説明

湿式処理方法,無電解銅めっき方法およびプリント配線板

【課題】基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、小径かつアスペクト比の高いスルーホール内においてもめっき液を十分に安定供給できる湿式処理法の提供。
【解決手段】治具を用いてスルーホールを有する基板を湿式処理する方法であって、治具3は、上下面が開放され側面が平板6で包囲された筒状平板であり、前記筒状平板内に複数の基板4を所定の間隔で配置、保持する基板保持部7,基板間の下端に配置された液流動発生部,所定の基板間の基板上部および筒状平板の外周側面に配置された隔壁5a、5bを有し、処理液2を貯液した処理槽1内に、基板4を保持した冶具3を設置し、偶数列または奇数列に配置された液流動発生部を駆動させてスルーホールに対して垂直方向に処理液を流通させ、基板4上部より噴出する処理液2を隔壁5a、5bにより隣接する基板間を避けて治具外周に流出させて湿式処理する湿式処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式処理方法および湿式処理装置、特に無電解銅めっき方法,無電解銅めっき装置ならびに、それらを利用して製造したプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高速化,高性能化にともない、システムボードあるいはメモリボード等として使用されるプリント配線基板の配線設計も多層化かつ高密度化しており、これに伴って層間を電気的に導通させるスルーホールも小径化してきている。この結果、細径深孔内のめっき処理等の化学処理が次第に難しくなってきている。すなわち、被処理物としてのプリント配線基板をめっき液等に浸漬した場合、スルーホール内の残留空気あるいはガスの滞留等が原因となるめっき不析出が発生し、めっきボイドあるいはスルーホール中央部のめっき厚低下(付きまわり不良)という欠陥を生じてきている。このような背景の中、上記課題を解決するため、下記特許文献に示す技術が知られている。
【0003】
下記特許文献1では、スルーホールを有する基板を浸漬させる処理液を貯留している液槽と、前記基板を前記処理液中に浸漬するために保持する保持部材及び前記保持部材を上下に揺動させるための第一の移動手段を有する移動ブロックとを有し、前記保持部材の中に前記基板を保持させ、前記保持部材を前記液体中で上下揺動させることにより前記基板を処理する孔内処理装置であって、前記保持部材は、前記基板を保持した際に基板面と対向する一対の側面の一方に、斜め上方向に突設された複数の第一のフィンと、前記一対の側面の他方に、斜め下方向に突設された複数の第二のフィンと、各側面の各第一,第二のフィンとそれぞれ連結する複数のさん部と、前記両側面の各第一,第二のフィンと鋭角をなす部分であって、各第一,第二のフィンと対向する部分にそれぞれ形成された複数の窓部とを有し、前記移動ブロックは、前記保持部材に対し前記基板の保持位置を相対的に変更させるための第二の移動手段を有している孔内処理装置およびそれを用いためっき方法が開示されている。
【0004】
下記特許文献2では、電解めっき液の満たされた電解めっき槽のカソード側に、孔を有する被めっき物としてのプリント配線板を固定し、プリント配線板の両側面の上部に第1及び第2のめっき液供給管を配置した環境下で、各めっき液供給管から供給される電解めっき液の流速が交互に相対的に大きくなるように、電解めっき液の流速を周期的に変化させる電気めっき方法が開示されている。
【0005】
下記特許文献3では、スルーホールを有する基板への湿式めっき方法において、基板の下方にめっき液排出管を配置し、めっき液をスルーホールに対して、垂直方向に流し、かつ基板の両面を流れるめっき液の流動速度を異なるようにしてめっきを行える構成とし、更に上記基板をめっき液の流動方向と垂直方向に揺動させてめっきを行うことを特徴とするめっき方法が開示されている。
【0006】
下記特許文献4では、プリント基板の片側表面に対し処理液を平行に流通させる開口部を有する高速液流発生部材へ処理液を供給する処理液供給手段と、前記高速液流発生部材の処理液を吸引する処理液吸引手段により吸引された処理液とを循環させる循環手段とを備えたプリント基板のスルーホールめっき処理装置、また、前記開口部の開口口径を可変にした装置、前記処理液供給手段と前記処理液吸引手段の流路径を可変にし、処理液の流速を調整するようにした装置、また、前記高速液流発生部材の開口部にプリント基板との間隔を一定にする間隔調整部材を設けた装置が開示されている。
【0007】
下記特許文献5では、めっき処理槽内のめっき液を攪拌する多数の攪拌用フィンを表面側に有し、かつ回転駆動される複数のドリブンベルトを、その間にプリント配線基板が入り得る空間を隔てた状態でめっき処理槽内に配置するとともに、前記各ドリブンベルト間に配置した一つのプリント配線基板に対して前記各ドリブンベルトに設けた攪拌用フィンの攪拌方向が逆向きとなるように前記ドリブンベルトを回転駆動するようにしたプリント配線基板用のめっき処理装置、また、前記ドリブンベルトの半周期ごとにその作用する方向が逆になるようにしためっき処理装置が開示されている。
【0008】
下記特許文献6では、スルーホールを有するプリント配線板をめっき液に浸漬・保持して陰極とし、前記プリント配線板の両側の面に面してそれぞれ陽極を設け、前記プリント配線板とその両側に設けられた陽極との間に攪拌棒を往復させる手段を設け、その往復時間を基板間で異なるようにし、前記プリント配線板の一方の面に接触するめっき液の攪拌速度が、他方の面に接触するめっき液の攪拌速度と異なるようにしためっき装置、また、前記プリント配線板の一方の面に面した、めっき液内の前記攪拌棒の移動速度の平均値が5cm/秒から20cm/秒で、他方の面に面した、めっき液内の攪拌棒の移動速度の平均値が25cm/秒から70cm/秒になるように攪拌棒を駆動させるめっき装置が開示されている。
【0009】
下記特許文献7では、板状の被めっき物をめっき液に浸漬させ、被めっき物の下方に配置した吹き出し口を有するエアー攪拌パイプないしめっき液循環パイプからエアーないしめっき液をふきこんでめっきするめっき装置であり、前記被めっき物の直下に整流板を配設するとともに、この整流板を挟むようにして前記エアー攪拌パイプないしめっき液循環パイプの吹き出し口を配置した電気めっき装置、また、スルーホールを有する被めっき物を片側づつ交互にめっき液攪拌するめっき方法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特許2690548号公報
