説明

測定装置の制御方法

【課題】オペレーティング・システムが有するハイバネーション・モードをそのまま使用して、測定装置の不要な電力消費を防止できると共に、電源オンの際に測定装置を迅速に動作可能状態にする。
【解決手段】電源がオンにされたとき、直前の電源オフがハイバネーション・モードの場合、オペレーティング・システムの制御により、不揮発性記憶装置から退避データをRAMに転送し(62)、アプリケーション・ソフトウェアの制御によりRAMの退避データにより測定器を初期化する(64)。電源がオンにされたとき、直前の電源オフが通常オフ・モードの場合、アプリケーション・ソフトウェアの制御により、不揮発性記憶装置から初期化データをRAMに転送し(66)、RAMに転送された初期化データにより測定器を初期化する(68)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オペレーティング・システムにより制御されるコンピュータ・システムと、このコンピュータ・システムによって制御される測定器とを具えた測定装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定器には、オシロスコープ、ロジック・アナライザ、スペクトラム・アナライザ、信号発生器、ビデオ試験機器、ネットワーク監視/診断システム、ネットワーク・アナライザなど種々のものが存在する。従来のこれら測定器は、測定機能、信号発生機能、試験機能、診断機能を、内蔵する専用の中央処理装置(CPU)及びリード・オンリ・メモリ(ROM)に記憶されたプログラム(ファームウェア)によって直接的に制御していた。しかし、最近の測定器は、ファームウェアによる制御ではなく、汎用のコンピュータ・システムを測定器と一体化して測定装置とするか、コンピュータ・システムとしてのパーソナル・コンピュータ(PC)を測定器に接続して測定器を制御できるようにし、全体として測定装置としている。この場合、コンピュータ・システム部分は、ウィンドウズ(登録商標)などの汎用オペレーティング・システムにより制御されている。
【0003】
かかる測定装置の一例を図1に示す。測定装置10は、バス12に接続されたCPU14、RAM16、不揮発性記憶装置としてのハードディスク18、液晶表示器などの表示器20、キーボード及びマウスなどの入力装置22を有する。ハードディスク18には、オペレーティング・システムや、測定に必要な種々のアプリケーション・ソフトウェアが記憶されている。これらブロック14〜22がコンピュータ・システムを構成する。また、バス12には、上述の種々の測定器24の1つも接続されている。例えば、測定器24は、任意信号発生器であり、信号を発生するための機能をFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)26で実現しており、また、種々の設定値を記憶するレジスタ28も含んでいる。電源制御器30は、スイッチ32に応じて、電源回路(図示せず)のオン及びオフを制御する。なお、必要に応じて、CPU14を起動するためのソフトウェアを記憶したROMも具えている。
【0004】
電源スイッチ32がオンになると、電源制御器30がオン命令を受けて電源を起動する。CPU14は、ハードディスク18に記憶されたオペレーティング・システムを呼出して動作を開始し、オペレーティング・システムに制御されて、ハードウェア18に蓄積された初期化データをRAM16に転送する。RAM16に転送された初期化データは、測定器24内のFPGA26やレジスタ28を初期化する。これらの動作により、測定装置10である任意信号発生器の動作準備が完了する。操作者は、表示器20の表示を見ながら入力装置22を介して、発生しようとする信号に応じた設定データを、RAM16を介して、FPGA26及びレジスタ28などに書き込む。このように、発生する信号の準備が完了すると、測定器24が設定された信号を発生する。ここで、測定器24内のFPGA26及びレジスタ28などに蓄積されたデータは、RAM16にも蓄積されている点に留意されたい。
【0005】
汎用オペレーティング・システムの中には、ウィンドウズ(登録商標)のようにレジューム機能を具えているものがある。レジューム機能には、サスペンド・モードやハイバネーション・モードがある。サスペンド・モードとは、このモードで電源スイッチ32をオフにしても、コンピュータ・システム内のRAM16にデータを保持するのに必要な最低電力を起動し続け、電源スイッチ32をオンにしたとき、ハードディスク18からデータをコンピュータ・システム内のRAM16に転送しなくても、電源オフのときのデータがそのままRAM16に残っている。よって、コンピュータ・システムの起動を早くできるが、常に電力を消費している。また、ハイバネーション・モードは、このモードで電源スイッチ32をオフにしても、オペレーティング・システムがコンピュータ・システム内のRAM16のデータをハードディスク18に退避させた後に電源回路をオフとし、電源スイッチ32をオンにしたとき、ハードディスク18に退避されたデータをコンピュータ・システム内のRAM16に転送して、電源オフのときのRAM16の状態に戻す。よって、ハイバネーション・モードは、電源を完全にオフにできるが、電源スイッチがオンにより復帰する際の速度がサスペンド・モードよりも遅い。この点については、例えば、特開2008−152708号公報に記載されている。
【0006】
