説明

測定装置における干渉抑制方法

本発明は、弱い生体磁気信号を測定する装置を、強い磁気干渉場から遮蔽できるようにした方法に関する。測定センサには帰還補償ループが設けられており、その差信号が測定センサ自身から得られる。帰還機能のアクチュエータとして、1つ以上のコイルがセンサの領域における外部干渉場の除去に関与する。差信号は、2つ以上のセンサからの信号一次結合として生成することができる。この制御論理においては、測定中の生体磁気信号を、測定領域の外部に配された発生源、即ち、補償用コイル及び干渉源により生成された信号から数値的に分離するために、SSS(信号空間分離)法を用いる。この干渉抑制については、センサ群及びアクチュエータを磁気遮蔽ルーム内に配置することによって、向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部磁気干渉からの測定装置の遮蔽に関する。
【背景技術】
【0002】
弱い生体磁気信号を測定する装置は、その動作環境において、強い磁気干渉の影響を非常に受け易い。これは、干渉信号が測定中の生体磁気信号に比べて1千万倍も強いことによる。また、干渉抑制の実施は、磁気干渉から遮蔽すべき領域が直径数十センチメートルと比較的広いために、一層難しくなっている。
【0003】
生体磁気計測を行うために、測定装置を干渉場から保護する方法がいくつか開発されてきた。この干渉場は、対象信号の何倍も大きい。遮蔽方法の正攻法は、高感度生体磁気測定装置を、いわゆる磁気遮蔽ルーム内に置くことである。この磁気遮蔽ルームでは、室外の発生源に起因する磁場がおよそ100分の1から10,000分の1に抑制される。
【0004】
これに加えて、磁気遮蔽を実現するために、センサを用いてその幾何構造により、遠隔地の発生源から発せられるむしろ定常な磁場の影響を受けないようにすることが知られている。この種の磁気センサは、磁場勾配計(グラジオメーター)と呼ばれる。これを用いることで、通常、外部干渉に対しておよそ100〜1000の遮蔽因子が得られる。
【0005】
さらに、アクティブシステムを用いることにより磁気遮蔽を実施し、又はこれを向上させることができる。このアクティブシステムでは、適切な制御システムによって磁気干渉が取り除かれるが、その場合に1つ以上のセンサを用いて遮蔽された領域の近傍における干渉を測定する。この測定に基づいて、干渉に対抗する反対の磁場を生成する通電コイルにより干渉場が補償される。アクティブな磁気遮蔽は、単独で用いるか、又は磁気遮蔽ルーム等によるパッシブな遮蔽方法と組み合わせて用いることができる。
【0006】
この制御システムにおいては、直接結合(direct coupling)又は帰還(feedback)を用いることができる。直接結合を用いる場合、制御システムに関連した測定装置は、アクチュエータからも、また1つ以上のコイル内で補償される領域からも離れて配置される。この場合、制御システムは単に、ある電流を複数のコイルに入力するように機能し、該電流は測定装置により測定された干渉に比例するとともに、遮蔽されている領域において、できるだけ正確に干渉の大きさを有する補償場を形成する電流である。尚、この種のシステムには、磁気遮蔽ルームを組み合わせることもできる。
【0007】
直接結合に基づく補償の実行はかなり限定的であり、というのも、通常、補償されるべき場の強度が、遮蔽されている領域から離れて決定されるからである。これは、定常干渉源が1つ又は2つの場合に機能するが、発生源が3つ以上である場合には、通常、遮蔽されている領域について全ての発生源により生成される場を正しく外挿することができる、センサの場所を見つけることはできない。この種の遮蔽方法は、通常、干渉源の数に応じて、約3〜10の遮蔽因子を与える。この方法は、制御システムを制御するセンサよりも、遮蔽されている領域から、明らかに遠くに位置した干渉源に対してのみ機能する。そして、この方法は、制御システムを制御するセンサよりもほんの少しだけ遠くに位置する干渉源に対しては、うまく機能せず、特に、センサよりも近くに位置する干渉源については全く機能しない。
【0008】
制御システムのセンサは、干渉に対して補償したい領域の近くにおいて、補償用コイル群(アセンブリ)の内部に導入することもできる。その場合、多くの異なる発生源に起因する複雑な干渉について、直接結合型のシステムよりもうまく機能する帰還制御システムの問題となる。特許文献1は、磁気干渉の効果を最小限にすることができる帰還制御システムの例を示している。帰還制御システムにおいても、補償用コイルが磁気遮蔽の外部(特許文献2)又は内部(特許文献3)に位置されるように、磁気遮蔽ルームを接続することができる。
【0009】