【特許文献2】特開平8−81799号公報
【特許文献3】特開平6−280084号公報
【特許文献4】特開平3−50792号公報
【特許文献5】特開平1−165793号公報
【特許文献6】特開2006−41172号公報
【特許文献7】特開平6−299398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記従来技術においては、スルーホール内にめっき液の流れを形成できるものの、スルーホールの直径が0.1〜0.2mmと小径化し、かつ、スルーホールの直径に対する基板の板厚、すなわちアスペクト比が30以上の基板に対してはスルーホール内に十分な流速の液流を発生させることが難しくなってきており、スルーホール内の残留空気、もしくは処理中に発生したガスおよび反応生成物の確実な排除が困難であった。また、これに伴ってスルーホール内の処理状態も均一とはならず、スルーホール中央部のめっき厚低下も十分に防止できているとはいえなかった。
【0012】
特許文献1では、基板に対向して配置した一対のフィンと上下揺動の作用により基板両面でめっき液の流速差をつける構成であるが、フィンに連結したさん部と基板間の距離が小さいため、めっき液の流通抵抗が大きく、一方で、保持部材外周にはめっき液の流れを抑制する構成となっていないため、基板表面に対して十分なめっき液供給は難しい。本構成によると、基板へのめっき液供給は上下揺動の速度にも依存すると考えられるが、めっき液供給を増加させるためには、装置が大規模になってしまう。また、基板両面にフィンが配置されるため、大量処理には向いていない。
【0013】
特許文献2では、基板の上方からのめっき液供給のため、基板上部と下部において液の流速差が生じ、基板面内でばらつきが発生すると考えられる。また、基板両面が空間的に区画されていないため、一方側の流速を他方側に比べて大きくしても、流速の小さい他方側に流速の大きい側の流れの影響を受け、十分な流速差を得ることは難しいと考えられる。また、本文献では、流速の大きい側から小さい側へのめっき液流れを形成することを思想としているが、異なる径のスルーホールが混在した基板を処理する際、小径スルーホールに比べて大径スルーホールへ優先的にめっき液が流れるため、小径スルーホールへの対応は難しい。
【0014】
特許文献3では、基板下方に配置しためっき液排出管よりめっき液を流通させるが、基板両面でのめっき液の流速差をつけるには、基板に対して排出管の位置および流量を適切に設定する必要がある。すなわち、複数の基板間へのめっき液の流通抵抗は基板の存在しない領域のそれに対して大きくなるため、基板表面に対して十分なめっき液供給が難しくなる。また、基板両面が空間的に区画されていないため、一方側の流速を他方側に比べて大きくしても、流速の小さい他方側に流速の大きい側の流れの影響を受け、十分な流速差を得ることは難しいと考えられる。
【0015】
特許文献4では、局所的に高速液流を発生させて処理するため、基板面内でばらつきが発生してしまい、処理方法の都合上、処理に時間がかかる。また、装置が複雑であり、大量処理には向いていない。
【0016】
特許文献5では、基板に対して攪拌用フィンの攪拌方向を逆向きに回転駆動させるが、めっき液の攪拌は促進されるが、基板両面において、めっき液の流速差が生む差圧は小さく、スルーホール内への十分なめっき液供給は困難であると考えられる。また、装置が大規模になり、大量処理に向いていない。
【0017】
特許文献6では、基板とその両側に設けられた陽極との間に往復可動する攪拌棒を設け、基板両面でのめっき液の攪拌速度差をつけているが、基板両面が空間的に区画されていないため、一方側の流速を他方側に比べて大きくしても、流速の小さい他方側に流速の大きい側の流れの影響を受け、十分な流速差を得ることは難しいと考えられる。また、攪拌棒の往復運動のため、往路で形成されためっき液流れと復路で形成されるめっき液流れが干渉してしまい、攪拌棒と移動速度とめっき液流速は必ずしも一致しておらず、基板両面において安定しためっき液流速差をつけることが難しく、スルーホール内へ十分なめっき液供給が難しいと考えられる。
【0018】
特許文献7では、基板上下におけるめっき液流速の差を低減できている。しかし、スルーホール内にめっき液供給するため、片側交互にエアー攪拌しているが、基板両面が空間的に区画されていないため、一方側の流速を他方側に比べて大きくしても、流速の小さい他方側に流速の大きい側の流れの影響を受け、十分な流速差を得ることは難しいと考えられる。
【0019】
そこで、本発明は上記各課題の解決に鑑みなされたものであり、基板両面におけるめっき液の流速差を十分確保し、小径かつアスペクト比の高いスルーホール内においてもめっき液を十分に安定供給できる無電解銅めっき方法を提供することを目的とする。また、比較的簡易で、大量処理が可能なめっき装置を提供することを目的とする。本発明の無電解銅めっき方法およびめっき装置を、特に小径かつ高アスペクト比のスルーホールを有するプリント配線板の製造に用い、めっき付きまわり性を向上させて、高い信頼性を有するプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の無電解銅めっき方法,めっき装置およびそれらの技術を利用して製造したプリント配線板は以下の特徴を有する。
【0021】
治具を用いてスルーホールを有する基板を湿式処理する方法であって、前記治具は、上下面が開放され側面が平板で包囲された筒状平板であり、前記筒状平板内に複数の基板を所定の間隔で配置、保持する基板保持部,前記基板間の基板下端に配置された液流動発生部,所定の基板間の基板上部および筒状平板の外周側面に配置された隔壁を有し、処理液を貯液した処理槽内に、基板を保持した前記冶具を設置し、偶数列または奇数列に配置された液流動発生部を駆動させてスルーホールに対して垂直方向に処理液を流通させ、基板上部より噴出する処理液を前記隔壁により隣接する基板間を避けて治具外周に流出させて湿式処理する湿式処理方法である。
【0022】
