説明

湿式合成皮革製造用工程紙

【課題】エンボス適性に優れ、かつ湿式合成皮革製造工程で繰り返し使われてもエンボス形状を維持する、湿式合成皮革製造用工程紙を提供する。
【解決手段】植物パルプを主成分とする、米坪80g/m以上、密度0.75g/cm以下、透気度100秒以下、サイズ度65秒以上の特性を有する原紙の両面に、耐熱離型樹脂を、それぞれ厚み15μm以上ラミネートする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式合成皮革製造時に使用される工程紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の合成皮革製造法は乾式が一般であった。乾式とはウレタンを溶かした溶液を離型性に優れる工程紙に塗工し乾燥した後、工程紙から剥離することにより合成皮革が得られる。
該合成皮革製造時に使用される工程紙としては、クラフト紙、ロール原紙、上質紙、白板紙、コート紙の片面にポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、4−メチルペンテン樹脂(TPX)、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブダジエンテレブタレート、電子線硬化樹脂等をラミネートしたものが提唱されている(特許文献1)。中でも、一般的には、上質紙の片面にPP樹脂をラミネートしたものが多く使われている。
しかしながら、この乾式で得られる合成皮革シートは、通気性とソフト感に乏しいものであった。この欠点を改良するために湿式の製造法が考案されている。しかしながら、この湿式の製造法に、従来の乾式用に設計された工程紙を転用しても、原紙の耐水性が十分でないため、繰り返し使用することはできないという欠点があった。
【0003】
この湿式の合成皮革製造において、通常、工程紙の使われ方としては、1)ジメチルホルムアミドにウレタン樹脂を溶かした溶液を、あらかじめエンボス処理したこの工程紙に塗工し、この塗工面に不織布を貼り合わせ、2)凝固漕と呼ばれる30%前後のジメチルホルムアミド水溶液漕に工程紙ごとどぶ付けし、3)次いで洗浄漕と呼ばれる水漕に工程紙ごとどぶ付けし、4)150℃前後に設定された乾燥機で完全に水をとばし、5)製造した合成皮革シート(通気性のあるウレタン塗工層+不織布)を工程紙から剥がす、という工程を経る。剥離後の工程紙は巻き取られ、繰り返し使用される。
特許文献2には、種々の湿式合成皮革製造用工程紙が報告されている。工程紙の耐水性を改善するために、合成紙にPP、TPX、ポリスチレンをラミネートしたものであり、合成紙とは、合成樹脂材料から作られたシートであり、具体的な合成樹脂としてはPE、PP、PETが開示されている。また、基材である合成紙の代わりに合成樹脂フィルム、たとえばPP等、を使ったものも報告されている。
しかしながら、基材にPEの合成紙や合成樹脂フィルムを使った工程紙では耐熱性の点で問題がある。すなわち、洗浄工程の次の乾燥工程でシートが軟化し、あらかじめエンボス処理しておいた工程紙のエンボスの溝が不鮮明になり、繰り返し使用することが難しい。
一方、PP、PET等の基材を使った工程紙では、耐熱性に優れるが、反面、工程紙にエンボス処理する工程できれいなエンボスを入れることができない。
さらに、原紙を合成紙からフィルムにすると、紙に比べ腰がなく、生産ライン内での搬送に問題を起こす場合があるという欠点もあった。
従って、湿式合成皮革製造時に使われる工程紙で、耐水性・エンボス適性に優れ、エンボスの形状維持力に優れ繰り返し使用できる工程紙が待ち望まれている。
【特許文献1】特開昭49―101504号公報、同59―106966号公報、同59−179887号公報、特開平2−307985号公報、特開2001−171046号公報
【特許文献2】特開平10−168761号公報、特開2000−178883号公報、特開2000−79622号公報、特開2003−286664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、湿式合成皮革製造時に使用される工程紙であって、エンボス適性に優れ、湿式合成皮革製造工程で繰り返し使われても、最初につけられたエンボス形状を維持する湿式合成皮革製造用の工程紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決するため、工程紙の原紙の特性に着目し、低密度、低透気度、強サイズ化した原紙に耐熱離型性に優れるフィルムを両面にラミネートすることにより、優れた湿式合成皮革製造用工程紙が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)植物パルプを主原料として抄造した米坪が80g/m以上、サイズ度が65秒以上、透気度が100秒以下、密度0.75g/cm以下の特性を持つ原紙の両面に、耐熱離型樹脂を厚さ15μm以上ラミネートした、湿式合成皮革製造用工程紙、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の工程紙は、低密度、低透気度でかつ強サイズの紙を抄造し、この原紙の両面に耐熱離型樹脂をラミネートすることにより、エンボス処理がしやすく、繰り返し水につけて乾燥してもエンボス形状を維持するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の工程紙は、米坪が80g/m以上、サイズ度が65秒以上、透気度が100秒以下、密度0.75g/cm以下の特性を持つ、植物パルプを主原料とした原紙の両面に、耐熱離型樹脂を厚さ15μm以上ラミネートしたものである。