特許文献4には、磁場の発散成分の測定に用いる磁気グラジオメーターが開示されている。この装置は、特に、地球の磁場に関係なく変化の小さな場(磁場の勾配成分)の測定に用いることができる。該装置は、2つ以上の磁気検出器と、帰還コイルとを含み、そしてさらに、各帰還ループが、増幅器と積分器とを含む。2つ以上の検出器は、同一方向の磁場を検出するように調整されている。帰還コイルの目的は、環境により生成される磁場を模倣することにより、検出器を用いて測定されるべき全磁場での干渉効果を除去することである。検出器の出力を相互に均衡させるために、検出器の出力が信号処理アルゴリズムを用いて処理される。検出器の出力の和として得られる全エネルギーは、磁場の成分を見い出すために最小化される。
【0010】
この特許文献4に示す方法では、アクティブ補償の結果として測定中の生体磁気信号に歪みが生じるが、これは、当該方法において磁気検出器が生体磁気信号と干渉信号の両方を検出するためである。特許文献4はこの歪みを補正する方法を提示していない。
【0011】
生体磁気への適用において、複数のセンサが分布した領域のボリューム(volume)については、通常、直径数十センチメートルと比較的大きい。また、先行技術のように、補償に用いる基準(reference)センサの組を、対象とする生体信号の発生源から離れた状態にしておきたい場合、これらのセンサを含むボリュームは直径50cmにもなる。例えば、1%の精度での(100分の1までの減少)、帰還を用いた磁気干渉の補償に要求されることは、補償用コイルの組が、制御システムの異なる信号を生成する測定センサと基準センサを含むボリューム全体において1%の正確さで干渉場の幾何学的形状に対応する場を生成できることである。このような状況においてのみ、制御システムには補償すべき干渉が正確に通知され、この干渉が全測定ループにおいて高精度で補償されることになる。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0514027号明細書
【特許文献2】米国特許第3801877号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0396381号明細書(又は、これに対応する米国特許第4963789号明細書)
【特許文献4】欧州特許出願公開第0966689号明細書
【特許文献5】フィンランド特許出願公開第20030392号明細書(Taulu S.,Kajola M.,Simola J.「The Signal Space Separation method」,Biomed.Tech.,48,in press)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
補償場を形成するコイルを用いた補償については、補償されるボリュームが小さいほど、より正確となる。このため、帰還補償システムのセンサを、測定装置の実際のセンサにできるだけ近づけることが望ましい。従来、このことは不可能と考えられてきたが、その理由は、その場合に測定されるべき信号に対しても、該信号が外部干渉であるかのように補償することになるためである。
【0013】
したがって、先行技術の問題は、干渉場がセンサ群の外部で測定されるため、センサの組全体の領域内における補償の精度が低くなることである。また、基準センサの組を別途用いると、装置が複雑になりすぎてしまう。
【0014】
本発明の目的は、干渉の補償に必要な帰還情報を、測定用のセンサ自体、すなわち干渉からの保護の対象であるセンサから得られるようにした解決方法を提供することである。これにより、非常に効果的な干渉抑制を実現することができるが、これは、干渉を除去すべき、まさにその場所で干渉が測定され、そして、補償すべき領域の大きさをできるだけ小さくすることができるためである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、先行技術、すなわち、差信号を与える1つ以上の基準センサを別途必要としない帰還補償システムを用いた磁気遮蔽の実施とは全く違った方法を開示する。本発明は、特に、脳が発する微弱な神経磁気信号の測定に用いる磁気図記録装置(MEG)に適用することができる。
【0016】
この方法において、実際の測定センサの組には2つの独立した帰還ループが設けられる。その内側の帰還ループは、監視対象から発せられ、かつそのジオメトリ(幾何形状)に対して小さい信号の帰還に関与し、そして、外側の帰還ループは干渉信号の帰還を担当し、これは干渉信号の振幅とジオメトリに対して大きい。また、内側の帰還ループはフローロック(flow−locked)状態で動作するMEG装置のチャネルであると言うこともでき、そして、外側の帰還ループは補償アクチュエータを制御する帰還ループであると言うこともできる。これにより、外側の帰還ループでは大きな外部干渉のみが検出され、これが実際の対象信号を含む内側の帰還ループのダイナミクスを侵食することのない状況となる。好適な実施形態において、1つの帰還ループには増幅器と帰還抵抗とが含まれる。