また、前記の湿式処理方法において、液流動発生部が間欠式とし、偶数列,奇数列の液流動発生部が交互に駆動する湿式処理方法である。
【0023】
また、前記基板間の基板上部に配置された前記隔壁が可動式の隔壁であり、前記基板間の基板下端に配置された前記液流動発生部が間欠式の液流動発生部であり、偶数列の液流動発生部が駆動時に偶数列の隔壁を開放し、かつ、奇数列の液流動発生部を駆動停止し、奇数列の隔壁を基板上端に配置する工程と、奇数列の液流動発生部が駆動時に奇数列の隔壁を開放し、かつ、偶数列の液流動発生部を駆動停止し、偶数列の隔壁を基板上端に配置する工程とを交互に繰り返しながら湿式処理する湿式処理方法である。
【0024】
本発明の湿式処理方法は、液流動発生部に気体を導入し、気体供給により液流動を発生させる湿式処理方法でもある。
【0025】
特に、本発明の湿式処理方法はスルーホールを有するプリント配線板にめっきを施す無電解銅めっき方法であり、前記液流動発生部がスルーホールに対して垂直方向に5〜100cm/sで液流通させてめっきを施す無電解銅めっき方法である。また、前記液流動発生部が5〜100cm/sの液流速の範囲で、流速を増大させながらめっきを施す無電解銅めっき方法である。とりわけ、直径0.1〜0.2mmのスルーホールを有し、かつ、スルーホールの直径に対する基板の厚みの比率が30〜60であるスルーホールを少なくとも一つ以上含むプリント配線板の無電解銅めっき方法である。
【0026】
本発明の無電解銅めっき方法は、液流動発生部に空気を導入し、空気供給により液流動を発生させてめっきを施す無電解銅めっき方法でもある。
【0027】
本発明の湿式処理装置は、治具を用いてスルーホールを有する基板を湿式処理するための湿式処理装置であって、前記治具が、上下面が開放され側面が平板で包囲された筒状平板であり、前記筒状平板内に複数の基板を所定の間隔で配置、保持する基板保持部,前記基板間の基板下端に配置された液流動発生部,所定の基板間の基板上部および筒状平板の外周側面に配置された隔壁を有する湿式処理装置である。また、この湿式処理装置は無電解銅めっき装置とすることができる。
【0028】
本発明のプリント配線板は、前記無電解銅めっき方法および無電解銅めっき用治具を用いて製造したプリント配線板であり、スルーホールの直径が0.1〜0.2mmであり、スルーホールの直径に対する基板の厚みの比率が30〜60となるスルーホールを少なくとも一つ以上含むプリント配線板であって、基板表面の銅めっき膜厚に対するスルーホール内部の銅めっき膜の最小部での膜厚の比率が80%以上であることを特徴とするプリント配線板である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の湿式処理方法、特に無電解銅めっき方法およびめっき装置を用いることにより、小径かつアスペクト比の高いスルーホール内においても基板両面におけるめっき液の流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流れを発生させることが可能になり、スルーホール内の残留空気、もしくは処理中に発生したガスおよび反応生成物を確実に排除するとともに、スルーホール内の処理状態を均一にし、めっき付きまわり性を向上させて、高い信頼性を有するプリント配線板を提供できる。また、本発明の無電解銅めっき方法および無電解銅めっき用治具は、簡易な構造で、大量処理が可能なめっき方法,めっき装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に実施の形態を、無電解銅めっきを例に挙げて詳細に説明する。
【0031】
本発明に用いられる無電解銅めっき用治具および無電解銅めっき方法を、図を用いて説明する。無電解銅めっき槽1の中に無電解銅めっき液2を貯液する。めっき液は図1に示す組成および条件を用いた。なお、本明細書で用いるめっき液は、比重が1.03〜1.15の範囲を示すめっき液とする。図2〜4は、本発明の実施の形態である無電解銅めっき用治具3を示す。図2はめっき槽上部から見た図であり、図3はA−A′の断面模式図、図4は図2のB側から見た図を示す。なお、図2では液流動領域における可動式隔壁5aは上方に移動していることを想定しており、図示していない。図2に示すように、無電解銅めっき用治具3の最外周は平板6で包囲された筒状とする。平板6は比較的反りの小さい材料を用いることが好ましい。その中に、基板保持部7を一定間隔で配置する。基板保持部7に基板4を配置し、基板両面の下端の位置に基板に対して平行に、前記基板両面の下端に間欠式液流動発生部8を配置する。液流動発生部は、図4に示すように、治具3の平板6の側面に固定化されており、外部の配管と接続することができる。液流動発生部8は、配管9,切り替えバルブ10を介して、例えばエアコンプレッサなどの空気供給手段に接続される。また、複数の空気供給手段を配置し、各液流動発生部を個々の空気供給手段に接続してもよい。液流動発生部8は、その幅が平板6と基板保持部7との間隔あるいは基板保持部間の間隔より小さいものを用い、液流動発生部8と平板6あるいは基板保持部7との間に隙間を存在させる。液流動発生部8の上面には空気を散気するための孔が開けられている。液流動発生部8を構成する材料としては、液流動発生部8の長手方向に対して均一に空気を供給でき、めっき液に溶解しない材料であれば特に限定されない。例えば、塩化ビニル,ポリエチレン,ポリプロピレン,フッ素樹脂、さらに金属に耐めっき液の樹脂をライニング加工したものなどを用いることができる。液流動発生部8は、治具3内の内部、かつ基板下端に位置するように配置される。基板下端より下部に配置すると、基板4と平板6間の狭い領域に比べて、液の流動抵抗の少ない、治具から外れた領域に液が優先的に流れてしまい、所望の液流れを形成できない。また、基板下端から上部に配置すると、配管の上下部において空気の接触状態が異なるため、結果的に基板面内においてめっきの付きまわりにばらつきが発生してしまう。また、液流動発生部8は、めっき前処理後に装着可能な構造とすることが好ましい。これは、液流動発生部8にめっき前処理が施されてしまうと、めっき処理時に液流動発生部8のパイプの孔にめっきが成長し、孔を閉塞してしまう恐れがあるためである。
【0032】
