度や、分解能を低下させることなく、心出しの作業にかかる時間を短縮することができる。
(2)伸縮機構は、筒状部材3と、棒状部材4とで構成され、第1固定手段、及び第2固定手段は、筒状部材3の凸部31と、棒状部材4の第1凹部41、及び第2凹部42と、押圧部材5とで構成されているので、簡素な構成で、測定の精度や、分解能を低下させることなく、心出しの作業にかかる時間を短縮することができる。
【0026】
(3)バネ部材6は、第1固定手段にて測定子2を固定している状態で測定子2を縮長させる方向に応力を生じるので、筒状部材3の凸部31と、棒状部材4の第1凹部41との嵌合状態が被測定物を測定するときの衝撃などの影響で解除された場合に測定子2を縮長させることができる。したがって、被測定物や、測定子2の破損を防止することができる。
(4)バネ部材6は、第2固定手段にて測定子2を固定している状態で測定子2を縮長させる方向に応力を生じるので、筒状部材3の凸部31と、棒状部材4の第2凹部42との嵌合状態を解除することで測定子2を縮長させることができる。そして、測定子2を縮長させることで筒状部材3の凸部31と、棒状部材の第1凹部41とを自動的に嵌合させることができるので、第1固定手段にて測定子を容易に固定することができる。
【0027】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、伸縮機構は、筒状部材3と、棒状部材4とで構成されていたが、他の部材で構成されていてもよい。要するに、伸縮機構は、測定子の軸方向に沿って測定子を伸縮自在とする機構であればよい。
【0028】
前記実施形態では、第1固定手段、及び第2固定手段は、筒状部材3の凸部31と、棒状部材4の第1凹部41、及び第2凹部42と、押圧部材5とで構成されていたが、他の構成を採用してもよい。すなわち、第1固定手段は、測定子を所定の長さとする位置で固定する手段であればよく、第2固定手段は、測定子を所定の長さよりも長くする位置で固定する手段であればよい。また、前記実施形態では、凸部31、第1凹部41、及び第2凹部42は、断面略三角形状に形成されていたが、断面半円形状などの他の形状に形成されていてもよい。
前記実施形態では、バネ部材6は、第1固定手段、及び第2固定手段にて測定子を固定している状態で測定子2を縮長させる方向に応力を生じていたが、逆方向に応力を生じるように構成されていてもよい。また、測定子2は、バネ部材6を備えていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、測定子、及び真円度測定機に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…真円度測定機
2…測定子
3…筒状部材(伸縮機構)
3A…開口
4…棒状部材(伸縮機構)
4A…接触子
5…押圧部材(第1固定手段、及び第2固定手段)
6…バネ部材
31…凸部(第1固定手段、及び第2固定手段)
41…第1凹部(第1固定手段)
42…第2凹部(第2固定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面を有する被測定物に接触させる接触子を先端側に有するとともに、前記被測定物の周面における接線方向を軸方向とする回転軸まわりに基端側が回動自在に支持される棒状の測定子を備え、前記接触子を前記被測定物の周面に接触させた状態で前記被測定物を周面に沿って回転させて前記被測定物の周面の真円度を測定する真円度測定機に用いられる測定子であって、
前記測定子の軸方向に沿って前記測定子を伸縮自在とする伸縮機構を備え、
前記伸縮機構は、
前記測定子を所定の長さとする位置で固定する第1固定手段と、
前記測定子を前記所定の長さよりも長くする位置で固定する第2固定手段とを備えることを特徴とする測定子。
【請求項2】
請求項1に記載の測定子において、
前記伸縮機構は、
先端に開口を有する筒状に形成され、前記回転軸回りに基端側が回動自在に支持される筒状部材と、
先端側に前記接触子を有する棒状に形成され、基端側が前記筒状部材の開口から前記筒状部材の内部に収納される棒状部材とを備え、
前記第1固定手段は、
前記筒状部材の内側面における先端側に形成される凸部と、前記棒状部材の先端側に形成され、前記凸部に嵌合される第1凹部と、前記筒状部材の内側面における前記凸部と対向する位置に設けられ、前記棒状部材を前記凸部に向かって押圧する押圧部材とで構成され、
前記第2固定手段は、
前記凸部と、前記棒状部材の基端側に形成され、前記凸部に嵌合される第2凹部と、前記押圧部材とで構成されることを特徴とする測定子。
【請求項3】
請求項2に記載の測定子において、
前記筒状部材の基端は、閉塞され、
前記筒状部材の基端と、前記棒状部材の基端とを接続するバネ部材を備え、
前記バネ部材は、前記第1固定手段、及び前記第2固定手段にて前記測定子を固定している状態で前記測定子を縮長させる方向に応力を生じることを特徴とする測定子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の測定子を備え、前記接触子を前記被測定物の周面に接触させた状態で前記被測定物を周面に沿って回転させて前記被測定物の周面の真円度を測定することを特徴とする真円度測定機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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