【0017】
したがって、測定中の干渉信号と測定の対象信号との和が、実際の測定センサの組である複数のセンサを用いて測定され、これによって差信号を得ることができる。差信号は、測定センサによって測定された複数の信号に基づく一次結合として生成することができる。差信号によって得られる補償電圧は、アクチュエータに電流を発生させる。このアクチュエータは、通常、補償磁場を生成するコイルである。該コイルは数個であってもよい。補償電圧については、センサ群のチャネルに基づく各種の一次結合を用いて複数の電圧を生成してもよく、そして、これらの補償電圧は、適切な重み付け係数を用いて重み付けを行うことによって、補償動作システムの異なるコイルに供給してもよい。補償磁場は、センサ群において検出される干渉を除去し、これによって、著しく小さな所望の生体磁気信号の測定を、高い信頼性でもって行うことが可能となる。その場合、干渉補償によって、センサはそのダイナミック(動作)レンジにおいて動作するようになるが、これは、予定される振幅の大きな干渉が補償されたことに拠るものである。
【0018】
補償アクチュエータについては、通常、コイルとされ、センサ群の近くではあるが生体磁気信号の発生源からセンサよりも遠い場所に位置することができる。該コイルは別個のフレーム又はその他の固体表面に固定することができる。
【0019】
外側の帰還ループ内で処理される大きな干渉信号と、内側の帰還ループに含まれる振幅の小さな生体磁気情報を有する補償信号とは、数学的なSSS法(SSS=Signal Space Separation:信号空間分離)を用いて混合を防ぐことができる。これについては、上記特許文献5に記載されている。
【0020】
SSS法では、マルチチャネルMEG装置を用いて測定された磁場が、異なる測定形状の3つのボリュームを調べることによって解析される。対象となる発生源は測定ボリュームV1に配され、複数のセンサはV1の外部にある測定ボリュームV2に配される。磁気干渉の発生源と補償用コイルは、前記2つのボリュームの外部とされるボリュームV3にある。尚、この検査において、V3はその体積が無限であってもよい。この方法において、ボリュームV1内にある、対象の発生源により生成された磁場は、基本場(elementary field)の和としてボリュームV2でパラメータ化される。各基本場は、ボリュームV1の外部において、渦なしで湧き出しがなく、無限であり、ボリュームV2でパラメータ化された磁場について所望の精度が得られる。同様に、ボリュームV3に配された干渉場と補償用コイルにより生成された磁場の和は、複数の基本場の和としてボリュームV2にてパラメータ化される。各基本場に対応した、測定装置の信号ベクトルが計算される。磁気信号がセンサを用いて測定される場合、その後、それぞれのボリュームに配された発信源により生成された場は、基本場に関連する信号ベクトルにより形成される基底において、測定された信号ベクトルの成分を計算することで分離される。
【0021】
干渉補償の動作については、帰還抵抗の値を変更し、補償用コイルの数を増やし、そして、センサや測定対象に対するコイルの場所を変えることにより、最適化することができる。
【0022】
本発明の一実施形態では、センサ群と、アクチュエータとして機能するコイルを、磁気遮蔽ルームの内部に配置することができる。これにより、干渉抑制を向上させることができる。
【0023】
本発明は、先行技術の解決方法よりも簡便であり、これは、生体磁気信号の測定センサ自体が、干渉レベルを測定するセンサとして用いられるためである。また、干渉を取り除くことが望まれる、まさにその場所で干渉が測定されるため、干渉抑制が一層効果的となる。さらに、本発明の場合、補償される領域のボリュームが小さい。
【0024】
上記特許文献4に示す先行技術に比べて、本発明は、アクティブ補償により引き起こされる信号の歪みが、SSS法によって補正されるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の主要原理は、添付図面より明らかである。装置自体の全体構造については、図1及び図2より明白である。また、図3及び図4は、主として、本装置における信号の進行状態や処理を示す機能図である。図1は、神経磁気信号の測定に用いられる、いわゆるMEG(脳磁図記録)装置であって、その一部に干渉を補償するシステムを有する。この装置は、モニタされる人の頭部を取り囲むセンサ10のアセンブリ(図示の例では9個のセンサを含む)と、測定装置の動作を制御する電子機器11と、干渉補償システムのアクチュエータとして用いられるコイル12、13とから構成される。