治具3の上部に配置された基板保持部7は、図3で示すように、例えばL字構造とし、可動式隔壁5が隙間無く配置される構造とする。基板保持部および平板の材質は特に限定されないが、めっき液に溶解し難い材質が好ましい。例えば、ステンレスのような金属や、塩化ビニル,ポリエチレン,ポリプロピレン,フッ素樹脂など、さらに金属に耐めっき液の樹脂をライニング加工したものを用いることができる。
【0033】
また、基板両面の上部に可動式隔壁5を配置する。可動式隔壁5は、被めっき対象物である基板4の両面の上部に配置され、前記液流動発生部8の駆動と連動して動作する。隔壁の材質は特に限定されず、めっき液に溶解しない材料が好ましい。例えば、塩化ビニル,ポリエチレン,ポリプロピレン,フッ素樹脂、さらに金属に耐めっき液の樹脂をライニング加工したものなどを用いることができる。液流動発生部8は偶数列と奇数列に分割されており、偶数列の液流動発生部8aが駆動を開始した際には奇数列の液流動発生部8bが駆動を停止する。可動式隔壁5は、液流動発生部8の駆動と連動し、偶数列の液流動発生部8aが駆動を開始した際には偶数列の可動式隔壁(図示せず)が基板上部へ移動し、液流動領域が形成され、一方で、奇数列の可動式隔壁5bは基板上端へ下降、配置され、非流動領域を形成する。以上の構成とすることで、複数の基板にめっきを施す際にも、一枚の基板の場合と同様の効果が得られ、大量処理も可能となる。
【0034】
電気めっきでは、原理上、大量処理するにしても基板間に陽極を配置する必要がある。また、基板と陽極間に流れる流速を大きくするため、基板と陽極間の距離を縮めても、基板表面とスルーホール内部における電界分布のばらつきが大きくなり、付きまわり性の向上は難しい。基板と陽極間の距離を縮めず、空気流量を増大させる方法も考えられるが、所望のめっき液流速を得るためには、大流量の空気供給を行う必要があり、装置の負担が大きくなり、また大型化してしまう。また、基板と陽極間の距離が大きくなると、距離が小さいときに比べて、めっき液の流れが乱れてしまうため、基板表面におけるばらつきが増大してしまう。一方、無電解めっきでは電気めっきとは異なり、陽極を配置する必要が無く、治具を含めて装置を比較的容易な構造にでき、大量処理が可能となる。
【0035】
以下、本発明の無電解銅めっき用治具を用いた無電解銅めっき方法を詳説する。
【0036】
基板4を設置した無電解銅めっき用治具3を無電解銅めっき槽1に投入し、所定時間めっきを施し、約25um厚の銅めっき膜を基板表面およびスルーホール内壁に形成する。尚、前記基板4は、本発明の無電解銅めっき方法の前に前処理を行う。前処理は特に限定されないが、公知の方法により実施する。例えば、ドリル加工によりスルーホール加工を施した基板を沸騰水、次に室温の水に浸漬ことにより、スルーホール内に存在する空気を水に置換する。次に、デスミア処理により、ドリル加工時に発生したスルーホール内部のスミアを除去する。アルカリ脱脂により基板に付着した油分を除去し、次に、酸洗により基板表面を活性化し、触媒を付与する。以上が一連の前処理例である。本前処理は基板を乾燥させず、連続的に処理を実施することが望ましい。処理工程の途中に乾燥工程を挟む場合、スルーホール内部に存在する空気を除去し、処理液がスルーホール内部に浸透するように、沸騰水、次に室温の水に浸漬する工程を追加する。また、前処理の際、スルーホール内部に処理液を十分に供給するため、本無電解銅めっき用治具3を用いて処理を行ってもよい。前処理工程では、無電解銅めっき工程とは異なり、処理液中に存在する成分の濃度減少が比較的小さいので、特に実施しなくてもよい。前処理においても、本無電解銅めっき用治具3を用いて処理する場合は、治具にも触媒が付与され、結果的に銅めっきが成膜してしまうことを避けるため、前処理工程で用いる治具と無電解めっき工程で用いる治具を別にする形態が好ましい。
【0037】
めっき槽1に基板3を含む無電解銅めっき用治具が浸漬している間、連続的に無電解銅めっき反応を進行させるため、銅イオン,還元剤および添加剤を補給する。補給方法は一定時間隔補給あるいは連続補給いずれの方法でもよい。
【0038】
めっき時、基板下端に配置された液流動発生部8は、偶数列の発生部8aが駆動して空気供給を開始させると同時に、奇数列の発生部8bが駆動を停止して空気供給を終了する。基板表面へ銅を均一に析出させるために、各発生部は交互に駆動することが好ましい。駆動の切り替えのタイミングは特に限定されないが、5〜60分毎に切り替えることが好ましい。また、駆動の切り替えに要する時間は1秒以内であることが好ましい。駆動切り替えに時間を要すると、液の流れが一時的に滞留し、その間にめっき反応の副生成物である水素がスルーホールの直径と同サイズのガスに成長し、スルーホール内でのめっき液の流れを閉塞してしまう恐れがあるからである。液流動発生部8は偶数列と奇数列に分割されており、偶数列の液流動発生部8aが駆動を開始した際には奇数列の液流動発生部8bが駆動を停止する。可動式隔壁5は、液流動発生部8の駆動と連動し、偶数列の液流動発生部8aが駆動を開始した際には偶数列の可動式隔壁(図示せず)が基板上部へ移動し、液流動領域が形成され、一方で、奇数列の可動式隔壁5bは基板上端へ下降、配置され、非流動領域を形成する。
【0039】
可動式隔壁5の動作に関しては、偶数列の液流動発生部8aが駆動している際、基板に対して同じ側の隔壁5aは基板の上方に動作し、平板と基板間の空間が開放されて、液流動発生部8aからめっき液水面方向に、かつ基板4に対して平行なめっき液の流れが形成される。本明細書では、めっき液の流れが形成されている領域を液流動領域と定義する。一方で、偶数列の液流動発生部8aが駆動している際、基板に対して異なる側の隔壁5bは基板上端に配置される。その結果、液流動が発生している側でのめっき液流れの影響を受けず、隔壁,平板および基板で擬似的に密閉された領域が形成されることにより、めっき液の流れがほぼ停止した状態となる。本明細書では、液流動領域に対して、めっき液の流れがほぼ停止している領域を非流動領域と定義する。各隔壁の駆動切り替えは、液流動発生部と同様、1秒以内であることが好ましい。
【0040】