【0008】
原紙の米坪が80g/m未満だと、紙厚が足りず、エンボス版の溝深さを忠実に工程紙側に転写することができず、エンボス模様が鮮明に工程紙に付かない。また、米坪の上限は特に限定はされないが、200g/m以上だとコスト的に不利で有り、好ましくは90〜190g/mが良い。
【0009】
サイズ度が65秒未満だと、凝固漕や洗浄漕で工程紙が水にどぶ付けされたときに紙の厚み方向に水が浸透し、原紙が水により膨潤し、工程紙自体の厚みが増加し、あらかじめ処理されたエンボス模様が不明瞭になり、工程紙として繰り返し使えない。サイズ度の上限は、サイズ剤の量が多くなるとコスト的に不利となり、また、抄紙機を汚す場合があるので、概ね、300秒以下であることが望ましい。
【0010】
透気度が100秒を超えると、フィルムで両面ラミして作成した工程紙は洗浄漕後の乾燥工程で、原紙内部に含まれるわずかな水が蒸発したときに逃げ場がなく、フィルムがフクレ、部分的に紙とフィルムの界面でデラミが起こり、繰り返し使うことはできない。
【0011】
密度が0.75g/cmを超えた紙を原紙として使用すると、その硬さ故にエンボス処理する際にエンボス模様が工程紙に鮮明につかない。また密度0.40g/cm未満の場合は紙の紙力が弱く、ラミネート工程で紙が切れて工程トラブルになる事もあるので好ましくない。
【0012】
原紙の両面にラミネートされる樹脂は、厚さが15μm未満だと、部分的にラミ抜けが起こる場合がある。また、厚みが35μmを超えるとコスト的に不利になり、望ましくない。
【0013】
本発明の湿式合成皮革製造用工程紙は、植物パルプを主原料として、必要に応じて各種薬品を添加し、抄紙した原紙の両面に、耐熱離型樹脂をラミネートすることにより、製造できる。
【0014】
用いられる植物パルプとしては、木材パルプ、コットンパルプ等が例示され、木材パルプが好ましく、例えば、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹亜硫酸パルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)、広葉樹晒し亜硫酸パルプ(LBSP)等が挙げられるが、特にNBKPとLBKPを混合して使用することが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない程度に、非木材性繊維を混合して使用することもできる。
【0015】
パルプは離解したものか、或いは叩解したものを使用する。叩解する場合は濾水度(JIS P 8121)500mlCSF以上に叩解を抑える。パルプの濾水度は500〜750mlCSFが望ましい。500mlCSF以下であると紙の透気度が高くなりすぎて好ましくない。
【0016】
原紙には強サイズ化するため、サイズ剤を添加することができる。添加は、内添、外添どちらでもよい。内添する場合のサイズ剤としてはアルキルケテンダイマーが望ましい。一方、外添する場合のサイズ剤としてはアクリルスチレンのエマルジョンタイプが望ましい。
【0017】
また、公知の製紙薬品、例えば、湿潤紙力増強剤(例えば、ポリアクリルアミドエピクロロヒドリン)等を内添することもできる。
【0018】
原紙の抄造は、それ自体公知の方法に準じて実施される。
【0019】
上記の方法で製造した原紙の両面に耐熱離型樹脂を厚さ15μm以上ラミネートする。
ラミネートする方法としては公知のドライラミ、ウエットラミであれば特に既定はないが、押し出しラミネートが望ましい。
【0020】
用いられる耐熱離型樹脂としては、TPX、PP、PET等が例示され、TPXが特に好ましい。
【実施例】
【0021】
以下実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
本実施例、比較例における評価は、以下の方法によった。
(1)米坪:JIS P8124
(2)厚さ、密度:JIS P8118
(3)透気度:.TAPPI No.5Bに準じ、王研式平滑度透気度計で測定した。
(4)サイズ度:JIS P8122
【0022】
(5)エンボス適性試験
試験片を10x10cmに切る。その紙を24時間20℃50%RHの恒温恒湿室に置き、調湿した。
次に、熱圧プレス機(プレス面積30x30cm)の温度を上面100℃、下面180℃、プレス圧力20kgf/cm、コンタクト時間3秒に設定した。PETフィルム70μm/アルミ板1mm圧/工程紙サンプル/ステンレス網(12メッシュ)/アルミ板/PETフィルムの順に積層し熱圧プレス機に設置して、エンボス処理した。
工程紙試験片を取り出し、網の目の付き具合を目視評価した。
○:くっきりとした溝がついている。
△:一部溝が不鮮明な部分がある。
×:溝がほとんどついていない。