【0026】
各装置のセンサに関連するのが小型の帰還コイル14であり、該コイルを用いて制御電子機器11は、いわゆるフローロック状態でセンサを動作させる。これは、制御電子機器11が帰還コイル14に電流を流し、該コイルによって生じる場が、センサ10においてこれに入り、かつ測定対象15に配置された発信源から発せられる場を抑制することを意味する。この発信源15からセンサ10へと進行する磁気効果に比例する電流を得るために必要な電圧は、問題のチャネルによって与えられる測定信号である。従来のMEG装置は全て、この原理を用いて実施されてきた。
【0027】
帰還コイル14はセンサに固有のものである。このコイルは大変小さく、これによって生じる場が各コイルのセンサにのみ影響を及ぼすように配置されている。センサ10と帰還コイル14はともに、物理センサとして機能するコンポーネント(部品)を構成すると考えることもできる。このような配置においては、当然ながら、測定チャネル全てが、測定対象15と外部干渉源の両方から発せられる磁場に反応を示す。
【0028】
外部干渉からの遮蔽を行うアクティブ補償を実現するために、本発明では、測定装置において、大きな補償用コイル12、13が設けられており、該コイルに供給される電流がセンサ群の領域全体に磁場を生成する。複数の補償用コイル、例えば、6個の補償用コイルを用いることができ、それらのコイルを用いてセンサ群の近くで少なくともほぼ直交する3方向において補償場が生成される。
【0029】
電子機器11によってシステムの動作が如何に制御されるかについては、図2、図3及び図4から、より詳細に理解できる。図2は、例えば、図1のセンサ10が補償用コイル12を介して帰還される様子を簡略化して示した図である。破線で囲んだ部分は、フローロック状態で動作する標準のMEGチャネルであり、これに関連するのが増幅器20、帰還抵抗21、帰還コイル14である。該帰還コイル14は、相互インダクタンスMを介してセンサ10に切り替わる。この破線で分けられた部分については、実際の測定チャネルとみなすことができ、先に述べた広い意味で、センサ10、14と、電子機器11内に配置された電子部品20、21を含んでいる。電圧Uは、センサ10が検出可能な磁束Φに比例したチャネルの信号である。そして、この磁束は、測定対象である磁束と、センサ10の位置する領域において外部干渉により生じる磁束との和からなる。
【0030】
この測定チャネルが帰還アクティブ補償システムの差信号を与えるチャネルとして許容される場合、制御電子機器には増幅器24、帰還抵抗25、コイル12が設けられる。磁場は、相互インダクタンスMを介してコイル12から測定センサ10へと伝えられる。
【0031】
図3は、2つの帰還ループを有する制御システムを示す機能図であり、この帰還ループについて伝達関数を計算することができる。内側の帰還ループには、増幅ブロック30、抵抗21に対応する伝達関数31、相互インダクタンスMに対応する伝達関数32が含まれる。また、干渉を補償する外側の帰還ループには、増幅ブロック33、抵抗25に対応する伝達関数34、相互インダクタンスMに対応する伝達関数35が含まれる。増幅器30(図2の増幅器20に同じ)の入力において、外部干渉源Φからの磁束及び干渉を補償する磁束Φ、ならびにコイル14を介して切り替わる内側の帰還からの磁束が合算される。この合計の計算は、加算ブロック36、37を用いた機能ブロックで実行される。但し、該加算ブロックは、実際上、システムの要素として現実には存在しない。
【0032】
チャネルの出力電圧Uと外側の帰還ループの電圧Uは、以下のようになる。
【数1】

【数2】

【0033】
外側の帰還ループを省略する場合(G=0)には、従来の帰還磁力計が残される。この従来の帰還磁力計の一部は、図2及び図3の破線で囲んだ部分に配されており、そのキャリブレーション(較正)は内側の帰還ループの伝達関数によって決定される。
【数3】

【0034】
外側の帰還ループを導入する場合、十分な増幅を前提として、すなわち、「G×(M/R)>>M/R」のとき、下式のようになる。
【数4】

【0035】
外側の帰還ループを導入した結果、チャネルの出力信号が失われ、補償磁場を生成する電流が補償用コイル12に現れる。外部干渉源によって信号が生成される場合、センサ領域全体において、この外部干渉源にできるだけ近い形態の場を形成するように、1つ以上の補償用コイル12が形成できたならば、出力信号についての同じ補償を、アセンブリにおける他の全てのセンサについても行うことができる。しかしながら、それらの帰還において、外側のループは省略される(G=0)。これは、外側の帰還ループを追加することによって目指した遮蔽効果にほかならない。