液流動発生部の空気供給量は、液流動領域におけるめっき液の流速が5〜100cm/sとなるように設定する。基板下端に配置された液流動発生部から空気供給することで、空気が浮力によりめっき液面方向に流通する。それに伴い、液流動領域に存在するめっき液が流動する。また、液流動発生部と平板あるいは基板との隙間から液が流れ込み、安定してめっき液を供給できる。本明細書において、めっき液の流速は、空気供給量を、無電解銅めっき用治具を上部から見て、基板と平板で形成される面積で除した値と定義する。
【0041】
鋭意検討した結果、スルーホールの直径が0.1〜0.2mmであるスルーホールを少なくとも一つ含み、かつアスペクト比が30以上の基板に対しては、めっき液の流速が5cm/s未満の場合、スルーホールの付きまわり性が著しく低下し、また、スルーホール内部にめっき未析出部分が発生することがわかった。これは、液流動領域と非流動領域におけるめっき液流速差が不十分で、基板両面において十分な差圧が発生せず、結果的にスルーホール内へのめっき液流通が不十分であり、付きまわり性が低下したと考えられる。また、めっき液流速が100cm/sを越えた場合、スルーホールの一部に析出不良が発生することがわかった。これは、液流動領域と非流動領域におけるめっき液流速差を大きくすることにより、スルーホール内へのめっき液流通が十分になる一方で、流速を大きくしすぎることで、めっき反応初期においてスルーホール内壁に付与された触媒が脱落してしまうことが考えられる。また、基板表面においてめっき膜の成長が著しく抑制されることがわかった。めっき液に対して空気との接触の頻度が増大し、めっき析出反応の進行よりむしろめっき溶解反応が優先的に進行する条件となってしまうためである。
【0042】
触媒の脱落を防止するため、めっき反応初期におけるめっき液流速を小さく設定してもよい。その際もめっき液流速は5cm/s以上とし、好ましくは5cm/s〜20cm/sとする。5cm/s未満の場合、スルーホール内へのめっき液流通が不十分となり、スルーホール内で発生した水素が孔を閉塞するおそれがある。
【0043】
また、めっき膜成長に伴い、スルーホールの直径がめっき反応初期から小径化する。そのため、めっき液流速を5cm/s〜100cm/sの範囲であれば、めっき反応初期から徐々に増加させてもよい。
【0044】
図2のC−C′の断面模式図を図5に示す。図5に示すように、被めっき対象物である基板4のサイズが無電解銅めっき用治具3に比べて小さい場合、液流動領域と非流動領域を区画することができる、基板のサイズ分をくり抜いた、仕切板11を用いてもよい。仕切板と基板との固定には、特に限定されないが、銅線などによる結束を実施してもよい。また、仕切板端部に溝を備え、基板の端を前記溝に配置することにより、固定化してもよい。以上のような仕切板を用いることで、様々なサイズの基板に対応可能となる。
【0045】
以上、無電解銅めっきを例に挙げて説明したが、特に限定されず、エッチングや触媒吸着などの湿式処理においても、小径のスルーホール内に処理液を十分に流通させ、各種処理の効率あるいは不良率低減の効果が得られる。
【0046】
上記の無電解銅めっき方法および無電解銅めっき用治具を用いることで、スルーホールの直径が0.10〜0.2mmであり、かつ、アスペクト比が30以上のスルーホールを少なくとも一つ以上含む基板であっても、スルーホール内の最も薄い箇所でのめっき膜厚に対する基板表面でのめっき膜厚、すなわち、付きまわり性が80%以上の、高い信頼性を示すプリント配線板を作製することができる。
【0047】
本発明のプリント配線板は、システムボード,メモリボード等に用いることができるが、特にこれらに限定されるわけではない。
【0048】
上記無電解銅めっき方法およびめっき装置を用いることによりプリント配線板を作製した例を以下実施例に記載する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
実施例1では、複数の基板を処理できる無電解銅めっき用治具および無電解銅めっき方法について説明する。複数の基板を処理可能な無電解銅めっき用治具を図2〜4に示す。めっき用治具3はSUS製とした。治具の平板6は、内周600mm×530mm、高さ500mmの直方体の筒状とした。治具下部には基板を保持できるよう凹型の保持部を8個設けた。前記保持部の間に空気供給用配管を9本設けた。治具底部には、空気供給用配管を挿入できる穴を9個施し、配管先端が位置ずれしないように対面の平板の壁面に配管を保持できる保持部を設けた。空気供給用配管はL字型に加工し、治具底部から治具側面に沿って配置した。奇数列の配管,偶数列の配管はそれぞれ配管9b,9aにまとめられ、切り替えバルブを介してエアコンプレッサ(図示せず)に接続した。また、治具上部には基板を保持できるようL字型のレールを18本設けた。基板を格納するレール間の距離は7mmとした。隔壁5は、ふっ素樹脂製板とし、図3に示すように、2本のレール内に格納されるサイズとした。隔壁5は上下運動できるようにアーム(図示せず)に取り付けた。奇数列の隔壁と偶数列の隔壁はお互い逆向きの動きをする。すなわち、奇数列の隔壁が上昇すると、偶数列の隔壁が下降してレール上に接触する。また、制御器により隔壁の上下動は切り替えバルブと連動させた。すなわち、奇数列の空気供給用配管8bから空気供給している場合には隔壁5bが下降すると同時に、偶数列の空気供給用配管8aから空気供給がなされ、かつ隔壁5aが上昇する。
【0050】
めっき槽1に無電解銅めっき液2を約400L建浴した。めっき液の比重は1.04であった。被めっき対象物として、大きさ500×600mm、板厚6mmの銅張ガラスエポキシ樹脂基板を8枚用いた。前記基板には、図6に示すように、斜線領域(50×50mm)に直径0.8,0.5,0.3,0.25,0.2,0.15mmのスルーホールを各10穴配置した。スルーホールは、両面からドリル加工により形成した。ドリル加工後、図7に示すフローに従い、基板の前処理を行った。尚、前処理では本発明の治具は用いず、従来用いられているSUS製のラックを用いた。前処理後、基板4を湿潤した状態を保ちつつ、無電解銅めっき用治具3に設置した。また、液流動発生部8の配管を外部の空気供給用配管に接続した。基板4を内蔵しためっき用治具3を無電解銅めっき液2中に浸漬し、めっきを開始した。空気供給量は空気供給用配管一本当たり1.56L/minとした。本条件は基板と平板間を流れるめっき液流速にして、5cm/sに相当する。バルブ切り替えは10分間隔で実施した。バルブ切り替えとアームの上下動は制御器により同期させた。めっき時間は10時間とし、めっきにより消費される銅イオン,ホルマリン,水酸化ナトリウムは、各種濃厚溶液により連続的に補給することによりめっきした。