ところで、コンピュータ・システムのオペレーティング・システムのレジューム機能は、コンピュータ・システム内にしか作用しない。よって、コンピュータ・システムを有する測定装置において、オペレーティング・システムのレジューム機能を有効にすると、レジューム機能からの回復する際に、コンピュータ・システム内のRAM16などは元の状態(記憶したデータ内容)に戻るが、測定器24内のFPGA26及びレジスタ28の状態(記憶したデータ内容)が元に戻らないため、RAM16とFPGA26及びレジスタ28との間でデータの不一致が生じ、測定装置が誤動作をしてしまう。この誤動作を防止するため、従来の測定装置では、オペレーティング・システムのレジューム機能を無効にして、この機能を活用できないようにした。すなわち、測定装置では、電源をオンにした際は、必ず、初期化データにより、コンピュータ・システムと測定器の両方を初期化し、電源オフの前の動作中の状態に戻すことができなかった。
【0007】
チョイ等が発明者で1998年5月5日に発行された米国特許第5748971号明細書は、オプション・カード用のスロットを具えたコンピュータ・システムにおいて、ハイバネーション・モードからの復帰速度を改善するシステムを開示している。ここでは、ハイバネーション・モードから復帰の際に、RAMやグラフィック・カードを初期化し、バイオス(BIOS)により読み出された専用のソフトウェアにより、オプション・カードを初期化した。よって、ハイバネーション用の専用の初期化ソフトウェアを開発する必要があった。また、測定装置を長期間にわたって製造する際、バイオスのバージョンが変更したりして、その都度、バイオスと専用の初期化ソフトウェアとの整合性を検証するなどの手間が必要であり、不便である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−152708号公報
【特許文献2】米国特許第5748971号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、コンピュータ・システム及び測定器から構成される測定装置においても、簡単な方法でハイバネーション・モードを利用できることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、中央処理装置、ランダム・アクセス・メモリ及び不揮発性記憶装置を有しオペレーティング・システムにより制御されるコンピュータ・システムと、該コンピュータ・システムにより制御される測定器とを具えた測定装置の制御方法であって;ハイバネーション・モードにされたとき、オペレーティング・システムの制御により、ランダム・アクセス・メモリのデータを不揮発性記憶装置に退避させ、その後に電源をオフとし;電源がオンにされたとき、直前の電源オフがハイバネーション・モードの場合、オペレーティング・システムの制御により、不揮発性記憶装置から退避データをランダム・アクセス・メモリに転送し、アプリケーション・ソフトウェアの制御によりランダム・アクセス・メモリに転送された退避データにより測定器を初期化し;電源がオンにされたとき、直前の電源オフが通常オフ・モードの場合、アプリケーション・ソフトウェアの制御により、不揮発性記憶装置から初期化データをランダム・アクセス・メモリに転送し、ランダム・アクセス・メモリに転送された初期化データにより測定器を初期化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
よって、本発明は、例えば、ウィンドウズ(登録商標)などの汎用オペレーティング・システムが有するハイバネーション・モードをそのまま使用でき、バイオスのバージョン変更に伴う考慮も不要で、ハイバネーション・モードを測定装置に適用できる。これにより、測定装置の不要な電力消費を防止できると共に、電源オンの際に測定装置を迅速に動作可能状態にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】測定器及びコンピュータ・システムを有する測定装置のブロック図である。
【図2】ハイバネーション・モードで電源をオフにする際の動作を説明する流れ図である。
【図3】電源がオンにされた際の動作を説明する流れ図である。
【図4】ハイバネーション・モードで電源がオフとされて、その後電源がオンとなったか否かを判断するタイマー・ルーチンの動作を説明する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の測定装置の制御方法は、上述した構成の図1の測定装置に適用できる。後述のように電源スイッチ32がオンとなり、測定器24が動作を開始すると、入力装置22から入力された種々の設定データがRAM16に記憶され、このRAM16に記憶されたデータが、測定器24のFPGA26を設定し、レジスタ28に記憶されて、測定器24が所望の動作を行う。測定器24の設定情報や動作状況は、表示器20に従来方法で表示される。よって、測定器24内のFPGA26の設定データや、レジスタ28に記憶されているデータは、RAM16にも記憶されている。
【0014】
図2は、本発明によって、ハイバネーション・モードで電源をオフにする際の動作を説明する流れ図である。以下の動作は、ソフトウェアに基づいて、CPU14などが制御する。ステップ50では、電源制御器30が、ハイバネーション・モードとして電源スイッチ52がオフにされたかをスイッチ52の状態から判断する。ハイバネーション・モードが選択されなければ(ノーならば)、ステップ50に戻る。ハイバネーション・モードが選択された場合(イエスの場合)、ステップ52に進み、オペレーティング・システム(OS)が、RAM16の内容(記憶データ)をハードディスク18に退避させる。ステップ52が終了すると、ステップ54に進み、オペレーティング・システムが電源制御器30を介して電源回路(図示せず)をオフにし、終了する。