【0036】
外側の帰還ループの制御については、モニタ中の生体磁気信号の測定に用いられるのと同じ磁力計チャネルが用いられ、明らかに、外側の帰還がこの生体磁気信号に影響を及ぼす。例えば、外側のループがその帰還部に付加された(G>0)チャネルは、この配置の結果として、生体磁気信号を失うことになる。
【0037】
本発明の基本的思想は、このような望ましくない影響を簡単に防止する方法に含まれるものである。まずは、アクティブな帰還ループのないシステムを考える。このようなシステムの測定チャネルは、外部発生源からの大きな干渉信号及び弱い生体磁気信号の両方を記録する。上記特許文献5は、このような状況において、装置のチャネルの配置が適切であって、かつその数が十分(少なくとも200)であるならば、装置の測定領域の内外からの信号を高い精度で互いに分離することができるようした方法(SSS法)を開示する(Taulu S.,Kajola M.,Simola J.「The Signal Space Separation method」,Biomed.Tech.,48,in press)。
【0038】
この数値法は、干渉があまりに小さく、センサの組のいずれの測定チャネルのダイナミック(動的)領域をも超えないことを条件として、測定信号から外部干渉を取り除くのに十分である。本発明に記載の補償方法により防止することができるのはまさにこの超過である。この補償方法は装置の測定領域の外部に配置されたコイルを用いることで実施されるため、この外側の帰還ループに関する補償電流の信号に対する影響についても、同様に、SSS法を用いて、測定領域から発せられる信号から分離することができる。
【0039】
一例として、外側の補償ループに基づく遮蔽方法が最も非実用的に機能しているような状況について述べる。外部干渉が存在せず、かつ差信号チャネルとして機能するセンサが生体磁気信号のみを検出する場合を想定する。センサが位置する場所において生体磁場を補償する補償場を生成する電流を、補償用コイルに対して供給することによって、該センサは、これに反応する。明らかに、外部干渉が存在しないにもかかわらず外側ループの帰還がこのように機能し、まさにこのようにして対象となる信号が失われる。
【0040】
したがって、生体磁気信号は測定領域の外部にある、磁場の補償発生源を作動させることによりゼロになる。これはまさに、SSS法によって数値的に分離可能な種類の外部発生源の効果であり、その結果、差信号チャネルには元の生体磁気信号だけが残ることになる。SSS法は、差信号チャネルにおいて、そして残るチャネルにおいても同様に、外側の帰還ループが作動しない場合に検出されたであろう信号を再構成する。この再構成は、磁力計のアセンブリにより、生体磁気発生源と補償用コイルの両方について同時に行われる測定に基づいて行われる。
【0041】
もちろん、SSS法は、差信号チャネルが、測定領域の外部、又は補償用コイルのセット全体の外部に配された干渉源からの信号の一部を受信する場合と同じように、干渉補償に連動して機能する。この場合に、オリジナルの発生源と、帰還ループの一部として作動する補償用コイルの両方が測定領域外に配置される。そして、信号の一部がSSS法によって除去される。この場合、外部干渉の変更に関与するのは、補償システムのみであり、全センサがそのダイナミック領域にとどまったままとされ、数値的システムが入力として必要とする信号を収集することが可能となる。
【0042】
補償されるべき干渉が、センサ群全体の領域内で一定ではないベクトル場として機能するため、十分に良好な補償を実現するには通常、補償用コイルの組(セット)を用いることが必要であり、該コイルを用いて、方向及び形態においてさまざまな場を実現することができる。具体的には、当該コイルの組は、最も強力な外部干渉の形態の場を、できるだけ正確に生成できなければならず、さらに具体的には、このような補償場をセンサ群の領域全体に生成できなければならない。図4は、図3に示した、複数の補償用コイルにより構成された補償方法の一般化を示す機能図である。
【0043】