【0051】
めっき後、水洗,乾燥した。作製した基板の斜線部を切り出し、樹脂に包埋し、研磨によりめっきを施した各種直径のスルーホールの断面を露出させた。ソフトエッチング,水洗,乾燥後、金属顕微鏡によりめっき付きまわり性を観察した。図8および下式に従って、めっき付きまわり性を評価した。
【0052】
めっき付きまわり性={(e+f)2}/{(a+b+c+d)/4}×100[%]
評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。このように、本発明の無電解銅めっき用治具およびめっき方法を用いることで、小径かつアスペクト比の高いスルーホール内においても基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、スルーホール内の残留空気、処理中に発生したガスおよび反応生成物を確実に排除するとともに、スルーホール内の処理状態を均一化することにより、めっき付きまわり性を向上できた。本実施例では8枚の基板処理を例に説明したが、特に枚数に限定なく、スケールアップすれば更に大量処理が可能である。
【実施例2】
【0053】
実施例2では、実施例1とは空気供給量を異なる条件としたことを除き、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。実施例2では、空気供給量を6.24L/minとした。本条件は基板と平板間を流れるめっき液流速にして、20cm/sに相当する。評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。実施例1と同様に、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上できた。
【実施例3】
【0054】
実施例3では、実施例1とは空気供給量を異なる条件としたことを除き、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。実施例3では、空気供給量を15.6L/minとした。本条件は基板と平板間を流れるめっき液流速にして、50cm/sに相当する。評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。実施例1と同様に、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上できた。
【実施例4】
【0055】
実施例4では、実施例1とは空気供給量を異なる条件としたことを除き、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。実施例4では、空気供給量を31.2L/minとした。本条件は基板と平板間を流れるめっき液流速にして、100cm/sに相当する。評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。実施例1と同様に、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上できた。
【実施例5】
【0056】
実施例5では、実施例1とはめっき液比重を異なる条件としたことを除き、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。実施例5では、繰り返し使用しためっき液を用いた。本条件のめっき液中には硫酸イオン,ぎ酸イオン,炭酸イオンが蓄積しており、めっき液比重は1.15の液であった。
【0057】
評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。各種イオンが蓄積することにより、めっき液の粘性が増大しているが、本条件の流速差に設定することにより、実施例1と同様に、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上できた。
【実施例6】
【0058】
実施例6では、実施例5とは空気供給量を異なる条件としたことを除き、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。実施例6では、空気供給量を6.24L/minとした。本条件は基板と平板間を流れるめっき液流速にして、20cm/sに相当する。評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。各種イオンが蓄積することにより、めっき液の粘性が増大しているが、本条件の流速差に設定することにより、実施例1と同様に、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上できた。
【実施例7】
【0059】
実施例7では、実施例5とは空気供給量を異なる条件としたことを除き、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。実施例7では、空気供給量を15.6L/minとした。本条件は基板と平板間を流れるめっき液流速にして、50cm/sに相当する。評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。各種イオンが蓄積することにより、めっき液の粘性が増大しているが、本条件の流速差に設定することにより、実施例1と同様に、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上できた。
【実施例8】
【0060】
実施例8では、実施例5とは空気供給量を異なる条件としたことを除き、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。実施例8では、空気供給量を31.2L/minとした。本条件は基板と平板間を流れるめっき液流速にして、100cm/sに相当する。評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。各種イオンが蓄積することにより、めっき液の粘性が増大しているが、本条件の流速差に設定することにより、実施例1と同様に、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上できた。