【0015】
図3は、電源がオンにされた際の動作を説明する流れ図である。ステップ56にて、電源スイッチ32がオンにされたことを検知すると、電源回路が起動し、ハードディスク18に記憶されたオペレーティング・システムが読み出され、コンピュータ・システム(PC部分)を初期化する。次に、ステップ60にて、直前の電源オフがハイバネーション・モードであったか否かを判断する。ステップ60の動作は、ステップ50と同様であり、後述する。ステップ60の判断結果がイエスで、ハイバネーション・モードの場合、ステップ62に進み、オペレーティング・システムがハードディスク18から退避データを読み出し、RAM16に転送する。その後、ステップ64に進み、アプリケーション・ソフトウェアの制御により、RAM16に記憶された退避データを測定器24内のFPGA26及びレジスタ28に転送して、測定器64を初期化する。よって、この初期化により、電源スイッチ32がオフになった時の状態へ、測定器64を確実且つ迅速に戻すことができる。
【0016】
ステップ60にて、ハイバネーション・モードでないと(ノーであると)判断されると、ステップ66に進み、アプリケーション・ソフトウェアがハードディスク18から初期化データを読み出し、RAM16に転送する。その後、ステップ68に進み、RAM16に記憶された初期化データを、アプリケーション・ソフトウェアの制御により測定器24内のFPGA26及びレジスタ28に転送して、測定器64を初期化する。この場合の初期化は、電源スイッチ32がオフになった時の状態に関係なく、測定器24を初期値(デフォルト値)に設定する。これらステップ66及び68の動作は、従来の測定装置の電源オンの動作と同様である。
【0017】
図4は、ステップ60において、ハイバネーション・モードで電源がオフとされて、その後電源がオンとなったか否かを判断するタイマー・ルーチンの動作を説明する流れ図である。ステップ70にて、時間間隔Tで、現在の時刻を検知し、検知した現在の時刻をTcとする。この場合、オペレーティング・システムがハイバネーション・モードから復帰するのに要する時間をTsとし、ハイバネーション・モードになるまでに要する時間をTfとすると、時間間隔Tは、T<Ts+Tfとなる。ステップ72にて、Tc−Tp<T+αかを判断する。なお、Tpは、直前に実行したタイマー・ルーチンの時刻であり、αは、マージンである。イエスの場合は、ハイバネーション・モードで電源がオフとされていないので、ステップ74に進み、TcをTpとして保存し、ステップ70に戻る。また、ステップ72がノーの場合は、ハイバネーション・モードで電源がオフとされたので、ステップ76に進み、ハイバネーション・モードであることを検出する。その後、ステップ74に進み、TcをTpとして保存して、ステップ70に戻る。
【産業上の利用可能性】
【0018】
上述では、測定器として信号発生器の場合を説明したが、オシロスコープ、ロジック・アナライザなどの種々の測定器に本発明を適用できる。また、測定器24の初期化情報をROMに記憶し、このROMを測定器内に設けてもよい。その場合、初期化情報は、ハードディスク18からではなく、このROMから読み出される。不揮発性記憶装置は、ハードディスクの他に、種々の不揮発性半導体メモリも利用できる。
【符号の説明】
【0019】
10 測定装置
12 バス
14 CPU
16 RAM
18 ハードディスク
20 表示器
22 入力装置
24 測定器
26 FPGA
28 レジスタ
30 電源制御器
32 電源スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央処理装置、ランダム・アクセス・メモリ及び不揮発性記憶装置を有しオペレーティング・システムにより制御されるコンピュータ・システムと、該コンピュータ・システムにより制御される測定器とを具えた測定装置の制御方法であって、
ハイバネーション・モードにされたとき、上記オペレーティング・システムの制御により、上記ランダム・アクセス・メモリのデータを上記不揮発性記憶装置に退避させ、その後に電源をオフとし、
電源がオンにされたとき、直前の電源オフがハイバネーション・モードの場合、上記オペレーティング・システムの制御により、上記不揮発性記憶装置から退避データを上記ランダム・アクセス・メモリに転送し、アプリケーション・ソフトウェアの制御により上記ランダム・アクセス・メモリに転送された上記退避データにより上記測定器を初期化し、
電源がオンにされたとき、直前の電源オフが通常オフ・モードの場合、上記アプリケーション・ソフトウェアの制御により、上記不揮発性記憶装置から初期化データを上記ランダム・アクセス・メモリに転送し、上記ランダム・アクセス・メモリに転送された上記初期化データにより上記測定器を初期化することを特徴とする測定装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−13915(P2011−13915A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157251(P2009−157251)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(503050951)テクトロニクス・インターナショナル・セールス・ゲーエムベーハー (35)
【Fターム(参考)】