図4において、補償電流を生成する電圧Uは、別個に選択される2つの結合強度(1/Rc,j及び1/Rc,j+i)40、41によって、2つの異なるコイル42、43にそれぞれ結合される。符号44で示す誘導結合Mjiなどは、補償用コイル43、43の場所及びセンサ群内におけるセンサ45の配置や位置に基づいて決定される。Uについては、1つ以上のコイルと結合してもよい。また、図4において、補償電圧を生成する差信号は、2つの異なるセンサ45の信号から、それらの一次結合として形成される。この一次結合を形成する際に、符号46で示す重み付け係数Ci,jがセンサ45に対して用いられ、2つの項は加算器47によって加算される。尚、2つ以上のチャネルを、一次結合の形成に用いることもできる。帰還ループの増幅に必要な伝達関数は、符号48で示すGである。さらに、差信号の生成のため、センサ45の集合(アセンブリ)の信号についての様々な一次結合を用いて、複数の補償電圧Uc,nを生成することや、最適な重み付け係数を用いて補償用コイルのセットの異なるコイル42、43へ電圧を供給することもできる。図4に示す機能図において、センサ45に検出される補償磁気流(compensating magnetic flow)の総和は、加算器49の出力から得ることができる。但し、実際上、加算器49は、現実の要素として本システムに存在しない。つまり、加算器49は、各センサについて、補償用コイルによって生じる場の効果全体を説明するために用いられる(場全体は、部分的な場の和である)。
【0044】
このようにして、マルチチャネル装置の干渉補償を行う外側の帰還ループが形成される。この帰還ループは、2つのマトリクスによって記述される。それらは、直接結合のループ構造を記述し、かつ第j番目の差信号における第i番目のセンサ45の重み付け係数を決定するマトリクスcijと、帰還ループを記述し、かつ第k番目のコイル42、43に供給すべき全電流中の第j番目の補償電流の重み付け係数を決定するマトリクス1/Rjkである。
【0045】
これら2つのマトリクスの選択により、干渉補償の実行を最適化することができる。例えば、センサ群の様々な角度に配された、いくつかのチャネルから、一次結合として差信号をコンパイル(作出)することは有効であり、これは、差信号の精度を高めるとともに、センサ群に亘って有効外挿距離を短縮するからである。基準センサを別途用いる従来のシステムでは、差信号を与えるセンサが、センサ群内において補償される最遠のセンサから50cmもの距離に位置されるため、幾何学的な理由により、差信号に基づいて算定される干渉の強度が不正確となる。アセンブリの別々の側に配したセンサの信号から差信号を構成することによって、外挿レンジを短縮して、アセンブリの半径を約12cm程度にすることができる。
【0046】
補償ループを用いることで、帰還された場の形態については、最大の外部干渉の幾何学的形態に対応するように、できるだけ正確にカスタマイズすることができるが、これは、十分な数の補償用コイルを用いるとともに、マトリクス1/Rjkに対して正しい重み付け係数を決定することによって行われる。通常、補償電圧Uc,j及び補償用コイルの数は、例えば、6個であり、よって、マトリクス1/Rjkは6×6(6行6列)のマトリクスとなる。
【0047】
尚、図1乃至図4では、符号を使って、類似の電子機器を用いた外部干渉を補償する帰還の実施例を参照しているが、これは説明の便宜のためである。最新の実施例においては、信号処理装置又はリアルタイムコンピュータが用いられ、その場合に、重み付け係数マトリクスCij、そして1/Rjk及び伝達関数Gがプログラムされる。
【0048】
本発明は、上記の実施形態の例だけに限定されるものではなく、請求項により規定された発明の思想の範囲内で、各種の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】干渉を補償するアクチュエータ装置をその一部に有する、神経磁気信号を測定する装置を示す図である。
【図2】1つの測定センサについての帰還を示す回路図である。
【図3】2つの帰還ループを備えた制御システムの機能図である。
【図4】図2及び図3に示す補償方法の一般化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのセンサを備えた、生体磁気信号を測定するセンサ群を、外部干渉から遮蔽する方法であって、
前記センサ群に少なくとも1つの磁気帰還を与えて、該センサ群の少なくとも1つのセンサから1つの帰還の差信号を得るステップと、
前記センサ群の領域において、前記センサ群の外部に配された少なくとも1つのアクチュエータを用いて外部干渉を補償する磁場を生成するとともに、前記アクチュエータに補償電圧を生成する前記差信号が、前記センサの信号の一次結合とされるようにしたステップと、
SSS(信号空間分離)法を用いて、測定中の有効生体磁気信号を、前記アクチュエータ及び外部干渉によって生じる(測定領域の外部に起因する)信号から分離するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記センサ群のうち、2つ以上のセンサの信号から一次結合として差信号を形成するステップと、