【実施例9】
【0061】
実施例9では、実施例5とは空気供給量を異なる条件としたことを除き、実施例1と同様の手順でめっきを実施した。実施例9では、空気供給量を2時間毎に1.56,6.24,15.6,31.2L/minと段階的に増大させた。評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。空気供給量、すなわちめっき液流速を段階的に増大させることにより、実施例1と同様に、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上でき、かつ、未析出不良率を極めて低減することができた。
【実施例10】
【0062】
実施例10では、実施例5と同様の手順でめっきを実施した。但し、処理する基板8枚のうち、4枚は大きさ300×400mm、板厚6mmの銅張ガラスエポキシ樹脂基板とした。前記基板を治具に保持する際には、図5に示すように、400×300mmの面積で一部がくり抜かれた大きさ500×600mmのガラスエポキシ樹脂基板を用意し、それと前記基板の四隅において銅線で結束することにより固定化した。評価した結果、図9に示すように、いずれのスルーホール、特に0.15mmの小径スルーホールにおいても、付きまわり性が80%以上であり、良好な結果を示した。このように、奇数列,偶数列の空気供給部および隔壁を基板あるいは基板に準拠したダミー板により空間的に分離することで、基板の大きさが混在した場合においても、基板両面におけるめっき液流速差を十分確保し、スルーホール内に十分な流速のめっき液流を発生させることが可能になり、めっき付きまわり性を向上できた。
【0063】
〔比較例1〜4〕
比較例1〜4では、基板両面においてめっき液流速差をつけるために、図10に示す形態とした。基板4両面の下部に液流動発生部として空気供給用配管を配置した。基板はSUS製の枠で保持した。実施例1〜4の手順に準拠し、本比較例では基板上部に隔壁を設置せず、空気供給は偶数列,奇数列で10分毎に交互に切り替えながら、めっきを実施し、めっき付きまわり性を評価した。その結果、図9に示すように、0.8,0.5mmの比較的大径のスルーホールにおいては、めっき付きまわり性は比較的良好であるが、小径のスルーホールにおいては、いずれの流速条件においてもめっき付きまわり性は低く、また、めっき未析出不良が発生した。これは、基板片側のみにおいて空気供給によるめっき液流動を図っているものの、空気供給側から未供給側へのめっき液の流れが形成されてしまうためと考えられる。結果的に、基板両面におけるめっき液流速差が不十分となり、小径かつアスペクト比の高いスルーホール内においては、十分な流速のめっき液流を発生させることができないと考えられる。また、未析出不良が高い頻度で発生したが、めっき中に発生した副生水素がスルーホール内で成長した結果、閉塞してしまったことが一因として考えられる。このように、基板両面間で空気供給量を異なる条件に設定しても、空気供給側と未供給側を空間的に隔離しなければ、所望の結果を得ることは困難である。空気供給による液流動に限らず、ノズル等によるめっき液供給でも同様の結果である。
【0064】
〔比較例5〕
比較例5では、基板両面においてめっき液流速差をつけるために、図11に示す形態とした。基板はSUS製の枠で保持した。基板間の間隔は基板X面とY面における流速差の確保を図るため、200mmとした。基板4両面の下部に液流動発生部として左右方向に移動可能なめっき液噴射ノズルを配置した。めっき液噴射量は10L/minとし、めっき中常時めっき液噴射を実施した。ノズルが移動する範囲は基板位置に対して左右20mmとし、移動速度を230mm/minと設定した。本比較例では基板上部に隔壁を設置していない。実施例1の手順に準拠し、めっきを実施し、めっき付きまわり性を評価した。その結果、図9に示すように、0.8,0.5mmの比較的大径のスルーホールにおいては、めっき付きまわり性は比較的良好であるが、小径のスルーホールにおいては、いずれの流速条件においてもめっき付きまわり性は低く、また、めっき未析出不良が発生した。これは、基板Y面に比べてX面の流速を増大させることを図っているものの、実際は基板Y面においてもめっき液噴射によるめっき液の流れが形成してしまうためと考えられる。また、基板上部を介してX面からX′面へのめっき液の流れが形成されてしまうためと考えられる。結果的に、基板両面におけるめっき液流速差が不十分となり、小径かつアスペクト比の高いスルーホール内においては、十分な流速のめっき液流を発生させることができないと考えられる。また、未析出不良が高い頻度で発生したが、めっき中に発生した副生水素がスルーホール内で成長した結果、閉塞してしまったことが一因として考えられる。このように、空間的に隔離しなければ、適切なめっき液の流れが形成されず、所望の結果を得ることは困難である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の無電解銅めっき用治具および無電解銅めっき方法により、小径かつアスペクト比の高いスルーホールを含むプリント配線板においても、めっき付きまわり性が良好で、高い信頼性を有するプリント配線板を提供できる。本プリント配線板はシステムボートやメモリボード等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】無電解銅めっき液の組成およびめっき条件である。
【図2】本発明の実施の形態である無電解銅めっき用治具のめっき槽上部から見たときの模式図である。
【図3】図2のA−A′における無電解銅めっき用治具の断面模式図である。
【図4】図2のB方向から見たときの無電解銅めっき用治具の模式図である。
【図5】無電解銅めっき用治具に比べて基板が小さい場合での図2のC−C′における無電解銅めっき用治具の断面模式図である。
【図6】本実施例で用いた被めっき基板の模式図である。
【図7】本実施例および比較例でのめっき前処理条件である。
【図8】スルーホールの断面模式図である。
【図9】本実施例および比較例でのめっき付きまわり性の評価結果である。
【図10】比較例における無電解銅めっき用治具の断面模式図である。