【0023】
(6)エンボス形状維持力試験
上記(5)でエンボス処理した工程紙の厚みを測定した。次にその工程紙を30%ジメチルホルムアミド水溶液に3分間浸漬→水に3分浸漬→150℃の熱風乾燥機で3分乾燥した。これを5回繰り返した後、工程紙の厚みを測定して、処理前後の厚み変動率を数1により算出した。
厚み変動率は上記の5回の繰り返しテストで5%以下が好ましい。
【0024】
【数1】

【0025】
また、処理後のエンボスの溝を目視評価した。
○:処理前とエンボスの溝がほとんど同じ。
△:処理前のエンボスの溝と比較し一部不鮮明。
×:処理前のエンボス形状ほとんど残っていない。
【0026】
実施例1
NBKP80重量部/LBKP20重量部をDDRで叩解し、600mlCSFとした。これに湿潤紙力剤:ポリアクリルアミドエピクロロヒドリン0.6重量部を添加した。更に紙力助剤としてカルボキシメチルセルロースNa塩0.2重量部添加した。更にサイズ剤:アルキルケテンダイマーを0.25重量%添加した。これを原料として、長網抄紙機で抄造し、表1の実施例1の物性の原紙を得た。
得られた原紙に、押し出しラミネーターでTPXを、両面に、それぞれ厚み25μmラミネートし、本発明の工程紙を得た。
【0027】
実施例2
NBKP80重量部/LBKP20重量部をDDRで叩解し、650mlCSFとした。これに湿潤紙力剤:ポリアクリルアミドエピクロロヒドリン0.6重量部を添加した。更に紙力助剤としてカルボキシメチルセルロースNa塩0.2重量部添加した。更にサイズ剤:アルキルケテンダイマーを0.1重量%添加した。これを原料として、長網抄紙機で抄造した。なお抄造の際にサイズプレスで、サイズ剤:アクリルスチレンエマルジョンを0.2%含浸した。表1の実施例2の物性の原紙を得た。
以下、実施例1と同様にラミネートし、本発明の工程紙を得た。
【0028】
比較例1
市販の上質紙188g/m、密度0.65g/cm、透気度19秒、サイズ度0秒の紙に、押し出しラミネーターでTPXを、片面に、厚み25μmラミネートして工程紙を得た。
【0029】
比較例2
市販の合成紙(PP製、米坪100g/m、厚み135μm、密度0.74g/cm、透気度5000秒以上)に、押し出しラミネーターでTPXを、片面に、厚み25μmラミネートして工程紙を得た。
【0030】
比較例3
NBKP25重量部/LBKP25重量部/NBSP50部をビーターで叩解し、650mlCSFとした。これに湿潤紙力剤:ポリアクリルアミドエピクロロヒドリン0.5重量部を添加した。更に紙力助剤としてカルボキシメチルセルロース0.1重量部添加した。これを原料として手漉きシートマシンで、表1の比較例3の物性の紙を得た。
得られた紙に、押し出しラミネーターでTPXを、両面に、それぞれ厚み25μmラミネートし、工程紙を得た。
【0031】
比較例4
NBKP80重量部/LBKP20重量部をDDRで叩解し、600mlCSFとした。これに湿潤紙力剤:ポリアクリルアミドエピクロロヒドリン0.6重量部を添加した。更に紙力助剤としてカルボキシメチルセルロースNa塩0.2重量部添加した。更にサイズ剤:アルキルケテンダイマーを0.25重量%添加した。これを原料として、長網抄紙機で抄造し、表1の比較例4の物性の紙を得た。
得られた紙に、押し出しラミネーターでTPXを、両面に、それぞれ厚み25μmラミネートし、工程紙を得た。
【0032】
比較例5
NBKP80重量部/LBKP20重量部をDDRで叩解し、600mlCSFとした。これに湿潤紙力剤:ポリアクリルアミドエピクロロヒドリン0.6重量部を添加した。更に紙力助剤としてカルボキシメチルセルロースNa塩0.2重量部添加した。更にサイズ剤:アルキルケテンダイマーを0.25重量%添加した。これを原料として、長網抄紙機で抄造し、表1の比較例5の物性の紙を得た。
得られた紙に、押し出しラミネーターでTPXを、片面に、厚み25μmラミネートし、工程紙を得た。
【0033】
比較例6
市販の板紙170g/m、密度1.03g/cm、透気度360秒、サイズ度176秒の紙に、押し出しラミネーターでTPXを、両面に、厚み25μmラミネートして工程紙を得た。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明してきたように、本発明の工程紙は、エンボス適性に優れ、かつそのエンボス形状が水に浸漬と乾燥を繰り返しても維持されるエンボス形状維持力に優れるため、湿式合成皮革製造用の工程紙として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物パルプを主原料として抄造した米坪が80g/m以上、サイズ度が65秒以上、透気度が100秒以下、密度0.75g/cm以下の特性を持つ原紙の両面に、耐熱離型樹脂を厚さ15μm以上ラミネートした、湿式合成皮革製造用工程紙。

【公開番号】特開2007−51383(P2007−51383A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235679(P2005−235679)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】