前記差信号を前記アクチュエータに帰還させ、前記補償磁場が1つ以上のアクチュエータによって形成された磁場から一次結合として生成されるようにしたステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記帰還が作動する際に前記外部干渉信号が最小化されるように、一次結合として得られる前記差信号及び使用する前記アクチュエータを選択するステップをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
脳磁図記録装置(MEG)に用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記測定センサが、2つの帰還ループに結合され、その第1のループがフローロック状態で動作するMEG装置のチャネルであり、第2のループが補償アクチュエータを制御する帰還ループである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記SSS法において、マルチチャネル測定装置を用いて記録された磁場は、対象となる発生源が測定ボリュームV1に配され、前記場又はその成分を測定する複数のセンサが前記ボリュームV1の外部であってかつボリュームV2内に配され、そして磁気干渉の発生源及び前記アクチュエータが前記ボリュームV1及びV2の外部であってかつ無限でありうるボリュームV3内に配された幾何学的配置において解析され、
前記ボリュームV1に配された対象の発生源によって前記ボリュームV2内で生成される磁場を、各々が前記ボリュームV1の外部で渦なしでかつ湧き出しがなく有限である基本場の和としてパラメータ化して、前記ボリュームV2においてパラメータ化された磁場について所望の精度が得られるようにするステップと、
前記ボリュームV3に配された前記干渉の発生源と前記補償アクチュエータによって、前記ボリュームV2において生成される磁場の和を、各々が前記ボリュームV3の外部で渦なしでかつ湧き出しがなく有限である基本場の和としてパラメータ化して、前記ボリュームV2においてパラメータ化された磁場について所望の精度が得られるようにするステップと、
各基本場に対応する前記測定装置の信号ベクトルを計算するステップと、
センサを用いて前記磁気信号を測定するステップと、
前記基本場に関連する前記信号ベクトルによって形成される基底において前記測定された信号ベクトルの成分を計算することで、異なるボリュームに配された発生源により生成された場を分離するステップと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アクチュエータがコイルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記測定された信号を、増幅器と帰還抵抗を介して前記アクチュエータに帰還させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記方法において、前記アクチュエータを用いて形成される干渉補償の動作を最適化する上で、前記帰還抵抗の値を変更し、前記アクチュエータの数を増やし、前記アクチュエータの場所を変えることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記センサ群及び前記アクチュエータを磁気遮蔽ルームに配置するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
生体磁気信号を測定するセンサ群を外部干渉から遮蔽するシステムであって、
1つ以上の磁気センサを備えるセンサ群(10,45)と、
各センサに結合された帰還コイル(14)と、
測定装置を制御する制御電子機器(11)と、を備え、
前記センサ群に結合された1つ以上の磁気帰還であって、該センサ群の少なくとも1つのセンサ(10,45)から1つの帰還の差信号を得る磁気帰還と、
前記センサ群(10,45)の領域内に磁場を形成するために、該センサ群の外部に配された1つ以上のアクチュエータ(12,13,42,43)であって、当該磁場が外部干渉を補償し、前記アクチュエータに補償電圧を生成する前記差信号が前記1つ以上のセンサ(10,45)の信号の一次結合であるものとされたアクチュエータと、
測定中の有効生体磁気信号を、前記アクチュエータ及び前記外部干渉により生成される(測定領域の外部に起因する)信号から分離するための制御電子機器(11)と、をさらに備えたことを特徴とするシステム。
【請求項12】
前記センサ群の2つ以上のセンサ(45)の測定信号から一次結合として前記差信号を生成する差信号生成手段(46,47)と、