【図11】比較例における無電解銅めっき用治具の断面模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1 めっき槽
2 めっき液
3 無電解銅めっき用治具
4 基板
5 可動式隔壁
6 平板
7 基板保持部
8 液流動発生部
9 配管
10 切り替えバルブ
11 仕切板
30 液流動領域
31 非流動領域
40 ガラスエポキシ樹脂
41 めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治具を用いてスルーホールを有する基板を湿式処理する方法であって、
前記治具は、上下面が開放され側面が平板で包囲された筒状平板であり、前記筒状平板内に複数の基板を所定の間隔で配置、保持する基板保持部,前記基板間の基板下端に配置された液流動発生部,所定の基板間の基板上部および筒状平板の外周側面に配置された隔壁を有し、
処理液を貯液した処理槽内に、基板を保持した前記冶具を設置し、
偶数列または奇数列に配置された液流動発生部を駆動させてスルーホールに対して垂直方向に処理液を流通させ、基板上部より噴出する処理液を前記隔壁により隣接する基板間を避けて治具外周に流出させて湿式処理することを特徴とする湿式処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液流動発生部が間欠式であり、偶数列,奇数列の液流動発生部が交互に駆動することを特徴とする請求項1の湿式処理方法。
【請求項3】
液流動発生部に気体を導入し、気体供給により液流動を発生させることを特徴とする請求項1に記載の湿式処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載の湿式処理方法がスルーホールを有するプリント配線板にめっきを施す無電解銅めっき方法であり、前記液流動発生部がスルーホールに対して垂直方向に5〜100cm/sで液を流通させてめっきを施すことを特徴とする無電解銅めっき方法。
【請求項5】
請求項4に記載の無電解銅めっき方法であって、前記液流動発生部が5〜100cm/sの液流速の範囲で、流速を増大させながらめっきを施すことを特徴とする無電解銅めっき方法。
【請求項6】
請求項4に記載の無電解銅めっき方法であり、前記プリント配線板が、直径0.1〜0.2mmのスルーホールを有し、かつ、スルーホールの直径に対する基板の厚みの比率が30〜60であるスルーホールを少なくとも一つ以上含むプリント配線板であることを特徴とする無電解銅めっき方法。
【請求項7】
請求項1に記載の湿式処理方法であって、
前記基板間の基板上部に配置された前記隔壁が可動式の隔壁であり、
前記基板間の基板下端に配置された前記液流動発生部が間欠式の液流動発生部であり、
偶数列の液流動発生部が駆動時に偶数列の隔壁を開放し、かつ、奇数列の液流動発生部を駆動停止し、奇数列の隔壁を基板上端に配置する工程と、
奇数列の液流動発生部が駆動時に奇数列の隔壁を開放し、かつ、偶数列の液流動発生部を駆動停止し、偶数列の隔壁を基板上端に配置する工程と、
を交互に繰り返しながら湿式処理することを特徴とする湿式処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の湿式処理方法がスルーホールを有するプリント配線板にめっきを施す無電解銅めっき方法であり、前記液流動発生部がスルーホールに対して垂直方向に5〜100cm/sで液を流通させてめっきを施すことを特徴とする無電解銅めっき方法。
【請求項9】
請求項8に記載の無電解銅めっき方法であって、前記液流動発生部が5〜100cm/sの液流速の範囲で、流速を増大させながらめっきを施すことを特徴とする無電解銅めっき方法。
【請求項10】
請求項8に記載の無電解銅めっき方法であり、前記プリント配線板が、直径0.1〜0.2mmのスルーホールを有し、かつ、スルーホールの直径に対する基板の厚みの比率が30〜60であるスルーホールを少なくとも一つ以上含むプリント配線板であることを特徴とする無電解銅めっき方法。
【請求項11】
液流動発生部に空気を導入し、空気供給により液流動を発生させることを特徴とする請求項8に記載の無電解銅めっき方法。
【請求項12】
治具を用いてスルーホールを有する基板を湿式処理するための湿式処理装置であって、
前記治具が、上下面が開放され側面が平板で包囲された筒状平板であり、前記筒状平板内に複数の基板を所定の間隔で配置、保持する基板保持部,前記基板間の基板下端に配置された液流動発生部,所定の基板間の基板上部および筒状平板の外周側面に配置された隔壁を有することを特徴とする湿式処理装置。
【請求項13】
請求項12に記載の湿式処理装置において、
前記基板間の基板上部に配置された前記隔壁が可動式の隔壁であり、前記基板間の基板下端に配置された前記液流動発生部が間欠式の液流動発生部であり、前記隔壁と液流動部が連動して駆動することを特徴とする湿式処理装置。
【請求項14】
請求項12に記載の湿式処理装置において、
前記隔壁は、偶数列又は奇数列に配置された前記液流動発生部を駆動させてスルーホールに対して垂直方向に処理液を流通させて基板上部より噴出した処理液が、液流動発生部により処理液を流通させていない基板間を避けて治具外周に流出させる機能を有することを特徴とする湿式処理装置。
【請求項15】
スルーホールの直径が0.1〜0.2mmであり、スルーホールの直径に対する基板の厚みの比率が30〜60となるスルーホールを少なくとも一つ以上含むプリント配線板であって、前記スルーホール内を請求項4に記載の無電解銅めっき方法により銅めっきされたことを特徴とするプリント配線板。
【請求項16】
スルーホールの直径が0.1〜0.2mmであり、スルーホールの直径に対する基板の厚みの比率が30〜60となるスルーホールを少なくとも一つ以上含むプリント配線板であって、基板表面の銅めっき膜厚に対するスルーホール内部の銅めっき膜の最小部での膜厚の比率が80%以上であることを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−84168(P2010−84168A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252161(P2008−252161)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】