前記差信号を前記アクチュエータに帰還させる前記磁気帰還(48,40)であって、補償磁場が、1つ以上のアクチュエータ(42,43)によって形成された磁場からの一次結合として生成される磁気帰還と、をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記帰還が作動すると前記外部干渉信号が最小化されるように選択された、前記差信号とアクチュエータ(12,13,42,43)とをさらに含むことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記センサ群(10、45)、前記帰還コイル(14)、及び前記制御電子機器(11)が、脳磁図記録装置(MEG)の一部として機能することを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
2つの帰還ループに結合された各測定センサ(10,45)であって、第1のループがフローロック状態で動作するMEG装置のチャネルであり、第2のループが前記補償アクチュエータ(12,13,42,43)を制御する帰還ループとされた各測定センサをさらに含むことを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
SSS法において、マルチチャネル測定装置を用いて記録された磁場は、対象となる発生源(15)が測定ボリュームV1に配され、前記の場又はその成分を測定するセンサ(10、45)が前記ボリュームV1の外部であってかつボリュームV2内に配され、磁気干渉の発生源及び前記アクチュエータが前記ボリュームV1及びV2の外部であってかつ無限でありうるボリュームV3内に配された幾何学的配置において解析され、
前記制御電子機器(11)は、
前記ボリュームV1内に配された対象の発生源によって、前記ボリュームV2において生成される磁場を、各々が前記ボリュームV1の外部で渦なしでかつ湧き出しがなく有限である基本場を和としてパラメータ化して、前記ボリュームV2においてパラメータ化された磁場について所望の精度が得られるようにするとともに、
前記ボリュームV3に配された干渉源及び補償アクチュエータ(12,13,42,43)によって、前記ボリュームV2において生成される磁場の和を、各々が前記ボリュームV3の外部で渦なしでかつ湧き出しがなく有限である基本場の和としてパラメータ化して、前記ボリュームV2においてパラメータ化された磁場について所望の精度が得られるようにし、
各基本場に対応する前記測定装置の信号ベクトルを計算し、
センサ(10,45)を用いて磁気信号を測定し、
前記基本場に関連する前記信号ベクトルによって形成される基底において前記測定された信号ベクトルの成分を計算することで、異なるボリュームに配された発生源により生成された場を分離するように構成されていることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
前記磁場を生成する前記アクチュエータ(12,13,42,43)がコイルであって、センサ群(10,45)を含む装置、又はセンサ群(10,45)の周囲の別個のフレーム、又は壁面、床、あるいは天井に接続されていることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項18】
前記磁気帰還の一部として、増幅器(24)と、帰還抵抗(25)と、アクチュエータ(12)とをさらに含むことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項19】
アクチュエータ(12,13,42,43)を用いて形成される干渉補償の動作は、帰還抵抗(25)の値を変更し、アクチュエータ(12,13,42,43)の数を増やし、前記アクチュエータ(12,13,42,43)の場所を変えることにより最適化されることを特徴とする請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記センサ群(10,45)及び前記アクチュエータ(12,13,42,43)のための場所として磁気遮蔽ルームをさらに含むことを特徴とする請求項11に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−522465(P2007−522465A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552643(P2006−552643)
【出願日】平成17年2月11日(2005.2.11)
【国際出願番号】PCT/FI2005/000090
【国際公開番号】WO2005/078467
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(505005500)エレクタ アクチボラゲット(パブル) (8)
【Fターム(参考)】